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ポケウォーズ



In the pokemon world

天井からつるされたハンモックの上で目覚める。
えっと、今日は何月何日だったかな。
反射的にそう考えてしまうが、この世界にはそんな概念はなかった。
窓から差し込む朝日の清々しさこそ僕の知るものと変わりはしないが、
ここはポケモンたちの住む世界。
そして僕は、その世界にやってきた人間だからだ。
こんな変な話、聞いたことなかったが、
どうやらこの世界ではわりとある事らしい。
なんでも、世界の危機が訪れるたびにそう言うことがあるとか何とか。
正直、よく分からないが、実際に、今は危機に陥ってるらしい。
ポケモンたちの戦争が起き、全世界規模で、戦闘がおこっているそうだ。
タイプごとの陣営に分かれて、それぞれが争い、傷つけあう。
そんなことを、もう長い間続けているそうだ。
こんな特殊な事情だからなのか、この世界にやって来る人間も、
一人や二人ではないらしく、はっきり言って、それは異常らしかった。
もちろん、人間もそれぞれのタイプの陣営に属して、
戦うことを余儀なくされた。
この世界じゃ、違うタイプの陣営に行くことは自殺行為に等しいからだ。
だから、僕も例に漏れることなく、とある陣営に属している。
タイプは電気。
そうそう、僕はプラスルという種族だ。

「おーい、起きろー。大丈夫か、プラスル」

「え、あ、うん」

「こっちの世界には慣れないだろうけど、まあ辛抱してな」

ゆっくりと目をこすりながら起き上がる。

「もう、だいぶ慣れたよ。たまに、この世界にいること忘れちゃうけど、
思い返せばすぐに受け入れられる」

ハンモックから飛び降りる。
さっき声をかけてきたのはエレブー、
こっちに来て初めて出会ったのも、このポケモンだったりもする。

「なんか、悩んでるのか?」

「ううん、少しね、今までの事、思い返したりしてた」

「そうか。大変だろうが、この世界の状況も状況だ。すまないな」

エレブーは申し訳なさそうに目を閉じ、俯く。
まあ、なんというか、迷惑とかは思ったことないけど、
戸惑ったりはした。それだけかな。

「大丈夫だよ。エレブーが言うことでもないでしょ」

「まあ、そうかもだけど」

「あ、ほら、朝ご飯いかなきゃ」

「そうだったな」

エレブーと一緒に、食堂へと向かう。
何となく、気が重い。
これからご飯食べたら、そのまま前線に投入される。
戦況はこちらが有利、
もう少しで、敵の防衛拠点を陥落させられそうとは聞いている。
それを突破できれば、長らく続いた、この戦いも、終わりが見えて来るらしい。

「なあ、この戦い、終わったらさ」

「え?」

エレブーが小さな声で話しかけて来る。

「もう、戦いは無しにしてほしいよな」

「それは……そうだよ」

僕だって、好き好んでこんなことはしていないし、
何て言うか、もっとこの世界を歩いてみたくもある。
元の世界に帰りたいとは思うけど、折角なんだし、とか思ってみたりもする。

「まあ、こんなこと、大きな声では言えないよな」

たしかに、今この場で言うのは良くないだろうな。
それこそ、戦意の喪失とかに繋がりかねないし。
ただ、聞いた話だと、この戦争は、向こうから仕掛けてきたそうだった。
相手は、地面タイプの陣営であるし、電気タイプから仕掛けるなんて、
あるわけないと普通に思う。

