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タダだと冷たくなってしまうものってな~んだ?

/タダだと冷たくなってしまうものってな~んだ?

呂蒙

<注意>
 この作品は中ほどに流血を伴うシーンがあります。NGな方は絶対にお読みならないでください。万が一警告を無視して読まれ、気分等が悪くなられても、責任は負いかねます(作者)


 ~お昼のラウンジ~
 
 
 ここはラクヨウ大学のラウンジ。ここでは食事を取ったり、置いてある新聞を読んだりと学生が自由に使えるスペースである。近年改装したため、椅子も硬いベンチから、クッションが効いたレザーシートになっている。
 この大学に通うバショク=ヨウジョウは、このラウンジで、ポケモンを持っている友人たちと食事を取っていた。友人といっても、兄の友人で本来なら先輩と後輩の関係なのだが、付き合いを重ねるうちに友人のような関係になっていた。バショクは友人が多いほうだが、自分が授業の間は手持ちのポケモンが悪さをしないように見張っててもらうため、どうしても決まった面子になってしまう。
 手持ちのラプラスは悪さをするような奴ではないが、万が一ということもある。念には念を入れたほうがいいのだ。
「えーっと、焼き魚10個・・・・・・」
「そんなに食べられるの?」
 食堂のおばちゃんが怪訝そうな表情で聞いてくる
「自分一人が食べるわけじゃないので・・・・・・」
 バショクは説明するのが面倒なので、説明ははしょり、そうとだけ答えた。
 家には、自分と兄の二人しかいないため、置いてくるわけにはいかないのだ。5人兄弟で、上の3人は自立していたり、遠方の大学院に通っているため、家にはいない。両親も仕事の関係で、家には長い休みに帰ってくるだけなので、実質2人とポケモン2匹で暮らしているようなものだった。
(はあぁ……。必要なこととはいえ、やっぱ食事の注文のときはいつになっても慣れないぜ)
 バショクは自分の食事と、ラプラスの食事をトレーに載せて戻ってきた。兄のバリョウとその友人、カンネイ=ギホウが席で待っていた。
 それぞれ、お腹がすいていることもあって、箸の動きは速かった。
「しかし、あれですね。先輩のギャロップはあまり量を食べないので、羨ましいですね」
 山盛りのサラダを食べているギャロップを見て、バショクが言った。
「昼はあんまり食べないからな。昔からそうだから体もそうなっちまったんだろうな」
 ギャロップが言った。カンネイの家は父子家庭で、夕飯はともかく朝昼はインスタントや、買ったもので済ませることが多かった。それもできないときはギャロップに関して言えば、庭に生えている芝を食べていた。
 カンネイの家は代々政治家で、一族には父親のシュゼンをはじめ大臣経験者もいる。さらに貴族階級の末裔だから家柄のランクとしては最高なのだが、生活は質素だった。
「いつも粗衣粗食だとか聞いたけど?」
「オレらも苦労してるんだよ。金はあったかもしれないけど、シュゼンさんが首相をやってたときなんか自由なんか無かったからな」
 セイリュウではポケモンを持つこと自体が珍しい。ポケモンの世話をしていくのに必要な費用がかかる上に、所持にライセンスが必要、手続きがやたら面倒くさい、ライセンスの更新は毎年で、更新にも講習を受ける必要がある上、更新のて続きにもいくらかの金が要るなどとにかくそのハードルは高い。
「なぁ、バショク。ゲームで『ポケモンセンター』ってあるだろ? ただでポケモンを診てくれるやつ。あれをセイリュウにも設置する案って言うのがあったんだぜ? 知ってた?」
「え? そうなれば助かったのに。ラプラスの健康診断の費用とか、とんでもない値段がかかるからな。で、それ、どうなったの?」
「シュゼンさんが『税金で運営? この大変なときに国にそんな金があるか、バカか野党連中は』とか言って、反対したから、廃案になった」
 何でも、ポケモントレーナーを呼び込んで、国際交流を図るのが目的だったらしい。が、トレーナー嫌いでとにかく国の無駄な支出を切り詰める方針を採っていたシュゼンが賛成するはずもなかった。
「まぁ、分からなくもないけど……。ギャロップ、何とかなんない?」
「ムリだな。諦めろ。それにさ、金がかかりすぎるからこそ、人間が捨てるとか勝手な真似ができないんだろ? ウン百万使った挙句、ポイとか、それこそバカだろ?」
「ウ、ウン百万……」
 食事の後、兄のバリョウは授業があるため、手持ちのウインディを置いて、教室へ向かった。バショクにはやっぱりただでポケモンを診てくれる施設が欲しいなぁ、と思わずにはいられなかった。奨学金をもらってはいるが、食費を差し引くと半分残ればいいほうだった。
「なあなあ、ラプラスにウインディ。『ポケモンセンター』みたいなのがあったら、やっぱり便利だと思うんだけど」
「『ポケモンセンター』ってあれだろ? さっきの食事のときに言ってたやつか?」
「便利そうだけど……。今のままでいいと思うけどね」
「お前は金を払っていないからそういうことが言えるんだ。こっちの身にもなって欲しいぜ。お前らにいくらかかるか」
「『ポケモンセンター』なんてできたら、絶対に今みたいな平和な生活じゃなくなると思うな。だって、よく考えてよ、タダって言うのが、どういうことか」

