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サマーバケーション! ~強き者~

/サマーバケーション! ~強き者~

writer is 双牙連刃

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繋がりは新たな繋がりを生み、戦いは新たな戦いを生む。そう、どちらも、誰かが終わらせない限り…。



『零次さん、これはなんて読むんですか?』
「ん、それは鳥だな。意味は……まぁ、分かってるだろ」
『大丈夫です。ふむふむ、これが鳥って文字なんですね』

 司郎も小学生の時の教科書なんてよく持ってたな。心紅の勉強には大助かりだ。
外は久々の天の恵みによって潤ってる。昨日から降り出した雨は止む事無く、しとしと静かに大地を潤し続けてる。
なんで心紅が国語の教科書なんか読んでるかと言うと、アルトマーレ探しについて一つの結論に達したからだ。
幾ら心紅が方向音痴であろうと、地図があればそこが何処かは分かる。そして、文字や言葉を知ってれば筆談という方法で行く先で質問が出来る。
故に文字の書き方と読み方を教える事にしたんだ。まぁ、その後に地図の読み方まで教えて完成なんだが。

「いよっしゃー! 課題全部コンプリートー!」
「おっ、そっちも終わったか」
「おぅ! これで俺も心紅の勉強に付き合ってやれるな」
『ありがとうございます~』

 ま、司郎はポケモン側からの苦労なんかも知ってるし、俺だけで教えるより良いだろう。
因みにどちらも元の姿で居る。……おまけに心紅の要望でこの部屋で全員で寝泊りしてるんだから結構手狭なんだよな。
ん? 携帯に着信が……あれ、知らない番号からだな。誰だ?

『零次さん、どうしたんですか? 何か鳴ってるみたいですけど』
「電話か?」
「あぁ、ちょっと出てくる」

 その場で出ても良かったが、一応部屋から出た。おばさんはテレビを見てるのか、何やら料理番組の音声が聞こえてきてる。
さて、そんな事気にしてないで電話に出るか。受話ボタンを押して、と。

「はい、葛木です」
「突然電話を掛けさせてもらう事を、まずはお詫びさせてもらうわね。ゲンから教えられたのが電話番号だけだったから。シロナと名乗れば、私の事は分かってもらえるかしら?」

 あぁ、あのリオルの! そうか、後日に連絡するって言われてたな。思い出すと、確かに電話番号は教えたけど名乗ってない。すっかり失念してた。

「はい、分かります。その後、リオルは元気にしてますか?」
「えぇ、あなた達のお陰で。ごめんなさいね、連絡に時間が掛かってしまって」
「気にしないで下さい。ゲンさんに捜索を任せていたりしたと言う事は、お忙しいという事は詮索出来ましたんで」
「ありがとう。それで、リオルの件であなた達にお礼をしたいと思って連絡させてもらったのだけど、今、時間はあるかしら?」
「問題は無いですけど……お礼なんて、俺達が勝手にやった事ですし、お気になさらないで下さい」
「……実は、ゲンからあなた達の話を聞いて、私も会ってみたいと思ったの。お礼も兼ねて、どうかしら?」

 ? そういえばゲンさんも、素質がどうとか言っていた気もするな……その関係か?
そう言う事なら別に構わないか。話してる感じ、落ち着いた雰囲気の女性みたいだしそこまで警戒する事も無いだろう。

「そういう事でしたら、分かりました。そのお話、お受けします」
「感謝するわ」
「それで、お会いするのは何時に?」
「実は、今日くらいしかゆっくりとした時間は作れそうに無いの……申し訳無いのだけど、どうかしら?」

 おっと、なんとも急な話になったな。雨は降ってるがする事があるでも無し、まぁいいか。

「構いませんよ。何処で待ち合わせましょうか?」
「助かるわ。それなら……この町にある駅の前でいいかしら。分かり易いところに心当たりがそこくらいしか無くて。時間は、正午くらいにしましょう」

 軽食でも食べながら少し話でも、って感じかな。おばさんに言付けて行けば問題無いか。

「分かりました。あ、何か目印はありますか? こうして電話だけだと、お互いに分かりませんよね?」
「それなら、リオルと一緒に待たせてもらうわ。この子なら、あなた達を知ってるから」
「なるほど、了解しました。それでは正午に」
「えぇ、楽しみにさせてもらうわ」

 お互いに別れを告げて、電話を切った。あ、勝手に話を進めたが、司郎にも伝えないとな。あなた達って言ってた事だし。
長めの通話を終えて部屋に戻ると、何やら妙な事が始まってた。なんで二匹で向かい合ってるんだ?

