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ラグラージ×ビキニのおねえさん

/ラグラージ×ビキニのおねえさん

 背中の上でくつろいでいる主人の体温を感じながら、僕は沖合いから岸の方へ向かって“なみのり”で進んでいます。
 僕の主人は泳ぐのが好きなビキニのおねえさんで、後ろ指さされてキモいだなんて言われてしまう、ラグラージの僕からすれば、もったいない様な主人です。
 だけど、数少ない難点を挙げるとすれば、泳ぐのが好きな割りに体力と根気が無くて、沖まで泳ぐとすぐに「岸まで泳ぐの面倒」と言い出し、僕に頼りきりになってしまうところだと思います。
 頼られるのは悪い気がしないですが、やっぱり主人の根気の無さは、ミズゴロウの頃から側に居る僕が、一番よく分かってます。
 それと、根気が無いだけでなく、少しせっかちなところが、周囲の人からの主人への印象を、少し下げているはずです。
「ねぇ、まだ着かない?」
 主人は僕の背中に抱きついたまま、顔を上げるのも面倒らしく、気だるそうな声でそう聞きますが、そろそろその質問が来ると思っていた僕は、すぐに首を横に振って答えました。
 これでも一応、それなりに早いペースで砂浜へと向かっていますが、まだ遠くの方に少し陸が見えている程度です。
 シルバースプレーを数本持ってきたから、野性のポケモンの邪魔もないし、ここら辺をうろつくトレーナーは、大概顔見知りなので、主人が今のように戦意喪失していると、黙って見逃してくれますから、そう時間はかからないと思いますが。
 主人も僕の背中の上でもぞもぞ動き、顔を上げて向こう岸までの距離を確かめているようでした。
 もう何回も二人でここを泳いだのに、主人は毎回こういう反応ばかりしているので、見ていなくても予想がつきます。
 そして距離を確認すると、また僕の背中にしがみ付いて目を閉じ、波音をBGMにうとうとし始めるんです。
 眠りかけているせいで落っこちそうになるのを、慌てて支えたり、だらんとされた腕が、泳ぐときヒレを邪魔したりして、とても迷惑ですが、文句は言いません。
 僕以外のポケモンを手持ちに入れる事もなく、ミズゴロウの頃から一貫した愛情を注いでくれた主人なので、それぐらいじゃ嫌な気持ちにもならないんです。
 進化前は可愛いポケモンが、進化したらカッコ良くなるのが普通でしょうけど、僕はカッコ良くもなれないで、人に嫌われちゃったから、こうやって主人と触れ合えるのが幸せでした。
 ……それに、僕自身もラグラージに進化したときは、それなりに衝撃を受けた方でした。
 ミズゴロウの時、ヌマクローのときは、主人のお友達からも「可愛い」と言われて撫でてもらってましたし、それで自分が可愛いんだと天狗になってもいました。
 だけど、主人と一緒に色んなトレーナーや野生のポケモンと戦って、やっと進化した自分の姿が水面に映るのを見て、僕は肩を落とすことになりました。
 主人のお友達も、僕の進化した姿を見て「前は可愛かったのに……」と残念がってました。
 だけど主人だけは、前みたいに抱きついてくれて、一緒のベッドで寝てくれて、たまにですけど一緒にお風呂に入ってくれて、何処へ行くのにも僕を連れて行ってくれたんです。
 進化することで頭の中も大人に近づいていた僕にすれば、少し刺激が強すぎた感もあるんですけど。
 今だって、主人が僕の背中でうつ伏せになり、両胸が当たってるせいで気が気じゃありません。
 主人が今までどおり接してくれるほど、自分の中の雄を感じ、胸がキュンとなったりもします。
 けど主人は年頃の人間の女性なんですから、僕が本能に身を任せて盛ったところで、幻滅して他の人達みたいに距離を置いてしまうと思うんです。
 そしたら、それは今の気持ちを我慢するより、ずっとずっと辛いことですから、主人の肌と触れ合っても、主人に抱きつかれても、無理矢理笑顔を作って前みたいな反応を心掛けてます。
 とりあえずは、今の微笑ましい、一般的なポケモンとトレーナーの関係でいられますし。
 僕は袋小路な現状に小さく溜息をつくと、背中の主人へ意識を戻しました。
 人間の肌は、水ポケモンの僕よりも温かくて、くっ付いてると気持ちが良くて、こっちまでうとうとしそうになります。
