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テンガン山の洞窟で

/テンガン山の洞窟で

Writer (*・ω・)


「えっ…?」


疲れきっていた私の耳に戸惑ったような声が響いてきた。

また…人間……?


「なんで…ラルトスがここに?」

ラルトス…私の事?
何故って?
自分勝手なあなたたちが私を捨てたのに?

『近寄るな』

そんな意味をこめて私はその人間を睨んだ。


「君…大丈夫?」
「来ないで!!」

喉が痛い。
でも、おかげで人間は足を止めた。

「大丈夫、恐くないよ。」

そう言って笑顔でゆっくりと近付いてくる。
私は知っている。この顔には裏があるのを……。

やめて……。
お願いだから来ないで…。


「どうしたの?なんでそんなに恐がってるの?」

もう嫌……もう死なせてよ…。


「大丈夫、君を傷つけたりしないから。
 前の人みたいな酷い事はしないよ。」
「っ………。」

どうして…?

私の能力(ちから)は初めて人間の気持ちを感じ取った。
目の前の人間は本当に私を心配してくれていた。


「おいで。」
「……。」

でも、私は首を横に振った。
『劣悪個体』と罵られ、暴力を振るった人間が重なって見えたから。

気が付くと私は頭を抱えて、泣き出していた。
人間は私に近付いてくる。


「嫌だ!来ないで!!」

今度は私の言葉を聞いても足を止めずに近付き、ゆっくりと私を抱き上げた。
私は咄嗟に人間の首を絞めて叫んだ。


「離して!!」
「っ…!?」

人間はさすがに驚いたみたいだけど、抵抗をしなかった。
今『ねんりき』も使って首を絞めれば目の前の人間は簡単に殺せると思う。

でも、私は決心がつかなかった。

この人間なら信用しても良いのかもしれない…。
でも…この人間を殺したら私はこのまま死ねる。

私は不確実な幸せに賭けるより、もう不幸になりたくなかった。

そう思って手に力を入れる。
でも、私はまた人間の気持ちが感じとれてしまった。
それは死ぬかもしれない恐怖でも、私を憎む気持ちでもなかった。

私が感じたのは私を助けようとする優しさだった。


「なんでなのよ…。」

私にこんな能力(ちから)が無かったらこんなに苦しまなかったのに……。

気が付くと私はまた泣いていた。

目の前の人間を信用したかった。
私も幸せに成りたかった。
この人間となら幸せになれる気がした。

私が人間の首から手を離すと、人間は腕に力をこめて呟いた。


「大丈夫、絶対助けるよ。」

私の体はとうに限界を迎えているのはわかってた。
でも、もう会えないかもしれないけど、意識を手放す前に一言だけ言いたかった。

「…ありがとう……。」

初めて感じた他人の暖かさに身を委ねて私は目を閉じた。



「ん……?」

私が目を覚ますと、また別な場所に居た。
とても明るくて綺麗な所だった。


「起きた?」
「誰っ!?」
「大丈夫。何もしないから。ね?リザ。」
「あぁ…。」

リザと呼ばれた人は頷いたけど、目は私を睨んでいた。
この人は私を良く思っていないのがすぐにわかった。

理由は考える前にわかった。

『グレーを殺すようなヤツを許せるかよ。』

そんな彼の気持ちを感じ取ったから。
『グレー』はたぶん人間の名前なのだと思う。


「ダメだよそんなに恐い顔しちゃ。」
「……。」

人間が彼の頭を撫でると、私を憎む気持ちがふっと緩んだ。


「そうだ。……お腹空いたでしょ?食べて良いよ。」

人間がどこからか甘い香りのする木のみを取り出した。

私は初めてまともな食べ物を見た気がした。
けれど私は食べるのを躊躇った。

人間の事が信頼出来なかったから。


「毒なんて入ってないよ?」
「ちっ…。」

隣で見ていた彼がきのみを半分に割り、片方をかじって見せた。


「ほら、さっさと食え。」

彼はそう言って私にもう半分を渡してくれた。
私はそれを受け取り、少しだけかじった。


「おいしい?」
「……。」


とても美味しかったけれど、私は答えられなかった。
色んな感情が私の中で浮き沈みを繰り返してまた泣き出してしまいそうになったから。


「大丈夫…?」

人間は心配そうな声で言い、私を撫でた。
咄嗟に振り払おうとしたけど思い止まった。

この人間はあの人間とは違うんだと自分に言い聞かせて。

私が小さく頷いたのを見て、人間は笑顔になった。


「お風呂どうしよっか。
 誰もいない方が良いもんね。」


人間はそう呟いて腕についている何かを見る。
もう一度私を撫でてから人間は何処かに言った。


「…おい。」
「! …はい……。」

リザさんが私に話しかけて来た。
−−−私を守ってくれる人間がいなくなるのを待っていたのかもしれない。
そんな考えが思い浮かび、俯いてしまう。


「ちっ、そんなに畏まるんじゃねえよ。何もしねえからさ。」
「………。」
「大丈夫だって、最初はムカついてたけどもう落ち着いたし。」
「ごめんなさい…。」
「ったく、やられた本人が気にしてないのに俺がどうこう出来る立場じゃねえよ。おら、顔上げろ。」

