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フレイとアクアと記憶の記録

/フレイとアクアと記憶の記録

「ここは……果樹園?」
「そうみたいね……」

 まずいなぁ……ここで人間に見つかったら何されるか……。兎に角ここから離れる事にしよう……ってアクアは何をやってるんだ?

「ねぇねぇ! 凄いよ! 珍しい木の実が沢山あるよ!」
「止めようよ……人間が来たら捕まっちゃうよ? 攻撃されちゃうよ?」

 その広大な敷地には視界一杯に木が植えられていて、この辺では全く見かけないミクルの実・ジャポの実みたいな珍しい木の実も沢山生っている。……人間は凄いなぁ……これを僕たちも出来たらわざわざ木の実探ししなくても良くなるのにな……。

「あ、駄目だよ! 勝手に取ったら怒られる……」
「いいじゃないの。こんなに沢山あるんだから、一つや二つ採っても大丈夫だよ」

 いや、そういう問題では……盗む事がいけないんだよ?
 アクアが木の実に手を伸ばしたその時、何者かが近づく音が聞こえてきた。

「貴方達、木の実泥棒かしら?」


== Page-4 - You who defended me ==

 嗚呼、父さん母さん群れの皆御免なさい。僕たちは「近付いてはいけない」人間の果樹園に、近付く所か入ってしまいました。

「うわぁ! だ、誰? メ、メガニウム!?」
「それはこちらの台詞なんですよ? 貴方達こそ誰ですか?」

 僕の目の前には僕やアクアより数倍大きいメガニウムが立ちはだかり、僕たちを見下す様にみている。果樹園に近づけばここにいるポケモンに攻撃される……きっと僕たちも同じように攻撃されてしまうんだ……。

「ここにある木の実は、私のご主人やその仲間が大切に育てているものなの。勝手に取っていくなら見過ごす訳にはいかないわよ」
「ごごご、ごめんなさい……ここに来るつもりは無かったんです……ひっく……木の実を盗むつもりも無いんです」

 どうしようどうしようどうしよう……このままじゃこのままじゃ……。つるのむちが伸びてくるのに、怯えて泣いている僕は気がつかなかった。

「やめて! フレイは悪くないの! 私が……私を追いかけてここに入ってしまったの。フレイは悪くないから、悪いのは私だから攻撃しないで!」

 アクアがメガニウムの前へ僕を庇うように立ちはだかる。そして必死に僕を守ろうとする。

「ふふ、大丈夫。取って食べようとは思っていないから、安心して」

 つるのむちが僕に伸びると、僕の涙を拭いてくれた。

「……攻撃してこないんですか?」
「貴方達はここに迷い込んだだけでしょう? 悪いことしていないのにそんな事できる訳は無いでしょう……」

 良かった……。何とか無事に帰ることが出来そうだ。何もして来ないと分かると、緊張も一気に解れる。

「私はここで木の実の手入れをしているの。他のポケモン達と一緒にね。今はご主人は小屋に戻っていないけど、もしここに居たのなら貴方達捕まってるわよ? 見つからない内に森へお帰りなさい。今ならまだ間に合うから……」

 メガニウムは僕たちに優しく笑いかけると、背を向けて歩き出した。これで一先ず安心だね。早く森に帰ろうか……。

「あ、あの……私に何かお手伝いさせてください!」

 メガニウムウが足を止める。僕も帰ろうとしていた足を止める。そして目が点になる。

「そんな事言われてもねぇ……どうしましょう……」

 何を言い出すのかと思ったら、このメガニウムの手伝いをするって……。僕たちこのメガニウムから見たら果樹園を荒らすかも知れない野生のポケモンなのに、そんな事許可してくれるはずは無いと思うんだけどなぁ。と言うか、僕は早くここから立ち去りたいのに……。

「アクア……本当にやるの? 止めておこうよ?」
「迷惑掛けたんだから……ちゃんと責任取らないとね」

 これもアクアらしいと言えばアクアらしいのだが、僕はいつも冷や冷やさせられる。メガニウムは少し悩んでいるようだ。

「……そうね、そこまでやる気があるなら手伝ってもらおうかしら」
「有難う御座いますっ」

 本当に大丈夫なのかな……。人間に捕まらないことを祈るしかないのかな……。

「それなら早速だけど、シャワーズちゃんにはみずでっぽうで水やりして貰おうかしら。今日は水やり担当のカメックスが居なくて、どうしようかと思っていたのよ」
「分りましたっ。任せてください! ……あ、それと、私はアクアと言います。よろしくお願いします!」
「ぼ、僕はフレイです……よろしくです」
「私はフラウ。よろしくね。……フレイ君には私と一緒に雑草取りを手伝ってくれるかな?」
「は、はいっ」

 こうして僕たちはフラウさんのお手伝いをする事になった。アクアは僕とフラウさんが雑草を取り終えると、みずでっぽうで水をやる。それを規則正しく並んだ木々に一列一列、順番にしてあげる。アクアが水を噴く度に奇麗な虹が出来上がって、木々はとても瑞々しい。
 そんなこんなですっかり日が傾いてしまった。雑草取り、枝の手入れ、木の実の収穫、アクアは水やりを。久し振りの労働に二人でくたくたになってしまったけど、フラウさんのご主人お手製木の実のミックスジュースを飲んだらそんな疲れも一気に吹き飛んでしまった。フラウさんはそれ程疲れていないようだったけど、やっぱりここでの生活が長いからだろうか。

「手伝ってくれて有難う。本当は明日までかかる予定だったんだけど、二人のお陰でかなり捗ったわ」

 嬉しそうに笑っているフラウさんの顔をみて、僕もレインも嬉しくなる。

「フラウ! 今日はもう帰るぞ。……このポケモンは何だ? また泥棒か?」

 フラウさんと話していると、一人の人間がやってきた。僕とレインは思わず身構えた。人間が僕達を睨んでくる。何されるんだろう……捕まるのかな……拷問とかされるとか……。

「ご主人、この子達は泥棒じゃないわ。この子達は木の手入れを手伝ってくれたの。お陰で今日中に全部の木の手入れは終わったわ」
「そうか……怖がらせて済まなかったな。……そう言う事ならお礼をしなくてはいけないな」

 そう言うと、人間が近くにあったミクルの実を数個採ると、袋に入れて僕に渡してきた。

「これは正当な労働報酬だ。受け取ってくれ」
「あ、ありがとうございます……」

 僕はそれを口で受け取る。結構沢山あるけどいいのかな? かなり珍しい木の実なのに。……でも、好意はちゃんと受け取らないとね。家に帰ったら父さんと母さんと一緒に食べようかな。あ、アクアと半分こしてからね。人間は「じゃあな」と言うと、フラウさんを連れて歩き出した。

「あの! ……またここに来ても良いですか?」

 アクアがそう人間に話しかけると、背中を向けたまま右手を上げて返した。きっと「また来ても良い」のだろう。人間は怖いと思っていたけど、優しい人間もいるんだなぁ……。

「そろそろ帰ろう? 早くしなと夜になっちゃうよ」
「そうね……もう日が落ちてきているわね……」
「走って帰ろうか」
「え……でも……私脚そんなに早くないから……」
「別に大丈夫だよ」

 アクアに背を向けて、地面に腰をおろす。おぶって走れば幾分かは早く家に帰れるだろうからね。

「ほら、背中に乗って」
「いいの?」
「全然大丈夫! ……多分」
「分かった……ありがとう……フレイ」
「しっかり掴まっていてね! 行くよっ!」

 草原で競争した後の様に、背中にアクアを乗せて走り出す。アクアは振り落とされないようにしっかりと僕に掴まっている。南の森を抜けて競争した草原へと出ると、空には星が出ていて太陽の代わりに三日月が昇っていた。草原を抜けて再び森に入り暫く走ると、父さんと母さんとアクアのお母さんが僕たちを迎えに来ていた。


== Page-5 -Taletelling ==

 結局家に着いたのはすっかり夜が更けた後。父さんと母さんにはこってりと怒られたが、珍しい木の実を持ってきたことは褒めてくれたし、それのお陰で今回の門限破りはちゃらにしてくれた。

「あはは……私もお母さんに凄く怒られたよ~」
「アクア、何だか反省してないみたい……」
「だって、ルールは破るためにあるのよ? 従ってばかりじゃ詰らないもの」
「ルールは守ろうよ……」

 あれから何度か群れの皆に内緒で、二人で人間の果樹園に手伝いに行っている。最近は人間ともよく話すようになった。ここで一緒に過ごさないかと誘われたけど、僕には父さんも母さんもいるし、群れの皆もいるからその話は断った。アクアはやっぱり僕に付いていくと言って同じように断っていた。本当は果樹園に居たいと思っているのは知っていたんだけどね。

