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サマーバケーション! ~青き海の独り歌、後編~

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writer is 双牙連刃

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 小さな出会い、しかしそれもまた、かけがえの無い大切な出会いに変わっていける…。



 隣でスースーと寝息を立てているリオルの顔を眺めながらの起床。そういえばベッドの上で起きるのも一週間ぶりか。
初日は俺がリオルと寝ている事で分かるとおり、心紅は司郎と寝ることにした。ま、背中合わせでだけどな。
しかし、昨日の夜はちょっと遊び過ぎたかな……寝た筈なのにまだ少し眠い。
ラプラスと別れた後、何事も無くホテルに帰れたまではよかったんだが……その後なんでか宴会みたいになったんだ。もちろん酒なんか無かったぞ。
原因は、ついでって事で俺が色々買ったのがそうなんだけどな。テレビでホラー番組やってるの見たりトランプやらゲームやらしてたら盛り上がってきちゃった訳だ。
皆が寝付いたの、日付が変わってからだったからな。まだしばらく皆起きないだろう。
リオルを起こさないようにベッドから抜け出して、そっとカーテンを開いた。

「うん、今日も良い天気だ」

 そこには穏やかな様子の海と、真っ青な空が広がってた。まだ人も動き出してないみたいだな。
っていうか今何時なんだ? ……うわ、6時って。俺が寝た時間5時間強か。また変な時間に起きたな。
これだと、朝飯までまだ時間ありそうだな。少し散歩でもしてくるか。
皆を起こさないようにそっと部屋を出る。……あら、ほぼ同タイミングで隣の部屋のドアも開いた。

「ん? 零次君?」
「おじさん。それに、おばさんも。朝早いですね、お早うございます」
「お早う。零次君も随分早起きね? 司郎達は?」
「まだ寝てます。俺だけ目が覚めちゃって」
「なるほど、それなら目的は散歩かい?」
「はい。部屋に居ても出来る事無さそうなんで」

 おじさん達も目的は同じだったみたいだ。それなら、少し一緒に歩こうかな。
ホテルは基本的に内側からは自由に出れるみたいだ。時間外で入ってくる時はインターホンで警備へ連絡すると開けてもらえるようになってる。
外に出て、朝日を浴びながらゆっくりと伸び。うん、体も頭もすっきりするな。

「海での朝というのもなかなか良いね。本来なら、ゾロアークの姿で軽く走りたいところだけど」
「やっぱり、人の姿で居るより元の姿で居た方が楽なんですか?」
「最近はあまり変わらなくなったかしら? 最初の頃はやっぱり抵抗なんかもあったわよね」
「まぁ、自分達を森から追いやった者にならなければならないって気持ちもあったから、それはしょうがないだろ」

 ……おじさん達は、元々遠くの森で暮らしてたそうだ。特に人間に干渉する事もなく、平和に。
でも、そこに人間の団体が入ってきたそうだ。話を聞いた限り、ポケモンの売買をする違法ハンターだと思う。ニュースなんかでたまに逮捕されたって話をしてるから、実際に居るのは間違いない。
そいつ等によっておじさん達の平和は壊された。森の仲間の大部分は捕まって、おじさん達はその能力、イリュージョンによって何とか難を逃れる事が出来たらしい。
きらきらと朝日を返して輝く海を眺めながら、こうしてポケモンであるおじさん達と俺が一緒に歩いている不思議を思う。本当なら、恨まれてるであろう人間である俺は、おじさん達の傍に居る資格は無いんじゃないか、そんな風に。

「……おじさん、今でも……人の事を恨んでたりするんですか?」
「ん? そうだなぁ……こうして、人間の中で生きる事を選んでなかったら、恨みも薄れる事は無かったと思うよ」
「人間は恐ろしい物だ、敵だ。そんな風に考えたままだったかもしれないわね」
「そう……ですよね」

 不意に、おじさんの手が俺の肩に乗せられた。力は込められてなく、ただ乗せられたんだ。

「君は俯かなくていい。いや、俯かないでほしい。私達の気持ちが変わっていったのは、君のお陰なんだから」
「え?」
「零次君が司郎を助けてくれた事、そして全てを知っても友達で居てくれる事。あの子にも私達にも、人間に対する見方を変えるには十分過ぎるものだったんだから」
「それまでは司郎も、心から友人だと呼べる相手も居なくてね。私達もやっぱり、どうしても変えられない人間への偏見は残っていた。それを、君は変えてくれたんだ」
「人間の複雑な多面性、それの悪さだけを見るのじゃなくて、全てを見なきゃならないと思えたもの。あなたの良さを見たらね」
「そんな、俺は別に……」
「胸を張ってほしい。君は、確かな強さを持ってるんだから。ポケモンと人、……いや、全てと絆を結ぶ強さを」

 絆を結ぶ強さ、か。俺にそんなものあるのか? ただ、兄貴のようになりたくないと思って生き続けてきただけなのに。
でも……もう俯かないでおこう。俺が俯いたら、俺を信じてくれたおじさん達や司郎に失礼だしな。前は向かないと。

「でも、無茶をしてって言ってる訳じゃないからね? あなたはあなたらしく居てくれればいいの」
「ははっ、俺も無茶までする気はありませんよ。元々、出来る事をやれるだけやる主義ですし」
「そうかい? 時々無茶をしているような気もするんだけどね? ほら、昨日の砂浜での事とか」
「あー、心紅ちゃんを助ける為に大人二人に分け入ったのね。もう、あんな事されたら私ならときめいちゃうかもね~」
「実際心紅ちゃんも君の事を意識してるんじゃないかな? 助けるのも、あれで二回目だったんだし」

 うっ、二人してニヤニヤしながら見ないで頂きたい。別に俺は他意があって助けた訳じゃないんだからそんな事無いと思う。思いたい。
昨日もあの後、別に変わった様子は無かったしそんな事無いだろうさ。

「まぁ、あまり零次君をからかうのも悪いか」
「はい、あまりからかわないで下さい……」
「ふふふっ♪ さぁ、そろそろ引き返しましょうか。お散歩は十分でしょ」
「そうだな。ここから戻れば、朝食の時間にも丁度良いだろうし」
「俺は朝飯の前に他のメンツを起こす事になりそうですけどね」

 来た道を戻ろうとすると、心地良い風が俺達を撫でていった。見ると、空は雲一つ無い快晴になってた。
今日も良い日になりそうだな。よし、楽しむとするか。



 六人座りの席に、人間+リオルを入れた俺達で使ってる。あぁ、リオルは俺の膝の上に座ってたけど、だいたい食事をさせて横にずれてもらった。
昨日の夜は洋食だったけど、今朝は和食がメインだ。鮭とか目玉焼きなんかは朝の定番でいいよな。

「へぇ、心紅ちゃん、もう箸を使うのも上手じゃない。私も慣れるまで随分掛かったんだけどな」
「あ、零次さんや司郎さんが丁寧に教えてくれたお陰です。じゃないとこんなに早くは覚えれませんでした」
「それでも早いわ。言葉もすぐに話せるようになったし、凄く頭が良い証拠よ」

 おばさんに褒められて心紅は照れてる。うん、これなら何処に行ってももう大丈夫だろう。後は、帰ったら地図の見方なんかを教えないとな。
ふぅ……よし、食事終了っと。うん、健康的な朝飯だった。出された物はサラダまできっちり食べたし。
そういえば、皆特に好き嫌い無いんだよな。ポケモンって確か好まない味とかあった筈だけど、リオルも食べさせたらなんでも嫌がらずに食べるしなぁ……あれって、木の実限定の話なのか?

「ちょっと気になったんですけど、皆好き嫌いとか無いんですか? ほら、甘い物が苦手とか」
「ん? そうだなぁ……そういえば、こういう生活をしてからあまり気にしなくなったかな」
「そうね。あ、でも作る時はどれも味のバランス考えて作ってるかしら」
「基本的になんでも食べるとそれぞれに美味しいですよ?」
「あー、俺ちょっと渋いのは苦手かも。でも、食べれない物は無いかなぁ」

 なんとも健康的だ。好き嫌いは無い方が幸せが増えるなんて聞いた事もあるし、食で幸せは間違い無く増えてるだろうな。
さて、皆も大体食べ終わったようだし、そろそろ奴が口を開く頃かな。

「それで、今日はどうする? すぐに海?」

 やっぱり。うーん、速攻で海っていうのも芸が無いような気もするが、目的はそれだもんなぁ。

「いいんじゃないか? それで」
「私もそれでいいです」
「昨日の事もあるし、今日は全員で行こうか」
「え? 昨日なんかあったっけ?」

 あぁ、司郎は知らなかったな。簡単に教えてやろう。

「へぇ、俺が潜ってる時にそんな事あったんだ。なら父さん達と一緒に行った方が安心だなぁ」
「それに、またお前を探す為にうろうろするのは勘弁だし」
「うぬぅ、昨日は悪かったって~。もう勝手に行動しませぬ!」
「まぁ、分かってるならそれでいい」
「でもさ、零次って何時そういう空手とか習ったのさ? 少なくとも、高校ではそういうのやってないよな?」

 やってたのは中学の頃、それも二年くらいだったからなぁ。本当に基礎しか知らないし、後は独学とかだな。
空手をやり始めたきっかけは、なんてことは無い。ただ空手家に助けられた事があるから。

「丁度、どうしたら強くなれるかを探してるところだったからな。選択肢としてそういうのもありなんだなと思った」
「へぇ~、助けられたって、どんな感じに?」
「あー、ちょっとトレーナーに喧嘩をふっかけられて、ポケモンけし掛けられた事があったんだ。そこに、その人は現れた」

