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ヤンデレのグレイシアたんに死ぬほど愛されて研究の進まない科学者の手記

/ヤンデレのグレイシアたんに死ぬほど愛されて研究の進まない科学者の手記




By EC使いの風






やあ。こんにちは。
私の名前はロッキー。ポケモンの生態学者をしている。今日から記すこのレポートは私が初めて書くであろうポケモンの精神、心理的な現象についてのことである。
別段、学会に提出するものでもないが、何かに書き留め保管するのは私の癖の様なものなのだ。レポートと言うよりは、手記に近いものになるがまあいいだろう。先に述べた通りにこの記録が私以外の目に触れる可能性は限りなく無いに等しいものなのだからな。

さて、本題に入る。
4日前、私の元に一匹のグレイシアが送られてきた。それは、私が野生のグレイシアが生息しているであろうと睨んだ場所に実際にいたグレイシアだ。野生のグレイシアという絶好の調査対象が私の元に送られてくるというのなら別におかしな話ではないとは思うだろうが、私の気の迷いがこの結果を招いたのだった。
実は4日前にはすべてのグレイシアの調査が終わっていたのだ。私はグレイシアが実際に発見されたという報告とそのグレイシアの身体の調査結果を受け取るだけだ。私が直接ポケモンを研究するのは気が向いたときだけだ。専門が生態研究である私にデータ以外は必要ないからである。
何故にこのグレイシアが私のところへ送られてきたのか。それは5日前、私が書類をまとめるためにグレイシアを調査していた施設へ赴いたときにそのグレイシアが薬で眠らされていたのを見たのだ。グレイシアを見るのは初めてではなかった。今まで何回も写真等で見てはいたのだがこうリアルで動いているものは写真とはまた違った魅力を感じたのだ。
素直に書いてしまうと、何とも言えない愛嬌の様なものを感じたのだ。

そして、送るように指示するとその翌日に届いてきたのだ。仕事の早い部下を持つといいものである。
ハーデリア用の檻に入れられて送られてきたグレイシア。暴れる様子もなくすぐに檻からだしてやる。のびのびとできる環境に置かれてこそペットとしての意味がある。また、私には興味のあるものがもう一つある。それはまさしく、ポケモンとのコミュニケーションである。ここまで人間との意思疎通がうまくいくポケモンと言う生物には実に関心がある。学者が束になってかかっても全てを解明できないポケモンと言うものは好奇心や探究心をくすぐられる。もちろん、このグレイシアは研究対象ではないがこのような機会に出くわせたのだから活用しない手はない。
ポケモンの意思疎通能力が高い理由の一つに、人語を話すことができる。というものがある。もちろん、これには例外もいるが目の前のグレイシアはその例外には当てはまらない。そしてもう一つの理由に人間とよく似た思考回路と心を持ち、それを自由に表現することができるというものがある。これも意思疎通には欠かせないものである。考える力とそれ相応の心。それと表現力。物をいえぬポケモンもいるが心を持たないポケモンはいない。そして、それぞれの感情を言葉以外でも行動で示す。これらがポケモンの意思疎通能力が高いと言われる所以だ。
そんなことを考えている私を見てグレイシアは首を傾げた。疑問という感情を体で表現している目の前のグレイシアは実に素晴らしい。ポケモンとのコミュニケーションは幼児とよく似た物が適正であると以前読んだ研究資料に書かれていた。私はまずグレイシアと目線を合わせる。高圧的態度を第一印象に植え付けると感情の表現に支障をきたす恐れがある。かと言い、媚びるつもりはない。私はじっとグレイシアの瞳を見つめる。何故そう思ったかは今でも不思議なのだが、目を逸らしてはいけないかのような気がしたのだ。グレイシアは目を瞬かせて私の目を覗き込む。眼鏡とグレイシアの鼻先がぶつかりそうな程お互いの顔は近かった。私は目を細めると静かに言った。
「私の名前はロッキー。今日から君を私の家に住まわそう」
「え……。はい…」
掠れたような声でグレイシアは私の言葉にそう答えた。私の口調と言うものはどうにも鋭いものがあるらしい。早口で、語気を荒くせずに言葉を紡ぐこの口調は嫌いではない。討論、論弁あらゆる場所においてこの言葉遣いは威圧感を発揮させる。このような口調にしたのは紛れもない私自身だ。眼鏡のブリッジを片手で押さえ少し俯き加減で自論を展開する様は科学者の鑑のようだと雑誌の記事にも載せられたことがある。これは幼少の頃からの憧れの科学者がこのような姿だっただけであり鑑でも何でもなかったのだが少なくとも今の私は嫌いではない。
このままでは自慢のようだ。話を戻させてもらうが、グレイシアの声が掠れていることは聞けばすぐにわかる。私はデスクの横に配置されている冷蔵庫を開けミルクを取り出しデスクの上へ置く。冷蔵庫のすぐ隣に置かれている食器棚から底の深い皿を取り出しこれもデスクの上へと置く。皿いっぱいにミルクを注ぐと私はグレイシアの前に置く。グレイシアは何度かミルクの匂いをかぐとすぐに口をつける。舌でミルクをすくい上げすぐに口を閉じて飲む。一見効率の悪そうな飲み方だが見る見るうちにミルクは減ってゆく。
ミルクを飲み終えたグレイシアは口の周りをぺろりと一舐めしにこりと微笑む。この笑顔もポケモンだからこそのものである。その表情は動物的な無邪気さと人間的な美しさを兼ね備えている。
心を早く開いてもらうためにもスキンシップは必要不可欠だ。ミルクの余韻を口の中で味わいながら微笑んでいるグレイシアの頭にそっと手を載せる。ペンばかり持ち硬くなった手をグレイシアの耳の間に置き優しく撫でてやる。グレイシアは私の顔を見ようとしているのか顔を上げる。丁度このような目線を上目遣いと言うらしいがなるほど、ある種効果は抜群かもしれないと思ってしまう。

