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ハンマーガア

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ハンマーガア 

writer――――カゲフミ

 思えば随分と遠くまで来た。故郷を旅立ってから幾度も太陽と月の移り変わりを見た気がする。数々の山を越え海を越え、ひたすらに飛び続けて。
ずっと海、海、海で休む場所が見つからずに疲労で水没してしまいそうになったときは、さすがの俺もここまでかと腹をくくったりしたのも今は良い思い出になっている。
これまでに聞いた噂話やトレーナーからの話だけを頼りに別の地方へと飛び出すのは無計画も甚だしい。他の奴に言わせれば狂気の沙汰だと言われるかもしれない。
だが、俺はやり遂げることができた。ようやく遥か遥か遠くのパルデア地方とやらへたどり着くことができたのだ。自分の目前にかつてない大きな大陸が見えてきたときの感動はひとしおだった。
上空からざっくりと確認したところ全体的に丸い形をしており、緑豊かな中にも砂漠地帯や雪山地帯、岩肌地帯など多くの気候が混在していることが分かる。
中央部分に雲に覆われた明らかに異彩を放っている場所があったが、とりあえず今は近づくのはよしておこう。あれだけ目立つ土地ならば現地で話も出てくるだろうし。
興味を持つのはそれからでも遅くない。とにかく今は長旅で疲れ切っていた体を休めることが先決だ。俺はゆっくりと下降しながら落ち着けそうな場所を見定めていく。
北部は寒そうだし、西部と東部は乾燥地帯が入り混じっていて埃っぽそうだな。俺の頑丈な体は砂嵐などものともしないが、不快かどうかは別問題。どうせ休むなら快適な環境で、だ。
そういうわけで、比較的緑の多そうなパルデア地方南部を目指して俺はぐんぐん下降していく。道中で空を飛んでいる俺の進化前の同族ともすれ違った。
他の地方でもしっかり生息域を広げているようだ。別の地方になるとぱったり見かけなくなる種族も結構いるらしいが。我々の逞しさを裏付けているようで何だか嬉しかった。
ただ、一つ気になったことはある。故郷ガラル地方では空飛ぶタクシーと言えば、俺の種族の専売特許だったはずなのだが。
ここで見かけたそれは、何やらカラフルな小さな鳥が集まって、タクシーのかごを運んでいたのだ。こっちの地方ではあのポケモンが主流になっているのだろうか。
体格も小さいし力もなさそうで、複数で引っ張らないとかごが上がらないなら効率が悪そうだった。これなら俺の種族の方がよっぽどうまくやれそうな気がするもんだが。
まあ、地方が変われば常識も変わるということで自分を納得させておいた。直接空飛ぶタクシーに携わっていたわけでもないのに、少し残念に感じながら俺はさらに高度を下げていく。
緑地を求めてパルデア地方南部に向かったまでは良かったが、思っていたよりも大きな木が少ないことに気が付く。所々にある木も、何だかまばらで身を寄せるには随分と頼りない。
かといって俺の体躯は草原のど真ん中では目立ちすぎるし、広大な大地にぽつんと佇むのは何よりも落ち着かなかった。さて、どうしたものか。
とりあえず、一旦地面に降りてから考えようとしたところに、何やら視界の端に明らかな人工物が目に入った。茶色っぽかったが、木の幹とかではない。
これは、廃屋というよりは何かの遺跡だろうか。かつて建物だったであろう壁の残骸が草原の中にぱらぱらと点在していた。
屋根も無く雨風を凌ぐには心許ないものの、一旦休憩するくらいならば丁度よい小蔭になりそうだ。壁の高さも出来ている日陰も俺にとって程よい障害物を提供してくれている。
おそらく部屋の隅だったであろう部分に俺はゆっくりと降り立った。周囲にぽつぽつと野生のポケモンの姿はあれど、人のいる気配はしない。
この地方特有の観光名所とか、そういった扱いの場所というわけでもないらしい。ますます休憩するにはうってつけではないか。
天候は晴れ。所々にある雲はじわじわと流れていく。穏やかに吹き抜ける風が草原を揺らしていて、とても長閑な空間だった。こんなに落ち着いた気分になれたのは久しぶりだ。
パルデア地方を目指している最中は、休んでいるときでも常に不安が付きまとっていた。目指す方角は本当に合っているのか、進めど進めど何も見えてこないんじゃないか。
俺の選択肢は間違っているんじゃないかと、何度頭の中で反芻されたか分からない。だが、結果として目標としていたこの地にたどり着くことが出来たのだ。
今はその喜びを噛みしめながら、新たな大地で暫し休息を取らせてもらうことにする。俺は草の絨毯の上にうずくまると、そっと目を閉じた。



