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ブライド・ブラインド

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とびうさんよりディマイン&フォール.png
素敵な挿絵をいただきました。作者さんについてはこちらにて。



「ねえ、ディマイン? 折角だし、アローラ地方にあるリゾートに行ってみない?」

 旅行パンフレットの束を手に、テールナーは黒のダイケンキに声を掛ける。目を輝かせて尻尾を振り、何かを期待しているのは間違いない。そんな彼女に対して、ディマインと呼ばれたダイケンキの方はと言うと……。

「あー? フォール、なんかトレーニングできるようなダンジョンでもあるのか?」

 トレーニング用のゴムベルトを何本もポールに括りつけ、大幅に強めた負荷の中で腕の動きを確認している。目線は腕にばかり向いており、やって来たテールナーのフォールにもパンフレットの束にも全く目を向けない。返した言葉からしても、体を鍛えることにしか気持ちが無いのがわかる。

「えっ? あー……あるんじゃないかな?」

 心が動かない様子はいつも通りであるのだが、それでも当惑の色を見せるフォール。幾度と見せつけられてきた彼の難攻不落ぶりに、先程の期待も一刀両断とされる。

「んー? どれ?」
「あっ?」

 フォールが戸惑った一瞬。相手の様子を気にしていたわけではないが、ディマインは何の気もなく空いている片手でパンフレットの束を掻っ攫う。同時にゴム束を引っ張っていたもう片手も開放し、パンフレットをめくろうとした瞬間。留められていないため間から小さめのチラシが落ちる。

「と、悪い。ジューン、ブラインド……? 間違ったのが入ってたな」
「ちょ……」

 まず「ジューンブライド」と読み間違いを指摘したかった。この「ブラインド」という読み方だと「盲目」といった意味合いであり、それは「恋は盲目」と今のフォール自身を指摘するかのような言いようである。そしてゴールデンウィークにリゾートでの旅行から、それで関係を深めて一気にジューンブライドを狙おうというフォールの目的まで見えそうなのに、全く気付くことも無くただ純粋にチラシを返す。フォールはそれを受け取った後は、パンフレットにダンジョン情報が無いかを探すディマインを呆然と眺めるばかり。指摘しようにも次の言葉も出なかった。

 ディマインは悪い人物ではない。しかし自身を鍛えることにばかり没頭し過ぎていて様々な常識が欠落している。一方で相手はこの難攻不落の朴念仁だというのに、好きになってしまったフォールも不幸なものである。



ブライド・ブラインド



 既に数年前の話である。地方都市からも少し離れた片田舎ではあるが、それでもある程度の住民を抱える地域。ディマインもフォールもここで育ってきた幼馴染だ。子供の頃から自分を鍛えるばかりのディマインに、フォールのみならず町民揃って呆れていたのだが……。

「チンピラが流れ着いた?」
「話を聞くんだからトレーニングは中断しようか」

 基礎的な素振りではあるが、アシガタナの模型には大量の重りが付けられている練習用である。珍しく相談事を持ち込まれ、ディマインもそれを無碍に断るほど悪いやつではないのだが、如何せん聞きながらでもトレーニングは中断しないでいた態度が問題である。相談を持ち掛けてきたライチュウも苛立ち呆れた表情で。

「まあ、被害が無いならいいんじゃないか?」
「昼夜騒いでいられるだけでも落ち着かないし、あんな連中にいられたら他の観光客が来れなくなるんだよ!」

 この地域は観光客を集めて経済基盤の一部としている地方都市だが、観光客に交じってたまにとんでもない「客」がやってくることもある。勿論観光を産業とするからにはこういった「ろくでもない客」との付き合いは避けられない宿命であるし、様々な人物が出入りする中で目立たなくなることを好む「非常にろくでもない客」も出てくるのは仕方ないのだが。

「みんな色々と気にし過ぎのような気がするけどな」
「あんたが無神経すぎるんだっての!」

 ライチュウの怒鳴り声に、しかしディマインは「そういうものなのか」「よくわからないがまた怒られた」と疑問符を顔に浮かべる。その声の向こうで、どこからか彼女の言うチンピラが騒いでいる爆音が今も聞こえてきているというのにである。数が多くて入れ代わり立ち代わりの上、移動しながらのためいつどこでこの爆音に襲われるかもわかったものではない状況なのだ。

