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ポケモン民族小話

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作者:リング

某所の企画で没だったものの供養部屋

蠱毒 



 蟲毒という呪術がある。これは肉食のポケモンを一箇所に集めて黒いまなざしなどを利用し閉じ込め、共食いをさせて最後の一匹になるまで殺し合わせるというものである。
 古くはタマゴグループに蟲が含まれるポケモンのみで行われたがゆえに『蟲』毒という名前にその名残があるが、初期のころより怪獣グループやドラゴングループのポケモンも使われていたため、定義は曖昧だった。
 だが、呪いに使われるポケモンの種族は大して問題ではなく、重要なのはそうして生き残ったポケモンの強力な力についてである。
 そもそも、生き残ったポケモンだって度重なる殺し合いの後。よほど他と実力が離れていなければ酷い重傷を負っているはずであるが(もしくは、腕が千切れたくらいでは死なないからこその蟲系のポケモンなのかもしれない)死なないのは何故なのか?
 最後に生き残ったポケモンはすさまじい生への執着を持ち、その上に死んでいったポケモン達の恨みや憎しみ抱えているため、生命力は強化されその存在自体が呪術『蟲毒』となるからである。
 蟲毒となったポケモンは術者に富をもたらすが、定期的に生贄をささげなければ、(術者と同種の生物でなければいけない。要するに、原則的に人間を生贄にささげるわけである)代わりに術者が殺されてしまう。そして、術者が蟲毒を捨てようとしても、蟲毒は何度でも舞い戻ってきて、しかも物理的な手段では殺せない。
 蟲毒を捨てるには、蟲毒がもたらした富と共にポケモンを他人に押し付けるしかなく、それによって押し付けられた者を殺すためにも使用されるのである。

 だが、蟲毒の最も恐ろしい性質は、蟲毒となったポケモンを喰らうことで、術者自身が新しい蟲毒になることも可能となるという点だ。
 術者が蟲毒になるという現象で記録に残されているもので最も有名なものは、五百年前にズイタウンで起こった大虐殺であろう。
 かつて、この地を開拓しようとやってきた侵略者に、一族を皆殺しにされた男がおり、襲撃を受けながらも命からがら落ち延びた彼は、同じくズイタウンの開拓監督に追われているという呪術師に出会う。男は呪術師が侵略者と同じ人種であるにもかかわらず、敵を同じくするという共通点を頼りに意気投合した。
 蟲毒の話を持ちかけられたとき、彼も一度は『ポケモンを殺し合わせるなんてとんでもない』と反論するも、一族を丸ごと殺された怒りには勝てず、呪術師のポケモンと共に巨大な穴を掘り下げ、百七のポケモンに殺し合いを行わせ、最終的にそれを喰らい自身が蟲毒となった。
 百八の魂の頂点に立ち蟲毒となった男は、侵略者達をたった一人で集落ごと殲滅させるも、ピカチュウを連れた波導使いが命懸けで封印したといわれる。要石に封印された男は波導使いの手により御霊の塔に封印され、今も開拓者の墓に寄り添うようにして、恨みを晴らす機会を待っているのだとか。
 ちなみに、その呪術師の身元は一切不明であり、蟲毒のポケモンを集めた方法も不明。蟲毒となった者も本当に先住民だったかどうかすら定かではない。真相はあくまで波導使いの手記に残されるのみである。

枕返し 


 枕が変わると眠れなくなる。布団が変わると眠れなくなる。旅行へ行った時などに、そう言った睡眠事情で困る事ってありますよね?
 もしかしたら、それはお布団の感触による違いのみならず、そこに住んでいるポケモン達のせいかもしれません。
 ジョウト地方のエンジュシティで営業するとある旅館では、いつも寝相の良い人でも普段からは考えられないほど寝具が乱れてしまう事がよくあるそうです。
 その原因となるのが、悪戯好きなムウマな仕業だというのです。彼らは、子供のようなかわいらしい見た目で寝床に現れ、枕をひっくり返すだけならず、酷いときは東向きに眠っている人が朝起きたら西向きになっていたなど、大胆に寝相を乱す悪戯をして、毎晩楽しんでいるのだとか。
 標的にあった人も、驚きはするけれど無害だから怒るに怒れない、何とも可愛らしい悪戯なので、一部の熱狂的なムウマファンがその姿を目に焼き付けようとこの宿を訪れることもあるのですが、そんなつもりで訪れた客の元には警戒して現れないそうで、寝たふりは通じないということが分かります。
 無警戒に眠っていたお客様が、ムウマの気配に気づいて不意に起きたときのみ、ムウマの姿を拝めるそうで、ムウマファンからは『宝の持ち腐れだ』と冗談交じりに不満の声が上がっています。

