ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第六十六話 いそのどうくつのカブトプス! いざ、まぼろしのだいちへ! 前編
「さ~て・・・。いざ来たはいいけど、どう入るかな・・・」
自分達に起こったことを伝えるためにギルドへやってきたソウイチ達だったが、どうやって入ろうか迷っている。
入り口がすでに閉まっており、中に入れなくなっているのだ。
「足場に乗って開けてもらうしかないんじゃないかな?」
ソウヤが言った。開けてもらうためには一番確実な方法だろう。
「ええ~? めんどくせえな~・・・」
ソウイチは嫌そうな顔をした。
この非常事態にめんどくさいどうこう言っている場合ではないのだが。
「そんなこと言ってる場合じゃないよ・・・。とにかく乗ってみるよ」
ソウイチの言うことに呆れつつも、足場に乗ってみるモリゾー。
すぐさまディグダの声が聞こえてきた。
最初はいつものように確認していたが、不意に黙り込むと、突然穴を掘り始めた。
「お、おいこらディグダ! 穴を掘ってどこへ行くつもりだ!?」
ドゴームの静止も聞かず、ディグダは猛進した。
「だって・・・、このあしがた・・・。モリゾーさんのあしがたなんです!!」
「な・・・、なんだってええええええ!?」
のぞき穴を通して、ソウイチ達にもみんなの驚く声が聞こえてくる。
そして、ディグダは地面からひょっこり顔を出し、ソウイチ達を見回した。
「やっぱり・・・。ソウイチさん達だ!」
ディグダはうれしそうに叫んだ。
「ただいま! 心配かけてごめんね。」
ソウヤは早速ディグダに挨拶。
すると、突然門が開き大勢の足音が。
いつの間にか、カメキチやライナを含め、ギルドにいたみんながソウイチ達の周りを取り囲んでいた。
「ほんとに・・・、ほんとにソウイチさん達だ・・・」
ドンペイはよっぽど嬉しいのか、目に涙を浮かべている。
「このドアホが! ようけ心配かけよってからに!!」
口調は怒っているが、カメキチの顔は嬉しさに満ちていた。
「みんなお帰りなさい。本当に無事でよかったわ。」
ライナもあふれんばかりの笑顔だ。
「みんな・・・。ただいま!」
モリゾーとゴロスケは、みんなの出迎えに感動して涙がこぼれそうに。
でも、そこをぐっと我慢し、笑顔で返事をした。
みんなは早速中へ入り、ソウイチ達は今までに起こったことを話して聞かせる。
誰もが非常に驚き、特にペラップは誰よりも驚いていた。
「ちょ、ちょっと待った! いったん話を整理させてくれ!」
さすがに全部を詰め込み切れないのか、ペラップは四人の話をさえぎった。
「ったく・・・。一回で理解しろよ・・・」
ペラップに嫌そうな目線を向けるソウイチ。
もちろんペラップにものすごい顔でにらまれたのは言うまでもない。
「え~と・・・、リーフはモリゾーのお父さんであるグラスで、ときのはぐるまを集めていたのはほしのていしを防ぐためだった・・・」
「そうだよ。オイラびっくりしたよ」
モリゾーは言った。
「そして、我々のことが分からなかったのは記憶を失っていたからで、記憶を失っていたのも未来の世界からきたのもじくうホールの影響・・・」
「うん。でも、記憶が全部戻ったからよかったけどね」
ゴロスケも言う。
「で、善人だと思っていたヨノワールさんは、実は世界を滅ぼそうとする大悪党で、ソウイチ、ソウヤ、ソウマはグラスの仲間だったと・・・」
「そうそう。偽善者な」
ソウイチはさらに付け加える。
「そして、グラスやソウイチ達の命を狙って未来へ連れて行き、お前達は命からがらこの世界に戻ってきたと」
「そうそう。本当に危なかったよ・・・」
ソウヤは縛られたときのことを思い出して身震いした。
「それで、もうじきほしのていしが起きるこの世界を救うために、グラスとソウマはときのはぐるまを集めに行き、お前達はまぼろしのだいちを探している。これであってるか?」
みんなはペラップの言うことにうなずいた。
しかし、ペラップはみんなの顔をじっと見つめたまま何も言わない。
「ん? どした?」
ソウイチはペラップが何も言わないので不審に思った。すると・・・。
「ハハハハ。ハハハハハハハ!!」
ペラップは突然大きな声で笑い出したのだ。
みんなは真実を聞いて気が変になったのではないかと思い、思わず後ずさりした。
「お前達はきっと悪い夢でも見たんだ。部屋でゆっくり休みなさい。そうすればすぐによくなる」
ペラップはニコニコしながら言った。ソウイチ達はただただ唖然とするばかり。
「はあ!? お前いったい何聞いてたんだよ!! 今話したことは全部・・・」
「わかったわかった。だから部屋で休んできなさい」
ソウイチはペラップがまじめに聞いていないと思っい烈火のごとく怒ったが、ペラップはソウイチをさえぎって部屋で休むよう促す。
これには他の三人も頭にきた。
「ちょっと! 僕達はでまかせを言ってるんじゃないよ!! 今話したことは本当に本当なんだから!!」
ソウヤも怒りが激しいのか、電気がバチバチと流れている。
「そうだよ! 信じてよ!!」
モリゾーとゴロスケも言うが、ペラップは四人を思いっきりにらみつけた。
「しつこいな! そんなありえない話が信用できると思うかい!? まぼろしのだいちなんて、情報屋の私ですら聞いたことがないよ!」
「うぐ・・・」
かなり痛いところをつかれてしまった。
「それに、あの親切なヨノワールさんが悪人だとは絶対に思えないし、リーフとグラスが同一人物だというのもできすぎてる! そんなものは、芝居でも何でもすればどうとでもなるじゃないか!」
「ちょっと待って! 僕だって、最初はあまりにもショックで受け入れられなかったけど、これが真実なんだよ!」
ゴロスケは必死で訴えた。
「そうさ! だって、あの時父さんの遺体はなかったんだし、父さんしか知らないことを知ってた! 間違いないよ!」
モリゾーもペラップを説得するが、ペラップの額にはすでに青筋が浮いていた。
「うるさあああああああい!!」
とうとう我慢の限界が来てペラップは怒鳴った。
「とにかく!! ヨノワールさんが悪者なんて話は絶対に信じないからな!! なあ、お前達もそう思うだろ!?」
突然、ペラップはその場にいた全員に話を振った。
「ヨノワールさんが悪者だなんて信じられないよな!?」
ペラップは半ば強引な口調でみんなに意見を押し付ける。
みんなはその勢いに気おされたのか、何も反論できない。
「ほらみろ! みんなだって何も言わないんだ! やはりお前達が見たのは夢だったんだよ!」
ペラップは勝ち誇ったような顔で四人に言った。
(くそお・・・。任せておけって言ったけど、アニキがいたほうがよかったんじゃねえのか・・・?)
