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トーストに塗るものは何ですか?

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 トーストに塗るものは何ですか?

 作呂蒙

 ※試す際は、くれぐれも自己責任でお願いいたします。

 <登場キャラ>
 結城・ナイルのご主人。歴史大好き。
 ナイル・フライゴン♂ なんだかんだで結城とはうまくやっている。


 立夏を過ぎ、暦の上では夏になってからしばらく経ったある日のこと、結城は所用で名古屋に出かけることになった。
 強行軍であったし、遊びに行くわけではなかったので、ナイルは上州の実家に預けることにした。連れて行ってくれないことに文句を言っていたナイルだったが、結城が「お土産買ってくるから」というと途端におとなしくなった。
 関東に戻り、ナイルを引き取ってから自宅に着いた際には「どこかに遊びに行かなかったか?」と聞かれたが、結城は「どこにも遊びに行っていないよ」とだけ答えた。
「そもそもさ、ナイル。名古屋や愛知県で遊びに行く場所って、どっか知っているのか?」
「え? えーっと、うーん、あ、そうだ。ほら、あの真珠で有名な……?」
「英虞(あご)港か? 思いっきり三重県だな」
「じゃあ、知らない」
「だろ?」
 もっとも、夜行の高速バスで現地に着いた時、時間に少しだけ余裕があるのをいいことに、名古屋の中心部から少し離れたところにある熱田神宮には参拝をした。しかし神社は神聖な祈りの場所であって「遊びに行く場所」ではないだろう。そんな気持ちで訪れたのでは、神様や神社を管理している方々に失礼というものだ。
 熱田は、かつては東海道五十三次の宿場町の1つで、現在も国道1号線と国道22号線が交わる交通の要衝である。熱田はかつて港湾都市でもあり、熱田から次の宿場町である伊勢桑名は「七里の渡し」と呼ばれる東海道の中でも珍しい海上を船で行く区間であった。
 大きな国道がすぐ近くであるにもかかわらず、境内に生い茂る鎮守の森によって、外界の喧騒とは遮断されている空間がある。そこが熱田神宮である。外界と半ば遮断されているためなのか「神聖な祈りの場」「厳粛な雰囲気」というものを肌で感じ取ることができた。
 桶狭間の戦いの直前に、織田信長(1534~82)が熱田神宮に寄り、戦勝祈願を行ったことは有名である。後の比叡山焼き討ち(1571)や同時期の伊勢長島一向一揆(1570~74)の殲滅戦のように、神仏など歯牙にもかけないイメージの強い信長だが、寺社仏閣への保護や寄付は、結構行っている。熱田神宮もその一つである。
 桶狭間の戦いそのものは、知名度の割には、不明な点が多い。この戦いで討ち死にした今川義元(1519~60)とて歴戦の猛者である。なぜ、あっさりと奇襲攻撃を許してしまったのか等、今日でもわかっていない点も多い。ちなみに当の信長本人は後に「たまたま勝てた」「運が良かった」と述懐している。
 戦いの経緯はどうあれ、勝利を収めた信長が寄進をしたといわれている土壁が境内に残されている。
 他には「お清水さま」と呼ばれている、水が湧き出ている泉があるのだが、この泉の真ん中に、大きめの石が安置されているのだが、なんでも安史の乱(755~63)の最中、馬嵬(ばかい)で非業の死を遂げた、絶世の美女・楊貴妃(719~56)の墓石の一部なのだという。
(本当かよ?)
 結城からすると、眉唾ものだが、これはこれで信仰を集めているといい、柄杓で水をすくって、3回水をかけると願い事が成就するのだという。