 かつてその悪戯の犯人が分からなかった時、この現象は『枕返し』という名の妖怪の仕業と考えられていて、別のポケモンが原因の現象と混同されることが多かったと言います。
 混同された例を挙げれば、ところ変わってカントーのシオンタウンにもまた枕返しと呼ばれる妖怪がよく出没していました。
 こちらの枕返しはゲンガーの仕業と言われ、下手すると命を奪われかねない危険な枕返しとされています。
 彼らは、部屋の隅でじっと獲物の様子を伺い、標的が眠っているときに突然寒気を感じて、大きな音をたてられ驚かされたかと思えば、飛び起きた拍子に枕が転がってしまうから、枕が返るのだとか。
 眠っているとき、人の魂は半分ほど体から出かかっており、非常に不安定な状態です。そんな状態で、酷く驚いたりなどすると、魂は一瞬体から離れてしまうのです。
 驚くことを『魂が飛び出る』という表現がありますが、まさにその状態となった魂は、すぐに体に帰ろうとしてもゲンガーが枕を返したことで魂が体に帰れなくなってしまうというのが、民俗学的な見解です
 そうして立ち往生した魂は、ゲンガーの餌食になり、食われてしまいます。同じ枕返しでも、こちらは笑って許すことも出来ないエピソードですね。

 夢を見るという事は、魂が異世界を覗き込んでいるような状態で、枕はその覗き窓のようなもの。ですので、枕を返すとその覗き窓が遮断されてしまうから、飛び出た魂が体に帰れなくなると言われています。
 もしもあなたが眠っている人の枕を返したなら、悪くすればその人の魂の一部、もしくはすべてが体に帰れず、その人の寿命縮めたり、死に誘われたりという結果を招きかねません。
 そうなっても、ムウマならば魂を元に戻すことも出来るでしょうが、私達人間にはきっとその作業は難航することでしょうし、元に戻らない可能性もあります。
 良い子の皆さんは、ムウマの真似をして他人の枕を返してはいけませんよ。取り返しのつかないことになるかもしれません。

フェアリータイプではなかった妖精 その1 


 カロス地方には、様々な妖精の言い伝えが残っており、その言い伝えの多くにフェアリータイプのポケモンが関わっております。
 もちろん、これはフェアリータイプという呼び名が先に出来たわけではなく、フェアリー――つまるところ、妖精の存在が先にあり、妖精の仕業と信じられていた行為の多くが『とあるタイプ』を持っていたことから、その『とあるタイプ』がフェアリータイプと呼ばれるようになったとされています。
 ただ、一口に妖精の仕業だとされていた者も、ふたを開けてみればフェアリータイプを持つポケモンの仕業ではなく、全く別のタイプを持ったポケモンであることも少なくなかったようです。

 例えば、レッドキャップと呼ばれる妖精。これは、非常に凶暴な性質を持つ妖精で、その名の通り赤い帽子をかぶり、長く縮れた髪、しわくちゃの顔、鉤爪の生えた手と言う姿で杖を携え、斧を武器に人間に襲い掛かるという化け物という姿がカロス地方の各地で伝わっております。
 人を襲う際は、どんなに距離が離れていても一瞬で距離を詰め、斧を振りかざして襲い掛かり、その血を浴びることを至福としているため、レッドキャップを見かけたら、相手に見つかる前に直ちにその場所を離れるのが良いとされています。

 この妖精のモデル。または正体と呼べるポケモンは、悪・鋼タイプ。バトルや育成にいそしむトレーナーの皆さんならば連想できると思われるそのポケモンは、コマタナと呼ばれるポケモンでした。
 コマタナや、その進化形であるキリキザンが出現する地域では、何処に行っても危険なポケモンとしてガイドブックに載る扱いを受けていることからもわかるように、コマタナはレッドキャップの伝承に恥じないだけの危険さを誇るポケモンです。
 このコマタナというポケモンは集団で暮らすポケモンで、狩りも集団で行うポケモンです。コマタナやキリキザンの狩りの仕方は、コマタナたちが獲物を追い詰め、とどめはそのリーダーであるキリキザンが刺すという方式なので、実際には伝承のように距離を一瞬で詰めるのではなく、別の個体のコマタナやキリキザンの不意打ちを後ろから食らったのを、同行者が勘違いしたのではないかと言われています。
 なんにせよ、一瞬で距離を詰める力がなくとも凶暴なことには変わりなく、今でも強力なポケモンを持っていなければ、コマタナを見た時点でその場を離れるのが得策です。

