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アーマーガアとウォーグル

/アーマーガアとウォーグル

CAUTION:官能要素&同性愛要素&総排出腔姦描写あり

アーマーガアとウォーグル〜鳥BL〜 作:群々

目次


乗っても、反っても 


「進化おめでとう。ずっと、この日を待っていました」
 漆黒の鎧に身を包んだような堂々たる体躯のアーマーガアが祝福する。口調は厳かながら、嬉しさは隠しきれていないのが子供のようだ。
「ええと……ワシボン、ではなかった、申し訳ありませんね、呼び慣れた名前がつい口をついて出てしまいました」
 彼はうつむいて咳をし、ガーと鳴きながら喉が枯れていないことを確認する。
「これからもよろしくお願いしますね、ウォーグル」
「ったく、ホントに長かった……」
 紅白に彩られた冠羽をポリポリと掻きながら、進化してまもないウォーグルは、さも何とも思っていないかのように振る舞った。
「やあっと、おまえと対等な関係になれた」
「ええ。本当に、とても嬉しいです、私は」
アーマーガアはうなずく。
「早くあなたをこの名で呼びたいと、心待ちにしていたのです」
 ココガラからアーマーガアに進化するのは早かった。ココガラだった頃はいいとして、アオガラスに進化した辺りから、進化前のワシボンは一緒にいる気まずさを感じ始め、アーマーガアに進化されると隣に並ぶのも屈辱と感じるようになってしまった。
 こんなにでかい図体の鳥と行動を共にしていれば、いかにも庇護されているという印象だし、周囲から臆病者と後ろ指をさされかねない。誇り高い性質のワシボンにとっては、そんな謗りを受けるのは何よりも耐えがたいことだ。
 一方、アーマーガアに進化した彼は、同じ種族の者ならだいたいがそうするように、ガラル交通に就き、空飛ぶタクシーとして全国を忙しく飛び回るようになっていたが、仕事の合間に時間を見つけてはワイルドエリアへやってきて、彼に会いにきた。物腰はだいぶ大人びているように見えたが、純真な性格はココガラのころから少しも変わることはなかった。仕事で訪れた街のこと、ガラルの有名人をタクシーに乗せたこと、ご主人に食べさせてもらったカレーの味について、目を輝かせながら話して聞かせた。
 ワイルドエリア、というよりもナックル丘陵や巨人の鏡池近辺より外の世界を知らないワシボンにとって、彼の話は興味深い話ばかりではあったけれど、それと同時に、依然として進化が程遠い自分に対するもどかしさ、悔しさが芽生えだしていた。時にはその鬱屈した感情を、アーマーガアへと向けてしまうこともあった。だがそんなこともまた雄たるもの恥ずべき、忌々しい行いだった。
 このままでさすがにいけない。勇猛果敢なウォーグルとなるべく生まれてきたワシボンたるもの、進化のためには、時にそれを捨てるなどとんでもないようなものでさえも、捨ててしまわねばならない。ウォーグルに進化できるまでは、アーマーガアと会うのはやめよう、そう心に決めた日からワシボンはその誓いの通り、彼のことを忘れて特訓に明け暮れる毎日を今まで送ってきた。
「ところで」
 アーマーガアはやにわに真面目な表情をして、言った。
「あのときお話したこと、考えていただけましたか」
「え?」
ウォーグルは訝しんだ。
「言ったでは、ないですか」
 少し恥ずかしげに首をゆるくかたむけ、品を作りながらウォーグルにあることをささやいた。
 ウォーグルは、思わず天を仰いだ!
 進化するための特訓に集中したいから、しばらくは会わないことを伝えたときに、そういえばそんなことを言っていたような、ではなく、はっきりと言っていたのをいま、思い出した。
 特訓のことについては、寂しがりはしたものの自分の意志を汲んで受け入れてはくれたが、その代わりにと、アーマーガアはこんなことを提案してきたのだった。
「強くなって私の前に戻ってきたら……私のパートナーになっていただけないでしょうか」
 ワシボンは首をかしげた。
「パートナーってなんだよ」
 アーマーガアは咳払いをして、ガーと鳴きながらノドが枯れていないことを確認した。
「番いになってほしい、ということです」
 決然たる口調だった。
 彼にそのケがあることを初めて知ったのはその時である。いつもの彼らしからぬ、あまりにもしどろもどろな口ぶりだったので印象によく残った。同性に対して恋愛感情をいだいていること。こんな自分でも気味悪がらずに今まで通り接してくれるかどうか?
 別にそんなことは気にもしないとその時は返事した。雄だけの種族ゆえ、恋愛に疎いのもあったし、ほとんど見たことがないアーマーガアのうつむいた表情を見てしまったら、答えは一つしかありえなかった。
「バカ。俺たちはそんな程度のことで友だちをやめるようなやわな絆なんかじゃなかっただろ」
 とはいえ、そんなことを告げられたら、ワシボンは頭がクラクラしてしまった。
「今すぐ答えてくれとは言わないのです。ただ、その時になったら、答えをお伺いしたいだけであって。どうか、どうか、よろしくお願いします、ワシボン」
 今の今まで、彼のことを忘れてまで修練し、ついに進化を勝ち取ったその翼で、ふだん彼が客待ちをしていると教えられたエンジンシティまで飛んで行ったのだ。修行の苦しさ、それを乗り越えた喜びで、約束のことは頭からすっぽり抜け落ちてしまっていた。
 ウォーグルは言葉に詰まる。
「いかがでしょう?」
「ええと……わりい、ちょっとだけ待ってくれねえ?……か」
 なんとか話をはぐらしたかったが、そうもいかないことを、アーマーガアの相手を見透かす視線から察する。悲しいとも、恨めしいともいうような目つきで、じっと見つめてくるのだ。
「申し訳ないですが、私はこれ以上待つことができないのです。正直に申し上げれば、仕事の合間だって、一時もあなたのことを考えなかったことはありませんでした。今日という日を、どれだけ待ち望んだことでしょう!」
 静かながら、感情の込もった話しぶり。
「私はあなたと、これからもいい関係を続けていきたい。だからこそ、この気持ちも、早くケジメをつけなければいけないと思うのです」
 イエスかノーかで聞かれれば、答えはノーになってしまうだろう。理由は簡単、ウォーグルには彼のように雄に対してそういう感情を持たないからだ。そう告げてしまえば、話は終わる。その方が互いにとって自然なのだろう。
 けれど、きっぱりとそう言ってしまうのもかわいそうだと思ってしまう。彼のことはずいぶん待たせてしまった。余計な思慮かもしれないけれども。
「わかったわかった。じゃあ、答えてやる」
 アーマーガアの赤い瞳が一際濃くなった。彼の運命が自分の言葉にかかっていると思うと、進化したという実感がしみじみと湧いてくる。
「結論から言えば、ダメだ」
 つい目線を相手のふさふさした首元に逸らしながら言った。ウォーグルは恐る恐るアーマーガアの反応を窺う。表情は微塵も変わらないし、何も言わない。静かに、次に何を言うかを待ち受けているようだ。判決を待つ被告人のように。
「俺はお前のように雄に興味を持ってるとかじゃない。けど、だからっつってお前が気持ち悪いとかそんなことは全然思ってねーけど。やっと進化もできたことだし、これからはお互い友達としてやっていく、それだけだろ」
 ワイルドエリアを吹き抜ける風の音を、こんなにもじっくりと聴いたのは初めてかもしれなかった。というのも、ウォーグルがそう言ったっきり、アーマーガアがなかなか返事をしてくれないからだった。
 枝についた木の実が気持ち良さげに揺れて、ギリギリ落ちることのないくらいの風だ。ほかにも、木の葉のかすれ、近くの砂塵の窪地からの砂嵐に混じるフライゴンの羽音とか、逆鱗の湖でタマンタやマンタインがバシャバシャと跳ねる音。住み慣れた環境の身近な風物が、こんなにも明瞭に聴こえる。
「……そうですよね」
 言葉を絞り出すように、やっとのことで口にする。
「確かに、私は自分にとって都合のよいようによいようにと考えてばかりきました。本当は、わかっていました。所詮、叶わぬ願いであることは」
 ポツポツと、溢れ出そうな感情を必死に抑えながら話している。
「いつかワシボンだったあなたが、この私たちの秘密基地を守ろうとして、ダイオウドウに立ち向かったことがありましたよね。傷だらけになりながら、むしろあなたはそれを誇っている様子でした。その頃だったでしょうか、あなたに特別な感情を抱くようになったのは」
 アーマーガアは月を見上げる。
「後になって、あなたたちウォーグルという種族が向かい傷を誇りとすることを知りました。長らくの疑問が氷解し、ますます、あなたのことを慕うようになっていきました。狂おしいこともありました。胸が締め付けられることもありました。ですが、この気持ち、今後はすっかり心にしまうことにします」
 つとめて平静を装っているアーマーガアの目から一筋の涙が伝っていったのをウォーグルは見逃すことができなかった。長い間、ここまで一途に自分を想っていたとは思いも及ばなかった。至極当然の答えだったにせよ、こんなにも待たせた彼に申し訳なくてたまらなくなった。
 急に、なんとも言えない感情がこみ上げてきて、ウォーグルの嘴から、思いがけない言葉が飛び出した。
「でもな! ずっと俺のことを待ってくれてた礼、ってわけじゃないけど。一晩限りで、お前のワガママ、なんでも聞いてやりたいと、思ってる」
