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マグナゲート短編、第8:スーパーエモンガーズとウザい勝利と高利貸し

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作者:リング

勝利の波は、俺に無し! 


 エモンガは、暇していた。と、言うのも、彼が所属する探検隊『アイリス』は、ダンジョン研究家のエーフィであるアスとブラッキーのキノ、二人が作り出した遠くへと移動するためのダンジョンである『マグナゲート』を呼び込む装置、『エンターカード』を用いて人類未踏の地『大氷河』への冒険をしないかと誘われたのだけれど。
 ギスギスわくわく冒険協会の鉄の掟で、探検隊の主要メンバーが長い間拠点を離れるようなことはいけないらしく、そのためミジュマルのティーダ、ピカチュウのアメヒメ、ノコッチのタイラー、エモンガのヒエン、ビリジオンのリア。
 このうちの誰かが拠点であるパラダイスに残る事になってしまったのだ。そうしないと、探検隊としての権利は剥奪、チームは解散、ダンジョニストとして依頼を受けることもままならなくなるのである。
 その際、色々もめたのだけれど、最終的に残るメンバーはくじ引きで決めるという事になっていた。どうしてもノコッチやビリジオンに冒険に行かせたかった(ビリジオンについては否定していたが)エモンガだけれど、間抜けにもくじ引きで細工をするようなこともなく、局ノコッチが留守番に決まってしまったのだけれど。
 しかして彼はギリギリのところでノコッチを引っ張ってマグナゲートに放り込み、自身が留守番となったのだ。それがもしもノコッチじゃなくってビリジオンだったらどうするつもりだったのか、体当たりでゲートの中に放り込もうったって重くて動かないでしょうにねぇ……間抜けだ間抜けだ。
「うるせぇ!」
「えー、いいじゃない」
 間抜けだとか、考えていないとか、思った事を全て口に出していたら、このスペシャルにキュートでプリティーなこの僕が怒られてしまった。しかし、そんな退屈な日に、この僕キュートでプリティーでラブリーチャーミーなこの僕に会いに来たということはきっとこの僕のVウェーブ予報を聞きにきたのだろう!
 えっへん、この僕はなんて素晴らしい。寂しさを紛らわすことが出来るくらい愛嬌に溢れ、それでいて見た目も可愛らしく、純粋無垢なこの瞳が母性本能をくすぐる――
「いいから早く予報しろ! 大氷河のあたりを!!」
 そう言って、エモンガは僕に銅貨を渡してくる。
「えー……せっかちだなぁ。まったく、こんなにせっかちじゃ女の子にはもてないぞ」
「うっせぇ!!」
 わぉ、乱暴な言葉遣いだなぁ
「エーフィたちの口ぶりだと、そろそろ大氷河についているはずなんだ……だから、気になって気になって……」
「だからって毎日来なくたっていいのに。そんなにこのプリティーでキュートで、可愛さあまって憎さ百倍の僕との会話が好きなのかい?」
「憎いって自覚しているならやめんか!」
「もう、怒りっぽいなぁ。余裕のない男は運気を逃すぞ? そうだねぇ……むむむ……大氷河のほうは……そうさねぇ。あぁ、氷だね……名前からして氷タイプのポケモンも多いだろうし、寒がりなビリジオンは先制攻撃を貰わないように注意だねぇ。他の子達も氷に強い奴はいないし……まぁ、特殊技は苦手じゃないし、マジカルリーフとかで援護をしていれば問題ないんじゃないかな?」
「うぅ……こおりかよぉ。ノコッチも実は寒いの苦手で冬眠大好きだし、心配だなぁ、心配だ……」
「だーいじょーう(ブイ)!! それならばエモンガ、いいものあるよー。そう、その名は――」
「Vルーレットだろ? 知ってるよ」
「あぁーん、先に言ったらダメー。んもう、そうやって先に言われたりすると、決めポーズが取れないじゃないか。それでは改めて、Vルーレット!!」
 くるっと回って決めポーズ!! うんうん、決まっているねぇ、僕。決まっているねぇ、僕! 決まっているねぇ!!!
「うざい……いや、かっこいい」
 おやおや、褒められるとは嬉しいねぇ。
「そんなに格好いいならもう一度やって見せるよ! Vルーレット!!」
「あぁ、そんなことよりも、ルーレットを回す姿が一番格好いいよ」
「うんうん、確かにそれも格好いいよねぇ。それでは、ポーズもきちんと決めたところで、Vルーレットォ!! 説明しよう、このVルーレットとは、依頼人の勝負運を使い果たすことで、このスペシャルにキュートでエレガレントでマーヴェラスな僕が最高のポテンシャルを発揮し、なんとなんと、Vウェーブのタイプを帰る事が出来てしまうのだー!! しかし、その場合はそもそもその日の勝負運が十分でなくてはならない。
 そう、なぜなら、勝負運が無いときに僕に運を吸い取られると、最悪死ぬから! 故に、その日の勝負運の多さをこのルーレットで占うんだ。死にたいならば回さなくても大丈夫だけれどね!!
 でも、よっぽどの覚悟がなければこの……Vルーレット!!」
 颯爽と決めポーズ!! うんうん、不意打ちの決めポーズも決まっているねぇ、決まっているねぇ、僕。
「……を、回さずにVウェーブのタイプを変えないほうがいいよ! 最悪死ぬから」
 これがもう酷いんだ。
