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ヒトナツノコイ

/ヒトナツノコイ

※注意事項※ 

この作品は流血表現過度な惨殺シーンなどが
含まれています。



登場人物紹介 

ヒトナツノコイ 


第一話 出会い    

                                          作者:COM

「ねえ…私のこと……好き?」
その女性はそう、彼に聞いた。
「もちろんだよ。君のことが大好きさ。」
彼がそう答えると、
「そう…じゃあ、昨日会ってた女性は…誰?」
そう、詰め入るように聞いてきた。
彼は悪びれる風でもなく、
「ああ、彼女は前に話しただろ?妹だよ。」
そう言うが、
「嘘よ。あなたに妹はいないわ…」
彼の返答を聞くなり、即答で答えた。
「確かにね、前言ったいとこだよ。妹みたいに可愛がってるって。」
彼はきちんと説明するが、
「昨日、あなたの親戚は家に来ていないわ…誰なの?」
彼から返答がある度に、より深く追求していった。
「そうなんだ、昨日はあの子が一人で来たから驚いたんだよ。それで送り帰すところを君は見たんじゃないかな?」
そこまで彼が言うと、
「そう…それじゃあ、あの子があなたと私の仲を裂こうとしている子なのね…」
くぐもった声で彼女はそう言い、
「あなたは誰にも渡さない…あなたは私以外見てはいけないのよ…いえ、私以外見えるはずがないわ…」
彼女は独り言を呟きながら彼の方にゆっくりと近づきだした。
「妹はそんな酷い子じゃないよ。あれ?そういえばなんで君が僕の家に昨日、親戚が来ていないのを知っているんだ?」
彼はふと疑問に思い、彼女にそう聞くが、
「あなたは私しか見えないの…いえ…これからは私があなたの目になってあげる…」
「え?…それってどういう…」
彼の返事を聞くよりも早く、彼女は鞄から取り出したナイフで彼の左目を突き刺した。
彼の悲痛な叫び声が部屋に木霊し、そのおぞましさを際立たせた。
必死に痛みを堪えながら、彼は見えている右目で彼女を捉え、
「な…何故こんなことを…!君は正気なのか!!」
彼女が正気でないのは冷静であればすぐに気がつけたであろう。しかし、
「駄目なのよ…あなたが私以外を見ちゃ…そんなことしたら…二人で幸せになれないわ…あなたが好きなのは私だけ…だから…あなたの目は私を見るためだけにあればいいの…そうだ…あなたの右目は私が貰うわね…」
彼女の瞳孔は開き、光が当たっても明るくなることがない淀みにも似た飲みこまれるような暗さがそこにはあった。
必死に逃げようとする彼を馬乗りになって押さえつけるその力は、とても女性の力とは思えないほどの力で、下手をすれば押し潰されるのではないかという、万力にも似た力があった。
「や、やめてくれ!!僕は…僕は何も!!」
必死に訴えかけるが、そんな言葉は意にも介さず彼の右目に指を入れ、そのまま少しずつ力を加え始めた。
彼は声にならない悲鳴を上げ、彼女をどかそうと必死に暴れるが、その抵抗は意味を成さず、彼女はとうとう彼の右目を引き抜いた。
「ああ…美しい…あなたの右目…私だけを見てくれる…一生私だけを見ていてくれる…大丈夫よ…あなたは私が必ず愛するから…あなたの目となり手となって…死ぬまであなたを愛するから…あなたも…私を死ぬまで愛してくれるわよね?」
この世の者とは思えぬおぞましい光景の中、彼女は彼の右目を優しく、優しく胸に抱き、微笑みを浮かべていた。
血に染まったその部屋で、彼はそのままショックと大量の出血で息を引き取り、彼の死を確認した彼女は後を追うように、持っていたナイフで自らの喉を切り裂き、血の海に二人仲良く愛を分かち合ったそうだ…
しかし、その時、彼女が持っていたはずの彼の右目は何処にも見当たらず、彼の右目だけは今も見つかっていないという…」

「どうだった?怖かったか?」
話し終えたザングースがケラケラと笑いながらその場にいた仲間に聞いた。
「どうだった?じゃねえよ!本気で怖かったぞ!!」
彼の左隣に座っていたニューラが涙目で怒っていた。
「ふえーん!怖かったよー!」
ニューラにしがみついているチョロネコが泣きながらそう言った。
「お前…よく自分にも彼女がいるくせにそんな事が言えるな…」
ザングースの右隣に座っているゾロアークが呆れながらザングースにそう言った。
「別に構わないだろ?タマナはこういう話は得意だし、別にタマナがそういうことするとも思ってないし。」
悪びれる風でもなく、彼は自分の真横でしがみついているタブンネのほうを少し向いて言った。
「ザルくんの馬鹿!!当分口聞いてあげないからね!!」
タマナは涙目で怒りながらそう言った。
「えぇ!?なんでそうなるんだよ!タマナ怪談話とかは得意だって言ってたじゃないか!」
ザルバは不意打ちを喰らった困った顔で、タマナに聞き直した。
「私が得意なのは妖怪とかお化けとかだけなの!!実話は大の苦手だって前言ったでしょ!!」
と彼の注意力の無さを怒っていた。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。」
と僕、
「とりあえずこれで全員怪談話は終わったんだから、もう怖い話は終わりだから。」
と、僕の右隣に座っているアリゲイツのアレナが続けて言った。
今日は夏休み、いつも仲良しの僕達7人は、僕の家に集まって夏の怪談大会を開くことにしたんだ。
そこで、折角なら一番怖い話をした人が一番怖くない話をした人に一つ命令をするということになった。
一番怖い話は満場一致でザルバくんの話したお話、そして一番怖くない話が…
「どう考えてもお前だよな?バーク。」
ザルバが念を押してそう言うと、みんな頷いた。
バークとは僕のこと…あれ?おかしいな…僕が用意した話も結構怖かったはずなのに…
「そんなに僕の話は怖くなかった?」
僕が不思議そうにそう聞くと、
「怖かったもなにも…なあ…」
少し困った表情でザルバはゾロアークのロークのほうを見た、
「お、俺に振るなよ…ニオ、お前が言ってやってくれないか?」
ロークもそのまま渡って来たバトンをニューラのニオに渡した。
しばらくニオは考え込んだ後、
「えーっとな…バーク。お前が話した『恐怖の味噌汁』ってただの言葉遊びだぞ?」
と、とても申し訳なさそうに頭を掻きながら言った。
「え!?そうだったの?やっぱり怪談話ってよく分からないなぁ。」
バークが笑いながらそう返答したため、呆れを通り越し笑いに場が包まれていた。
「ま、いいや。約束は約束だ。バーク、近くにコンビニがあっただろ?あそこで全員分の飲み物と袋菓子を買ってきてくれ。」
とザルバはお金を渡しながら言った。
「いいよ、そのくらいなら僕にも出せるから。それじゃ罰ゲームの意味がなくなっちゃうからね。」
お金を受け取らず、自分の財布を手に取り、歩いて約5分位の所にあるコンビにまで夜道を一人、とぼとぼと歩いて向かった。

僕の名前はバーク、バクフーンだ。友達の6人はかなり昔からの親友で、
ザングースのザルバ、ゾロアークのロークは僕がヒノアラシだった頃から一緒に遊んでる仲だ。
それから少し経ち、ザルバの友達だったニューラのニオとも意気投合し、ロークと幼馴染だったというアリゲイツのアレナもいつの間にか友達になっていた。
最初はロークの恋人なんじゃ?という声も上がってたけど、ロークが『彼女はただの幼馴染だ、それに付き合いが長いからもうあいつと俺は兄妹みたいなもんだ』と言ったことにより否定された。
またそれからしばらく経ち、最初はザルバが急に『恋人が出来た』と言ってタブンネのタマナを連れて来た。
次にニオがチョロネコのローナを紹介しに来た。
恋人が出来れば友達との付き合いがなくなる。そう言った人もいたけど、ザルバもニオも変わることなく、むしろ彼女たちも含めて友達になっていた。
恋人がいないのは、僕を含め三人。アレナさんとロークだ。
アレナさんは美人だし、アリゲイツの中では1、2位を争うぐらいの美貌の持ち主じゃないかな?
アリゲイツは元々、しゃくれた顎を持っているけどアレナさんは違い、まっすぐで綺麗な顎そして艶やかな鱗を持っていたからアリゲイツ達以外からも人気が高いようだが、
当の彼女はそういった男達には目もくれないでいる。僕には理由は分からないけど、聞こうとも思わない。
なぜならいつもそういった男を振り切った後、切なそうな顔をしていたからね…
ロークの方は男の僕から見ても羨ましいほどの美形だ。
でも、本人は恋に関しては関心が無く、恋人を作りたいと言ったことも無ければ、告白されたということを聞いたこともなかった。
そして僕、言う必要もないほどに地味で、何故僕にこんなに友達がいるのかも不思議なくらいだ。
僕の友達を除き、『居たのに気付かなかった』とか、『パッと見オタクかと思ってた』と言われることのほうが多い。
そりゃあ確かにバクフーンの方では背も小さく、マグマラシと見間違われそうなほどだが、
立派な毛並みだってあるし、深紅の瞳だって持ってる。
しかし、実際は『そんなに小さなバクフーンは嫌』と言われる。
お陰でみんなは気にしなくていいというが、僕にとっては一番のコンプレックスになっている。
そしてどうしようもないことに、妹がいるのだが妹のマグマラシのマールのほうが僕より大きい。
妹も『そんなこという人は気にしなくていいよ』というが、長年言われ続け、小柄で可愛いというのも嫌味にしか聞こえなくなっていた。
そんな事を考えながら歩けば早いもので5分という道のりも苦ではなくなっていた。
たかが5分で苦というのもなんだが、僕はあまり運動は得意ではないし、好きでもない。
買い物かごを手に取り、みんながいつも飲んでいるおなじみの物をかごに入れ、大袋に入った無難なうす塩味のポテトチップスを一つかごに入れ、すぐに買い物を済ませて店を出た。
正直な話、夜のコンビニはあまり好きではない。
入り口付近で屯する夜のポケモン達もそうだが、店員もあまり質が良いとは僕は思えない。
決して全ての店員や、そういう夜のポケモンを否定している訳ではないが、僕の生き方からするとどうしても納得できないことをしていたり、僕にしてきたりするからだ。
この前は、たまたま遅く帰る羽目になった時に絡まれて散々殴られた挙句、お金まで取られたからだ。
ザルバとローク、ニオにそのことを話したら、次の日には逆に僕からお金を取ったそいつ等がボコボコにされたみたいだけどね。
一体誰がそんなことをしたんだろう…でもまあ、そんな事をする人達はそんなことをされて当たり前なのかもしれない。
今日も絡まれたくないから、少し足早にコンビニを後にした。
街灯があるとはいえ、薄暗い夜道は危険も多いだろうから早足と言っても競歩のようなスピードではなく、一般人から見て歩くのが早い人程度の早歩きだ。
そのままの速度でゆっくりと曲がり角を曲がろうとしたその時、
「あ!!」
「キャア!」
注意をしていたのにも関わらず、人にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい…僕が急いでいたせいで…」
そういい、倒れてしまった彼女に手を差し伸べ起こす手伝いをした。
「い、いえ…私も注意していなかったのが悪かったので…」
そう言いながら僕の手を取り、ゆっくりと彼女を起こしてあげた。
改めて向き合い、
「すみません。お怪我はないですか?」
そう、彼女に聞いた。
「はい、大丈夫です。あなたは…?」
彼女に聞き直された時に目が合い、そこで僕は一度彼女の可愛さに見惚れてしまっていた。
彼女は見る限りチラーミィだ。照明の明かりの下だったので見間違うこともなく確認できた彼女の容姿は、
いくらチラーミィとはいえ小柄な体、大きく特徴的な耳は重力に負け、少し垂れていた。
そして吸い込まれそうな程、美しい茶色の瞳をしていた。
ただただ言葉を忘れ、可愛らしい彼女に見惚れていると、
「あの…私の顔に何かついてますか?」
と彼女に質問されてしまった。
「あ、い…いえ。あまりに可愛かったものだから…つい…」
自分でも初対面でこんなことを言うのはどうかと思ったが、そんな事を考えるよりも早く口からその台詞が出ていた。
そんな自分の言葉を聞き、
「え!?そ、そうですか?」
少し驚きながら彼女は僕に聞き直してきた。
「あ!すす、すみません!急にこんなことを言って…え、えっとそれじゃ僕帰る途中だったんで、急いで帰らないと…あなたも夜道、お気をつけて!では!」
自分でも予想していなかったリアクションに驚き、完全にテンパってしまった僕は早くその場から離れたい一心で適当な言葉を並べて、足早に家に向かって歩き出した。
「あ…あの!お名前だけでも!」
その場を去ろうとする僕の背中に向かって彼女はそう声をかけてきた。
「え、あ…と、ぼ、僕はバークって言います。」
名前を聞かれるなどとは夢にも思わず、さらに焦りながらなんとか自分の名前を言った。
「私はチコって言います!えっと…すみません!ありがとうございました!バークさんもお気をつけて!」
彼女、チコは深々とお礼をして、僕と同じ様に足早にその場を去っていった。
少しの間、状況が飲み込めず、ぼーっとしていたが、
「あ、早く帰らないと…」
そう、独り言を呟き、自分も足早にその場を去っていった。
家に着き、自分の部屋に戻った時、
「お帰りーって…どうしたんだ?ぼーっとして。」
ザルバが笑顔で迎えたが、そんな上の空の自分を見て不思議そうな顔をしていた。
「いや…えっと…なんて言ったらいいのか…」
ひとまず座り、みんなに家を出てから戻ってくるまでの間にあった事を、ありのまま話した。
全て話し終えるとザルバが
「へーってことは…ついにバークにも恋の訪れか?」
とにやけながら言った。
「えぇ!?いやいやいや!そんなことはないよ!だって相手は初対面の方だったし、それにただお互いの名前を聞いただけだよ?」
と、とにかく否定していた。僕にそんな運命の出会いがあるわけがない。
「意外とそういうところから恋人まで発展するんだよな~。」
と、なぜかロークは妙に納得したような顔をしていた。
「しないしない!!住所とかは知らないからね!?多分もう会うこともないようなひとだったよ。」
そんなことから僕に恋人が出来るなら、もうとっくの昔に恋人が出来ている。
「もう会うことがないって…それじゃあ惜しいことしたことになるぞ?」
ニオもなぜか真剣な面持ちだ。
「あ、確かに…いやいやいや!だから知ってるでしょ!?僕は昔っから…!」
むきになって話す僕を宥めるように、
「はいはい、もう終わったことはいいでしょ?これでバークに脈があるのなら自然とそういう流れになるわよ。」
とアレナが仲裁に入った。
その日はそれ以降、その話が持ち上がることはなくなり、他愛もない話をした後、無事解散となった。
「それじゃ、また今度な。薄幸の青年バークに幸あれ!なーんつってな。」
と最後の最後まで僕をちゃかしてザルバ達は帰っていった。
「それじゃ、またねー!」
僕の横でマールが手を振っていた。
僕の横で?あれ?確かマールは寝てたはずじゃ…
「マール!?いつから起きてたの!?」
怪談話などの苦手なマールのために、わざと遅い時間に集まったのにも関わらず、なぜか彼女は起きていた。
「お兄ちゃん達が部屋で騒いでた時から。」
マール曰く、怪談話の決着が付いた時に起き、僕が帰ってきて帰り道であった事を話している時にはもう部屋にいたそうだ。って!!僕の話全部聞かれてるよ!!
「大丈夫だよ!お兄ちゃんにも恋人ができるって私も信じてるから!だってお兄ちゃんは優しいもんね。」
と、確認するように…いや、もうほぼ強制にも近い期待の眼差しで僕の顔を覗き込んでいた。
「い、いいから早く寝て!もう僕も寝るから!!」
はっきり言って余計なお世話だ。まさか妹にまで聞かれるなんて…あぁもう!なんで初対面の人にあんな事言ったんだろう…
妹にそう言いながら背中を押して家の中に戻り、足早に自分の部屋に戻って布団を被った。
明日になれば全て無かったことになる。そうこれは全部夢なんだと…そう自分に言い聞かせ、眠りに付いたが、
『もし…もう一度彼女に…チコに会うことができたら…』
そう考えてしまい、その夜はお陰ですぐに寝付くことができなかった。