(これじゃあ誰も信じてくれないよ・・・)
自分達の言ったことを後悔しはじめるソウイチ達。
しかし、その後悔は無用だった。
「でも・・・、一つ分からないことがあります・・・」
遠慮がちながらも、キマワリが口を挟んだ。
「ん? どうした?」
「ヨノワールさんが未来へ帰るうとしたあの時、どう考えてもヨノワールさんの行動はおかしいです・・・。明らかにソウイチさん達を引きずりこんでましたよ」
そう、あの時ヨノワールは、みんなの目の前でソウイチ達を引きずり込んだ。
善人のわりに、あの行動はどう考えても不可解なのだ。
キマワリはそこがずっと引っかかっていた。
「え? あれは四人が誤ってじくうホールに落ちたんじゃないのか? 私はそうにしか見えなかったが。」
「ふざけんな!! あれがどうやったら自分から落ちてるように見えんだよ!! てめえの目は節穴か!?」
ソウイチはとうとう、ペラップの見当違いな発言に業を煮やし切れた。
あまりにも目の付け所がずれている。
「何!? 誰の目が節穴だい!!」
ペラップも節穴と言われてソウイチをにらみつける。
しかし、白い目で見られているのは明らかにペラップだった。
「おかしいやろ。あれは明らかにヨノワールがソウイチらを引きずり込みよったわ。」
カメキチはペラップに言った。
「そうですよ。しっかりソウイチさん達をつかんでたのに、どうして自分で勝手に落ちたって言えるんですか?」
ドンペイも若干怒っているようだ。
「そうだぜ! それに、ヨノワールさんがソウイチ達をわざと引きずり込んだとしたら、今までの話も全部つじつまが合うぜ! ヘイヘイ!」
ヘイガニも言った。
それに賛同するように、他のみんなも徐々にペラップを非難する姿勢へと変わり、最終的にあちこちから厳しい声が上がり始めた。
「うるさあああああい!!! じゃあ何かい!? みんなはこいつらの言うことを信じるっていうのかい!? ええ!? どうなんだい!!」
ペラップは大声でわめきたてる。
みんなはし~んとなったが、そんな中カメキチ達が最初に口を開いた。
「当たり前やろ。仲間信じられんようになったら終わりやで。オレは四人の言うこと信じる」
「私もよ。実際時が止まり始めてるのは事実だし、みんなの言うことは筋が通ってるもの」
「そうですよ。最初は衝撃的でしたけど、それでも、僕はソウイチさん達を信じます」
三人は口をそろえていった。
「そうでゲス! あっしもヨノワールさんを尊敬していたんでこの事実はつらいでゲスが・・・、それ以上に四人のことが大事なんでゲス! だから、あっしは全部信じるでゲス!」
ビッパも力強く言う。
いつもらしからぬ、はっきりとした物言いだった。
そして、次々とみんなを信じるという声が上がり、とうとうペラップだけがソウイチ達を信じられないという意見に。
「お、お前ら・・・。へっ、泣かせてくれるじゃねえか・・・」
ソウイチはうっすら浮かんだ涙を分からないようにふいた。
「オレ達も信じていいと思うぜ」
「そうそう」
突然階段のほうから声がし、みんなはそのほうを向いた。
そこに立っていたのは、なんとフレイムとバーニー。
「お、お父さん!」
「ど、どうしてここに!?」
ゴロスケとドンペイは同時に叫んだ。
「みんながいなくなったって聞いて慌てて飛んできたんだ。でも、無事みたいで安心したよ」
バーニーは笑顔で言った。
「それと、立ち聞きしたみたいで悪いんだが、さっきの話聞かせてもらったぜ。それは間違いなくグラスだ。容姿、言動、性格、すべてグラスの特徴と一致する。前々からそうじゃないかとは思ってたが、やはりな・・・」
フレイムは断言した。
「ちょっと待てよ! 前々からってどういうことだ?」
ソウイチは二人に聞いた。
ときのはぐるまのニュースは全国規模で伝わっているはず。
それなのに、二人はそのことを一切話題にしていない。
「実は、最初におたずねものポスターを見たときからグラスじゃないかって思ってたんだよ。だけど、ときのはぐるまを盗むことがどうしてもグラスのやることに思えなかった。それで確証が持てなかったからみんなには黙っていたんだ」
バーニーはすまなそうに言った。
話そうかどうか迷っていたものの、受け入れられないのでは余計な混乱を招く可能性があると思い、話さずにいたのだ。
「すまなかった・・・。勇気を持って話していれば、少しはみんなの見る目も変わったかもしれないな・・・」
バーニーは深く頭を下げてモリゾーに謝った。
「気にすんなよ。それに、あいつだってあの時は記憶を失ってたんだ。未来へ行ってまた戻ってきたときに記憶が戻ったわけだし、みんなの前で言っても誰も信じちゃくれなかったさ」
フレイムはバーニーを慰めた。
グラスが覚えていないと言えば、いくら似ていても別人ということで確定してしまう。
どちらにしても変えることはできなかったのだ。
「だが・・・、やはりモリゾー君達には話しておいたほうがよかったのかもしれない・・・」
バーニーはまだ後悔しているようだ。
「もういいよおじさん。オイラだって正直言えば半信半疑だったし、迷うのは当然だよ。それよりも、今の話を信じてくれたことのほうが、オイラはうれしいよ」
モリゾーは優しく言った。
「ありがとう。モリゾー君」
バーニーはモリゾーの言葉に救われたような気がした。
「どうやら話はまとまったみたいだね」
みんなが振り返ると、いつの間にかプクリンが立っていた。
どうやら一部始終を見ていたようだ。
「みんな友達を信じてくれてよかったよかった♪それじゃあ早速まぼろしのだいちを・・・」
「わああああちょっと待ったああああ!!」
ソウイチは慌ててストップをかけた。
「ん? どうしたの?」
思わずきょとんとなるプクリン。
「まだ全然まとまってねえよ。ここにわからずやが一人いるからな」
ソウイチは鋭い目でぺラップをにらんだ。
ほかのみんなも白い目でぺラップを見つめる。
「なあんだ! それなら心配いらないよ!」
「へ?」
みんなはプクリンの笑顔にぽかんとなった。
「だってぺラップは、最初からソウイチ達のこと信じてたんだもんね。そうでしょ?」
プクリンはぺラップに笑いかける。
ぺラップは最初は呆然としていたものの、突然大声で笑い出した。
いよいよ気がふれてしまったとみんな思ったが、そうではなかった。
「さすが、親方様の目はごまかせないな。実を言うと、私は最初からソウイチ達の言うことを信じていたんだよ」
ぺラップはニコニコしながら言った。
「えええええええ!?」
