ポケモン小説wiki
ボクはキミのマネージャー

/ボクはキミのマネージャー

読者の方をいつまで待たせてるんダァァーッ_(:3」∠ )_
ようやっと完成しました短編です!
3万字になって僕の中の短編の定義が大爆発してますね。
今後も書き続けられたらいいなぁ、と思いつつの掲載です。

南十字


!!注意!!
エロい描写が入ってます。出先で読んでいる男性諸君は通報されないように。
エロい絵が入っています。出先で読んでいる男s(ry
戦闘描写が入っています。というか、結構な割合を占めてます。流血とかはほぼないですが、一応。
短編(大嘘)






「勝者、シエル・ガブリアス!!」
 ゴロンダが木の棒に布を括り付けただけの簡素な旗を振り上げる。旗の示す方向は、無様に地に伏しているゴウカザルの方向ではなく、前かがみの構えを解いたガブリアスの方へと向けられていた。バリケードで囲まれたその空間の外にいる観客からは歓声と怒号が湧き起こる。青空の下、戦闘用に区切られたその中で照る日を浴びながら健康体そのものの身体に流れる汗を拭うとガブリアスは悠々と控室へと引き返すのだった。


 シエル・ガブリアス。戦闘競技を主とする大会が盛んなこの街に越してきて日は浅いものの、出場した大会で好成績を叩きだし続けている、番狂わせの新星だった。戦闘競技にはハプニングはつきもので、突然のダークホースに観客のポケモンたちは手を打って喜んでいたが、連戦連勝ともなると流石に飽きてくるポケモンもいるようで、こうして歓声と怒号が入り混じる状況となっていた。
 根強い批判者の中にはシエルの種族柄を持ち出す者もいた。ガブリアスといえば、戦うためだけに生まれてきたとも言われるほどに戦闘に秀でた種族として認知されている。もちろんシエル自身の努力も大きいのだが、圧倒的破壊力に素早さ、そして守りをもこなす隙のない身のこなしを体現し得る種族であることは確かだった。それ故に、勝敗を決するのが早くつまらないと言い出す観客もいれば、嫉妬に駆られる選手もいるのは事実だった。
 おおらかなシエルも流石にこの批判者たちには手を焼いていた。怒って逆鱗を放つわけにもいかなければ、大会に出ないのも納得がいかないシエルの内心は、こうして大会で優勝し賞品を贈呈されている最中、常に晴れ晴れしいものとは言えなかった。


「ガブリアス種だからな、勝てて当たり前だろ?」「むしろ戦闘以外に何かできんのかよ」
 またしても今日、嫌味を言われるシエル。もってして生まれたこの力を否定されてしまえばどう戦えばいいものかと初めの頃こそ考えていたものの、言われ慣れてしまえば麻痺するもの。今では話半分に聞き流す程度でシエルは自分の心の平和を保つ術をすでに身に着けていた。話を聞きつつ欠伸をするくらいには呑気な性格もこういう場面では功を奏している。
 ファンも批判者もいなくなった競技場でシエルは伸びをする。存外、勝負事以外では呑気な事の方が多い。今日ものんびりと競技場の後始末を手伝った後に今日の賞品やら賞金をまとめていたらこんな時間となっていたのだった。 そんな中、片付け終え殺風景となった競技場の中央にポツンと一匹のポケモンが居るのにシエルは気が付いた。遠くからでもよく分かる、緑を基調とし、大きな羽が特徴的なドラゴンタイプのポケモン、フライゴンだった。同族と言えば同族なのだが、いざ口に出すと嫌悪されることの多いワードでもある。ガブリアス種とフライゴン種、因縁めいた間柄にあることを知るポケモンは少なくない。ハブネークとザングースのようなライバル関係とは言い難い、酷く拗れたものになっている。
 理由は単純明快であった。同じタイプでありながらガブリアス種の方がほぼ全てにおいて勝っていたのだ。言うなれば、下位互換である。そんな不名誉なレッテルを貼られ哀れみの目を向けられるフライゴン種が、ガブリアス種に憎しみの目を向けるようになるのは必然であったとも言える。 シエルは決してフライゴン種を馬鹿にするような性格ではなかったが、熱いヘイトの前にシエルの人柄の良さは無視されていた。

 シエルは小さく溜息をついた。やれ強いから出るなだの、お前じゃ面白くないだの言われることには慣れているが、「お前さえいなければ」などという悲しみと怒りの混じった瞳を向けられることにはどうしても慣れることはできなかった。 やり過ごしたかったのだが、すでにフライゴンの方もシエルに気が付きゆっくりとこちらに来ていたのだった。溜息を追加せざるを得なかった。
 フライゴンが目の前までやってくる。シエルは自分から口を開こうとはしなかった。できることならにらめっこで終わらせたかったのだが、フライゴンはまじまじとシエルを見たのちに、小さく頷くと口を開いたのだ。
「やあ! キミがシエル=ガブリアスだね。ボクはエスト=フライゴン、よろしく!」
 そう言い切るが早いか手が出るが早いか、気が付けば鉤爪を両手で握られていた。握手のつもりなのだろうか。そんなことを冷静に考えていられる心境ではなかった。どういうつもりだか皆目見当がつかずに内心慌てているシエルをよそに矢継ぎ早に口を開くエスト。
「キミの戦いはやっぱりスゴい! 圧倒的破壊力、合理的防御力、征圧的俊敏力!! この世のものとはとても思えない、芸術みすら感じるよ!」
 やたら興奮しているのか顔を真っ赤にしてそう力説する。流石にここまでぐいぐい来られるとシエルもたじたじと引き気味になるのも自然であった。
「そんなキミがね、ボクは…ボクは」
 ここまで聞いて途端にシエルは冷静に次の言葉を悟った。憎い、妬ましい。次来るであろう言葉が容易に想像できてしまう。上げて落とすなどという嫌がらせはとうに経験済みであったシエル。その時に感じたただの罵詈雑言とは違う裏切られたような気持ちがシエルは嫌いであった。最後の言葉を聞いてしまう前に、喜びを全て捨ててしまえばそんな気持ちにならないことをシエルは知っていた。目の前にいるのは嘘吐きだと思い込み心から先に閉め出す。瞬時にこれができてしまうのが慣れと言うものなのであろうか。
 しかし、そんなシエルに降りかかってきた言葉は予想の遥か上を行ったのである。
「ボクは大好きさッ!!」
 にかーっと笑って目の前のフライゴンは、ガブリアスの劣化とされるエストはそう明るく言ったのである。シエルは思わず目を丸くした。口から洩れそうになった素っ頓狂な声を堪えただけでも称賛ものではあるくらいに、シエルに大きな衝撃を与えた言葉だったのだ。
「それじゃっ、来週の大会も頑張って! ボク応援に来るから!」
 放心状態に近いシエルにそんな言葉を投げかけると満足気にエストは尻尾を揺らしつつ踵を返すのだった。反応が遅れ「ま、待って」とシエルが情けない声で引き留めようとした頃にはエストの姿はみるみると小さくなっていた。その姿をぽかんと口を開けて見送るシエル。言われなくとも頑張って見せる。そう心の中でつぶやくと帰路へとつくのだった。






 以前の大会からちょうど一週間経った日、この日も大会があるのだった。この街は頻繁に大会を行う。実は戦闘競技以外にもレースやパフォーマンスなどの大会は行われているのがこの街で、いわゆる賭けによってこの大会自体は成り立っている。専ら、最近はシエルが暴れすぎたために1位より2位を当てる方がいい値が返ってくるようなのだが。
 出場者集合の時に観客席を見やる。普段はキョロキョロ辺りを見たりはしないシエルだったが、エストと名乗るフライゴンが応援に来るとあれだけ熱を込めて言っていたのだ。せめて、いるかどうかくらいは見ようと思ったのだが。なるほど、シエルのファンが比較的集まっている場所の最前列でじーっとこちらを見ていた。実に分かりやすい位置にいる。2匹の視線が混じる中、開催の言葉が発せられる。心の中に少しばかり湧いていた嬉しさを振り払うと目の前の戦いに集中するのだった。

 変わらずの圧勝であった。3回戦目にパルシェンと戦ったときに撃ち込まれた氷柱針の弾幕でようやくの敗退を予感した観客であったが、アイアンヘッドで木端微塵にソレを砕きながらずんずんと前進していた様を見て呆れ返っていたほどである。むしろその時に飛び散った氷の破片で腕や足を軽く傷付けられただけまだマシというレベルであった。
 優勝の賞品と歓声(とそれと同じほどの罵声)をもらって控え室へと引き返す。金銭より木の実がかさばるために抱えて持っていくしかないのだが、これが割と大変である。何が大変かと言うと……
「やあ! シエル、今日も素晴らしい戦いっぷりだったよ!!」
 ……そうそう、こういうのに絡まれた時の対処が非常に困るのだ。前に立つんじゃない、荷が降ろせない。などと心の中で悪態つきながらもやはり嬉しさはあるのだった。我ながらチョロいとは思うが、いわゆる大会の応援者なんてものはわざわざここまで来ない。それに、1位の掛け金の倍率が変わった途端に応援者の数はゴッソリ減っていた。
 しかしこのフライゴンは、そんなことお構いなしにシエルの強さを讃えていてくれている。強さがシエルの全て、そんな思いがある中その強さを認めてくれるのは嬉しかった。シエルの強さで変動する掛け金や、他と比べて劣化がどうのと言っている者は関係なく、好いてくれているエストが先ほどから荷の隙間から彼女の顔を覗こうとひょこひょこ跳ねている。クスッとシエルは笑うと控え室に用意されているであろうドリンクよりもエストとしばらく駄弁ることに決めたのだった。


