ポケモン小説wiki
プロローグ:回想と喧騒

/プロローグ:回想と喧騒

Written by水無月六丸
注意:極々一部に性的な表現を含んでいます。
 
 
 
 私は、数多くの人間の下を渡り歩いてきた。
正確には、取引によって人間から人間へと売り渡されてきたのだった。
それは私の生まれ持ったこの体……『色違い』と言われる通常とは異なる体色故である。
まだ幼く、初めてトレーナーに捕らえられた頃の私は、無邪気にもそのトレーナーを信じきっていた。
一緒に旅をし、共に戦い、絆を深め合いながら強くなっていく――人と私とはそういう関係になれるのだと、愚かにも信じていたのだ。
 
 それが叶わぬ夢想だと知るのに、いや、認めるのには暫くの時を要した。
最初のトレーナーから突然別れを告げられ、私は衝撃を受けた。理由を聞けば、私を育てていく自信を無くした、だから新しいトレーナーの下で強くなってほしいと答えが返ってきた。
 裏で金のやり取りがあった事等知る由も無かった私は泣く泣くその答えを飲み込み、新しいトレーナーについていく決意を固めた。しかし結局、私はその決意を何度も固め直す羽目になったわけだが。
 
 幾度もの繰り返しの中で、私は内罰的な方向へと傾いていった。
私はトレーナーの信頼を得られない、だから見放され捨てられる。それは私が弱いからだ。
強くなりさえすればいつかはきっと……だから強くなる。
自分を認めてほしい、見捨てないでほしい、ずっと一緒に居たい!
我ながら、馬鹿馬鹿しくなる程純粋だったと思う。その思いだけを支えにして、私は強くなろうとひたすら努力を重ねていった。
今度こそは、もっと強くなれば、絶対に――
 
 
 
 懲りずにぎこちない努力を続けていた私に、ある日真実が襲い掛かった。
ふとした事から、これまで自分が何故様々なトレーナーの下を転々としてきたのか知ってしまったのだ。それは私自身の努力の不足では無く、私の存在そのものが高値で取引されるからという抗いようの無い現実だった。
 そして同時に、これまでの私の努力が全くの無駄である事を思い知らされた。『色違い』の私にとって、強さとは単なる付加価値でしかなく、自分を救ってくれるものたりえなかったということを。下手をすれば、強くなることで自分の金銭的価値を高めるという墓穴を掘っていた可能性すらあり得た。
 
 私はひどく打ちのめされ、惨めな気持ちだった。
沸き上がる感情が怒りでなかっただけまだましであった。もし怒り狂いでもしたら、私はその時の持ち主(トレーナー)を殺してしまったに違いない。
もう戦う気力など微塵程も残っていなかった。次の持ち主(トレーナー)へと売り渡されて直ぐに、私は隙を見て自分のモンスターボールを攻撃し破壊。失意のまま当ても無く空へと飛び立った。
とにかく一人で静かになりたかった。数日間彷徨った末、手頃な横穴を見つけた私はそこを住処にした。
海辺の砂浜に隣接した、高台の上に木々が連なる場所。確か人間達が213番道路と呼んでいたその付近だ。
 
それでも、何処かに諦めのつかない自分がいた。幼き頃に見ていた夢想……幸せな自分の姿が毎晩のように夢に出てくる。
そのうちに、私は自分の運命を呪うようになった。全ての不幸は、この生まれ持った体が原因なのだと思った。
 
 この体が! この体のせいで私は傷つき、打ちのめされた! なら今度は、私が貴様を傷つけてやる!
 
