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ウサギヘンゲノ・巻ノ壱

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オレ=廃ネット

この作品は、嗜好の分かれる表現がございます。
強姦・近親相姦・惨殺(切り刻み)・TF・TS・冥婚・ポケモンの原型からの変化・ポケモンの着衣・着衣での交尾・快楽堕ち

ウサギヘンゲノ


『ふっ。今日は、上々……』

 胸元から続く赤い毛並みに覆われた腕を組み、その先から出た白い右手の拳を額に当て。ラビフットは気取った様子でベンチの端に脚も組んで腰掛けている。この公園が併設されているスタジアムからは、今また試合の中での歓声が沸き起こる。

「あれ? あのラビフットは確かスーパーランクの?」
「だよな。優勝はもう決まっていたのに、最終試合でもいいの決めてたよな」

 後ろの通行人が話しているのが聞こえる。或いはこちらを指差しながらだろうか。恐らく先程の試合の観客だろう。早いものでもう覚えさせてしまったのかと得意な気持ちが押し寄せてくるが、ここで気を良くして連中と慣れ合うなど子供のやることだと自身を制する。今回の大会でも紅蓮の劫火のごとき技の数々を華麗に緻密に決めて見せた。だがこれも通過点で、自分は世界中の目線を集めるような試合の中でより鮮烈な戦いを見せる身なのだ。こんなところで気を良くしていられるようでは底が知れる。歳だけとっても鳴かず飛ばずでいるような連中とでは、自分はわけが違うわけで……

『ひあっ!』
『おー、やっと気付いたか』

 首筋に捻じ込まれた冷たい物の感覚に絶叫。思わずのけ反ったにもかかわらず、なおも冷たいものは首筋から離れてくれない。首周りを覆うマフラーのような毛並みの中に捻じ込まれていたからである。慌てて掴んだそれは、よく冷えたミックスオレの缶であった。原因を取り除き安心したのも束の間、背後には品もなく豪快に笑う下手人。

『兄ぃ! またお前何晒してくれるんだよ!』
『なに。さっきの試合でよく頑張った奴にご褒美をな』

 ラビフットが睨んでも全く遠慮する様子もなく、リザードンはその頭を鷲掴みにして撫でようとする。ラビフットは舌打ち一つ、缶を握ったままの手で振り払う。リザードンの逞しい指の先には鋭い爪があるが、慣れたものでラビフットの長い耳にも引っかかることは無い。

『もうちっとまともに渡せないのかよ! 大体、兄ぃはエキスパートランクの試合中じゃねえのかよ?』
『ああ。もう片付いた。お前に教えておいて俺が苦戦しているようじゃ世話ねえよな』

 前は向こうからせがんできたくらいなのに、生意気になったものだ。などと思いながら、リザードンは振り払われた手でもう片手に握っていた自分の分のミックスオレの缶を開ける。リザードンの余裕の態度に対する悔しさと、それ以上に今ここにいるという事実から見せ付けられる勝利報告への驚愕。実際、バトルに向けたトレーニングではリザードンの強さは目の当たりにしているラビフットだが、それでも自分よりもずっと上のランクで圧勝を飾ったと言われるとやはり驚きを隠せない。

『くっ……! くっ……! エキスパートランクで満足しやがって! 世界で立つようになった俺を前にしても同じことが言えると思うなよ!』

 悔し紛れに虚勢を張ってみる。ただ正直なところ今日の大会におけるランキング区分はラビフットも理解していたため、更に上の大会に出るためには遠方に赴くか開催時期を待つしかないのをわかっていた。ラビフット自身の胸中にどこか虚しさが芽吹きそうになった瞬間である。

『んー……。でも、実際最後のは俺も驚くくらい鋭かったな。本格的に腕を上げていけば、お前とのタッグでかなりいいところまでいけそうな気がするな』

 そんな虚しさを、弟子というべき相手に対する待望のまなざしと言葉で根こそぎ刈り取る。対戦形式によっては一緒にコートに立つポケモンが3体とも5体ともなる場合があるし、今日の大会のシングルバトルでも交代を挟みはするが連携を求められる。いつか自分が上に立って見せてやろうと思っていたのは、対等に組む相方として考えられていないと思っていたからでもあり。

『なんだ? 俺がチームで一緒に考える前提があったのかよ?』
『まあでも、地道にトレーニングと実戦は重ねていけよ。お前が言う「炎の勇者」だっけか? 考えた渾名に相応しい力は少しずつ……』

 リザードンが言い終わるのも待たずに、ラビフットは蹴りを放っていた。真っ直ぐリザードンの腹を斬る軌道の、強烈な足先の一閃。リザードンは驚きつつも、体を操り屈強な腿で受け止める。腹自体も鍛えられた筋肉を下地にしており、丸い見た目とはまた違う屈強さを帯びている。だが骨を下地にしていない分腿と比べたら弱い場所であり、そこを狙ってしまうラビフットの乱暴で幼い態度には少々残念な気持ちが出そうになる。

『俺は「紅炎破天の魔彗星・ユニエフ」だ! 覚えないにしてもせめてひねりくらいはある渾名を出せよ!』
『だからって蹴ることは……お前……!』

 完全に受け止められてしまったが、それでも負けたくないとばかりに力を込め続ける。ユニエフはヒバニーからラビフットになってから、瞬く間に格好をつけることにはまり込んでいった。技もバトルにおける有効性だけでなく、炎に色が混ざるような外見も工夫していた。そちらは仲間内では好評だったが、渾名の方は今一つ不評であった。齢(よわい)が同じくらいの仲間たちが揃って微妙な顔をしていたが、ユニエフはわざわざ調べ物をするなどして考え出したため気に入っていたのだ。それに対して猛烈な簡略化もいいところだと、妙にいきり立ってしまい。

『ぐぐぐ……くそっ!』

 まだまだ力量差がある相手に押し勝てるはずもなく、ユニエフは捨て台詞と共に足を引っ込める。スーパーランクでは圧勝だったユニエフだが、何段階も上のエキスパートランクで圧勝だった相手には勝ち目など無かったのだ。息切れの中に悔しさを吐き捨て、足裏で無為に地面を蹴った後は殴り捨てたように地べたに尻餅をついて先程のベンチにもたれかかる。

『お前なぁ……。まあ、実際俺は昔からそういうのは疎かったから、渾名なんかも考えつくだけでも大したもんだと思うけどな……』

 バトルでは頼もしい将来性を見せてくれていた相手であるが、流石に今の逆上にはまだまだ残る幼さを見せ付けられてしまう。一方のユニエフは荒い吐息で身を投げ出しながらも、薄目を開けてリザードンの顔を見上げる。仲間が揃って微妙な表情をした自分の渾名に対し、呆れ交じりのリザードンの言葉の中に思わぬものが混ざっていることに驚いたのだ。

『兄ぃは……気に入ったのか?』

 リザードンに呆れた様子は見受けられたが、それはあくまで突然の乱暴に対するもの。他の仲間たちと違い、自分の渾名に不評を持っている様子は無い。勿論他の仲間たちのように微妙な表情をされたところで意に介するつもりはなかったが、リザードンの懐が深いにしても感性がこちら側にずれているにしても受け入れられるとは思わなかった。

『最近の流行りなのかはわからないけどな。もうオッサンだし流行りについていくのは余計きついんだよな』
『……言っておくけどな、兄ぃもエキスパートランク突破はかなりの若齢だからな?』

 渾名を考えるための調べ物の中で、副産物的に様々なワールドレコードも頭に入るようになっていた。リザードンの今日のエキスパートランク突破は世界最若齢更新こそ成らなかったが、それでも史上ベスト20には入るほどであった。同じエキスパートランクの大会でも開催地によってはある程度のレベル差はあるが、それでもワールドレコードとなると中々に驚くべき数字であった。そんなリザードンが自らオッサンを名乗るなど、彼より齢が上のポケモンたちが少々可哀そうになってしまう。今度はこちらが呆れる番である一方、自分にもワールドレコードが圧し掛かってくる。もう一息吹くと、先程自分から「世界」を口にしたことを思い出し得心する気持ちを得る。

『あの……アウカードさんですよね?』
『ん? そうだな』

 ユニエフが目を閉じて誓いを立てようとした瞬間、リザードンに話しかける声が聞こえた。目を開けると、そこに立っているのはテールナーだった。憧れ交じりの表情でリザードンのアウカードを見上げるその瞳は、明らかに物欲しげな少女のものであった。好き整えられた毛並みが豊かな尻尾も期待のままに揺れており。

『さっきの試合、凄かったです! もし良ければ、こちらに手形を……』
『あ、ああ……』

 またこれか。ユニエフは心の底から一瞬で吹き上がったものを感じた。テールナーは手帳を両手で握りしめているが、こうやってアウカードに声を掛ける雌ポケモンは多い。何よりも腹立たしいのは、アウカードも一瞬でその気になっていることである。目つきだけでなく、尻尾の炎も明らかに色味を増している。

『言っておくが、あんまりプライベートに入り込むのは……』
『あれ? 同じトレーナーさんのところのユニエフ君?』

 アウカードに寄ってきた雌ポケモンを牽制しつつアウカードの方にも釘を刺す、それはユニエフにとっては不本意ながらもういつもの流れになっていた。だが今回のテールナーは自分の方にも目を向けてきた。これは今までとはまた違うパターンであった。

『あ? ああ、俺はユニエフだが?』
『うっわっ! 今日はツイてる! スーパーランクの試合であんなに燃えたの初めてなの! すぐ会えるなんて思わなかった!』

 テールナーの尻尾の揺れが一気に激しくなった。いつもと違うパターンへの当惑はユニエフだけでなくアウカードも同じであり。思わぬ形にふたりで目を合わせると、仕方なさそうにユニエフは立ち上がる。その瞬間テールナーも手帳のページをめくり始めた。よく見るとそれなりに持ち歩いた感じの手帳で、アウカードに近付くために今の今間に合わせで購入した感じではない。

『アウカードさんの次のページ……いや、折角だから一緒のページにユニエフ君も手形お願い!』
『あ、ああ。いいぞ』

 めくっていった途中のページには他のポケモンの手形が捺されていた。どうやらアウカードとのお付き合いが目当ての雌ではなく、単純にバトル観戦が好きで手形を蒐集している方だったらしい。一方でアウカードの炎は一気に弱まってしまう。期待してしまったのが外れてしまったからである。

『ほら、兄ぃ! 捺すならタイミングまで一緒にな!』
『あ、ああ……。ああ……』

 テールナーに気付かれないように角度に注意しながら、ユニエフはアウカードのかかとを蹴って促す。若干意気消沈気味だったアウカードだが、流石に我に返る。幸いにも何気付くことなくテールナーは手帳のページをめくった状態で左手でこちらに開いて見せて、右手ではしっかりとスタンプ台を握りしめている。色は赤というよりは橙に寄っている感じだ。尻尾の枝のすぐ脇にはポシェットも口を開いている。厚い毛並みの中でどれほどの大きさなのかは不明だが、恐らくスタンプ台も出会うポケモンに合わせて様々な色を用意しているのだろう。

