ポケモン小説wiki
ポニータ、書を記す

/ポニータ、書を記す


 これは以前、私が聞いた話である。私がお世話になった村の長老の推薦で、ここへ来て、そして働くことになったが、ここはある意味でほっとする。宮城の外は多く者たちの往来があり、お世辞にも静かとはいえない。しかし、何故かほっとするのだ。故あって私がしばらく滞在した村、というよりも森はある意味で不気味だった。しかし、同時に神聖な場所でありまた、不思議な場所であった。そこに住んでいる者たちも長老以下、皆良くも悪くも純粋な者たちであった。

◇◇◇

 私はわけあって故郷を離れなければならないことになった。別にこれという当てもないが、とにかく、必要な者を袋に入れて故郷を離れた。何ゆえ、故郷を離れなければいけないかは後述するとして、とにかく、今日は一夜の宿を探さねばならない。路銀は持っていたが、宿を取るという習慣がない世界もあるようで、野宿を余儀なくされた。もっとも、路銀(つまり貴金属)類に興味がないポケモンも居るようで、食べ物をよこせというのには道中出くわしたが、大体の場合は走って逃げれば撒けた。私はポニータだから走りに関しては自信がある。と言っても中には普通に逃げれば先回りされる恐れもあったので、時には木の太い枝に飛び乗り、枝から枝へ飛び移って逃げなければならないこともあった。
半月ほど経った夕暮れ時、とある森にたどり着いた。こんなところに宿があるわけもない。少し歩くと、祠があった。どういうわけかは知らないが、この周りだけ、木が生えていない。祠は川の中洲にあった。とりあえず、今日はここで寝よう。日が昇ったら、さっさと森を抜けよう。何だか寒い。季節は冬ではないのに。一体どうしてだろう?(もちろん、山の上にあるわけでもない)そんな薄気味悪い場所であった。
「おい、あんた!」
「え?」
 私は声をかけられた。そこにはジュプトルがいた。
「もしかして、そこで寝るつもりか?」
「あ、はい」
「それはやめとけ。昔っから、あの祠の近くで寝ると、次の日の朝には命がなくなる、っていう言い伝えがあるからな」
 そう言われても、この流浪の身である私に行く場所などない。宿のようなものがあればいいのだが……。
「でしたら、宿のようなものが近くにありますか?」
「ない。何なら、家に泊めてやろうか?」
 旅の者から荷物を奪ってやろう、という様子ではなかったので、ご好意に甘えることにした。とにかく、雨風がしのげる。それだけでもありがたいことだった。
翌日、私は礼を言って、荷物の中から、銀のかけらをお礼として渡そうとしたが、相手は意外なことを言った。
「何だ、これは?」
「銀ですけど? 一晩お世話になったので、宿代です」
「礼なんかいいぞ? 若いのに気を遣うな」
「あ、でも……」
「そうだ、旅をしてるらしいが、どこへ行くんだ?」
 私は返事に困った。別に当てがあるわけではないのだ。強いて、言うならば、自分が住んでいる外の世界を見て回り、記録に残すことだった。
「いえ、当てがあるわけではないんですが……」
「急いでるか?」
「いいえ、そういうわけでは」
「……そういえば、お前、旅の記録をつけてるんだってな」
 昨日、私が墨を刷って、筆を口にくわえて、持ってきた竹の札に記録をつけているのを見て、それがきっかけで、いろいろと話をしたのだ。
「はい、それが何か?」
「だったら、長老に紹介してやるから、しばらくこの森に居ろよ。ちょっと手伝って欲しいこともあるしな」
「あ、はい。この森の皆さんのご迷惑でなければ」
私は、長老の下へ案内された。この森の長老とはカイリューだった。きっと長老というのだから、かなりのご老体で今にも死にそうな、そんな姿を予想していたが、意外にも若々しく元気だった。きっと普通のポケモンに比べると寿命が長いので、それと同じ尺度で計ってはいけないのだろう。
「長老、ちょっといいですか?」
「おお、材木屋。なにかな?」
「実は……」
一晩の宿を提供してくれたジュプトルがかくかくしかじかと説明をすると、長老と呼ばれているカイリューは「ふーん」と言って私を見ると、
「まぁ、何もない森だけど、お前の気がすむまでここに居たらいい。住居はここの隣に小屋があるから、そこを使いなさい。少し狭いかもしれんが」
「何から何まで、ありがとうございます」
 私は頭を下げた。しかし、おかしい。どうも話がうまく進みすぎる。何か怪しいな、そう思わずにいられなかった。もしかすると、他所から来た者を疑うという習慣がない、本当に心のきれいな者たちが集って成り立っている集落なのかもしれない。しかし、前に私が居た都市では考えられないことだ。
「あ、そうだ。何です。手伝ってほしいこととは?」
「ん、あ、そうか。オレの仕事は木を扱うことなんだがな。時々、注文や報酬のことで相手さんとモメることがあるから、何をいつ、いくつ注文したか、とか、お代はどれだけ、とかを記録してほしいんだわ。どうもオレはそういうのは苦手でね。仲間の中には字がかけないやつも多いから、うまい文章を書けるやつを探していたんだ」
 仕事はそれほど多い訳ではなかった。私の仕事は要するに、注文一つにつき伝票を3部作ることだった。木の札に注文とお代を記し、一つを材木屋で保管し、もう一つは依頼主に渡し、残りの一つは長老に管理してもらい、いざというときに仲裁に入ってもらうことにした。客にはなかなかたちの悪いやつもいて、何かと難癖をつけて、代金をちょろまかそうとするやつがいるのだ。
それから、しばらくして私は体調を崩した。仕事はなかったので、それは救いだったが、体はだるい上に重く、まるで言うことを聞かない。まるで鉛の塊になってしまったようだ。その夜は悪夢にうなされ、夜何度も目を覚ました。次の日に長老が見舞いに来てくれた。
「体のほうはどうかな?」
「あ、はい。少しは楽になりました」
「そうか、ところで、この森の入り口から少し離れたところに、祠があるのを見なかったかね?」
「はい、見ましたけど」
「実は、そのことについて詳しく話そうと思ってきたんだが」
「そういえば、あの祠何か、曰くつきのものだと聞きましたが」
「曰くというか、まず、罪を犯した者はあの祠の神によって罰を受ける。罪というのは、他人を疑うこともはいるな」
「……」
「どうかしたかな?」
 私は素直に認めた。おかしい。どうも話がうまく進みすぎる。何か怪しいなと思ってしまったことを。他の方の善意を踏み躙るようなことを思ってしまったのだ。罰を受けて当然である。それに、私は以前自分が居た都市で、客とのいざこざから、相手に蹴りを入れて、そこが運悪く急所で、結果的には殺してしまったのだ。自首はしたが無罪になるわけもなく、私は期限付きの追放となった。中には殺しをしてもばれなければ良いという集落もあるようだが、そこでは私は生活できそうになかった。掟の厳しいところで、暮らせただけ運が良かったと思いたい。
「あと、他にも」
「他にも?」
「これも、実際にあったことなんだが……」

