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アドバンズ物語第三十三話

/アドバンズ物語第三十三話

ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第三十三話 宿命の対決! モリゾーVSガブリアス! 前編


ソウイチ達が依頼から帰ったその夜中、ギルドの前に三つの影が現れた。
遠征でプクリンに叩きのめされ、ようやくトレジャータウンへとたどり着いたドクローズ達だ。
やられっぱなしでは自分達の怒りが収まらず、何とかギルドに復讐したいと考えていた。
だが、ギルドにはプクリンが居り、殴り込みをかければあっという間にのされてしまうのは目に見えている。
かといってどうすればよいか分からず、三人はすっかり考えあぐねていた。
ふと、ズバットがある妙案を思いつき、早速二人に話して聞かせる。
なんと、腹いせにソウイチ達四人に仕返しをしようというのだ。
お門違いもいいところだが、ソウマが不在で、彼らを雑魚と思っているスカタンク達にとっては絶好のチャンス。

「おっ! それはいい考えだな!」

「早速作戦を考えようぜ。ククククッ」
スカタンクたちは不気味な笑顔を浮かべ、再び闇の中へと姿を消す。
何度痛い目にあっても懲りないやつらだ。

翌朝、夜中の出来事など知るはずもない四人は、すがすがしい気分で気持ちよく目覚めた。
しかし、ソウイチは爆睡していたため、三人がいくら揺り動かしても起きず、結局朝礼に遅刻する羽目に。
ペラップからお叱りを受けたのはいうまでもなく、そのせいでソウイチはすっかりいらいらしている。

「ったく、もうちょっとでいいから寝かせろよ・・・。せっかくいい夢も見てたのによお・・・」
ペラップがいなくなってから、ソウイチは早速愚痴をこぼした。
どう考えても寝すぎているのが悪いのだが、モリゾーが指摘すると・・・。

「何言ってんだ。寝る子は育つってよく言うだろ? だからたっぷり寝てるんだよ」
一見筋が通っているようにも見えるが、だからといって起きなくていい理由にはならない。
三人はこれ以上何を言っても無駄だと思ったのか、ただため息をつくばかりだった。
いつまでもそうしているわけにもいかないので、四人は気持ちを切り替えて早速依頼を受けに行くことに。
すると、階段を上ろうとしたところでペラップが四人を呼び止める。
ソウイチはさっきのことでまだ腹を立てているので、できるだけ彼とは話したくなかったのだが。

「実は、仕事の前に頼みたいことがあってな・・・」

「頼みたいこと?」
今日に限って珍しいことだとソウイチ達は思った。
ソウヤが内容を聞くと、カクレオン商店でセカイイチの入荷予定を聞いてきてほしいとのこと。
ギルドの倉庫には大量のセカイイチが保管されているのだが、それが大好物のプクリンが目を離した隙に食べてしまい、すぐなくなってしまうのだそうだ。
つまみ食いをする子供とそれを監視する親、まるで親子のような関係だと四人が思ったのは言うまでもない。

「セカイイチがなくなると親方様は・・・。かといって底をつくたびにいちいちリンゴのもりへ取りに行くのも大変だし・・・」
要は自分が面倒な仕事をソウイチ達に押し付けようというのだ。
それが分かったソウイチは言葉にこそ出さなかったが、大仰に眉をひそめた。

「それで、お店に売ってるようなら買っておこうってわけ?」

「その通りだ。しっかり頼むぞ」
ゴロスケの問いに頷き、ペラップはそのまま何処かへと行ってしまった。
いなくなったのを見計らい、早速ソウイチの不満が漏れ始める。

「はあ・・・。何であいつのことまでオレ達がやらなきゃいけねえんだよ・・・」

「まあまあ。聞いてくるだけなら時間もかからないし、別にいいんじゃないかな?」
ぶつぶつと文句を言うソウイチをモリゾーはなだめた。
これ以上はさすがに駄々をこねるわけにもいかないので、ソウイチも渋々行くことに賛成。
そしてカクレオン商店の近くに来ると、その場の雰囲気がいつもと違うことに四人は気が付く。
それもそのはず、ヨノワールが親しげにカクレオンと話しているのだから。
たまに笑いあっている様子からしても、すっかり打ち解けているようだ。
近寄っていくと、向こうもソウイチ達に気が付いた。