第二話 告白 


じりじりと暑い夏の日差しにも負けず、ジリジリとうるさい目覚ましにも負けず、その日僕はしっかりと寝坊した。
昨日の夜会った女性、チコのことが忘れられないのが一つ目の要因。
そしてもうひとつがもしもや、あわよくば、なんて考えてる諦めのつかない自分の妄想のせいだった。
結局、僕は勝手に人の部屋に入ってきて、僕の上で飛び跳ねてるマールのお陰で過去類を見ないほどの最悪の目覚めを迎えた。
「なんで勝手に僕の部屋に入ってきてるの…?」
低血圧のため、元々寝起きのテンションは低いが妹が部屋にいることと、眠れなかったことによって僕のテンションの低さは最高だった。
寝ぼけ眼で流石の僕も怒っていることを必死に訴えかけるが、
「ねーねーお兄ちゃん、朝ごはん!」
妹は不満そうな顔で僕の寝ぼけた顔を見ている。
朝ごはん…そうだった…忘れていた。僕が朝ごはんを作らないと朝ごはんは無いんだった。
「あぁ…ごめんよ。すぐ作るからリビングで待っててね。」
未だ重い体を無理やり起こし、僕の上で飛び跳ねるのをやめた妹の頭を優しく撫でて緩やかな口調でそう言った。
すると妹は、
「はーい!朝ごはんー♪朝ごはんー♪」
そんな鼻歌を歌いながら僕の部屋から足早に出ていった。
「ふぁ~……仕方ない、野菜炒めでいいかな。」
妹にすぐ作るといった手前、もう一眠りしたいところだが、次眠っていたらダイビングボディプレスでもされてしまいそうだ。
名残惜しいが愛しの布団から這い出し、リビングのすぐ真横にあるキッチンへとテポテポ歩いていった。
本来なら母さんが作ってくれるのだが、今は夏休みということもあって父さん共々出張で家には居ない。
父さんと母さんは同じ会社に勤めている…これじゃ言い方が悪いな。父さんと母さんは同じ会社の重役らしい。
そのため、二人揃って今なら家を留守にしてもいいからということで何処かは知らないが、出張して夏休みの終わりまでは帰って来ないそうだ。
そんなこともあったため、昨日は僕の家に集まって夏の夜の怪談話なんてものができたんだ。
普段は厳しい両親だから家に友達を泊めることも許してくれない。
無論、逆も然りだ。
実を言うと、夏休みの出張はこれが初めてではなく、結構前からだったため僕ももう慣れていた。
いつものように慣れた手つきで野菜を刻み、肉と一緒に適当に炒める!
そして塩コショウとかも適当に振る!案外、これがいい感じの出来になる秘訣だったりする…僕だけなのかな?
「出来たよー。お箸とお茶碗を用意して。」
その完成した野菜炒めを皿に移し、リビングで行儀良くテレビを見ながら待っている妹に向かって言った。
「はーい!!」
マールの元気な返事が聞こえ、僕が野菜炒めをテーブルに置き、飲み物とコップをを持ってくる間にきちんと用意してくれた。
その中のお茶碗を自分と妹の分、二つを手に取り、少し盛り上がる位のお米をついだ。
「私が持っていってあげる!」
とお米をつぎ終わった一つ目のお茶碗を、妹が満面の笑みで僕にそう告げながらテーブルに持っていった。
自分の分もよそい、先に座って待っている妹と対面の席に座った。
「それじゃ、いただきます。」
僕が手を合わせ、小さく一礼をしながらそう言うと、
「いただきまーす!」
同じ様にし、すぐに箸を取り、食べ始めた。
程よく火が通り、いい色になったお肉と野菜を小皿にたくさん移し、
それをすぐに、これまた口角がそれ以上あがるのかと思うほどの満面の笑みを見せ頬張っていた。
「おいしい!」
その言葉、その光景…これを見て微笑まない人はいないだろう。
僕はニッコリと微笑み、
「そう?よかったよ。」
そう言いながら僕も野菜炒めを小皿によそった。
「ごちそうさまでした!」
「お粗末さまでした。」
朝食というにはあまりにも遅い朝食を食べ終わり、今日は何をしようかと考えていると、ブー、ブーという振動音に気が付いた。
恐らくケータイにメールが届いたのだろうが、先に食器だけは片付けたかったので妹に手伝ってもらいながら手早く食器を洗い、洗い物かごに入れた。
タオルで手の水気をふき取り、急いでメールを確認すると、


〔よう!今日暇か?って聞くまでもないかww
 今からいつもの行きつけの喫茶店にみんなで集まらないかって話になってるから
 バークもどうだ?
 一応、昨日のお詫びってことでなんか一品ぐらいなら奢るぞ。
 そんじゃ返事待ってるからノシ                       〕


というものだった。メールの送り主は言うまでもないが、ザルバだ。
僕は別に気にしてもいなかったのだが、ザルバは恐ろしく昨日の罰ゲームに関して気にかけている。
別に僕が誘ったんだし、気にするほどのことでもないから気にしなくてもいいのだが、ザルバはそういうところがえらく几帳面だ。
返信のメールには〔別に奢らなくていいよ、すぐにそっちに行く。〕とだけ打ち込み、すぐに返信した。
丁度、今日という暇な時間を潰すいいきっかけが出来たのだし、すぐに出かけたいところだが、
「それじゃ、僕はちょっと出かけてくるから遊びに行くなら遅くならないようね。」
とだけ妹に言い、準備をしてから家を出た。
「行ってらっしゃーい!」
そう言いながら玄関で元気に手を振る妹が可愛い…流石にこれは癒される…
若干軽くなった足取りで、鼻歌混じりにいつもみんながよく集まる近くの喫茶店へ向かって歩き出した。
そして昨日、あのとても可愛らしい女性、チコに出会った曲がり角へとやって来た。
『ここを曲がったら…むこうで待ってる…なんてことあるわけないか…』
そんな淡い妄想を描き、それを自分ですぐに諦めて、小さくため息をつきながら曲がり角を曲がった。
曲がり角の向こう側には…案の定、誰も居なかった。いや、居るわけがないと言った方が正しいだろう。
そんな自分の淡い妄想が叶う訳が…
「あの……もしかして…バークさん…ですか…?」
「ふぇ!?」
急に後ろから声をかけられたため、素っ頓狂な声を上げてしまった。
急いで後ろを振り返ると、そこに立っていたのは…間違いなく昨日の晩に出会ったチラーミィ、チコだった。
「え!?えっと…もしかして…チコさん…なんですか?」
自分で間違いなくと言っておきながら、自分にそんな奇跡が起こるわけがないそんな自虐的な心が何処かにあり、いつの間にかチコに聞いていた。
「あ!はい!よかった!もう会えないものだとばかり思ってました!」
チコは自分がバークであることの確信が持てたと同時に、とても嬉しそうな顔をし、いつの間にか僕の手を取っていた。
「あなたは間違いなく私の運命の人です!」
何度こんな妄想をしただろう…まさかそんな儚い妄想が実現するとは夢にも思っておらず、自分の手を握っている場所を中心に花でも咲き乱れたかのような幸福感にバークは包まれていた。
「……!!で、でも…!なんで昨日あんなことをいった自分を探したりしてたんですか?」
彼女は別に探したとは一言も言っていなかったが、自分の妄想が叶ってしまったため勝手にそう、脳内変換されていた。
そして彼女が、自分を運命の人と呼ぶに相応しい理由が見当たらなかったのも聞き直した理由のうちの一つだった。
「実は…私のことを可愛いなんて言ってくれたのは…あなたが初めてだったんです…」
彼女は頬を薄く赤らめ、ちらちらとこちらを上目遣いで確認しながら言ってきた。
その仕草の可愛さといったら!これはたとえ僕でなかったとしてもイチコロでKOされているであろう。
「そ、そうだったんですか…でも、自分なんかでいいんですか?」
あまりの可愛さと嬉しさで、僕も釣られて頬を赤く染めながら心にも思っていないことを口にしていた。
あまりにも恥ずかしいため、目も合わせられず照れ隠しで頭を掻きながら彼女から少し焦点のずれた場所を見ていた。
「私…昔から『小さくて可愛い』とか、『守ってあげたくなる』なんてことは言われてました…でも、それは私にとっては嫌だったんです。昔から背が低いことで虐められ続けてたので…」
彼女は少し俯きながら、過去の嫌な記憶を語ってくれた。
「分かるよ…その気持ち…僕も同じ様に背が低いことで散々言われ続けたから…」
同じ境遇同士、通じ合えるものがあったのだろうか…僕は素直に彼女の可愛さに一目惚れしてしまっていた。
彼女の辛かった過去が、自分も恐ろしく共感できた。
「だから…私にはあなたしかいないんです!いえ…むしろあなたが私なんかでいいでしょうか?」
彼女の顔は何処か不安げな表情をしていた。
彼女の中では恐らく、これが最後のチャンスとでも思っているのだろう。
不安の中に何か、切羽詰ったようなものも垣間見えたからだ。
「もちろんだよ!僕にも君しかいないよ。」
はっきり言って、僕にとってもこれが最後のチャンスかもしれない。
奇跡なんて信じていなかった。と言えば嘘になる。しかし、心の何処かで諦めていた自分が居た。
でもそんなことはもう関係無い、今ここで起きた事はまさに奇跡で、これこそが運命なのだと僕は確信することにした。
千載一遇…いや、生涯一隅かもしれないこの奇跡、僕は神様に感謝するわけでもなく、昨日起きた出来事に感謝するわけでもなく、
ただ目の前にいる彼女が…チコが僕を選んでくれたことに感謝した。
すると、自分でも気が付かないうちに彼女の手を取っており、
「約束する。君は僕が必ず幸せにするから。」
そう、真剣な面持ちで彼女の潤んだ瞳をしっかりと見据え、心の底から本気の僕の気持ちをそのまま言葉にした。
彼女はその言葉を聞いた後少し間を置き、コクンと頷いた。
その直後、自分の取った行動があまりにも恥ずかしい行動であることに気付き、一瞬で顔が、いやもう体が真っ赤っかに染まっていたかもしれない。
頭の上から湯気でも出ていそうなほど真っ赤になったまま、僕は身動き一つ出来ないでいた。
その時、ケータイが小刻みに振動してくれたお陰でやっと我に返り、いつもより素早くケータイを開き内容を確認していた。
メールの内容は『もうみんな着いている』というものだった。
よくよく考えてみれば、すぐに向かうと言ってからここで彼女に出会い、会話している間、どれほどの時間が経ったのかなど気にしてすらいなかった。
それほどの時間をかけて、僕の初めての恋と告白は終了したのだ。
「えっと…チコさん。僕、今から友達と集まる約束をしてたから…一緒に来ます?」
と、ぎこちない喋り方でチコに話しかけると。
「チコでいいですよ。それに敬語で喋られると…なんだか恋人じゃないみたいで嫌です。」
そう答えた。そんな彼女の表情は、さも『チコ』と呼んで欲しそうな顔をしていた。
「う…うん。チコ、僕の友達に会いに行く途中だったんだけど、一緒に来る?」
未だぎこちなさはあるものの、彼女が敬語は嫌だと言ったのなら敬語を使う方が失礼だ。
精一杯のタメ口を使い、彼女を自分の友達との集まりに招待した。
「はい!もちろん喜んで!」
すると、彼女は嬉しそうにそう答え、ニッコリと微笑んだ。
その表情こそまさに天使の笑顔だ…
ゆっくりと歩き出すと、彼女が僕の腕を掴みまさにラブラブのカップルのようになっていた。
少しの恥ずかしさはあったものの、それ以上の幸福感と満足感で僕は周りが気にならなくなっていた。
僕は今…最高に幸せだ…

第三話 恋人 


暑い夏、暑い日差し…そして熱々の僕達♪
確かに出会って間もないかもしれないかもしれないけど、お互いに運命を感じた相手なんだから気にしなくてもいいよね?うん、きっとそうだ。
さっきまで暑さでイライラしていたのが嘘のように汗が引いた。むしろ涼しいぐらいだ。これが愛の力さ!あ。これ以上言うと怒られそうだ。
そのままいつも僕達がよく寄っている、駅前の喫茶店に歩いて向かった。メールにもあったようにすでにみんなが揃っていた。
その喫茶店は駅前という便利さとカジュアルさを兼ね備えた若者に人気の喫茶店だった。
店内にテーブルが数席、屋外にもテーブルが並んでいるのでぱっと見ただけでも雰囲気のいい店だ。
メニュー自体も若者向けかと思いきや、老若男女問わず好みそうなメニューが意外と多い。これがこの店がずっと生き残ってる理由なのかもしれない。
理由といえば、この喫茶店のマスターは常連客の好きなメニューを覚えててくれるだけでなく、そのお客さんの好きな話題なんかも合わせてくれるもんだからマスター自体も評判が良い。
そして、僕達がいつも座っている席が、屋外の一番右端の席。ここがきれいに街路樹の真横で、さらにお店が植えてる植物のお陰で店内にいるよりよっぽど涼しいんだ。
まだ向こうは気付いていないようなので、こっそりと近付こうと思い、
「チコ、あそこに僕の友達がいるから少し驚かしちゃおう!」
そう、いたずら小僧のような小憎たらしい、しかしどこか憎めない笑顔でこっそり彼女に言った。
すると彼女はコクンと頷き、ばれないように僕の後ろを付いてきてくれた。
お店の植物がいい感じに目隠しになっていてその植物を挟んで隣り合わせだというのにまだばれていない。
こういう時だけ背が低くてよかったと思う。こういう時だけ。
彼女のほうを向き、小声で
「それじゃ…僕が1・2・3って言ったら、3で立ち上がって驚かしてね…」
はっきり言って、お店の前で中腰で会話している僕達は不審者にしか見えなかったかもしれないが…
「1…2……3!!」
そんなのお構いなしにいきなり立ち上がってみんなを脅かして見せた。
…はずだったんだけど…
「よお、遅かったな。」
ザルバがごく普通に対応して、
「遅かったからなんか奢れよ~。」
ニオが遅れた僕に催促してきた。
あれ?なんでこんな反応なんだ?
「えっと…驚かないの?」
疑問に思い、そう聞くと、
「だって通りすぎる人達の目線が下にいってたから、あぁいるんだな~って勘付いた。」
ゆっくりとアイスコーヒーを飲んでいたロークがネタばらしをしてくれた。
やっぱり…目立ってたのか…?でも横にはチコがいるからそっちに驚くんじゃ?
「えっと…こっちの子の事は…気にならないの?」
そう僕から振ると、
「隣に誰かいるの?」
ローナが不思議そうにそう聞いてきた。
「何言ってるんだよ!ここに…」
そこまで言いかけてあることに気付く。
彼女が…チコが…立っても植物よりも低かったのだ。
今にも泣き出しそうに震え、目を潤ませている。
彼女の背の小ささは彼女のネックだ。自分も背が低いためよく分かるのに、よりにもよって自分がその傷を抉るような真似をしてしまった。
慌てて彼女の手を引き、足早にその席のほうへと回った。
「え…っと…この子が僕の彼女の…チコっていうんだ。」
慌てていたせいもあり、よく訳の分からない説明をしてしまった。
そんな説明で伝わるわけもなく、長い沈黙の後、チコがもじもじしながら
「は…初めまして…今日、彼女になった…チコ…です。」
そう、顔を赤らめながら彼女が僕の理解できない説明を補足してくれた。
その言葉でようやく凍り付いていた時間が動き出し、その場にいた全員から驚愕の声をもらった。
「え…?え…!!う、嘘だろ?」
「ちょっと待った…頭の整理が追いつかない…今日!?」
ザルバ、ニオ共に口をパクパクさせて驚いていた。いい気味だ。
そしてロークは、辺りをきょろきょろと確認していた。
「ん?何を探してるの?」
「いや…『ドッキリ大成功!!』の看板を…」
いつも冷静なロークでさえこの事態は冷静に判断できなかったようだ。
そのまま僕達も席に着き、ここに来るまでの経緯を事細かに説明した。
「なるほど…確かに運命的だな…」
ロークは腕を組み、少し溜めた息を吐き出しながらそう言った。
「え~!いいなーそんな運命的な出会い。私もザルくんからそんな風に口説かれたかったな~。」
「なんだか…ちょっと恥ずかしいですね…でも、確かにロマンチックな出会いかも…。」
タマナは視線をザルバに送りながらそう言い、ローナは少し顔を赤らめながらちらちらとニオを確認しているように見えた。
「運命なんてものがあるのね…私にも恋のキューピッドなんて現れないものかしらね。」
と、いつもはそういった恋愛話に興味の無いアレナさんがしっかりとその話には喰いついてきた。
「え!何?もしかしてアレナもそんなロマンチックな恋人の方がいいの?」
と、少しちゃかし気味にタマナがアレナに質問していた。
「ううん、私の恋は…片思いだから…相手が気付いてくれたら嬉しいな、ってね、思っただけ。」
その返答の声は、どこか諦めがあるように聞こえ、無理に出していた笑顔がなおさら痛々しいものに仕上げていたように見えた。
「あ、えっと…!ご、ごごごめんなさい!別に悪気があって聞いたわけじゃなかったの!本当にごめんなさい!」
さすがにタマナも慌てて謝っていた。別に気にしなくてもいい、とアレナさんは言っているが、初めて聞いたアレナさんの恋の本心はかなり複雑なものに思えた。
「それよりも、いいの?さっきからみんなチコちゃんを蚊帳の外にしてるけど?」
アレナさんはいつものような落ち着いた雰囲気に戻り、さっきから僕の横でもじもじだけしているチコの方に視線をやった。
「いえ、私は聞いてるだけで楽しいのでお気になさらず。」
「駄目!せっかくこのメンバーの一員になったんならみんなでわいわい楽しくやらないと!」
チコの遠慮を気にもせず、タマナがほぼ強引に会話の中心に持ってきた。
「でも本当にいいわよね~。そんなかっこいい口説かれかた私もしてほしかったな~。」
「さっきからなんだよ!あいあいすみませんね!ロマンチシズムの欠片もなくて!」
ちょこちょこと喋る度に視線を送り続けていたため、ザルバがついに捻くれたものの言い方で返答した。
「お二人はどんな出会いをしたんですか?」
ローナが物珍しそうに二人に質問すると、
「俺の一目惚れ。即効アタックして一度玉砕した。」
「玉砕したのにどうやって恋仲になったんですか?」
と、今回初めてチコが発言した。意外と彼女もそういうのに興味があるんだ…
すぅーっと息を吸い込み、
「前の彼氏がね、私の体目的だったの。それで無理やり連れ去らせそうになった時に、ザルバがね。」
と、少し遠くを見ながら、懐かしむようにタマナは言った。
「へぇー…かっこいいと思いますよ?私は。」
とローナが、
「十分ロマンチックだと思いますよ?」
チコも賛同するようにそう言った。
「ザルバくんってそういう男らしいところがかっこいいんじゃないの?私はそう思うわ。」
アレナさんの的を得た言葉を聞き、
「い、いや…だってよ!流石にふられたっていっても、無理やり連れて行こうとしてるそいつに腹が立ってな。」
いかにもなことを言っているが、顔は赤くなっていた。
「でもね~…その後がね~…」
いかにも残念そうな顔をしてザルバの方を見ながら。
「『こんな男より俺と付き合ってくれ』なんて言われたらね~…」
そう言い、深くため息をついていた。
「それじゃあただの諦めの悪い男じゃないの。」
アレナさんが再度ど真ん中を抉った。
「あ~あぁ、なんなら私、バークくんの彼女になっちゃおうかな?」
と、こちらに寄ってきながらそう言った。
「いやいやいやいや!ザルバを大事にしてあげてよ!」
「なんで俺はバークにまで擁護するようなものの言い方をされにゃあならんのだ!!」
どこか悲しさと悔しさのこもった声でザルバは立ち上がりながらそう言った。
割れるような笑い声で、僕達の席は包まれていた…が、
「バークは…誰にも渡さない…バークは…私だけの……」
そう、微かに聞こえた気がしたが、みな笑っているだけだった。
気のせい…かな…?
そんなことを思っていると、
「こら!お前たち騒ぎ過ぎだ!今日はもう帰りなさい!」
いつもは温厚な店主のユンゲラーのダッチさんが流石に文句を言いにきた。
きちんと謝り、店を後にした僕達だったが、
「とりあえず、このあとみんなどうするよ?」
ニオがみんなにそう聞くと、
「ま、集まってただ駄弁りたかっただけだからな。丁度いいし、ここで解散にするか。」
と、ザルバが笑いながらそう言った。
ただ集まって喋っていただけだったのに、楽しい時というものは簡単に流れていってしまう。
気が付けば高かった日は既に大分落ちており、まだ辺りが暗くなっているわけではなかったが時間の経過を知らせてくれた。
「それじゃあ、また明日。」
僕がそう言い、みなに手を振ると、同じように別れの言葉と共に、それぞれのうちの方向へと歩いていった。
「それじゃ、チコ。帰ろうか。」
そういい、手を引こうとしたが、彼女はどこか一点を見つめ、微動だにしなかった。
「どうしたの?」
もう一度声をかけると彼女は何事も無かったかのように頷き、僕の手を取ってゆっくりと歩き出した。
そのまま数分歩き、彼女と出会った住宅地の交差点まで戻ってくると、
「それじゃあ、私はこっちなので、また明日。」
そう言い、可愛らしい笑顔と小さな手でこちらに手を振りながら帰っていく彼女に手を振り、
「また明日、集まるときには一応連絡するよ。」
そう言い、彼女と出会った交差点で別れた。
店を離れる前にケータイの番号とアドレスを交換していたので、次からは会うのが簡単になる。
というよりもそれが普通か。
そのまま僕も家に帰っていった。
「ただいまー。」
玄関を開け、妹に帰ってきたことを伝えたつもりだったが、どうやら自分の方が早かったようだ。
妹も遊びに行ってるだろうから帰りはもう少し後かもしれない。
そう思い、自分の部屋に戻り妹が戻ってくるまでの数時間、ゆっくりと眠らせてもらうことにした。