 私は自ら自分の体を痛めつけた。精神が病んでいたか、あるいはそれに近い状態だったに違いない。自分を破滅させたものを蹂躙しているという復讐の快感に私は酔っていた。
自傷行為は次第に激しさを増し、一日中横穴の外に出られない程ダメージを負わせた事もあった。流れ出た血や、傷、痣で自分の体の色が塗り替えられていく様は爽快だった。
 そのような私の姿を見て、他の野生のポケモン達は不気味に思ったのか、狂っているから近づかない方が無難だと思ったのか。
それでもなければいくら手負いとはいえ、ボーマンダにちょっかいを出すのは危険だと考えたのか……縄張り意識が強いとされているポケモンですら、私の侵犯を黙認した。
そのお陰と言うべきなのか、食料を手に入れることには苦労しなかった。
死なない程度に木の実で食い繋ぐだけの、売り物にされていた時とはまるで正反対の粗末な食事。どこぞの格闘ポケモンの修行の真似事か、と茶化してみても気持ちは一向に晴れなかった。
 
 
 
 しかし、そんな中でもふと冷静な自分が戻ってくる瞬間がある。
お前は何をしているのだ、自分を傷つけても、誰もお前を哀れに思ってくれる者はいない。何時までも甘えた考えにしがみついていないで、もっと建設的になるべきではないのか?
そうだ。晴れて自由の身に、野生に帰ってきたのだぞ? 潔く過去は水に流し、余生を穏やかに過ごすべきだろう――
 出来ることならそうしたかった。全てに絶望し、己の不運を嘆きながら一生を終えるのは無論私とて不本意である。
だが、それは理性的な私の見解なのであって、無邪気な幻想を信じていた幼い頃の私――歪んだ感情は、理性の判断に対して叫び声を上げて反発するのだった。
傷の痛みよりも何よりも、この矛盾が私にとって最大の苦痛だった。だから私は、この冷静さが戻ってくる瞬間を最も恐れていた。
 
 そして結局は、誰にもこの苦しみを理解してもらえないという甘えた感情に矛盾が収束していくのである。すると、今の自分がいかに惨めな姿であるかという事を目の前に突きつけられた気分になった。
回を追う毎に寂しさが募り、遂に耐え切れなくなった私は自傷では飽き足らず、自慰までも始めるようになった。少なくとも最中は、何もかも忘れ真っ白になることができた。ただ単純に快感に悶えているだけの一匹の雌を演じられる。
行為を終えてしまうと、高揚が覚め屈辱を味わうことになった。だからより長く、より強く、より多くの快感を求めて私は荒れ狂った。
肉体、精神共に磨り減りきった私の一体何処に、そんな余力が残っていたのか分からない。思えば持ち主(トレーナー)に認められようと積み重ねていた鍛錬の日々が、私の命を繋いでいたのかもしれない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ……………………………………………。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 照りつける夏の日差しに木々が萌え、浜辺からは海水浴に興じる者達の楽しげな騒ぎが聞こえてくる。清々しく広がった青空は、飛びたいという欲求を駆り立てるには十分に魅力的だ。
 
 ここに住み着いてから、もう季節は一周回っていた。
ようやく私は、自分の運命の悲惨さを一笑に付することができるようになってきた。
流れる時が心を癒すこともある。私はそれを身を持って体験した。
流石に過去の全てを事細かに思い返す気分にはなれないが、自暴自棄になっていた一時の頃と比べれば明らかな進歩である。
周囲の野生ポケモン達も変化を感じたのか、私の姿を見ただけで逃げ出す者は少なくなっていた。話しかけてくる程の勇者は皆無だったが、今は話相手がいなくても別段孤独を感じてはいない。
私はようやく、あの忌々しい日々に別れを告げ前を見て歩き出したのだった。
 私は森を出て、外に広がる草むらの中を進む。本当なら飛び立って思い切り翼を動かしたいのだが、その下の砂浜に人間がいる。人間に対して心を許す積もりなど毛頭無いし、だからこそ、わざわざ自身の存在をアピールするような真似は絶対にしたくない。
 
 しかし、こうして太陽の下に出たはいいが特にやる事があるわけでもなかった。
こういう日には、何でも日焼けと称して一日中寝転がって時間を潰す者もいるらしいが……一体それにどれ程の意味があるというのか。
やる事が無い。そう、正に今私が直面している問題であった。
考えてみればこの上無く贅沢な悩みであると同時に、私が過去の呪縛から逃れられた証でもあるわけだが。
くうねるあそぶ。野生ポケモンの生活はこの三つの内どれかでも欠ければ、死ぬか或いはひたすら時間を持て余すかの存在になってしまうことに今更思い至った。
 暫くのろのろと考えを巡らせた後、どうやら暇潰し程度にはなりそうな事を発見した。
断崖に寝そべって、首だけちょこんと出して下の砂浜を眺める。はしゃぎ回っている者達を鼻で笑いながら優雅に見下すというものだ。連中は海に夢中であるから、まさか上から覗かれているとは思うまい。
早速私は場所を取り、馬鹿騒ぎしている下の連中を目に捉えた。寧ろ今の私の姿の方が、下にいる連中の五倍は滑稽に見えるのだろうが、その点についてはスルーしておく。
 
