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アドバンズ物語第十八話

/アドバンズ物語第十八話

ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第十八話 近道? 回り道? 獣道!


「うう・・・。ふわあああ・・・。」
翌朝、ライナは誰よりも早く目が覚めた。
みんなはぐっすり眠っており、日もまだ昇っていなかった。

「(みんなぐっすり寝てるな~・・・。とても疲れたのね。)」
ライナは寝ているみんなを見て思った。
寝言をつぶやいているものもいれば、微動だにせず寝ているものもいた。
ふと、ライナはソウマの寝顔に目がとまった。
いつもはあまり見せないような、すごくリラックスしている顔だった。
その顔をじっと見ていると、ライナは急に心臓がどきどきしてきた。

「(やだ・・・。私なんでこんなにどきどきしてるんだろう・・・。)」
無論、ソウマに恋をしているからだ。
どきどきをおさえるために、ライナはみんなの元を離れると、小川が流れているところへ顔を洗いに行った。
小川は近くの森を通って流れてきていたので、水は澄んでいてとてもきれいだった。
ライナは顔を洗い終わると、ほうっとため息をついた。

「(はあ~・・・。どうしてかしら・・・。出会ってからずっと変わってない気持ちなのに、どうしてもうまく伝えられない・・・。ソウマは、私のことどう想ってるんだろう・・・。)」
恋する乙女の悩みというべきか、ライナは深く考え込んでしまった。
しばらく水面を見つめていると、隣にコンが来たことに気がついた。
コンも顔を洗いに来たようだ。

「おはようございます。早いですね。」
コンはさわやかな笑顔で挨拶した。

「おはよう。なんか目が覚めちゃった。」
ライナも笑顔で挨拶し返す。

「どうしてこんなところまで来たんですか?」

「それは・・・、その・・・。」
ライナは頬を赤くした。
そして、こう切り出した。

「コンは、誰かのことを好きになったことってある?」

「え?」
コンもこの質問は意外だったようだ。
そして、しばらく考えていると・・・。

「・・・ありますよ。」
小さい声でポツリとつぶやいた。

「私、その人のことみるとどうしても上がってしまうんです・・・。伝えたいことがあるのに、どうしても言葉が出てこないんです・・・。それがもどかしくって。」
コンは恥ずかしそうに笑った。
どうやら恋する乙女は二人いるようだ。

「私もなの。伝えたいけど、なぜか言葉にできない。それに、向こうが気付いてくれてるかどうかも分からないし・・・。」
ライナはちょっとさびしそうな顔をした。

「いつかはきっと伝わりますよ。想いって、そんなものだと思います。あきらめなければ、相手もわかってくれるはずです。」
コンはライナを気遣ってか、そんなことを言った。

「・・・ありがとう。お互い、気持ちが伝わるといいわね。」
ライナはコンから元気をもらったような気がした。

「二人とも、そんなとこで何やってんだ?」
二人が振り返ると、そこにはソウマがいた。
どうやらソウマも顔を洗いに来たようだ。

「わわわわ!!もう~、びっくりさせないでよ~・・・。って頭がすごいことになってるわよ。」
ライナは心臓が飛び出そうになった。
それと同時に、ソウマの頭を見て思わず噴き出しそうになった。

「そ、そんなにはねてるか・・・?まずいなあ・・・。顔洗うついでにちょっとぬらすかな・・・。」
すると、ソウマはいきなり川に飛び込んで行水を始めた。

「え!?」
普通だと頭を軽くぬらす程度なのだが、まさか飛び込むとは思ってもみなかったのだ。
しばらく川で泳いだ後、ソウマは川から上がって体を震わせ水気を飛ばした。
頭はすっかり元通りになっていた。

「ふ~、さっぱりしたぜ~!ところで、さっきは何話してたんだ?」
ソウマは二人に聞いた。

「え?」
二人はソウマの行動に唖然として、考えが回っていなかったようだ。

「なんか聞かれちゃいけない話だったのか?」

「ななななんでもないわよ、なんでも!」

「ほんとになんでもないです!」
コンとライナはものすごくあわてた。

「そうか、ならいいや。そろそろ朝飯できるから、二人とも戻ってこいよ。そうじゃなかったら、食欲旺盛なやつらに全部食われるぜ。」
ソウマは、冗談交じりに言うと元の場所へ戻っていった。

