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リターン・トゥ・フォーエヴァー 2:エコーズ

/リターン・トゥ・フォーエヴァー 2:エコーズ

○ケイチ:キノガッサ♂
○チック:トゲチック♂
○リック:デンリュウ♀
○アラン:ルギア♂


11.ホワイ・アー・ウィー・スリーピング? 


 風がふっと差し込む。年中同じように思えるこの風にも、季節は匂いを運んでくる。つんとした、少し悲しいような懐かしいような、足元が浮き立つような、微かな香り。

 ――ああ、秋だな。

 一瞬で得意教科である古文、問題集見開き一ページを解き終えた俺は肘をついて窓から外を見ていた。
「先生見ろよこれっ」
 嬉々とした顔で机の上に綺麗に積み上げた六本のペンを見せびらかすシドがナナ先生にパカァンと叩かれている。秋になろうが特に中身が変わるってことは無いな……六校時になると眠くなる俺も人の事は言えない。欠伸を二つ、ふぁー、あー……

【「俺からも頼みますっ、、いえ私からもお願いいたしますっ。この方に剣の誓いをさせて頂きたい!!」
  あーっ言ってしまった!!もうどうにでもなれ!!
 「……出発は明日の昼だ。それまでに済ませろよ」
  あーっ認められてしまった!!もう勢いで俺は何をやってるんだろう。
 「ケイチ。あなたなら言っていただけると信じてました。君なら。」
  いやいやいや。あぁもう。
 「敵襲だぁーーーーーっ」
  !?
 「隣国が攻めてきたぞ!!兵士は全員訓練通りに行動するんだ!」
  え、マジで。
 「ケイチ。逃げよう」
  もうそろそろ展開についていけない。
  俺はそのひとの手を取って走り出した。後ろからは、命を狙う追っ手の声がする。
  死に物狂いで走る。目の前の植え込みをジャンプで飛び越す――つもりがちょっと引っかかる。でも止まりはしない。
  何とも言えない高揚感と静謐さが坂道を転げ落ちる俺と隣の奴を包んでいる】 

 パカァンと良い音。
「ケイチ君も寝てんじゃありません」
「あ、え、はい……」
 何か三流ライトノベルのような夢を見てしまった。その瞬間、チャイムの鳴る音。今日の授業もこれで終わりだ。さっき隣に居たのは誰だったんだろうななんて答えのあるはずも無い問いを窓の外に放り上げる。パラシュートによってふわりと校庭に着地した。


 適当に掃除を終わらせてさっさと別棟へ移動する。


「うーん、何か思い出せそうな気がするんだけど。
 何で俺、弾けるんだろう」
 例のオルガンをぴろぴろつま弾きながらアランは話す。こうして見ると最初のナーバスで爆発物注意な雰囲気はもう大分薄れて、リラックスした表情をしている。やっぱりチックの影響もあるのだろうか。
「ねぇねぇアラン、今日も教えてよ教えてよ。」
 チックはここの所、放課後に部室に遊びに来たときにはアランに鍵盤楽器の弾き方というものを良く習っていて、飲み込みは速くないものの徐々に綺麗に鳴らせるようになってきた。
 子供用の、見た目はおもちゃみたいだけどなんだか妖精が鳴らすにはぴったりって感じのキンコン鳴るちい~さい白いピアノを、二段の鍵盤と足元もなんかごちゃごちゃしてる大きいオルガン(マスターによるとハモンドオルガンという種類らしい)の横に並べる様は対照的でどことなく面白い。
 重ねた欲求に重ねた返事で返すアラン。
「良いぞ良いぞ。この前の和音の続きからやろう。覚えてる?」
「これがめじゃーせぶんす、とりあえずおしゃれ。これがおーぎゅ……?」
「オーギュメント。意味は……」
「ケーチにかみなり落とす寸前のリック」
「……もう、アランったらチックに変な事教えないでよ」
「我が審美耳によるとそれは非常に的を得ていますな」
「デレク、一応聞くけどすぐに謝るのとおーぎゅめんとがあんたに炸裂するのどっちが良いの?」
「申し訳ない……」
 アランが学校に通い始めてから二か月経つが、徐々に溶け込むにつれてこれまで「良く分からんテンションでうるさい」がパブリックイメージだったこの部屋が本格的になったので、ちょっとした見物客も増えた。
「ははは、ごめんごめん。じゃぁなぁ、ケーチにかみなり落としたリックはどうなると思う?」
「うーん。ケーチ、分かる?」
「え、俺に聞く? 意識飛んでるからわかんないって」
「そんなに強く落としてる訳でも無いでしょってっ」
 リックは顔を真っ赤にしながら反論する。
「まぁ、かみなり落とした後もずっと怒ってるってことは普通ないだろ。あったとしたらよっぽどで、それはそれで使う事ができるけど。
 でも普通はちょっとすっきりして、こうなる」
 なんだか気持ちの悪い和音から、ちょっと落ち着いた和音へ。確かに非常に腑に落ちる感じがある。

