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フライゴントーク6 ・ 世の中お金

/フライゴントーク6 ・ 世の中お金

呂蒙


<注意!!>
 このお話は「下ネタ」を含む表現が出てきます。そういった表現で不快になられる方や、耐えきれないという方はこの作品をお読みにならないことをお勧めします。速やかにこのページから出ましょう。


 




 しばらくすっきりしない天気が続いている。ぼくらが住んでいるところは、冬になれば雨はほとんど降らないはずなのだけれど、今年は違った。すっきりと晴れる日がないので、洗濯物は外に干すことはできない。外に干しておいて、外出中に雨が降ってきたら、それこそ一大事。
 苦肉の策として、ご主人は、部屋の隅に折りたたまれた状態で、壁に立てかけてある、室内用の物干し台を広げ、そこにたまった洗濯物を干すことにしていた。だから、今、ぼくらの部屋は物干し台と、除湿機に占領されてしまっている。足の踏み場がないわけではないけれど、やっぱり狭い。その上、寒いうえにこの湿気、ぼくにとっては苦手なもののダブルパンチである。と、ご主人がぼくに声をかける。
「お~い、ナイル。今日の飯、何にするよ?」
「え~、なんかあったかいものがいいな」
「じゃあ、雑炊でいいか。今ある食材で作れるし」
「……肉がないじゃん。雑炊には鶏肉がないと」
「……つまり、それは今から買って来い、と?」
「あったりー、さすが話が早いね」
「ちっ、まあ、いいだろ」
 ズボラなご主人だけど、こういう時は頼りになる。ぼくは何をするかって? 留守番に決まっているじゃない。日頃、無茶ぶりを要求されているんだから、こういうところでこき使わないと、釣り合いが取れないというわけさ。
 食材を買ってくると、さっさと、食事を作り始める。ご主人は好き嫌いが多い方だけれど、寄食、偏食、悪食のどれにも該当しないから、食事に関しては、ぼくは結構恵まれている方だと思う。「ポケモンフーズ」なるものもあるんだけど、個人的にあまりおいしいと思わないんだよね。パサパサしているし。まあ「カロリーメイト」をもっとまずくしたようなもんかな?
 具材に味を染み込ませるのと、ご飯が炊けるまでに時間がかかるので、ご主人はシャワーを浴びてしまうことにしたみたいだ。それが済むと、さっさと料理の続きに取り掛かる。
 しばらくして、今夜のご飯ができた。土鍋の中には湯気の上がる味のしみたごはんや具材がある。冷めてしまったら、まずくなる。温かい料理は温かいうちに食べなきゃね。に、しても干してある洗濯物が邪魔だ。尻尾で物干し台をなぎ倒さないように注意しないといけない。
「ねー、ご主人。乾燥機買おうよ、乾燥機」
「んな、金がどこにある。あったとしても置く場所がないだろ」
 また、お金の話か……。まあ、世の中お金だからね。どんなに綺麗事を言っても、お金がなくちゃ、生きていけないから。ぼくも人間ライフにどっぷりとつかってしまっているから、野生で生きていけるかといわれたら、正直自信がない。
 退屈しのぎに、ご主人がテレビをつける。そのチャンネルは、お金持ちと貧乏人の生活に密着した番組だった。ご主人はこの手の番組が嫌い、というか「セレブ」という言葉が嫌いらしい。ご主人は曰く「『セレブ』じゃなくて『成金』だろ、あんな見せびらかすような金の使い方してさ、長続きしないぞ、きっと」ということだ。まあ、自由に使えるお金が多くないご主人の僻みというのもないとは言い切れないね。
 ご主人はチャンネルを変えた。テレビには人気の高い……と思う鋼・格闘タイプのポケモン・ルカリオが出ていた。なんでも女性に人気らしい。その画面を見てご主人はとんでもないことを言いだす。
「ルカリオいいよな、ルカリオ」
 ここまでなら、ごくごく普通。しかし、これで終わらないのがご主人。
「特に、この下半身。更にいうなら、ここ」
 ご主人が指をさしたその先には……。「ここ」って、股間じゃん。どうやらご主人はそっち系のことを思ったようだ。
「女性に人気ってことは、夜の相手とかもしてもらってるんだろうな」
 まぁ、男性だと絵面が「アッー」にしか見えないし、じゃなくて、どうしてご主人はそういうエロ話を持ち込むのさ!?
「ナイルもきっと、それなりに女性や雌のポケモンには人気が高いと思うから、嫁取りには困らないな」
「そ、そうかな?」
「しまってあるドラゴンペニスに虜になる雌もいるだろうからさ」
 う~ん、嬉しいような悲しいような……。いちいち、エロトークを持ちだすのはどうにかならないのかな。まあ、将来的に子供は欲しいけどさ……。
「あっ、あっ、ナイルのおちんちんが中で、どんどんおっきくなって、んっ、んっ、あっ、ああ~っ。……はあっ、はあっ、中に出すなんて、責任はとってよね……」
 いいよもう、そんなセックスの場面まで再現しなくても、もう。とりあえず、チャンネルを変えよう。
 このチャンネルの番組は最近、若者がいろんなものを買わなくなっているということについてだった。至って真面目な番組だ。これなら、エロトークは飛び出してこないでしょ。
 食事をとっていたご主人は言う。
「この手の問題は若者から税金を搾り取っておきながら、ジジイやババアにばっかり還元するからだよ」
「はぁ~、なるほど」
「ポケモン、グランドピアノ、クルマ、この3つの中から一つを選んだら、あとの2つは諦めないといけない。それが今の若者の現状なんだよ」
 まあ、確かにそうかもね。ご主人、実は車の免許を持っているのだけど、車は持っていないもんね。
「ナイルにはそれだけの金がかかっているってこった」
 はい、感謝してるよ、ご主人。