「まあ、黙らせて欲しいんならちょっと行ってくる」
「あんた独りで何十匹相手にするんだい!」

 言われるやすぐさまアシガタナを抜き、颯爽と爆音の方に駆けだそうとするディマイン。聞こえている音だけでも向こうには相当な頭数がいるというのはわかるのに、こうも何も考えてないと心配になるばかりである。当のディマインは「まだ何か言いたいことがあるらしい」と相変わらずの疑問符の顔で振り返るだけであるが。

「いいかい? 今週中に連中を押さえるための傭兵さんを呼んだんだ。来たらまた伝えるから、その時に傭兵さんたちの応援に入るんだ」

 ライチュウをはじめチンピラたちに迷惑を被っている住民たちは、既にあちこちで動いて手を打っていたのである。警備やダンジョン探索等で歴戦の傭兵部隊に依頼を出したほか、町の住民でも彼らと協力して戦える仲間を水面下で募っているのである。ディマイン一人に投げるような無責任ではない一方、強さの面ではディマインも認められていることはわかる。わかるのだが……。

「わかった。応援って言うと、後ろで掛け声とかを出せばいい感じか?」

 たとえ強くても匹夫の勇、或いは脳筋。傭兵部隊と協力できるかはどこまでも不安ばかりである。一応、傭兵部隊を揃えて交渉することで迷惑行為を抑え込めれば一旦は区切りとするのは計画である。だがこのままだと交渉前から突っ走るようなことも十二分に想像できる有様だ。いくら強いと思っても、彼への声掛けは間違いだったのではないかとライチュウの息には暗澹たる思いが色濃く混じる。



「そうなんだ。ディマインも手伝ってくれるのね?」
「たまにはあいつにも役に立って貰いたいんだけど、あれじゃあ前途多難だね」

 ため息を吐くライチュウに対し、フォールも苦い笑顔で頷く。幼馴染ということもあり、いつの間にかトレーニングばかりで常識が疎かになっていたディマインのことはフォールもよくわかっているのだ。それでもいざ戦いになったら役に立って欲しいという淡い期待はあったが。

「あ、危ない! 違う!」
「ぶっ! またかい!」

 ライチュウが啜ったお茶を飲み下そうとした瞬間、フォールは慌てて叫ぶ。ライチュウは少々驚きはしたが、飲み下すことには間に合い冷静に湯呑に飲み物を吐き戻す。これも慣れたものである。

「今回は間違えないように違うデザインの袋に入れてたのに、なんでよりによって似たデザインのパッケージのお茶を持ってきたんだろう?」

 口をすすぐために流し場に立ったライチュウに、棚から贈答品の茶葉のパッケージを取り出して見せる。並べてみると黒っぽい袋は共通だが、紋様が入っているためすぐわかりそうなものである。すぐに口をすすいで戻ってきたライチュウは、二つを並べているのを見て内心「これは後でもう一度間違えるやつだ」と呆れ顔であり。

「……それで、今度は何と間違えたの?」

 ライチュウの脳裏にげんなりと過去のトラウマが浮かび上がる。以前は間違いに気付くのが間に合わず飲み下してしまい、便秘気味だった体調から解放される代償で数日下痢に苦しんだ。フォールは薬師を目指して色々なものを煮たり燻したりして調剤を繰り返しているのだが、如何せん取り間違えが多く失敗を繰り返している。この町にはこんなのしかいないのかと、ライチュウはもう一度小さくため息。

「調合した惚れ薬」
「それ、一度も上手くいってないやつだよね!」

 このやり取りももう何度となく繰り返したらしい。以前も「惚れ薬」を間違って飲んでしまったことはあったのだが、結局「ちょっと変わった味のお茶」という結果で済んだ。もはや「調合成功して自分がフォールに惚れてしまう」という危険性はどうでもよくなってしまっているのだ。