 背中越しに感じる息遣いや、トクトクという心臓の音も、とても穏やかで主人のリラックス具合を伝えてくれました。
 まあ、僕としては一緒に居てドキドキしてもらいたいですが、贅沢は言えません。
 砂浜に近づいて、海の中でも足が地面につくようになってくると、主人を背中から下ろして、そろそろ起きてくださいと呼びかける。
「らぐっ!」
「んー。もう着いたの? ゆっくり寝かせてくれてもいいのに」
 主人の言動は結構矛盾してます。でも、こういう所で主人のことを“嫌だなぁ”と思ったことは一度もありません。
 表面はだらしないかも知れないけど、根っこのところでは僕の気持ちをよく理解してくれる良い主人です。
 僕が主人を岸まで運ぶという一仕事を終えて、少し胸を張ってみると、やっぱり察してくれました。
「お疲れ様。今日もありがとね」
 そう言って笑顔で頭を撫でて貰えれば、もうそれだけで満足です。嬉しくて思わず甘えたくなりますが、人の多い砂浜で甘えるのは少し恥ずかしいので我慢。
 この、人の多い場所というのが、僕はイマイチ苦手でなりません。
 僕の姿が不恰好で、大勢の前に出るのが嫌だというのもありますが、こういう人の集まる場は、飢えた男も集まるものだと相場が決まってます。
 目の前で主人がナンパされるところを見るのは、苦痛以外の何者でもありません。
 だから砂浜に上がった僕は、更衣室のある海の家まで、いつも主人の背中を押して速く歩くよう急かします。
 いつものことなので、主人もそのことについては深く考えることなく、前に僕が身振り手振りで伝えた「家で主人の作るご飯を食べたい」というのを信じてくれてます。
 だけど、そういつも思い通りに行くわけじゃありません。今日は運が悪い方だったのか、海の家まで半分ぐらいまで行った所で、チャラチャラした男に捕まってしまいます。
 髪の毛を染めたりバンド組んだりしてカッコつけてる男の人は、正直あまり好きではありません。
 ……これが嫉妬だってことぐらい分かってますよ? 僕も人間だったら、目一杯お洒落して主人を口説いてます。それが出来ないのが悔しいだけです。
「それで、今から時間があれば一緒にお食事でもどうだい?」
「え、今から……?」
「そう。食事代はこっち持ちで構わないからさ」
 主人が難色を示しているのに、なおも口説こうと声を掛ける男に向かい、僕は前傾姿勢になると、「ぐぅぅ……」と低い唸り声を出します。
 さっきから僕のことを完全に無視していた男も、流石に僕のほうを見て、不快そうな表情を見せました。
「気持ち悪い上に気性も荒いのか? 向こう行ってろ」
 そう言われ「シッ、シッ」と邪魔者をはらうように手を振られれば、いくら“おとなしい”な性格の僕でも、その手に噛み付いてしまいたくなります。
 けれど僕より先に、主人の方が思いっきり怒ってました。彼女は僕が馬鹿にされると、いつも本気で怒ってくれます。
 今も、一目見ただけで機嫌を損ねていると分かってしまう表情で、男に向かって言います。
「悪いけど私帰る」
 なんとか機嫌を直そうと、男が主人に話しかけますが、それを無視して海の家へつかつか歩いていきます。
 やっぱり僕の主人は人を見る目があるんです。あんなチャラチャラした男になびいたりしません。
 主人が更衣室へ入ったところで、一時の別れがきます。僕も一応雄ですから、着替え中の他の方があまりいい顔をしないので。
 でも、先ほどの撃退劇で、僕は結構上機嫌になってましたから、珍しくウキウキした気持ちで主人が出てくるのを待ちました。
「お待たせ~。それじゃ帰ろっか」
 やがて主人が更衣室から出てきて、そう言いながら僕の肩を軽く叩きました。僕は小さく吼えてそれに答えます。
 僕たちの住んでいるホウエン地方はとても暖かい場所なので、着替えを終えた主人の服装も、かなりの薄着。いつも思うけど可愛いなぁ…。
 だけど今はゆっくり眺めてる時間はない。主人が取り出したモンスターボールの中に戻って、家に着くまで待つんです。
 主人の自転車に二人乗りして家に帰ろうとしたら、お巡りさんに捕まってしまいますから。
 僕らの住んでる家に着くまでの十数分、今度は僕がうとうとする番です。
 モンスターボールの中は暑くも寒くもなく、とても快適で、外の衝撃もほとんど伝わってこない。丸まって目を閉じれば、すぐに眠くなってきます。