「まずは基礎。はい、あー」
「クォ、クッ、オー」
「……何をやっとんじゃ?」
「あ、零次。いや、心紅が喋り方も教わってみたいって言うから、ボイストレーニング中」
「ォ、ァ、アー」

 おぉ!? なんかクォーンとか鳴いてるのは俺も聞いてたが、あって言えたぞあって! 声帯の関係で喋れないとかでは無いんだなぁ。
ただ喋るって事が必要にならなかったから鳴き声だけで済んでたって感じか? 思えば、司郎がゾロアークの状態で喋れるって事はそういう事だよな。
いやいや、関心してて忘れるところだった。さっきの話を伝えないとな。

「そうそう、昼頃に少し付き合って貰う事になりそうなんだが、いいか?」
「ほぇ? なにさ?」
「この前、迷子のリオル助けただろ? その主人のシロナさんから連絡あったんだ。俺達に会いたいんだってさ」
「あぁ、あのリオル。オッケー、昼頃ね。あ、昼飯どうすんの?」
「多分そっちで食べる事になると思う。おばさんには俺から言っておくよ」
「了かーい。よし心紅、次はいー」
「クッ、あ、いー」
『……喋るのってこんなに難しいんですね……』

 それでも確実に発声が上手くなってる。学習能力たかっ。この辺は、人よりもポケモンのがずっと優れてるのかもな……。
二、三日もすれば喋れるんじゃないか? ま、テレパシーで喋るより自然に会話出来る様になるのは良い事だろう。



 で、勢いで心紅も連れて来たんだが、よかったのか? まぁ、出掛けるなら一緒に行きたいって言われたから仕方ないけど。
皆で傘を差しながら雨の中を進む。そこまで強い雨じゃないのが幸いだな。

『これが傘なんですね。体が濡れないのはいいです』
「そうか、心紅は傘も初めてか」

 楽しそうにくるくると傘を回しながら歩く姿は可愛い部類に入るのは間違い無い。今は俺達以外に人が居ないからいいけど、あまり他人が居るところでは傘を回さないようにするよう言っておいた。
やっぱり流石に雨降りでうろうろしてる奴は居ないか。足早に目的地へ向かう人ばかりだ。
こういう雨の時って、野生で暮らしてるポケモンはどうしてるんだ? 心紅の発言的に濡れっ放しなのか?

「なぁ心紅、こういう雨の時って、普段はどうしてるんだ?」
『そうですねぇ……まずは雨宿り出来るところを探して、その間に濡れたり冷えたりしたら皆で身を寄せて暖を取ったりします』
「ほーんなるほどね。濡れて喜ぶのは水タイプくらいか」
『ですね。暑い夏場なら別ですけど、それでもやっぱりあまり濡れたくはないです』

 まぁ、なんであれ濡れるのはそんなに好ましくはないか。風邪とか引いても厄介だろうし。
そろそろ駅が見えてくる。明後日はここから海へ向かう訳だな。
目印はリオルなんだが……おっ、時計柱の前に居るのがどうやらそうらしいな。
向こうも気付いたようだな。傘の中から思いっきり走り出してこっちに向かってきた。

「リオ~!」
「おっと良いタックルだ。どうやら元気だったみたいだな」
「あら、よっぽどあなたの事が気に入ってたみたいね」

 この声は電話の……金髪に不思議は髪飾りを着けた女性がゆっくりと近づいてくる。ノースリーブの黒のベストに黒のパンツ姿だから余計に金髪が目立つな。スラッとしてて綺麗な人だ。

「始めまして。その子のトレーナーのシロナよ」
「こちらこそ。葛木零次と」
「黒子司郎でっす!」
「そう、あなたがもう一人の。あら、あなたは?」
「あぁ、心紅って言って、俺の……親戚なんです。夏の間だけ一緒に過ごす事になってまして。ちょっと訳有りで」

 心紅はぺこりとお辞儀をした。これで察してくれたのか、シロナさんからそれ以上の言及はしてこなかった。ふぅ、咄嗟に親戚って言ったがまぁいいだろ。
とかなんとか言ってる間にリオルが俺をよじ登って勝手に肩車の形になってる。これも気に入ったと。まぁいいか。
シロナさんも見てクスクス笑ってないで止めるとかしてくれてもよかったように思うが……気に入られての事だから見てたって事かな。

「なるほど、確かに面白いわね。こんなに短時間でそこまでポケモンに信頼される人っていうのはそうそう居ないわ」
『それは同意です』

 何故そこで納得するんですか心紅さん。俺は別におかしな事はしてないぞ?