「今度こそ上手くいって……素敵な方の花嫁さんになるんだから!」

 謝罪もそこそこに、フォールは自分の夢を目を輝かせて語る。これもまた何度目というやり取りであり。花嫁となることを夢見て惚れ薬の調合に血道を上げるのだが、そもそもそんなものが成功するのかすら疑問というのが周囲の一様な評である。手っ取り早く技の「メロメロ」を使った方が早いのではないかとも言われるが、フォール曰く「向こうから愛されたい」とのことで駄目らしい。

「なんか……もういいや」

 これに関してももう止めることができないと、周囲はいい加減諦めている。最近ではたまに体調不良の男性が出ると「フォールに惚れられて薬を盛られたのでは?」というブラックジョークも出る程だ。フォールが言うには「まだ運命の人には巡り会えてない」とのことであるが。流石に「ディマインはどうだ?」とまで言う者はいないが、このとんでもぶりから一部では「寧ろお似合いなのでは?」という噂も流れる有様である。

「あ! 薬草一種類足りなかった」

 フォールはそんな不穏な一言を呟くや、すぐさま本棚に飛びつく。この唐突さもいつものことであり、かつ不穏であるためライチュウも戦慄している。今度は間違いなく惚れ薬の方の袋を開いてにおいを嗅ぎ、再び本に飛びついて原料の植物の特徴を調べると、次の瞬間には採取のための籠を手に取っていた。いきなり駆けだそうとしたディマインよりもさらに早い。

「ちょ、ちょっと! どっかに行くの?」
「よし! ちょっと採ってくるね!」

 ライチュウの頬の毛並みがすぼむ。今は町なかでいつチンピラに遭遇するかわからない状況で、独り歩きは危険と誰もが連れ添って警戒して歩いている。お陰で直接襲われる被害こそ今のところ無かったが、後をつけられるような不気味な状況は何度もあったのだ。傭兵部隊が来ることで解決が見えそうなのもあり、その後にした方がいいのではないかとライチュウは止めようとするが。

「待ちなよ! チンピラどもが解決してから!」
「そうはいかないよ。運命の方はいつ巡り合えるかわからないから!」

 フォールにすればそれこそ傭兵部隊に運命の方がいるかもしれないとでも思ったのだろう。ライチュウが止める声も空しく次の瞬間にはいなくなっていた。悪いことにならなければいいと、ライチュウは不安のまま額にしわ寄せる。とんでもない相手が次から次へとやってきて、重い空気をどうにかしたいと窓に手を掛ける。

「6月だね……」

 小康状態なのか、外は思いのほか騒がしくはなかった。騒がしかったとしてもその方がマシなくらい空気が重苦しいのは、ひとえにこの季節もあるのかもしれない。空は曇りがちで雨の日も多く、マシな外でも湿度がまとわりついて堪らない。遠い国だと6月はこぞって結婚式を挙げる時期なのだが、それは向こうだと快晴が続く爽やかな気候になるからであろう。他所の風習を取り入れるにしても盲目的にならずもう少し自国の風土を考えるべきというのは、誰の言葉であっただろうか。



 町から外れた山からの帰り道。籠には目的の野草の他、思いがけず見つけた茸等が満載となりご満悦のフォール。向かう方角はまたも迷惑千万な爆音が鳴り始まっているが、恐らく住み込んでいる下宿よりは先のためチンピラに遭遇することは無いだろう。足取り軽く進んでいると……。

「よお、お嬢ちゃん。上機嫌だね?」

 後ろから声を掛けてきたのはルンパッパであった。手拍子をするのに発達した掌をこちらに振って見せて気さくだが、まずもって不穏な声掛けだろう。しかも、である。雨受け皿となっている葉の左右両端に、紋様の入ったピアスと鎖を並べてぶら下げて音を鳴らしている。これは例のチンピラたちの共通の装束である。

「な、なっ……。何か、ご用ですか?」
「そう怯えるんじゃねえ。俺たちは仲間を集めているんだ。平たく言えばスカウトだな」

 ルンパッパとは逆の方から挟み込むように、ボーマンダが野卑に声を上げて笑いながら現れた。こちらは両頬の角に付けたピアス以上に、額に大きく入れられた紋様の入墨が威圧的である。メンバーのピアスには共通でこの紋様が入っているのだが、よりにもよって凶暴さで知られるリーダーのボーマンダに見つかってしまったのだ。

