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アドバンズ物語第五十六話

/アドバンズ物語第五十六話

ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第五十六話 ライナの誕生日 ソウマとカメキチのドッキリ大作戦!


ソウマとライナが和解してから数日後、ソウマとカメキチは朝の散歩で海岸に来ていた。
そこで、ソウマはカメキチからあることを聞いた。

「え?誕生日?」

「そうや。あさってはライナの誕生日なんや。やけど、ライナはそのことすっかり忘れとるみたいで・・・。やけん、プレゼント渡してびっくりさせてやろうおもてんねんけど、どうや?」
カメキチはソウマに提案した。

「それはいい考えだな。パイのお礼もあるし・・・。」
あれから後で、ソウマは再びライナにパイを作ってもらったのだ。
もちろん、今度こそシーヤは隠し味程度だ。
ライナの故郷で食べたものよりも、数倍おいしかったとソウマは思っていた。
そのお礼もかねて、何かプレゼントを贈るのは悪くないと思った。

「で、渡すときまでお互いのプレゼントは秘密ちゅうのはどうや?そのほうがどきどき感あるやろ?」
カメキチはにっと笑った。

「それも悪くないな。」
ソウマも乗り気のようだ。

「よっしゃ!ほしたらお互いええプレゼント探そや。」

「ああ。」
二人は笑っていたが、多少対抗心も燃やしていたようだ。
二人は散歩を終えてギルドに戻り、ソウイチ達とともに普通に依頼をこなした。
もちろん、ライナの誕生日のことは伏せてある。
依頼から帰ってきて、ソウマは早速プレゼントを何にするか考え始めた。
しかし、いくら考えてもなかなか思い浮かばない。
女の子が喜びそうなものというのは、男にとってなかなか浮かばないものだ。

「う~ん・・・。仕方ねえか・・・。誰かに聞いてみるか。」
ソウマは立ち上がると、トレジャータウンのほうに行くことにした。
町のみんなに聞けば何かわかると思ったからだ。
ちょうど、ヨマワル銀行のあたりにキマワリがいたので聞いてみることにした。

「女の子が喜びそうなものですか?う~ん・・・、お花なんてどうでしょう?」
いかにもキマワリらしい意見だ。

「(花か~・・・。でも、オレがライナに花をあげるのはどうもな~・・・。)」
確かに花なら喜んでくれるかもしれないが、どうも自分が花をあげるのはイメージが違いすぎると思ったのだ。
イメージが違うというのは、なんだかかっこをつけてるように見えてライナに引かれそうだということなのだ。
ソウマはキマワリに礼を言って、ほかのポケモンを探すことにした。
そして今度は、カクレオンたちに聞いてみることにした。

「女の子が喜びそうなものですか?そうですね~・・・。リボンとかそういうのはどうでしょうか?」

「リボンか~、なるほどな~。」
ソウマはカクレオン兄の意見を聞いてうなずいた。
ライナなら、きっとリボンが似合うと思ったのだ。

「それで、何かそういうリボンは置いてるのか?」
ソウマはカクレオン兄に聞いた。

「残念ですが、現在在庫切れでして・・・。申し訳ありません・・・。」
カクレオン兄はすまなそうに謝った。

「いや、謝ることねえよ。となると、別のものを考えないとな・・・。」
ソウマは少し考え込んでいたが、ふと、あることを思い出した。

「そういえば、お前たちに名前ってあるのか?」
かなり唐突だったが、結構前から気になっていたのだ。

「名前ですか?普段聞かれることはめったにないんですけど、私はカクと言います。」
と、カクレオン兄。

「私はレオンです。」
と、カクレオン弟。
そのまんまの名前だが、毎度毎度兄弟で区別するのはややこしいのだ。

「わかった。相談に乗ってくれてありがとな。」
ソウマは二人に礼を言うと、また次のポケモンを探し始めた。
そして、今度はヒメグマに聞くことにした。

「女の子が喜ぶプレゼント?そうね~・・・、手作りのものなんていいんじゃないかしら?誕生日だからこそ贈れるような手作りのもの。」

「手作りか~・・・。そうだ!」
ヒメグマの手作りと言う言葉を聞いて、ソウマはあることを思いついた。
ヒメグマに礼を言うと、ソウマはカクレオン商店でいろいろな木の実の粉を大量に買い、すぐさまギルドに戻った。
調理場に入ると、そこには料理の本が何冊か置いてあり、ソウマは片っ端からページをめくってある料理の作り方を探していた。
そしてしばらくページをめくっていると、ようやく目当てのものが見つかった。