 それから、数日後のこと、一通の手紙がご主人のもとに届いた。手紙の差出人はとある研究所。簡単に言うと「ポケモン」のゲームで最初に主人公にポケモンをくれるところがあるでしょ、そういうところらしいんだけど……。ご主人は「どうも胡散臭いな」と疑っていた。
 手紙はティーパーティーの招待状だったんだけど……。
「どうするの、ご主人、出席するの?」
「差出人が差出人だから、ナイルと同伴で来てくれって言うのは分かるが……。どうも、胡散臭いな。こういう研究所を束ねているのは……。文部科学省だな。まず、この役所に電話して、この研究所が本当に実在するのか、調べてもらう」
「で、実在したら、行くつもり?」
「ああ、タダ飯が食えそうだしな。オレの住所が分かっているのが気になったけど、そういうのって調べようと思えば調べることもできるらしいしな……」
ご主人は、役所に電話をして送り主である研究所と、その研究所が招待状に書かれた住所にあるものなのかを調べてもらうことにした。
 調べてもらった結果、招待状にはやましいところは何もなかった。ご主人は、もともとパーティーや集まりの場は好きではないのだけれど、タダ飯が食えるという理由で、出席することにした。
「でもさ、何でご主人にこんなのが来るわけ?」
「招待状には『ポケモンをお持ちの方』って書いてあるからな、まあ、当日はポケモンを持っているリッチなシニア層が集まるんだろうよ」

 そして、パーティー当日。この日は日曜日だった。ご主人は失礼のないように、背広にネクタイを締め、革靴といういでたちでパーティーの会場である研究所に向かった。尤もぼくはめかし込んだりすることはしなかった。ご主人が言うには「男が化粧なんかしたら気持ち悪いだけだろ」とのこと。
 招待状に書いてある地図を頼りに、会場に向かう。会場には、お菓子やサンドイッチ、コーヒーや紅茶などが置かれていた。会場は、研究所の敷地の中にある講堂のようなところだった。多分、普段は研究の発表とかに使われているんだろう。会場内には若い人もいたけれど、お年を召された人の方が多かった。
 ご主人は、その研究所を束ねているという女性博士の話を一切聞かずに、食べ物を口に入れ、コーヒーを飲む。
「少しは話くらい聞いた方がいいんじゃないの?」
「ふん、研究たって、どこまでしっかりしたものか分からんだろ。ふたを開けたらSTAP細胞みたいなことになっていた、なんてこともあるかもしれないじゃないか」
「そりゃ、いくら何でも失礼じゃないの……」
 でも、確かにポケモンの知識がないうえに、研究などにもまるで関心がないご主人がきいてもなんとも思わないのかもしれない。
「しかし、妙だな……」
「ん、何が?」
「今は、こういう研究所もゴリゴリ予算が削られているだろ、ただ単に食い物や茶を振舞うためにオレらを集めたとは到底思えん」
「確かに……。ご主人鋭いね」
 そう、決して頭が悪いわけじゃないんだ、ご主人は。よく見ると、助手と思しき人が会場にやってきた若い人に声をかけている。
「ほら、何が目的かは知らんが、ああやって選別をしている」
 ご主人も声をかけられるけれど、その時に言われたのは「博士があなたに話があるから、また来週来てほしい」ということだけだった。ご主人はそのことを承諾していたけれど、その助手と思しき人の姿が見えなくなると、
「ふふふ、何を言うか、聞くだけは聞いてやるぞ」
 と、そんなことを言っていた。ま~た、よからぬことをたくらんでいるに違いない。この日のパーティーで、ご主人は、食べられるだけの食べ物とコーヒーをお腹に収めて帰った。この日、凄腕のトレーナーである「ダイゴさん」なる人の話もあるにはあったけど、ご主人は完全に聞いていなかった。後でそれについて聞いてみると「ん? ああ『うぃっしゅ』の人だっけ??」と言いだす始末。その時はぼくも、もう面倒になってきていたから、もういいや、話を合わせとこ、と思って「ああ、そうだよ」と言ってしまった。

