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サマバケ外伝2 望郷の思いを胸に

/サマバケ外伝2 望郷の思いを胸に

writer is 双牙連刃
かなり間は空いてしまいましたが…サマバケ外伝二作目でございます! 今回の主人公は、本編には登場しなかった存在という番外編にしていいのか怪しいお話でございます。
それでも良ければ…お読み頂ければ幸いです! ではでは…。



 路地裏をゆっくりと歩きながら、前方を逃げていく逃亡者を追い詰める。
何処に、幾ら逃げても無駄だ。上空から俺のシンボラーが追跡してるんだ、何処へ行こうが何処までも追跡する。

『前方袋小路にターゲット侵入。逃走不可能』
「分かった、戻って来いシンボラー」

 テレパシーでの通信の通りにシンボラーは俺の後ろに降りてきた。捕まえた時には驚いたが、空からの眼とこのテレパシーは便利なので重宝している。
スエードのブーツの足音を鳴らせながら、徐々に逃亡者へと近付く。奴にとっての絶望、それが今の俺。
袋小路は建物が密集して出来た少しだけ広い場所だったか。まぁ、どちらにしても唯一の通路に俺が佇んでいるんだから逃げられる事は無い。

「くっ……」
「鬼ごっこは終わりか? なら仕事を終わらせてもらおうか」
「こ、この町にお前みたいな奴が居るなんて情報は無かったぞ!? お前は何者だ!?」
「ポケモンの裏ブローカー兼非合法ハンター、オレバ。お前に相違無いな?」
「くっ、くくっ、スイーパーだかなんだか知らないが、始末されて堪るか!」

 小型デバイスを取り出して、こいつの情報を検索。連れているポケモンはダイケンキにギャロップ。それにニドキングか。割と良いポケモンを連れてるじゃないか。
デバイスを見ている間にダイケンキが襲い掛かってきてるみたいだな。それなら、こっちは奴にするか。

「トロピウス、叩き伏せろ」

 向かってきたダイケンキの上に、俺の持つボールから姿を現したトロピウスが襲い掛かる。
圧し掛かりで向かう行動を遮り、グラスミキサーで打ち上げてエアスラッシュを叩き込む。……別に死にはしないだろう。

「ひっ、そ、そんな、ダイケンキが一瞬でやられただと!?」
「……少々エアスラッシュを出すのが早い。上昇中より下降始め辺りの方がより深く相手を抉る事が出来る。覚えておけ」
「トロッ!」
「お、お前……人間、なのか?」
「失礼な奴だな。別にお前を生かして捕縛しろとは指示されていないんだぞ? 意味は分かるな?」
「くっ……くそぉぉぉぉぉ!」

 対象の無力化を完了。後は拘束して警察に突き出して俺の役目は終了だ。
さて、仕事の終了報告を送っておくか。奴の拘束には……そうだな、こいつにするか。

「ナットレイ、奴を縛り上げておいてくれ」
「ナット!」
「大人しくしてろよ。でなければ、体中が穴だらけになっても知らんからな」

 まぁ、あの鋭い鋼の棘を見て何かしようと思う奴は居ないだろうが。大岩でも貫く棘だ、人間なんてあっという間に貫通するだろうな。
おっとデバイスに報告完了のサインが……『丸くなったな』? 余計なお世話だ。
確かに一昔前の俺なら、こんな風にターゲットを無事な状態で確保したりしなかっただろうがな。……一応言っておくが、何かの命を絶つ事はしていない……筈だ。
さて、やる事はやったんだ。金が入るのは確定してるが、後片付けだけは済まさないとな。

「行くぞ、ナットレイ」
「……てめぇ、覚えてろよ……必ず復讐してやる……」
「構わない。強い相手と戦えるのならこっちとしても願ったところだからな。それと俺の名前はお前でもてめぇでもない」

 ……俺が捨てなかった数少ない物の一つ。俺が、誰なのかを証明するもの。

「葛木創一(くずきそういち)。それが俺の名だ……記憶したか?」

 葛木……俺が捨てた家族の名。俺が捨てきれなかった……大切な繋がりの名……。



 抵抗こそすれ、奴は警察に引渡したし向こう10年は出てくる事も無いだろう。脱獄でもしない限りな。
デバイスで入金されたか確認したが、これでしばらくは生活に困る事は無さそうだ。本部も仕事が早くて助かる。
……そうだな、明日の朝飯用に何か買うか。と言っても、夜の夜中に開いてる店なんて無いか。もう20時だもんなぁ。
それでも今日は割と早く対象が見つかったから楽な方だったか。深夜に捕物になって、危うく民間人を巻き込みそうになった事が昔あったもんだし。

「さて……帰るか」
「ナットォ♪」

 ……出したままだったの忘れてた。だが、まぁ……たまにはいいか。

「行くぞ、ナットレイ」

 地面に穴を開けないように、棘を引っ込めた三本の触手で器用に後を付いてくる。見た目の刺々しさもあるし、昼間は出来ないから今日は特別だ。
うん、このくらいの時間ならまだ店の手伝いも出来るだろ。早く帰ってマスターの手伝いでもするか。
俺が今居るこの街の名はクラウンシティ。ポケモンを使役して行うスポーツ、ポケモンバッカーズのスタジアムがある事で有名な街だな。
興味無くは無いが……俺の手持ちメンバーを出場させたら、まず相手を倒しそうだから止めておいてる。主人に似たのか、元々そうなのかは分からないけどな。
っと、店の明かりが見えてきた。俺が向かってるのはこの街での俺の宿として使わせてもらってる酒場。訳あってこの街に来た当初に世話になって、そのままここでの拠点にさせてもらってるんだ。
店の扉を開けると……うん、客入りは上々、かな。

「おぉ、ソウイチ。仕事は終わったのかい」
「はい。あ、これからホールの手伝いしますね」
「助かるよ」

 流石にナットレイに手伝えと言うのは無理があるし、代わりにバシャーモを出そう。人手ならぬ鳥手でも増えた方が仕事は楽だからな。ま、やらせられるのは空席の片付けくらいだけど。
閉店までは約三時間か。それなら、しっかりオーダーを取るとしますかね。

 ……静かになった店内に、俺がモップを掛ける音がよく響く。今日は客捌けも良かったし、酔い潰れる客も居なくてよかった。
バシャーモもせっせとテーブルを拭いてるし、そこまで時間も掛からずに終わりそうだな。
よし、店内清掃終了。綺麗な床を見るのはやっぱり気持ちが良いもんだ。

「お疲れ様、どうだい一杯」
「あ、はい。頂きます。……ん? バシャーモ……お前は駄目だって。前に飲んで酔い潰れたの忘れたのか?」
「シャモォ……」
「ははっ、じゃあバシャーモちゃんには特製ミックスジュースだ。手伝ってくれてありがとう」
「すいません、ありがとうございます」

 まったく、ポケモンなのに仕事終わりのビールを飲もうとするとはなんて贅沢な……ジョッキの半分も飲んだら酔うっていうのに。
一度こいつにカクテル飲ませてやった時は本当に大変だった。絡み酒でおまけに泣き上戸、体は触ってくるし離そうとしたら泣くしで苦労させられたもんだよ。
しかし、ただで飲ませてくれるマスターの優しさがビールと共に身に染みる。って、バシャーモのジュースもジョッキでくれたのか。働き分以上にご馳走になっている気がする……。

「な、なんかすいません、バシャーモにまで」
「いやいや、普段給料を断られてるんだからこれくらいさせておくれ。夕食は食べたのかい? 良ければ作らせてもらうよ」
「ありがとうございます。でも、そっちには……」
「分かってるよ、お代は頂くからね」

 じゃないと申し訳なくて食が進まなくなるからな、そうしてもらってる訳だ。
さて、それなら遅くはなったが他のメンバーにも飯にするか。流石にバシャーモだけに食わせて、他は無しとはいかないし。

「マスター、いつも通りでいいですか?」
「あぁ、構わないよ」
「ありがとうございます。それでは」

 出ていたバシャーモに加えて、トロピウスにナットレイ、それとシンボラーとドラピオン。
そして、俺がトレーナーになってからの不変のパートナーとして……。

「待たせたな、ダイル」
「オー、ダイ!」

 ワニノコの頃から一緒に居るオーダイル。こいつには種族の名ではなくダイルって呼ぶ事にしてる。その方がこいつも喜ぶしな。

「さ、出来たよ。やっぱりこの数のお客さんには作り甲斐があって楽しいね」
「すいません、図体のデカイのが揃ってて」

 何やら後ろから冷ややかな視線を感じるが気にしないでおこう。デカイのは確かだし。
ここにもう数ヶ月も世話になってるからか、マスターもこいつ等の好みに合わせて料理を作ってくれる。本当に助かるよ。
出てきた料理をそれぞれの前に置いてやると、早く食べたいって意思表示がそれぞれからする。だがまぁ配膳くらいは待ってくれ。
よし、これで全員に行き渡ったな。……因みに何故か俺はバシャーモとダイルの間で食べるのが決まっている。端で食べようとしてもダイルに真ん中に移動させられるんだな、これが。

「じゃ、食事を始めるか」

 俺の一言で皆がそれぞれの目の前の物を口にし始める。……何もマスターも同じタイミングで食べ始めなくてもいいんだけどな。
食器の使えるバシャーモとダイルはいいんだが、他のメンバーが食べた後はまた軽く清掃しておかないと。寝る前にやっておこう。

「ふふっ、でも君がここに来てからはこの時間も楽しくなったものだよ」
「あはは……そう言って頂けると助かります」
「しかし、君を港で見つけた頃が懐かしくなってしまったよ……あの時は本当に生きてるのかと思ったし」
「いや、まぁ……九割方死んでたかもしれませんね」
「……あながち冗談に聞こえない状況だったから苦笑いするしか無いね」