 
 


 
 
 人もポケモンも騒ぎの割には数が少なく、拍子抜けした。
大半は浮き輪を引っさげた子供や、男女の二人組みと連れのポケモン達である。
 夏の砂浜ならばどこでも見られるようなありふれた光景だ。砂の城を作ろうと奮闘する子供、それを眺めながら自身はベンチで日焼けをする父親。母親はパラソルの下で日焼け止めをこれでもかと言わんばかりに塗りたくる。
砂浜と言えばこのポケモン、と最早定番になりつつあるマリルとその上下進化系。
海パン一丁で「真剣に」海と格闘している、ここから見ていても暑苦しさが伝わってくるような若い男(プールへ行け、と全力で尻に“ドラゴンクロー”を決めてやりたい)。
ビキニ姿の(ビキニと云うのか? あの水着は? 実はよく分かっていない)若い女。
人数こそ少ないが、ここまでは全く普通の海水浴場の光景だ。だが、私の目に留まったのはそんな在り来たりなものでは無い。
海水浴など知ったことか、と言わんばかりに激しいバトルを繰り広げている連中が居たのだ。馬鹿騒ぎの音源は言うまでも無くその連中である。
  
 
 
「ニルス! “みずてっぽう”!」
 
 赤い帽子を被った少年が、パートナーのポッタイシに鋭い指示を飛ばす。対する相手はフライゴンだ。
セオリーだけで考えるならば、水ポケモンは大抵“れいとうビーム”を習得しているのだからフライゴンが不利か。しかし、わざわざ“みずてっぽう”を繰り出すあたりどうやらあのポッタイシ、高レベルではなさそうだ。
それに対してフライゴンは、殆ど無駄の無い動きをしている。“みずてっぽう”を体を横へ倒しただけでかわし、続く二射目も小さくサイドステップを踏みスレスレで回避した。
 
「おおっと。まだまだ……狙いが甘いよ!」
 
 フライゴンが自身の余裕を誇示するように気軽な声で言った。
どうやら虚勢では無いらしく、そいつの後ろに居る銀髪のトレーナーも緊張せずゆったりと構えている。恐らく赤帽子とはかなり実力差のあるトレーナーなのだろうが、年は大して離れていない。双方とも十代の子供に見えた。
 
「じゃ、接近戦はどうかな?」
 
 トレーナーの指示を待たず、水鉄砲をかわしたフライゴンは軽やかに跳躍しポッタイシ……ニルスに肉薄する。速い。フライゴンとはあれほど素早いポケモンだったか? 思わず疑問符が浮かぶ程に見事だった。
突然の距離レンジ変化に対応できず、ニルスの動きが止まる。決定的な隙ができたにも関わらず、フライゴンは攻撃しなかった。それ所か首をかしげて、にこやかな表情をしてみせた……奴は、遊んでいる。
 
「っ! “メタルクロー”!」
 
 赤帽子が応戦の指示を飛ばす。声に弾かれた様にニルスが二度三度と腕を振るうが、のらりくらりと動き回るフライゴンには掠りさえもしなかった。相変わらず銀髪のトレーナーは静観しているだけで、一切口を出さず勝手に戦わせている。
 
 ポケモンバトルはレベルが高くなればなる程、戦闘序盤においてトレーナーの口数が少なくなっていくものである。理由は単純明快、「そんな余裕は無いから」だ。
相手ポケモンの癖や欠点を見抜き、時には相手トレーナーの出したポケモンから控えを予測することさえ……如何に立ち回りと戦略を構築するかが勝敗を分かつ重要なポイント。故にトレーナーは十分な情報が集まるまでは、簡単な必要最低限の指示しかしない。
私の知識になぞらえるなら、銀髪は相当な実力者である事が窺える。少なくとも赤帽子を指示無しで圧倒する位には。
 
