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グレイシア・ラプラスの事件簿・記憶と感情の裏表編 前編

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グレイシア・ラプラスの事件簿・記憶と感情の裏表編 前編

呂蒙

<流血・グロテスクなシーンがあります。苦手な方はお戻りください>

 序章の序章

 セイリュウ国某所の部屋でこんな会話のやり取りがあった。
「しかし、いいんですか? こんなことをしても」
「仕方ないだろう? 事実なんだから」
「しかし、先生は医学に携わる身。生か死の概念をぶち壊してしまう……」
「世の中にはまだまだ未知なるものがあって、今までの概念を根本的に覆してしまう。今回の一件もそうだと思うがね。とにかく、未知なるものとの遭遇とも言っていいわけだよ。それに、こういうことがあったっていうのを発表するのは、議論を巻き起こすいい機会だと思うわけだ」
「はあ……」
「まあ、その議論も含めてだ。そういうことがあったっていうのを後世に伝えるのは、ワトソン君。君の仕事だからね」
「……あの、私、ワトソン君じゃないですから……」


 序章 帰り道
 日はとっくに暮れ、月の青白い光が辺りを照らしている。周りの家やアパートには明かりがついている家も多い。恐らく、その家の住人は、皆仕事や学校、アルバイトが終わった後の有意義な時間を思い思いに使っていることだろう。早いとは言えない晩御飯のにおいが、家路を急ぐ人々の空腹に拍車をかける。また、ある所からは笑い声。コント番組でも見ているのだろうか? それとは別の所からは怒鳴り声が聞こえる。ははぁ、ケンカか説教だな。明かりがついているにもかかわらず、静かな家。明かりをつけたまま寝てしまったとか、勉強中とか、理由はいろいろ考えられる。
「あ~あ、また部活で遅くなっちまったよ。腹も減ったし、ウインディに迎えに来てもらえばよかった……」
 月と街灯が照らす道を1人の青年が急いでいた。このバショク青年は、医者一家の末っ子(5男)である。彼は、勉強よりもスポーツを好んだ。洋弓の腕前はかなりのものだった。
(ん?)
 何かがいる。バショクは足を止める。電柱の陰から何かがこちらを見ている。いや、もしかすると、気のせいかもしれないが。電柱には「交通事故多発」と書かれた看板が立てかけられていた。
(あれ、こんな看板あったっけ?)
 さらに近づくと、やはり、何かがいる。そこにいたのは、クリーム色の美しい毛並み、茶色の瞳に、体のところどころからは植物が生えている。
(え? リーフィア? 野生がこの辺にいるってことはないから先輩のリーフィアか?)
 そのリーフィアがバショクに声をかける。
「バショクさん。先輩方がお待ちです。こっちです。ついてきてください」
「あ、ああ……」
 腹が減っているのにと思いつつも、バショクはリーフィアの後についていった。しばらく歩くと、十字路があった。リーフィアはそこを左に曲がった。バショクも当然左に曲がる。十字路のところに立っていた電柱に住所を書いたプレートがくくりつけられていた。
「シドウ市 西1-13-8か」
 特に意識していたわけではないのに、なぜか目に付いた。また、しばらく歩くと、何故かズバットが出てきた。しかも3匹。
「げっ、何でこんなのがここにいるんだよ」
「私にお任せください」
 タイプで言えば、リーフィアが不利である。にもかかわらず、リーフブレードで3匹のズバットを切り伏せた。何だか、ダジャレにもなりそうな展開だったが、とてもそんな事を言えるような気分ではなかった。リーフィアはズバットにリーフブレードを打ち込んだときに、相当量の返り血を浴びていた。ズバット3匹は血の海の中におり、ピクリとも動かなかった。しかもよく見てみると、3匹とも真っ二つに断裂してしまっていて、臓器も体外に出てしまっていた。バショクはそのグロテスクな光景を見て、気分が悪くなってしまった。また、食欲も一気に失せた。一方、リーフィアは血まみれではあったが、それは返り血を浴びたからで、本人は無傷のようであった。クリーム色の体毛は赤黒く染まっていた。
