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パペット・パペット4

/パペット・パペット4

書いた人 ウロ

文法表現って何ぞと思われる書き方ですので、注意してくだしあorz



☆☆☆


お化けというのは、もしかしたら存在しないものかもしれない。最初に俺はそう思っていた。
恐いという気持ちが本当に恐怖心をあおったりして、心の中にありもしない幻影のようなものを映し出す。まるで麻薬中毒者の幻覚の様なもんだろうと、考えていたときがあった。
だが、そういう考え方はゴーストタイプというポケモンを否定することになる。目の前にいるポケモンもゴーストタイプ、多分他にもいっぱいゴーストタイプのポケモンはいると思う。
ドール君の存在を心の中の幻覚と言い切るには、無理がありすぎた。目の前にいて、触れて、話せて、存在を感じる生き物を幻覚と割り切るのは、妄想を注入しなければ割り切れない。
生きているから、そこにいるから、夢でも、幻でもない、そこにいるポケモン。ゴーストタイプも立派なポケモンだ……
だからこそだろうか、それを信じないというよりは、激しく苦手とするポケモンがいる。相反属性というよりは、苦手意識といった感じのタイプ。それがエスパータイプのポケモンだろう。
「お化けが苦手というのが本当かどうかはわかりませんが、怖いものが苦手というのなら、そこを刺激すればいいのですよ」
目の前のお化け、というかゴーストタイプのポケモン、ドール君はぎざぎざの口を歪ませて、快活に笑う。非常に恐い、こういう顔を暗がりで見るなら多分幼子とかは失禁すると思う。あくまで多分の範囲内だったので、何もいえないのがミソだが……
帰ってきたイリスとドール君の報告は、とても簡素で短く、そして何とも漠然としたものだった。お化けが恐く、高いところが苦手、これだけ言うと、すぐに笑い出す。イリスは何ともいえない表情をしながら、後付けで説明に肉をつけてくれた。
さすがは説明お姉さんと呼ばれるくらいのポケモンだった。何が何だか分からない言葉も凄い勢いで肉付けして説明してくれる、どうしてそんなに説明したがるのかということもあったり、凄いという尊敬から、子供たちの間では説明お姉さんというあだ名が定着している、本人のあずかり知らぬところでそんな奇抜なあだ名がはやったら本人はなんと思うだろうか。
イリスがそれを知ることは多分ないだろうと思いながら、説明を聞いたらこんな感じだった。
「お化けが恐いっていうのはね……警備員のポケモンに聞いたんだ。で、そこからこうなんだろうね……なんといえばいいのか分からないけど、ドール君は言ったんだ、苦手なところを突っついて、ここにこさせない様にすればいいんだって」
そういって、よく分からないといった顔をした。どうやらイリスも何をすればいいのかわらないというのが現状なのだ。
ドール君が何をしたいのか俺には分からなかったが、イリスが言うには、ドール君は仕掛けは全部ドール君がやるというから、俺たちはそれを手助けしてほしいとのことだった。分からないことをどう手助けすればいいのか全く分からないが、へんなことをされるよりは安心感がある。分からないのに安心するというのも変な話だが。
「準備をします。バッカスさんは、これを持って、ハミングさんはこれを、サンマさんはこれを、そしてアクロさんとイリスさんはこれを持ってください」
俺の家で何やらごたごたとしたものを持ってきたドール君は、いろんなものを渡してくれた。それぞれ何を渡されたのかはちょっとわからなかったけど、俺はとりあえず蒟蒻を渡された。紐がついていて、棒を持つとちょうど釣りの疑似餌のようなものになる。
「???」
「これなぁに?」
「ドール君、何これ??」
「何だろう、何か、仮装グッズとかそういうの?」
アクロとイリスはなにやら布切れのようなものを渡されていた、俺は蒟蒻であり、サンマはなんか不気味な人形を渡されて、ハミングはよくわからない物体を渡されていた。