 ナイルを引き取って、家に着いた頃には、夜中になっていたので、簡単に夕飯を済ませ、その日は床に就いた。
 翌朝のこと。
「ねえ、ご主人」
「ん? どうした?」
「朝御飯は?」
「ん? 朝御飯? そんなものはない」
「ないって、御飯抜きってこと?」
「違う違う、外に食べに行くってことさ。たまにはいいだろ」
「ああ、そういうことね」
 今年は、学校も対面の授業が再開されつつあり、家にいる時間も減ったが「無駄に」外出することは少なくなった。天気が良くない日が続くようになり、雨の日に外に出るのが億劫だからというのもあるが、家にいる時間が増えた結果、外出しなくても快適に過ごせるような工夫を覚えてしまったというのが一番大きい。
 この日は、雨は降っていなかったが、空はグレーの厚い雲が垂れ込めており、湿気も多く、何とも不快な空気が充満していた。気温がそこまで高いわけではないのだが、湿気があるせいで、気温以上に蒸し暑く感じられ、しばらく歩いていると肌着も汗で湿ってくる。
 こういう時、自家用車があると便利かなと思わないでもなかったが、車は車で乗っていなくても維持費が発生する。公共交通機関網が貧弱な地方では自家用車は必須かもしれないが、少なくとも東京にいればよほどのところにいない限りは、車は無くても何とかなってしまう。
(やっぱ、いいや。結構お金かかるもんな……)
 それ以前に、学生でマイカーなど贅沢にもほどがあるというものだ。結城も車の免許は持ってはいるものの、身分証明書という役割を果たすことがほとんどで、自動車の運転が許される資格証明書としての役割を発揮することはほとんどなかった。

「あ、あった。ここだ」
 結城がナイルを連れてきたのは一軒の喫茶店だった。チェーン店で特別高級な店かというと、そういうわけでもなかった。まあ、某ハンバーガー店と比べれば居住性は勝っているだろうか? 中はエアコンが効いており、椅子もパイプ椅子の親戚のような粗末なものではなく、座り心地がよさそうなソファであった。
 平日ではあったのだが、店内はそれなりに混んでいた。手のアルコール消毒を済ませ、席に座る。店内は私服の人もいれば背広を着た人もいる。あまりじろじろとは見なかったが、端的に言えば、年代に限らず色々な人が利用しているという印象であった。
 朝の喫茶店は、簡単な食事とコーヒーの類を廉価な値段で提供しているところが結構ある。
「ナイル、飲み物はどうする?」
「えーっと、じゃあ、この生クリームが乗っているやつ」
「ああ、ウィンナ・コーヒーな。オレはどうしようかな? カフェオレにするか」
 朝はコーヒーを頼むと、無料でトーストがついてくる。結城は、パンの付け合わせにバターと小倉あんを選んだ。
「えー……。パンにあんこなんか塗っておいしいの?」
「まあ、気になるなら、試してみ?」
 ナイルは難色を示したが、結城がそういうので同じものをパンの付け合わせに選んだ。果たしてこれが吉と出るか凶と出るか?
 当然のことながら、注文してから料理が運ばれてくるまでは多少のタイムラグがある。ナイルに土産話でもしてやりたいが、熱田神宮以外には立ち寄らなかった。時間がなかったというのもあるが、結城が名古屋に行った日は天候が不安定で、熱田神宮で参拝を終えると、途端にざっと雨が降ってきてしまった。結城は傘を持っていなかったため、早々に神宮を後にし、最寄りの地下鉄の駅に駆け込んでしまった。
 名古屋の中心部から、少し離れたところにある繁華街・大須には織田信秀(1510~51・信長の父)が天文9(1540)年に建立した寺院(厳密に言えば、今日大須にあるものは信秀没後に移築されたものだが)があり、多少興味があったが、結局行かずじまいだった。
 