「聞かれてなくてよかったですね・・・。」
コンはほっとした。

「でも、コンのおかげで元気が出たわ。ありがとう。」
ライナは笑顔でコンにお礼を言った。

「いいですよお礼なんて。お互いに頑張りましょう!」
コンも笑みを浮かべていた。

「ええ!きっと伝えてみせるわ・・・!」
改めて、心に誓うライナであった。
頭上には、顔を出したばかりの朝日が輝いていた。


「ふう~・・・。おなかいっぱい!ごちそうさま~!」
みんな満足そうにおなかをさすっていた。
これからベースキャンプを目指すというのに、これだけ食べて大丈夫なのだろうか。

「しっかし、ソウマが料理上手やったとはな~。」

「ほんとほんと。あそこまでかえんほうしゃの火力を調整できるなんてすごいよね~。」

「ソウマは本当にすごいでゲスよ。」
みんなソウマのテクニックには驚かされっぱなしだった。
平らな石を川で洗ってフライパンの代わりにしたり、石を尖らせて即席の包丁を作ったり、大きな葉っぱをお皿の代わりにしたりと、人間のときのことがそのまま生かされていたのだった。

「へへ。人間のときはオレが飯作ってたからな。自分なりに研究してうまいものも作ったりしてたのさ。」
ソウマは照れて顔を赤くした。
こういうことをほめられるのは初めてで、しかも慣れていないのだ。

「こういう男と結婚できる女って幸せだろうな~。」
シリウスが言った。

「(ソウマと・・・、結婚・・・。そういえば、人間とポケモンで結婚できるのかしら・・・?でも、ソウマは今はバクフーンだし、種族が合えばもしかしたら・・・。)」
みるみるライナの顔が赤くなっていった。
妄想のスイッチが入ったようだ。

「お、おい・・・。ライナ、どうした?」
ライナの目の焦点があってなかったので、カメキチはライナをゆすった。

「・・・え?な、なんでもないわよ!」
ライナは恥ずかしくなってそっぽを向いた。

「へんなやつ・・・。」
カメキチは、ライナのソウマに対する恋心には気がついていないようだ。

「よ~し!腹もいっぱいになったし、早速出発しようぜ!」
ソウイチは元気よくみんなに言った。

「おお~!!」
もちろんみんなも元気いっぱい、ツノやまを超えるべく入り口を目指したのだが・・・。

「な、なんだこれは!?」
みんな唖然とした。
なんと、入り口が岩でふさがれていたのだ。

「う、うそだろ・・・?」

「どうしよう・・・。ここを通らないとベースキャンプにいけないよ・・・。」

「いったいどうすればいいんでゲスか・・・?」
みんなは慌てた。
その様子を、影で見ている三匹の姿があった。
そう、ドクローズだった。

「ケッ、ざまあねえな。」

「これで当分は足止めを食うだろう。いい気味だ。ククククッ。」
岩を落としたのはこいつらの仕業だったのだ。
あまりにも早くついたので、ソウイチ達を足止めしたやろうと考えたのだった。
みんなが戸惑っている様子を満足そうに眺め、三匹は気付かれないように出発した。
そんなこととは露知らず、ソウイチ達は抜ける方法をあれこれと模索していた。

「オレが穴を掘るで反対側までつなげれば・・・。」

「バ~カ、岩がどの辺まであるかわかんねえだろうが。」

「なんだと!?誰がバカだ!?」
ソウイチの言い方にシリウスはカチンと来た。
大体ソウイチの言い方はこんな感じなのだが、どうもシリウスは短気すぎるようだ。

「落ち着けよ。確かにソウイチの言うことはもっともだ。こうなったら、別ルートを探すしかないな。」
ソウマは地図を取り出すと、他に道がないか調べ始めた。
そこで突然、コンはひらめいた。

「そうだ!さっきの小川をたどっていけばいいんじゃないですか?」

「小川?ちょっと待てよ・・・。」
ソウマはさっきの小川を地図でたどって行った。
すると、最終的にはベースキャンプのすぐ近くまで流れていることが分かった。

「よ~し!これで問題解決だぜ!」

「早速出発しよう!」
みんなはもと来た道を引き返し、小川のほうへと向かった。
どうやらドクローズの目論見は外れたようだ。
小川の周りは木がいっぱい生え、文字通りの一本道となっていた。
川や木があるおかげで、風も涼しく心地よかった。