それぞれの道具を見て、ドール君はにこやかな顔を浮かべた。
「皆さんはきっと、お化け屋敷とか、そういうのは知らないでしょう……」
「お化け屋敷??」
ハミングは聞いたことのない言葉のように首をかしげる。
「お化け屋敷って、何だか恐いもののことでしょう??」
イリスはわかっているのかわかっていないのかよく分からないあいまいな回答を投げ返した。
「何だそりゃ?バケモンの屋敷か??」
そして俺は勿論分かるはずもない。怪物がはびこる屋敷ならそれはそれで嫌な感じはするが、どうもそういうわけではなさそうだ。
やっぱり皆分からない風な口調だった。俺はわからない、イリスが分からないなら、多分誰も分からないはずだろう。何だか聞き覚えのない言葉を吐いた後に、ドール君は笑いながらこういった。
「お化け屋敷というのは、他人を恐がらせて楽しませる娯楽施設のようなものです。恐いと思うことが、お化け屋敷の肝ですからね」
何が何だか分からないが、すなわち、そのお化け屋敷というのは恐がらせるための娯楽施設ということだろう、それで片付けておいた。
「それがどうかしたの??」
「勿論、ただそんな話をしたわけじゃないですよ」
ドール君は口元を歪ませて笑う。それはそれはとても楽しそうな顔をしていて、何だか相手を恐がらせるために張り切るような顔も伏せて兼ね備えているような気もした。
「相手が恐がりということが分かればこっちのものです。それが本当かどうかは知りませんが、あっちが仕掛ける前に、こっちが仕掛けるんです。僕は、この渓谷が好きです。どんなポケモン達も平等に生きているこの渓谷を、あんな奴に壊させはしない……」
ドール君の気持ちは本物だった。言葉を吐いて、体が小刻みに震えている。感情的になると、どうしても声だけじゃ収まらないときがある。これはきっとその感情の表れなんだろうと思った。
「だから、僕はこの渓谷を守ります。人形屋の流儀に従って、人形屋のように……!!」
ドール君は意気揚々と声を上げて、ぎゅっと拳を握りこむ。静かに一回だけ頷いて。よく聞こえるように口から言葉を吐き出した……
「では、作戦を説明しますね――」


☆☆☆



草木も眠る丑三つ時というよりかは、深夜というか、どういう時間帯なのか分からないけど、深夜というのは分かる、お日様が沈んで、お月様が昇る、僕が前にいた場所でも、それは相変わらず繰り返されていた……
「アクロ、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ、イリス」
小ぢんまりとしたビルを外側から舐め回す様に飛行して、きょろきょろとあたりを確認、誰もいないということを、イリスに告げる。
「大丈夫?分かった、いってくるね」
イリスは微笑んで、ゆっくりと地上に降りていく。一匹になった僕は、ゆっくりと辺りを再度見回して、改めてビルの中の社長室を見つめた。明かりがまだついている、どうやらまだ仕事中のようだ……
「うぅん、何だかいたたまれないなぁ」
僕はため息をついて、明かりのついた部屋に瞳を移して、首を横に振った。
苦手なものは誰にでもあるものだし、それを馬鹿にすることなんてないけれど、知らない人、と言うよりも赤の他人をそんな風にいたぶってもいいんだろうか。
友達も言ってしまえば赤の他人だけど、一緒に長い間過ごして出来上がった信頼関係の構築という、奇妙なものがある。他人といって切り捨てるにはちょっとだけ難しい関係でもあると思うし、それ以上に切り捨てられない絆がある。
それは誰にでもあるものだと思うし、それは侵害してはいけないものだと思う。昔のことを思い出して、少しだけ気持ち悪くなるのは相変わらず変わらない。
自分が昔、いろんな言葉で傷つけられたとき、心の奥に鬱積していた思いが爆発して、死んでしまおうかと思うことがあった。トラウマをえぐるというのは、ああいうときの感情を言うのだろう。体の力が抜けて、本当に何もする気がなくなってしまう。そんな気分だ。
