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サイバー・サバイバル

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サイバー・サバイバル



水のミドリ


 皆が寝静まるような真夜中でさえ、駅の周りは華やかさを失わない。星空の明かりを掻き消すかのようにひしめき合って立ち並ぶビル群は煌々と輝いていて、まるで大きなミラーボウルのようだ。
 中心部から少し西に離れるとすぐに住宅地が広がり、ここらはもう点いている明かりもまばらだ。特徴のない小さめの古いビルの周りの街灯が、じりり、とショートする。一瞬だけ暗くなったビルの部屋から、数台の液晶画面の青白い光が漏れた。
「あープランク、あまりイタズラするなよ? ここが見つかったらおれたち捕まるんだからな?」
「エー? でもさでもさギーク、もちろんジャミングは掛けてあるんだよね、 じゃあバレることないじゃん」
「おれはお前のそういう心掛けが心配なんだよ……」
 ところどころクッションの破けた回転いすに腰掛けると、ギークは乱暴そうに茶色い短髪を掻いた。着ている無地のTシャツは三日取り換えていないから、点々と食べ物の染みが浮き出ている。
 先ほど電線に入り込みイタズラしていたプランクは、まだまだ遊び足りないというように電磁気でできた腕をぐるぐると回した。せわしなく動く小さい電気の球は、ギークを辟易させるのに十分だった。
「ギーグぅ? せっかく三か月ぶりに会ったのに、その反応はないんじゃなーい? ボク悲しくなっちゃうなー?」
「はいはい。で、まだディジが来ないんだけど。……おっ」
 左端のモニターから、短い電子音が流れた。すかさずギークは受信したメールの添付ファイルを解凍し、そのままコンバータにかける。
 数秒後、パソコンの隣のマットの上に、ディジの姿が現れた。青と赤のはっきりとしたボディカラーに鳥のような嘴。両腕の不規則な動きに交えながら、ひとつ大きな欠伸をした。
「集合時間遅刻だぞ」
「すまん、寝てた。ところで俺の下半身を見てくれ。こいつをどう思う?」
 沈黙。
「すごく……大きいです……」
「やめろ」
 合いの手を入れてけらけらと笑い転げるプランクに、何が起きたのかいまいちよく分かっていないディジ。ギークは長いため息をついた。
「おいディジ、なんでお前はいつもそうなんだ。 使う言葉にはフィルタリングかけておけって言ったろ?」
「ダメダメ、何回言ったって無駄だってギーク。ディジはそういうの全然わかんないんだからさ、自分がコンピューターなのにっ」
 わかったわかった、とはしゃぎまわるプランクを何とかなだめて、ギークは改まって今日の作戦を説明する。
「今日集まってもらったのは他でもない……」
「ギーク、前置きはいいからさ、早くしてよっ」
「そう言うなって、おれはこういうのも楽しみたいの!」
「そうだよな、毎回ギークはお留守番だもんな。ま、今回も俺様が一発中に出してきてやるから――」
「ディジは少し黙って」
 こんな事じゃ話が前に進まない、とギークは思った。プランクとディジは性別がないせいか、この手の話題に見境がない。人に嫌われても良いと考えているかどうかは分からないが、話を遮って笑い飛ばす。現実にいたら絶対に関わっていないタイプだな、とギークは心の中で呟いた。しかもこう見えて最近二人の仲があまりよくないようだ。けれど、これからやろうとしていることは彼らの協力なしでは到底成し遂げられない。ギークは転げまわっているプランクをひっつかんで、パソコンのUSBポートにねじ込んだ。
「ワ、ギークなにすんのさ! まだ作戦会議聞いてないよ!?」
「うるさい、もう前回と同じでいいだろ。わかったら遊んでないでさっさと準備する!」
 怒られてもなお、パソコンの画面いっぱいに押し出されたプランクの顔はイタズラそうに笑っている。USBポートから飛び出ているパルス状の手をねじ込み、き、とギークはディジを振り返った。
「ホラお前も!」
「えェ!? 俺は睨まれる理由ないだろう!」
「大アリだ馬鹿野郎!! だいたいお前が原因だわ!」
 データ化される途中もこんな調子だ。ギークはつくづく呆れてしまった。ディジはパソコンに取り込むのが遅いから、待ちくたびれたプランクはまた何かイタズラを始めるかもしれない。この間は潜入で盗んだ大切なデータファイルの名前をすべて書き換えられていた。そういえばディジは堪えきれずにデスクトップに大量のジャンクデータを漏らしたこともあった。そんなことがあるたびこいつらとは縁を切ってまっとうな仕事に就くべきだとは思うのだが、やはりこれが楽しくて仕方がない。自分もプランクやディジに負けないくらい狂っているのだろうな、とギークは心の奥底から沸き立つ興奮を感じていた。
 さあ、祭りの始まりだ。