 アーマーガアはキョトンと目を見開いた。当然だろう。いかにも死刑宣告ととれる判決理由の後に、思いがけない執行猶予の判決を与えられたようなものだったから。
「本当に、「なんでも」してくれるのですか?! 本当の、本当に?」
「するよ」
 明らかに興奮しているアーマーガアに気圧されながら、ウォーグルは受けあった。
「……お心遣い感謝します、ウォーグル」
 深々と重々しい頭を下げる。
「ただ……あらかじめこれは忠告した方がいいかと思うのですが」
「……どうした」
「正直に申し上げれば、朝になったらあなたは自分の言ったことを後悔しているかもしれませんよ? 私のことを憎むようになっているかもしれない。私のワガママは、あなたの想像を遥かに超えているかもしれませんし、きっと超えていると思います……本当に、それでも構いませんか?」
 ウォーグルは心配になる。だが言ってしまった以上は引き返すわけにもいかなかった。アーマーガアがそれで満足してくれるなら、それでいい。それでいいんだ。
「ゴタクはいーから、ちゃっちゃとそのワガママを教えてくれよ」
「わかりました。もう夜も深まっていますし、急がなければ」
 そう言うと、剣のように研ぎ澄まされた翼をいきなり広げ、ウォーグルを仰向けに押し倒した。その巨体に違わぬ有無を言わさぬ力だった。間髪入れず、クチバシを首元の毛に突っ込み、丁寧に羽繕いをしはじめた。
「この一晩で、私の思いを全てあなたにぶつけたいと思います。気持ち悪いと思っても構いません。軽蔑するようになっても構いません。その覚悟で、臨みますので……」
 あまり触れられたことのない首元は敏感で、ウォーグルはくすぐったくて仕方がない。時折、嘴の動きを止めてアーマーガアが深く息を吸うので、体がソワソワして変な感じだった。
「私に気を遣ってくれていることは、よく分かっているのです。あなたは本当に器が大きい方だ、ウォーグル」
 乱れていた羽根の毛並みを、優しく嘴で整えてキレイにしながら、アーマーガアは語りかける。
「情けをかけられているとは知りながら、ついお言葉に甘えてしまいました」
「ウォーグルに二言はないんだっての」
 決然と言い放ちはしながらも緊張していた。鼓動が速まり、その音がはっきりと聞き取れるほどだった。もちろん、自分にのしかかるように覆いかぶさったアーマーガアにも伝わっているはずだ。
「それでは、最初のお願いですが」
 と言うと、嘴を思い切り、ウォーグルの顔に近づけた。
「接吻を、させてください。相手が私で、不都合がなければですが」
「まあ、平気だけど」
 ウォーグルが素直に嘴を開くと、すかさずアーマーガアは嘴を重ね合わせた。接木を組み合わせたかのような姿勢のまま、二匹はじっとして動かなかった。
 口内に、アーマーガアの少し熱をもった唾液がゆっくりと流れ込み、自分のものと混ざり合うのを感じる。アーマーガアの尖った舌が物欲しげにウォーグルの舌をせかす。舌先を微かに動かして合図を送ると、喜んで舌を絡めてきた。互いのベロがくっついては離れ、くっついては離れる。その動作はもどかしげだった。
 アーマーガアは嘴をいっそうつよく押し付ける。まるで、ウォーグルの腹の中にでも収まりたいとでも言いたげだった。それに応えて、ウォーグルも必死に舌をやみくもに動かした。
 二匹の脚ががっちりと組み合って、いっそうきつく締め付け合っていた。アーマーガアの胸元の黒い毛並みが、ウォーグルのたくましい首を優しくくすぐる。辺りには二匹の息遣いしか聞こえず、互いの漏れ出た吐息が混ざり合い、温かい風が顔にかかる。
 体をここまで密着させあってはじめて、ウォーグルはアーマーガアの香りに気がついた。彼は空飛ぶタクシーの一員としていつも念入りに毛繕いされた、ウォーグルには知るよしのない、甘いかおりのする香水を吹きかけていた。
 やっと嘴を離した。粘った銀糸はなかなか途切れず、いつまでも伸びるようにも見えたが、そのうち途切れた糸が、一滴の唾液となってウォーグルのお腹の上に落っこちて、黒いシミをつくる。
「……なんだか、まるで、赤い糸、のようでしたね……あ、すみません。変なことを口走ってしまってしまいました」
 妙に高揚した彼を見るのは新鮮で、可笑しかった。友人の秘められた一面を見たようで、驚きもしたが、かえって無邪気な好奇心もわいてきた。
「なあ、おまえ、俺のこと好きっていうけど、どんくらい好きなんだよ」
 試しに質問をしてみる。
「なにって」
 アーマーガアは翼を目一杯広げる。
「かつてこのガラルを飲み込もうとしたという、あのブラックナイトくらいには!」
 ウォーグルは苦笑いしてしまう。相手が大の親友でなければ、馬鹿にしていたと思う。だがこんなことをクソ真面目に、必死に表現しようとするアーマーガアのことが、同性ながら可愛らしい、と思ってしまった。
「す、すみません!」
 すぐに自分の愚かさに気づいたのか、アーマーガアは顔を赤くする。
「私にも意味がわからないことを口走ってしまいました。ですが、恐れ多くて夢にも思えなかったことが、一つ叶って、感激していますから、許してください」
「……つーことは、やっぱりまだあんのか、願い事」
 この程度のことでは終わらないだろうとは、ウォーグルにだって容易に想像できた。夜はまだ長い。月は驚くほど綺麗に澄んだままだ。そのうえ、長く甘く交わした接吻のせいなのか、変に体が熱くなっていた。明らかに、もっと、何かが欲しくてたまらなくさせられていた。
「ええ、勿論です」
 不敵に微笑んだ。ちょっとずつだが、理性のたがが外れてきているようだった。
「もっといけないことを、おねだりしてもよろしいでしょうか」
「おうよ」
「その、なんと表現すればいいんでしょうか」
 アーマーガアは恥じらいを見せた。少し待たせてほしいと言って、ウォーグルの胸に嘴を埋め、大きく息を吸った。ウォーグルの野性味ある汗臭い雄の体臭をめいっぱい鼻腔に吸い込む。息を吐きたくなくて、限界が来るまで息を止めた。
「もっとあなたのことを知りたい……あなたのいろいろな表情や感情が見たい……私だけにしか見せてくれないものがほしい!……私の気持ち、どうか、ご理解していただけるでしょうか」
「お、おうよ……」
 アーマーガアの懇願するような潤んだ瞳にやられてしまった。雄とか雌とか、そんなものを超越していた。天使の可愛さだった。
 耐えきれなくなったアーマーガアが、両翼でウォーグルの脚を開き、下腹を晒した。抑えていた感情を爆発させて、股と尾の間に強く頬擦りすると同時に、ほのかな快感がウォーグルに驚声をあげさせた。
「ここを……ずっと待ち侘びていたんだ」
 顔を紅潮させながら、感極まって、思いの丈をぶちまける。
「あなたのここをずっと……汗のにおいがこんなにも愛おしいなんて……いつまでも頬ずりしていたい。夜寝の枕にしたい……なんだか、夢を見ているかのようです……」
 慣れない微かな感覚に痺れながら、ウォーグルは翼を地面に垂らし、全身の力を抜いた。くっきりと浮かぶ月が、いつもよりも大きく見えたせいで、誰かに見られているような錯覚を覚え、ドキドキした。
「……どうだ?」
「想像していたよりも遥かに素晴らしい心地です……」
 顎をその上に沈めたまま、感激に浸っている。
 ウォーグルの脚の隙間から顔を出して、アーマーガアは彼をじっと見つめている。輝くような視線を頤に感じて、くすぐったい。ずっしりと重い首の下に隠された、ウォーグルの本能が激しく疼き出した。
 股の鼓動を喉に受けたアーマーガアは、おもむろに顔を離した。ウォーグルのグラファイトの股がほんのりと赤みを帯び、腹の丸みから一筋の縦線が浮かび上がっているのを見つめると、愛しげに、ペロリと、舌で舐めた。
「ふあっ?!」
 今まで感じたことのない鋭い刺激を受けて、ウォーグルは思わず腰を浮かした姿勢になり、思いがけず股をアーマーガアに差し出した。
「ああ……なんて可愛らしいんだ!……」
 アーマーガアはウォーグルの股に語りかけながら、夢中になってスリットを舌で愛撫しまくる。首をあらゆる角度に傾けて。
「んんっ?!……んんんん!……んぐうっ!……」
 嘴をぎゅっと食いしばるウォーグルの股が次第に湿ってくる。
「我慢しなくてもいいんですよ?……その雄らしい声で思いきり、鳴いて見せてください……」
「ふあ……あっ……あああああ」
 体に力が入らなくなってくるのに従って、スリットの線がくっきりと浮かび上がって、そのうちぱっくりと小さな隙間が現れた。アーマーガアが、嘴を慎重に挿し入れたまま、ゆっくりと左右に開くと、それはますます大きくなった。
「待った……」
 ウォーグルが叫んだ。
「ちょっと、汚くねえか、そこ」
「何を、言ってるんですか」
 小鳥のように、首をかしげる。
「あなたのものなのですから、汚いわけないではないですか」
「……??」
 合点がいかないウォーグルを置いて、現れ出た裂け目に、アーマーガアの舌が入り込む。秘部に舌が触れた瞬間、鉄板に肉を置いたときのようなジュッという音が鳴った。
「ぐっ……」
 ウォーグルの中に忍び込ませた舌を、ちろちろと動かす。丹念にスリットを舐め回すと、さらに奥へと舌を伸ばしていく。
「あっ……あっ……」
 熱いものが入り込んでくる感触に、ウォーグルは身悶えし、冠羽を振り乱した。アーマーガアは無我夢中で嘴を押し当て、限界まで舌を突き出して、ウォーグルの味をほんのわずかでも逃すまいと必死だ。
「ううっ!……あっ、やめ、やめ……」