『今まではそれでもよかったさ。でもな、俺も割と名前が売れてきたんだ』

『なりふり構わないバトルは観客を選ぶ。お前の実力なら他の戦術でもやれるはずだろ?』

『なあ、考え直してくれよ、シデン!』



 昔の夢を見た。かつて俺のトレーナーだった男の夢。男の手持ちポケモンだった頃の夢。バトルフィールドで歓声を浴びていた頃の夢。断ち切ったつもりでいても、今でもこうして時折出てくる。
トレーナーとしては未熟で駆け出しだった男。自分の名前を上げるために必死で、ぎらぎらしていて。とにかく勝つためなら手段を選ばなかった。
愚直なまでの彼の向上心は隣に居て心地よかった。だからこそ俺もそれに答えるために一番自分を生かせる戦い方を見出し、鍛錬して磨き続けてきたつもりだった。
だが。勝利を重ねて徐々に有名になっていくにつれて、彼は変わり始める。どんな手を使ってでも勝つ、相手の自滅を誘うような泥臭い戦い方を毛嫌いするようになっていった。
如何に綺麗に勝つかを追及した見栄えを求めるバトルは俺の戦術と相反するものだった。戦いの中で彼が追及するものは変わっていったが、俺は自分を変えることが出来なかった。
俺は俺のやり方でここまで突き進んできたというのに、今更になって変化を求められるのは。今までの自分を否定されたように感じられて。
一度生まれた亀裂が大きな裂け目へと広がっていくのにそこまで時間は掛からなかった。バトルのとき、俺に声が掛かる回数は日を追うごとに少なくなっていき、そして。
久々に顔を合わせたキャンプの最中。彼と目が合ったが、お互いに交わす言葉は何もなかった。ここにいてもだめだと悟ったのはその時だ。
俺が俺らしく居られる新天地を求めて、隙を見て飛び出した。苦い思い出になる故郷を、ガラル地方を出来るだけ離れて遠くへ。
パルデア地方、という別の地方の話は何度か小耳に挟んでいた。どんな場所なのかは見当も付かなかったが、新しい土地ならばどこだろうと構わなかった。
「……ちっ」
 目を覚ました俺は舌打ちをする。面白くない夢だ。だが、思い出すのも苦痛を伴うほど悪い記憶ばかりでもないというのが腹立たしかった。
トレーナーが信頼に値する人間でなければ、俺はもっと早く見切りをつけていただろうから。過去を切り捨てようとしても、なかなか過去は俺を離そうとしてくれない。
ただ、トレーナーが付けてくれたシデンという名前は結構気に入っていて。この名前くらいはずっと残してやっても良いかなとは思っていた。
こうやって感傷に浸りきっていたせいか、俺は背後から忍び寄る気配に気づかなかったのだ。慣れない新天地ではあるが、いきなり最終進化系で貫禄もある俺に吹っ掛けてくる奴なんていないだろうという奢りはあったかもしれない。
がさりという何者かの足音を感じて振り返ろうとした瞬間、背中に強い衝撃を感じた。何かとてつもなく重量感のあるもので殴られたような感覚。痛かった。
これは、そうだな。昔、バトルでイシヘンジンのヘビーボンバーを直で受けた時に何となく似ているような感じだった。
一瞬でも過去の記憶が頭を過るなんて、俺はここで死んでしまったのかと思ったが。どうにか意識は繋ぎ留められていたようだった。
「あら、生きてる。頑丈なのねーびっくり」
 どこか間の抜けた声。聞いていると何だか脱力してしまいそうになるふわふわした声だった。振り返ると、濃い桃色の体と薄い桃色の頭をした見たこともないポケモンが佇んでいた。
体つきは人間の子供のように小さく俺の半分もない。とてもこいつにあんな鋭い一撃を放つ力はなさそうに思えたが、桃色の片手に掲げられた巨大な獲物ですぐに察する。さっきの衝撃の正体に。
「てめえ……何、しやがる」
 立ち上がって桃色を睨みつけるものの怯んだ様子は全くなかった。体格差は倍以上あるのだが、持っているハンマーが抜群の存在感を誇示している。
ハンマーの平たい部分には俺を殴ったときに付いたであろう灰色の痕跡が生々しく残っていた。俺はその時ようやく、片方の羽を覆っていた装甲が一部剥がれ落ちていることに気が付く。
「何って、あなた良いハンマーの素材になりそうだったんだもん」
 悪びれることもなくさも当然のことのように告げる桃色。言われてみれば、確かに持っているハンマーはどことなく見覚えのある色合いをしているように思える。