「楽しいからいいじゃない。フレイだって楽しいでしょ?」
「いや、そう言う問題じゃ無いと思うよ?」

 確かに楽しいけど……アクアと一緒に居れるなら。でも、何時か皆にばれないか……と不安になるんだよね……。アクアはそんな事考えたことは無いって笑って言ってたけど。

「おやおや、御二人さん。仲の良い事ですね」
「あ、グラス……」

 僕とアクアのやり取りを、遠くから見ていたグラスがやってきた。こいつはいじめっ子……いつも僕を苛めてきた……。外面だけはいいが、中身は真黒だ。こいつは……嫌いだ……。

「これはこれは、泣き虫フレイ君。何時も何時も女の子に守って貰って、恥ずかしく無いのかな?」
「うぐっ……」

 反論出来ない。確かに僕はアクアに頼りっぱなしだったから。だからこいつの言っている事に対して言い返す事ができない……。

「ねぇアクア、こんなひ弱なフレイの何所が良いの? こんな奴より僕と一緒に……」
「フレイを悪く言わないで! それに、フレイは貴方と違って(ポケモン)を傷つけたりしないわ! それに、フレイは優しいの!」
「僕は(ポケモン)を傷つけた事なんて無いけどなぁ……ねぇ? フレイ君? 僕も優しいよね?」

 僕を睨みつけてこないでよ……。言葉に全然説得力がないけど、それを言うとまたリーフブレード使ってくるんだろうな……。相手は草、僕は炎。相性では有利なんだけどこいつには勝てる気がしない。ただ単に僕が戦闘をしたくないだけなんだけど……。

「何言ってるの。何時もフレイを苛めてたじゃない!」
「チッ……見てたのか……まぁいいや。今日はこれくらいにしておいてあげるよ。二人の邪魔したら悪いからね……」
「ええ、早く目の前から消えて。お願い。私貴方が嫌いなの」

 グラスがニコニコと笑いながら僕に近づいてくる。また何かしてくるんだろうか……。

「近いうちに君とアクアはバラバラになるよ……ふふ……覚悟しておくんだね……」

 僕の耳元でアクアに聞こえないように呟くと、グラスは何処かへ消えていった。不敵に笑っていたその顔は、何やら企んでいるようだった。僕には言葉の意味がよく分らなかった。

――――――

 あれから一週間経ったある日、僕は父さんに呼ばれた。

「フレイ、ちょっと来なさい」

 珍しく険悪な雰囲気で僕を部屋へと呼ぶ。その顔は怒っている様にも悲しんでいる様にも見えた。

「……お前、人間の所に行っているらしいな。それもアクアちゃんも一緒に連れて」
「な、何でそれを?」

 父さんにも群れの皆にも、「南の森に木の実がなる木を沢山見つけたから採りに行ってくる」としか言っていない。南の森に行っているのはせいぜい僕とアクア位だから、他の仲間にはばれないと思っていたのに……何で?

「グラス君が長老に言ったそうだ。「嫌がるアクアを無理やり人間の所に連れていっている」と。「無理矢理働かせて、代わりに木の実を貰っている」と。お前がそんな事する子だとは思っていなかったよ……。アクアちゃんのお母さんもかなりショックだったようだ。もう会わないでくれと言われたよ」

 あいつが……。そうか、あの時の言葉は……そう言う意味だったのか……。

「違う……違う……僕はそんな事しない……僕は……そんな事していない! アイツが嘘を言ってるんだ!」
「グラス君がそんな事する訳無いだろう。兎に角だ……もうアクアには会わない事だ。そうすれば群れの皆には黙っていてくれるそうだ」

 父さんはグラスの事を知らないから、グラスの言葉を信用しているのか……。僕は……実の子供なのに……信用されていないのか……。

「確かに人間の所に行ったけど……行ったけど、無理やり連れて行ったりなんかしてない! 僕はアクアに誘われて行っただ……」

 左頬に何かが当たった。何が当たったのか暫く分からなかったけど、父さんを見てわかった。父さんの手が僕の左頬を強く叩いた。

「人のせいにするんじゃない!」
「う……うぅ……うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 もう何が何だか分からず、どうしてこうなったかも分からず、家を飛び出した。僕は何もしていない……何も……なのに何故……。その様子をグラスが笑いながら見ていたなんて僕は知るはずもなかった。


== Page-6 Flame side - Decision ==

「おい! フレイ! 待ちなさい!」

 父さんが僕を呼び止める声がした。でも僕はそれを無視して南の崖へと走って行った。父さんは僕を信じてくれなかった。全部僕がした事だと思っている。どうして僕だけがこんな目に遭わなければいけないの? 僕何か悪いことしたの? 確かに人間の所に行ったのは悪かったと思ってる……けど、僕はアクアを無理やり連れていったりしていない。そんなことアクアにしたくないしさせたくない……。僕はどうすればいいの? 誰か……誰か教えてよ……。

「うぐっ……ひっく……うぅ……うぁぁ……うわぁぁぁぁぁん!」

 何だかとても悲しい。悔しい。アクアと離れたくない……でもアクアに近付いてはいけない……。僕にはどうする事も出来ない……。もう嫌だ……嫌だ嫌だ……もう何もかもが嫌になってきた。……目の前には崖……いっその事ここに飛び込んだら、全てが楽になるのだろうか……。でも、僕にはそれをする勇気すらない。……死ぬのは怖いんだ……。

「フレイ……? こんな所で何してるの? あらあら、そんなに顔をぐしゃぐしゃにしちゃって……こっちへいらっしゃい」
「ううっ……ぐすっ……母さん……どうしてここへ?」

 どうしてここに居るんだろうか……。確か今日は食糧探しの日じゃないはず。

「家に帰ってみれば、フレイがこっちの方に飛び出して行ったって聞いたから、お母さん心配になって追いかけてきちゃったの」

 母さんは心配してここに来てくれたんだ……。それが分ると少し心に余裕ができる。そして思う。もし僕がここで飛び降りでもしたらきっと母さんは悲しむ……。アクアも悲しむかな……。そう思ったら飛び降りようとしていた自分に腹が立った。母さんやアクアを悲しませる様な事をしようとしていた自分に。悲しんだ顔は見たくない……ずっと笑っていて欲しい……。
 僕は何が起こったのか、どうしてこんな事になったのかすべて話した。嘘偽りなく。

「そう、そんな事があったのね……」
「母さんも……僕の事……疑ってる?」
「何言ってるの……自分の子供を信じてあげれなくて、母親は出来ないわよ? 母さんはフレイの事信じてるから安心して」

 良かった……母さんは僕の事信じてくれる……僕の事を。そう思うと悲しさからではなく嬉しさでまた涙が出てきた。泣き虫と言われてもいいから兎に角泣きたかった。

「ぐすっ……お母さぁぁぁぁぁん」
「あらあら、また泣いちゃったのかしら。ふふ、フレイは昔っから泣き虫だったものね。気が済むまで泣きなさい」

 母さんは優しく抱きしめてくれた。とても温かくて、まるでアクアが僕に何時もしてくれてる様に。

「母さんもね、フレイの様にお父さんと引き離された事があったの。敵対する群れ同士での恋愛だったから、両親から強く反対されてね。それでもお父さんの事を好きだったから……二人で駆け落ちしちゃったの。諦めきれなかったからね」

「そうだったんだ……」

 母さんは余り自分の事は話してくれないから、そういう事があって父さんと結ばれたなんて今日初めて知った。母さんは父さんが好きだったから、どんな事があっても諦めなかったんだ……。

「フレイもアクアちゃんの事が好きなら、それ位の覚悟で臨みなさい? ……大丈夫、フレイが居なくなっても、母さんの息子であることは変わりないんだから。それに何時かは母さんの元を離れなければいけないでしょう? それが少し早くなるだけよ……」
「母さん……」

 母さんのその紫色の瞳は僕の事を全て見通しているようだ。母さんは何をすればいいのか、僕がどうすればいいのかは敢えて言わなかった。僕が自然と行動を起こす様に導いてくれる。

「僕……アクアを探してくるよ」
「行ってらっしゃい……アクアちゃんは南の森の方へ向ったらしいから、そちらに行ってみなさい」
「ありがとう、母さん」

 急いで南の森に向かう。逢ってはいけないなんてもう僕には関係ない。母さんと父さんがしたみたいに、僕はアクアが好きだから……だからアクアに逢いに行くんだ……。誰にも邪魔されたくなんかない!