 ところで、レッドキャップは殺人が行われた廃墟や墓場などに出没するとされています。現在のカロス地方でもそれを裏付けるように、15番道路沿いに存在する、事故が起きて閉鎖を余儀なくされ荒れ果てたホテルに出没します。ですがこれも、死者の魂がどうとか、血の匂いが好きだからというような理由ではなく、コマタナたちが身を隠す場所が多い所を好むという本能に従った結果、墓場や廃墟だっただけであるというのが真相のようです。

フェアリータイプではなかった妖精 その2 


 フェアリータイプ。それは民間伝承に多く残されている『妖精の仕業』とされていた現象や事件の犯人の多くがこのタイプに属していたことから、名を与えられたタイプです。
 しかし、ドラゴンタイプだと思われていたポケモンがドラゴンでなかったり、草タイプだと思われていたポケモンがそうでなかったりというように、妖精タイプであると思われていたが、そうではなかったポケモンも数多くいます。
 今回は、そんな一例としてかつて『ノッカー』と呼ばれていたポケモンについて紹介しましょう。

 ノッカーと呼ばれたポケモンは、鉱床などに住む小さな妖精で、鉱夫達が穴を掘っているときに、彼らがコンコンと壁をノックして、良質な鉱脈のある場所を伝えていたとされています。このポケモンは、鉱物をたべる鉱食の食性を持つポケモンで、もちろん本来は自分が餌をとるために穴を掘っていたというわけです。
 しかし、人間がその鉱床に入ってくると、人間の目を盗んで穴を掘るしかなく、人間がツルハシを持ってきて穴を掘りだせば、彼らは一目散に退散してゆきました。要するに、親切心から教えているわけではなく、自分たちの生活のためにやっていたことが、人間に利用されていただけというわけです。しかし、自分たちの食糧が取られていくのを、そのポケモン達も黙ってみているわけにはいきません。彼らは、後手に回って相手の出方を伺う気弱なポケモンが多かったのですが、人間の介入によって新たな特性を得るに至りました。
 それが、『悪戯心』と呼ばれる珍しい特性です。これを発現出来る個体は稀でしたが、しかしもしも発現できれば、人間の収穫をただの石とすり替えたり、人間を妖しい光で惑わして、その間に仲間たちに盗ませるのも自由自在。ここまで聞けば、ポケモントレーナーの皆様は、もう種族は特定できたでしょうか? そのポケモンとはヤミラミです。

 カロス地方では主に映し身の洞窟にて発見されるこのポケモンは、洞窟の事なら人間よりもはるかに敏感であるため、落盤の危険があればいち早く寝ている仲間に伝えて避難したりもしました。その時立てる音も、激しくコンコンとノックする音。昔の人は、それが人間に危険を知らせてくれるノッカーの親切だと信じて疑わなかったのです。
 ヤミラミは時々、その姿を見せる時もありますが、ノッカーは私生活を覗かれるのを嫌っているので、姿を見ると鉱床が枯れると言いう言い伝えも残っています。ですがこれもヤミラミが餌場を移しただけの事。昔の人は自分に都合をよく考えていたのか、それともよほどヤミラミが人間に都合のよいポケモンだったのか。

 皆さんは、野生のヤミラミがコンコンと壁を叩いていても、邪魔しないであげましょう。彼らも生きるために必死なのです。あまり邪魔すると、もっと恐ろしい特性をひっさげかねませんよ。

 え、望むところですか?

フェアリータイプではなかった妖精 その3 


 フェアリータイプではなかった妖精とされたポケモンとして、もっとも有名なポケモンと言えばトゥーマンティンティンと呼ばれるポケモン"達"でしょうか。
 この『達』というのも、かつては一匹ないしは一種の妖精の仕業だと思われていた行為が、実は近年に複数種のポケモンの仕業によるものだとわかったことに由来します。
 この妖精の伝説があるのは、主にエイセツシティに隣接した20番道路周辺。通称迷いの森と呼ばれる場所で、その名の通り非常に迷いやすく危険な森とされています。さて、このトゥーマンティンティンと呼ばれる妖精はフェアリーサークルと呼ばれる、枯草などが円形に並んだものを指し、それを踏んでしまった木こりや狩人は、帰り道を忘れてしまい、方向感覚もおかしくなって森の中をさまよって永遠に出られなくなると言われています。
 この枯草の正体はオーロット。そして、森に訪れた人間を迷わせる者の正体は、ウソッキーやゾロアークではないかとされています。オーロットは根っこを神経代わりにして、周囲の木々を操るのですが、枯草もまた神経として機能するようで、それを踏まれることはとんでもなく不快な気分になるのだとか。