さっきとは打って変わり、あっという間に考えを反転させたぺラップ。
これにはもう驚く以外にない。
「ただ、私が最初にそう言うと、みんな自分の考えなしにほいほいついてきちゃうだろうと思って、あえてあんなことを言ったのだ。お前達の友情を試すためにな! ハハハハハ!」
ぺラップは豪快に笑ったが、周りのみんなは明らかにしらけていた。
(調子いいやつ・・・)
(明らかに信じてなかったじゃないか・・・)
心の中で異を唱えるソウイチとソウヤ。
だが、それを口に出すと災いになるのであえて言わない。
「みんな聞いて。今、いろいろな場所で時が止まり始めてる。そしてソウイチ達の話で、僕達の世界に危機が迫っていることが分かった」
みんなはプクリンの話を静かに聞いた。
「それなら、何とかしなくちゃいけないよね?」
プクリンはみんなを見回す。
「当たり前や! そんなわけ分からん世界にしてたまるかいな!」
「そうでゲス! みんなで何とかするでゲス!」
みんなは口々に言った。
「今こそ、プクリンのギルドの名にかけて、みんなの力を合わせてまぼろしのだいちを発見するよ! がんばろうね! みんな!」
「おお~!!」
みんなはいっせいに腕を突き上げた。
ギルド全員の心が一つにまとまった瞬間だ。
「みんな! 今からすべての仕事を、まぼろしのだいち発見にシフトする。また、今この世界で起こっていることもみんなに伝えなくてはならない。忙しくなるが、みんながんばってくれ!」
ぺラップは仕事の内容を伝え、みんなを励ました。
「もちろんでゲス! あっしはさっそく、トレジャータウンのみんなに真実を伝えてくるでゲス!」
「ワシも行くぞ!」
「僕も一緒にいきます!」
ビッパ、ドゴーム、ドンペイの三人はそれぞれ名乗りを上げ、トレジャータウンへ行くことに。
「ほしたら、オレらはそれぞれ湖に行こか。グラスとソウマがアグノムらとバトルになったらあかんしな」
「そうですわね。早速出かけましょう!」
「おいらも行くぜ!ヘイヘイ!」
湖のほうには、カメキチ、キマワリ、ヘイガニが行くことになった。
そのほかのみんなはまぼろしのだいち探しをすることに。
「六人も仕事が終わったら、まぼろしのだいちの情報を集めにいってくれ。頼んだぞ」
ぺラップは六人に言った。
「みんなでまぼろしのだいちを探すよ! たあーーーーーーーーーっ!!」
「おお~!!」
いつもの気合入れで士気を高めるみんな。
やる気は最高潮に達していた。
「よっしゃあ!! がぜん燃えてきたぜ!!」
ソウイチの目はやる気にあふれていた。
これから世界を救うという大仕事をやってのけようというのだ。
燃えてくる気持ちも理解できる。
「がんばってまぼろしのだいちを探しましょうね!」
ライナもやる気満々だ。
ときのはぐるまを集めているソウマのためにも、一生懸命役に立ちたいと思っている。
「まぼろしのだいちに関しては、僕のほうもまったく情報がないんだ・・・。ごめんね・・・」
プクリンはソウイチ達にすまなそうに謝った。
「気にすんなよ。もともとたいした情報がないのは百も承知、全力でがんばるっきゃないぜ!」
ソウイチはにっと笑ってみせた。
この際身分などというものは存在しない。
「そうだ・・・! もしかしたら、コータス長老なら何か知ってるかも!」
プクリンは突然思い出したように叫んだ。
「コータス長老・・・?」
名前に聞き覚えがないので首を傾げるみんな。
そこでゴロスケはぴんときた。
「もしかして、温泉にいたあのポケモンじゃないかな?」
「温泉・・・? ・・・ああ!」
ゴロスケに言われて三人も思い出したようだ。
たきつぼのどうくつから飛ばされて落ちた温泉にいた、あのコータスのことだった。
「長老は物知りだから、きっと何か知ってると思うよ。亀の甲より年の功って言うしね♪」
どこで仕入れたことわざか、プクリンは言った。
「よ~し! それじゃあ早速いこうぜ!」
「うん! 確か、温泉にはどうくつの奥からいけたよね?」
ソウヤはモリゾーに聞いた。
「そうそう。だけどまた吹っ飛ばされるのか~・・・」
モリゾーはちょっと嫌な顔をした。
あまり高いところが好きではなさそうだ。
「その前に! ソウイチさん達、おなかすいてるんじゃないですか?」
チリーンはストップをかけて四人に聞いた。
「え?」
思わずぽかんとなると、四人のおなかがいっせいになった。
「ハハハハハ! でかい音やな~!」
カメキチは思わず吹き出した。
「笑っちゃだめですよ先輩」
「そうよ。失礼でしょ?」
そういうドンペイやライナも笑いを必死でかみ殺している。
大きな音が四つもそろったのだ、おかしくないわけがない。
「今日はもう遅いですし、ご飯を食べてゆっくり休んで、明日からがんばりましょう!」
チリーンは笑顔で言った。
おう! と答えようとしたソウイチだったが、それよりも先におなかがぐぐ~っと返事をする。
なんというグッドタイミングだろう。
「もう! ソウイチったらおなかで返事しないでよ! ・・・うふふ・・・、アハハハ!」
しかめっ面をするソウヤだったが、途中からおかしくなり、とうとう笑い出した。
ほかのみんなもどっと笑い、一気に場の雰囲気が和やかになる。
今日のところは体力をつけることとし、仕事は明日から始めることに。
みんなはそのまま食堂へ直行し、早速晩御飯となった。
いつもより食欲旺盛なソウイチ達は、早速木の実やリンゴなどを取りあっている。
カメキチやライナたちも注意はするが、いつもよりはうるさくない。やはりソウイチ達が帰ってきて嬉しいのだろう。
そして晩御飯が終わり、ソウイチ達は久しぶりに自分達の部屋へと戻ってきた。
「ふう~・・・。やっぱり自分の部屋は落ち着くね」
モリゾーは大きく伸びをしながら言った。
リラックスできる場所が一切なかったわけではないが、いつも自分が寝る場所は心が落ち着くのだ。
「そうだね~。ふぁぁぁぁ・・・。なんだかもう眠くなってきちゃったよ・・・。おやすみなさい~・・・」
ソウヤはあくびをしながら言うと、あっという間に眠ってしまった。
今朝は早かったから、かなり疲れていたのだろう。
「あらあら。今日はずいぶん早いのね」
ライナはソウヤの寝顔を見て微笑んだ。
「じゃあオレ達も寝るか。ソウヤ見てたらこっちまで眠く・・・」
ソウイチの言葉は途中で途切れた。
何事かと思ってそのほうを見ると、ソウイチはすでに鼻ちょうちんを出しながらいびきをかいて寝ていたのだ。
「相変わらず寝るのが早いな~・・・」