――――――

「……さてと、帰ったらお父さんをキツ~く叱ってあげないとね。息子を信じてあげれないなんて、あの人も親としてまだまだね……。あの子、崖から飛び降りようとしてたのよ? ……もし飛び降りたらどうする積りだったのかしら……。フレイが死んだら……あの子が死んだらどう責任取ってくれるのかしら……。お父さんのバカ……」


== Page-6 Aqua side - Distorted desire ==

「フレイ……フレイ……もう貴方に会ってはいけないなんて……私には無理だよ……」

 すっかり暗くなった南の森の手前にある草原。フレイとアクアが競争したそこには、今はアクアしかいない。月明かりだけが彼女を照らしている。何時も笑っているその表情は暗く、思いつめているようだ。そんなアクアの後ろから一匹のリーフィアが笑いながら近づいてきた。その気配を感じ取ったのかアクアは、リーフィアの方を向くと睨むような眼で見つめた。

「アクアも大変だったね。あんな奴に無理やり人間の所に連れて行かれるなんて……。でも、もう大丈夫だよ」
「やっぱり……貴方の仕業だったのね……グラス……」

 アクアも母親からフレイの事を聞いた。そしてもう二度とフレイには会わないようにと泣きながら言われた。アクアは必死にフレイは悪くないと言ったが、母親は兎に角人間の下に行っていた事がショックだった様で、アクアの話を聞くことは無かった。

「そうだよ? 君とフレイを引き離す為にしたんだよ。……見事に僕の思った通りに事が運んで、もう笑いしか出ないよ」
「引き離す……ですって……」
「そう。何時も君にべったりのフレイを君から引き離す為。僕には邪魔なんだよ。あのブースターが……邪魔で邪魔で仕方ないんだよ。でも……これで漸く二人きりになれたね」

 ケラケラと嬉しそうに笑いながら、一歩……また一歩……アクアに近付いていく。直ぐに近寄らずわざと相手を怖がらせるかのように、ゆっくりとした足取りで。アクアは距離を取るように後ずさりして、逃げるタイミングを計っていた。

「やめて。近寄らないで。これ以上近づいたら……」
「近づいたら……どうするの? 言ってごらん?」

 アクアがグラスにみずでっぽうを放とうとした時、グラスは一気に近づきアクアを押し倒すと、強引に唇を奪った。必死にもがいて抵抗するが、草結びによって前肢と後脚と尻尾を縛られ動けなくなってしまう。

 グラスは嫌がるアクアの口腔内に無理やり舌を入れて犯し始め、興奮して荒い鼻息がアクアの顔にかかる。暫くアクアの舌の感触を楽しむと、苦しそうにしているアクアを見てグラスは口を犯すのを止めた。

「はぁはぁ……嫌がっている顔も可愛いよ……アクア……」
「やめて……お願いだから……やめてよ……」
「不安なのかい? 大丈夫……そんな不安もすぐに消えてなくなるよ……」

 キスを止めると、その舌を片方の胸へと移動させる。乳房をなぞる様に舌を這わせ、片肢でもう片方の膨らみかけた胸を触りだす。そして子供のように胸の突起物にしゃぶり付くと、片肢で突起物をコロコロ転がすように厭らしく弄り始める。

「ひやぁっ! やめてぇ! 吸っちゃだめぇ!」
「その表情も可愛いね。もっと見せてよ、淫らな姿を……」

 嫌がるアクアの表情はむしろグラスの性欲を刺激するだけで、吸われる度揉まれる度に身体を仰け反らせてビクビクと震わせている。アクアの秘所からは感じている事の証である愛液が、尻尾を伝い糸を引いて零れ落ち小さな水溜りを作っていた。

「いやぁっ、はぁっ……あぁっ」
「嫌がっていても体は正直な様だね……もうこんなに濡れちゃって……」
「そんな事……無いもん……」
「ふふ、そう言ってもほら、こんなに出てきてるじゃないか」

 割れ目を前肢()でなぞると、秘所と前肢の間に透明の橋が架かる。グラスは前肢に付いた愛液を舐めると、その前肢を膣内(なか)へと入れる。間違って処女膜を破らないように、且つ強く刺激を与えるようにピストンを始める。前肢を出し入れする度に静寂は支配する草原に卑猥な音が響き渡り、前肢を引く度に割れ目からは愛液が零れ落ちる。

「あぁっ、いやぁっ、やぁぁっ、あぁぁっ!」
「どう? 気持ち良いでしょ。これからもっと気持ち良くしてあげる……もっと濡らさないと僕のが入らないからね……」
「それって……どういう意味……」

 アクアの言葉を無視して股の間に顔を埋めると、今度は舌で割れ目をなぞる様に動かす。そして舌を穴の中に入れて膣内で暴れさせる。ぴちゃぴちゃと、わざと音を立てて秘所を攻めていく。グラスは溢れ出てきた愛液を溢さない様にと全て飲み込んだ。

「あ、ああっ、ひゃぁぁぁっ、あぁぁぁっ!」

 暫く舌で楽しんだ後、徐に口を秘所から離す。アクアの顔をみてニヤリと笑うと、クリトリスの包皮をゆっくりと下に動かしていきそれを露にする。

「雌はここが一番敏感らしいね……さぁ、どんな声を聞かせてくれるかな?」

 ゆっくり焦らすように口を近付けていき先端を舌で舐めると、クリトリスを甘噛みした。

「いやっ! だめっ! あぁぁっ! きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 全身に強い刺激が走り体を大きく仰け反らせ、秘所からは大量の潮を噴くと、それは顔を埋めていたグラスに全てかかった。アクアは絶頂を迎え、口から涎を垂らしながら力なく項垂れる。グラスは顔にかかった潮を前肢で拭いて舐め取ると、再びアクアに覆いかぶさる体勢になる。

「はぁ……はぁ……」
「そろそろいいかな。僕のこれも、早く君の中に出したいって言って言うことを聞かないんだよ」

 そう言うと、自身のそそり立ったモノをアクアに見せる。ピクピクと脈打っており、赤く膨張したそれは今にも噴火しそうな程までになっている。

「お願い……処女は……奪わないで……お願いだから……」
「う~ん、それは無理。だって君の初めてを奪いたいもの。君の清純を穢したいからね。……そして僕の子供を産んでもらうんだ」
「いやっ……いやぁぁぁぁ! やめてよぉぉぉぉぉ!」

 アクアは泣いて必死にお願いするが、グラスはそれを聞こうとしない。子供を産まされるかも知れないと分ると、首を横に振って更にお願いするが、やはりグラスはそれを聞こうとしないで無理矢理繋がろうとしている。

「ずっと……君とこうする事を考えていたんだよ……。君を見かけては、頭の中で何度も何度も犯した。そして何度も君の中に僕のものを出した。初めはそれだけで満足してたんだけど、最近は我慢できなくなってね。何時か君を犯してやろうと思ってたんだよ。……それにはフレイが邪魔だったから、こうして君と引き離したんだ。今日僕の願いが遂に叶うんだ……」
「そ……そんな……助けてよ……フレイ……助けて……」
「恐怖に怯えた顔って好きだよ。大丈夫、痛いのは膜が破れる初めだけ。直ぐに痛みなんか忘れて気持ち良くなるから」
「ううっ……ぐすっ……お願いだから……離して……」

 アクアの頬を優しくなでると、少しずつ少しずつ、腰を下ろして肉棒を秘所へと近付けていく。

「これでやっと……君と一つになれるよ……アクア……」

 グラスのモノがアクアに触れたその時……

「アクアを離せ!」
「ん? 誰だっ……う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 突然グラスの天と地が逆転する。何者かがグラスに体当たりをした。勢いよく吹き飛ばされて地面に転がり込むと、グラスは苦痛に歪んだ顔で体当たりをした相手を睨みつける。

「アクア! 大丈夫!?」
「フレイ……助けに来てくれたんだね」
「うん……兎に角ここから離れよう! 背中に乗って!」

 フレイはくさむずびを解くと、姿勢を低くしてアクアの前に座る。アクアはフレイの背中に乗ると、しっかりとしがみ付いた。

「フレイの癖によくも僕に体当たりしてくれたな……。アクアは……お前なんかに渡さない! アクアは僕だけのモノだ! 絶対に逃がさない!」

 グラスは恋敵であるフレイに行為を邪魔されて憤慨していた。鬼の形相で勢い良くフレイに向かって走り出し、リーフブレードを仕掛ける。それを避けようともせず、フレイはアクアに話しかけた。