『よっ!』
『ほいっ!』

 アウカードもさっさと気を取り直して、ユニエフと声で合わせて手帳に手形を捺す。三つ又の厳つい手形の隣に、小さい丸い手形。種族が違えば体の形が違い、当然とばかりに担う役割も変わっていく……そんなあり方を形にしたという意味でも珍しさのある一ページとなっただろう。

『ありがとうございます!』
『おう。これからも活躍……魅せてやろう!』

 言いながらユニエフは片手を胸元に掲げると、そのまま斜めに真っ直ぐ突き上げる。先程の渾名と同じく、決めポーズもしっかり考えていたのである。試合でもフィニッシュ時に立っていた時は必ずこのポーズをしていたのだが、間近で見るとどうなのだろうかテールナーは若干戸惑った表情ではある。それでも一度頷きもう一度深く頭を下げると、そのまま立ち去って行った。ユニエフと一緒というパターンは初めてではあったが、これからひょっとしたらこういう機会は増えるのかもしれないなどと思いながらその背を見送っていると。

『さて。今回は俺が口を出すまでもなかったからいいが……』
『ん? って!』

 唐突に尻尾の付け根に走る鈍痛。ユニエフは脚を振り上げ、思いっきり踏みつけたのだ。勿論尻尾も鍛えられた肉体の一部であるためのけ反るほどの痛みではないが、足をメインに戦うラビフットという種族のためそれなりの威力はある。今までもファンとして駆け寄ってきた雌ポケモンをあしらった後は毎回やられていたことだが、今回は最初の時以来の不意打ちとなった。

『この「紅炎破天の魔彗星」の隣で並び立とうという奴が、異性が出てくるだけで随分無様で汚らしい顔になるものだな?』
『相変わらず、そこまで言うか……』

 異性とのお楽しみのチャンスを追い払われた次は、欲を抱いた時点で間違いだと難詰する目線。今回はチャンスではないことが突き付けられ、もう一段階挟んでいたためまだ気分としてはマシであったが。それでもユニエフの指導でつきっきりになってからは随分ご無沙汰になっており、どこか燻った思いが巡り続けている。ひとまず尻尾に力を込めて足を押し返し。

『メロメロとかの性別を利用した攻撃をされるってのもあるけどな、まずそんな欲まみれの顔を見せるんじゃねえ!』

 一方のユニエフは、そもそもこうして欲を抱くことが論外であるという態度だ。今日のバトルを見て自分がつきっきりになる日々も終わりは近いと感じてはいたが、それでも体が自然と催すようにできているものをここまで糾弾されるのはやはりつらいアウカードである。とは言え、そうなる理由もある程度は理解しているが。

『もっともらしく言ってるけどな……こういうところ、雌だし子供だよな』
『お前ぇっ! 自分のザマを俺のせいにするのかよっ!』

 欲求不満の苦悶からつい漏れてしまった呟きも、ラビフットであるユニエフの耳にばっちり捕捉されてしまっていた。怒り心頭、間髪無く足による連撃が叩き込まれ。テールナーとのやり取りでアウカードだと気付き声を掛けようとしたファンも何名かいたが、ことが激しくなってしまい声を掛けることもできずいるのは視界の端で見えた。

『いやまあ、こっちもどうしても生理的な部分でもあってな……』
『それを乗り越えるのが修行だろ! そんなガキみてえなザマでオッサン名乗ってんじゃねえっての!』

 最後は小石を蹴り上げ叩き込むユニエフ。流石に炎と飛行を併せ持つリザードンには痛い代物であり、まともに喰らうわけにはいかないと弾き返す。アウカードから返されたそれをキャッチすると、あとはもう言い合いであった。既にある程度名を挙げているアウカードもそうだが、試合後の交流スペースで彼と言い合っているラビフットとしてデビュー前から知られていたなどユニエフも思ったことは無かった。

「あー。スーパーランクのラビフット、いつもアウカードと言い合ってた子か!」
『アウカードが連れ歩くだけの子なんだな』

 ユニエフも知られることになったのだけは変化だが、その後は交流するはずのファンたちもほったらかしで延々と言い合いを続ける。アウカードとユニエフの試合後はいつもと変わらないのである。






 丈の低い樹木が点在する岩場を、アウカードとユニエフは二人きりで進んでいく。道がしっかり作られているわけではなく、アウカードの背中にユニエフが乗って飛行した方が良さそうであるが、二人とも身を低くして警戒姿勢だ。

『地図だとこっから先は一気に出没頻度が上がっているな。兄ぃ、飛ぶなよ?』
『大丈夫……って言うか、お前も見つかるなよ?』

 電子端末に目をやりつつも、ユニエフは周囲も同時に警戒する。いつ野生のポケモンが出てきてもおかしくないような場所だが、二人の警戒はただの野生に対してのものではない。一応野生と言えば野生なのだが、より凶悪化・集団化して手出しが難しくなってしまったために指名手配となったポケモンたちである。ただでさえも拠点となる縄張りから離れた場所まで襲撃の手を伸ばすこともある上、周辺環境も著しく荒らすことが多いため駆除や捕獲を依頼されるのだ。それをポケモンに実戦経験を積ませるために引き受けるトレーナーは多いのである。

『大丈夫だ、気を付けてる』

 言いながらユニエフは右手で耳の付け根を毛を梳くように撫でてみせる。その手の甲には菱形を六つに組んだような形の鈍い輝きの石が付いていた。アウカードの記憶では昨日の段階ではついていなかったはずで、時折こうしているのは見せびらかしているようにも思える。今までもこういったものは見ていたのだが、毎度アウカードが驚かされるのは……。

『ところで、そいつは……』
『ああ、いいだろ? 変わらずの石を削って作った実用も兼ねていてな』

 得意げに「実用」を語るユニエフに、アウカードは納得と僅かながら呆れとが入り混じった息を漏らす。ユニエフは常日頃「俺はラビフットのままで最強を目指す!」と得意げに語っていた。アウカード自身はそういった夢の類を語ること自体は「寧ろ良いこと」くらいに見ていたのだが、流石に「あんな姿なんかに」と漏らした時は一言諫めた。エースバーンとして戦うことに誇りを持っている者もいるのだ、その言い回しだけは良くないと。そんなことが思い出されつつも。

『本当にお前、器用なもんだよな』

 大会でも勝つようになり、着実にユニエフは成長していた。だからこそ変わらずの石は必要になってきたというのもわかるのだが。そもそもアウカード含め他のポケモンたちは、こういった道具はトレーナーに与えられるままというのが常である。自分に必要なものを自分で判断して調達するばかりか、アクセサリーとして見た目が映えるように加工するなど信じられない器用さである。しかも電子端末まで扱い……ユニエフの異様なまでの人間適性にはアウカードも驚愕させられるばかりである。

『に、しても……今回は兄ぃと二人だけかよ? 親分も投げやりだな』
『まあ、あいつが行った方は流石に凶悪だからな。寧ろこっちに俺を出したのが苦渋なくらいだろ』

 ふと、ユニエフはため息を吐く。流石にトレーナー無しでアウカードだけで向かうように言われた時は呆れたものである。勿論実力的には十分だろうと判断したというのもあるだろうが、機器をまともに扱えないアウカードに向かわせると言った時は、露骨にトレーナーの不満も見て取れた。というのも緊急性はさほどでもないのに依頼者が強く要求してきたため、名目を立てるために名前は売れているアウカードを向かわせることに決めたのである。

『で、そんなにまでして依頼者のやつが要求した理由ってのがな?』
『お前としては俺を監視したい気持ちもあったんだな……』

 ここに来るまでに何度この目線を向けてきただろうか。ラビフット自体が半目で擦れた態度に見せることが多い種族ではあるが、今日のユニエフはいつも以上である。依頼者から回ってきたターゲットの情報と、そこにアウカードが単身で向かうという話。ユニエフは電子端末を扱えることを見せて、アウカードと一緒に向かわせるようにアピールした。

『事あるごとにあんなだらしない顔を見せられりゃな。おら、今度はちゃんとしろよ?』
『流石にこの状況で変なことはしないっての。まあ、気付いたか』

 一見ここまでの岩場と変わらない光景のようだが、ユニエフはアウカードに確認を取るように目線を向ける。岩や低木の陰に、目に見えずとも確実に存在を感じ取っていた。それでも相手が動く様子が無い模様とあって、仕方なしにユニエフは手近な岩の陰に火の粉を蹴り込む。

『おおぅっ!』
『次は木を燃やすぞ?』

 木の陰からリオルが飛び出してきたのを見ると、すぐに次を放とうとばかりに足先に炎をチャージする。岩であれば少々焦げる程度で何ということは無いが、木は燃やされたら再生までに時間を要する。住む場所を荒らされたくないであろうターゲットの心情を揺さぶる挑発である。

『あらあら、乱暴な子ね? あんまり荒らすとあなたの方が指名手配にされちゃうわよ?』
『はんっ! 余裕こきやがってよ!』

 低木の陰から現れた雌のルカリオは、やって来た捕り手にも怖気づくことなく。悠々と腕を組んで流し目をこちらに向ける姿勢は、数多の雄を誘う扇情的な立ち振る舞いだ。ルカリオは種族的には生真面目な者が多いのだが、その性質を冒涜せんとばかりの色情魔。ユニエフは腹の底から不快感を吐き出す。

『ふふ? 嫌われちゃったわね、坊やなお嬢ちゃん? まあでも、そこのイケメンなお兄さんは気に入ってくれるかしら?』
『お前ぇっ!』

 自身のことを茶化した後は、尊敬する兄貴分への蠱惑的な流し目。若干腰を傾け、情欲を更に煽り立てようとばかりに。刹那ユニエフは擦れた半目を見開き血走らせ、真っ向から飛び込みかねないほどに激昂したのをアウカードに肩を掴まれ止められる有様で。いつの間にか次々と姿を現していたリオルたちは、その艶姿への興奮とアウカードへの羨望に沸き立つ。そんな中に飛び込めば集中攻撃で命も危ういだろう。

『色んな意味でお前にとって腹立たしいタイプなのは分かるが、多分向こうはまだ挑発しようとすら思ってないぞ?』
『クソがっ! まあいい! 指名手配されている自覚があるんなら話は早いな! 大人しくトレーナーの元に戻るんだな!』