 やれやれ、結局あの後「家まで送るよ」なんて言われて帰路をエストと共にしている。そもそもエストが知らない彼女の家へ送るとはどういうことなのだろうと、2匹で横に並びながら話しつつ思ったが、突っ込んだところで仕方がないし楽しいのも確かであった。今日の大会のこと、同じく声援を送っていたファンのこと、観客席からでしか分からないことをエストが語る。シエルのこととなるとずいぶん熱のこもった話をするが、普段は割と落ち着きのありそうな人柄であるようにも彼女は感じ、エストの話を聞いた。 ふと、私がもし弱くなったら、もしくはさらに強いポケモンが現れたらどうするのであろうかとも思ったが、今はこのささやかでありながら貴重な楽しい時間を満喫したいと思ったシエルはたらればな話は忘れてエストの言葉に相槌を打つ。
「……ここがシエルの家かい?」
「ああ、そうだ」
 シエルはこくりと頷くが、エストが訝しげな顔をして彼女の家を見る。……否、家と言うより洞窟である。立てつけの悪い扉が焼け石に水のような憐れみを醸し出している気がするが、これは家なのだと自分に言い聞かせる。確かに、倉庫と言われた方がしっくりきそうだがこれは家なのだ。 こちらに越してくるまでは定住と言った考えがなく、各地で大会に出ては暴れて賞金ばかりを貯めながら過ごしていたが、大会が多く開催されるこの地に住めればそれが動き回るよりも都合がいい。という軽い気持ちで定住を考えたのはいいのだが、家事もオシャレもさっぱりのシエルには、倉庫兼寝床という位置づけになってしまっているのは確かであった。
「流石にお邪魔するわけにはいかないし、ボクは帰るよ?」
 エストとしても元より寄っていくつもりはなかったのだろう。寄っていくつもりがあったとしても、シエルが全力で止めたことに違いはないが。本当に寝床と荷物以外何も無い部屋へ招き入れるほど無神経ではない。寝床と荷物以外何もない時点で無神経のような気もするが、そのことに関してのツッコミは無しだ。
「ん、ああ。…今日はありがとう」
 自然とそんな言葉が口をついて出た。エストもニコーっと笑うと「こちらこそだよ」と言って、飛びながら手を振り小さくなっていった。夕焼けの中に霞むエストの姿を目で追いながら心の中を満たす温かいものにシエルは浸っていた。
 ひとり小さく頷くと戸の鍵を開け中へと入る。持っていた商品や賞金を適当にまとめて置くと、少しだけ早く粗末な藁束に体を横たえると眠りへと就いたのだった。




 シエルの朝は早かった。寝るのが早いのだから当然起きるのも早かった。薄ら寒いような夜明けの中、外に出て大きく伸びをする。大きな欠伸をひとつ。彼女は街とは反対側に流れる川へと向かう。川といえど決して深くはない。彼女が河に足を入れても膝まで届くか届かないかといったところの深さである。流れも速くはないが淀みの出来ない程度には流れており、水も綺麗であった。まさに水浴びにはうってつけな川にシエルは足を浸け、パシャパシャと音をたてつつ身体を洗っていく。ガブリアスの肌は触れた者すべてを怪我させるやすりのようだとよく言われるが、それがただの噂であることを彼女の美しい竜鱗が物語っていた。朝日を反射している藍色の鱗は漆を思わせるような優美な柔らかい光を見せている。朱が占める前面では引き締まった腹部、ふっくらと控えめに膨らんだ胸部。彼女のしなやかな筋肉と雌の肉付きを併せ持つ身体を見てしまえばきっと誰もが美しいと思うのであろう。扇情的を通り越して、芸術的であった。劣情さえ抱く暇もなく見惚れかねない身体であった。残念なのは肝心の本人がそれを自覚していないことと、夜明けすぐに覗きをしようという殊勝な奴がいない事であった。
 美しい身体とは似合わないほど大雑把に身震いすると、水を適当に払って大きな欠伸をかみ殺して、変な顔になりながらも家と呼ぶ倉庫に戻っていく。適当にまとめていた木の実からいくつかを抱えると、調理すらしないでそのまま口の中にポイと放り込むともぐもぐばりばりと噛み砕き、幸せな表情を浮かべる。そして口の中で種を転がすと外に向けてプププッと勢いよく吹く。さながらタネマシンガンである。本当に顔に似合わず残念なことをしでかしているのだが、メリットもあった。この倉庫の入り口近くを見るといくつか木の実の木が生えかけているのだ。見つけた時にはマジマジとそれを観察しながら首を傾げていたが、ある日の夕食に自分のタネマシンガンが理由なのだと気が付いてようやくの納得をしたのだ。その日からタネマシンガンに躊躇がなくなった。そもそも、絶妙に街に近いこともあって近隣に住むポケモンがほとんどいなかった。つまり迷惑も体裁も意識する必要が無かったのもあった。

 そんな朝から始まるシエルの日常は気ままなものであった。ふらりと出かけては寝心地のよさげな昼寝スポットを開拓していたり、突然身体を動かしたくなったら適当な不思議のダンジョンに手ぶらで突撃したり、街で食べ歩きをしていたり、自由そのものであった。
 彼女にとって戦いは全て。強さは彼女自身の証明であった。大会に出る、それ以外の規則性が彼女には存在しなかった。確かに昼寝や食べ歩きも好きだが、やはり彼女は戦いの中で生きるポケモンだったのかもしれない。そんな自分に気が付かずに、今日もただ何となく一日を過ごすのだった。
 彼女の生活があまりにもきまぐれだったせいか、エストと出会うことはなかった。シエル自身に会うという選択肢もなく、いつも通りに過ごしていた。そうして迎えた大会は前回から2週間経ってからの開催であった。


 わらわらと多くのポケモンが会場の中と外に集まった。大半が客で、客に囲まれる選手や、それを適度に止めるスタッフ。この大会は入場料を払い、さらに金を賭けるかを選択する必要がある。先にこの手続きを踏まなければならないがために混雑する。開場から開会まで結構な時間が設けられているのもそのためだった。その時間、待っている客にパフォーマンスをして小銭を拾う選手もいれば、控え室で念入りに体をほぐしている選手もいる。
 エストは入場手続きの列に並びながら辺りを見る。彼のお気に入り選手シエルの姿はなかった。がっくりと翼が垂れるが、仕方がないのだと自分に言い聞かせた。なにせいろんな意味で存在が大きすぎるのだ。こんなところでシエルが客に囲まれたら何をされるか分かったものじゃない。だからきっと、早めに入場してしまっているのだろうとエストは頷く。シエルが控え室の中で小さく一つくしゃみをした。
 エストはあたりを見る。今からでも選手専用入場口にちらほらポケモンが入っていくのが見える。いつもこの大会で見るような、常連である。その中に、見慣れないポケモンが混じっていた。ボーマンダとタツベイだった。エストは首を傾げてその2匹を見送った。タツベイはまだ子供で、とても大会参加できるものじゃない。かといって、選手の知り合いや身内であっても入場料をちょろまかして入ることができないのは当たり前であった。
 しかし、スタッフが普通に通したのを見ると何らかの理由があるのだろうと思う他なかった。ちょっと気になるとはいえ、この列から抜けてスタッフに聞きに行くのはアホらしい。シエルを最前列で応援できないのは絶対に避けたい。エストはそれからあまり気に留めることなく入場し、席を取る頃にはすっかり忘れていた。



 いつも通りの開会の言葉、いつも通りの対戦カード発表、そしていつも通りのシエル快進撃。しかし、ダークホースが徐々にその姿を現していく。既に準々決勝、多くの選手が敗退する中にボーマンダは残っていた。雄々しく飛び上がると重力を味方に付けた力任せの一撃で相手の意識を粉砕していった。多くの客は手を打って歓声を上げた。ダークホースに賭けるような勇者はいなかったが、多くの彼らの賭けはただの娯楽である。であれば、大会が予想できない展開になるほうが胸の高鳴りが違うというものだった。彼らはこのダークホースに目が釘付けだった。そして、見事に準決勝をも勝ち進み観客の熱はピークに達する。
 相対するのは大会の連覇者シエル=ガブリアス。片や初参戦にして決勝にまで上り詰めた謎の新星ローグ=ボーマンダ。司会の口上にも熱が乗る。観客は誰一人として退屈そうにしている者はいなかった。観客の歓声が止み、二匹の間に熱い風が吹き抜ける。言葉無く二匹は構えを取る。司会の合図と共に、戦いの火蓋は切って落とされた。

 凄まじい威圧感が会場を覆う。ボーマンダから発せられる威嚇がここまで重苦しく現実味のあるものかと誰が思ったであろうか。司会すら思わず身を退いたその重圧の中、心を乱さないでいたのはシエルだけだった。観客ですら静まり返った中、キィンと鋭い音を響かせ鉤爪を構え直す。競技場の地をあらんかぎりの力で蹴り、凄まじい速さでローグの横を突風のようなシエルが突き抜ける。飛び上がろうとしたローグの羽根の付け根に一閃が命中する。飛び上がるのを諦めるとドラゴンクローに瞬時に切り替え反撃する。その判断速度は見事という他なかった。シエルは無策に受け止めるのは避け飛び退く。牽制に役立ったと見るや羽根を羽ばたかせ力強く浮き上がる。眼下にいるその覇者に重々しい竜の鉄槌を振り下ろさんとする。ドラゴンダイブ、重力、質量、でたらめな筋力すべてを乗せ言葉通りぶちかましたその一撃に、大地が腐った木片で出来ていたのではないかと錯覚するくらいの大穴と抉れた砂が舞った。しかし、そこにシエルはいなかった。砂煙が舞う中、ローグの背中を襲う痛み。シエルのドラゴンクローを何の防御もなく受けた痛みは計り知れない。しかし、その痛みすら歯を食いしばり堪えるとドラゴンテールで背後を横薙ぎする。シエルは巧みに鉤爪で受け止めると同時に威力を殺すように後ろへ跳ぶ。観客はそこだ、やれ、負けるな、口々にこの熱戦に自分の意思を乗せて叫ぶ。エストも例外ではなかった。砂煙の中の攻防の最中でもシエルを応援し続けていた。
 振り向きざまの竜の波動もシエルは軽々とかわして再び両者はにらみ合う。こういう時は、限ってシエルから仕掛けていく。再び踏み込み、フェイントを織り交ぜつつローグを翻弄する。一撃の力強さで言えばローグに軍配が上がるであろうが、戦闘というのはただの腕相撲ではない。どんな力も当たらなければ意味がない。シエルは感覚でそれが分かっていた。彼の判断は早いが身体が追いついていないのだと。
 何度かのドラゴンクローが彼の身体を浅く抉った時、彼は突然羽を羽ばたかせて退く。シエルは追撃せずに様子を見るが、彼は構えを解くと口を押さえた。そしてそのうえで言葉を発した。
「俺は、俺は負けるわけにはいかない!」
 絞り出すかのような声にシエルは構えを解かずに応える。
「ならば倒してみせろ!」
 はいそうですか、と勝ちを譲るお人好しはこの大会にはきっといないだろう。無論シエルも同じだ。手加減も降参もしない。その上で勝利できなければ負けられない意志などは無意味なのだ。それが勝負の世界である。