「さあ、行きましょう」
「……」
 リーフィアはバショクに向かって微笑し、こう言った。普段ならかわいいのだろうけど、この状況では不気味を通り越して怖い。何だか、地獄からの使いのようにも見える。
 再び十字路にぶつかる。左右は普通の道だったが、まっすぐ延びる道は長い階段であった。しかも下り。街灯もなく先が見えない。
「今度はまっすぐです。足元に気を付けてください」
「え? ちょっと待ってくれ」
 リーフィアは、さっさと先に行ってしまった。1人残されたバショクは懸命に暗い階段道を下りはじめた。息が切れるころ、ようやく一番下に辿り着いた。
(え? ここどこ?)
 眼の前には海が広がっていた。シドウは内陸地であるため、海などあるはずがない。川はあったが対岸が見えないほどの大河ではなかった。
(くそ、くそっ。どこなんだここは)
 バショクがきょろきょろしていると、先ほどのリーフィアが現れた。
「バショクさん。先輩方がお待ちです」
 バショクは、どうもおかしいと思いはじめていた。先輩方というのはてっきり、カンネイとリクソンのことだと思っていた。しかし、リクソンのリーフィアはほかの人、ポケモンに対しては「さん」付けで呼んでいる。カンネイなら「カンネイさん」とならなければおかしい。しかし、バショクが他に知っている先輩というと……。それを考えてバショクは青くなった。考える前に体が動いていた。逃げろ、逃げなければならない。ここにいるのはあまりにも危険だ。長い階段を全力疾走で駆け上がった。バショクは後ろを振り返った。どうやら追ってきていないようだ。ああ、良かった。と、前を見るとサンダースがいた。
「あれ? バショク」
「サンダース? 先輩の……?」
「あたりめーだろ、この辺に野生のやつがいるなんて聞いたことねーし」
 地獄に仏とはこのことか。ようやく生きた心地がついた。が、それもつかの間。
 バショクの右足に何かがからみついた。
「? 何だこりゃ? まさか……」
 背後から声が聞こえる。
「どうして逃げるのですか?」
 やっぱり来た。例のやつが……。
「バショク、逃げろ」
 サンダースがバショクを追ってきたリーフィアに飛びかかる。
「きゃっ」
「何なんだ、お前」
「先輩に頼まれて……」
「誰だそいつは!」
「あなたには言う必要のないことです」
「な!? がっ、はあっ、バショク逃げろ……」
 リーフィアを抑えつけていたサンダースの首周りの白い体毛が赤く染まる。
「サンダース!」
 バショクはサンダースを抱きかかえたが、返事はなかった。首を深く切られたせいで、出血が多くほぼ即死だった。リーフィアが一歩バショクに近づきこう言った。
「あなたはこうやって多くの人の犠牲によって生かされているのですよ? 現に今日も犠牲者が出てしまいました。もうそんな生き方はおやめになったらどうです? 先輩方もきっと悲しんでいますよ」
「わ、訳の分からないことを、わっ!」
 強い力でずるずると先ほどの場所に引きずられてゆく。やがて例の海岸まで引きずられてきた。この先はもう海しかない。そうか、奴は地獄からの使いだったのか。だが、オレが何をしたというのだ! くそ、くそっ。
 足元に冷たいものが触れる。後ろを見なくとも分かる。海水だ。何とかしないと溺死してしまう。ラプラス、ラプラス! お前だけが頼りだ。助けてくれ……。どこからか、自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
(ああ、そうか、ラプラスだな。助けに来てくれたのか、けど、もう遅い、よ、兄さんのことを守ってやってく、れ……)
 恐怖のあまり声が出せなかった。そう思った時、バショクの意識は途切れてしまった。