「このまま雨の中で立ち話もなんですから、何処か入りましょうか。軽食でもと思ってるんだけど」
「あっ、そんなら俺、いいとこ知ってますよ。ここからそんなに離れてないし」

 ほう、司郎がそんな事に詳しいとは思わなかった。俺はそんなところに連れて行かされた事無いんだがな?
そこでいいって事になったんですぐに移動になった。どうやら俺はこのままリオルを肩車し続ける事になるらしい。一向に降りるような素振りが無い。
……本当に意外だな、落ち着いた雰囲気の良い喫茶店じゃないか。客入りも多い訳じゃなく少ない訳じゃなく、静かで落ち着く。

「よく知ってたなこんなところ? 俺とは来た事無かったよな?」
「パスタが美味かったんだよなー。それに、ここのマスター父さんの知り合い」

 何ですと? それって、そういう事か? マジかい……。それならほいほい来れないのも納得だ。
っと、店員がメニューを運んで来てくれた。そういう店って事はこの人も……いや、詮索すべき事じゃないよな。

「好きな物を頼んでくれて構わないわ。お代の心配はしないで」
「いえ、そんな。自分達の分は……」

 すっとシロナさんの指が俺の口に当てられて、俺の言おうとした事は遮られた。……言いっこ無し、か。
そうされると頑固に断ったらそれこそ失礼か。なら、厚意にあやかるとしよう。

「そんなら俺はカルボナーラで! ここのは本当に美味いですよ」
「そういう事なら私も同じ物を選ばせてもらおうかしら」
「俺は……このセットサンドにするかな。それとミルクティーで」
『それなら私も零次さんと同じ物でお願いします』

 了解した。とりあえず一芝居だな。

「心紅、どれにする?」

 カタカナは昨日に教え済み、指はちゃんとセットサンドを指差した。テレパシーで意思疎通するのはこういうのが面倒だな。
他の物を頼んでもよかったんだが……膝の上に座ってるこいつにもやる事を考えてのチョイスってところだな。

「ごめんなさいね、リオルの面倒まで見てもらってしまって」
「ははは、このくらいなら問題無いですよ」
「肩車しただけなのに本当に懐いてるなー」
「そうね、それだけ零次君が本気でリオルを助けようとしてくれたって事なのかもしれないわね」

 確かに助けてやらないととは思ったけど、そこまで真剣だったかと言われるとちょっと自信は無いんだが。
でも、こいつがそう思ったのならそうなのかもしれないな。
決まった頃を見計らってくれたのか、メニューを下げに店員が来てくれた。各自の注文を頼むと会釈をしてカウンターへと戻っていく。
……何故無言だったのかを探るのは野暮かな。一応最後に小さい声でごゆっくりどうぞって聞こえた気は……しないでもないし。

「そうだ、えーっとシロナさん、俺達が会ったゲンさんは今日居ないんですか?」
「誘いはしたんだけど、少し用で来れないかもしれないの」
「へぇ、シロナさんもゲンさんもお忙しいんですね。差し支えなければ、どういうお仕事をしてるか伺っても?」
「え? ポケモン連れてるしボール持ってるんだからトレーナーじゃないの?」
「それだったらパートナーであるポケモンの一匹が迷子になったのに、自分で探しにいけない状況になるのもおかしいだろ?」
「あ、確かに」

 俺達の話に納得したのか、小さく頷いた後にシロナさんの口は開かれた。

「基本的にはトレーナーと言う事で間違いは無いわ。でも、この町に来たのは別の目的。どっちかと言えば、私の趣味の分野ね」
「趣味、ですか?」
「あなた達、この近くで未探索の遺跡が見つかったのを知ってるかしら? まだ公式に発表されたものでは無いのだけど」