他人に対して完全に警戒を解かないのは、他人に弱いところを知られたとき、非難されるかもしれないから、ポケモン達は自分の身の保身のために、嘘や偽りを織り交ぜて、自分のことを他人に伝えるんだろう。混ざり気のない言葉なんて、イリスやルーン先生としか話したことがなかった。
本当に大事と思える友達になら、たとえ弱いところ知られたとしても、一緒になって考えてくれる……そんな友達に恵まれている僕は、やっぱり幸せ者だろう。可哀想とかそういう哀れみの感情じゃなくて、本当に向き合ってくれる大切な友達に、僕はたくさん恵まれた。
それが嬉しいし、とってもいいことだって、思えるようになった。この渓谷に来てから、嘘や偽りの混ざらない、本当に混ざり気のない言葉を感じた。心が澄んでいて、透明で透き通っている。自分のことを、他人に知ってもらいたいというポケモン達ばかりで、まるで世界の悪意から切り離されたような場所だった。
そんな場所だから、タイショーやサンマさん、バッカスやパペットさん、ハミングさんと一緒になれて、僕は本当に友達と呼べるものをつくることができた。この感情に、嘘や偽りで濁った感じはないと思える。竜の渓谷と呼ばれたこの場所で、僕は始めて、身近に感じられる幸せのようなものを感じたのかもしれない。
友達にあって、なんとない話をして、そしてそのまま帰っていく……日々の一日を大事に過ごすことが、もしかしたらこんな風な毎日を守って、楽しむことなんじゃないかと思うくらいだった。
そして今、僕たちは戦おうとしている、僕たちの毎日を脅かす、悪いポケモンと。戦いはしたくないというのは本音だけど、僕たちの日常を脅かすポケモンとなら、戦わなければいけない。負けたくないというのが本音だし、これ以上関わってほしくないというのもある。だから、罪悪感や、共感のようなものを胸にしっかりとしまいこんで錠をする。
ゆっくりと顔を上げて、窓から内部を調べてみる。まだ来てないというか、僕の出番はまだまだという感じだった……用意された布切れに袖を通すと、何だか暗がりの夜空も相まって、空を飛んでいるだけでも奇妙な物体になりそうだった。硝子に少しだけ透けた自分の姿を見て、あまり夜に会いたくない物体になったということだけは理解しておいた。
それにしてもこんな姿になって、何を始めるつもりなんだろうか、僕には全くわからずに、ドール君の指示に従うという行動しか出来ないため、首を傾げるばかり。一体何をするんだろうと考えていたら、下から連絡が来た。
「アクロ……ターゲットが来たよ……って」
イリスは何だか楽しそうな顔をしていた。先程とは打って変わって何とも生き生きとした表情を覗かせて、何だかこの状況を本当に楽しみたいと思うような顔すらしていた。真剣に何かを成し遂げようという顔には、殆ど見えなかった。
「イリス、何だか楽しそうだね??」
「え?そう??そう見えるかなぁ……へへへ」
何だか気味が悪くなってきて、訝しげな顔をする。イリスは僕の姿を見て、更にニコニコと微笑んだ。それが更に不気味さに拍車をかけて何とも言えない感情が心の中を支配した。
「凄いなぁ、私も着たらきっとアクロみたいに恐いポケモンにはや変わりできるってことだよね、楽しみになってきたなー……」
「楽しみにすることかなぁ……」
「そんな顔しないでってばさ。ドール君言ってたじゃない。暴力で解決するんじゃなくて、人形屋さんの流儀で戦うって。その流儀ってのが、こういうことらしいけどねー」
「どういうことなのさ?……こんな格好になった位じゃ、何が何だか分からないことだらけで、指示を待てってくらいしか……」
「大丈夫だよ、すぐにドール君が教えてくれるって」
「??」
何のことだか全く分からないまま、イリスの言葉を信じて、暫く待つと、ビルのガラスが、少しだけ揺れたような気がした。いや、少しだけじゃなく、がたがたと、数秒くらい揺れて、すぐに沈黙する。
「!?……悲鳴??」