 そうして怒ったオーロットは、ウソッキーやゾロアークに『とおせんぼう』することを頼むのです。草・ゴーストタイプであるオーロットと、岩タイプのウソッキーは非常に優れた相性補完となっており、そのため彼らは共生関係にあり、ウソッキーは頼まれればオーロットのに従って人間を通せん坊して森から出られなくします。
 さらに、悪戯好きなゾロアークが悪乗りして、周囲の木々をまるで生き物のように動かしたりすることから、オーロットの存在が図鑑に載ってからも、長い間木々を操る能力を持つとされていました。実際にその能力がないことはないのですが、それが出来るのは枯草程度が精一杯で、とても木々で人間の行動を制限するほどの速度は到底ありません。そのため、今では20番道路の森で迷うのは、そこに生息するゾロアークとウソッキーの仕業とする説が主流となっています。

 ちなみにその呪いを解く方法ですが、一つはオーロットに誠心誠意謝ること。ですが、昔の人がオーロットの存在を知らなかった頃はこれまたフェアリータイプではなかった妖精として、パリゼットと呼ばれる妖精に頼むのが良いとされていました。この妖精は、昆虫の羽が生えた小さな女性のような姿をしたものとして伝えられ、人間には友好的で、特に容姿の良い人間にはより一層好意的になるとされています。
 その妖精の正体とは、パンプジン。このポケモンの得意技『ハロウィン』にかかれば人間であってもゴーストタイプを得る事が出来ます。そうなってしまえばウソッキーのとおせんぼうもなんのそので、木こりは森の外へと帰る事が出来ます。パンプジンは、上半身には実体がなく、本体である下半身から抜け出す事が出来るので、薄暗い森の中では前述の容姿に見間違えられたのかもしれません。
 ちなみに、顔が悪い木こりに対しては持ち物を見透かしてそれを要求することもあったようで、何も持っていないうえに顔の悪い木こりは見捨てられてしまったとか。

フェアリータイプではなかった妖精 その4 


 同じく20番道路には、これまたフェアリータイプではない妖精が住んでおります。この妖精は、モス・フォークと呼ばれ、女性のような姿をした妖精でキノコほどの大きさとされています。
 この妖精は織り機を用いて苔を布のように織っていると考えられていた妖精で、苔を作るだけでなく苔の服を纏っていると言われています。そのため、この妖精が移動しているときは苔そのものが移動しているように見えるとか。
 さて、この妖精は非常に恐ろしい存在で、こいつに気に入られると、森に連れ去られたまま森から出る事が出来なくなるどころか、出ようという気すら起きなくなるという恐ろしい生態を持っています。

 さて、この妖精の正体は、夜になると石などを操って星の配置を表したりなどしているポケモンで、森には苔の生えた石しかないために、苔が動いているように見えるとか。妖精の背丈がキノコほどの大きさしかないというのも、その幼体とタマゲタケのツーショットを見て勘違いしただけかもしれません。
 この妖精の恐ろしい所は星明りの夜に催眠術でポケモンや人を操ることで、眠ったまま住処へと連れ去られるという伝説でしょうか。そうして集めた子供たちはその妖精に操られて遊ばれてしまうのです。さて、この妖精に気に居られてしまったとしても、このポケモンの特性は通常は『お見通し』であるため、ポケモンが眠っているときなどは、普通の個体が相手ならば逃げ出すことも可能です。もちろん簡単にはいかないですし、捕まってしまえば往復ビンタなどのきついお仕置きが待っていますが、逃げること自体は一応可能です。
 しかし、このポケモンの特別な固体には『影踏み』の特性を持った個体もおり、その個体からは相手が眠っていようとも、問答無用で逃げだす事が出来ません。ポケモントレーナーの皆さんはすでに分かっている方も多いでしょう、この妖精の正体はゴチミルというポケモンです。もしもゴチミルの特性が影踏みであった場合は、オーロットの時と同じ対処法でパリゼット――つまるところ、パンプジンに頼んでゴーストタイプにしてもらうか、もしくはゴチミルを殺すしかないでしょう。

 昔話には、木こりの少年が魔女の姿をしたモス・フォーク。つまりゴチミルにさらわれた時、寝ているゴチミルの急所を親から貰ったナイフで突き刺して、上手く逃げ延びた子供がいます。もしもお見通しの特性を持ったゴチミルならば、そんな危険な物をそのまま持たせておくなんて真似はしませんが、影踏みの特性を持ったゴチミルには、まさか子供が寝る時も肌身離さずにナイフを持っているなどとは思いもよらなかったのでしょう。