★★★

 上下左右どこまでも続くかのような真っ白な空間。等間隔にひかれたグリッド線がなければ、この広い電子空間で迷子になることは間違いない。球体の内部のような空間の中央にはちょうど南の島のような構造物が見え、しかしヤシの木の代わりに上下には何本ものパイプがつながっている。中は空洞になっており、運搬機能のみを持ったポリゴンたちがせわしなく上下しているのが見えた。
 空間の端、四角く縁どられた壁の一部が欠落し、中をうかがうように忍び込む影がある。
「あ、やっと来たねディジ! 待ちくたびれて、一人でいこうかと思っちゃったよー」
「ファッ!? いきなり脅かすなよ…… で、今日のターゲットはどういうところなんだ?」
 はー、とため息をついて、プランクは首を横に振った。ディジは頼れる奴だが、イタズラしても期待した反応が返ってこないことが多いから、プランクは二人きりになるのが少し苦手だった。ましてや、無意識でこんなミラクル発言を連発するのもだから、付き合わされる方の身にもなってほしい。これはきっとギークも同じことを思っているだろうが。
「……そういうところ本当に直した方がいいと思うよ。デ、今日イタズラするのは株式会社ハルキゲニアっていうところ。管理者パスワード借りて幹部しか見れないヤバいデータを一般公開するだけだから、やることは前回と変わらないね。ディジは遠くからジャンクデータの塊をセキュリティに向かってぶち込んでくれよ?」
「場所とタイミングは合図してくれんだよな?」
「まっかせといて! フラッシュ使ってチカチカするから、そこに打ち込んでくれればいいよ。ボクには当たらないし」
 ディジは溜まったアレをブチ込むにはどこがいいか、真ん中の浮き島を眺めた。やはり中央にぶっ放すのが一番いいが、それでは目的のデータが壊れてしまうかもしれない。セキュリティを壊すんだったら、チューブの集中しているあの辺がいいな、とディジは吟味した。
「しかしなんだこれは……たまげたなぁ…… ジャンクデータが1つも浮いてねぇ。こんな綺麗なとこ襲うなんてギークらしくねぇじゃねーか」
「ボクも気になって聞いたんだけど、『急成長した会社にこそヤバい情報がある!!』って譲らなくて。まぁボクはイタズラできればどこでもいいんだけどさー」
 けらけらと楽しそうに笑うプランク。やる気十分のプランクに応えるためにも、モノの通じが良くなるように軽く運動でもしておくか、とディジは思った。
 てろん、と短い電子音が響く。どうやらディジがメールを受信したらしい。いそいそとメールボックスを確認するディジにプランクが口を尖らせて言った。
「いーよなディジはコンピューターで。ボクはメールすら受信できないんだから。ギークからでしょ読んで読んでー」
「ちょっと待て、コイツ暗号化されて硬くなってんぜ…… よし解けた。えーなになに、『こっちの準備はいつでもOK。テクスチャーはしっかりかけたか? プランクはそのままだとウイルスと判断されてすぐつまみ出されるからな。えー、そちらからの返信の10秒後にそっちのサイトへのアクセスをすべて遮断する。同時にここでの通信もできなくなるから注意しろ。では健闘を祈る。P.S.ディジ本当にやめろ』だと」
「バレテル!!」
 笑い転げるプランクをディジは嘴で捕まえた。一度笑いのツボに入るとなかなか戻ってこないのがコイツの悪い癖だ、とディジは思った。プランクのヘラヘラした性格は特にこうして手を組んで悪事を働いている時は気が気ではない。本人はいたって悪いことだと思っていないようだが、そこが厄介極まりない。遊び半分で失敗したら一巻の終わりだからだ。
「おら、いいからケツ出せ。テクスチャーで書き換えてやるよ」
「……いや、もう何も言わないよ。ハイよろしく」
 ディジの周りに透明な薄い板のような四角い欠片が浮かび上がり、プランクの周りに張り付いた。欠片が小さくなってプランクの体になじんで消えると、ディジは腕の力を緩めた。
「ほら、終わったからさっさと行ってこい。あまり待たせるようならこっちから狙いをつけてぶっ放すからな」
「あー、ディジはせっかちなんだから。もしかしてホモ?」
「あ!? 誰がホモだ!」
「ディジ気づいてないの? キミの発言の8割はそういうネタに通じているんだよ? 気を付けた方がいい」
「言葉に気を付けるのはお前の方だ。だいたい落ち着きがなさすぎるんだよ! いつもケラケラ笑って人の話聞かないでさぁ!!」
「何やるの!? いーよ、受けて立とうじゃん!!」
 二人の間にバチバチと上がる火花。いつもならここでギークが止めに入るのだが、人間は電子空間には入れない。日頃の思いが積み重なったいがみ合いは、突如起こったブレーカーの落ちるような音で中断された。ギークがサイトのアクセスを中断したのだろう。異常事態を感知した外部がネットワークを復旧するまでにあまり時間はない。
「……いったんここはお預けかな」
「そうだな。現実に戻ったら一発やろうぜ。ま、結果は見なくてもはっきりわかんだね」
 プランクは小さく息を吐き出して、なんだよ、と苛立つディジの周りを一周すると、そばを通っているパイプに近づいて行った。