ため息をつきながらも、モリゾーとゴロスケの顔は笑っていた。
「でも、みんながオイラ達の言うこと信じてくれてよかったよ。ちょっと感動しちゃったな・・・」
モリゾーはしみじみといった。
あんな突拍子もない話を、最後にはみんな信じてくれた、それがとてもうれしかったのだ。
「当たり前ですよ。同じギルドの仲間なんですから!」
ドンペイは笑顔で言った。
「そやそや! 信じんわけないで!」
カメキチも同じく笑顔で言う。
「さ、明日から忙しくなるわ。みんなも早く寝ましょう」
ライナはみんなを促し、みんなも横になって目を閉じる。
何かを思うまもなく、みんなはあっという間に深い眠りへと落ちていった。
そして翌朝、久しぶりにぐっすりと眠ることができ、ソウイチ達は心地よく目覚めた。
朝礼で昨日の役割分担を確認し、早速行動開始。
人数調整のため、ライナはソウイチ達とは別行動となった。
荷物のほうは当分整理していなかったせいか、かなり容量が増えているので、早速ガルーラの倉庫へ預けに行くことに。
町のみんなは、声のかけ方こそさまざまだったが、ソウイチ達が無事に帰ってきたことをとても喜んでいたのだ。
特にガルーラは、人前だというのに感無量になってうれし泣きまでしたので、みんなはなだめるのにずいぶん苦労した。
ガルーラを落ち着かせて道具の整理を終えると、早速たきつぼのどうくつへ直行。
前回のごとく猪突猛進して滝を突っ切り、かなり早く最深部へ到達することができた。
「で、ここまできたはいいけど、また前みたいに吹っ飛ばされるの・・・?」
モリゾーは嫌そうな顔をした。
高いところがあまり好きではないし、前回はたまたまうまくいったものの、今回もまた無事にたどり着く保障はない。
「そうだよね~・・・。他に通じる場所がないか調べてみる?」
ソウヤはみんなに聞いた。
「そうだな。いちいち流されてたらたまんねえし」
ソウイチも首を縦に振り、みんなは洞窟のあちこちを調べてみることに。
宝石や岩の陰、スイッチ付近、天井などいろいろな部分を探してみたが、これといった収穫はなかった。
「どうだ? なんかあったか?」
ソウイチはみんなに聞いた。
「ううん・・・。どこにも道みたいなものはなかったよ・・・」
モリゾーはお手上げといった感じで肩をすくめた。
「天井のほうも調べたけど、外につながってる様子はなさそうだね」
ソウヤも言った。
今日はマントを羽織ってきていたのでちょうどよかったのだ。
「そうか~・・・。じゃあやっぱり流されるしか・・・」
「みんな! ちょっとこっちに来て!」
あきらめかけたそのとき、突然ゴロスケが叫んだ。
みんなは早速ゴロスケの所に駆け寄る。
「ほら。これなんだけど・・・」
ゴロスケが指差すのは、何かがはまっていたような窪み。
それらが三つ一直線に並んでおり、まるで何かの鍵のようだ。
「なんだこりゃ?」
「何かがはまってたのかな・・・?」
みんなは窪みを見て考え込んだ。
何かがはまっていたというのは分かるのだが、その正体が何かは分からない。
「何がはまってたんだろう・・・。鍵を挿すわけでもないし、金属片や石ころでもないし・・・」
ゴロスケはくぼみを見てうなっている。
すると、石ころという言葉を聞いてソウイチはぽんと手を叩いた。
「それだ! もしかしてこれがはまってたんじゃねえのか?」
ソウイチはみんなに、近くに落ちていた宝石を見せた。
試しにはめてみると、真ん中の穴にぴったりはまったではないか。
「すごい! やったねソウイチ!」
モリゾーとゴロスケは喜んだ。
これでようやく一歩前進できたのだから。
「でも、残りの窪みにはどの宝石も合わないよ?」
ソウヤは近くに落ちている宝石を二~三個ほどはめてみようとしたが、どれも適合しなかった。
「となったら、この水の中に落ちてる宝石を全部試すしかねえよ」
ソウイチはソウヤに言った。
というのも、このくぼみがあるのは湖のようになっている部分の一番端。
水深はちょうどみんなの腰の辺りまであり、下のほうには宝石がいろいろ転がっているのだ。
「よし! 早速やってみよう!」
ソウヤが言い、みんなは水の中の宝石を片っ端から拾い、はめようとしては捨て、はめようとしては捨てを繰り返していく。
そして、半分ほど調べ終わったところで右端にぴったり合うものがあり、左端に合う宝石もまもなく見つかった。
「じゃあ、はめるよ」
「うん」
ソウヤとゴロスケは宝石を握り締め、窪みにしっかりとはめ込んだ。
しばらくは何も起こらなかったが、突然大きな音が響き渡り、岩の壁が崩れ始めた。
「おわあああ! みんな下がれ!!」
埋まってしまっては大変なので、みんなはソウイチの言うとおり下がった。
崩落が収まってみんなが覗き込むと、その奥は水路のようになっており、かなり先のほうまで続いていた。
「とりあえず、どこまで続いているか進んでみようぜ」
みんなはソウイチの後に続き、水をかき分けながら奥へ奥へと進む。
奥へ行くにつれて水深は少しずつ深くなり、やがて自分の頭がようやく出るくらいまでの深さになった。
息をするのに問題はないが、体の半分が水につかっているとどうも歩きにくい。
ゴロスケとモリゾーは慣れているのか、ソウイチとソウヤよりも先を歩いている。
どれほどあるいただろうか、みんなは突然ぽっかりとあいた空間に出た。
しかし、周りを見回しても出口のようなものはどこにもない。
「おいおい・・・。せっかくここまで来たのに行き止まりかよ・・・」
ソウイチは眉間にしわを寄せた。
結構な距離を歩いて、それをまた引き返すとなるとどうにも面倒なのだ。
「う~ん、他に道はなさそうだしな~・・・」
ソウヤも周りを見てうなった。
「あれ? モリゾーは?」
ゴロスケはきょろきょろと辺りを見回した。
確かに、どこにも姿が見えない。一体どこへ行ってしまったのだろう。
すると・・・。
「ぷはあ!!」
「わあああああ!!」
水中から突然モリゾーが現れたのでみんなびっくり。
もう少しでしりもちをつくところだった。
「お前何やってんだよ!! びっくりしただろうが!!」
早速モリゾーに怒鳴るソウイチ。
だが、モリゾーは気にも留めずみんなに言った。
「水中を調べてみたけど、壁のほうにトンネルみたいなものがあったよ。あそこを通れば抜けられるんじゃないかな?」
「トンネル?」
位置を確認するために、みんなそろって水中に潜る。
すると、壁の右のほうにちょうど通れるくらいのトンネルがあった。
まだ先があるらしい。
