初めまして。けなもと申します。
初投稿なので良くwikiの利用法を良く分かっていなかったりします。
なのでおかしな点があれば、指摘頂けると幸いです。
バス停の前で、意味がないと分かっていても、この言葉だけは呟やかずにはいられない。
「アツイ」
もう六月も終わろうとしている。
気の早い性欲丸出しの下等生物、セミは街路樹にとまってミンミン鳴いている。いま鳴いてもメスはあまりいないというのに。そんなセミを哀れむほど俺もできていなかった。
生物の最終進化系、ポケモン。生物が進化の末に行きつくのはポケモンという生物。そのポケモンも多種多様で、魚類から進化した水タイプのポケモンや、さっきのセミなどの虫類から進化した虫タイプのポケモンや、特殊なものになると哺乳類から水タイプのポケモンに進化して川で暮らすようになったというのもいる。ちなみに人間は長年にわたる研究の結果、ポケモンとは別枠の生物の最終進化系とされている。今のところは。
俺が生まれる百年ほど前に人間並み、いやそれ以上の知能を備えたポケモンはどこからともなく現れた。
そこからだ、新たな世界の始まりは。
まずポケモンを研究する過程に生まれた副産物、モンスターボール。これによりポケモンと人間はより一層親しむようになった。
そして、謎のポケモン大増加。これに伴い元居た生物はポケモンが増えるたびにそれに比例するかのように減っていった。まぁ所詮知能の低い下等生物だが。
とにかく、今俺の住むこの世界はポケモンのおかげで平和でいながら退屈しないということだ。
めでたしめでたし。
という訳でもない。
ここはさすが人間、ろくでもない奴がやはり居た。ポケモンを利益のために利用したり、戦争に利用したり、十六つあるタイプの力を利用したり。そんな奴らに俺はまんまとはめられた。間抜けでしょうがない。
なんとか逃げて今の生活だが、いつ襲われるかわからない。勿論性的な意味の、襲われる、ではない。こちとら命もかかっている。
しかし国の支援が付いてるから心強いの何の。だけどその国も支援してるのは表だけで裏で何してるかわからんが。
「まったくこんな体にしやがって……俺がどれだけ苦労したと思ってるんだ。お、やっと来た」
バスのドアが開く。押し出された冷気が顔に掛かり気分は極楽。このバスが天のお迎えとも思えた。
バスが天のお迎えか……
マジで死にたくなってきた。でも死にたくないな。
自分の矛盾した考えを、馬鹿にするように鼻で笑った。
バスが停ったのはとある国立大学の前。
俺はこの大学に無償で通っている。勿論国からの支援で。
早速クーラーの効いた講義室に駆け込みリュックから大学ノートと筆箱を取り出す。俺の学部はポケモン学部。これを習っておかなければ俺の将来危ない。生死に関わる。……かもしれない。
なのに俺ときたらなんたるザマだ。まぁあの講師も悪いっちゃ悪いのだ。
プリンの歌声を聞いたら眠くなるというが、あの先生の講義もまったく同じようなもので、声帯がプリンと構造が同じなのではと疑問に思ってしまう。
今日一日の講義は眠ることで全回避した。
講義内容はアイツが聴いてるだろうからまたメモすることにした。
だから今は昼休み。コンビニで買った弁当を持ち込んで、中庭のベンチで黙々と食べる。
いつもなら誰かいる中庭も、過飽和状態の食堂に人が集中していて誰もいなかった。居るとすれば、ここに居着いたり探検しに来たポケモン達だけだ。
「ん? この唐揚げ弁当うめぇな……って誰だ?」
いきなり俺を貫くように放たれた殺気。その殺気を瞬時に辿り、殺気を放った張本人を見る。
そこに居たのは、
「見つけた」
この学校の制服を着た、ショートヘアの女だった。
そいつは告げる。
「コードネームディアブル。貴方を抹消します」
感情を込めず、最後はいやに機械的に。
俺は恐怖も緊張も、何も湧いてこなかった。ただ思ったのは。