私の頭を掴み、ぐいっと顔を上げさせられた。
リザさんは私を見ていて、顔を上げた私と目が合う。
急にリザさんは私から手を離し、顔を後ろに下げた。


「…悪ぃ…。」
「え…?」
「いや、お前女だったのか……男だと思って強く言っちまった。…すまん。」

リザさんは申し訳なさそうに頭を下げた。
頭を下げる経験は数え切れない程したけれど、頭を下げさせた事なんて一度もない私は戸惑ってしまった。


「い、いや…あの……私は大丈夫ですから…。」

私がそう言うとリザさんはもう一度謝ってから顔を上げて真面目な顔で言った。


「あと…嫌なら言わなくて良いが…何があったか教えてくれないか?」
「っ…それは……。」

私は答えるのを躊躇った。どれも他の人には教えたくない事ばかりだったから。
だけど…リザさんになら言ってもいい気がした。

あの時の事は思い出したくないけれど、私は一生忘れる事は出来ないだろう。
でも…リザさんに言ったら何かが変わると思った。

だから私は途切れ途切れに言葉を紡ぎ、あの人間の事を話した。


「…それでも私は……『幸せ』になりたくて…私でもいつかは幸せになれるんじゃないかなって……。」

気がつくと私はまた泣きじゃくっていた。
リザさんは私の手を握って黙って聞いてくれていた。


「……そうか。ごめんな、辛い事思い出させて。」
「………。」

私が泣いてるのはリザさんのせいじゃない。
そう伝えたくて私は首を横に振った。


「…お前はこれからどうしたいんだ?」
「どう、って…?」
「グレー…いや、あの人間はたぶんお前の怪我が治ったら暖かい森に逃がさせてくれるはずだ。
おそらく人が来ないような所にな。
でも、アイツはたぶんお前の思ってる人間とは違う。幸せかはわからないが、俺達と居れば不自由は無いだろう。」

何となくリザさんの言いたい事がわかった気がする。


「つまり…あの人間と一緒に…?」
「あぁ。…もちろんどうするかはお前の自由だ。」

私はどうすれば良いのかわからなかった。

あの人間を信用したいとは思ってる。
けれど、あんなに酷い事をした私と一緒にいてくれるかわからなかった。
それに…心のどこかでは私を憎んでいるかもしれない。

それがとても恐かった。


「ま、今すぐに決める必要は無いさ。明日の朝までに決めれば間に合うと思うぞ。」
「明日…ですか……。」

私は黙ってしばらく考えて、ふと疑問に思った事があった。
私はそれを聞こうとしてリザさんに声をかけた。


「リザさ…ん……。」

リザさんは壁を背もたれにして眠っていた。
よく見ると体が少し汚れていて、浅いけれど少なくない傷痕があった。
思わず私は息を飲んだ。

……あの人間もやっぱり同じなのかもしれない。

『アイツはたぶんお前の思ってる人間とは違う。』
リザさんはそう言ったけれど、真新しいその傷がさっきまで固めていたはずの決意を揺らがせた。

もしかしたら…彼は私を身代わりにしようとしているのかもしれない。
なら…はやくここから逃げないと……。


私が扉に近づくと、ガチャリと音がして扉が開いた。
顔を出したのはあの人間だった。


「あれ?どうしたの?」


人間は私と同じ高さになるようにしゃがみ、私の顔を見た。
人間を攻撃しようとしたけれど、後ろに複数の人間が居るのが見えた。
私はとっさに思い止まり、俯いた。
あの時みたいにいつか逃げ出せる機会が来る。

私はそう自分に言い聞かせて、人間の言葉に答えるために首を横に振った。
人間は「そっか。」と呟いてリザさんに近付き、彼の体を揺らした。


「起きてリザ。お風呂行くよ。」
「ん…。」
「リザ、お風呂行くよ。」
「……おう。」
「ラルトスも体を綺麗にしに行こうよ。」
「……。」

私は答えなかった。
せっかく逃げられるかもしれないのに、わざわざその機会を逃したくなかった。

人間は何も言わなかったけれど、リザさんが近付いてきた。
思わず体が強張ってしまう。


「行かないのか?」
「……リザさんのその傷ってなんですか?」
「は?傷?」

私の脈絡の無い問い掛けにリザさんは戸惑っていたけれど、自分の体を見て「あぁ。」と頷いた。


「これか?俺達に向かって攻撃してきた奴らを追っ払った時に付いた傷さ。」
「なんでリザさんが攻撃されるんですか?」
「そりゃあ…自分が住んでる場所に他の生き物がいたら追い出すだろ。人付きなら特に。」
「人付き?」
「あー…人間と一緒にいる奴の事だ。
 …ってか心配してくれたのか?」