 ◇◇◇

 ポケモンの中には普通とは色の違う者がいるらしい。そうそう滅多に見つかるものではないが、それでも居るのは確かだという。もちろん日焼けしてしまったとか、多少の色の濃淡ではなく、明らかな色違い、例えば、本来白のはずが桃色、紫のはずが濃い緑色といった具合だ。何故そのようなことが起きるのかは分からなかった。ある者は病気に感染したからだといい、またある者は前世の業(カルマ)によるものだという者もいた。一体どの説が正しいのか、いまだ証明されたことはなく、何故そうなるのかは分かっていない。それ故、恐ろしい、穢れている存在としてみる者もいた。
 以前この森にチラーミィがいた。が、このチラーミィ普通は白のはずだが、何故か桃色。住民たちの反応は様々で、無頓着な者、何となく避けている者、積極的にいじめる者などいろいろいた。罵声を浴びせられたり「桃色病が感染る」と忌避されているといっても過言ではなかった。無論一部の住民たちにだが。追い出してほしいという声も聞かれたが、危害を加えられているのならともかく、色が違うだけでここまで毛嫌いされる理由が分からなかった。自分たちとは明らかに異質な者を排除するという本能に従ったものなのか、しかし、それならばこの森にはいろいろな種族がいるのだ。違う者同士がいるのは当然であるから、つまり、色が違うということに対する偏見である。一度、こういった偏見を持ってしまうと簡単に捨てさせることはできない。というよりも、いじめることそのものを楽しんでいる者も中にはいたようだ。この森もいろいろと掟がある。といっても「悪いことはするな」といった類のごく当たり前のことであるが。だが、それでも中には法を犯すことに快感を覚えたり、刺激を味わう者もいることも事実だ。そういった荒くれものは、もっと治安の悪い集落に移動する者も居たが、ここに留まる者も居た。強制的に追い出すこともできたが、こういう連中に限り、仲間を引き連れて報復しにやってくるのだからたちが悪い。
 迫害の末、このチラーミィは祠の側で冷たい骸となって発見された。その年の冬は特に寒く、外傷もなかったので、凍死か飢え死にしたという結論になった。放っておくわけにもいかないので、魔よけの儀式を行い、遺体は火葬にし、川の側に埋葬することにした。ねんごろに弔ったので、普通ならこれで解決のはずだが、年が明けてから、森では不可思議な出来事が立て続けに起こった。春先に森を流れる川が増水して周りの集落に被害が出た。そのとき溺死した者はいなかったが、それでもその周りの集落の家は流されてしまった。ところが、どういうわけか、川岸に立っている祠は無事だった。春先は雪解けの水で川が増水するのは珍しくはなかったが、ここまでの被害は今まで経験したことのない規模だった。
 他にも落雷や崖から滑落する者が出るなど、普段ならあまり起こらないことが頻繁に起きた。被害にあったものたちは全員例の迫害に参加した者であり、その報いなのか、落雷や滑落で全員命を落とした。年の老若などは関係無しにである。いずれも死体の損傷は激しかった。落雷の場合は、雷が直撃し、倒れてきた大木の下敷きになって死んだ者もいた。滑落死は、死体からおびただしい血が流れ、目をそむけない者はいなかった。
 川岸の祠があるせいだ、あんなもの取り壊してしまえと強硬論を唱える者もあったが、実行には移されなかった。川岸の祠は少し変わった祠で、普通ならその祠で祭られている神様がその土地を護るというものだが、この祠は違うのだ。その土地で悪いことをした者に天罰を加えるというものである。一方で、これといったご利益があるわけでもない。しかし取り壊そうとして無事だった者はおらず、森の住民は皆恐れているのだ。あと、昔から本当に手立てがなくなった場合は祠の側に行って一夜を明かし、その間願い事を念じ続ければ、その願いはかなう、しかし、大きな代償を払わねばならぬ、という言い伝えもある。もっとも、念じ方が足りないと何も起こらない、昼の間に行っても効果がないなど、いろいろと制約があるようなのだ。
恐怖の対象ではあったが、そのせいで邪な考えを持つ者はこの集落にはいない。結果的にご利益があると考えても良いのではないだろうか。