「上等だ!!」
 そう怒鳴り返したローグから光が溢れだす。何の技かと身構えるシエルだったが、それが技ではないと分かったのはローグの先ほどとは異なる姿を見てからだった。羽はさらに大きく、付け根が最早どこだか分からない。鋼のような輪が前足の付け根から腹部までを防御している。先程までのボーマンダの姿に似ているがボーマンダのような何かであった。ボーマンダはフォルムチェンジする。そんな話を聞いたこともないシエルにとっては未知の存在であった。観客も同じである。何が起きたのかだれも理解できず静まり返る。
 すぅ、とローグが息を吸い込む。考察してる暇などくれてやらんと言わんばかりにハイパーボイスをシエルに向けて放つ。観客が一斉に耳を塞ぐ中、シエルには膨大な音波というエネルギーが正面から襲い掛かった。全身を軋ませるそれに防御など不可能であった。まるで凄まじい大きさの重力に逆らっているかのような状況の中、シエルの足底は地から離れ観客席を分け隔てる分厚い壁に叩きつけられる。
 かはっ、という音と共に空気が肺から叩き出される。ぶつけた背面より音をまともに受けた前面の方が痛んだ。どさりとその場に倒れたシエルは体勢を立て直そうとする。しかし、すでにローグはその鋼まで積んだ巨体を空中で弾丸のように加速させた。壁際で伏しているシエルに何の躊躇もなく捨て身タックルという追い討ちをかけたのだった。
 まるで隕石でも落ちたかのような轟音。巻き上がる砂と砕けた壁の破片。もうもうと上がる砂嵐に観客は咳き込み目を隠す。やがて、砂色の視界が晴れたそこにあったのは、意識を手放したシエルであった。審判がローグの勝利を宣言する。

 会場に割れんばかりの歓声が響いた。
 次に湧き起こる拍手。ローグを讃える声。



 表彰式でもその熱は冷めきらなかった。過去最高に盛り上がったのではないかと思えるほどの盛況ぶりだった。二位以下のポケモンの姿は見えない。さっきまで戦い、そして負けて気絶しているのだから当たり前なのだが。思わず大会の主催も満面の笑みを浮かべて優勝者ローグを讃えた。
 その声はシエルの耳にも届いていた。気絶はしたものの頑丈な彼女は表賞式までには意識を取り戻していた。体のあちこちは痛んだが、それ以上に悔しさに身体震わせた。やがて表彰式は終わった。目を覚ましたポケモンから休憩室を出て行った。出ていく間際に送られる彼らの視線がシエルの背中に突き刺さった。もしかしたらエストも同じような視線を送るのか、いや、既に会場にはいないだろうと目を伏せる。彼は強さに惹かれて私に声をかけた。今頃ローグとでも話しているのではないのか。惨めな自分に溜息をつくと寝台から降りて、二位の分の賞金と木の実を受け取るとシエルはふらふらとそこを出た。
 ぼぅっとしながら歩いていたからか、いつもの癖で競技場にまで来てしまう。いや、今日はまっすぐ家に帰ろう。そう思い直して通路に戻ろうとするシエルに、声がかかった。
「シエル! もう平気なのかい?」
 振り返ればそこには心配そうな表情を浮かべたエストがいた。流石に驚いたが、何も言わずに小さくこくりと頷いた。通路を歩くシエルの隣をエストがゆっくりと浮いて行く。外傷こそは目立っていないものの、身体のあちこちの痛みはまだ残っている。おまけにこの無言の二匹の間に漂う雰囲気。心と身体に来る負担が動きにどうしても出てしまう。
「……まだ痛むかい?」
 あまり心配はかけたくなかったが、気張る元気も残っていない私は小さく「ああ」と答えた。エストは少し戸惑いながらも、私の背中をさするように撫でた。じんわりとした痛みの上を柔らかいエストの手が触れる。たださすられているだけだというのに、どうしてだろうか少しだけそこが楽になる。その感覚に思わず息を吐く。
「わっ、ごめん! 触っちゃダメだったよね……」
 素早く手をひっこめるエストを訝しげに見るシエル。先程のが溜め息に聞こえたのではないかという想像がつかなかったシエルは、正直にエストに言った。
「いや……、そのまま続けてもらいたかったのだが……」
「ぃえっ? そ、そう?」
 首を傾げると、先ほどと同じ場所に手を伸ばすエスト。ああ、やはりさすってもらえるのは楽になる。それはシエルにとって初体験に近かった。何せフカマル時代の短かった彼女にとって何年にもわたる鉤爪生活では自分の痛んだ身体をさするということがさっぱりなかったのだ。彼女は再び安堵の息をつく。

 背中に次いで肩に腕にと撫でてもらっている内に家へと到着する。結局一言も会話を交わせなかったが故に、彼女はここにきて余計に心配になった。だが、心配になったからといって聞こうと思える状況ではなかった。何故、今日も私についてきたのか、と。 ひとまず、エストはシエルを待っていてくれた。その事実だけを受け止めることにした。
 簡単なあいさつを交わすとお互い手を振って別れる。シエルは賞品を放り出すと倒れ込むようにして藁の上に寝転がり眠った。



 翌日、エストは街の借り部屋で目を覚ます。数か月お世話になっている借り部屋にすっかり彼は馴染んでいる。布団から這い出ると朝日を浴びて目を覚ます。軽い朝食を済ませて彼は出かける。アルバイトをしつつ次回の大会や近隣の大会の情報をチェックする。もしかしたらシエルが出るかも、という期待と共にあらゆる大会に赴いているおかげで普段のアルバイトにも自然と熱を入れなければならなかった。そんな彼は傷心していた彼女のことを考えながらアルバイトから上がる途中、競技場へと足を運んだ。当然のように一般開放なんかされているわけではないが、この場所で頻繁に戦闘競技が行われていることもあって詳しいスタッフが詰めていることがあるのだ。昨日の優勝者、ボーマンダが入場する時にタツベイと共に入った事、戦闘中に見せたフォルムチェンジ、よくよく考えると何だか引っかかるところのある選手ではあった。
「お。こんなところでどうした?」
 ルールに詳しいどころか、しっかり把握していそうなゴロンダがいたのはラッキーだった。早速エストは昨日の大会についての話を持ちかける。快く話しに応じたゴロンダと共に会場の事務室へとシエルは入っていった。

「いやぁ、昨日のボーマンダは凄かったな」
 やはり、シエルが倒されたというのは並みのニュース程度では収まらない。事務室で開口一番にゴロンダは笑いながらそう言った。
「全く、あのガブリアスを敗るなんてな」
「そうだね。あのフォルムチェンジの後の追い上げは凄まじかったよ」
「あー。やっぱりあれはフォルムチェンジなんか?」。
「ボクが知る訳ないじゃないか。ボーマンダでフォルムチェンジなんて聞いたことが無いよ」
「おう、俺もだ」
 適当に木の実ジュースを二匹分注ぐゴロンダが首を傾げながら言う。
「だがフォルムチェンジでも何にせよ姿を変えること自体はルール違反じゃねぇな」
「……確かにね」
「物を持ち込む・相手を殺す・場外に出る。ルール違反なんてこれぐらいだ」
「ん、そうそう、ルールといえばもう一つ」
 適当に礼を言うと木の実ジュースを飲みつつもう一つ気になった事に話題を振る。
「ボーマンダが一緒にタツベイを連れて入場していたけれど、タツベイは選手じゃなかった。あれはどういうことなんだい?」
「おお、あれか。ありゃマネージャーだ」
「マネージャー?」
 大会規約をまとめた本をゴロンダが面倒くさそうに取り出すと、あるページを開いて見せた。
「ご覧のとおり、選手の認めたマネージャー一匹を会場に同行させることができるんだ」
「マネージャー……。マネージャー!?」
「おぅわっ! 急に立ち上がるなよ狭いんだからよ……」
「あ、ああ。ごめん。 あんな子供でもなれるものなのかい?」
「はっは、マネージャーの項には年齢制限が無いんだ。 まあ、普通は誰も使わん制度だからな」
「ふぅん……」
 マネージャー。そんな制度を聞いたエストには後半のゴロンダの話はさっぱり聞こえていなかった。シエルはきっとローグにリベンジする。そしてこの先もずっとずっと戦っていく。その道を後ろから応援する自分がいいか、すぐ近くで支える自分がいいか、答えは考えるまでもない。もし、もしもシエルが認めるのならばそれもいい。いや、それしかないと自分に言い聞かせた。





