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ポカブは犠牲になったのだ

/ポカブは犠牲になったのだ

作者オレ
この作品には官能要素はありません。その意味であれば問題なくお読みいただけます。


ポカブは犠牲になったのだ 


「ポカブ、戻ったぞ」
 赤い甲冑を装束として身にまとう、凛々しい若武者が広間に入ってきました。すると畳の上でまどろんでいた小さな生き物は、嬉しそうに我に返ります。全体に赤を基調としながらも、額や腰部は黒い毛並みに覆われている小さな豚。ポカブはこの若きブショーのパートナーポケモンの一匹なのです。
「おかえりなさい、ユキムラ!」
 尾を振り耳を揺らし駆け寄ってくるポカブの頭を、ユキムラも嬉しそうに撫でました。それはまさに絆で結ばれている者同士と映る姿です。それもそのはず、ポカブとユキムラはこのランセ地方の名だたるブショーとパートナーポケモンとして、近年交流を結ぶようになった他の地方に紹介された組み合わせの一なのです。しかしポカブ自身は、明らかに違う何かを感じ取っていました。
「帰ったぞ、ポカブ。また寂しい思いをさせて申し訳なかったな」
「……いえ。いえ、気にしないでください」
 全てはユキムラの後ろから顔を出した、紅の竜が現れてからです。気さくながらもポカブを仲間として敬う様子は、誰から見てもユキムラ同様好ましい性格であるのが伺えます。しかしポカブは明らかに、気持ちに影を落としたのを見せてしまっていました。ユキムラの甲冑の肩のあたりには、竜と揃いにしたような翼の形の留め具がついています。ポカブにとってその存在は、何よりも残酷なものだったのです。
「ユキムラ殿、俺……何かしましたか?」
「わからないな。リザードンが避けられているのは確かだろうけど」
 逃げるように部屋の隅に向かったポカブの背中を見送りながら、ユキムラとリザードンはそんな会話をしていました。ブショーとポケモンとの間には「リンク」と呼ばれる絆が発生します。そのリンクの強さの最大は、ブショーごとポケモンごとに決まっています。そしてリザードンはユキムラにとって、最高のリンクを持つことができる「ベストリンクポケモン」なのです。
「どうせ僕は仲間外れが仕事なんです……」
 ポカブのそんな末期的な呟きは、しかしユキムラにもリザードンにも何かを呟いた程度にしか聞こえませんでした。あまりこういう時に下手に声を掛けるべきではないと、彼らはただその背中を見守るだけだったのです。ポカブとユキムラの組み合わせが紹介されてだいぶ経った後、ユキムラのベストリンクはリザードンであると発表されたのです。ユキムラもリザードンも、そんな時期の重なりには気付いていませんでした。当惑し続けるだけで時を過ごそうとした彼らの後ろに、二人のブショーと二匹のポケモンが近づいてきました。
「ユキムラ、何かあったか?」
「これはモトチカ殿。それにモトナリ殿も。どうもこのところポカブが塞ぎ込んでいる様子でして……」
 モトチカはユキムラ同様に力強い凛々しさを持っています。一方のモトナリは、逆に落ち着いた知的な雰囲気です。一見正反対の二人ですが、出身地の近さや似通った部分のある名前からよく並べ称されています。他の地方への紹介では、彼らの名前が真っ先に出たほどでした。もちろん彼らもまた、パートナーポケモンと一緒に。
「ポカブ、大丈夫か?」
「リザードン、弱い者虐めしちゃだめよ?」
 少々ぶっきらぼうな様子で、しかし青い毛並みの直立したポケモンは心配げにポカブを覗き込みます。一方の草色のトカゲのようなポケモンは、いやらしい笑みを浮かべてリザードンを茶化しました。
「ジャノビー、焼くぞ?」
「うわぁ! フタチマル、怖いよ! ポカブに飽きたリザードンが今度は私をいじめるよ!」
 リザードンに睨み下ろされて、ジャノビーはフタチマルの背後に素早く逃げ込みました。それは怯えているかのような口調とは逆に、非常に楽しげに笑いながら。間に挟まれフタチマルは仕方ない奴だと呆れた表情だけで、性格ゆえか首をかしげただけで終わらせました。
「ここにいても仕方ないから、どこかで独りになろう……」
 そんな三匹のポケモンたちが騒がしくしているところとは別の出入り口から、ポカブは誰にも気付かれないように出ていきました。フタチマルやジャノビーは、よく三すくみの相性として進化前はポカブと一緒に取り上げられていました。しかしポカブはその頃から、彼らともなんとなく落差を感じてしまっていたのです。それを誰が揶揄したのか、よく「ポカブは犠牲になったのだ」と言われる有様です。その証拠と言わんばかりに、進化後であるフタチマルとジャノビーは外されることなく、名高いモトチカとモトナリのベストリンクポケモンとして付き従っています。ユキムラとの関係をリザードンに奪われてしまったポカブとは明らかに温度差があるこの状態に、ポカブの気持ちはますます沈んでしまったのです。