「アニキ、この調子で行けばどのくらいで着きそう?」
ソウヤはソウマに聞いた。

「そうだな~・・・。だいたい夕方ぐらいには着けるんじゃねえか?」
ソウマは地図を眺めながら時間を予測した。

「それじゃあまだまだでゲスね~・・・。」

「冗談じゃねえ!!そんなにちんたらしてたら遅れをとっちまうよ!!」
シリウスはまたかっかした。

「これ以外に道がないんだから仕方ないよ。あそこで止まってるよりはずっと早いと思うよ。」
モリゾーとゴロスケはシリウスをなだめた。

「チッ・・・。」
シリウスは納得いかなかったが、二人の言うことは筋が通っていた。
だが、すぐににやっと笑うと言った。

「じゃあ、新しいルート見つけりゃいいんだな?」
そう言うなり、シリウスはソウマから地図をひったくった。
二人は何か言おうとしたが、これ以上何を言っても無駄だとソウマがとめた。
気のすむようにやらせるしかないようだ。
何時間か歩くと、川幅はだんだん広くなり、水の量も多くなっていった。
川の中には水タイプのポケモンもいたが、落ち着いているのか襲ってくる様子はなかった。
シリウスは相変わらず地図とにらめっこ、さすがのソウイチもあきれていた。

「おい、いつまでも見てたってしょうがねえだろ?」
見るに見かねてソウイチは声をかけた。

「うるせえ!なんとしてでも近道を見つけてやる!!」
シリウスは頑として言うことを聞かなかった。
ここまで強情だとは思わなかったのか、ソウイチは深いため息をついた。
それと同時に、おなかがなった。

「ったく、こんなときに・・・。」
あきれて笑うシリウスだったが、そういうシリウスのおなかもぐぐ~っとなった。
みんなはくすくす笑っていた。

「な、なにがおかしいんだよ!!」
シリウスは笑われたことに腹が立った。

「まあまあ。確かにそろそろ昼時だし、ここで飯にするか。」
ソウマはシリウスをなだめ、昼ごはんにはみんなも賛成だった。
今回は周りに木があるので、火は使わずそのまま食べることにした。
みんなはお昼を楽しんだが、シリウスだけはさっさと食べ終わると、かなりそわそわしていた。
早く先に進みたくてうずうずしていたのだ。
じっとしているのも性分に合わないので、近道がないか探すことにした。

「絶対どっかにあるはずだ。必ず見つけてみんなをあっといわせてやる!」
そんなことを思いながらいろいろ探索していると、獣道のようなものが見つかった。
地図でたどってみると、ちょうどベースキャンプの辺りまで伸びていそうだった。

「これだ!この道を通ればきっと近いぜ!早速みんなに教えようっと!」
シリウスは全速力でもと来た道を駆け出した。
もう少しでみんなのいるところまでつくというところで、木の根っこにつまづきものすごい勢いで転がってしまった。

「わあああああああ!!」

「でえええええ!!こっちくんな~!!!」
シリウスはカメキチとドンペイのほうに突っ込み、二人はよける暇もなくまき沿いを食ってしまった。

「いたたたた・・・。ちょっと、危ないじゃないですか!」

「こらあ!なんしよんぞお前!!」
早速二人からクレームが飛んだ。

「わりいわりい・・・。それより、近道見つけたぜ!!」
シリウスは頭をかきながら謝ると、さっきのことをみんなに伝えた。

「それは確かか?途中で途切れてたりするんじゃねえだろうな?」
ソウイチは半信半疑だった。

「このまま川沿いに行ったほうがいいんじゃないのか?下手すると迷って出られなくなるぞ?」
ソウマも慎重だった。

「へっ!お前ら意気地がねえなあ!一本道だから大丈夫だよ!とりあえずはこの橋を目指しゃあいいんだよ!」
シリウスは悪態をつきながら自信満々に言った。
みんなはそのことばにムカッときた。

「そんなに言うんなら行ってみようじゃないか!」

「僕たちは意気地なしじゃないぞ!」
ソウヤやゴロスケはシリウスをにらんだ
弱虫とだけは言われたくなかったのだ。

「あなた少し態度が大きいんじゃないの?マスターランクだかなんだか知らないけど、みんなと歩調を合わせるって事はできないの?」
ライナもソウマのことをバカにされてカチンと来たようだ。