こいつ、俺たちをハンマーの材料にしてやがるのか。そういえば道中で見た同族は進化前のココガラやアオガラスばかりだった。同種のアーマーガアがいなかった理由は、ひょっとすると。
冗談じゃねえ、何なんだよパルデア地方。こんなのが外をうろついているなんて俺はとんでもない場所へと足を踏み入れてしまったのではないだろうか。
「こんなところで居眠りなんて不用心もいいとこよ。もしかしてあなた、よそから来た?」
 あまり察しが良い方とは思えない桃色が瞬時に俺の境遇を言い当てたところを見ると、この地域で野生のアーマーガアが出歩くのはこの上なく珍しいことらしい。
確かに、こちらが何もしていないのにいきなり殴りかかってこられてはたまったもんじゃない。相応に鍛えていた俺だからこそどうにか耐えたものの、並のアーマーガアなら即死していてもおかしくないくらいだ。
「図星みたいね。せっかく見つけたんだし、その装甲もらっちゃうよ」
 薄ら笑いを浮かべたまま再びハンマーを構えようとする桃色。体の装甲を剥がされることすなわち、それは俺にとって命を失うということ。
どうやらこいつはアーマーガアに対しての倫理観というものが完全に欠落してしまっているらしい。桃色にとっては俺達は動く素材くらいでしかないということか、ふざけやがって。
せっかくあいつの元を離れて、苦労して苦労してパルデア地方まで来たんだ。ようやく手に入れられた自由の身。こんなところでくたばってたまるか。
大きくハンマーを振りかぶった桃色を俺は姿勢を低くしてじっと見据える。あのハンマーは確かに強烈だ。未だに背中に鈍痛が残っていやがる。だが。
一撃の衝撃が大きな分だけ、生まれる隙も大きい。素早く振り回すのは難しいはず。桃色が構えてから振り下ろすまでの間に、俺は咄嗟に後ろへと下がって回避を試みる。
ずん、と地面へ響き渡る衝撃。直近でハンマーの風圧を受けた遺跡の壁の一部ががらがらと崩れ落ちた。直撃していたら俺もああなってしまっていたかもしれない。
「うそっ、まだそんなに動けるの?」
「てめえ、絶対に許さねえ。許さねえゆるさねえユルサネエ……」
 ありったけの憎悪を込めて俺は呪詛のように憎しみを込めながらぶつぶつと呟いていく。普段は心の中で強く念じるだけで十分なのだが、今回は理不尽に抗う気持ちも含めた強化版、のつもりだ。
直後、桃色の周辺に紫と黒の入り混じった濃霧のようなものが現れて。ハンマーそして桃色をぐるりと取り囲んでいく。やがて、霧は桃色に向かって一直線に飛んでいった。
「ひっ」
 得体の知れない俺の反撃に慌てて身構える桃色。素材としてしか見てなかった俺が反撃してくるなんて夢にも思ってなかったような、そんな反応だった。
桃色を取り囲んでいた霧はやがて薄くなり、散って消えていく。自分の体やハンマーを見回して不思議そうな顔をしている桃色。
この技で痛みや衝撃は感じないはず。だが、俺も野良バトルで繰り出すのは初めて。きっちり整備された公式戦で使うのとは勝手が違う。頼む、成功していてくれ。
何ともないと分かると再び強気になった桃色がハンマーを掲げようとする。しかし、持ち上げようとしたハンマーはびくともしなかった。
「あ、あれ?」
 両手両足で踏ん張ってうんうんと唸ってみても、突如重くなったかのようなハンマーはまるで動く気配を見せなかった。どうやら、うまく行ったらしい。
あの強烈なハンマーさえ封じてしまえばこっちのものだ。俺は普通につかつかと歩いて近づいていき、ハンマーに気を取られている桃色に蹴りを入れる。
「きゃっ」
「へっ、ざまあみろ」
 草の上に転がされた桃色。ハンマーから切り離されると随分と小さく見える。俺がさっき繰り出したのはうらみという技。
最後に繰り出された技を出すための力を消耗させるという効果だ。技の威力が大きければ大きいほど、使用できる回数は限られてくる。
あのハンマーはどんなに頑張っても十回連続で振るのは無理なはずだ。ならば、繰り出す力を消耗させて、使えなくさせてやればいい。
直接攻撃ではなく、相手の内面からじわじわと侵食して戦意を奪う。やがて相手は出せる技がなくなり自滅する。これが俺の得意とする戦術だった。
あいつはそれが気に入らなくなって、決別する原因にもなりはしたが。今回は長年身につけてきた戦い方に救われたのだ。
「つ、強い……あなた、何者?」
「ふん、お前には関係ねえ」