 けど、完全に眠ってはいけません。急に呼び出されたとき、だらしないポーズで寝転がってたりしたらカッコ悪いですから。
 そうしてしばらく過ごすうち、家に着いたのか、モンスターボールが投げられました。僕がボールに入ってるのは、基本外へ行くときだけです。
 僕が外に出ると、フローリング張りのアパートの一室、僕と主人の家でした。
 家具も少ないし、大して広くもない家ですが、僕と主人の二人だけしか住んでいないので、丁度いい感じです。
 難点を言えば、お風呂場が狭いことでしょうか。進化前はよく一緒にお風呂に入ってましたが、今は体が大きくなったせいで、一緒にお風呂に入る機会が減りました。
 まあ、今の僕が一緒に入浴したりすれば、欲情を抑えるのに精一杯で、ちっとも楽しめないんでしょうけど。
 僕は軽く伸びをすると、テレビの前にあるソファまで移動して、その上に寝転がりました。
 主人は海の家にあるシャワーだけじゃ満足できないでしょうし、多分今からお風呂に入って、ご飯はそれからだと思いますから。
 思った通り、主人はタンスからタオルと着替えを取り出し、お風呂場の方へ歩いていきます。
 その姿から、彼女の裸体を想像してしまう僕は、結構末期なだろうなぁと、しみじみ思いました。
 洗面所の扉を開け、中に入っていく主人をなんとなしに眺めていると、彼女は不意にこちらを向き、手招きします。
「久しぶりに一緒に入らない?」
 人間であれポケモンであれ、男って単純ですよね。僕も海辺の男を責められません。
 苦しい思いをすると分かっていても、ガーディみたいに尻尾をパタパタ振りながら走って行っちゃうんですから。
 先に洗面所に入って服を脱ぎ始めている主人を見て、早速たぎるものを感じ始めている辺り、本当に単純です。
 それを無理矢理抑え込みながら、主人の横をすり抜けてお風呂場に入ります。浴槽にジャバジャバとお湯が注がれている途中で、僕のことを配慮してか温めのお湯でした。
 お湯が溜まるのを眺めながら少し待っていると、すぐに主人もお風呂場へ入ってきます。テレビの温泉特集に出てるアナウンサーみたいに、胸元からタオルを巻いたりなんてしてません。
 口をぽかんと開けて見惚れそうになりますが、あんまりジロジロ見ても嫌がられるでしょうし、何とか視線を逸らし、主人に背を向ける形で床に座り込みます。
 だけど主人が僕の後ろに座って「背中洗ってあげるわね?」なんて言うもんだから、何とか働かせていた自制心も、どんどん磨り減って、そのうち股間の方がどんどんいきり立ってきました。
 主人が立ち上がってシャワーのノズルに手を伸ばす際、僕の肩に彼女の胸が当たったときなんか、ビクンと飛び跳ねてしまいました。
 この生殺しな状況の中で、こんなになるまで耐えているんですから、誰かに褒めて欲しいぐらいですよ。
 主人は僕にシャワーをかけながら、背中越しに話しかけてきます。
「何で他の人たちには、あなたの可愛さが分かんないかな」
 それはきっと、主人の美意識が普通と少し違ってるからだと思いますが、ジェスチャーしてまで伝えることではありません。
 何より、今正面を向けば、股間のモノを主人に見られてしまいます。僕は主人の方へ少し振り返りながら、よく分からない振りをして、首を傾げて見せました。
 主人の方も、回答を期待しての問い掛けではなかった様で、僕の反応に嫌な顔をする事はありません。そのままシャワーで僕の体を流し、立ち上がって浴槽に向かいました。
 彼女が立ち上がる時が、自分の股間を見られないよう一番気を遣う時です。少し前かがみになって、両腕を使って股間を隠します。
 ですが、そんな仕草を逆に不振に感じたようで、主人は首を傾げました。
「ねぇ、何か隠してる?」
 僕は慌てて主人に背を向けながら、勢い良く首を横に振り続けます。傍から見れば疑惑を強めるだけの行動でしょうけど、僕だって必死なんです。
 この行動で疑惑を確信に変えたらしい主人は、僕のすぐ後ろにやってきて、何を隠しているのか覗き込もうとしてきます。
 好奇心の強い人ですから、僕が必死で隠すほど、逆に見たくなってしまうんでしょう。何の説明もなく同じような行動をされたら、僕だって気になりますし。
