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ポケモンを護る者

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writter is 双牙連刃

 何時かの時の果て、触れた優しさの先に芽吹いたものは、罪深き者を裁くか、それとも……。



 現在俺は何故かジーっと、瞬きもせずにただジーっとカランに目を見られてる。ったく、なんで俺がこんな事に付き合ってやらんとならんのだ。

「……駄目だー! ライト君が何考えてるかさっぱり分かんない。コロナならこれで隠し事とか、少なくとも何か隠してるとかは分かるんだけどなぁ」
「満足したかい? ってか、そんなので分かる事なんてせいぜい目が泳いでるとかそんなんだろ?」
「昔から目は口ほどに物を言うって言うでしょ? 心を開かないポケモンにはこれが一番効果があるし、打ち解けられないかなと思ったんだけど」
「それの根底の段階として、俺がそういう裏側を理解してるってのがネックだな」
「え? ……そ、そうか、仕組みを知ってるって事は」
「それに合わせた嘘の吐き方も理解してるってこったな。ま、ご苦労さん」

 あらら、頭抱えちまった。ま、あの手この手で俺の気を引こうとしてるのは分かるが、その程度じゃあなびいてやらんよ、俺って奴はな。
 ま、なんでこんな風にカランに付き合ってやってるかと言うと、ハヤトの奴が学校で開催してるっつうバトルキャンプなるもんに行っちまったからなんだがな。それに合わせて、いつものこの家のメンバーもそっちに行ってるって訳だ。残ったのは俺とリィ、それに家事役のレンと、まぁいつものメンバーなんだが、それにカラン達が居るとなると、どうやっても暇潰しには付き合わされるわな。

「はぁ……ねぇライト君、一緒にレンジャーの仕事してみない? 少なくとも、退屈はさせないよ」
「それはちっとは魅力的だが、今のところこっちを気に入ってるんでね」
「そっかー。色々話を聞いてリィちゃんの事は諦めたけど、ライト君の事はあわよくば、とも思ってるんだけどね」
「やれやれ、ブイズ好きもそこまで来れば筋金入りだな」
「ん? んー、まぁ好きなのもあるけど、ちょっとサンダースには違う気になる事もあってね」

 サンダースに気になる事? 何か気になって聞いてみたが、それはちょっとねーって言われてはぐらかされた。なんだろな?
 諦めて、ばふっとソファーに身を預けたカランの傍で俺は丸くなる。本来なら俺がソファーでだらつきたいんだが、まぁ珍しい里帰りをしてきたカランに今は譲ってやるとするさ。

「……夏休みももうすぐ終わりかぁ」
「もうすぐったってあと10日は残ってるんだろ? あー、けど戻る事も考えんとならんのか。しかし寮に入ってレンジャーの勉強ねぇ……ご苦労なこったな」
「やりたいって言って私が無理矢理入学したんだけどね。けど、帰ってきて私よりレンジャーに詳しいポケモンが居るって知って、井の中の蛙だったんだなぁと思い知らされちゃった。これでも将来有望のエース、なんて呼ばれてるんだけどね」
「そいつはすげぇ。ま、出世して立派なレンジャーとやらになってくれや」
「立派なレンジャー、か。……ねぇ、ライト君から見て、立派なレンジャーってどんな人?」

 おっと、妙な質問をされちまったな。立派なレンジャーねぇ……俺の中でマシなレンジャーを探すと、あいつの顔が思い出されるんだよな。真っ直ぐで、ちょっととぼけたところもあるあいつ、いや……あいつ等、か。

「そうさなぁ……ポケモンを助ける事に熱心で、馬鹿をやっても付いて来てくれるポケモンが居るような奴、かね」
「馬鹿をやっても付いて来てくれる?」
「そいつが単なる馬鹿だとしたら、ポケモンだって愛想尽かして離れてく。馬鹿でも、熱心で真っ直ぐな馬鹿なら、呆れながら手を貸したいと思いたい奴も居るだろさ。そういう馬鹿なら、ポケモンとレンジャー……人を繋ぐ絆って奴を示せるかもしれんしな」

 何時かに出会ったあいつみたいに、な。

「ふぅん……それが、ライト君の理想のレンジャー?」
「そんなとこ。レンジャーってなポケモンを守るなんて事を大義名分にしてんだ、ポケモンに愛想尽かされるような奴じゃ名折れさね」
「ご尤も。私も気を付けないとなぁ。リィちゃんやライト君に身を持って教えられちゃったし」