 にわかに、腰が熱くなった。良からぬものがそこに溜まっていき、溢れ出しそうなのが感じられた。
 息継ぎをするようにアーマーガアは顔を上げる。夢心地に、膨らました肺に入れた空気を吐き出すのが惜しさに、胸を張った姿勢のまま動こうとしなかった。
 彼の赤い瞳が、暗闇にひときわ濃く浮かび上がっていた。
「射精、したいのでしょう? 是非、私の口に出してください」
「ううっ……なんだよ、しゃせいって……」
「あなたが今、出したいものを、出すことです」
 溜まりに溜まった何かを解き放ちたいという衝動とともに、昔、おねしょをしてしまった時のことを思い出して、進化しておきながらと恥の意識に駆られ、ウォーグルの思考は混乱している。
「問題なんて、ありませんよ」
 アーマーガアは平然と我慢汁を舐めている。
「雄として、当たり前のことなのですから」
「でもな……」
 言いかけた嘴を、アーマーガアが塞いだ。さっきの唾液に加えて、もっとドロドロと実体感のある液体が混ざり合ったものが、ウォーグルの喉に注がれる。さっきとは違い、しょっぱい味がし、細かい喉ごしがあった。
「そうでした」
 むせるウォーグルに微笑みかけるアーマーガア。
「あなたはまだ童貞、でしたね……」
「本当に、恥ずかしいことじゃないんだろうな?」
「勿論です……見てください」
 そう言いながら、まさに鎧のような下半身をウォーグルに示すと、股のあたりが何もしていないのにぐしょぐしょに濡れ、滴がポタポタと地面に絶えず垂れ続けていた。
「これに比べれば、大したことなんてないでしょう?」
 ウォーグルは思わず、目を丸くした。
「なんじゃ、こりゃ」
「私はもう我慢できそうにありません。ですから、お願いですから」
 アーマーガアは息も絶え絶えだった。
「早く、終わらせて、次へ行かせて欲しいのです!」
 途端、再び秘部に嘴をつけ、貪るように舐め始めた。愛欲に酔っ払い、ただウォーグルのことを慕って、舌を中へ中へと食い込ませる。肛門を突き通して総排出腔へ、さらにその奥へと入りたがるように、乱暴に口に生えた性器を揺り動かす。
「あっ……やっ……やべっ……」
 アーマーガアは何も聞いていなかった。唾の音を高くたてながら、うっとりと夢心地に穴を舐め続けていた。
「ああっ!……あっ、あっ……ああああん」
 アーマーガアの燃えるような舌に犯されていくうち、雄として弄ばれる屈辱感というものはどこかへいってしまい、ただ純粋に気持ちよさだけが感じられ、もっと、もっといいところを責めて欲しいとじれったかった。
 こんなことを考えてしまうなんて、自分にも驚きだ。
「くっ……舐めるんなら、もっと、そこを、ペロペロと、してくれよお……」
 口がひとりでに動いていた。
「あ……も、申し訳ありません!……」
 その一言で正気に返ったアーマーガアは、言われた通りの場所を、律儀なことに丁寧に舐めた。さっきとはうってかわってしおらしい、従者とか召使のような従順さで。
「はあ……!……ここで大丈夫でしょうか……?」
「んぐ……そう……そこをもっと……」
 ウォーグルは深く頷いてうっとりと目を瞑り、アーマーガアの舌に身を任せた。彼の嘴に愛されるたび、激しい悦びに身を捩らせる。
「あっ、出る出る、出るうっ!……」
 本能のままに、周囲の静けさも気にすることも忘れて、あらんばかりの声が出た。
「うっ……!……うううっ…………うああああああああああ!……っ……ぐおおおおおおおおおっ!!……」
 咆哮と共に、ウォーグルの秘部からホカホカした愛液がどっと放たれた。どくどくと吹き出すそれを、嘴をおしあてたまま、少しでも口に含もうとするが、受け止めきれなかった白い液体が、鎧を模したような頭にピュッとかかる。そんなことも、アーマーガアは少しも不快には思わず、むしろ恵みの雨を浴びたかのように喜んでいた。
「満足して、いただけましたか」
 顔の汚れを舐め取りながら言う。興奮を抑えているからなのか、いつもと比べてトーンがおかしかった。
「まあ。気持ちいいことは気持ちよかったけどさあ」
「それでは次のお願いです」
 突然仰向けに倒れ込んで、自ら脚を広げて濡れた股を曝け出す。
「私にも同じことを、してください!」
「うっ」
 ウォーグルは物怖じした。されるとするとでは勝手が全然違う。そこがどういう穴なのかは鳥だからよくわかっているが、アーマーガアは怖じけるどころか、汚くともなんともないとまで言い切ってしまった。しかし、同じことが自分にもできるのか、自信がない。
「安心、してください……」
 息も絶え絶えに話す姿は、もう絶頂に達しているかのようだ。
「あなたのために、ここはちゃんと、常日頃から綺麗にしてあるのです……」
 ほのかな赤みを帯び、ピクピクと動き、ウォーグルの舌を今か今かと待ち望んでいるそこは、確かに汚れひとつない。ダイヤモンドのような角ばった体に不釣り合いに浮かんだそれを見つめていると、吸い込まれてしまいそうだった。
「お願いします……あんまりではないですか……「なんでも」してくれるって、言ってくれたでは、ありませんかあ……」
 しおらしくも、挑みかかってくるかのような言い方のせいで、ウォーグルのナイーブな闘争心が呼び起こされてしまう。
 アーマーガアにもできたことを、自分ができないでどうするんだ。それでは、勇士たるウォーグルの名が廃るではないか。
「よおし」
 醜態を晒すアーマーガアを見下ろしながら、ゆっくりと舌舐めずりをして意地を見せる。
「だったら、お前をたっぷりいたぶってやるよ、ガア……」
「はい、よろしくお願いします……!」
 決然と、嘴を秘部に近づけると、甘く快い香りがウォーグルの鼻に飛び込んでくる。香水と、漏れ出した我慢汁が混じり合って、うっとりめまいを起こしてしまいそうなのに負けじと、舌を伸ばし、既に濡れている秘所にひっつける。
「ああ!……っ……!」
 たったそれだけで、悲鳴のような喘ぎがあがる。いつもの紳士然としたアーマーガアはどこにもいなかった。ひたすら乳とかおもちゃとかをおねだりするエレズンみたいで。ウォーグルはさらに舌を動かす。
「やっ……んんん!……」
 鉱石のように硬いと思い込んでいた体は意外と柔らかいのは発見だった。漏れ出した白濁液と混じって生温かい皮膚の感触が舌に伝わってくる。ちろちろとベロを遊ばせ、裂け目を愛撫するごとに、激しい吐息をつくアーマーガアは可愛らしい。
 顔を上げ、両翼で脚をいっそう開かせ、さっき自分がされたのと同じように、裂け目に嘴を挿し込んでゆっくりと秘部を広げる。うっすらピンク色の内壁がちらりと覗いた。
「ガア、自分からこんな格好して、恥ずかしいと思わないのか?」
 ちょっと、嬲るような口調で言ってみた。
「俺以外のやつが見たら、どう思うんだろな? ガラルの象徴がこんな股を開いて、舌を欲しがってるなんて知ったら、みんなたまげるんじゃないか? もうアーマーガアの風上にも置けないぜ、ガア」
「うううっ……もっと、もっと嘲ってください……」
 むしろその言葉を渇望していたかのように、アーマーガアは語った。
「あなたのその形の美しい嘴で、私を罰してほしい……あなたのことが好きになってしまった、愚かな、アーマーガアのなり損ないを……!」
 ウォーグルは肩をすくめた。そこまでの異常な愛情に晒されてきたことに鈍感だった自分も、間違いなく愚かではあったが。
「ったく、困ったヤツ」
 そうひとりごちると、嘴をだらしなく広がった縦割れの中に挿しこんで、傷つけないように気をつけながら、ぐりぐりと揺り動かした。
「ああああっああああああ!……っああああああ!」
 苦悶と快楽が入り混じった叫び声をあげるアーマーガア。
「どうかそのまま!……メチャクチャにしてくださいっ……うううん……ううっ……いっそ、殺してほしい……!」
 ウォーグルは黙って、嘴で子供の頃からの相棒のいやらしいところを責め続ける。闇の奥から流れ出してくる愛液が、嘴にべとついても、案外気持ち悪くなかった。自分も興奮のあまり感覚がおかしくなっているのか。
「ああああ、死ぬ、死ぬううう!……」
 アーマーガアが切ない喘ぎ声をあげるたび、内に秘めた嗜虐心が刺激されてくるのか、ウォーグルの嘴はいっそう乱暴で、狂気じみた動きをする。夜分のワイルドエリアの静けさに、ピチャピチャという音が響く。
「ほら、これがお前の求めてたことなんだろ? どうだ、いま、幸せか?」
「う……生まれてからあ……ああっ……んんんん……こ、んんなにいいっ、ひっ……しあわしぇ、幸せだったことはあん……ない、ですう……」
 うっとりと目を瞑って月の方を見上げ、かすれるような声で、漆よりも黒い頬を紅潮させながら漏らす口調は、締まりがなかった。
「あなたにだけならああ……どんなああっ、情けない姿をっ、お見せしたってえええ、はず、恥ずかし、恥ずかしくは、あり、ましぇ、ません、からあっ!……ああんっ……」
 とはいえいくら舐めても、アーマーガアはなかなか達しなかった。この至高のひと時の惜しさに、驚異的な我慢強さで快楽をギリギリのところで押し留めてでもいるかのようだった。その姿がウォーグルをムキにさせ、嘴の抽送、舌の動き、刺激する箇所をあれこれと模索する。
「んぐぅ……ぐううううううぅ……」
 声色が変わった。頭にうねる感情を言葉に整理する余裕を明らかに失くしている。そこだ、と確信した場所を、ここをトドメにとウォーグルは攻めに攻める。
「ひいゃっ!……いぎゅっ! いきゅううううう」