「あ、凄いなアクロ、何で聞こえるの??」
「何でって、ガラスの揺れ具合……音って、案外長距離まで聞こえるってことは知ってるよね、大きい会社って防音硝子になってることが多いって前に聞いたんだけど、音の振動は普通に伝わるじゃない?音を連続で伝えるには普通に大きな声を出し続けるのが一番だと思うし、そもそもこんな夜中に大きな声を出したら迷惑だから、意図的に出したんじゃなくて……」
「悲鳴って思ったのね……」
こくりと頷くと、頭の中に声が聞こえてきた。
「(お二方、聞こえていますか?)」
ドール君のテレパシーが聞こえてきて、頭の中で会話をする。ゴーストタイプやエスパータイプのポケモンは読み取ったり感じたり、精神の力が宿っていると思うから、多分感受性も非常に高いだろう……
「大丈夫、聞こえてる」
「私も聞こえるよー」
簡素な言葉を吐くと、ドール君は続きの話を語る。
「(では、もう始まってますので、イリスさんは指定の位置で、アクロさんも、そこにいてくださいね。おって支持を出します)」
やけに早口な口調で用件を伝えると、そのままぷっつりと言葉は途切れてしまった。
「さ、準備しようっと……アクロ、何だか悲しそうな顔してるね」
「僕、あまり乗り気じゃないけど……楽しませるためじゃなくて、恐がらせるために脅かすってことだし……」
心の中を少しだけ呟くと、イリスはにこやかな顔になった。
「苦悩回路発動中ね……アクロは、私達が見つけた場所を、壊されるほうがいい??」
「聞かなくても、分かるじゃないか、イリスはやっぱり意地悪だ。僕は確かにこういうことは乗り気じゃないし、あまり考えたくないけど、やると決めたらやるよ。僕たちの日常を守るんだったら、やって見せるさ」
「うん、悩むのも別にいいとおもうよ。アクロは、それでいいとおもう」
イリスはそれだけ告げると、ゆっくりと降下していく。
それでいい。言葉にするとうすっぺらい気もするけど、これほど力強い言葉なんてなかった。苦悩するのもありなんだろう、迷うのもありなんだろう。
それも一つの考え方なんだから――
「よし、気合を入れよう」
心の靄を振り切って、静寂の夜空の中で、僕は指示を待つことにした……


☆☆☆


「ギャーって言ったぞ、ギャーって……」
耳にまだまだ強い声が響いて、私はとにかく首を振ったノイズのような音を遠ざけた。
「ハミング?」
「耳が痛い。あの人、凄い恐がりようだったんだけど……」
「すごいねー、このおにんぎょうさん、こうかはばつぐんだってかんじかな?」
サンマはけらけらと笑いながら、地面に落ちた人形を拾った。普通にデザインはヒトカゲの人形だけど、所々に釘が刺さってたり、痛々しい血痕の細工が施してあったり、触ると妙に湿っぽかったりして、やたら気持ち悪さを加速させるような人形で、私はとりあえず直視はしないようにしておいた。
まだノイズが残る耳を綿毛のような羽で押さえながら、先程悲鳴をあげて走り去ったポケモンの残滓を見据える。慌てて逃げ出したのだろう、その先にはきっちりと私達の友達が待ち構えている。
恐いという気持ち、逃げ出したくなるような恐ろしい出来事なんかも含めて、この作戦はとても相手の心を揺さぶると私は思った。とにかく、恐がらせるために皆は奮闘するだろう。私もその一匹として、ここにいる。
「でも、恐がらせて相手の出鼻をくじくなんて誰も考えてなかったなぁ……」
「そうだなぁ、俺みたいにすぐ暴力で解決しないあたり、ドール君は立派だよ」
「え?バッカスだってべつにすぐにぼうりょくをふるうポケモンじゃないでしょ?」
サンマがそういって、バッカスは少しだけ顔を緩ませた。
逃げたポケモンの姿が消えて、こんな雑談をしている場合じゃないと感じ始めた。そういえばまだまだ作業中だった。
「バッカス、忘れないでね」
「おう、ちゃんと指示通りにやればいいんだろ?」
バッカスは棒の先についた蒟蒻をひらひらさせて、親指を立てて笑うと、そのまま逃げたポケモンの後を追った。