「例えば『運なんて馬鹿らしい』とか言っていた君は、3日間のうちにペリッパーの糞を上空から喰らい、滑空に失敗して肥料の原料(ウンコ)に突っ込んだり、耕ウンの最中には土をぶっかけられ、ウンカにたかられ、積乱ウンから落とされたアメヒメの雷の誤射を貰い、依頼された物資をダンジョンからウン搬する最中には落とし穴に落ちてしまったり、ろくな目にあってなかったよねぇ。
 エモンガってなんというか貧乏くじ引きそうな体質しているから」
「うっせぇ」
「そんなわけで、己の勝負運にかけてみるかい? それとも、地獄の沙汰も金次第だと、お金で解決してみるかい? 僕はどちらでも一向に構わないよ! なぜならこのVルーレット!!」
 ここで忘れちゃいけない決めポーズ!!
「……は、副収入としても重要なのだから!」
「知るか! と、とりあえず……無料で回すからな」
「けち」
 いくらアメヒメに徴収されるからといって、ダンジョニストとして働いている上に食費も安いはずというのに、どうしてこんなにお金が無いのやら。無駄遣いが多いんだろうなぁ、きっと。
「おぉぉ前は少し黙ってろ!」
「黙ることは敗北を意味するのだ。だからダメなの。それに、黙っていたりなんかしたら、この僕のVルーレット!」
 そう、言葉と共にこの決めポーズがなければ、調子が出ないんだ。
「……が、上手く働かないんだよね、これが」
「あーもう分かった分かった、早くやってくれ」
 もー、しょうがないなぁ。本当にせっかちなんだから。
「では、行くよぉ、ブィィィィィィルーレットォォォォ!!」
 パッチリお目々を瞑ったまま、空中できりもみ回転。Vルーレットの前に華麗に着地しながら、開眼する。
「はっじまーるよー!!」
 さらにぴょこんとジャンプして場を盛り上げれば、準備完了! いやぁこのアクションの一つ一つ、僕はなんと格好良くって、それでいて気品に溢れているのだろうか。
「このルーレットは、一見5分の1の確立に見えるけれど、勝負運が無い日に回しても、絶対にとまることはない不思議なルーレット! 円盤の中には僕のマークがかかれた部分が1つと、何もかかれていない部分が4つ。そう、君の勝負運を吸い取れるときは、この1つに止まるのだ!
 けれど、地獄の沙汰も金次第!! お金がかかってもいいのならば、僕のマークを増やす事だって出来るからね! 出来るからね! 出来るからね!」
「やらねーよ!」
「うーん、せっかちな上にケチ。そんなことじゃ女の子にもてないよー」
「大きなお世話だ」
「じゃ、いっくよー! ルーレットスタート!!」
 僕の合図一つで、ルーレットをサイコキネシスで回す。唸りを上げて回転したルーレットが、眼にも留まらぬ速度でめまぐるしくマークの位置を移動させる。エモンガはそれを見極めようと躍起になっているけれど、これは勝負運が全てを左右するものだ。せっかちで落ち着きのない子に、どうにかできるものじゃない。
「よーっく狙って! 僕のマークがあったりだよー!」
 さぁ、煽って煽って、囃し立てて!!
「さーて、あったりかなぁ? はっずれっかなぁ?」
 と、延々と繰り返しながら、僕はルーレットの周りをきりもみ回転しながら公転する。うんうん、お客様の気分を盛り上げるには最適なパフォーマンスだねぇ。
「くそっ……集中できない……うぅぅぅあたれぇ!!」
 さぁ、エモンガはそう言って、僕のサイコキネシスを遮断するべく、悪のスイッチを押す。徐々に回転が緩やかになってゆき、その回転の中に僕のマークが確かに視認出来る速さになってゆく。
「ホント、この瞬間はドキドキするよねー。あたりかはずれかを、かたずをのんで見守る瞬間、その回転速度がゼロになる瞬間まで高鳴る鼓動、高まる緊張。回転の終わりが近付くたびに、あふれ出る緊張。あぁ、なんて心地のよい緊張なんだ。そしてその緊張がはじけ飛ぶ瞬間運命が決まる。その運命の行く先とは……!?」
 回転が止まった!!
「はずれだね。やっぱり君って運が無いんだなぁ……」
「うるせぇっての」
「はぁ、これで7連敗だねぇ。ちなみに、7連敗する確立は、4割る5、つまり0.8の7乗だから、約21%の確立だねぇ。運が無いなー」
「傷口に塩を塗るのはやめろ! っていうか、さっきお前が本当は運なんて関係ないって言っていたばかりだろ!」
「うんうん、そういう星の下に生まれちゃったなら仕方が無いさ、うん」
「うっぜぇ……あー……どうしよう。今頃ノコッチとかビリジオンは寒がっていないかなぁ……大丈夫かなぁ」
「そんなに心配したってどうにもならないよ。よく言うじゃない、便りが無いのは元気な証拠って!」
「それは違うだろ!!」
「ま、ともかく。一回回しちゃった以上は、今日一日の間は、君にとってこのVルーレット!!」
 ビシッ、と決めポーズは忘れちゃいけない、忘れられない。
「……は、ただのルーレットになっちゃうから、普通に当たりが出るようになるよ。寂しくなったらいつでも回しにおいでよ! 無料だからさ!!」
「うぅぅぅるせえぇんだよお前はよぉ!! もういい、俺はダンジョン仕事に行って来る! 今だけ、チーム名はスーパーエモンガーズなんだ。名乗れるうちに名乗って名を広めてやる!」
 うんうん、スーパーエモンガーズ。とっても格好いい名前だよねぇ。なんだか不評みたいだけれど、アメヒメ達も変わっているよなぁ。
「がんばってー。勝利の星は、君にあるよ!!」
「あー……心配だなぁ……。アイツら元気にやっているかなぁ」
 そんな事をエモンガは呟いていた。そんなに心配しなくっても、意外と元気でやっているものだと思うけれどなぁ。