 なんせ、この街に来たのは本当に偶然、文字通り流れ着いたからな……よく生きてたもんだよ。
何があったかを言うと、ここに来る前に居たイッシュって地方から、ポケモンの始まりの地とも言われてるカントーへ行こうと船に乗ってた時に色々あったのが原因なんだけど。
流石に船上で報復に襲われるとは想定してなかったからな、少々油断して海に落ちたんだ。ダイルを出せればもっと安全に回避出来たかもしれないが、それも出来なかったからなぁ。
ま、それで流されてここに着いたのが不幸中の幸いってところだな。……前に使ってたデバイスぐらいだったし、損失は。
さて、皆食べ終わったかな。片付けもあるし、そろそろお開きにしますか。

「食べ終わったか? じゃ、片付け始めますか」
「そうだね。じゃあ、お願いするよ」
「はい。……よし、やるか」

 最後の一仕事をして、今日は終わりだな。もたもたしてると日付が変わりそうだし。



 朝のまだ静かな街の中を、市場へと向かって歩いていく。今日のランチと夜の酒場で出す料理の分だから量もかなりの物になるけど、ダイルにも半分ほど荷物を持ってもらうからなんとかなってる。
おっ、花屋のトモさんのところのモジャンボが花に水やってる。トモさんは店の中で売り物の花の手入れってところだろうな。

「お早うモジャンボ。今日も店の手伝い忙しそうだな」
「モ? モジャ~」

 毎朝この道通ってるからか、俺の顔を覚えたみたいなんでこうやって挨拶してやってるんだ。ははっ、こっちに向かって……多分手の役割をしてる触手を振ってくれた。
……まぁ、大体毎日袖を捲ったカットシャツとジーパンで通る奴が居れば覚えるか。何処に行っても大体場違いにならないし、この格好が一番動き易いからこればっかり持ってるんだよな。

「あらソウイチ君、今日も朝から買い出しご苦労様」
「あ、トモさん。お早うございます」

 俺の声が聞こえたからか、店の中から一人の老婆……って言ったら失礼かな。初老くらいの女性が顔を出した。この店の店主であるトモさんだ。
毎朝通るようになった俺に興味を持ったのか、トモさんから話し掛けて来てくれてからの仲。と言っても、この朝の時間に世間話程度に話すだけなんだけど。

「そうそう、今朝のニュースは見た? なんでも、この街で昨日の夜に指名手配犯が捕まったそうよ。怖いわねぇ……」
「そうなんですか? そんなのが街に入り込んでたとは……確かに怖いですね」

 なーんて、多分昨日俺が捕まえたオレバの事だろうな。メディアって言うのは何処から情報を引っ張って来るか分からないよなぁ。

「……ポケモンバッカーズの大会が近いこの季節に悪い事が起こると、あの時の事を思い出してしまうわねぇ」
「もしかして、三年前に起こったって言う事件の事ですか? 確か、コーダイネットワークの社長、コーダイが捕まったって言う」

 一応ここに来てからデバイスで調べられる程度の事件のあらましは調べた。コーダイが起こした、過去のこの街の緑全てを枯らしてしまった事件の事までな。
街一つをあるポケモンを利用する事によって占拠、そしてもう一度全ての緑を枯れさせてしまうところだったのを、この街に来ていた旅のトレーナーによって防がれて逮捕された……そんなところだったかな。

「今年ももう少しで大会が開かれるわ。その度に、何も無い事を祈ってしまうのよ」
「きっと大丈夫ですよ。それから三年、特に大きな事件は起きていないんですよね?」
「そうなのだけど……何か、今年は妙な胸騒ぎがするのよ。あの時のような事が起こる気がして」

 ……確かに、ここ二週間程で俺が捕らえた犯罪者はもう8人にも昇ってる。これはちょっと異常な数字かもしれないな。
何かが、犯罪者の目に付くほどの価値がある物がこの街にあるのかと思ってはいたが、これはきちんと調べた方がいいかもしれないな。

「あっ、ごめんなさいね買い出しの前に変な話しちゃって」
「いえ、そんな事は。……あの、トモさん。よければ後でその話、詳しく聞かせて貰えませんか?」
「え? 三年前の話かしら」
「はい。ただの興味本位になりますから、ご迷惑なら止めておきますんで」
「いいえ、お話くらいなら喜んで。それじゃあ、後でお茶でも用意して待ってるわね」
「あはは、ありがとうございます」

 よし、一先ずはトモさんと別れて買い出しを済ませよう。気になりはするけど、マスターに迷惑掛ける訳にもいかないし。
トモさんの花屋から更に港へと歩くと、目的地の朝市が見えてきた。どうやらこれは一年くらい前からやってるらしく、それまでは特にこういった市は開かれてなかったそうだ。
買う物は……まぁ、大量だ。でもここで全部揃うのが救いだ。色々歩き回ってるとそれだけで時間がごりごり無くなって行くからな。

「えっと……まずは魚から見ていくか。ダイル、出て来い」

 荷物持ちをやってもらうダイルを出して準備完了。よし、どんどん買っていくとするか。
しかし、やっぱり大会が近付いてるからか、日に日に人が増えてる。この朝市も、この街での見物対象になってるみたいだし仕方ないか。
ま、俺には関係無い事だな。この街としても、観光客が金を落としていけば潤うんだから良い事だろうし。
肉に香辛料、それに野菜と……よし、揃ったな。ん?

「勝つのは俺達のチームだ!」
「はん! そんな弱小チームにうちが負けるかよ!」
「……はぁ、今週に入ってからこういうの見掛けるの何度目だっけな、ダイル」

 ダイルが指折り数えるのを見ると……うわ、20を超えた。そんなにか……。
仕方ない、止めるか。面倒事を野放しにしておくと、返ってくるのは自分に来そうだし。

「バシャーモ、ドラピオン、あいつ等を止めてきてくれ」

 なんとか荷物を片手で持って、腰のベルトから二つのボールを持って投げた。
出てきて状況は分かったようだな。すぐにもめてる奴らに向かっていった。

「うわ、なんだ!?」
「ポ、ポケモン!?」
「そこまでだ。自分の応援してるチームに勝って欲しいって気持ちは分からなくもないが、道端で大声で口論を始めるのは頂けないな」

 そう、こいつ等は別にポケモンバッカーズの選手じゃない、ただのファンだ。
でもポケモンバッカーズが有名になるにつれ、チームも増えてそれに伴うファンも増えていった。そして、こういういざこざもな。
まぁ、こういう輩は叱りつければすごすごと退散する。仮にこっちにポケモンをけしかけてくるなら、軽い朝の運動としてはもってこいだ。
が、今回は前者だったみたいだな。お互いに顔を見合わせてさっと逃げていった。それはそれで詰まらないんだが、まぁいい。

「ご苦労。……ん? バシャーモ、荷物持ちたいのか?」
「シャモォ!」

 ……それは口実で、ボールから出ていたいから荷物を持ったんだろうな。楽になるし、別にいいか。
ドラピオンは気怠そうにしてるし戻してやろう。同じ牝でもこれだけ個性が出るんだから、見てて飽きないよな。
あぁ、市の店を出してる人は特に驚いてないぞ。俺の顔を見慣れてるだろうし。
それじゃあ予定とはちょっと変わったけど、ダイルとバシャーモを連れて帰るとしますか。
元来た道を、荷物を持った二匹に合わせてゆっくりと歩いていく。……こうしてると、子供の頃を思い出すな。もっとも、連れていたのはポケモンじゃなくて弟だったけど。
あいつ、今は何してるかな……間違っても、あの時の俺と同じような事にはなっていてくれるなよ……。

「バシャ……?」
「ん、あ、いや、何でもない。気にするな」

 心配そうに俺を見ていたバシャーモにそう答えた。……ダイルには、何を考えてたかうっすら理解されたかな。
今のように俺が落ち着くまで、ダイルには迷惑を掛け通しだったからな。相棒として、感謝してる。こいつが傍にずっと居てくれたから、俺は今の俺を取り戻せたんだから。
この宛ての無い旅を始めた頃の俺は……人じゃなかった。心無い、戦う事以外に興味を示さない哀れな人形、そう言っても差し支え無いだろう。
そうなった切っ掛けを、俺は忘れない。絶対に忘れてたまるか……ポケモンを、トレーナーを、道具のようにしか見ていない最悪の奴……。
あの爺さんに会ったから、会ってしまったから、俺の生き方は歪んだ。……いや、それはあの爺さんに会ったからじゃないな。俺が、あの爺さんの言葉に踊らされる程度の頭しか無かったからこうなったんだからな。
『お前もそのアリゲイツも弱いなぁ。磨けば良い物になりそうじゃが』 ……その爺さんの連れていたトレーナーに負けた俺に爺さんが掛けた言葉、それが罠だった。
負けた悔しさと、強くなれるというその一言から俺はその爺さんの元に通うようになった。なんの疑いも無く。
……確かに、爺さんのポケモンを見る目は確かだった。そのポケモンの秘めた力を見る、そんな事が出来たんだからな。でも……。

「それは弱いポケモンを否定していい理由にはならない……」

 ……その爺さんの教えを受けてる間に、俺の中には最低の考えがひしめいていった。
強くなるには、もっと強いポケモンを。もっと強い力を……。
そしてその暗くて黒い感情にどっぷりと染まった俺は、歪んだ強さを求めて、大切な物の殆どを捨ててしまった。
強いポケモンを手に入れて、戦って、戦って、戦って……。そんな考えに体を突き動かされてる俺が得たのは、敵。そう、周りに居る全てが敵で、ポケモンは戦う為の道具。そんな考えだけだった。
その頃だったな、今俺が犯罪者を捕らえてる理由、バンガードって組織に出会ったのは。
……まぁ、その頃の俺は狩られる側、賞金首にされてたんだが。そりゃあ、無差別にトレーナーを襲ってればそうなるよな。
で、俺は俺を捕らえに来たバンガードの奴に負けた。完膚無きまでに。……そこで俺がもし勝ってたら、まだ俺は、強さへの妄執に囚われたままだったろうな。
ん? っとと……な、なんか急に頭の上に乗ったぞ? なんだ?