 何事も力圧しじゃ上手く行かないし、ポケモンだって千差万別なもんさ。それをカランも理解したんなら、これから更に良くなっていくだろう。俺やリィ程の堅物はそう居ないだろうし、今までカランの従来の方法でエリートって呼ばれてたんなら、ポケモンに好かれる才みたいなもんはあるんだろうしな。

「なんて言うか……ポケモンに窘められるカランなんて構図を目の当たりにする、なんて事が起こるなんてね」
「な、何よコロナ。私だって思う所がある事言われれば素直に聞くってば」
「いつもは何言ってもなんとかなるで押し通るカランがねぇ?」
「なんとかならない事象を目の当たりにしての心変わりってなとこかね。ま、良い兆候なんでねぇの?」

 力圧しでなんとかならない事なんざ、生きてりゃ幾らでもある。ままならん時に効いて来るのは柔軟な思考、そして思考について来れる行動力だ。有り余るくらいの行動力を有効に使う思考が備わる切っ掛けが出来たんだ。俺とリィを怒らせたのも無駄にはならなかったんでねぇの?

「それにしても、カランが何してもさらっと躱す君って本当に何物なの?」
「言った筈だぜ? 俺はしがないただのサンダース。それ以上でも以下でもねぇさ」
「……ただのしがないサンダース、か」

 あら、カランの奴なんか神妙な顔つきになったな。俺今変な事言ったかね? いつも言ってる事しか言ってない筈なんだがな?

「ちょっとフロストちゃんやレオ君に聞いたんだけどさ。ライト君って、ここに来る前は野生のポケモンだったんだよね」
「ん、まぁな。けど、そんなの大して珍しい事でもねぇだろさ?」
「他のポケモンなら、ね。……率直に聞くね。ライト君、君はどうやってサンダースに進化したの?」

 おっと、なかなか答え難い質問が来たな。けどまぁ、野生のイーブイが進化出来るものって言ったらエーフィかブラッキー、条件が揃えばリーフィアやグレイシアも候補にゃなる。けど特定のアイテムが必要になるシャワーズ、ブースター、そしてサンダースに進化出来るのは極めて稀だって言える。野生なら、な。

「なぁに、特に捻りも無く偶然雷の石に触れちまったんよ。何になりたいなんて願望も無かったし、今はこの素早さも重宝してるぜ」

 ははっ、俺の発言の真贋付かずって顔をカランもコロナもしてるな。当然嘘なんだが、それを覚るのは自分で言うのもあれだが難しいと思うがな。
 しばらく唸ってたようだが、どうやら諦めたらしい。両手を上げてヒラヒラさせてら。

「降参。ひょっとして何処かトレーナーの所から逃げ出したポケモンじゃ、なんて思ってたんだけど……その分だと、そういうの聞いても教えてくれそうにないわね」
「考え過ぎさね。俺は大したもんじゃねぇよ」
「シノビを圧倒した時点で、俺から見たらとんでもない奴なんだけどなぁ」

 ふむ、やっぱりあの時はサービスし過ぎたかね? どうやらそれがカランとコロナの引っ掛かりになっちまってるようだ。まぁ、俺は普通とは縁遠い存在なのは間違い無いからな。
 ヒラヒラさせてた手を頭の上で組んで、カランは一つ伸びをした。昼飯にはまだ早いし、テレビの番組も興味を引くようなもんも無い。庭ではリィやカランの手持ち達が自主鍛錬に励んでるし、それの冷やかしでもすっかなぁ。

「そうだ。ライト君暇でしょ? よかったら散歩、付き合わない?」
「散歩? また急だな。まぁ、構わんけど」
「決まりね。コロナはどうする? あ、シノビは連れて行こうかな」
「んー……折角だし、ついて行こうかな」

 ふむ、どうやら行くのは俺とカランとコロナ、それに今カランが呼んでるシノビで決まりだな。……なんでまたシノビを呼んだかな? まさか、な。
 とりあえずついて行ってみっか。と玄関の方に向かおうとしたら、洗濯をしてたレンが丁度脱衣所から出て来た。軽く声だけは掛けとくべきだな。