 ユニエフは電子端末を操りルカリオの情報を表示すると、確認させるように相手の方に向ける。そこには上目遣いで同じく蠱惑的な表情のルカリオの写真が、説明文と共に映し出されていた。胸の下で組んだ腕には、細身のルカリオとは思えないほどに膨らんだ乳房が圧し掛かっており。並べられた説明文まで丁寧に読むような状況ではないが、軽く見ただけで過去を想起させられたらしく舌打ち一つ。

『ポケモンだけって聞いてたからおかしいとは思ってたけど、そんなの扱えるなんてね……。本当に連れ戻されちゃいそうね』

 捕獲用のモンスターボールは、通常であればポケモンの手で扱えるものではない。自分たちの捕獲に来たと思われる者の中に人間がいないなどおかしいとは感じていたのだが、目の前で電子端末を扱うポケモンを見て合点がいった。扇情的な態度は崩さずにいたが、目つきには子供であるリオルたちを守ろうという母親の感情が映し出されていた。

『隙を突いて不意を打った後色々と盗み出して逃亡。その時に重傷を負わされたトレーナーからの強い依頼だが……随分な真似をしたよな?』
『ふーん? 私たちが全面的に悪いみたいな言い分ね?』
『ちゃんと映像も残っているんだ。嘘などついても無駄だぞ!』

 言いながらユニエフは操作をもう一つ。早送りではあるが、リオルや他のポケモンたちに声を掛けながらトレーナーを痛めつけているルカリオの姿は疑う余地が無い。周りにいるのはリオルだけのため、他のポケモンたちとは解散したのであろうが……首謀者であるルカリオは必ず捕獲するよう求められていたのだ。

『あいつの下で……それまで私たちがどんな風に扱われてたかは伝えられてないのね?』
『なに?』

 歯噛みするルカリオ。今度は扇情的な態度すら捨てて一転した表情に、アウカードもユニエフもやや戸惑う。勿論不意を打つ行為をしたことがある相手である以上、変に言葉に捉われて隙を晒さないようには気を付けていたが。そんなふたりの内心など察する気など無いとばかりに、ルカリオはため息一つ。



「うっはっはっ! 生真面目な『正義の心』の持ち主も、すっかりいい体になりやがって!」

 ベッドの上で仰向けのルカリオに覆い被さるような態勢となり、野卑な表情の男は息を荒げて言い放つ。本当なら今すぐにでも消し飛ばしたい。せめて抜け出して逃げ去りたい。だが、そんなことをしたら子供たちはどうなるか。最初の時に間違って相手をした客に手の甲の棘を当ててしまった後、子供のうちの一匹が延々と死ぬまで嬲られ続けた。その一部始終を見せ付けられ、上がり続けた悲鳴は一生脳裏から消えてはくれないだろう。

『早く……早く、頂戴……!』

 ルカリオは股を大きく開き、尻を持ち上げるように動かし淫猥な秘部を突き出す。いっそ自分の棘を削ぎ落してくれた方がずっと楽だった記憶は、目の前の客に対する拒絶は、せめて早いうちに性交の乱れ狂う感覚の渦中に封じておきたい。そうすれば生き残っているリオルたちは無事に生きていかせてもらえる……。

「鍛えられている格闘タイプの種族だってのに、この柔らかいのは何だ?」
『はぁあああぁぁぁんっ!』

 男はルカリオの豊満な乳房を鷲掴みにする。進化する前から周囲の誰と比べても、割と育ちやすい種族と比べても負けじと膨らんでいる乳房は自慢でもあった。進化させてくれたトレーナーも気に入ってくれており、彼にならどんなに触られてもいいと思っていたのだが。上目遣いで胸を強調した状態で写らされた写真を見て指名した者は、人間ポケモン問わず揉みくちゃにして愉しんでいく。耐え難いこの屈辱も揉まれる性感の波に浚って貰うほかなく身を委ねている。

「なんだ? もう感じ切ったのか? ならほら、股ももっとしっかり開け!」
『ひゃぁんっ!』

 簡単に上がったルカリオの嬌声に気を良くし、男は次は左右の尻を鷲掴みにする。こちらは他のルカリオも相当な肉厚に育つのだが、それでも彼女は群を抜いた厚みであった。その肉厚な尻を押し込まれると、大事な場所が露わになる痴態を男に遠慮なく見せることになり。本当なら前のトレーナー以外にはこんなことをしたくなかったが、残っているリオルたちを守るためには仕方なかった。

「それじゃあ……挿れるぜ!」
『頂戴……頂戴……!』

 単純に嬌声だけを上げていれば、態々積極的に人間が理解しえないポケモンの言葉でまで求める必要は無い。だがこうして拒絶の気持ちを頭から足先に至るまで全てから叩き出さないと、とても耐えられない屈辱。耐えて日々を生き残らないと、前のトレーナーの忘れ形見である子供たちから更に犠牲が出ることになる……。

「おらっ!」
『くぅうううぅぅぅっ!』

 男の逸物の大きさなど全く見てもいなかったが、連日連夜無数の相手と交わり育て上げられた秘所は比類なきまでのものとなっていた。巨大な凶器も易々と飲み込み、貧弱な小物にも丁寧に絡みつく。今では繰り返しの指名も多く獲得しており、その分だけ行為の回数も壮絶なものになっていた。

「ぅっくっ! 今日もいい締りで……はぁあああっ!」
『やあぁぁぁんっ!』

 今日だけでもこれで何度目かわからなくなるような中出し。容赦なく使われ続ける膣内胎内は大量の精液が注ぎ込まれては流し出されての日々であり、たとえ妊娠しても毎回流産に至らしめられるほどの酷使は、しかしこの状況に巻き込まれる子供を増やさないという部分は幸運であるのかもしれない。前のトレーナー以外の、今の客たちが父親の子供を同じように愛せるかにも不安がある。

「ぁ……。うぁ……。今日も良かったが……もう一発やれる時間があるな!」
『まだいけるの? お願い!』

 膣内の感覚が刺激となり、男が二度目へと腰を持ち上げる。常に労わってくれた前のトレーナーとの性交は、もう叶わない。今のトレーナーに騙されて莫大な借金をつけられ、ポケモンたちは全部差し押さえられた。自身も臓器密売に使われ、ルカリオたちの前に歯も眼球も頭皮も奪われた無惨な首が投げ置かれた時は皆で慟哭した。せめて彼の子供であるリオルたちだけは亡くしたくないと思い、この無限地獄にも必死で身を委ねていたのだが……。

「あああぁぁぁっ!」
『ひゃあああんっ!』
「……ふぅ。また、頼むぜ?」

 そろそろ時間なのを確認すると、客の男は満足げに部屋から出る準備をする。あとは客が出て行った後は、リオルたちをはじめ一緒に差し押さえられた雄のポケモンたちが交代で部屋を掃除して次を準備する。その間がルカリオに与えられた休憩時間なので、これでリオルたちも明日を生きさせてもらえるはずと満足を噛み締める時間なのがいつものパターンである。だがその日、ふと気付いた。

 リオルたちの、ためになっているの……?

 会うたびに少しずつだが、確実にリオルたちは痩せていっていた。もしこのままの日々を続けたら、自分が死んだあとリオルたちに幸せなどあるのだろうかという疑問。確実に肉体も生命も精神も消耗しきっていく日々の中では、自分が尽きる瞬間は着実に迫っているのではないか。この時から徐々に、ルカリオは今まで考えてもみなかった最悪を意識するようになる。



『あー。ごめんね、坊やなお嬢ちゃん。やっぱり温情に縋ろうなんて私らしくなかったわ』
『は?』

 ため息をついて俯くこと数十秒。頭の中に浮かんだ過去の一幕だが、その一片も口にすることなく元の扇情的な態度に戻っていた。どんな切実な身の上話を聞かされるか、それも出まかせということも考えられるので騙されてはいけないだろうななどと身構えていたユニエフたちには、結構な肩透かしであった。しかしそんな一瞬の抜かれた表情をむしろ悦ぶかのように含み笑いをすると、再び左腕で胸を持ち上げて強調して見せる。

『坊嬢ちゃんはまあいいわ。素敵なリザードンのお兄さん!』
『何だ?』
『てめ! 更に変な略し方しやがって!』

 ここまでの『坊やなお嬢ちゃん』呼ばわりも思いっ切り煽り立てるものであったが、それを長いからと略すのは更に挑戦的だろう。これから更に使うという意思があるからこそ略す、そんな意図を感じ取ろうが取るまいが、ユニエフはただただ激昂するばかりだ。しかしそれを宥めるアウカードに、ルカリオは更に誘惑の目線を向ける。

『お兄さん、波動を読むまでもなく欲求不満な感じね? 一発と言わず何発もヤらせてあげるから、見逃してくれない?』
『てめ! 兄ぃ、まさか乗らねえよな?』

 一応『温情には』縋ってはいないが、篭絡して見返りを求めるという取引はより強かと言えるだろう。ユニエフはアウカードにもルカリオにも怒鳴り立てるが、その実心臓が飛び出すほどの動揺とそこからの虚勢であるのも見え透いていた。アウカードがまともに戦えばリオルたちを含めても余裕で蹂躙できる。だがアウカードが戦線離脱する事態になれば、ユニエフ独りだとリオルたちすら片付け切れる自信もない。何よりもアウカードの欲求不満の原因は、何はともあれ自分にあるという事実も不安に拍車をかける。

『坊嬢ちゃんには聞いていないわ? お兄さん、いかが?』

 左腕で持ち上げた両の乳房を強調させながら、更に右手で大股開きにした自らの太腿内股を擦って見せ。真っ直ぐにアウカードを見る目には、明らかに相手を求めている気持ちも含まれていた。欲求不満なのはともかくとしても、ユニエフを宥めて面倒見の良い兄貴肌に意志や力のある目線。金に物を言わせて感情と共に吐き捨てる客たちと比べたら、ずっと抱かれたい相手であるのは間違いない。

『まあ……何はともあれこっちも任務で来てるからな。そんなにやりたいなら、腕尽くでやってきてくれ?』
『そうなの? 厳しいこと言うわね……』

 アウカードは右手で左の手首を軽く鳴らし。宣戦布告に残念そうなルカリオの一方、ユニエフは涙が零れそうなほどに安堵し息を漏らす。実のところ波動で読んでもいないのに欲求不満だと感じたなどというのはルカリオの出まかせであるが、何にせよ掛かれば上々の結果であるため言うだけ損は無いのである。最初から頭の中はリオルたちをどうやって逃がすかでいっぱいであり、先程頭に浮かんだ回想を長々と語る余力が無かったというのもある。あまり長いこと思い出していたくない過去だったというのもあるが。

『まあ、そんなわけだ。まずはユニエフを倒して見せろ』
『ちょっ! 兄ぃいいいっ!』

 言うが早いかアウカードに肩を叩かれると、ユニエフは目を血走らせての大絶叫。これはつまり『ユニエフを倒したら』という意味での『腕尽く』なのだろう。リオルたちの多くも一斉に吹き出しており、そこまでではないがルカリオもふたりのやり取りにやや笑みを浮かべる。