 ここはランセ地方のアオバの城です。草タイプのポケモンが多いこの地域は、炎ポケモンであるポカブやリザードンには絶好の訓練場所です。ちなみに今モトチカとモトナリがここにいるのは、ブショー自身の体調管理に絶好の森林浴のスポットがあるからです。時期的に重なってしまった悪条件もあり、ポカブの心苦しさに輪をかける結果となってしまったのです。
「キュレムが出るのかよ!」
「うっわ! 私たち相性悪い!」
 渓流のせせらぎが聞こえてくる草地の一角で、ポケモンたちが話す声が聞こえてきました。どちらも緑色の体ですが、体の形は違います。片方は先程のジャノビーをもう少し小さくした感じで、もう片方は長い牙が印象的なポケモンです。
「ツタージャにキバゴ、何の話しているの?」
「あ、やきぶ……ポカブ。今度私たちが行く遠征先の話なの」
 一瞬ツタージャはポカブを「焼き豚」と言おうとして、それをすぐに言いなおしました。ツタージャの様子から失言に慌てた様子は見られず、むしろわざと言って言い直したようにすら見えました。というよりこれはもういつものこととなっていて、だからポカブも気にすることなく話を続けることにできました。ここで下手に反応しては、さらにちょっかいを出されるということを経験でもわかっていたからです。ひとまずポカブは、自分やキバゴやツタージャに出ていた遠征の話を思い出しました。
「遠征っていうと、あの『マグナゲート』とかの話だよね?」
「ああ。俺たちは遠征メンバーの第一陣として大抜擢だからな。向こうの情報を調べていたんだけど……」
 言いながらもキバゴは後ろで他のブショーと談笑している自身のブショーを見やります。遠征は相方とは一時的であれ別れになるのですから、キバゴにも思い悩む部分がありました。しかし最終的な決断がどうであっても、キバゴが自分の意志で何かを決めたことを喜んでくれているようでした。
「キュレムっていう氷とドラゴンの伝説ポケモンと対峙することになるらしいの。しかも一匹で」
「ツタージャは氷が苦手だし、しかもドラゴンで草を半減されるから散々なんだ。俺も俺でドラゴン同士で弱点は突き合えるけど、氷の方も弱点になっているって思うとどうにも不気味でな」
 そういえばさっきも他にそんな話をしているポケモンがいたような気がした。ポカブたちだけではなく、初期メンバーにはミジュマルやピカチュウもいます。彼らも氷やドラゴンで弱点は突かれないまでも、ドラゴンタイプで自分たちの得意技が半減されてしまうのを悩んでいる様子でした。そんな話を思い出しながら、ポカブはキュレムと自分のタイプ相性を検証してみました。
「そうか、それは大変だね」
「ちょっと、随分嬉しそうな顔じゃないの!」
 ツタージャはポカブの表情で露骨に不快感を示しました。キバゴもその威張ったようににやけた表情には、どうにも不気味の念を禁じられませんでした。ポカブの炎もドラゴンには効果が薄いのですが、しかし氷タイプへの相性の良さがそれを相殺してくれています。逆に氷タイプの技はポカブには効果が薄く、一方のドラゴンタイプの技も弱点とまでは言えません。
「いい加減勝ち組になりたくていたところだったからね」
「そうか、そうか……」
 そんなポカブの勝ち誇ったような表情に、思わずキバゴはツタージャと顔を見比べてしまいます。とくに名高いブショーの相方として紹介されたにもかかわらず、その立場をリザードンに奪われてしまったポカブ。思わぬ形で前の吉報から叩き落された、今のポカブの姿をまじまじと見つめます。
「なんだか、希望が出てきた気がするな」
「気が合うね、キバゴ? 私も今同じことを思った」
 ツタージャとキバゴの表情は一気に緩んでいきました。それを見てようやく、ポカブも前と同じ轍を踏むという危険を悟りました。
「な、な、な……! なんなんだよ! 今度こそ僕の時代が来たんだってば!」
「いきなりどうした? まあ、元気出してくれるんならいいんだけどな」