「問題は、トンネルを抜けるまで息が持つかどうかだね。ペットボトルがあればそれに空気を入れられるけど・・・」
ソウヤは深刻そうな表情をした。
途中で息切れを起こせばすぐに溺れてしまい、大惨事を招きかねない。
だがそんなソウヤとは正反対に、ソウイチは行く気満々のようだ。
「悩んでる暇があったらさっさと進むぞ!」
そう言うなり、ソウイチは息を思いっきり吸い込んでドボンと水の中へ潜った。
「あ! だから勝手に先先いかないでよ! もう・・・」
ソウヤは波立っている水面をにらみつけたが、すぐさま息を吸い込み自分も水の中へ。
モリゾーとゴロスケも急いでソウヤの後に続く。
トンネルの入り口ではソウイチがみんなを手招きしており、みんなはソウイチの後に続いて中に入る。
ところが、半分ほど来たところでソウヤが苦しそうにもがきだした。顔は赤から青に変わりかけており、かなり危険な状況だ。
何とかしなければとあたふたしていると、突然後ろから激流がみんなを襲い、みんなはあっという間にトンネルの出口まで流され、そして水中から放り出された。
みんなはそのまま地面に転がり、しばらくは寝たままの態勢で新鮮な空気を吸い込んでいた。
「はあ・・・、はあ・・・。苦しかった~・・・」
ソウヤはこれでもかといわんばかりに深呼吸を繰り返し、新鮮な空気を体内に取り込んでいる。
「危なかったね・・・。水流が押し流してくれなかったらおぼれてたよ・・・」
泳ぎの得意なモリゾーとゴロスケでさえ荒い息をしている。
「一息入れたら先に進もうぜ・・・。ちょっと休憩だ・・・」
ソウイチの言うことにみんなはうなずき、小休止の後、みんなは再び出口を目指し始めた。
今度は水もたまっていないので比較的楽に進むことができる。
「だけど、さっきの水流は何で起こったんだろう・・・」
ソウヤはそれが気になって仕方がない。
突発的に、あそこまで速い水流が起こるのはどう考えても不自然だ。
「そういえば、さっき泳いでるとき、天井に何箇所か穴みたいなものが見えたよ。たぶん、滝の水があそこから一気に流れ込んだから、あんな流れができたんじゃないかな?」
ゴロスケは自分の推理をみんなに話した。
穴を確認していたのはゴロスケだけだったが、地形面のことを考えると辻褄が合う。
「でも、それならここも水で満杯になってるんじゃないのか?定期的に水が流れ込んでるんだったら絶対あふれ出してるだろ」
ソウイチはゴロスケに言った。
確かに、排水溝のようなトンネルは途中にはなく、水が出る場所はない。その意見は最もだ。
「う~ん・・・。そこまではわかんないよ・・・」
ゴロスケは頭を抱えた。
「だよな~・・・。ま、気にしてもしょうがねえか」
これ以上深く考えても意味がなさそうなので、みんなは再び出口を目指し始めた。
そして歩くこと数十分、みんなはようやく暗闇の世界に別れを告げる。
抜けた先は周りに木々が茂っており、上空からは太陽の光が穏やかに降り注ぐ、なんとも心地のいい場所だった。
「ん~・・・。なんだか気持ちいいな~・・・」
ソウイチはリラックスして大きく伸びをした。
「なんだかこの場所はすごく癒されるね」
モリゾーも実に癒された表情をしている。
しばらくこの場所にいたい気もするが、今は温泉に行くことが先決だ。
みんなは名残惜しい気持ちを心の奥に押し込めて歩き出した。
ところが、歩き出してすぐにみんなはその場に立ち尽くすことに。
なんと、道が複数にわたって分かれているのだ。
先のほうはどこも曲がりくねっていて、どの道が温泉へ通じているのか分からない。一難去ってまた一難だ。
「これじゃあどれが温泉まで続いてるのかわかんないな~・・・。ちょっと確かめてくるよ」
ソウヤはジャンプすると、そのまま空高く飛び上がって道の様子を調べに行った。
みんなはしばらくその場で待機することに。
木の五倍ぐらいの高さまで飛ぶと、ようやくすべての道の全貌が明らかになった。
全部で七本あるうちの、左から二番目を通れば温泉につながっているようだ。
距離もそれほど遠いわけではなく、木々の向こうでは湯煙が上がっている。
ソウヤはすぐさまみんなに様子を伝えに戻った。
「どうだった?」
戻ってくるなりモリゾーが聞いた。
「左から二番目の道を行けば温泉だよ。湯煙が見えたからもうすぐ・・・」
ソウヤがみんなに道の説明をしていると、突然洞窟からものすごい風が吹いてきた。
風は上下左右に吹き荒れ、下にいたソウイチ達は木などにつかまって無事だったものの、空を飛んでいたソウヤはあおりを受けて吹き飛ばされてしまった。
「な、何なんだよこの風!?」
「たぶん、水があのトンネルに流れ込んで、さっきの空洞にたまってた空気がその水の勢いで押し出されたんだよ!」
ゴロスケはソウイチに向かって叫んだ。
大きな声を出さないと風のせいでまったく聞こえない。
ようやく風が収まると、みんなはソウヤを追いかけ、二番目の道を通って温泉へと向かった。
「ソウヤ大丈夫かな・・・」
ゴロスケは不安そうだ。
変なところへ飛ばされてやしないかと気が気ではない。
「さっきの風向きだと、たぶん温泉のほうへ飛ばされてるはずだよ。急ごう!」
モリゾーの言葉を聞き、みんなは全速力で走る。
森を抜けて温泉についてみると、モリゾーの読みどおりソウヤは温泉にいた。
いたというよりも、温泉の中に墜落してまたびしょびしょになっていたのだが。
「ソウヤ、大丈夫・・・?」
ゴロスケは心配そうにソウヤを見つめた。
「うん、大丈夫。お湯の中だったからたいしたことないよ」
そうは言うものの、ソウヤの頭や体の毛はぬれてぼさぼさになっていた。
あまりにも不恰好なので、ソウイチは笑わないようにあえて目を背けている。
「ほっほっほっ。若い者は相変わらず元気じゃのう。今日はどういう御用かな?」
コータスはいつもの場所に座っており、みんなの様子を眺めて笑っていた。
「あ、長老! 実は、長老に相談したいことが・・・」
モリゾーはコータスに話しかけた。
「相談事? そうか。では、この場でゆっくり聞くことにしよう」
コータスは腰を下ろし、話を聞く姿勢になった。
みんなはまぼろしのだいちのことについて話し、話が終わったところで、コータスは考え込んだ。
「なるほど・・・。まぼろしのだいち・・・、のう・・・」
コータスはしばらく記憶を探っている風だったが、やがて口を開いた。
「それなら聞いたことはあるぞ」
「ええええ!?」
みんなはびっくりした。
考え込んでいる感じからして知らないと思っていたが、どうやら予想が外れたようだ。