箒の魔女の正体 

 魔女(広義には男性魔法使いも含む)と言えば、箒に乗って空を飛ぶ。
 名作ドラマの一つである、『奥方は魔女』という作品でも、そのオープニングにカートゥーンアニメ調で描かれたヒロインが空を飛んでいる映像が印象的で、魔法少年の半生を描いた大作映画でもそのイメージは根強く染みついています。そのほかにも、魔女の宅配便などと言った名作アニメに登場する魔女っ子も、魔女が箒に乗って空を飛ぶイメージを植え付けることに一役買ってくれています。
 そんなイメージの源流を遡ると、欧州の大陸を支配していた宗教にとって異教徒とされた女性たちの儀式が元となっています。
 古代欧州に栄えた帝国では、箒とは魔女の仕事の一つである産婆さん達のシンボルでした。女性達は子供が生まれると、家の入口を箒で掃くことで、悪霊が子供に害をなすことを防いだのです。その他にも、時代が移り変わっても箒は魔除けや男根信仰の象徴として使われ、時にそれは女性の自慰のためにも使われたと言われています。
 箒の柄に薬を塗りつけることで、行為の最中に空を飛ぶかのような浮遊感を得ることが、空を飛ぶというイメージにつながっているのです。

 ですが、空を飛ぶというイメージは、何もそういった人間の営みだけが形作ったイメージではないようです。中世には、魔女が実際に空を飛んでいたという目撃情報がそこかしこに上がっており、魔女裁判の尋問で得られたようなあまり信憑性のない証言もあれば、貴族や教会の僧侶たちが実際に目の当たりにしたという文献まで様々です。
 信憑性の高い文献では、魔女達が箒の先端を前方に向け、月の光を受けながら跳んでいたという記述が共通していることが特徴としてあげられます。これは、満月の夜は一部のエスパータイプの力が最も強まることが原因とされ、また先端を前に向ける理由は、その魔女の正体がテールナーやマフォクシーだったことに答えがあります。
 箒のように見えていたのは、テールナー達の尻尾であり、彼らは尻尾を股の間に挟むことで飛行姿勢をとるのです。尻尾の中ほどに木の枝を刺した姿が、月に照らされて箒に見えたのでしょう。どちらも、比較的人の姿に近いポケモンでしたから、魔女が飛んでいると思われていたのでしょう。
 そのため、魔女が空を飛ぶ際の姿勢は箒の先端を前方に向けるというのが正しく、上述したドラマやアニメの飛行方法は逆向きに飛んでいることになるわけですね。こうしたマフォクシーたちの尻尾の位置や形状は、後に男根信仰と関連付けられ、おそらく箒を使った疑似性行も、マフォクシーの飛行姿勢のイメージが先行しているのでしょう。
 今では空を飛ぶマフォクシーを見かけることはありませんが、それは彼らが退化してしまったのか、それとも今もまだ人里離れた山奥で人知れず飛び回っているのか? 月夜の晩に空を飛ぶ練習させてみれば、意外に空を飛ぶ技を覚えてくれるかもしれませんよ。


ポケモンと黒死病の関わり:魔女が去って病魔が残る 


 中世カロスの後半。あまりにも教会の横暴が過ぎたために、カトリック教会の信仰から離れ、新たな宗派を立ち上げたいわゆるプロテスタントと呼ばれる存在がにぎわった。
 それを受けて、自信の権力が危ぶまれると踏んだ当時のカトリック教皇は、プロテスタントを『悪魔と手を組んだ存在だ』として、魔女狩りの名目でプロテスタント狩りを布告しました。魔女狩りの名目で標的にされてはかなわないため、プロテスタント教会の者達も『魔女狩りをする私達は魔女ではない』と言い張るために、魔女狩りを始めてしまいました。
 それまで、魔女というのは医者や産婆であり、占い師や人生相談であり、祈祷師である、いわゆる不思議な力を使って幸せの手助けをする存在というイメージが強かったのですが、その魔女狩りの宣言に伴いイメージは一変する。
 魔女は動物、とくに猫や狐などに変身して空を飛び回り、山や森などの人里離れた場所や、墓場や絞首台などの死と関連付けられた場所に集まり集会を開く。インキュバス(大抵は雄のダークライを指す)と交わり、人の子供をさらっては喰う。などというイメージに書き換えられ平穏に生きていた医者や祈祷師はもちろん、少しでも変わった行動をしていれば一般人でも殺され、時には個人的な逆恨みや嫉妬で魔女に仕立てられた者もいます。魔女裁判にて有罪を受けた者の財産はすべて没収されるため、財産目当ての告発を行う役人まで存在しました。