 次の週、ご主人はぼくを連れて、研究所を訪れた。ご主人は「まあ、茶かコーヒーくらいは出してもらえるだろう。それを飲んだら、適当にあしらって帰るさ」と言っていた。それが目的だったのね。
 研究所につくと、その女性博士は、ご主人に椅子に座るように勧めると、こんなことを聞いてきた。
「早速だけど、君にとってのそのフライゴンはどういう存在?」
「ああ、こいつですか? そうですねぇ、まぁ『右京さん』ってところでしょうかね」
「え?」
「すなわち『相棒』です」
 何が『右京さん』だよ、どうして、真面目に答えないのかな、ご主人は?
「ここまで育てるの、大変だったでしょ?」
「実家のみんなで育ててきましたんで、そこまでの負担はありませんでした。まあ、こいつも家族の一員ですからね」
 あれ、さっき「相棒」って、まあ、それはいいや。
「そう、でもドラゴンタイプでしょ? まともに育てられる人はそうはいないって話よ?」
「はぁ、そうですか」
「単刀直入に話すわね。実はこの研究所は、ポケモンを持っていないトレーナー志望者にポケモンを渡す役割を持っているんだけど、最近はトレーナーになりたがる人や、ポケモンを持ちたがる人が減っちゃってね。それで『これは』と思う人に声をかけているの」
 ご主人は、そのポケモンの写真を見せてもらうことにした。
「ははぁ、ゲームと同じか」
 ゼニガメだとか、ツタージャやヒコザルなどなど。ゲームで言うところの地域は関係なく選べるようになっていた。でも、ご主人は欲しがるような素振りは見せなかった。そもそもここに来たのだって、タダでお茶かコーヒーを飲むのが目的だったようなもんだしね。
「ポケモン離れとか言われてますけどね、こっちもこいつ一匹だけでも、お金もかかるし、大変なんですよ。手持ちが増えても、きちんと育てられる自信がありませんし……。もっとも、食べるとおいしそうなやつもいますからね、食べる目的で『飼育』するのなら可能かもしれませんがね……」
 最後のは、ご主人の得意技だね。相手が到底首を縦に振らないことを言って「じゃあ無理です」と言って、一方的に話を打ち切る、ご主人がよく使う戦法さ。
「ツタージャなんか、胡麻ドレッシングをかけるとおいしくいただけるんじゃありませんかね」
 完全に話はご主人のペースになってしまった。偏見かもしれないけれど、研究室に閉じこもって研究している人って言うのは、あまりいろんな人と話をしないから、ご主人のように突拍子もないことを言いだされると、態勢を立て直すのが難しいのだろうね。
 ご主人は「すいません、この後、予定があるので」と話を打ち切って席を立った。
 ぼくらは研究所を出た。
「実はいろいろと調べたんだが、写真のポケモンを希望者に渡すと、その分、補助金みたいなものが国から研究所に支払われるらしい。ところが、最近は本物のポケモンを持ちたがる若い人が減っているから、研究所も何とかしてもらってくれる人を探している、そういう状況らしい。こっちだって、自由に使える金が少ないのによ」
「お年寄りがお金持ちなら、お年寄りに声をかければいいのに」
「体力がないと、躾は難しいぞ。それに、主人が先に死んだら、残されたポケモンはどうなる、という話だろうな」
「まあ、確かにね。ところで、ご主人『もし、もらってくれたらお金が毎月もらえる』とかだったら、首を縦に振ってた?」
「そしたら『金はいらないから、その金額分を体で払ってもらいましょうか』って言っていたよ。相手は勘違いして、絶対に拒否するだろうから、断ることはできたさ。さっきにも言ったようにお前だけで手いっぱいだし、あのせせこましい部屋にこれ以上住まう者は増やせないしな」
「それって、セクハラで脅迫なんじゃ……」
「体で払えというのは、お前も汗水たらして、世話の手伝いをしてくれるんだろうな、ということだよ。労働力を提供しろ、ということだ。まあ、言い方が悪かったかな」
「絶対、誤解されるよ……」
「お前が粗相をしたら、全ての責任はオレが取らなくちゃいけないんだからな。仮にポケモンの悪ふざけで家を壊されたとして、主人が『この仔、本当は悪い仔じゃないの! 卵のころはあんなにおとなしかったのに!』とか言われて、納得できるか? それで許されるのはアニメの世界だけだぞ」
「そりゃあ、そうだね」
「万が一、お前が周囲に害を及ぼしたとしても、損害賠償の保険には入っているから、金銭的には困らないけど、オレは器物損壊罪で間違いなく捕まるし、お前もどうなるか、分からんぞ。下手すりゃ一家離散だ」
「破壊光線は撃てないから、そこだけは安心してよ」
「ああ」
 帰り道、ご主人がこんなことを言った。
「寒い」
「え、今日は暖かくない? この時期にしては」
「違う、懐が」
 そういうことね。やっぱり、世の中お金か。あーあ、どっかに金貨の詰まった宝箱でも落ちていないかな、なんてね。


 おわり




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  • 僕も寒いですよ……懐が…… -- 白竜 ?
  • コメントありがとうございます。
    貧乏は辛いです。ええ。ゲーム上ではほとんどお金がかからないから、その点は羨ましいです。あの世界は社会主義なんですかね?? -- 呂蒙
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Last-modified: 2015-12-03 (木) 00:03:01
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