「あ、ライト。それに皆も。何処か行くの?」
「ちょいと散歩にな」
「そろそろスクールに帰るつもりだし、たまにはアキヨをゆっくり眺めてから帰ろうかなと思ってねー」

 ん、レンがカランを見て首を傾げてるな。波導を常時感じられるレンが何か疑問に持つって事は、カランの波導になんか動きがあったんかな?
 視線から少し気を付けてって感じを受けたがまぁ、なんとかなるだろ。そんなら折角のお誘いを受けた事だし、鬼か蛇が出るか知らんが行ってみるかね。
 頭に手を組んだまま、少し上の空で歩いて行くカランの後を追ってゆっくり目に歩いていく。なんで呼ばれたか分かってないシノビが少々不満そうだが、なんか思う事があって連れ出したんならその内口を開くだろうさ。

「……危険度トリプルS、って言ったらライト君、なんの事だか分かる?」

 おっと切り出してきたか。で、また割とストレートに仕掛けてきたなぁ。さて、どう答えるか……。

「さぁてな……危険度ってなぁ確か、レンジャーが定めてる野良で悪さをしてるポケモンがどんだけ危ないかの物差し、だったかね?」
「正解正解。公にされてる危険度、ランクはSまで。Sだってかなり危険なポケモンで、一般のレンジャーなら複数人居ない場合は応援を絶対に呼んで対処する事になってるんだけどね」

 カランは口を開いてるんだが、コロナはちょいと敵意を発しながら俺を見てるな。なるほど、どうやらこいつ等……知ってるみたいだな。

「ランクS、放置しておけば人やポケモンに害を成す可能性が高いポケモンに付けられるランク、だったかね」
「そ。けど、レンジャーでもほんの一部の、エース級のレンジャー達にだけ開示されてるランクが二つ、その上にあるって言ったら……ライト君は信じる?」

 シノビが何か言おうとカランに手を伸ばす。が、それを俺は制止した。どうやら、その時が来たらしい。いつもなら有無を言う前に片付けてその場を離れるんだが……俺にもここを離れたくない理由が、離れたくない奴が出来ちまったからな。ちょいと腹を括るかね。

「クラスダブルS、放置しておけばどんな被害をもたらすか分からない程の危険度があるとされてるポケモン達……と言っても、今は登録されたポケモン達は凄腕のレンジャー達が優先して捕らえるようにしてて、長くそのランクに居るポケモンって居ないんだけどね」
「ほぉ、レンジャーもなかなか優秀だねぇ」
「シノビも元はダブルSだもんね」
「!? 知っていたのか?!」
「……ま、将来の有望株って言われてるだけあってね、特別って事で一度触れる程度で教えてもらったの。正直、私にはまだどうこう出来る問題でもポケモンでもないって思ってたんだけどねー」
「ポケモンでこの事を知ってるのは俺だけ。シノビもカランがその辺りを知ってるのは知らなかったでしょ」
「む、ぅ」
「で? それと俺を連れ出した事はどう繋がってくるんかね?」

 俺がそう前振りしてやると、カランは足を止めた。流石に街中でおっぱじめる事は無いと踏んでるが、果たしてどういう反応が返ってくるかね。
 クルリとこっちを向いたカランの顔は、本気の仕事をする奴の顔だな。

「単刀直入に聞きます。君は……ううん、貴方はトリプルSランク、二大災禍の内の一匹……カーネイジ、ね?」
「さてな。どう呼ばれてるかまでは知らんが、どうやらその二大災禍って奴なのはシノビが教えてくれたから、そうなんだろうさ」

 うわ、シノビが真っ青になって滝みてぇに冷や汗流してら。心配しなくたって、ここでドンパチするつもりはねぇよ。少なくとも俺はな。
 俺の名乗りを聞いて、コロナが臨戦状態になった。口から炎が細く燃え出てる辺り、リィなんかに見せたバトル用じゃない、仕事用の力で仕掛けてこようって腹積もりかね。ま、それでもあんま変わらんがね。

「はぁ……なんと言うか、予感って言うのかしらね? 貴方のバトルの実力を肌で感じて、そこらには絶対に居ないポケモンだと思ったけど、まさかとはね……」
「どうする? 挑んでみるかい?」

 今にも飛び掛かってきそうなコロナが俺に襲い掛かって……来なかった。どころか、ひょいとカランがコロナを持ち上げて頭を撫でてやってる。あらら、拍子抜けしてぽかんとしちまったぜ。

