レキ
○この作品には一部残虐な表現が含まれています。苦手な方は回覧をお控えください
○中二病臭い
○怖いの目指して派手に失敗
○そもそもポケモンである必要があるのか(ry
おーい、ちょっと。聞いてくんねぇ? ……大丈夫か、だって? 何が?
なんでもない? 気になるじゃん。ほんと? ……まあいいか。
あのさ、今日さ、すっげえ怖い夢見たんだよ。マジで怖くて、話さねぇと落ち着けないよ。怖すぎて寒気すんだよー、ヘルプミー。付き合ってくれ。
うう、さぶっ。はは、この部屋が寒いのかな、なんてな。毛布どこ? あ、ありがとう。
で、聞いてくれる? おお、付き合ってくれるかありがとう。ちょっと長いけどいいか? うん、ありがとう。
俺の身体はいつの間にか別人もとい別コラッタになっていてさ、人間の家に忍び込んでて、厨房で食糧を漁っている設定だった。
色とりどりのきのみが並んでいて、俺はもう我を失うほどにがっついていたんだよな。時折その家の住人かなんかがやってきたんだが、体が小さかったんで誰にも気付かれなかった。
無我夢中で食べてるとさ、急に部屋の温度が下がったんだよ。ひゅぅって。いきなりさ。
でもさ、俺はちょうどチーゴのみを食ってたから、ほらチーゴの実ってやけどを治すきのみじゃん? だからそれのせいかなとか思ったんだって。マジ。
でさ、じきに腹もいっぱいになって。もういいか、って思って、巣に帰ろうとしたんだよ。振り返ったんだよ。
したらさ、何が居たと思う?
何もいなかったんだよ。でも、何かがいたんだ。
強いて言うなら気配かな。確実に”居る”んだ。でも”居ない”んだ。
辺りを見ると誰も居なくて、いた筈の人間も居なくて、部屋も明かり消えてて、気味悪くなってさ。ネズミ失格だな、とか考えながら。ほら、沈む船からはネズミが逃げるって言うじゃん。ネズミより先に人間が先逃げるってどうよ、とかね。まあどうでもいいけど。
とにかく。俺、電光石火で逃げようとした。
動けねえんだよ。
ガチガチに固まってんだよ。身体。全部。髭一本動かせねぇでやんの。
もうね、心ん中で叫んだ。怖いってさ。
でさガクガク震えてっとさ、目の前の気配が笑った。ニヤニヤし始めた。気味悪ぃの。っかしーよな。なんも居ねぇのに。
野生の本能ってかな、危険だって体中の毛が騒いだ。で、俺叫びながら、恥ずかしいけど泣きながら、電光石火、ぶつけたんだ。
勿論素通り。うん、素通り。ほんと。
全身汗だくだったよ、もう。ああいないんだな、って振り向いた。
チビりそうになった。……ごめん、見栄はった。チビッた。
紫色の視界の中に、真っ赤に血走った目と、口があったんだ。そらチビるがな、ほんまにもう。……すまん、冗談だ。
それさ、ただこっち見るだけなんだ。ニヤニヤニヤニヤ気味悪く。
こっちチビって動けねぇ、相手ニヤニヤ見てくる。異質な光景だな。俺もそう思う。
そのままじーっと見詰め合った。目を離せなかった。目ぇ離したらやべぇだろ。
でさ、ずいぶん長いこと……いやもっと早いかな? そんくらいしてさ。相手が。ケヒッて。笑ったとも息を吐いたとも言えないが。
うん、ケヒッ。
……おいおい、ホントかって? さっきから何度も言ってるじゃん。
「ケヒッ」
ケヒッ
って。
で、ストップしてた思考能力がもどった。で、こいつが何かわかった。
ゲンガーだよ。ゲンガー。あれ。ゴーストタイプの奴。あ、毒タイプでもあったか。
そりゃノーマルタイプの技はゴーストタイプにゃきかねえよな、とか今なら納得できっけど、そん時は気が動転しててさ。なんでだよ、なんでだよ! って言いながら電光石火ぶつけようとしまくった。
ああ、お察しのとおり。スルスル通り抜けてさ。
「利くわけねえよ」
利くわけねえよ。
……なんだ、青い顔して。やだなあ、夢の話だって言ったじゃん。続けるぜ。
でさ、ゲンガーはそんな俺を笑ったよ。嘲笑。
その笑い声さ、頭ん中で響いて、とまらねえんだよ。最初はケケケケケ、てかんじ。後になると、
「げらげらげらげら」
げらげらげらげら。……お前上手いじゃん。え? 違う? 俺じゃない? やめろよ脅かすなよ! ビビるじゃんまったく。アハハハハ!
ハハハ……うん。で、頭ん中でげらげらが回って、しまいにゃ文字になって、ゲシュタルト崩壊。
うわああああって、逃げた。夢の中だから身体は重かった。けど頑張って忍び込んでた厨房からリビングに逃げた。笑い声は追ってくる。
リビングに着くとさ、やっぱ人間居ないの。気味悪い。
もう怖くて、とっとと巣に行くかって。家を出ようとしたのな。出入り口の設定になってる、机の下にもぐりこもうとして、慌てて飛び退いた。
手だよ、手。ゲンガーに似た紫色の、手がひとつ。手首から先だけでさ。
ズズ……って動いた。こっちに来た。一歩後ずさりした。
ズズ……って動いた。こっちに来た。もう一歩下がった。
ズズ……って動いた。こっちに来た。俺は気付いたんだ。
「机の、下から、覗いて」
机の、下から、覗いて。
「手は、もう一つ、増えて」
手は、もう一つ、増えて。
「それが」
それが
「ゴーストだと」
ゴーストだと
「わかったとき」
わかったとき
「お前は」
おれは
「背後から忍び寄る」
背後から忍び寄る
「ゴースの毒ガスで」
ごーすのどくがすで
「死んでいた」
夢は現実となったようだ。
僕の目の前で話していたコラッタは死んだ。ケタケタと笑うゴースの、インド象をも殺す毒ガスで。
悶え、苦しみ、目玉は飛び出て、泡を噴いて、もがいて、力を失った。
ああ、最初に君がこの部屋に来たとき、「君の肩にゲンガーが憑いている」と言うべきだったか。そして物陰に隠れたことを言うべきだったか。
ああ、最初に君がこの部屋に来たとき、「壁にゴーストがめり込んでいる」と言うべきだったか。そして様子を伺っていることを言うべきだったか。
ああ、最初に君がこの部屋に来たとき、「今、ここでゴースが浮いている」と言うべきだったか。そしてガスで包み込む隙を待っていたことを言うべきだったか。
彼らが、君に合わせて代わる代わる言葉を発していたことを言うべきだったか。
まるで操られているかのように、君の瞳の焦点が定まっていなかった事を言うべきだったか。
もう、遅い。
「……ケヒッ」
ゴース、ゴースト、ゲンガー。
彼らは不気味な笑顔を張り付かせ、僕を見た。
その目は赤かった。
僕の目の前も赤く染まった。
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