リザさんは少しだけからかうように笑っていて、私は何故か少し恥ずかしくなって顔を背けた。


「違います……。」
「クックッ…そうか。まあいい、行くぞ。」

リザさんは私の手を引き、有無を言わせずに人間の元に向かう。

さっきまでは恐かったはずなのに、今は手を握られて安心している私がいるのに戸惑っていた。



「じゃあ…二人ともおやすみ。」
「ああ。」
「……。」


結局、私は何かをされるでもなかった。

よくわからないけれど、体を綺麗にしてもらったのだけはわかる。
『清潔』に馴れていない私には何か違和感があったけど、とても気持ちが良いと感じた。

私はさっきまで寝ていたベッドとかいう物に座っているのに、リザさんは床に仰向けに寝転がっていて、尻尾を砂を敷き詰めた物の上にのせていた。


「リザさん。」
「どうした?」
「なんでそんな所に?」
「なんでって…何がだ?」
「あの…リザさんが床で寝ているのに私がここで寝るのは申し訳ない気がして……。」


あの人間が寝るはずの場所に、リザさんどころか私が寝て良いのかわからなかった。


「クックッ…そんなことか。気にする必要はねえよ。」

リザさんは全く気にしていないように笑って、体を少し起こしました。


「それとも一人じゃ寝れないか?」

私は恥ずかしくなってリザさんから顔を背けた。


「っ…そんなんじゃありません…。」
「ははっ…冗談だ。
 そういえば…お前が明日どうするかは知らないが、後悔しないようにしろよ?」
「……はい…。」

私はリザさんの言葉を聞きながら、さっきの事を思い出していた。

私の体を洗ってくれたあの人間は、私の体の傷を見て本当に悲しそうな顔をして……いや、顔だけじゃなく本当に悲しんでいたのが伝わってきていた。

私の体には最初の人間から受けた打撲の痕や、凍傷が全身にある。
体の傷はもうあまり痛まなかったけど、一生残る傷があるのも何となくわかった。

そんな傷だらけの私を見て心から悲しんでくれたあの人間や、こんな私に普通に接してくれたリザさんみたいな人は、もう二度と私の前に現れない気がした。


「じゃ、俺は寝るから何かあったら起こして良いぞ。」
「はい…おやすみなさい、リザさん。」
「おう。」

リザさんが寝たのを見たあと、私も横になり、目をつぶった。



「お……ろ……起きろ。」

肩を軽く叩かれ、私は目を覚ました。


「ん……。」
「目、覚めたか?」
「あ…リザさん……おはよう…ございます。」
「おう。グレーがそろそろ飯だとさ。」
「グレーって……。」
「あぁ、あの人間の名前な。」

やっぱりあの人間の名前は『グレー』と言うらしい。
私は、ふと疑問に思った事があった。


「リザさんは…名前が『リザ』なんですよね?」
「ん、まあ…名前ってか愛称かな。お前も俺の種族が気になるのか?」
「え、ええ……。」
「んー…まぁ確かにこの辺りじゃ珍しいっぽいからな。
 俺の種族はリザードだ。……だから愛称が『リザ』になったんだけどな。」

リザさんは続けて「アイツ、考えが安直だろ」と笑った。
安直でも、それは人間がリザさんに親しみをこめて決めた愛称だと思う。

私は少し…リザさんが羨ましく感じた。


「リザー、ラルトスー、入るよー。」
「お、戻って来たみたいだな。」

扉が開き、人間が袋を持って入って来た。

小さなテーブル…といっても私の背丈程あるけれど、その上に幾つかのきのみが置かれた。
初めて見るきのみもあったけど、どれも美味しそうだった。


「じゃ、食うか。」
「……いただきます…。」

私はその中で一番小さな実を食べると、舌がヒリヒリとして違和感を感じた。


「辛い…。」
「クラボはそんなに辛くないはずだが……辛いの苦手か?」

リザさんの方を見ると、リザさんは何となく本能的に危険な気がする実を少しずつ食べていた。
赤くて、ところどころに棘のような突起のついた実だった。


「……どうした?」
「それ…辛くないんですか?」
「すげえ辛いぞ?食ってみるか?」

私は出来るかぎり力強く首を横に振った。
リザさんには悪いけど…そんな物を食べたら舌がおかしくなる気がする。


「良かった、元気になったみたいだね。」
「っ…。」

そんな声が聞こえて、私は少し体が強張った。
目を向けると、人間は嬉しそうに笑っていた。

この人間……いや、グレーさんは優しい人間なんだと思う。
それは頭ではわかっているつもりなのに、私はやっぱり人間が恐かった。


「ははは…やっぱりまだ僕は恐いか……。」

グレーさんは苦笑いをしながら頬を掻いた。
私は何も言えずに俯いてしまった。


「グレー、今日はどうすんだ?」

リザさんは私のせいで気まずい空気になっていたのを助けてくれた。

その時、さりげなく私の背中を叩いてくれた。
些細な事だけれど、私にはそれが嬉しかった。


「どうしたのリザ?」
「コレだよ、コレ。」

そう言ってリザさんは机に置いてあったものを指先で突いた。


「手帳?…ああ、今日は何もないよ。夕方には帰るから、それまでにミオシティに行かなきゃいけないんだけど…。」
「ミオシティ?」
「あぁ…あのね、海が時化(シケ)てるからキッサキからじゃ船が出せないんだって……。」
「……どうすんだよ?」
「空を飛べるポケモンもいないし……テンガン山を越えるしかないかも…。」
「…………はぁ…。」