「残念だけど、シノビが手も足も出せない時点で私に勝ち目は無いし、キャプチャも出来ないのはレポート読ませてもらって知ってるから止めとくわ」
「おろ……俺ぁてっきりレンジャー権限を行使するーって始めるかと思ったんだがな?」
「私がスクール生じゃなかったらそれもカッコ良くていいかもだけどねー。けど、今は現職のレンジャーかスクールの先生が随伴してくれてる時じゃないと出来ないのよねー」

 ほぅ、こりゃ本当に俺の野良での姿を知ってるみたいだな。自分で仕掛けないって事は他のレンジャーを呼んで奇襲かとも思ったが、それもそんなの呼んでないってカランの一言で終わった。なら呼び出してまでして何がしたいんだ?

「なんか読めねぇな……何が目的で俺を呼び出してネタ晴らしまでしたんだいお嬢さん?」
「ずばり、本物だったらちょっとインタビューさせてもらいたいなーと思ってたの。あ、それと名乗る時にしがないサンダースって言うの、変えた方がいいと思うよ? あれ、レンジャーのレポートで高確率でそう名乗るって調べ上げられてたから」
「マジでか」
「うん」

 口癖みたいにそう名乗ってきたからなぁ……気を付けよ。
 んでインタビューね? んなの俺なんかにして何が聞きたいんだかなぁ?

「とりあえず正体については認めてくれたし、なんか飲みながら話そっか。自販機なら……公園が一番近いかな」
「いや……いいのか? 自分で言うのもあれだが、俺を捕らえられればナンバーワンレンジャーって呼ばれるのも夢じゃないと思うが?」
「だぁってライト君、捕まる気なんて無いでしょ? それに、今までの兄さんと一緒の皆の様子を見てるとさ、ライト君を捕まえたり逃がすような真似したら一生償っても償い切れない事になりそうだしね」

 こいつの兄貴もそうだが、不意にこの超直感みたいのを発動させるのは血筋なんかね? いやまぁ、そう言ってくれるのは有難いんだが。
 ここで逆らうのは得策とは言えんし、一先ずは後に続いて公園だ。俺とカラン以外はどっちも別方向で納得行かなそうな顔はしてるがな。
 公園に着くと、そこにはレンジャーの御一行様がお待ちかね、なんて本当に無いんだな。まぁ、あってもらっても困るんだがな。

「コロナはー、ミルクココアでいいよね?」
「うっ、いやそうだけどライト君……いや、さん? の前でいきなり俺の子供みたいな好みバラさないでほしいな」
「いいじゃねぇか、俺も好きだぜココア。それと呼び方はどっちでもいいぜ? 別に年がそう離れてる訳でも無さそうだし」
「……え、えぇ!? そうなの!?」

 シノビも目ぇ引ん剥いて驚いてるが、体つきや声色なんかから大体の歳は分かるもんだろ。……自分でも、俺は精神的に老け込み過ぎてるって自覚はあるがな。

「い、いやだが確かに、物腰や言動に目が行って気付かなかったが、ライト殿……かなりお若いのでは?」
「かなりって程じゃないが、多分レオやフロストより下だぞ俺? 聞かれないから言わないが、レンと同い年なのは聞いた」
「でぇぇ!? だ、だってライト君、確かもう十数年は捕まってないって!」
「そりゃあな。そもそも野良になったのが生まれてから……三年ってとこか? そっから大体さっき行った通りの年数経ったとしてだ」
「そ、その計算ならレンさんと同い年くらいでも分かる……ビックリし過ぎて頭の整理が追い付かないけど」

 ま、師匠と一緒に一年ちょい過ごしてたから微妙にズレはあるだろうが、微々たるもんだから気にしなくていいだろ。
 しかしそんなに驚くような情報かねぇ? なーんて、俺も聞かれたら面倒な事になりそうだから意図的に隠してたんだがな。しかし、俺ってばそんなに老け込んでるように見えるかねぇ? レンには波導の流れ方で若いってのはバレてたみたいだがな。

「そ、それにしても……いやよーく見たら確かに俺とそんなに変わらなそうだけど、けど傍に居てどうしても歳が近いなんて感じない……」
「恐らく、ライト殿が纏う覇気がそうさせるのだろう。極めて抑えてはいるが、少しでも気配を感じられる者ならば、ライト殿を否応無く絶対なる強者と認識してしまう。それがライト殿の年齢をぼかしてしまうのだろう」
「え、そうなの?」
「……その鈍いくらいの感覚は結構大事かもしれねぇな。どんな相手にも物怖じしないでいられるって点ではな」