 驚いたさ、俺の目の前に持ってた荷物を置いたと思ったら、目の前のゴーリキーに素手で挑んでいったんだから。
更に驚いたのはその先。その人は、ゴーリキー相手に一瞬たりとも怯むことなく、その拳だけで……ゴーリキーを倒したんだから。

「へっ!? 倒しちゃったの!?」
「あぁ、最後の正拳突きがゴーリキーの腹を的確に捉えたのは見事としか言いようが無かったな」
「それはまた、凄い人だな。それがきっかけで君は空手を?」
「正確には、その後にその人と話をしてですね」

 ゴーリキーを倒したその人は、トレーナーを一喝して追い払うと俺に話しかけてきた。何故逃げなかったって。
俺は答えたよ、逃げたくなかったからって。まぁ、笑われたんだけどな。
その人は言ったよ。その思いに答えられる強さが無ければ、幾ら強い思いでもかき消されるって。悔しかったけど、その通りだと思った。

「そんな俺を見て、その人は続けた。強くなりたいかって」

 それに頷くと、その人は俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でて、なら少しだが教えようって言ったんだ。
それから一週間、その人が町から旅立つまでに色々聞いたよ。考え方や戦う理由なんかを。

「え、戦い方を教わったんじゃないの?」
「うーん、それらしいのは一つだけしか教わらなかったな。人にはそれぞれ、自分の戦い方があるってその人も言ってたし」
「自分の戦い方がある、か。なるほど、確かに言える事だね」
「あれ、でも一つは教わったんですよね? どんなものだったんですか?」
「そうだな……生き方、って言ってもいいかもしれない。三手必殺、その人はそう言ってたよ」

 強さの極地、それは一撃必殺。が、そこに到達するのには歩み続ける事が必要になる。一歩一歩確実に。
だからこそ、この技も一手一手を重ねる事に意味がある。全てを確実に刻む事によって技となす、それが『三手必殺』。

「辿り着きたい場所へは、歩みを止めずに進み続ける事。それを忘れぬ為にこの技を教えよう。それが、その人に教わった最後の教えだったよ」
「三手必殺かぁ、なんか凄そうだな」
「凄くなんかないさ。どんなに小さな力であろうと、積み重ねる事で大きな力に変える事が出来るって言う意味の技だからな」
「言わば全ての基礎、ってところだね。うん、でもとても大事な事だよ」

 ……あの人、今は何をしてるのかな。ポケモンを連れてたし、きっとあの人もトレーナーだったんだと思う。
だとしたら、きっと名のあるトレーナーだったんだろう。もう一度会える事がもし会ったら、きちんとお礼を言いたい。今の俺があるのは、その人のお陰でもある事だし。

「っと、ちょっと話込み過ぎましたかね? そろそろ準備に戻りましょうか」
「おっと、聞き入ってて忘れてた。そうだね、準備を終えたらロビーに集合って事で一旦別れよう」

 一席とはいえ、レストランの一角をあまり占拠するものじゃないよな。この辺で切り上げるのが妥当だろう。
なんか司郎がもうちょっと知りたそうだったけど、技としてのこれは口頭じゃ伝え難いんだ。見せる機会は無い方がいいんだろうけど、もしあったら披露するとしようか。
ん? 気付かなかったけどリオルも大分真剣に聞いてたみたいだな。そうか、リオルも格闘タイプのポケモンだからこういうのに興味あったのかな?
ふむ、そういう事なら時間がある時に少し空手の基礎でも教えてやろうか。知っててもバトルの邪魔にはならないだろうし、いいよな。

「零次さんの強いのにはそんな理由があったんですね。なるほどなー」
「まぁ、まだ俺はポケモンとどうこう出来るまでの力は無いけどな」
「そう考えると、その人って凄いわね。どんな人だったの?」
「えっと、道着の下だけを穿いて黒帯で纏めてて、腕には鍛えるためだって鉄の腕輪巻いてましたね。見た目だけ考えると、ちょっと危ない人に見えなくもないですけど……」
「そ、それはまた凄いわね……でも、零次君をそうして導いてるって事は良い人だったみたいね」
「はい、それは間違いないです」

 そんな事を話しながら片付けも終えた。流石に食べっ放しで席を立つのも悪いだろうし。

 部屋に戻って、仕舞っておいた海パンを取り出す。シャワーで洗いはしたけど、やっぱり海水に浸かったから少しザラッとしてる気もするな。
まぁ、また浸かるんだしいいか。これを持って、あぁそうか。今日はおじさん達とも一緒に行くから携帯持ってなくていいんだったな。防水ケース借りなくていい分楽だな。

「リオル、また浮き輪借りたいか?」
「リオ?」
「ほら、昨日海に入った時に付けてやった奴」
「ル~……」

 あら、首横に振ったな。浮き輪は要らないのか。

「リオル君、泳ぎを教えてもらいたいんですって。昨日零次さんが泳いでるのが凄いと思ったみたいですよ」
「俺が泳いだ? あぁ、心紅のところに行った時か」

 それなら、海に着いたらリオルに泳ぎを教えるところから始めるか。別に難しい事する訳じゃないし、何とかなるだろ。
教えてやるって言ったらもの凄く喜んだな。飛び掛ってきたから何事かと思ったが、ただ抱きついて来ただけだったけど。

「そうすると、こいつは波乗りリオルになるって訳だ!」
「なる訳ないだろ。ただ泳ぎを覚えるだけだって」
「でも水タイプじゃないポケモンってあまり泳いだりしないから、ちゃんと泳げるポケモンって凄いと思いますよ」

 心紅、それを言うとここにもう一匹泳げるゾロアークが居る事になるんだが……別に言わなくていいか。
全員支度が出来た(必要なのは俺と司郎だけだが)からロビーへ行こう。そういえばおじさん達、昨日は海に入らなかったけど今日は入るのか?

 ロビーまで降りてくると、チェックアウトする人や寛いでる人達で結構賑わってた。俺達はもう一泊するからチェックアウトしなくていいそうな。
ん? あ、昨日海でグレッグルにどつかれてた人も居た。へぇ、このホテルに泊まってたのか。まぁ、この辺りで一番良いホテルらしいし、泊まっててもおかしくないだろうな。

「おや、お早うございます葛木様」
「あぁ賀等さん、お早うございます。今日はフロントじゃないんですね」
「えぇ。朝はなるべく多くのお客様をお見送りするようにしておりますので」

 はぁ、なるほど。こういう人が支配人だからこのホテルも盛況なんだろうな。ホテルマンの鏡ってところか。
まだおじさん達が来てないみたいだし、少しロビーで落ち着こうか。

「葛木様達は、今日も海へお出かけで?」
「はい、そのつもりです」
「それはそれは。今日も良い天気ですし、存分にお楽しみ頂けると思いますよ」

 海と言えば、昨日のラプラスは今何処に居るんだろうな? あそこの岩場なら他の人に見つかる事は無さそうだけど、昼間はうろうろしてるみたいだしなぁ……。
折角少し仲良くなったんだし、大事無いといいんだがな。様子見……は出来ないか。何処に居るか分からないし、心紅に乗れば分かるかもしれないけど、昼間はどうにも出来ないしなぁ。
でもま、その辺は弁えてるっぽかったし、今までなんとかなってたんだから大丈夫だろう。

「葛木様?」
「零次?」
「零次さん? どうしたんですか?」

 うぉっ、全員から顔見られてたし。ちょっと考え事してただけなんだが、そんなに心配されるような顔してたのか?
おぉ、リオルにまで心配されてたみたいだ。考え事する時に神妙な顔するのは俺の悪い癖なようだな。

「なんでもないです。ちょっと考え事してて」
「そんな感じに見えなかったぞ? なんともないならそれでいいけど」
「何か、よほど心配な事がお有りのように見受けられましたが、杞憂だったようですね」
「はい、大した事じゃあないです。ご心配お掛けしました」
『なんとなく伝わってきましたけど、あのラプラスちゃんの事考えてたみたいですね。多分心配は無いと思いますよ』

 ……これを解除してもらうのを忘れてた。昨日はラプラスと話す為にこれを使う事になったし、今日もこのままだな。こういう俺と心紅しか知らない事を話すのには便利だし。
って、ちゃん? ……ちゃん!? あいつ牝だったのか!?