第四話 異変 


夏の西日が瞼を無視して貫くように、僕の眠気を無視して妹はいつものように僕のおなかの上で遊んでいる。
はっきり言って体は強い方ではないのでこう毎日のように自分よりも(悔しいことに)大きい妹に体を酷使させられると非常にきつい。
しかしそんな僕の思いは遊びから帰ってきたはずにも関わらず、元気なままのマールに通じるはずもないわけで…。
「お兄ちゃんおはよう。早く晩御飯食べよ!」
本当はきちんと叱り付けたほうがいいのだろうが、どうしてもこの可愛らしい笑顔を見せられたら叱るに叱れない。
甘いお兄ちゃんかもしれないが、マールもいつかは僕のことを気遣ってくるようになるだろう。
それに叱るのは僕の仕事じゃないしね!
ひとまず今はいつの間にか妹につられて一緒に鳴き始めた自分の腹の虫も静かにさせよう。
そう思い、今日もまだまだストックがある食料の中からいつものように気分で料理を作ることにした。
そう思って冷蔵庫を開くと自分が思っていたほどストックは無くなっていた。
マールには文句を言われるだろうが今日は質素な夕食で済ませることにしよう。
気が付けばもう夜遅く(とは言ってもマールがいるからまだ9時だが)、妹を寝かせてから自分もベッドに泥のように滑り込んだ。
なんだかんだで結構歩き回ったりもしたし、妹に遊ばれたりもしたのでかなり体は疲れきっていた。
僕の意思とは関係なく閉じようとする瞼を少しの間だけ無理やりこじ開け、ケータイにメールが届いていないか確認することに全神経を集中させた。
着信二件、片方はいつも通りザルバ達からの明日の誘いのメール。
いつものように行きつけのカフェに集まり、明日は折角だから遊びに行こうというものだった。
快く承諾のメールを送り、もう一つのメールに目を通すと、その送り先はチコだった。

『今日はバーク君のお友達に会えて良かったです。
 明日もまた会いましょう。
 おやすみなさい。

       --END--          』

いかにも彼女らしい淡々とした、しかしどこか愛らしい文面だった。
こんなメールが来るとは思ってもおらず、腰辺りにかけていたタオルケットがどこかに飛んでいってしまうぐらい足をばたばたとさせて喜んでしまった。
いやいや、別に悪いことじゃないんだ。
嬉し過ぎて背中どころか体中が燃え上がりそうなほど嬉しかった。
いや、もちろん炎は噴き出さないよ、燃えちゃうもん。
結局そのメールに満面の笑みのまま返信し、携帯を抱きしめたままベッドをごろんごろんと転がっていると当たり前だが目が覚めてしまった。
なんだかもう疲れなんかどうでも良くなるほど興奮し、結局この日もほとんど寝れずに翌日を迎える羽目になったのは言うまでもない。

――――

翌日、携帯を握り締めたまま眠っていることに気付いて跳ね起きた。
僕の夢の中では握っているのは携帯ではなく、彼女の右手だったのに…。
急いで充電器に挿し、そんなアクシデントのお陰でかなり眠いはずなのにすっかり覚醒してしまった脳が僕を寝させようとはしてくれなかった。
洗面台に行き、顔を洗うと普段は毛に隠れて見えないが背中の毛といい勝負ができそうなぐらい黒ずんだ隈が僕の瞳をぐるっと囲んでいた。
こういうときは毛が生えてて良かったと思うけど、泳ぐときは水を吸うから体が重たくなって結構困る。
あ、因みに僕はかなり泳ぎが上手い方だよ。
よく炎タイプは水が苦手とか思われがちだけど僕は案外そうじゃなかったりもする。
でも流石にアレナさんには敵わないかな。
彼女の泳ぎは速いなんてものじゃないからね。
そうこうしている内に妹も目を覚まし、結局ちょこっとだけでもゆっくりしようかなと思っていた僕の淡い願望は打ち砕かれてしまった。
ま、今回は悪いのは僕なんだけどね…。
もう慣れた手つきで有り物から手早く朝食を作り、朝食をとるがやはりマールは最近似たような物ばかりでいかにも文句がありそうな顔で食べていた。
そろそろ買い出しに行かないといけないな。
それは置いといて、マールの方も遊びに行く準備をしているようなので一言声をかけて先に出て行くことにした。
短時間だと思っていたが意外にも携帯は三本目まで充電が完了していた。
まだ何処に集まるとかそもそも今日遊ぶのかとかは決めていなかったから今から連絡を取りたかったので安心した。
ひとまずザルバにメールを送り、今日は集まれるのかを確認することにした。
その時、メールが届いていることに気付きついでに確認すると


『おはようございます。
もしよければ今日は二人で遊べますか?
返信待ってます。

      --END--       』

そんな内容のメールだった。
バークはしまったとばつ悪そうに頭を掻きながらそのメールを確認するのとほとんど同時にメールが予想通り返ってきた。
送り主は大方予想がついている。
メールの内容はザルバからの遊べるというメールだった。
ここだけの話、ザルバのメールの返信の速さは女子高生のそれを彷彿とさせるような恐ろしい速さだ。
誘っておいてなんだが折角チコがデートに誘ってくれたのだ。
一日ぐらい彼女を優先しても罰は当たらないだろう。
そう思いながら断りのメールをザルバに送り、チコにもOKのメールを送った。
当たり前のようにチコのメールを送り終わる頃にはザルバから既に返信メールが…どうやってあんな長い爪でそんなスピードで打ち込んでいるのだろう…。


『そうやって友人<恋人になっていくのさ…お前は親友だと思ってたのにな!(`Д´)m9
まあそれは嘘で、折角初めて出来た彼女なんだ。大事にしてやれよ!(`Д´)ゝ
じゃ、また今度な。(´・ω・`)ノシ

            --END--                  』

こんな長文をものの数秒で打ち込むのだから本当に信じられない。
それはそうと今回は折角気を遣ってくれたザルバの好意に甘えさせてもらうことにした。
その間にチコからもメールが返ってきていた。
何気に彼女も打つのが速いようだ。
それとも僕が遅いだけなのかな?まあそれはいいや。
メールの内容は昨日行ったいつもみんなが集まるカフェに集まろうというものだった。
あんまり意識はしていなかったものの、ザルバの一言でこれがデートであることを意識してしまうとなんだか緊張してきてしまった。
なんだかんだで彼女なんか出来たことがないから何をすればいいかも分からなかったが、とりあえず遅れるのだけはまずいだろうと思い少し駆け足で待ち合わせ場所に向かうことにした。

――――

「おはようございます。早かったんですね。」
着いていた、既に彼女は待ち合わせ場所に着いていた。
遅刻だけはしない、それは待たせたくなかったから思ったことだったのに結局待たせてしまった。
「ごめんなさい…遅れました。」
初めてのデートだというのにいきなりなんでこんなブルーな気持ちになってるんだろう…。
今なら背中から青い炎が出せそうだよ…あれ?それって結構カッコよくないかな?
「ごめんなさい!特に予定もなかったんで急いできちゃったんです!」
落ち込む僕の様子を見てすごく申し訳なさそうにチコが謝ってきた。
元々謙虚な二人が集まったんだ…その後どれくらいお互いに謝ってたんだろう…。
「おや?バーク君は今日はみんなとは一緒じゃないのかい。珍しいね。」
もう何で謝ってるのかも分からなくなりそうなぐらい謝り合ってる時にダッチさんの救いの手が差し伸べられた。
僕達に気付いたみたいでいつの間にかトレーにコーヒーを乗せて持ってきてくれていた。
ダッチさんの煎れてくれるコーヒーはとても美味しい。
でも不思議なことにダッチさんのコーヒーはいつも同じ豆を使っているはずなのに味が毎日変わるんだ。
そんな不思議な、でもとても美味しいダッチさんのコーヒーを飲みながら三人で楽しく喋っているうちに暗い雰囲気は何処かに消えてしまっていた。
折角明るい雰囲気にもなれたのでいろんな場所を回ってみたいと思い、ひとまずここを離れようとバークは思った。
そこでふと思い出す。
「そういえば僕コーヒーなんて頼んでないですけど…。」
「いいよいいよ。折角のバーク君の初デートなんだ。私の奢りだよ。」
そう言い、申し訳なさそうにしているバークを無理やり店から押し出した。
街の商店街の方に向かって歩いていくバーク達ににこやかに手を振るダッチさんに少し申し訳ない気持ちになったものの、ここは素直に甘えさせてもらうことにした。
ここ最近、みんなに付き合って色々と出費がかさんでいるせいで案外このコーヒー一杯の料金も有り難いサプライズだ。
そしてチコの小さな僕よりももっと小さい可愛らしい手を繋ぎ、一緒に歩くというよりは彼女の手を引いているような感じで商店街を練り歩いていた。
当たり前かもしれないが体が僕よりも小さいのだから勿論彼女の方が歩幅が短い。
チョコチョコと歩く彼女を早過ぎないように合わせて歩く様はなんだかカップルというよりはお兄ちゃんと妹のようだ。
談笑しながら歩く事数十分、ついに聞きたくなかった一言を言われた。
「バークさん。折角ですからあそこのお店に入ってみませんか?」
デートはお金がかかる。
聞いてはいたがこの季節よりも先に寒波が到来した僕の財布にはちと厳しい一言だった。
が、彼女の手前断るわけにはいかない。
というよりも数十分もウインドウショッピングに付き合わせていたのだ。
彼女の方が察して一歩引いていてくれたのかもしれない。
というのも、彼女が入ろうといったお店は女性物の服屋さんでもなく、ジュエリーショップのような場所でもなく、ごく普通のカフェだったからだ。
珈琲屋を出てカフェに入りたいなんていう人は普通居ない。
そこで彼女の好意に甘えつつ、ゆっくりと過ごすことにした。
というかなんだか周りの人が気を遣ってくれて嬉しいやら悲しいやら…。
結局カフェに入っても彼女はデザート等も頼まず、ただ飲み物を一緒に飲みながら色々と会話をしていただけだった。
せめて自分をフォローするならこれだけ長時間喋っているのに話題のネタが尽きないことぐらいかな?
そんな事を思い自分を慰めつつ話していると
「なに~?あのカップル~。ださくな~い?」
そんな声が聞こえた。
うん、どう考えても僕の事だろう。
ファッションセンスに疎いのは元々気が付いてはいたが、改めて言われると結構傷つくものだ。
「やめとけよ。どうせ小学生とかにしか興味の無いキモオタだからさ~!」
それは違う、断じて違う。
確かに彼女は小さいが間違っても小学生ではない。
というか言っておくけど僕はオタクでもないし、ロリコンでもない。
地味に嫌な気分になったがなんとか気分を紛らわそうと極めて明るく振舞って見せた。
しかし振り返って彼女の方を見ると思わず作った笑顔が凍りついてしまった。
彼女の目は完全にその二人を捉えており、親の仇でも見るかのような冷めた恐ろしい目に見えた。
「チ、チコ…!あ、あんな人たちのことなんか気にしないでさ…そうだ!近くに僕がよく行く公園があるんだ。そこで少し動こうよ!」
必死にその場の雰囲気を元に戻そうとバークは彼女にそう切り出した。
「そうですね…。他人の幸せを素直に喜べないなんて可哀想な人たちですからね。」
そう話した彼女はすでにいつものように潤んだ可愛らしい瞳に戻っていた。
全てを焼き尽くしてしまいそうな劫火のような激しさはその瞳からは読み取れず、元々そうであったようにしか見えなかった。
恐らく見間違いだったのだろう。
彼女にはそんな攻撃的な特徴はない。
僕だってあんなことを言われるのは嫌だったんだ。
だから僕の心が彼女にもそう思わせていると思い込んでしまっただけだろう。
そう思い込むことにして、残りの飲み物を飲み干して先程言った公園へと足を運ぶことにした。