「なんだ?やるか?」
シリウスはけんかの構えに入った。
みんなの間にはかなり険悪なムードが漂った。

「おいおい、こんなところで仲間割れしてもしょうがねえだろうが。」
ソウイチはみんなの間に割って入った。

「とりあえず、行ってみるだけ行ってみようぜ。それでだめだったら引き返せばいいんだしよ。こいつは自分の気がすまないと納得できないのさ。」
ソウイチは半分あきらめた顔で言った。
その顔に説得力があったのか、みんなはけんかをやめ、獣道をたどってみることにした。
シリウスの言うとおり、獣道はずっと一本だった。
しかし、シリウスみたいに小体系だとあまり気にならないが、ソウマやライナぐらいになると小枝や葉っぱがかなりくっついてくる。
たまに枝の先で引っかいたりもするぐらい狭かったのだ。

「おいおい、ほんとに大丈夫か?」
ソウマは少し不安だった。

「大丈夫だよ!そっちがでかいだけなんだから!」
相変わらずシリウスは言葉を選ばない。
三人はそれを聞いてむっとしたが、言いたい事をぐっとこらえた。
悪気があって言ってるわけではないのだが、どうにも頭にきてしまうようだ。
しかし、当の本人はそれを気にする様子は全くない。
獣道をたどっていると、川の音が大きくなってきた。
獣道に沿って森を抜けると、目の前にはさっきより格段に大きな川が流れていた。
水の量も、流れる早さも桁違いだった。
川の上には一本のつり橋がかかっており、ベースキャンプを目指すにはその橋を渡るしかなかった。

「それじゃあ早速わたろうぜ!」
意気揚々と橋を渡ろうとするシリウスだったが、すぐさまソウイチに肩をつかまれた。

「ちょっと待てよ。確認もしないで渡る気か?強度が弱かったら渡ったとたんに落ちるぞ?」
いい加減シリウスの自分勝手にはソウイチもうんざりしていた。
これはいくらなんでも度が過ぎる。

「ったく、お前いつからそんなに臆病になったんだよ?」
シリウスはソウイチをせせら笑った。

「ちょっと!ソウイチの事をバカにするのはやめなよ!」

「シリウス、いい加減にするでゲスよ!」
とうとうモリゾーもビッパも怒った。

「大体さっきからなんなのさ!助っ人で来たくせに、ソウイチの友達だかなんだか知らないけどいい加減にしなよ!!」
ソウヤはだいぶシリウスの行動に腹を立てていた。
すでに堪忍袋は切れ掛かっていた。

「な、なんだよ!!全部オレが悪いのかよ!?だいたいそっちにチャレンジ精神がないのが悪いんだろうが!」
チャレンジ精神がないわけではなく、慎重に行動しているだけなのだ。
ただ、せっかちなシリウスはそれが気に食わないようだ。

「なにを!?」

「もうあったまきた!!こんなやつと一緒に行けるか!!」

「てめえいい加減にしろよ!!」
もう売り言葉に買い言葉、シリウスはソウイチ達四人を完全に敵に回してしまった。

「シリウス、言い過ぎにもほどがありますよ!」
コンもとうとう口を挟んだ。

「お前は関係ないんだから引っ込んでろ!!」
頭に血が上ったのか、シリウスはコンに暴言を吐いた。
すると、コンの何かが切れた。

「関係ないだ・・・?ふざけたこと言ってんじゃねえぞてめえ!!」
あまりの大声にみんなびっくりした。
なにしろ、切れたコンを見るのはシリウス以外初めてなのだ。

「大体てめえが自分勝手すぎるのが原因だろうが!!ああ!?そのせいでみんなにどれだけ迷惑かけてきたよ!?これ以上わがまま言うんだったら川に突き落とすぞゴラア!!」
あまりの変わり様にさすがのシリウスも言葉が出なかった。
いくら前に見たとはいえ、めったに見ない表情を見るのは怖いものだ。

「わ、わかった・・・。オレが悪かったよ・・・。」
コンの剣幕に気おされ、シリウスはすっかり縮み上がってしまった。
そして素直に謝った。

「わかったんならもういいです。でも二度とこういう言い争いはしないでくださいね?」
若干怒ってはいるものの、コンの口調は元に戻った。

「あ、ああ・・・。」
意気消沈したシリウスはおとなしくコンの言うことを受け入れた。
これで当分は大丈夫だろう。

「すごいね・・・。一瞬で黙らせちゃうなんて・・・。」
ソウヤはまだ心臓がどきどきしていた。
それほど怖かったのだ。

「やな・・・。女って本気になったら恐ろしいやっちゃなあ・・・。」
カメキチもかなりびくびくしていた。
そんな騒ぎの後、みんなは橋を点検し、安全を確認してわたり始めた。
橋はかなり高いところにかかっており、真ん中まで来ると川の勢いはさらにすごく見えた。