 ◇

 そのころ、探索に行っていたご一行は……。

「吹雪がくる……これは危険ね」
 全身の細かい体毛が、湿度、風の動きを感じている。
「この感覚、北風の岸辺とか凍える柱で感じたのと同じ……今日はVウェーブが氷の影響なのかしらね? 凄いのが来そうよ」
 ダンジョン研究家になるにあたって、私は極端な気候に左右されないために、また天候の変化を敏感に感じ取るためにこのエーフィという姿を選んだ。弟であるキノと、愛と絆を深め合うことで選んだこの体が言っている。『早く避難できる場所を見つけないと危険だ』と。
「本当か、アス。あとどれくらいだ?」
 キノが周りを見渡しながら尋ねる。
「一時間もしないうちに……どこかしらに避難して、皆で集まって暖めあえば問題ないでしょうけれど……一人一人が孤立した状態では危険だわ」
「わかった、皆を呼ばなきゃ……」
 キノはホイッスルを吹き鳴らす。甲高い笛の音は、遠くまで鳴り響くので、ヘタに吠えたり遠吠えをあげるよりもずっと効率がいい。吹き鳴らす音はピーーピッピで、天候不順を告げる音。ダンジョン発見や気になるものを発見した時、何はともあれ危ないときなど、メッセージはきちんと伝えてあるから、今回のこれは移動速度を高めるアイテムを使うほどの急ぎではないという事を意味している。
 何はともあれ、大氷河にたどり着いた私たちだけれど、今日は周囲の探索は打ち切りという事になるわね。避難できる陰になる場所とかを探さなきゃ……。

 大事を取ってダンジョンに入る前にみんなで寄り集まっていたので、まったくもってVウェーブの心配する必要はなかったという。

金は俺に無し! 