 シエルの朝は早い。昨日特にやりたいこともなく不貞寝に精を出していたのだから、当然起きるのは早かった。大会が終わって2日目、気持ちを入れ替えなければと言い聞かせつつ。のそのそと水浴びへと向かう。
 同時刻、街からふわふわと飛んでくる一匹のポケモンの影があった。見間違うはずもないエスト本人である。待ちきれなかったからか、こんなにも朝早くに訪れたのだが、彼がシエルの家にやってきた時には既にシエルが出た後であった。気配のない家の前で首を傾げつつもエストは飛びあがり辺りを見回す。ちょうど小川の流れる方に動きがあったのを見つけると、高度を下げてその方向へと向かっていく。すると、少々朝日の射し始めているその川で水浴びをしているシエルの姿が徐々にはっきりと視界に入ってくる。ハッとして適当な茂みに身を隠すエスト。どうしようかと茂みの中で視線を泳がせている彼であったが、次第に視線はシエルへと向かってしまうのだった。戦っている姿はとても美しく力強かった。しかし、水を浴びている彼女はとてもではないが、美しいという一言で表せるものではなかった。綺麗な藍色の鱗から跳ね返る光が、流れるような彼女の身体の筋を描き出す。凛々しい戦乙女が地上に迷い降りてしまったのではないかと錯覚するような絵であった。とても現実味がない。それが彼の感想であった。

ガブフラ_挿絵1.png


 視線釘付けの彼を現実に引き戻したのは、案の定シエルだった。一通り水浴びを終えると川から上がって、水を払うよりも先にエストのいる茂みに向けて腕を振ったのだ。ヤバい死ぬ。隠れたままで戦慄したエストにシエルはひどく呑気に声をかける。
「おーい、エスト?」
「あ、いや、これは違うんだよ、うん……」
 その呑気な口調にも過敏に怖がりながらも、観念したのか茂みから顔を出しつつさっぱり説得力のない言葉が口から洩れる。覗いてしまったのは確かな事実だけど、劣情を抱いて覗いたわけじゃないんだ! 等と間違っても言えないエストは半ば諦めて口を閉じる。
「? 元気がなさそうだが、何か用か?」
 という言葉を聞いてエストは思わず下がり気味だった顔を上げる。水浴びくらいどうということもないのだろうか、平素のような表情で首を傾げているシエルがそこにはいた。これ以上水浴びネタで話すと墓穴にドラゴンダイブしかねないと悟ったエストは、シエルの帰宅について行きながら早速本題を話すのだった。

「……マネージャーか」
「うん、キミさえよければだけど」
 マネージャー。今までひとりで戦ってきたシエルにとっては願ってもない存在だった。自分から名乗り出てくれたことにも思わず顔がほころびかける。しかし、思い出すのは二日前の敗北。エストに対する疑問が再び顔をもたげた。強さで言えばローグが彼女より上であることは結果が明確に示している。ならば、シエルではなくローグについて行くのが筋ではないか。シエルにとってこの時のエストは強者オタクのように映っていたのかもしれない。 表情が陰ったシエルの顔を隣で心配そうに見るエスト。ぴたりと歩を止め視線を下げる思案顔なシエルに声はかけられずにじっと様子を見る。
 やがて、シエルが顔を上げるとエストの方を見て、それから視線を少し下げると口を開く。
「私は負けた。強さで言うならローグが上だろう。なぜ私に?」
 エストからしてみればそれは意外の一言。真剣な顔つきのシエルとは対照的にきょとんと間の抜けた表情のエスト。
「え、あれ。言ってなかったかい?」
 ぽりぽりと首筋をかく。少しだけ視線を泳がせると、何となく恥ずかしい気持ちがこみあげながらも言葉を続ける。
「ボクは三週間前に声をかけるずっと前から応援してたし……大好きだったよ。強いならいいって訳じゃなくて、キミとキミの強さがボクは好きだったのかもしれないね。 きっと、この気持ちはずっと変わらない。だから、キミをずっと応援したい」
「…………」
「キミだから、ボクは応援し続けられるんだよ、うん」
 こくこくと頷くエスト。シエルは俯きながらもその言葉に耳を傾けていた。エストからはどんな表情だったかを知ることはできなかったが、シエルはただ一言「ありがとう」と言うと再び歩を進める。エストはパタパタと羽を揺らしながら後ろをついて行く。

 それから、シエルからは「少し考えさせてほしい」とボソボソした声で返され、一抹の不安が二つや三つに増えながらもエストはその場で別れた。一応、明日も会いに来ることを伝えて了承ももらえたので、ひとまずは何も考えずに街へと帰っていった。
 対してシエルといえば、心ここに非ずといった表情でムシャムシャと朝食を始めていた。木の実の味など分かったものではない。それだけ彼女の心に余裕はなかった。朝食を終えていつも昼寝か外出に費やしていた一日の半分を、洞穴の中でうろつくことだけに使っていた。もちろん心の中ではその整理に大忙しであったのだろうが、マネージャーの件をエストにどう返そうかということを思い出したのは夕方を過ぎてからであった。平素を忘れていたシエルがようやくその時間になっていつも通りの呑気な自分を取り戻したのだが、自分で自分に苦笑せざるを得ない。しかし、朝のエストの台詞を思い出すだけで顔から火が出そうになる。苦悩して思い悩むことはあったが、嬉しさでも振り切れれば同じようになるのだなぁと新たな発見をしながら木の実を頬張った。



「という訳で、マネージャーをよろしく頼む」
「え。うん……」
 翌日シエルの家に行ってみればいつも通りのシエルがいて、何がどういう訳なのかさっぱり分かっていないエストにそう伝えて、とりあえず家に上がらせてもらったエスト。なるほど、散らかっているわけでもないが文字通り何もない。寝藁と毛布、あとは部屋の三分の一を占領している大会の賞品。木の実やらお金やら記念品がそこにまとめられていた。安い貸家にもついているであろう机や棚すらない。本当に住居の最低限を目指して作られたかのような家に呆気にとられてしまった。
 シエルが「朝食は?」と聞いてきたので、早めに食べて来た旨を伝えるエスト。シエルは「そうか」と短く答えると木の実を漁り始めてそのままもぐもぐとそれを食べ始めたのを見てさらに驚く。炭水化物はどこだとシエルの手元を見るがそんなものは無い。今より一世紀くらい前なら普通ではあるが、腹持ちのいい穀物を摂らなくて平気なのかと少し心配になる。これはマネージャーとして少し言った方がいいのかどうか悩んでいる内にシエルがふと外を向いたので何かと思ってエストも思わずその視線の先に目を向ける。シエルはといえば、あと数秒思考が遅ければこのままタネマシンガンしかねないところだったと冷や汗をかいていたところであった。外から顔をそむけるとそっと寝藁の近くに転がっていたカップを尻尾で引き寄せるとそこに種を出す。何とかエストが視線を戻す前に平素を装うことに成功する。誰かと一緒にいるのは疲れる。そんなひとりぼっち思考を頭に浮かべるが、マネージャーを引き受けてくれたのだし、エストと話すのはなんだかんだ言って楽しい。朝食をとりながら他愛のない話に花を咲かせる。時間は一匹でいる時よりも早く過ぎて行った。

 お昼前にエストの提案で買い物に出かけることになった二匹。シエルが今までまるで使ってこなかった賞金をまとめてみたらとんでもない額になったので、とりあえずは家具を買おうという話になったのだ。本当は家具を買うどころか家まで買えてしまいそうな財産があるのだがシエルはどうやら洞窟が気に入っているようで、提案をしたところ少し残念そうな顔をしていたために取りやめとなった。
 まず食料や生活用品を買いあさる。シエルがとてつもなくいい加減だったがためにエストも困り果て、自分がいつも買い出しに繰り出す時のような荷物になってしまった。当然、その中に雌用の日用品などは入っていない。おしゃれなどしなくても美しいと感じるエストであったし、使うお金はシエルのものなので無理に買わせようとはしなかった。食料に関してはシエルがあれも食べたいこれも食べたいと買い込んだために袋はパンパンである。エストが運ぼうとしたら身体が浮かなくなったので、非常に情けないと本人は凹みながらもシエルが運んで行った。
 軽くお昼を挟んで家具を見に行ったのだが、シエルがさっさと決めてしまったがためにとても早くにテーブルと棚が決まってしまった。装飾や塗装は軽いもので、遠目から見れば素材を少し落ち着いた色に塗っただけのそれに見える。とはいえ、洞穴にあまりオシャレな家具を置いてもなんだか浮いてしまうだろうし、やはりシエルの家に置くものだからエストも特に口出しはしなかった。店員が後日返すことを条件に台車を貸し出してくれたのはシエルがいたからだろうか。流石に台車まで押させたらどっちが雄でどっちが雌だかわからなくなってしまう。エストは多少強めに羽ばたきつつ台車を押して店を出たのだった。

「ああ、そういえばマネージャーなら給料が必要か」
 買った食べ物についてあれやこれやと世間話をしていた帰り道、シエルがクルリと振り向いて台車を押すエストを見る。「いくらがいい?」と聞かれて流石に困ったエスト。ボランティアのつもりだったのだが、どうやらシエルの考えていたものは違うらしい。慌てるだけで答えに詰まるエストを見て首を傾げると再び話題を変えた。
 ようやく重い台車を押し終え、洞穴への家具の設置が終わる。一息ついているエストをシエルが呼ぶ。すると、二匹の間にどさりと金貨が落ちる。硬貨しかないこの国ではまとまった金はかなりの重量になる。それが今この二匹の間にあるのだ。
「これが、エストの給料」
 少し得意げにしているシエルにエストは困り顔を浮かべながら、一応手には触れずにざっと目測で数えるが、今の掛け持ちアルバイト生活が馬鹿みたいに思えてくるような金額である。自分から望んでやらせてもらう仕事なのに、こんなにもらっていいのだろうか。というか、自分の応援したい選手から金をとるのはファンとしてどうなのか。うぅぅ、と唸るエストを見てシエルが心配そうな表情を浮かべ「これじゃあ足りないか?」と聞いてきたためにエストは全力で首を振った。
「月給にしても、これは多いよ」
「ん?」
 うーん、と同じように唸るシエルだったが、結局目の前の金に手は付けずに口を開いた。
「それなら、これに釣り合うように働いて欲しい」
 世間の給料の相場を知らないのか、結局エスト任せにするとこの話はやめやめというように食べ物の入った袋を漁り出したシエル。どうやらずっとずっといろんな意味で大変なマネージャー業になりそうだとエストは苦笑した。 でも、それでも苦痛ではなかった。一緒に買い物をするのは楽しい、応援するのも楽しい、近くにいて彼女の仕草を見るだけで楽しかった。これは頑張れない理由はない。
 シエルから午後は自由にして明日から頼む、という旨を棒付きキャンディを舐めながら言い渡されたために、午後からエストはアルバイトの緊急辞職をして酷く悪態をつかれて回ることになったのだ。 台車を押した腕と、小言をもらいまくった耳が痛む。借り部屋に着いたときはすっかりクタクタになっていたが、彼は何とも言えない充実感に満ち溢れていた。明日から頑張ろう。再び自分に言い聞かせるように呟くと、布団の中で寝息をたてはじめた。