ついに来たなこのろくでなし。
自分の周りで黒い渦が巻く。漆黒の渦は完全に俺を覆い尽くし、終いには姿も確認できなくなった。
少し時が経ち、俺を取り巻く闇が晴れる。
その闇の中心で漂うのは、
『やっほー姉さん仲良くしましょ……ってそんな雰囲気じゃないよね。僕はダークライ。さっさと闇に落ちて悪夢でもみて野垂れ死んでね』
黒衣を纏ったような姿をしたあんこくポケモン、ダークライだった。
俺がまだ幼い頃だ。俺はダークライというポケモンに取り憑かれた。滅多にないことだがゴーストタイプもポケモンは他の生き物にとり憑くことができるのだ。
ダークライというポケモンは、悪気がなくとも傍にいるだけで唸されるような悪夢を見せ付けるのだ。取り憑かれたら唸されるどころじゃ済まない。その上まだ幼くてまだ未熟だった俺の精神はパンクした。
その時ダークライはパンクした俺の精神に無理矢理割り込んで、もう一つの人格として居座るようになった。と同時に、俺の周りに居る人は皆悪夢を見るようになった。
だから俺は嫌われた。
だから俺は捨てられた。
そして施設へ送られた。
施設といっても、孤児を預かる施設ではない。ポケモンの力を人間に付与し強化人間を作るという研究施設だった。
俺はそこのモルモットとして暮らしていた。否、生かされていた。
そこでまともな暮らしができた訳ない。飯は三食ついて部屋もきれいだったけど、部屋には薄っぺらな布団以外なんにもないし何より実験が辛かった。
そしてそこで俺は知ってしまった。俺の中に入り込んだもうひとつの人格、ダークライと俺の人格を入れ替える方法と、ダークライの力を使う方法が。だから今は他人に悪夢を見せることはない。
そして、その方法を知ったおかげで俺は施設を脱走できたのだ。
ダークライの力の使い方。それは体の主導権をダークライに私、自分自身がダークライになることである。
その日、施設の研究員は外出していた所長を除いた全員が、体の一部が消滅した状態で虐殺された。
確か七歳の梅雨に入ったばかりの頃だっただろうか。
知能の高い生物の最終進化系、ポケモン。そんなポケモンの中で特に知能が高い個体はテレパシーを使って人間と会話を行う個体もいる。伝説に残っているポケモンはテレパシーが使えたために特別視され伝説に残った、という説もある。
この俺のもうひとつの人格、ダークライもテレパシーが使えた。
『あっけないね。これでおしまい? ただの人間を送ってくるなんて、施設の人も僕をなめたもんだね』
目の前に転がるは白目を向いて倒れる女。息はしていない。
『闇を使って無に帰さないだけ幸運だと思っといてね。って無に帰さなくても死んだら同じか。あはは』
無邪気でまだ幼さの残るあどけない声でダークライは言った。
正直俺は施設の人が嫌いなので死んだことに関しては何も思わなかった。
「エテルネル」
女の口が開いた。
瞬間、時が狂った。
「私のコードネームはエテルネル。与えられた力は、『時』」
女は生き返った。
「私に与えられた時は永遠。死んでも時は巻き戻る。
私に与えられた力は最強。貴方の時を無になるまで巻き戻す」
女の髪が青に染まった。
女が手を前に突き出す。
そこで、
目が覚めた。
なんという夢だ。俺にもうひとつの人格が存在し、それがダークライで俺はダークライに変身できてしかもそのおかげで何かどこかの組織に捕まり逃げて追いかけられている。
どこの主人公だ。俺に主人公フラグは立ったことがない。
細かい設定と俺の思考を除いて、講義を居眠りですっぽかす所までは事実だ。なんせ今はその居眠りから目が覚めた所だ。
しかし、その後から全てが俺の妄想だった。その後から全てが、複雑なストーリーが絡み合った、壮絶な夢だった。
一旦ここで区切ります。
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