 司郎の顔を見てみたが、そっちは? とでも言いたげな表情で返された。俺にも思い当たる話は無いな。

「知人からその遺跡の調査の手伝いを頼まれたのが、私がここに居る理由。ゲンは私から応援を要請したの」
「遺跡の調査か、なんかすげぇな」
「それが趣味だとすると……考古学ってところですか?」
「えぇ、各地に残る伝説や伝承を見聞きして回っているの」

 それはまた凄い趣味だな。それにトレーナーだから調査の手伝いを依頼されたって訳か。
しかしこの辺に遺跡か……男として、やっぱり興味が無い訳じゃないかな。
っと、話は一先ず置いておこう。頼んでいた料理が運ばれてきた。うん、どれも美味しそうだ。

「あら、良い香りね」
「味もばっちりですよ! いっただっきまーす!」

 こっちのサンドイッチも美味そうだ。一つをリオルに渡してやって、俺も食べるとしよう。
しまった、ミルクティーをホットで頼んじまった。うーん、折角店の中が適温なんだからアイスで頼めばよかった。
ん? なんか手がカップに触れた。さっきのウェイトレス? ……え、ミルクティーがアイスになってる。少し笑ってるって事は、俺が勘ぐってたのもバレてたのか? ……空恐ろしい喫茶店だな、ここ。

『あなたは色々知ってそうだからサービス、らしいですよ。私も変えてもらいましたー』

 なんとまぁ……どういう原理で人の姿になってるかは分からないが、どうやらエスパータイプのポケモンだったらしいな。心紅とは念で会話してたのか。
そうしてしばらく他愛の無い談笑をしながらの食事が流れていった。聞かれたのはここでの生活とかだな。
実際ゆっくり食べたから一時間くらい経ったかな。皆食べる物は食べたし、かなり満足出来る昼になった。

「うーん、美味かったー」
「本当ね。こんなに美味しいパスタは久々だったわ」
「お前も美味しかったか?」

 俺を見上げながらリオルも頷いた。それはなによりだ。

『美味しかったですけど、他の物も食べてみたかったですね。食器の使い方も早く覚えたいです』

 心紅はまだまだ人間生活勉強中だから仕方ないさ。俺もまだまだ教えてやるから心配するな。

「楽しい昼食だったわ。お礼のつもりだったけど、私も十二分に楽しませてもらったわね」
「俺達も色々聞けて楽しかったです。ありがとうございます」
「でも遺跡かぁ、ちょっと行ってみたいよなー。まだ誰も入った事無い場所なんですよね?」
「えぇ、どんなポケモンが居るかも分かっていないし、安全が確認出来るまでは公表はされないと思うわ」

 となると、俺達が行けるようになるのは大分先の事になりそうだ。近くにあるらしいのに少し残念だな。
いや、分からんでもないが司郎、落胆し過ぎだろ。無理な物は無理だって。

「……でもそうね。知ったのに行けないと言うのは少し可哀そうかしら」
「シロナさん?」
「あなた達の夏休み、何時頃まで続くのかしら?」
「今月いっぱいはそうなります。もしかして、もしかしてですか!?」
「まだ先になりそうだけど、夏休み中にあなた達を招待してあげられるかもしれないわ。どうかしら?」

 それはもう、俺が答えるまでも無く司郎が答えるだろう。

「行きます! ずぇったいに行きます! だよな、零次!」
「俺が行かないって言っても無駄だろ? そうなったら俺も付き合うよ」
「ふふふ、やっぱり男の子はそうよね。絶対は約束出来ないけど、なるべく招待出来るように配慮してみるわ」
「ぃやったー! 夏休みの楽しみが一つ増えたぜ!」
「まったく、決まった訳でもないのにはしゃぎ過ぎだ。落ち着けって」
『でも零次さんも内心ワクワクしてますよね♪』

 こらこら心を読むんじゃない心紅。司郎がはしゃいでるんだから、俺は落ち着いてないと釣り合いが取れないんだから仕方ないだろう。
遺跡探索か……もし実現すれば、休みのイベントとしても大きな物になりそうだな。やっぱり、楽しみだ。

「それじゃあ、そろそろ出ましょうか」
「そうですね。あ、ウェイトレスさん会計お願いします。……色々ありがとうございました」

 そっとそう付け加えると、ウインクが一つ返って来た。本来の姿は何か分からないけど、割と良い人? そうだな。
揃って店を出ると、雨は小雨に変わっていた。明日も雨って事だったけど、これなら今晩辺りで止むかもしれないな。
ん? 何か……駅前の方が騒がしくなってるな? 何かあったのか?