「はい隙あり♪」
 
 声は軽いが、技の切れは鋭かった。
 
「ぐふっ!?」
 
 フライゴンの“アイアンテール”がニルスの後頭部に決まり、ニルスは勢い良くうつ伏せに倒れる。すかさず追い討ちを掛けるのかと思いきや、フライゴンはゆっくりと起き上がったニルスに例の気軽な調子で話しかけた。
 
「大丈夫? 目とか口とか砂入ってない?」
 
「うん。少し視界が点滅してるけど」
 
 首を左右に振りながらニルスが答える。お疲れ様、とでもいうようにフライゴンがニルスの背中を叩いた。
 一方赤帽子はこりゃ参った、と左手で頭の後を掻いている。どうやら真剣勝負をしていたのでは無かったらしい。負けた悔しさを滲ませるのではなく、見事にしてやられた、という顔をしていた。
 
「あちゃー……、見事に4タテかぁ。肩慣らしにもならなかったですね」
 
「まあ俺の方がトレーナー暦長いしな。お前もまだまだこれからだよ。才能あるし、絶対強くなるさ。保証する」
 
 ありがとうございます、と赤帽子が差し出した手を取って握手を交わす。銀髪は離れた場所に置いてあった自分のリュックを背負い込んだ。一般的なトレーナーが使用しているモデルの、黒いリュックだ。あのモデルはホウエン地方でよく見かける物だったか? 近くで見なければ正確には判断できないが、恐らくはそうだ。
 
「ありがとな、スパーリングに付き合ってくれて。……そうだ、もし急ぎの用でも無いんだったら少し遊んでかないか? 折角夏の海にいるわけだし」
 
 お礼と同時に、思いついたように銀髪が言い出した。
 ……まではいいが。こいつ、相手の返事も聞かずにシャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ……靴と靴下を捨てて、あっという間に水着姿に変身した。更にリュックの中を漁り、ゴーグルやらシュノーケルやら、空気を抜いて潰したカイスの実柄のビニールボールやらを取り出し、万全の態勢を整えた。潰れたカイスをフライゴンが受け取ると、ポケモンの肺活量で瞬時に膨らんだ。
明らかに、くさい( ・・・)。準備が良すぎる。まさかこいつ、最初からそのつもりで赤帽子にスパーリングを頼んだのか!?
 
「そうしようよ、ユウム」
 
 銀髪の思惑通りに事は運び、ニルスが賛成した。
赤帽子……ユウムは少し黙考した後、腰のモンスターボールを三つ放り投げる。中から出てきたのはムクバード、ルクシオ、ポニータ。
鳥ポケモンが居るか。見つかる前にここを離れた方がいいだろうか? 
 
「マサゴに居た時はまだ夏じゃなかったしな! ユウムにとっ捕まっちまって今年は絶望的だと思ってたけど、ラッキーだぜい!」
 
 ムクバードが遊ぶ気満々の調子で翼をばたつかせた……これで賛成二票。
 
「ジム戦前でこんな調子でいいのか? 特にオレは次のジムでは主戦力だし、調整をしたかったんだが……ま、いっか」
 
 あまり乗り気な様子では無いルクシオも一応賛成に票を入れる……多数決ならこれで結論が出た。
 
「う~ん……海……。私水苦手なんだけどなぁ~。でも海入んなきゃいいかな?」
 
炎タイプのポニータまでもが賛成票を入れた。決定だ。
ユウムと呼ばれた赤帽子は決まりです、と銀髪に苦笑いした。全てが計画通りに運んだ銀髪はよっしゃ、とモンスターボールを投げる。
 
「ふふ、初めまして皆さん。サーナイトのアリスです」
 
現れたのはサーナイトだった。あのムクバードは多分――阿呆だが、エスパータイプなら、気配で私を察知してもおかしく無い。
とりあえず、一旦草むらまで戻るとしよう。私は首を引っ込め起き上がり、向きを変えて草むらの中へ入った。