 そういや初日のバトルでも開放状態のリィの気配に気付かなかったもんなぁ。まぁ、こればっかりは経験と色んな奴と相対する事で培われるもんだからして、伸び方に個人差が大きく出るもんだからしゃあないわな。カランの場合、ポケモン相手に押してダメなら更に押せってスタンスだったのもあって、気配なんて無視してたようだしな。
 とりあえず俺の年齢談義は切り上げて、皆で飲み物飲んで一息だ。そもそも本命のインタビューとやらはこれからが本番なんだしな。

「それで、俺に一体何を聞きたいんだい?」
「そうねぇ……まずはある人の事を覚えてるか、かな。ねぇライト君、アルフって名前に聞き覚えはある?」

 まさか、ここでその名を聞く事になるとはな。俺が唯一信頼して、PRLの真実を暴き出す鍵を託したレンジャー……一度、もしもう一度出会えたなら、礼を言いたいと思ってたんだ。その鍵がきちんと真実を暴き出したからこそ、俺はPRLを壊滅に追い込めた。俺がPRLの本部を襲撃しても、その実態が露見しなきゃ完全壊滅は出来なかっただろうからな。

「あぁ、あるさ。俺が唯一信頼したレンジャーだからな」
「……驚いたな。数え切れないくらいレンジャーを倒した君が信頼した、なんて言うなんて」
「しゃあねぇっしょ? 俺がレンジャーに本格的に追われ続けてた時は捕まる訳にもいかなかったしよ」
「ポケモンリサーチラボラトリーを襲撃してた時ね? あれ、結局本部までライト君が襲撃して壊滅させちゃったのよね?」
「まぁ、そうなるな」
「って事は、PRLが生み出そうとしてた、兵器として改造されたポケモンを倒したのもライト君って事?」
「アームド計画のポケモン達の事な。量産体制が確立する前の雛型、アーキタイプって呼ばれてた10体ならって事にゃなるがね」

 ポケモンの兵器化の極致とも言える、なんて大そうな触れ合いがされた計画だったからよく覚えてる。ま、やってた事は各所で研究されてたポケモンの改造や洗脳強化にいいとこで折り合い付けながら詰め込んで、人間に絶対逆らわず任務を忠実に遂行するっつーポケモンを生み出して、それを量産して軍隊を作ろうってとんでも計画だったんだけどな。
 で、アーキタイプの10体ってのはそれぞれ任務って奴に特化させて能力を弄られたポケモン達で、ポケモンの限界を超えた力をそれぞれに与えられた奴等だったのさ。力が異常に強い、目で追えない程素早さが高いなんてのは当たり前、それが連携してお互いをフォローしながら俺一匹を始末しようとしてくる。考えただけでげんなりするだろ? 俺も流石に無傷とは言えず、勝った時は全身傷だらけの血だらけだった。生きてたのが不思議なくらいだ。俺ってば思った以上に丈夫なもんだと思ったもんさ。

「ら、ライト殿がそこまでの重傷を? それほどだったのですか?」
「まぁ、間違い無く他のポケモンが手を出せばあっという間に何も言わなくなるだろうよ。それが量産されて軍隊になってみろ? 取り返しのつかない事になってたろうさ」
「君が傷だらけどころか血だらけになってやっと勝ったって……う、うわ、想像しちゃった……」
「も、もしそれをレンジャーで対応してたら……」
「昨今でエースって呼ばれてるレンジャーが半分以上行方不明になって、下手を打てばレンジャーって組織が無くなってたかもな」

 そしてそのままPRLは完成させた軍隊を率いて世間を斡旋、ってな。奴等の最終作戦って奴はどうも自分達の研究成果を世に知らしめて服従させようってもんだったみたいだからな、その用意が出来る前に潰せたのは僥倖だったろうよ。

「はぁ……君が正規のレンジャーのポケモンなら、指名手配どころか英雄って呼ばれてただろうにね。そりゃあPRLの情報が第一級閲覧制限なんかされてる訳だわ」
「さらーっとそんなの知ってるのな……」
「あ、これは先生から聞いたの。話はずれちゃったけど、実はね? 私のスクールでの先生の一人が、そのアルフ先生なの」
「あ? ……はい?」