『気付かなかったんですか?』

 全然。話し方も牡っぽい感じだったし……いや、聞こえてきた声は確かに高かったな。あの時は口調を気にしてたから気付かなかった。
それなら割と礼を欠いた接し方したかもな。今日会ったらそれとなく謝っておくか。
ん、エレベーターが下りて来た。そろそろおじさん達が……あぁ、来た来た。

「やぁ、待たせたね。ちょっと社から電話があって」
「まったく、こっちのお休みにまで卸値の確認の電話なんか掛けてほしくないものね」
「さっきの場合は聞かれなかったら大変な事になってたがね」

 この短時間で何やら取引の手続きがされたみたいだ。本当におじさんって会社の大事なところに居るんだな。
とりあえずこれで全員集合だし、今日も海へ向かうとしようか。



「今日も大盛況だなー」
「熱いし、俺達と同じようにここを目当てにして来てる客も居るだろ。それなのに海に来ないのは勿体無いしな」
「司郎さんはまたここで見つかる石と貝殻を探すんですよね。それってどんな石なんですか?」

 現在、着替えて海パン姿で海水浴場に佇んでるところだ。そういえば幸運になるだか縁結びになるだかの石の話があったな。
司郎の話では、それは薄桃色の光沢のある石って事らしい。それが貝殻なら真珠なんかの元となる物質でそうなってもおかしくは無い。光沢のある石って自然界に結構あるしな。
それが分かったとしても俺は特に探しはしないがな。第一、昨日も思ったがこの広い海水浴場でそれを探すのは不毛過ぎる。
とりあえずは聞く事も聞いたし解散だ。俺はリオルに泳ぎを教えるところから始め、だな。
あぁ、おじさん達はやっぱり海には入らないらしい。そもそも泳ぎを知らないとか……まぁ、司郎と違って学生で居た事は無いみたいだし、泳ぎを覚える機会が無かったんだろうな。
しかし独学で学習して会社に就職、あまつさえ重要ポストに席を置くとは。おじさんの頭の良さには頭が下がるよ。
さて、俺はリオルに泳ぎを教えるのを始めるか。

「よし、それじゃあまずは海に入るか。それはもう大丈夫だな?」
「リオっ!」

 昨日散々浮いたし、もう水が怖いとかそういう事は無いだろう。
いや、ちょっと待てよ? 俺とした事が失念してた。水に入れてもあっちが怖いって可能性はあったな。
とりあえず、リオルが肩まで海に入るところまで来た。うーん、やっぱりここから先はまだ駄目か。

「リオル。ここから顔、水に浸けれるか?」
「ル? ウ~……」

 恐る恐るだけど、なんとか水に浸けようとしてる。ふむ、これなら割とすぐになんとかなりそうだな。
お、浸けれた。ん? すぐに顔を上げないな? どうしたんだ?
潜って下から見たら、なんともう水の中で目を開けてるじゃないか。勢いか? とにかくやるじゃないか。
手でOKサインを出すとリオルは顔を上げた。しゃがむ様に潜るなんてあまりしないから結構体制がきついな……まぁ、もうしないで済みそうだが。

「凄いじゃないか。怖くなかったか?」
「リオ!」
「よしよし、それなら次はそうだな……よし、俺の手を取って力を抜いてるんだ」

 片手を掴ませて少し沖へ泳ぐ。と言っても、足がつかない程度の所までだけどな。
すぅ~っとリオルは浮きながらこっちに来る。最初にちょっと慌てたようだが、俺の言った通り、力を抜いてというのを実行したんだろう。上手く浮いてる。

「ここまで来ればいいな。もうなんとなく分かっただろうが、体から力を抜いて水に逆らわなければ体は浮く。これが分かってれば、無理して溺れる事は無い。これから手を離すけど、慌てないで水に身を任せるんだ」

 頷いたリオルの手をそっと離してみた。うん、仰向けにちゃんと浮かべてる。そういえば、昨日仰向けに浮くのは見せてたな。それで真似てみたってところかな。

「その状態で足を動かせば背泳ぎ。本当は手も組み合わせるけど、足だけでも十分に進めるぞ」

 自分の足を見て、ぱしゃぱしゃと水を弾きながらリオルはすぃーっと進みだした。ま、泳ぎの基礎はこんなものかな。

「飲み込みが早いな。泳ぎがどういう物かはなんとなくでも分かったか?」
「リオー!」
「良い返事だ。それならここからは、一緒に泳ぎながら他の泳ぎ方を教えてやるからな」

 これにて俺の泳ぎ基礎の授業は終了。後はリオルと一緒に泳ぎながら、どんな泳ぎがあるか見せてやるとするか。リオルの場合、見たものを真似てする事が出来るみたいだからその方が早いだろう。
誰かと並んで泳げるっていうのもなかなか悪くない。リオルもこっちを見ながらなんとなく泳げるようになってきてるし、しばらくはこうして遊んでるか。
今日も海の中は澄んでる。昨日よりも沖に来てみたけど、この辺りからは更に深くまで潜れるようになってる。泳ぐのにも楽でいいな。もちろん遊泳エリアからは出てないぞ。
潜って海底近くまで行くと海草が茂ってる。これに足を取られたりしたくないし、近付き過ぎないようにしよう。
ん、海草を食べてるポケモンも居るんだな。遊泳エリアを区切るネットの先に居る……!? ら、ラプラス!?

『ん? あれ、零次か?』

 ちょっ、お前なんでこんな所に居るんだよ!? ここ、人間の居る海水浴場に近いんだぞ!?

『いや、この辺りの海草美味しいから』

 ……昨日もこの辺りに居たのはその所為か。っていうか心紅が居なくてもこの会話出来るのかよ。一度繋がったら距離は関係無いのか?
とりあえず息継ぎの為に水面に出るか。酸素酸素。

「ぷはぁ! っと……まぁ、元気そうで何よりだ」
『夜に会ったばかりじゃないか。そういえば、そっちのポケモンは?』
「あぁ、俺がある人から預かってるリオル。泳ぎたいって事でさっき教えて、今は一緒に泳いでたんだ」

 俺がラプラスの事を説明すると、リオルもラプラスに挨拶したみたいだ。こっちに念を送ってくれないとやっぱり何言ってるか分からないな。

『そうだ、折角泳いでるなら私もそっちに行こうかな?』
「へ? いや、このネットがあるんだから入り込むのは無理だろ?」
『いや、そうでも無さそうだったぞ? ちょっとついて来て』

 ? どういう事だ? とりあえずラプラスに促された通りついて行ってみよう。
出会った場所から少し行った先でラプラスの頭は沈んだ。あぁ、さっきから頭から下は水面に出してないぞ。
それを追って俺とリオルも潜る。む、さっきより更に深くなってはいるけどなんとか行けそうだな。
……!? あれは、ネットに穴が開いてる!?

『ほら、ここからならそっちに行けるだろ』

 確かに、ラプラスよりももっと大きくても抜けれる穴だ。それも……海水によって劣化してとか何かに食い破られたんじゃない、刃物で切られたような後だ。
それが意味する事。つまり鋭い刃物を持つ何かがここに入ってきたか出て行ったって事になる。
出て行ったとするなら、何故こんな風にネットに穴を開けるような真似をしたのか。隠れなければならないような状況になっている者が、あえて人の多い海水浴場から海へ出る意味が分からない。夜にだってここを管理してる者は居るだろうし。
はっきり言ってこの穴は、人一人が開けたようなものじゃあない。もっと大きなものが通る為に開けられたものだ。それも、人為的に。
……まずはここの管理者かライフセーバーにこの事を伝えるのが先だな。このまま置いておいたらどうなるか分かったものじゃない。
えっと、ラプラス。悪いが少しだけここで待っててもらえるか? この穴、あったら不味いものなんだ。塞ぐなりなんなりしないとならない。場所を分かるようにしておきたいんだ。

『そうなのか? ……分かったけど、他の人間が私を捕まえたりしないようにしてくれよ?』

 もちろん。友を売るような事はしないし、そんな事するような奴を呼んでくるつもりも無いさ。
ラプラスが頷いてくれたのを確認して、水面に上がってから砂浜へと引き返す。
……もし、何かがこっちに入ってきたなら、目的はなんだ? 何故そんな大きな物をわざわざ海側からこちらに入れる必要がある? 嫌な予感がするな……。
なるべく急いで砂浜に着くと、リオルも後ろからすぐに上がってきた。凄い上達ぶりだな。って、関心してる場合じゃなかった。
丁度近くにライフセーバーのベストを着た人が居て助かった。事情を話したら、すぐに案内してほしいって事なんでまた海に引き返す。

「ここのネットは、今年の海開きに合わせて新調されたばかりなんだ。そう簡単に穴を開けられるものじゃない筈なんだが……」
「……あ、丁度あの下です」

 こっちを見てたラプラスの頭を見つけて潜水を開始する。リオルとライフーセーバーの男性も続いて潜ってきたようだな。
あった、穴だ。ラプラスも近くまで来てるな。
穴を見て男性は明らかに驚いてる。確認したのを知らせる為か、俺に頷いたからまた水面へ。……にわかに忙しくなってきたな。

「確かに、あれは自然に出来たものじゃない。それに、切り口からして恐らく外部から開けられたものだ」
「やっぱり……」
『な、なんだ? 何か不味かったのか? 私は何もしてないぞ?』
「ん? そのラプラスは?」
「あぁ、こいつがあの穴を教えてくれたんです」

 こっちに危害を加えてくる奴じゃない事を説明すると、しばらくラプラスの事を見てはいたけど、どうやら信じてくれたらしい。
流石に話せるなんて言っても信じてもらえるとは思えなかったからその辺は省いたが、今大事なのはそれじゃないからな。

「すぐに穴は塞がないと……それに、この辺りに異常が無いか確認だな。知らせてくれて感謝するよ」
「確認は急いだほうがいいかもしれません。とりあえず何か入ってこないかは俺が見てますんで、そっちを優先してください」
「……分かった、私もすぐに戻ってくるから、その間ここを頼むよ」

 多分防水使用であろうトランシーバーで連絡を入れながら、ライフセーバーは砂浜に戻っていく。

「リオル、それからラプラスも少し協力してくれ。あの穴に近付く者が居ないか確認してほしい。ポケモンがこっちに入ってくるのも危険だからな」
「リオッ!」
『分かった、手を貸すよ』