「そうだねー。今日は、あそこらへんのVウェーブのタイプは飛行だねぇ。ビリジオンの場合はアメヒメあたりと一緒に行って、飛行タイプから守ってもらうしかないんじゃないかなー」
 そう告げると、エモンガは心配そうな面持ちをしている。まぁ、確かにに強力な敵が出現するダンジョンだったらまずいかもしれなしけれど、ビリジオンほどのレベルならば雑魚が多少強化されたくらいじゃ問題がないと思うのだけれどねぇ。なんにせよ、ビリジオンのために心配しているんだから、エモンガも素直じゃないよねぇ。
「リアさんのことが心配なのー?」
「え、あ、あぁ……ほら、あれだ! ビリジオンがやられちまったら、ノコッチのやつがショックで使い物にならなくなるかもしれないだろう? そう考えると、やっぱりあれだよ、あいつのことも気にかけておかないとまずいかなー……なんて」
 あー、もう、この子ったら素直じゃないねー。もうあの美しい尻が拝めなくなるのは辛いからって素直に暴露しちゃえばいいのに、本当にエモンガったらビリジオンに対しては素直じゃないんだなぁ。
「それなら、エモンガいいものがあるよー。そう、その名はVルーレット!!
 ここでドドンと決めポーズ!
「そう、このVルーレトならば」
「有料でやるからもう黙ってろ」
「おおっと、嬉しいねぇ嬉しいねぇ! どのコースでいくかな!? マークひとつで1,000ポケ。マーク二つで2,500ポケ。三つとくれば5,000ポケ。確実に当てたい、そんなあなたに7,777ポケ!!」
「高いな……お金あったかな」
「君の運のなさを鑑みるに、すべての穴を埋めたほうが無難だと思うけれどねー」
「うるせぇ!」
「しかーし、どうしますかはお客様しだい! さぁさぁ、差し出すのは君の勝負運か、それともお金か!? ダンジョニストたるもの、お金は潤沢でなければ恰好がつかない! ダンジョニストの風格出すなら、そう、目指すは即金で7,777ポケ」
「無駄遣いして悪かったな! 俺は父さんに蹄鉄を買ってあげてたんだぁ!」
 おやおや、エモンガってば意外と親想い。
「おっとと、それでも有り余るほどのお金があるはず」
「アメヒメにあげているんだよぉ……出世払いで返すって言うから」
「なんにせよ、お金がないならば、ここは控えめに、1,000ポケで手を打つかい? しかし、それだと君の勝負運が足りない可能性に満ち溢れている」
「大きなお世話だ!」
「ではでは、どうする?」
「う……えぇい! それならやってやろうじゃないか! 全部のマークを埋めてくれ! 金ならあるんだ!!」
「おぉっと、これはこれは豪気なことだ! 5、6,7の……」
 ふむふむ、大金を数えるのは気持ちがいいねぇ!
「その額、なんと7,800ポケ! おつりは後で渡すから、忘れないうちに言ってよね! さーて、このVウェーブ!」
 お金を数え終えると、僕はくるっと一回転してポーズを決める。
「において、すべてのマークを埋めるということはつまり、失敗する可能性はゼロという事! それは臆病か、それとも賢明か! マークを四つにしてみて当たらなければそれは間違いなく賢明という結果なのだろうね! しかし、運否天賦の世界に、『もしも』や『たられば』は無粋というもの!  運のなさを金で補うというその気概、馬鹿にしてはならない! とどのつまりは、遠くにいる仲間とつながりたいがための決意の重さ。
 そのお金にかかる重圧を、今ここに僕は噛み締めて。回転させるのはVルーレット!!」
 よしよし、最大料金ともなると、決めポーズにも切れが出るねぇ。
「たとえば、それはまわせば目を瞑っていてもあたりを引くことが確実なのかもしれない。しかし、最大料金で100%当たるとしても、まわさなければいけない。それはそう、その理由はVウエーブに対して、勝負の世界への敬意を表すため。そのお金、その覚悟、その思い、その絆。すべてに敬意を表すべく、僕はエモンガのためにルーレットを回そう! その円環の理に、愛と希望と絆を描け! さぁさぁ、すべてのマスがマークで埋まる、垂涎もののVルーレット、はっじまるよー!」
「うるせぇし長い……」
 いやぁ、褒めてもらえるなんて光栄だねぇ、光栄だねぇ!
「じゃ、いっくよー! ルーレットスタート!!」
 僕の合図一つで、ルーレットをサイコキネシスで回す。唸りを上げて回転したルーレットが、眼にも留まらぬ速度でめまぐるしくマークの位置を移動させる。エモンガはそれを見極めようと躍起になっているけれど、これは勝負運が全てを左右するものだ。せっかちで落ち着きのない子に、どうにかできるものじゃない。
「よーっく狙って! 僕のマークがあったりだよー!」
 さぁ、煽って煽って、囃し立てて!! サイコキネシスにて回転スタート!!
「さーて、あったりかなぁ? はっずれっかなぁ?」
 と、延々と繰り返しながら、僕はルーレットの周りをきりもみ回転しながら公転する、最大料金ならば、この回転も2割増しでお届けってもんだね!
「ふぅ」
 おっと、気合が足りないけれど、僕のサイコキネシスを遮断する悪のスイッチが押されたぁぁ!
「さぁ、ここまでくればあとは見守るのみ! あたりかはずれか、本当にドキドキするよねぇ。あ、もしかしてエモンガったら、外れるわけないだろうって思っている? 甘い甘い、甘いよぉ! もしかしたらルーレットに隕石が落ちるかもしれないし、地震が起きてこのルーレットが倒れるかもしれない! それくらい勝負の世界ってものは厳しいものさ! 一応今まで前例はないけれど、万が一という事もあり得るぞ、さてさてその結果は?」
 僕のマークがあるところが、Vの字の間に来ている……そう、これはつまるところ……
「やったぁ! あったりぃぃぃぃ!! いやぁ当たったねぇ、おめでとう!」
「当たり前だ! 隕石なんて落ちてきてたまるか! 俺が黙っているのをいいことにさんざん言いたいことを言いやがって!」
「まぁまぁまぁ、僕としてはお客様の緊張をほぐしたいだけなんだからさ。そんなことはさておき、Vウエーブのタイプは何にするかい? 勝者にのみ許された美酒、Vウェーブのタイプ替えをとくと味わってほしいな!」
「……ノーマルだ。ノコッチの助けになるように」
「ノーマルだね? わかった、行くよ!! さぁ、この世にあまねく勝利の風よ。今こそ、勝利ポケモンたる僕の名において命ずる。飛行のタイプの風が靡きし北の果ての彼の地に、ノーマルの風を吹かせ、わが友の想い人の助けとなりたまえ! いざ、風は吹く!」
 その言葉が終わるか終らないかのタイミングで、彼から真っ白なオーラが漏れて出る。上記のように吹き上がるそれが一瞬で空中に解けると、不意にこの場所に満ちたなにかが消失するような感覚。
「今、金で買った勝負運の力を、あちらに送ったよ! 頑張れ、金の力!」
「金だなんだやかましいわ! 普通に言えんのかダボが!!」
「もう、乱暴な言葉を使っていると、運と女は逃げてくよ? 短気は損気、怒るのは愚の骨頂! さぁさぁ、そろそろあちらのVウェーブのタイプは変わったはずだ! その意味君ならわかるはず――そう、それは君の親友、ノコッチが活躍できるタイプであるという事! 女が逃げてゆく乱暴な言葉遣いの君とは違い、レディに優しく振舞う彼は、今頃きっと勇ましくビリジオンと助け合いながらダンジョンンを攻略して、乙女のハートを射止めているかもねぇ!」
「あーはいそーですか」
「ところで。エモンガ君は彼女とかできそう?」
「大きなお世話だ!!」
 あらあら怒っちゃって、短気は損気だって言ったばっかりなのに。
「それにしても、みんなは一体あっちでどんなことをやっているかねー? エモンガがいないからみんな寂しがっているかもしれないなー」
「だといいんだがな……とりあえず、今日はなんかもう疲れた。金も使っちまったし……依頼でもう受けなきゃ……はぁ」
 なんだかエモンガは疲れている様子。ここは僕のVルーレットで元気づけてあげるべきかなぁ?