「これだ!これなら申し分ねえぜ!」
ソウマが見ているのは大きなスポンジケーキのページだった。
そう、ソウマはライナに誕生日ケーキをプレゼントしようと思ったのだ。
パイのお礼でもあり、手作りで誕生日ならではだと思ったのだ。
しかし、そこには大きな壁が立ちはだかっていた。
ソウマは、今まで一度もケーキ作りの経験がないのだ。
それで、さっき大量に木の実の粉を買っていたというわけだ。

「さ~て・・・。こっからが難関だな・・・。」
ソウマはしばらくレシピをにらんでいたが、本を片手にケーキを作り始めた。
最初は焼き方が不十分だったり、分量が違ったりしてなかなかいいものができなかった。
ラッピングなども初めてだったので、かなり手間取ってしまった。
そのたびに微調整して、徐々にできのいいものが完成していった。

「よっしゃ!これで完成だぜ!ちょっと味見してみるか。」
ようやくレシピのようなケーキが完成した。
このまま贈って味がだめだといけないので、ソウマは一切れ味見をした。

「う~ん・・・。なんか足りないな~・・・。材料どおりなのに、何か足りないんだよな~・・・。」
ソウマは頭をひねったが、何が足りないのかちっとも浮かんでこない。
木の実がだめなのか、テクニックが足りないのか、いろいろ考えをめぐらせたものの、心当たりはなかった。

「仕方ねえな・・・。とりあえずあと一日ある。明日その足りないものを見つけるか。」
ソウマはため息をつくと、いったんそこでケーキ作りを中断した。
さすがに作っていたことがばれるとあれなので、試作品などは保存庫に保管することにした。
あまりにもできの悪いものは、置いておくわけにもいかないのでがまんして食べた。


翌日、ソウイチ達はいつものごとく依頼を選んでいた。
ソウイチ達はすぐに依頼を選び終えたが、ソウマ達は残りのひとつをどれにするか迷っていた。

「どれにしましょうか・・・。」

「そうね~・・・。」
みんなが悩んでいる中、ソウマはある依頼を見つけた。

[りょくちけいこくにある幻の木の実を持ってきてください。すごくおいしいらしいのですが、道のりが険しく自分では取りにいけません。お礼はできる限りさせてもらいます。ニョロゾ]
というものだった。
特にソウマは、幻の木の実という言葉に引かれた。
これをケーキに加えれば、納得のいくものができるかもしれない、ソウマはそう考えていた。

「よし!これにしようぜ!」
ソウマは早速依頼を手に取った。
みんなも幻の木の実という言葉に引かれたのか、反対するものはなかった。
険しい道のりよりも、珍しいものを見てみたいという好奇心のほうが優先されるのだ。
そしてソウマ達は、りょくちけいこくを目指して出発した。

りょくちけいこくは、草花の生い茂ったなだらかな渓谷の中心に川が流れていた。
川の両岸には木も生えており、本当にのどかなエリアだった。
当分は平坦な道が続き、大きな川幅を持つ川が流れる平野に到達した。
ところが困ったことに、その川を越えるための橋が大雨で流されてしまっていたのだ。

「まいったな~・・・。これじゃあわたれねえぞ・・・。」
ソウマは川を見つめてうなった。
水の量も多く流れも早いので、泳いでわたるのはなかなか至難の業だ。

「私はたぶん大丈夫だと思うけど、ドンペイは難しそうね・・・。」
ライナはドンペイを見て言った。
ドンペイはしっぽの炎という制約があるからだ。
ぬれてしっぽの炎が消えるという大惨事だけは避けたい。

「やったら、オレが対岸まで運んだるわ。」
カメキチはみんなに言った。

「でも大丈夫?これだけ流れが速いと流されたりしないかしら・・・。」
ライナはちょっと不安そうだ。

「な~に、これぐらいの荒れ模様、嵐の海に比べたらかわいいもんや。」
カメキチはドンと胸をたたいた。

「わかった。頼むぜ。」
ソウマはうなずいた。
まずはドンペイが先に対岸へ渡り、ライナ、ソウマの順番で渡ることになった。
ドンペイとライナを安全に運ぶためでもあり、たとえ途中でカメキチが疲れてソウマを運べないことになっても、ソウマが降りてカメキチを対岸まで連れて行けるからだ。
ドンペイとライナは問題なく運び終わり、残るはソウマだけとなった。