「おお、あなた達は確かギルドの・・・」

「うん。僕たちはアドバンズ。ギルドで働いてるんだ。よろしくね!」
早速モリゾーとソウヤは笑顔で挨拶。
だがソウイチだけはぼさっとしていて出遅れてしまい、無理やりソウヤに頭を下げさせられた。

「ところで、ヨノワールさんは何してたの? 買い物?」

「いえいえ。単におしゃべりしてただけですよ」
ゴロスケが聞くと、ヨノワールは目の前で手を振った。
やはりさっき見たとおり、ただの世間話だったようだ。

「私が呼び止めたんです。ヨノワールさん有名ですから」

「そしたらもうびっくり! ヨノワールさんって実にいろんなことを知っているんですよね! もう感激しましたよ~!」
どうやらカクレオン達の方が一方的にヨノワールに話しかけたらしい。
そんな理由で呼び止めるのもいかがなものかと思うが。

「へえ~・・・。みんなも噂してたけど、ヨノワールさんってやっぱり物知りなんだね。すごいな~・・・」
憧れのまなざしでヨノワールを見つめるソウヤ。
色々な物を発明するためにはたくさんの知識と応用力、そして根気が必要なのだ。
知識が豊富と聞けば、憧れてしまうのも無理はないだろう。

「ところで、みなさんこそどうしたんですか? もしかして、何か買いに来てくれたとか?」

「あ、今日は買い物じゃねえんだ。ちょっと聞きたいことがあってよ」
きらきらとした瞳で見つめるカクレオンには申し訳ないが、ソウイチはペラップから聞いたことをそのまま伝える。
緑のカクレオンはしばらく、在庫や入荷予定が書き込んである表を見つめていたが、やがて申し訳なさそうに首を振った。
どうやらまだ入荷予定はないようだ。

「そうか~・・・。残念だね・・・。ペラップが聞いたらがっかりするだろうな・・・」
ゴロスケは少し悲しそうな顔になってつぶやいた。
さすがに嫌味を言われることはないだろうが、どことなく気分が盛り下がる。

「ルリリ~! 早く早く~!」

「お兄ちゃん、待ってよ~!」
どこからか聞き覚えのある声が聞こえてくる。
声のする方を見ると、マリル兄弟が向こうから走って来るのが見えた。
なんだかとても慌てているようだ。

「あれ? マリルちゃんにルリリちゃん!」
早速紫のカクレオンが二人を呼び止める。

「あ! カクレオンさん!」

「それにアドバンズの皆さんも!」
四人は早速、二人が急いでいるわけを尋ねた。
なんでも、以前から探していた、みずのフロートという道具が海岸に落ちているのを見たという情報を聞いたのだ。
とても大事なものらしく、話す二人の顔にも笑顔が広がる。
探し物が見つかるのは誰にとっても嬉しいことで、話を聞いていた彼らも、自然と笑顔になった。
と、その会話を陰で聞いている二つの影。
それはドガースとズバットで、このことを仕返しに利用しようというのだ。
話を聞き終わると、二人はスカタンクに報告すべくその場から姿を消した。

「さあ、ルリリ。早く行こう!」

「うん!」
そして、二人ははやる気持ちを抑えながら、海岸の方へと走っていく。
彼らを見送った後で、ふとソウイチ達に疑問が浮かぶ。
みずのフロートが一体どういう道具なのかということだ。
名前すら聞いたことがないし、どのような効果を発揮するのかも分からない。

「なあ、みずのフロートってどんな道具なんだ?」

「実は私も知らないんですよ。ヨノワールさん、どんな道具なんですか?」
ソウイチに聞かれた緑のカクレオンだったが、彼らですら知らない道具のようだ。
ということで、早速ヨノワールに質問する。

「みずのフロートとは、ルリリの専用道具なんですが、貴重なお宝を繰り返しトレードすることで、やっと手に入れることができるという、とてもまれな道具なんですよ」
その話を聞いた一同はびっくり。
そこまでしないと手に入らないということは、二人があそこまで熱心に探しているのも頷ける。
見たことも聞いたこともないのも当然といえば当然だ。

「商売してる私ですら知らないんですから、相当珍しいものなんでしょうね~。そんなものを私の店に入荷することなんか、一生かかっても無理なんでしょうね~・・・」
がっくりと肩を落とす緑のカクレオン。
入荷自体一生に一度あるかないかだろうが、入荷しても誰も買わないのではとソウイチ達は思った。
と、入荷という言葉を聞いて、彼らはペラップにセカイイチのことを報告していないことを思い出したのだ。
遅くなりすぎると説教されるかもしれないので、四人は一目散にギルドを目指す。
地下で待っているペラップにそのことを報告すると、彼は四人の想像をはるかに超えた落ち込みようだった。