 化けの皮の剥がれた親友の無様な姿を見て、困惑する一方で、激しく興奮している自分も否定できなかった。自分のことがまったく分からなくなり、これまで自分と思い込んでいたものが本当に自分なのかどうか、自信がなくなりつつあった。
 アーマーガアの汁が、果汁のような甘味を帯びてきたのは、舌の錯覚なのか、どうか。
 ウォーグルが無我夢中で穴の奥を虐め続け、現実と妄想の間をたゆたいながら、アーマーガアは、とうとう限界を迎えた。
「ぐ、ぐあああああああああああああんっっ!……んっ……んん……」
 胸いっぱいの叫び声をあげて果てる。すんでのところで持ち堪えていた秘部が一気に決壊し、激しく潮を噴いたのが、ウォーグルの顔面に吹きかかり、視界が白に染まった。どれだけ欲望を溜めていたのだろうか、その量はとめどなかった。最後まではしたないイキ様だった。
「うげえっ、畜生っ、前が見えねえ」
「ああ!……申し訳ありません……どうか、その顔をこちらへ……」
 アーマーガアは顔面に塗りたくられた白濁液を自ら舐めとってくれる。瞼の上に垂れかかった粘り気のある液体をミミズのように啄み、ようやく視界の開けたウォーグルの眼前には、気怠げに微笑するアーマーガアがいた。
 虚をつかれたウォーグルに、すかさずアーマーガアは接吻した。まだ精液が粘りついている口の中を、長い舌が軽快に跳ね回る。二匹はいったん考えることを脇に置いて、舌を絡み合わせていた。ゆっくりと、互いの舌の温度を確かめ合い、握手のようにがっちりと組み合った。
 夜もすっかり更けていた。一度興奮の極みに達した者が陥るように、ウォーグルはふと我にかえった。
「なあ、ガア。これでもう、満足しただろ?」
 つとめて友人らしく振る舞いながら、諭すような言い方で。
「好きなだけ俺のあそこも舐められただろ? お前の望みは叶えてやったわけだし、だからさ」
 ウォーグルは口をつぐんだ。そして、やっとのことで言い加える。
「この夜が明けたら、また友達として、よろしく頼」
「いやだっ!」
 思わず、毛が逆立つほどの叫びだった。
「絶対に、いやだっ」
 頭を垂れ、黒い巨体をぷるぷると震わせながら、アーマーガアはきっぱりと言い切った。その声に込められた、あまりに強い感情に、ウォーグルは思わず怯んでしまった。
「私は、やっぱりあなたとじゃないとダメだ。いまので、そのことがいっそうよくわかってしまいました」
 混濁した思いが込められたその口ぶりは、舞台上で己の過酷な運命に苦悶する役者のようだ。
「私はっ、あなたのことが愛しくて、愛しくてたまらないんだっ」
 赤い瞳が潤み、涙が次から次へと溢れた。ウォーグルは狼狽した。処置なしだった。
「もし、もしも、あなたが私を拒むというのなら」
 憎しみにも等しい、ものすごいまなざしをウォーグルへ向ける。
「この場で舌を噛みちぎって、死にますからっ!」
「待て待て、待てって!」
 いきなり嘴を大きく開いて舌を噛み切る素振りをされたものだから、ウォーグルは慌ててアーマーガアに体当たりを喰らわした。
 すると期せずして、仰向けに倒れたアーマーガアの腹に、ウォーグルがのしかかる姿勢になった。二匹の体同士ぴったりと、角ばった腹と丸みを帯びた腹がくっついた。
「この馬鹿野郎が……ココガラの頃からそういう先走るところがあったっけな、お前って奴は」
「はははは……申し訳ありませんね」
 自嘲するように、アーマーガアは言った。
「ですがね、この気持ちはもう、私にもどうすることもできないのです……いったい、私はどうすればいいんでしょうか? ウォーグル、教えてくださいよ……」
「どうするったってなあ……」
 ウォーグルは困り果てていた。アーマーガアの告白を受け入れることも、拒むことにも、自信がなくなってしまった。それがありえないことなのは馬鹿な自分でも、感覚としてはっきり理解できる。だが、時間は限られていた。
「御迷惑をおかけするのは承知の上です。しかしっ」
 アーマーガアも必死だった。この告白に命を賭していた。まさに、生きるか、死ぬか、どちらかだった。
「それを補ってあまりあるくらい、全身全霊、あなたのために尽くしていきたいんだ。いや、そうじゃない。尽くすんだ!」
 彼のあまりの決然さに、ウォーグルの心が揺れる。夢破れたら、こいつは命を絶ってしまうかもわからない。アーマーガアという種族としての誇りも何もかも、自分への愛のために平気で捨ててしまえるというのか。勇敢で名高いウォーグルの自分にも、見たことも聞いたこともないほどに強い決意だった。
 それに比べて! 自らの優柔不断をウォーグルは心の底から恥じた。アーマーガアの蛮勇に敬意を表して、覚悟を決めなければいけないと思った。
「なら」
 嘴を近づけてかちあわせると、猛禽の冷酷さで、ウォーグルは言い放つ。
「本当に死んでくれるか? ガア」
「えっ?!……も!……もちろん、です」
「本当だな?」
「え、ええ、そうですとも」
「嘘だろ」
「嘘なんかじゃ、ないです……!」
「歯切れが悪いぜ、ガア。さっきの威勢の良さはどこいったんだよ!」
「う……うううっ……」
 アーマーガアは泣き出しそうだった。内心ドキドキしながら、さらにアーマーガアを追い込もうとする。
「何も言えないのかよ。じゃあ、この話はもう終わりだな」
「ちょ、ちょっと待って下さい!……」
「うるせえ! だったらそんな軽々しく死ぬなんて言葉使ってんじゃねえ!」
 凄むウォーグルの気迫に圧され、アーマーガアは竦み上がった。
「なんだよ。お前の決意ってのは、この程度のもんだったのか。失望しちまったな……」
「ち、違うんです、ウォーグル。私はっ、これでもっ」
「これでも、なんだってんだよ」
 冷ややかに言い返してやる。
「ということは、ウォーグル」
 震え声で、恐る恐る尋ねてくる。
「やはり、受け入れてはくれないのですか?」
「ああ。だけど」
 ウォーグルは口に出そうとする言葉をよく反芻してみる。なんだかよくわからない。だが、ぐしゃぐしゃな今の感情を言い表すものとしては、なんとなくふさわしいように思えた。
「お前が死ぬっていうんなら、番いになってやってもいい」
 今言った言葉の意味は、やっぱりウォーグル自身にもわからなかった。悪意があったわけではない。ただ、相手に対して鬱積した思いを吐き出したらそうなった。無責任かもしれないが、その意味を是非、アーマーガアに教えてほしいくらいだった。
「私が死ぬなら、ですか」
 瞑想するような表情で、アーマーガアはしばらく考え込んだ。深く、長い沈黙が流れた。
「……わかりました」
「……」
「あなたの思いに沿うのかどうかはわかりませんが、やってみましょう……こんな風に!」
 唐突に、アーマーガアは歌い出した。蒼白く輝く月に共鳴するような、低音ながら透き通った歌声に、思わず聞き惚れてしまうほどだった。腹式呼吸で膨らんでは萎んでいくお腹に合わせて、ウォーグルの体も上下して揺れる。
「えっと、なんだ今のは」
「ほろびのうた、です」
 あまりに凛とした口調だった。
「???」
「ご存知ないのも仕方ありません。私もついこの間、知り合いのラプラスに習ったものですから……」
「おい、おい、だからなんなんだよさっきのは……」
「ええ。ですからこの夜が明ける頃には」
 さっきまでの堂々たる態度を取り戻したアーマーガアが、宣告する。
「私たちは死にます。それがほろびのうた、なのです」
「!!……」
「畢竟、私は利己的な大鴉に過ぎませんから。こうする以外には思いつきませんでした。申し訳ありません」
 ウォーグルは首を振り、それから乱れた冠羽を整えた。落ち着きを取り戻さなければいけなかったが、ことがことだからそういうわけにもいかないのだった。なんとなくだが、ほろびのうた、というのは噂に聞いたことがあった。それを聞いてしまったものは、みんな倒れる。
「ぐぐぐ……」
「稚拙なやり方ではありますが、約束は守りました」
 ふわりと広げた両翼で、やさしくウォーグルの首に触れて微笑する。
「さあ、番いになってくださいよ……!」
「お、俺、進化したばっかりだから。お前はどうか知らないけど、ちゃんと夢だって持ってるんだぞ? もっと特訓してチャンピオンの手持ちになって、でっかいスタジアムでキョダイマックスしてドンパチやるんだ! 邪魔なんかさせないんだからな!……」
 泣き出しそうなのは、今度はウォーグルの方だ。遺伝子にまで染み込んだプライドが、溢れ出そうな涙を抑えていた。涙に崩れた顔を見られまいと、翼で目元を覆い隠す。
 完敗だった。見事にしてやられた。追い詰めたと思ったら追い詰められていた。墓穴を掘ったようなものだ。道連れなんて。そんな、馬鹿な。
 太い首を振るって、ぐちゃぐちゃな思考を振り払った。
「約束するよ。そんな覚悟を見せられたら、俺もちゃんと、応えなくちゃいけないだろ……」
「では」
 アーマーガアは「最期の」お願いを口にする。
「交尾を、していただけないでしょうか……」
「死ぬまで付き合ってやる、しょうがねえからな」
 吹っ切れたように、答える。
「……ありがとうございます」
 ウォーグルは重なり合ったお腹をゆっくりと擦り合わせながら、いいところを探りはじめる。何をするべきかはよくわかっている。そこが疼いて、しきりに快感を求めているのは、むしろウォーグルの方だった。このわけのわからない感情は、あまりに異常なことが相次いだおかげで煽り立てられたものなのか。