「カメキチ、まだ大丈夫か?疲れてるんなら、自分で泳いでいくぜ?」
ソウマはカメキチに聞いた。

「まだまだ大丈夫や。心配せんでええで。」
カメキチは笑って言った。
言葉のとおり、カメキチは疲れた様子もなくソウマを運んでいった。
ところが、川の真ん中まで来たところでトラブルが発生した。
急に川の水が勢いを増し、波になって二人に襲いかかったのだ。

「せ、先輩!!」

「ソウマ!カメキチ!」
ドンペイとライナは叫んだが、二人の姿はどこにも見あたらなかった。
波にのまれておぼれてしまったのだろうか。
二人がおろおろしていると、唐突に、水面に二つの耳がぴょこっと顔を出した。
二人が目をこらしてみると、それはソウマの耳だった。
普通のバクフーンより耳が大きいせいか、水面からつきだしていたのだ。
岸に向かってくるにつれて、だんだんと耳から頭、頭から肩が現れてきた。

「げほっげほっ!!」
カメキチは水を飲んでしまったのか、苦しそうにむせた。

「大丈夫か?だから自分で泳ごうかって言ったのに・・・。」
ソウマは心配しながらも少し呆れていた。

「アホ・・・。体力のせいやのうて波のせいや・・・。あそこで波がこんかったら、ちゃ~んと運べとったわ・・・。」
カメキチは所々むせながら言った。
強がりともとれるが、実際波がなかったら運びきっていただろう。

「どうする?少し休むか?」
ソウマはカメキチを気遣った。

「心配すんな・・・。もうおさまったけん大丈夫や。」

「そうか・・・?あんまり無理するなよ。」
多少青い顔をしていたが、大丈夫だというのでソウマはこれ以上休むことを勧めなかった。
序盤はハイキングのような気分で進むことができたが、上流に差し掛かるにつれて、勾配はきつくなり、辺りにあるのは突き出した岩だけになっていった。
道幅もかなり狭くなり、岩壁に手をついて慎重に進まなければならない場所もあった。

「気をつけろよ。いつ足場が崩れるかわかんねえからな。」
ソウマはみんなに注意した。
そろりそろりとすすんでいると、カメキチの足場が急に崩壊した。

「ううううう・・・。」
落ちる寸前にドンペイが手をつかみ、カメキチは宙吊りになった。

「カメキチ!!大丈夫か!?」
ソウマはカメキチのほうを振り返った。

「な、なんとか・・・。」
カメキチは震える声で答えた。
下まではかなりの距離があり、まともに見たら目がくらみそうだ。

「うううう・・・!」
ドンペイは必死でカメキチを支えているが、ちょっとずつひきずられていた。
カメールの重さはおよそ23kg、ソウマやライナなら引き上げられるだろうが、ドンペイはまだ無理だった。
ソウマとライナもあわてて手を貸し、何とかカメキチを引き上げることができた。

「危なかったな・・・。」
ソウマはほっとため息をついた。

「すまんのお・・・。おかげで助かったわ・・・。」
カメキチはすまなそうにみんなに礼を言った。

「だけどらしくないわね。ほんとに大丈夫?」
ライナは心配そうだ。

「やっぱりもう少し休んだほうがよかったんじゃないのか?」
ソウマもカメキチの身を案じた。

「心配すんなって。もう大丈夫や。」
カメキチは元気そうにしてみせた。
実際は川を往復したせいで疲れていたが、かめポケモンのプライドと、みんなに心配をかけたくない思いが許さなかったのだ。

「一応オレンの実食っとけよ。さっきのこともあるしさ。」
ソウマはカメキチにオレンの実を手渡した。

「ええって。まだそこまで体力使ってへんわ。」

「いいからいいから。ほんとに体力使い切る前に食っとけ。」
カメキチは遠慮していたものの、ソウマが強く勧めるのでその好意に甘えることにした。
そして断崖絶壁を乗り越えると、再び森林が姿を現し、川幅は小川程度になっていた。
森林を奥へ奥へ進むと、急に開けたところへ出た。
その奥には、なにやら大きい木が一本はえていた。

「ねえ、あれが幻の木の実の木じゃない?」
ライナが木の下の方を指差した。
木の上のほうに、きれいな緑色をした木の実がなっていた。
大きさは、およそカメキチの顔ぐらいだろうか、普通の木の実よりかなり大きい。