 まずはここからこれ以上何かが侵入しないようにしないとな。人もそうだが、入り込んだポケモンのほうが危険に晒される心配もある事だし。
幸い水が澄んでるから上からでも穴が見える。空気の心配はしなくて済みそうだな。
よくよく見てみると、丸く切り抜かれてはいるけど、切り取った後のネットが無い。これをやった奴が持っていったのか? ……いや、それは無いか。普通に足が付くしな。

『なんだか大変な事になっちゃったみたいだな』
「いや、早々に見つかって寧ろ好都合だろう。放置しておいて、サメハダーとかの危険なポケモンが入ってきたら一大事だ。分からないのは……」

 何を通す為に開けられた穴か、だな。大型ポケモンでも悠々通れるサイズ、つまりはそれだけの質量のある物を通したって事だよな。
それとも、まさかネット自体が目的? な訳はないか。そもそもこんな所のネットをわざわざ切り取って盗む意味が分からない。
あれこれ考えても所詮は机上の空論か。とにかく、何事も無ければそれでいい。

『そういえば、昨日この辺りに来た時にはこんな穴無かったと思ったなぁ。昨日の夜に出来たのかな?』
「ん? 新しい切り口だとは思ったが、そうなのか?」
『あまり自信は無いけど、多分そうだと思う』

 ふむ、ますます分からなくなるな。突然開けられたネットの穴、それも昨日の夜か。
おっと、さっきのライフセーバーの方が仲間を連れて戻ってきた。それなら、俺達は一旦砂浜に戻るか。

「待たせたね」
「いえ、こちらも特に何も無かったので」

 よし、ここは任せてと。ラプラスすまなかったな。もうここは大丈夫だ。

『分かった。……なぁ、私もそっち行ってみていいか? 零次が居るなら大丈夫だろ?』

 え、うーん……まぁ話も聞きたいし、少しくらいならいいか。いやでも、お前って陸地で動けるのか?

『大丈夫だ。泳ぐより遅くはなるけど、十分動ける』

 それなら平気かな。ただし、暴れずに俺の近くに必ず居る事を約束してもらう事になるぞ。

『あぁ、構わない』

 やれやれ……また俺は気に入られたのか? それともラプラスの興味がそう向いたってだけなのかな。どっちでもいいか。
ライフセーバーの方々は驚いてるけど、とりあえず害は無い事を説明して、俺に任せてもらえるように言った。納得してもらえたし、ラプラスも加えて砂浜に戻ろう。
まぁ、流石本家水タイプ。泳ぐ姿も優雅だな。他にもポケモンと一緒に泳いでる人も居るし、こうして俺が居ればラプラスが誰かに捕まる心配は無いだろう。
砂浜まで泳いできた。穴の事も気になるし、まずはおじさん達と合流するか。ん? おぉ、ラプラスは這うような感じで上がってきたけど、そんなに砂が沈まないんだな。

「痛くないのか?」
『ん? 全然平気だぞ? もっとゴツゴツしたりざらざらしたりする岩の上とかにも居たことあるし』
「ほーん」

 それならアスファルトの上とかも大丈夫なのか。ぷにぷにしてそうな体してるけど、かなり頑丈なんだな。
うん、おじさん達も見つけた。固定で設置されてるパラソルの下でベンチに座ってる。

「あぁ零次君。ん? そのラプラスは?」
「ちょっとした知り合いというかなんと言うか……昨日知り合って、泳いでる間に偶然見掛けてこんな感じに」
『零次、誰だこの人間?』

 ラプラスの喋った事を聞いて、おじさんがポケモンの鳴き声の方で返事を返した。おぉ、驚いてる驚いてる。

『ど、どうなってるんだ!? 人間……じゃないのか?』
「今のが答えだ。ここに集まってる中で人間は俺だけだよ」
「普段は見た目通りこちらの言葉で喋らせてもらうがね。零次君の友達と解釈させてもらうよ」
『……ポケモンの知り合い多いんだな、零次って』
「本当にな……」

 この夏休みで急激に増えてるというのもありはするが。これも黒子家に世話になってる所為か?
それはいいとして本題に入ろう。砂浜に居るおじさん達にも注意しててもらいたいからな。

「そういえば零次君は休憩かい? リオル君と一緒に見事に泳いでいたようだけど」
「それもあるんですけど、少し気になった事があって」

 遊泳エリアのぎりぎりまで行ってたのに、おじさんには俺達が見えてたのか? おじさんの視力凄いな。あ、見ようと思えばここからも十分に見えるか。
ネットの話をすると、おじさんの顔が真剣なものに変わった。何か心当たりが?

「……あまり詳しくは無いんだけど、基本的にポケモンの進行を防ぐ為の物は耐久度に重点を置いているものなんだ。それを正確に切るには、繊維を一本一本丁寧に切っていくような事が必要になるんだ」
「それはつまり」
「あぁ、それは明らかに人の手か、トレーナー付きのポケモンの仕業だろうね。うん、こちらでも異変が無いか気にしておくよ」
「お願いします。おじさんの所って、そういう製品を扱う事もあるんですか?」
「取引として多くはないけど、あるにはあるかな。興味あるならいつでも社の案内はさせてもらうよ。なんなら就職先としても考えてもらってもいいし」

 お、おじさん目が商人的に光ってるんですけど。え、俺なんか狙われてる? 進路とかまだ特に決めてないんだが……。

「いやぁ気心が知れてる相手が社に居てくれると色々やり易いんだよ。今ならもれなく私の課に配属されるように手続きさせてもらうよ!」
「か、考えておきます」
「是非お願いするよ。他の進路が無かったら遠慮無く言っておくれ!」

 ……おじさんも苦労してるんだろうなぁ。それがひしひしと伝わってくるセリフだった。
本気で進路が無かったら頼らせてもらおう。大手メーカーと提携してるくらいだから、就職先として申し分はない。
って今は気にしてなくていいかな。とりあえず散々泳いだんだし休憩しよう。あ、因みにおばさんはベンチで昼寝してる。
飲み物でも買ってくるか。そうだ、皆の分も買ってこよう。

「一先ず伝えたい事も伝えましたし、俺、飲む物でも買ってきますよ。何か要ります?」
「それなら……何か炭酸を頼もうかな。あまり昼間から飲むのも気が引けるし」
「分かりました。リオルとラプラスは……物が分からないだろうから適当に見繕ってくるよ」
「ル?」
『よく分からないけど、待ってればいいのか?』
「そういう事。じゃ、少し行ってくる」

 おっと、おじさんから飲み物代渡された。これくらい自分で出してもよかったんだけど、ありがたいし受け取っておこう。
海の家の自販機まで来ると、結構色々な種類があった。そうだなぁ、俺はコーラ辺りにするか。それにおじさんの分はソーダでいいかな。
後はリオルとラプラスの分か。うーん、俺と同じでコーラでいいか? ん、中にも何か売ってるな。あぁ、懐かしい物もある。リオルにはこれにするか。……ついでにもう一本買おうかな。
よし、袋も貰ったし丁度いいや。リオル、どんな顔するかな?

「お待たせしました。おじさんにはソーダ選んだんですけど、よかったですか?」
「あぁありがとう。おや、そのガラス瓶は……」
「ははっ、こういうところでは定番ですし、リオルにはいいかなと思いまして」
「確かラムネって言ったかな。ふむ、実物を見るのは初めてだよ」

 あ、そっか。ゾロアークであるおじさんとしては懐かしいより物珍しい方が先に来るか。それならこっちの方がいいかな?

「もう一本買ってきましたし、こっちにします?」
「いいかい? ん、これどうやって開けるのかな?」
「ちょっと見ててくださいね。瓶に付いてるこれで、よっと」

 ラムネを静かに開けるのって難しいんだよな。よし、少し噴き出したけど許容だろう。

「へぇ~、このプラスチックで中のビー玉を押すのか。こうか、なっと」

 プシっと良い音がして、おじさんの方のラムネも飲める状態になったみたいだ。むぅ、いきなり上手くやられるとちょっと面白みが無い気もする。俺なんか、確か最初は盛大に噴水させた覚えがある。
開けたラムネをリオルに差し出すと、面白そうに眺めた後飲みだした。なんか自分の小学生くらいの頃を思い出すな。
おじさんも飲みだしたし、ラプラスに飲ませながら俺も飲むか。

『む、零次……これなんだ?』
「いいから騙されたと思って飲んでみろよ」
『む~……ん!? なんだこれ!? パチパチする!? で、電気!?』
「だったら全員感電してるって……」

 炭酸が始めてならこんなもんだろうな。目を白黒させてるぞ。
でも落ち着いてくると美味かったのか、もっと飲みたいって言ってきた。そういえば、飲み物でポケモンの体力が回復するなんて話を聞いた事もあったな。基本的に合わない事は無いんだろうな。
こうして太陽の下、炭酸を飲んでると妙に夏めいてる感じがする。なんか良い感じだ。

「う~、づがれだ~」
「ちょっとくたびれました~」
「あぁ、司郎と心紅か。……もしかして、休まずにずっと潜ってたのか?」
「そ~、ってぬぉ!? なんだこのラプラス!?」
「え、ラプラスちゃん!?」
『この声は……もしかして心紅?』

 まぁ、驚くわな。そうだ、司郎達にも事情を伝えておこう。ラプラスの事はついでに説明すればいいだろう。
あ、戻ってくるのが分かってたらもう一本飲み物買ってきたんだがな? 一人分足りないぞ。