「ああ~・・・、いったいどうすれば・・・」
ペラップは頭を抱えて右往左往。
さすがにずっと黙っているのも気まずくなり、モリゾーは思い切ったことを言い出した。

「それなら、オイラ達がリンゴのもりまで行って取ってこようか?」

「ええええ!? じょ、冗談じゃないよ!! お前達は前に一度行って失敗してるじゃないか!! 私はもうあんな目に遭うのはごめんだよ!!」
モリゾーは親切で言ったつもりだったが、ペラップはそれを大仰に否定。
その動作がソウイチの怒りに火をつける結果となり、彼は烈火のごとく怒った。

「何を!? そこまで言うことないだろうが!! 大体あの時は・・・!!」

「ソウイチ落ち着いて!!」
ソウヤは殴りかかろうとするソウイチを必死で引き止める。
ドクローズから受けた屈辱は、ソウイチにとって、まだ心に深い傷を残していたのだ。

「・・・いや、すまなかった・・・」

「へ?」
まさかペラップが謝るとは思わなかったので、ソウイチの怒りは瞬時に引っ込んだ。
他の三人もいつもとは違うペラップの様子に驚いている。

「お前たちは遠征でも活躍したし、私も認めてないわけじゃないんだ・・・。ただ、セカイイチと親方様のことは、私の中で軽いトラウマになっていてな・・・」
トラウマという言葉を聞いて、彼らはペラップに同情した。
セカイイチが品切れになるたびにあの大音量の泣き声を聞かされていては、ノイローゼになってしまうのも分かる。
それに、長い期間いるペラップにとっては、いつまでたっても解消されない、悩みのタネなのだ。

「・・・仕方ない・・・。セカイイチは自分で何とかするか・・・。お前達はいつものように、おたずねものや掲示板の依頼をやってくれ・・・」
ペラップは肩を落とし、とぼとぼとその場から去っていく。

「オレ、あいつの気も知らねえで・・・。なんか、悪いことしたな・・・」
あまりにも哀れな様子に、ソウイチは自分が腹を立てたことが恥ずかしくなった。
怒られて頭に来ることはあるが、その反面ああいう悩みを心の奥底に抱えているのだ。
そう思うと、実に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「何とか元気付けてあげられればなあ・・・。でもどうしよう・・・」
ゴロスケを含め、四人の誰もが思ったことだが、具体的な方法は一向に思い浮かんでこない。
難しい顔をしたまま、ただ時間が流れていくだけだった。

「よし! こうなったら、オレ達でセカイイチを取ってこようぜ!」
そんな中、ソウイチは意を決したように自分の提案を口にした。
しかし、先ほど依頼をやれと言われたばかりなのに、さすがに別のことをするのはまずいと三人は反論する。
万が一失敗したら、それこそ信用を失いかねない。
だが、ソウイチは気にすることもなく飄々と言ってのけた。

「バカだなあ。リンゴのもりの依頼を受けて、そのついでに取ってくるんだったら文句ないだろ?」

「あ・・・」
これには三人とも脱帽した。
依頼をのついでと言えば、言いつけを聞かなかったことにはならないし、ペラップを喜ばせることもできる。
まさに一石二鳥というわけだ。

「それに、あいつがずっと暗いまんまだったら、こっちも張り合いがないからな」

「しょうがないなあ・・・。今日だけはソウイチのわがままに付き合ってあげるよ」
ソウイチがにっと笑うと、ソウヤはちょっとため息をつきながらも、にっと笑い返す。
彼の本当の気持ちは十分理解できたからだ。
モリゾーとゴロスケも少し悩んではいたものの、すぐに行く意思を表示。

「よ~し! 今回こそリベンジだぜ!」
腕をぐるぐると回し、すっかり意気込んでいるソウイチ。
だが掲示板で目にしたのは、その意気込みをも打ち砕きかねない衝撃的な依頼だった。

[どうか、森の奥に巣くった悪いやつらを追い出してください。お礼はそれ相応のものを差し上げます。 リンゴのもりに住むポケモン一同]

「・・・まじかよ・・・」
早々にして出鼻をくじかれた四人。
依頼はこの一つしか残っておらず、さらには難易度も高め。
四人がすっかり黙り込む中、その静寂を打ち破ったのはソウイチだった。