 ◇

 その頃一行は――

「あら、Vウェーブが変わったわね?」
「本当だ、飛行じゃなくなって……ノーマル、かな?」
「あの、ノコッチのおちびちゃんのタイプね。今頃ガンガンキノのサポートをしてたりして」
 今日はアメヒメ、リア、アスの女子チームと残りの男子でチームを組んでいたのだが、私が飛行タイプにに対抗するべく前衛を張っていたので、リアはほとんど後衛にてサポートに徹していた。飛行タイプに弱い彼女でも、後衛ならば怖くなく、積極的に遠距離攻撃を活用することで、足手まといになることはなかった。
 3人とも、息はばっちり。特に道中で苦戦することもないので、敵に遭遇しない時はのんきに世間話をする始末である。特に、リアは苦手なタイプのVウェーブが止んだおかげか、いつもよりも心が弾んでいるようだ。
「今頃男連中は何をやっているのかねー?」
 アスが並んで歩く私達二人に話題を投げかける。
「同じようなことを話しているんじゃない?」
 と、私はこれしかないという言葉でアスに返す。
「あはは、そりゃそうかも。でも、そしたら次の話題は?」
 アスは、私の返答に笑って次に話題はないのかと振る。無茶振りだなぁ……
「んー……せっかく3人になっているんだし、男連中の長所と短所を語るっていうのは? 私はティーダとエモンガのことを!」
 この二人の魅力なら、いくらでも語れる自信があるんだ。
「ふふ、それじゃあ私は、キノとノコッチのいいところでも語りましょうかね」
「私は、当然キノの事を語るわ。言いだしっぺだし、長く語らせてもわうわよー」

――大氷河のご一行は、たとえVウェーブのタイプが変わらなくとも、平和だったのかもしれない。

金は、俺に無し! 無いったら無い! 


――数日後


「エモンガ~……ツケが大分溜まってるよ? いい金融会社紹介してあげよっか? カラス銭*1で有名なヤミカラス銀行とか、鬼のような高利貸しで有名なオニゴーリ金融とか、いっぱい紹介できるよ!」
「誰がそんな怪しいところから借りるかボケ!」
 その後も、Vウェーブのタイプが冒険に出た者達に不利になるタイプだったときは、俺がきちんとこまめにタイプを変えて支援した。のは、いいのだが――俺はビクティニの言っている通り、金が払えずツケにしてもらっている、というか、あのルーレットは値段が高すぎるんだよ、本当に。
「うー……もうちょっと待ってくれよ……」
 いくらツケがたまっているからと言って、パラダイスのお金に手を付けるわけにはいかない。むしろ、そんなことをしてしまったら、アメヒメに殴り殺されてしまう事だろう。
「ふぅ、地獄の沙汰も金次第。逆に言えば、金がなければ地獄行。これは常識だよ、エモンガ? 君がそんな風にお金にだらしないやつだと知っていたら、僕はこの小さな体で健気に、多大な疲労を伴うような、Vウェーブのタイプを変えるだなんて苦行を、決して、しなかっただろうに。しかし、とても親切でお人よしの僕は、エモンガが踏み倒す気でいたのにも気づかず、タイプの変更をしてしまった……
 あぁ、僕はなんて報われないのでしょう! そして、人の良心に付け込んで、ただ働きをさせるエモンガのなんとあくどい事か。あぁ、口惜しや口惜しや。満足におまんまも食えずに野たれ時死ぬであろう僕はもう、化けて出るしかないねー」
「なんでお前はそこまで口が達者なんだようるせぇ!」
「君、立場分かってる? お金を払っていないのは君なんだよー? あぁ、アメヒメに泣きつけばお金をくれるかもしれないなぁ……どうするの?」
「ぐっ……」
 確かにこいつの物言いにはむかつくけれど、お金を払わなければいけないのは確かに俺であるので、強くは言えない。
「そんなわけで、いろんな仕事があるけれど、こんな仕事はどうかなぁ? さっき、マリルリのミズタマさんから一つ仕事をもらってきたんだけれど、この仕事がいいよそうしなよ」
「……どんな仕事だよ」


キングデススメルドリの実が欲しい
依頼人:レイ=ドレディア(本名 レイディアント=リハルディオン=ドレディア)
依頼内容
客人をもてなすために、キングデススメルドリの実が欲しいのです。そのままだと鼻が曲がる匂いと信じられないほどの苦みが特徴ですが、調理をすればとっても美味しくなるので是非客人に振舞いたいと思っています。
しかし、この木の実、非常に匂いがきついので、それなりの報酬を用意する代わりに、きちんと覚悟していってくださいな。

場所:ドリの森


 報酬は激烈に高い。だが、そのドリの実は俺の身長と同じくらい高いし……どう運べと。ここは誰か適当な奴を手伝いに呼んでおくかな……うーん、誰かいたっけ?


「まじか、本当に連れてってくれるのか?」
 農作業や水汲みを行うことで、地道に基礎体力を増やして、最近着実に強さを増してきている男、カーネリアン。ゾロアであるこいつは、いろいろあって、コジョフーのジャノメに惚れているわけだが、今現在は農作業の仕事を手伝わされている身ゆえに、日々修行の毎日。魚取りをして食卓を潤すスターミーのプラチナや、マリルリ、ヌオーなどに鍛えてもらっているようで(全員水タイプじゃん)、そろそろ簡単なダンジョンならば連れて行っても問題ないような強さにはなっている。
 こいつを誘ってみれば、予想通り嬉しそうに声を上げる。
「俺から皆に休みの旨を伝えておくからさ。ちょっと荷物運びに苦労しそうで……」
 大きさという観点から見れば、ゾロアの平均身長であるカーネリアンの体格ならキングデススメルドリの実もそりなどで余裕で運べることだろう。まぁ、匂いはあれだろうけれど、たぶん大丈夫。
「いいぜ! でも、敵が出たらその時はお願いな。俺もまだ弱いから、サポートくらいしかできないだろうし」
「大丈夫、そこは任せておけよ。俺は喧嘩自慢なんだ。いや、やっぱりリアがいないのは辛いよな……荷物運びならピカイチに役立ったから」
「それだけじゃなくあの人めちゃくちゃ強いでしょ……俺なんてすぐに追い詰められちゃったし」
「は、大きさを考えれば、強さなんてからっきしよ。俺があの同じ体重になるまで数を増やせばいじめも楽々ってもんさ」
「まぁ、小さいポケモンを集めたほうが強いのは確かにだけれど、それは言わぬが華ってやつでしょ? それに、食費も小さいポケモンを同じ体重になるまで集めたほうがかかるわけだし」
「確かに。ビリジオンは見た目の割には少食だからな」
「はは、草タイプですしね」
 このゾロア、最初こそ仕事をしないでいけ好かないやつだと思っていたが、妹と再会してからのこいつは、自ら働くようになり、また妹を探し出してくれたコジョフーに憧れ、自身もダンジョニストになろうと目標に向かって突き進んでいる。
 人当たりもいいし、本当にきちんとした仕事さえある街だったら、最初からこんな奴だったんだろうと思うと、やさぐれていたころのこいつはやるせない。アメヒメが作るパラダイスと言うものも、こいつのような奴を見ていると応援したくなるってもんだ。と、ともかく……こいつの嗅覚が死んでしまうかもしれないけれど、それはそれ。ダンジョニストの仕事にも慣れるように頑張ってもらわねば。
 う、うん。あくまでこいつのためだ! 仕方ないよな!
「それじゃあ、チームアイリスの分隊として、スーパーエモンガ―ズ、出動だ!」
「え、何そのチーム名ダサい」
 うるせぇ!