『あらあら? 坊嬢ちゃん捨てちゃったのね?』
『いや、流石に倒した後はユニエフに対してそれ以上の手出しはやめてくれ』

 一応、戦闘不能にする程度の軽いダメージで留めておいて欲しいというのは責任もあるのだろう。最終的にはリオルたちに数で押さえて貰えれば、あとは目の前でお楽しみを見せ付けることができる。今まで繰り返しアウカードを詰って(なじって)きただけあって、どうあっても見たくない瞬間を見せ付けられることであり。

『兄ぃ! いくらなんでも最悪も過ぎるぞ!』
『いやまあ、これも修行だ。全部片付けてしまえよ』

 ユニエフは脚腰を震わせ、涙目でアウカードに撤回を求める。ルカリオが約束してくれれば流石にリオルたちもユニエフを玩具にすることは無いだろうが、ユニエフ単身ではルカリオに勝てるほどではない。いくらタイプ的な相性があっても、埋められないだけの実力差は明白なのだ。

『ふふ? お兄さんが乗ってくれないならさっさと逃げ出そうと思ってたけど……いつも通りやっちゃいなさいね!』
『畜生! ゲス腐れが! やられてやると思うなよっ!』

 ユニエフは汚い言葉を吐き捨てるが、それはつまらない虚勢であるのは見れば見るほどであった。もしアウカードに襲い掛かれば、瞬く間にリオルたちが数匹は倒されるであろう。そうなると倒れたリオルたちを見捨てて逃げることはできない。かと言ってできる限りの搦手を使っても倒せる相手だとは思えない。こうして姿を引きずり出された以上、ルカリオ自身がしんがりとなってリオルたちを逃がすか、アウカードと取り引きをして見逃してもらうかしかない。そしてアウカードが取り引きに乗ってくれたという形になった今、ユニエフさえ片付ければ後の心配は無いとルカリオは余裕である。

『坊嬢ちゃん、女の子なんだからあんまり汚い言葉は使わないの。本当に男の子になっちゃうよ?』
『うるせえんだよっ! このクソ膨れがっ!』

 ユニエフが蹴り飛ばした火球を、ルカリオは片手で余裕で打ち払ってみせる。その後は先程の罵声を逆手にとっての挑発である。しかも空いた片腕で左右の乳房を持ち上げて、どこまでもユニエフの感情を逆撫でしてくる。何としても仕留めたいと踏み込もうとするが、両脇からリオルたちが拳で突いてきたことで退かざるを得なくなる。

『修行なんだから落ち着いていけ。周りのリオルたちを一匹ずつ片付けていくんだ』
『高見の見物かよ、畜生がっ! わかってるっての!』

 アウカードの「アドバイス」にも、ユニエフは感情を揺さぶられる。自分は間違いなくこの後にはお楽しみが待っているのだから、いい気なものであると思えて腹立たしい。とは言えリオルたちに数で引っ搔き回されてはルカリオに近付くこともできないので、まずは手近なところにいるリオルに蹴りを入れようと構える。その瞬間、別のリオルが脇から入ってきており。

『邪魔……クソがっ!』

 またも下がるしかなかった。リオルたちは集団でユニエフを取り囲もうと動いており、ユニエフはそのど真ん中に閉じ込められたら勝ち目はない。相打ちで数匹は持って行けるだろうが、それで良いわけが無く。リオルを一方向で纏めて見れるように位置を取りながら、一撃を与えられるだけの距離まで近付く位置が全く見えず、ただただ逃げ回るだけであり。

『リオルたちはルカリオの波動で指示を出されているからな! それを考えて戦うんだ!』
『修行は真面目にさせるの? 愛の鞭ね?』

 いくらルカリオまで倒すのは不可能でも、少しでも多くリオルを倒させたいというのがアウカードの出している課題なのだろう。焦燥に駆られる中でも手を出しては貰えないユニエフへの憐憫はあるが、折角なのだから付き合ってやろうとも思うルカリオ。付き合わなかったところでやることに変わりは無いが。一匹のリオルが放った波動弾を火球で打ち消したところに飛び込んでくるリオル。反応が遅れて完全に間合いを取ることはできない。ユニエフは咄嗟に拳だけは躱し、タックルでそのリオルの脇腹に飛び込む。吹っ飛ばされて地面に転げて一匹は気を失わせたが、反動で受けたダメージからの切迫感の方が大きく喜ぶことのできないユニエフ。それでも受け入れ切れないと顔を上げようとした瞬間。

『ユニエフ、本当に勝ちたいなら、勝つことだけを考えろ。余計なことに気持ちが囚われているぞ!』
『余計な……』

 アウカードの声に、ルカリオは「またも愛の鞭か」と更に憐れむ目線を向ける。だがその目線がユニエフには全く気にならなくなっていた。何度もアウカードから指導を受けて指示を受けて、その中で本当に自身が良くない時にだけ使われる重い声。初対面であるルカリオには全くわかるものではないのだが、この声が持つ重みを刷り込まれているユニエフは即座に反応した。そんな自分の不足を顧みることを許すまいと迫るリオルの影をまっすぐ睨みつけると。

『何が「余計」だ!』

 微かに聞こえた脇からの足音に向けて、足先で大きく弧を描きながら火球を放つ。それはユニエフの脇から隙を突こうと迫っていたリオルの顔面を打ち抜き。大きく横にずれる動きだったので正面からのリオルの狙いからは僅かに外れた上で、脇から迫ったリオルは一発で意識を失う。痛烈な一撃を受けてしまった子供に対し、ルカリオは少し心配した様子で取り乱すが。だがすぐに気を取り直して反撃に出ようと睨みつけたユニエフと目線をぶつけ合わせ。

『「余計」だろ?』
『全く「余計」じゃねえってのによ!』

 そのユニエフの目線にはもう戸惑いは無く、アウカードの言葉も笑っていなしている様子であった。ここからは反撃だとばかりに、リオルのうちの一匹を睨み据えながら火球を構え。何があったのかと今度はルカリオが当惑しそうになるが、まだリオルの数がいるのだから押し通せるはずだと思い直し。睨まれたリオルは怯えながらも敢えて踏み込んで見せつつ、両脇から別のリオルたちが飛び込んでいく。その目線の矛先を変えないまま両脇から拳を受ける、その瞬間ユニエフは火球だけを残して真後ろに飛び退く。

『そうか』
『俺の気も知らねえでよ!』

 自分が負けた後は、アウカードがルカリオといやらしいお楽しみをすることを見せ付けられる。そのことへの恐怖と拒絶にばかり気持ちが囚われていた。目の前の戦いに勝たないといけないのに、その先にある最悪だけを見ていた。だから普段の力すら出せずにいたというのを気付かされた。最悪が待ち受ける状況は全く変わってないが、最悪を防ぐ可能性はなおも無いに等しいが。それでも自らその最悪をさらに勢いよく手繰り寄せているとあっては情けない話である。両脇から迫ったリオルたちは正面衝突をして、残された火球で火傷するのを確認すると。

『なっ! なんなの?』

 負傷したリオルたちは他のきょうだいたちに運ばれて戦場から離される。その間は負傷した分以上に戦力喪失の状態で戦わないといけない。回収し保護してくれるボールの無い野生の集団戦では基本となる知識であるが、これも失念するほどに焦燥していたのだとユニエフは自己反省し。勿論そこまで追い詰めてくれたのは他ならぬアウカードであるが。負傷したきょうだいを運ぶために離れたリオルが復帰する間に次の負傷者を出させれば、向こうには戦力喪失の循環を強いることになり。瓦解が始まったルカリオの指揮の中でリオルたちは次々と数を減らしていった。

『くっ……! 落ち着いていかないと……!』
『態勢を整えるな……。リオルたちはルカリオの波動で指示を受けているのは意識しているか?』

 アウカードのユニエフへの声掛けに、ルカリオは歯軋りをして睨みつける。目の前のリザードンにお楽しみを許してあげるのだから、ラビフットを倒し「腕尽く」の約束を果たせばその後は見逃してくれるだろうが、このままでは自分すら敗れかねない。いくらなんでも最後は直接打ち据えれば勝てる相手ではあるのだが、このままそれにさえ至らなければ最悪である。無いとは思いたいが、それでも気持ちが乱れてしまっては。ルカリオは波動で指示を出してリオルたちに数歩間合いを取らせると。

『ルカリオが波動で指示……』

 リオルたちが間合いを取ってくれたのは、ユニエフにとっても隙である。既に十匹近く倒している今は段々と息も上がりつつあり。軽く一呼吸おいて、リオルたちの後ろのルカリオに火球を蹴り飛ばしてみる。勿論そんな攻撃では倒すどころか傷一つつけられず打ち払われて終わるのだが。

『私を直接倒せるとでも思ってるの?』

 残るリオルは5匹。ただし残るだけのことがあるのか他のきょうだいと比べると若干育っている様子ではある。こちらとしても位置を取って囲まれず一匹ずつ相手できる状況にしたいのは変わらないが、それは向こうもルカリオの指示もあって動いている以上引き続き許してはくれないだろう。ふと、ユニエフはある手を思いつく。

『やってやれ……!』

 猛るが早いか自らの体を炎で包み、手近な位置のリオルに飛び込む。狙われたリオルが飛び退くより先にその手前で足を止め、足元に火球をチャージしながら真っ直ぐに睨み据える。今度はそれを狙うように別のリオルが脇から肉迫する、ここまでの流れなのだが。

『来いよ!』

 正面のリオルに踏み込んで見せて今度は隙となり、忍び寄るリオルの拳があと一歩で届くところまできた瞬間。ユニエフは体の向きも変えずにそちらのリオルに向けて火球を蹴り込む。こちらを狙っていると全く思っていなかったリオルは火球に正面衝突。よろけて再度飛び掛かろうとした瞬間、まだ振り向き切ってもいないユニエフの背中が眼前に迫っていた。

『ああっ……!』

 強引なタックルの衝撃が響く肩。だがそれは得心のものでもあり。ルカリオはリオルたちに指示を出すために波動を使っている分、ユニエフの内心を読み取ることには波動を使わずにいたのだ。動きやアウカードとの会話から読めるものは読んでいたが、それだけであったのだ。そのため目線は前に向けつつも聴覚を最優先にし、自らの行動をルカリオの読みから切り離したのである。

『いくぜ……!』

 ユニエフは倒れるリオルを踏み台にするかのようにして体勢を整え、一度ルカリオを睨んだ後に次のリオルに狙いの目線を向ける。だがその目線はブラフであり、隙となる脇に他のリオルを呼び寄せるための罠であった。ルカリオがユニエフの波動を読んでいれば見透かされてしまう手であるのだが、気付かない限り波動はリオルたちへの指示に使い続けるだろうと予想し。