 ~もしもポケモンセンターがあったら?~
 
 
 ××××年××月××日のことである。臨時ニュースがセイリュウ国中を駆け巡った。
「たった今、下院議会で審議中の法案が与党の賛成多数で可決されました。最大野党の国民党は、反対の構えを見せていますが……」
 テレビ画面には国民党総裁・シュゼン=ギホウの姿があった。
「総裁、法案が可決されましたが?」
「こんな国をぶち壊す法案には賛成できません。党としては徹底抗戦、最後の最後まで戦います」
 シュゼンが首相時代に決めたポケモンを保護する法案も廃止になってしまった。ポケモンをただで診る施設があるのだから、ポケモンバトルなど制限を加える必要がないではないか、というのだ。
 次第に各地で影響が出始めた。各地のポケモンセンターやポケモンの商品関連の店が大賑わいの一方で、人間たちの心無い行動も目に付くようになった。街で念願のポケモンを手に入れた新人トレーナーたちがバトルをしているためだ。このバトルの余波で家の塀が壊されたり、街路樹が焼け落ちたりなどの被害が出た。
 そんな中、バショクは外を出歩いていた。買い物のためである。バスに乗れば、ラクヨウの中心部まですぐだが、バショクは運動もかねて行きは歩くことにしていた。途中シュゼン邸の近くを通るとカンネイと会った。ギャロップに跨っているカンネイがバショクに声をかけた。
「あれ、どっか買い物?」
「あ、はい」
「じゃあ、後ろに乗っけてあげるから、乗っていきなよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて、失礼します」
 バショクはギャロップに揺られながら、ラクヨウの中心地まで来た。ここにくれば日用品から贅沢品まで手に入らないものはない。大型スーパーの前でギャロップから降りた。カンネイもここで買い物をしていたのだが、バショクの方がレジ会計が早く終わり、入口前の通りで待っていることにした。バショクはラプラスをボールから出した。
「なぁ、ラプラス。さっきスーパーの中にあった薬局で、ポケモンを一時的にパワーアップさせる薬品とか売ってたけど、昔はそんなのなかったよな」
「そうだよね、人間と違ってドーピングも全然問題ないからね」
「まったく『ポケモンの育成』が『フランケンシュタインの製造』になっちまうぞ」
 その帰り道のこと、ラクヨウの通りでちょっとした事件に出くわした。
「あ、すいません。トレーナーの方ですか?」
「えぇ、まぁ一応」
「それなら、ちょうど良かった。あの万引き犯を捕まえてくださいよ」
 カンネイたちに話しかけてきたのは、ちょうどカンネイたちが通りかかった店の店主だった。
「警察を呼べばいいじゃないですか」
「警察もすぐには来られないって言っていまして、相手はポケモンを持っているので、トレーナーに頼むほうが適任かと」
 犯人はどうせ捕まえられるわけはないと、歩いて逃走していた。見るとキモリを連れている。
「どうしようか?」
「氷漬けにすれば、身動きは取れませんからね。どうせ勝てますよ、ラプラスっ、出番だ」
 バショクはラプラスをボールから出した。冷凍ビーム一発で相手は倒れるさ、バショク本人はそう考えていた。が、この甘い考えがいけなかった。
「あぐぅっ、そ、そんな……」
 ラプラスの呻き声が聞こえた。見るとアスファルトが赤く染まっている。傷口が鎌で切られたようにぱっくりと開いていることから、キモリが何らかの技を発動したのは確かだったが、動きが素早すぎて、その姿を視認することができず、まともに技を食らってしまったのだ。止血をしようかとも思ったのだが、血を介しての感染症にかかる恐れがあったので、人間にしろ、ポケモンにしろ迂闊に血液に触れるのは厳禁であると授業の最初で習った。苦しげに呻き声を上げるラプラスを前にバショクは動揺した。
「おい、カンネイ。どうする?」
「火炎放射って届くか? 十数メートルあるけど」
「微妙だな。とにかくラプラスをポケモンセンターに連れて行かないといけないだろ?」
 もはや、万引き犯はどうでも良かった。ラプラスをボールに戻させ、全力疾走でポケモンセンターに向かった。時間が惜しいので、横断歩道はジャンプで飛び越えた。
 傷は思ったよりも浅く、治療には1時間もかからなかった。最先端技術とつぎ込んだ莫大な税金の賜物である。それでも費用はタダだった。
 1時間前は動揺していたが、治療が終わるとバショクはけろっとしていた。
「よかったな、無事に治療も終わって」
「……」
 ラプラスはその言葉にカチンと来て、無言でバショクの方を見た。もっとも、バショクのほうは気にもしていない様子だったが。
 その一件があって以来、バショクとラプラスの間に急速に距離が生じ始めた。ラプラスは自分がいかに傷ついたとしても、ポケモンセンターに行けば元通りになると、バショクは思い込んでいると思わずにいられなかった。謝罪の一言くらいあってもいいではないか。自分を何だと思っているのだ。お互いの会話量も減ってしまった。
 しばらくして、ポケモンの病死というよりも中毒死が流行し始めた。原因は薬品を多用したことによる中毒死。自然界にはなかった物質を体の中に摂取し続けたことで、内臓の方がついていけなかったのだ。ポケモンセンターに担ぎ込まれたが、死んでしまったのなら、手の施しようがなかった。その画面を兄弟とポケモンたちで見ていた。
「ま、ウチは問題ないだろ?」
「そういうことじゃなくて、ポケモンのことを考えない連中が増えすぎたってことだろ? 命の重みが分からないやつが増えたってことかな」
 他人事のような態度を取るバショクをバリョウがたしなめた。
 日ごとにお互いの関係は冷え、口喧嘩が増えていった。ついにバリョウは事態を収拾するために、バショクに対してこんな事を言った。
「もういい。ラプラスはオレが面倒を見るから、お前を何もするな」
 ラプラスを部屋に連れてきて、同じようなことを言うと、ラプラスは長い首を曲げて、顔をバリョウの側まで持ってくるとそっと目を閉じた。
「バリョウさん……」
 目からは涙が溢れ出していた。バリョウは何も言わずに、ラプラスの頭をなでた。
「悔しかったよな……。あいつは何とかするから。今まで良く耐えてくれた」
 ラプラスは涙を流しながら、頷いた。
「あいつは、最先端技術の虜になって、命の軽さを知ってしまったな……。やっぱり前の制度の方が良かったな。『もはや私は人間ではなくなりました』か……。今のあいつかさしずめそれだ」

