まだ12月25日の89時50分だ!
間に合った!
by顔の人
「クリスマスか……。」
外の景色を見ていたマスターがぽつりと呟く。
私はマスターの膝の上に乗って、今までのサンタさんのことを話しているテレビを見ていた。
デリバード達は子供達にプレゼントをする人間のサンタさんを見て、プレゼント配りを手伝い始めたらしい。
「マスター?」
「ん…いや、何でもないよ。」
マスターは少し微笑むと私を撫でてくれた。
冬…クリスマスの時期が私は一番好き。
マスターに出会ったがクリスマスだったから。
私は産まれてすぐに狭い所に入れられて、見世物みたいにされたのを覚えてる。
でも、マスターのお父さんとお母さんがそこから出させてくれたの。
サンタさんが私にくれたのは優しい家族。マスターにあげたのは私だった。
「マスター♪」
「っと、どうした?」
私はマスターに寄り掛かって鼻をマスターの胸に押し付ける。
「おい…あははっ……くすぐった…やめ……。」
「♪」
ぐりぐりと鼻を胸や首に押し付けると、マスターは苦しそうに笑い声をあげる。
マスターはガバッと私の脇を掴んで持ち上げて、マスターの『くすぐる』が私の急所に当たる。
「この悪戯っ子め!そんな子にはくすぐる攻撃だ!」
「あはっ…まっ、マスター!やめっ…あはははっ……!」
身体をよじって逃げようとしても、マスターは逃げられないようにしっかりと私の体を押さえていた。
しばらくするとマスターは手を離して言った。
「まったく…反省したか?」
「…ふぅ……んーん!してない!」
覚えてたのは昔だけど、本当の『くすぐる』攻撃を息を整えてから、すぐにマスターに仕掛ける。
鼻は首、手は脇腹、尻尾で足の裏を同時にくすぐった。
「あっ…ははっ……コラ…や……あはははは!ギブ!降参!」
マスターは思いの外すぐに音をあげて降参をした。
私が上からどくと、うっすらと目に涙が浮かんでいた。ちょっとやり過ぎたかな…?
おわびの意味も込めてマスターの目に浮かんでいた涙を舐めとる。
少ししょっぱいけど気にならないかな。
「まったく…お前が本気になったら手も足も出ねえよ。
あ、ちょっと待っててな。もうこんな時間だし飯作らないと。」
マスターはそう言って私の頭をぽんぽんと叩くと『ざぶとん』から降りて台所に立った。
ふとさっきまで見ていたテレビに目を向けると、人間のサンタさんはオドシシを使って、デリバードのサンタさんは空を飛んでプレゼントをしているようになっていた。
今の事を言っているらしい。
マスターは一人暮らしで、まだ学校に通ってる。
あそこはマスターが勉強してる時はボールの中にしかいれないからあんまり好きじゃない。
決まった友達がいないこともないけど、場所も広いし人も多くてほとんど会えないし…。
「リーフィ。」
「はい?」
「冷蔵庫ん中まともなの無くてさ…悪いけど食べに行こうか。」
外を見ると雪は降っていないけど、とても寒そう。
でもまぁ…良いかぁ、近いし。
私がマスターに近寄ると、マスターは小さくて赤い木の実のようなものを私の耳に付けた。
「クリスマスだし、季節に合わせたちょっとしたオシャレみたいなもん。磁石で留めてるから痛くないだろ?」
マスターの置いた手鏡を覗くと、小さくて赤い可愛らしい実が私の耳にくっついている。
「その実は柊もち…クリスマスホーリーって言ったほうがそれっぽいな。
…うん、やっぱりクリスマスらしくて良いな、それ。」
私ははっとして首を縦に振る。
思ってもいなかったプレゼントをされてちょっと驚いてた…。
「マスター、ありがとう!」
「気に入ったみたいだな、良かった。
…ま、気に入らなくても代わりはなかったけどな。」
上着を着ながらマスターはそうおどけるように言った。
「じゃ、行くか。」
行くと言っても、階段を少し降りるだけ。
あの部屋を持ってる人のお店が下にあるからね。
「いらっしゃいませ…って君だったか。何かあったのか?」
「いえ、今日は普通に客として来ました。」
「そうか、ならごゆっくりどうぞ。」
マスターはカウンター近くの椅子に座る。
お店の人間が奥に戻ると、エルレイドのおじさんが出てきて
「ありがとうございます。」
「………。」
おじさんはいつものように首を少しだけ縦に動かすと、カウンターの下から
「好きなの食えよ。」
「うん。」
私は『ポケモン用』と書いてあるメニューを見る。
きのみの絵と料理の写真でどんな味なのかは想像がつく。
「俺はこれのセットで。飲み物は後からお願いします。」
「じゃあ…私はコレとコレを。」
私が頼んだものには『オッカブレッド』、『ナナのみジュース』と書かれていた。
たぶん…辛いパンと甘苦い飲み物……じゃないかな?