私には会話の内容がさっぱりわからなかったけど、リザさんとグレーさんが落ち込んでるのはわかった。

何となく聞きづらい雰囲気を感じて、私はリザさんに何も聞かなかった。



私達が食べ終えるのを見ると、グレーさんは何やら準備を始めた。


「あ、ラルトス。もし良かったらこれ着なよ。」
「……?」


私が渡されたのは人間が着ているような物だった。

私は何故渡されたのかわからず、グレーさんを見た。
グレーさんは言いにくそうに私に言った。


「ラルトスが良いなら良いんだけど……その…ほら、傷痕とかさ…。」


私は自分の体を見た。

怪我は良くなったけれど、私の体にはまだ痛々しい傷痕が残っている。
これだと周りの人や人間の目についてしまうのは、今までの経験でわかる。
グレーさんはそんな所にまで気遣ってくれていたらしい。


「ありがとう…ございます……。」

私は頭を下げ、それに袖を通した。


「あったかい……。」
「良かった…ちょっと大きいけど大丈夫みたいだね。」

グレーさんは安心したように息を吐いた。

着ていると少し違和感があるけれど、クラボを食べた時のような嫌な違和感じゃなくて…馴れてないから感じる違和感なんだと思う。


「ほらリザ、ボール。」
「……。」
「あれ?入らないの?」
「別にいい。」
「……あ、そっか。じゃあよろしくね、リザ。」

リザさん達は何かやり取りをした後、グレーさんがリュックを背負って言った。


「じゃ、行こうか。」
「よし。……ほら、行くぞ。」

私はリザさん達に連れられるままに部屋の外に出て、廊下をしばらく歩くとまた小さな部屋に入った。

扉が閉まってしばらくすると、急に体がむず痒くなるような感覚に教われた。


「大丈夫か?」
「あ…はい…。何か変な感じがして……。」
「まぁ最初はそうなるだろうな。」
「?」


私が意味を聞こうとすると、どこからか音が鳴って扉が開いた。

私は目を疑った。
乗った時と今では外の景色が全く変わっている…。


「どうした?早く来いよ。」
「……はい…。」

私は『リザさんが驚いていないのだから不思議な事じゃないんだ』と自分に言い聞かせて小さな部屋から出た。


「ねえ、パパ。あれなんてポケモン?」


私ははっとして声のした方を見てしまった( ・ ・ ・ ・ ・ ・)
小さい方…おそらく子供の人間は私を指さしている。


「あれか…たしかラルトスだったかな。」
「へえー…あ、こっち見てる。」

小さい人間が笑って私に近づいて来る。
私にはその顔がとても不気味に見えた。

私に対して『好奇心』を見せているような笑顔だった。

私は恐怖で体が動かなくなっていた。
眩暈がして、すぐにでも叫び声を上げそうになる。


「オイ。」

気がつくと、私を庇うようにリザさんが立っていた。
いつもより鋭い目は小さい人間を睨みつけている。


「おっと…ほら、危ないからやめなさい。」

大きい方の人間が急いで小さい人間を引っ張った。


「リザードは近づいちゃ危ないから行くよ。」
「……はーい…。」

人間達は私達の方をチラチラと見ながらどこかへと行った。


「……ちっ、種族なんかで性格が決まるかよ。」

リザさんは口調は荒かったけれど、少しだけ……本当に少しだけ悔しそうに言った。

昔、リザさんにも何かがあったのかもしれない。
そんな気がした。


「リザ、ラルトス。待たせちゃってごめんね。」
「…グレー。」
「どうしたのリザ?…僕が何かしちゃった?」

リザさんは俯いて首を横に振った。


「そう…なら良いけど…。」

グレーさんは腑に落ちない顔をしていたけど、すぐに元の顔に戻って言った。


「じゃ、出発しようか。」



外に出ると、凍てつくような風が顔に当たる。


「やっぱり外は寒いね……。」
「ラルトス、大丈夫か?」
「はい。」

グレーさんが渡してくれたこれは、風をほとんど通さないで、暖かさを感じた。


「セーターにして正解だったみたいだね。」
「グレーさん……ありがとうございます。」

グレーさんに頭を下げたあと……ぎこちないのは自分でもわかったけど、それでも初めて私は人間に笑い顔を向けられた気がした。

グレーさんは少し驚いたような顔をしていたけれど、すぐに笑い返してくれた。


「じゃ、ラルトス。リザ。行くよ。」
「ほら、逸れんなよ?」
「…はいっ。」

私はリザさんに並んで歩いた。
町を抜けると、積もっている雪が深くなった。
少し遅れ気味にリザさんの後ろを歩いていると、リザさんは私の方を振り返って手を差し延べてくれた。