「……ダイ」
「ダイル……悪い、気、使わせたみたいだな」

 頭に乗ったのはダイルの手だったか。まったく、昔は俺よりずっと小さかったかクセに、今では俺よりずっと大きくなっちゃったんだもんな。
……バンガードに負けて、捕らえられそうになってるのを傷だらけの体で守ろうとしてくれたのも、こいつだった。無茶に戦わせて、体中を傷痕だらけにした俺のことを、な。
生まれて初めてだったかもしれない、あんなに泣いたのは……。ずっと傍に居てくれて、傷だらけで俺を守ろうとしてくれてるこいつに俺は何をしてたんだろうって。
そのまま……しばらくはダイルの腕の中で泣いていた。後悔で、涙が止まらなかった。
泣き止んで俺は……自分が空っぽになってる事に気が付いたよ。家族を捨てて、自分を捨てて、何をして、何をすればいいかも分からなくなってた。
そんな俺の様子の変化に気付いて、そこに居て様子を見守っていたバンガードに声を掛けられて、今までの全部を話した。
そして、俺は捕らえられるんではなく保護って形でバンガードの本部へ連れて行かれた。軽く廃人みたいになってたみたいだし、それしか方法が無かったんだろう。
で、俺にはそこでバンガードとしての生き方を与えられた。目標も何も無くなってた俺には丁度良かったのかもなぁ……。
それからはバンガードとして旅を初めて、現在に至るって感じだな。……まぁ、その最初の頃はまだ黒かった時の名残でたびたび暴走してたが。

「……なぁ、ダイル。今の俺は……ちゃんとトレーナーをやれてるか?」

 返事の代わりに、また頭をくしゃくしゃと撫でられた。ったく、もうそんな事される年じゃないっての。
っと、思い出にふけってたらもう店が見えてきた。……なんかバシャーモがむくれてるが、あまり気にしないでいる事にしよう。後が若干面倒そうだが。

「マスター、戻りました」
「あぁ、お帰りソウイチ。少し遅かったけど、何かあったかい?」
「ゆっくり目に帰ってきたのもありますけど、朝市で口論を止めてたのもあったんで」
「そうだったのか。最近、ソウイチが街のあちこちでそういういざこざを止めているのを見掛けたというのをお客様から聞いてはいたけど……大丈夫かい? あまり無理はするんじゃないよ?」
「あ……あははは。はい、そうします」

 まぁ、目立つよな。分かってたけど、そんなに有名になってたとは思わなかった。
昼間は特に手伝う事も無いから街の構造と危険箇所のチェックの為に動き回ってるからどうしてもそういうのが目に付くんだよ……だから今朝みたいに止めちゃうんだよなぁ。
とりあえず買ってきた物をマスターに渡してと。……そろそろかな。

「お早うございます!」
「やぁ、ミトリちゃん。今日もよろしく頼むよ」
「はい! あ、ソウイチさんもお早うございます!」
「お早う。いつもながら元気だね、ミトリちゃん」

 昼間が暇なのはこの所為。ここにバイトしに来てるこの子が居るから俺が手伝う必要が無いんだよ。
俺がここに来る前から働いてる子だから、俺が手を出すのがおこがましいくらい仕事は出来る。っていうか、ここでの仕事は殆どこの子に教わったんだよ。
ま、そんな感じで俺がここに居るのは寧ろ邪魔。って事でさっき言ったような事をしてるってこと。

「それじゃ、ランチの準備を始めようか」
「はーい!」
「じゃあ、俺は出掛けてきますね」
「えー? ソウイチさんも一緒にお店の準備しましょうよー」
「プロが二人も居るんだから俺は邪魔になるでしょ。厨房に入れるの、二人が限界だろうし」
「そうですけどぉ……」
「おや、私と二人で仕込みをするのは嫌かい?」
「そ、そんな事は無いです! あぅー」

 あまりミトリちゃんを苛めるのもよくないし、俺は言った通り出掛けるとしようか。
……うわ、めっちゃバシャーモがジト目だ。そりゃまぁ荷物を受け取った後ずっと立たせたままではあったけど。
うぉぉ、腕組まれたかと思ったらそのまま強制的に引っ張られた。ちょっ、待て待て待て。

「ば、バシャーモ! ストップストップ、止まれって! ダイルもにやけてないで止めてくれよ!」

 なんと言うか……このバシャーモは俺がバンガードになった時に、まずはポケモンとの接し方から見直させる為だって事で渡されたタマゴから孵ったんだが……。
俺を親と言うかなんと言うか、ようは特別な相手として見ている節があって困ってるんだ。生まれる時から一緒に居るし、俺としても思い入れは無くはないんだが。
ダイルもこの状況を楽しんでるし、全く参るぞ。ダイルの場合、俺がこういう状況になれるようになった事を楽しんでるんだろうが。
仕方ない、ほとぼりが冷めるまでバシャーモに付き合うか。ついでに街の見回りをすればいいだろう。



 相変わらず腕は組まれたままだが、街の中を一通り見て回るのは終わった。大会が近いから、それ目的の観光客も居て街の中は実に賑やかになってたよ。
ふむ、そろそろトモさんのところに行こうか。話を聞きに行く約束してるんだし、あまり遅くなるのも悪いだろ。
……ん? 街の中を見た事の無いポケモンが飛んでる。緑色の……らっきょ? んな訳ないか。えっとデバイスデバイス……。
こいつにはポケモン図鑑としての機能も付属されてる。これのカメラで撮影したポケモンのデータを閲覧する事も出来るんだ。
何? セレビィ? 伝説の時を渡り歩くポケモン、だよな?
あ、そういえばここはセレビィが立ち寄る街としても有名だったな。でも確か、ここしばらくは姿を現さなくなってたんじゃなかったか?

「シャ、シャモォ!」
「ん、バシャーモどうし……うぉぉ!?」
「レッビィ?」

 撮影してデバイスに目を落としてる内にセレビィが俺の肩に止まってた……撮影音を聞かれたのか?
不思議そうな顔して俺のデバイスを眺めてる。警戒とかは、してる様子も無さそうだな。

「えっと……これはどうすればいいかな?」
「ダイ~」

 気にするなってダイルの目が言ってる。いやでもこれはどうやっても気になるだろ。
仕方ない、ここは通訳を出すか。

「シンボラー、出てきてくれ」
『お呼びでしょうか、マイマスター』
「あぁ、この肩の奴が何をしたいのか聞いてみてくれ」
『了解しました』

 そう言えば、シンボラーに会った時もイッシュの古代の遺跡で突然後ろから乗られたんだったっけな。
いきなり『フー、アー、ユー?』ってテレパシー飛んで来た時は驚かされた。何事かと思ったぞ。
物見遊山で行っただけだったんだが、こいつにそのまま気に入られてこうやって一緒に居るようになった訳だ。

『判明しました』
「ん、何だって?」
『面白そうだから来ただけ、だそうです』

 なんじゃそりゃ。……まぁ、別に悪さをしに来たって訳じゃ無さそうだからいいか。

「……お前、暇なのか?」
「ビィ!」
「そんな元気に返事されてもなぁ……ついて来る気か?」
「セ~レビィ~♪」
「はぁ……しょうがない、ちょっとだけだぞ?」

 嬉しそうにくるりと俺の周りを回ったと思ったら、頬杖を付くような形でまたちょこんと肩に乗ってきた。
それじゃ、珍客を連れて行く事にはなったがトモさんの花屋へ行くか。っと、シンボラーはボールに戻して、バシャーモとダイルは……そのままでいいか。
分かってはいたが、いかんせん視線を集める事になるか。そりゃあ傷痕だらけのオーダイルとバシャーモ、おまけにセレビィを肩に装備してれば目を引かない訳無いよな。
そんな視線を少々気にしながらも、なんとかトモさんの花屋まで来れた。……途中で二回ほどバトルを申し込まれたが、ダイルとバシャーモに片付けてもらった。もう少し歯応えのある相手じゃないと準備運動にもならないな。
トモさんは中かな? 入ってみるか。あ、ダイルとバシャーモは店の外に居たモジャンボのところに行った。ま、世間話でもしてくるのかな?
心地良いベルの音と共に扉を開けると、色鮮やかな花達が出迎えてくれる。手入れが行き届いてるからこんなに鮮やかなんだろう。

「はーい、いらっしゃ……」
「こんにちは。お約束通り立ち寄らせて……どうしました?」

 俺の姿を見た途端、口を開いたままトモさんは固まった。いや、どうも俺の肩に居るセレビィを見て、が正しいみたいだな。

「セ、セレビィ!?」
「あ、はい。ここに来る時にくっついて来て、っとと?」
「レッビィ~♪」
「なんだセレビィ、トモさんの事知ってるのか?」
「じゃあ、あなたはあの時のセレビィなのね! 大変、あの人を呼んでこなきゃ! あなた~!」

 な、なんだかよく分からないが、どうやらセレビィとトモさんは知り合いだったみたいだな。
っと、デバイスに着信が。……ミッションの発令? どうしたんだ?
ターゲットは脱獄囚、発見次第捕縛か始末する事、か。……え?
元コーダイネットワーク社長、コーダイ。そしてその部下のグーンだって!?
どちらもこの街で捕まった奴じゃないか! それも……その事件にはセレビィも関与してた筈だ。
……トモさんが朝に言っていた嫌な胸騒ぎ、間違いじゃないのかもしれないな。セレビィがここに居て、奴らがそれに合わせたかのように脱獄。話が上手すぎるだろ。
これは、三年前の事件を本格的に知らないといけないかもしれない。俺の勘違いならそれで構わない事だし。

「おぉ、本当じゃ! 本当にセレビィが!」
「ジョーさん! ジョーさんもこいつをご存知なんですか?」
「もちろん。ワシ等は三年前の事件をこの目で見てるんじゃからな」

 この花屋の裏に工房を構える時計職人のジョーさん。なるほど、それは好都合だ。

「なら、その時の話を聞かせてもらっていいですか? ……もしかしたら、その時の事件がまた繰り返されようとしてるのかもしれません」
「なんだって? どういう事なんだい?」
「実は……」

 脱獄なんて事件、そう遅くなくニュースになる。ここは隠す事よりも何があったかを知る方が先決だ。
話をする為に、店内の一角にあったテーブルに着かせてもらった。ちょっとじっくり話を聞かないとならないようだし。

「コーダイが脱獄!? ……だとすれば狙いは、時の波紋か」
「時の、波紋? それは一体?」
「えぇ、セレビィが時渡りをした後出来るもので、時渡りで疲れてしまったセレビィを癒す為の物なのだけど……」
「それに人が触れると、未来が視えるようになる不思議な力が得られるようなんじゃ」

 未来が視える? 予知……のような物なのか?