 詳しく聞いてみると、どうやらアルフはPRL壊滅後、レンジャーを辞めてスクールの教師になったそうだ。でなければエースの称号と俺を追う任務を与えられてたんだとさ。勿体ねぇなぁ……エースなんかになってりゃ現職中も退職後も生活安泰だったろうによ。……けど、あいつなりに考えたレンジャーって奴の在り方がそっちに向いたんなら、それを祝福してやるべきなんだろうさな。

「そうか……後任を育てる事にした、か」
「先生の口癖がね、俺が出来なかったポケモンと人を繋ぎ守るって事を出来るレンジャーを育てたいんだ、なの。変わってるって言われる先生なんだけど、私は好きでよく君の話なんか聞かせてもらったんだ」
「俺が出来なかった、か。……俺の所為かねぇ」
「気にしなくていいと思うよ? 君の事を話す時のアルフ先生、凄く楽しそうで嬉しそうだったから」
「……そっか」

 もし会えるなら、本当に……一度礼を言いに行きたいねぇ。まぁ、行くんならレンジャーにバレないよう隠密に、になるのが厄介だがね。

「はぁーぁ……なんだか話を聞いてたら警戒してたのが馬鹿らしくなってきたよ。とんでもなく危険で危ないおかしな奴だって思ってたのに、これじゃあ英雄譚に謳われる大英雄だ」
「英雄? よしてくれ。俺ぁそんなもんじゃねぇし、そもそも英雄ってななるもんじゃねぇよ。誰かが好き勝手歩いて来た足跡、それがたまたま他所様から見たらそういうすげぇもんに見えて謳われるようになる。英雄ってなそれだけのもんさな」
「英雄……謳われる者、ですか。だとしたら、ライト殿も紅蓮の翼も、本来はそう謳われ語られるべき者なのでしょうな」
「だからよせってばさ。ヨイショしたってなんにも出ねぇぞ?」

 俺はともかく師匠はな……本当は、戦ったりせずに誰かを治したり力を貸してやる方が向いてるんだよ。それは力の有る無し関係無く、師匠の気質がそうなんだ。そしてそれをする師匠は誰かに褒められ謳われ、真に英雄と呼ばれるに相応しい奴なんだ。
 なんて思っても、今は何処で何してるかも分からんし、やっぱり師匠も俺はそんなんじゃねぇってばなんて言って照れて終わるんだろうな。

「けど分かんないなぁ……それが分かってる筈のレンジャー上層部はなんでライト君と紅蓮の翼の指名手配を解かないんだろ。いや、解けないにしても見つけ次第の最優先捕縛対象にするのだけでも止められる筈なのに」
「捕らえたポケモンがレンジャー内でどう扱われるか、それを考えれば答えは分かると思うぜ?」
「……まさか? いやでも、そうだとしたらライト君達の手配が解けないのも分かるかも」
「どういう事? コロナ」
「レンジャーは欲しいんだよ、紅蓮の翼やライト君、白い陽炎カーネイジの力を。間違い無く二匹は伝説のポケモンに迫る、いや……超えている程の力の持ち主だ。そんなポケモンが居れば、例え今後どんなポケモンが暴れようと鎮静化出来る。それが伝説のポケモンであろうともね」
「それだけの力を持つポケモンを特定の誰かが捕獲すれば、その一個人はレンジャーという組織を超える存在になる。レンジャーはそれを避けたいという裏もあるやもですな」
「そ、そんな! それだけの為にライト君達はずっと付け狙われるって言うの?」
「珍しい話でもねぇさ。トレーナーだって、自分が見初めたポケモンは欲しがるもんさ。それを組織ぐるみでやってるってだけの話さね」

 レンジャーはポケモン犯罪の抑止力。それが歯が立たない奴が居ますって事は隠したいし隠さないとならない。レンジャーが歯が立たない存在、それを世の犯罪者に知られればこぞってそいつを欲しがるだろうし、何よりレンジャーは大した事が無い、弱点があるって公表するようなもんだからな。
 犯罪者共が勢い付かないように、俺や師匠は秘匿された存在でいなきゃならないし、誰かの所有ポケモンになってもらっても困るって訳だ。そいつから強奪するって手段が出来るようになっちゃうからな。