 翌日からマネージャーとしての仕事が始まった。朝はかなり早めの朝食を済ませてシエルの家へと向かった。エストというマネージャーがいるからか、のんびりしていたシエルもダンジョンにくり出して鍛錬に励んだ。エストはその姿に大喜びでダンジョンから出るころには二匹ともほくほくとした表情であった。夕食もしっかり摂ってシエルが夜の水浴びに出かける頃合いにエストは一日の仕事を終えるのだった。 ダンジョンへと行かない日は二匹で外を一緒にぶらついたり、エストの街へと遊びにつき合わされたり、エストの提案で洞穴の整理をしたりと、一日も欠かさずシエルに付き合った。そして、二週間が経った。
 朝食にエストの作ったサンドイッチを頬張るシエルを見て、エストが口を開く。
「大会も後二週間だけど、平気かい?」
「ん……もぐもぐ、二週間か……」
 競技場は他の競技も盛んに使う場所のため、こうして一つの競技に長い期間が空くこともあるのだが、シエルは案の定数えていなかったようでエストは苦笑する。シエルが一欠けを口に放り込むとエストの方を見て口を開く。
「言われなくても、ローグに負けはしない」
 そう言って少しだけ口端を上げる。戦闘事になるとシエルはエストが思っていたよりずっとずっと頼りになった。こういう時のシエルを雌のポケモンが見たら、例え同性でも惚れてしまうのではないかとエストが思うほどだった。
 とは言ったものの、シエルの心の中には自信ばかりではなかった。何が起こるか分からない戦闘競技、ダンジョンで飛んでいるポケモンに対する戦闘法を見直したり、防御を再考察したりと手は尽くしてきたがそれでも確定という文字は無い。もし、また負けてしまったらエストを裏切ることになるのだろうか、そう考えるととても不安に思うのも確かであった。
 しかし、エストに心配かけさせたくない気持ちと、絶対に負けたくない理由ができたシエルはとても強い自信があった。 その後、二匹はローグを仮想敵に陽が落ちるまで話し合った。

 ついに大会一週間前、シエルは普段と変わらなかったが、エストはことあるごとに大会を意識するようになっていた。まず、用意するご飯がバランスに配慮された物に変わっていった。シエルはとりあえずうまいから何でも食べた。次に、ダンジョンにくり出す回数が若干増えた。シエルのモチベーションを考慮しているのか、急激に増やすことはなかった。自ら組み手を申し出たことがあったが、初撃からシエルの裏拳がみぞおちを襲ったのが堪えたのか、組み手の提案はしなくなった。そして今日はリラックス効果のあるオイルというものを買ってきたらしい。なるほど、いい休息が取れればその分パフォーマンスが上がるという事かと、納得するシエル。つい最近は寝藁から布団にグレードアップして休息の効果は実体験済みである。
「それじゃあ塗るよ?」
 夕方、水浴びを早めに済ませてきたシエルが大きめのタオルの上で横になる。流石に三週間も一緒に居れば近くにいるだけで慌てたりはしなくなるエストだったが、オイルを塗るというのは若干無謀だったかもしれないと、オイルを手に付けながら視線を泳がせた。流石にシエルは雌、本人は気にしていない様子であっても雌なのには変わりない。うつ伏せに寝ているシエルの背中が何と綺麗なことか。 とはいえ、言いだしたのも買ってきたのもエストである。何とかシエルの肩の上に手を置くと、そこからオイルをムラなく塗り込んでいく。背中へと塗る場所を変えつつエストは口を開く。
「どう?」
「ああ……いい気持ちだ」
 身体にさっきから触れているため、力を入れずにゆったりリラックスしているのは確かにわかる。良かったと内心ほっとしているエストにシエルは少し間を開けて言葉を続けた。
「……そういえば、この前の大会の終わりにも撫でてもらったか。 エストにこうしてもらえるのはとても安心する」
「そ、そう? ……それなら張り切っちゃおうかな」
 マネージャー冥利に尽きると少し得意げにオイルを塗っていくが、それも長くは続かなかった。
「ねえ、ここから下は……」
「ん?」
「お尻だけど」
「ああ」
「……」
「……?」
 シエルが顔だけもたげるととても不思議そうに首を傾げる。尻尾は早く続きを塗れとふりふり振っている。おまけに視線をずーっとその手に感じる。先程までの意気はどこに行ったのか、洞穴に「勘弁してぇぇ」と情けない声が響いた日暮れであった。



 それから六日、大会に向けて爪を砥ぎつつ普通に生活を送っていて、遂に前日の夜となる。明日精一杯の力が出せるようにエストは慎重に夕食の支度や寝る時間を決めているのをよそに、シエルはいつも通りであった。これはもう強者の余裕というよりシエルの生まれ持った性格なのだろうと、彼女を見てなんだか癒されながらもかなり早くに水浴びへと送る。
 そしてあれから気に入ったオイル塗りをする。エストが塗れる範囲で塗って、残りはシエルが塗るのだが、どうも今日はいつも通りにはいかないらしい。いつもなら肩と背中、膝より下を塗って交替なのだがシエルは残りも塗って欲しいというのだ。やっぱり、それは出来ないと断るのだがシエルはそれでも首を振る。
「もう、早く寝てもらいたいからそうするけど……替わりたい時は言うんだよ?」
「ああ、早く頼む」
 もう折れるしかないと判断したエストは無心を目指しつつ、腰の下へ手を伸ばす。丈夫な脚の上にあるその部分は、とても柔らかく思わず感触を楽しんでしまうほどで……。という邪な気持ちを追い出すのはかなり根気がいるもので、何とかそこを塗り終える。正直なことを言えばとても疲れるものだった。
 シエルが起き上がるがこれでおしまいではない。エストと向かい合うように座ると前も塗るんだぞ、と目で訴えてくる。しかし、前はいろいろと危ない。エストが思わず首を振るが、シエルの視線はエストを離さない。流石にこのまま塗る作業を続けてはうっかり自分の憧れに汚い情欲を抱いてしまいそうだった。彼だって雄である、獣の欲求が無いわけではないし、他のポケモンよりそれが薄いという訳でもないことを自分が把握していた。だからこそこれ以上シエルの身体を触っては歯止めが効かなくなることを薄々分かっていた。彼はシエルを想像の中でも性のはけ口にしたことはなかった。シエルに魅力を感じないわけではない。むしろ魅力的だった。だがそれでも、心の中で汚すことは畏れ多いポケモンだった。 そんな彼女自身からこう言われてしまえば、どうすればいいのかエストは分からなくなっていった。
 そんなエストの心の葛藤もつゆ知らず、シエルは俯いてしまったエストの肩に鉤爪の付け根を乗せる。エストは不安な表情が顔に張り付いたままその顔を上げた。このまま続ければお互いどんな気持ちになるか、いい加減なシエルでもそんなことは想像に容易い。 シエルにとってエストは大切な存在になっていた。それを何となく自覚しながらもふわふわした生活が続いていた。何故こんなタイミングでこうしてしまったのかシエルにもよく分かってはいなかった。きっとこの世界に神様や天使がいるならきっとそいつの仕業だとシエルは深く考えなかった。ただエストともっと近くに居たかった。それが明日への不安が浮き彫りにした、彼女の寂しさとエストへの信頼だったと気が付いたのはずっとずっと後のことだったのだが。
 無言。静寂が二匹を包んだ。お互いがお互いの距離に悩んでいた。明日の大会のことは酷く遠く感じた。互いが互いのことだけをこの時悩んだ。一匹では解決しうることないその悩みを、互いに黙って思考の堂々巡りを繰り返した。
 どれぐらい経っただろうか、シエルの背中のオイルが乾き始めるくらいの時間だった。エストが先に口を開いた。
「……シエル。これ以上は、やっぱり駄目だよ」
 エストにしては弱弱しく、息の抜けるような声で話した。
「キミは、ボクの憧れで、ボクの大切なポケモンなんだ。
 だから、ボクとこれ以上はいけない」
 後半は最早掠れたような声であった。エストもこの言葉を紡ぐのにどれだけ自分のやりたいことを捨てる覚悟があったかわからない。ただ、全てはシエルのため、そう思って放った言葉にもかかわらず、目の前のシエルは寂しそうに視線を落とすばかりであった。
 シエルにとって、エストの抱くシエルへの感情はとても一昼夜には理解できそうなものではなかった。それと同時にエストにとって、シエルが今初めて抱く感情によってもたらされる困惑は同じように理解はできなかっただろう。 どうしてこんなに近くにいるのに、さらにエストを欲してしまうのかシエルには分からなかった。分からなかったがために歯止めを利かせようとすると彼女の心から軋むような音と痛みが返ってくる。もしかしたら私はおかしくなってしまったのではないか、彼女がそう考えるのも自然なことではあったが、とてもそれで紛らわせるような気持ではなかった。
 しかし、現実問題としてエストからは拒否されてしまった。無論、エストにはエストの理由があるのをわかってはいた。頭で理解できても感情は割り切れていなかった。自然とシエルの気落ちした仕草は表に出てしまう。エストは思わず目を背けたくなるほどだった。