「恐がりかぁ、案外あの社長さんも可愛い弱点があるってことだね」
「そうだねー」
サンマと一緒にバッカスの後を追いながら、暗がりの廊下を見渡す。どこがどんなふうかわからないから、殆ど第六感のようなものに頼りながら進み続ける。高さは低いかもしれないが、横幅の面積は異常に大きい。暗闇の中で長い廊下を、とにかく進み続ける。
更に悲鳴が上がった。体中からぞわりと鳥肌たがった。先程の強い声が、まだ私には残っているらしい。身体を身震いさせて、慎重に辺りを見渡す。
「よっしゃー、成功だ」
「??何が成功?」
「いや、ミサンガの後ろに近づいて蒟蒻引っ付けたら凄いスピードで逃げていってよ……あれは凄かったぜ、なるほど、脅かす側の気持ちがわかってきたぞ、あれだけ驚いてくれるとなんか楽しいな」
バッカスは笑いながら蒟蒻をひらひらさせている。それはとても楽しそうな顔をしているあたり、本当に楽しいんだろうなーと思う気持ちがなんとなくだけどわいてくる。
楽しそうに両手で蒟蒻を弄んでいるバッカスを尻目に、ミサンガの気配を追い続ける。バッカスは、俺の役目はもう終わったといわんばかりに、逃げた方向を指差した。
「あっちに逃げたぞ」
「ありがとうバッカス。サンマ、行こう!!」
「はいはいー」
私たちに手を振りながら、バッカスは窓ガラスを動かして、外から飛び降りた。あの高さから落ちようという気持ちになるのがすごかったが、よくよく考えたら別に高くなかった。
「非常識な……」
「バッカスって、こどものころもよくきのぼりとかして、そのままおれはとりになるーっていって、おちたよねー」
「そのおかげで頑丈な身体になったんだったっけ?バッカスらしいというか何と言うか……」
子供のころの思い出に浸りながら、私たちはとにかく進み続ける、ドール君が言うには、私の渡された道具はサンマと一緒じゃないと使えないそうな。だからこそ、指示を待って、相手を追跡する。
「一体何に使うんだろうね、この変な道具……」
「わからないけど、ドールくんはじめんタイプのポケモンが一緒にいると使えるって言ってたねー」
わからないものを渡されてもわからないまま、設置するということだけはわかっているために、非常に気になると思っていた矢先に、更に鋭い悲鳴が上がる。
「タチサレ、タチサレ、ニンギョウヤカラ、タチサレ……」
「タチサレ、タチサレ、ニンギョウヤカラ、タチサレ……」
お互いにドスの聞いた声を聞いて、やっぱり鳥肌が立った。しかし、声色を変えても誰だか分かるからまだ耐性はついていることに安堵した。
再三にわたって恐ろしい悲鳴がわきあがり、耳を劈いた。後で耳鼻科に行こうかなぁと思い始める。
「すごいひめい、よっぽどこわいんだねぇ……」
「まぁ、お化けが苦手ならお化けが怖いのは必然っていうかなんていうか……なんかかわいそうね」
「そうだね、でも、どうじょうはしないでしょ?」
「そうね、悪いのは向こうだもん」
サンマの云う通り、同情なんてしない。仕掛けてきたのは向こうで、こっちは正当防衛で片付けられる。
「タチサレ、タチサレ……」
「いつまでやってるの、二匹とも……」
「タチサレ…………あ、二匹とも、どうしたの?」
私達だと気がついたのか、ぼろぼろの布切れに包まれたアクロとイリスは、暗がりの中で口元だけを歪ませて笑った。非常に恐い出で立ちで、少しだけ身震いした。
「ほんとに怖い外見してるね、二匹とも……夢に出てきそう……」
「へーそんなに怖いんだ……」
「僕たちじゃあわかりにくいよねー」
アクロとイリスは二匹で顔を見合わせて笑いあう、お化けの変装は恐ろしいくらい不気味で、話していた声もとてもびっくりするくらいのものだった。
「そんなに怖かったんだ、じゃあかなり効いてるって事なのかな?」
「わからないけど、そういうことだよね」
「それなりどころじゃないでしょ、あの恐がりようは」
勢いよく逃げて言ったミサンガを目で追いながら、改めて二匹を見る。夜の暗がりに、こんな布切れが浮いていたらそれは幽霊と思うだろう。