 通路の前方には、エルフーンが待ち構えている。痺れ粉を吸ってしまいそうになったのをあわてて口を閉じてやり過ごし、俺は壁を蹴って飛び上がり、滑空する。
「回り込むぜ!」
「了解、行きます! ナイト――」
 空中を行く俺は、颯爽と後ろに回り込んで、挟み撃ちの形をとる。後衛のゾロアはすぐさまナイトバーストでけん制し、視界を塞ぎつつダメージを与える。腰が引けているのか少々ダメージは浅いが、エルフーンの俺への注意は全くなくなっている。ナイトバーストの爆風が晴れたところで、俺は必殺のアクロバット。後ろのモフモフのヘタの部分。コットンガードでも覆いきれない急所に当てると、エルフーンは悶え、倒れた。
「……ふぅ。もう少し踏み込んでナイトバーストを当てられるといいな。今じゃサポートは出来ていても、一人での旅はきつそうだ」
「やっぱり、そうだよなぁ……痛いのは嫌いで……」
「ま、誰だってそりゃそうだ。でも、攻撃を間近で対処するのも経験だぜ。俺も、殴られながら強くなったんだ」
「逞しいね。俺はまだまだ、喧嘩が足りないかな」
 ゾロアは憧れるようなまなざしで俺を見下ろした。
「へへ、喧嘩なんてこれから経験して行きゃいいさ。それより、そろそろ腹減ったし、ちょうどいいから飯にしないか?」
「お、現地調達の食事かぁ。俺初めて」
 ダンジョンとった獲物をしそのまま食べるという経験は、俺は何度もしたことがあるが、ゾロアは当然初めてで。新鮮な味を楽しめるとあって、ゾロアは小躍りしている。草タイプの多いこのダンジョンでは、草食でも肉食でも食べられるポケモンがいるが、エルフーンもちょうどそんな感じのポケモンである。
 とはいっても俺は雑食だし、綿の部分は美味しくないからゾロアと食べるところは同じになってしまうわけだが。食卓を囲みながら自分達の事を語り合ってみれば、こいつはかなり苦労したようである。そりゃそうだよな、働きすぎで母親を失って泥棒で生計を立てていたような奴だ。母親が死んでも、妹を守ると決めて生きるこいつの姿は感動すら覚えるくらいだ。
 俺は……まぁ、友達を守りたいとは思うけれど、そんな理想はない感じ。ただただ、なんとなく幸せに生きられればいいかなって感じだから、負い目と言うほどでもないが、少しだけ情けない気分であった。
 食事と小休止を終えて再び歩き出す。目的のダンジョンはこのダンジョンを超えた先。まだ荷物の載っていないソリを引いていく二人の道のりは遠い。