 明らかにこれまで見てきたアーマーガアと異なる能力を示す俺に、さすがの桃色にも焦りの色が見える。うらみを受けるのも、技が突然使えなくなる感覚も初めてだろう。
ガラル地方の野生アーマーガアにはこんな力はなかったはずだし、桃色が驚いているところを見るとパルデア地方の野生個体もガラルと同じだったと見える。
さて、と。形勢逆転させたは良いがどうしたもんか。じりじりと近づいていって足元の桃色を見下ろしてやった。もう、俺の嘴や爪が届く距離ではある。
「わ、わたしを殺すの……?」
「むやみな殺しは好きじゃねえ。だが、そうだなぁ」
 半分だけ体を起こした桃色は、若干震えながらもしっかりと俺の目を見据えていた。自分の力では俺には到底敵わないと悟ったのだろうか。
これまで俺の同族を狩ってきたことに対する経験がそうさせているのかどうかは分からない。ただ、無様に命乞いをするくらいならば潔く死を選ぶ。
そんな覚悟が桃色の無邪気さを残している瞳からは見て取れたのだ。こんな相手をやみくもにいたぶっても、面白い反応は見られそうにないな。
だが、このまま見逃してやるつもりは毛頭なかった。戦術に留まらず俺はどちらかといえば執念深い方だ。一度受けた痛みは忘れない。きっちり落とし前は付けさせてもらう。
どうすれば、最も効率的にこいつに報復できるか。頭を巡らせて考えた結果、一つの結論に至った。でかいハンマーばかりに目を取られてしまっていたが、こいつ、雌だよな。
一瞬、良心の呵責が過ぎったが、何よりも先に手を出してきたのは桃色だ。今更になって情けを掛けてやる義理はないよな。
アーマーガアである俺は鋼と飛行タイプ。翼の一部や胴体から股にかけて、硬い装甲で覆われているが。ちゃんと性別がある分、やはり体の中で柔らかい箇所はあるわけで。
翼の先端で股の部分を何度かすりすりと擦ってやると、それに反応してもぞもぞと動き出してくる。装甲を押し広げるようににゅっと頭を覗かせた、紺色の体色と対照的な濃い桃色。
それこそこいつの体と大差ないような俺の雄がちょこんと頭を覗かせていた。もちろんまだ万全ではないものの、触れるくらいには十分だった。
「俺を満足させろ」
「うええ……悪趣味ぃ」
「るせえ、先に吹っ掛けてきたのはそっちだろうが」
「むう、分かったわよぅ」
 渋々という感じは残しつつも、自分は完全なる敗者だと認めているのか存外にあっさりと桃色は俺の一物に手を伸ばしてくれた。
立ち上がって一旦草の上に膝を付いて自分の高さを調整しつつ、両手で雄へと触れる。意外とこうした行為に抵抗が無いのだろうか。
ハンマーを握っていた手は五本の指に分かれていて、細かく動くようだ。ハンマーの取っ手でなく素材の肉棒を握ることになるなんて、こいつは夢にも思っちゃいなかっただろう。
装甲から出てきた俺の雄をぎゅっと掴んで何度か擦ったり、両手で不規則に揉んだり。俺の羽ではなかなかうまく刺激が行き届かないから、器用な両手はありがたい。
だが、揉んだり表面を撫でたりする衝撃はもちろん伝わってくるのだが、何だかいまいちだ。桃色なりにしっかりやろうとしてくれている意気込みはあるようだが。
やっぱり、お互いに気持ちが入ってない行為なんて、案外こんなもんなのかも知れねえな。俺もこいつで興奮できるかと言われれば、ものすごく微妙なラインだった。
好みというものはあるし、会ったばかりでしかも俺に危害を加えてきた相手にいきなりその気になれるほど飢えてもいない。桃色への仕返しで思いついた手段が、たまたまこれだったというだけ。
ただ、ここまで進めてしまったなら乗り掛かった舟でもあり、俺なりのけじめのつけ方でもある。やれるとこまでやってやるつもりだ。
「口はどうした、口は」
 一瞬あからさまに嫌そうな顔をして、口をへの字に曲げた桃色だったが首を横に振ることはしない。眉をひそめながらも、若干大きくなりつつあった俺のものに舌を這わせて愛撫に勤しむ。
おお。やっぱり手だけよりは悪くない感じだ。高くなった体温と口内の唾液で雄の表面を擦られると、さすがにぞわぞわと来るものがあった。
中途半端な強度だった一物にも徐々に力が蓄えられていく。パルデア地方へ向かうために飛びっぱなしでご無沙汰だったのも手伝って、そこそこの強度まで上り詰めることができた。