エルレイドのおじさんは注文を聞くと、お辞儀をして奥に引っ込む。
静かにしていると、クリスマスソングが聞こえてくる。
……好きな人、かぁ…。ずっとマスターと一緒だったし、気になるような男の人と出会ってないもんなぁ……。
「お待たせしました。」
しばらくして、エルレイドのおじさんが手に二つ、サイコキネシスで三つのお皿を持ってきた。
おじさんは一つ一つ丁寧にカウンターに並べると、フキンを絞ってテーブルの掃除を始めた。
「じゃ、食おうか。」
「うん。」
小さくブロック状に切られたパンを頬張ると、サクッとしたパンにピリッと辛いオッカの粉がかかってすごく美味しかった。
「大家さん…やっぱり料理上手いよなぁ。」
「本当…すごくおいしい。」
それから私達はしばらく無言で食べつづけた。
食事中に話すのは行儀が悪いのもあるけど、やっぱり美味しいから食べる事に集中しちゃうのかも。
最後の一つを食べ終えると、人間がナナのみのジュースとコーヒーを運んできた。
「ご馳走様でした。すごく美味しかったです。」
「そうか、それはよかった。」
「そういえばさっきのパスタって…………」
マスター達はそのまま二人で話し始めちゃったから少し暇だな……。
「それ、お似合いですね。」
「えっ?」
気がつくと、エルレイドのおじさんがカウンターの奥にいて私に話しかけてくれていた。
「その耳飾りですよ。クリスマスらしくて似合ってます。」
「あっ…、ありがとうございます。」
おじさんは無口な人だと思っていたけれど、優しそうな人なのかも……。
「無口は間違ってないですよ。ただ、お話する時ぐらいはしゃべります。」
「あっ…すいません……。」
声に出ちゃったみたい……。
「いえいえ、私が表にいるのはあなたのような方のお相手をするためでもありますから。」
「そうだったんですか…。」
「ええ、マスターが話し込むと暇を持て余す人が多いですからね。
私でよければお相手をさせていただこうかと。」
「なるほど…。なら…お話しても良いですか?」
「ええ、どうぞ。」
私は言葉が通じないマスターとうまく意志疎通する方法や、バトルのコツを聞くと、おじさんは丁寧に教えてくれた。
そうこうしていると、話を終えたマスターが席を立った。
「じゃあ…行こう、リーフィ。」
「あっ、うん。」
「ありがとうございました。」
人間の声を合図に、エルレイドのおじさんはきっちりお辞儀をした。
「おじさん、ありがとうございました。」
店を出る直前に私がそう言うと、おじさんは何も言わず微笑んで小さく頷いた。
「なぁ、リーフィ。」
「?」
「ちょっと街行かね?せっかくだからイルミネーションとかみたいし。」
「そうだね。行こう!」
そのまま私はマスターと街に行くことになった。
吹き付ける風は寒かったけど、そんなに気になるほどじゃない。
クリスマスツリーや建物のイルミネーションがキラキラと輝いていて胸が弾む。
こういう楽しいものを人間達は考えてくれるから私は人間が好き。
私達が小さいアクセサリーショップに立ち寄ると、中は人間のカップルやそのポケモン達がたくさんいた。
「はぐれたら困るよな…よし。」
「えっ、マスター?」
私はマスターに抱き抱えられ、小さいカゴに入れられた。
マスターは私の乗っているカゴを押して、お店の中を見て回る。
「おっ、見っけ。」
マスターが足を止めたのは
「クリスマスだし、欲しいモン選べよ。」
「えっ…?でも…さっき……。」
私は耳飾りに触れる。
マスターからのプレゼントはもう……。
「それか?それはアレだ、誕生日プレゼント。二週間ぐらい遅くなったけどな…まぁ許せ。」
マスターはくしゃっと私の頭を撫でた。
そっか…私の誕生日があったんだ……。
「でも、良いや。いらない。」
「ははっ、どっちで首を振ってるのかわかんねえよ。遅くなったのを許さないのか?」
私は「そっちじゃない」と、首を横に振る。
「なんだ、なら『いらない』って事か?」
今度は首を縦に振る。
マスターは「うーん」と唸って、目の前の棚から何かを取った。
「なら勝手にプレゼントするわ。嫌とは言わせないからな?」
私が何か言う前にマスターはレジに向かって歩きだしていた。
何を言っても聞かないのは今までの付き合いでわかってる。
「ほらよ。」
マスターがくれたのは『きせきのタネ』が中に入ったガラス球のネックレスだった。
「わぁ…。」
「せっかくバイトして金貯めてんのに使い道ないからな。
クリスマスぐらいは…とか思っても彼女もいないし、お前ぐらいだよ。」
マスターはそう言いながら私の首にネックレスをつけた。
「よし。じゃ、帰るか。」
「あっ、マスター。」
「ん?」
お店を出ると、目の前に大きなクリスマスツリーがあった。
最後にもう少しだけクリスマスの雰囲気を感じたかったから、私はマスターを呼び止めた。
「リーフィ、こっち。」
「?」
見るとマスターは近くの植え込みに座っていた。私はその近くに座る。
「………くしゅんっ!」
「寒いのか?…よっ。」
私はマスターの膝に乗せられて、後ろから抱きしめられた。
背中からマスターの暖かさが伝わってくる。
「ま…マスター……。」
「お前の方があったかいな。」
私を抱きしめるマスターの腕に力がこもる。
幸せだなぁと、そう感じる。
恋ができるような人はいないけど、大好きで大切な人が近くに居てくれる。それが幸せだと思った。
「マスター…ありがとう。」
「お、おい……。」
私はマスターの方に向き直って、マスターの胸に寄り掛かった。
マスターは戸惑いながらでもしっかりと私を抱きしめてくれた。
「………帰るか。」
「…うん。」
私達は立ち上がって帰り道を歩いた。
私の首にガラス球……それともう一つ、マスターの巻いていたマフラーが巻かれていた。
また来年も……こうだと良いな。
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