「へー、区切りネットに穴ねぇ」
「それって大丈夫なんですか?」
「ライフセーバーの方達にはもう伝えたし、応急処置くらいはもうされてると思うから心配無いだろう」
『あ、私どうやって戻ろう?』
「いざとなったら、一時的に零次がボールに入れて運べばいいんじゃん? なぁ」
「まぁ、それでもいいならな」
『そうか。それならその時は頼むよ』

 俺に対してはすっかり警戒心無いみたいだ。警戒されるような事もしてないし、当然と言えば当然かもな。
問題があるとすれば、そのボールをどうやって入手するかなんだが。後でコンビニまで走る事になるかもなぁ。

「ところでさ、皆でなんか飲んでたみたいだけど、俺達の分は!?」
「もう少し早ければ買ってきてたが、生憎今は一本しか残ってないぞ」
「えー、マジで? ……そんならそれは心紅が飲みなよ。零次ー、買いに行こうぜー」
「良いんですか?」
「もちもち。自分で飲みたいの選びたいし」

 おや珍しい。自分から何かを譲るなんて司郎には滅多に無いんだがな。っていうか何故に俺まで行く羽目になるのか?
行くぞーって事だし、ついて行ってやるか。まぁ、特に理由は無いだろう。

「で、飲み物何処に売ってるん?」
「……お前まさか、それを聞く為だけに俺を呼んだのか?」
「正解ー。探すのめんどいし!」

 ……理由はあったがどうでもよ過ぎる。ちょっと考えれば分かるだろそれくらい。

「まぁいい。珍しいじゃないか、自分から心紅に飲み物譲るなんて」
「俺様紳士よ? レディに使いっぱしりさせるなんてナンセンスっしょ」
「ほぉ、その辺は弁えてたか」
「当然!」

 紳士かどうかは別として、見直しはしたぞ。気が利くようになったものだ。
そして二回目の自販機の前だ。今回俺は用が無いがな。

「そうだ、中にラムネも売ってたぞ」
「おっ、それいいな。ラムネにしよ~っと」

 自由人だなもうここまで行くと。今のは俺が誘導したようなものではあるが。
さっき来た時はラムネに目が行って気付かなかったが、なかなかどうして結構な品揃えだ。傷薬から各種毒消しやらの治療品まである。
ん? これは……青いモンスターボール?

「すいません、このボールは?」
「はい! それはここ限定で発売してるアクアボールですね。なんでも、水ポケモンが好む波長を生み出して捕まえ易さを上げているとか」
「へぇ、そんなものが」
「上げていないとか!」

 どっちだよ! まぁでも、単にモンスターボールを青く塗ったって訳じゃ無さそうだな。塗料って感じではない。

「はっきり言っちゃうと海賊版モンスターボールなんで、正規のフレンドリィショップではまず売ってません♪ レア物ですよ~、あ、ちゃんとボールとして機能するのは確認済みです!」
「……それ、売る相手に言っちゃっていいんですか?」
「正直言っちゃうと、別に売り物として並べてる訳じゃないんで♪ ほら、見た目綺麗じゃないですか!」
「はぁ、まぁ……」

 確かに紅白より落ち着いた色合いだし、珍しくて目を引く効果はあるだろうな。
値段は……400円か。普通のボールより200円多いが、面倒も無いし買うか。後でラプラスを海に帰すのにしか使わないし。

「ならこれ一個ください。物珍しいのは確かですし」
「おぉ! お客さんなら買ってくれると信じてました! ……これについて聞いてくれる人って居なかったんですよねー、皆買い物より海がメインですし」
「そりゃそうでしょうね」

 400円を手渡すと、代わりとしてアクアボールを受け取った。ははっ、俺がボールなんて買う日が来るとはなぁ。

「よーしラムネイチゴ味ゲットー! ……零次、何してんの?」
「ん? いや、ただの買い物」
「……そこ、なんにも無いじゃん?」
「は? そんな訳な、い?」

 後ろから聞こえた司郎の声に振り返ったのは一瞬。そう、一瞬だったんだ。
なのに、それまで居た店員も、並んでいた商品も無くなってる。いや、無くなってるんじゃない、そもそも何も無かったかのようにガラクタが固めて置かれてた。

「な、は!?」
「え? 何があったし? ってかその持ってるのは何よ? ボール?」

 でも、手の中には確かに買ったアクアボールがある。あるんだよ。ど、どういう事だ?
一応確認の為に聞いたが、この海の家でそんな物は販売してないそうだ。じゃあ、俺は何からこれを買ったんだ?

「えーっと……」
「……深く考えないほうが良さそうだな」
「そ、そうだな」

 非常に煮え切らない感情が沸いては来たが、深く考えれば考えるほど混迷しそうだから止めておこう。狐に化かされたとかと思っておこうか。
それぞれに買う物は買ったし、若干気味も悪いからすぐに戻ろう。競歩で。

「ただいまー」
「ん? 零次君、なんだか顔色が悪くないかい?」
「気にしないでください……」
「あー零次はさっき」
「言うな。言わないでくれ、認めたくないから」

 幽霊なんてありえない。ありえないったらありえない。絶対に存在しない。
無理やり司郎を黙らせて、空いていたベンチに座る。こんな涼み方を俺は望んでないっての。
何か話題を振ろう。気分を変えないとテンションを上げられない。

「そういえば、来てからずっと石探ししてたんだろ? 結果は?」
「見つかってたらいの一番に自慢してるって……」
「私も探してみましたけど、欠片も見つかりませんでした……」
『なんだ? なんの話なんだ?』
「あぁ、別に大したものじゃない。ただ、ここで珍しい石が見つかるって噂があってな」

 ラプラスに石の事を話してみたんだが、この辺りに来てからそんなものを見掛けた事は無いそうだ。あ、ますます司郎が溜め息ついてる。
だからそうそう見つかる物じゃないって言ってたんだ俺は。流石に司郎も諦め始めてるみたいだな。

「ま、潜りの練習にはなったと思って我慢するんだな」
「えー? うー、俺もなんか海に来たって記念の物が欲しかったんだけどなぁ。さっきの零次の心れ」
「やめぃ!」
「しんれ? なんですか?」
「き、気にしなくていいんだ」

 だからそういうのでは無い! 無いったら無い!

「そういえば、零次君の持ってるそれは?」
「あ、さっき海の家で見つけたから買ってみたんです」
「ふむ……少し見せてもらえるかい?」

 ? おじさん、どうしたんだ? 別に構わないから渡すけども。
手渡したアクアボールをおじさんはじっくり眺めてる。おぉ!? どうやったのか分からないけどボールが開いた。

「これは……既存のボールではないね。内部機構が全く違うし、通し番号も無い」
「え? いやでも、確かに海賊版だーとか説明されはしましたけど」
「海賊版か……そういった物があるのは確かだけど、これはその類ではないよ。言ってしまえば、世界中で使われているシステムから完全に独立した物だね。もっと解析しないと詳しくは分からないけど」

 そう言っておじさんはボールを戻してきた。意味は分からないけど、これがとんでもない代物だっていう事だけは分かったかな。

「これ、使っても大丈夫なんでしょうか?」
「うーん、ボールとして機能するのかもちょっと分からないかな。仕事柄、扱う物についての知識はあるつもりだけど、見た目以外は完全な別物だからねぇ」

 ……売っていた場所が消えたり、完全な違う物だったりと謎の多い物を手に入れてしまったようだ。使わない方が良さそうかもな。
しかし金を払った以上捨てるのも忍びないし、珍しいって点だけは合ってたし、仮に持っててもいいだろう。
まぁ謎のボールは置いといて、せっかく座ったんだからゆっくりしよう。

 そのまま全員でしばらく喋ってた。途中でおばさんも起きて、今はラプラスと意気投合してる。

〔……あーあーマイクテストマイクテスト〕
「ん?」
「マイクテスト? なんかの放送か?」

 確かにたまに遊泳禁止エリアに近付かないようにとかの放送は流れてたけど、その声とは違う声が聞こえてきたぞ。

〔これ、聞こえてる? 聞こえてるのか?〕
〔この中防音にしてるからぜーんぜん分からないわね〕
〔ちゃんと聞こえてるから早く話すニャ!〕

 ……ニャ? ニャってなんだよニャって。っていうか無計画過ぎるだろ会話が。

〔あー、我々の名はロケット団! この砂浜のポケモンは……〕

 じ、地響き? なんだなんだ?

〔俺達が頂いたぁぁぁ!〕

 うぉぉ!? 砂浜の一角が吹き飛んだ!? いや、下から何か出てきたみたいだな?
二足歩行のロボット? スピーカー? いやえっと、足のついたスピーカーか? そういう形状だな。とりあえず……。

「「埋まってたのかよ!」」

 俺と司郎のコンビツッコミが発動した。心紅他俺達以外のメンバーは展開について行けてないな。まぁ、当然か。
あぁ、吹き飛んだ辺りの人は地響きの後になんか盛り上がってきてたから逃げれたみたいだな。一体なんなんだ、あれ。

「ん? ロケット団?」
「おじさん知ってますか?」
「確か昔、シルフカンパニーを占拠するような大きな事件を起こした事もある、カントーに居た集団だよ。ポケモン関係でかなりの悪事を働いていたって話だけど」
「なんで全部過去形なのさ?」
「一人のトレーナーに解散させられたって話を聞いた事があったんだけどな? まだ名前を名乗って活動してる輩が居たのかな?」

 カントーの……随分遠くだな? 別の地方だぞ?
なんか物騒な事言ってたが、なんか間抜けそうだな。ポケモンを頂く、ねぇ?