「僕……今までアクアに守って貰ってばかりだったから……今日は僕がアクアを守る!」

 そう言うと、フレイはグラスに向かってかえんほうしゃを放った。アクアを守りたいという気持ちと、グラスに対する憎悪の念を込めて。それはグラスに直撃した。それを確認すると、フレイは南の森へと走り去っていく。

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁっ! フ、フレイ……よくも……よくもやってくれたなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! コロス! 絶対お前をコロシテヤル!! 何所までも追いかけて必ずコロシテヤル!!!!」

 グラスは全身に火傷を負って、頭を抱えながらのたうち回り、痛みで涙を流しながら森中に響く声で叫んだ。


== Page-7 - Escape and giving shelter to ==

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 どれ位走っただろうか、草原を抜けて南の森を走り続けた。フレイは兎に角逃げる事だけを考えて、アクアをグラスから守る事だけを考えて走った。フレイの後ろからグラスの叫び声が聞こえてくる。それはしっかりとフレイの耳に入った。……耳が良い事を恨んだのはこれが初めてかな……フレイはそう思いながら走り続けた。

「フレイ、大丈夫? 息切らしてるけど……」
「大丈夫、心配いらないよ……はは……」

 フレイが息を切らして走っているのに気がついて、アクアが心配そうに話しかける。疲れてるなら降りようか? ……とアクアが言うと、全然大丈夫だから心配しないで……と笑いながら言った。その笑い顔はアクアには見えていなかったが、何と無くフレイが心配かけまいと笑っている様な気がして、アクアは申し訳無さそうにしていた。必死に自分を守ってくれるフレイを見ると、嬉しさとそして罪悪感で自然と涙が零れ落ちてくる。

「ここまで逃げてきたら安心かな……はぁはぁ……」

 もう追ってこれまいと、足を止めた。ゆっくりアクアを下ろし、その場に座り込んで体を休めた。アクアがフレイの隣に同じように座る。

「うっ、ううっ、ぐすっ……」
「どうしたの? アクア……」
「私のせいでフレイに……ぐすっ……ごめんなさい、私が人間のところに行こうって誘ったから……」
「アクアは悪くない。悪いのは全部あいつだ。あいつがこんな事しなければ……」

 フレイは泣きじゃくっているアクアを慰めた。君は悪くない……と。彼女の涙を見るのはこれで二度目。

「もう……僕はこれで群れには戻れないね……。グラスの奴、僕が悪者のように群れの皆に言いふらすはずだから……。きっと群れの皆は君を連れ戻しに来るよ」
「そんな……嫌っ! 私フレイと離れたくない! フレイと離れ離れになるなんて……出来ないよ……」
「僕は君から離れたりしないよ」

 アクアが連れ戻すという言葉に反応して、必死にフレイにしがみ付き暫く放そうとしなかった。そんなアクアを見てフレイは宥める様に頭を撫でてあげる。

「あら……貴方達は……」
「貴女は……フラウさん? 何故ここに?」
「何故ってフレイ君、ここは果樹園よ?」

 よくよく辺りを見回すと、そこはもう見慣れた風景。木々が規則正しく並んでいて、この辺りには生っていない木の実も沢山あるここは、自分たちが何時も手伝いに来ている果樹園だった。無我夢中で走り続けていたのでいつの間にここへ着いたのか分らなかった。

「こんな時間にどうしたの? ……何やら訳がありそうね。今日は遅いから取り敢えずついていらっしゃい」

 フラウは二人の様子がおかしい事に気がついて、事情を聴くためにご主人と住んでいる家へと招き入れた。フレイとアクアも行く場所がないのでフラウの誘いに甘える事にした。家に入るとフラウさんのご主人が、いつも果樹園の手伝いをしてくれていたという事もあって快く迎え入れてくれた。

「そんな事があったの……全く、(おんな)の子を無理矢理襲うなんてサイテーな(おとこ)ね。今度会ったら引っ叩いてやりなさい。それか私に言って。説教してあげるから」
「あ、ありがとうございます……」

 フラウは無理やり迫ったグラスに対して酷く憤慨していた。それはやはり女性の立場故なのか。そしてアクアを勇気付ける様に、笑いかけながら話した。
 フレイもアクアの体を心配していた。無理矢理犯された事で、体に何か異常は起こっていないかと気が気ではなかった。

「アクア、体は大丈夫なの? 無理やり押さえつけられてたし、怪我とかしてない?」
「ええ、大丈夫。有難うフレイ……。でも、もう少し来るのが遅かったら……」
「間に合って良かったよ……」

 もう少し遅かったら……自分の清純は汚されていた。そして無理矢理子供を作らされていたかも知れない……。そう思うとゾッとした。背筋に寒気が走った。そして、改めてフレイが助けに来てくれた事に感謝した。

「群れの皆はどうしてるんだろうか……きっと僕たちの事探し回ってると思うよ」
「……そうね、ちょっとクロウに様子を見てきて貰おうかしら。クロウ~、居る~?」
「何だ? 呼んだか?」

 フレイは群れの様子が気になって仕方がなかった。きっと大変な事になっているに違いない、火傷を負ったグラスが見つかれば大騒ぎになる筈だ……と。

「ちょっとお願いがあるんだけど」
「ん、こいつらは誰だ? 新しい仲間か?」
「前に言った野生のポケモンよ。時々手入れを手伝って貰っているのよ」

 一匹のヤミカラスが部屋に入ってきた。体中の毛はボサボサで余り手入れをしていない様にも見えた。

「おう、こいつ等が例のポケモンか。こんな所に来るなんて、物好きな奴もいるものだな。それでお願いって何だ?」
「ちょっとこの子達の群れの様子を見てきて欲しいの。北の方に行けばあるらしいから」
「分かった。んじゃ行ってくる」

 フレイとアクアとクロウはお互いに自己紹介を終えると、クロウは勢いよく窓から飛び出して行った。クロウにも事の顛末全て話し、事情を分かってもらった。

「ただいま。帰ってきたぞ」
「お帰り。どうだった?」

 三十分程してクロウが返ってきたが、何やら表情が暗い。その様子にフレイは、自分が予想している通りの事が起きているんだと確信する。

「様子見てきたが、何だか凄い事になってんぞ。そのブースターが群れのリーフィアを殺そうとしたって言ってたな。後はシャワーズを拉致していったって」

 クロウが見てきた群れの様子は凄まじいものだった。クロウは自分が見てきたものを全て伝えた。
 群れの一人がグラスが何時までも帰って来ない事を心配して探しに行くと、全身火傷を負ったグラスを草原で発見した。急いで群へ連れて帰り傷の手当をすると、グレイがフレイに殺されそうになったと話したのだ。アクアと自分の関係に嫉妬して自分を殺そうとしたと……、そしてアクアを無理やり連れ去ったと……。
 それを聞いた長老が、群れ総出でフレイとアクアを探すようにと言ったのだ。全員でこの南の森まで探しに来ていて、直ぐそこまで来ているとフレイとアクアに伝えた。

「今森中を探し回ってるぞ。近い内にこの果樹園まで来るだろうな。それと、お前の両親らしきエーフィとブラッキーを見つけたが、群れから追い出されたようだ」
「そ、そんな……」

 群れを追い出されたと聞いてフレイは顔面が蒼白になった。両親には迷惑をかけたくないと思っていたのに、自分の行いが裏目に出てしまったと深く後悔した。
 そんな二人を見てフラウは居ても立ってもいられず、二人をここに匿う事に決めた。愛し合う二人が離れ離れになってしまうのを、ただ見ている事は出来なかったのだ。

「暫くここに居て良いわ。ご主人も理由を聞いたら遠慮なく居て貰ってもいいって言ってくれたから」
「いや、でも……」

 フレイはこのままではフラウに迷惑がかかるのではと思い、体を休めたら直ぐにでも出て行こうと思っていた。それでもフラウは居ていいと言ってくれた。その優しさを無駄にしてはいけないと思い、フレイとアクアは暫くここに隠れる事にした。

「いいのいいの。それに、こう言うのは遠慮なく受け取るものなのよ。それに、迷惑がかかると思ってるかもしれないけど、そんな心配はしなくてもいいわ」
「あ、ありがとうございます……」
「うんうん、それでいいの。さっ、お腹すいたでしょ。ご主人がご飯作ってくれてるから行きましょう」