「まぼろしのだいちはまさに伝説の場所。もはや言い伝えでしかないのだが・・・」
コータスは多少言いにくそうだった。
伝説というからには確証がなく、がっかりさせるかもしれないと気を使ったのだろう。
「どんなことでもいいから教えてくれよ! 頼む!」
ソウイチはコータスに懇願した。
「わかった。では言うぞ」
そして、コータスはまぼろしのだいちについて話し始めた。
まぼろしのだいちは海の向こうにあり、しかも、そこは隠された場所だという。
誰でも行けるわけではなく、資格を持った選ばれたものしか行けないということだ。
ところが、コータスはその肝心な部分を忘れてしまっていた。
まぼろしのだいちへ行くには証が必要なのだが、その証の詳細を一切合切思い出せなかったのだ。
「ほ、ほかに何か知ってることはないの!?」
ソウヤは必死になって尋ねたが、コータスは首を横に振るばかり。
どうやらこれ以上の収穫はなさそうだ。
「すまんのう・・・。せめて、証がなんだったか、思い出したら知らせるからの」
コータスはみんなにすまなそうに謝った。
「いいよいいいよ。何かの証がいるってことは分かったからさ」
モリゾーは無理に笑顔を作って言った。
自分から聞きに来ておいて、あまり落胆した表情を見せるわけにはいかない。
みんなは仕方なくギルドへ引き上げることにした。
しかし、ギルドに帰ってみんなからいろいろ話を聞くと、みんなのほうも、これといって手がかりになるようなものは全くなかったのだ。
「ここまで難航するとは思わんかったで・・・。一生懸命調べたんは調べたんやけど・・・」
カメキチは苦い表情を浮かべていた。
ほかのみんなもどことなく雰囲気が明るくない。
「しかし、長老でもあまり知らないとなると弱ったな・・・。今日のところは成果なしということか・・・」
ぺラップはすっかり落胆していた。
「でもよ、証が必要ってわかっただけでも、一歩前進したんじゃねえか?」
みんなを元気付けようとしてか、ソウイチは言った。
「小さな一歩かもしれないけど、それが積み重なれば大きな一歩になる。違うか?」
手がかりが一つもないよりは、わずかな情報でもあったほうがいい、そういうことなのだ。
「ソウイチの言うとおりよ。今回の情報は小さいことかもしれないけど、一歩でも前に踏み出せたんだもの」
ライナも言った。
「そのとおりでゲス! めげないでがんばるでゲスよ!」
ビッパも元気よく言い、次第にみんなにもいつもの明るさが戻ってきた。
「とりあえず今日のところは、ご飯を食べて一晩休んで、また明日がんばりましょう!」
キマワリの言葉に、みんなは手を突き上げて答えた。
ソウイチの一言が、あっという間の場の雰囲気を変えてしまったのだ。
そしてみんなはおなかいっぱい晩御飯を食べて、明日に備えてゆっくり休むことに。
「でも、やっぱり思ったようには進みませんね・・・」
ドンペイは少し悲しげな表情を浮かべていた。
「長老から聞いたときは糸口になると思ったんだけどな~・・・」
ゴロスケも仰向けになってつぶやく。
「そういえば、アニキ達、今どうしてるんだろうな・・・。もう、ときのはぐるま全部集めちまったのかな?」
ソウイチはみんなに話を振った。
「かもしれないわね・・・。私達も急がないと・・・」
「そやけど、焦りは禁物や。冷静やのうなったらほんの小さな大事なことを見逃してしまうしな」
少しそわそわし始めたライナに、カメキチは優しく言葉をかけた。
「そうだよな。とりあえず、今日のところはもう寝て、また明日からがんばろうぜ」
「うん」
「そうだね」
みんなはソウイチの言葉にうなずき、今日はもう寝ることに。
小さな一歩が大きな一歩につながる、この言葉の意味を、みんなは明日自覚することになる。
翌朝、みんなはいつもより早い時間に目覚めた。
はやる気持ちがそうさせているのだろうか。
朝礼でもいつも以上に気合が入っており、まぼろしのだいちを探すことに対する意気込みが感じられる。
わからないことだらけだが、それでもあきらめたりはしない。
何も言わずとも、みんなの顔からはそれが読み取れた。
「さ~て、今日はどこに行ってみる?」
朝礼の後、ソウイチはみんなに尋ねた。
「そうですね~・・・。コータス長老には話を聞ききましたし、これといって当てはないですね・・・」
ドンペイは首をひねってうなった。
他のみんなも調べる場所の候補が思いつかない様子。
「せめて証のことが分かればな~・・・」
モリゾーがつぶやいたそのとき・・・。
「ポケモン発見!! ポケモン発見!! 誰のあしがた? 誰のあしがた? あしがたは・・・、コータス長老! あしがたはコータス長老!」
ディグダが大きな声でみんなに知らせる。
「ええええ!? 長老が!?」
なんともよいタイミングでコータスが来たのだ、驚くのも無理はない。
程なくして、コータスはぜえぜえと荒い息をしながらはしごを降りてきた。
やはり年寄りには厳しい構造なのだろう。
「どないしたんや? まさか、なんか思い出したとか?」
「そうじゃ。昨日、温泉を見つめておったら一つ思い出したことがあったんじゃよ。といっても、ほんのちょっとしたことで申し訳ないんじゃが・・・」
カメキチの問いにコータスはうなずいた。
だが、思い出したことはまたしても小さな一歩にしかならないものらしい。
「ちょっとでも何でもいいぜ。少しでも情報は多いほうがいいからな」
ソウイチはそんなことを気にしない。
自分自身、小さな一歩が大きな一歩につながると信じている。
「そうそう♪どんな些細な情報でも役に立つよ♪だから言って言って♪」
いつの間にか、ソウイチ達の隣にはプクリンが立っていた。
いや、プクリンだけでなく、全員がコータスの話に耳を傾けようとしていたのだ。
「昨日、まぼろしのだいちに行くには何かしらの証が必要だと言ったじゃろ? その証について思い出したんじゃよ」
「ほ、ほんと!?」
みんなは目を見張った。
それが事実ならとても大きな一歩だ。
「証には、ある模様が描かれておるんじゃ。なんと言えばいいか・・・、口で言うのは難しいが、とにかく不思議な形をした、あまり見たことのないような模様なんじゃよ」
コータスはみんなに説明した。
みんなは自分の記憶の糸を探り、どこかでそれを見なかったか、首をひねって一生懸命思い出そうとしている。
しかし、悩めど悩めど模様のイメージは浮かんでこない。
(誰も見たことのない模様・・・。誰も見たことのない、不思議な・・・)
(そんな模様、今までに見たことあったかな・・・?)