「まあ、くっちゃべってる暇があったら、さっさと拠点を落とせ、かな。
はやく勝てば、早く終わるってものだ」

それもそうだ。だからこそ、戦っているようなものではある。
戦いを泥沼にさせず、早期に決着をつけることこそ、
一番いい方法なのだと、僕は思っていた。

「まあ、何があったって飯は食わないとな」

食堂に並んだ電気タイプのポケモンの列に並んで、朝食を受け取る。
そのままエレブーと座って食べ始めた。

「どうだい、調子は」

向かいにライチュウが座る。
たしか、このポケモンも、今日出撃するはずだ。

「普通だよ」

「なんだよ、そっけないな。
エース君なんだから、しっかり頑張ってくれよ」

正直、エースとかどうでもいい。
でも、この世界で生き延びるためには、そうしていくしかなかった。

「ほら、さっさと食べろ。行くぞ」

「うん」

木の実をのどに押し込み、口をもごもごとしたまま席を立つ。
トレーを返却し、更衣室へと、エレブーと向かった。

「プラスル、ああいうの苦手だろ」

僕達しかいない廊下でエレブーが言う。

「うん、まあね」

なんていうか、こっちの世界に来てから、
ずっとエレブーといたからなのだろう、
大分、お互いの考えが読めるようになっていた。

「まあ、今日も全力で、生き残ることが大事だ」

「それもそうだけど、早く戦いを終わらせたくもある。
だから、頑張るかな……」

「そうか、まあ、無理はするなよ」

無人の更衣室に入る。
更衣室には、戦闘に出るための装備が一式置いてある。
管理は緩いが、この部屋から必要ない時に装備は持ち出すなと、
忠告が出されている。

「ほい、チョーカー」

エレブーが投げ渡してきたものは、
金属の端子がついた、首に装着する装備だ。
ウォーカー、という機動兵器を動かすために必要なもので、
電気タイプの持つ電気をウォーカーに送るための導線をつなぐ。

「にしても、人間ってすごいよな、
この世界でこんなものを作ってしまうなんて」

エレブーが緩衝チョッキを着ながら言う。

「なんていうか、禁忌を犯してるような気分だよ」

僕も、チョッキのファスナーを上げながら答える。
これらの装備は、元人間だったポケモンたちが作り出したものだ。
人間の世界では、もっととんでもない兵器が開発されていた。
そうしたものの技術を、この世界で再現したということだ。
もともとは、この世界でのポケモンの戦いは、わざを使った戦いだったようだ。
むろん、人間の世界でも、トレーナーは、ポケモンたちと、
そういう方法で戦って、楽しんだりしていた。
しかし、そうした兵器が、パワーバランスを変えてしまった。
この世界では、そうした技術が伝わる前に、
全世界規模でのポケモンの争いが起こっていたらしいが、
その技術が出現し、混迷を始めているらしい。
元人間のもたらした技術は、この世界に、
歪みを与えているとしか思えない。

「でも、プラスルが作ったわけじゃあないだろ」

「まあ、そうだけど……」

装備し終わったエレブーが、僕の頭を軽くたたく。

「それもまた、この世界の運命で、人間の来た意味かもしれないだろ」

そうだと、願いたいね。
声には出さず、部屋から出ていくエレブーの後についていった。



「じゃあ、気をつけてな」

格納庫の入り口で、エレブーと別れる。
エレブーはさっさと行ってしまうが、
僕はしばらくの間、その場で格納庫の中の様子を見ていた。
出撃の時間が近く、整備のポケモンたちはあわただしく動いている。
また、ほかに出撃するポケモンも、続々と来ていた。

「プラスル、どうした」

「あ、ううん、何でもない。そろそろ行くよ」

デデンネの横を通り抜け、僕が乗る機体の前まで移動する。

「ウォーカー、か」

人の作りし、人型の兵器。
ポケモンが使うものではないだろうに。

そうはいっても、現実は現実だ。
頭頂部にあたる部分にあるコックピットに乗り込み、
チョーカーと導線をつなぎ、電気を起こす。
機体の電源はそれだけで賄っているので、
そうしないと機動すらしない。
メインスイッチを入れ、次々にモニターが明るくなる。

「えーと、腕部、脚部の起動確認。
電気コンバータ接続よし。パワーフロー正常。コンデンサ正常に充電開始。
各武装ロック解除。FCSオンライン。全システムオールグリーン。
ウォーカー02、起動確認」

シートにもたれかかり、一息をつく。

「ウォーカー各機に連絡、前日のブリーフィング通り、今日の目標は敵の兵站拠点だ。
先日からの戦闘で、前線基地を落とし、フロントラインが後退したとはいえ、
防衛拠点がまだあることに留意してくれ。そこさえ落とせば、防衛拠点も落ちたも同然だ。
無論、向こうも黙って落とされるわけはない。
全機、心してかかってくれ。健闘を祈る」