「じゃが、その力を得る時には恐ろしい副作用のような物があるんじゃ」
「副作用?」
「……その時の波紋がある場所の近くの緑全てが枯れてしまうの。それも、何年も」
「それって……以前この街で起きた現象では」
「そうじゃ、そして、その時にコーダイは未来視の力を得た」
「でもその力には限界があったの。三年前、コーダイの力は消えてしまいそうになっていたみたいなのよ」
「……だからもう一度時の波紋に触れる為に三年前の事件を起こしたって事ですか」

 なるほど……三年前の事件の背景にはそんな事があったのか。未来を視る力か、にわかには信じられないけど、今起きてる事情を考えると否定は出来そうに無いな。

「ジョーさん、トモさん、コーダイが捕まった時にその力はもう消えてしまっていたんですか?」
「……それは分からん。ただ、三年前にコーダイは時の波紋に触れられなかった。それは確かじゃ」
「あの子達が、この街とセレビィを守ってくれたお陰でね」

 ……仮定として言えるのは、逮捕された時点でまだコーダイの力が消えてなかった可能性が高いって事だ。そして最後の力で今年、今日またセレビィがこの街に戻ってくるのを見た。
だとしたら、この脱獄にも納得出来る。そして、奴は必ずこの街に来るはずだ。未来視の力を再び手に入れる為に。
っと、二人の見ている先を見てみると、そこには集合写真が一枚額に入って飾られていた。
ジョーさんにトモさん、それにセレビィやピカチュウを肩に乗せた少年達、化け狐ポケモンと呼ばれてるゾロアークの姿が写ってるみたいだな。

「彼らが三年前の事件の?」
「えぇ。勇敢な子達だったわ……でも……」
「今、彼らは居ない。しかし、時の波紋は守らねばならんな」

 ジョーさんが立ち上がった。……確かに、少々気合いを入れないとならないのは確かみたいだな。
窓の外、数は二人か。ジョーさん、どうやら気付いたみたいだ。

「ソウイチ君、君は一体何者なんだい? コーダイの脱獄なんて事を知れるなんて」
「ちょっとだけ、世の中の日陰を歩いてる変わり者ですよ」

 トモさんにメモとペンを借りてと。はぁ、また本部長にどやされるな。もっとスマートに仕事はするもんだって。

「窓の修理費はここに請求してください。俺の名前を出せば絶対に払われるんで」
「え? 修理って?」
「トモ、こっちへ。……出来れば、あまり派手にはやらないでおくれよ」
「了解です。……ナットレイ!」

 出したと同時に窓を指差して向かうように指示する。直前まで気付いてないフリしたんだ、これなら!

「な、なんだ!? うわぁ!」
「馬鹿な、気付かれて!?」
「るんだよ。……コーダイか、その配下の奴に雇われた小悪党ってところか。あちらの行動の方が早そうだな」
「レビィ!?」
「セレビィ? 来るな! 奴らの狙いはお前だ」

 事前に話を知ってれば尾行に気付けたんだが、状況がこうなったら仕方ない、なんとしてもセレビィを守る必要がある。
くそっ、俺につられて出て来ちゃったか。……居場所が破れてる以上、下手にトモさんやジョーさんのところに置いていくより安全か。

「仕方ない、舌噛まないようにしっかり掴まってるんだぞ!」
「ビィ!」

 最初の二人はナットレイが窓から飛び出したと同時に叩き伏せてくれた。が、ターゲットがはっきりしてる以上こんな数じゃすまない。……包囲される前にここを離脱する!

「来い、ダイル! ナットレイ、行くぞ!」
「ナットォ!」

 通りに飛び出すと、俺の声に反応したダイルとバシャーモが走ってきた。が……。

「居たぞ、セレビィだ!」
「ちっ、やっぱりか!」

 俺が指示する前に、ダイルが声をあげた奴にハイドロポンプを放っていた。直撃は避けて相手の足元に大量の放水、足止めとしては上々だ。

「ミッションだ、セレビィを護衛しつつこの場を離脱するぞ」
「ダイ!」
「シャモッ!」
「なんだ奴は!? くそ、セレビィを寄越せ!」
「お断りだ」

 ちっ、これだけ民間人を装って街に手下を仕込んでるとは、相当前から狙っていたって事か?
確か奴が捕らえられてたのはここから一番近い収容所だとかデータに書いてあったな……だとすれば、奴自身がここに来るのにもそこまで時間が掛からない。
その間は防戦して、奴が来たら一気に捕らえるって言うのがベストか。他に方法も無いし、やるしかない。

「シンボラー!」
『……逃走中ですか? マイマスター』
「あぁ! 上空から俺を狙ってる奴らを割り出してくれ、急ぎだ!」
『了解、ミッションに入ります』

 よし、索敵はシンボラーに任せて、俺達は現在見えてるだけの追跡者を払うか。と言っても、もう既に四方八方から向かってきてるんだがな。
ちっ、こんな昼間から派手なパーティを開いてくれるじゃないか。バンガードからの援護は……相手の展開の速さから見ても、待ってる暇は無いか。
なら、やれるだけを全力でやるだけだ。……長い一日になりそうだな。

「お前ら、久々に気合い入れないと不味そうだ。行けるな?」
「ナァットォォォォ!」
「バシャァ!」
「オォォォォォ!」
「よし! ……セレビィ、時の波紋の位置をお前は分かってるんだな?」
「ビ? セレッ!」
「了解、そこをなるべく避けて時間を稼ぐ。近付いたら教えてくれ!」

 じゃあ……始めるか!



 全く、容赦無く襲ってくるもんだな畜生め。どんだけ居るんだよ奴の手下!

『マスター、前方より数5、ポケモンを展開しながら接近中』
「ラジャ、こっちだ!」

 なるべく大きな通りを避けながら街の中を駆け抜ける。シンボラーが居なかったらアウトだったぞこれ。
大分倒した筈なんだが、一向に追跡者が絶えない。このままじゃジリ貧になってこっちが力尽きる。
現にバシャーモとナットレイはクールタイム、トロピウスとドラピオンを展開して応戦してるんだ。ダイルもこういうのに慣れてるとはいえ、技を使えばそれだけ力は消費される。不味いな……。
遠くの方で警察が動き出した様子もあったが、相手の数が多過ぎて対処に時間が掛かってるみたいだ。力押しの街の占拠か……形振りは構う気無しみたいだな。
ん? 何かの飛行音が……! テッカニン!?

「ちぃっ!」
「ダァァァイ!」

 向かってきたテッカニンはダイルの拳の前に打ち落とされた。トレーナーが近くに居ない……どういう事だ?

『マスター、上空にテッカニンの集団が発生。いかが致しますか?』
「集団? ……指示してる奴なんかは分かるか?」
『現在応戦中、この状態では索敵も不可能です』
「分かった、戻ってきてくれ」

 制空権も奪われたか……やばいな、大分追い詰められた。
戻ってきたシンボラーは、大丈夫そうだ。流石遺跡の守護者をやってただけはある。

『テッカニンの動きは統率が取れていました。指示を出している者が居るのは明白です』
「分かった。次は戦闘で出す事になるだろうし、休んでいてくれ」
『了解しました』

 さぁ大変だ。追跡を躱しながらそのテッカニンを指揮してる奴を叩かないと逃げる事すらままならなくなるぞ。
一先ず追手もテッカニンも来ない。……どうやら俺の事を見失ったみたいだな。とりあえず、ダイルが落としたテッカニンは……このままにして隠れよう。

「ダイル、大丈夫か?」
「ダイ」
「無理するなよ。ドラピオンとトロピウスは……」
「ドラ……」
「トロォ……」
「駄目そうだな。仕方ない、休んでていいぞ」

 二匹をボールに戻す……これで現状戦えるのはダイルとシンボラーだけか。参るな、まったく。

「セレ……?」
「ん? ……俺なら心配要らないさ。こういうのも、今まで無かった訳じゃない」

 心配そうにこっちを見るセレビィに笑い掛ける。……実際は、走り通しで体力的にきつくはなってるけど、そんな事言ってる場合じゃないしな。
でもこれで一休みだ。せいぜい見失っててもらえるとありがたいんだが。
……やや遠くから戦闘音が聞こえる辺り、警察も戦闘継続中か。逃げてる途中でコーダイ脱獄のニュースが流れてたのを聞いたし、これと関係してるって分かってくれてるといいんだが……。
街一つを悪党を使って占拠する、そんな事までしてその未来視の力を取り戻したいのか。俺には理解出来ないな、そんなの。

「後悔しない未来なんて、存在する筈無いのに……」

 壁に寄り掛かって空を見上げると、そこには青空が広がってる。……この空は、あの町へも繋がってるんだよな。
未来が分かってたら、俺はあの時あの選択をしなかったのか。答えはノーだろうな。
自分自身にとっての大きな分岐点は、きっとどんな選択をしても選ばなかった未来を後悔する事になる。あの時旅に出る事を選ばなかったら、きっと強さへの渇望を燻らせながらぐずぐずと生きていただろう。

「ふぅ……よし、そろそろ動き出すか」

 まずはテッカニンの無力化の為に動く。……でも妙だな? いやに街の中が静かになった。目立つ音と言えば、さっきからする戦闘音くらいだ。
ん? 何かが近付いてきてる。この足音、どうも人間じゃなさそうだな。奴等、まさか街にポケモンを放ったのか? くそ、だとすればもうここにも居られないか。
足音は真っ直ぐにここに近付いてきてる。どうする、倒すか?