〔あ、あれ? なんか反応が少ない?〕
「いや、そもそもそのロケット団が何か分かってないんだろ」
〔ちょっと! ポケモンを頂くって言ってるんだからもっと驚きなさいよ!〕
「無茶振りにも程があるだろうによ」

 冴え渡る俺達のツッコミ。そもそもスピーカー如きに驚く奴なんて居ないだろ、サイズだけはデカイけど。
まだぎゃーぎゃー言ってるがそろそろ気付いたほうがいいぞ。もう包囲されてるんだから。

〔あらー、囲まれちゃってるニャー〕
〔そんな事しても無駄無駄。必殺兵器、スイッチオーン!〕
「兵器? うぐっ!?」
「な、なんだこの音!?」
「こ、これって、ハイパーボイス!?」

 空間を劈くような音がスピーカーから響いてきて、思わず耳を塞いだ。心紅には心当たりがあるみたいだが、耳塞いでるから上手く聞き取れない。
こんなの直に聞いたら鼓膜がやられるぞ。まだ俺達は離れてるからいいが、近くの囲んでた人達は……。

〔おーほっほっほっほ! どーよ、このハイパーボイス発生器の威力は!〕
〔これ作るのに苦労したもんなー。主に俺が〕
〔ドゴームの群れに特攻だもんニャー。大変だったニャー〕
「くっ、このままポケモンを捕まえる気か!?」
「こ、こんな中じゃ動けないってぇ!」

 この音をなんとかしないと、本当に大変な事になるぞ! だが、あのロボ音を出すのには優秀過ぎる。普通なら腕があるところに、四方に音を飛ばせるように中型のスピーカーが付いてる。僅かでも音が和らいでくれればいいんだが……。

〔更にもう一個スイッチオーンニャ!〕
「何!?」
「うっ、なんだこれ、力が抜けてく……」
〔嫌な音とポケモン子守唄を合わせた特製よわよわソングニャー! ほーら、力が抜けて眠くなるニャよー?〕

 これ、俺達には最悪じゃないかよ! 不味い、司郎達の力が弱まったら、人の姿を保てなくなるぞ!?
そうなったら……おじさんや心紅も例外無く奴等に捕まる。……。

「そんな事……」
〔ん? まだ立てる奴が居るみたいだぞ?〕
〔無駄よ無駄。ハイパーボイスの中でこっちに来れる訳無いわ~。そ・れ・に、ど~せポケモンは動けなくなるんだし~〕
「させるかぁぁぁぁぁ!」

 自分でも驚くくらいの声が出た。本気で頭に来たのは本当に久々だ。そうだな……兄貴が居なくなった日以来か。
空間を振るわせたかと思う程の俺の声は、一時的にあのスピーカーから出る音を掻き消したようだ。ほんの一瞬でいい、動ける時間があればいいんだ。
そうすれば……あった。スイカ割りなんてメジャーだからな、一本くらいあると思ったんだよ、金属バット。
スピーカーっていうのは外部は頑丈に出来てる。が、そのスピーカー部は極端に弱い。衝撃なんて持ってのほかだ。そこに、金属バットなんて物が突き刺さったらどうなると思う?
拾って投げるまでチャンスは一瞬、正確に狙って……叩き込む!

「はぁぁっ!」
〔へ!?〕

 グシャって音と共に、スピーカーの一つの中央に金属バットが突き立てられる。これで音が出れば大したものだ。
別に閉鎖空間な訳じゃない。音は振動、反響もしないところでならこちらにスピーカーを向けられなければ音は半減だ。そして、その一角から叩き潰していけばいい。

「調子に乗るな、お前等は……叩き潰す」
〔なんなんだあいつ!?〕
〔な、なんだかヤバイ感じニャア〕
〔ほ、他のスピーカーは壊れてないんだからそれのボリューム上げるのよ!〕
「流貴、行くぞ!」
「えぇ!」

 奴等が怯んだ一瞬に、二つの影が一気に距離を詰めてスピーカーに襲い掛かった。……凄いな、力が抜けていく状態の中であんな動きが出来るなんて。
おじさんとおばさんが、それぞれ一つずつのスピーカーを破壊した。動ける事もさる事ながら、爪の切れ味も凄まじい。あれをざっくり切り裂くなんて、そうそう出来る事じゃないだろ。

「くっ、これが限界か」
〔ニャァァ!? スピーカーが!〕
〔で、でも飛んで火に入るゾロアーク! そ~れネット発射ぁ!〕
「! 影牙!」
「おじさん避けて!」
「くそっ、眠気が……」

 あの網! 区切りネットじゃないか。そうか、あの穴を開けたのもこいつ等だったんだな。そして、入ってきたのはこいつか!
おじさんにネットが覆い被さり、動きが拘束される。ご丁寧に掛かった相手を包むような技巧がされてたみたいだ。あれじゃ切らない限りおじさんは出れない。

〔ふぃ~、まさかゾロアークなんてポケモンが居るとはな〕
〔それも二匹! なんだかとっても良い感じじゃな~い?〕
「おばさん、後のスピーカーは俺が潰します! 早くおじさんを!」
「も、もう私に出来るのもそれくらいだからね……お願い、零次君!」
〔あニャぁ? さ、最初にスピーカーを壊した奴がまた来るニャー!〕

 おじさん達が動いた時、確かに何かしらの力が働いたのを感じた。多分、おじさん達は自分の人の姿をその場に残したまま動いたんだ。
だから、その力が消える前にあのロボの全てのスピーカーを潰せばおじさん達の正体がバレる事も無い。一気に、全力で行くぞ!
感覚が研ぎ澄まされて、意識がより鮮明にはっきりしていく。空手を習って、試合を始めてした時に気付いたんだ。
この感覚が、俺に何をすればいいのかを教えてくれる。的確に奴を破壊する最短ルート、それが……見える。
どうしてこんな事が起こるか、それは俺も知らない。鋭敏になった感覚は全てを捉えて、俺に全てを見せる。
昨日スキンヘッドにカウンターを合わせられたのも、これがあるからなんだ。でも、今は昨日の非じゃない程に冴えてる。これなら、やれる。
まずはポケモンを弱らせてる音を消す。本体であるあのメインのスピーカーから出てるな……。獲物は、近くにあった棒切れで十分だ。
拾い上げて、砂を蹴る。所詮俺が出せるのは人の力、おじさん達のように距離を詰める事は出来ない。
でも、一歩一歩進めば必ず目的の場所には辿り着くんだ。そう、進むのを、止めなければ。
左手で棒の柄の部分を押さえて、そのまま大型スピーカーの中央に突き刺す。何か喚いてるのは聞こえるが、もうそんな物に構うつもりは無い。

〔ちょっ、なんなの!? ポケモンでもないのに向かってくるなんて!〕
〔ややややばいぞムサシ、このロボ攻撃なんか出来ないぞ!?〕
〔こ、こうなったらネット乱れ撃ちニャー!〕

 軌道が読める。そんな物、当たる気がしないな。
今度は手近にあった木刀だ。無断で借りる事にはなるが、非常事態なんだからって事で許してもらおう。
相手はもう殆どのスピーカーが壊れた木偶の坊。降ってくるネットを掻い潜りながら、最後のスピーカーへ接近する。
スピーカーの正面に出ればまたあの音の餌食だ。なら……根元を壊して落としてやる。

「おぉぉぉぉ!」
〔きゃぁぁぁ! 何!? 何なの!?〕
〔す、スピーカーのアームを壊す気ニャのか!? 止めるのニャー!〕

 渾身の振り下ろしだったが、まぁ木刀じゃ切断は無理だな。だが、俺一人の力でもかなり衝撃は入るようだ。叩き続ければ、いける!
一度体制を立て直して、今の一撃で奴がたじろいでる間にまた距離を詰める。
木刀の強度がどれだけ耐えてくれるかは分からないが、へし折れるまで叩き続けてやる!
ただ一点、最初の一撃でへこんだ部分に幾重にも一撃を叩き込む。これなら、剣道も習ってればまだもう少しマシだったかもしれないな。
十撃目、ミシミシいってたから限界だとは思ったが、木刀はぐしゃりと音を立てて折れた。くそ、やっぱりスピーカー部以外は丈夫か。
でも一点に亀裂は入った。ちっ、せめてもう一撃放てれば……。

『零次、屈んで!』
「! ラプラス!?」

 一筋の水流が、俺が殴り続けた場所にぶち当たった。回路やらコードが詰まってる部分に水が入り込めばどうなるか、そんなのはっきりしてるだろう。
スピーカーは妙な音を出しながらダウン、これで音は完全に止まったな。

『零次大丈夫か!? うわぁ、手が大変な事になってるじゃないか』
「ん? おぉ」

 あちこち切れて血だらけだ。いやまぁ、力任せに攻撃してればこうなるわな。
気が付くと痛みが……いや、まだだ。まだ終わってないんだから痛がってる場合じゃない。

「大した事無いさ。でも、よくこんなに早く回復したな」
『あの大きな音がしてから、ずっと歌ってたんだ。音に邪魔されて自分でしか聞けなかったけど、それで変にならなくて済んだみたいだよ』
「そうか……まだ皆が回復するのに時間が掛かりそうだ。頼む、少し力を貸してくれ」

 スピーカーロボの上部が開いて、中から男女二人と、一匹のニャースが出てきた。こいつ等がこれをしでかした馬鹿ってわけだ。

「ちょっと! なんて事してくれてるのよ! 折角上手くいきそうだったのに!」
「ふざけろ。あんた等がどれだけここの客に迷惑掛けたと思ってるんだ。そんなの野放しに出来るか」
「くー! これを作る為にどれだけの費用が掛かったと!」
「知るか。そもそもネットが盗品だった辺り、他のパーツも盗品なんじゃないのか?」