第五話 本性 


大墓穴を掘ったと今でも後悔している。
なぜ僕はあの時、『体を動かそう!』などと言ったのだろう。
この全力で夏だと主張する炎天下の元でなぜか僕とチコ二人でジョギングをしていた。
前にも言ったと思うが僕は運動はあまり得意じゃない。
というよりも暑いのは大の苦手だ。
炎タイプでも暑いのは暑い。
寧ろ今からでも遅くないからプールにでも行きたいところだが…そんなお金もあるはずない…。
高いんだよね…交通費と最近のプールの使用料金って…。
というよりも予想以上に彼女が運動が得意で驚いていた。
歩いている時は手を繋ぐというよりも手を引く感じだったのに、今は完全に彼女が僕のペースに合わせてくれている。
「バークさん。辛そうですけど休みますか?」
「いや…ハァ…気にしなくていいよ…ヒィ…。」
男としては辛いなぁ…。
正直、休みたいけど彼女の手前カッコ悪い姿は見せたくないという僕の無駄なプライドがどんどんと泥沼へと誘っていた。
息も絶え絶え、早歩きと然程差のないようなスピードで走る僕を先導してくれていた。
暑過ぎて脱いだ上着はいつの間にか彼女が抱えて走ってくれてるし、現時点でプライドも糞もあったもんじゃない気がする…。
服着てるのかって?上着だけね。
ポケモンだからただのファッションだよ。
夏なのにカッコつけたくて着てきた結果がこの様だよ!
結局ヘロヘロになりながら走り、暑さとスタミナ切れで途中で倒れてしまった。

――――

「大丈夫ですか?無理はしなくてもよかったんですよ?」
「ごめん…。」
公園の丁度真ん中辺りにある小高い丘の木の根元で涼んでいた。
おかしいな…公園でデートってこんな惨めな気持ちになるようなものじゃないはずなのに…。
用意周到な彼女は団扇で、暑さで伸びた僕を扇いでいてくれた。
暫くその木の根元で涼んでいた気がする。
事実、日も結構低くなっていたからね。
漸く元気を取り戻した僕を見て彼女はクスリと笑い
「ごめんなさい。バークさんが優しくしてくれるものだからつい張り切っちゃいました。」
そんなことを言いながら小さい手で僕の手を掴んでいた。
優しいなんて言われたのは初めてだった。
優柔不断だとかつまらないとか言われたことはあったけれどね…。
そういった意味でも彼女は僕を見えない所から支えてくれているように思えた。
「実はあんまり運動は得意じゃないんだ…。カッコつけようとしてこの様だからカッコ悪いよね…。」
起き上がってそういうとチコは首を横に振り
「バークさんは優しい人なんです。なにも格好つけて見せるだけがカッコよさじゃないと私は思いますよ?」
そう天使のような表情で、声でそう言ってくれた。
あぁ、もう…泣きそう…。
でもそこでふと思い出した。
「あ、そうだった。今日は買い物をしないといけないんだった。」
家の冷蔵庫にはすでに一日分の食料があるかも怪しかったのだ。
彼女に申し訳なさそうに言うと
「自分で買い物とかもしてるんですか?それじゃこれ以上私が引っ張りまわしちゃいけませんね。」
彼女は冗談交じりにそう言い、彼女が持ってた僕の服を渡してくれた。
なんだか僕よりも周りの人たちの方が僕に気を遣っていてくれたような気がするなぁ…。
少し申し訳ない気持ちにはなったけど夕飯を作らなければ妹が拗ねるからすっぽかすわけには行かない。
その場は服を受け取り、一足先に公園を出て行くことにした。

――――

商店街に戻ってきたバークはいつものよく使っている店に入っていった。
お金が無いとは言ったけれどもそれは僕が自由に使えるお金が無いという意味だ。
ご飯とかのお金は勝手に使っちゃいけないからね。
買い物かごを片手に出来る限り安くて量のあるお肉や野菜を選び、少しだけジュースやお菓子もかごの中へと放り込んでいった。
折角少しの自由なんだ、ちょこっとぐらい自分たちのために使っても文句は言われないだろう。
というよりも妹がお菓子がないと不貞腐れるから面倒だというのが本音だ。
必要な物を最小限だけ買ったつもりだったが結構な量になってしまったその荷物を両手にぶら下げて家路につくことにした。
家に着く頃には大分日も傾いていたが流石にそこは夏、まだ薄暗くもならず空を朱色に染めていただけだった。
「ただいまー。」
「お帰り~。お腹すいた~。」
リビングから上半身だけをヌルリと出してそれだけ言うとまたヌルリと消えていった。
面倒臭いのは分かるがせめてキャタピーのように動くのはやめてほしい。
小さくため息を吐きながらそのまま台所の方へと歩いていった。
僕は一応料理は出来るがそこまでレパートリーが多いわけではない。
ひとまず夕飯ということもあってついでに買ってきた麻婆の素で麻婆豆腐をちゃちゃっと作った。
ご飯と作り置きの味噌汁と麻婆豆腐、実にシンプルだ。
夕飯の間は食べながら一緒に喋っていたが、喋っていたというよりも今日妹がどんなことをしたというのをずっと聞いていたようなものだった。
妹に先にお風呂に入らせている間にメールを確認することにした。
予想通りメールが二件。
恐らく一通がザルバでもう一通がチコだろう。
そう思ってメールを確認したが僕の当ては外れた。
新着二件、片方はザルバだったがもう片方はお母さんたちからだった。
言うまでもないがザルバの方はデートがうまくいったかどうかの確認だった。
成功…といえば成功だが、失敗といえば失敗なのでとりあえず当たり障りの無い返信をしてお母さんたちのメールを読んだ。


『最近調子はどう?
ちゃんとご飯は食べてる?
ってそれだけをお父さんにメールで送ってもらおうとしたら心配し過ぎだと笑われちゃいました。
お母さんたちはもう少しお家に戻れそうにないです。
一応口座に振り込んでおいたから使い過ぎないように気をつけてね。
あなたはしっかりした子だから頼りにしてます。
また帰った時にお話しましょう。

               ----END----                   』

実をいうとお母さんたちはもうすぐ戻ってくる予定だった。
まあでも出張が長引くなんて今までもよくあったことだったから特に驚いてはいなかったけれど、折角彼女が出来たのだから面等向かって言いたかったかな?
ちょっぴり寂しかったけれど心配させたくなかったし、いつも通りの返信をしてケータイを閉じた。
一つ不思議だったのはチコからのメールがなかったことだ。
別に毎日メールしてくれなきゃ嫌というわけではないが、昨日一昨日とその日の感想をメールで送ってきていた彼女がメールを出さなかったことに少しだけそう思っただけだった。
かといって僕からどうだった?なんてメールを送るのは気恥ずかしい。
特に今日は散々な一日だったからね。
でも…彼女は今何をしてるんだろうな~…なんてね。

――――

「やめて!もうやめてよ!!あんた私達に何の恨みがあるのよ!!」
全身血だらけになったヒヤッキーは朱の色に染まった顔を溢れ続ける涙でその色を延ばしていた。
女性の視線の先にはバオッキーだったモノを滅多刺しにする何者かの姿があった。
女性の問いかけに気付いたのか、ひたすらにその肉塊を刺すのを止め女性の方を振り返り
「恨み…?何を言っているの?あなた達は悪い人…私と彼の仲を裂こうとする悪い人達…だからこの男も…あなたも…消えて!私達の仲を裂こうとするなんて出来ないんだから!!」
うっすらと笑みを浮かべた彼女は素早く女性の懐に飛び込み、返り血で染まった胸に新たな鮮血の紅い花を咲かせた。
的確に彼女は血みどろになったそのナイフを女性の心の臓に突き刺し、声を上げるよりも先にその命を絶った。
薄暗い裏路地でぼんやりと灯る彼女の姿は狂気を具現化したような人ならざる者の姿に見えた。
血走り滾る炎のようになった瞳はその見た目とは裏腹に、見つめた者を心まで凍てつかせそうなほど凍り付くたものだった。
「悪い人…。」
そう言い彼女は既に動かなくなった女性に刺さったままのナイフを引き抜き、もう一度深く突き刺した。
「私とバーク君の関係を壊そうとする悪い人…。」
もう一度引き抜き、また深く心臓などいとも容易く貫ききるほどさらに深く、力の限り突き刺しては引き抜いてを繰り返していた。
抜いては刺してを繰り返すうちに彼女の凍りついたような表情はさらに凍て付き、しかしそのうっすらとした笑いは口角がそのまま引き裂けてしまいそうなほどに広く高く吊り上っていった。
「だからあなた達は邪魔なの…目障りなの…誰にも私のバーク君は渡さない…誰にも傷つけさせない!」
静かに、凍て付いたようなその表情からは溢れんばかりの復讐の業火が燃え上がり、既に肉塊と化してしまったソレをなおも滅多刺しにし続けていた。
返り血に染まり過ぎて紅蓮になったソレはその街灯の薄明かりの下で恍惚とした表情で微笑んでいた。
先程とはうって変わり、まるで修道女のように神聖さにも満ちた表情で空を仰ぐ彼女の姿は間違いなくチコそのものだった。
「アはははハハはは!!」
期性にも似た笑い声が響き夜闇へと消えていった。

第六話 裏表 


ここ最近の僕にしては珍しくすっきりとした目覚めだった。
色々あって(基本的に自分のせいだが)最近は寝不足で動き回っていたため夏の朝の爽快感と自身の心境で素晴らしいものになっていた。
早起きは三文の徳、まさにその通りかも知れないね。
ケータイもメールがなかったためキチンと充電器に挿さっているし、まだ妹も可愛い寝顔のままぐっすりと眠っている。
眠っている時は可愛らしい。
いつもみたく溢れんばかりの元気の塊を僕にぶつける訳でもなく、静かに眠っている姿はまさに僕にとっては最高の天使だ。
妹の部屋のドアを起こさないように静かに閉めて、折角のこの素晴らしい朝を満喫するために清々しい気持ちになれる朝食でも作ろう。
そんなことを考えながらキッチンに向かう時、同時にこんなこと思う学生ってのもなんだかなぁ…とちょっとだけ憂鬱にはなったが、朝食を作ってればどうせいつものように忘れてるだろう。
折角昨日色んな食材を買ってきたばかりなのだ。
張りきって純和風の朝食をこしらえていた。
「お兄ちゃんおはよぅ…。」
寝ぼけ眼を擦りながら妹もリビングにやってきた。
いいタイミングだ、ちょうど今出来たばかりだから絶対に美味しいぞ!
そんな僕の思いとは裏腹に、寝ぼけた妹と一緒に朝食を食べてもリアクションは極薄だった。
お吸い物並みのリアクションの薄さだった。
これはたとえ寝ぼけていたとしても結構キツイ…。
白飯、味噌汁、焼き魚に御浸し…なんだかんだ言って僕も結構料理のレパートリーは広いのかな?
以前言った事を訂正しなくちゃいけないね。
そして何気なくつけたテレビを眺めながらゆっくり食べていると朝からとんでもないニュースが飛び込んできた。
『昨夜未明、△△タウンの路地裏で男女二名が惨殺された遺体があるのを今朝通行人が発見し、警察に通報がありました。』
△△タウン、僕が住んでる街の名前だ。
この街では犯罪とかがあまりなかったから結構怖いというのが本心だが、何故かそのニュースは最近何も起きないこの街では新鮮に感じいつの間にか箸の動きも止まっているのも忘れるほど集中してテレビを見ていた。
被害者は男女、身元を調べた結果どうやら恋仲だったようだ。
男性女性共に胸元が肉片が飛び散るほどまで深く刃物を突き刺され、しかも一度ではなく複数回…回数はほぼ数え切れないほどだそうだ。
犯行の手口から見て恐らく恋仲の二人に対し、恐ろしいほどの憎悪があったと見られる。
それほどまでに恨まれるような事はその二人の知人などは聞いたことが無かったらしく、恐らくそういったカップルを狙った男性による犯行だと推測され現在は逃亡した犯人を捕まえるために警察が動き出したそうだ。
いくら憎たらしいとは冗談では言うけれども、そんな滅多刺しにしてしまうほど憎めるのはどこか異質さを感じさせられた。
でも…滅多刺し…か…。
どこかで聞いたことがあるんだけれどよく思い出せなかった。
まああんまり深く思い出そうとも思わなかったというのが事実だけれども。
朝から折角すっきり起きられたのだ、陰鬱な気分にはなりたくない。
そう思い、チャンネルを変えた。

――――

食事を終えいつものように食器を洗ってから自分の部屋に戻ると案の定メールが届いていた。
メールは二通、今回もやはりチコからのメールはなく、ザルバとロークからだった。
内容は同じく今朝のニュース。
物騒な事件だから自分たちも気をつけようというものだった。
ありがたい話だがそれとこれとは別みたいに二人とも遊びの誘いも同時に送ってきているのが呆れるというかなんというか…。
ま、もちろん遊びに行くけどね。
遊びに行くというメールを送り、ケータイを閉じようとしたその矢先メールが一通新たに届いた。
すぐさま確認するとチコからのメール。


『おはようございます。昨日はバーク君と二人きりで楽しかったです。
これからもし用事とかがなければ会えますか?
お返事待ってます。

          ----END----            』

なんというか安心した。
いつものように小奇麗に纏まったなんだかケータイ慣れしていないような丁寧な言葉遣い。
いつものチコなんだなぁとしみじみに思いながらみんなと会う約束をしていることを伝え、一緒に行こうとメールで誘った。
ひとまず出かける準備をしていたが妹の方が一足早く元気に家から飛び出していった。
いつもいつも遊び疲れてクタクタになって家に帰ってきているのにその元気は一体何処から湧いてくるのか…。
電気や戸締りを確認してバークもすぐに家を出た。
そこでひとまずメールを確認すると一通のメール。
内容は喜んでとのことだった。
ケータイを閉じていつもみんなが集まるダッチさんのカフェに向かって歩いていったが
「あ、おはようございます。」
いつも別れていた四つ角よりも手前でチコに出会った。
「あ、おはよう。家こっちだったっけ?」
ふと疑問に思いそう聞くと
「いえ、待ちきれなかったのでいっつもバークさんが帰ってる方に歩いてきただけです。」
と柔らかい笑顔でそう言った。
僕はなるほど!という感じで納得したが一つだけ気になることがあった。
確か僕は一度も家の場所は教えていなかったのに何故こちらに来ようと思ったのかが少しだけ不思議だった。
まあ待ちきれなかったと言っていたし、いざとなればケータイで連絡をとればいいからね。
あまり気にせずに僕とチコはいつものように色んな話をしながらカフェへと歩いていった。

――――

「ガベル刑事!やはり遺体の周辺や同時刻の目撃者を探しましたが何も見つからないようで…。」
ガベルと呼ばれたそのヘルガーは殺害現場に残された回収しきれなかった血染みや僅かな肉片を目を細めて睨みつけていた。
「そうか…。俺は一旦署に戻る。何か新しい情報が入ったら報告を頼む。聞き込みは引き続き頼む。」
小さなため息を吐き、一人その場を離れていった。
ガベル刑事、彼はかなり長いキャリアを持つ凄腕の刑事だ。
刑事になった時から執念と事件解決への熱い想いで動いており、決して悪を許さない『法の番犬』の異名で呼ばれた男だった。
しかし彼は決して非人道的であったり冷徹ではなく、寧ろ情に厚い男だ。
罪を憎んで人を憎まず、彼は更生した囚人の社会復帰を全力で支援するような一面も持っていた。
署に戻ったガベルは自分の机に向かい、もう一度深いため息をついていた。
「どうしたガベル?お前がため息を吐くとはな。難事件か?」
深く落ち込んでいたガベルの背中をべしっと叩き、猫のように丸くなっていた背をビシッと伸ばさせた。
「リオか…。ここ最近立て込んでるんだからもうちょっと優しくしてくれないか?」
彼を叩いたのはリオと呼ばれたルカリオだった。
背中はさすれないので恨めしそうな顔をしてまた机に顎を乗せてため息を吐いた。
「なんならいつもみたいに悩まないで吐き出しちまいな!出来る限りのサポートはするぜ!」
落ち込むガベルを励ますように笑いかけ、横に付くと
「事件自体は今はまだ調査中だからなんとも言えん。ただな…今回の事件…俺が昔扱った事件に似ててな…。」
「あぁ…あの事件か…。別にお前は悪くねぇよ。」
今から数年前、彼は似たような事件を受け持っていた。
犯人は不明、最初の被害者はカップル。
今回と同じように最初の被害者は惨殺死体が見つかった。
その後、犯人の足取りが掴めぬまま、次々と惨殺死体が発見されていった。
最後の死体が特に無残で両目を引き抜かれ血の海に仰向けに倒れた男性の死体と自らの胸に包丁を突き立てた女性の死体が寄り添うようにあったのだ。
犯人が女性であるという説も出たが、それ以前の死体全てがどうやっても女性にどうこう出来るようなものではなかったため、その事件はお蔵入りとなった。
それが今の都市伝説となって巷に伝わっている事件のことだった。
数名のカップルや接点の見受けられない男性や女性だけの死体を生み出した犯人を全力をかけて追ったが、結局死んだ人達の無念を晴らせず誰もガベルのことを責めなかったが、一人自責の念に長い間苛まれていた。
「大丈夫だ。あの事件が特殊だっただけだ。大体お前も知ってるだろう?今じゃ都市伝説になってるほどなんだ。今回の件にだけ集中してればいいんだよ。」
リオはそう言い今度は優しく肩に手を置き、そっと慰めていた。
「そうだな…。犯人捜索はまだ諦めたわけじゃないが…今は今の事件に集中しよう。」
彼がそう言った時、彼を待っていたかのように机の電話が鳴り響いた。