「これでもし橋が落ちたら・・・。」
ソウヤの頭を不安がよぎった。

「怖いこといわないでよ!」
ゴロスケも足ががくがくしていた。
そのとたん、強風が吹いて橋が大きくゆれた。

「ひゃあああ!!落ちる~!!!」
みんな橋のロープにしがみついたが、風はなかなかやまない。

「みんな~!絶対落とされるな~!!」
ソウマはみんなに向かって叫んだ。

「んなこと言われなくたって分かってるよ!!」
ソウイチも大声で返す。
ようやく風はおさまったものの、さっきの恐怖感からか、モリゾーたちは足がすくんで動けなくなってしまった。

「何やっとんや!はよこんかい!!」
カメキチが怒鳴った。

「そんなこと言っても動けないよ~・・・。」
ゴロスケは涙目になっていた。
よっぽど怖かったのだろう。

「ったく、世話が焼けるぜ・・・。」
ソウイチが戻ろうとすると、それより先にシリウスが動いた。
そして、シリウスはしゃがむと、ゴロスケにおぶされといった。

「さっきは悪かったな・・・。乗れよ。」
言葉は簡単だったが、シリウスはかなり反省しているようだ。
それを感じ取ったのか、ゴロスケは素直に背中に背負われた。
しかし、ゴロスケを背負おうとした瞬間、橋の真ん中が崩壊し真っ二つに割れてしまった。
さっきの強風で結合部が弱くなっていたのだ。
みんなはロープにつかまる暇もなく、川にまっさかさまに落ちてしまった。

「ぷはあ!みんな無事か~!?」
ソウイチは辺りを見回した。

「ここでゲスよ~!!」

「オレはここだ~!!」
みんな岩や石につかまっていた。
どうやら全員いるようだったが・・・。

「コン!コンがいない!!あいつは泳げないんだ!!」
シリウスは必死でコンを探していた。

「バカ野郎!!何でそんな大事なこと早くいわねえんだよ!!」
ソウイチは怒鳴ると川に潜ってコンを探した。
しかし、どこにもコンの姿はなかった。
おそらく、先のほうに流されてしまったのだろう。

「ぷはあ!だめだ、どこにもいねえ!」

「オレのせいだ・・・。オレが近道をしようなんて言わなけりゃ・・・。」
シリウスは真っ青になっていた。

「落ち込んでる場合じゃねえだろうが!お前もいっしょに探・・・あれ・・・?」
そこまで言うと、ソウイチは急に辺りを見回した。

「モリゾーはどこだ・・・?」
みんなも辺りを見回すと、確かにモリゾーの姿がなかった。

「まさか、あいつもおぼれたのか!?」
ソウイチはあわててもぐろうとした。

「そんなはずはないよ!モリゾーは小さいころから泳ぎが得意だったんだ!」
ゴロスケが言った。

「ってことは・・・。まさか、コンを追いかけて流れていったのか!?」

「だとしたらまずいぞ!この先にはでかい滝があったはずだ!」
ソウマが思い出したように言った。

「大変ですよ!早く何とかしないと滝つぼに落ちちゃいますよ!」
ドンペイは大慌てだった。

「くそっ!あのバカ!!」
ソウイチはまたもぐると、全速力で泳ぎ始めた。

「あ、待って!勝手に行ったら危ないよ!!」
ゴロスケがあわてて後を追いかけた。
それを見て他のみんなもソウイチの後を追った。
そのころ、モリゾーは必死でコンを探していた。
落ちたときに、コンが流されていっていることに気がついたので急いで後を追ったのだ。
しかし、流れがあまりにも速すぎてなかなか追いつけなかった。

「早くしないと・・・!早くしないとコンが・・・!」
モリゾーは岩陰や川のそこをくまなく見たが、どこにもコンの姿はなかった。
息継ぎをするために水面に上がると、川の横から生えている木の枝に何かがつかまっているのが見えた。

「あれは・・・!」
よくみると、コンが必死に枝にしがみついていたのだ。
枝は細く、長い時間は持ちそうになかった。
モリゾーは持てる力の全てを出して一生懸命泳いだ。

「コーーーン!!コーーーーン!!」

「も、モリゾーさあああん!!わあっ!!」
突然、流れがコンを飲み込んだ。

「ああ!!コン!!」
モリゾーはあわててもぐり、コンを追いかけた。
そして、ようやくコンに追いつくとコンの顔を水面に出した。
さっきの流れのせいでおぼれかけてしまったのだ。