「あの、このダンジョンなんか臭いんだけれど……」
「そ、そりゃあれだ……このダンジョンの奥地にはキングデススメルドリの実があるからな」
「そ、その凶悪な名前は何だよ……?」
 さすがに、ここにきてゾロアは俺を疑い始めた。
「あはは、簡単な依頼の割に料金が高いんだよね、この依頼……うん」
 先ほどの森のダンジョンは、森のダンジョンらしく草タイプや虫タイプが多いのだが。今のダンジョンも森なのに、なぜだか毒タイプばかりが出現するようになっている。特にダストダスやヤブクロンが我が物顔で出現するのだけれど、これは……うん。そういう事なのだろう。
「エモンガ……お前まさか、そんな理由があるから依頼の詳しくを話さなかったのか?」
「てへっ」
 笑ってごまかそうとしたが。ゾロアはきっちりと俺に対してナイトバーストを放つ。威力は低めにした分非常に早く発動し、地面に爆風が吹きあがった!
「おーまえはそういう態度をとるな! 先輩だからってやっていい事と悪いことがあるだろうがバーカ!」
「何しやがるんだお前!」
「黙っている方が悪いだろ、この借金野郎!」
「てめ、ビクティニから聞きやがったな」
 こんなくだらないことで喧嘩して、そうして息切れしたら肺の中に、鼻腔に、どんどんと悪臭がたまってきて気分が悪くなってきてしまう。二人でこれは早く終わらせねば意見が一致しずんずん進んでいると、頭痛までして吐き気がこみ上げ、然し敵の強さは変わらないので相対的に強くなってきている。
 苦労の果てに、今が旬のキングデススメルドリの実のあるダンジョン最深部に来てみれば……臭い。恐ろしく臭い、と言うか臭くて臭い。
「くっさ!」
 思わずそんな声が漏れるくらいに臭い。やばい、涙出てきた。
「臭い! っていうか臭い!」
 ゾロアもこう言っていることだし、きっと強烈に臭いのだろう、臭い。
「ちょっとこれどうするんだエモンガ! こんなの運んでいたら街に入れない」
「大丈夫。完全密封の木箱を蝋で封入するから、たぶん大丈夫!」
「で、で、もどうやって近づくんだこれ!」
「そ、それは……」
 木の実を落とさなければならないのだが。臭い、すさまじく臭い。あれに近づきたくはないが、木登りは俺じゃないとできそうにないし、必然的につまり俺が切り裂かなければいけないという事になるというわけだ臭い。
「お、おれが落とすから、そしたらその、一緒に箱の中に入れよう……」
「う、うむ……頑張れ」
 臭いけれど、とりあえずここを早く脱出するためにも臭いあれをアレしなきゃ。
 ここはアレがものすごい群生していてものすごくアレだから、早いところあれをアレして……もううまく言葉が出てこない。ともかく、あれの上に登ってアレなアレにキリキザンの胸のあれを利用したあれであれをアレして落とす。依頼にあった2つ落としたら、アレの元に飛んでゆき、ゾロアとともにうアレにアレして、すぐさまあれを引っ張りながらダンジョンを後にした。

「死んじゃうかと思ったってかまだ臭い!」
 ダンジョンを抜けてもまだ臭い。と言うか臭い。
「箱の蓋締めても臭い……アレだ、早く蝋で密封して……あ、あぁ……」
「よ、よし……まずは電気の火花でで火をつけてと」
 蝋燭に点火。その後、漏れ出る匂いを我慢しながら、隙間を蝋で埋めていく。
「まだ臭い……」
「俺たちの体が臭いんだよ、ほら、エモンガの体も……くっさ!!」
「洗濯珠だ! 洗濯珠を使おう、うん」
「だな! エモンガ持ってたよな早く、なるべく早く」
 焦って取り出して一度転がってしまったが、何はともあれ洗濯珠を起動する。上空から降り注いだ洗浄液が俺らの匂いを洗い流し、やっとのことで俺たちの匂いが取れる。

「ふぅ、一安心……帰りは俺が敵を何とかするから、荷物運びは頼んだぜ」
 ソリに乗っかっている木箱からも、匂いはほとんどしない。これで大丈夫のはず……うん。
「お、おう……臭かったぁ……まだ鼻の中に匂いが残っていて鼻が全然利かないや……大丈夫かなぁ」
 ゾロアの鼻には、先ほどの匂いはよほど強烈だったらしい。今も鼻が利かないとは恐ろしや。
「と、ともかく行こう……帰ろう……見ての通り、臭いものにはふたをしたわけだし、ほら匂わな……臭っ!!」
 ためしに木箱の匂いを嗅いでみたが、臭い! どういう原理か匂いが漏れ、それによって臭いやばい。
「あ、あれだ! 素早く走って匂いを置き去りにしていけばいいんだ! 走ろう、な? ゾロア」
「お、おれは荷物を運んでいるんだってこと忘れんなよ? 結構重いんだからなこれ」
「わ、分かってるって! さぁ、夕日に向かって走るぞ!」
「りょうかぁい!!」
 俺とゾロアは匂いを置き去りにするべく走った。とにかく走った。ダンジョンの敵を蹴散らし、すれ違う旅人たちのしかめっ面を横目に、熱く火照った体が水分を求めても、わき目も振らずに。
 町へ入るときは、ちょうど人気も少なくなっていたので、これ幸いと依頼人の家まで駆け抜ける。よかった、まだ空いていた。
「お初にお目にかかります。私達、南方に位置する宿場町にて、お宅の依頼を受注した、探検隊チームアイリスが分隊。スーパーエモンガ―ズと申します!」
 3m程の巨大な塀。とりあえず、水平方向からの攻撃を防げればいいと行った感じの囲いを守る、キリキザンの守衛さんに話しかける。
「おや、アイリスと言えば、確かキングデススメルドリの実の依頼を受けたと聞き及んでおりますが……そちらの木箱がそれですか? って臭っ! 臭い! これはアレです」
 近づいてきたキリキザンの守衛さんが思わず顔をしかめる。
「どれど……やっぱいいや」
 もう一人、ブルンゲルの守衛さんは近づこうとしたものの、その匂いに恐れをなしてそそくさと持ち場に戻る。
「ふ、ふむ……探検隊バッジを調べたいので、えーと……どちらかがこちらに」
 えーと、と言うのはあれか。いつもなら自分でこちらまで歩いてくるのだろうけれど、今回は臭いからこっちが来いという事か! ゾロアはハーネスつけているからあっちへ行くと、匂いがあっちへ行く。と、いう事は俺が行くべきか……
「くさっ! 匂い移ってる」
 いや、傷付くからやめてくれ。
「この木の実……料理すれば匂いがなくなるって本当かよ……臭い」
 2回言わなくってもいいから。
「うむ、臭いけれど確かに本物のようだ。臭いが行ってよろしい」
 どんだけ臭いんだ俺達!