「悩んでてもしょうがねえ! 悪いやつらだったら、ぶっ飛ばして二度と悪さができねえようにしてやるまでだ!」
確かに、一度リンゴのもりへいくと決めたからには、この依頼を受けざるをえない。
今まで自分達は、どんな難しい依頼でも何とかこなしてきた。
今回の依頼もきっと成功できる、ソウイチはそう考えていたのだ。

「相変わらずだな。ま、そんな短期間で性格が変わる方がありえないけどな!」
どこか聞き覚えのある声と憎まれ口がする。
振り返ると、そこに立っていたのはシリウスとコン。
まさか二人が訪れるとは思っていなかったので、彼らはとても驚いた。

「へへっ。ちょっと暇だったから手伝いに来たのさ」

「嘘言わないでください。本当は皆さんに会いたくて仕方がなかったんでしょ?」

「う、うっせえよ! そういうお前だってず~っとモリゾーのこと考えてたじゃねえか!!」

「そ、それは・・・」
二人のやり取りから、ソウイチ達に会いたくて仕方がなかったということははっきり分かる。
そのやり取りが嬉しくもあったが、どことなく漫才のようにも見えるので、四人は必死で笑いをこらえていた。

「で、その依頼受けるんだろ? だったらオレ達も連れてけよ。人手は多い方がいいだろ?」
咳払いをすると、シリウスはソウイチに調子よく頼み込む。

「言うと思った・・・。まあ、断る理由もないし、別にいいよな?」
少し顔をしかめるソウイチだったが、三人に同意を求める。
もちろん理由がないので、三人は嫌とは言わなかった。

「理由がないってなんだよ! ったく・・・」
ふてくされるシリウスだが、別本心から怒っているわけではい。
ソウイチ達と接するにつれ、持ち前の短気も収まってきたのだろうか。
こうして、シリウスとコンを加えた総勢六人で、彼らはリンゴのもりへと繰り出して行った。
そして数十分後、一行はようやくリベンジの舞台、リンゴのもりに到着。

「さあ~て、早いとこ終わらせようぜ!」
ソウイチはさっきのようにぐるぐると腕を回し、シリウスは首の骨を鳴らしている。

「ソウイチ、今回はあくまでも、依頼を受けることとリンゴを取ってくるのが目的だからね?」

「あんまり相手にケンカ売っちゃだめですよ? それとシリウスも」
失敗のリスクはなるべく減らしたいので、モリゾーとコンは二人に念を押す。
だが分かってるのか分かっていないのか、ソウイチとシリウスは心配するなというなり森へ向かって駆け出した。
不安は拭いきれなかったが、四人は仕方なくその後をついていく。
と、何やら森の奥の方から声が聞こえてくる。

「ん・・・? なんだこの声・・・?」
彼らははたと立ち止まり、その声に耳を澄ませる。
どうやら、誰かが歌を歌っているようだ。
しかも、それはソウイチとソウヤが人間の時にお互い好きだった歌。
一体なぜ、見知らぬ誰かが歌えるのか不思議だったが、そんなことよりも、一同は謎の人物の歌声に酔いしれていた。

「すごくきれいな声だね・・・」

「ああ・・・。すごくうまいぜ・・・」
何度もその歌を聞いていたソウイチとソウヤは、いかに相手が上手な歌い手かが分かった。
カラオケにでも行けば、間違いなく満点を取れそうなほどだ。
そっと歌声のする方へ近づいてみると、歌っているのは何とヌケニン。
普通はうたうなど覚えないはずのヌケニンが歌っているのだ、驚かないはずがなかった。
うたうには眠くなる作用があるのだが、不思議と全く眠くならない。
それどころか、気持ちがとても穏やかで、安らかな気分になるのだ。
普通のうたうとは違う、何か特殊なものなのかもしれない。
歌が終わったところで彼らは一斉に拍手し、ソウヤが代表して話しかける。

「すごくいい声だったよ。歌うのが上手なんだね」

「き、聞いてたんですか!? いやあ・・・、好きでやってるだけですよ。そこまでうまいもんじゃないです」
ソウヤにほめられ、ヌケニンは顔を赤くした。
どうやら、あまり他人に歌声を披露した経験はないようだ。