『ここまでやってくれるなんて……!』

 遂にリオルは後一匹というところまで倒されてしまった。こうなってはもう波動での指示などあったものでもない。リオルたちにユニエフを押さえさせてアウカードのお楽しみのために体を差し出し、一通り見せつけた後はお楽しみのお礼に見逃してもらう。子供たちの練習相手程度だと思っていたユニエフに、ここまで目算を崩されてしまう事態がルカリオを当惑させていた。

『は、はっ! 全部片付けてやればいいんだろ?』

 遂に動くことにしたルカリオを見て、ユニエフは振り返らないまでもアウカードに叫ぶ。残念だがお前のお楽しみも諦めてもらおう、そう言いたいところではある。だが、流石に攻撃に備えて迸っている波動を見ると勝ち目は無さそうだというのは感じさせられる。そうでなくともここまでで多くのリオルを相手にして息が上がっているというのに。

『やれるものなら、やってみなさい!』

 溜めながらもなお吹き上がって恐怖させてくれた波動を、無数の弾丸としてユニエフ目掛け連射する。近付くことも反撃も叶わないことを感じさせる怒涛の攻め手に、しかしそれでも諦めないとばかりにユニエフは左右に跳んで躱すが。一瞬遅れて左の腿に急な重みがまとわりつく。波動の嵐の隙間を縫って入ってきたリオルが、ユニエフを抑えるためにしがみついてきたのだ。

『この……!』

 一歩間違えれば自らも波動の攻撃に巻き込まれかねない捨て身の行動、しかし衝撃や爆風の中だったためユニエフの方も気付けなかった。それでも一蹴りすれば飛ばせる相手ではあるのだが、作った一瞬の隙がルカリオには十二分だった。

『手こずらせて!』
『ぐがっ!』

 まだリオルを引きはがせてもいない内に、反対の脇腹に入る衝撃。ルカリオの拳で体が打ち上げられるのが見えた。ここまでやったのに、結局最後は勝てなかったか。どうせなら意識を投げ出しておいた方が、アウカードの情けないいやらしいお楽しみを見ないで済むだろうか。それでも頑張った割には報われないなどと思った一瞬。その背中は硬い地面ではなく、柔らかい何かに受け止められた。

『後は、任せろ』

 アウカードの胸に受け止められ、その腕でしっかりと抱き止められ。しがみついていたリオルを地面に転がした後は、屈強な掌でユニエフの頭を似合わない優しさで撫でる。薄目を開けると、ルカリオが怒りと驚愕と絶望とで震えているのが見えた。

『ちょっと! 約束が違うじゃない!』
『やらせてくれれば見逃してやる……なんて、俺の口からは出てはいない筈だが?』

 急転直下。ユニエフ自身もお楽しみを見せ付けられることに耐えかねない思いを抱えながら戦っていたのだが、それが存在しないものに対する気持ちだったというのか。騙されたルカリオへの憐憫も無いとは言えないが、それ以上にあの瞬間の自身の苦しさも無かったもののように扱われてしまった不満もあり。

『兄ぃ? 俺を倒してみせろって嗾けた(けしかけた)よな?』
『ああ。まずはユニエフを倒して。お前すら倒せないようなら、俺に「腕尽く」なんてまず無理だからな』

 確かに。最初はルカリオの方が胸や股をひけらかし、扇情的に取引を誘ってきていたのは分かっていた。それは欲求不満のアウカードの足元を見ての行動だったのだが、成功すれば子供たちを安全に確実に全員逃がすことを可能にしてくれるので、アウカードの方も逆に足元を見てルカリオの望む答えをぶら下げたのである。望む答えだと思い込ませるだけで一切約束はせず、しかし嘘も皆無の言い回しは絶妙とも卑劣とも。

『兄ぃ……。餌に使われた俺の立場がねえんだが?』
『悪いとは思っている。けど、こうしてこの状態にしないと早々に逃げられてた恐れがあるからな』

 アウカードの情けない取引に一方的に使われて、気を取り直すまでは煩悶を抱いて遣る方ない中で戦うことになった。だがアウカードは目線で転がっているリオルたちを示すと、ようやくユニエフも納得がいった。たとえ気を取り直せなかったとしても、ユニエフであればある程度はリオルたちを倒せるであろう。そこでアウカードが本気になって参戦すればルカリオは応戦するしかなくなる。一応倒れた子供たちを多かれ少なかれ見捨てて逃げることもできなくはないが。

『嵌めて……やったのか』
『一騎討ちになるまで持ってきてくれるってのも、ユニエフもいい腕になったものだな』

 がっくりと俯くルカリオにはやはり憐憫を抱かずにはいられなかったが、それでもユニエフにしてみれば自身を虚仮にしてアウカードを誘惑した腹立たしい相手であるのは変わらない。何よりもどんなに情けない欲があったとしても、それ以上にアウカードは自分の後ろで立っていてくれることを選んでくれた。ユニエフの頭を撫でる逞しさに似合わない優しい手つきに、嬉しさと敵わないものを感じ。

『許せない……』
『だろうな』

 一転して完全に虚仮にされたのはルカリオの方。目の前で瞬く間に全ての種明かしが行われ、体の奥底からふつふつと。既に両手で強く拳を握っており、波動で頭頂の毛や房も逆立ち始めていた。もはや目の前のリザードンを倒す以外子供たちを守る手段は無いなどという方法論ではなく、肉体も波動も全てが怒りで湧き上がっていた。

『許す気なんて、無いんだからね!』
『わかっている。受け止めよう』

 漏れ出て迸る波動だけで、いつも気の強いユニエフでさえもう逃げ出したいという気持ちが沸いていた。だが左腕で強く抱きかかえるアウカードが許してくれなかった。そんなユニエフの背中に密着するアウカードの滑らかな鱗肌の奥からは、何故か鼓動が異様に重く早く聞こえる。ユニエフの耳であればいつも一緒にいるアウカードの鼓動もある程度把握できるほど聞こえているのだが、今のアウカードの胸中は「今までにない恐怖」があったのだ。

『兄ぃ……やっちまったな?』
『裏目に出るとはな』

 最終的にはボールに守られることも完全に忘れさせられた、本能をも支配する恐怖。あのアウカードがここまでになる現実がユニエフの感じる恐怖をも加速させ。一方でアウカードはそれでも逃げる気にはなれなかった。ユニエフに対してもルカリオに対しても異性の感情を知って翻弄した、その行為を思うと受け止めざるを得ないのだ。

『殺すっ!』

 赤く輝く瞳で捉え、まっすぐ正面切ってアウカードに飛び込んでくる。普通であれば炎を浴びせて体勢を崩すことが可能なのだが、相手はもはや死をも厭わない様相である。灼けるのも厭わず飛び込んでくるような相手は、しっかり構えて相対しなければ大怪我は免れない。

『俺の戦い、特等席で見ろよ!』

 アウカードはやや斜め向きに体を構える。ユニエフを抱える左手が正面になるような格好だ。ユニエフ自身もアウカードのバトルも何度も見ていたので理解はしている。両手だけでなく牙や尻尾、翼をも駆使して戦うため、構えとしては斜め向きになることが多いのだ。肉弾戦で突っ込んできた相手を手と尻尾で挟むように受け止めるアウカードの得意スタイルである。結果として使わない、使えない方の左手は中央にくる形となり、ユニエフの位置はアウカードと同じ目線のまさに「特等席」となり。

『死ねぇっ!』

 アウカードが拳と尾の先から吹き上げた焔も何と感じる様子も無く、ルカリオは容赦なくアウカードの喉元を目掛けて飛び込んでくる。腹の底からの殺意の声。アウカードは尻尾で足元から牽制しつつ、少し下がってルカリオの拳の間合いを外す。ルカリオの拳から吹き上がる波動はアウカードもユニエフも容赦なく打ちのめし、拳までまともに受けていた時のことも思わせてはくれない。

『まだまだっ!』

 尻尾を振るった動きをばねに、次は拳を反対側から叩き込む。ルカリオの腕を払うように打ち込み、やや背中側を取れるように。頬やわき腹が既に若干焼け爛れているのが見えたが、全く怯む様子の無い狂気の相手。しかも背後を取れたところで油断できる相手ではなく、次は手の甲の棘での裏拳も攻撃の一つとして持つ相手であり。

『死ねよっ!』

 来たのは水平の裏拳ではなく、一回転して中空から垂直のかかと落としだ。その足先はアウカードの腹を僅かに切り、血の軌跡は地を砕き砂岩を礫と散らせる。アウカードは跳び上がると同時に炎を吐く。ルカリオへの攻撃と同時に噴射の反動で間合いを取るためだ。腹の真ん中にできた長い向こう傷も大きめのつぶてが掠めた右瞼も、今は痛む暇すらない。

『次は……っ!』

 炎の向こうに影を見逃さず。だがこの怒涛の攻撃に攻めあぐねつつもあり。何とか反撃のための攻略法にも頭を巡らせていたその次には。

『あっ……! がっ……!』

 ルカリオは血を吐いていた。口からだけではなく、目や棘の付け根からも紅が滲み出ていた。苛烈なまでの怒りのあまり湧き出した猛烈な力は、一瞬でルカリオ自身の体も破壊していたのだ。最初の一撃こそ下手をしたらアウカードですら肉片にしかねない苛烈なものだったのだが、それさえ凌げば攻略するまでもなかったのである。

『お前……。もう、いいだろう?』
『許さない……! 許さない……!』

 一度は片膝をついたルカリオだが、それでも血反吐を増しながらもう一度立ち上がる。血涙が無くても視界が霞んでいるのは見れば理解できるのに、それでも覚束ない足取りで向かってくる姿はさながら生ける屍で。子供たちが打ち倒されて逃げる場所が無くなった彼女は、まさにその瞬間に死んだようなものなのだろう。

『悪い……いくらでも恨め……』
『来い!』

 最早下ろした傍で襲われる心配もなくなり、アウカードはユニエフを下ろす。あまりの迫力にユニエフは立てずにその場で尻餅をついていたが、アウカードもその逞しい太い脚を震わせており。対して生ける屍ルカリオの方は、握った拳に炎を纏わせたのを見せられても死なば諸共と睨み返してくる。一歩、一歩とにじり寄るアウカードに対して、最期の構えを解く様子も見せず。

『悪い!』

 振り上げた拳の手首を返し、打って変わって真横から打ち払う。真正面から受け止めて一瞬の間に諸共に斃れる一撃を狙っていたルカリオの手は宙を切り、無防備な胸の膨らみが真横から薙ぎ払われる。敏感かつ体から膨らんでいる部分を一撃され、脇で見ていたユニエフも同性として痛みを想起し胸を握りしめてしまう。痛みの中でも僅かに残った執念は、アウカードに肩を押さえつけられて燃え尽きることとなる。