「確かに受け取りました。こちら、洗濯珠と報酬のポケでございます」
 ドレディアは平然としていた。何でも、父親がラフレシアだとかで、大抵の臭い匂いも大丈夫なそうで、キングデススメルドリの実の香りを鼻腔に含ませても、『うーん、懐かしい香りですねぇ』の一言で片づける始末。洗濯珠をくれるのはありがたかった。このままじゃ街に帰れないところだったし。
「どうも。また機会があれば依頼の発注お願いしますね」
「えぇ、いつかまた!」
 その時は、こんな依頼など受けたくないと切に願う俺達であったが。
「はい……これ、半額。妹たちにうまいものでも買ってあげてやれ……」
 屋敷から離れたところで洗濯珠を使い、報酬を分け合う。
「それよりダンジョンで肉狩っていこうよ。ちょうどソリもあることだしさ」
「そうだな……帰るときには朝になりそうだ……いや、今日はこの街に泊まっていこう。ドリの森の前で野宿してから……この街まで走りっぱなしだったし」
 特に、ゾロアはそりを引いていたのだから俺よりも疲れているだろうからと提案する。
「そうする」
 俺達は、この街で一夜を明かすこととなった。


「はい、それじゃあ次はこのお仕事ね!」
 そうして帰ってきてお金を返せば、ビクティニからは次の依頼を渡される。
「えーと……」


ダイヤモンドゴキブリバチの採集
依頼人:ドンカラスの貴婦人 マダム=ドン
依頼内容
わたくし、光物が大好きなのですが、今まで虫の光沢についてはノーマークでした。しかし、虫の美しさに心打たれてしまった私は、綺麗な甲殻が欲しくて欲しくてたまらな。今までサファイアゴキブリバチやルビーゴキブリバチを手に入れてきました。しかし、大物であるダイヤモンドゴキブリバチはまだ手に入っていないのです!
私のコレクションを完璧なものにするために、ゴキの森へと旅立つのです!
場所:ゴキの森


 嫌な予感しかしない……何々、ダイヤモンドゴキブリバチは、ゴキブリに寄生して卵を胎内で孵化させて喰らい殺させる凶悪な蜂、エメラルドゴキブリバチがダンジョンの不思議な力で変異したもの……だと?
「あの、これ……」
「とっとと行け」
 ビクティニが言う。
「いや、その」
「さぁ、行け」
 俺が何を言おうとしても、ビクティニはこんな態度を崩さない。言うだけ無駄だと悟った俺は、早々に準備をして、早々と出かけざるを得なかった。例の森には当然のようにシロアリやゴキブリがいて、ダイヤモンドゴキブリバチがいて、それに傷付けない程度に電気をかまして採集というのを、俺は繰り返した。
 シロアリもゴキブリも、体を休めればすぐに体を張って噛みついたりした来るので、何度も死ぬような思いをしながら一度たりとも止まる事が出来ない怖い森であった。

借金返済終了 

 そうして、仕事を行う事四回。高額な仕事だったおかげか、俺もなんとか借金を返し終えることが出来た。
 その頃の俺はすでにしてへとへとで、もう一歩も動けないような状態だ。
「うんうん。これに懲りたら、君ももっと身の丈に合った利用方法をするといいよ。君勝負運無いから」
「うるせえっての!」
 それでも、叫ぶ元気だけはあったが、そろそろそのエネルギーすらも尽きてしまいそうだ。


「おーい、エモンガー!」
 自宅へと帰る途中に聞こえたのはスターミーの声だった。彼は側転をしながらこちらへと近づいてくる。
「どうした、スターミー!」
「あっちに、ブラッキーの姿が見えたんですよ! 多分キノさんですよ!」
「マジか!?」
 日は落ちかけの夕暮れ。確かにそれらしき影が見えた、。しかし、なぜキノだけなんだ? まさか仲間に何かあったんじゃ……
「おーい! ブラッ……」
 滑空して全力で近寄ったその先にいたのは――
「だ、だ、だ、……誰ですか?」
 薄汚れてしかも痩せ細ったポカブだった。見間違えたぁぁぁぁ!!
「いや、知り合いと見間違えただけ……」
 何この状況……ものすごい意気消沈なんだが。
「そ、そうですか……す、すみません。ここの宿場町に行けば、職がもらえると聞いたのですが……」
「あぁん、お前パラダイスに就職希望か? あー、うん……じゃあ、案内してやるから、まずはそのみすぼらしい見た目をどうにかしなきゃな……飯、食いに行こう」
 ビクティニへの返済で余った分だけれど、金はあるんだ。
「いや、いいですよ……働く前に食べるだなんて……」
「いいから来い」
 体毛を強引につかんで、俺はポカブを引き寄せる。
「あれぇ、その子、キノさんじゃなくてポカブだったのですかぁ……いやぁ、夕方という事もあって私の目の錯覚でしたかぁ」
 目、どこだ……スターミー。
「こいつ、パラダイスに案内しなきゃならんけれど、その前に飯食わせて来る……」
 あーあ、こんなの、アメヒメに任せるべき事案だというのに。早く帰ってこないかなー。
「そうですか! 仲間が一人増えたなら、その分私も頑張りませんとね! パラダイスの食卓事情は私の双肩にかかっているのです、シュバッ!!」
 肩どこだお前。あーあ、お留守番は散々だ。でも、あいつらが帰ってきたときにがっかりはさせたくない。
「はぁ、もう一頑張りだな」
 仕方ない。留守番引き受けたからには、きちんとやらないとな。

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*1 一日一割の利子が付く高利もしくは、高利貸しのこと。夕方になったら(ヤミカラスが泣いたら)利子が付くことから

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Last-modified: 2013-11-24 (日) 05:53:00
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