  第1章 朝

 その日、バショクはラプラスに起こされた。
「うう……。うーん……。あ、あれ? 生きてる。あ、何だ夢か」
「大丈夫? 汗びっしょりだよ?」
「変な夢見てうなされただけだ、まだ時間あるし、シャワー浴びてくるか」
 バショクはシャワーを浴びて、寝汗を洗い流した。ついでに頭と顔を洗う。実に気持ちいい。しかし、バショクは、先ほどの夢にどうも引っかかることがあるような気がしてならない。所詮は夢。いつもならそう思うのだが、何故か今回はそうは思えなかった。一体どうしてだろうか。気になる、が、いつまでも気にしていても仕方がない。バショクは悪夢のことをきれいさっぱり忘れることにした。脱衣所に置いてある衣類を身につけ、ダイニングに戻った。
 そこには、ラプラスがいた。バショクの部屋は一階にあるので、ラプラスが自力で同じ階にあるダイニングに移動しても別に不思議ではない。ただ、あの体だと自力で階段の上り下りは不可能なので、いちいちボールに出し入れする必要がある。その手間を省くためにバショクの部屋は一階にある。
 朝のニュースを見ながら、ジャムを塗ったトーストをかじり、インスタントコーヒーを飲む。ブラックで飲むのはあまり好きではないが、先ほどのことを苦味で打ち消してしまおうと考えたのだ。一方、ラプラスはパンを一斤、丸飲みにする。人間がやったら、確実にのどに詰まらせて死んでしまう、やはりポケモンのなせる業か。その後、ラプラスは好物のカフェオレを飲む。といっても、自力では作れないしそもそも飲めない。故に、バショクの仕事になる。
 鍋にインスタントコーヒーとミルクをぶち込み、焦げない程度に温める。これで完成。
「できたぞ」
「あ、サンキュー」
 ラプラスは口を開けて待っている。まるで、餌を待っている燕のヒナだ。バショクはテーブルを踏み台代わりにして鍋を口元まで持っていく。そして、ちょっとずつ口の中へ流し込む。
「ぷはっ、あ~おいしかった。ありがとう」
「いいって、いいって。さて、そろそろ大学に行くか」
 最初は面倒だったが、慣れるにつれて何とも思わなくなってきた。食器を洗うと、バショクはラプラスをボールにしまい、家を出た。
 私鉄はいつもすいている電車を選んでいる。今日もその電車だったので座ることができた。駅に停まるたびに通勤や通学の客を拾い、車内が込み合ってきた。バショクは電車に揺られながら、考え事をしていた。忘れたつもりであったが、どういうわけか先ほどの悪夢のことが蘇ってきてしまう。忘れようと思っても忘れられない。何なのだろうか、あの夢は。頭に角が生える夢は不吉だとか、昔から夢はこれからの運命を知る手段として使われてきた。とはいえ、それは昔の話。
 そう思ってはいるのだけど、しかししかしと思考が続いてピリオドを打つことができなくなっている。一体どうしてしまったのだろう?
 思い当たることは、有るような無いような……。ターミナル駅で地下鉄に乗り換える。混んでいるが、二駅だ。我慢しようと思えば我慢できる。
 大学の最寄り駅で地下鉄を下りる。大学はすぐ目の前にある。大学のラウンジに行き、荷物を置き、ラプラスをボールから出す。
「……なあ、ラプラス。ボールの中ってどんな感じだ?」
「何でそんなこと聞くの?」
「いや、なんとな~く。強いて言うなら気になったから」
「う~ん、狭くて暗い。まあでも、暑くもなく寒くもない」
「まったく、どーいう仕組みなんだろうな、これ」
「さあ、僕に聞かれても……」
「人間も入れるのか?」
「だから、僕に聞かないで……」
「ん? あ、いや、待てよ……」
「え? 何?」
「そういえばさ、オレがこの前、ボールを弓矢で撃ち落とした時、矢がボールに刺さってたような気がするんだ。と、いうことはだ。ポケモン以外は入らないようになってるんじゃないか」
「ああ、リク先輩のポケモンを助けたときね。言われてみればそうだったね」
「つーことは、人間は中に入れないな、よかったよかった。もやもやが消えた」
 そもそも、仕組みの話をしていたのに、いつの間にか人間が入れるか入れないかの話に変わってしまっていた。でも、ラプラスはそのことは黙っていた。本人が満足そうにしているのだから、それでいいではないか。バショク自身も考えていたことが分かって満足していたし、悪夢のことなど忘れてしまっていた。
 バショクが持参した水筒のお茶を飲んでいると、突然、天井の電気が消えた。もっとも昼間なので、室内が真っ暗になったわけではなかった。それでも、室内の明るさはライトが点いているときの半分ほどになっていた。
「ありゃ? ブレーカーが落ちたのか?」
「……」
「ラプラス?」
 返事はない。
「聞こえ……」
「シッ……」
 間もなく明かりがついた。どうやら、ブレーカーが落ちたのが原因だったらしい。
「ラプラス、お前さっきどうしたんだ? 表情が変わってたぞ」
「何かいた」
「そりゃ、いたさ。オレが」
「違うよバショク以外に。まあ、バショクには分からなかっただろうけど」
「あー、そかそか。まあ、オレに何かあっても、お前やウインディ、先輩のポケモンが守ってくれるだろうからな。返す返すもオレは恵まれてるよ、うん」
 バショクは、ラプラスの言っていることを否定することはしなかった。本人は真面目に言っているようだったし、人間が感じないものを感じ取ったのかもしれない。動物が地震や大津波が来る直前に逃げだすのと同じようなものなのだろう。
 実際、これは前触れだった。黒い影がバショクのまわりに忍び寄っているのは事実だったが、彼はそれに気づいていなかった。