「なんだぁ? 人だかりが出来てるぞ?」
「あれは……誰かが勝負をしてるようね。こんな街中では危険ね……」

 そう言ったと思ったらシロナさんは人だかりに向かって駆け出した。ど、どうしたんだ?
とにかく俺達も追いかけよう。放っておくのは不味い気もする。



 人だかりに着くと、その中央で対峙してる二人のトレーナーが居るのが見えた。こいつ等がこれの原因か……。

「フシギバナ、ソーラービーム準備は出来たな? 撃て!」
「カメックス、ハイドロポンプで相殺だぁ!」

 強力な技同士がぶつかり合い、弾ける。その力の余波は地面や周囲を傷付ける。
こんな勝負が続いたら、いずれ周りに被害が出るぞ!? 勝負の理由はどうであれ、早く止めないと。
どうやら人だかりも、野次馬じゃなく危険を察知した人達がそれ以上人が近付かないようにする為に形成されているらしい。このままじゃこの人達も……。
あ、誰かがトレーナー達に近付いていく……あれは、シロナさん!?

「これ以上の戦闘は止めなさい。こんな街中でやっていい規模の戦闘じゃないわ」
「なんだあんたは? 一度始まった勝負、そんなに簡単に止められるか!」
「弱い等と罵られ、黙って見過ごす事は出来ませんね」

 どうやら戦闘の原因はカメックスの主人みたいだ。そりゃ、そんな事があれば腹を立てるのは当然だ。

「それならば、然るべき場所で決着をつけなさい。あなた達の私怨に町を巻き込むなと言ってるの」
「うっせぇな! 首を突っ込むなら、どうなっても文句は言えねぇよなぁ!」
「う、うわっ、不味いってあれ、零次」
「……司郎、リオル頼む」

 肩車してたリオルを下ろして、人だかりに分け入る。トレーナーじゃない俺に出来る事なんて無いだろう。でも、行かないとならない気がしたんだ。
なんとか……最前列だ。くっ、二人のトレーナーが同時にシロナさんを狙ってる。

「シロナさん!」

 俺の声が聞こえたのか、シロナさんは少しだけこちらを振り向いて……。
確かに、笑った。

「ルカリオ、ガブリアス、止めるわよ」

 シロナさんが身に着けていたボール二つを取り出して、空へと放る。そして、二匹のポケモンが姿を現した。
さっき司郎に預けてきたリオルの進化形、ルカリオ。そして、鋭利な棘や爪が特徴的なガブリアスと呼ばれたポケモン。見ただけで分かった。二匹とも……強い。
向かっていった二匹は明らかに二人のトレーナーが指示を出すポケモンを圧倒している。まさか、こんなにシロナさんが強いなんて……。
結果は火を見るより明らかだった。二匹のポケモンによって、カメックスもフシギバナも打倒されたんだ。

「つ、つえぇ……」
「まさか、これほどのトレーナーが居るとは……」

 でも、まだ続けるらしい。二人ともそれぞれにポケモンを戻して、新たなポケモンを出そうとしている。
……今なら、俺で止められる!

「いい加減に……しろ!」
「え、零次君?」

 人だかりから飛び出して、まずはカメックスのトレーナーの鳩尾に肘突を突き立てる。習っててよかった空手の基礎。

「なっ」

 驚いて固まってるフシギバナのトレーナーに近付いて、その服の裾をしっかりと握る。そのまま……一気に投げる。

「はぁぁぁぁ!」
「なっ、ぐはぁ!」

 倒したトレーナーの眼前に拳を突き立てて、最後の警告としよう。

「これ以上戦うって言うなら、俺は迷わずこの拳を使わせてもらう。それが嫌なら、負けを認めろ」

 怯えた表情で頷いた。これなら、もう馬鹿な事を始める気も無くなっただろう。
様子を見てたであろうシロナさんが寄ってきた。まぁ、突然戦闘に分け入った形になるし、当然か。