「そんな事ねえよ。すっごくうまかったぜ! お前、名前はなんて言うんだ?」

「あ、はい。僕の名前はレクイエムといいます。ここの友達からはレクと呼ばれています」
いかにも、上手な歌い手にふさわしい名前といえるだろう。
六人はそれぞれ自己紹介し、ソウイチはなぜ、自分達しか知らない歌を歌っていたのか聞いてみた。

「はい。なんでだかわからないんですけど、僕は相手の記憶に残っている歌が歌えるんです」
それならば、ポケモンが知るはずもないを人間の歌を歌えるのは納得がいく。
いやはや、なんとも不思議な能力だ。

「それを口ずさんでいるうちに、なんだか自分でも歌うことが好きになって。だから、他の人に見られるのも恥ずかしいから、こうして一人で歌っているんです」

「恥ずかしがることないですよ。すごく上手でしたよ」
また顔を赤くするレクをほめるコン。
これほど見事な歌声は、誰が聞いてもほめずにはいられないだろう。
まだ恥ずかしそうにはしていたが、彼は素直に礼を述べた。

「そうだ! なあ、せっかくだからさ、オレ達の仲間にならねえか?」

「えええ!? い、いいんですか!?」
いきなり仲間に誘われるとは思っていなかったので、レクは飛び上がって驚いた。
他のメンバーも、いきなりソウイチがスカウトするとは全く予想しておらず、お互いに動揺するばかり。
スカウトした理由は、これだけ歌がうまければ、敵の心を穏やかにさせ、無用な戦いを避けることができる可能性があるということ。
おたずねものには容赦無用だが、普通の敵まで徹底的に痛めつける必要はない。
それがソウイチなりに考えたことだった。

「なるほど・・・。それは一理あるね。レクの歌は、すごく心が落ち着くもの」
五人もソウイチの考えに納得し、全員一致でレクを仲間に迎え入れることにした。
お互いに固い握手を交わし、七人で、セカイイチの木がある奥地を目指すことに。
途中ではモンスターハウスに出くわすトラブルもあったが、レクに命を救われたといっても過言ではない。
彼の歌は、確かに相手の心を和ませ、穏やかにさせる効果があり、無駄な戦いを回避することができた。
そのおかげで、当初の予定よりも大幅に早く森の奥へ到着したソウイチ一行。
特にソウイチとシリウスは、食料や彼らの大好物であるオレンやオボン、その他の道具を大量に集めることができ実に上機嫌だ。
だが、その大量ゆえに、セカイイチがバッグに入りきらなければどうするとソウヤは文句をつける。

「そういう場合は・・・」
何をするかと思えば、ソウイチはバッグからリンゴを二つ取り出す。
そして、なんと一口でその二つを平らげてしまったのだ。

「こうすりゃ問題ないだろ?」
自慢げに言うソウイチに対し、シリウスを含めた五人がずっこけたのは言うまでもなかった。
一体どれだけセカイイチが必要か、彼にはその自覚がないようだ。
当然気にする様子もなく、おたずねものを探すことに精を出している。
しかし、どこにもそれらしき姿は見えず、六人は変に思った。

「変ですね~・・・。一体どこに・・・」
突然コンの言葉が途切れ、シリウスが不審に思い横を見ると、そこにコンの姿はなかった。
代わりに、鉄パイプが落下したような鈍い音があたり一面に響き渡る。
振り返った彼らの目に映ったのは、木に叩きつけられ倒れているコンの姿。
五人は慌てて駆け寄りコンを抱き起こすが、彼女はすっかり気絶してしまっていた。

「やはり女を先にやっておいて正解だな。おかげで労力が省けたぜ」

「だ、誰だ!!」

「隠れてねえで出てきやがれ!!」
突然しわがれた声が響き、モリゾーとシリウスは声の主を探した。
と、森の奥からガブリアス、オニドリル、ドータクン、ニドキング、ドサイドンが姿を現す。
コンを攻撃したのは、隠れていた位置からしてガブリアスに間違いない。
しかも、モリゾーはそのガブリアスに見覚えがあった。
そう、かつて父グラスが戦った、あのおたずねもののガブリアスだったのだ。
それが分かると、モリゾーの怒りは一気に爆発した。