『あなたのようなイケメンに、添い遂げてもらいたかった……』

 辞世とばかりの一言に、もう再び生ける屍となることは無いとアウカードは手を放す。全てを諦め、ルカリオは細く長く息を吐く。その時になってようやく立ち上がったユニエフは、罰が悪い気持ちを抱きつつもルカリオに歩み寄り。

『まだ諦めなくていいだろ? お前らの身上を説明すれば、内容次第でな』
『リザードンのお兄さんが一発やってくれるんなら』

 ユニエフは電子端末を取り出し、聞いた話を主人たちに伝えようという動きを見せる。難しい文字変換までは自信を持てないが、簡単な単語であれば十分な報告ができるだけのものを覚えていたのである。いつも通りユニエフの器用さに感心させられたのも束の間、またも体を求められたことにアウカードは呆れるほかなかった。ユニエフは目元を吊り上げると、猛然とルカリオの乳房を踏みつける。

『クソ膨れが! いつまでも抜かしてるんじゃねえ!』
『やめろ、ユニエフ!』

 ユニエフ自身も加減はしており、ルカリオの方も先のダメージが大きすぎて今更この程度では苦痛もあったものではないのだが。それでも煽られるままに嬲って返す応酬は兄貴分としてアウカードも止めに入らざるを得なかった。

『クソ膨れ、ね。ふふ……』
『この期に及んで……キモい奴だな』

 一方で乳房を踏みつけにされた上に暴言を吐かれたルカリオはと言うと、そのユニエフから吐かれた酷いにも程がある暴言を何やら楽し気に口の中で転がす。この思ってもみない行動に、またもアウカードもユニエフも戦慄させられてしまう。何故か色んな意味で恐ろしい相手であると、アウカードはここに来たことに後悔の念を抱きつつあった。

『いやぁね。案外、お兄さんにとっては私は好みじゃないってのもあるのかな、なんてね』
『はっ? 仮にそうだったところで、兄ぃはその程度で任務を忘れるやつじゃあねえよ!』

 波動で好みまで読めるのかは二人ともわからないが、いずれにしてもどこまでも不敵な奴であると、呆れ半分戦慄半分。とは言えたまたま相手が好みでなかったから飛び付かなかったのだとしたら、裏を返して好みの相手が出てきたら飛び付いてしまうという情けない話でもある。そんなことはあって欲しくない、どんな好みの相手でも気持ちは揺るがないという否定の言葉を求めてユニエフは目線を向けると。

『まあ……。まあ、両方正しいな』
『図星かよ兄ぃ! ちっとは否定しろ!』

 目線を細めて向こうの空中を泳がせる。あまりにも罰が悪い時にお決まりの態度である。今回は欲に流されない姿を見せてくれたというのに、結局安心させてくれない態度には鳴りを潜めていた不満が再び燃え上がり始め。

『本当はもっとずっと子供っぽい方がいいんじゃないの?』
『はあ? キモいっての! まさかとは思うけど、この前の俺が掻っ攫っちまったテールナーとかの方がいいんじゃねえよな?』

 ユニエフは目をいからせて、アウカードの足先をこれでもかという力で踏みつける。一応小柄なラビフット相手ということでダメージは然程ではないが、それでも先程のルカリオを嵌める為の餌としたことへの罪悪感が上乗せされており、若干痛いらしい。腹の向こう傷も瞼の掠り傷も含めて、全ての痛みを甘んじて受ける体勢だ。

『まあ……悪くなかったな』
『俺より子供なくらいだからな! オッサン自称しておいて聞いて呆れるっての!』

 アウカード自身、嗜好がどんな存在であれユニエフに詰られるだろうという開き直りはある。だが改めてこうしてユニエフに足蹴にされてみると、どうにもいたたまれないものが出てくる。

『まあ……後処理を進めてくれ』
『ちっ。後で詰めるから忘れるなよ?』

 流石にルカリオが復活するほどの時間を詰り続けることは無いであろうが、こうして詰問から逃げる方便にされてみると腹立たしいものがある。だがルカリオはともかくリオルたちをいつまでも転がしておいても仕方ないと、ユニエフは電子端末を操作する。次の瞬間リオルのうちの一匹が閃光に包まれ、その場から消え去っていた。

『さて、今のであいつは折角逃げた場所に送られることになるぜ? 大人しく話せばまだ取り返せるけどな?』

 勿論ユニエフ自身もルカリオたちがどういう場所から逃げ出したのかは全く想像もできてない。だが逃げ出した場所であるという事実と何らかの事情を言いかけた、それだけで脅し文句になる場所であるというのは想像がつく。ポケモンであるユニエフが電子端末を操作できるなど半信半疑だったルカリオだが、こうして今目の前で子供を移送されるとこけ脅しではないことが嫌でもわからされ。

『くっ……! なら、さっさと私を送っちゃいなさいよ!』
『却下だ。お前は子供らが送られていくのを最後までゆっくり眺めるんだ』

 言いながらユニエフは電子端末を操作し、二匹目のリオルを移送する。地面に倒れて起き上がれないままのルカリオを見下ろす目には強い恨みがあるのを、アウカードは脇から見て呆れていた。胸をひけらかされたりアウカードを誘惑されたり、中々根に持っているものがあるのだと思わされる。一応アウカードも電子端末でできることは何度も見ており、意識を失っているポケモンであれば複数匹を一斉に移送できるくらいは知っている。恐らくユニエフ自身もそれは可能なのだが、わざわざ見せ付けるために一匹ずつ移送しているのだから悪意を感じさせられる。

『揃いも揃って卑劣ね……』
『なんだ? 大人しく話せばいいだろ? 次……』

 歯噛みするルカリオを嘲笑いながら三匹目を移送しようとしたその瞬間、ユニエフの体がひとしきり震える。アウカードも突然のことに驚いた一瞬のち、ユニエフは電子端末を手から取り落とす。慌ててアウカードは尻尾を滑り込ませ、電子端末を一度バウンドさせる。直接地面に落ちるよりは電子端末がダメージを受ける可能性が低くなるという直感の行動で。次の瞬間胸を押さえるユニエフを見ると、その手の甲に先程つけていたアクセサリーが無くなっているのに気付く。

『……これかしら?』

 恐らく先程ルカリオから攻撃を受けていた中、どこかで叩き落されたのだろう。変わらずの石で作ったそれがたまたま手元に転がってたらしく、ルカリオは拾って示す。間違いなくユニエフの糧となったであろう戦いの中で変わらずの石が手元から離れたのだ、延ばされていたであろうユニエフの進化は今ここで訪れようとしていた。

『か、返せ!』

 今の姿のままで戦い抜きたい。ユニエフは慌ててルカリオの持つアクセサリーに飛びつくが、目の前で脇に投げられ体が宙を転げる。飛んで行ったアクセサリーは軽く音を立てる。その場所は目と鼻の先であったが、届かなかった一瞬が全てを終わらせた。

『あ……! あ……!』

 立ち上がってもう数歩歩けば手が届く、その数歩。変わらずの石に触れることは叶わず、ユニエフの進化が始まる。体が閃光に包まれ、見る間に腕や脚が長さを持つようになる。腿の肉も一気に発達し、尻尾も毛並みの厚さを増す。一方で胴体はそのまま細身であり、閃光が収まるとともに見れる打って変わっての白い毛並みはそんな体つきをより印象的に見せる。

『そ、そうだ……!』

 二匹のやり取りから一転して始まった進化に、アウカードは思考がついていけずに電子機器を手に呆然と眺めていたが。慌ててアクセサリーが飛んで行った方へと追いかける。悪い具合にアウカードの位置からは死角に入り込んでしまったために見つけるのが遅れた一瞬。探し始めた時点で既に手遅れであったし、即座に反応して探し始めたところで間に合わなかった。

『ふ、ふ……。おめでとう』

 波動で読まずとも、それが変わらずの石で作ったアクセサリーであるとわかった時点でユニエフが進化を望んでいないことも付随的に理解できるが。だから敢えてルカリオは、この戻れない望まない変化に「おめでとう」を言ってのける。進化が終わってなお両手を突いて四つん這いのままのユニエフは、震えること数秒。

『この……! うわぁぁぁあああっ!』

 最後の悪さが成功して満面の笑みのルカリオに、猛然と首筋を蹴り込む。最早先程の尋問も忘れて、意識を失わせるとどめの一撃を叩き込んでしまった。

『ユニエフ、やめろ!』

 アウカードの制止の声も届かず、既に意識を失っているルカリオの胸にもう一発意味もなく火球を叩き込む。その後は膝を落としての慟哭であった。アウカードもユニエフがラビフットのままの姿で活躍したいという夢は何度も聞いていたためそれは分かるが、悪辣なやり取りの末にここに至ったとあって渋い表情である。

『兄ぃ……見るんじゃ、ねえよ……』

 一しきりの慟哭の後も、ユニエフは震えた声でアウカードに訴える。涙を吸った両頬の毛並みはすっかりすぼんでおり。しかしやったことはやったこととアウカードは若干厳しい表情でユニエフの前に寄る。その足音を感じた瞬間、ユニエフは両腕で胸元を覆う。

『この貧相な体が目立って……だからエースバーンにはなりたくなかったってのに!』

 あと一歩で呆れた声が漏れそうなのを、アウカードは寸でのところで飲みこむ。この状況でこいつは何を言っているのだと。数秒。先程ルカリオに胸をひけらかされ激昂していたことと併せてようやく合点がいった。どうやらユニエフは他の同性のラビフットたちと比べても胸の膨らみが無く、そのことを相当に気にしていたらしい。

『お前……それを気にしてだったのか?』

 アウカードとしてはどの子もそれぞれにと思ってはいたのだが、雌同士でのその優劣の取り合いが相当に激しかったのだ。ユニエフは他の同じくらいの齢の子と比べてもバトルで大きなアドバンテージがあった分、仕返しとばかりに胸の大きさの方で優位を奪う態度を取られ続けていたのである。それでもラビフットの姿であれば柔らかく厚手の黒い毛並みで誤魔化せる部分はあったが、エースバーンになるとより一層活動的な性格に合わせて体つきも隠さない姿になるのだ。なってしまうのだ。

『雄にはわからねえだろうな、どうせ!』

 ユニエフの投げやりな絶叫で、逆にアウカードはユニエフの胸を意識してしまう。エースバーンは脚を主体に戦う種族のため、覆う腕は然程太くない。健康的な肉付きに白く柔らかい毛並みの腕は、それだけでそっと触れたくなる衝動を沸き起こす。そんな腕では胸を隠しきれるわけなく、隙間から実際膨らみが無いのは確認できる。うずくまり下向きになった状態とあって、尚更そういう体であることを理解させられる。