それからはグレイシアと共に過ごした。当然のことながらグレイシアのデータをまとめきってはいなかったのだが別に急ぐほどのデータではない。夕食まで私はグレイシアとのスキンシップを楽しんだ。雌ということも伝えられておりあまり踏み入ったスキンシップは危険と判断していたのだがどうやらこのグレイシアにはそういうものは感じていないらしい。頭、頬、喉、背中、腹部。おもに触れたのはこの部位である。尾と耳は敏感なためか触ろうと手を伸ばすと避けてしまう。
この時期には多少厳しいがグレイシアの体温は人間のものと大きく離れている。流石に掌の感覚を失うほどの冷たさはないがじわりじわりと私の体温を奪ってゆく冷たさだった。
私は完全に手が冷える前に外が赤くなってきていることを確認し撫でるのをやめる。冷蔵庫を開くと冷凍されている袋詰めのチャーハンを取り出し電子レンジへと放りこむ。私は底の深めな皿をデスクの上へ用意し解凍し終えるのを待つ。その間にグレイシアの様子を見る。すっかり私とはうちとけてくれたようである。こんなにもあっけなく心を開くこのグレイシアは私の想像から外れている。完全に想定外の展開である。私の足元に擦り寄ってきては頬を擦りつける。ためしに写メールを撮って学者友達に転送して見たところ警戒心が強いはずの野生ポケモンでそれほど早くに懐くのは珍しい。とのことであった。最後にリア充氏ねと書かれていたことには触れないでおく。グレイシアに懐かれているため生活が充実しているなどという脈絡もないことを言い出すから奴の論文はリジェクトされるのだ。少しは頭を冷やした方がいいだろう。
しばらくすると小気味のいい音とともに電子レンジが解凍を終えた合図を出す。袋まで熱くなってしまったチャーハンをデスクの上へ投げると筆記具の入れてある机の中から鋏を取り出す。袋の端を持ちながら鋏で袋を横へと切ってゆく。湯気が一気に立ち上り私の眼鏡を曇らせてゆく。冬だからこその現象かとため息をつきながらチャーハンを皿の上へと移す。
ポケモンの主食は木の実であるという話だったが私としたことが木の実を買い忘れたのだ。基本雑食のはずなのでチャーハンも食べることができるはずだ。もし食べられなければ、仕方がない。少し遠いコンビニまでポケモンフーズを買いに自転車で走るしかあるまい。最後に乗ったのは確か9ヵ月前だが、まあいい。
「あっつい!」
あれやこれや考えているうちにグレイシアが勝手にチャーハンに口をつけたようだ。熱いのは当たり前だ。自身が氷タイプと言うことを自覚しているのか疑いたくなってくる。私はデスクの上に乗って舌を前足で押さえているグレイシアを見る。耳を垂らすその姿は何となく惹かれるものもあるのだ。やはり生き物、ポケモンはこうでなければ。整った顔とかわいらしいしぐさが余計に私の顔を緩ませる。