「ああっ!……ああっ……!」
 お互いの貪欲な火口が微かに触れ合っただけで、アーマーガアは激しい身振りでよがり、その悦びが股を通じて、直接、ウォーグルの体へ伝ってくる。
「くっ……やべぇ……」
 しっかりと擦り合わすことのできるように、アーマーガアに覆いかぶさっていた体を起こして、少し背を反らしながら、腰のあたりを揺らして陰部を刺激し合う。まさに、ぴったりとそれらが重なり合うと、漏れ出す愛液、男汁、我慢汁とでも言うべきものの感触を直に感じ、自分たちが一つになったという啓示を得たかのような興奮が、いっそう快感を高めていくのだった。
「幸せですうっ……はあっ……はあっ……!……本当に……もっと、もっとそれを私に押し付けてください……!」
「言われなくても!……わかってるっ……!」
 慈しむようにゆっくりと、貝をぴったりと重ね合わせては、たっぷりと時間をかけて愛し合う。真空のような静けさに、二匹の深いため息だけが響く。
「ほら、どうだっ……」
「とても、とても素晴らしいの、ですぅ……」
「そうじゃねえだろ、ガア?」
 月に黒光りするアーマーガアの顔を、翼ですっぽりと包み込んで、おでこを突き合わせて睨みつける。
「恥ずかしがってんじゃねえよ。いけないことしてるんだから、さ。お前のそのいい声で鳴いてみせてくれよ……」
「はああっ……ぐぐぐ、ぐぐぐぐぐあっ……」
 にわかに乱暴に股を擦り合わせた。擦りすぎて、股から火花がはじけ出る馬鹿げたイメージを想像しながら。
 突然走った快感に、アーマーガアが嘴をぽっかりと開いて、舌をプルプルと震わせながら、間の抜けた声で、ガア、と喘ぎ鳴いたとき、ウォーグルの理性のタガはとうとう外れた。その調子の外れた声は、初めて出会ったばかりの、ココガラだったころの声を思い起こさせ、紳士的な振る舞いや言葉遣いで覆い尽くされたアーマーガアの本来の姿を垣間見せる声だった。
「そうだ、それでいいんだよ!」
 野蛮な腰の動きで手ひどく責め続けた。
「進化したからって、お高くとまりやがって……いくら、ガア、お前が優秀なタクシー? だったとしてもだ、俺はお前の本当の姿、知ってんだからな……! おっちょこちょいで、不器用で、引っ込み思案で、臆病で、寂しがりやで!……その上、俺のことなんか好きになりやがって! んで、俺の夢も何もかもてめえの都合で台無しにしやがって、どうしようもねえヤツ!」
「ううう……何もかも、その通りだ……ぼ、ボクはあ……」
 ウォーグルにすっかり絆されて、アーマーガアの心の鎧は剥がれ落ち、一匹の、小心なココガラに戻っていた。
「ああ……お願いだから、もっともっと、ボクを、メチャクチャにしてえ……ひとつになりたいよ、ウォーグルう……」
「ひとつどころか跡形もなくしてやりたいぜっ……」
 架空のペニスを思い切り捻じ込むように、ウォーグルは腰を強く前後させた。それに応じてアーマーガアも、跳ね上げるように腰を動かし、二匹は互いに激しく体をぶつけ合った。何度ぶつけても、なんだか満足しきれないもどかしさで、交尾にいっそう熱がこもった。
「はあっ、はあっ、はあっ……くそっ、はやくイキやがれ、ガア!」
 体のぶつかり合う音が、夜更けの平原に響き渡る。お互いに愛情を全身でめいっぱい表現しようとして、増した勢いはもう止められない。
「うっ、ううっ、イヤだあ……いつまでも、こう、して、いたいいっ……!」
「終わるんだよ、どんなもんだって……!」
 鳥どうしで愛し合うことがこんなにも気持ちがいいとは思いもよらなかったウォーグルの腰の動きはより激しく、より淫らなものになり、自分でも抑えようがなくなっていた。
 興奮のあまり、もう一度キスをしてしまった。さっきよりも勢いよく嘴をねじ込んで、めいっぱい舌を奥にのばし、むせる暇も与えないほどに。重なり合った姿勢のまま、上にのっかったウォーグルの体全体がゆっくりと波打つ。アーマーガアはされるがまま、突き出した脚をピクピクと痙攣させながら、ウォーグルに攻められる悦びをじっと受け止めていた。
 二匹の股が、ぐちゅぐちゅと音を立てている。耐えられずに溢れ出した液の泡立ったのが、じわじわと隙間を伝っていった。
「いいぞ……っ……これで、どうだっ!……」
「あああっ、いやだ、いやだっ!」
 ウォーグルが止めの一撃を打ち込むと、溜まりに溜まり堪えきれなくなった欲望が、充満した穴から我先に飛び出した。つんざくような雄叫びを上げながら、射精する量は限りない。ドクドクと股が疼くのに合わせて、ウォーグルの脚の力は抜け、あまりの快感に呆けた嘴から魂が抜けている。
「ふう!……参ったか……とんだ淫乱鴉めえっ……」
 両翼で乱れた冠羽をかき上げながら、勝ち誇った表情で、地に臥せったアーマーガアを見下ろす。気を失っているのか、首を横たえ、その目からはあの紅い光が見えない。
 もう死んじまったんじゃないかと、ウォーグルが不安げに顔を近寄せると突然、凄まじい風を全身に浴びたような衝撃を受けた。気がついたときには、姿勢に仰向けになっていた。そして、自分の腹の上に得意げにのっかかるアーマーガアが見えた。
「へっ?……」
 思わず、素っ頓狂な声を出してしまう。
「交替、です」
「えっ」
 アーマーガアが、まだ少し喘ぎを漏らしながらも、さっきまでココガラに退化していたくせに、驚くほど急にいつもの姿に戻ったので、ウォーグルは呆気に取られていた。
「あなたの心遣いをたっぷりと受けることができて、こんなに幸せだったことはありません。「最期に」、私も同じだけの、ありったけの愛情を注いであげたいと思います」
 言葉とは裏腹に、瞳はルビーのような輝き。ウォーグルはため息をついた。
「まさか……今のを、もう一回やる、のか?」
「勿論です。今度は私がリードしたいんです……」
 アーマーガアは頬を赤らめた。もうすぐ死ぬ、というのに、この悟りを通り越してすっかり死ぬこと自体を忘れてしまっているかのような態度は、どうすれば出せるのだろう、とウォーグルが考える暇も与えず、アーマーガアは腹を擦り始めている。
「うっ……ちょ……やっ……めっ……」
「太陽が昇ってしまうまで、いつまでもこうしていたいですね!……」
「ろっ……あっ……あ、あ、あっ、あっ……!」
「愛しています、大好きです、ウォーグルう……!!」
 やみくもに速まっていくプレスにつれて、ウォーグルの意識が失われていく。全身に伝わる気持ちよさに反応する気力もなかった。ひたすらに眠い。思えば、体を動かしすぎた、散々叫びもした。ウォーグルは夜更かしはしたことがない。緊張が解けると、あっという間に重々しい疲労感がのしかかってきた。それに加えて、いろいろなことがありすぎて、頭も疲れていた。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっあっあっあっあっあっ……」
 機械のように一定のリズムで喘ぎながら、ウォーグルの意識は次第に薄れていく。死ぬ、ということに恐れ慄く暇もなかった。
「好きだ、好きだ、好きだあっ!!……一緒に死にましょう、ウォーグルう……!」
 アーマーガアの叫びももはや遠い。



「おはようございます、ウォーグル」
 そよ風のような声で目が覚めると、空はすっかり、ワイルドエリアの朝の光景だった。昇ったばかりの日が赤く輝き出している。雲ひとつない。
 ウォーグルの頬を、穏やかな風に揺られた丈の短い草が、そっと叩く。いつもと同じ、寝覚めの感覚。でも、まだ疲れがとれきっていない。体が重かった。
「目を覚ましたのですね」
 アーマーガアは一匹でナックル丘陵から、砂埃の立ちのぼる砂塵の窪地を眺めていた。ウォーグルも気怠げに起き上がり、乱れた冠羽を整える。
「??……ああ」
 眠い目を一度翼でこすった。何かしっくりこない感じがしたのは、徐々に昨晩のほろびのうたのことを思い出したからだった。
「おい、ガア」
 佇むアーマーガアの隣に立つ。あの歌を聞いてしまったが最後、夜明けとともに息絶える、とこいつは言っていた。
「……俺たち、死ぬんじゃなかったっけか?」
「そのはずでした」
 神妙な面持ちでうつむいて、アーマーガアは語り始める。
「しかし、えっと、あの歌の効果には続きがありまして……」
「……?」
「あの歌を聞いた者は、確かに瀕死になります。ですがっ」
 アーマーガアは微妙な間を置いた。それがウォーグルには引っかかった。
「……「交代」すると効果は無くなるのです」
「「交代」って、なんの話だよ?」
 ヨルノゾクのように首を直角に傾けて、尋ねる。
「ええ、ですから……なんと表現すればいいんでしょうか、その」
 何かを取り繕うとしているのは丸わかりだったが、まだウォーグルは黙っていた。
「私たち、「交代」したでしょう、私があの歌をうたってから……」
「どういうことだよ」
「……その、「攻守」を……」
「……………………」
 なぜか自信なさげな返事。ウォーグルは翼を嘴の下側にあてて、ひとしきりこすった。そして、にわかに両翼で相手の顔を掴むと、ぐっとこちらへ引き寄せた。
「こら、この期に及んで嘘をつくな嘘を……」
「いや! その! これは、そのっ」
「俺のこと鳥頭だと思ってからに……さすがに騙されるか、んなもん」
「うっ……」
「ゴタクはやめとけ。正直に話してみろ」
 きっと睨みつけるだけで、アーマーガアは弱ってしまった。ウォーグルよりも一回り大きいはずの体が、縮んで見えた。見上げているのに、見下ろしているような、変な錯覚を感じた。