「……ダイル、準備しておけ。仕掛ける事になるかもしれん」
「ダイッ」

 すぐそこまで……来た!

「グラゥ!」
「ん!? 待て、ダイル!」

 ダイルも気付いたのか、振り下ろされようとしてる拳は途中で止まった。目の前に出て来たグラエナはそれに驚いたようだが、こっちをジッと見るようになった。

「お前、もしかしてジョーさんのところのグラエナか?」
「ガウ!」
「やっぱりか。でもどうしてここへ?」

 俺の問いを聞いて、グラエナはくるりと背を向けた。そして、また俺を見てる。……ついて来いって事か?
ダイルと顔を見合わせて、とりあえずついて行く事に決めた。警戒は怠れないけどな。
グラエナも分かってるのか、なるべく人気の無い場所を進んでいく。まぁ、グラエナの鼻は良さそうだから索敵は任せるとしよう。
そのまましばらくグラエナについて行くと、着いた場所は……俺が寝泊りさせてもらってる酒場だった。どうしてここへ?

「ソウイチ! よかった、大丈夫そうだね」
「マスター? それに、ミトリちゃんにジョーさんも。まだ街の中は危険です、早く店の中へ……」
「一番危ないのはソウイチさんじゃないですか! ジョーさんから聞きました、セレビィを守りながら街中を逃げ回ってるって!」
「その分だと、今のところはなんとかなっておったようじゃな」
「え、えぇ、まぁ」

 えっと、とりあえず今何が起こってるかはジョーさんがマスター達に話してくれたみたいだ。
まずは休んだ方がいいって事で、マスター達と一緒に店の中に入った。……どうやら昼食を食べに来てそのまま店に避難してる客も結構居るみたいだな。

「それにしても、まさか昼間にこんな大騒動が起こるなんて……」
「それだけコーダイは未来視の力を本気で取り戻そうとしてるんだと思います」
「そのようじゃな。まさか、コーダイの手下があんなに街の中に居ったとは思ってなかった事じゃ」
「ソウイチさん本当に大丈夫なんですか? 凄い沢山の人に追い掛けられたみたいですけど」
「俺は平気。でも、俺の手持ちのメンツが疲弊しててこれ以上の戦闘は厳しかったんだ」
「なるほど……分かった、軽食になるけどすぐに用意するよ。皆を休ませてあげておくれ」
「すいません、助かります」

 全員を出すと、やっぱりダイルとシンボラー以外は回復してなかった。あの状態でまた襲われてたら流石にアウトだったな。
ミトリちゃんが先に飲み物を用意してくれて、それでやっと一息つけた感じだ。セレビィも美味そうにジュースを飲んでる。

「無茶させてすまなかったな、皆」
「じゃが、その無茶のお陰でこっちの準備が出来たんじゃよ」
「準備?」
「三年前の事件は、この街に自衛の力が無かったから起きたようなものだったからね。それを教訓にしてたって事だよ」

 ……なるほど、俺の話を聞いたジョーさんが警察やポケモンセンターに走ってくれて、そこからポケモンセンターを利用してたトレーナーや警察が協力して手下達と戦い始めてくれたのか。
で、そっちへの応戦を余儀無くされたから俺への追跡が中断されたって訳だったみたいだな。

「そして、君を探させる為にグラエナを探索に出したという事じゃよ」
「さっ、出来たよ。ソウイチも食べて、少しでも疲れを取っておくれ」
「ありがとうございます」

 サンドイッチか、本当に助かるな。朝飯からこっち、何も食べないで半永久マラソンだったから物凄く美味い。
ナットレイなんかには店の中に居る人達が手分けして食事を取らせたりしてくれてる。ありがたい限りだ。

「それで、今の戦況はどうなってるんですか?」
「概ね五分五分。だったんじゃが、何処からか来たテッカニンの集団で圧され始めとるようじゃ」
「このままじゃ数で押し切られるかもしれないって事ですね」
「……おそらく、あのテッカニンはコーダイの右腕であるグーンという男のポケモンじゃ。三年前にも、同じように多くのテッカニンを街に放っておった」

 グーン……確か、コーダイと共に脱獄した男だ。もうこの街まで来たってことか。
ならコーダイも来てるのか? ……いや、部下のグーンだけが先行して街の占拠に来たとも考えられる。幾ら用意周到な脱獄計画を立てたとしても、囚人服のまま彷徨いたりはしないだろうし、捕まるリスクはなるべく減らそうとする筈だしな。

「こっちの戦力がやられる前に奴を叩けばいいってことですね」
「……現状、それが出来るとすれば……」

 俺だけ、だろうな。他のトレーナーが奴の手下達を止めてくれてるんだから。

「なら、やれる事を全力でやるとしますか」
「でもどうするんだい? 相手は何処に居るかも分からないんだよね?」

 それが問題なんだよな……分かればそいつを倒すだけだから問題は無いんだけど。

『マスター、提案があります』
「ん、どうしたシンボラー」
「え、そのシンボラーがどうかしたのかい?」
「あぁそっか、シンボラー、全回線で頼む」
『了解しました』

 基本的にシンボラーは俺としかテレパシーでの会話をしない。が、実はこいつ広域へのテレパシーなんて高等技術があったりするんだよ。そこまで広くは出来ないけどな。

『テッカニンの動きには統率性があるのは報告した通りです。だとすれば、指示を受けて行動している事が推察されます』
「確かに……」
「こ、これは?」
「まさか……そのシンボラーというポケモンのテレパシーなのかい?」
「えぇ、そうなんです」
『ならば、指示を受け伝える役割をしている個体が居ると仮定出来ます。その者の行動を追う事が出来れば、指示者の位置を特定出来るでしょう』

 何処までもマイペースだな、シンボラー。でも、確かにその通りだ。問題はそれを割り出す方法か……。

『更に進言します、マスター。私ならば、テッカニンを排除しつつ索敵可能です』
「……いけるか?」
『問題ありません』
「分かった、無茶までしろとは言わない。頼むぞ」
『了解、他のメンバーの準備が出来次第状況を開始します』

 索敵はお手の物なシンボラーだ、大して時間は掛からずに標的を発見してくれるだろう。
後はそこに向かって戦える状態になってないとならないか。他の皆は行けるか?

「ダイル、問題無いな?」
「ダイッ」
「後のメンバーはどうだ? 行けるか?」

 バシャーモは……うん、十分回復したみたいだ。後は、トロピウスも行けそうだな。ドラピオンとナットレイは……まだしんどそうか。
ダイル、バシャーモ、トロピウス……シンボラーには無理してもらうんだから外しておいて三匹で戦闘か……。なんとかするしかないな。

「よし、ドラピオンとナットレイはここで待機。何かあれば、ここの防衛を頼む」
「ドラッ」
「ナット……」
「そうしょげるなナットレイ。ここにはマスターや皆が居る、絶対に守ってくれ」

 あまり時間も掛けたくないし、そろそろ行くか。ダイル達をボールに戻してと。

「……行くんだね、ソウイチ」
「はい、ここはこいつ等に守らせるんで、皆は騒ぎが収まるまで出歩かないようにしててください」
「すまない、そして……この町を頼むよ」
「出来る限り善処しますよ。よし、行くぞ!」

 店の扉を開け、シンボラーを出発させる。シンボラーが見つけたらすぐに動けるように、俺も外に出ていよう。
……ん? なんかまた肩に違和感が……って、まぁさっきまでくっついてた奴がくっついてる感覚だから分かるがな。

「やれやれ……こうなったら最後まで付き合うか? セレビィ」
「レッビィ!」
「オーケー、絶対に離れるなよ」

 なるべく身を隠すようにして、上空のシンボラーを見た。やっぱりテッカニン共に絡まれたか……頑張ってくれ、シンボラー。
戦闘音が止まない辺り、まだ町の防衛団は善戦してくれてるみたいだ。そっちもまだ保たせててくれよ。

『マスター、聞こえますか?』
「シンボラー、どうだ?」
『特定出来ました、テッカニンの指揮者が居るのはスタジアムです。私はこのまま、こいつ等を引き付ける為に戦闘を継続します」
「でかした! もし手が空きそうなら防衛団の援護もしてやってくれ。その間に、テッカニンは潰す」
『任務了解。ご武運を、マスター』
「あぁ、お前もな。よし、行くぞセレビィ」
「ビィ!」

 目的地は決まった。なら、そこに向かって走るだけだ。途中で三匹の力を消耗する訳にはいかないし、俺だけで突破する!
いやしかし、逃げ回ってる時よりは遥かに楽だけどな。障害の殆どは別のところに手一杯になってるし、気を付けるのは徘徊してるテッカニンくらいだ。
身を隠しながら行けばなんとかなりそうだ。それに、一匹くらいなら俺でもやれるだろうし。

「セレッ!? ビィ!」
「どうしたセレ……ちぃっ」

 やっぱり全部上手く行く訳じゃないか。どうやら頭の上を飛んでた一匹に見つかったらしい。後ろから飛んできたか。
発見されたのを他のに知らせてなさそうなのが救いか。なら……ここでしばらく寝ててもらおうか。