ただ、この状態を継続してさらに先へ進めるかと言われれば、厳しかった。もともとの体格差もあるため、桃色の控えめな手や口の中だけではどうやら限界があるようだ。
刺激が足りないなら気持ちで補おうにも、元々仕返しのための行為。情緒もムードもあったもんじゃない。舌遣いからも義務感がひしひしと感じられる。
ちらりと足元の桃色を見やると、早く解放してくれないかなあと言わんばかりの表情で淡々と行為に及んでいるような態度。とりあえず誠意が足りなかった。
無理やり舐めさせているという状況に多少なりともそそられるものはありはしたが。足りない部分の埋め合わせに足るものではない。それならば。
「もういいぜ」
「ぶへっ」
 言うが早いか俺は不意に片足を上げて桃色を蹴っ飛ばす。再び草の上に転がされる桃色。派手にこけて露わになった股の部分には確かに雌の筋が入っていた。
「上手かったら勘弁してやってもよかったんだが、その調子だと無理そうだ」
「ま、待ってよぅ」
 誰が待つか。背中で二つに分かれていた桃色の髪のような部分を両足で抑えつけて。そこそこに膨張した肉棒を、桃色の秘所へと宛がってやる。
案の定、濡れているのは俺の方だけだった。慌てて俺を振り払おうとするが、ハンマーを持ち上げられなくなったこいつに俺を押しのける力など残っておらず大した抵抗になりはしない。
大体の場所の見当をつけて、俺は半ば強引に腰を沈めていく。幸いにも、俺の方が唾液で湿っていたため入ることには入ったようだ。
「んああっ!」
 ずんっ、と伝わったであろう衝撃に思わず背中をのけ反らせる桃色。さすがに体相応の雌だ。こんな大きな相手を受け入れるようにはできていないらしい。
侵入した部分としてはまだ三分の一にも満たない感覚だというのに、既にかなりの締め付けがあって窮屈だ。内部の感触を味わうどころの話ではない。
「どうだあ、獲物に犯される気分はぁ?」
「ひっ、あんっ、あがっ!」
 苦痛に顔を歪めているのか、快楽に身もだえているのかは分からない。俺がゆっくりと腰を前進させていく毎に目と口を大きく見開いて何か声を上げようとしていたが、言葉になっていなかった。
みしみしという音が聞こえてきそうなくらい狭い通路を這ってどうにか半分くらいまで押し進めたが、どうやらこの辺りが限界のようだった。
何度も交わって慣らしているならともかく、体格差の激しい相手と最初の行為でするべき事柄ではなさそうだ。無理をすると本当に割けてしまいそうで、興奮よりも恐れが先にきてしまう。
ちっ、仕方ねえな。桃色に腹立ちはしたが、別に殺したいとまで思ったわけではないのだ。やむを得ず俺は先に進むことを諦めてずるり、と一物を引き抜いた。
「んあおぅ」
 そのときの擦れた感覚か伝わったせいか、明らかに嬌声と取れる声を上げて桃色が一際激しく背中を反らせた。程なくして、秘所から勢いよく水気が溢れてくる。
どうやら、先に達してしまったらしい。がくがくと腰を痙攣させ、涙と涎を垂らしながら乾いた呼吸を漏らす桃色。最初の強気な態度はどこにも残っていはしない。
俺の強引な攻め立てがそんなに刺激的だったのかどうかは分からないが、桃色はそのままがくりと意識を飛ばしてしまった。何だよ、てめえだけ先に気持ちよくなりやがって。
引き抜いた直後の俺の一物はまだそこそこの強度を保ったまま。気持ちを収めるには些か昂りすぎている。このままでは消化不良だな。
俺はそのまま腰を落として肉棒を桃色の腹部へと擦りつけた。思っていたよりもぷにぷにしていて感触が良い。あれだけのハンマーを振り回しているんだ。もっと筋肉質なのかと。
やはり物足りなさは否めなかったが、力を込めて腰を前後させることでどうにか一発出すところまで持ち込むことができた。久しく抜いていなかったため量は多い。
「んっ、ぐうっ」
 どうせならちゃんと中に出したかったが、まあ。この感覚は悪くなかった。一瞬視界が揺れる、足元がふらつく快楽。久々に味わうことが出来た。
桃色の顔から口元、喉元から腹回りにかけて白くべっとりと。ふん、なかなか良い気味じゃねえか。これで少しは仕返ししてやれた気分にはなれたが。
なによりも、こいつが気を失ってるのが面白くないな。どうせなら目を覚ますまで待って、しっかりと自分が凌辱された現実を叩きつけた上で立ち去ってやろう。
俺は草の上にうずくまり消耗した体力を回復させながら、起きた桃色を罵倒するための言葉を考えることにした。