「あの……。私にはやりたい仕事があるので……」
「あらあら? 私たちと一緒に楽しむ時間も取れない? ブラック労働?」

 あんまり真正面から拒否すると、ボーマンダのまさに逆鱗に触れることになるだろうが、続いて現れたマホイップはどうにも口が回りそうだ。トレードマークのピアスは、マホイップは両のこめかみのクリーム状の塊に張り付けて固定しているが、チェーンは音が鳴るようにぶら下がっている状態だ。相当な趣味らしい。せめてこの場をやり過ごすために、嘘でもいいから言い抜けないといけないのだが……。

「じゃあ、後日伺います。お約束します」
「そっか。なら迎えに行くから、今はアタシが家まで送っていくよ」

 この場から離れるために意を決してついた加入の嘘も、見透かされたようにミミロップに退路を断たれる。いくら傭兵部隊が来る日付が近いと言っても、下宿を知られては最悪である。毎日押しかけられでもしたら、自分のみならず同じ下宿で暮らす仲間にも迷惑がかかる。

「あの、その……」
「まあ、それよりも先に仲間の証を付けてやらないとな」

 絶叫を飲みこむのが精いっぱいであった。現れたレディアンは手にトレードマークのピアスとチェーンを持って差し出し、今すぐにでもつけてやろうと言わんばかりであった。彼らにとっては自慢の逸品でも、フォールにとってはおぞましさの塊でしかない。しかもつけるのがそれでなかったとしても、耳に穴をあけるなんて最悪を究める。すっかり縮み上がって言葉が出なくなったフォールに対し、チンピラ5匹は畳みかけるように一歩近寄り。

「お嬢ちゃん?」
「入るんだろ?」
「何か言いなね?」
「遠慮するんじゃないよ?」
「欲しいんだろ?」

「やかましいぞ!」

 フォールに対する威圧を消し飛ばす、外からの一喝。チンピラたちは忌々しげに、フォールは縋るような思いでそちらに目を向けると。漆黒に染まる貝殻のような甲冑を纏うダイケンキ。紛うことなくディマインである。取り囲むチンピラたちに縮み上がり何を言うこともできないフォールであったが、まさかディマインが自身のピンチに駆けつけてくれるなんて思わなかった。

「お前には関係ないだろ!」
「悪いが、そんなに殺気立って騒いでいたら流石にやかましいと思ってな」

 物分かりが非常に悪いディマインだが、それでも彼らが殺気立っているのは感じ取ったらしい。実際、彼らはフォールが少しでも断ってきたらどうしようかと殺気立っていた。そこに邪魔するように現れたため、この殺気は当然のごとくディマインへと殺到する。

「随分な態度だな? 痛い目見ないとわからないか!」

 ボーマンダは舌打ち一つ。大きく吸った息は刹那の後には衝撃波「竜の波動」となりディマインに放たれる。しかしディマインも動きは速かった。瞬く間もなく両前脚のアシガタナの柄を掴み、抜きざまに竜の波動を叩き切る。その居合抜きはそのまま振りかぶりの動作となり、手出ししてきたとあって最早一も二も無くなった相手の額で交差する。

「がっ! あっ……!」
「リーダー!」

 思わぬ手痛い反撃によろけて下がり、しかしボーマンダも頭(かぶり)を振ると体勢を立て直すのは流石のものである。しかし自慢の入墨がある額にはしっかり切り傷が入ってしまい、それは部下たちに対して崇拝の対象を傷つけられたことと衝撃を与える。

「お前……お前……!」
「アタシらの命、傷つけてくれたね!」

 ボーマンダのみならず、他の4匹も怒り心頭で立ちふさがるように並ぶ。最早フォールのスカウトなどどうでも良くなり、ただディマインに制裁を下すことだけが瞳の中で燃えていた。