 フラウは二人に優しく笑いかけると、ダイニングへと連れて行った。部屋からはマトマのスープの匂いがしてきた。


== Page-8 - Pursuer and the pursued ==

「おーおー、ぞろぞろとやってくるな。ご苦労なこった」

 森の向こうから足音が聞こえてきた。十や二十の足音が、列をなして近付いてくる。漆黒の夜空に身を隠しながら、クロウは群れの連中を見張っていた。
 一直線に、果樹園を目指して。フレイとアクアを連れ帰るために。クロウは気付かれない様に、群れの動きに合わせて空を飛んでいた。
 群れの動きが果樹園の入り口で止む。そして話し声が聞こえてくる。クロウは近くの木の枝にとまると、耳を澄ませて会話を聞いた。

「ここが人間の果樹園か。フレイとアクアは本当にいるのか?」
「グラスが言うにはここに隠れていると」
「普段からここに来ていた様ですし、逃げた方向も此方ですから間違いないかと」

 リーダー格のポケモンとその後ろに付いていたポケモンが話し始める。

「ここには人間がいる。そして、人間に飼いならされたポケモンもだ。聞いた話によると、飼いならされたポケモンは相当強いそうだが……」
「それでもこの人数相手では太刀打ち出来ないでしょう。此方には殆どの属性のポケモンが居ますから」
「油断は禁物だ! ……相手が一匹とは限らないぞ」
「……分りました」

 人間のポケモンはある程度育てられている。その殆どが野生のポケモンでは手足が出ない程に。リーダー格のポケモンはそれを分かっているので、これ程までに沢山のポケモン達を従えて来たのだ。力で負けるなら数で勝負……と。

「まぁ、相手が誰だろうとフレイとアクアは必ず連れ戻す。いいな」
「はい!」

 リーダー格の一言に全員が返事を返す。統率がとれているその様は如何にも兵隊の様に見えた。

「全く……面倒な事をしてくれる連中だ……。二人の事は放っとけばいいものを……。そうはいかないんだろうけど」

 クロウは不思議に思っていた。なぜここまでして二人を追ってくるのかと。大体の二人の事情は分かるとは言え、群れから厄介者が居なくなったんだから、ここまで追いかけなくても良いのでは無いかと。それ以前に、原因を作ったリーフィアはよく嘘がばれないなと、ここまで群れの皆を信用させているんだから相当な策士なんだろうなと、少し呆れながらも関心していた。

「こんな時間だ。人間はもうとっくに寝ているはずだ。……ただ、油断はするなよ。見張りのポケモンが居るやもしれん」
「既に見張られています……何者かが先ほどからこちらの様子を伺っている様です」

 空を見上げはしなかったが、クロウの存在はすでに気が付かれていたようだ。矢張りは野生のポケモン。クロウの様に人間に長い間仕えているポケモンのそれよりは、『野生の第六感』と言うものが遙かに強い。

「あちゃ~、見つかってたか。仕方ない、フラウを呼んでこようか」

 クロウは急いで家へと向かった。これ以上は果樹園に侵入されて、下手すれば荒らされてしまうと思ったからだ。

「どうだった?」
「もう入口まで来てるぞ。お前ら二人連れて帰る気満々だぞ」
「……私から一つ、ガツンと言ってやろうかしら」

 フラウとクロウは部屋から出ていくと、果樹園を通って群れの連中が居る入口へと向かっていった。

「アクア……ここから出ていこう。これ以上フラウさんやフラウさんのご主人に迷惑をかける訳には……」
「うん……私も同じ事思ってた。元々私たち二人の問題だものね……これ以上迷惑かけたくは無い」

 フレイとアクアは部屋から出て行った。途中フラウのご主人と廊下でばったり会った。迷惑がかかるからここから立ち去りますとフレイが言うと、フラウの主人はそうか……と一言呟いた後小さな袋をフレイに渡した。袋には木の実が数種類入っていた。お腹が空いたら食べると良い……そう言い残してフラウの主人は何処かへと行ってしまった。
 背中に向かって精一杯感謝の意を込めて、二人で礼を言った。そして開いていた窓から飛び降りると、再び森の中へと入っていく。

「東の山の方に行こう。あそこは誰も来ないと思うから」
「で、でも危険だって……」

 フレイはアクアを背中に乗せると、隠れるように果樹園を出て行った。フレイとアクアからフラウとクロウの姿は見えなかったが、恐らく居るであろう果樹園の入り口に向かって、心の中で何度も感謝の言葉と謝罪の言葉を述べた。
 一匹のポケモンがそれを見逃してはいなかった

「あら? また野生のポケモンかしら。貴方達、木の実の盗みに来たのかしら?」
「いや、違う。二人のポケモンを探している」
「そう。ここに来るポケモンは沢山いるから、覚えているかどうか分からないわよ」
「ここにブースターとシャワーズが来なかったか?」

 フラウはずっしりと身構え、壁のように群れの連中に立ちはだかってこれ以上侵入させないようにした。ジロリと見つめるその眼は、群れの連中を恐れさせるのに十分な威力だったが、リーダー格のポケモンは怯む事無くフラウへと近付いて行く。

「何度か来たことはあるわね。その子たちがどうしたの?」
「連れ戻しに来た。ここに匿っているんだろう……」
「断るわ。貴方たちこそ、何か勘違いしているようね。あの子達は悪くない。悪いのは全部リーフィアよ……そう言っていたわ」
「そんなの口から出まかせに決まっているだろう! 現にグラスは殺されかけたんだ!」
「正当防衛……だったらどうするの? フレイ君がアクアちゃんを守るためにした事だったら……」
「それは……どう言う意味だ」

 フラウは二人から聞いた話を群れの連中にすべて話した。
 リーダー格のポケモンは、フラウの話を聞くと眉間にしわを寄せて考え込んでしまった。暫くの間二人の間に静寂が訪れる。
 考えが纏まったのか、ふと群れの連中の方へと振り向くと、口を開いた。

「……一旦戻るぞ。長老に報告だ。それと、追い出したあの二人を群れに連れて帰るんだ……。事情が変わった」
「もう二度とここには近付かない事ね。今日は何もしないであげるけど、次ぎ来たら威嚇だけじゃ済まないからね」

 群れの連中がぞろぞろと列をなして森へと帰っていく。フラウとクロウも家へと戻って行った。
 フラウとクロウが部屋に戻った時、二人はもうそこには居なかった。


== Page-9 - Let's go out to travel ==

 東の山。ごつごつした岩場や崖が其処彼処にあり、登り慣れていないポケモンや人間が来るのは少々危険だ。だからこそ逃げるのに最適だと思い、フレイはここを選んだ。
 まだ岩場が少なく木が生い茂っている中腹辺りで、フレイとアクアは体を休める事にした。
 既に日が昇りかけている。

「これからどうしようか……取りあえず山の向こう側を目指して見ようかな?」
「でも、山を越えるのって大変じゃない?」
「登る訳じゃなくて、山に沿って歩くだけだから大丈夫だよ」

 木々の間をすり抜けながら、体を休めれる場所を探して歩いて行く。

「そうだ! ねぇフレイ、旅に出たいって言ってたでしょ。……私と二人で旅に出ましょう?」
「そうだね。僕、この世界を見て回りたいよ……。そして色々なポケモンに出会ったり、色々な景色を見て回ったり。その感動をアクアと一緒に味わいたい……」
「フレイならそう言ってくれると思ってたよ」

 長老から聞いた昔話を頭に思い描く。自分もそんな旅が出来たらどんなに幸せだろうか。それを誰かと共有できるのなら
 暫く歩いているとそこはもう木が生えておらず、ごつごつとした岩場が広がっている。少し開けたそこには洞窟を見つけた。奥は広くなっていて二人で休むには十分な広さだった。

「今日はこの洞窟で休もう」
「そうね……フレイは私をおぶってたんだし、かなり疲れてるんじゃない?」
「僕は大丈夫だよ!」

 笑いながらアクアの顔を見てフレイは言った。
 そう言えば何も食べないままここまで来てしまった。フレイはフラウの主人からもらった木の実を取り出すと、アクアと二人で食べた。

「ねぇ、フレイ……ちょっと寒い……」
「僕が温めてあげるから、おいで」

 朝方は太陽が出始めたばかりで少し冷える。
 フレイは自身のふさふさの毛を、丸まっているアクアへ包み込むように被せてアクアを暖めた。

「フレイ……暖かい……」
「ふふっ、僕は炎タイプだからね」
「違うよ……フレイは優しいから……フレイの心は優しから暖かいんだよ」

 フレイはアクアの言葉に唯でさえ赤い顔を更に真っ赤にさせた。それを見られたくなくてアクアから顔を逸らした。そんなフレイを見てアクアがくすくすと笑いながら、そして真面目な顔で話しかける。