――――

「お待たせ。みんな早いね。」
いつものように角の机に皆が既に集まっていた。
そこまで待ってはいなかったそうだがそれでも僕とチコが来るよりも早くみんな集合しきっているのだから本当に早い。
というよりもみんな事件のこと怖いって思ってないのかなぁ…。
「よう!みんな集まるの早かったな!」
ザルバがいち早く気付きバークたちに挨拶を返した。
それでみんなも気付き一斉に挨拶するものだから困る。
僕は聖徳太子じゃないからね。
結局集まってやることと言えば最近何をしたとか何かしたいとかそういうことをただ話してるだけなんだよね。
「そういやバーク。チコちゃんと仲良くしてるか?」
ニオが急にそんな話を振ってきた。
どう見ても顔がにやけている。
恐らくザルバが昨日の事をみんなに話したのだろう。
本当に腹が立つぐらい皆がニヤニヤしている。
僕が彼女と仲良くするのがそんなに物珍しいのか…友達なのにっ…!
表情には出さなかったものの奥歯ではギリギリいいそうなぐらい全力で悔しさとか怒りとかを噛み締めていた。
「昨日は色々な所を回らせてもらいました。バークさんはお話が上手なのでいつまでも飽きなかったです。」
言葉が喉でつっかえている僕を見かねたのかチコが上手い具合にまとめてフォローしてくれた。
すると何故だかみんな小さく溜め息を吐いていた。
そこまで珍しいかコンチクショー!!
「よかったわ。バークがいつも通りで。」
そんなことを思っていると飛んできたのは思ってもいなかった言葉だった。
どうやらため息は安堵のため息だったようで初デートの成功を祝ってくれているようだった。
「バークって女性に慣れてなさそうな感じだったからね。変に気張ったりするんじゃないかと心配だったけど。どうやら考え過ぎだったみたいね。」
そのまま続けてアレナさんがそう言った。
大丈夫です…心配せずとも気張って失敗しましたから…。
そんな話で盛り上がり、少しの間談笑が続いていた時に
「あ~あ。どうせなら私もバークの彼女になれば良かったかもね~。」
そんなことをタマナが急に言い出した。
「またそういうことを…はいはい。どうせ俺はカッコよくないですからね。」
もういつもの光景だがタマナはよくザルバのことを引き合いに出してくる。
いつもいつもこんなこと言ってるけどまあ要するに喧嘩するほど仲がいいってことなんだよね?
いつものように恨めしいようにタマナがザルバの悪い所を挙げて、それに対していつものようにザルバが皮肉で答える。
「その点、チコちゃんはいいわね。一発でそういういい彼氏引き当てたんだから大事にしてあげなさいよ?彼こう見えて意外と打たれ弱いから。」
二人で話していると思ったらタマナは急にチコの方へ話を振っていた。
僕の事を気遣ってくれているのは嬉しいけど一言多い。
「はい。もちろん大事にしてもらいます。」
チコも満面の笑みでそう答えた。
意外と頼りにされてるってことでいいのかな?
「言っとくけどお前もだからなバーク。」
「言われなくても分かってるよ。初めて出来た大事な人なんだから。」
いちいち刺さるような一言を言ってくるザルバだけど言ってることはいつも正しいことだ。
だからこそ僕もザルバのことが好きなのかもしれない。
そんな会話だけでいつも時間を潰しているんだから本当にいい友達なんだろう、いや親友なんだろう。
恋人と友達、どちらも取ることは出来ない。
そんなことを言った人がいたけど…やっぱり僕にはどちらも捨てることが出来ない。
みんなは大事だ。
長い長い付き合い、殆ど友人というよりも兄弟のような関係だから。
そしてチコも。
初めて出来た運命という言葉を信じさせてくれるような出会い。
僕は必ずどちらも守りたい。
「そういえばアレナとロークは恋人まだできないのか?」
ニオがいつものように黙ってみんなの会話を聞いている二人にそう訪ねた。
というか人が大事なこと言ってる時に割り込まないで欲しい。
まあ…みんなには聞こえてないけど…。
「俺は特にいないな。別に焦って作ろうとも思わないし、時が来ればそのうち誰かに声かけられるだろ。」
ロークはいたって真面目な顔してそう答えるものだから困る。
はっきり言ってロークはかっこいい。
何故彼女ができないのか不思議だったけど、今ようやく理由が分かった気がした。
「私は…いるけど…片思いだから自分から切り出すのが不安だわ。」
前々からそんな話は聞いていたけどアレナさんにしては少し弱気な発言かな?
何故かいつも恋の話になると弱腰になっている気がする。
「告白しちゃえばいいじゃん。これみたいに振られてもチャンスあるかもよ?」
タマナさんらしい豪快なアドバイス。
というかコレって…。
指を指されながら言われるザルバがやっぱり不憫だ。
「もう少しだけ…。もう少しだけ私に自信が持てたら…。その時までは…ね?」
これもアレナさんがいつも言う事。
ある意味僕とは正反対の性格かもしれない。
「おや?キミ達まだ居たのか。そろそろ家に帰らなくていのかい?」
そんな声をかけてきたのはダッチさん。
話に夢中で気が付かなかったけれどいつも解散してる時間はとっくの昔に過ぎていた。
「わぁ!ホントだ!急いで帰って夕飯の支度しないと!」
「私も家のお手伝いが…。」
みんな慌てて立ち上がり、各々自分の代金を払って明日も会おう、そう言ってその場で別れた。
実はダッチさんのお店がちょうどみんなが住んでいる家から真ん中の辺りに建っているんだ。
だから大体ここか少し行ったところで別れてる。
こちらの方向に来るのは僕とチコだけ…ってあれ?
一緒に帰ってきてると思っていたチコの姿はそこにはなかった。
別に彼女も真っ直ぐに帰るとは言ってなかったから別に問題はないけれど、せめてバイバイぐらいは言いたかったな。
そんなことを考えながら歩けば普通よりも歩幅が狭くなってしまう。
妹に怒られないようにするためにもひとまず急いで家に帰ることにした。

第七話 証拠 


「遅いよお兄ちゃん!!お腹減った!!」
結局間に合いませんでした…。
ガミガミと文句を言われながらいつもより少し豪勢な夕食にしてなんとか納得してもらいました。
急いで家に帰ってきたというのにさらに急いで夕飯を作って…。
自分のせいだけれど散々な一日だ。
クタクタになった体をお風呂で癒そうと思ってもいつもお風呂を沸かしてくれている妹が拗ねているせいで沸いていない。
仕方なくシャワーを浴び、そのままヨロヨロと自室へと戻っていった。
おかしい…今朝はあんなにもすっきりとした気分だったのにも関わらず、何故寝るまでにこんなにもブルーにならなければならないのか…。
諦めにも近い考えを巡らせながらベッドに潜り込み、ケータイだけ確認してから寝ることにした。
着信一件。
差出人はもちろんザルバ。
どうせ愚痴か今日の感想だろうと思ってメールに目を通した。


『バーク!今すぐ警察に通報して逃げろ!!
彼女が!チコがら

       ----END----        』

一瞬背筋が凍りついた。
いつものような文面ではなく何か恐ろしいものを感じさせるそれに息をするのを忘れていた。
警察…?通報…?
新手の冗談だろう。
ザルバはそういうのが好きだ。
しかしいくらなんでもおかしい。
そのメールからはいつものような笑わせようという何かが感じ取れなかった。
ポタリとケータイの画面に雫が落ちた。
気付いていなかったが今僕は恐ろしい程の汗をかいていた。
夏といえど夜は涼しい。
しかし顎を伝って汗の雫が落ちるほど今の僕は汗をかいていた。
いや、ただの汗ではない。
普段ならまずかくはずがないドロリと油のように滑りのある汗だ。
何に?
僕は何に怯えているんだ?
いや怯えているのか?
心配、不安、恐慌…。
一言では言い表せないような様々な感情が心の中で入り乱れていた。
そんなはずはない。
ザルバに限ってもしもなんてあるはずがない。
ひょうひょうとした性格で、少し喧嘩っぱやいところもあるが一度たりとも喧嘩で負けたことがないんだ。
それにザルバはいい奴だ。
決して助けたことを鼻にかけるわけでもなく、僕とも仲良くなってくれたんだ。
ザルバが人に恨まれるようなことなんて絶対にあり得るわけがない。
頭の中に次々と浮かぶ最悪のケースをぬぐい去るために僕はすぐに寝ることにした。
本当なら警察に連絡を入れるべきだったんだろう。
でも僕にはそれができなかった。
したくなかった。
それをすればザルバに何かがあったことを認めてしまいそうで…。
だから…僕は逃げるように眠った。

――――

「それにしても…なんであんな風にしか言えないわけ?」
ザルバはいつものように横に並んで歩くタマナにそう声をかけていた。
「いいじゃない!だってあんた格好良いし。」
「答えになってねぇ…。」
みんなの前では凸凹コンビだが二人きりになるとタマナは案外ザルバにべったりと張り付いて歩くのが二人の中では常識だった。
呆れるようにため息混じりで喋るザルバにもたれかかるように近づき
「だってさ。こんなかっこいい人他に思い当たらないもん。だから私は他の人に取られたくないだけ。」
そう言いながら嬉しそうに笑っていた。
なんだかんだで暴漢から助けてもらった時の彼が、彼女の中では一番印象が強かったらしくそれ以来彼にゾッコンなのだった。
しかし、本人も人前でベタベタするのはあまり症に合わないので二人きりの時だけ思いっきり甘えていた。
「だからってわざわざ俺の評価下げるようなこと言うなよ。」
今に始まったことではないためザルバも半分諦めてはいるが、元々彼が彼女を好きになったのだ。
そんなことを言われたところで百年の恋は冷めない。
みんなの前ではああだが二人だけなら相思相愛の最高のカップルだった。
次第に薄暗くなっていく道で静かな夜の帳の中に少し賑やかな二人だけがやけに目立っていた。
二人とも前は一人暮らしだったため居をザルバの家にして二人同居生活を行なっていた。
同居を始めてから数年が経つものの、色褪せるどころかさらに仲良くなっているものだから不思議なものだ。
電灯が暗さを感じ取り、少しずつ点灯し始めた路地で彼らは目にした。
「あら?チコちゃん!あなたもこっちだったの?」
いち早く気付いたタマナが素早くベタベタと張り付いていたザルバから離れ、何事も無かったかのように振舞った。
電灯のちょうど根元に彼女は立っていた。
いや、待っていたというべきなのだろう。
「いえ…。あなた達を待っていただけだわ…。」
それを聞いてザルバが勘付き
「あー…あれだろ?昼間の…。悪いなこいつそういうところでデリカシーないから。」
昼間、彼女がバークの彼氏になればよかった。
そういったことに対して少しジェラシーを感じてるんじゃないかとザルバは思い、彼女の方へと近づいていった。
「許してやってくれ。ああ見えても本当はいい奴だ。って俺が言うのもなんだけど…」
そこまで言った時に胸に何か熱いものを感じた。
「あなたも…その女も目障りなの…。彼は…バークは私のもの。邪魔をするなら消えて。」
一瞬、何が起こったのかザルバは分からなかった。
彼女が彼の胸から刺さったものを引き抜いた時、ようやく理解した。
「タマ…ナ…逃げろ…。」
そうとだけ言い残し、彼は地面に倒れ込んだ。
一人立ち尽くすチコの右手には鮮血に染まったばかりの赤いナイフが鈍く輝いていた。
恐怖と何が起こったのか理解できない頭の中でタマナは必死に今の状況を理解し、溢れる涙よりも先に声を出そうとした。
「い……いy…!?」
彼女の叫び声が響くよりも先に彼女の喉から大量の鮮血が噴水のように溢れ出してきていた。
返り血を浴び、灰色と白で構成された彼女の体毛に紅い色が上塗りされていき
「叫ばれると面倒なのよ…。本当はもっと痛めつけたかったのに…。」
地面に崩れ落ちてゆくタマナを見ながら冷めた目でそうとだけ言い、ザルバの方へ向き直した。
『畜…生…!ふざけんなよ…。こいつが犯人かよ…。』
朦朧とする意識の中でザルバは必死に冷静さを保っていた。
必死にケータイを取り出し、メールを彼女に見えないように背中側で打ち込んでいた。
メールを打つのに慣れている彼からすれば画面を見ずにメールを書くなど造作もないことだった。
だが、今は時間がない。
光のない瞳でこちらを見つめ、張り裂けそうなほどの人間離れした笑みでひたひたと歩み寄ってくるソレから殺されるよりも先に知らせたかった。
既にザルバには自分が助からないことが理解できていた。
それは決して諦めではなく、最初に刺された時の血の量から何故か自分でも恐ろしい程に落ち着き、冷静に今の状況や自分の体のことが判断できた。
『せめて…せめてバークには…。』
予測変換や自分の文字盤の記憶を頼りに一文字ずつ性格に打ち込んでいったが、やはり時間が足りなかった。
全てを打ち込み切るよりも先に彼女の歩が止まった。
「あなたも要らない…。そして彼の周りにいる人達も…私が綺麗にしてあげる…そうすれば彼は私だけを見てくれる…。そうでしょ?」
ナイフを振り上げた彼女に最後を感じ取り、打ち終わらない文を途中で送信した。
なんとか伝わってくれることを信じて…。

――――

結局僕は眠ることができなかった。
どうしても胸の鼓動が高まり、眠ろうとすればするほど鼓動は早くなり、不安を加速するだけだった。
空が明るくなってきたのが締め忘れた窓から差し込む光で分かった。
いろんな思いがあったが妹に自分の分かってもいない漠然とした不安の全てを知らせたくなかった。
兄としての思いから妹を心配させたくなくて必死にいつも通り振舞おうと朝食を作ることにした。
そうすれば忘れられる。
何かに没頭すればほんのひと時だけでも…。
「お兄ちゃん…どうかしたの?」
そんな声をかけられて驚いてマールの方へ振り向いた。
「な、なにが?」
「いつもなら私よりも先に朝食食べ終わるのに…。って思っただけ。」
朝食を食べる箸はいつの間にか止まっていた。
必死に平然を装っても食事は喉を通らないうえ、いくつもの考えが嫌でも頭の中に浮かんでいた。
「ちょっと今日は食欲がないだけだよ…。ゆっくり食べるから遊びに行ったら?」
無理に笑顔を作ったが恐らく顔は引きつっていただろう。
妹も気を遣ってか何も言わずにごちそうさまとだけ言い、自分の部屋へと戻っていた。
一人になれば静寂が余計なことを更に考えさせる。
少しでもそんな思いを払拭したくてテレビをつけた。
「次のニュースです。」
つけなければよかった。
今日という日ほど自分の浅はかな行動を呪った日はない。
テレビに映ったのはザルバとタマナの写真。
二人が有名人にでもなったのなら両手放しで万々歳でもしたいところだ。
だが、それは二人が死んだという事実を僕に突き付けるものだった。
気が付けば僕はトイレに駆け込み、吐き戻していた。
信じたくなかった事実や、今まで溜まりこんでいた不安が全て爆発し、耐え切れなくなっていた。
吐き気から来る嗚咽と、悔しさや悲しさが入り混じった感情で僕の顔はしわくちゃになり、目や鼻から色んなものが溢れ出ていた。
どれくらい僕は放心していたのか分からない。
でも、決してテレビをつけなかったところでザルバが死んだという事実は変わらない。
一頻り泣いたり吐いたりしたおかげで少しは気が楽にはなっていた。
昨日のメールやテレビ、それらをもう一度見ようと思った。
現実から目を背けることは出来ない。
トイレから戻ると妹は既に出ていた。
机には置き手紙。
『私は大丈夫だからお兄ちゃんは無理しないでね。』
結局心配させていた。
少しでも早く立ち直るためにももう一度こみ上げそうになるそれらを押さえ込み、テレビをもう一度見た。
既に番組は変わっていたが、かなり大きな事件のため、他の番組でも大々的に報じていた。
ザルバの方は何十箇所にも及ぶ刺し傷や切り傷で酷い状態だったそうだ。
おかげでもう一度トイレに駆け込みそうになったがなんとか堪え最後まで見ることにした。
タマナの方は喉を大きく切り裂かれ、失血による死亡と書かれていた。
犯人は以前の事件の人物と同じと推測され、引き続き連続殺人事件の犯人として警察がより一層捜査を強化すると言っていた。
結局最後まで見終わった後、もう一度僕はトイレに駆け込んでいた。
必死に耐えて最後まで見たがそれでも耐え切れるような代物じゃなかった。
ようやく心が落ち着いたところで自室のケータイのメールを確認した。
着信5件。
やはり全員があの報道を目の当たりにしたのだろう。
全員が一様に同様と困惑を隠せないメールの内容だった。
当たり前だ。
僕も未だに信じられない。
でもそれを真実に思わせるメールが一通だけ僕の手元にはある。
昨日の晩に届いたザルバからのメールだった。
分は途中で切れていると思って間違いない。
そして恐らく、このメールを書いたのは襲われる前かその最中だろう。
そして最後の一文。
『彼女が!チコがら』
最後は恐らく打ち間違いだ。
だとするとザルバは僕に何と伝えたかったのか。
チコに関することだとは思うが、『ら』では判断できない。
危ないと伝えたかったのだろうか?
だったら尚更みんなにこのメールの内容を伝えなければならない。
はっきり言って今集まるのは危険な行為だ。
だが、自分一人の判断では分かりかねることが多すぎる。
覚悟を決めてみんなに集まって欲しいとのメールを一斉送信した。
数分の内にみんなからメールが帰ってきた。
『分かった。すぐに集まる。』
一人ぐらいは拒否をすると思っていた。
だが全員がすぐに集まるという返信だった。
だんだんと早くなる鼓動を押さえつつ、僕も家を出た。
これが…みんなを助けることに繋がると信じて…。