「よー皆の衆ッ」
 シドが元気よく扉を開けて入ってきた。早速後ろ足で立ち上がり、そこらへんの壁から棚から鍋のふたやをトトテテコカカンと前足で叩いている。それに一瞬で合わせて入る(どうやってんだろう)アランのパーカッシブなリフレイン。和やかだった部屋に一瞬の緊張が走る。
 ドガシャガシャアン!……鍋の蓋を蹴っ飛ばして何処から調達したのか鉄パイプを蹴っ飛ばし始める。五月蠅い金属音に導かれるように、きらきらとチックの『めじゃーせぶんす』が下りてくる。――よし!呼吸を合わせて切り込む俺。とりあえずアランの音に同じ音で重ねて、それから徐々にぶつけていく。拡大していくイメージ。
 これまではとにかく大きな音でトランス状態になるだけだったから割とすぐ疲れて飽きたけど、今は音のネタも増えて延々とやってても楽しい。とにかく、周りの音を聞くと楽しさが倍になるという事は単純ながら非常に大きい気付きだ。
 停滞せずにとにかく前進する時間軸。もうみんな衝動のままにやり始めている。次第に乱調になり、シドが大きく振りかぶったのを合図に――
 ひたすら雑音に走る!!!バシン!!!
 数名のゲストからもおおーとぱらぱら拍手と、笑顔が頂けた。前はもっと違う笑いだったもんなぁ、遊びに来る人たちがしていたのは。
 それにしてもシドの上達は目覚ましく、フリーダムさを忘れずも『ひっこむ』ことを覚えたようだ。――その分『出てきた』時の自由さは異様さが増した気もするけど……はは。特に変わってないのは俺だけのような気もするけど、みんな「上手いわけじゃないけどケーチはなんとなくもともと良い」なんて言ってくれる。

 けど本当は分かってるんだ。言いたいことはまだ何も言えていない。その言いたいことが何なのかも、良く分からない。それを見ているような見ていないようなフリを続けながら、俺はやっている。


「アランってさ、何となく絵を感じるな」
 ふと呟くシドにはっとするアラン。――でもすぐに複雑な顔になる。俺が口を開きかけると、リックが同じ事を言う。
「何でそう思ったの?」
「何となく……そう、天才の第六感って奴だ!かくいう俺も存在が芸術だしなッ」
 がははと毛を立ててリックをばしんばしん叩きながら豪快に笑うシド。にぱにぱしながら続ける。
「いや、何となく色が見えるんだよ。今だったら、最初は赤い感じだったけどちょっとずつテンションに反比例して青くなっていってさ。他の奴らにも見えるんだけど、色が変わる感じは無い。ほとんど身体の色まんまだッ」
 うーん、やっぱりこいつは何か天才かも知れない。何も考えてないような顔して感覚が鋭い。苦笑の中に思いつめたような視線を秘めたアランは特に何も言わなかった。

2.ア・サートゥン・カインド 


 帰りに、リックたちを見送るため嵐が丘に寄る。アランも今ここに住んでいる――というのも、リックの家は前も言った通りなかなか凄い豪邸で(不吉な外観だけど)、使いきれない部屋を下宿代わりに貸しているのだ。
 俺たちもここに住めれば良かったんだけど、タイミングが悪く俺たちが孤児院を出ることにした六年前には満室で開く予定も無かったんだ。その時のリックは凄く珍しく申し訳なさそう……というか、純粋に残念そうな顔をしていたっけな。
 それと対照的に見事なタイミングで一つ部屋が開いてアランが住めることになったときは、口はいつものへの字だったけどその代わりに尻尾をぶんぶん振り回してた。なんというか、良かったなぁと思う。
「あれ、アラン。ひょっとして雨降りそうなんじゃない。洗濯物取り込むの手伝って!」
「え、ああ分かった。じゃあ、二人ともまた明日」
 そんな感じで慌ただしく二人は門の中へ消えていった。
「薄暗いなぁ。早く帰った方が良いかも」
「え、うん、そうだね。」
 しばらく二人の方を見ていたチックは遊び足りないのか、ちょっと名残惜しそうにした。