「遅れると危ねえぞ。」
「あ…でも……。」

けれど、私はなぜか恥ずかしさを感じて差し出された手を掴まなかった。


「……?」
「い、いえ…大丈夫ですから……。」
「なら良いが……。」
「あれ…?グレーさんは……?」
「っ……!?」

突然だった。

晴れていた空がふぶきはじめ、私達の少し前を歩いていたはずのグレーさんは見えなくなった。


「ちっ…嵌められた……。」

そう呟いたリザさんの顔はいつもより険しかった。
自分と近く木の間に私を隠すように立ってふぶいている景色を睨みつけていた。


「……っ!」

バチイッ!

リザさんが咄嗟に出した左手が何かを弾いた音だった。
思わず閉じてしまった目を開けると、リザさんの拳ぐらいの大きさの氷が落ちていた。


「つぶて…か……。」

リザさんはそう言って左手を摩り、氷が飛んできた方を睨んだ。
大きな影が私達にゆっくり近付いて来るのが見える。


「…ユキノオーだな。」
「お前ら人付きだよな?」
「…だったら?」
「死体になって俺の縄張り争いに一枚噛んでもらうぞ。」
「はっ、そんなのは相性を考えてからほざけ。」
「別にお前じゃなくて良いんだぜ?…後ろのそいつでもな。」
「……クズ野郎が…。」

リザさんはチラリと私を見て私に言った。


「俺から離れんなよ。」
「……はいっ。」
「そっちは動けねえだろう?お荷物があっちゃな…?」

そういってユキノオーは怪しく笑い、大きな腕を私達に向かって振り下ろした。


「ぐっ……!」

リザさんが避けずに左腕で流したのは…私の足が竦んで動けなかったからだった。


「……っ…の野郎!!」

リザさんが火を吐くと相手は飛びのいた。


「ちっ…一撃で倒れないのかよ。」
「オラァ!!」

リザさんのはいた炎は渦になってユキノオーを取り囲んだ。


「うっ…くそっ……熱っ!」
「ラルトス!早く行くぞ!」

リザさんは私の左手を掴み、ここから離れるために走り出した。


「グレー!どこだ!?」
「!!……リザさん!こっちです!」
「あっ!おい!?」

私はリザさんを引っ張り、私たちを心配している『気持ち』が感じられる方にただひたすら走った。


「ラルトスー!リザー!」
「グレー!?」

私達がグレーさんを呼ぶと、グレーさんは私達に気付いた。


「ラルトス!リザ!……良かった…無事だったんだね……。」

私たちがグレーさんの所まで行くと、グレーさんは膝をついて私達を抱きしめた。
少し気恥ずかしかったけれど、こんなに心配をしていてくれたのが嬉しかった。


「……グレー、はやく離せ。」
「リザ、どうしたの?」
「ったく、めんどくせえ…。いつまでも俺にくっつくいてんじゃねえ。」
「いてっ!」
「!?」

軽くとはいえ、リザさんがグレーさんを小突いた事が私には信じられなかった。

ポケモンの私達は人間の奴隷だと、ずっとそう思っていた。

人間が私達に手をあげても、私達は決して人間には手を出してはいけないと言われたから。
なのにグレーさんからは怒りの感情を少しも感じ取れなかった。


「痛いなぁもう。」
「手加減してるんだから痛いはずねえだろ…ってか俺にベタベタ触れる癖を治せ。」
「……よくわからないや。ごめんリザ。」
「ったく…こういう時に限って俺の言いたい事がわからねえとか不便だよな。」

リザさんは不満そうに顔をしかめ、グレーさんはそんなリザさんの頭を撫でてから立ち上がった。


「あっ……。」
「……またアイツか。」

リザさん達の視線の先には少し前に見たユキノオーがいた。
怒りの感情を感じて私は少し身震いをする。


「リザ、どうする?」
「…やるしかねえだろ。」
「…わかった。でも、殺したらダメだよ?」
「アイツは全力でやっても死なねえよ。」

グレーさんは私の体を持ち上げ、リザさんから少し離れた。


「ほら、かかってこいよ。」
「クソ野郎が……!」

リザさんは彼に指を立てると、彼の怒りの感情が強くなった。
私は思わず自分の手を握りしめる。

目を逸らしたらいけないような気がした。


「くたばれ!!」
「ったく…またそれか。もっと考えれば良いのによ。」


リザさんは氷の塊を弾き、さっきとは違う直線的な炎を横薙ぎにはいた。
炎は彼の右手から左手にかけて当たり、左右の手が燃え始めた。


「うあっ!?熱っ…熱い!!」
「はやく雪で冷やせよ。馬鹿だな。」

彼は下の積雪に腕を突き入れ、リザさんを睨んだ。
彼にはもう闘争心が無いように感じた。


「まだやるか?お前の両腕が無くなるかもしんねーけど。」
「クソ…いずれブッ殺してやる……!」

彼は焦げた腕に雪を抱えて去って行った。


「あいにくだな。もう俺はここに来ねえよ。」

リザさんはたしかにあの人に危害を加えた。
だけど私はリザさんを恐いと感じなかったし、あの人も悔しがり、怒ってはいたけれど恐怖心は無かった。
あんなにも酷い目にあわされたのに……?