第八話 怪談 


「ごめんね。みんな…急に呼び出したりして…。」
いつもなら僕は一番最後についたことを謝るが、今日だけはみんなを集めたことを謝った。
皆表情は重苦しいものだった。
当たり前だ。
昨晩、ザルバが殺されたのだから…。
「お前が呼び出すもの珍しかったからな。何か理由があるんだろ?」
ロークが先に口を開いた。
メールではみんなに心配させたくなかったため集まって欲しいとしか書かなかった。
余計なお世話かもしれないけれど出来る限り真実に近いかもしれないザルバからのメールをそれなりの覚悟がある人以外には見せたくなかった。
今朝の僕がそうだったように、真実が受け入れられなくなりそうだったから…。
恐らく、ここに来たからには皆一様にそれなりの覚悟をしてはいたと思うがそれでもやはり皆一様に落ち着きがなかった。
「昨日の夜、ザルバとタマナが殺された。もうみんなも知ってるよね?」
返事はなかった。
みんな何も言わずに重たい空気だけがその場を支配していた。
「私…私は今でも信じられません…。」
そんな空気の中、喋りだしたのはローナだった。
普段物静かな彼女は必死に体の震えを抑えながら喋り続けた。
「でも、ニュースを見た時に、わざわざそんな嘘を伝えるはずがないって…そう頭の中では理解していたけれど…。」
そこまで言うとまた静かで重苦しい空気が流れ出した。
そこから先は誰も言えなかった。
頭で理解していても…。
心が理解しない。
当たり前のことだ。
自分勝手な話だが出来ることならザルバ達意外であって欲しかったと思ってしまった。
他人ならばここまで苦しむ必要もない。
それが自分勝手だと分かっていてもそうなって欲しかったとどうしても思ってしまう。
そんな後ろめたい事を考えていると、不意に誰かが僕の手を握ってくれた。
横にいたチコだった。
僕のことを気遣ってくれたのだろう。
震える僕の手を優しく握ってくれた彼女の手を僕はしっかりと、しかし優しく握りしめ、彼女を守ろうと決意した。
「そこでみんなに見てもらいたいものがあるんだ。」
そう言った瞬間に全員の視線がこちらに向いたことが分かった。
それだけでも鼓動が早くなり、呼吸が乱れた。
でもそんな僕に小さな手が勇気を分けてくれた。
「これなんだ。昨日…ザルバから届いたメール。」
ケータイを取り出し、ザルバからのメールを開いてテーブルの真ん中に置いた。
みな驚愕していた。
ケータイを食い入るように見つめ、メールの文を必死に理解しようとしてくれた。
ニオやロークは見終わった後、ただ黙っていたが、やはりアレナさんやローナ、チコは感情が抑えきれなくなって泣き出していた。
「つまり…ザルバは最後に彼女が出来たばかりのバークを気遣ってくれたのかも…な…。」
ようやくロークが喋ったことにより重い雰囲気は少し和らいだ。
ようやくみんなも冷静さを取り戻した時にニオが立ち上がり
「…ざけんなよ…。ふざけんなよ!!なんでザルバなんだよ!あいつが何したって言うんだよ!!」
テーブルを叩きつけながら叫んだ。
「落ち着いてニオ!そんなのみんなだって分かってる!」
「うるせぇ!!お前が彼女なんて作らなけりゃ…!」
必死にニオを落ち着かせようとした僕を振り払い、その勢いで僕も地面にたおれてしまった。
が、次の瞬間ニオも吹き飛んでいた。
僕は地面に倒れていたから何が起きたのか分からなかったが、立ち上がってテーブルを見るとニオを殴ったままテーブルに手をついて立ってるロークの姿があった。
「それを言ってどうなる!!お前がザルバの一番の親友だったんだろ!」
「お。落ち着いてください二人とも!」
必死にローナが止めに入っていた。
「大丈夫ですか!」
チコは僕のところにいるし、ニオとロークは今にも殴り合いを始めそうだしぼくのせいで酷い事になっていた。
「分かってるよ…そんなこと…。俺だってなんでこんなこと言ったのか分からねぇよ…。」
殴り合いの心配はなくなったが、ニオは殆ど自暴自棄になっていた。
「とりあえずみんな座りましょう。落ち着いて話し合いましょう。」
アレナさんはみんなを落ち着かせテーブルに座らせていた。
それと一緒に周りの人達に謝っていた。
アレナさんはやっぱりすごい。
こういう時になっても決して取り乱さずに冷静に対処していた。
ようやく落ち着いたニオはボタボタと大粒の涙をこぼしながら体を震わせていた。
「俺だって分かってる…分かってるのに…。それでもあいつが死んだなんて信じられないんだよ…。」
誰も何も言わなかった。
みんな心の奥底では願っていることだった。
でも現にこの場に彼らは居ない。
誘ってないから来ていないだけ?
僕だって信じたくなかった。
だから一応ザルバのケータイにもメールを送っておいたんだ。
いつもみたいにひょうひょうと現れてくれるんじゃないかって…。
「喧嘩っぱやいところはあるけどあいつは絶対に人に恨まれたり妬まれるようなことをする奴じゃない。武器持った相手との喧嘩も負けたことがないんだ…。」
僕たちよりも付き合いが長いニオは特に辛いだろう。
ようやく落ち着いたと思ったら今度はみんなだんだんと落ち込んでいっていた。
するとそこに横からコーヒーカップが並べられていった。
ふと気がつけばそこにはダッチさんの姿があった。
「彼は明るい子だったからね。でも落ち込んでる君たちを一番見たくないのはザルバ君だと思うよ?元気を出しなさい。」
本当なら僕達のことなんかとうの昔に店から追い出しても良かったはずだった。
あれほどに騒いで迷惑をかけて…。
それでも何も言わなかったのはダッチさんもザルバとタマナのことを偲んでいてくれたからなのだろう。
何も頼んだ覚えはなかった。
だけどそういう時に出すコーヒーは必ずお金をもらわない。
ダッチさん流の気配りは確かにみんなの気持ちを和らげてくれた。
煎れてくれたコーヒーはとても美味しかった。
どこか優しくてどこか棘があって…まるでザルバ達のようで…。
結局その後、殆ど喋らずにその日も店の前で別れた。
「バーク。少し話がある。」
そのままみんなが別れようとした時、ロークが僕を引き止めた。
他のみんながある程度離れるまで何も言わず、二人だけになった時、彼は
「以前話した怪談。覚えてるか?」
そう話しだした。
以前、恐らくみんなが泊まりに来た時のことだろう。
皆自慢の怪談話を持ち寄って話したんだ。
僕が頷いたのを確認すると
「あの時の怪談話の中で一つだけ都市伝説があったはずだ。あれには続きみたいなものがある。」
そう言った瞬間、僕の鼓動が早くなったのを感じ取った。
普段、あまり喋らないロークがいきなりそんなことを言い出したんだ。
これ以上に嫌な予感はないだろう。
「あの事件の犯人は実際は捕まってないそうだ。都市伝説では一緒に死んだことになってるがな。」
汗が頬を伝うのが嫌なほど自分でもよく分かる。
「それじゃあ…その犯人がまだ殺人を続けてるっていうの?」
分かりきった事を質問するとロークは首を横に振り
「この都市伝説、今に始まったことじゃない。他にも似たのが1,2個あるんだ。」
それはつまり、同じような事件が本当に起き、全てにおいて犯人が捕まっていないことになる。
何も言わずに聞いていたが、少しづつ息が乱れていた。
「全てに共通することが一つある。」
そこまで言われた時点で心臓が一つ大きく跳ねた。
「何組かのカップルができている友達集団の一人が後から出来た彼女を紹介しているんだ。全てな。」
そんなはずはない。
心の中で呪文のように唱えていた言葉はロークの言葉で一気にかき乱された。
「彼女が…チコが犯人だと…?」
「そう言い切れるわけではないが…一応注意しておけ。嫌な予感がする。」
メールが来た時点で薄々気付いていた事だった。
でもあんな小さな手で、震える手でザルバを殺したなんて考えられない。
確かにあの時の彼女の手は恐怖で震えていたのだから…。
「僕は彼女を信じるよ…。守ると約束したから…。」
僕が震える声でそう言うと、ロークは小さく笑い
「分かってるよ。あくまで都市伝説だ。それに、お前のそういうところが好きだから俺もニオもザルバも…お前とずっと一緒だったんだからな。」
覚悟は互いに変わらない。
ロークは僕を信じてくれるし、僕もチコを含めてみんなのことを信じている。
ロークはそう言った後、僕の背中をポンと叩き
「じゃあな。また明日。」
そう言って帰っていった。
また明日。
また明日も…笑ってみんなと会えるよね。

――――

「害者の身元は?」
「ザルバというザングースの男性とタマナというタブンネの女性ですね。二人とも同居していたようです。」
運ばれていく二人の死体を見つめながらガベルはその場にいた検死官に訪ねていた。
「それにしても酷いですね。男性の方は数十箇所も切りつけられ、女性の方に至っては喉を一掻き。即死ですよ。」
検死官が状況をまとめた紙をめくりながら彼にそう言うと
「違う。今までとやり口が違う。」
ガベルはそう言い、現場の方へと駆け寄っていった。
以前の事件の際、全ての遺体が惨殺されていたのにも関わらず、今回の事件のこの女性だけは一撃。
その執拗さや憎悪がなかった。
『違う犯人によるものなのか?模倣犯、愉快犯…。いやそれならやり口を絶対に同じにするはずだ。ならばなぜ…。』
「ガベル!これをちょっと見て欲しい。」
考え込んでいるガベルに声をかけたのはリオ警部。
管轄は違ったものの、今回はガベルのために協力していた。
彼の方へ歩いて行ったガベルが見せられたものは袋に入った血糊の付いた携帯だった。
「これに誰かからのメールが来ている。もしかすると重要な手掛かりになるかもしれん。」
「差出人は?」
ガベルはその袋を奪おうとしたがリオにすぐに引っ込められてしまった。
「落ち着け。バークという宛名だ。他にも情報があるかもしれんからこれは俺が調べる。お前はそのバークという子を探してくれ。」
あからさまに落ち着きがなかったガベルに袋を渡せば確実に携帯を袋から出していただろう。
それを危惧したことと、彼の天性の勘を信じてリオは彼にそう言った。
ガベルは頷き、すぐにその場を他の検死官に任せ、行動に移していた。
『今度は逃がさない…お前は証拠を残し過ぎた…!』
心の中では執念に燃えていたガベルはすぐに署に戻り住所を徹底的に調べ上げた。
とはいえ何万ともいえない凄まじい数の住所から一人を調べ上げるのは至難の技だ。
バークという名が見つかれば片っ端から電話をかけ、本人の確認を取るロードローラー作戦に出ていた。
結果は35件中全弾外れ。
日がどっぷり落ちても彼は探し続けた。
そしてようやくガベルは彼と連絡を取ることができた。

――――

ケータイの鳴る音で目が覚めた。
精神的に疲れきっていたためか家に帰り着くとほぼ同時に眠っていたようだ。
ケータイに手を伸ばし、電話に出ると寝ぼけた頭は一瞬で覚まさせられた。
「夜分遅く申し訳ありません。私は△△タウン警察署のガベルという者です。」
一瞬息が詰まった。
警察から電話がかかってくるなんて思ってもいなかったうえに地元の警察からだ。
どう考えてもザルバのことだろう。
そんなことを考えていると
「あなたはバークさんで間違いないですかね?」
「は、はい…。」
何故自分の名前が分かっているのか不思議でたまらなかったが、警察の手前下手な嘘はつけない。
正直にそう言うと
「もしよろしければお伺いしたいことが数件あるのですが…今お時間よろしいでしょうか?」
正直、今すぐにというのは困る。
さっきまで寝ていたようなので食事の用意もしていないし、お風呂も沸かしていない。
別に妹に任せてしまえばいいのだが、流石にそこは兄のプライドがある。
「明日…とかはダメですかね?今からやらないといけないことがあるんで…。」
そう言って断ろうとすると
「では一つだけよろしいですか?」
それでもそのガベルと名乗った警察の人は食い下がってきた。
別に一つ質問に答えるぐらいなら大丈夫だろう、そう思いいいと言うと
「傷心を抉るようなことですがザルバという方にメールを出したのはあなたでしょうか?」
そう言ってきた。
恐らく、淡い期待を乗せた誘いのメールのことだろう。
無駄だったと思っていたメールが意外なところで役に立ったようだ。
「はい。確かに昼頃にメールを出しました。」
それを聞くとガベルさんは嬉しそうな声で
「そうですか!ではできれば明日の何時頃お会いできるかだけ教えていただけると助かります。」
そう言ってきた。
というよりも会うことが前提の話だ。
まあ別に夏休みで明日の予定もないし、それにザルバを殺した犯人に繋がるかもしれないことなんだ。
協力しないわけがない。
「いつでも大丈夫です。えっと…警察署の方に行けばいいんですかね?」
「伺っていただけますか!捜査のご協力有り難う御座います。」
少しだけ的外れな返答が帰ってきたが要するに警察署に行けばいいのだろう。
あんまり警察署というものは行きたくないものだがザルバとタマナのためだ。
二人やその前の二人が少しでも報われるならと思い、返事をして電話を切った。
捜査の協力…。
そんな大それたことを僕がするなんて夢にも思っていなかった。
みんなにも協力してもらいたくてメールを出そうと思ったが、開きっぱなしで眠っていたのか充電がピンチの状態だった。
充電を待ってからメールをしたのでは妹に文句を言われる。
仕方なくケータイをその場に置き、夕食を作ることにした。
できれば一番最初にニオに連絡したいものだ。

