writer→スキャナ
Attic=Stage which was out of order.→屋根裏=狂った舞台
屋根裏部屋。この言葉の響きは、最初の頃の私にとってはとても素敵な物でした。
屋根のすぐ下の自分だけの秘密の部屋でいろんなことをしたり、寝室から抜け出して屋根裏に自分の物を持ち込み夜更かししたりと空想を巡らせたり、そもそも、そんな屋根裏のある家を想像しろと言われたら、みなさん映画『ホームアローン』に出てくるような素敵な洋風の家を想像するんじゃないでしょうか。
誰しもそうとは限らないですが。
しかし、そんな素敵な(まだ想像でしかなかった)家に引っ越す事になった私の心はワクワクする反面、とても重く、群青色の冷たい湖に深く沈み込むようでした。
私が、家を越す理由は、父母が行方不明になり結局見つからず死亡したとされ、屋根裏のある現在の家の主でもある祖母に引き取ってもらうことになったからなのです。
確かに、父母が行方不明になったというのに不謹慎だと思うが、そんな家に引っ越すのはワクワクしていた。だが、そんな自分に嫌悪感を抱き、今の自分はとっても鬱でした。
それに加えて、この仕打ちです。
それはなんと、私が引っ越した家というのは、幽霊屋敷と名高いハクタイの洋館だったのです。
もはや、今の私は鬱病を通り越した新たな精神病に罹っています。
誰か、私のすんごい欝を診断して、治療してください。
報酬は悪趣味な祖母により綺麗に改装されたこの洋館を差し上げますから。
そんな思いと欝は、しばらくしてある事件ともみくちゃになって、いつの間にか消えてしまったのだけど。
祖母は若い頃、資産家だった祖父が亡くなって遺産が転がり込むとすぐにハクタイの森の洋館を買い取って莫大な金をつぎ込み改装したのだそうです。
当初、荒れ果てゴーストポケモンの数少ない住処になっていたこの洋館も、今はとても綺麗で快適でした。心霊現象が起きるのを除けば。
幽霊なんて全く信じない祖母は、いつも変な音が聞こえて怖くて寝むれない私に向かってこう言う。
「どうせ幽霊なんて、ゴーストポケモンのいたずらですよ。そんなに怖がるから面白がってさらに怖がらせてくるのよ。家にはゲンガーやゴーストが住み着いてるみたいだし。現に私は変な音なんて聞こえないわよ。それに……」
私にとっては、ゲンガーやゴーストの方が、リアルに幽霊より怖かった。悪夢を見せることもあるそうだし。
それに一々幽霊に対してムキになる祖母がめんどくさいのでそれ以降祖母に相談する事はありませんでした。
さて、日が進むに連れて一層欝と睡眠不足が酷くなって行く私でしたが、ある日、二階の五つあるうちの右から二番目の寝室のベッドに寝転がり、天井を見つめると面白いものを見つけたのです。
「あれは? ……扉?」
天井には四角い扉がついていて、扉にはこちらに向かって紐が垂れていました。
天井に扉。そして垂れている紐。
「なんだろ? 引っ張れば開くのかな?」
私はそういう紐を見かけると、無性に引っ張りたくなります。なので、迷わず引っ張りました。
するとどうでしょう。ガコンっと小気味良い音がなると、扉が床スレスレまでに向かって開き、そして扉の内側は階段になっていて天井まで登れるようになっていたのです。
「あ! 意気消沈してすっかり忘れてた。確かこの洋館、屋根裏部屋があったんだっけ……」
自然と、私の心はドキドキしてきました。そして、気付くと勝手に階段を登っていくのでした。
天井の縁に手をかけて、まずは顔だけ屋根裏側に出して辺を見回してみました。しかし、真っ暗で何も見えません。
仕方なしに、引き上げです。
部屋を抜けて、廊下を抜けて、そして玄関の中央の扉を駆け下りて今度は右側の扉をくぐり抜け、食堂の大袈裟な程馬鹿でかいキッチンでたった二人分の料理を作る祖母に、私は聞いてみました。
「ねえねえ、さっき屋根裏部屋の入口を見つけたんだけど、あそこって中はどうなってるの?」
祖母が、鍋のおたまをグルグル掻き回しながら答えます。
「ああ、そんな部屋あったわね。あそこはなんにもないだだっ広い部屋よ。もう何年も入ってないし。……あ、でも電気は通ってる筈だし、掃除とか貴方がするなら勝手に使ってもいいわよ*1」
「ほんとに?! なら……」
まだ幼さの抜けない私は逃げもしない屋根裏部屋に向かって一目散に駆け出します。恥ずかしい。
寝室に戻ると、さっき開いた屋根裏部屋の扉が、まだ開きっぱなしでした。