 ふん、黙りこくったな。図星か。

「む、ムサシもコジロウも言い負けてどうするニャ! しっかりするニャ!」
「そ、そうだった……おほん、このロケット団のムサシ!」
「コジロウ!」
「ニャースだニャー!」
「あたし達の邪魔をして、ただで済むと思ってるんじゃないわよねぇ!?」

 さっとモンスターボールを取り出した。なるほど、トレーナーだったか。自分達で向かってくるつもりだったら俺が相手するつもりだったが、それなら専門家達に任せるとしようか。

「ラプラス、安らぎの歌……歌えるか?」
『大丈夫だ。……なるほど、分かった、頑張るよ』

 すっと目を閉じて、ラプラスの口から歌が紡がれていく。
さっきラプラス自身が言ってただろ? あの音を自分の歌で中和してたって。あの歌には、確かな力があるんだ。
心が落ち着くような旋律が辺りに広がっていく。うん、やっぱり良い声だ。

「な、何この歌?」
「あのラプラスが歌ってるみたいだニャァ」
「お~、綺麗な良い歌だなぁ」
「歓心してる場合じゃないと思うがな。周り、見えてるか?」

 ラプラスの歌を聞いて、音でやられてた海水浴場のライフセーバーなんかが気を取り直したみたいだな。

「これに包囲されて、果たして無事で居られるかな?」
「こ、これは……」
「なんだかとっても……」
「やな感じー! に、逃げるわよぉ!」
「あぁ、待ってくれムサシぃ!」
「はっ、無駄だろうがな」

 胸にでかいRの文字の書かれた白い服なんて目立つ特徴があるんだ。この辺ではもう悪さ出来ないだろう。
……ん? なんか目の前が……。

『やったぞ零次! ……零次?』

 あれ、ラプラスの声も、遠く……。



 うっ? ここは何処だ? 確か、砂浜に居て目の前が真っ暗になった気がしたんだが、今は木製の天井が見える。
頭には、ひんやりする物が引かれてるらしい。まさか俺、倒れたのか?
ぼんやりと天井を見つめてたら、目の前にぬぅっとラプラスの顔が現れた。

「ラプラス……」
『よかった……目を覚ましてくれたんだな』

 ラプラスの目に涙が滲んでる。これは間違いなく、俺は倒れたんだな。
枕になってるのはラプラスのヒレみたいだ。適度に弾力があってひんやりしてて気持ち良い。
ラプラスが首を上げて一鳴きしてる。……ん? 複数の足音がばたばた近付いてきてるな。

「零次君! 気が付いたかい!?」
「零次、大丈夫か!? 声聞こえるか!?」
「……おじさん、司郎、頭に響くからトーンは下げ目で」
「あ、あぁごめんよ。でも、意識が戻ってよかったよ。何処まで覚えてるかな?」
「確か、あのロケット団って奴等が逃げていくところまでです。あ、あいつ等は!? ぐっ……」

 起き上がろうと床に手を付いたんだが、痛みでまた倒れ込んだ。顔の前に持ってくると、両手は包帯で固められてたぞ。そういえば、しこたまぼろぼろになってたんだった。こりゃ、しばらく物は掴めない……訳でも無さそうだな。一応動くし。

「まだ起き上がったら駄目だって。あれから今までピクリともしてなかったんだから」
「……どれくらいこのままだったんだ? 今何時なんだ?」
「もう夕方の5時。ここに運ばれたのが昼前の11時くらいだったから、6時間の気絶って感じかな」
「そうか、そんなに経ってたのか。すまないラプラス、その間ずっとこのままだったんだろ?」
『気にしなくていいって、私が勝手にやった事なんだから。それに、友達が大変なら何かしてやりたいじゃないか』

 それを言われたら、ちょっと反論出来ないな。俺も似たような理由で無茶してこうなってるんだし。
でも、こうして司郎もおじさんも無事って事はなんとか正体は隠せたって事かな。俺のやった事も無駄じゃなかった訳だ。
あれ、おばさんと心紅が居ないな? それにリオルも。一体何処に?

「おじさん、おばさんや心紅は?」
「さっきまでここに居たんだが、心紅ちゃんを連れて今は外に居るよ。あの子、倒れた零次君を見て真っ青になってたし、ずっと付きっきりだったからね」
「リオルはそれについて行ってるぜ。あっちも大分参ってたけどな」
「そっか、大分皆に迷惑掛けたみたいだな」
「それを言うなら、君はあの砂浜に居た者全員の迷惑事を背負い込んでこうなったんだから誰も文句は言えないさ」

 なるほど確かに。我ながら、相当に無茶したものだよ。なんとかなったからいいけどさ。
……しかし、この手じゃもう泳ぐのは無理だな。時間が時間だし、後はホテルに戻って休むしかないか。

「手はそれほど掛からずに治ると思うよ。ここの提供で回復の薬を頂いたからね」
「そうなんですか? 治療薬の中でも一番高い物ですよね、それ」
「零次がやった事にしたらお釣りの方が多いくらいだって。もうなんか、人間離れした動きしてたもんなーあの時の零次」
「こら司郎」
「否定はしないが、ストレートに言ってくれるな、全く」

 あの感覚以外は何も変わってないにしても、ロボ一機を叩き伏せてるんだからやっぱり人間離れしてるか。同じ事してくれって言われて出来るかって聞かれたら答えはノーだ。
そういえば逃げていった奴等はどうなったんだ? 結局、俺はあの後動けなくなった訳だし。

「あのロケット団って奴等はどうなったんですか? 流石に捕まったと思うんですけど」
「それが、物凄い逃げ足で逃げ切られたらしいよ。まぁ、この辺りではもうあんな事出来ないだろうけどね」
「動けなくされるとは思わなかったよなー。父さんが捕まった時はめっちゃ焦ったよ」
「零次君が居なかったら相当危険だったろうね。感謝するよ」
「俺がやったのはきっかけ作りぐらいな物ですよ。止めを刺して、皆を治したのはラプラスですしね」
『わ、私か!?』

 頷いてみせると、なんだか照れてるみたいだ。そっか、こいつ牝だったもんな。ちゃんと可愛げあるじゃないか。

「なぁ、リクエストしていいか? お前の歌……もう一度聞かせてくれ」
『もちろんいいさ。これ以外を頼まれたら、ちょっと困るけど』

 また、ラプラスの安らぎの歌が辺りを満たしていく。……そうか、この感じ何処かで感じた事があると思ったよ。
これは、子守唄。親が自分の子に与える初めての安らぎ、それにとても近いんだ。だから聞いてると、こんなに心が落ち着いてくる。
誰もが、いつか何処かで聞いた事のある旋律。誰しもの心に響くのは、自分の大切な思い出に響くからなんだな。

「素晴らしい歌だよ……また、もう一度頑張ろうと思えてくる」
「ずるいよなぁ、こんな良い歌歌える相手に昨日の夜出会ってたなんて」
「ははっ、これだけは司郎のお使いをしてやっての役得だったな」
「む~、今度は俺も行くもんね!」

 おっと、ラプラスのもう片方の鰭が俺の体に掛けられた。……まぁ、悪くないかな。

『誰かの為に歌う……こんなに楽しくて、嬉しいとは思わなかったな』

 歌いながら俺に笑い掛けてくるラプラス。うん、偶然とはいえ、この出会いには感謝しないとな。
おや、誰かが駆けてくる足音が聞こえる。

「ラプラスちゃん!? ! 零、次……さん」
「心紅、それにおばさんとリオルも。心配させて」
「……ふぐっ、ぐすっ、うぅ~」

 むぅ? 泣きながら心紅に抱きつかれてしまった。
おばさんとリオルは、それを少し遠巻きから見てる。あ、リオルも泣いてるみたいだな。

「どうしてあんな無茶をしたんですかぁ~、もう目を覚ましてくれないかと……」
「い、いや、疲労はしたけど俺自身は何かされた訳じゃないし」

 なんて言っても泣き止まないよな。ここは、素直に謝っておくか。

「……ごめんな」

 包帯で固められてる手で悪いが、そっと頭を撫でてやる。柔らかな毛の感触が分からないのは残念だな。
これは、しばらくこのままだろう。ま、おじさん達しか居ないし、しばらくはこのままでもいいか。

 十数分をそのままで過ごして、俺達は海の家を出た。残念ではあるけど、今日はもう夕日も沈みそうだし、ホテルに引き返す為の準備も終わった。
さて、ここで俺には一つやる事がある。ラプラスを海に返してやらないとな。
しかし、手元にあるのはあのボールだけなんだよな……これ、使って大丈夫なのか分からないんだが、他のを買いに行くのも難しいしなぁ。

「すまないラプラス、少しだけ我慢してくれな」
『分かったけど、それってモンスターボールじゃないんだろ? 上手く行くのか?』
「それもなぁ……まぁ、使えなかったらコンビニまで走るさ」
「その時は俺が行くってばよ!」
「まぁ、頼むか」

 ボールを手に取って、軽くラプラスに投げてみる。ん? ボールが淡く光ってる?
そのままラプラスは光になってボールに吸い込まれていった。んだが、なんか見た事のある物とは違うな。確か赤い光になって吸い込まれると思ったんだが、青い光になって吸い込まれていったぞ?
ボールの光が止んで、聞いた事のあるカチンって音が聞こえた。確か、ボールにポケモンが登録されたって事の確認音だったよな。