通信が入り、今日の作戦の概要の確認がなされる。
この声は、エレブーだ。
戦隊長である彼が、今日も指揮を執る。

「各機、準備が完了次第、出発口に移動しろ。
行くぞ」

ペダルを軽く踏み込み、前進する。
すでに準備を終えた機体が次々と出撃していき、
次はいよいよ自分だ。

「カタパルトオンライン。推力正常。プラスルさん、出撃、どうぞ」

スロットルで出力を上げ、反対側のペダルを踏みこみ、
一気に加速させて飛び出す。
脚部についたローラーが金属でできた床を激しく擦り、
甲高い音を立てながら、外へ飛び出す。

「このまま、各機展開。作戦を開始する」

エレブーの指示で、出撃した機体はすぐさまに、
ばらばらに展開し、目標である兵站基地へと向かった。

基地を出ると、すぐに空堀があり、それを飛び越える。
出撃口から勢いをつけて出るのは、このためであったりする。
そして、そのままさほど広くはない平原を抜け、緩い丘に差し掛かる。
見通しが悪くならない程度に間引きされた木々の間を抜け、丘を越える。
こういう丘は、ピクニックなんかをするのに丁度よさそうだな、
なんてことを思っては見るが、最前線にほど近いここでは、
絶対にそんなことはできないだろう。

「目標地点までもう少しある。プラスル、気分はどうだ」

「まあまあ、ってところかな。
戦場に行けば、余計なことは考えてられないし」

「そうだな。死なないようにだけすればいいな」

通信が終わり、機械の駆動音だけが、操縦席に響く。
そろそろ、気持ちを切り替えていかないとなと思っていたところに、
エレブーからの通信が入る。


「目標まで2000、各機、戦闘に備え」

それを合図にして、レバーを強く握り、
気を引き締め、兵装の安全装置を解除する。
いよいよ戦闘が始まる。
機体のサイズが大きいため、たぶん地面タイプの基地には
接近がばれているとは思う。
迎撃態勢がとられているだろうが、
それに出てくるのはいったいどれくらいだろうか。

「テクスチャー装甲を起動しろ、自分の体力には注意するように」

主電源ボタンの上にある、テクスチャー装甲の電源を入れる。
かなりの電力を食うため、体力が一気に削られていくが、
ポケモンの使う、わざの威力を軽減するためには必要なので、致し方ない。

「迎撃部隊視認。攻撃の第一波きます」

途端に、すさまじい衝撃が機体を襲う。
地面タイプお得意の地震だ。
本来なら、自分たちがまともに食らえば、
立っていられるかも怪しいほどの攻撃だが、
テクスチャー装甲のおかげでダメージはない。

「敵部隊は、思ったよりも数が少ない。一気にたたくぞ」

それを皮切りに、ウォーカーの部隊が一斉にアサルトライフルを打ち始める。
爆発する種を用いて、金属の弾を打ち出す、単純な武器で、
鋼タイプと同じ相性を持つらしい。
威力はそこそこだが、決定打としては少々力不足である。

「エレブー、前に出るよ」

「無理はするなよ」

味方の弾幕の中を突っ切り、敵部隊の先頭の一匹に狙いを定める。
照準のサークルが、敵のサンドパンをロックする。
発射ボタンを押す。
機体の腰部に装備されているレールガンから、弾体が射出され、
サンドパンのちょうど右肩のあたりに命中する。
すさまじい光が尾を引き、サンドパンを貫いて地面に消える。
人道的、という元人間のお題目で、弾は全部貫通性の高いフルメタルジャケット弾が
採用されているが、敵は生身のままなので、
かなりのダメージは負うだろう。
一応急所は外したが、その一撃でサンドパンは倒れる。
僕はそれを乗り越えて、次の目標をロックする。

「プラスル、あまり使いすぎるなよ!」

エレブーが忠告する通り、この武装は使うと、
著しく電力を消費する、つまり、体力を消費する。

「わかってる、次!」

レールガンを撃つには、少しチャージのためのインターバルがあるが、
二門装備しているため、もう一方のほうを、
ロックしたカバルドンに向けて撃つ。
どれだけ頑丈だったり、タフだったりしても、
このレールガンには意味のないことだ。
そのまま、振動ブレードを抜刀し、続けざまに三体に切り付け、
全て戦闘不能にする。

「このまま、拠点まで押し通るよ」

チャージが終わったレールガンを再び使い、ゴローニャに向けて放つ。
着弾時の衝撃で、ゴローニャが吹き飛び、
その威力をまざまざと見せつける。
続けざまにレールガンを使ったせいか、
少し息が上がってきているが、まだまだいける。