「先に手を出したのはそいつだからな?」
「やかましいわね! 許すと思わないで!」

 マホイップが怒鳴り声と共にマジカルシャインを放つと、それに合わせて退路を塞ぐようにルンパッパがエナジーボールを放つ。ディマインは冷静に、エナジーボールを飛び越えてそのまま頭頂の花弁にアシガタナを叩き込む。振り下ろすまでにまとわりついた破片が、ルンパッパに追撃を与える。秘剣・千重波。

「てめ! よくこうも!」

 ふらふらと戦列から離れるのがやっとのルンパッパの頭上を飛んで抜けて、レディアンはディマインの頭上中空に位置取り。滞空したまま翅を擦り合わせて不協和音・虫のさざめきを響かせる。彼らにとっては或いは快音なのかもしれないが、ディマインにとっては不快極まりない。だがそれも主たる狙いではなかった。

「掛かるか!」

 背後から跳び膝蹴りで突っ込んでくるミミロップを、鰭状の尻尾で絡め取り水平に一回転。そのアクアテールの動きのままにミミロップを投げ飛ばし、レディアンに叩きつけて一気に2匹をノックアウトさせる。だがその回転モーションの中でもディマインは次の攻撃への流れを欠かさず、既に振り上げていたアシガタナは身構えていたマホイップを無視して突っ込もうと体勢を構えていたボーマンダに叩き込んでいた。

「……まだ、やるか?」
「くっ! うわあああ!」

 瞬く間に4匹がノックアウトとなり、マホイップも気が折れて逃げ出すか降参するか。そんなことは無く、仲間を見捨てられないことと5対1で負ける面目丸つぶれとで我を忘れ、破れかぶれに飛び付きながらマジカルシャインを放つ。ディマインはそれを躱すでもなく黙って受けると、多少の痛痒は顔に出しながらも躱せないアクアテールを真正面からマホイップの額に叩きつける。鈍い打撃音からのあまりに長い数秒。マホイップのピアスとチェーンはばらばらと力なく地に落ちる。

「まったく……遂に襲い掛かってきたか」

 その頃にはルンパッパも秘剣・千重波で突き刺さった破片の継続ダメージで意識を失っていた。周りに増援のチンピラがいないことも確認し、ディマインは呆れたように息を吐く。この時になってようやく一安心できたフォールと目が合い。

「あ……。ディマイン、ありがとう」
「フォールか。別に、礼を言われることじゃない」

 普段はあまりにも物分かりが悪い残念な奴だと思っていたディマインが、自分のピンチに駆けつけてくれた。それだけでも信じられないのに、まさにヒーローと言うべき戦いぶりもごく当たり前のことと意に介していなかった。ディマインがここまで格好いいふるまいを見せるなんて思ってもみなかった。

「で、でも……」
「まあでも、一部始終見てたのか? なら報告は頼む」

 言いながらディマインは町の中心部の方角を一瞥。チンピラの仲間たちもこの町はずれで何があったかまだ知らない様子のまま、相も変わらずの馬鹿騒ぎである。ことが知られる前に報告をした方がいいというのはディマインもわかるらしい。

「うん、わかった。ありがとう」
「じゃあ、気を付けて戻れよ」

 フォールはもう一度ディマインに礼を言うと、駆け足で町の方へと去っていった。その背中を見送ると、ディマインは道端の木陰に向かい。

「思わぬ実戦だったが、まあいい練習だったな。報告は苦手だから、あいつが済ませてくれるなら俺の方が助かる」

 その場に下ろしておいたトレーニング用の大量の重石を慣れた手つきで体中に装着していく。ディマインはあくまでもトレーニングで重石をつけてのランニングのため、ただ偶然ここを通りがかっただけなのである。そこで殺気立った騒ぎが起こっていたため何があったのかと声は掛けたのだが、その中で縮み上がって存在感が無かったフォールには全く気付いていなかったのである。薬草採取の帰りに連絡を受けて、この騒ぎの様子を見に来た程度にしか思っていなかった。まさか自分がピンチのフォールを助けたなどと、全く思っていなかったのである。本当であれば報告に戻らないといけないのだろうが、フォールが先に報告してくれるならその方がいいと、ディマインは本当に何の気もなくトレーニングに戻ってしまったのである。