 ポカブのそんな横暴とも死亡フラグともとれる発言は、折悪く表れたリザードンにも聞かれてしまいました。恥ずかしさやら腹立たしさやらに押されて、ポカブは余計に荒い態度で背中を向けてしまいました。リザードンはそれを見て「違ったか?」と首をかしげながら、その巨体でも重そうな箱を地面に下ろしました。
「で、リザードン? その箱は何?」
「ああ。君たちが遠征に行くから、俺が昔使っていた道具をひっぱり出してきてな」
 ただ、詳しい話はこれから詰めるところである。荷物の持ち込みが制限されて、ほぼ身一つで行くということも考えられるとも思っている。リザードンはその世界と同じような文化水準の世界を旅していたことがあるため、もし持ち込みが可能であれば便利であろうと持ってきたのである。仮に持ち込めなくても、今この場でどういったものがあるかの予習にもなる。
「この種は?」
「復活の種、だな。持ち主が甚大なダメージを受けたのを感じたら、その場で回復してくれるんだ。ランセじゃ空気か何かが違うみたいで、こっちに来てからすぐにその効果は無くなったけどな」
 ツタージャが取り出したアーモンドのような種の説明を、リザードンも難なくこなす。その種を見て「そういえばほとんどがこっちでは使えないよな」と、思い出したように苦笑する。
「この青い玉は?」
「不思議玉だ。見た目一瞬じゃわからないけど、様々な『技』の効果を発動できる。向こうにも不思議玉が効果を成さない場所がたくさんあるから、こっちで今使えなくてもまた使えるかもしれないな」
 キバゴもリザードンの説明には興味津々である。というより、ポカブ自身もこの説明には非常に興味はあった。ずっとどことなくリザードンを避けていたが、いつも自分のことも気遣ってくれているとはポカブも気付いていた。巡り合わせが悪過ぎただけで、それを乗り越えて話すと非常にいいやつなのかもしれない。ポカブも話に参加しようと箱の中から道具を取り出す。
「じゃあ、これは?」
「フレイムバングルだ。俺たちヒトカゲ系統の仲間が水の技を受けたら、逆に回復してくれる専用道具だ。もちろん他のポケモンにも別に専用道具があるぞ」
 炎タイプであるヒトカゲ系統は、水タイプの攻撃を苦手にしています。でもその苦手属性の攻撃を回復源にするということは、つまり本来の苦手が無くなってしまうという意味も持ち合わせています。
「じゃあ、私たちにもあるの?」
「向こうにもあるのかはわからないけどな。それにあってもどのタイプかもわからないしな。ポカブなら地面とかも考えられるし、ツタージャやキバゴならどっちも氷なんかありそうだな」
 リザードンがそういった瞬間、三匹の表情は凍りつきました。氷タイプを対処できるという話だったのに、凍りつきました。何も知らないリザードンは、何があったのかどころか彼らの態度の急変にも気付けませんでした。徐々にポカブの体から、どす黒いオーラが立ち上りはじめていました。
「この……」
「どうした、ポカブ?」
 しかしこの期に及んでもなお、リザードンは事の重大さに気づきませんでした。むしろリザードン自身はだいぶ機嫌が良くなってしまっていたため、次はどの道具の説明をしようかと物色していたほどでした。
「この初代からのイケメン老害が!」
「なっ! なんだよ、いきなり?」
 ポカブは心の底からの憎しみを声に変えて、リザードンに思いっきり叩きつけました。本当に何も知らずにいたリザードンは、その小さい体からは信じられないほどの声によろけそうになってしまいました。しかしポカブはそれ以上のことは考えず、数滴の涙を残して走り去ってしまいました。
「本当に、何かしてしまったんだろうか? 確かに活躍の場は奪ってしまっただろうが……」
「それにしても、褒め言葉を罵倒の中に入れちゃってるなんてのも仕方ないよね」
 ユキムラとのベストリンクで、ポカブの立場を奪ってしまった程度であればリザードンも分かっていた。しかしそれでは考えられないほどの嫌われようは、詳しく言ってもらえなければわからないのです。ツタージャの皮肉にも、リザードンもキバゴも何も答えられなくなっていました。