ソウイチとソウヤも目を閉じて記憶を整理している。
時間を巻き戻し、徐々にモリゾー達と出会ったときのころまでさかのぼっていく。
そこで、二人はようやく一つの可能性にたどり着いた。
「そうだ! あれだ!!」
突然二人が声を上げたので、考え事をしていたほかのみんなはびくっとして顔を上げた。
「モリゾー! もしかしてあれじゃないのか!? お前が持ってるかけら!」
ソウイチに言われて、モリゾーも思い出したようだ。
かけらを見せると、コータスの顔はみるみる驚きの表情へと変わっていった。
「おお! こ、これじゃ! まさにこのような模様じゃ!」
その言葉を聞いてみんなは騒然となった。
「お主、これをどこで・・・」
コータスはまだ信じられない面持ちでかけらを眺めている。
「どこでって言われても・・・、父さんがお守りにしていたものをもらっただけだから・・・」
そう、これを持っていたのはあくまでもグラス。
そしてそれを拾ったのはグラスの父であり、場所までは特定できないのだ。
グラスがいれば場所を聞くこともできただろうが、残念ながらそれは叶わない。
「それでもすごいですわ! モリゾーさんがそれを持っているってことは・・・、もしかしてモリゾーさんは、まぼろしのだいちに行くための資格を持ったってことなのかしら?」
キマワリは感心した後、コータスに聞いてみた。
「それはまだ分からん。まぼろしのだいちへ行くには証が必要らしいが、それを持つ者が選ばれし資格を持つとは限らんからの。そもそも同じ模様といえど、このかけらがまぼろしのだいちに通じるとも限らんぞい」
コータスはゆっくりと首を振った。
「それでも、この模様がまぼろしのだいちに関係していることは間違いないよね? それだけで十分だよ♪」
プクリンはうれしそうに言った。
「そうじゃのう・・・。・・・って! お前さん達! まぼろしのだいちは単なる言い伝えじゃぞ!? まさか本気で行こうと思っとるのか!?」
コータスは納得したが、その直後にはっと顔を上げて驚愕の表情を浮かべた。
「当たり前だろ? 言い伝えだろうがなんだろうが行くしか道はねえんだよ!」
ソウイチはコータスをしっかりと見て言った。
あまりにも突拍子のない発言に、コータスはすっかり驚いてしまっているようだ。
「ぺラップ、この模様は見たことがあるよね?」
「は、はい・・・。ここから北西に行った入り江の、いそのどうくつという所に・・・。しかし親方様! あの場所には・・・」
「うん、分かってる。あそこにはとても手ごわいやつがいるよね」
プクリンとぺラップは何か知っているようだが、その手がかりになる場所はかなり危険のようだ。
プクリンが手ごわいと言うからには、敵も相当の強さであるはず。
「みんな、ちょっと聞いて。」
プクリンはみんなの注意を引いた。
「以前、いそのどうくつという場所の奥深くで、これと同じ模様を見たんだ。だから、そこに遺跡のかけらを持っていけば何か分かるかもしれない」
みんなはプクリンの言葉を聞いて一斉に沸き立った。
まぼろしのだいちにつながる確かな光が見えたのだ。
これがどうして喜ばずにいられようか。
「だけど、ちょっと困ったことがあるんだ・・・。そこには、とても手ごわいポケモンが潜んでるんだ・・・」
「とても・・・、手ごわいやつ?」
プクリンの言葉に一斉に沈黙するみんな。
手ごわいと聞いて、おっかないと思っているのだろうか。
「おいおい、んなことぐらいでいちいち怖がってられっかよ! 手ごわかろうがなんだろうが行くしかねえぜ!!」
ソウイチは沈黙を破って元気よく言った。
いまさら強敵相手におびえている場合ではない。
「そうだよ! 僕達は探検隊なんだ! 勇気を持って行くしかないよ!」
ソウイチに合わせるようにソウヤも言う。
「ヘイヘイ! その通りだぜ!」
「いまさらそんなことでおびえるわけにはいかないでゲス!」
二人の言葉はかなり説得力があったようで、怖い気持ちを振り払い勇気を奮い立たせた。
しばらくは呆然としているみんなだったが、やがて二人に賛同し始めたのだ。
「みんな、ありがとう♪でも、あそこは本当に手ごわいから、今日のところは準備を整えて、明日いそのどうくつに出発することにしよう!」
「おお~!!」
ひとまず、今日は万全の体勢を整えることになった。
みんなの志気はまたしても最高潮に達している。
「ほっほっほっ。まぼろしのだいちなど昔話だとばかり思っておったが・・・。歳をとると頭が固くなっていかんのう」
コータスはふっと笑い、みんなを見つめた。
「夢を追ったその先にはロマンがある。ワシにも、夢を見させてくれ。頑張るんじゃぞ! ほっほっほっ!」
コータスはみんなを励ますと再び笑った。
「もちろんだよ! ありがとう、長老!」
モリゾーはとゴロスケは長老に礼を言った。
コータスのおかげで体中からやる気と元気が湧き上がってくるようだ。
そして、各自で準備をすることとなり、今日のところは解散となった。
みんなが燃えている中、プクリンはぺラップと二人だけで話している。
「ぺラップは、明日ギルドで待機だよ」
「お、お言葉ですが親方様! 私にも、いそのどうくつへ行かせてください! お願いします!」
ぺラップは失礼を承知でプクリンの言うことに反論した。
「だめ。もうあんな危険な目には遭わせられないよ・・・」
真剣に頼むぺラップを見て、プクリンは悲しそうな顔をした。
「でも、だからこそ! だからこそいそのどうくつへ行きたいのです! どうか、どうかお願いします!!」
ぺラップは何度も何度も頭を下げて頼み込んだ。
プクリンはしばらく困った様子だったが、やがて首を縦に振った。
ただし、危険を避けるためにアドバンズと一緒に行動することが条件。
一緒にいることでソウイチ達を模様の場所に案内できるとプクリンは考えたのだ。
ぺラップはとても喜び、また何度も頭を下げた。
「・・・というわけだから、明日はよろしくね」
「くれぐれも足を引っ張るんじゃないよ!」
プクリンとぺラップはソウイチ達に明日のことについて内容を説明した。
(ったく・・・、いちいち気に障る野郎だ・・・)
ソウイチはぺラップの上から目線に反感を覚えたが、嫌な顔をするだけで抑えておいた。
ここでもめてもあとが面倒になるだけなのだ。
「あと、僕はちょっと思うところがあって、今から出かけてくるよ。くれぐれも留守は頼んだよ」
プクリンはぺラップにそう告げるとどこかへ行ってしまった。
ぺラップもほかの仕事があるのか、ソウイチ達に二言三言注意すると部屋の中へと入っていく。
「正直七人もいたら大丈夫だと思うけどな~・・・」
ソウイチはぺラップと一緒にいくことにあまり賛成ではない。
何かと口やかましいので、いつもの力が出せないのではないかと心配している。
「仕方ないですよ。ぺラップさんは模様のある場所に案内してくれるんですから」
ドンペイは不満そうなソウイチをなだめた。
「そやそや。まずはトレジャータウンで準備するんが先やで」
カメキチも続けて言う。
ソウイチは分かったとだけ言い、みんなはトレジャータウンでいろいろと支度をすることにした。
荷物の整理と道具の購入が終わると、モリゾーの提案でみんなはサメハダいわへ行くことに。
グラスとソウマが帰っている可能性もあるので、一度みんなそろって話をしておきたいと思ったのだ。
だが、その願いもむなしく、二人はまだ帰っていなかった。
その代わり、足型文字で書かれた二人の手紙がおかれていたのだ。
[みんな、元気でやってるか? まぼろしのだいちの探索はうまくいっているか?]