「私……フレイなら……フレイとならしてもいい……。子供だって産んでも全然構わない」
「え? するって……? ……子供って? 何をする……んふっ!」

 フレイがアクアの言葉の意味を必死で考えていると、突然アクアの唇がフレイの唇を塞いだ。何が何だか分からず、フレイはもがいていた。それでも暫くすると、その行為に

「するって言ったら一つしかないでしょ? ここには私とフレイしか居ないんだし」
「それって……まさか……」
「……うん」

 アクアは少し顔を赤らめて、視線を右に逸らしながら恥ずかしそうに言った。

「でも僕どうすればいいか分らないよ?」
「私だって分らないもん。でも何とかなるって!」
「何とかって……うわぁっ!」

 アクアがフレイを仰向けに押し倒すと、隠れていたフレイのオスの象徴が露になった。アクアは物珍しそうにそれをじっと見つめていた。

「ちょ……アクア、恥ずかしいよこの恰好。それに……」
「ふふ……もうこんなになってるのね。……フレイのえっち」
「それわっ! アクアが急にキスなんかしてくるからっ!」

 アクアがフレイの小さな肉棒に、右前肢で割れ物を扱う様にそうっと触る。側面を触ってみて、肉棒から伝わる熱を前肢で感じ取る。アクアが前肢を動かす度にフレイの肉棒はピクッと動き、肉棒から伝わってくる感覚はフレイを快楽へと誘う

「ねえ? 雄ってどうやったら気持ち良くなれるの?」
「ええと……僕は両手で掴んで上下にこう擦ると、気持ち良くなって……」
「良くなって……?」
「……出ちゃう……」
「何が出るの? おしっこ?」
「う~ん、おしっことは違うのかな? こう、白くてどろどろねばねばしたものが勢いよく出てくるんだ。その時が一番気持ち良いんだ……」
「……そうなんだ」
「こんな事言うのは恥ずかしいけど……何時も君の事思いながらしてたんだよ……」
「……やっぱりフレイのえっち! でも……嬉しいな」

 実はフレイもグラスと同じくアクアの事を思いながら、両親やアクアにばれないようにこっそり自慰をしていた。言うのは恥ずかしかったが、フレイはその事を思い切ってアクアに伝えた。アクアはフレイをからかいながらも、その事が嬉しかった様で笑いながらフレイを見つめていた。

「じゃあ今日は私がしてあげる!」
「え? あ、う、うん。分ったよ……あぁっ……」

 アクアはフレイの前にちょこんと座ると、両前肢を自由にした。そしてフレイの肉棒を両前肢でしっかり攫むと、前肢を上下に動かして擦っていく。柔らかい肉球同士に肉棒が挟まれて、フレイは恍惚とした表情になると息を荒げる。

「ふぁっ、はぁっ……アクアの前肢、柔らかくて気持ち良いよ」

 体が熱くなってくる。これはフレイが炎タイプだからではなく、心臓の鼓動が早まって全身に熱がいきわたり、体温が上がってきているからだ。
 アクアは擦っている前肢のスピードを少しずつ上げていく。擦られる度に肉棒は膨張していき、熱を帯び赤く脈打ったそれは噴火の時を待っていた。
 何か体の奥底から出てきそうな気がする……。このままではアクアにかかってしまう。フレイは焦ってアクアに離れるように言った。

「うっ……我慢できないっ……でる、出ちゃうよ……アクアっ、離れて! うあぁぁっ!」
「……え? ひゃぁっ!」

 フレイの発した言葉にアクアは一瞬目が点になる。離れてという言葉が聞こえて離れようと思った時には時すでに遅かった。
 アクアの顔にはフレイの肉棒から勢いよく噴き出してきた、ドロドロとした白濁液がかかる。他人に……と言うよりアクアにしてもらったと言う事もあってか、それは何時もより沢山噴き出してきた。
 長らくどろどろとした白濁液を吐き出すと、それは収まった。収まったのだが、フレイはアクアの惨状を見て物凄く申し訳なさそうにしている。

「うわぁ……ご、ごめん! 我慢できなくて……」
「別にいいよ。……これがそうなの? 何か変な匂い……」
「う、うん……これがアクアの中に入ると子供が出来るんだって」
「……知らなかったなぁ。……兎に角、汚れちゃったから綺麗にしないとね」
「へ? ちょとそれはっ! あぁぁぁぁぁ……」

 アクアは顔を埋めると、フレイの白濁液で汚れた肉棒を舐めで綺麗にしようとする。アクアの温かい舌の感触に嬌声をあげながらも、

「はぁ、はぁ……ねぇ、雌はどうしたら気持ちよくなれるの?」
「えっとね……ここを弄られると……気持ち良くなるの……」
「そこは……。アクア……腰を僕の顔の前に持ってきて」

 アクアは一旦口から肉棒を解放すると、顔を赤くし股を両手で押さえながらフレイの質問に答えた。何だか恥ずかしくて、フレイの顔を見ることができなかった。
 自分ばっかり気持ち良くなるのもアクアに悪いと思って、アクアに体勢を変えるようにと言う。
 何をするのかと不思議そうにしていたが、アクアは言われた通りにフレイの顔の前に腰を持ってきた。フレイの顔の前にはアクアの秘所が顔を出す。アクアは漸くその体勢の意味が分かった。フレイがアクアの腰を掴んでゆっくりと顔に近付けていく。

「フ、フレイ!?」

 シックスナインの体勢になって、フレイはアクアの割れ目を舐め始めた。舐める度に割れ目はヒクヒクと動いて、透明なトロっとした液体があふれ出てくる。
 アクアはグラスにされた時とはまた違った感覚に襲われ、腰を震わせてフレイのモノを舐めるのを忘れていた。

「ねぇ、アクアもしてくれないと、僕やめちゃうよ?」
「うん……分かった」

 止めるといわれてアクアは再びフレイのモノを舐め始める。舐めるだけではと思い、今度は口に含んでみた。フレイのそれを全部咥えこむと、口から出したり口に入れたり。前肢でした様に口の中でピストンしていく。
 アクアの口の温かさが自分のモノを包み込んでいく感覚に、今まで感じたことのない快楽がフレイを襲いだす。口を離しかけたが、こちらも負けない様にとアクアの穴に舌を入れて、アクアがしている様に出し入れした。
 二人からは厭らしい、水が跳ねるような音が洞窟内に響き渡る。
 フレイには二度目の射精感がやってくる。ものはピクピクと動き、また再び噴き出してこようとしていた。
 アクアもフレイの舌遣いに絶頂を迎えようとしていた。

 フレイは腰を大きく反らすと、アクアの口の中へと白濁液を流し込んでいく。
 アクアも絶頂を迎えて、フレイの口の中に潮を噴いた。

「んっ、んぐ……けほっけほっ……」
「ア、アクア……ごめん……苦しくない? ……変な味するでしょ」
「大丈夫……ちょと飲み込めなかっただけだから……。フレイのだったら何でも美味しいよ……」

 初めて自慰をした時に白い液体が何だか分からずに、自分のそれを舐めてみて具合が悪くなった記憶がフレイにはあるのだが、そんな液体を美味しそうに飲んでいるアクアを見てフレイはただただ唖然としていた。
 少し落ち着いたのか、行為を続けようとフレイがアクアを押し倒す。今度はフレイがアクアに覆い被さると、アクアの顔をじっと見つめて言った。

「本当にいいの? 今なら未だ……んんっ」

 突然、フレイの口が再びアクアの口で塞がれた。顔を前肢でがっちり掴まれて逃げられなかった。そして解放される。

「そんなこと言ってると、私の気が変わっちゃうかもよ? ふふっ、遠慮なく来てよ……」
「うん、分かった……。じゃ、いくね……」

 ゆっくりと腰を下ろしていく。フレイの肉棒が、アクアの割れ目へと近付いていく。そして、フレイがアクアへと侵入していく。

「あれ……? 何かに当たってる様な……?」
「あっ……痛っ……痛あぁぁっ!」

 フレイのモノがアクアの処女膜に当たると、フレイはそれが処女膜だとも知らずに腰を下ろしていく。徐々に膜は押し広げられて破られていく。アクアの割れ目からは血が少量流れ出てきた。

「アクアっ! 大丈夫!?」
「大……丈夫……ちょっと痛かっただけ……続けて……」
「う、うん」
「あぁ……ぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 アクアは痛みで悲鳴をあげていたが、フレイはゆっくりと入れていくのは逆に辛いだろうと思い、一気に腰を沈めていった。フレイとアクアは完全に繋がり、二人は一つになった。
 フレイがアクアの頬を優しくなでながら、心配そうに見つめている。