 その煽りを喰ったのが、マフォクシーやニャオニクスといったポケモンでした。彼らは、魔女の手先、もしくは魔女そのものとされて、それらを飼っている者もまた魔女として処刑されたほか、ポケモンそのものも駆除の対象になりました。
 人里近くに住んでいた個体や、飼われていた個体はその進化前も含めて駆除されてしまったのです。マフォクシーについては、人に飼われることはごくまれであったために被害は軽微であったと言えるでしょうが、都市部に住んでいたニャオニクスは、多くが犠牲になりました。

 さて、その結果起こったことはなんでしょうか? 魔女の手先がいなくなったために、街は平和に――なるなんてことはもちろんありません。ニャオニクスがいなくなった結果、彼らが狩るネズミが増え、ネズミが媒介するノミが増え、ノミが媒介するペスト(黒死病)が増えてしまったのです。
 この恐ろしい病、ペストはニャオニクスにも感染しますが、彼らにはペストへの耐性があるため感染しても発症はせず、人間にペストを媒介することもありません。つまり、ニャオニクスはペストからの守り神であったのです。ペルシアンやブニャットなど他の多種多様な猫系統のポケモンにも同様の事が言え、それらを多く飼っていたインドなどの地域ではペストの被害は抑えられていました。
 魔女の手先を殺したつもりが病魔を蔓延させてしまう。笑い話のようで笑えない、皮肉なお話ですね。

鎮魂歌と導き 



 カロス地方にはかつて、絞首刑によって死亡した死刑囚から漏れ出した精液が零れ落ちた場所には、マンドレイク(マンドラゴラ)と呼ばれる植物が生えるという伝説がまことしやかに囁かれていました。
 このマンドレイク、不老不死や媚薬などの効果がある魔法の植物であると言われ、引っこ抜いた際にはおぞましい叫び声をあげて周囲にいる者を殺してしまうために、犬に引き抜かせた(ここではトリミアンの事)という伝説が残る植物です。実際に、処刑があった次の日に膝の高さはあろうかという植物の芽が突然伸びてきたという事例は数多く残されており、この植物の存在は不吉なものだとして恐れられ、時に燃やされるなどして駆除されていました。

 その植物の正体は、パンプジンと呼ばれるポケモンであったという説が今現在では有力です。その根拠とされているのは、パンプジンは髪のような腕で獲物を絞め殺しながら歌を歌う生態が確認されていることから、首を絞めるという行為そのものに、この種が惹かれる性質があるのではないだろうかと推測されています。
 歌を歌うという行為にも、自ら獲物の首を絞めて殺す必要はないようで、例えば蛇系のポケモンが獲物を絞め殺した現場にも現れ、その場所で歌う習性があるそうです。被害者が女性であろうと関係なく現れる事や、火あぶりの刑の後にも歌っている姿が発見された事例があることからも、絞首台の近くや精液の滴った場所という伝承とは関係はないというのが現在における見解です。

 この、歌うという行動の意味するところは諸説あり、現在有力な説は、進化前であるバケッチャに魂を譲り渡すためであるという説です。
 パンプジンの進化前のバケッチャは、カロス地方においては成仏できずにさまよう魂を体の中に入れて導いてあげる冥府への案内人であるという民間信仰が各地に残っており、実際にバケッチャに取り込まれた幽霊がバケッチャの中で消滅したという観測結果も存在します。
 楽しそうに歌っているように見えるのも、楽しそうな場所に魂が引き寄せられるからそうしているだけで、キルリアの協力による観測の結果では本当は悲しんでいるといった資料もあり、残忍な性質だと恐れられるパンプジンが実は慈悲深いポケモンではないかとする報告も現われています。自ら殺す際にも歌を歌うのは、生きる糧を得るために獲物を殺さなければいけない状況に涙しているためで、パンプジンにとっての鎮魂歌だとされています。

 もし、それらの観測結果や仮定が事実であるならば、処刑場に芽吹いたマンドレイクの芽は、魂の導き手であるという事になります。むやみに恐れたり駆除するよりも、無残に死んでいった犠牲者を送ってもらえたことに感謝するべきであったのかもしれません。