第九話 希望 


こう何日も眠れない日が続けばいくら眠れないほどの不安を抱えても体が自動的に休むものだ。
起きていつものように洗面台に行くと以前よりも隈が酷くなっていた。
無理もない。
こう立て続けに色々あったんだから…。
でも今日は警察署へ行くんだ。
この心労や不安も今日で終わるだろう。
いつものように朝食を作って妹に文句だけは言われないようにしておかないと…。
「おはよう、お兄ちゃん。朝ごはんできてるよ。」
一体何が起きたのか。
いつもは文句だけ言って絶対に自分で料理を作らない妹が先に起きて朝食をこしらえるなんて…。
明日は雨だな。
いやいやそんなことはどうでもいいんだよ。
「どうしたの?急に。」
どうしても気になって聞くとさっきまで元気に料理を運んでいたのに急に元気をなくしてしまった。
「だって…最近のお兄ちゃんの様子…おかしかったから…。」
手に持っていた料理を食卓に置き、僕に抱きついてきた。
しっかりとしがみついた手は震えていて、僕がどれだけ妹を心配させていたのかが恥ずかしい話、ようやく理解できた。
震えるまま必死に抱きつく妹を僕は抱き寄せ、優しく頭を撫でて
「ごめんね。でももう大丈夫だから。折角作ってくれたんでしょ?早いうちに食べよう。」
そう優しく言ってあげた。
そう…もう悩まなくていい。
誰も死ななくていいんだ。
すぐではないかもしれないけれど、警察官がこれで目星を付けて動けば犯人だって大きな動きはできないはずだ。
久しぶりに肩の荷が降りた気がする。
朝食は何時振りぐらいかな…二人で話しながら食べたのは…。
僕が元気を取り戻したのを見て妹も元気を取り戻してくれた。
やっぱりどんなに元気でもマールは女の子だし、僕はお兄ちゃんだ。
僕が不安になればすぐに不安が移ってしまう。
特に無理をした風でもなく、妹はそのまま元気に遊びに出かけていった。
さあ!僕も早く不安の種を取り除いてしまおう。
このまま不眠じゃ夏休みが終わってからに支障が出てしまう。
そう思い家を出た。
すぐさまみんなにメールを送り、ひと足先に警察署の方へ向かうことにした。
連絡…とかは入れなくても大丈夫だろう。
いつでも来て大丈夫と言っていたのだから…。
そう思いながらいつもとは逆の方へと歩いて行った。

――――

「酷いものですね…ここまでする必要あるのでしょうか?」
検死官は口元を抑えながらガベルに話しかけていた。
現場を幾度と見てきた彼らでさえもその凄惨さに顔を歪めていた。
新人の検死官に至っては戻してしまった者もいるほどだった。
「害者の身元は…?」
「もうしばらく識別に時間がかかるでしょう。ほとんど肉塊でしかないですから…。」
ガベルはただ悲しげな表情でその人だった何かを見つめながら悔いていた。
『軽率だった…。恐らくこの死体はバークの死体で間違いないだろう…。』
肉塊は既に男かどうかすら判断しかねる状態だったが、検死官の簡単な調べで筋肉等の付き具合から男性であることが推測された。
その結果もあったが昨日、自分自身が連絡を入れた電話の声も男性だったからだ。
ガベルが電話を入れたことで恐らくこのバーク青年は犯人に目をつけられ、惨殺されたのであろう。
『しかし…となるとやはり前回の死体がどうも引っかかる…。』
以前からガベルの中で引っかかっている事象があった。
今回の殺人の前、殺されたタマナという女性は喉を一掻きされただけだった。
彼女の殺人のみ今まで全ての死体に見られた執拗さが一切無かった。
そこからガベルは女性を殺す際、犯人は相当焦っていたのだと推測した。
そして一様に見られる何度にも渡る刺し、切りの傷。
これは恐らく殺害を楽しんでいるのだろうと。
故に一撃で死んでしまった彼女には興味がなくなったのだろう…と。
それほどまでに異質とも言える犯行推測は普段の彼なら確実に自分自身が却下していただろう。
だがどうしても今ここにある死体と以前の自分が携わっていた事件の遺体の記憶が重なってしまうのだ。
犯人の素性すら分かっていないため指名手配の似顔絵すら書きようがなかった。
それほどまでに証拠を残さない犯人が今回に限って証拠をいくつも残すというあるまじき行動をしていた。
彼の中では完全に同一犯であると断定していた。
証拠を残してしまったからこそ証拠を完全に消し去ってしまおうとしたのだと…。
故にここまで犯人の激烈さが爆発したのだろう。
こうなってしまえば隠すよりも確実だ。
身元の照合を行っている間に逃げるつもりかもしれない。
次第にイラつきや焦りが顔に出てきていた。
「ガベル。一旦署に戻れ。お前に会いたいと言っている奴が来た。」
リオに声をかけられてもガベルは無言でその場から離れ、一人眉間にしわを寄せて歩いて行った。

――――

いつでも来ていい…って言ってたけど…。
当たり前の話かもしれないが、そりゃあ警察だって暇じゃない。
それに朝食をとってからすぐに移動したんだ。
メールもようやくロークとアレナさんから返ってきたし、まだみんな眠っていただろう。
ローク達が着くまでは僕は一人で待ちぼうけになるわけだ。
特に何もすることがないし、一人体を揺らしながら待っていた。
しばらく経ってからチコからもメールが届いた。
が、メールの内容は少しばかり違うものだった。


『バークは私を愛してくれるよね?
     ----END----      』

たったその一文。
違和感は感じたが、近くで人が死んだのだ。
不安からくるものもあるだろう。


『大丈夫だよ。君のことが好きだし、絶対に守るから。
もし用事がないならチコにも来て欲しいな。』

僕の純粋な思いをメールに短くまとめ、送信した。
ロークの言っていた事、決してロークのことを信用していないわけではないが、ロークだって確信があったわけじゃない。
それに…僕も信じたい。
もし彼女が犯人でないならここに来てくれるはず。
そう思い、すぐに返ってきたメールの返信を見ると


『ありがとう。
すぐにそっちに行く。
  ----END----  』

そう書いてあった。
正直とてもホッとした。
心にのしかかっていた心労のうちの一つがするりと剥がれ落ちたのが自分でもよく分かった。
犯人がわざわざ警察署に来て欲しいと言って来るわけがない。
少し安心したためか折角の機会なので待ってるのも退屈だったし、警察署というものをまじまじと観察していた。
建物の周りをうろうろとしながら隅々まで舐めるように見回していた。
「そこのマグマラシ。何をしているんだ?」
結構低い声に声をかけられて驚いたのとまた(いつものことだが)マグマラシに見間違われたことで心底びっくりしていた。
まああんなことをしていればパッと見ただの不審者だ。
「えっと…昨日電話をしたバークっていう者です。ガベルっていう人を待ってて暇だったのでつい…。」
振り返ってそう言うと、そこにはいかにも強面なヘルガーがいた。
はっきり言って怖い。
別に何か悪いことをしていたわけではないが、ドキドキしてしまう。
「君がバーク君…?これは失礼。よく見ると立派なバクフーンだったね。私が昨日電話したガベルというものだ。」
そう言い、前足で器用に帽子の位置を直しながら挨拶をしてきた。
というかどうやって被ったんだろう…。
「すまないな。また事件があったので少し留守にしていた。早速話を聞かせてもらってもいいかね?」
事件…か…。
それも気になるけど帽子を被る瞬間がとても気になる。
まあそんなことはどうでもいいや。
「すみません。今友達も呼んでるんで、みんなが来てからでも大丈夫ですか?」
そうガベルさんに聞くと、彼は快く承諾してくれた。
事件とかがあったから忙しいのかと思ったら意外と時間を取れるんだね。
とかそんなことを思っていたら予想以上に早くロークもアレナさんもチコも到着した。
「あれ?ニオとローナは?」
「俺も一応メールしたが返信がない。まだ寝てるかもな。」
まあ有り得なくもない。
昨日いろいろあって僕だっていつの間にか寝てたんだ。
ニオとローナの家はいつも集まる喫茶店から一番遠いから帰ってそのまま眠ってることの方が有り得そうだ。
ひとまずはこれで今集まれる人は集まったんだ。
あまり待たせるのも失礼だし、早く話そう。
そう思い、警察署の中へと入っていった。

――――

「ニオ…。なんであんなこと言っちゃったの…?」
夕飯時でみな家に戻り街路地はしんと静まり返っていた。
そんな中にローナの震える声が吸い込まれるように響いた。
静かではあるものの、決して五月蝿くない訳ではない。
みな夕飯の準備で忙しなく動き回っているためどの家庭からもさまざまな生活音は聞こえていた。
ローナ自身、元々喋る方ではなかった。
それでも彼女はどうしてもそれだけは伝えたかったのだろう。
「本当だよな…。ザルバだけじゃない。バークやローク達だって俺にとって大事な親友なのに…。」
立ち止まってそう呟いたニオの肩は僅かに震えていた。
彼自身、気が動転していたとはいえ内心とても後悔していた。
親友であるはずのバークを突き飛ばし、決して感情的にならなかったのに全ての不安を回りに押し付けてしまった。
殴られて当然だと自分でも理解できる。
いや寧ろ感謝していた。
もしあの時ロークが止めなければニオは完全に暴走していただろう。
二人とも無言のまま時間が過ぎていった。
夜闇の圧迫感と無言という重苦しい空気にローナは耐え切れなくなり、今にも泣き出しそうになっていた。
そんなローナにニオは不意に手を繋ぎ
「大丈夫だ。明日、もう一度謝る。それにお前も絶対に守ってやるよ。」
そう笑いながらローナに言った。
不意に見せられた優しさでローナの中にあった色んな感情が堰を切って目から溢れ出した。
長いこと泣き止まないローナをニオはただ黙って優しく抱いていた。
ひとしきり泣いてローナもようやく気持ちが静まり、また帰り道を歩きだした。
それから暫く歩き、日も完全に落ちてしまった分かれ道で
「じゃ、また明日。」
ニオはそう言い、ローナとは違う方の道へと歩いていった。
いつもローナはニオの姿が見えなくなるまでその分岐で見送っていた。
しかし、その日は彼の優しい笑顔を見ることは出来なかった。
別れたのとほぼ同時、彼が少し暗がりに入った時点で彼のわき腹にはナイフが突き刺さっていた。
ローナには最初、一体何が起こったのか理解できずただ倒れる前の彼がいた虚空を眺めていた。
金切り声のような笑い声が聞こえ、ローナはようやく何が起きたのか理解し、同時にそれを理解しないように脳が彼女を止めた。
地に伏せたニオに馬乗りになり、チコはこの世のものとは思えない醜く歪んだ満面の笑みを浮かべていた。
「あなただけは許さないわ。よくも私のバークを傷つけたわね…。あなただけはこの世に形も残サズニキエテ!!」
何かを言うよりも早くチコは彼の喉をその左腕で押さえつけた。
例え女性であっても男性の喉は簡単に押さえつけ窒息に至らせることが出来る。
それを押さえつけられれば息など吐き出すことすら出来なくなる。
だが押さえるだけなら女性でも可能だ。
いくら怪我をしているとはいえ、男性が自分よりも一回り小さい相手を跳ね除けられないわけがない。
それが不可能なほどに彼女の手はニオの喉に食い込み、ミシミシと脳の奥まで音が響き渡るほどだった。
ニオは渾身の力で振りほどこうとするがもがけば腹部の傷が痛み、より体に激痛を走らせていた。
そして彼女のその尋常ではない力がさらに彼を苦しめていた。
だんだんと彼の動きが鈍るのを確認すると彼女は振り上げていたナイフを振り下ろした。
しかし、振り下ろす先は心臓でも頭でもなく腕。
それどころか掌、確実に激痛が走り、一撃で死に至らない場所へと振り下ろしたのだった。
痛みに苦しむ間も与えずすぐに引き抜きもう一度振り下ろした。
もう一度…もう一度…もう一度……。
すでに痛みでニオは気絶していた。
それを確認しチコはフラリと立ち上がり、ローナの方へ向き直した。
彼女は恐怖に全てを支配されていた。
足は竦み、すでに動かなくなった彼と狂気に満ちたチコの表情で声も出せなくなっていた。
殺される。
彼女も頭では理解していても体が一切言うことを聞かなかった。
しかしチコは何もせずにもう一度ニオの体を四肢、出来る限り心臓に遠い方から精肉でもするかのように滅多刺しにし、滅多切りにしていた。
ただ彼女はその現実から逃れたくてその場から家に向かって泣きながら走っていった。
しかし脳裏からはその光景やチコの顔がベッタリと張り付いて忘れたくても忘れられなかった。
家に戻るとそのまま自室のベッドに飛び込み、タオルケットで自分を包んだ。
忘れたい。
そんなことが現実で起こるはずが無い。
眠ってしまえば朝になれば…。
あれほど泣いたのにも関わらず、また涙が留めど無く溢れ続けていた。
忘れようとすればするほど優しいニオの笑顔が浮かび上がり、それが一瞬でさっきの光景に塗りつぶされていく。
優しい思い出が多いから、その分彼女は先ほどの光景があまりにも強く眼下に、脳裏に、心に焼き付いてしまった。







次の日の朝。
彼女が首を吊った姿が発見されるのはまだ先だった…。

第十話 ひと夏の… 


「それで……。君はザルバ君が死んでいて欲しくない。その願いからメールを送った…と。」
ガベル刑事は僕のケータイを真剣に見ていた。
開いているのは以前僕に届いたザルバの最後のメール。
これは僕には何を意味しているのか分からなかった。
だから警察ならなにかこの短く途切れたメッセージからも何かを読み取れるのでは…そう思った。
「そしてこのチコという子は君なんだね?」
ガベル刑事はチコに優しく喋りかけていたけど僕でも分かるくらい目が笑っていなかった。
チコは黙ったまま静かに頷き、僕の手を握っていた。
「悪いけど、少しだけ手を見せてもらってもいいかな?」
言われるままにチコは右手を差し出していた。
ガベル刑事は差し出された手の匂いをこれでもかというほど嗅いでいた。
物凄くシリアスなはずなのに変質者的な恐怖が僕の中にこみ上げていたのはここだけの秘密。
顔を離した後、ガベル刑事はニッコリと笑い
「捜査のご協力ありがとう。お嬢さん。」
そう言い、前足を差し出して握手をしていた。
その目はすでに先程とは違い、作られた笑顔ではなく心からの笑顔であるのが窺えた。
その後、ガベル刑事はニ、三質問した後、帰り道に気を付けるように促し、僕らへの質問を終えた。
メールのことやそれ以外の事、色々と聞きたかったけれど先に一般人には教えられないと断られてしまっていた。
まあこれ以上僕たちが首を突っ込む必要はない。
後は警察に任せよう。
その日はまだ昼下がりだったけどそこで解散することにした。
帰り道、同じ方向だったチコと色んな話をしながら帰っていた。
「そういえばさっきのメール。急にあんなこと聞かれたからびっくりしちゃった。」
笑いながらそう話すと彼女は急に立ち止まってしまった。
どうしたのか不思議に思い、彼女の方へ振り返ると
「私のことを愛しているのよね?」
そう言い放った彼女の目は笑っていなかった。
いや目だけじゃない。
口も笑っていないし、それどころか表情にすら出ていなかった。
「も、もちろんだよ。」
一瞬その異質な威圧感に言葉が詰まった。
「それならあの時ロークと何を話していたの?二人だけで…。」
間髪入れずに質問を繋げてきた。
一秒毎に彼女の目から光が消えていくような気がしてとても恐ろしかった。
以前見た彼女の異様な横顔。
それは今度は僕に向けて送られているような気がして心臓が跳ね上がった。
「お、お互いに気を付けようって…。」
「本当に?」
たった一言だったがその言葉には言葉に出来ない重みがあった。
いや…それよりも…。
ばれていた。
二人だけで会話をしていると思い込んでいたが、チコも僕とロークの話を聞いていた。
信じたい。
だけど信じられない。
そんな不信感が募っていた時の一言は僕にとっては心揺らぐものだった。
あの時は「彼女を信じている。」そう迷わずに言ったが、実際は自分でも分かっていなかった。
でもそんな身近に人を平気で殺せる人間がいると僕は思えなかった。
見たことすらない殺人鬼は僕の中で勝手に偶像化し、ロークの言葉を否定した。
歴史上、笑いながら人を殺せる殺人鬼なんて山のようにいたはずだ。
にも関わらず僕は犯人というものを決め付けていた。
だから迷いを無視したのだろう。
「怪談に出てくる…物語に似てたからって…。」
気が付けば僕は本当の事を言っていた。
いや本当のことしか言えなかった。
その光無い瞳は僕にはとても恐ろしく見えて…。
「信じたの…?」
否、彼女は気付いていなかった。
僕が勝手に怯えて全てをばらしただけだった。
「信じてないよ…。君は僕が守る…って言ったんだ。」
そう僕が言ったのを見て彼女は柔らかく笑った。
「ありがとうバークさん。私もあなたを愛しているわ。」
その顔はいつの間にか元の可愛らしいチコの笑顔に戻っていた。
ホッとした僕は知らず知らずのうちに冷や汗をかいていた。
それからチコと別れる僕の家の前まで会話はなかった。
何かを口にするのが無意識のうちに怖くなっていた。
またチコではない何かと対峙してしまいそうで…。
「おやすみなさい。バークさん。また明日。」
「うん。また明日。」
そう言ってまだ日の高いうちにチコと別れ家の中へと入っていった。
当たり前だが妹はまだ戻ってきていなかった。
自分の部屋に戻るとメールの確認もせずケータイを充電器に挿し、そのままベッドに倒れこんだ。
色々と有り過ぎて…今日は多分今までで一番疲れたと思う。
心から来る疲れに逆らわず、すぐに瞼を閉じた。