「お前・・・! よくもコンに手を出したな!!」

「ん・・・? そうか・・・。どこかで見たことがあると思ったら、あの時のガキか。しかしお前の親父もバカなやつだ。お前を助けたばっかりに、自分がくたばっちまうんだからよ!」
最初はどこの誰だか分からない様子のガブリアスだったが、あの時のことをどうやら思い出したようだ。
しかし、ゴロスケ以外のメンバーは当時の話を聞いていないので、一体何がどうなっているのかさっぱり。
そして自分の父親に対する侮辱は、モリゾーからあっという間に冷静な思考を奪い、はらわたが煮えくり返る思いと極度の闘争心だけが残った。

「父さんを・・・、父さんをバカにするなあああ!!」
モリゾーは目にもとまらぬ速さでガブリアスに突進する。
ソウイチ達は慌てて止めようとしたが、腕をつかむ前に彼は走り出していた。
途中からでんこうせっかでさらに速度を上げるが、もう少しで届くというところでニドキングに殴り飛ばされてしまう。

「も、モリゾー!!」
ソウイチはあわててモリゾーのところに駆け寄った。
それでもなお、モリゾーはガブリアスに向かっていこうとする。

「落ちつけモリゾー! お前だけで勝てるはずないだろうが!」
もちろん、ソウイチはバカにして言ったのではなく、相手の強さを見極めてのことだった。
だが、モリゾーは自分の力のなさを否定されたと思い、向きになってソウイチの腕を振り解こうとする。

「放して! 放してよ!! 一体ソウイチにオイラの何が分かるのさ!? いいから早く放して!!」
冷静さを欠いたモリゾーに、これ以上何を言っても耳に届くはずがなかった。
とうとうソウイチは耐えられなくなり、モリゾーの横っ面を力一杯張ってその場に倒す。
他のメンバーはどうなるのかと、固唾を飲んで二人の様子を見つめている。

「な、何するのさ!?」

「いい加減にしろこの大バカ野郎!! 一人で勝手に突っ込んで勝てると思ってんのか!?」
憎悪のこもった目で睨みつけるモリゾーに対し、ソウイチはこれまでにないほど目つきを鋭くしてモリゾーに怒鳴る。
辺りの空気は一瞬にして震撼し、モリゾーはその勢いに気圧され言葉を失った。

「てめえ一人で勝てるんだったら世話ねえよ!! お前とあいつの間に何があったか知らねえけどな、怒りで自分見失ったら終わりなんだよ!!」
それは分かってはいるが、一発ぐらい殴ってやらなければ自分の怒りは収まらない、モリゾーはそう思っていた。
我を忘れたことは自らに危険を招くが、それほどあの侮辱は彼にとって許せざるべきことだったのだ。
しかしソウイチの言うとおり、一人で突っ込んで勝てるようなら、自分の父もそこまで苦労はしていない。
最初心の中で反感を持っていたモリゾーは、徐々に自分の怒りが冷えていくのが分かった。

「それに、オレ達はチームだろ!! 一人じゃ無理でも、チームで気持ちを一つにすりゃあ勝てるんじゃねえのかよ!? そのためのチームで、そのためのパートナーや仲間だろうが!!」
その言葉を聞いてモリゾーははっとなった。
そう、自分は一人ではない。
仲間と共に行動し、いつも協力して敵を倒していたではないか。
今更ながら、そのことに気付かされたのだ。

「いいか!? 次は絶対一人で突っ込むな!! 今度突っ込む時は、オレも一緒に突っ込ませろ!!」
ソウイチの口調は激しいものだったが、その言葉に怒気は全く含まれていなかった。
顔を上げると、そこにあったのは、いつものソウイチらしいにっとした笑い顔。
ソウイチは黙って手を差し出し、モリゾーも黙ってその手をとって立ち上がる。
たったそれだけの短く静かな動作だったが、モリゾーの気持ちはすっかり落ち着き、いつもの冷静さを取り戻していた。

「よし! 行くぜ!」

「うん!」
ソウイチとモリゾーは互いに頷きあい、そしてソウイチは後ろにいるソウヤ達のほうを振り返る。
彼らも小さく頷き、すっかり戦う準備はできていた。

「っしゃあ! 絶対勝つぞ!!」

「おう!!」
ソウイチの掛け声で皆は再び士気を高め、ずらりと横一線に並ぶ。

「面白い。どこまでオレ達にダメージを与えられるか、試してもらおう!!」
ガブリアスの合図で敵も戦闘態勢に入る。
戦いの火蓋は、まさに切って落とされようとしていた。


アドバンズ物語第三十四話



ここまで読んでくださってありがとうございました。
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Last-modified: 2011-04-22 (金) 00:00:00
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