「敵の陣形に気を付けろ、なにか仕掛けてくるかもしれない」

エレブーが僕の後ろから、部隊に通信を送る。
見ると、地面と、水タイプも持っているポケモンなどが、並んで構えている。

「各機、よけろ!」

エレブーが通信で叫んだ瞬間、
どろのかたまりが、並んだ敵ポケモンから放たれる。

「マッドショットだ、素早さが下がるぞ!」

通信を聞きながら、必死で回避行動をする。
テクスチャー装甲で、装甲を飛行タイプの性質に変えることはできるが、
完全にダメージを無効化したりするわけではない。
わざの追加効果は受けてしまう上に、
機械ゆえか、大幅な弱体化をしてしまう。

「僕が、突破する!」

PPが切れるまで避け続けるなんて悠長なことはしていられない。
スロットルを逆方向に上げ、ペダルを思いっきり踏み込む。
敵ポケモンのほうに向いたまま、高速で後退しながら、左へ回り込む。
一部はこっちへ向けてわざを撃ってくるが、
近づけないほどのものではない。
しかし、近づきすぎても避けられなくなる。
ギリギリのところまで近づき、
発射ボタンを押す。
若干遠かったか。

「当たれえ!」

叫んでみたところで、弾は当たるようになるわけではない。
一撃必殺級の威力を持つレールガンだが、技術的な問題で命中精度が非常に悪く、
最初のように、かなり接近して撃たないといけない。

「プラスル!」

エレブーがライフルで牽制してくれ、少し後ろに下がる。

「無茶はするな、援護する」

エレブーはそう言い、でんじほうで敵ポケモンの左翼側を撃つ。
ポケモンのわざのでんじほうと同じものを撃つものなので、
敵にダメージはないが、目くらましにはなってくれる。
そのまま、左右に揺れながら突っ込み、振動ブレードで刺突。
そのまま、通り抜けざまに切り倒していき、
反対側に抜けざまにレールガンで、もう一体倒す。
並んでいた半数以上が戦闘不能になり、
味方の部隊も大分動きやすくなったようだ。

「各機、被弾状況の報告、大丈夫な者は接近してとどめをさせ」

何機かは被弾してすばやさが下がっているようだが、
その他の機体はそのまま残った敵にとどめを刺していた。

「残りは、引いたかな」

一応、戦闘ステータスではあるが、緊張を解き、
エレブーに問いかける。

「そうだろうな。後で、生存しているポケモンを回収してくれればいいのだが」

「うん……」

「疲れたか?」

「ちょっとね」

さすがに、これ以上戦闘が続いていたら、体力がやばかったかなと思う。
出力のゲージを見ると、出撃時の半分ほどに下がっていた。
体力が少なくなると、それに合わせて自身の電気を起こす力も弱くなるため、
出力も弱まってしまうからだ。

「レールガンの使い過ぎは禁物だな。たぶんあれが一番体力を削るだろう」

「でも、5発だよ」

「もともとの絶対量が少ないんだし、な」

ため息をつき、シートにもたれかかる。
まあ、僕の種族がプラスルという時点で、
いろいろあきらめている部分はあった。
こう言っては何だが、あんまり強いほうではないと。

「それでも、大した戦果だよ」

「別に、戦果なんてどうでもいいと思うし。
犠牲を少なく、戦闘を早く終わらせたかっただけに過ぎないし」

「それが、大した戦果っていうんじゃないのか。
全部急所を外して当てるなんて、並大抵じゃないと思うけどな」

ただ単に犠牲を少なくしたいっていうだけに過ぎない。
戦闘さえできなくなれば、それでこちらへの脅威ではなくなるわけだし。

「とりあえず、基地を落とさないとな。
ウォーカーに乗ってるだけで、体力使うしな」

「そうだね、行こうか」

「全機、進軍するぞ」

エレブーが全体に向けて通信でいうと、
各機が敵兵站基地に向けて進軍を始めた。

そして、程なくして、基地までたどり着く。

「いやに静かだな、もう、敵は撤退したのか……?」

「そんな雰囲気だね。どうしようか」

「とりあえず、突入しなければ始まらないだろ」

エレブーはそう言って前に出る。

「それもそうか」

僕もそのあとに続き、基地の入り口の前に立つ。
固く閉ざされた門だが、振動ブレードでこじ開け、中に入る。
基地の中は誰もいないようで、異様な静寂の中で、
ウォーカーの駆動音だけが響いていた。