私は懐中電灯を手に、勇んで階段を登ってゆきます。今思い返せば幽霊に対する恐怖と欝は何処へ飛んでいったのやら。
階段を登りきり、屋根裏部屋の見えない真っ暗な闇の中、独り立ち尽くします。パッと前方に向かって懐中電灯の明かりをかざしました。
そこは、懐中電灯の光さえ吸い込むくらい暗く、広い空間でした。いくら照らしても壁が見えません。それでも私は不安が襲い来る闇の中を闇雲に歩き回ります。
所で皆さん、目隠しをして広いところを歩いたことがあります? 大概、まっすぐ歩いているつもりでも、ぐるぐると同じところを回っていたりします。
開始三十分。ゴール地点である照明の電源のある壁が見つからず、ものの見事に迷いました。同じ方向にずっとまっすぐ進むだけでいい道を。
「どこだろうここ? あ」
そういえば、私はずっと屋根裏の入口を背にまっすぐに進んでいたはず。そして屋根裏の入口からは、寝室の明かりが漏れているはず。
何馬鹿なことをしてたんだろう。
後ろを振り向き、入口の光から自分の位置を割り出そうと考えました。
しかし、何故か私の後ろにあったはずの入口の光が見えません。
「あれ?」
反射的に周囲を見渡します。右、左。左を向いて、私の首の動きが止まりました。
入口の光が、左の方の遠くに見えています。
簡単に説明すると、私は入口の周りをずっと左回りで回っていたようです。恥ずかしい
その後、簡単に壁を見つけ出し、そして照明の電源ボタンを探すことができましたとさ。
それにしても、私は何故父母がいなくなったというのに寂しくならないんだろうか。寂しいんだと無理に泣こうとも、欝になろうとも、ホントは寂しくなんかないんだ。
それに気付いてさえいないのかな?
屋根裏の探検はとても良い気晴らしとなりました。
元々広い敷地の洋館の、部屋を仕切る壁のない屋根裏です。だからパーティーホール並みに広い。しかも私のものとなったそんな屋根裏は気晴らしになっただけでなく、同時に私の心を躍らせました。
だけど、それとは関係なく、夜も心霊現象と思われる物音は続くのでした。
まるで引っ越す前に父母と共に住んでいたトバリシティの大通りのような喧騒が、確かに遠くから聞こえるのです。
祖母は聞こえないと言い張りますが、確かに聞こえます。
そして、それは今日見つけた屋根裏から聞こえることに気付いてしまったのです。
まさか、屋根裏の上には、トバリシティのような小さな街が小人かポケモン達が作り上げているのでしょうか?
私は、胸の内で渦巻く恐れと、ワクワクと、ドキドキを抑えきれませんでした。
この後とる行動を貴方達は大体予想がつくだろう。
なら、その予想できる行動をとった後の出来事を想像してみるがいい。
それと、これがポケモンのお話である事を、お忘れなく。
想像できた? どうせできないだろう。だってこのあと私は
私は左手に唯一の相棒が眠るボールを、右手には懐中電灯を持って、屋根裏の扉を開ける紐の前へ立つ。
見ると、時計の針は丁度午前十二時を指していた。
最初は簡単に引っ張った紐も、今は引っ張ることを躊躇ってしまう。
そして私の期待通りなのか、期待を裏切ってか、心霊現象と思っていた謎の喧騒は未だ止まない。
ギュッと紐を握る。手と握られた紐に、脂汗が染み込んでいくのが良く分かる。
生唾をゴクリと飲み、また暫く躊躇う。時間がゆっくりと流れるようだ。しかし、それでいて規則的になる時計のチクタクという音が耳障りに聞こえた。
そして、覚悟を決めて……
引っ張った。
紐を引っ張っても、いくら覚悟を決めても、何でもなかった。ただ言えるのは、あんなに躊躇った自分ががバカらしくなるほどに、呆気なかった。
~途中報告~
ここまでが、本編の導入です。そしてこれが初投稿となります、スキャナと申します。
導入部ゆえ極力短く仕上げるために、主人公の周りの設定を明かすための描写やト書きを削除した結果、ごちゃごちゃして内容が変に仕上がってしまった感じが半端ないです。単に実力不足。
そして、気付いた方もいらっしゃると思いますが、物語のヒント(ネタバレスレスレなのかもしれない)が隠されていますが(一つは簡単に見つかります)、これは単なる遊び心です。特に深い意味はなかったりします。勿論さっき書いた通りにちゃんと物語につながっていますが。
ともかく、次回からはポケモン要素がしっかりと入るので、これからもよろしくお願いします。