[こっちはとても順調だ。ときのはぐるまも残り二つだけになり、五つ集めたらみんなと合流しようと思っている]
[アグノム達も事情を理解してくれていて、非常にスムーズに進んでいる]
[お前達のギルドの仲間が前もって知らせてくれたみたいだな。感謝しているぞ。他にも、オレのことをグラスだと信じてくれるポケモンも増えてきて、とてもうれしい]
[まあそれでも、全員がそうとは限らないからなるべくこの近辺には立ち寄らないようにしてるんだけどな]
[それに、ヨノワールがまた未来からやってくる可能性も捨てきれない。そうなった時に、お前達を巻き込むわけにはいかないからな]
手紙はソウマとグラスが交互に書いているようだった。
そして、ヨノワールがまたくる可能性があるということを知り、みんなは緊張した面持ちで続きの文章に目を通した。
[あいつが来るとなると、こっちも目立った行動は避けたほうがいいな。ばれちまったら元も子もねえ]
[だから、トレジャータウンやギルドには立ち寄らないだろう。ただ、サメハダいわや海岸には来ることがあると思う]
[会うことができたら、そこでお互い情報交換といこうぜ]
[じゃあ、お互いがんばろう。ほしのていしを食い止めるために グラスとソウマより]
そこで手紙は終わっていた。
「アニキ達もがんばってるみたいだな。うかうかしてられねえぜ!」
ソウイチははやる気持ちを抑えきれないでいる。
二人がはぐるまを集める前に、なんとしてもまぼろしのだいちを探し当てたい、そう思っていた。
「この様子だと、二人は海岸にくるみたいね。もしかしたら会えるかもしれないから、帰りに寄ってみましょうか」
ライナはみんなに提案した。
久しぶりにソウマの顔を見たかったし、グラスがどんな人物なのかも知りたかったからだ。
カメキチやドンペイもそのつもりだったらしく、最終的にみんな賛成した。
そして海岸に足を運んでみたものの、またしても空振りに終わってしまう。
おまけに、二人の姿どころか、いつも泡を吹いているクラブまでどこにもいない。
だが、泡はなくとも海を照らす赤い夕日は見事なものだった。
「やっぱり今日もきれいだな~・・・」
みんなはしばらく夕日に見とれ、モリゾーはふと、自分の持っているかけらに目を落とした。
(今思えば、このかけらから、オイラ達の冒険が始まったんだよね。あの時は、こんなことになるなんて夢にも思わなかったな)
モリゾーはソウイチ達とかけらを交互に見ながらそんなことを考えていた。
かけらを取り返しにいく勇気のないモリゾーに、ゴロスケは親身になってソウヤに頼み、成り行き上ではあるが、ソウイチもソウヤも全力で協力。
それこそが、探検隊アドバンズ誕生のきっかけ。
そして今度は、そのかけらを元にまぼろしのだいちへ行こうとしている。
本当に、運命というのは実に不思議なものだ。
「ソウイチ。明日、一緒に頑張ろうね!」
モリゾーは唐突にソウイチに声をかけた。
「・・・おう! グラスとの約束のためにも、未来やこの世界のためにもな!」
最初は何のことだかわからないようだったが、すぐにっと笑うと、自分のこぶしをモリゾーのこぶしにぶつける。
「みんなも頑張ろう!」
「もちろんやで!」
「頑張って探そうね!」
モリゾーは他のみんなにも声をかけ、みんなもそれに応える。
すると、ゴロスケは遠くのほうに何かの影を見つけた。
ポケモンのようだが、二匹いることが分かるだけで、種族が何なのかまでははっきりしない。
影を眺めているうちに日も暮れてきたので、みんなはギルドへ引き上げることにした。
そして翌日、いつもの目覚ましで起きると、みんなは早速集合した。
だが、集合したはいいものの、肝心のプクリンがまだ戻ってきていない。
ぺラップはそのまま出発するというが、みんなはプクリンがいないことに不安を感じている。
「大丈夫! 大丈夫だよ!」
ぺラップはざわめくみんなを鎮めた。
「親方様は、自分がいなくても大丈夫だと判断されたからこそ、まだ帰ってこないのだと思う。それに、親方様の代わりにこの私がいるじゃないか!」
ぺラップは自信たっぷりに言ったものの、みんなの反応はとても薄かった。
口からでまかせを言っているというように。
「え? ど、どうしてみんな黙ってるんだい・・・?」
それを聞いて、自分の胸に手を当ててよく考えろとばかりにソウイチはぺラップをにらんだ。
「ま、まさか! 私では力不足だというのかい!? 私は、そんなに頼りないのか・・・?」
あまりにもみんなが反応しないので、ぺラップは怒るどころか逆にへこんでしまった。
いつものぺラップらしからぬことだ。
「いや、そうじゃないでゲスが・・・」
「親方様がいないとやっぱり不安になるというか・・・」
「ヘイ! 親方っていまいちつかみどころがないけどよ、いざって時にはやっぱりすごいじゃないの! ヘイヘイ!」
みんなはやんわりと否定したが、それでも暗に、ぺラップより親方のほうが役に立つと言っているようにも取れる。
「でも、親方様がいない以上、私達だけでやるしかないですわ」
キマワリは言った。
「そうだよ! きっと僕達だけでもできるよ! 僕達だけで頑張ってみよう!」
ゴロスケも言う。
そしてみんなも頑張ってみようという気持ちになり、ひとまず精神状態は持ち直した。
「ぺラップさん。親方様がいない今、この中でリーダーシップが取れるのはぺラップさんしかいないですよ。」
チリーンはぺラップのほうに向き直り言った。
当の本人は狐につままれたような顔をしているが。
「さっき自分でも言っていたじゃないですか。私がいるから大丈夫だ! って。がんばってくださいね! ぺラップさん!」
チリーンはにこっと笑いぺラップを励ました。
他のみんなも、ぺラップにいろいろと温かい言葉を投げかける。
頼りにされていないと思い込んでいた分、そのうれしさは計り知れなかった。
「ううっ・・・。みんな・・・、こんなときだけ頼りにして・・・」
ぺラップはこぼれ落ちる粒をみんなに見られまいと顔を背けた。
「どうしたぺラップ? 早く号令を頼むぜ!」
ドゴームがせかす。
ぺラップは分かってると言いながら光るものをふき、いつも以上に気合の入った号令をかけた。
みんなが知る限りでも、一番気合が入っていたのではなかろうか。
誰かに頼りにされるということは、責任を感じるものの、とてもうれしいことなのだ。
みんなはぺラップの後に続き、全員一丸となっていそのどうくつを目指す。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字の報告、感想、アドバイスなどもお待ちしてます。
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