 だけど、片手で股間を隠しつつ、もう片方の手で主人が近づかないよう突っ張る作業は、結構神経が磨り減ります。
 何かの拍子に見られはしないかと、心臓はドキドキと鳴りますし、こんなに焦っているのに萎んでくれない海綿体には、ほとほと呆れ果てます。
 そのまま少しの間、主人を近づけさせないための奮闘を続けていると、ようやく諦めた彼女が微かに頬を膨らませていました。
 僕はほっとして胸を撫で下ろしましたが、主人は僕に気をとられていたせいか、足を滑らせてしまいます。
「わ、…きゃあ、!?」
 主人の体が、ゆっくりと傾いて行きます。突然のことに彼女は反応できずにいるようで、このまま受身も取れずに倒れれば、怪我をするかもしれません。
 僕は動きの遅い部類のポケモンですが、今回ばかりは自分でもビックリするほどの反応を見せました。
 素早く主人の倒れる方向に滑り込み、倒れてくる主人を受け止めます。ですが、彼女に気を取られるあまり、僕もミスをしてしまいます。
 そう、このお風呂場がとても狭いということを、すっかり失念していました。彼女を抱きとめる事はできたものの、短い距離で急ブレーキをかける事も出来ず、頭からお風呂場の壁に突っ込んでしまいました。
 まるで格闘ポケモンの『ばくれつパンチ』を受けたみたいです。当たり所が悪かったんでしょうか?
 そう考えながら、意識がすぅっと離れていくのを感じました。




 目を覚ますと、頭の鈍痛はまだ尾を引いていました。ふかふかのベッドの上で、頭を両手で押さえながら顔をしかめます。
 その痛みにも慣れてくると、自分が風呂場からここまで運ばれていたことに、ようやく気付くことが出来ました。
 あのとき主人を庇って気絶してしまいましたが、僕は仰向けに気絶していたはずです。
 そのことを考えると、背筋に寒気が走りました。主人に嫌われていたらと不安で堪らなくなり、顔を上げて部屋の中に主人を探します。
 この部屋にはいないようだと分かり、別の部屋へ探しに行くためにベッドから飛び降りようとしたところで、キッチンの方から足音が聞こえました。
 再度顔を上げると、スパッツとタンクトップ姿の主人が、モーモーミルクの瓶を持って、こっちへ歩いてくるところです。
 彼女は僕が目を覚ましたことに気付くと、モーモーミルクを投げ出して走り寄ってきました。
――ガシャン! 投げ出された瓶が床で砕け、白い液体がフローリングの継ぎ目を伝って行きます。
 その音に、僕はビクンと驚いてしまいましたが、主人はその音も気にせず、金色に染めた髪をゆらして、僕の側まで来ました。
 主人は何のために走り寄ったのか、僕は不安に押しつぶされそうです。
「良かった……。30分は気絶したままだし、あのままじゃポケモンセンターにも連れて行けないしで心配してたのよ」
 ですけど、主人はそう言って、僕の体を抱きしめてくれました。もしかしたら、彼女は僕が気絶したことに慌てて、勃起の方に気付かなかったのかもしれません。
 だとしたら嬉しいですけど、ポケモンセンターに連れて行けない理由とは何だったのか、少し気になります。
 主人は抱擁を終えると、少し僕と距離を置き、下腹部を正面から見据えます。
「あ…、もう収まってたんだ。お風呂場では、デリカシーのないことしてごめんね?」
 少し顔を赤くしながら、照れ臭そうに謝る姿は、見てしまったと言う事実を僕に確信させるには十分です。
 まあ、少なくとも僕を嫌いになった様子も、幻滅した様子もなく、向こうから謝ってくれるぐらいですが、気まずい状況に違いはありません。
 自分で下腹部を見てみると、確かに先ほどまで勃起してた証に、股間で縦に割れたスリットが開いています。
 僕のように、両生類や爬虫類に属する概観を持ったポケモンは、こういう風にペニスが収納されていることが多いんです。
 気絶してる間ずっと立っていたのなら、ポケモンセンターに連れて行けないのも納得できました。
 そんな姿を見られてしまったというショックと情けなさから、目に薄く涙を滲ませながら、僕は主人の方へ視線を向けます。
 だけど、彼女だって自分のポケモンが風呂場で欲情していたことを知って、少なからずショックでしょう。
 僕と一瞬視線を合わせると、やはり気まずそうに逸らしてしまいました。僕にとっては、見られたことよりその反応の方がショックでした。