 家に着いて、少しした頃に空はとうとう泣きだした。
「本当に今年は天気が酷いね! 晩御飯、何にしよっか」
「何かあったかいものが食べたいな。」
 確かに秋になり冷え込んできた空気。あっつあつのものの最高の調味料だ。
「じゃぁ久々に鍋にしよう、鍋!」
「わー、ぜいたく!」
 俺は着々と用意を進める。かけている音楽はこの前マスターに教えてもらってレコード屋で衝動買いしてしまった、ソフト・マシーンだ。
 ……まったく人に教えるとき、いきなり略称で教えるなよ。ソフ『ツ』で薄暗い店内を三十分くらい探したぞ。
♪……プツ……プツ……あ~~~~……きゃっとぅ~~~……
 プチプチとしたレコードのノイズを追って、独特の悲しいような、能天気な様な、上手いような下手な様な声が溢れだす。
 ゆるゆると味が部屋を取り巻いて久々に取り出した鍋へ誘っているようだ。それをキッチンの火にかけて、適当にだしを取って、塩と醤油を入れて。白菜やら魚やら……キノコ各種やら……、を放り込む。なんかこの前あんな事を言われたからか、今まで全く気にしていなかったのに偉く複雑な気分だ。
「ケーチ、エリンギおいしそうだよ~」
「ん、……そうだな……」
 こいつの声も幸せで能天気なようでいて、ちょっと悲しそうな感じだな。やっぱり訴えかけるキノコ欲にはおとなしく従おう。
 部屋の真ん中にある小さなテーブルの上に置いたカセットコンロ(これも例の『戦利品』である)に点火。火を見ててくれたチックがぐつぐつ煮える鍋を運んでくる。準備完了だ。
「いただきまーす!」
「いただきまーす。」
 魚をつっつく。ネギをつっつく。
「あっふぁふぁふぁふぁふぁ!!」
 ああ、予想通り舌を火傷したさ。
 慌てて水を飲んで、あと、温かいご飯。美味い!今日も生きてて良かった。楽しくて耳がぴくぴくする。
 自称『食べる事がすき』のチックだけど、まぁ食欲は俺と同じくらいでそんなにがっつかない。身体の大きさ的に言ったらどうなのか分からないけど。でもバクバク奪い合って味も分からん様に食べるよりも(まぁそれはそれで楽しいけど)、これくらいの普通ペースの食卓がやっぱり好きだな。
 最後にもうちょっと調味料を足して、うどんも投入する。
「ああ~うどんおいしい。生きてて良かったぁ。」
 さっき俺が思ったことをそのまま言うので俺はうどんを吹き出しそうになった。

 少しして、すっかり片付いた鍋と食器を洗う。
「ケーチ構って構って構ってようー」
「もう、何急にかまってちゃんになってるんだよ。ほら、じゃぁ洗うの手伝って」
「うん。」
 台所は狭い部屋の中のさらに狭い一スペースのため、二人で洗い物をするのはちょっと難しいが今日みたいな場合はチックが食器を洗っている間俺が鍋を擦れる。
 水をぴっぴっと切って、俺は風呂の用意。背中にチックがくっついてくる。
「今日って何曜日だったっけ?」
「水曜日だよ。」
「じゃぁ何もラジオ無いかなー。よしっ」
 お風呂を洗い終えてお湯を入れる。部屋に戻ると、かけっぱなしになっていたレコードから大好きなあの曲が流れていた。
 ♪あ・さ~とぅん・かいん・おぶら~ぶ……

 背中でチックが寝かけている。ちょっ、そこで寝られると困るんだけど……
「ほらチック、降りろって」
「うーん……」
 降ろしてチックの羽を撫でながら、ただ時間が過ぎるのを静かに感じている。
 目を閉じると、まるで雨音によって閉じられた世界が、音や声や呼吸と共に収斂していくような気がした。
 二つの存在だけがある世界へ。

『ある種の愛が 僕のために存在している
 今日の出来事 僕たちがすることが
 そばにいると
 はっきりわからないけど
 それは本物だ 僕の気持ちだ……』

 ――ゆるやかに夜の帳は降りる。


小説を書くということはほんとに難しい...!
ぼちぼち更新します。
written by ももんが ?

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Last-modified: 2011-09-25 (日) 00:00:00
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