「ご、ごめんなさい! わ、僕は、嘘をついてしまったっ」
 さっと頭を下げる。装甲のような頭が、ウォーグルの前に差し出される。
「ほろびのうたなんて、アーマーガアが覚えられるわけないんだ……そんなことは当たり前のことだ、けどウォーグルなら知らないだろうと、内心、たかを括ってつい、咄嗟に、言ってしまったんだ。ただ、どうしても、諦めきれなくて、その一心で」
「…………」
「ざ、懺悔、します。僕も頭がおかしくなってたんだ。やっぱり、昨晩のことはきれい、さっぱり、忘れてしまおう……」
 ウォーグルはそっとアーマーガアの首を持ち上げて、じっとその弱々しい赤い光を見つめた。絶望して許しを乞うている、騎士たるにはふさわしくない瞳。ごめんなさい、という言葉を呪文のようにずっと唱えているかのような。
「ふえっ?!」
 まったく。軽いため息をついたら、ウォーグルは嘴を大きく開けて、アーマーガアにキスをしていた。
「バカ。言っただろうが。ウォーグルに二言はない、って」
「そ、それは……そんな……」
「騙されたのは癪だけどな。けど、誓っちまった以上はこれもウォーグルの運命として受け入れる。最期まで付き合わせてもらうから、覚悟しとけよ、ガアよ」
「わ、わた、いや、僕」
「いいから、いつものように喋れって。しゃらくせえ」
 冠羽を翼でポリポリと掻きながら、この特別な感情がいったいなんなのか、ウォーグルは考えようとしていた。自分は別に同性を好き好んでいるわけではない、今でもそう思っている。でも、どうしてか目の前のこいつを見ていると、そんなことは関係なくなってしまう。だったら自分は雄が好きなのか? と思ってもなにか腑におちない。ただ、どんなことがあったとしても、こいつと一緒でありたい、という確かな思いがあった。
 結局のところ、自分とは自分がそう思い込んでいるところのものに過ぎない。自分は自分すら裏切ってしまう。そこに、俺は脚をとられてしまったらしい。何にせよ、不思議と気分はよかった。体は大きく、紳士たるべく振る舞いながらも、小心な鴉の、幸福に満ち溢れた姿を見るだけで、胸がいっぱいだった。
 アーマーガアはうつむいて咳をし、ガーと鳴きながら喉が枯れていないことを入念に確認した。
「……わかりました。本当に、心の奥底から感謝します。では」
 もう一度、さらに入念に声の通りをチェックして、大きく息を吸った。
「さっそく、儀式を挙げに行こうではありませんか!」
 ウォーグルの中で、時が止まってしまったかのようだった。
「……へ?」
「もう準備は整えてあるのです! すぐそこのナックルシティで! 私のオーナーは大変粋な方で、事情を打ち明けたら、親切にも即座に対応をしてくれたのです!」
「ええと……」
「アーマーガアとウォーグルが契るとは喜ばしいことだと言って、ジムリーダーの協力のもと、なんと! 特別に宝物庫を開放していただけることになったのです!」
 ウォーグルの目は点になり、まくしたてるアーマーガアの言葉が矢のように頭を貫いていく。聞き慣れない言葉を気にしているうちに、話が進んで、もう何が何だか分からない。
「私たちは、二人の王に見守られながら、「愛」を誓い合えるのです……! こんな素晴らしいことが他にあるでしょうか?!」
「うん……うん……?」
「ああ! でもその前に私たち、汚れた体を清めなくてはいけませんでしたね!……あそこに見える巨人の鏡池へ参りましょうか、ウォーグルっ」
 アーマーガアの声が弾む。悠然と広げた黒い羽根に背中を押され、前のめりになったウォーグルが咄嗟に宙に飛び立ったのを、後ろからアーマーガアの巨躯がさっと追い越して、池へと先導する。
 結局のところ、俺はずっとこいつの翼の上で転がされていただけなのでは、と思う。こうなることをすべて見越した上で、アーマーガアは告白したのではないのかと。そうかもしれない。でも、こうなることを望んでいたのは他でもない俺自身であったのかもしれない、と全てがつつがなく済んだ後で、考えもしながら、悠然と飛ぶ「恋鳥(こいびと)」を飛び越す。
「遅えよ。置いてっちまうぜ、ガア」
「あ、待ってください、ウォーグル!」
 らしくなく翼をバタつかせて追いかけるアーマーガアをちらりと見る。すごく、他の何よりも可愛いな、と思った。それだけで十分だ。ウォーグルは前を向き、一直線に鏡池へと滑空した。

頼むから殺してくれないか 


 ご主人のスマホロトムにかけあってアーマーガアは、夜中にこっそりとインターネットで検索をさせてもらった。訝しがられることのないようにと、丁寧にその理由もすっかり相手方に告白しておいた。アーマーガアとしては、隠し立てすることは何もなかった。私は同じ雄しか愛せないのです。そして幼馴染のウォーグルに片思いをしています。彼のことを想うと、死んでしまいたいくらいに、とても胸が苦しくなるのです。ですから……
「了解、ロト」
 ロトムはそう言いつつ、深いため息をついた。
「でも、あんたみたいに律儀な奴は初めてロトよ」
「遅い時間にこんなお願いをして失礼いたしました。こんな私にわざわざご協力いただき、感謝いたします。ロトムさん」
「別に構わないロトよ!」
 ケラケラと笑いながら、ロトムは受け合った。
「どんな利用者だろうが、秘密は厳守する、プロフェッショナルの務め、ロト」
「では」
 アーマーガアは興奮を抑えきれない、澄んだ目を湛えて、声を潜めながら言った。
「ポケモン図鑑を閲覧させていただきたいのです! 全国図鑑628番……」
「……えっと」
「失礼いたしました。ドキドキして、少し声が上ずってしまいました。聞こえにくかったでしょうか? ではもう一度、ポケモン図鑑の……」
「いや、そういうことじゃなくて……!」
 ロトムはつい素の口調になってしまった。言いたいことがたくさんあって、珍しく考え込んでしまった。
「あんたは、その、友達のウォーグルのことが「好き」だといまさっき言ったロトよね?」
「ええ。心からお慕いしています。正確にはまだワシボン、だと思いますが」
「……別に恥ずかしがらなくてもいいロトよお?」
 とりあえず、初心なアーマーガアをからかってみる。
「堅気なアーマーガアだって劣情は抱いて当然、ロトし」
「勿論です。お心遣い、本当に感謝しています」
「だったら、ボク、お勧めのサイトを知ってるロトよ? 仕事柄、こういうものにはどうしても詳しくなってしまうロトしい?……『PokeHub』なんか結構あんた好みの動画あると思うロトよ? ウォーグルってかなり人気あるポケモンロトし、その手の動画なんてごまんと」
「いえ、とてもありがたいですが、大丈夫なのです。ポケモン図鑑を起動してください、ロトムさん」
 ムムム。背側の画面を見せるために後ろへ振り返りながら、ロトムは困惑する。変態なのか、堅物なのか、はっきりしてほしいロト……
 ポケモン図鑑を起動する。オーナーはトレーナーではないので、開くのは久々だった。図鑑説明の話し方ってどんな感じだったロトっけ?……極力、いかにもな機械音声のような話し方を心がけて、朗読を始める。
「ウォーグル。ゆうもうポケモン……」
 唾を飲み込むやたらに大きい音が鳴った。画面に表示されているウォーグルの画像や動画を見るアーマーガアの表情がロトムには見ないでもわかる気がした。ちょっとした寒気がするほどには、凄まじい視線を背中に感じる。それも妙なもので、卑猥というよりは、遥かに真摯だった。
「えっと。音声はこんな感じでいいロト?」
「大丈夫です。とてもいいです」
 アーマーガアは既に上の空で、ひたすら画面に動くウォーグルの姿を真剣に見つめていた。
(……勿論、姿形は何度か見かけたことがあるから、知ってはいたのですが)
 今は、ワイルドエリアで鍛錬に励んでいるであろう「彼」の来るべき姿を、絵画に描かれた英雄を鑑賞するように目を凝らしながら、アーマーガアは湧き上がってくるこのえもいわれぬ感情をじっと耐え忍んでいた。
(ああ、駄目だ。)
 俯いて、首を横に振る。情熱的ながら邪な感情が、心を苛み、串刺しにしてきた。その名を聞くだけで。ウォーグル、ゆうもうポケモン。
(やはり頭が彼のことでいっぱいになってしまう。それも、進化した彼の、この姿を)
「では朗読を続けさせてもらうロト……イッシュ図鑑より……仲間のため、危険をかえりみず戦う。自動車をつかんだまま大空を舞うことができる。勇猛果敢な大空の戦士。体の傷が多いほど仲間から尊敬されるという。仲間のためならどれだけ傷つこうとも戦いをやめない勇敢な大空の戦士」
「…………」
「…………ン」
「…………」
「……次のページに移りたいときは、声で指示してほしいロト」
「あっ!……失礼いたしました、ロトムさん。もうちょっと、待ってもらえますか」
 アーマーガアはすでに空想の世界にいた。
 頭に誇らしげに掲げられた冠羽、筋立った丸太のような太い首、鮮やかな赤い翼によって引き立てられた体のグラファイト。そのように進化しているはずの「彼」が、目の前に現れ出たかのようだった。
 「勇猛果敢な大空の戦士」という文面を何度も目で追い、そのフレーズを何度も黙読し、図鑑説明文をソネットのように耽読した。その音から、美しい泉のようにポエジーが無限にお湧き出てくるとでも言うように。
(勇敢なのは勿論だ。その上蛮勇で危なっかしくて、男らしさに満ち満ちているときている! 性質の美しい彼を称えるにはふさわしい表現に違いない、勇猛果敢、か……!)