結局チャーハンに冷気をかけて再び冷凍してしまったグレイシアはシャリシャリと音を立てながら米粒の水分が凍ったシャーベット状のチャーハンを食している。本人いわく味は悪くなさそうだったがせっかく電子レンジを使用して用意した飯を再び凍らせてもらっては苦労した甲斐がない。まあいい。猫舌グレイシアの一面を見れたということで良しとしておこう。
その日はバスケットの中に正直置くのがもったいないほどのふかふかな毛布を敷いてやりその中でグレイシアを寝かせた。初日は疲れたのか、私が電気を消す前には寝入ってしまっていた。私は論文発表も特にないこの期間は暇だ。生活リズムを崩さないことも大切だと判断した私は眼鏡をデスクの中のケースへとしまうとそのままの恰好でごろりとソファの上に横になった。持参した毛布にくるまり足を曲げ猫背のような姿で寝る。ソファはひどく狭いが寝心地はいい。暗い中横たわると自然と欠伸が出る。そろそろ眠気も襲ってきた。今日はこれまでとしよう。







次の日は朝からひどい目に逢い、新たな発見をすることとなった。まず、朝起きてみると既にグレイシアは起きていた。しかし、耳を垂らしており元気がない。体調を崩した可能性がある。いきなり研究所からこちらへ届けられたのだ。環境の急激な変化で体が不調を訴えるのはよくあることだ。
私はグレイシアの乗っているデスクの上にある眼鏡ケースを手に取る。眼鏡をつけなければ一日が始まらない。私の視力の悪さは私が一番よく知っている。片手でケースを開け、眼鏡を素早くかけグレイシアを眺める。
私が朝起きたときと変わらずグレイシアはしょんぼりとしている。体調が悪いかもしれない疑惑はますます深まるばかりである。グレイシアにそのあたりのことを聞いてみるが全く体調に関しては問題なさそうである。精神的に参っていると考えるのも妥当だが昨日はあれほど元気であったグレイシアが急に落ち込む理由を私は知らなかった。とすると私が寝ている間に何かあったということになるが。
そう思い部屋の中を見回して見る。すると、デスクに何か違和感を感じた。普段はカーテンを閉めずとも卓上に光がさすことはない。作業の邪魔になりかねないために窓際に花瓶と大振りの花を挿し光が射すのを防いでいた。しかし、卓上に光が注いでいるところを見ると、はっとして私は窓際を見ると予想通りあったはずの花瓶がなくなっている。急いで立ち上がりデスクの後ろに回り込み床を確認するといくつもの破片に分かれ飛び散った花瓶の残骸とその中に入れてあった水。そして美しい大輪の花が散らばっていた。正直頭を抱えたくなる有様であった。思わず口を開けて唖然としてしまっていた私に後ろから小さな声をかけられた。
「……ごめんなさい」
声の主は当たり前だがグレイシアであった。やはり花瓶を割ったのはグレイシアらしい。怒られると思っていたのかグレイシアがしょんぼりとしている理由が見えた気がした。しかし、当の私はというと怒りよりも驚きが大きかったのだ。何故そう感じるのかはよく分からなかったが私にはそう感じてしまう癖のようなものがあるらしい。
しかし、主従関係を築くうえでもここで怒らないという選択肢はない。だが、感情に任せて怒るのは私の苦手とするところだが説教じみたことを言うにはいささか自信がない。それにグレイシアはまだ来て1日目である。研究施設にはなかったものが多くある私の部屋に好奇心を沸かせてしまってのことだったのだろう。私の心が寛大なわけではないのは自覚しているが、きっとほかの人間と世界を違う目で見ているからこう感じるのかもしれない。
とにかく、怒る怒らないという問題は置いておき早くに片付けなければならない花瓶の破片やこぼれた水の方が最優先だ。木目の床に染みができては居心地が悪い。まずは割れてしまった花瓶の中でも原型が残っている下方の大きい部分を回収しデスクの横へと置く。グレイシアは何か言いたげな表情でデスクの上から眺めていたが正直、今の作業をグレイシアが手伝えるとは思っていない。私は黙々と作業を続けた。
大方、破片を取り除き濡れた床を乾いた雑巾で拭きとる。ワックスがけを怠らないおかげで少し時間をおいても充分に染みを作らずに拭きとれそうである。3枚目の雑巾で空拭きを施した後に花瓶の残骸を透明な袋へ入れ危険物の入れられる箱へとその袋ごと置いた。