 あれからどこをどう走ったのか、ポカブにはもうわからなくなっていました。一つ確実に言えることは、ここはもうアオバの国ではないということでした。いつの間にか隣のハジメの国にまで到着してしまっていたのです。
「どうしよう、ここ?」
 もう時間帯が遅くなってしまい、これからアオバの城までは簡単には戻れません。もちろん、何が出るかわからない夜道を歩くのであれば別ですが。この状況であればハジメの城にいるブショーに声を掛けるのが一番なのでしょうけど、ポカブはそれすらも思いつけずに途方に暮れていました。
「あれ? あれはなんだろう?」
 そんなとき、遠くに光り輝く何かが見えました。それはまるで奇跡が降臨するかのような、淡く優しい光に見えました。途方に暮れていた自分を何かの存在が見かねたのかと、ポカブはあまり多くのことは考えずにそちらに歩き出しました。本当は走っていきたかったのですが、もう走る余力は残っていませんでした。
「うわぁ……」
 ポカブはそこにいた存在に、目を疑ってしまいました。長い四肢で毅然と立ち上がっている神々しい白い体は、創造神と呼ばれ崇められるポケモンでした。このランセ地方の陸地に似た体のフォルムは、まるでこのランセ地方をも生み出したように思えるほどでした。
「私はアルセウス。名をスタッフという」
「え? アルセウスは唯一の存在じゃないの?」
 創造神と呼ばれるような唯一であるはずの存在であれば、何故名前があるのかに疑問が残るでしょう。アルセウスというのが名前であれば十分でしょう。ポカブは自らの状況も忘れて、呆然と突っ込みを入れてしまったのです。
「ポカブよ、お前は『お約束』というものをわかっておらぬのだな。まあ良い。しかして何用であるか?」
「いや、なんだか光って見えたから気になって来ただけだけどね」
 神々しい姿でまるでコントか何かのような話をするアルセウスに、ポカブの気持ちはどんどん鈍くなっていっています。ずっと走り続けた疲れもあったので、もう付き合いきれないとすら思うようになってしまいました。しかし同時に今に至ることを少しずつ思い出し、胸の内を抑えることができなくなっていました。
「ねえスタッフさん、どうしてポカブはいつもやられ役なの?」
 まるでこの瞬間だけでも捕食者になってみたいとでも思ったのでしょうか。しかしこの場面はとても弱い立場だったという話の流れから、ポカブはさらに自分をやられ役にしてしまっているのが実際でした。
「私はポカブのこと、好きであるぞ」
 そしてこの創造神も簡単にネタに乗ってしまいました。ちなみにアルセウスの表情からは、内心として「あくまでもネタキャラとして」というものが見え隠れしています。しかし視界が涙でぼやけたポカブには、それはまったく見えませんでした。
「うぅ……今度は僕も活躍できる?」
「希望を捨ててはならぬぞ。我々も創造した者として、最後まで見捨てないぞ」
 そんなアルセウスの一言に、ポカブはようやく顔に希望をともしました。その時にはアルセウスも下心をしまっていたため、ポカブは何一つ気付くことはありませんでした。ちなみにアルセウスの本心は、見捨ててはネタとしての存在が消えてしまうというものかもしれません。そうでなければ、あるいは本当にポカブに救いを与えるのでしょうか。
「ありがとう、もっと頑張ってみる」
「うむ、期待しているぞ」
 何となく納得した様子で、ポカブはアルセウスにお礼を言いました。遠征の日はもうすぐそこまで来ています。今回の遠征はポカブにどのような答えを下すのでしょう。

 全てはスタッフのみぞ知るというわけです。


あとがき

 ポケダンの新作発売日は、もうあと数十分というところです。キュレムと戦うならポカブは有利なのではないかと思ったのがこの作品のきっかけです。ポケモン+ノブナガでは最初は人気どころ(と思われる)ユキムラに貰われて、ついに救済されたと思ったらこの通りの仕打ちです。キュレムとの戦いは有利になりそうだからとポカブを選んだら、ポケナガに続いてまた手痛い仕打ちが待っているのではないかと気付き作品にしました。
 何せ思いついたのが一昨日で、次の自分の予定日は23日。発売日になればプレイする人もどんどん出るでしょうから、そこでこの作品を投下するのは賞味期限切れだと追われてしまいました。そこまで長い作品にならずにまとめられたのは幸いでしたが、逆にここまで短い作品を書いたのは初めてだと思います。
 4時間クオリティとはいえ、作品を一つ完成させることができたという事実はなかなか嬉しいものがありますね。


 ポカブに代わって自分に制裁を下したい方からは、こちらからすべて謹んでお受けします。


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Last-modified: 2012-11-24 (土) 00:00:00
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