「う……ん」
 少し経って、目をこすりながら体を起こした桃色。乾ききっていない俺の白濁液が頬やお腹を伝って下へと垂れていく。あの後自分がどうなったか、嫌でも分かるはずだ。
だが、桃色の視線は自分の状況よりも俺の方にだけ向いていた。主に俺の羽の装甲の部分へと。
「あなた、それ……!」
 桃色が震える右手で指し示した個所は、最初のハンマーの一撃で破損したところだった。地面に剥がれ落ちていたものとは別の新しい装甲が、俺の羽の上に形成されつつあったのだ。
相手の自滅を狙う戦術を使う手前、耐久力には自信がある。待っている間お得意のはねやすめを交えつつ、損傷したところの回復に専念していた。
「驚いたか、てめえの攻撃くらいじゃ俺は倒せ――――」
「すごい! すごい生命力!」
 どうだ、俺の耐久力はすげえだろうと自慢を交えようとした言葉は桃色に見事に遮られた。ぎらぎらとした妖しい目つきで俺に迫ってくる。
「装甲が剥がれても死なないなんてすごい! もっとちょうだい! あなたを殴り続ければたくさんハンマーの素材があつまりそう!」
 今までで一番きらきらとした桃色の笑顔だった。発言がどこまでも物騒なだけに、その笑顔は何よりも恐ろしかった。
頭を抱えたくなる、とはこういうことを言うのだろう。こいつにとっての最重要事項はハンマーだ。ハンマーのためならこいつは何だってする。そのためには自分や相手がどうなろうと構わねえんだ。
俺は無意識のうちに後退りを始めていた。天候が霰でもないのに、寒気がする。とてもとても嫌な寒気だった。こいつと関わるとやばい、と本能が警鐘を鳴らしている。
「逃がさないわよー、どこまでも追っかけて探しちゃうんだから!」
「も、もう勘弁してくれぇ!」
 慌てて飛び立った俺の背中に声を掛けてくる桃色。もう雪の積もる北部だろうが、埃っぽそうな東西だろうが、何なら危なげな中央部でも構わない。
パルデア地方の中で、あの桃色がいなさそうな地域ならどこだっていい。なりふり構ってなんていられない。
平穏な生活が出来るならどこだって俺は受け入れる。受け入れてやる――――。