 気まずい無音が再び訪れる。このような形で、いやどんな形であれ二匹がすれ違うのは初めてである。その場で俯いたまま固まってしまっているシエルをちらりと見て、エストは一呼吸置いたのちに口を開いた。
「……シエルは、ボクのことが好き……なのかい?」
 その言葉にピクリと反応して、こくこくと首肯するシエル。とんでもなく恥ずかしい質問であったが、シエルを見ていて余計に恥ずかしくなる。
「ボクもシエルのことは大好きだよ。でも……」
 彼女は特別。エストの中でひときわ眩く光る星。それをこの手で捕まえてしまうことはできない。でも星は今自分の手の届くところまで自ら舞い降りてきている。捕まえてみせよとちかちか魅力的に光りながら。
「この気持ちに正直になっていいのか、迷ってる」

「エストは、本当はどうしたいんだ?」
 じぃっとシエルの視線がエストを捉える。ああ、その視線すら交じ合わせることができなくなっていた。エストは少しだけ視線を下に向ける。自身の本当の気持ちはなんだろう。このままマネージャーを続けて無難な距離を保って、いつか別れることなのだろうか。それとも――
「我慢してるんじゃ、ないのか?」
 いつも呑気で無頓着なシエルに核心を突かれる。そう、全部エストが自身に課した自戒である。シエルの為と言い、自分を戒めたのが事の始まりだった。ただ今は、それが二匹を縛る枷になってしまっていた。
「ボクなんかでいいのかい?」
 シエルの答えは、単純で何の飾り気もなかった。ただ静かに、エストを抱き寄せただけなのだから。




 気づけばどちらが先に求めたのか、深い口づけの音が洞窟に響いていた。二匹の鼓動が早鐘を告げる。お互いの身体はじんわりと熱を帯びていった。 舌を絡ませ、背を抱き寄せ、胸をすり合わせ、腕を絡めた。
 エストは滑らかなシエルの背中をくすぐるようにさする。キスの最中に呼吸の乱れるシエルにはお構いなく、尻尾の付け根にまで指を這わせた。我慢できなくなったシエルが思わず口を離し、息を整えるとエストに困ったような表情を見せる。エストが腰のあたりから抱き寄せると、互いの下腹部が密着する。
「……シエルの肌、すべすべで気持ちいいね」
「エストだって、むにむにしてていい心地だ」
 エストは純粋に褒めたつもりなのだが、シエルはけらけらと笑いながらそう返してきた。ああ、いつも通りのシエルが目の前にいて良かったと思いつつ、仕返しのつもりでシエルのお尻を鷲掴みにする。「んぃっ!?」と情けない声を上げるシエルを見てエストもけらけらと笑った。しっかりとした弾力があって、とても揉み応えのあるそこに夢中になりつつシエルの身体を全身を使って堪能する。とてもハリのある身体は、あるいは引き締まっているとも言える。胸もふとももも柔らかさと触り心地を両立しており、いつまで触っていてもきっと飽きはしないだろうとエストは確信する。
 シエルはといえば、腕の先が鉤爪のために思うようにボディタッチできなかった。エストばかりずるいぞ、といえる状況でもないお尻を揉みしだかれている現状でシエルはただただ抱き付くことしかできなかった。とはいえ、このままではやられっぱなしである。思い切ってエストにできることはないかと尋ねると、少し思案顔のエストからとても恥ずかしい提案がなされた。
「……ここでいいのか」
「うん、その辺に切れ込みがあると思うのだけど」
 仰向けに寝転んだエスト。その下腹部をじぃっと眺めるシエル。なるほど、確かに綺麗に一筋の切れ込みがある。所謂スリットに恐る恐るシエルは舌を這わせた。しばらくシエルが舌を這わせていると、突然エストが身体を跳ねさせたかと思えばシエルの左頬に勢いよく熱い棒がぶつかってきた。いきなりのビンタに何事かと思って左を見れば、びくびくと鼓動に合わせて揺れている肉棒が地面と垂直にそびえ立っていた。シエルより小柄なエストから飛び出たものとは思えないその大きさに呆然とするシエル。そのシエルの鼻腔に雄の匂いが大量になだれ込んでくる。決していい匂いとは言い難いその匂い、しかし何故だか身体が欲した。棒に顔を近づけるとすんすんと匂いを嗅ぐ。エストは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている中、シエルはエストに言われたとおりにそれに舌を這わせる。手が使えないのだからこうするしかない。なんだか不思議な味のする棒をシエルは丹念に舐めていく。
「ちょ、ちょっと待ってシエル……」
 とろとろと溢れ出す先走りを面白がって舐めているシエルに思わずストップをかけるエスト。しかし、一度面白がれば素直にやめるようなシエルでもなく、びくびくと腰を揺らすと呆気なく鈴口から溢れる大量の精がシエルの顔を汚していく。思わず目を瞑ってそのまま浴びてしまったシエル。ぱちぱちと目を瞬かせると、幸せそうな顔をして脱力しているエストを見る。とりあえず顔に付いた精をぺろりと舐めるが、お世辞にもおいしいものではない。適当なタオルで顔を拭いつつ、とりあえずエストの回復を待つ。

 賢者タイムがようやく終わったエストはシエルの顔に思い切りぶっかけたことを全力で謝っていた。当人のシエルはたいして気にもしていなかったのだが、エストはぺこぺこと頭を下げ続けた。
 とにかく、エストも復活したところで気を取り直して再開となった。何だかほんわかしたような二匹の雰囲気も、再び唇を重ね合わせればしっとりとした空気が二匹を包み込む。深いキスではなく、お互いに唇を何度かつけるだけの軽いキス。それだけでも十分な効果があったようで、再び二匹は身体を火照らせる。
 エストは熱を帯びたシエルの身体を抱き寄せる。シエルの柔らかな胸の感触を上半身で味わいつつ、少しだけゆとりを持たせた下半身の間へと手を伸ばす。びくりとシエルが一瞬身体をこわばらせるが、すぐに覚悟を決めたのか身体の力が抜けて行く。ヘソのあたりを指先でくすぐるように撫でるエスト、そこから徐々に下へとずらしていき、赤みを帯びたスリットへと到達する。エストは焦る気持ちを押さえつつスリットを左右に開くと、お互いの吐息以外の音がなかった洞窟内に粘っこい水音が静かに響いた。指を一本スリットの中に入れて軽くこすってみれば、あっという間に指は愛液にまみれた。くぐもった声を上げてひしと抱き付くシエルの首筋を舐めると、指を蜜壷に突き立てた。
 「ひっ!」と声を上げるシエル。とろとろを通り越してびしょ濡れの膣内がぎゅうぎゅうと指を締め付け離さない。狭い穴に突っ込んだために水音も派手に響き、ぽたぽたと地に愛液が垂れた。このまま抜くのは面白くないと、エストの変な加虐心が顔をもたげたのか、指を中で突然暴れさせる。自分を慰めるようなことさえしてこなかったシエルにとってこの刺激には当然耐えられるようなものではなく、あられもない声を上げながら蜜をこぼすことしかできなかった。
 しかし、いかんせん初めてのシエルにはやりすぎたのか、彼女は身体を小さく痙攣させるとふらふらと後ろに倒れかける。重心の安定しないシエルを見て慌てて指を引き抜くと後ろに回って支えるように抱き付いた。肩で息するシエルを背中から抱きとめながらエストは彼女の顔を覗き込む。普段からは想像もつかないとろりとした目に、口からちらりとはみ出した舌。妖艶さと初々しさを含んだ恍惚とした表情に思わず胸を高鳴らせ、一度吐精したイチモツもいきり立つ。まさかこんな虚ろな彼女を犯していいものかと脳内で葛藤しかけたエストだが、こんな表情と恰好を見せられては正常な思考などできるはずもない。指を入れた時のあの締め付け、あれを思い出すだけで交尾がどれほど気持ちいいものになるか想像に難くない。
 つまり、エストはこの時シエルを犯したいという本能に負けたのだ。後ろからぐいとエストの尻に腰をつけるとスリットにモノを擦り付ける。シエルは抗議の声も一切なく、熱っぽい息と一緒に小さく喘ぐだけだった。左手で彼女の花弁を暴くと、彼女の雌に自身の雄を捻じ込んだ。あまりの狭さと膣圧に、捻じ込んだという表現が一番しっくりくるのだ。乱暴に聞こえるかもしれないが、シエルの割れ目から溢れ雌を満たしている愛液は十分すぎるほどであったために、どちらも痛い思いをせずに繋がる。
 エストは初めて肉棒を襲う快感に思わず歯を食いしばり、快楽を紛らわすかのようにシエルに後ろから抱き付いた。挿しこんだモノは半分ほどで留めなければ、これ以上突っ込もうものならいとも簡単に果ててしまう未来が見える。それに、シエルも前戯の時よりずっと蕩けた顔をしている。あまり無茶なことをすれば失神してしまうのではないかと何だか心配になる。 結合部をあまり揺らさないようにシエルの顔を覗き込むと名前を呼び掛けてみる。「ぁぁぅ……」という普段は聞けないような可愛らしい声がシエルの口から洩れる。憧れであり好きなポケモンの普段は見られない一面を垣間見てどきんと胸が高鳴る。こんなだらしない顔になっているシエルを見れるのは、世界中探してもエスト自身しかいないのだと思うとゾクリとする。シエルの息が整うのを待ちながら、何とも言い難い優越感のようなものに浸っていた。
 しばらくして、ようやくシエルも意識が戻ってきたのか涎を腕で拭うと気恥ずかしげに目を逸らした。目を逸らしつつも、自分の下腹部を触って繋がっているのを感じているのか、感動の声を小さく上げる。くるりとシエルが振り返り、エストの方を見る。何とは言わなかったが、何を欲しているのかそれとなく察したエストは抱き付く力を少しだけ強める。二匹の身体を密着させ、お互いの熱と唾液を混ぜ合わせ交換し合った。口を離すよりも早くエストは腰を揺らす。きつく締めつけてくる膣壁を少しでもほぐそうとしているのか、小刻みに揺らして蜜壷を刺激する。徐々へ奥へと沈み込む肉棒。確かにとてもよく締まっており、きつかったのだが侵入困難なほど締め付けては来なかった。程よく快楽を感じるほどの締め付け具合で、それが逆に早く果ててしまうのではないかという悩みの種でもあったのだが、どうにかこうにかモノの大体を埋めることに成功した。膜を破るような感覚は無く、シエルも痛がっている様子がない。もしかしてシエルはもう経験が、ともエストは考えたがシエルの不安そうでいながら快楽に蕩けたような初々しい表情を見せられてそれは無いなと確信した。シエルの初めてをこうして自分のものにできたというのは随分名誉なことだなぁ、とシエルの頬を軽く撫でつつ思った。
 さて、ようやっと始まった交尾にモノが歓喜に打ち震える。小刻みに揺らして挿入する時とは違い、大きなストロークを付けて腰を振り始める。抜けないようにモノを引いてから、シエルの柔らかい尻に向けて腰を打ち付ける。痛いほど勃起した肉棒に感覚がなくなるのではないかと思うほどの強い刺激が生じ、腰が止まってしまうのを危惧するが、そんな理性とは裏腹に身体は次の快楽を求めて腰を動かしていた。そのたびに結合部を満たす潤滑油が淫靡な音をたてて飛び散る。嬌声としっとりとしたむせかえる空気がこの空間を満たす。お互いの身体がぶつかるごとに汗が混じりあい、二匹の境界は曖昧になっていく。
 しかし、初めての激しく求め合う交わりにシエルはそう長くは持ちそうになく、それはエストも同じであった。強くシエルを抱きしめると、シエルの尻尾がエストの脚に絡みつく。ぐりぐりと膣奥を責めているエストであったが、下手に腰を振れば果てるのはまず間違いなかった。シエルはすでに何度か絶頂しており、意識を手放さずにいるのがやっとの状況である。お互いに限界が近い。胸の高鳴りや浅く早くなる呼吸、洩れる喘ぎ声にお互いが限界であることを悟り、二匹で絶頂に向けて交わり溶け合う。