「なんだよなんだよ、実際に乗り込んでいるのはボクなのにっ!」
 パイプの中はポリゴン同士がすれ違うのにやっとの太さで、快適な空間とは言えない。しかも単調な景色がずっと続くから、プランクは面白くなかった。ネットワークが遮断され情報の通りが悪くなったからか、そこかしこでポリゴンが渋滞していて、その度にプランクは思いつく限りの悪口を叫んでやり場のないイライラをぶつけた。
「そろそろウイルスチェックかな……」
 外部から運ばれてきたデータは、開封される前にチェックを受けるのが普通だ。いわゆる関所のような仕組みで、送られてきたウイルスや外部からの不正侵入を食い止める。ディジのテクスチャーによって外装を書き換えられたプランクは、中身はウイルスでありながら内部に侵入することができる。
「通れると分かっていても、毎回緊張するなぁ」
 順番待ちのポリゴンの列に交じって、プランクは気が張る思いだった。ようやく自分の番が回ってきて、空港にある金属探知のようなゲートをくぐる。音はならない。
「ふぅ……」
 ゲートの中、すなわち外から見れば島の丘になっている部分は、専ら港のようになっているらしい。たった今運び込まれたデータやメールが選別され、内部に運ばれてゆく。また会社内で作成されたであろうデータは、手の空いている運搬ポリゴンがせっせと外に持ち運んでいる。
 会社のポリゴンは、見分けがつくようにか首から社員証らしきものをぶら下げていた。
「意識は……無いよね?」
 プランクはわざとらしく社員の目の前で手を振ってみたが、反応はなくそっぽを向かれてしまった。どうやら雑務をこなすプログラミングがされているだけで、運搬ポリゴンと大差ないらしい。
「まぁ、騒ぎを起こされないならいいや。内部に侵入できる扉は……と」
 プランクはあたりを見回して、扉のようなものがないか探した。右奥にらせんを描いて下方に下るスロープがあり、そこを慎重に進む。ビルの1階ほどを降り切った先は少し広い空間になっていて、厳重にロックのかかった扉が立ちふさがっていた。やっと見つけた、と小躍りになっていたプランクは、急に踵を返してスロープの陰に身を潜める。
「門番がいるなんて聞いてないよっ……!!」
 門の前に、小さい人影がひとつ。よく見ると、ポリゴンのような赤と青のどぎついカラーリングだ。しかしポリゴンのように角ばっているわけでなく全体として丸っこい。どことなくディジに似ているな、とプランクは思った。
「目がイってないから、ディジとは違うよね。腕の代わりに脚があるし」
 だいぶ失礼なことを呟いておきながら、プランクはディジを頼ろうとした。が、さっきの口論を思い出して気がふさぐ。
「あんな奴いなくったってボク一人で何とかなるもん……!!」
 ディジに似ているということは、アイツもコンピューターなのだろうか。だとしたら。プランクには名案が浮かんでいた。コンピューターなら、アイツもほかの電化製品と同じように操れるかもしれない。試してみる価値はある。プランクは門番に気付かれないように後ろに回り込める道を探す。
「そんな抜け道なんてあるわけないよっ」
 ならば、正面から突っ切るしかない。突然の侵入者に相手が驚いている隙に目くらましできれば、急接近できるのではないか。プランクはバトルは苦手だがスピードには自信がある。ほんの数秒稼げれば、何とか突破できるのではないか。
「……いくぞっ!!」
 プランクは広場に飛び出すと、大出力の電気エネルギーを使って閃光を放った。