処刑台に寄り添う不吉 


 中世カロスにおける魔女狩り。これは、悪魔と契約して魔女の力を手に入れた異端者を排除するという建前のために行われたもので、教会同士の対立と、それによって生じる権力の揺らぎへの対抗策として行われた行為です。
 魔女裁判は密告が奨励され、隣人同士があらゆる行動に目を光らせ、疑惑の目で見られました。教会への礼拝が少ない、逆に熱心すぎる、医者や産婆が医療行為に失敗したりといった行為が疑わしいとされたり。あまつさえ、魔女裁判を批判すれば、お前が魔女だから批判するのだろうと疑われ、商売が成功すれば悪魔との契約だと言われて。魔女であることを疑われます。
 そうして魔女と認定された者達は牢獄へと収監され、ました。この時点で彼らの運命は決まったと言ってもよく、これより先の処刑に必要なのは彼らの自白か、もしくは彼らが悪魔であるという確固たる証拠のみ。
 しかし、その証拠というのは、処女膜の有無であったり、水中に投げ込んで浮かべば魔女、浮かばなければ人間というものだったり(大抵の人間は浮かび、沈んだとしても息が続かない程長い時間沈んでなくてはならないため、どちらにしても死ぬ)と、ねつ造し放題であり、また迷信に基づいたいい加減なもの。
 それらの証拠を出されても魔女であることを認めなければ、拷問によって強制的に自白を引きずり出すというものでした。それで自白を引き出しても、共犯の魔女がいるのではないかと問い詰められ、拷問は終わらないのです。そうして、何人もの無実の人々が犠牲になってゆきました。

 そんな時代には、それなりのモノが集まる定めなのでしょうか。憎しみを蓄えて死んでいった魂を貪るように、処刑台に、犠牲者の家に。怨みを食べて生きるカゲボウズと呼ばれるポケモンが、数え切れないほど集まっては不吉な陰としてささやかれていました。時には、処刑された者を密告した者が、あまりに異様な光景に恐怖で発狂しては、狂人の疑いがかけられ新たな犠牲者になるという何とも因果応報な結果になったという話もありました。
 不吉な存在はそれだけではありません。処刑(特に絞首刑)が行われ日の夜には、どこからかパンプジンが引き寄せられて、処刑台の近くの土に植わっているのです。突然あられた植物の芽のようなパンプジンの上半身を見て、引き抜けば叫び声をあげてそれを聞いた者を殺すという伝説のあるマンドレイクだと恐れて近寄りたがらなかったそうです。
 それらを躍起になって排除した聖職者もいたのですが、それらのポケモンは憎しみを浄化したり、さまよえる魂を導いたりという役割を担っています。排除すれば、周囲に憎しみや浮かばれない魂といった穢れがくすぶって、それらに影響を受けた人の心は荒み、病んでしまうのです。魔女狩りが長い時代続いた理由は、それらのポケモンを排除しようと躍起になったことも原因なのではないでしょうか?

狩猟犬という過去 


 今現在、カロス地方で多く親しまれ、街中で見かけることの出来るトリミアンというポケモンは、かつてはカモネギ猟のお供として飼われていたポケモンでした。猟と言っても、それは日々の生活の糧を得るための狩りとは少々経路が異なり、貴族や王族達が趣味や弓の練習という名目として行う一種のスポーツという感覚で行われた狩りのお供としての役割が一般的です。
 なぜ、このトリミアンがそういった役割についたかと言えば、その知能の高さによるものでしょう。人間に忠実な犬系統のポケモンの中でも特に賢いとされるこのポケモンは人間の命令をよく理解するし、命令の呑み込みも早かったのです。その知能の高さのおかげもあって、第二次世界大戦が起きた時には救助犬としての活躍もはたしています。
 また、彼らはとても泳ぎが上手く、どう見ても陸上に生きる見た目ではありながら、犬かきでもって危なげなくすいすいと泳いでゆきますし、仕込めば波乗り覚えることも出来るため、群れた外敵を追い払うことも可能です。
 そのため、獲物を殺しても水に濡れるのを嫌った貴族たちには、都合のよい存在だったのでしょう。戦利品を水に濡れることなく得る事が出来るトリミアン達を重宝したのです。

 また、戦利品を持ち帰る役割を受け持つトリミアン達には、その仕事を円満に行うために独特のカットが施されました。水の抵抗をなるべく抑え、なおかつ心臓などの大事な部分は保温できるように。そのような目的で始められたのが、トリミアンの体毛をカットする本来の目的です。
 しかしながら、年月が経つにつれトリミアンの美しさに目を惹かれた上流階級の貴婦人たちの間では、次第に愛玩目的のトリミアンも増えてゆきました。それが高じた結果、カットやトリミングの美しさが競われるようになり、時には毛染めなんかも交えて自分なりの美しさを追求していったのです。
 今となっては異国文化の化粧なども参考にしたカットなども普及し、数々の淘汰の中で生き残ったカットスタイルは、全く刈らない姿も含めて9種類が基本形となっています。美しさのためにカットするのがポリシーのトレーナーもいれば、全く刈らないほうが可愛いというトレーナーも根強く存在します。中には、夏は毛を刈って、冬は生えるがままに任せるのが一番だとするトレーナーもいて、それが一番トリミアンが喜ぶのだとか。
 しかし、カットはトリミアンを玩具にしていると非難するトレーナーもいて、トリミアンのカットやカラーリングには賛否両論あるようです。愛するトリミアンのためにも、トリミアンが嫌がらないように節度を持ってカッティングとトリミングをしてあげたいものですね。