「これで私達の役目は終わったねー」
「うん、そうだね、後はハミングさんとサンマさんしだいってことだね」
「私達しだいかぁ……」
「がんばろう」
非常に責任重大に感じながら、とにもかくにも逃げたミサンガを追い続ける、長い長い廊下を走り続けているうちに、不意に聞こえてきたのはドール君のテレパシーだった。
「(二匹とも、聞こえてますか?速度を上げて、ミサンガさんを追い抜いて、先に仕掛けを設置してください……)」
「わかった、サンマ、行こう」
「あいー」
先に行って仕掛けろという言葉通り、サンマは速度を急激に上昇させて廊下を疾走した。翼を折りたたんで、爽快な速度で追い抜いていく。私もそれに追いつくように、速度を上げてミサンガを突っ切る。
何改変が起こったと思ったら、サンマが速度を上げたせいで、窓ガラスが音を立てて軽快に割れる。それが幽霊の仕業だと感じた所為なのか、更に大きな悲鳴が上がる。
「さ、サンマ……」
「ごめーん、ちょっとはやくしすぎたかもー……」
サンマはぺろりと舌を出してはにかんだ、そのまま速度を緩めて、突き当たりの壁にぶつかるというところまで来ると、ゆっくりと着地して、先程言われたように、渡されたもの設置した。ただ床に置いただけだったが。
「これでいいの?」
「(はい、それでかまいません。サンマさん、その装置の上で、穴をほってください)」
「??あなをほるね。わかった……えいっ」
サンマはドール君に言われたとおりに両手の爪を交差させて、地面に飛び込むように穴を掘った。その瞬間、下に直通するかのように一気に穴が突き抜けた。激しい轟音と一緒に、一階まで直通の穴がしっかりと空いた。
「うわぁぁあっ!!……び、びっくりした、いきなりいっかいにおちるんだもん」
「(お化け屋敷ようの貫通落とし穴です。お手軽に貫通できるので、ゴーストタイプでは人気の一品です、高いけど)」
穴を掘った当人の声が微かに聞こえる程度の距離で、私は驚愕に目を見開いた。何が起こったのかいまいちわからなかった。
「(もう大丈夫でしょう、後は落ちるのを待ちます。でも念のために、アクロさんとイリスさんに追っかけていってもらいます)」
「わかった、それでいいなら私はもう御仕舞いだね?」
頭の中で、ありがとうございますという声が聞こえて、安堵した。なかなか難しいかと思っていたが、そうでもなかった。案外楽しかったし、これでミサンガがパペットを苦しめなくなるのなら万々歳だ。
軽快に窓から羽を広げて飛び降りる。後ろから聞こえてきた、今宵で一番大きな悲鳴が、何だか申し訳なさそうな感じがした……


☆☆☆


「貴方の屋敷は……のろわれてますっっ!!!!」
「…………は?」
開口一番の声を聞いて、パペットは何がなんだか分からない顔をしていた。そりゃそうだ、俺にもわからん。ミサンガがやってきたと思ったら、いきなりそんなことを言って、鼻息を荒くした。
「こんなところを買い取るだなんて、とんでもないです!!!!初めから呪われていると知っていれば、こんな所買い取ろう等と思いません!!!悪い冗談だわっ!!!」
「…………はぁ……」
「もう帰ります、貴方達も早くそこから立ち退かないと人形に呪われますよっ!!!」
ミサンガは言うだけ言うと、そのままテレポートで消えてしまった。
「…………??どういうことかなぁ?タイショー??」
「???わからん」
二匹で顔を見合わせて首を傾げる。まるでわからない、どうしていきなりあんなことを言い出したんだろうか。と、思ったら、いきなり後ろから笑い声が聞こえた。
「ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」
「あははははははは!!!!」
「ひーひっひっひひひっひっひ!!……げほっ、げほっ……」
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
「だーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!」
今日も珍しく、皆一緒に揃って、ハミングの入れたお茶を飲んでいるが、ミサンガが来た瞬間に全員が全員、お茶を噴出して机を叩いていた。
昨日はあの後朝までパペットと一緒に爆睡していたために何が何だかわからなかった。
「あいつらどうしたんだ?ドール君は何か心当たりとかあるか??」
ゆったりとした動作で人形のほつれを直していたドール君は、少しだけ笑みを浮かべると、ゆっくりと首を横に振った。
「さあ?わかりません……死ぬほど恐い目にでもあったんじゃないでしょうか?」
それだけ言うと、また人形のほつれを直す作業に戻っていった。ドール君は何か知っている風だったが、これ以上俺は何かを詮索する気にはなれなかった。何かを追及するよりも、今自分の身に起きていることを整理することで手一杯だったからだ。
「タイショー、ハイ、そこのセット、こっちにつけて、そのまま次はここで……」
「ええと、こうか?」
「そうそう、そんな感じでいいよ。森は、緑の毛糸を解いて、そんな感じ、うふふ、うまいうまい」
「そ、そうか……」
俺の行動を見ても、特に皆驚いたような仕草を見せることはない。何だか人形劇の役者を見ているような目で見られて、気恥ずかしいような印象しか受けない自分を感じた。全員ミサンガを見て笑ったこと意外は、特に難色を示すことなく、世間話やいつものことについて花を咲かせているだけだった。
「俺はやっぱり、紅茶より牛乳のほうが好きだな」
「ひどい、バッカスには大人の味がわからないんだよ」
「バッカス。ぎゅうにゅうだいすきだもんね」
「私も好きだけど、あまり飲んでも成長しないのよう……その、む、胸とか」
「イリス、悩み事ってそれだったんだ」
怒ったり笑ったりするような声が、家の中にたくさん響き渡る。狭い家というよりも、よく音の反響する家だということを頭に置きながら、パペットの指示通りに。いそいそと人形劇のセットを作っていく。随分不恰好で、何だか情けない感じが出ているような気もしたけれど、パペットは何も言わなかった。
「わぁ、これだけ豪華なら大丈夫だよ、タイショー、ありがとう」
「そ、そうなのか、俺には全然豪華なのかすらもわからんのだが……」
「うん、豪華だよ。タイショーがつくってくれたんだもん。きっと今日の人形劇は大丈夫さ。ドール君、お人形さんできた?」
「ばっちりです、ほつれは直しました。さ、行きましょう」
パペットは待っている子供たちのために、すばやく支度を済ませて、後ろで騒いでいるドラゴンたちに大きな声で留守番を頼むように伝えた。
「じゃあ、僕達は行ってきます、皆、留守番ごめんなさい……」
「はいはい、いってらっしゃい」
「頑張ってねー」
「留守は任せておいてね」
「僕たちは心配ないよー」
「思い切り演じてこいよな」
みんなの声が聞こえて、パペットはにこやかに微笑んで、俺達と一緒に扉を開けて外に出る。
体中から受ける風を感じて、空を眺める。いい天気で、嫌な事を何もかも吹き飛ばしてしまいそうな天気だった。空はとても青く、ゆったりと動いている、天気のいい日には洗濯物を干せ、とはよく言ったものだ。
洗濯物を干しただろうか?ちゃんと家の窓は開けて、換気しているだろうか?いろんなことが、頭の中を駆け巡る。
そんなことを考えていると、隣を一緒に歩いていたパペットが、空を見上げてこういった。
「洗濯物は干したのか……家の窓は開けて換気したのか……そんなこと考えてた?」
「……一匹であの狭苦しい家にいれば、それくらいなら嫌でも考え付くさ。ちゃんとやったかどうかも、ちょっとだけ不安になりそうだけどな」
「そうだよね、タイショーしっかりしてるもんね……」
「そうだなぁ、どうしても考えちゃうんだよな」
「あのさ、もしよかったら……その、ね……」
「??」
何が言いたいのかはっきりわからない、取りあえず何か言いたそうに口をもごもごさせているパペットを見て、なんだろうかと問いただそうとしたが、やめた。