「こんなに簡単に明け渡してしまってもいいものだろうか」

「まあ、全部見て周らないとわからないよ」

そう言ってから僕は広い通路を進み、倉庫などがあるであろうブロックまで進む。
ここまでも、ポケモンなどは見かけなかった。
倉庫の中は、数個のコンテナが無造作に放置されているだけで、
ほかには何もなかった。
その置かれているコンテナも、空である様子だ。

「してやられた、というところかな?」

「そうだな。おそらくは、防衛拠点のほうにすべて移したか、
あるいは別の拠点に機能を移したか」

エレブーはそう呟きを漏らす。
ただ、見た感じ、最近まで使われていた形跡がある。
こちらの動きを読んで、防衛拠点に移したと考えるのが妥当だろうか。

「たぶん、防衛拠点の方に、全部移したと思うな。
ともかく、ここをつぶしたことには変わりないし、残るは防衛拠点、かな」

おもむろに、コンテナの一つに近づく。
そのコンテナには、小さい円の周りに、
扇形が三つ、放射状に配置された図形が描かれていた。

「これって……いや、そんな」

結論を焦ってはいけない。
とりあえずそれを持ち、エレブーのいるところまで戻った。
いやな予感しかしない。
そのマークには見覚えがあった。
心臓の鼓動が、だんだんと早くなっていく。

「え、エレブー……」

「どうした、そのコンテナ」

「これ、見て。マーク」

エレブーの方にコンテナのマークを向ける。
できれば、僕の予想とは違うものであってほしい。
この世界で使われていて、たとえば医薬品とか、
そういうものであってほしいと、祈るように思っていた。

「うーん、わからないな。人間が使っていたマークだろうな」

少し考えていたエレブーが、そう言い切った。
ということは、人間がこのマークを使う理由は一つ。
『核』があるということだ。
別に、放射線の出るものがあれば、
こういったマークがつく可能性は十分にあるが、
今は戦争をしているという情勢。
しかもここは、軍事基地という点を考慮すれば、
このコンテナに入っていたものは、
おそらく核兵器である可能性が高い。

「どうした、プラスル」

「エレブー……ほんとに、ごめん」

「いきなりどうした」

「この世界に人間が来てしまったのは、本当に間違いだと思うんだ」

「え?」

操縦レバーを握りしめ、握ったその手を見つめる。

「もしかしたら、みんな、殺されちゃうかもしれない」

「どうして」

「このコンテナに入っていたのは、一つで街を、
簡単に不毛の焦土に変えることができる物かもしれない」

「そんなものが、あ、あるのか」

僕はゆっくりと頷く。
顔を上げ、エレブーを見ると、そんなことはないだろうという顔をしていた。
しかし、誇張でもなんでもない、そんなことはいとも簡単にできてしまうものである。

「エレブー、信じられないだろうけど、本当なんだ」

「そうなのか……ということは、まさか」

「な、何」

「ここに攻めてくるのが読まれて、この基地を破棄した。
だとしたら、このウォーカーの主力部隊が出払っている今、
虎の子の一発を、ただ防衛基地に移動させて置いておくだけなんて、
そんなわけはないんじゃないか」

「まさか、今……!」

ここの守りが弱かったのも、時間を稼ぐだけだとしたら、
完全に読まれていて、既に核が移送されているだろう。
今から、間に合うかはわからないが、それでも。

「僕は行く。こんなものを……撃たせなんか……っ!」

「わかった。全機、急いで行くぞ」

スロットルを前回にし、最大戦速まで加速する。
体力をあまり温存していなかったことを少し後悔するが、
今ある力を最大限に出すだけだ。

「プラスル、急ぐ気持ちはわかるが、体力を使いすぎるぞ」

「そんなことはわかってる。でも、そんなこと言ってられないでしょ」

「くっ、各機できる限りの速度で向かえ」

いくらかの機が少しずつ離されていき、
僕とエレブーについてくる機は隊の半分くらいになった。
それでも、速度を緩めることなく自軍の基地へと向かう。
しばらく進んだ後、途中から敵防衛拠点から通るであろう道に入り、
ずっと辿っていく。