「ああ、たぶんあれに間違いねえな。」
ソウマはうなずいた。
しかしなっているのはわずか二個、依頼者の分と、ケーキに入れる分だけしかない。
おまけに、その木のところへ行くのは川にかかった橋を渡る必要があり、定員は二人までだった。

「とりあえずオレが行ってくる。みんなはここで待っててくれ。」
ソウマは一人で橋を渡ろうとした。
仮に時間をずらして二人ずつ渡ったとしても、緊急事態が起きたときに反対側に戻れなくなる恐れがあるからだ。

「待って。私も一緒に行く。一人じゃ何かあったら大変だもの。」
ライナはソウマに言った。
ソウマはライナにも待ってるように言ったが、ライナが引き下がる気配がないので渋々承諾した。
反対側に渡ると、すごくいい香りが漂ってきた。
今までかいだことのない特別な香りだ。

「うわ~・・・。とてもいい香りね~・・・。」
ライナはうっとりとした表情になった。

「ああ。こんな木の実は見たことがないぜ。」
ソウマも心なしか、しばらく木の実の香りを楽しんでいた。
しばらく香りを堪能した後、ソウマは木をよじ登って木の実をとろうとした。
ところが・・・。

「よ~しあとちょっと・・・。おわあ!!」
木の幹が予想以上に滑りやすく、ソウマは足を滑らせて落ちてしまったのだ。

「いてててて・・・。」

「だ、大丈夫!?」
ライナはソウマに駆け寄った。

「ああ、大丈夫だ。しかし滑りやすくなってるとは思わなかったぜ。」
ソウマは苦笑いした。
そしてソウマは再び木に登り始めた。

「(っつ・・・!)」
ソウマは木に足をかけた瞬間激痛を感じた。
どうやら落ちたときに右足をひねったようだ。
だが、ライナに余計な心配をかけまいとソウマは平静を装って木を登った。

「よ~し、落とすぞ~!しっかり受け取れよ~!」
そして木のてっぺんまで行くと、ソウマは木の実をもぎ取りライナに向かって落とした。
かなり重かったが、ライナはしっかり木の実をキャッチしバッグにしまった。

「OKよ~!さあ、早く帰りましょう。」
ライナはソウマに呼びかけた。

「ちょっと待ってくれ!後一個あるからそれもとるぜ!」
ソウマは頭を引っ込め、今度は下のほうの木の先端についた木の実を取りに行った。

「そんなのいいから早く帰り・・・。」
ライナは途中で言葉を切った。
なぜだか足元がゆれているのだ。

「ソウマ・・・、なんだか地面が揺れてる・・・。」

「地面が?地震か?」

「ううん・・・。地震ならこんなに弱い揺れが長く続くはずもないんだけど・・・。」
すると、今度は何か変な音が聞こえてきた。
腹のそこから響くような重い音が。

「なんだ?この音は・・・?」

「さあ・・・。」
ライナは辺りを見回した。
そして川の上流のほうを見て顔面蒼白になった。
なんと、川の上流から鉄砲水が押し寄せているのだ。
最初ライナが感じた揺れはやはり地震で、そのせいで上流にあるため池の水が溢れ出したのだ。

「おわあああ!!!」

「た、大変!!早く逃げなきゃ!!」
ライナは橋の近くへ行き、カメキチ達に向かって大声で叫んだ。
このまま鉄砲水が押し寄せれば、ソウマ達二人はおろか対岸にいるカメキチ達まで流されてしまう。

「カメキチ!ドンペイ!すぐにそこから離れて!!鉄砲水が来るわ!!」

「な、なんやて!?わかった!!お前らもはよ戻って来いよ!!」
カメキチはドンペイを脇に抱えてそこから離れた。

「ソウマも早く降りてきて!!早くしないと鉄砲水が・・・。」

「もうちょっとだ!もうちょっとで取れるんだ!」
ソウマは腕を伸ばして必死に木の実を取ろうとしていた。
しかし後ちょっとのところで手が届かないでいた。
その間にも鉄砲水は至近距離まで迫っていた。

「ソウマ!!早く!!」

「うぐぐぐ・・・。」
いくら手を伸ばしても、ソウマの手は木の実に届かなかった。
ライナはとうとう痺れを切らし、ジャンプしてソウマのマントを思いっきり引っ張った。
ソウマはバランスを崩しそのまま地面に落ちたが、何とか着地だけはうまくいった。