 何とか抑えていた涙が頬を伝ってベッドに落ちるのを止められません。主人に嫌われてしまえば、僕は何処へ行けばいいんでしょうか。
 現実逃避するように、頭を抱えてベッドに突っ伏し、すすり泣いてしまいます。
 こんな思いをするくらいなら、もっと別のカッコ良いポケモンに生まれたかったと、意味のない後悔が頭を過ぎりました。
 ベッドに顔を埋めてぐすぐすしていると、不意に隣の部分が沈みます。主人が僕の隣に腰掛けたようでした。
 水ポケモンの僕とは違って、暖かい体温を持った人間の手が、僕の肩に回されます。
「何であなたが泣いてるのよ。私が悪者みたいでしょ……」
 彼女はそう言いながら、僕を宥めるように何度も頭を撫でました。気持ちよくて、自然と心が安らぎます。
 胸につっかえていたものが少しだけ軽くなり、僕が顔を上げると、頬を軽く撫でられ、正面から抱き付かれます。
 そういえば、こういう正面からの抱擁は、最近ずっと避けてきたことでした。背中とかなら、なみのりしてるときなんかによくあることだから、まあ大丈夫です。
 でもこういうのってホント、慣れないんですよね。進化前のときは抱き上げられる感じでしたし、なんだかまるで、人間のカップルがしてるみたいじゃないですか。
「ぐぅぅ……」
 僕は彼女の肩に前足を突っ張り、やんわり遠ざけようとします。さっきは何とか大丈夫だったみたいですが、こんなときに欲情すれば、今度こそ幻滅されてしまうに違いありません。
 ですけど、やっぱり僕は馬鹿みたいで、お風呂上りの髪の毛から香る、シャンプーの匂いを嗅いでいるうちに、肩に突っ張っていた手を彼女の首の後ろにまわして、こっちから抱きついてしまうんです。
 主人に抱かれるのは、僕の雄としての本能を抜きにしたって、とても心地の良いことなんですから。
 彼女の体にぐっと抱きつくうちに、体の奥が熱くなっていくのも感じましたが、でももう、こんなのって我慢できないじゃないですか。
 主人に頬擦りして、同じ頬っぺたをぺろりと舐め上げて、これまでに無いくらい甘えました。
 ベッドの上で主人と抱き合ってるのだと思えば、どんなに抑え込もうとしたって無理です。
「んッ…」
 僕の鼻息が首筋にかかり、主人が小さく声を漏らしました。浅黒く日焼けした肌が、とても綺麗です。
 そのまま吸い寄せられるように首筋を甘く噛み、舌を這わせました。主人がびっくりしたような声を上げます。本当に可愛い声をしてます。
 ただ無償の愛を注いでくれる、母親のような存在に感じていた頃もありましたが、もう体の大きさも体重も僕の方が上で、僕が少し力を込めて抱きつけば、主人は身動きが出来ないぐらいの力の差もあります。
 ……別に、そんな風に抱きついてる訳じゃありませんよ。主人は今、抱きつく僕に抵抗なんてせず、頭を撫でてくれてますから。物の例えです。
「どうしたの? 急に態度を変えて。最近は少し余所余所しいと思ってたけど」
 僕の顔を覗き込んでそう尋ねてくる主人に、身振り手振りで伝えられるかどうか、何をどう伝えればよいか、少し悩みました。
 言葉が通じないと言うのは本当に厄介です。せめて僕の言葉が彼女に伝わるなら、ずっと前に一言「好きです」と言ってたのに。
 僕は少し考え込むと、また彼女の肩に手を置き、真正面から顔を見つめます。そうしていると顔がカァーッと熱くなってきて、青い顔が少し赤みを帯びてる筈です。
「ぐぃぃ……」
 精一杯人間の言葉の「好き」を言おうとしましたが、僕の喉では奇妙な鳴き声しか出ません。伝わっているはずも無く、主人は首を傾げました。
 だけど、諦めるわけには行きません。今は雰囲気に後押しされてますが、ここで諦めたら二度とこんな状況には恵まれないでしょうし。
 顔を主人の真ん前まで近付け、声は出さず口だけを動かします。口の動きをよ~く見れば、主人にだって分かるはずです。
「好…き……?」
 僕の口の動きを見ていた主人が、まだ確信を持っていないのか、疑問を含んだ口調で繰り返しました。
 ですが、大正解です。僕がオーバーリアクション気味に頷いて見せると、主人も笑顔で「私も好きよ」と返してくれました。
 だけどそれじゃ意味がありません。そんなことは知ってます。そういう意味じゃないんです。
「らぅぅっ…」