「ゲホッゲホッ!!」
コンは何とか水を吐き出し、大事には至らなかった。

「よかった~・・・。大丈夫?」
モリゾーはやさしく聞いた。

「は、はい・・・。大丈夫です・・・。」
コンは自分でも顔が火照っていくのが分かった。
なにしろ、自分の想っている相手に助けてもらっただけでなく、その相手が目の前にいるのだから。
しかし、そんな気分にひたっている場合ではなかった。
もう滝が目の前に迫り、大きな音を立てていたのだ。
モリゾーはコンを抱いて流れに逆らって泳いだが、さすがに泳ぎが得意でも無理があった。
滝との距離はどんどん縮まり、モリゾーは近くにあった岩につかまった。
さすがにこのまま流されるわけにはいかなかったからだ。
なんとか踏ん張っていると、ソウイチ達もようやく追いついた。

「モリゾー!無事だったか!」

「コン!ごめんな・・・。オレのせいでこんな目に・・・。」
ソウイチとシリウスは二人を見つけて安心したが、シリウスはやはり責任を感じていたのかコンに謝った。

「しかたないですよ。私だって橋が壊れるなんて思ってなかったです。それに、シリウスに付き合うのは慣れてますから。」
心が広いとはまさにこういうことを言うのだろう。
シリウスはとても感謝した。

「でも、このままじゃいずれ滝つぼに落ちるわ!どうするの?」

「オレにええ考えがある!オレが波乗りで巨大な波を起こして、みんなそれに乗って下に下りるんや!」

「そんなことできるの!?」
ゴロスケはかなり不安だった。
失敗すれば大ダメージは避けられない。

「サーフィンみたいな要領や!やらんよりはましやろ!」
みんなは天にすがる思いでカメキチの作戦に従った。

「ほしたら、いくでえ!!」
カメキチはみんなの足元に巨大な波を起こすと、そのまま滝に向かった。
滝が目の前まで迫ったそのとき、みんなの体は空に浮いていた。
ういているというよりは、カメキチの起こした波が空を飛んでいるといった感じだろうか。

「す、すごい!僕たち浮かんでるよ!」
ソウヤが興奮して叫んだ。

「すげえ・・・。やるぜカメキチ!!」

「すごいですよ先輩!」
ソウイチドンペイも、カメキチを尊敬のまなざしで見ていた。

「ぐぐ・・・うぐぐぐ・・・。」
そんなことはお構いなしに、カメキチは必死で波のコースを作っていた。
緩やかに下へ下るように波を調整し、ぐるぐると渦巻状に波を作った。
じめんまであと少しというところで、とうとうカメキチの体力も限界が来てしまった。

「も、もうアカン!!」
波が出なくなり、みんなは大量の水とともに落下した。

バッシャーーーン!

ものすごい音とともに水しぶきが上がった。
水はあたり一面に飛び散り、光が反射してきらきらと輝いていた。
そんな中、みんなは地面にしっかり足をつけていた。
どうやら水が落下の衝撃を和らげたようだ。

「し、死ぬかと思った~・・・。」
ソウイチはその場に倒れこんだ。
みんなも緊張から解放され座り込んでしまった。

「しっぽの火が消えなくて助かりました・・・。」
ドンペイはやはり、水には慣れていないようだ。

「こらあ~!!お前たち~!!」
みんなが声のするほうを見ると、ぺラップがものすごい勢いで飛んできたのだ。
どうやら、落ちたのはベースキャンプのまん前だったようだ。

「いったい何をもたもたしてたんだい!!みんなとっくに集まってるんだよ!?」
もうかんかんだ。

「いや、ツノやまが岩でふさがれて通れなくて・・・。」
ソウイチは事情を説明しようとしたが、ぺラップはまったく聞く耳を持たなかった。

「言い訳はもうたくさんだ!!さっさと集合するんだよ!!」
そう言うと、ぺラップは足早に去っていった。

「ったく、オレ達の気も知らないで!!」
シリウスは腹を立てた。

「あいつに何言ってもしかたねえよ。もとがああなんだから。」
ソウマは苦笑いしながらシリウスをなだめた。
なにはともあれ、一行は無事ベースキャンプにつくことができたのであった。


アドバンズ物語第十九話



ここまで読んでくださってありがとうございました。
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Last-modified: 2010-11-30 (火) 00:00:00
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