 しばらくして、法孝直がやってきた。彼は、学者と政治家の二足のわらじをはいている人物なのだが、それを知らなければ、ただのおっさんである。普段の行動は国民の代表らしからぬものがある。ダークな部分があるわけではないが、良くも悪くもとぼけたところがある。今日も第一声が

「よっ」
 である。礼儀知らずなように思えるかもしれないが、本人は親しみを持ってもらいたいとかの理由でこのように生徒に接しているのだ。むろん、国会ではこんな発言はしない。
 孝直は、椅子に腰をおろしてコーヒーを飲み始めた。すると、こんなことを話し始めた。
「あー、そーいえばさぁ」
「何です?」
「何てったっけ? 君のラプラス? 泳ぎが得意らしいね」
「それがどうかしましたか?」
「今から、4年前かな? 私が運輸大臣を兼務してた頃に、海難事故があってね」
「4年前ですか? う~ん、そんな事件があったような無かったような……」
「ま、そうだよね。そんだけ経てば忘れちゃうよね。私が事故の原因を調査するように命じたんだけど……」
「『けど』なんですか?」
「それは、あっ、ごめん。そろそろ授業の準備をしないと。続きは昼御飯のときね」
 バショクとラプラスは、孝直の後姿を見送った。それと入れ替わりに、リクソンが7匹を連れて入ってきた。全部イーブイの進化系。よくもまぁ、これだけ揃えたな、口には出して言わないが誰もが一度はそう思ったことだろう。
「あ、先輩。しかし、7匹も連れ歩くって大変じゃないですか?」
「いやまぁ、サイズは小さいからね。言うこと聞かなかったら蹴りを……」
「え? 先輩はそういうことするんですか?」
「いや、冗談冗談。グレイシアとシャワーズがしっかりしてるし、サンダースとブラッキーはバショク君になついているからね。自分ひとりで何から何までやらなきゃいけないっていうわけでもないし」
「確かに、うちは大きい分、数は少ないですからね。まあ、ラプラスが何の役にも立たなかったら、今頃、すっぽん料理ですよ」
 冗談を言って笑う二人。実際役に立たないなんてことはない。むしろいてくれなければ困る。少なくとも二人はそう思っている。と、その時バショクとリーフィアの目が合った。バショクがやおら立ち上がる。
「そろそろ、次の授業ですので」
 とだけ言うと、足早にラウンジを出ていった。バショクは今朝の悪夢を思い出してしまった。別にあのリーフィアがリクソンのものとは、到底思えなかったけど、何だか一緒にいて気分のいいものではなかった。ひどいことをしたなと少し後悔したが、どうしても、あの場所にはいたくなかったのだ。廊下を歩いていると、ラプラスのさっきの話が、急に現実味を帯びたものに思えてきた。
 バショクの後姿を見送っていたラプラスに声がかかる。
「ねえ、ラプ君」
「あ、グレイシアさん」
 ラプラスをこう呼ぶのは、グレイシアとシャワーズだけだった。自分よりも年下だし、タイプが同じなので親しみを込めてのことだった。
「バショクさん、ちょっと様子がおかしかったわよ。何かあったの?」
「いや、それは、僕にも分からない……」
 見当はついたが、断定する自信はなかったし、ふざけたことを言うと冷凍ビームが飛んでくるかもしれない。無難に答えるにはこれが一番だった。
(それにしても、先輩のリーフィアって、すごく可愛がられているなぁ……)