「あーもう、早くしろよ……」
 一人取り残されたディジは、プランクの合図があるまで暇で仕方がなかった。自分にインストールされているゲームアプリを起動してやってみるも、なかなか身が入らない。先ほどプランクと喧嘩したことが、思いのほか心の奥の方に引っかかって忘れられそうになかった。
「ここにも俺の居場所なんてないのかなぁ……」
 プログラムのバグなのか、ディジは子供のころから失言が多く、周りからも浮いた存在だった。直そうとは思っていても、身に染みついた癖はなかなか剥がれ落ちてくれない。そもそもディジはパソコンが苦手だ。いや、自分自身が半分パソコンでもあるから、0と1の世界は何か特別すごいことができるもの、という感覚は持ち合わせていなかった。ただ、この広大な電子空間は好きだ。周りの奴らから白い目で見られることもない。プランクにばったり出くわしたのも、ここでのことだった。その時は意気投合して最高の仲間を見つけたと思ったのだが。プランクにも嫌われてしまって、自分はもうなんだか人とかかわってはいけないんじゃないか、とディジは考えていた。
「はーあ、いっそのことジャンクデータになろうかなぁ」
 ディジはパンパンに膨れ上がった下腹部をさすった。ここには三ケ月分の処理不能データが溜まっている。これを一気に放出すると、得にも言われぬ快感がからだ中を駆け巡り、現実の嫌なことを忘れさせてくれる。打ち抜いた後の、なんとも言えない倦怠感さえ好きだった。しかし今はやる気になっても、脳裏にプランクの顔が浮かんで気持ちがげんなりしてしまう。
「ん、なんだ?」
 ディジが感傷に浸っていると、遠く島のほうから何かが飛んでくるのが見えた。プランクではない。だとしたら……
「敵か!」
 空間の端っこにいるディジに向かって高速で突っ込んでくるそれは、ディジの進化前のポリゴン2であった。ディジと同じく、追加プログラムによって感情を持っているはずだ。これは厄介な奴がいたな、とディジは思った。サイトのアクセスが復旧する前にコイツを叩いておかないと、すぐに自分たちの情報が洩れ捕まってしまう。戦闘は避けられないようだ。
「未確認データ発見。拘束します」
「うおっと!? 挨拶代わりに痺れさせようってか」
 膨れて重くなった腹をかばいながら戦うのは、明らかに不利であった。しかしこのまま捕まってしまえば元も子もない。放たれる電磁波を何とか交わすと、ディジは応戦して炎、電気、氷のエレメントを立て続けにぶつける。しかし動きが遅いからか、どれも当たりはしなかった。ふと、島の一部がチカチカと輝いていることに気付いた。中で一人潜入しているプランクの顔が目に浮かぶ。憎たらしい笑顔を浮かべて。
「あんな奴……一緒にい吹き飛んでしまえばいい!!」
 ディジはかぶりを振り、正面から突っ込んでくる敵に狙いを定めた。ただでさえ反動の大きい技だ、外すことは出来ない。カメラのピントを合わせるように相手にロックオンする。限界まで引きつけて――それを一気に放った。
「うおおおをををををーーー!!!!」
 引き裂くようなディジの叫び声と膨大なエネルギーを秘める光線が、空間の端から端へ貫いた。