「セレビィ、離すなよ!」

 仕事柄、自己防衛の術は学ぶ必要があったんでね。ポケモン無しでもそこそこは戦れるんだ。それに、そういう物も持ってるしな。
腰に吊っていた折り畳み式の警棒を振って出し、テッカニンの体当たりを受ける。……流石スチール製、一発で凹むとは思わなかった。
が、警棒一本で怪我も無しなら御の字だろう。ぶつかってよろめいたテッカニンの眉間目掛けて……警棒を突き立てる!
……そのまま地面にぶつかって、羽も動かなくなってピクピクしてる。ま、死にはしないだろう。

「ふぅ……為せば成るって言っても、その度に警棒を駄目にされたら財布に響くな」
「ビィ~?」
「ん? これの事だよ。……今度、本部で新たに開発されたって言うトンファーでも支給してもらうかな」

 軽くひしゃげた警棒をセレビィに渡してみると、面白そうに持って振ってる。どうせ次使ったら駄目になるだろうし、このまま渡しておくか。
とにかく切り抜けたし、またスタジアムを目指して走り出そう。これ以上相手にするのもきついし。



 ……なるほど、シンボラーの見立て通りに、ここから飛び立つテッカニンと戻ってくる奴が居るな。指揮者がここに居るのは間違い無さそうだ。
他に警備をしてるような奴は居ないみたいだ。よっぽど見つからない自信があったのか、見つかっても切り抜けられる実力があるのか……見ものだな。
スタジアムにそのまま潜入したが、罠の類は仕掛けられてないようだ。まぁ、熟練された兵士とかじゃなきゃ、本格的な罠なんてこんな短時間で設置出来る訳は無いか。
テッカニン達は真っ直ぐスタジアムの競技コートに入っていっていた。恐らく、奴が居るのはそこだな。
警戒心は切らさないように、まったく人気も気配も無いスタジアムを進む。これだけ広いのに誰も居ないとなると、やっぱり不気味だな。
よし、コートが見えた。堂々と中央に陣取ってるか……まぁ、あれなら不意打ちの心配は無いし、町がこの状態なら包囲される心配は無い。結構考えてるじゃないか。
なら、こちらも堂々と行こう。下手にこそこそしても結局は姿を見せる必要はある事だし。

「ポケモンバッカーズの見物客かい? 残念だけど、大会があるのはもう少し先だぞ」
「……ふんっ、なるほど……お前がセレビィを連れて逃げ回っていたトレーナーか。お陰で、余計な手間を取らせられたよ」

 黒いスーツに身を包んだ体格の良い男。添付されていた画像と同じ特徴的な髪型……間違いない、こいつが脱獄囚の一人にしてコーダイの右腕、グーンだ。

「脱獄囚、グーン。お前に一つ聞こう。町で派手なパーティーが今起こってるが、その口火を切ったのはお前か?」
「貴様、警察の人間か?」
「質問に質問で返すのはナンセンスだな。が、まぁ答えてやろう。答えは……ノーだ。そこまで日の当たりの良い場所には所属してないんでね」
「ならば何故コーダイ様の計画を邪魔する? 聞いた限り、我等の事は知っているようだが」
「特秘組織バンガード。こう言えば、薄ら暗い部分がある者なら聞いた事くらいあるんじゃないか?」
「犯罪者を警察とは別ルートで追い、状況によってはその始末をも許可された執行者達、か。まさか、この短時間でそのような大物が出張るとは……」
「いや、ただ単にあんた達の運が無かっただけさ。なんせ、偶然俺がこの町に居る時にこの襲撃をしちまったんだからな」

 知ってるなら話は早い。それに、答えなかったって事は、この騒ぎを起こしたのはこいつだって事に出来る。そうであろうと無かろうとな。
どうやらこれ以上問答をする気も無いらしい。ハッサムを二体ボールから出して、明らかに臨戦状態に入った。

「コーダイ様の邪魔をする者を排除するのが俺の役目。バンガード……貴様を排除する!」
「潔さは認めよう。だが、俺も仕事なんだ。抵抗しないのなら捕縛するだけにしようと思ったが……始末させてもらう。ダイル、バシャーモ!」

 二匹を展開して睨み合う。ハッサムのタイプは鋼と虫タイプ、バシャーモを出した時点でもう勝負は見えてる。
なら奴の狙いは何か。特定するのは容易だな。

「行け、ハッサム!」
「バシャーモ、ブレイズキック! ダイルは迎え撃て!」

 俺の声に弾かれるようにバシャーモは動き出した。二匹の内自分に近い一匹に狙いを定めて、足に炎を纏いながら進んでいく。
ダイルはもう一匹のハッサムを抑えるように前に躍り出た。……なるほど、こいつはブラフか。
やっぱり、バシャーモが仕掛けた奴はバシャーモを無視して俺に突っ込んできた。虚を突いたのを確信したのか、グーンはニヤリと笑ってる。
浅はかだな。こんな奴が右腕とは、コーダイも底が知れる。

「ダイル!」
「グォォォォォォォ!」
「ハッサ!?」

 伊達にずっとパートナーだった訳じゃない。俺が何を言う前に、ダイルは自分が相手をしていたハッサムの首を鷲掴みにして、思い切り俺に向かってきているハッサムに投げつけていた。

「!? な、何!?」
「残念だったな。ポケモンを倒せないならトレーナーを、その狙いは悪くない。ただのトレーナーだったらやられてただろうな」

 ぶつかりあったハッサムは俺の手前で止まった。それに、引き返してきたバシャーモと、投げると同時に走り出していたダイルが迫る。
一匹はバシャーモの炎を纏った回し蹴りの直撃を受け、もう一匹はダイルの殴りつけを顔面に受け、地面に顔から叩き伏せられた。……多分、ダメージ的に重症なのはダイルの一撃を受けたハッサムだろうな。

「ば、馬鹿な……俺のハッサムがどちらも一撃で!?」
「お前が相手をしているのは、罪人を刈る者だぞ? 生半可で勝てるとでも思ったのか?」
「くっ、来い! テッカニン!」

 グーンが手を上げると、恐らく近くを徘徊していたテッカニン達が集まってきた。……惜しいな、これだけの技量、まともに使っていればこんな事にはならなかっただろうに。

「トロピウス、切り伏せろ」
「トロォ!」

 出されたトロピウスは俺の指差す先、テッカニン達へ向かっていき一匹、また一匹とエアスラッシュで斬り倒していく。
この光景は果たして絶望か、驚愕か。別に興味は無いが、奴の目にはどう写ったかな?

「諦めろ。どう足掻いても、お前に残されたのは絶望だけだ」
「お、おのれ……だが、お前にコーダイ様は止められん! あの方は、もう時の波紋に迫っている筈だ!」
「筈って事は、まだ場所を特定してないって事だな。まぁ、セレビィを捕らえようとしてきたって時点で推測は出来るがな」

 苦虫を潰したような顔をして、それ以上グーンは何も言わなかった。なら、さっさとテッカニンを止めるとしますか。

「バシャーモ、楽にしてやれ」
「シャモッ」
「ふっ、ふふふふ……未来は、我等の物だぁぁぁぁ!」
「もういい、黙れ」

 バシャーモの拳がグーンの鳩尾へと深々と刺さり、奴はそれ以上動かなかった。まぁ、半日は目を覚まさないだろう。
集まってきていたテッカニン達に、すっと目を閉じた後に睨みつけてやった。一度強さの狂気に身を染めた者の睨みだ、普通の睨みとは一味違うぞ。
よし、慌てた様子で散り散りに逃げていった。あまり良い特技じゃないが、使える時に使えばなかなか効果的なんだよ。

「これでテッカニンはなんとかなるだろう。こいつを捕縛しなきゃならないし、一度酒場に戻るか。ダイル、頼むぞ」
「ダイッ」

 グーンをダイルに抱えさせ、一応ついでにこいつのハッサム達をボールに戻してやった。残しておいても面倒そうだからな。
だが、こいつの口ぶりからしてもうコーダイはこの町に入って、しかも時の波紋を探している。悠長にしてる時間は無さそうだ。

「こいつをジョーさん達に任せたら、俺達も時の波紋がある場所へ向かうぞ。……セレビィ、頼めるな?」
「セ~レビィ~!」
「よし、急ぐぞ!」



 夕日に照らされた海とクラウンシティ……全てを見渡せる場所、まさかこことはな。
この町で一際大きな樹が生えた丘。古ぼけた遺跡のようなものが残るこの場所が、セレビィの示した場所だった。

「……綺麗だな」
「ビィ……」

 今日が終わるこの一瞬。とても眩しくて……少し、切ない。
いや、まずはコーダイを捕らえよう。この美しい町に、再び悲しみが襲うのは見たくない。
……来たようだな。一度その力を身に受けてるからか、勘は良いじゃないか。
石柱の一つに身を隠して様子を見る。……白いスーツに紫色の髪。なんだかガブリアスを連想させる髪型だな。
そっとデバイスで様子を確認する。間違いない、奴は……グリングス・コーダイだ。

「くくっ……まさか、こことはな。新たな始まりを刻む場所としては素晴らしいじゃないか!」

 確か、時の波紋は人間の目では見れない。だからこそ、奴はあの二匹を連れてるんだったな。
カゲボウズとムウマージ。ジョーさんの話では、三年前も同じポケモンを連れていたそうだ。何か思い入れがあるのかもしれないな。

「カゲボウズ、見破る!」
「カゲッ!」

 カゲボウズを中心に、何かしらの力場が広がったのを感じた。そして……。
コーダイが見上げるその先に、煌びやかに輝く穴が現れた。あれが、時の波紋か。

「ふふふ……ははははは! これでまた、未来は私の物だ!」
「さぁて、それはどうかな?」
「!? 誰だ!」

 石柱の影から姿を見せる。距離は、時の波紋の真横に現れた俺の方が近いようだな。

「セ、セレビィ!? 貴様、何者だ!」
「葛木創一。脱獄囚グリングス・コーダイ、お前を始末しに来た」
「な……まさか、グーンとの連絡が取れなくなったのは貴様の所為か!?」
「ご名答。悪いがお前にこの時の波紋に触れさせるつもりはない。お前の未来に、もう輝かしい栄光なんて存在しないんだよ」