「基地に行くには、ここを必ず通るはずだ。
すぐ見つかるといいんだが」

限界駆動をする機関部の異様な音を心配しながら、
のどかな草原を突っ切ってゆく。
このあたり一帯に伸びている草原で、
こちらの基地に向かうためなら、ここを通るしかない。

「ここの道で見えなければ、もうお陀仏ってことだね」

「そういうことだ。でも、そうはさせない、だろう?」

「もちろん」

周りを注視しながら、前進していくと、
ついに草原の終りの方に、何かの影を見つけた。
近づいていくにつれて、だんだんとそれが、
地面タイプのポケモンたちである事がわかった。
既に草原の終わりごろ。
つまり、僕らの基地の目と鼻の先というところだ。
そしてその周りには、大きな街がある。
そこに核を使われたら……いや、絶対に使わせない。
「見つけた、エレブー!」

「各機、戦闘用意!」

僕はそのまま、敵ポケモンたちの群れに突っ込んでいく。
もちろん、相手もこちらへ気づいているため、応戦してくる。
地震や、じならしで、広範囲の機体への攻撃を仕掛けてくるが、
損傷はあまりない。

「おい、プラスル、向こうのコンテナは!」

エレブーが言う方、かなり先の方に、大勢のポケモンで守られているコンテナが一つ。
それには、あのマークがついていた。

「地面タイプ達は、本気で核を! いったいどれだけの犠牲が出ると思っているッ」

ロックオンせずに、レールガンを近くにいた二体に向けて放つ。
命中は確認せず、アサルトライフルで牽制しつつ、
間合いを詰め、振動ブレードで戦闘不能にしていく。
しかし、何せ数が多い。
体力を温存したいとは言え、数が多くてはじり貧になるばかりだ。

「プラスル、一点突破だ。テクスチャー装甲なら、
ある程度の被弾なら問題ない」

「わかった」

先ほどまで、主に中央で戦っていたため、
そこが一番手薄だ。
左足のペダルの踏み込みを調整しながら、
緩急をつけて突っ込む。
敵方も、二匹のポケモンが構える。
ニドキングと、ニドクインか。
複タイプを持っているが、
電気との戦争のほうが勝機あると思ったんだろうが、
かわいそうだな。
そのままブレードを振り下ろす。
しかし、金属が触れ合うような音を立てて、
相手の角にはじかれる。
確かあれは、メガホーンだったはず。厄介だな。
何度もブレードで攻撃を仕掛けるも、そのたびに角ではじかれてしまう。
しかも、もう一匹のニドクインは、ばかぢからを使って、
こちらの機体にじわじわダメージを与えてくる。
テクスチャー装甲は攻撃を受けるたびに、より電量を消費するため、
たまったものではない。

「くっ、仕方がないか。いい加減に倒れろ!」

ニドキングをロックオンし、レールガンを放つ。
しかし、ニドキングに命中しない。

「まもる、か!」

絶対的な防御の前では、レールガンすら無力である。
しかし、連続では失敗しやすいという欠点がある。

「これなら、どうだ!」

もう片方のレールガンでニドキングを撃つ。
まもるでもしようとしたのだろうが、不発に終わり、
ニドキングは鋼鉄の弾に打ち抜かれて倒れた。

「今度は!」

ニドクインの方に向き、振動ブレードを構える。
切っ先をニドクインに向けたまま突進し、
そのまま、ブレードで刺突する。
ニドクインは防御姿勢だったが、
防御していた腕ごと貫いた。

「あと少しだ、行くよ!」

そのままアサルトライフルの弾倉を交換し、
再び前進する。
しかし、ここで警告音が鳴り響く。

「出力が低下……! やばい、テクスチャー装甲が維持できない」

「プラスルどうした」

「テクスチャーダウンしたんだ」

「ならもういい、プラスルは下がれ!」

エレブーが援護してくれている間に、
物陰に退避する。

「プラスルは撤退しろ。テクスチャーダウンということは、
体力がもうないだろう。これ以上はお前の体がもたない」

「いやだ!」

「どうしてだ!」

「それでも、やらせてたまるか。
こんな、こんな、人間のもたらした歪みで、
この世界を焼かせちゃいけないんだ」

「馬鹿野郎、そのままでていったって撃墜されるだけだろう」

「生身が相手なら、多少は持つし、
ここでやらなきゃ、帰るところも、仲間もみんないなくなる」

「プラスル……」

「僕は元人間だけど、電気タイプのみんなのところが、
今は帰る場所で、仲間だと思っているんだ」

「絶対に、生き残れよ」

「うん」

ペダルを踏み込み、加速。
振動ブレードで、残っている敵を次々になぎ倒していくが、
被弾が重なり、各部損傷の警告アラートが絶えず鳴り響く。
こんなところで、やられるか。
チャージが完了したレールガンを放ち、最後の障害となっていたポケモンを倒す。