「ウワッ!? いきなりなんだよー」
 プランクが扉のパスワードを必死に解読していると、凄まじい轟音とともに暴力的なエネルギーの塊が扉を貫いた。危うく腰を抜かしそうになって、プランクは恨み言を言った。
「ディジの奴、遅いぞまったく。なにやってたんだよー」
 不満を並べるのは、自分が不本意で放ったフラッシュにも気づいてくれたディジに対するプランクなりの感謝の気持ちの表れだった。が、たった今もう二度とディジの力なんて借りるもんか、と決心したばかりのプランクは顔をしかめた。いけないいけない、と頭を横に振る。あんな奴の力なんか借りなくったって一人で立派なイタズラができる。実際、プランクは門番を一人で倒していた。倒すと言っても、いざプランクが乗っ取ろうと中に潜り込もうとしたら、手ですくった砂が零れ落ちるように門番はサッと消えてしまったのだ。きっと見かけ倒しで中身のないデータの箱だったんだろう、とプランクは自分の勇気を鼻にかけた。
「まーいいや。どうせ暗号はあとちょっとでボクが解いていたし、変わんないよ!」
 プランクは嬉々として門の中に足を踏み入れた。島の中心部はブルーライトに照らされていて、ところどころ不思議な機械が作動している。どこかの研究所のようだな、とプランクは思った。すべてシステムが動かしているから、心配はない。と言ったものの、先ほど不測の事態が起こったばかりだから、プランクは緊張していた。一歩ずつ一歩ずつ、怪しく動く影はないか慎重に進む。
 大きなシェルターの前につくと、プランクはコントロールパネルを呼び出した。設定をいじくり機密情報を一般公開するためだ。あとはギークが情報を吸い上げ、どこかの掲示板にスレッドを立てるだろう。そうすれば途端にあちこちからネットイナゴが湧き上がり、ここの会社を四方八方から騒ぎ立ててくれる。それが自分たちの祭りだ。プランクはにやにやが止まらなくなった。ボクが祭りの初めの掛け声をあげているんだ。そう思うとプランクは気分が良くなった。ディジとのいざこざなんて忘れて、現実に戻っても仲直りができそうだ。大きく息を吸ってから、プランクは目の前にある『変更』ボタンを思いっきり押した。



「やったか!?」
 破壊光線の煙が晴れると、そこには相手の姿がなかった。暴力的なエネルギーに押しつぶされなくなってしまったのだろう、とディジは思った。
「残念、こっちです」
「なにっ!? んアッ!!」
 全身に痺れる電流を浴びて、ディジは悶絶した。技を当てた手ごたえは嘴にしっかり残っている。まさかあれを喰らってまともに動けるはずがない。目を白黒させるディジに、相手は優しくなだめるように話しかけた。
「ふふふ、あれは身代わりでした。あなたの行動は手に取るようにわかりましたよ、ディジさん。何でかって? それは私があなたのプログラムから生まれたからです。名前を知っている理由も、ご理解いただけましたか?」
「は? え?」
 理解の追い付いていないディジを、ポリゴン2はくすくすと笑う。
「つまり、私はあなたの娘ということですよ。さ、帰りますよディジさん。そろそろ私とギークさんの仕掛けた罠にプランクさんが捕まっているはずです。あの方も運ばないといけないので、ちょっと静かにしていていただけますか?」
 ディジは相手の嘴の先端に、自分がさっき放ったエネルギーと同じものが充填されていく様子を見届けているしかなかった。
「あの、ちょっ、話を…… アッー!!」