『俺は膨らんでても平らでもそれぞれ……けど、お前にも雌らしい部分があったんだな』
『うるせえんだよ! そんな慰めを言ったって、どうせ兄ぃもでかい方がいいんだろ?』

 ユニエフは若干体を起こして、何が綯い交ぜになっているかもわからなくなるような目線をアウカードに叩きつける。しかしアウカードは意に介すことなく一瞬目を閉じてため息。もう一度目を開くと、ユニエフには悪いと思いつつもその胸を一瞥。すぐに目をそらしつつも、脳裏にはしっかり焼き付け。

『……白状するが、本当のところお前の姿は俺の気持ちのど真ん中を突いてくれた。この前のテールナー以上に、な』

 トレーナーが面倒を見るように頼んだ頃から、実際そこは成長していない。しかしアウカードにはそれが最高だった。素直でない部分は多いが、元気で気持ちのしっかりした瞳。健康的で柔らかい毛並みと肉付きは、エースバーンになった今も変わらない。その一瞬は今まで固く蓋をしていた欲望を着実に漏れ出させており。ユニエフに気を取り直させるためにもと、先程ルカリオとのやり取りの中で引っ張り出されたものをその場に示す。

『はんっ! 今まで全くそんな様子を見せなかった奴の抜かすことかよ!』
『だってよ……お前バトルとか色々やってたけど、そういうのは嫌そうだったじゃねえか。嫌そうで……そういう原因だとは思わなかったけどな』

 頑なだった。一瞬目元が揺れて、気持ちが動きそうになったのは見せたが。それでもアウカードが慰めを言う優しさを持つと思っていたからこそ、逆に飲みこめなかったというのもある。アウカード自身もすぐにユニエフが立ち直ってくれるとは思っていなかったが、こうも受け入れて貰えないとどう言えばいいか途方に暮れつつあった。

『だったらよ……』
『ああ?』

 ユニエフはしばし唇を嚙んだ後、長く長く息を吐く。それで何かの意を決したのだろうか、胸を覆う腕を思いっきり開き仰向けとなる。アウカードが瞳に疑問符を浮かべる前で。

『本当に俺がいいなら、今この場でやって見せろよ!』
『ちょ……! お前! 今の今で……! いくら何でも自分の体をそんな使い方をするんじゃねえ!』

 何がどうしてこうなったのだろうかと、アウカードは錯乱するばかりだ。先程のルカリオの激昂すらも霞んで見える衝撃で、今度はアウカードの方が受け入れられなくなる番となる。しかしユニエフはお構いなしに、自らの陰部に手を伸ばす。丸く小さめの右手で赤い毛並みをかき分けると、雌の割れ目が姿を現す。

『うるせえんだよ! 兄ぃの気にすることじゃねえ! 大体、やってくれなきゃ慰めのための出まかせとしか思えねえんだよ!』

 左手が割れ目の前で手招きをして、挿入を強く要求する。言葉で逃げ場を奪いに掛かられ、アウカードは返す言葉を失う。いくら何でもこんな成り行きのままでは、間違いなくユニエフの傷となるという思い。しかしこれ以上止めようとすれば、それはそれでユニエフを傷つけることになることもわかった。

『後悔……するなよ?』

 屈してしまった。気持ちを抱いたことが無いわけではないが、それ以上にずっと面倒を見てきた子供のような相手に手を出す結果となった無念の方が大きかった。そんなアウカードの心情など塵ほども知らず、ユニエフの目に輝きが戻り始める。得意げに優位をとってきた連中からの屈辱も、打ち砕いてくれるのはやっぱりアウカードだった。自分で触ることすらほとんどなかった場所に、これから入るものがあると思うと緊張もするが。

『はんっ! その欲が全部出せるんだ、まずは感謝じゃねえのか?』

 本当は感謝したいのは自分の方なのに、飛び出してしまった虚勢に自分でも唖然とするユニエフ。虚勢であるのはアウカードの目にも見えていたが、それでも元の調子を取り戻したことでどこか吹っ切れるものが出てきた。ならば欲のままに。喉元から双肩に上がっていく黒いラインは、ユニエフが気にしていた胸の位置を印象付けるかのように。その下の胸は実際雌とは思えないくらい平らであるが、毛並みや僅かな肉は柔らかく健康的である。そこに。

『んっ!』
『ちょっ!』

 アウカードは遠慮なく鼻先をねじ込んだ。真っ先に食いつくのがここだとは思わなかったため、一瞬出た虚勢が簡単に吹っ飛んでしまう。股を開けば胸など関係ないという扱いで思っていたのだが、まさかこれが好きだと言うのか。そんなユニエフにお構いなしで捻じ込まれた鼻は、深く沸き立つ香りを堪能していく。炎タイプらしい焦げ臭さは自身との共通を感じさせる一方、鱗肌ではなく毛並みでどこか蒸れたような感じには違いも意識させる。どう足掻いても異性であることをわからせようとばかりに、鼻腔はおろか髄にまで香りが纏わりつくのを感じさせられ。

『もう駄目だな』
『兄ぃ……』

 アウカードが鼻先を離すまで、それでも長い時間だったとは思えなかった。だが顔を上げると同時にその陰に隠れていた「それ」が鎌首をもたげていた。アウカードの丸い腹には先程ルカリオに向こう傷を付けられたが、その下には普段は全く意識もさせない割れ目がある。それをこじ開けて、ユニエフのお陰でどれほど留め置かれたかわからない欲望が。いや留め置いてなかったところで大きさは然程変わらないかもしれないが、どちらも腕が主体の種族ではないためそれよりも大きいとすら思える。

『この大きさだが、もう駄目とは言わせないからな?』
『うぅ……』

 先程アウカードが「後悔するな」と言ったのが胸に刺さる。鼓動と合わせて震えるその先端は、弾力と滑らかさを感じさせる。流石に孕んだ後中で成長していった赤子の方がもっと大きいとは思いたいが、それでも触ることも碌になかったような場所に入れると思うと。しかしここまでしてくれた今、もうアウカードは後に引く気はないらしい。腹を括るしかない。

『行くぞ……?』
『ひぅっ!』

 挨拶代わり、まずは先端で撫でるように。自分ですら普段からあまり触らないような場所に、誰かが触れたのはいつ以来であろうか。秘部を引き攣らせたユニエフの反応を、アウカードの先端も鋭敏に感じ取っており。右手を性器の根元に伸ばすと、固まった砂岩を削るように丁寧に、さりとてくたびれた体を揉むように大切に。片やはち切れんばかりの欲望、片や鬱屈を振り払うための行きずり、だというのに全く急く様子など無く。先走りで濡れそぼった深紅の毛並みを掻き分けられて、完全に無防備になったユニエフの割れ目にアウカードの先端が入った。その瞬間。

『ピ&%$#ゴ@*?!』

 アウカードの方だった。甲高い絶叫も鈍重な唸り声も、出せるだけの声が堰を切ったように吹き出し。同時に双りが交わるそこからも精液が惜しみなく吹き上がる。アウカードの悲鳴に再び引き攣り固まったユニエフの、腹や胸はおろか喉元まで精液は飛び散り。僅かに先端を入れただけで達してしまうほどに溜まり切っていた欲望。それが抜けると同時に力も抜けており、アウカードの頭はユニエフの頭上で情けなくぶら下がった状態となっていた。

『兄ぃ?』

 数秒とも数分とも。アウカードの口からは涎が垂れ落ち、地面に投げ出されたユニエフの耳の間に重い音を立てて落ちる。まさかの大きさのものを見せ付けられた後は、それが入り口で終わってしまい。しかし入り口とは言ってもしっかりと杭のように打ち込まれており、なおも力が緩むことなくユニエフを押さえつけている。悲鳴に身が竦んでいたのもあり、ユニエフが身じろぎすらできないでいる間に。

『すまん、すまん。本番、行くぞ?』
『え? ほんば……ひぃっ!』

 アウカードは復活すると、性器を奥に押し込む。終わって拍子抜けしたところに次が来てユニエフは悲鳴を上げるが、噴射された精液に押し拡げられた上で滑りも良くなったことで、思いがけない深さまで届いた気がする。それでも無理せず先端が当たったところで止めると、ゆっくり押しては引いては拡張を進めていき。不思議なくらい痛みは無かったが、それでも一つ一つの動きに対する衝撃を全身で示すユニエフ。やがてアウカードのものが根元まで至り、それからも数度前後させると。

『あがぁぁあぁぁっ!』
『うぉああぁああっ!』

 再び吹き出したアウカードの熱で、ユニエフも絶頂して果てる。既に一度出しているというのに、またも結合部から容赦なく吹き上がる精液。その後は二つの荒い吐息がしばらくの間岩場にこだまし。アウカードの翼は双りのあられもない部分を覆っているが、漂う異臭がこれでもかというほどに状況を誇示している。気を失ったまま捨て置かれている哀れなリオルたちの真ん中でまぐわう、異様な光景だ。

『ふぅ……』
『あうっ!』

 アウカードは中から性器を抜くと、既に精液まみれとなっているユニエフの腹の上に性器を横たわらせる。二度の射精で若干疲れて力が無くなっている気がするが、それでもユニエフにはその重さがかなりのものに感じられ。それでも今度こそは終わったと起き上がろうとした瞬間。

『次で……最後だ……!』
『へっ? ひえぇぇっ!』

 アウカードはユニエフの両脚を掴むと、性器をユニエフの腹に擦り付ける。今度こそは終わったと思い込んだユニエフは、またしてもと言うべき扱いに悲鳴を上げる。しかしアウカードが止まる筈も無く。既に精液で悲惨なことになっていたが、それでもユニエフの地の毛並みは柔らかく。ユニエフの意思とは対照的に遠慮なく絡みつく毛並みは、アウカードの中に残った欲望を絡め取り引き出しており。

『はぁあぁあぁっ!』
『ぎゃあぁああっ!』

 今度は出た後に受け止めるものも無くなっていたアウカードの精液は、ユニエフの胸や喉元ばかりでなく顔面にまで降り注ぐ。むせ返る程の臭気のものを顔面にまで降り掛けられたことに、ユニエフは悲鳴を上げた後は目も開けられないまま歯噛みするが。一つ、二つ。それぞれに身を震わせて荒い呼吸をした後は、アウカードは顔面にかけてしまった精液を軽く舐めとり。そして……。