これにて一見落着したが、私にとって嫌なものが残っていた。グレイシアは俯いている。説教とはいかずともこの状態のグレイシアに注意をするのはいささか戸惑いを覚える。
しかし、甘やかすのはいけない。 そう思い視線を下へと降ろすと左前脚が不自然な位置におかれているのに気が付いた。グレイシアはデスクの上に座っているのだがその左後脚に前足を密着させているのだ。本来、もう少し楽な姿勢でいるはずであり、昨日はいたって普通の恰好で座っていたのを思い出し気になった。バツが悪そうにうつむいているグレイシアに何も言わずに私は手を伸ばす。その前足を握られた時にグレイシアは意外なことに抵抗する色を見せた。何かあると確信した私はその前足をどけた。
そこには、赤い血が水色の体に付着しているのが見えた。青に赤という対照的な色合いのためか映えて見えるそれは痛々しい切り傷から流れ出ていた。このままでは細菌によって悪化する可能性がある。特に人間の生活する場では野生には存在しない脅威がある。早急に手当てすることとした私は普段使うことのない棚の中から応急処置を施すための器具の入っている箱を取り出す。


グレイシアの傷は花瓶の破片による切り傷であった。切り方からして触れて切ったというよりかは飛んできた破片に切られたという感じである。刺さらなくてよかったとここで一息安心しながらも処置を始めようと試みる。濡れタオルで血を拭き取り傷口を直に消毒できるようにする。傷口に触れていたいのかグレイシアは目を閉じて歯を食いしばっている。 続いて消毒を施すことにした。市販の消毒薬をピンセットでつまんだコットンに染み込ませ傷口へそれを触れさせようとした。
「いっ……!?」
グレイシアが涙のたまった瞳を見開かせて飛び退こうとするのを押さえる。ここで中断させられてしまっては消毒の意味がなくなってしまう。抑えている左手にやわらかい肉の感触を覚えながら右手で丁寧に消毒を施した。消毒を終えたのちに左手をどかそうとしてそこが初めて臀部であることに気が付き慌てて手を引っ込めた私は今思うとなかなか無様であった。


今はガーゼで止血されその上から包帯で固定された左後脚を気にすることなくソファの柔らかさを楽しんでいる。結局叱ることなどできなかった私は甘やかし過ぎなのか。少し首を傾げながら少し前のことを思い出し苦笑した。
包帯を巻き終えたのちに両前足を首に回し小さな声で「ありがと」と言われた時には顔から火が出そうであった。人間関係というものをうまく築いてこなかった私にしてみればこればかりは免疫がなかった。やはり安易に生き物とコミュニケーションをとるものではないのだろうかと思いながらも今の生活に満足している私がいるのも確かだ。
今日の筆記はこれくらいにしておこう。グレイシアが首を傾げてこちらを見ている。





昨日はあれからグレイシアとスキンシップをとってから就寝した。今思い返して見れば花瓶を割ったことに対するお説教はきれいに流されている。今更そのことをとやかく言ってはそれこそ私が惨めである。欠伸をひとつすると私はソファから上体を起こし眼鏡をかける。
今日は白いシャツの上に白衣という私の普段着ではなく下に適当に着込んだ後にパーカーを羽織った。今日は午前中は特に予定を決めてはいないが午後には花瓶と花を買ってこようかと思っている。やはり窓際に何もないと落ち着かないのだ。それに花の自然的な香りを私は好んでいる。 適当に安売りされていたポケモンフーズを取り出すとミルクと一緒に別々の皿に分けて差し出す。ポケモンフーズだけではひどく喉が乾いてしまう上に市販のミルクの味をグレイシアは気に入っているようだ。誰が見てもおいしそうに朝食を食すグレイシアを眺めながらパンを齧った。

午前中はグレイシアと過ごしていた。だいぶ私には慣れてくれたようで耳やもみあげのような部分まで触らせてくれるようになっていた。少しくすぐったそうにしながらも嬉しそうに体を預けるグレイシアの懐いた様はさながら安心しきった子猫(チョロネコ)のようである。
そうして午前中を過ごした後に軽く昼食をとり近くの商店街へと歩いてゆくこととした。流石に自転車で行くとなると花瓶が心配であるしグレイシアが一緒に付いて行きたいと言い出したのもあってなおさら徒歩で行くべきであるという結論に至ったのだった。運動させないのはあまり良くは無いとわかってはいるし、少しは人間の環境というものも見せておいた方が慣れが早いと思いグレイシアを連れて外へと繰り出した。