★★★

「ギークひどいじゃないか、ボクたちを騙すなんて!」
「そうだ、娘なんて聞いてないぞ!?」
「……」
 帰ってきてもなおわーわーぎゃーぎゃーうるさいやつらだ、とギークは思った。最近チームワークがうまくいっていないからお灸を添えたのに、少しも反省の色が見られない。本番でもこの調子だったらどうしていたのだろうか。今は体力もあまりないし二人はピクスのサイコキネシスで拘束されているが、このまま放したら暴れまわりそうで怖い。
「あのな、お前たちがチームの目的を忘れて毎回好き放題やるから、おれは心配でならなかったんだ。んで今回は箱庭を作ってそこにお前たちを送り込んだってワケ。モニターで見てたけど、しっかしまー協調性皆無だよな」
 隣でくすくすと笑うピクスは、ここ最近ギークがディジのデータから作り上げたポリゴン2だ。初めに紹介して今日から一緒に祭りを盛り上げてもらうはずだったのだが、とギークは気落ちした。だんだんと白んできた窓の外は、徹夜明けの倦怠感でいっぱいだった。
「あら、そんなことはないと思いますよ?」
 隣でピクスが抗議の声をあげる。
「だって、ディジさん、私と戦っている時でも、プランクさんの求めるところにしっかりと破壊光線を打ち込んだでしょう? あれは、成し遂げようって強い思いがないとできるものではありませんよ。プランクさんも、口では嫌がっていてもしっかりとディジさんを信頼している。あ、そうだ音源残っていますよね、お二人とも聞きます?」
「やめて!」
「やめろォ!」
 二人揃えて必死にせがむものだから、思わずプランクは吹き出してしまった。確かに息が合っているのかもしれない。これからはピクスにもサポートとして入ってもらうから、チームのまとまりは問題ないだろう、とギークは思った。もっと大きなプランを練って、来週にでも祭りを仕切りなおすか。ギークはいまだ騒ぎ続けている二人をピクスに任せ、情報収集に取り掛かった。



あとがき
 
 どうもミドリです。初めて短編小説大会に参加した作品。結果は散々でしたが、これにめげることなく精進してゆくつもりです。生温かく見守っていてください。
ペンネームの由来にもなっている水飲み鳥ですが、ポリゴン2のデザインがまさにそうですね。ポリゴンとオモチャを巧妙にマッチングさせたデザイン。ベロリンガと並んで私の好きなポケモンのデザインTOP2です。もしかして使用したポケモンだけで作者バレしてないか心配でしたが、そんなことはないでしょう。ポリゴン系統が活躍する話はこれからも書きたいと思います。
 いたずらっ子のロトムさん。今回は悪戯に引っかかる方でした。ロトムのデザインも素敵です。戦闘では何のフォルムチェンジもせずにそのまま使っていました。格闘、地面を無効にできるのはかなり頼もしいです。なんかアニメではオーキド博士が捕まえていましたね。あの人もだいぶ損な役回りです。
 皆さんに読んでもらえなかった理由は、たぶん設定に無理があったのではと思います。「バーチャル空間に転移できる」能力をロトムにも与えてしまったわけですし…… あと詰め込みすぎた感じがします。ポリゴンZが天然ホモ設定も要らなかった気がする…… そもそもスラングに手を出したのが間違いだったか……
 ちょっとこれからは意向を変えて、文中にポケモン名を直接出してみようと思います。もっと伝わるものを書かないと、いくら細部に凝っていても意味がないので。変な意地を張ってても面白くはなりません。



慰めとか、感想とか、同情とか、待ってます。


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Last-modified: 2014-08-26 (火) 21:53:16
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