――――

バーク達と別れ、ロークとアレナの二人はあまり会話もなく二人同じ道を帰っていた。
「あの…ローク…。」
不意にアレナはロークに声をかけ少し不安そうな顔をしていた。
「ん?どうした?」
少し先を歩いていたロークも立ち止まり、アレナの言葉に耳を傾けていた。
アレナの顔はより一層不安の色を見せていたが、それとは別に忙しなく視線の方向を変え続けていた。
「あの…その……。」
不安…というよりも緊張でそうなっているように見えなくもなかったが
「大丈夫だって。どう見ても近くに怪しい奴なんていないし、なんかあるんなら今言った方が話しやすいだろ?」
そこまで体格に差のないアレナの頭をロークはわしわしと撫でながらそう言った。
幼馴染である二人からすればいつもの事。
いつも冷静で優しいアレナはなぜかロークと二人きりになると落ち着きをなくす。
慣れた手つきでアレナをあやし、喋りやすくしていた。
近いながらも年の差がある二人はまさに兄妹のようなものだった。
いつも兄貴分に徹する時のロークは粗野ながらも優しいお喋りな兄貴になってしまう。
元々喋ったりふざけたりするのが好きなのだが、彼の優しさは親しい者以外にはあまり見せない。
バーク達にも同じである。
彼は決して強いわけではない。
だからこそ身近な者を大事にしたいという思いが人一倍強いのだろう。
そのためか普段はあまり喋りたがらない。
本人は話したくないだけだがそれが世間ではクールだというイメージになり、彼もバーク同様周囲からは白羽の矢が立っていた者だった。
だがそれでもよかった。
自分の周りにいる人が何か言われない限り自分のことはどうでもよかった。
自分のことにそれほど関心がなかったのだった。
「私は…ロークのことが好きなの…。」
故に自分に対しての恋心などについても気づいていなかった。
ましてや一番身近で大切にしてきていた人たちからそんな感情を抱いてもらっているなど考えもしていなかった。
「アレナ…お前こんな時に…。」
そう呟いたロークの顔は嬉しさと驚きで満ちていたが、間違いなく笑顔ではあった。
「分かってる…。でもこんな時だからこそ…!今だからこそ言わなければいけないと思ったの…。」
そう言って泣きそうになるアレナをしっかりと抱き寄せ頭を撫でていた。
しかし、それは今までのように子供をあやすようにではなく、大事な人を慰めるようにだった。
「ごめんな…俺は…」
「今日は。お二人共。」
ロークの声を遮るように聞こえたその挨拶で彼は身構えた。
「何の用だ?」
アレナを背にし庇うように立ち、彼女を近づけまいとしていた。
「いえ…。ただ渡したい物があったのでこちらへ来ただけです。」
そうロークへ向かって言ったのはチコだった。
彼は常に警戒していた。
ザルバが亡くなった時から一人で彼女が近づいてきたときは決して油断しないと。
「渡したい物?なんだ?」
幻影を生み出し、彼女にバレないように自分の代わりにそれを受け取らせに行かせた。
彼女は特に怪しむ風でもなく、否、彼の能力は普通の人には見分けがつかない。
その幻影に何かを渡そうとしていた。
『さあ…化けの皮を剥いでやる!!』
心の中で彼は呟きながら幻影にそれを受け取らせた。
だが彼の思惑は外れた。
てっきりそこで彼の幻影が刺されるものだと思っていた。
そうすれば迷わずに警察に連絡を取り、彼女が犯人であると言うつもりだった。
が、彼女が渡した物は…
「お守り…?」
何の変哲もないただのお守りだった。
幻影のロークがそう呟くと
「いえ…ただ…。ロークさんとアレナさんはお相手がいなかったので…。こんな時だからこそ…二人を元気づけられればと思って…。」
そう、少し寂しそうな表情をしながらそう言った。
お守りはただの恋愛成就のお守り。
それを受け取っている幻影の自分自身を見てロークはうっすら笑い、幻影の元へと歩いて行った。
幻影と重なった状態で幻影を解き、今度は自分自身でそのお守りを受け取った。
「ありがとうな…。案外このお守り…もう効果発揮してるかもな。」
そう、自分自身の声でチコに伝えた。
「それじゃお二人共お気を付けて。私ももう家に帰るので…。」
そう言い、深々とお辞儀をしてその場を去っていった。
『俺の方が馬鹿だったか…。悪かったなバーク、チコ。』
去っていく彼女の背中を眺めながらロークは心の中で自分の愚かな考えを振り払い、二人に謝っていた。
所詮は都市伝説…だと。
「何を貰ったの?」
いつの間にか横にやってきていたアレナがロークに声をかけていた。
ロークが握りしめている物を見て不思議そうな顔をしていた。
「お守りだよ。恋愛成就のな。」
そう言ってお守りを彼女に見せた。
お守りを見た途端にアレナは顔を真っ赤にしていた。
当たり前だ。
つい先程告白したばかりなのだから。
まるで見透かしたかのように渡されたお守りはロークも恥ずかしくて明後日の方を向いてごまかしていた。
「その…なんだ…。俺が悪かった。大事にするから…付き合ってくれるか?」
恥ずかしながらもアレナにそう伝えると、同じように彼女も恥ずかしそうにただ頷いて答えた。
近すぎて正直に伝えられない二人がそのまま恥ずかしそうに手を取り
「じゃあ……帰ろう。」
そんな素っ気ない言葉だけを言い、帰っていった。
初々しい一組のカップルはギクシャクしながら帰っていった。

――――

マナーモードにした携帯が震える。
左手でポケットからケータイを取り出した。
非通知からの番号。
少しばかり不思議には思ったがそのまま普通に電話に出た。
「もしもし?」
最初の間少しの沈黙があった。
そして電話の相手は静かに喋り出した。
「やめてもらえますか?バークさんに変なことを吹き込むのは。」
その声は間違いなくチコだった。
驚いていた。
彼女が自分の携帯の番号を知っているはずがないのにかけてきたこと。
そして彼女が会話の内容を知っていることに…。
「あなたがいなければバークさんは私の事を疑わなかったの。彼は私の事を愛しているの。私とバークさんの仲を裂かないでもらえます?」
『迂闊だった…。』
ロークがそう自分の気を許した心を後悔しながら電話が切れる音を聞いた。
それと同時に彼がいた場所から爆発音が響き渡った。
既に彼女を止められる者はいなかった。
ケータイを閉じた彼女は薄ら笑いを浮かべ、その場から歩き去っていった。

――――

五月蝿いケータイの鳴る音で無理やり目を覚まさせられた。
窓から差し込む西日が原因でもう一度ケータイを無視して眠り直そうとするがそれはできなかった。
元凶を断ってすぐに寝ようと思っていたが電話にでてそんな思いは全て吹き飛んだ。
「バーク君!今すぐにチコから離れるんだ!!」
それは聞き覚えのある声だった。
低く鋭い怒声にも似た緊迫感のある声。
その声の主は…
「ど、どうしたんですか!?なんでチコから離れろなんて…。」
突然の事で働いていない脳は更に困惑した。
いくら怒声で叩き起こされたとしても頭はすぐには働かない。
「彼女が連続殺人事件の犯人だ!!君の友人のニオ君やローク君も殺された!絶対に近づくんじゃないぞ!!」
言っている事の意味が分からなかった。
明日になればニオやローク、ローナにアレナ、そしてチコと…少しは笑って過ごせると思ってた。
ザルバやタマナの死を悲しみを少しは忘れられると思ってた。
力なく腕からすり抜けるケータイからはまだガベルの声が響いているのが分かった。
だがもうバークには何かを考える気力は残っていなかった。
明日になれば…こんな暗い日常なんて終わる…。
そんな思いは彼の部屋の戸が開く音で全てかき消された。
「なんで…。なんで…。なんで…!!」
彼の瞳からは怒り、悲しみ、絶望、困惑、様々な感情が混ぜ込まれた涙が次から次へと溢れ出していた。
「やっと綺麗になったわ。バーク。あと一人消せばいいの。」
そこに立つ人の姿は…チコ。
いつもと変わらないその姿で彼女の顔にはあの時のチコではない何かが浮かんでいた。
「あと一人って…これ以上殺さないと君は気が済まないのか!!」
全ての感情は怒りで塗り潰された。
いつの間にか流れ出る涙も止まり、その目には仇を見る執念の炎が灯っていた。
「ええ、最近あなたの家へ出入りしている女の子はだあれ?」
その瞬間、バークは背筋がゾッとした。
この家へ出入りしている唯一の女性…マールの事だ。
「ふざけるな!!妹だけは関係ないぞ!絶対にお前なんかに殺させるか!!」
そう言い、彼は落としたケータイを拾おうと振り返り、ベッドの横を見たが既にそこにはナイフが突き刺さっていた。
「妹…?あなたに妹はいないでしょう?」
彼女の目からより一層光が消え失せた。
彼女の口がより奇怪に吊り上がってみせた。
「ふざけてるのか!マールは僕の妹だ!」
彼は不思議に思った。
彼女は妹に会った事がない。
なのに彼女は知っていた。
「あなたに血の繋がった妹はいないはずよ。それに最初の日、あなたの家には誰も居なかったわ。」
「な…なんでそれを…。」
バークは恐怖した。
バークの妹が本当は義妹であることは誰にも言っていない家族しか知り得ない事だった。
そして彼女が言っている最初の日の意味が分からなかった。
「初めて会った日、私はバークの家に来たわ。その時は誰もいなかったのに次の日からは誰かがあなたの家に入っていくのを見たわ。誰?」
「関係ないだろ!なんで…なんで義妹やザルバ達を巻き込むんだ!!」
必死に言い返すバークの問に彼女は更に顔が張り裂けそうな程笑い
「邪魔だったからよ。私とあなたの関係を壊そうとする人たちが多過ぎて…。だから全部綺麗にしてあげたの。これであなたは私だけを愛してくれるわよね?」
血の気の引いていく彼には既に怒りすらなくなっていた。
「僕はもう…君の事を愛していない…愛せない…。」
意気消沈としそうバークは彼女に言い放った。
その途端に彼女の顔から笑みが消え失せた。
「どうして…?何でそんなこと言い出すの?私はあなたのためにここまでしたのに!!」
彼女の顔には深い怒りと悲しみの色が見えた。
「誰もこんなこと頼んでないし誰もこんなこと望んでなかったんだ!!」
バークも必死に彼女に反論していた。
それは彼が彼女に送れる最後の優しさだったのかもしれない。
すると彼女は俯き
「…いいわ。あなたが私を嫌うなら…。私を好きだったままでいて。私と一緒に…死にましょう…?」
彼がチコの異常さにようやく気が付いた時には既に遅かった。
彼が何かをするよりも早く。
何かを言うよりも早くバークを押し倒し、尋常ではない力で押さえつけてきた。
「あなたの目は綺麗だわ…。いつもその目で私を優しく見守ってくれた。」
そう言いながらチコは彼の眼窩に指を突っ込んだ。
そのまま彼女は力任せに彼の眼球を掴み、ゆっくりと引き抜きだした。
指を入れられただけで溶岩を流し込んだような痛みだった。
ゆっくりと引き抜かれる眼球から脳の奥まで響き渡り、突き抜けるほどの激痛がブチリブチリという何かの千切れていく音で激痛で気を失うことすら出来なかった。
血に塗れ、引き抜かれた彼の眼球を掌に掲げる彼女は恍惚とした表情をしていた。
「あぁ…これがあなたの瞳…私だけを見つめてくれている…。もう私以外は見えないわね…。さあもう一つも…。」
どれほど激しく暴れても決して終わる事のない激痛をもう一度味わった。
既に彼の目から流れ出る液体は透明な心の移し身ではなく、紅い紅い彼の瞳のような鮮血だった。
そのまま彼女はケータイに刺さったままのナイフを引き抜き
「私と手を繋いでくれた柔らかい手…。」
腕を切り落とし
「私と一緒に走ってくれたしなやかな足…。」
足を切り落とし
「あなたが私を愛してくれた心を…私に頂戴?」
真の臓を刳り抜いた。
既に動かなくなった彼だった物は既に血に塗れ朱塗の池に浮かんでいた。
そのまま彼女は彼女は涙を浮かべながら自身の胸にナイフの刃先を宛がい…
「私の心は…永遠に…。」
その言葉を最後にもう一人、血の海に浮かんだ。

























――――

「駆けつけた警察が言うには既に時は遅く、愛し合ったマグマラシとバクフーンはその炎よりも紅い海で微笑んでいたとさ。」
そう話し終わった彼は周囲の反応を楽しんでいた。
「お前やめろよその都市伝説。洒落にならないって!」
彼と仲の良い一人が少し涙目になりながらそう言った。
皆一様に震えたり、泣き出したりしてしまっているそのうちの一人が
「確かさ、その話男の方がマグマラシじゃなかったっけ?」
と怪談話を訂正してきた。
「あれ?そうだっけ?大体マグマラシもバクフーンも大差無いし別にどっちでも大丈夫だろ。」
そう首を傾げながら言った後、笑いながらそう言った。
ガラガラと戸を開ける音が集まった数名の男女の部屋に響き渡る。
「うっす!悪い遅れた!」
そう言いながら扉を開けて一人の男が入ってきた。
みな少しばかり彼に文句を言っていたが彼の一言呟いた。
「なんと俺にもついに彼女が出来ちゃいました!出てきて!自己紹介しようぜ!」
そう言った途端にみんなは文句から黄色い声援に変わっていた。
彼の後ろから出てきた姿は小さく可愛らしい姿。
もじもじと出てきてお辞儀をし、口を開いた彼女の言葉は…
「初めまして…チコです…。宜しくお願いします。」

          -完-


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コメント 

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  • >>ポケモン小説さん
    そんなに怖かったですか…
    実は自分も怖いのが苦手なんです。
    ゼル伝でリーデットが怖すぎて一度やめた覚えがあるほどですw
    最後の終わり方については思いついただけなので似たようなのがあるのは知らなかったです。

    >>名無しさん
    楽しんでもらえたのなら幸いです。
    外伝の方もありますので興味があれば是非読んでみてください。
    ――COM 2013-02-24 (日) 23:37:14
  • 怖いけど良かった
    ―― 2013-02-24 (日) 11:36:57
  • ...結構怖いですな... 自分怖い物に耐性あるはずなのに...
    ヤンデレ... 怖いですな
    そして最後の終わりかたはもう... (何処かで見たことある気が...
    執筆これからも頑張ってください~
    ――ポケモン小説 ? 2013-02-23 (土) 08:55:30
  • >>名無しさん
    コメントありがとうございます。
    そんなに怖い子ではないですよ!多分w
    ――COM 2013-02-23 (土) 00:28:51
  • 怖すぎて涙腺崩壊( ; ; )
    ―― 2013-02-21 (木) 23:14:25
  • >>名無しさん
    鬼女…そんな恐ろしいものでは…
    彼女の生い立ちは外伝で分かっていきますので少々お待ちください。
    ――COM 2012-11-19 (月) 09:52:42
  • 『チコのスキル』
    返り血と匂いは油のコーティングで証拠隠滅するため、ガベル刑事の嗅覚を持ってしても見破ることは不可能。
    大きな耳の聴覚の鋭さを生かした盗み聞きや、ストーカー。ロークの幻影破り。通称火事場の馬鹿力と呼ばれる怪力……所々推測ですけど;

    チコって、ひょっとして鬼女なんじゃないのでしょうか。あの人達、ネットでも車のボンネットの反射してる画像だけで住所特定するらしいですし、スーパースキルに女の嫉妬が加わると怖すぎですね;
    やってる事は惨殺なんだけどそれでも憎めないというか……本当は悲しいキャラなんだと思います。
    バーク達のご冥福をお祈りします。外伝の方も頑張ってください。
    ―― 2012-11-19 (月) 01:35:09
  • >>フォームさん
    すみません理解していましたが自分が語弊を招くような言い方をしましたねw
    愛には変わりないけれど表現の仕方を間違えて愛と捉え難いものになっているという意味です。
    こちらこそ申し訳ないです。
    ――COM 2012-10-21 (日) 22:32:05
  • ああいや、間違ったというのは、愛する思いが間違った方向に向いてしまったという意味で書いたのです。ヤンデレだろうと愛する気持ちは変わらないのは承知の上ですっ
    解りづらくなって申し訳ないです~
    ――フォーム ? 2012-10-21 (日) 20:44:19
  • >>フォームさん
    ヤンデレだろうが愛には変わりありません。
    その辺りは外伝で語りますので気長にお待ちください
    リアルがだんだんと危なくなってきたので遅くなりそうです
    ――COM 2012-10-21 (日) 18:23:01

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Last-modified: 2012-10-15 (月) 00:00:00
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