「ラルトス、何やってんだ?行くぞ。」
「えっ…あ、はい。」

リザさんに呼ばれ、私ははっとした。

私は逸れないようにリザさんとグレーさんに並んで歩く。
今までの私なら人に暴力を振るったリザさんが恐くなっているはずなのに、そうは思わなかった自分が不思議だった。



「おい、ラルトス。大丈夫か?」
「えっ?」

リザさんに呼ばれ、気がつくと私達は洞窟の前に立っていた。

この洞窟……。


「気がついた?昨日、僕が君と初めて会った洞窟だよ。」

グレーさんは私に笑いかけてくれていたけれど、私は少し恐かった。
寒さを凌ぐために来たのに縄張りを荒らしに来たと思われて攻撃され、私はひたすら逃げ惑い、疲れ果てて死のうとした場所なのだから。

「さ、二人とも行こう。」
「だな。」



「あっ……。」

洞窟をうっすらと先に見えるのは私が疲れ果てて死ぬのを覚悟した…グレーさんに出会ったあの場所だった。
霧の中でも岩に染みついている血の跡ははっきりとわかった。

…もうここまで来たんだ……。
昨日は必死に洞窟の中を逃げて、体が動かなくなるまで走ったのに…昨日が嘘のような状況で私は同じ場所にいた。
今の私は…あの時の私より幸せだと思った。あの時に羨んでいたような世界に私は身を置いていた。
はっとして私は霧の向こうにいるリザさんを追いかけた。



「もう少し歩いたら休憩しよっか。この先に湖があるから。」
「そんなにのんびりして大丈夫かよ…。」


リザさんの心配は聞こえなかったらしい。
私達は湖のほとりで腰を下ろした。




「あったかい…。」
「あんまり近づくと燃えるぞ?」

リザさんの尻尾の炎にあたっているとリザさんは呆れたように笑った。
グレーさんはそんな私達を見て言った。


「二人とも仲良いね。」
「…うるせえよ。」
「そんな怒った顔しなくても良いでしょ?悪い事じゃないんだしさ。」

リザさんは不機嫌なフリをして、グレーさんはそれを見て笑う。
私には二人の方がよっぽど仲が良いように見えた。


「さっ、そろそろ行こうか。」
「おし。」

少し早いお昼を食べた後、私達はまた歩きだした。

私達は洞窟を抜ける間、当然たくさんの人に会った。
殆どの人はリザさんを見て逃げ出したけれど、中には立ち向かってくる人もいた。
そんな人達はリザさんに重傷でない程度の怪我を負わされたけれど、立ち向かってきた人達全員、リザさんを恐がったりしていなかった。
…私の感覚は普通じゃないかもしれない……。




「ようやく出口か…。」
「お疲れ様、ありがとうリザ。」
「大したことはしてねーよ。」

そんな口ぶりをしてもリザさんは嬉しそうにみえた。



「あれがハクタイシティ……だね。」

洞窟を抜けた私達は大きな像の前を歩いていた。
少し先にたくさんの人間とちょっとの人が行き交っているのが見える。


「リザ、ラルトス…ちょっとだけ待っててもらって良いかな?」
「なんだよ?」
「?」
「ちょっと気になる所があったんだよね…。それと、自転車が借りれるみたいだから借りたいんだ。
時間はまだあるしさ、自転車があれば早く着くじゃない。…いいかな?」
「嫌って言ってもわからねえだろ……ま、それぐらいは別に良いけどよ。」
「私も別に……。」

そもそも私が何か言えるような立場じゃないと思うけど……。
そう思って私が頷くと、それでもグレーさんは「良かった」と少し嬉しそうだった。


「いらっしゃい…あら、見ない顔だねえ。」
「はじめまして……」
「あれ…?」
「薬草クセエな…。」

グレーさんが入った所は普通の家のようだった。
グレーさんは中に入ってすぐに奥にいた人間と何やら話しはじめた。

私が知っている『家』と違うのは、ツンとくる変な臭いがあることぐらい。
その臭いをリザさんが『やくそう』と言ったけれど、私には何のことかわからなかった。


「リザさん、『やくそう』って…?」

私がそう聞くと、リザさんは何故かとても驚いたような顔をして、そのあとに頷いた。


「そうか…お前は最初から野生じゃなかったんだったな。
薬草ってのはあれだ、薬になる植物の事だ。」
「そうなんですか…。」

リザさんの言葉は、少し私の気持ちを沈ませた。
『最初から野生だったなら知っていて当然』だと、そんな意味に聞こえてしまったから。


「何でそんな元気ねえんだ?」
「いえ……。」

なんで私はこんなに悪く考えるんだろう……。
もっと明るくなりたいな…。


「お…ほら、コレとかは傷に効くんだ。食えば疲れがとれるが……苦くて食えたもんじゃねえ。
 一回間違って食ったけどすぐに吐き出したな。」

リザさんは急に、懐かしそうに話しながら私に薬草の説明をしてくれた。
もしかして…元気付けようとしてくれてる……?