『兄ぃ……?』

 そのまま流れるようにユニエフと唇を重ねる。ゆっくり押し付けるように数秒。それでようやく満足したらしく、アウカードは脇に体を投げ出す。唐突な行動に当惑し、口元を拭うように手を当てるユニエフ。お互い衝動のままの行きずりで、愛情など度外視での行為だと思っていた。勿論今までも信頼関係はあったが、それは愛情や性行為に及ぶような間柄ではないと思っていたのだが。問い詰めようにもアウカードは既に意識を失っており、行き先を無くした疑問符は一旦頭の中にしまう他なかった。






『うぅ……』

 どれほどの時間意識を失っていただろうか。未だに両側頭部が抜け落ちたようで、感覚が戻らない。行きずりでユニエフとまぐわってしまった事に対する自責はあるが、それ以上に体を動かすための感覚が抜けきっている状態であり。

『おら、起きたか!』
『ぶっ!』

 刹那、顔面に叩きつけられる痛み。動きが鈍り切っているアウカードに対し、その声で目が覚めたことに気付いたため、ユニエフは顔面に火球を叩き込んで喝を入れる。いくらやってしまったことがあるとは言っても、この扱いは流石に不満が噴き出しそうになった。だが。

『お、おい? そいつは?』
『こいつらがどういう目に遭ってきたのかを訊く必要があったからな。親分には「死んでいたやつは送ってこなかったって一旦は報告しておけ」って連絡しておいた』

 ユニエフの腕の中で一匹、足元で二匹。リオルたちは寝息を立てている。流石に大勢連れ歩いて帰路につくわけにもいかなかったので、事情を聞くのに必要な数以外は転送せざるを得なかったのだろう。周りに転がっている木の実のヘタの数から、一度起きて木の実を食わせながら話を聞いていたは理解できる。母親とともに逃げていた日々は余程過酷だったのか、明らかに痩せた感じのあるリオルたち。久々に満腹になれたとあってか満足そうであり、これを起こすのはかわいそうという気持ちはブレーキとなった。

『全部、訊けたのか?』

 よく見ると、ユニエフの体に事後の痕跡は全く残っていなかった。アウカードの体からも精液はだいぶ落とされていた。代わりにどこか焦げ臭いにおいが残っており。恐らくは精液を全て焼いて処理したのだろう。流石に精液の臭いが漂う中では話を聞こうにもどこか気まずいものである。

『ああ。兄ぃが寝ている間に、全部な』

 一度目を下ろして眠っているリオルの頭を撫でる、その姿はまるで……。何かを思いそうになったアウカードを牽制するように、すぐに突き刺さる目線。まず事後処理、ユニエフはルカリオ母やリオルたちの転送に、残ったリオルたちに食事を与えつつ事情を訊く、そしてトレーナーへの報告。それらを独りで全てやってのけたのである。大したものだと思う以上に、その間快楽に酔いしれ眠っていた自分に負い目を感じる。

『あの母親、こいつらが人質で奴隷にされていたらしいな。しかも一度しでかした時に、こいつらの一番上の兄が全員の前でひでえ惨殺をされたらしい。詳しくは流石に話させなかったけどな』

 アウカードの負い目など気にする価値も無いらしく、ユニエフはリオルたちから聞いた話を説明し始める。母親のルカリオに対する虫の好かなさが消えることは無いであろうが、それでも事情の方は理解するらしい。ユニエフは屈んで寝ているリオルたちの頭を順に撫でると。

『その殺された兄が、色々と俺に似ていたらしいな。性格も態度も、あとは使ってきた波動で指揮する集団戦法の相手役もしてたらしい。最後は「こんなに似てるのに……」ってまで言われてな』
『そ、そうなのか……』

 まるで兄である……アウカードが思いそうになったことが、それ以上に深いところで「偶然」で繋がっていた。リオルたちにはどこまでも悲痛な話なのはわかっているのだが、先程自分がやってしまったことを思うと尚更に戦慄するアウカード。とは言えあくまでも偶然である以上、自分たちがやるべきことは限られている。

『だから……俺はこいつらの兄の生まれ変わりって名乗ることにした』
『は?』
『まあ、実際にはそいつの方が年下だからなれる筈は無いんだが、当分は「まだ記憶が戻ってない」で誤魔化すことにした』
『いや待て!』

 やるべきことは限られているなどと一瞬でも思った自分を悔いた。実際、いくら似ていたところでユニエフに「兄の生まれ変わり」を負わされる責任は全く無い。ましてや性別が違う筈なのに。しかしこの倒錯した状況に、ユニエフは止める間もなく飛び込んでしまった。しかも……。

『兄さんだぞ、お前ら! お前らの思いがあれば、俺は不滅だぜ!』
『色々それでいいのか!』

 腕の中のリオルがうわ言で死んだ兄を呼んだのを聞くや、ユニエフは得意げに宣言する。しかも片腕でガッツポーズを決めて、楽しんでいることすら感じさせる。戦法の相手役を買って出たという話から、その兄も今のユニエフと同じように面倒見がいいということは何となく感じたが。一方のユニエフは今までは逆にアウカードに面倒を見られる側だったので、ここまで面倒見のいい性格だとは知らなかった。腕の中で安心したようにもう一度声を漏らすリオルの姿が、アウカードには色々と痛々しい。

『俺の方は別にいい。そんなことよりも、兄ぃ?』
『ひっ!』

 リオルを撫でながら、ユニエフはアウカードに目線を戻す。その妙に優しい笑顔は、ともすれば殺意にも似たものをアウカードに感じさせ。何の縁も無いリオルたちに向ける愛情を、一かけらでもいいから向けて欲しいと思わずにはいられない。

『随分と出してくれたよな? あれだけ染み込ませやがって、焼き消すの大変だったんだからな?』

 ユニエフは胸元に手を当てる。中に出した時も喉元まで飛んだ上に、最後は毛並みに性器を擦り付けるという行為に出たのだ。揉みくちゃにされた毛並みに精液が染み込んだのは想像に難くない。

『その……すまない……』

 長い尻尾は弧を描いて地面に投げ出され、見るからに強張っているのがわかる。やってみて実際絡みつく毛並みの柔らかさは最高の快楽をもたらしてくれた。だが予想もしなかった行為に出た勢いに対し、ユニエフが詰めてくる目線が非常に痛い。

『あんな強烈な臭いを纏わりつけせてちゃ、聞くもんも聞けねえからな』

 交尾で飛び散った精液の臭気があれほどだとは知らなかったユニエフ。流石に毛並みに性器を擦り付けられるのは予想外であったが、最初に出された時点で後処理が必要になっていた事実で多少は諦めがついていた。誘ったのは自分という手前もあるが。

『それも、よりによってな……』

 ユニエフに抱かれたリオルに向かう目線は、なおのこと複雑な気持ちが入り乱れることになった。身までは焦がさないように気を付けながらも、出せるだけの火力で彼らを塗れさせた精液を焼いたのだろう。まだ幼いリオルたちが精液の臭いを知っているかというのも気になるところではあるが、死んだ兄によく似たユニエフがあられもない姿をしていたらどんな反応をしていただろうか。元が精液のものであるなどとはもうわからなくなっている焦げ臭さは、生まれ変わった炎タイプの姿ということで気にしないで貰えたと思いたい。

『大体がよ……そんなに良かったのかよ?』
『あ、ああ……。その、これからも……。いや、その……』

 特に一発目を出した時の嬌声には度肝を抜かれた。ユニエフのお陰もあって抑え込まれたどれほどかの日々、それが精だけでは出し切れず口からも暴発したかのように。アウカード自身も特にあの瞬間のことは言われるだろうと共有できるくらいには気恥ずかしく、しかしこの追及に対しどうしようもないまでに錯乱してしまっている。そんな中零れ落ちた一言を、ユニエフの大きな耳は容赦なく捉えており。

『これからも? まさかあれをこれからもしたいなんて言うんじゃねえよな?』
『その、単純に愛したくて……。いや、それもありますが……』

 元が赤い鱗肌であるのに、それでもはっきりわかるくらい紅潮していた。罰の悪さに加えて存在していた感情。続いて出てきた正直な欲の方を先に納得して数度頷くユニエフだったが、しばし遅れて直前に漏れ聞こえた言葉が届く。単純に愛したくて。刹那、破裂。唐突なところを突かれたユニエフも、遅れて顔中の毛並みを逆立たせるに至る。お互いがお互い、荒い息に乗せて奇妙な声を吐くこと数秒。

『兄ぃよ、バトル以外では本当に格好悪いよな?』
『はい……』

 本当は嬉しい。バトルや他の技術はともかく、雌としての魅力には全く自信を持てずにきたユニエフ。それが行きずりの性行為どころか、異性としての愛の告白まで受けるとは思わなかった。しかし出てきてしまった気恥ずかしさからの拗ねた言葉に対して、自らの欲への正直さに自覚のあるアウカードは返す言葉も無く力無く頷くだけであった。

『しかもこれからもあんなのをやりてえんじゃなぁ? あんなのを毎度毎度入れられたらこっちの身が持たねえぞ?』
『いや、それは……』

 アウカードのそれは過去に排泄の拍子で偶発的に見てしまい、逆上してしまったこともあるが。その時はそこまで大きくはなかったから油断していたというのもある。異性に声を掛けられるたびに舞い上がるアウカードの姿を思うと、同じ頻度であんなのを挿入れられてはたまったものではないと感じた。一方、アウカードは言い淀んでしまった。というのも細身な種族であるエースバーンのユニエフからすれば巨大かもしれないが、胴の太いリザードンとして見るとそこまでではないのではないかと思っていたからだ。しかしそれをわざわざ言うべきかは疑問しか出ない。

『こいつは……何とかしねえとだな』
『何とか? 何とかって!』

 不穏な言葉を吐いたユニエフは、先程それが生えていた場所を一瞥する。今はスリットも完全に閉じて目立たなくなっているが、収められた欲望の矛先が他の異性に向くのであれば腹立たしい。ほぼほぼ一貫して雄のような態度をとっているユニエフだが、こういうところはやはり雌らしい。しかし何の説明も無い言葉を出されたことで、アウカードは困惑するばかりだ。

『まあ、道中考えてやる。いい加減帰らねえとだろ?』

 しかしそんなアウカードの困惑など気にする様子も無く、ユニエフは足元で寝ていたリオルたちをアウカードの腕に捻じ込んでいた。そして自身も残る一匹を抱きかかえて、アウカードが訊く間も無く走り出していた。

『待ってくれよ! 何とかって、酷いことするわけじゃねえよな!』

 慌てて飛び上がり、恐怖のままに叫びつつユニエフの後を追うアウカード。ユニエフの長い耳にもその叫びは届いているのだろうが、しかしどこ吹く風とばかりに走り去る背中。進化のお陰で脚も長く逞しくなったため、走るのが早くなったのが目に見えてわかる。徐々に遠くなっていくその背中が、アウカードをなおのこと焦らせていた。


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Last-modified: 2022-12-24 (土) 17:48:39
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