外でそわそわとしているグレイシアを横にまっすぐに伸びるアスファルトを歩いてゆく。少々落ち着かない様子ではあるが尻尾を少し横に振りながら歩いてる様子を見るとまんざらでもなさそうである。野生の頃には間違っても来ることはできなかった人間の街に心高鳴らせているに違いなかった。縁石の上を歩いているグレイシアは始終その尻尾を私の手に触れさせようとしている。しかし、握ったら握ったで驚いて縁石から転げ落ちそうになるのだ。一体どうしたらいいのか全く分からずに縁石は無くなり、代わりに植え込みが車道と歩道を分け隔てる商店街のような場所へと出る。
まずは適当な店に入って花瓶を物色する。あまり重いものを持って帰れるとは到底思えないので手頃なものにする。窓際に置くのもあってそこまでの大きさは必要としていない。再び落とされてはかなわないとグレイシアを横目で見ながら一緒に家具転倒防止用の粘着マットも買っておいた。既に大荷物になっている気がしないでもないが続いて花屋へと向かう。
買い物の順番を間違えた気がしないでもないがそれでも花を買って帰らなければならない。同年代と比べてみてはかなり細身な腕に鞭打って花選びへと向かう。グレイシアの勧めによって青く瑞々しいアイリスの花を中心とした花をいくつかかって行った。既に両手が限界を迎えているためにさっさと研究室へと戻って行ったのであった。

デスクの上に花瓶を置くとその横に花を置く。両手が重荷から解放され歓喜の声をあげているように聞こえた。多分に関節が音を立てただけかとは思うのだが。そのままこの労働のねぎらいとしてソファに身を投げてしまいたいのだが、花が元気を失くしてしまっては困る。研究室の水道の蛇口から花瓶の中に適当に水を入れる。それをデスクの上に置き花瓶の横から花を当ててみる。少し長めだった茎を処理して花瓶の中へと花を挿す。涼しげな色をした花をデスク後ろの窓へと飾る。当然粘着マットも一緒に付けておいた。グレイシアはソファの上に座り私の作業をずっと眺めていたが余程青い花が気に入っていたのだろう。始終尻尾を振ってアイリスの花を見ていた。
午後の残りの時間は急に研究施設から野生のキュウコンを捕獲することに成功したと連絡があり、様子を見ることも兼ねて研究施設へと赴くこととしたのだ。生憎、研究施設には野生ポケモン以外のポケモンを入れることは固く禁じられている。野生ポケモンをなるべく野生に近い形で観察する必要があるためにそこまで細かい決まりが定められている。体表に在る細菌類も生体にかかわることから採取することが多いために人の手の入ったポケモンはなるべく近づけさせない。捕獲にもかなり精度の高いマスターボールを使い、ポケモンの手を借りないのが現状だ。少し話が脱線していたが、つまりはグレイシアは今日は留守番ということになる。
それなりに研究らしいことも私はやっているのだということを一応ここにも記しておく。ポケモンがいなければ仕事は回ってこない。その研究対象が"野生で生息していることが近年確認されたポケモン"に限られている。その分一つの論文・研究成果には価値が高い。
研究成果を企業に売りポケモンの仕組みを人間の道具に取り入れたりなどと、最近では私達もそのような研究成果の使い方をしている。これのためにここまで研究機器のそろった研究施設を手に入れたのだ。ちなみに私の研究室の隣には私個人の研究室が2部屋ほどある。施設ほど精密な検査は行えず、無菌状態でもないために趣味でポケモンを調べることぐらいにしか使わない。それに、最近は何かと動くことが億劫である。学生時代のように若々しく行きたいものだ。研究職に就いてからはさながら老人のような生活を送っている。車の免許を持っておらず、少しだけではあるが感謝している。嫌でも歩いて行かなければならないのだからな。