 ~再び大学のラウンジ~

「とまぁ、こんな感じになっちゃうと思うんだ、ぼくは」
「待てよ! ラプラス。オレが人間失格に成り下がるとでも言うのかよ」
「そうなるかもしれないよ? バショクは調子に乗ってはめを外すことが昔っからあったから。この前だって飲み会で、調子に乗って飲みすぎて、酔っ払って、転んでテーブルの角に頭ぶつけて、病院に運ばれたじゃん」
 事実なので、バショクはラプラスの言葉に反論できないでいた。
「……やっぱり人間が勝手な真似はできないって大きいな。オレはやっぱりこういう面倒な制度じゃなかったら、ラプラスの面倒も兄さんに任せてたかもしれないな。捨てるわけじゃないぜ? 責任もって世話できるかどうか自信がないからな……」
 バショクが言った。しかし、自分のダメなところを素直に認められるのはポケモンを持つ資質があると思う、と首相時代のシュゼンがカンネイに言っていた。
「あ、そうだ。ラウンジのテレビのチャンネルを変えるか。今日は父さんがテレビに出るんだった」
そう言ってカンネイはテレビのリモコンを探してきて、チャンネルを変えた。画面には自分の父親が映っている。司会のアナウンサーがシュゼンに質問をぶつける。
「ずばり、退陣に至った原因というのは、ご自身ではどうお考えですか?」
「これはまた、ストレートな。そうですな……。『認めざるが故』ですな。自分自身が見えていなかったんです。これが一番の原因ですね。4次内閣を作った後にようやく気がついて、一定の目途が立ったので、現与党に政権を明け渡したのです。全くバカな話ですよ。しかし、現政権も何時まで持つか……」
 このシュゼンの答えが、バショクの胸に響いてきた。ギャロップが言う。
「全くラプラスが羨ましいぜ。バショクって結構いいやつだもん」
「そ、そうかな……。まぁ得してるって言うのはあるかもね、あはは」
(全く、どっちが調子に乗ってるんだよ)
 バショクはそう思いながら席を立った。
「カンネイ先輩、コーヒーを買ってきますので……」
「あ。オレの分も頼むよ。ブラックね」
 カンネイが放ってよこした小銭を受け取ると、バショクは自販機のほうへ歩いていった。

 おわり


 久しぶりにコメント欄を設けました。何かあればこちらまでどうぞ

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  • 一応、テスト
    ――呂蒙 2012-05-07 (月) 00:50:13
  • ありがちといえば、ありがちな話だったけど、なんか深いな。
    次も期待してます。
    ―― 2012-05-10 (木) 15:08:38
  • コメントありがとうございます。
    深い、ですか? 自分はそういうつもりは無いんですけどね。
    気に入っていただけたようで何よりです。
    ――呂蒙 2012-05-13 (日) 11:35:12
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Last-modified: 2012-05-06 (日) 00:00:00
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