王の剣 


 王剣ポケモンのギルガルド。このポケモンに王の素質を認められ、従える者はやがて王になると言われていました。歴代の王はギルガルドを連れ、もしくは背負い、傍らにトリミアンを置くという立ち姿で自らの権力を誇示しておりました。カロス地方に残るさまざまな美術品に、これを示すような作品がいくつも現存しております。
 そんなギルガルドですが、彼らの忠誠心は非常に高く、いかなることがあっても主の元を離れずに付き従い、戦を勝利に導いたという、いかにも高潔な記述が一般的ですが、それらのギルガルドはむしろあまりすぐれた個体ではなかったとか。そういった者達に仕えるギルガルドは、むしろより多くの血を吸うために王たちを戦いに駆り出させ、民を疲弊されたと言われています。
 しかし、このギルガルドの所有者の中でも、もっとも偉大な存在である円卓の騎士の王に仕えた個体とされるギルガルドは、むしろ自由奔放に主を代えることが往々にしてあったそうです。ギルガルドが王の素質を見極めると言っても、選んだ人物はまだまだ種の段階。育てなければ芽吹くことはありません。そのために、ギルガルドは霊力で人やポケモンの心を操ることで、自主的に誰かに盗まれ、王の素質を見出された者と戦わせるのです。
 王となるものは盗んだ相手と戦ってギルガルドを取り戻さねばならず、強大な力を相手に何度も戦い、試練に生き残った者のみが晴れて王となれるのです。そして逆に、盗んだ者は自らが王の器に値しないことを証明し、命絶えてゆくのでした。

 ギルガルドは、時に剣として敵を両断し、敵を打ち抜く矢になりました。その重さと鋭さは、人間が死体を振るうだけでも相当な威力ですが、それに加えてギルガルド自身の力も加わるために、使いこなせばいかなる人間より、いかなるポケモンよりも強大な戦闘力を持つのです。
 また、ギルガルドはそれを納める鞘であり、身を守るための盾である部分にも強い魔力が秘められており、その盾を身に着けている者はいかなる傷を負うこともなくなります。キングシールドと呼ばれる技がそれに当たり、その技は敵の攻撃をすべてはじき返し、その刃を折り取り、抵抗する力を奪う技です。
 円卓の騎士の王を見守った魔術師は、ギルガルドの攻撃力よりも、この盾の力を高く評価するように王へ助言しておりました。それは王国が侵略的であってはならず、剣を振るうのはあくまで防衛目的であることが望ましいという王へのメッセージなのだそうです。


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  • 「度重なる殺し合いの後“。”よほど他と実力」「一口に妖精の仕業だとされていた“者”も」「コマタナ“たち”が獲物を追い詰め、とどめは」「コマタナ“たち”が身を隠す場所が多い所を好む」「自分“たち”の生活のためにやっていたことが、人間に利用されていただけというわけです。しかし、自分“たち”の食糧が取られていくのを」「その間に仲間“たち”に盗ませるのも自由自在」「そうして集めた子供“たち”はその妖精に操られて」「異教徒とされた女性“たち”の儀式が元となっています」「貴族や教会の僧侶“たち”が実際に目の当たりにした」「こうしたマフォクシー“たち”の尻尾の位置」「しかし、このポケモンの特別な“固”体には」「自“信”の権力が危ぶまれると踏んだ」「魔女と認定された者達は牢獄へと収監され“、”ました」「突然あら<わ>れた植物の芽のようなパンプジン」「水に濡れるのを嫌った貴族“たち”には」「上流階級の貴婦人“たち”の間では」「むしろより多くの血を吸うために王“たち”を戦いに駆り出させ」「人間が“死体”を振るうだけでも相当な威力」
    間違いや変換忘れなどがありました。それと「蠱毒」の話ではタイトル以降「蟲(皿がない)毒」と表記されていますが表現でしょうか。

    生活に根差した興味深い読み物でした。流石です。ポケモン達を上手く練り込んだこのお話は、読んでいて楽しいです。そういう考え方があるのかーと本当に感心してしまいます。設定を知り尽くしているからこそ出来た素晴らしい作品だと思いました。
    いろんなところでネタが散りばめられているあたりにもリングさんらしさを感じます。

    応援しています執筆頑張ってください。
    ――ナナシ ? 2014-08-06 (水) 20:10:07

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Last-modified: 2014-08-04 (月) 21:08:49
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