 10分もしないうちに飲み物と料理が運ばれてきた。トーストにはバターがあらかじめ塗られていた。
「よし、じゃあ、いただきますって、あれ? どうしたナイル?」
「これさ、どうやって飲めばいいの?」
「はあ?」
 ウィンナ・コーヒーは生クリームで、コーヒーに蓋がされたような形になっている。かといって、ティースプーンでいきなりかき混ぜてしまうと、コーヒーがこぼれてしまうかもしれない。
「どうって……。口から体内に入れるに決まっているだろ? お尻から注入するのか、お前は?」
「いや、そういうこと言っているんじゃなくてさあ……。いきなりかき混ぜると、こぼれちゃうかもしれないじゃん、こぼさずきれいに飲むにはどうしたらいいのかって聞いてるわけ」
「かき混ぜないで、カップに口をつけて飲んで、かさを少し減らしてから、かき混ぜるんだよ」
「あ、そういうことね。クリームがちょっと口につくな」
「そんなもん、後でふけばいいだろ」
 コーヒーはほどほどにして、運ばれてきたトーストを齧る。付け合わせの小倉あんをパンに塗る。結城本人も名古屋ではトーストにバターないしマーガリンと小倉あんを塗って食べるというのは知ってはいたが、美味しいのかどうか少し疑問だった。
 夜行の高速バスで現地に着いた時、朝食を食べるために入ったチェーン店の喫茶店で、初めてトーストに小倉あんを塗って食べたが、結城個人の感想では
(ああ、アリかもしれないな)
 と思った。甘過ぎるのではないかと思ったが、そうでもない。ほど良い甘さに抑えられている。
「まあ、なんだ。もし口に合わなかったら、ナイルの分までオレが食べてやるから」
「いや、いいよ。食べるよ」
 もしゃもしゃとトーストを齧っていたナイルだったが……。
「あ、普通にアリだね。変な味とか甘すぎるとか、そういうのは一切ないね」
「そうだろ? 驚きだよな」
 それにしても、最初にトーストにバターとあんこを塗るなどということを考えたのは一体どこの誰なのだろうか? 名古屋かあるいはその周辺部が発祥地なのだろうが……。この意外な組み合わせを考案した人物には敬意を表さないわけにはいかないな、と結城は思った。
 トーストを食べて終えたのだが、小倉あんはまだ少し残っていた。残してもいいのだが、何となくもったいない気もした結城は、残っていた小倉あんをそのまま口に運んだ。単独で食べても甘すぎることはなかったが、その後カフェオレを飲んで、口の中の甘さを中和すると、実に具合が良かった。偶然だったのか、それとも商品開発の時に甘さと苦さを計算し尽くしたものを客に提供しているのかは分かりかねたが。
 結城はカフェオレを飲みながら、持参した本を読んでいた。この日、学校の授業は午後だけなので、急いで家に戻る必要がなかったからだ。本なら家でも読めるのだが、どういうわけか喫茶店だと、読書に集中できる……ような気がする。
 どのくらい時間が経ったのかは分からないが、マグカップに入っていたカフェオレがぬるくなってしまっていた。ぬるくなったカフェオレを一気に飲み干すと、結城は
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
 と言い、勘定を済ませて店の外に出た。せっかく外出したのだ。家に帰るまでの間にあるスーパーで食材を買っておくことにした。
 買い物を済ませて、店の外に出ると
「ねえ、ご主人」
「どうした、ナイル?」
「なんか、雨降りそうだよ?」
「あ~……。そうだな、雨降ってもおかしくないな」
 結城が空を見上げると、そこには青空はなく、一面黒雲で覆われ、雷のような音も聞こえる。
「とりあえず、洗濯物は中に入れておくかな。雨が降ってきてずぶ濡れにされたんじゃあ、たまったもんじゃないし」
 そそくさと家に戻ると、洗濯物を中に取り込む。
 雨の中、出かけるのは億劫だが、かといって学校に行かないわけにはいかない。幸い雷鳴は聞こえるものの、まだ雨は降ってきてはいなかった。雨が降る前に学校に行ってしまうことにした。
「じゃあ、留守番頼む。ああ、昼御飯はさっき買ったやつ、電子レンジで温めて食えよ?」
「あ、うん。じゃあ、行ってらっしゃい」
 結城は愛用の鞄と傘を持って出ていった。

 終わり


 <最後に>
 
 くどいようですが、試す際はくれぐれも自己責任でお願いいたします。大事なことなので二度言いました。

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Last-modified: 2022-06-09 (木) 21:37:15
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