「ロトムさん。次のページをお願いします」
「了解、ロト……」
 この簡潔で、説明的な文章だけで結構な時間が経っていた。今夜は長くなりそうロトと、ない肩をすくめ、食い入るようなアーマーガアの視線に気圧されつつ、ロトムは淡々と図鑑の文章の続きを読んでいく。その度に、アーマーガアは図鑑を熟読し、長い間考え込むように沈黙し、ロトムは辟易していた。
 __死さえ恐れぬ勇敢な気質。太古のアローラの人々は空の勇者と呼び尊敬した……出典:アローラ図鑑
 __棲みかを人がおびやかした過去があり、ウォーグルたちは一丸になって抗ったという……出典:アローラ図鑑
(私がココガラだった頃、そんなことがあった)
 アーマーガアは想いを巡らせる。
(ナックル丘陵に作った私たちだけの秘密基地、そこをダイオウドウに荒らされそうになったとき、彼は自分の何十倍もの巨体を相手に、怯えもせずに立ち向かってくれたのだった。傷だらけになった彼は、痛がるそぶりさえ見せずに、むしろ見せつけるべき傷ができたことが嬉しくてたまらないようだったのだが、それがなぜなのか、彼は説明しようとはしなかったし、私も敢えて尋ねることはしなかったのだが)
 ワシボンのあの笑顔が脳裏にくっきりと蘇ってきた。傷だらけになりながら、苦しみもせず、悶えもせず、傷を受けることではなく、傷を受けたことに対する喜びを爆発させる彼の。
 傷跡は、額と胸に深く刻まれていた。ことあるごとにその傷の数と深さを自慢し、この傷がずっとこのまま残ってほしいと願っていた。そんなもの、ただの忌まわしい傷としか思えなかったココガラにとって、彼の喜びようは可笑しなものだった。
(その頃だっただろうか? 私が彼に不思議な感情を抱くようになりはじめたのは。ただ一緒にいるだけで妙に心が揺さぶられていた。やがて、私は一緒にいるだけでは変に物足りなくなっていた。接吻をしたいと考えるようになり始めていたのだ。彼の秘められたところに触れたいと考えるようにもなった。彼の、いつも隠れて見えないところを見てみたかった。最初は、単なる好奇心でしかなかったと思う。しかしそれはいつの間にか、私の頭の中で、恐ろしい、疚しく汚れたファンタスムに取って代わり、私をひどく苛むと同時に、吐きそうなほどに心を掻き乱しすようになっていた。そして耐えられなくなった私は、ワイルドエリアの草地に思い切りその思いを吐き出してしまい、罪深さに泣いたのだし、その償いのつもりで、風切羽をむしりとって、しばらくの間飛ぶことができなくなったのだった……あの頃はとても辛かった)
 アーマーガアは、アローラ図鑑の説明に目を戻し、そしてハッとさせられた。
 __向こう傷の多いものほど勇敢とされ、後ろ傷の多いものは群れでバカにされる……出典:アローラ図鑑
 単純だが一語一語が遠い東方の地方の凝らされた短詩のように見事に対句されたこの一文のおかげで、わからないままに放置したまま、存在すら忘れかけていた謎が一挙に解けた。
 すると幼い頃の思い出がまた違う意味を帯びて、再生されるのだった。アーマーガアはこの文章を何度もロトムに朗読させた。
「向こう傷の多いものほど勇敢とされ、後ろ傷の多いものは……」
「申し訳ありません。もう一度言ってもらえますか」
「向こう傷の多いものほど勇敢とされ、後ろ傷の多いものは群れで……」
「本当に、申し訳ありませんロトムさん! ちょっともう一度……!」
「向こう傷の多いものほど勇敢とされ……(やれやれ、久々にこき使われてるって感じがしていっそ甲斐甲斐しいロトねえ……!)」
 図鑑に散りばめられた単語と単語が線を結んで、ワシボン、もといウォーグルの知らなかった姿が星座のように輝いて見えてくる。すると、アーマーガアが彼を恋慕う気持ちはいっそうと募り、胸がいっぱいになって、今にもはじけ、一介の肉塊と化してしまいそうだった。
(あの獰猛さ、野蛮さ、奔放さ、翼全体から漲る自由に混沌。私にはなく、決して持てそうもないものを彼は持っている。なんて羨ましく、素晴らしいことだろうか!)
 彼のたくましい体と、傷跡のことを思い、アーマーガアは深く嘆息した。
(ああ! 一刻も早く、彼とひとつになりたい!……いや、でもそんなことはいけない、いけないのだ……)
「血の気が多く荒っぽいので、ガラルの運び屋の座は……(あれ?……なんだか、意外と早く終わる感じロト?)」
 ようやくガラル図鑑の記述までロトムがすべて読み終えたとき、アーマーガアは忘我の域に達していた。目を瞑り、ただ彼のことを考えるのに集中した。あらゆる空想、妄想、願望が頭から溢れ出し、走馬灯のように回り、制御不能に陥ったメリーゴーランドのようにその回転速度を上げていくのだった。輪郭を失って、色が混じり合い、まるで抽象画のようになったイメージたちの向こうから、「彼」が、まさしく勇猛になったウォーグルが、アーマーガアを迎えに飛んでくるのが見え、うっとりするほど凶悪な嘴が眼前にまで迫って、自分の名を叫んでいるのをはっきりと確かめることができた。来てやったぜ、アーマーガア。
 黒羽に覆われた秘部がソワソワしていた。何もしていないのに湿り始めているのが、体感でわかる。
 ロトムは何事かを察した。決して、後ろにいる大鴉へ振り返ってはいけないということはよくわかった。
「あー、もしかして、ボク、一旦退出した方がいいやつ、ロトか?」
「申し訳ございませんロトムさん」
 本当に申し訳なさそうに、アーマーガアは言った。
「粗相をさせて頂きたいですっ」
「そういうことは言わなくてもいいロトからっ!」
 ええいっ、とことん困ったヤツだロトっ! ってあっ! うっかりスマホから出て行ってしまったロトぉ!
 アーマーガアはもう羽根で自分の黒い翼に覆われた秘部を触っていた。
「んん……」
 触るというよりは、ふんわりとした羽の先端でくすぐっているだけだったが、どろどろとした精がはしたない彼の股を濡らし始めている。そっと翼に目をやると、ドロドロとしたものが、高貴と呼ばれる黒光りする羽根にまとわりついている。
「ふーっ!……ふーっ!……」
 嘴をきっと閉じ、鼻からため息を噴射しながら快楽に耽っていると、興奮と恥の意識が結託し、制御のつかない感情をいっそう高めていく。
(こんなことをするなんて、恥晒しもいいところだ)
 誰も罵ってくれる相手がいなかったので、アーマーガアは自らを罵ってやった。
(どうか彼の口からも、アーマーガアの名折れと罵ってもらいたい……本物の戦士から、偽りの騎士に引導を渡してもらうのだ……)
 懲罰への欲求に駆られて、むやみやたらに、虚しくも翼を股に擦り付ける。ポケじゃらしでさすっているような、もどかしい快楽だった。
(「血の気が多く荒っぽいので、ガラルの運び屋の座はアーマーガアに奪われた」だと? これでは、私たちが彼らをガラルの片隅に追いやったようなものではないか。あれほど雄々しい、冠たるにふさわしい彼らに対して何たる仕打ちをしたものだろう! 私がこれほどに愚か者だというのに、あんまりなことではないか? こんな私よりも、彼の方が、栄光が輝くに相応しいはずなのだ。ああ、こんな姿を見て、彼は軽蔑するだろう。彼が努力している裏で、私は彼のことを頭の中で犯していたのだから)
「ふうー……っあ……ふーっ……!」
 自分の翼では満足できなかった。鳥というのは何て不自由な体なのだろう、とアーマーガアは都合よくも考えた。しかし、それは単なる方便でしかなかった。狂いそうな興奮に揉まれながら、彼はウォーグルの鋭い嘴を熱望していたのだった。
(……殺して、ほしい……っ! あの形のいい嘴で、私を四つ裂きにでも、八つ裂きにして欲しい!……雄々しい声の響きで宣告してほしい、私に対して、死刑宣告を。彼の前なら勧んでこの儚い首を差し出して、斬首され、丸焼きになって彼の食事に供してやろう)
「ああっ……はあーっ!……ふううう……うううっ」
 耐えられず開いた嘴から、鈍く、低い喘ぎが漏れる。紅の瞳はぼやけて、その視界は何物も捉えず、体の中は興奮したリザードンのように熱で煮えたぎってでもいるみたいだった。もはや思慮深さなど失われたアーマーガアという名の烏の頭にあるのは、ただ何とかして絶頂に達したいという一念だけであり、徹底的に自分自身を貶めたいという黒い欲望であった。
 何か、ちょうどいいものがないかと、辺りを見渡す。
 先ほどまでロトムがいた、今はもぬけになってしまったスマホが目に入る。よほど気が動転していたのか、魂が肉体から飛び出すように、スマホから抜け出してしまったのだろうか。そのカバーの形状はちょうどいい鋭角を成しているように見えた。主人の所有物であるし、一瞬躊躇したが、膨れ上がる欲望には勝てなかった。思慮深いはずのアーマーガアにあるまじき、向こう見ずで愚かな行為とは知っていた。しかし、ただイキたいという思念に支えられたアーマーガアの思考は、もはや今のことしか考えられなくなっていた。達した後は、ひたすら虚無が待っているだけなのだから、不安も心配などしたって無意味だと、それ自体無意味な自己正当化をしていた。
「ふううっ……」
 ゆっくりと仰向けの姿勢をとりながら、慎重に足でスマホを掴み取る。脚を大きく開くと、ぱっくりと晒された恥部が開く感触がした。闇の中で、そのような体勢をしているのは、いかにもおかしく、馬鹿げているのは承知のことだったが、彼にとってはむしろ、この痴態を誰にも見られていないことこそ、何にも勝る恥辱であり、アーマーガアを激しく興奮させた。
 掴んだスマホをゆっくりと下ろし、開けた欲望の孔へとあてる。全身がピクリと震えた。意識が秘部へと集中し、感受性が一際高まった。
(今も、修行に励んでいるであろう彼に伝えたい。騎士たるにふさわしいのはあなたの方であると。私など、風に吹き散らされる塵芥にも劣る、恥ずべき大鴉の屑に過ぎぬのだと! 頼むから殺してくれないか! 私はガラルの冠たる鳥なんかではありえないのだから、断じて!)
 脚を巧みに動かし、スマホカバーの尖った部分を、ゆっくりと自分の中へ挿し込む。
「ああ……!」
 待ち望んでいた淫靡な快楽が走り、アーマーガアは嘴をうっとりと惚けたように開いた。決して挿れるのには十分とは言えないものの、差し迫った状況であるからには、中に入りさえすればそれでよかった。うまく脚を動かして、スマホを出し入れさせると、不気味な音を立てながら、アーマーガアの中がほじくられた。
「はあんっ……はあ……はあ……っ……んあ……んっ……」
 意識は曖昧になっていた。首はへし折られたように後ろへ傾き、真っ暗な天井を見上げていた。一心に快楽を求める破廉恥な存在に堕した彼は、無中になって自慰に耽るばかりであった。
「んあうっ……やっ……ううんっ……ふうっ……ふああんっ……」
 巨大な体躯を誇るガラルの鳥たるアーマーガアが、翼をしどけなく広げ、奇怪に片脚をくねらせて、己の秘部を責め上げ、悶絶の鳴き声をあげているザマは、もしもガラルを築き上げた先達が見たならば、恐るべき凶兆の前触れと解釈して、卒倒したり狂気に陥ったりしても仕方がないほどと思われた。
(ああ、もう、そろそろ限界が来る……!)