ガブフラ_挿絵2_m.png


「くぅぅっ、ふあぁぁあぁぁぁっ!!!」
「っあぁ! うぅぅっ……!!」
 シエルの絶叫とエストの唸るような声、弾けたのは一瞬だった。シエルの肉棒から一発目と比べ物にならない大量の精が子宮へ流れ込んだのが先か、エストの膣壁が痙攣しつつモノを絞るように締め付けたのが先か。快楽に呑まれた二匹に判別は付かなかった。
 背中から足先までを痙攣させた二匹。シエルがうつ伏せに倒れ込むとエストもその上に重なるように横になった。未だにぎゅぅぎゅぅと締めつけられているモノは抜けずに、入りきることのなかった精が愛液と混じりあった淫液が床に垂れた。
 お互いの浅い息が響き合う洞窟の中、知らぬうちに、二匹の息は心地よさげな寝息へと変わっていった……。




 シエルの朝は早い。例え昨晩激しく交尾に勤しんだとしても、彼女の体内時計はきわめて正確であった。一晩経って、がびがびになってしまった下半身を、エストを起こして共に洗いに行く。出会ったころのように水浴び一つで動揺していたエストはもういない。せっせとシエルの尻尾を洗うエストがそこにいた。やっぱり昨晩のことを思い出して赤くなる二匹だったが、シエルがペしぺしと尻尾で軽く叩いて水浴びに専念させる。 それから丹念に身体をほぐす運動をして、朝食をとって二匹で会場へと向かった。
 二匹の間の距離は完全になくなっていた。ただの選手と憧れているマネージャーという間柄ではない。恥ずかしがりながらも嫌がらないエストとご満悦のシエルは手(?)を繋いでいる。なんだあれは、と不思議そうに眺めるポケモンもいれば、微笑ましい二匹を見て口元を綻ばせる者もいた。 当然スタッフにも大変驚かれながらもマネージャーとして入場を許可されたエストと共に控え室へ行く。
 いつもは控え室で待機している間は黙ってボーっとしているシエルであったが、エストがいろいろ気を利かせて話し相手になったりマッサージをしたりなど、いつも以上のリラックスができていた。開会式を済ませ、対戦カードの発表がなされる。なんだか注意深く見ないシエルに代わってエストが目を通してみれば、前回の大会でシエルを負かしたボーマンダの姿があった。互いに順調に進めば、何の因果か再び決勝戦で当たることとなる。この時のために頑張ってきたエストとシエルであったが、やはりこうして本番になれば緊張する。当然、当人も緊張しているだろうと顔を上げたエストが見たのはシエルの大きな欠伸であったのだが。心配な気持ちよりいつも通りのシエルがそこにいてくれた方が何故か安心できた。きっと大丈夫、本人が感じるはずの緊張をマネージャーが感じつつ控え室へと戻っていく。

 大会が始まり二時間が経とうとしていた。シエルはどの試合にも「行ってくる」とだけ言うとさっさと行ってしまい、そして数分のうちにケロリとして控え室に戻ってきていた。エストもなんだかそれに慣れ始めた頃、ついにボーマンダとの対戦が迫ってくる。流石のシエルも呑気の真っ只中からやっと抜け出したような表情に変わった。
 ついに、決勝戦である。直前にエストは観客席へと移動することにしていた。控え室で待っているだけなど、気が気ではない。戦っているシエルと共に戦うかのような応援を彼は送ろうと考えていた。シエルに深呼吸を促すと、軽くハグを交わし口を開く。
「応援するだけじゃない。ボクも一緒に、戦ってるからね」
「ああ」
 シエルの呼応は、いつもよりずっとずっと頼もしく聞こえた。




「さあやってまいりましたァ! 決勝戦!!」
 キィンと拡声器から司会の声が響く。
「各ブロックから勝ち上がり、決勝戦まで勝ち進んだ両名の登場だ!
 Aブロックを勝ち進んだのは前回優勝、ローグ=ボーマンダ!!
 圧倒的な破壊力! そして切り札……彼を止める者は未だ現れず!
 Bブロックからは皆さんお馴染み、シエル=ガブリアス!!
 前回は衝撃の敗退、王座を取り返さんと舞い戻ってきたァ!
 さあ!! どっちが勝っても不思議ではないこの勝負!
 戦いの火蓋が! 今! 切って落とされようとしています!!」
 司会と審判が観客の熱も冷めぬうちに合図を送る。大きく振りかぶったバチが、銅鑼を震わせた瞬間、二匹は激しくぶつかり合った。


 すさまじい速さで間合いを詰めたシエル。互いのドラゴンクローがぶつかり合い、弾ける。鍔迫り合い等シエルは許さず、右に左に竜の力を宿した鉤爪が舞う。ローグも負けてはおらず、それらを捌きつつ隙あらば重い一撃を鉤爪にぶつけんとしており、シエルが危うげにそれを回避する。
 しかしやはり、動きの速さというものは徐々に剣戟にあらわれてくる。速さと正確さでいえばシエルの方が上手だったか、一撃を読み切ったシエルから鋭い反撃が左前脚を襲った。ドラゴンタイプに特に有効なドラゴンクローが炸裂し、怯んだローグにすぐさまドラゴンテールで追撃を入れていく。重い尻尾の薙ぎが直撃したローグは四肢を強く踏みしめ、地面にくっきりと四つの跡を残しつつも後退させられた。 前回の勝負でもそうであった、シエルはその速さと正確さで力を生かす選手だった。ローグを前回の勝負でもそれで着々と追い詰めていたのだ。だが、突然の強大な力の開放に成す術なく倒れたのもまた事実である。
 距離の空いた二匹、この時を逃さずローグはすぐさま力の開放を始める。以前と同じ、ローグからあふれ出る光が会場を満たしていく。させるものかと突っ込むシエルだが、凄まじいエネルギーの流れに思わず足を止めてしまう。このまま突撃するのは非常に危険だと、本能が告げる。ギリリと歯軋りをしつつ、何が来ても裁けるようにと身をかがめ構える。 最後の瞬間に、エネルギーがあたりへと散っていく。同時に霧散する光から姿を現したのは、あの時の姿である。エネルギーの流れが消え他のだから待つ必要なしと、踏み込むシエルの速度を超えて、ローグは空へと飛びあがる。ガブリアスも飛べるとはいえ、できるのは跳躍と滑空程度である。ご自慢の腕力も届かなければ意味はないが、あろうことか中をかいた鉤爪を地面へと叩きつけていた。馬鹿みたいな力でぶん殴られた地面は哀れ、いとも簡単に亀裂が入り形を崩す。そこに四股を踏むように足を叩きつけると、鋭くとがった物騒な岩が地面から顔を出す。飛翔するものを容赦なく貫く岩の鋭刃、ストーンエッジが、まるで重力は上にあるかのように地面を飛び出しローグへと襲い掛かる。飛び上がることに成功して一瞬の油断を見せた途端に、岩が飛んできては避けようもない。翼を守りつつ甘んじて受けることになったのだが、シエルのアテはここで大きく外れてしまう。 岩は鋼を貫くことができずに、そこで刃先と力を失い地へ落ちる。本体に当たった岩は数えるほどで、さっぱりダメージを与えられていないのはだれが見ても明らかであった。
 しかしぼうっとしてはいられない。羽を庇ったがために高度の落ちたローグをすぐさま叩かねばならない。地面を蹴りつけると華麗に跳躍するシエル。ローグの高さを微妙に超えるほどまでに跳ぶと、ドラゴンダイブへと体制を変える。避けることはできないローグだったが、お返しを準備するのには十分な時間があったローグ。上からのしかかるシエルに一瞬遅れて捨て身タックルを仕掛ける。ガクリと高度が落ちるローグ。しかし、互いの威力は実に拮抗していた。このままでは重力に逆らっているローグがジリ貧になると判断したのか、身体を後ろへひょいとかわすとシエルは地面に向けて凄まじい速度で落ちていく。もうもうと土煙が上がるその中に、高度を上げつつ竜の波動を打ち込む。地面に波動がぶつかり、煙が晴れたそこには余裕の表情で竜の波動をかわしたシエルがいた。いや、この時ローグには余裕の表情に見えただけである。シエルの口角が上がっていたのは確かだったが、それが余裕からきているというのは間違いであったとローグはすぐにわかった。淡い光がシエルの体を包み込む。表情を引き締めキッとローグを見上げると、天に向かって咆える。 放つには相当の修練が必要、さらに使うために微動だにせず精神を集中させねば撃てない大技。ローグですら会得していないドラゴンタイプ最強の技、竜星群。このために、きっと土煙の中では竜の波動が撃ち込まれていた間すら、精神統一に使っていたはずである。余裕の表情ではなく、賭けに勝った安堵の表情であったと今気が付いた。
 さっとシエルが後退する。ローグは天を仰ぐ。もうじき、星が落ちてくる。夜空にきらきら光る小さなものを模したものではない。いわゆる星形のかわいらしいものでもない。 降り注ぐのは青い炎を纏った小隕石である。すでにそれが視認できる。散開しておらずまとまっている。これを避けるのはかなりキツそうだ。ローグはそれでもぶつかるわけにはいかない。轟々と音をたて迫る岩。寸ででそれをかわすもまだまだ数は降ってくる。大きな翼はこういう時に不利で、かわすのがやっとである。しかし、その巨体でよけきれるわけがなく、左翼に一つ直撃する。ぶつかった岩からあふれだした竜のエネルギーがその場で爆発を引き起こす。 苛烈に落ちてくる竜星群、いったいいくつが命中したのか爆発で分からなくなってはいたが、無事ではすむまいと観客も固唾を飲んで見守る。