「ひらいた、行くよ!」

エレブー以下、部隊は弾幕を張り、道を維持しながら敵軍の中を突っ切っていく。
そしていよいよ、例の核のコンテナがもうすぐそこまできた。

「これさえ無ければ!」

しかし、相手の先制の方が早い。
突き上げるような衝撃が機体を襲う。
テクスチャー装甲の切れた今、この攻撃は致命的だ。

「く、脚部損傷、これ以上は動けないのか」

レッドアラート、つまり機能停止を意味するアラートが鳴り響く。
しかし、このままでは追われない。

「火器は生きてるな、さいごだ、食らえ!」

もう体力の限界近かったが、最後の二発で、コンテナを運んでいたポケモンを打ち抜く。
それと同時に、出力の最低ラインの下回り、ウォーカーは機能を停止する。

「プラスル!」

通信機だけは別で動いているので、
更新はできるが、体力の限界でまともにしゃべることができない。

「……エレブー、チャンスだよ」

僕は機体を降り、一目散にコンテナに近づく。
エレブーや、部隊のみんなが援護してくれている間に、
コンテナをこじ開け、中身を改める。
間違いなく、核爆弾だ。
みた感じ、タイマー式のようで、
空輸方法がないこちらの世界ではこうするしかなかったのだろう。
つまり、起爆するには、タイマーさえ破壊すればいい。

「でんじは……で」

たいていのものならば、そうやれば止まるはずだった。
でんきのデバイス等が使われているはずなので、
うまく過電流を流せば、そこだけ破壊できる。

「おい、プラスル! 何をする気だ」

手のひらに電気を貯め、タイマー等のつながっている機械部分に押し当てる。
バチバチという音を立て、回路がショートする音が聞こえ、
少し焦げ臭い。

「これで、止まった……?」

タイマーは何も示さず、爆弾の方も何も変化がない。
後ずさりしながら様子を伺っていたが、爆発したりする様子はなかった。
「ひとまず、安心だな」

「うん」

残りの敵も味方部隊が倒し終え、戦闘域での戦いは終わった。

「各機、残存兵に注意しつつ帰投せよ」

エレブーの合図で、次々と味方部隊は帰投していく。

「何とか、守ったよ、エレブー」

「うん、よくやってくれた。帰ろうか」

僕の機体は後ほど回収されるということなので、
エレブーの機体に捕まって、基地まで帰った。
核爆弾の方は、すでに味方が回収していたらしい。

「これで、終わるといいな、戦争」

「ああ」


基地に帰ると、機体は整備班に任せて、
僕らは夕ご飯になる。

「今日も大戦果だったな、プラスル」

また、あのライチュウだが、あまり気にせずに聞き流す。
食堂ではほかにも、今日の戦闘のことについて大いに盛り上がっていた。
だが、僕だけは妙な胸騒ぎがしてならなかった。
こちらにも、他の元人間のポケモンはいる。
もしかしたら、あれが使われたりしてしまうかもしれない。

「まあ、そんなにきむずかしい表情すんなよ」

「あ、うん……」

スプーンに映る自分の顔を見つめ、そのまま、また食べ始めた。

「ごちそうさま」

「あれ、もういくのか、プラスル」

「うん。エレブーは」

「わかった、いくよ」

食器を返して、エレブーと一緒に、誰もいない廊下にでる。

「エレブー、核のコンテナって、どこにあるかわかる?」

「たぶん、研究所の中じゃないかな」

「ありがとう。じゃあね」

「お、おい、ちょっと待てよ」

「なあに?」

エレブーが僕の肩をつかむ。

「まさか、持ち出す気じゃあ」

「そのまさか、こんなものがこの世界にあっちゃいけないんだ」

「……そうか、わかった」

エレブーは、僕の方からそっと手を離す。

「何か変だが、気をつけてな」

「うん」

くるりと背を向けて去っていくエレブーは、
小さく手を振っていた。


そして僕は、基地内にある研究所にやってきた。
ここには、敵から得た情報を分析するのが主な仕事である。
そして例のコンテナも、台の上に置いてあった。
セキュリティのたぐいは無い。
ウォーカーというイレギュラーなものがあるが、
全体的な技術の進歩はまだまだだ。
こっそりと中に忍び込み、コンテナを奪取する。
とにかく、不思議のダンジョンでも何でもいいから、隠さなければ。
急いでコンテナを抱え、格納庫に行こうとすると、
途中でデデンネに出会ってしまう。