なんとなく、何をいいたいか分かったような気がしたからだ。めんどくさくてすぐに聞きそうだけど、今はちょっとだけ待っていようという気分になった。
「あのね、タイショー」
「んー?」
「その、タイショーがよければさ、僕と一緒に暮らさないかな?」
「……なんで?」
耳元に小声で囁くと、パペットは恥ずかしそうに顔を赤面させた。初々しい仕草で、見ていてとても可愛らしく、愛おしく、守りたいと思う。
「僕、その、タイショーがやってきたこと、やってあげられたらなーって……」
「それって、プロポーズ?」
「うぅ、恥ずかしいなぁ……そんな事言わないでよぉ……タイショーと僕は、相思、相愛でしょ?」
全く面白いポケモンだ、パペットと一緒にいることが出来たことを、本当に感謝したかった。
ミサンガがどうしてあんなことを行ったのかわからないけど、もうパペットは何かに苦しめられることは多分ないんだろう。どうしてかわからないけれど、どうしてもそんな風に思えてしまった。
この先に何があるのかわからない、まだまだ先のことは不安だらけかもしれない。でも、今ある現実を受け止めて、その中にある幸せをずっと守り続けていきたいと、心の中で誓う。
「タイショー?」
「パペット、子供は何匹ほしいんだ??」
「え?…………ええとね、その、お、お人形さんに負けないくらい、かな?……へへへ」
「子沢山すぎるだろ……まったく」
先の未来を笑いながら語るパペットを小突いて、やれやれとため息を一つつく。
「せめてもうちょっと減らしてくれよ。俺が頑張らなくちゃいけなくなるからな……」
「!!……うふふ、ありがとタイショー……」
「やれやれ、こんな暢気な奥さんを貰って、俺がしっかりしないとな……めんどくさいったらありゃしない」
でも、それも悪くない。そう思いながら、俺たちは進み続ける。
この先、この渓谷はどんな風に変わっていくんだろうか?何が起こるんだろうか?それはまだまだ先の話。
今は、人形劇を手伝って、家の荷物をまとめて、パペットの家に少しずつ送ることを考えよう。その先のことはまだまだ分からないけど、わからないから楽しいんだ。
人形劇はどうやるんだろう?動かし方、物語の進め方、すべてはわからないけど、パペットと一緒にやれば、なんとなくできるような気がして、少しだけ気が楽になる。
「二匹とも、見えましたよ、みんな待ってるみたいです」
「お、ついたのか」
「わぁ、久しぶりに見た子供たちの顔だぁ……」
劇の舞台を設置する森の切り株の前で、渓谷の子供たちは今か今かと待ち続けて、パペットを見て、わいわいと叫んだ。
「パペットおねえちゃん!!!」
「続きができたんだね!!」
「早く早くー!!」
「こぉら、急かさないのー!!……さ、じゃあはじめよう、タイショー、ドール君」
「おう」
「わかりました」
いそいそと道具を出したり、セットを手伝ったり、めんどくさいけど、楽しい。
こんな毎日をパペットと一緒におくっていく。そして、その先の未来に向けて、進んでいく。
そのための毎日を、精一杯楽しもうと思った……

終幕


これにて終幕、おさらばです。リクエストしていただいたSKYLINEさん。本当にありがとうございました。身近な幸せを守るために、タイショーたちはまだまだこれから先を歩き続けるでしょう。何が起こるかとか、そういうのがわからないから未来って楽しいんですよね。ここまで読んでいただいた皆様、本当にありがとうございました。そしてもう一度、リクエストをしていただいたSKYLINEさん。本当にありがとうございましたorz



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Last-modified: 2012-10-28 (日) 00:00:00 
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