 星も降り止み、会場に静寂が訪れる。青白い煙から巨体が地面へ向かって落ちてゆく。脱力しきった傷だらけの身体が、重力に導かれ地へと吸い込まれてゆく。そのままどうっと煙を上げて地に叩きつけられるその寸前、巨翼が宙で舞う。ギリギリで浮力を取り戻すローグ。そのまま地面すれすれを滑空するように加速し、シエルへと突撃する。傷だらけの身を顧みない言葉そのままの捨て身タックル。突然の反撃にシエルの防御は完璧ではなく、いなすこともできずに直接受け止める他なかった。竜星群が直撃した後とは思えぬ怪力にたまらず吹き飛ばされ、何とか地に足を付けると体勢を整える。ローグの継戦に観客もおおと湧き上がる。 もう後がないという事実が彼にいつも以上の力を与えているのか、捨て身タックルの反動をそのままに大きく息を吸い込む。ハッと顔を上げたシエルに襲い掛かったのはハイパーボイス。凄まじい音の暴力が全身を襲う。前回のように吹き飛ばされ、壁に叩きつけられるようなことは避けねばと、身をかがめ踏ん張る。その甲斐もあって、音が鳴りやんでもシエルはまだそこに立っていた。しかし、思わず片膝をついてしまう。強靭な脚力をもってしても、吹き飛ばされずに踏ん張るのが限界であった。
 互いに荒く息をつく。どちらも立つことすら辛いのは誰だって見て取れた。観客席からはどちらをどう応援しているのかさっぱりわからないほどの熱狂の声に包まれていた。 よろりと立ち上がるシエル。呼応するように頭を上げるローグ。ローグがもう一度ハイパーボイスを繰り出そうとしているのはシエルにも分かった。ボロボロの脚に鞭打って駆ける。 しかし、いつもの力など出るはずもない。本来なら一瞬で詰められる間合いだったが届かない。再び襲い掛かる音の中、後ろに吹き飛びはせずとも体力の限界をシエルは悟っていた。


 轟々と唸る音の中、虚ろな瞳がずっと遠くの観客席にいるエストを見つけたのは偶然であろうか。途中から入ったために、一番後ろの席にいた彼。ばたばたと翼を動かし、両手を口の左右に持って行き必死に何かを叫んでいる。

 ――頑張れ、シエル頑張れ―

 ハッと虚ろな目に光が戻る。閉じかけていた瞼を見開く。この轟音の最中、ましてやこの距離で聞こえるはずもないエストの声が聞こえる。エストの応援が聞こえる。一緒に戦ってくれているエストがいる。
 ずしん、と重い一歩を踏み出す。さらにもう一歩、大地を踏みしめる。身体は痛かった、しかし不思議と力が湧いて出た。こんなところで倒れてなどいられるものか。また一歩、彼我の距離を詰めてゆく。
 すでにローグは眼前であった。何が何でもハイパーボイスをやめるわけにいかなくなった彼の、すぐ目の前に立つ。この距離の音の威力は計り知れない。しかし、みなぎる力もまた計り知れないものであった。シエルは鉤爪を振り上げる。この戦いの、終止符を打つために。




 どうっ……という重い音と共にローグが地に伏す。シエルのドラゴンクローをまともに受け、ついに力尽きたようである。 静寂が会場に訪れる。しかし、シエルの挙げた勝どきに釣られ、観客からの歓声が会場を満たした。司会も審判も、仕事を忘れてこの熱戦を称え、喝采した。
 そんな中である、シエルの足元に何かが転がってきた。何かと思い地に視線を向けると、砂だらけの湿った球体がそこに転がっていた。ローグの姿は戻っているが、口がだらしなく開いており意識はない。審判のゴロンダがそれに気が付いたのか、喝采をやめて競技場へと入ってくる。転がっている玉がシエルのものではないことを一応聞いた後、嫌そうにそれを回収すると他の審判の元へと駆けて行った。

 結局、今大会の結果はローグの反則負けとして処理されることとなった。審判がさっさと試合終了の合図を出せばシエルの勝利として扱われたのだろうが、試合終了前に事が露見したために反則扱いとなったのだ。当然、シエルはこのことに腹を立てたのだが、表彰式で観客や主催、スタッフ全員が惜しみない拍手と歓声を送ってくれたがために結果など至極どうでもいいことは気にしなくていいかと、皆に対して嬉しそうに応えていた。
 かなり後からエストに聞いたことなのだが、ローグの持っていた玉はメガストーンと呼ばれるものらしい。固い絆で結ばれた者にキーストーンを持たせることではじめて効果を発揮する代物で、自身の能力を飛躍的に向上させることのできるアイテムだそうだ。メガストーンはまだまだ未知の部分が多く、希少性も高い。あの会場の誰もが知らなくても不思議なことではなかったようだ。

 熱の冷え切らない観客は数多く、表彰式が終わってもちらほらと残っているようだった。控室で簡単な治療を受けたシエルが控室から出ると、エストがそこに待っており、「おめでとーう!!!」という声と共に突然のハグで迎えた。おっとっと、とよろけつつもくすりと微笑んで抱き返すシエル。自然と軽くキスを交わすと、控室からの視線がいくつも背中に刺さった。そそくさと恥ずかしげに手分けして賞品を持って会場を出る二匹だった。
 会場の外にはローグがいた。タツベイも一緒である。こちらもシエルを待っていたようだが、とてもバツが悪そうである。前回の大会でも反則をしていて、勝ってしまったのだから仕方ないことだろう。二匹を前に、ローグと隣のタツベイも深々と頭を下げた。
 シエルはなんとなく直感していた。このローグは勝つためだけに反則をしていないことを。前回の大会では「負けられない」と言っていたことを覚えていた。少なくとも、反則に罪悪感を感じるだけの心の持ち主であることは見れば分かった。シエルは顔を上げさせると事情を尋ねた。ローグは面食らった表情をしてから、しばらく俯き、ぽつりぽつりと話し始めた。 ローグに親はおらず、今となりにいるタツベイの兄であり、そのタツベイの下にさらに幼い兄弟がいること。一番下のタツベイが病気をしていること。まともに働いているのでは、とても間に合わない大金がいること。
「今日優勝すればちょうどだったんだ! これで最後にしようって兄ちゃんと……」
 タツベイが辛そうに語るローグを見かねてか、話に割り込む。しかし、二匹とも余計に気分が沈んでいるのが見て取れた。この様子では、前回優勝分も剥奪することを通達されたか、すでに剥奪されているだろうとシエルとエストは予感した。落ち込む二匹に向けてシエルが口を開く。
「……二回分の賞金だな?」
 エストがハッとシエルを見る。
「私が工面しよう。それで弟を治してやれ」
 再び面食らった表情になるローグとタツベイ。この二匹を何回驚かせれば済むのかとエストはこっそり苦笑した。しかし、言い出すであろうことはなんとなくわかっていたのだった。
「そ、そんな、俺はお前に恥までかかせたのに……何故そこまで」
「楽しかったからだ」
 即答するシエル。地べたに賞品を置くとまっすぐローグを見て続けた。
「無論、タダではやらん。……お前に負けて、私はそれから頑張った。いい恋び……マネージャーもできた。そして戦ってる最中も、私はとても楽しかった。
 だから、弟が治ったら、お前はまたここに戻ってこい。主催や会場は私が何とか言う。また戦おう。それでどうだ?」
 身をかがめるとローグに右腕を差し出す。ローグの目が潤み、ぽろぽろと涙が頬を伝った。ぐすぐすと泣きながらも、右前脚を差し出す。シエルの屈託のない満面の笑みを見て、エストは優しくて素直なシエルが彼女で幸せだと、心からそう思ったのだった。



 二か月後、この街に三匹の住人がやってきた。そして、この街の競技場で新たな目玉が生まれた。 でも、それはまた別のお話し。



~おしまい~




あとがきェェェ

実はwiki本製作後に描き始めました。コータスもびっくりの遅さだァ!!
ガブフラといえば、トゥイッターで某お方がとても有名でございますね。
その方に影響されてない、といえば嘘になりますが。それでも自分の中のガブリアス像を忠実に書けて楽しかったであります。
ガブリアス、大好きです(`・ω・´)



ポッ拳参戦…? 知らないゲームですね……。

感想、指摘、アドバイス、誤字脱字の報告などがありましたらお気軽にコメントしてください。




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Last-modified: 2021-06-22 (火) 21:00:03
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