「ちゃんと使えたみたいですけど……」
「明らかにモンスターボールとは違う反応を見せたね……ラプラスちゃんの事、出せるかい?」

 おじさんに促されたし、俺も気になるから一度出してみるか。
ポケモンが入ると、ボールは少し小さくなって携帯し易いようになる。それを真ん中のスイッチを押して元の状態に戻し、それを投げるとポケモンが出てくるんだったな。
やってみると、ボールからまた青色の光が溢れてきてラプラスの姿になった。なんか大丈夫そうだな。

「ラプラス、なんともないか?」
『あぁ、大丈夫だ。ボールって凄いんだな、中にここと同じ風景が出来てたし、海とか波まであったぞ』
「なんだって? ふむ……そんな事はまず無いと思うんだけどな? 確かにボールには、入る事になるポケモンに最適な環境設定が成されるようになるけど、そんな風景の再現はされない筈だよ」
「それはそのボール、アクアボールの特性ですよ♪」
「ん? あぁ!」

 後ろから聞こえてきた声に振り返ると、俺がアクアボールを買った時に居た店員がそこに居た。

「へぇ~、ラプラスがそのボールに入る事になりましたか。ま、水に属する者としては最適かもですね~」
「あなたは、一体誰なんですか? それに、このボールは?」
「私ですか? アルスと申します! あぁ、それとそのボールは私の特製です♪ この世界に溢れてるモンスターボールと、その派生品とかとは機能こそ同じだとして、完全に別の物で~す!」

 買い物した時も思ったが、やけにフレンドリーな接し方だよな。っていうか今凄い事言ってたんだが。これを作ったって?

「それには~ポケモンと人、その双方が心を一つに、互いの事を大切に思う者同士でないと働かないようにしてたんですけど~、どうやら私の見立て通り、あなたは良い人だったみたいですね~」
「……よく分からないが、どうやらとんでもない者だったって事は伝わってきましたよ。でも、何故これを俺に?」
「気まぐれで~す♪ ぶっちゃけ暇だったから創ったけど、使い手になれそうな人が居なかったんですよね。いやぁ、良い持ち主が見つかって、そのボールも喜んでますよ~。大事にしてあげてくださいね♪ そのボールもラプラスちゃんも!」

 不意に空中に浮いたかと思ったら、その人は光に包まれて、別の者へと変わった。
純白の体に、黄金の輪を身に付けた様な姿のポケモン。ニコリと笑うと、その姿は透けるように消えていった……。
俺はどうやら、知らない内に『本来は触れ合える事の無い存在』にコンタクトされてたらしい。いや、なんとなくそう思っただけで、本当にそうなのかは分からないけども。

「零次? お~い」
「急に振り返ってそのままになったけど、何かあったのかい?」
「……いや、なんでもないです」

 おじさんや司郎にはそう見えた、と。……言っても信じられないだろうな。
アルス、とかって名乗ってたよな。一体なんだったのか……あまり気にしても分からない、か。

「とりあえずラプラスを海に返すか。また入って貰う事になるけど、我慢してくれよ」
『分かった。じゃあ、頼むよ』

 ラプラスをボールに戻してと。海に返すのは、出会ったあの岩場がいいかな。

「じゃあ俺はラプラスを海に返してきます。……心紅、頼めるか?」
「人もまばらにしか居ないみたいですし……大丈夫ですよ。あそこですよね?」
「あぁ。俺達は用が済んだらホテルに戻るんで、おじさん達は先に戻っててください」
「分かった。リオル君も一緒に連れて行くよ」
「頼みます。……すぐに戻るから、ホテルでまた遊ぼうな」
「リオ~♪」

 皆が歩き出したのを見送って、俺と心紅は人気の無い場所へ移動、ラティアスの姿に戻るのを見られたくないし。
戻った心紅に乗せてもらって、あの岩場に向かおう。昨日よりも高く飛べば問題無いそうだ。
沈みかけの夕日を見ながら、あの岩場が少しずつ近付いてくる。……さっきアルスが言っていた事。それが正しいとすれば……。

「到着です!」
「サンキュ。……ラプラス、待たせたな」

 ラプラスを出すと、夕日に照らされたその顔は寂しげだった。まぁ、気持ちは分かる。

『お別れ、だな』
「そうだな……俺達は明日の朝に自分達の町に帰る。会えるのも、これが最後だろうな」
「? なんだか零次さん、寂しそうじゃないですね?」
「今のは事実を言っただけだからな」

 やれやれ……寂しげだったラプラスの顔も、もう元に戻ってる。寂しげだったのは、そういう事なんだろうな。

『これから私は、共に歩んでいく仲間を探す為に旅に出るよ』
「それが目的だもんな、頑張れよ」
『が、それが何も海じゃなきゃならないって事は無い訳だ』
「え? ……あぁ、そうかもしれませんね!」

 やれやれ……親父達に言う言い訳、考えないとならないみたいだな。
トレーナーになるつもりは無い。でも……兄貴とは違う道を俺は行くよ。別の形で、一緒に進んで行く為に。

『折角出来た友達、みすみす別れるのは勿体無いよな?』
「かもな」
「勿体無いですね♪」
『もうボールにも入った事だし……』
「遠巻きに言わなくてもいいって。……来るか?」

 満面の笑みで、ラプラスは頷いた。それなら……。
もうしばらく、付き合うとするかな。



後書き的な~
まさかの9月突入で海編終了であります。時間掛かり過ぎですね…まだ続くというのに!
そして結局一緒に来る事になったラプラス。どんな名前になるか等は次のお話しから分かっていきます。零次の周りがポケモンだらけになっていく…。
チョイ役で伝説クラスが出てきたり、まんま原作(アニメ)のキャラが出てきたりしてちょっとやっちゃた感もありますが、その辺はスルーしておいてください! 多分今後はあの方達しか出てきません。

それでは、また次のお話でお会いしましょう…。

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最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 零次が完全に最強キャラなりましたね
    そして零次の初めての手持ちはラプラスですか
    これからも頑張ってください
    ――ポケモン小説 ? 2012-09-01 (土) 17:33:33
  • 今回はタケシだけじゃなく、ロケット団…さらには四天王のシバまで出てくるとは思いませんでした。
    しかし、零次は某マサラタウンのトレーナーと張り合えるんじゃないかという超人ぶりですね。
    ラプラスを仲間にしてトレーナーとなっちゃいましたが、関係は主・手持ちでは終わらないのでしょうね。

    自分も貴方を見習って小説を書かねば…。

    これからも頑張って下さいね。
    ――zenoa ? 2012-09-01 (土) 21:59:10
  • 純白のポケモンはアルセウスですか? サマーバケショーン応援してま〜す
    ―― 2012-09-02 (日) 00:31:07
  • モンスターボールって200円だからアクアボールとの差額は200円では?
    ―― 2012-09-02 (日) 02:09:54
  • >>ポケモン小説さん
    最強…というのとはちょっと違うかもしれませんね、零次は。
    確かに能力的に特殊な感覚は持ってますが、本人が言ってるように振るえるのは人の力です。限界を超えた力を引き出して手はぼろぼろになってますし、長時間の気絶なんかもしちゃってるから命懸けの強さですね。
    正式に零次と一緒に居る事になったのは確かにラプラスが初めてです。懐き具合的にはもうリオルがそれっぽいですけどねw コメントありがとうございました!

    >>zenoaさん
    おっと、シバさんにまで気付いて頂けるとは、ありがとうございます。ロケット団については、ちょっと悪ノリし過ぎてしまったかもしれませんがねw
    零次の場合は火事場力ですから、ニュートラで超人なあのトレーナーと張り合えるかは分かりませんねw

    私を見習うと色々大変な事になりそうなので、気を張らないで頑張ってください! 私もzenoaさんの作品を楽しみにしておりますよ♪(弄られる無君の姿とか!)
    コメント、ありがとうございました!

    >>09-02、00時の名無しさん
    創ったと発言してる辺りから分かるかもしれませんね。その通りです。
    コメント欄が分かれてしまってたので、勝手ながら移動させてもらいました。ご了承ください! 応援感謝です!

    >>09-02、02時の名無しさん
    わぁい、間違えておりました。ご指摘感謝です。早速修正してきました!
    ――双牙連刃 2012-09-02 (日) 04:09:14
  • 最高です!!
    GJです!!
    自分も見習います!!
    ――まはまは ? 2012-09-03 (月) 11:55:10
  • >>まはまはさん
    お楽しみ頂けたのなら何よりです、ありがとうございます♪
    が、私を見習うとのほほんとした雰囲気の作品に偏ってしまうので要注意ですw

    コメントが分かれてしまっていたようなのでこちらに移させて頂きました。なんか最近多い…。ご了承くださいませ。
    ――双牙連刃 2012-09-03 (月) 23:36:21
  • 「プシっといい音がして」ではなくプシュっといい音がしてではないのでしょうか
    違ったらすいません
    ―― 2012-09-15 (土) 09:32:32
  • >>09-15の名無しさん
    あ、これは少し大人しめに開けたのを強調する為にこちらを選びました。ラムネでプシュッ、まで行くと結構勢いがあるように感じたもので。
    でも確かに勘違いを生む擬音だったかもしれませんね…ご報告、ありがとうございます!
    ――双牙連刃 2012-09-15 (土) 10:59:09
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Last-modified: 2012-09-01 (土) 00:00:00
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