 実際、可愛いのは事実だが、普通ここまでするものなのかといえば疑問であった。リーフィアは頭をなでるリクソンの手を受け入れて、嬉しそうな顔をしている。演技とか歓心を買おうとしているようには見えなかった。ラプラスにしてみれば、ここまでされるのはちょっとごめんだなと思っていた。こうなるのは、リクソンとリーフィアの性別が違うというのが両者がべったりしている原因なのだろうか? おまけに、7匹の中では、リーフィアが一番年下であるのも要因であろう。
 ラプラスがいろいろ考えていると、リクソンから声をかけられる。
「あ、バショク君のラプラス」
「はい?」
「オレも授業だからさ、こいつら見ててね。万が一ケンカを始めたら、止めておいてね。多少手荒くなってもいいから」
「いや、そういうことは……」
「もちろん、グレイシアにも同じこと言っといたから。それじゃあねえ~」
 リクソンは行ってしまった。もっとも、7匹がケンカすることなどほとんどないのだが。それはもともとが同じポケモンだったからというのが影響しているのだろうか? それとも、リクソンがきっちりしつけているからか。多分どちらも正解だろう。どのポケモンにとっても、いい主人に巡り合えるのは幸運なことだ。
「そのとおりだねぇ」
「え、エーフィ」
 いつの間にかラプラスの側にエーフィが来ていた。
「よっこらしょっと」
 エーフィは、超能力を使って浮かび上がると、ラプラスの頭にしがみついた。別に重くはないが、体を密着させられると、オスのシンボルが時折当たるので、それは勘弁してほしいのが本音だが、オスにはみんなついているものだから仕方ないか。もっともこれならまだいい方だ。ときどきグレイシアやシャワーズが同じことをするのだが、その場合、胸が後頭部に当たってしまうのである。羨ましいと感じるか何とも思わないかは人それぞれかもしれないが、ほぼ「無菌状態」のラプラスには、刺激が強すぎる。無駄に血圧が上がってしまう。おまけに容姿も可愛らしいので、それに拍車をかけてしまう。
「あ」
「どうしたの、エーフィ」
「救急車が停まってる」
「あ、ほんとだ」
 エーフィとラプラスが外を見ると、確かに救急車が停まっている。担架にだれか乗せられているが、顔は見えなかった。見えたのは黒い靴下だけだ。他の6匹も外を見ている。
「もしかして、バショクじゃねえのか? さっき様子がちょっとおかしかったし」
 サンダースが言う。しかし、ラプラスはきっぱりと否定した。
「何でそう言い切れるんだ?」
「だって、バショクが履いていたのは白い靴下だったし」
 これが、第一の事件であった。ラプラスはバショクのことが気がかりでならなかった。

 というのも、様子が変だったのはさておき、あのままだと本人が精神的に追い詰められてしまいそうな気がしたたからだ。あのことを本人は忘れたようにふるまっていたけれど、内心はそうでもなかったのだろう。 


 
 前編終わり。中編へ続く
グレイシア・ラプラスの事件簿・記憶と感情の裏表編 中編

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  • とりあえずテスト
    ――呂蒙 2010-04-19 (月) 00:18:26
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Last-modified: 2010-06-13 (日) 00:00:00
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