「コレは…かなり珍しいヤツじゃないか?
 傷だらけになって死にかけてもコレを食えば治るって聞いたことあるな。」
「……詳しいんですね。」
「まぁ、野生ん時は傷だらけなんてしょっちゅうだったしな。
 まぁ、別に俺が喧嘩っ早いだけで普通はそんなこと無いけどな。」

リザさんが喧嘩っ早いなんて思えないけど…。
リザさんの昔が気になった私はそれを聞こうと口を開こうとした時――


「ごめんね、待たせちゃって。行こっか。」
「………なんでそんなに買ってるんだよ…。」

グレーさんが袋を持って戻ってきた。
聞くタイミングを逃した私は仕方なく口を閉じた。



「じゃ、ミオの店で返してくれれば良いから。」
「はい、ありがとうございます。」
「いやいや、お客さんが礼言ってどうすんの。こっちこそありがとな。」

私は今、一人だった。
理由は人間がリザさんを恐がったから。
薬草を売っていたお店の人は何も言わなかったけれど、外に出ると周りの目が私達に向けられた。皆、リザさんを見て驚いていたようだった。


「ラルトス、行こうよ。」
「………。」

結局、リザさんは「いつもの事だ」と笑い、ボールに戻った。
笑ってはいたけど…どこか諦めたような響きがあった。


「ラルトス?おーい。」
「…えっ?」
「あ、気付いた。」

グレーさんは少し笑って私を『自転車』という物のカゴに入れた。
グレーさん自身が『自転車』に跨がると、『自転車』は動き出した。



妖しい雰囲気の暗い森を抜けると、先に見えたのは花畑だった。

「綺麗……。」
「すごいね…ソノオタウン―花の町かぁ。」

その花畑の中心に、きのみが生えている木があった。
その木は一つの家を囲んでいて、人間が育てているように見える。

「あれ…花屋かな?ラルトス、行ってみる?」
「えっ?」
「気になってるんじゃないかなって思ってさ、あのお店が。」

気になって……るのかも。
でも、私は首を横に振った。
グレーさん以外の人間には会いたくなかったし、洞窟の中で興味本位に行動したら酷い目にあった事があるから。

「そう?やっぱり君の気持ちはまだわかってないんだなぁ……。」


グレーさんは私の頭を撫でて小さくため息をついた。

私は…グレーさんは私の気持ちをわかってると思う。
この『セーター』も、私が人目に付きたくないんだとわかってるから私にくれたのだから。

「そんなこと…ない……です。」

私の声が小さかったのか、そう言ったはずの言葉は風の音に掻き消されて何も聞こえなかった。



自転車が止まった場所に立て札が見えた。

203番道路


なんて読むのかは分からないけど、ここが『あの場所』なのかもしれない。
私がそう思っていると、グレーさんは口を開いた。

「ラルトス、ここが君の仲間が住んでる場所だよ。」
「………。」
「君は自由だよ。もう人を恐がる必要なんてない。」

私にはここに住んでいる人の声が聞こえていた。
―また、『人付き』のヤツか。
―人間に従った人なんて気持ち悪くて仕方ないわ。

―野生から逃げて人間に従ったクセにその人間からも捨てられるとかおもしれえよな。
―良いじゃん、また楽しみが増えるって事だろ?
―質悪いなお前……。

私はこの場所に『あの人間』と同じような何かを感じた。

「ここは暖かいし、食べ物にも困らないよ。
 頑張ってね、ラルトス。」

私は何も答えなかった。
自由……何よりも欲しかったそれは、今の私にとって大したものじゃない気がした。

―それでも私は……『幸せ』になりたくて…私でもいつかは幸せになれるんじゃないかなって……。

私は自由になれれば幸せになれると、そう思ってた。
私が本当に欲しかったのは、他人の温もりだったのかもしれない。


「ラルトス?大丈夫?」

グレーさんはしゃがんで、私の顔を覗き込む。
私は少しだけ、この人間(ひと)の目を見た。


―お前はこれからどうしたいんだ?
―アイツはたぶんお前の思ってる人間とは違う。

そう言ってくれたリザさんの目に似て、とても優しかった。

この人達となら…幸せになれるのかもしれない…。
なのに…もう会えないと思うと……悲しくなって涙が出てくる。


「なんで泣いてるの?もう恐がる必要は無いんだよ?」
「……嫌…。」

わがままかもしれない。けど、私はこの人間(ひと)と……リザさんと一緒に居たかった。
言葉が伝わらないから、私はグレーさんの足にしがみついた。


「……一緒に来たいの…?」
「……。」

私は頷いた。
グレーさんは少し戸惑って、私にこう言った。

「僕達と一緒にいると他の人、僕以外の人とも関わらなきゃいけない事になるかもしれないけど……それでも大丈夫?」

……それは…。

私は手を離してグレーさんを見る。
グレーさんははっとしたように言葉を付け足した。