「アクア……痛くない?」
「もう大丈夫……。全然平気だから大丈夫だよ!」
「それじゃ……動くね」

 ゆっくりと肉棒を抜いていき、完全に抜ける瞬間に再び挿して。それを繰り返していって。
 腰の動きは少しずつ速くなり、アクアはその動きに合わせるように喘ぎ声を上げていった。

「アクアの中で僕が動いてるよ……」
「うん、フレイのすごく熱いよ……もっと……もっと強くしていいから」

 言われた通り、腰の動きを更に早める。アクアの腰の辺りをギュッと掴んで、腰の動きに力を入れる。

「もう……もう出そうだよっ!」
「このまま出して!」
「で……でも……」
「いいからっ!」

 アクアがフレイを抱き寄せると、逃げられない様にがっちりと抑えた。フレイは逃げられないと分かると覚悟を決めて、ラストスパートをかける。
 射精感が込み上げてくる。もう、出してしまいそうだ。そして、ある一点を超えた瞬間、二人は絶頂を迎えた。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 絶頂を迎えた瞬間、フレイは腰を深く突き刺した。アクアの中に大量のフレイの子種が入っていった。
 三度目とは思えない量のそれは、アクアのお腹を満たし結合部から溢れ出てきた。

「はぁはぁ……本当にいいの……?」
「当たり前じゃないの……フレイとなら何でもいいの……」
「あはは……そこもアクアらしいのかな……」

 フレイが自分のモノを抜こうとすると、アクアがしがみ付いてきた。甘える子供のような目でフレイを見つめて。

「もうちょっと……もうちょっとだけ、フレイと繋がっていたい……」

 フレイは少しため息をついて、それでもアクアのお願いだからと暫く繋がったままでいる事にした。
 優しくアクアの頭を撫でてあげると、フレイはアクアの胸元へと倒れこんだ。
 そのまま横になると、抱き合ったまま二人は深い眠りへと就いていった。


== Page- 10 - When regenerating ==

「ふあぁ~あ……あ、寝ちゃったのか……アクア、起きて」
「う~ん……フレイ……お早う……ひゃうっ」

 洞窟の中から外を見る。朝日が洞窟の中まで射してきて少し眩しかった。
 フレイとアクアは丸一日寝ていたようだ。
 繋がったまま寝てしまったので、フレイが起き上った際にアクアからモノが抜けて、アクアは思わず声を出してしまった。

「あ……そう言えばあのままだったんだよね……」
「何恥ずかしがってるの? もう私たちそういう関係なんだからいいじゃない」
「そ、そうだけどさ……取り敢えず身体を洗いに行こうか。このままじゃアクアも気持ち悪いでしょ?」
「私は……フレイのだったら構わないけど……」

 アクアが割れ目の辺りを前肢で隠しながらも、
 フレイは洞窟の入口に背を向けるようにして立っていた。アクアからはフレイが陰になっていて入口は見えなかった。見えていたのは自分に笑いかけてくれるフレイの顔だった。
 そんな二人を入口から覗いているポケモンが居た。

「ねぇ、アクア……話があるんだ。物凄く今更な話だけどね」
「なぁに? 大事な話なのかしら?」

 フレイは真面目な顔になりアクアを見つめる。アクアもフレイの顔をじっと見つめていた。

「君にちゃんと伝えておこうと思ってね。僕は……」
「フレイ、アクア……やっと見ぃ~つけた」

 フレイの言葉が何者かに因って遮られた。グラスが洞窟の入口から、笑っていない笑顔で二人を見つめていた。そして突然入ってきたかと思うと、フレイの首元を思いっきり噛み、洞窟の外へと放り投げた。フレイは地面を転げながらも何とか体勢を立て直す。
 グラスは邪魔者を排除すると、優しく笑いかけながらゆっくりとした足取りでアクアへと近付いて行った。グラスの身体は全身火傷の跡が残っていた。体から生えていた草は全て焼け落ちてしまっている。とても直視できない姿へと変貌していた。

「ほら、アクア……僕と一緒に群れに帰ろうよ。あんな悪い奴と一緒にいたら何されるか分らないよ? 僕の身体、フレイのせいでこんなになっちゃったんだよ?」
「来ないで……貴方なんか嫌い。一緒に居たくない。顔なんか見たくない! 声も聞きたくないっ!」

 グラスがアクアに覆い被さるようにすると、アクアの身体を見て暫く動きが止まる。グラスの表情が歪んでいるように見えた。その隙を縫ってアクアはグラスから脱げ出した。

「アクア……君はグラスとしたんだね……僕とは拒否したのに……」

 フレイはアクアを背負うと、グラスから逃げるように走り去って行った。出来るだけ時間を稼ぐために。何処か隠れる場所を探すために。
 グラスは誰も居ない洞窟の中で一人、何かを呟いていた。

「……もう君はいらない。僕の言う事を聞いてくれない君はいらない。フレイに穢された君はいらない。そんなにフレイが好きなら……君も彼と一緒にあの世に送ってあげるよ……」

 そう言うと、グラスは二人を追って走り出した。

「フレイっ! 後ろ!」
「ええっ? もう追いつかれたの!?」

 アクアを背負ってる分何時もよりスピードが出せなかった。後ろから追ってくるグラスの姿を確認すると、力を振り絞ってさらにスピードを上げていく。
 カーブをまがり切った所で、急にフレイが走るのを止める。そして、背負っていたアクアを背中から降ろした。

「どうしたの……?」
「はは……もう……逃げられないよ……」

 二人は崖に追い込まれてしまった。この先にはもう道はない。もう逃げ場はない。逃げられない。
 意を決してフレイは、グラスに向かって再び『かえんほうしゃ』を放つ。しかしそれは簡単に避けられてしまった。

「二度も同じ手を食らう馬鹿なんていないんだよ?」

 ケラケラと笑いながらも、一歩……また一歩……二人に近付いてくる。

「グラス! 私が……私が貴方に付いて行けば、フレイを助けてくれる?」
「レイン、何を……」
「フレイが殺されるなんて……私は嫌だ……」

 フレイと一緒に居たい気持より、彼がこの世から居なくなってしまう事の方がアクアにとっては辛い事だった。だからグラスに交換条件を申し出た。

「何か勘違いしてない? 今更そんな事したってもう遅いんだよ。初めからそうしてくれればこんな事にならなかったんだけどもね」

 グラスがはっぱカッターをアクアに向けて放った。フレイはそれをかえんほうしゃで全て焼いてしまった。
 フラスの返事を聞いてアクアは震えながら俯いていた。

「ま、炎タイプの君に草タイプの僕の技が敵わないのは分かり切ってるよ。そのせいでこんな体になっちゃったんだしね。……でも、これはどうかな?」

 目を閉じてすぅと息を吸い、ふぅと大きく息を吐く。
 そして目を大きく見開くと、グラスの身体が光り始めた。

 今日は雲一つ無い晴天。
 グラスの身体にエネルギーが集中していく。
 フレイはグラスが何をしようとしているのか分かった。
 通常は発動に時間のかかる技。でも今日は雲一つない晴天。相手に隙はなかった。

「バイバイ……御二人さん。あの世でも一緒になれるいいね……ぞれじゃ、行ってらっしゃい」

 ニコッと笑って見せたグラスの顔は、二人をこれから殺す様なポケモンには見えなかった。

 直後にソーラービームが二人を襲った。
 フレイはアクアの首元を噛んで思いっきり自分の元へと引っ張ると、そのまま横に倒れこんだ。ソーラービームを打つことは分かってたので、何とか避ける事が出来た。

 安心したのも束の間。ソーラービームの衝撃で、足もとにひびが入っていく。
 そのひびは、フレイとアクアを取り囲むように徐々に広がっていった。

 このままでは崖に……。
 そう思った時には視線が天へと向かっていた。

 太陽が眩しかった。

 二人の足もとが崩れ落ちる。
 崖下へと落下していく。

 その時間はとてもゆっくりに感じられた。
 一秒一秒がとても長く感じられた。

 フレイはせめてアクアだけも助けようと、アクアに抱きつき自分が下になった。
 アクアには生きて欲しいから。

 アクアもフレイに抱きついた。
 最後の最後までフレイの温もりを感じていたかった。

 地面が近付いてくる。
 もう数メートルで地面にぶつかる。

 最後にアクアがフレイに言った言葉――――



―――――― また生まれ変わっても一緒になろうね。



 その時アクアはフレイに笑いかけていた。


== Page- 11 - The truth ==

「サイカ、貴方に伝えないといけない事があるの! 私、思い出したの……。私は以前貴方と逢ってる……そして同じ様に貴方に守って貰った。一緒に死んでしまったけど……」
「ねぇ、フレイ……私に想いを伝えるって約束したよね? まだ私その想いを聞いてないよ。だから……だから死なないでよ! フレイ! 私の想いも聞かないまま居なくならないでよ!! ……お願いだから……」
「私……あなたの事が好きなの……。アクアでいた時も同じように……」