「ったく!いきなりマント引っ張るんじゃねえよ!危ねえだろうが!!」
ソウマはかんかんに怒った。

「いつまでもここに残ってるほうが危ないでしょ!!ほら、木の実なんかほっといて早く逃げるわよ!!」
ライナは橋に向かって駆け出した。
ところが、すぐ後ろをソウマがついてこないのだ。

「ど、どうしたの!?早く!!」

「オレのことはいいから先に行ってろ・・・!ねんざをほっといたらさっきより悪くなってやがる・・・。」
ソウマは痛そうに顔をゆがめた。
着地が右足からだったため、さらに負担をかけてしまったのだ。

「ね、ねんざってどういうことよ!?まさか、私がマントを引っ張ったせいで・・・。」

「違う・・・。さっき木から滑り落ちたときにうっかりひねっちまったんだよ・・・。」

「どうして早く言わなかったのよ!すぐに手当てすれば・・・。」

「バカ、お前に心配かけられるわけねえだろ・・・?」
ソウマは片目をつぶって笑った。

「このままじゃ二人とも巻き込まれる・・・。お前だけでも逃げろ・・・。」
ソウマはまっすぐライナを見た。
しかし、ライナは動こうとしない。

「何してる!!早く橋を・・・。」

「嫌よ・・・。」
ライナはソウマの言葉をさえぎった。

「え・・・?」
次の瞬間、ソウマの体はライナに背負われていた。
普段からは想像もつかない力で、ライナはソウマをおぶったのだ。
そしてライナは全速力で橋を渡り始めた。

「お、おいライナ!!無茶はやめろ!!」

「大事なパートナーを見捨てるなんてできるわけないでしょ!!ソウマだって私を全力で助けてくれた・・・。今度は私が全力で助ける番よ!!」
全力で走りながらも、ライナはソウマに言葉を返した。

「ら、ライナ・・・。」
ソウマは言葉を失った。
ライナの言葉に心を揺り動かされたからだ。
対岸から離れたところではカメキチが大声で叫んでいる。

「ライナ!!急げ!!もうそこまできとるぞ!!」
ライナは力の限り足を動かした。
ソウマを絶対に助ける、その思いがライナの体を突き動かしていた。
鉄砲水が橋に襲い掛かる寸前、ライナは橋を渡りきった。
渡りきったはいいが、カメキチの近くまで来たときに足がもつれ、そのまま転んでしまった。
その直後に鉄砲水が橋と木を流し去った。

「はあ、はあ・・・。ソウマ・・・、大丈夫・・・?」
ライナは荒い息遣いでソウマにたずねた。

「オレより、お前のほうが大丈夫か・・・?」
ソウマはライナを気遣った。

「私は大丈夫よ・・・。でもよかった・・・、巻き込まれなくて・・・。」
ライナはほっとして笑顔になった。

「(まったく・・・、たいしたやつだぜ・・・。ありがとな、ライナ。)」
ソウマはライナの顔を見ながら心でお礼を言った。
直接言うのは照れくさかったのだ。

「ところで、木の実は?」
カメキチは二人に聞いた。

「木の実ならちゃんとここにあるぜ。」
ソウマはバッグから木の実を取り出した。
カメキチとドンペイはそれを見て安心した。

「これで依頼完了だ。さ、帰ろうぜ。」

「ちょっと待って。ソウマの足、まだ手当てしてないでしょ?」
ライナは湿布薬を取り出してソウマの足に塗ると、スカーフをはずして足に巻いた。

「おいおい・・・。そこまでしなくても・・・。」

「ソウマだって前にマントで包帯作ってくれたでしょ?これでおあいこよ。」
ライナは笑顔で言った。

「お前も世話好きだな・・・。」
ソウマは照れくさそうに笑った。
カメキチとドンペイは二人のそんな様子をうれしそうに見つめていた。


「ありがとうございます!幻の木の実、一度食べてみたかったんです!」
ギルドに帰ってきて、木の実を受け取ったニョロゾはすごくうれしそうだ。
あの鉄砲水のせいで、本当に幻の木の実になってしまったのだが。

「(だけど、これでケーキに入れる分はなくなっちまったな・・・。あの一個があればなあ・・・。)」
ソウマは心の中で残念がっていた。
あの木の実を入れれば、きっとおいしいものができると信じていたからだ。

「だけど・・・、この木の実ってすごく大きいんですね・・・。僕一人じゃ食べきれないな・・・。」
ニョロゾはつぶやくと、唐突に木の実を半分に割った。
みんなは予想外の行動にびっくりした。

