人間の脳は全動物の中で一番優れていると思う。そう思う理由の一つで、他の生物の脳の中身を見ることが出来ないから、そう思うしかない………と言うのがある。もちろん、人間同士互いの脳の中身を見ることが出来ない。もしも人間が他人の脳の中身を見る術を見につけたならば、私はそれを変身と呼びたい。
人間の肉体は脳によって動かされる。考えると言う行動は脳があるから出来る。五感を認識するのは脳だ。個人の性格や性癖も脳内のデータの一つに過ぎない。「脳イコールその人間」と考えられないだろうか? いや、「脳イコール生物」としても良い。
脳の中身を見ると言う事は、その人間の情報を観察し、知ってしまう。その人間の全てを知った者はその人間になってしまうのでは………。
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ブレインマン
Ⅰ Voice
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小さい頃から笑い声が聞こえた。夜、眠るときに暗闇から聞こえるその声に怯え、母のもとへ泣き寄った覚えがある。その声は私にしか聞こえないらしく、一人だけ実体の無い者の声を聞ける私は周りから電波的な扱いを受けていた。その声は私に話しかけてくる。たまに私は返事をする。周りには聞こえない声に返事をするので、他人からは独り言を呟いているかのように見えるわけだ。だから周りから気持ち悪く見られていた。
その声は女の子の声。少女の声だ。そして人間の声ではない。人間の声とあまり違いが無いのだが、何故か人間の声ではないと思った。そしてその声は様々な聞こえ方をする。耳の傍で呟くようにぼそぼそと聞こえたり、壁越しに話をしているかのように曇っていたり、普通に向き合って話しているかのように澄みきったり。
私がいくつの時だったかは忘れたが、あるキルリアの夢を見た。たぶん、その幻聴が聞こえ始めてからあまり時がたっていないと思う。真っ白の何も無い空間に、私とキルリアが二人っきり。そのキルリアは私に歩み寄り、話しかける。驚いた事に、あの幻聴の声で話しかけた。
「やっと見つけてくれたね。いや、『見てくれたね』って言った方がいいかな?」
「君だったの? いつも僕に話しかけてたのは。」
「そうだよ。」
「君は何なの? 何時も何処から僕に話しかけているの?」
「私は君の脳内に住み着いてる………いわば寄生虫。常に君の脳内を回って君に話しかけてるんだ。」
「何? それ?」
「世界には色々な能力を持つポケモンがいる。だから私の様な変種が突然生まれてきても可笑しくないでしょう?」
「よく解らない」
「つまり、私は君の頭の中に住んでいる。君の頭の中に住んでいるから、君にしか見えないし、君にしか話しかけれない。解る?」
「………」
その頃の私では理解できなかった。いや、今でも理解できていないのかもしれない。
脳内に住み着く彼女は少し大人だった。子供だった私に解りやすく、少し子供相手に馬鹿にした口調で自分の説明をしていた。私は解ってもいないのに頷いていた。
「君の名前は何?」
「知らないの?」
「何時も君が一方的に話しかけてくるんじゃないか」
「そうだっけね。名乗った事無かったのかもしれない………。私の名前かぁ。そう言えば知らないな。親がいるのかも解らないし、私と言う変種のポケモンはまだ発見されていないみたいだし。」
「自分で決めれば?」
「決めてくれないの?」
「嫌だ。何か怖い。」
「名前を決める事が怖いの? 変だね。」
名前を決めるのに怖がるわけが無かった。ただ、この時の私は彼女に名前を与えるのが嫌だった。理由は覚えていない。照れくさかったのだろうか?
「んん………。自分の名前を決めるのって嫌だなぁ。この容姿のままで『キルリア』でいい?」
「キルリアなの?」
「違うよ。キルリアの格好が個人的に好きだからこの格好でいるだけ。」
「自分の好きな姿になれるの? メタモンみたい。」
「正確には私がこの姿になっているんじゃ無くて、君にそう見せているだけ。私の本当の姿は私も分からないのかもしれない。実体が無いもの………。」
「………」
「脳は英語でブレイン………。ブレインでいいかな?」
「格好悪いよ。」
「そう? 私は結構気に入ったけど。」
「レインは? レインでどう?」
「レイン?」
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