 僕は少し不満そうな声を出しながら、首を横に振りました。肯定された後に否定され、主人は少し意味が分からなくなっているようでした。
 これじゃあいつまでたっても埒が明きません。同じ言葉でもニュアンスが違ってたり、人間の言葉は僕には難しすぎます。もっとストレートに気持ちを伝えなければなりません。
 何か方法は無いかと、珍しく頭をフル回転させていると、砂浜の男女達がよくやっている光景が脳裏に浮かびました。
 それがどういう意味合いを持つ行動か、分からないほどには僕も馬鹿じゃありません。
 主人の肩を強く掴むと、さっき以上に顔と顔を近づけていき、「ちゅ」と音を立てて口と口ををくっつけます。
 柔らかくって温かくって、でもなんだか恥ずかしくて、すぐにやめてまた主人に抱きつきます。
 主人の体はなんだかさっきよりも強張っていて、どうやら驚いているようでした。
 今更ですが、どんな反応が返ってくるか怖くて堪りません。また泣きそうです。
 主人の手が僕の肩に置かれて、抱擁を解こうと力を込めました。ああ、僕もうダメかもしれない……。
「好きって、そういう意味……」
 不安で涙がいっぱいに堪った僕の目を見つめながら、主人が言います。ええそうですとも、そういう意味です。
 だって好きなんですもん。思わせぶりな態度取ってきたあなたの責任ですからね。
 などと頭の中で繰り返すが、主人から見れば情けな~くグスグスしているだけです。
 うぅ……そんな無言で見ないでください。不安で不安で涙がポロポロ零れちゃいますから。
「もう、そんな顔しないでって言ったでしょ……。こっちが悪いみたい……」
 主人は頭痛にでも襲われたみたいな表情で軽く頭を抱えると、物思いにふけっている様子で喋るのをやめました。
 そんな不気味な間は置かないでください。そんな考え込まないでください。あなたの一挙一動で僕は大ダメージを受けるんですから。
 草タイプの四倍ダメージどころじゃありません。もっと酷い一生消えない傷ですよ。
 主人は僕が見守る中、考えるのをやめると、また僕の方を向いて話します。温かい手が、僕の頭の上に置かれました。
「そういうの、素直に嬉しいと思う。嬉しいときも悲しいときも、いつも一緒に居てくれたパートナーなんだものね。
ちょっと驚いたけど、……うん。あなたみたいに優しくて、私のことを考えてくれる相手もいないわよね」
 そのことには自信があります。だっていつも主人の事しか考えていませんから。
 ところで、その言葉はいいのかダメなのか、どういう意図のものでしょうか? 僕にはイマイチ分かりません。さっき言ったように、人の言葉は難しいですから。
 でも、悪い感じはしないですし、多分OKとかそんな感じの答えなのではないでしょうか。
 だって主人は、頭は僕の頭に置いた手を、ゆっくりと肩までずらして、今度は背中にまわして抱きついてくれたんです。
「ねえ、やっぱり今も興奮してたりするの?」
「らぁっ!?」
 少し安心しかけていた所に、そんな質問なんかするものだから、僕は気の抜けた声を上げてしまいました。
 主人の顔を見ると、なんだか好奇心をくすぐられているような顔をしてます。
 どう反応するべきでしょうか。
「別にさ。嫌って訳じゃないのよ。好きならまあ、当然の事だし。ポケモンにも通じる魅力を持ってたなんて、女として単純に嬉しいし」
 主人はそう話しながら僕の背中を撫でると、頬にキスしてくれました。
 彼女もなんだかんだでノリがいいです。今まで苦悩してきたのが、何だか馬鹿みたい。
 そう思って気が緩むと、途端にさっきまでの緊張感で萎えてしまっていた本能が、頭をもたげてきます。
 正直興奮してます。ずっとあなたの側で生殺しに耐えていたんですから、相当溜まってます。
 嫌じゃないという事は、僕が欲情してあなたに襲い掛かっても良いという事ですよね? そう信じたいです。
 というかもう、そう思って行動するしかありません。
「らぐ……っ!」
 主人に抱きついたまま、体重を掛けてベッドに倒れ込みます。さっきほどじゃないですけど、勇気の要る作業でした。
 彼女はちょっと驚いたような、照れたような顔をすると、僕の頬に手を添えて、キスをしてくれました。
 恥ずかしいけど、それだけで下半身に血液が……。