 なんで……なんで今になって思い出すの……。もう少し早ければ、彼に伝えれたかも知れないのに……。お願い、神様……サイカを……フレイをもう一度私の元に……。

――――――――――――

 まだ五分咲きの桜の木の下。一匹の色違いのシャワーズが、全身傷だらけになって血を流しているブースターに縋る様に泣きついている。
 暫く泣き続けた。日が落ちて月が昇っても泣き続けた。再び日が昇り始める頃には涙が枯れてしまって、泣くことも出来なくなっていた。

 太陽が木々の隙間から顔を出した。暖かく二人を照らした。

 ふと、一筋の光がサイカを包み込む。
 重力に反抗するようにその体が浮いていくと、砂のお城が風に飛ばされ消えていくかの様に、サイカの身体は赤く光りながら何処かへと消えていった。

 アクアはただ、それを見ている事しか出来なかった。
 完全に消えたのを確認すると、何を言う訳でもなく桜の木の下へと座り込んだ。

 一日……二日……三日……

 初めはただサイカと出会ったこの場所から離れたくないという気持ちだけだった。
 次第に、また誰かがここに来てくれるのではないかと思うようになった。

 七日……八日……九日……

 十回目の太陽が昇ったその日、桜は満開に咲いた。

 満開に咲いてから数日がして桜の花びらが散り始めた頃、一匹のポケモンがやってきた。
 桜の花びらが風で舞い、顔がよく見えなかった。



 ―――― ねぇ、隣に座ってもいいかな?



 一瞬、花びらの隙間から顔が見えた様な気がした。

 風が止んで花びらが地面に落ちた時、姿が見えた。

 そこには一匹のブースターが居た。


== Page- 12 - Everything returns ==

『お前はアクアを守ろうとして死んでしまった。彼女も助かる事無く死んでしまった。だが、お前たち二人は生きる事を強く望んだ。だから私はお前達を生き返らせた。その代償として記憶を失くした。そんな状態で、この広い世界で出会う事は至難の業であろう。それでもお前達は出会った。……それはお前達が強く逢いたいと前世で願ったからだろう』

 そうだ……全部思い出した。
 僕は……彼女を助ける事が出来なかったんだった。
 そしてここに連れられてきた。彼女と一緒に。

 もう一度アクアと過ごしたい……そう願って生き返らせてもらった。
 アクアも一緒に同じように願った。

 最後に、現世でまた会おうねと約束して……。
 その時に、僕は必ず君に思いを伝えるよと約束して……。
 ここでは言いたくなかった。ちゃんとした姿で、君と向かい合って伝えたかった。

「ふふっ。記憶が無くなるのに、どうやって私に想いを伝えるの?」
「きっと、今までの記憶が無くなっても……また君と過せば自然と言葉は出てくるさ」
「出会えなかったらどうするの?」
「……絶対に見つけて見せるさ。何が何でもね」
「それなら楽しみにしてるよ、フレイ……。私も必ずフレイを見つけて見せるから。だから……その時はちゃんと想いを私に伝えてね。私も貴方にちゃんと伝えるから」

 結局、また彼女に言いそびれてしまった。
 やっぱりあの時伝えておけば……。
 後悔しても遅いか……はは……。



『もう一度……彼女の元へ戻りたいか?』

 ……え?
 また生き返らせてくれるの?
 でも、もう生き返る事は出来ないと……。

『生き返らせることは出来ない。ただし――――――』

 ……そんな方法があったのか。
 どんな方法でもレインのところに行けるなら……。
 それにしても、どうして貴方はそこまでしてくれるんですか?

『……ただの気まぐれだ』

 神様らしくない……いや、これも神様故なのかな……。
 それなら僕は……。

『その代り、フレイとサイカの時の記憶は完全に消えることになるが良いか? これをすると、お前に記憶を戻す事は二度と出来なくなる。お前は別人になるからだ。……何、記憶の記録にはちゃんと残っている。完全に無くなる訳ではない。……このまま記憶を残したまま眠りに就くことも出来るがどうする?』

 お願いします。彼女の元へ……。
 レインの元へ連れて行って下さい……。

『そうか……なら目を閉じるが良い。次に目がさめる時、お前は――――――』



== Last page and new record - Beginning life and life ==

 満開に咲く桜の木の元。
 桜の花びらが作る絨毯の上に、二人のポケモンが座っている。

「貴方と出会って今日で丁度一年……長かった様で短かったね……」
「そうだね。あの時は、君がこんなに笑顔が素敵な子だなんて思わなかったよ」
「それって誉めてるの?」
「勿論さ。君の笑っている顔を見るとこっちまで嬉しくなってくるよ」
「ふふっ、有難う……」

 一匹の色違いのシャワーズがそこに座っている。
 シャワーズは大事そうに卵を抱えていた。
 その隣で一匹のブースターがシャワーズと卵を気遣うように座っていた。

「もう名前は決めたのかい?」
「ええ、勿論」
「もしかして……名前は……彼の名前?」
「あら? 嫌だった? それとも妬いてるのかしら? ふふっ」
「そんな事ないよ。彼は君を守って亡くなったんだろう? きっととても優しいポケモンだったはずさ。だから彼の名前を付ける事は反対しないよ」
「それなら良かったわ」
「でも、(おんな)の子だったらどうするんだ?」
「……私には分るの。母親のカンってものかしら? きっとこの子は(おとこ)の子……」

 シャワーズには何となく、産まれてくる子が雄なのか分かった。
 母親のカン……とは言ったものの、卵を授かった時からそんな気はしていたのだ。
 だからもう名前は決めていた。

「あ、動いた! そろそろ産まれそう……」
「いよいよ……だね。どんな子が産まれてくるんだろうか」

 卵の殻にひびが入り始める。
 卵がぐらぐらと揺れる。
 そして、卵が少しずつ割れる。

 卵の割れ目から顔を覗かせると、一気に殻を破って出てきた。
 灰色の様な銀色の様な体で、身体中に付いた卵の破片をぶるぶると震わせて払っている。

 一匹の雄の色違いのイーブイが産まれた。

「ふぁぁ~……? ……?」

 産まれたイーブイは辺りをきょろきょろと見回すと、シャワーズの顔を見た。

「ふふっ、初めまして。私はあなたのお母さん。ママよ」
「まま?」

 シャワーズはイーブイを優しく抱いて、笑いかけながら頭を撫でてあげた。

「まま!」

 その様子を見て、ブースターが二人に近付いていく。

「彼は貴方のお父さん。パパよ」
「ぱぱ? ぱぱ!」
「そう、僕が君のお父さんだよ」

 三匹の間に幸せな時間が流れていく。
 ゆっくりと、流れていく。

「そうそう、あなたの名前をまだ言って無かったわね」
「ふぇ? なまえ?」
「ええ、そう。あなたのお名前。ママはね、レインって言うの」
「れいん……れいんまま!」
「そう、レインママ。……それで、あなたのお名前は……」



 貴方の名前は――――――




終わり


改行等を抜かした本文のみのデータ
作品タイトル水と炎の心と想い
章タイトルフレイとアクアと記憶の記録
原稿用紙(20×20)103.4 枚
総文字数33273 文字
行数830 行
台詞:地の文13671文字:19602文字

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最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • とても面白かったです!
    あ、あれ? おかしいな? 目から水が………
    ―― 2013-04-09 (火) 16:20:44
  • 小説読ませていただきました感動しました たしかに『あ、あれ?  おかしいな? 目から水が………』なりました(;_;)あと
    「アクア……君はグラスとしたんだね……僕とは拒否したのに……」のところグラスではなくフレイでは?
    気のせいでしたら申し訳ございません 私、○んでお詫びを
    これからも頑張ってください
    ―― ? 2013-07-07 (日) 23:13:46
  • 僕も『あ、あれ? おかしいな? 目から水が………』状態になりました。
    あと、ちょくちょくグラスがフラスになっていると思います。
    これからも頑張ってください!
    ――氷河 ? 2013-08-10 (土) 08:56:33
  • あ、あれ?おかしいな?目から水が・・・(T^T)
    ―― 2014-06-11 (水) 17:00:26
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Last-modified: 2013-01-22 (火) 00:00:00
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