 更に移動して、時の波紋を背にするようにして立ち塞がる。これでこいつは、俺を倒さなくては時の波紋に触れられなくなる。
ん? 何か……肩を震えさせて俯いてるな。

「……また、邪魔が入るのか。三年前のあの時のように!」
「当然だろ。お前の独り善がりにこの町を巻き込む訳にはいかない」
「ふん、こんな町の事など知ったことか。私は未来のビジョンを見ることで全てを掴む事が出来たんだ。取り戻せば、これからなどどうとでもなる」

 最低だな、こいつ。それに、とんでもなく大きな思い違いをしてるみたいだ。

「そうだ……ソウイチ、とか言ったな。私のボディガードをやらないか?」
「はぁ?」
「ビジョンを見る力を取り戻せば、金など幾らでもやれる。これからの人生を楽に生きたいとは思わないか?」

 やれやれ、グーンの奴はもう切り捨てられたって事か。報われないな、あいつも。
にしても、下らない奴だな。これが大企業の社長を務めていた奴とは……所詮は、未来視の力に頼って得た権力だったって事か。

「断る。お前と一緒に堕ちていく道なんかに何の魅力も感じないな」
「なんだと?」
「大体、気付いていないのか? お前が今の境遇に堕ちたのは、全てその力の所為だったって事に」
「な……どういう意味だ!」

 初めからそんな力を得ていなければ、三年前にあんな事件を起こさずに済んだ。力によって身よりも大きな権力を得なければ、力を失う事に怯える事もなかった。
未来を自分の意思で選んでいれば……何度もこんな馬鹿げた事を企てる必要なんて無かった筈だ。

「お前は、力に踊らされたんだよ。その力が見せる未来だけを信じ、他の可能性を全て蔑ろにしてきた今のお前に何が残ってる。答えてみろ!」
「うぐっ、く……」

 力を追い求め、他の全てを無視する……こいつは、過去の俺の延長線上にいる存在だ。そうだったからこそ分かる、こいつには……今までも、これからも! 何もありはしないんだ!

「下らない野心と妄執に駆られ、地を這いずり回る未来! お前には、それ以外の未来を選択する事は出来ない!」
「違う! 私は……再び全てを手に入れる! ムウマージ、奴を倒せ!」
「マージ!」
「来い! シンボラー!」
『了解、敵を殲滅します』

 上空に待機させていたシンボラーが、光を纏って降りてくる。
飛行タイプの技の最高峰が一つ、ゴッドバード。光の鳥となったシンボラーがムウマージを捉えて、貫く。

「ムゥマァァ!?」
『命中。追撃はしますか?』
「いや、必要無い。お疲れさん」
「な、馬鹿な、ポケモンを待機させていたのか!?」
「負ける訳にはいかなかったからな。さぁ、二度と出る事の無い牢に戻る覚悟は出来たか?」
「まだだ、カゲボウズ、行け!」
「ダイル、決めろ!」

 ボールから解き放たれたダイルに奴のカゲボウズが迫る。だが、どうやってもダイルは……負けない。
ダイルの口に力が集まっていき、渾身の一撃を紡ぐ。
最強の水流、ハイドロカノン。全身全霊を掛けて放つ一撃はカゲボウズを飲み込み、コーダイへと襲いかかる。

「そんな、私は……私はぁぁぁぁ!」
「……さよならだ。野望に飲まれて……溺れちまいな」

 ダイルの口から水流が止むと、大の字に寝そべり気絶しているコーダイがその場に残っていた。
終わったな。町の方で起こっている戦闘の様子も沈静化していってるのが見える。警察としても、悪党共を検挙しまくりで悪くないだろ。
ハイドロカノンを使うと、流石のダイルでもくたびれたようだ。その場に座って休んでる。
その隣に座って、ダイルの方に拳を向ける。ま、仕事終わりの挨拶みたいなもんだ。

「お疲れ、相棒」
「ダイ」

 お互いの拳が合わさって、繋がる。これにて今回のミッションは終了、だな。

「レッビィ~♪」
「おっと、今日は散々付き合わせて悪かったな、セレビィ。でも、暇潰しには十分だったろ?」

 俺の言葉にニコッと笑って、そうしたかと思ったらセレビィは浮かび上がった。どうしたんだ?
そのまますぃ~っと時の波紋の方へ行って……入っちゃったぞ。なんなんだ一体? そんなに疲れたのか?
あ、出て来た。おぉ、時の波紋の光を身に纏ってる。淡いグリーンの光……見てるとなんだか落ち着いてくるな。

「ビィ!」
「ん、手を取れって言うのか?」

 立ち上がって、セレビィが差し出した手へこっちの手を伸ばす。ダイルも何が起こるのかって興味ありげに見てるな。
!? な、なんだ!? 手を取ったら、セレビィの光が大きくなっていって……飲み込まれる!?
くそっ、目の前が……見えなく……。



 ……喧騒が、聞こえる。ここは、何処だ?
目を開けるとそこは、あの丘じゃなかった。何処かの路地裏か?
俺の傍にはセレビィが笑いながら浮いていた。一体、何をしたんだ?

「セレビィ、お前、何したんだ?」
「セーレビ♪」
「あ、おい! ……ついてこいって事か?」

 セレビィの後を追って行くと、路地の終わりが見えた。どうやら喧騒はこの先から聞こえてきてたみたいだな。
……これは、祭りか? 出店の屋台やら何やらが並んでるし、浴衣を着たりしてる人が居るって事はそうだよな。なんだか懐かしい光景だ。
あの町でも、こうして祭りが開かれる事があったなぁ……。ん? いや、ちょっと待てよ?
この通り……それにその先に続いてるあの山や神社は、まさか!?

「ここは……俺の、故郷なのか?」

 すっと目の前にセレビィが降りてきて、笑いかけたと思ったら目の前から消えた。って、どうするんだこの状況!?
デバイスを見ると、そこには三日前の日付が表示されていた。……表示がバグるんじゃなくて正常に表示されてるのは、セレビィのおまけってところなのか?
う、うーん……セレビィからのサプライズってところか? どうしようも無いし……少し見て回るか。
出店のラインナップを見てみると、たこ焼きや綿菓子、りんご飴なんかの久しく口にしていなかった物が並んでいた。ははっ、どれも本当に懐かしいものだな……。
折角だし、たこ焼きでも食べてみるか。金は……なんとかなるかな?

「すいません。八個入り、一つ下さい」
「あいよ! って、なんだ、さっき買っていったあんちゃんのお兄さんかい?」
「え?」
「ありゃ、違ったかな? 大層なポケモンを連れたあんちゃんがさっきたこ焼きを買ってったんだよ。あんたに似てたから、そうじゃないかと思ったんだがね」

 まさか……零次か!? 零次が、ここに!?

「す、すいません、そいつ、どっちへ行きましたか!?」
「えっ? あっちだけど……あ、たこ焼き、お待ち!」
「ありがとうございます!」

 勘定も見ずに適当に置いて、店主が教えてくれた方へ走った。零次が、近くに居る!
でも……会ってどうする? なんて声を掛ければいいんだ?
我に返って、俯く事しか出来なかった。今更、なんて顔して会えばいいんだよ。俺は……零次も、家族の事も捨てて旅に出たのに。
駄目だ、零次に会う事は……出来ない。会うべきじゃない。今更、俺があいつの前に立つ事なんて……許される筈がない。

「でも……それでも……」

 一目でいい。一目でいいから……姿を見ても、いいよな?
一つ、大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐いた。せめて、あいつがどんな奴になったか見るのは……いいよな?

「あれ、零次さん?」
「ん?」

 横から声を掛けられたと思ってそっちを見ると、見知らぬ人達がそこには居た。俺を見て零次って言ったって事は、零次の知り合いか?

「アルスさん、さっき零次君達とはすれ違ったばかりじゃないですか」
「あっるぇ~? なんか雰囲気って言うか波長って言うかが似てた気がするんですけどねぇ?」
「あの、零次を……知ってるんですか?」
「あら、あなたも零次君の事を知ってるの?」
「はい。あ、俺は零次の兄で、葛木創一と申します」
「な、君が……」
「零次君の、お兄さん!?」

 おわ、なんだかとんでもなく驚かれたんだが……二人はご夫婦かな? それに、この女性は……なんだろうな?

「なーんだそうだったんですかー。私は零次君のお友達でアルスって言います! どーぞよろしく♪」
「あ、これはどうもご丁寧に」
「……あれ? 零次君の話では、お兄さんは何年か前に家を飛び出していったんじゃ?」
「まぁ、そうなんですが……色々あって、今だけちょっとここに来たというか、飛ばされたというか……」

 ん? アルスさん、って言ったかな? この人、俺のちょっと後方辺りを見てるけど……どうしたんだ?