 本格的に火がついてきた僕は、主人の着ている服をたくし上げて、胸の谷間に顔を突っ込みます。
 温かくていい匂いで、むにゅっとした感触が気持ち良くて、人間の男の人がどうしてここに見惚れるのか、今更ながら理解できます。
 そのまま舌を這わせて、ぺろん、と舐めあげると、主人の体がビクッと震えて小さな嬌声があがりました。
 僕の舌で彼女がそんな声を上げてくれるなんて、もう嬉しくって堪りません。
 主人の背中に腕を回してきつく抱きつきながら、がむしゃらに嘗め回します。
 胸への愛撫を繰り返すうちに、ツンと立ち上がってきた乳首を口に含み、ちゅっと吸い上げると、また彼女の体がビクビクと反応しました。
「やっ…もう、手が早いのよぉ……ッ!」
 彼女はそんな抗議の声を上げますが、こっちはあなたより野生の濃いポケモンなんです。人間の良識はそのまんま通用したりはしません。
 主人の胸を愛撫しながら、ふと頭に考えが浮かびます。人間の胸からは、ミルタンクと違って常にミルクが出るのではなく、子供が出来たときだけミルクが出ると聞きました。
 ポケモンの僕が彼女と性交すれば、子供は出来るんでしょうか。聞いたことがありません。
 だけど、考えるほど試してみたくなります。僕はスパッツに手を掛けると、ずるずると脱がしはじめました。
 最近は熱帯夜が続いてますし、スパッツの下はもちろん何も履いてません。彼女の恥部が丸見えになります。
 やはりいきなり恥ずかしいのでしょうね。主人は顔を紅くして、ぷいっとそっぽを向いてしまいました。
 でも、反抗はありません。僕に身を任せてくれていると考えて、良いのでしょうか。
「ぐぅ?」
 僕は彼女を仰向けにさせると、彼女に覆いかぶさるような格好で、顔を見下ろします。
 照れて目を合わせようとしませんけど、そんな顔も可愛くて、でも正面を向かせたくて、言葉にするのは難しいです。
 だから僕は、何にも言わずにぐいーっと顔を近づけ、大きな口で主人の口をまるまる咥えてしまう様にキスをすると、舌を入れます。
「ん…」
 人間よりも体温の低い僕にとって、主人の口の中は凄く温かくて、このままキスをしていたら、頭の中から蕩けてしまいそうです。
 太い舌を主人の舌と目一杯絡ませ、唾液を吸い上げて飲み込んだり、逆にこっちの唾液を流し込んだり、ドラマのワンシーンみたいな大人のキスをしました。
「ふあ……ッ」
 ゆっくりと口を離すと、主人の口から甘い声が漏れます。頬も朱色に染まって、とても魅力的な表情でした。
 次に僕は、主人の恥部に目を向けます。繰り返し行った胸への愛撫と、さっきまでの口付けで興奮したのか、少しだけ湿っていました。
 そこへ右手を伸ばして、入り口を指先で刺激すると、主人はまた嬌声をあげました。
 僕の三本指は人間の指よりも太くて、いきなり突っ込むような真似は出来ないので、丹念に、時間を掛けて慣らします。
 そうしているうちに、少しずつですが指が深くまで突き入れられるようになってきました。
 真ん中の指が根元まで入る頃には、主人の恥部から溢れた愛液が、ベッドの上に染みを作るほどになっていました。
 そろそろ、頃合かもしれません。主人の息遣いも荒くなってて、いい感じに出来上がってるのでしょうか。
 だけどそれ以上に、僕の方も早く気持ちよくなりたくて堪らず、主人よりも激しい息遣いになってました。
 下半身の方も、最初より硬くなって、もう痛いぐらいです。
「らーぐー……」
 彼女の顔を覗き込み、そろそろいきますよ、という意味を込めてそう鳴くと、頬をぺろりと舐めあげ、恥部へと視線を移します。
 人間は腹と腹を合わせるようにして交尾をするそうなので、今回は主人に合わせることにして、彼女の両太ももを掴み、恥部に僕のペニスをあてがいます。
 先っちょを少し入れただけで、主人の膣内の熱さに、ペニスが溶けてしまうかと思いました。
 指よりも太く長いペニスを受け入れるのに、膣内では多少の抵抗は残っていましたが、少し力を込めてぐっと押し込めば、根元までが主人の中に入ります。
 程よい締め付けと、主人の熱に、まだピストンすら始めていないのにイッてしまいそうでした。
 だけど、早漏れなんてカッコ悪いところは見せません。主人のために待ってる振りをして、門まで出掛かった精液を無理矢理せき止めようとします。