「大丈夫? って、聞く必要も無さそうね」
「えぇ、大丈夫です。すいません、差し出がましいかとも思ったんですけど」
「いいえ、無用な戦闘をしなくて済んだのだから構わないわ。少し、驚いたけどね」
「あははは……」

 どうやら警察も来たみたいだ。この二人は……器物損壊の罪は適応されるだろうし、無事では済まないだろうな。

「でも、どうしてあんな無茶を?」
「俺ですか? ……そうですね、人の私怨に振り回されるポケモンを見たくなかった、ってところですかね」

 望まない戦いを強いられて、勝利の先に得る物もない。そんな戦い、空しいだけだろ。それなら、戦う原因となる物を排除した方がずっといい。
これは俺の意見でしかない。でも、俺はそう思うんだ。

「……不思議な人ね、零次君は。でも、嫌いじゃないわ」
「それはどうも。ルカリオとガブリアスって言いましたっけ、この二匹。強いんですね」
「えぇ、私のパートナーの中でも特に力を持った子達だから」
「なるほど、これだけの強さがあるなら遺跡の調査でも安心って事ですか。……お疲れ様、お前達がカメックス達を倒してくれたから、俺も飛び込めたよ」

 俺が声を掛けると、ルカリオは当然だとでも言いたげだったけど、ガブリアスは少し照れたような仕草を見せた。なんだ、可愛げあるじゃないか。

「……リオルがあなたに懐いた理由、少しだけ見えた気がするわね」
「え? 何かおっしゃいました?」
「いいえ、なんでもないわ。警察の方には私から事情を話しておくから、あなたは、あっちに話をしてきた方がいいんじゃないかしら?」

 それもそうだな。散りだした人だかりを抜けて司郎と心紅が走ってきた。慌てなくても、怪我一つしてないって。

「零次ぃ~! だ、だいじょぶか!? なんか、あのトレーナー達に向かっていってたけど!?」
『怪我は!? 痛いところとかありませんか!?』
「お、落ち着けって二人とも。俺はなんとも無いって。ほら、何処もなんとも無いだ、おっと」

 リオルが胸元に飛び込んできたんでそのまま抱っこする事になった。こいつも心配してくれたのか? 頭を撫でてやると、ゆっくりと尻尾が揺れた。

「なんであんな無茶したんだよ~、シロナさんめっちゃ強かったじゃん!」
「なんていうか、嫌だったんだよ。しょうもない理由で戦わされてるポケモン見てるのが」
『それでトレーナーの方を倒したんですか……』
「まぁ、そういうこと」

 我ながら少々無理をしたかな。でも、思った時にはもう走り出してたし、しょうがないよな。
それでも随分心配させたみたいだし、反省はするか。今回は上手く行ったけど、いつも上手くいくとは言えないし、無茶はしないでおこう。
気がついたら、雨ももう気にする必要が無いくらいになってた。明日からは、また良い天気だろう。
しょうがない、冷や冷やさせた分の埋め合わせ、考えるとするかな。



後書き的な?
はい、なんだか消化不良な感じになってますが、どんどん進んでいきますよ。フラグはどんどん回収していきます!

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最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 零次はポケモンに対して凄く優しいですね
    執筆頑張ってください
    ――ポケモン小説 ? 2012-08-06 (月) 07:39:32
  • >>ポケモン小説さん
    少々度が過ぎた優しさな気もしますけど、確かに零次はポケモンを大事にしております。
    シロナさんと普通に話してる辺り、人間嫌いな訳では無いのであしからず!
    コメント、ありがとうございます!
    ――双牙連刃 2012-08-06 (月) 08:34:17
  • ウエイトレスの人(?)って、ルージュラですかね?
    ――アルファ ? 2013-03-19 (火) 09:27:54
  • >>アルファさん
    おそらく、司郎の家族と同じような境遇のゾロアークではないでしょうか?
    双牙連刃さん、違ってたらすみません。
    ――通りすがりの傍観者 ? 2013-03-19 (火) 21:35:42
  • >>通りすがりの傍観者様
    すいません……
    少し言葉が足りなかったようです。
    店主さんではなく、ミルクティーを冷やしてくれた方のほうです

    双牙連刄様
    作者様抜きでの会話、申し訳ございません。
    ――アルファ ? 2013-03-19 (火) 21:35:40
お名前:

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Last-modified: 2012-08-05 (日) 00:00:00
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