施設の入口で滅菌作業を受けると新しい白衣をロッカーから取り出し羽織る。自動ドアの構造すら菌を受け付けないものとなっているらしい。どのような仕組みかは分からないし、興味も湧かない。その内調べて見ようとは思うのだがまだだいぶ先の話になりそうである。
施設の中央部には捕獲してきたばかりのポケモンのデータを取る場所がある。なるほど、ひよっこ研究者7人ほどが眠っているキュウコンからあらゆるデータをとっている。自力でデータをとって学会に論文を送りつけていた数年前が懐かしく感じる。しかし、ここは彼らの成長の場でもある。私がデータを取ることを控えさせてもらっている理由の一つでもある。もちろん、彼らが望んでデータをとっているのだからなおさら私の出る幕ではない。しかし、迂闊にキュウコンの尻尾を触るのはあまり望ましくないために注意を促しておく。キュウコンの戦うためのエネルギーがため込まれているのは尻尾だという事は昔からも言われていることである。尻尾に触れれば手が焼けるとも幻覚が見えるともいわれているのだが、力の抑制のできていない進化したてのキュウコンに限りそう言う現象はまれに起こるのだ。流石にデータ採取のために手を焼いてもらうわけにはいかない。ひよっこたちは明るい声で返事をすると慎重に体からあらゆるデータとなるものを採取してゆく。
彼らと年齢が近いのもあって大学の教授と学生といったような固い関係になっていない分、私も彼らと付き合うのは簡単である。以前まで女性が1人いたのだが、私がお付き合いを丁重に断ったところ彼女は寝込んでしまったという話なのである。それからは知らないうちに研究施設をやめていたりとあの時はまいったのを覚えている。そもそも、私に付き合いを求める時点で間違っているのである。正直人間の女性というものにどう接していいのか分からない私に迫ったところで結果は見えているというものの。

などと考えているうちにキュウコンのデータ採取を終えた研究者達がぞろぞろと私の元へとやってくる。手書きで書かれたデータをさっと目を通して足りないデータを伝え再度採集を行うように指示を出す。以前よりも不足分が減っているのを見ると彼らの成長と努力を垣間見ることができる。小さく頷くとパイプ椅子に腰をかけ再び彼らの研究風景を見させてもらうのだった。


そして、何故こうなってしまったのだろうか。理由は単純明快である。施設に空きがなかったのである。何が起きているのかわかりやすく書くのだが、私はキュウコンと共に帰路に着いているのである。施設のポケモンは無断で野に放すことは許されていない。ポケモンセンターで手続きを行いマスターボールとの契約を無効にして野に放さなくてはならないのだ。この手続きを踏まずに逃がすことは犯罪に近い。よって私がいったん子のキュウコンを預かることとなってしまった。夕日を浴びて金色の体毛が美しく輝く。歩くたびに揺れる尾は不思議な雰囲気の中に多くの者を惑わす力があるように見える。ぼんやりとそんなことを考えながら研究室の前へと着く。流石にキュウコンと一緒にグレイシアを住まわすとなるとグレイシアが体調不良に陥ってしまう。キュウコンには悪いが隣の部屋へと入ってもらった。
グレイシアに帰宅を伝えると尻尾を振って近づいてきたのだが私のズボンの裾に鼻を近づけると訝しげな顔をして私を見た。それから壁の方をじっと見つめて更に眉間にしわをつくる。どうやら他のポケモンに反応して警戒でもしているのであろうか。
グレイシアの警戒を解くために隣に来た訪問者の正体を聞かせてやり写真を見せた。眠っている姿を写真に収めておいてよかったと安心していると妙に右手が冷たいのに気が付いた。慌てて視線を右手へと移して見ると写真には大穴が空きしっかりと冷凍されていた。

グレイシアが何を思って写真を凍らせたのか。それを考えながら手記を記して今になる。野生の警戒としても少しやることが幼稚であるような気もしないでもない。どの道、これでキュウコンとグレイシアを対面させるのは危険だとわかった。キュウコンに大穴をあけてもらっては私としても困る。グレイシアの感情を考えれば考えるほど首を傾げたくなってくる。
追記だが、キュウコンはどうやら雌のようだ。それを知らずに過ごしていたのはやはりグレイシアに対しても失礼であったのかと、深夜、データ処理をしていて苦笑した。今はすっかり寝息を立てているグレイシアを見て翌日謝ろうと思い私は筆を置いた。





私なりに熟慮しましたが、一応戻しておきます。期待だなどとされているとは到底思われませんが公開することに意味がないとは思いませんので。
どうか、私の勝手でこのヘタクソな小説を素晴らしい作品の多くそろうwikiで公開することをお許しください。
では、相も変わらずの鈍足ですが気を取り直して執筆再開とさせていただきます。
コメントまではバックアップを所持しておりません。重ね重ねの不手際、大変失礼いたしました。




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Last-modified: 2023-06-26 (月) 20:35:16
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