「もちろん酷い事をするような人とは関わらないよ。
 僕の友達とか、怪我を治してくれるお医者さんだけ。」

私は少し安心して、頷いた。
グレーさんはそれを見ると笑って頷いてくれた。


「……そっか、わかった。
 これからもよろしくね、ラルトス。」
「…はいっ!」



「…はい、だからこのラルトスは僕が責任を持ちます。」
「わかりました。少々お待ちください。」
「………。」

私は『ポケモンセンター』に来ていた。
私達の事のほとんどはココでしてくれるらしい。
いかにも『優しそうな感じ』を出している人間はやっぱり気味が悪かった。

「では、こちらの書類に必要事項を御記入ください。」
「はい。
 ………えっと、この『虐待の疑いがみられる箇所』というのは…。」
「そちらは昨日検査をしたとの事ですので結構ですよ。」
「そうですか……はい、終わりました。」
「……確かにお預かりします。椅子におかけになってお待ちください。」
「はい。」


私はグレーさんの膝から降りて、少し視線を感じながら入口近くの椅子に座った。
グレーさんが近くにいても、多くの人間に見られるのはやっぱり苦しい…。


「リザ、出ておいで。」
「リザさん…?」
「よっ。やっぱり一緒に来るのか。」

ふっと、心が少しだけ軽くなった気がした。

「あの…これからよろしくお願いします。」
「だから堅っ苦しいっての。もっと気楽になれよ。」
「……頑張ります。」
「ククッ…頑張るようなモンじゃねえよ。」

リザさんは笑って私の隣に座った。


「これからずっと一緒なのにそんな堅いと疲れてブッ倒れんぞ?」
「それはさすがに……。」
「あ、呼ばれたみたいだからちょっと行ってくるね。」
「あ…はい。」
「俺達は良いのか?」
「ん…来たいの?来てもつまらないよ?」
「ならいい。」

リザさんが首を振ると、グレーさんはまたさっきの所に歩いていった。


「はぁ…今回はなんかスゲー疲れたな……。」
「今回?」
「ん?昨日言わなかったか?俺らはここから離れたトコに住んでんだ。ま、アイツの都合で色んな場所に行くんだけどな。」
「……言ってませんよ。」
「そうだったか?
 まぁ、だから『今回』っつったんだ。」
「どうやって帰るんですか?」
「船だよ船。人間が考えた便利なモンに乗って帰るのさ。」
「へぇ……。」

会話が途切れて、私は辺りを見回した。
人間と仲良く遊んでいる人や人間から怪我の手当てをしてもらった人……それに人間に対してずっとそっぽを向いてる人もいた。
でも、そのそっぽを向いてる人も人間を恐がっているようには見えなかった。

「待たせてごめんね。リザ、ラルトス。」
「やっと来たか。」
「グレーさん。」

グレーさんの手には赤く、見覚えのある物があった。
……『モンスターボール』だ。


「っ……!」
「ラルトス…?」
「何をそんなにビビってんだ……ってそうか。」

私は少しだけあの事を思い出していた。
私がいくら遠くに逃げても、あの赤い光が私を『あの人間』の元に戻した。あの光のせいで私は逃げ出す事ができなかった。
それをわかっていて『あの人間』は、私が逃げられそうな場所で暴力を振るっていたんだろう。


「……気持ちはわからなくもないが…俺達と行くには我慢するしかないぞ……?」
「大丈夫…です。恐いですけど、決まり事なんですよね。頑張ります。」
「…強いじゃねえか。お前。」

リザさんは歯を見せて笑い、グレーさんの手からボールを奪った。

「リザ?」
「ほら、自分で好きな時に入れよ。」
「…はい。」

私の気持ちはもう固まっていた。
ボールに手を伸ばして強く握ると、あの赤い光が私を包み込んだ。




ピカッと私の目の前が明るくなった。
いつの間にか閉じていた目を開くと、さっきと変わらない景色が見えた。


「これからは『家族』として、よろしくね。」
「グレーさん…。」
「よく頑張った。……躊躇いすらしなかったな。」
「リザさん……。」

リザさんにクシャッと頭をなでられた。
少しだけ恥ずかしかったけど、私は嬉しかった。




私はまた、人間と一緒に暮らす事になった。
今度は奴隷でも、道具でもなく、『家族』として。


「…よろしく、お願いします!」


――テンガン山の洞窟で FIN


これから修正が入るかもしれませんが、最終修正日は作者ページに載せるので読み直すならば参考にしてください。
なお、これは『グレーの家族日誌』というシリーズ化の予定があります。



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Last-modified: 2011-10-08 (土) 00:00:00
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