 ◇◇◇

 私は話を聞き終わった。が、一つ聞き忘れたことがあったので聞いてみた。
「そういえば、あの祠って何が祭られているんですか?」
「言い伝えによると、ダークライらしい。本当かどうかは知らないがな。さっき話した大増水のときに祠の両脇に立っていた2体のダークライ像は流されてしまったから、今となっては、集落の者でないと何が祭られているかは分からないだろうな」
「に、してもいろいろと変わった祠ですね」
「ああ、あれは、我々俗物が深く関わってはいけないものなのかもしれない、皆、そう言っている」
私はしばらく、この森にいることにしたが、どうにも居心地が良すぎる。自分にはここに居るべきではないと思うようになった。
 長老に、私は旅立つ旨を伝えると、一筆したため、ここに滞在するのなら、この推薦状を見せれば何らかの仕事にはありつけると言って渡してくれた。それは、ここから東にある「リンシ」という大都市だった。ここからはかなり遠いが、話には聞いたことがある、富と物に満ち溢れたそんなところらしい。長老は以前ここで働いていたので、ある程度顔見知りの者はいるはずだという。私はそれを持って旅に出た。
4ヶ月ほどたって、私はリンシに到着した。そこは堅牢な城壁に囲まれた都市だった。もっとも、収まりきらなかったものは、城壁の外にも、農地やら水汲み場などがあった。しかし、ほとんどは城壁の中にある。敵が攻めてきても数ヶ月から数年は籠城できるらしい。しかも城壁は四重になっており、外から攻めてきた敵が宮城までたどり着くのは至難の業だ。
 私は、早速、宮城に行き、推薦状を見せたが、長老を知っている人はいない。国王は誰か知っている者はいないかと、重臣を集めると、先代や先々代から使えている古参の家臣たちが知っていると答えた。後で知ったのだが、あの長老、ここの元軍事長官。要するに大軍を指揮する重要な役職についていたらしい。あの、カイリュー、そんなことしてたのか、とてもそんなふうには見えなかったが。
 ある時、敵国と交戦することになり、リンシ側が優勢だったが、戦は長引いた。力攻めをすれば、勝てるだろうが、味方の被害も増える。カイリューは降伏すれば相手の君主や民の命は取らない、今までどおりの生活をしても良いという条件を出した。劣勢の相手側からすれば破格の条件である。相手はあっさり降伏してきた。しかし、この手柄をねたむ者が多くいたことも事実だった。あれこれ、いわれのない疑いを受けるのも嫌だったし、もうすでに、贅沢をしなければ暮らしていける財産はあるということで、辞表を出しこの国を去りあの森で隠居生活を始めたということだった。
 その後、新任の軍事長官は、例の約束を反故にしたため、当然相手国は怒った。相手国の君主は刺客を送り込んで、長官を暗殺した。進軍中の部隊にはもともと自分の部下だった者もいたので、事は簡単に成就した。結局、一時は服属させたのに、以前の対等な関係に戻ってしまった。

 ◇◇◇

 ここで仕事を始めてから、1年がたった。あの推薦状がとてつもない効果を発揮し、特に仕事上での失敗もなかったので、つい先ほど昇進の知らせを受け取った。
自分のやったことは、自分に帰ってくる。ただそれだけのことだ。さて、仕事をさっさと終わらせて、仲間と街に繰り出すとするかな。

 卯年、冬月にこれを記す、2等書記 ポニータ

 終わり


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2011-12-25 (日) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.