「なーるほど、そう言うことですか」
「あの……?」
「そ、それよりも、君が零次君のお兄さんであるって言うのは、本当の事なのかい!?」
「た、大変! 零次君に知らせて……」
「ま、待って下さい! 俺がここに居る事は、零次に伝えないでください」

 って言うより、俺はこの二人が何者なのかまだ分かってないんだが。零次の知り合いって言うのは間違い無さそうだけど。

「どうして? 零次君ならもう少し行ったところに居るのよ?」
「まぁまぁお二人共。創一さん、でしたよね? あなた、この時間の人ではありませんね?」
「! ……どうして、そんな事を?」
「私、ちょっと特殊でして。あなたの後ろに隠れてるセレビィ、見えちゃってるんですよぉ」

 ……何者なんだ、この人? ってかセレビィ俺の後ろに居たのか。なら、とりあえず帰る心配はしなくてよさそうだな。

「で、あなたはセレビィの力でここに来た。そうですね?」
「来た、というか強制的につれて来られた、が正しいですけどね」
「なるほど、自ら望んでここに来たってことじゃないんですね。それなら零次さんに自分の事を隠そうとするのも納得納得」
「……え~っと、どういう事ですか、アルスさん」
「創一さんは現在特殊な状態でここに居るんです。本人も望んで帰ってきた訳じゃないみたいですしぃ、零次さんに会うのは不味いかもですねー」
「そうなの?」
「はい、まぁ……」

 首は捻ってるけど、どうやら分かってくれたみたいだ。一安心、かな。

「でも……確かに零次くんのお兄さんみたいね。結構似てるし、匂いも近い感じかしら」
「あはは……ん? 匂い?」
「あ、こっちの話だから気にしないでね」
「は、はぁ……」
「おっと、申し遅れたね。私は黒子影牙、こっちは家内の流貴。ウチの息子が零次くんに良くしてもらって知り合った仲なんだ」
「そうだったんですか……」

 なるほど、ちゃんと友達は居るみたいだな。それに、さっきのたこ焼き屋の店主の話によればポケモンと一緒に居るようだし、俺のようになってないのは確かそうだ。

「でも、少々意外だね。普通の好青年そうじゃないか」
「……やっぱり、零次から聞いた俺は……」
「あまり良い印象は受けなかった。……分かっていたようだね」
「はい、俺がやってしまった事を考えると、恨まれていても仕方ないとは思っていました」
「今の様子を見ると、そこからちゃーんと立ち直ったって感じですよね」
「えぇ、色々な支えのお陰で、なんとか」

 とはいえ、まだたまに顔を出すから完全では無いけどな。

「だとしたら、会ってもいいんじゃないかい? せめて、顔を見せるくらい……」
「んー、でも創一さんはここに長く留まるのは難しいと思いますからねぇ~」
「えぇ。せめて今零次がどうなってるのかだけ確認して、お暇させてもらおうと思います」
「そうかい……」
「零次君も、きっと会いたいと思うんだけど……」
「それは、今じゃない方がいいでしょう。……出来れば、俺に会った事も秘密にしてもらえませんか? 要らぬ混乱をあいつにさせるのも悪いんで」
「……分かった、約束しよう」
「ありがとうございます」

 うん、良い人達に巡り合ってるようだな。これなら、俺のように歪んでも、誰かが正してくれる。その点は安心出来そうだ。

「じゃあ、俺はこれで」
「あぁ。少しではあったけど、君と話せてよかったよ」
「出来れば、今度はちゃんと零次君に会ってあげてね? おばさんとの約束」
「……はい。いつか、必ず!」
「ふむふむ、創一さんですか……びびっと記憶させてもらいました! また会いましょうね!」
「? え、えぇ。それでは」

 な、なんか終始不思議な人だったな、アルスさん。セレビィの事も見抜いてたし……一体何者なんだ?
まぁ、それはいいか。零次はこの先に居るみたいだな。……たこ焼きでも食べながら、ゆっくり行ってみるか。
うん、この小ぶりの粉物感が凄く懐かしい。あ、マスターなんかに作って食べてみてもらうのもいいかもしれないな。
それに、お土産としてダイルに買っていってやるのもいいかもな。あいつ、たこ焼き好きだったし。
……ん、しばらく進んできたら何か人だかりが出来てた。ここは……型抜き屋か。ガキの頃は結構やったなぁ。

「さぁ、次はなんだ? 零次」
「そうだなぁ……よし、このオクタン型なんかどうだ?」
「うわぁ、難しそうですね。頑張ってください、蒼刃さん!」
「ぬぉぉ、俺も負ける……がはぁ!?」
「あ……」

 人だかりの先に、成長はしてるが確かに……あいつが居た。
零次……あんなに楽しそうに、今のお前は笑えるんだな。それに、あんなにポケモンに囲まれて……。
胸の中に、さまざまな思いが込み上げて来る。それが全部声になってしまいそうだ。
でも……それはグッと飲み込む。俺はまだ……お前に胸を張って会えない。まだ、皆を捨てた馬鹿な兄貴のままで居た方がいい。
じゃないと、俺は救われてしまう。それじゃあ俺は俺を許せない。
だから……今はこのまま、さよならだ。

「良い道を歩いて行ってくれ、零次。……今度は、ちゃんと兄貴として、帰ってくるからな……」

 踵を返して、人だかりから離れる。ははっ、涙なんて、何時以来かな。
よし、手土産を買って、帰ろう。今俺が居る場所へ!



 光が止むと、そこは日が沈み掛けたあの丘だった。隣には、驚いた顔をしてるダイルが居る。
ははっ、結構手土産も買っちゃったな。セレビィも綿菓子食べてるし、本当に……俺はあの祭りの会場に居たんだよな。

「……ありがとうな、セレビィ。良い夢だった」
「レッビィ!」
「ダイル……ただいま」
「グゥ……ダイ」

 立ち上がって、俺の頭をまた撫でる。いつもなら文句の一つも言うが、今は……いいか。
さて、それじゃコーダイを警察に引き渡さないとな。マスターなんかも心配してるだろうし、早く帰らないと。

「よし! 皆……帰るか!」
「グォゥ!」
『……マスター、一時的に消失した事への説明を要求します』
「あ、出したままだったなシンボラー。まぁ、歩きながら話すよ」
『了解しました』

 夕日に照らされながら、町への道をゆっくりと進む。今、俺の傍に居てくれる……仲間達と一緒に。

 ……結局、コーダイの企みは水泡に帰し、あの騒乱も一日で解決した事で、それほど大きな傷を作る事無く終結した。
グリングス・コーダイとその部下グーンは再逮捕、終身刑が可決し、もう二度とこの町の地面を踏む事は無いだろう。
町のパニックで危ぶまれたポケモンバッカーズの大会も滞り無く開催を迎え、今、町は活気に包まれている。

「……ソウイチ、本当に行ってしまうのかい?」
「はい、そろそろ仕事の方にもちゃんと復帰しようと思いますんで」
「結局、ソウイチさんの仕事って一体なんなんですか? それって、このお店の手伝いをしながらじゃ出来ない事なんですか!?」
「こら、ミトリちゃん」
「だ、だってぇ……」
「……ごめんね、ミトリちゃん。俺の仕事は世界中にあるんだ。だから、ここに留まり続ける事は出来ないんだ」

 俺は、本格的にバンガードの仕事を再開する事にした。今まではマスターへの恩返しも含めてここにお世話になってたけど、やっぱり俺はバンガードの一員なんだ。
あれだけ派手にここに居る事を知らせるような事をすれば、俺に復讐しようとする輩がここに来てもおかしくない。そんな奴らに、マスター達に手出しさせる訳にはいかない。

「……少し、寂しくなってしまうね」
「マスター……」
「近くに来たら、遠慮無く来ておくれ。精一杯、もてなさせてもらうよ」
「はい、そうさせてもらいます」
「ここの事、忘れないでくださいね!? 私のことも! ふ、ふぇぇ……」
「……うん、忘れないよ。また、必ず会いに来る」
「うぅぅ、うぇぇぇぇぇん!」

 俺は、何処まで行っても根無し草なのかもしれない。でも、もう後悔はしない。
もう何も捨てないし、繋がりを、大切にして生きていく。

「ふぅ……待たせたな、ダイル」
「ダイッ」
「よし……行くか!」

 いつか、あの場所へ……あいつの前へ……。
胸を張って、兄貴として帰れるように!


後書き的な!

いやぁ、長かった。実はサマバケ外伝で一番最初に書き始めたものだったのですが、こんなに時間がかかってしまいました…orz
内容もちょっと一話に詰め込み過ぎかなぁ等と思いながら結構盛り沢山に……これ一話で新光二話分の容量があるんだから当然か。
なんにせよ、ここまでお読み頂けましたら感謝感激です。お付き合い頂きありがとうございました!

そしてここからはコメントエリアでございます。次のサマバケ外伝はついに…! な展開に出来ればいいなぁ…。

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • な、なんだよぉ。
    良い奴じゃんかよぉ。
    な、なんだよぉ。
    次回、ついに…!ってなんだよぉ。
    ―― 2013-01-10 (木) 16:51:45
  • 外伝待ってました!
    本当は、良い奴なんだなと、想いながら読ませてもらいました!
    まぁ、零次兄貴だから当たり前ですがね。
    兄弟似た者同士なのか、零次と喋り方が似ていましたね。
    とても、読みやすかったです。

    新米また、新たな外伝も楽しみです!

    応援してますよ〜!!
    ――ムフフ ? 2013-01-10 (木) 21:38:51
  • こんばんは♪優気です(*≧∀≦*)今回のサマバケ外伝はかなり心があったまる作品でした(*´∇`*)
    次回作も頑張ってください(*≧∀≦*)俺も作品が投稿できるように頑張ります!(〃⌒ー⌒〃)ゞ
    ――優気 ? 2013-01-10 (木) 23:07:31
  • >>01-10の名無しさん
    本当は堕ちていた時の零次兄貴にしようかと思ったんですが、やっぱり零次の兄貴という事なのです!
    次回は…まぁ要望も多かったので、な話を構想中でございます!

    >>ムフフさん
    事件が無ければ、そのまま良い兄貴のまま零次と一緒にあの夏を過ごしていたかもしれませんね。
    喋り方が似てるのには気が付かれましたか…零次が似たのか、それとも元々似ていたのか。良くも悪くも、この二人は兄弟なのです。
    新光も外伝もまだまだ頑張っていきます! ありがとうございます!

    >>優気さん
    人としての心を取り戻して、前向きに歩き出した創一…心温まるお話に出来ていたならありがたいです。
    優気さんも焦らず、作家デビューされる時をお待ちしております! 頑張ってくださいね!
    ――双牙連刃 2013-01-13 (日) 09:22:32
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Last-modified: 2013-01-10 (木) 00:00:00
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