 ……だけど、そう思い通りには行きません。今まで溜まっていた分を抑え付ける事など出来ず、彼女の胎内に、どぴゅる、と濃い精子を吐き出しました。
 主人の体がベッドの上で跳ね、膣が脈打つのが伝わってきました。自分が情けないけど、もう死んでもいいぐらいの快感。
 今更我慢なんて出来なくて、精液で満たされた膣を、ガツンガツンと突き上げます。
 突き上げるたび、主人の口から甘い悲鳴が漏れて、ビクビクと僕のペニスを締め付けます。これじゃ、次の射精にもそう時間は掛かりそうにありません。
 主人の背中に回した腕に力を込め、強く抱き寄せると、彼女の唇を塞ぎます。それでも、口の隙間から小さな声が漏れ、感じていることを物語っていました。
 唇を離すと、僕の口からこぼれた唾液が、主人の口周りに落ちます。こういう姿を見ると、今主人が僕のものになっていると実感できました。
「あぁっ、う…あ…ッ」
 繋がったまま彼女の体を起こすと、今までとは違う摩擦に、声が上がりました。
 さらに、僕が一旦ペニスを抜くと、半開きになった膣口が物欲しそうにヒクヒク動き、先ほど出した精液が零れ落ちました。
 すぐに挿入は再開します。だけど今度は、僕に合わせた体勢にしてもらおうと、主人をうつ伏せにさせ、腰だけを突き出させると、四足のポケモン同士の交尾みたいに、背後から覆いかぶさります。
「やっ、あぁん……!」
 今度は挿入もピストンも、さっきの体勢よりずっとスムーズに行きます。やっぱり僕にはこっちの方が合っていました。
 主人も、慣れない体勢からの突き上げに、随分と感じている様子で、体を震わせ甘い声を漏らしながら、僕のペニスを締め付けてきます。
 彼女のそんな姿を見ていると、体だけでなく心からの興奮によって、性交の快感はより高まり、僕の鼻息も荒くなります。
 僕には絶対に手の届かない、それこそ高嶺の花だった主人が、今こうして僕の腕の中で、僕の突き上げでよがっているなんて。
 これから毎日、毎日、抱き合って、キスして、こうやって体を重ねて、愛して、愛されて、そう想像するだけで、これ以上ないくらいに幸せな気分になれました。
 後はそこに、僕らの子供でもいれば最高ですが、それは出来るかどうかまだ分かりません。
 人間はタマゴではなく、お腹の中に子供を作るそうですが、ミズゴロウが彼女のお腹に入ったりするんでしょうか。
 想像しようとしましたが、いまいち情報が曖昧としすぎて、イメージが纏まりません。
 僕はその疑問について考えるのをやめると、実際試して結果を見ることに決めました。
 もっと長い間我慢するつもりでしたが、やはり僕は早漏れのようです。
「らぁ、ぐぅぅぅ!!」
 腰と腰をぴったりと密着させ、彼女の膣の奥までペニスを突き入れ、動きを止めました。
 次の瞬間には、どぴゅ、びゅるる、と彼女の中に僕の精液が流れ込みます。
 密着した腰の間から、先に出した精液が押し出される形で溢れました。
 こんなんじゃまだ足りません。種族が違うから、子供だって出来にくいかも知れないし、主人のお腹を僕の精液で一杯にするぐらい、一晩中出し続けるつもりで。
 だけど、今はちょっと疲れた感じもします。今日は色々とあったから、体よりも精神的に振り回されました。
 一休みしようと思ってペニスを抜き、体を離すと、主人はうつ伏せに、くたぁっと倒れ込みます。
 僕の本気の突き上げは、どうやら主人を随分と疲れさせたようでした。一晩中というのは自重しなければならないようです。
 彼女の横に寝転がると、抱きつきながら、ベッドの隣にある時計を見ました。一時期主人が興味本位で教えてくれたので、数字くらいは読めます。
 時間はまだ夜七時ぐらいですけど、疲れたし主人と一緒にうたた寝でもしましょうか。
 もう彼女と一緒に寝たって、悶々とした感情を抱える必要も無いので、久しぶりにぐっすり眠れそうです。
 はぁ、なんて幸せ……。







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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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