 だが、フォールもフォールで全くディマインの本当のことを気付かずにいた。自分のピンチに颯爽と駆けつけて、襲ってきたチンピラたちを華麗に片付け、大活躍も誇る様子も無い。まさか運命の方が既にいたなんてと目を輝かせるフォールの耳に、周囲の「そんなものではないと思う」という声は本当に聞こえてすらいなかった。



 その後傭兵部隊がやってきて、チンピラたちは鎮圧された。その際の戦闘にはディマインも加わっていたのだが、何か悪い物でも摂取したのだろうか酷い嘔吐に苦しむ中だった。その為活躍は控えめで、傭兵部隊の隊長も事が終わった後に心配そうに見ていた。一方で事情を知る者たちは、その原因とすれ違う思いに手を合わせるのであった。どう足掻いても自分のものにならない彼と、そんな相手への思いに落ちてしまった彼女。そのどうにもならない関係は今日も続くのである。




自分です。
今回はいつもの自分とは違う恋愛要素が強い作品を書いてみ「ました。これは挑戦とかそういった気持ちは一切なく、ツイッターで見た他の方の漫画に触発されたからです。ディマインのような脳筋キャラをジューンブライドに引きずり込もうとして成功の芽も見えない女の子のシリーズ(他にもいろいろなキャラが登場しますが)を見て、気が付いたら「彼女が好きになった原因はこんなところじゃないか?」と浮かんできてしまったものです。その後好きになった成り行きについて聞いてみたら「もっとひでえ」内容だったことに戦慄しました。まあ、その辺の設定があることだけは流石に予想していましたが。そんなわけで供養をすべく種族を入れ替えて焼き直したわけです。ディマインの脳筋ぶりはともかく、フォールは「ただ憧れている乙女」以外はもう少し普通の子にするつもりだったのですがね……。あとはチンピラたちの種族を「ライ」で揃えなかったのは割と不覚だったかもしれないと思っています。

ちなみにラストで少し触れましたが、二人の名前もいつもの「種族名から一字は取る」だけでは終わりませんでした。ディマインは「de(英単語の頭につくと『否定』等の意味が付く)」+「mine(私のもの)」で「私のものではない」、フォールは「fall(落ちる)」で、特にディマインは若干無理矢理ではありますけど二人の姿を示す名前になってしまうという形になりました。

ではまた、次の作品にて。




冒頭にも出させていただきましたが、とびうさんより挿絵をいただきました。
この作品は「影響された」形で書かせていただいたわけですが、その影響元となったのがこちらのとびうさんだったりします。
ディマインとフォールの関係はおいでませポケリゾヲトの、シノブくんとアゲハさんから連想したものになります。但し思いついた後訊いてみたところ、この二人はそれはそれで全く別の関係性だったわけですが。
他にも楽しいキャラが沢山登場するので、ぜひ見ていただけたらと思います。
シノブくんとアゲハさんの関係が分かりやすい漫画も置いておくので、是非楽しんでください。
https://twitter.com/apsmeagle/status/1356535790201933825
https://twitter.com/apsmeagle/status/1371073040088371210
https://twitter.com/apsmeagle/status/1532497288761065472

お名前:
  • オレさんが書いたものだってわかりませんでした。なんと言いますか、作品自体はとってもいいんです。いいんですが……。その、なんというからしくないというか……。
    俎板の鯉、オレさんの前に置かれた船盛りよろしくもはやどうすることもできず、食べられちゃって、皆等しく栄養分にされてしまうという「オレさん的ハッピーエンド」はいずこへ行ってしまったのでしょうか、と思わずにはいられませんでした。
    お互い、創作頑張ってまいりましょう、ではでは。 -- 呂蒙
  • >呂蒙さん
     い つ も の
    まあ実際のところ自分でもいつもの自分の作品とは違うとは思ってますがね! 触発されて書いたため、次にまたこういう作品がかけるかと言ったらなかなかない気がします。 -- オレ

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Last-modified: 2023-01-02 (月) 15:20:46
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