「かくして俺と師匠は語られぬ存在、英雄になっちゃいけない禁忌と相成りましたとさ、っていう事さ」
「情報を秘匿し野に放たれている状態ならばレンジャー以外、特定の誰かがライト殿達を追い求める事は無し、更に言えば悪行を成すポケモンや人物を始末してくれさえする。無論捕らえられれば、レンジャーの抑止の力は盤石になる、と……現状はレンジャーにとって益にしかならぬ状態、という事ですな」
「んむぅー、なんか納得行かないな。本来なら捕獲じゃなくて保護、寧ろお願いして協力してもらうべきじゃない。それなのに追い回して捕まえようとするなんてさ」
「レンジャーにも面子がある。保護するべきポケモンに頭を下げる事も出来んし、何より俺も師匠も種族としては一般のポケモンだ。伝説のポケモンのように扱う訳にはいかんのだろうよ」

 これで俺と師匠がそれ相応のポケモンなら、レンジャーのトップ連中も頭を悩まさないで済んだんだろうけどな。まぁ、何に生まれたとかは俺達が選べるでも無し、こればっかりはどうにもならんさね。
 っと、どうやらインタビューもそろそろ終いかね? カランは持ってた缶を一気に傾けて空を仰いでる。聞きたい事は済んだと見て良さそうかね。

「んー……はぁ。いやー、こんな道端で聞いていいか分かんない凄い話聞かせてもらっちゃったわ。エースレンジャーでも知ってるか分からないPRLの最終決戦の内容にその研究成果、それに二大災禍が本当はどんなポケモンかとレンジャーの偉い人達がどう考えて指名手配してるか、か。これだけ知ってるレンジャーなんて、私くらいよね」
「最後のはあくまで俺達の予想でしかないけどな」
「俺も聞いちゃったけど、これって知ってていい情報じゃないよねぇ……しかもこんなの聞いたら君が二大災禍の一匹じゃないってもう言えないし」
「ここで聞いた事、ライト殿と出会った事は胸に秘めておくが吉だろうな。最悪、機密情報を知る者として拘束される可能性すらあるだろう」
「そんなまさか……とはもう言えないか。あーぁ、夏休みの間、最強の指名手配ポケモンの一匹と一緒に生活してたなんて凄い自慢話になると思うんだけどなぁ」

 いやそれ自慢したら、なら捕まえろよってツッコミ入ってたろうさ? それに俺の居場所もバレる事になるし勘弁だぞ。

「そう言えばさ、ライト君って機械のハッキング出来るのよね?」
「ん? ハッキングっつーか、電気操作で強制的に触れた機械を立ち上げたり弄ったりってな出来るが? プロテクトはその部分だけ動かさなきゃいいだけだしな」
「あーそれならダメか。いやね? もしハッキング出来るならレンジャーベースのデータに侵入して自分のデータだけ消しちゃえばって思ったの。触れなきゃいけないならそれは無理そうね」
「やるにはベースに侵入しなきゃならんからな。博打にしてもちーっと荷が勝っちまうわな」

 ……実は一回だけ、師匠のデータだけでも改竄してやろうかと思って狙ってみた事はあんだけどな。流石に本丸に忍び込むのは無理だわ、PRLの時はぶっ壊しても構わないから無理矢理侵入したけど、流石にレンジャーベースを壊す訳にはいかないしな。

「本当、ポケモンがする話じゃないね……水月に居たって言うシノビが霞んで見えるよ」
「我は所詮ダブルS止まり、トリプルSとは一次元違うと見て間違い無いだろうな」
「トリプルSかぁ……二大災禍以外なら今は何が居たっけ?」
「えーっと、二大災禍がカーネイジとディザスターでしょ?」
「ディザスターって……聞いたら師匠が発狂しそうだな」
「それ以外だと確か、今は二匹だったかな? 見れたのは呼称だけだけど確か……ドミネーターとデスペラード。ドミネーターは何処かの町を丸々一つ洗脳してみせたって言うし、デスペラードは彷徨い歩いて人やポケモンを襲いまくってるって言うとんでもない連中って事らしいね」

 そりゃまたすげぇのが台頭してるもんだ。俺が知ってるのでは確かアヴェンジャーって奴が居たと思ったんだが、どうやらそいつは捕まったみてぇだな。ま、俺がぶっ飛ばしたんだが。指名手配されてるのを自慢するような馬鹿だったし、そのプライドをメッコメコにしてやったから捕まって当然だったかもな。