 体の中が焦げるように熱い。焼け死んでしまいそうだった。愛や精の入り混じった液が、マグマのように煮えたぎり、今にも溢れ出ようとしていた。
 アーマーガアは自らにとどめを刺すべく、疲労の溜まり出した脚を懸命に動かした。一瞬の快楽のために、そこまでできるものかと訝しむほどに、熱心な振る舞いであった。
「ふあっ!……んふぅ!……んん、んん、んんっ!……」
 そのとき、アーマーガアはウォーグルの幻影を見た。ああ、まさに今進化を果たして、私を迎えに来た彼が、淫らで腑抜けた自慰に耽るアーマーガアの痴態に気づいた! 凛とした表情が失望の影を帯びて、目つきは哀れむような残忍なものに変わった。腐敗した唾棄すべき死骸を眺めるように、ウォーグルはアーマーガアを見下して、その彫琢されたような嘴で嘲罵した。

せっかく約束を守って、お前のところに来てやったのに。へっ、そういうことだったんだな。失望しちまったな。お前は、ただ俺を呼び出して、レイプしたかっただけなんだな。俺の嘴を貪って、俺の体を撫で回して、俺のアソコをペロペロ舐めて、精液をミルクみたいに飲み干して、俺の果てた時の顔をニンマリと眺めて、気持ち悪い言葉をかけて、俺にも同じことをさせて、おもちゃみたいに遊び倒して、お前の汚らわしい精液で俺の顔を汚して、そして欲望のままに犯しまくるつもりだったんだろ。あの時、お前は俺のことが好きだと言ったよな。お前は嘘をついたんだな。俺が好きだったんじゃなかったんだろ、ただ俺の体を弄びたかっただけなんだろ。言えよ、セックスしたかっただけだってレイプしたかっただけですうって、それ以外お前のココガラ程度のオツムでは考えてませんでしたって言ってみろよ。違う? は? 違うわけないよな? だったらそこでオナニーして、何を考えてたのか言葉にして俺に教えてくれよ。どうせ気持ち悪いことだろ? あ、やっぱ別に教えてくれなくてもいいわ。お前って、昔から言い訳とか取り繕うこと得意だったもんな。それに俺、実を言えばさ、お前のおぞましい妄想とか、ずっと前からお見通しだったんだよ。全部知ってんだぜ? すげえだろ? な? お前がアオガラスだった頃に、お前が俺で卑猥な妄想してたこと、俺が気づいてないとでも思ったか? ナックル丘陵の草むらん中で、今みたいに羽でアソコを弄って、射精しただろ、その汚くてくっさい精液で草地を汚しただろ? それで申し訳なくなって、自分の羽根をむしり取ってただろ? バカだよな、それで一季節の間、飛ぶことが出来なくなったんだもんな。でも、それだってどうせ俺に構われたかっただけなんだろ。俺にいっぱい看病してもらって、隙あらば俺を犯すつもりでいたんだろ。黙れよ、お前のクソみたいな言い訳なんて俺は聞きたくねえよ。大体、今更何を誤魔化そうって言うんだよ。お前のそういうところ、俺は昔から軽蔑してた。小さな嘘ばかりついて、自分の首をゆっくり締めていくとか、本当にバカじゃねえの? お前と友達でいた俺がすげえ恥ずかしいわ。あーあ、そもそもなんで、お前アーマーガアとして生を受けたんだろうな? お前のせいで、俺は惨めな思いをしなくちゃいけなかったんだ。お前、こんなことしてても、ガラルの象徴だし、空飛ぶタクシーなんてやって、みんなから尊敬されるんだもんな。俺がどんなに努力したって掴めないものを、お前はオナニーしながら掴めるんだ。酷い話だよな。なあ、アーマーガア、お願いだから死んでくれよ。お前みたいな恥さらしなんか、とっととこの世から消えちまえ。俺もお前のことなんかきれいさっぱり忘れてやるからな。何も残らないように。お前の存在も、その痕跡も、何もかも無かったことにしてやるんだ。死ねよ、アーマーガア。お前なんか、無様で、無意味で、無価値なんだ。だが、その前に、せっかくだからお前のイク姿を見といてやるよ。それがお望みだったんだろ。こんなこと、二度とはないぜ、ネヴァーモアだぜ、アーマーガア。ほら、さっさとイケよ。汚らわしい大鴉。俺はお前のことなんて、大嫌いだったんだよ。告白された時、正直気持ち悪いと思ってたんだ。雄のくせに、雄が好きなんて寒気がしたよ。俺のアソコが震えたんだ、お前に犯されるかもしれなかったんだなって思うとさ。だって、犯されるなんて雄として恥だろ? しかも同じ雄にだぜ? しかもお前みたいなアーマーガアにだぜ? 屈辱で死んじまうよな。こんなとこで、バカみたいなオナニーしてる烏に雄の誇りを傷つけられるんだもんな。最低だわ。さあ、早くイクんならイッてくれよ。俺がじっくり見て、バカにしてやるから。イケ、ほら、イケよ、イケって。そして、死ね、死ね、死んじまえよ、ガア。

「う、うぉーぐるぅ、うっ、ぐああああああああああああああああああっ!……っあ!」
 とくとくと湧き出た白濁液が、アーマーガアの漆黒の羽根を白く、べっとりと汚していく。間欠泉のように何度も噴き出し、いつ尽きるとも知れない量だった。アーマーガア自身にもいつ尽きるのか把握できたものではなかった。
 体全体を震わせ、激しい快楽に身悶えしながら、自分の精液がごまかしきれないほどに体を汚していくのに任せた。気持ちはよかった。しかしそれと同時に恐ろしいほどの罪悪感がその身を襲い、妄想や幻覚が、精の放出とともにたちまちにして消え失せ、少しずつ、理性が戻ってくるのを感じた。残ったのは、深い自己嫌悪だけだった。ガラルの象徴と呼ばれる自分が、無残にも犯されたような屈辱を感じながら、犯したのもまた自分自身である矛盾した感情が、いたく彼を苛んでいた。
(そうだ、私はどうしてアーマーガアとして生まれてしまったのだろう? 私は私をこんなにも憎んでいる。自分で自分を凌辱してまで、悦びを感じたがっているのだから。そのくせ、傷ついてもいる、なんて卑怯なんだ)
 精液が床板に染み込み、彼自身の輪郭をなぞるように濡れジミの跡を形作っていた。部屋全体が、得も言われぬ臭気を帯びた。ぐっしょりと濡れた体が徐々に冷やし、アーマーガアは体をガタガタと震わせた。
(私も、彼のようになりたかった……ウォーグル、ではなかった、ワシボン。殺してくれたって構わないから、私は許しを乞おう。果たして、こんな私でも、受け入れてくれるだろうか……?)
 横目に見る窓にうつった月がきれいだった。すべてを吸い込むような闇に、くっきりと白く輝く丸い月だ。
 どうか、彼も同じ月を見ていて欲しいとアーマーガアは願った。直度、恐る恐る様子を伺いに戻って来たロトムが思わず上げる叫び声のことも、その後始末のことも、未来のことは全て意識の埒外にあるほどに、呆然としていた。



後書き

pixivからの再掲、3作目になります。
今日(今日とは言っていない)が11月22日、いい夫婦の日、ってことでなんかできないかなと思って浮かんだのが、アマウォ鳥BLをこちらへ移すことでした。というわけで、文章の見直しと多少の加筆は行っていますが、前2作みたいに、おまけを書いたりということはしませんでした。そこまでする時間と余裕がなかったからなんですけど……
しかし、今作はちょっと思い入れがあります。なぜなら、ちゃんとまとまった形で投稿できた初めての小説だったからですね。ということは、自分自身のネットでの紆余曲折も関わってくるわけで、どうにも自分語りじみてきます。まあ、鬱陶しくない程度に振り返ってみますか。
アーマーガアとウォーグル。きっかけは、アーマーガア初出時に見かけたある人のツイート。それ以来、この組み合わせいいなあと思って、小説にしたいと思ってました。しかし当時はpixivもtwitterも単なるROM! 妄想はしても、それを具現化しようという行動力がありませんでした、というわけでグズグズと時が経ちます。twitter垢を立てたのは去年の関けもの直後。それはよかったけれど、だからといって小説投稿するとかでもなく、相変わらずROMってました。意気地のないヤツです。しかし、交流どころかフォローもされない、いいねもRTも来ないtwitterなんぞ楽しくも何ともありません。たまにフォローしてくるのがセフレ垢とかよく分からないYouTuer垢ばっかりだとなおさら! 今から思えば全くヒドイ時期でしたね! とはいえ今年に入ってから、少しずつ繋がりが出来て上向いて来て、じゃあ何か行動を起こしてみようと試行錯誤する中で、以前から頭にあったこのCPを書き始めたのでした。で、投稿に至ったのが3月。
それが思いのほか反響があったのと、まとまった文量のSSを書き上げたという自信によって、以降は吹っ切れて創作できるようになったわけです。幸か不幸か、ちょうど禍と重なって書く暇が増えたという事情もありましたが。それでコンスタントに投稿しつつ、夏からはtwitterでワンラも初めて、少しずつ、着実に行動範囲を広げていき、ありがたいことに字書きの方々とも繋がりを持てるようになって、今に至っております。
つまり、振り返ってみれば、「もっと早く書いてりゃよかったなあ!」です。しかしまあ、このタイミングで書いたからこそ出来た出会いや交流があったわけで、巡り合わせってのは何とも不思議なものですね。
まあ、そんなことは読む側にはどうでもいいことです。とにかく、ガアとウォの鳥BL(@NGB)は尊いね……ってだけ伝わればそれでOKです。pixivではその後の話とかちょくちょく投稿してはいますが、これ単体でも十分読めるかと思います……ええっと、これを読んで気に入ったら、ポケモンで鳥BL、書こう!

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Last-modified: 2020-11-23 (月) 06:03:28
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