「それじゃ、ぱーっといこうぜ、ぱーっと!」

 銀髪が景気よく大声で叫んだ。周りには他の人間も居るのだが、あまり気にしていないらしい……こいつはムクバード以上の阿呆かもな。
 
 
 
 
 
  
  
 
 結局、それから連中が何をしていたのかは見ていない。推測せずとも、余所へ迷惑を掛ける様な大騒ぎをしていた事は確かだろうが。
何せ音だけははっきり聞こえてきた。轟音や爆発音が主だったが、音源はポケモンの技だろう。まさか、人間二人をも巻き込んでバトルロイヤルでもしていたのか。そう勘繰りたくなるような叫び声を、連中は度々発していた。例えば、
 
 
 
「はっはーっ! 全員ノックアウトしてあげるよ! うをあああああぁぁ!!」

「うおおおおおおお! 特攻じゃあああああぁぁぁぁーっ!!」

「ちょっと、皆さんルール忘れてません!? これじゃ只の乱闘ごっこ――アーッ!!

「ここは漢の戦場だぜい! (おんな)は引っ込んでなぁ!!」

「挟み撃ちとかアリ!? アリなんですかそうですかげふぁ!!

「助けて……そこの人! 面白そうに見てないで助けてよ!」

「えげつない! 自重しろよ人間!!」

「ちょ、電気技はやめて! やめれてば――ひょええええぇぇぇぇ! ソクノの実プリーズ!!」
 
 
 
 といった具合だ。よくもまあ、日の暮れるまで疲れず飽きず続けたものだ。
とにかく楽しげだった。不覚にも聞き耳を立てているだけなのに、私も笑ってしまったくらいだ。


 横穴に戻った私は、朝調達しておいた木の実を適当に口に放り込む。空腹を満たした後は、まだ大分早い時間だが眠りに就くことにした。
冷たい土へ横になり目を閉じると、昼間見聞きした事が思い出された。私も、何処かで間違えなければあのようになっていたのだろうか? あんな馬鹿共とつるんで、心底楽しそうで、眩しくて……。
 嗚呼、やはり私は光を掴み損ねたのだ。太陽に近づきすぎた者は翼をもがれ地に落とされる。
私は正にそうだった。光が欲しくて、近づきたくて、翼を手に入れたまではいいが……落ちてしまった。
奈落の底から脱し今はどうにか地上にいるが、再び飛ぶことはもう諦めた。
そう、自然こそが私の居場所。野生こそが私の生きる道。

 一抹の寂しさが胸に染み入る。気のせいだ、と私は自分に言い聞かせた。
よしんば寂しくてもここを離れ新天地を見つければ、誰か仲間になってくれる者もいよう。だから気のせいだ。
らしく無い。私には全くボーマンダらしさが無い。
たとえ雌でも、こんなに女々しい奴は世界中探しても何処にも居まい。私は『色違い』である事は認めて受け入れたが、精神的な面でまで自分が珍しい存在である事を認める積もりは一切無い。これ以上自身に希少価値(プレミア)を付けてどうする? また売られ歩き(・ ・ ・ ・ ・)の生活に戻るか?
 
 冗談じゃない! 私はもう一生、人間と関わらない! そう誓ったのではなかったか!?
 誓いが綻びかけているのなら、新たに誓い直す! もう一度――でも――しかし――。
  
 私の思考は錯綜したまま何処に帰結するのかも知れず、延々と廻り続ける。
駄目だ駄目だ駄目だ! 惑わされるな、私はもう立ち直った筈だろう! 
今更迷う必要などあるものか。全て忘れたのだ。そうだ、私は忘れる術を知っている……。
 
 土の上を転がり、横穴の天井に大きな白い腹を向ける。
そして、長い尾の先端を秘所へと宛がった……全てを忘却し、余計な思考を取り除けるあの真っ白な瞬間を求めて。
 
 
 
 
 
 
 
 
                                         ――眩しさに恋焦がれて――



感想・気になった点などありましたらどうぞ。


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.