 おしまい


・あとがき
新ポケのデカヌチャンとアーマーガアの狩る狩られるの関係性。図鑑説明をもとに構想を得たのが今回のお話です。
実質デカヌチャンが覚える技ははアーマーガアへの有効打がない現状。野生ならともかく、一度トレーナーの元で鍛錬しているアーマーガアなら一筋縄ではいかないはず。
狩猟対象に返り討ちにされてしまう展開も美味しいので、バトルの方向性の違いからトレーナーの元を去ったシデン君に登場してもらいました。
やはり新ポケのお話は新作の熱があるうちに書くに限ります。

以下、コメント返し

>わからせ風味が美味しかったです。 (2023/01/01(日) 16:59) の方
このデカヌチャンはぬちょぬちょにされてもなおシデンにハンマーの素材を求めているのでちゃんと分からせるのは難しそうです。

>デカヌチャンのフォルム的には「なんか狙いすぎてて逆に……」みたいな第一印象だったのですが、このお話はTDM体型を活かしていて良い具合でしたね。 (2023/01/10(火) 23:44) の方
ちっちゃい体形の子があれこれされてしまう展開はそれはそれでおいしいのです。
元々野蛮なデカヌチャンなのでやり返される流れになってもそこまで罪悪感がないのも追い風ですね。

最後まで読んでくださった方々、投票してくださった方々、ありがとうございました。

【原稿用紙(20×20行)】29.4(枚)
【総文字数】9855(字)
【行数】181(行)
【台詞:地の文】7:92(%)|713:9142(字)
【漢字:かな:カナ:他】35:63:2:-1(%)|3492:6277:278:-192(字)


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Last-modified: 2023-01-28 (土) 09:16:28
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