「あれ、プラスルさん。それって」

「どいて!」

無理矢理押し通ろうとすると、
デデンネが行く手を阻む。

「それ、もって逃げる気ですね。
そうはさせません」

そういうと、大きな声で叫び始める。

「基地内に反逆者! 格納庫ブロックは直ちに閉鎖してください!」

してやったりのどや顔をするデデンネが、妙に腹が立ったので、
こうそくいどう、からのでんこうせっかで、
神速の腹パンをくらわせて倒した
しかし、格納庫ブロックが閉鎖されたため、残る道は裏口くらいだろうか。
仕方がないのでそこから出て行くことにした。
広い基地内を走り抜けると、そこは、山。
しかし、臆しているわけにもいかず、そのまま山道を駆け上る。
それほど高い山ではなかったが、疲れからか思うように足が進まず、
追っ手が来るかもしれないという焦りがよけいに空回りをさせていた。
そして、やっとの事で頂上にたどり着くと、
一気にかけ下る。
ここは昔、採掘場だったとかで、
連なる山脈が一部削られたりしている。

「とりあえず、ここまできたけど、どうするかな。
隣の岩タイプのところに入ってしまったら……いけないだろうし」

と、そのとき、聞き覚えのある駆動音が近づいてくる。
このあたりには隠れる場所もない。
ウォーカーの機動力に、走って勝てるわけはないので、
観念して、その場で待つ。
そして間もなく、僕の目の前にウォーカーが来た。

「プラスル……」

「エレブー……」

しばらく、お互いに沈黙する。

「いったい、それをどうするつもりだ」

「この世界から、消すよ。どうせ、これがあったら、誰かが使う。
そんなことをすれば……。だから、影響のないところで爆破する」

「だからここ選んだと」

「それはたまたま。でも、ここなら確かに良さそうだね」

「それで、どうやって爆破させるんだ」

「僕が、高電圧をかければ、中の信管が……」

「馬鹿野郎! そんなの、プラスルが死ぬじゃないか」

そういったエレブーは、ウォーカーから降りてきた。
目を見ると、少し泣いているようだった。

「それを貸せ」

「いやだ」

「……ウォーカーの自爆と、連動させるだけだ」

「えっ」

僕はコンテナを見つめていた視線をエレブーに向ける。

「プラスルには死んでほしくないんだよ、
なあ、わかるだろ」

非情なまま、こうやってみんなのためを思って、
元人間たちの過ちを背負ってた。
そんな気になってた。
でも、僕のことを大切に思ってくれる仲間だってたくさんいた。
そうだ。
自分がみんなを、守りたいのと同じように。

「……ごめん」

その後、ウォーカーの自爆装置と信管をつなぎ、
エレブーと話し合って、昔の採掘坑道の奥深くに、
ウォーカーを置いてきた。
僕たちは山の向こうまで待避し、数分後、とてつもない轟音と、
地響きがあたりを揺さぶった。

「これで、いいんだよ」

僕は無意識にそうつぶやいていたらしい。

そして、切り札もなく、戦力差を見せつけられた地面タイプは、
降伏し、戦争は終わった。
本当は、僕も処罰の対象だったけど、
あの後、ほとんど間をあけずに降伏してきたので、
戦後処理のごたごたでおとがめなしになった。
たくさんの犠牲を払ったポケモン大戦は、
電気地面の終戦を期に、和平の形へと進もうとしている。
ようやく、この世界が、元の姿に戻り始め、
僕は本当によかったと思う。
ただ、僕はいつ人間の世界に戻れるかはわからないけど、
それまではこの世界を楽しむことにするかな!


終わり


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Last-modified: 2016-05-30 (月) 19:03:00
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