「どっちもライト君みたいに本当は良いポケモンとかならいいのにね」
「俺が良いポケモンねぇ? どうだかな?」
「少なくとも私はそう感じたからそれでいーの。けど、先生に良いお土産話が出来たわ。アルフ先生になら、君に会ったの話していいよね?」
「んー、まぁな? ……それなら一つ、頼めるか? 伝えてもらいたい事があるんだ」
「先生に? うん、いいよ」
「すまねぇな。ならこう伝えてくれ」

 ……託した事が間違ってなかった事に感謝を。そして、もしまた歩む道が重なる事があれば……友として、あの時のように語り合おう、と。

「友達……ふふっ、そっか」
「そう伝えてくれたら、意味は多分理解すると思う。頼んだぜ」
「うん、頼まれました。……散歩に誘う前まで、ライト君がこんなに素敵なポケモンだなんて思わなかったよ」
「よしてくれよ、俺は……」
「ただのしがないサンダース、だよね」
「うむ、然りだな」

 ははっ、参ったな。名のりの台詞は一考しないとならんようだ。けど、一つ胸に閊えてた事はこれで少しは解消されそうだな。
 それじゃあまた少し散歩してから帰ろうかって事になって、公園を後にして歩き出す。……カランからの俺への判決は、どうやら一応情状酌量の余地ありって事らしい。
 俺は英雄じゃない。そう呼ばれちゃいけないくらい罪がある。それは変わらないし、変えちゃいけない事だ。俺の力は……どう転んでも、危険でしかない。
 けどま、もし出来るならこの力の事をすっぱり置いといて、知り合った奴や世話になった連中に礼や詫びをする旅なんかしてぇなぁ……もちろんレンジャーの連中にも、な。すぐには無理だろうけどよ。
 いつか、本当にそんな事が出来るようになるかはまぁ、カランやアルフ次第かね。頼んだぜ、次代を担う……ポケモンを護る者(レンジャー)さんよ。


後書き!
いやはや、久々の新光更新となりました。ライトとレンジャーの過去編はこれにて一旦幕となります。見ている先は違えど、ライトもレンジャーも人やポケモンを守ろうとする存在。いつか和解の道が開かれればいいのですがね。
次回からは舞台がいつものアキヨではなく南国のリゾートになる予定です! 守り神の皆さま、最強が行くぞ、気を付けろ! とは言え現在構想中となりますので今しばらくお待ちくださいませ。

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  • うぉぉぉぉ! 更新お疲れ様です!!!
    とてもとても楽しみにしていたので、興奮して踊り出してしまいそうですw
    前回までの甘い恋の展開から一変、ライトの過去に深く関わるレンジャーとの話で、常にハラハラドキドキしながら読ませてもらいました。
    でもカランもコロナも兄や姉(フロスト)に似て、危険度トリプルSのポケモンではなく、ライトをちゃんと「ライト」としてと見ていてくれて安心しました(コロナは最初危うかったけど)。アルフの教えもあるかもしれませんが、やはりあの家系?にはそういった誰かのそのままを認める優しさみたいな物があるのだと感じました。
    ただその兄の血と同じ物を持つカランが、これだけの秘密を抱えてしゃべらないで居られるかは、多少心配ですがw
    まだ語りたいことはいっぱいありますが(例えばライトあなた自分を指名手配してる本丸に直接乗り込むとかぶっ飛びすきでしょとかw)ずいぶん長く書いてしまったのでやめておきます。興奮のままに長文を書いてしまい申し訳ありませんでした。
    次回以降も楽しみにしてます。お体に気をつけて、楽しく執筆してください。それでは。 -- 赤いもふもふ ?
  • 赤いもふもふさん
    コメントありがとうございます!
    ハヤト家はハヤトがそうな通りポケモンと人の家族みたいになってますからね、ポケモンでも人より優れてる者が居るっていう考えが根っこにあるからの認識感のようなものはありますな。それとカランは一応レンジャー見習いだから機密とかの口は堅い……筈ですw
    あとはまぁ……ライトは本気でやろうとすれば能力と知識をフル動員してやるんで大体出来ちゃう奴なんでw
    次の更新もまたお楽しみ頂けるよう頑張ります! ありがとうございました! -- 双牙連刃
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Last-modified: 2019-01-24 (木) 21:21:16
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