「半分は皆さんに上げます。どうぞ召し上がってください。」
ニョロゾはそういうと、満足げにギルドを後にした。

「いや~・・・、まさかもらえるとは思ってへんかったわ~・・・。」

「ほんとですね~。でもすごくいいにおいです・・・。」
ドンペイは木の実の香りにうっとりしていた。

「じゃあ、みんなで食べようぜ。」
ソウマは木の実をさらに四等分し、みんなに渡した。
みんなは香りを堪能してから木の実にかぶりついた。

「うわ~・・・。すごくおいしい!」

「ほんまや!これ最高やわ!!」

「こんなの食べたことないですよ!」
みんな絶賛した。
まさに幻の木の実の名前にふさわしい味と香りだった。
しかしその中で、ソウマだけは木の実に手をつけなかった。

「あれ?どうしたのソウマ?食べないの?」
ライナはソウマに聞いた。

「いや、後で食べようと思ってさ。」
ソウマはそれだけ言うと、すぐに調理場の方へ走って行った。
ライナたちは変に思ったが、それ以上は気にしなかった。


翌朝、ソウマとカメキチはライナを別の呼び出した。
もちろん誕生日プレゼントを渡すためだが、ライナはそのことを知らない。

「どうしたの?二人そろって。」
ライナは不思議そうな顔をしていた。
カメキチは、ソウマから先に渡せという意味合いでソウマをつついた。

「あ、あのさ・・・、ライナ・・・。誕生日、おめでとう。」
ソウマは赤くなりながらも、しっかりとライナにプレゼントを渡した。

「誕生日・・・。そうだわ、今日だってことすっかり忘れてた!ありがとう、ソウマ!」
ライナは最初びっくりしたが、すぐに笑顔になった。

「あけてみなよ。」
ライナはソウマに言われたとおりに箱を開けた。
その中には、クリームにライナの顔が描かれ、誕生日おめでとうと書いた誕生日ケーキが入っていた。

「うわ~・・・。」
ライナはしばらくケーキを見つめていた。
こんなものは今までもらったことがなかったので感動していたのだ。

「食べてみてもいい?」
ライナはソウマに聞いた。

「ああ。そのためにオレが作ったんだ。食べてくれよ。」
ソウマはにっと笑った。
ライナは、自分の顔が消えない部分を一口食べてみた。
そのおいしさは、言葉では言い表せないものだった。

「おいしい!ほんとにおいしいわ!!」
ライナは満面の笑みを浮かべた。

「ほんとか!?よかった~!」
ソウマも喜んでもらえてうれしそうだ。

「でも、このなかに昨日の木の実入れたでしょ。」
ライナはいたずらっぽく笑った。

「え・・・?なんだ、わかっちまったのか・・・。」
ライナに言われて、ソウマはちょっとがっかりした。

「この香りはあの木の実とおんなじだもの。私のために我慢してくれたのよね。ありがとう。」
ライナにお礼を言われ、ソウマはまた赤くなって頭をかいた。

「ほんなら、次はオレの番やな。ライナ、誕生日おめでとう!」
カメキチもライナにプレゼントを渡した。

「これもあけていい?」

「もちろんええで!」
ライナはまたプレゼントの箱を開けた。
その中には、ライナに似合いそうなオレンジ色のリボンが二つ入っていた。

「うわ~!かわいい!」

「ほんまか!?よっしゃ!」
カメキチは思わずガッツポーズ。
喜んでもらえてうれしかったのだ。

「どう?似合うかしら?」
早速ライナはリボンを耳に結んでみた。

「ああ。さっきよりすごくかわいくなったぜ!」

「ほんまやな~。ようにあっとるわ!」
ソウマもカメキチもライナをほめた。

「ほんと?ありがとう、カメキチ!」
ライナはカメキチにもお礼を言った。

「ソウマの手作りに比べたらたいしたもんやないって。」
カメキチは謙遜した。

「ううん。手作りとかそんなのは関係ないわ。二人のプレゼントは、本当に心がこもってたもの。今日は最高の誕生日になったわ、本当にありがとう。」
ライナは笑顔でお礼を言うと、部屋を後にした。
二人は赤くなりながらも、プレゼントを喜んでもらえてとてもうれしそうだった。
 


アドバンズ物語第五十七話



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Last-modified: 2011-05-10 (火) 00:00:00
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