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よるでもひるでも、ひとりよりみんな

/よるでもひるでも、ひとりよりみんな

よくわからん展開満載、あと出遅れ。許されないと思ったらブラウザバック
かいた人


「へへ、どうかな、この仮装」
 ポカブのポムスがニコニコしながら、自分の体に巻いた包帯のような白い布をひらひらさせました。もうすぐ秋の終わり、子供たちの愉しいイベントが待っています。そのために子供たちはいろいろな仮装をして、大人たちの所に向かう準備をするのです。この言葉を聞けば、何をするのかよくわかりますね?そう、もうすぐハロウィンの季節なのです。この村でも例外なく、毎年お祭りが開かれます。収穫祭と並行しながら、深夜の時間帯に子供たちは行動します。大人たちは収穫祭を楽しみつつ、子供たちの笑顔のために色々と奔走するのでしょう。
 ポムス達は自分達の家で、ごちゃごちゃした衣装とにらめっこ。何が似合うかなど、わかるはずもありません、いろいろ着てみないといけないのですが、昼間からこんな恰好で練り歩くわけにもいかないので、窓を閉め切り、ドアを閉ざして、大人たちに見られないように工夫します。この状態を見られたら、どのような仮装をしてくるのかと楽しみにしている大人たちのお楽しみが減ってしまうからです。子どもにはお菓子をもらう楽しみが、大人には子供たちの健やかな成長と、仮想の種類を見て楽しむ楽しみが――
 ハロウィンはそれぞれ違った楽しみ方があるので、大人も子供も楽しまなければいけません、ロメロは包帯だらけのポムスを見て、首を捻りました。
「うーん、にあうけど、なんて言えばいいのか……地味だ」
「……」ポムスはしかつめらしい顔をして、ロメロを睨みつけました。「だってそんな顔をされてもなぁ、ポムスににあいそうなのがそれなだけであって……なんて言うか、にあってるけど、今一つはな?っていうのかな、そういうのがないっていうか」
 むっつりとした顔でポムスはちょっとふてくされてしまい、いそいそと包帯を解き始めました。その後ろで、女の子たちはワイワイと騒いでいます。
「ダメだよ、ロメロがかぼちゃを被るんだもん、私だってかぼちゃを被るんだから!」
 ツタージャのパロメは蔓を伸ばして、かぼちゃをとりあげます。ピカチュウのサニィ、ムウマのパッシュがそれを奪い返そうと躍起になりました。
「かぼちゃは二個しかないんだから、自分ばっかり独り占めしようとしないでよ、パロメちゃん」
「そうだ予想だよ、ロメロ君だって困ってるじゃない!!」
「うるさいうるさーい!!私とロメロはずっと一緒だもん。二人になんか邪魔させないんだからぁっ」
 何やらけんかをしているようですが、あまりにも内容が子供っぽくて、ロメロは仲裁に入る事すらも諦めました。けんかをするほど仲がいいというよりも、けんかをしない日がないということが、ロメロにとっては諦めの対象となっていました。
 サニィの呪いを解いて以来。サニィとパッシュの二人がロメロ達の家に住み着いたことが、パロメには面白くありませんでした。特に二人ともそうべたべたするわけではありませんでしたが。何かにつけてロメロとぎゅっと接近したがるようなアクションを多種多様に起こしているので、パロメはそれを止めるために奮起します。そのおかげで、三人の間では喧嘩ばかり。ロメロからしてみれば、けんかをするほど仲がいいと言えばそれでお終いですが。けんかの内容に自分自身が絡んでいるということが全く分かっていないので、ただただ毎日のけんかの仲裁に諦めをつけ始めているところでした。
「三人とも、けんかするのはいいけど、衣装をぼろぼろにしないでね、後で大変なのは、自分たちだよ」
 ロメロにそう言われて、三人は思わず動きを止めました。衣装をぼろぼろにしないようにお互いがお互いに手をひっこめあいます。かぼちゃは衣装の上に落ちて、ポムスの方に転がっていきました。それを見たロメロは、そうだ、と両手を合わせました。
「ポムス、このかぼちゃの方が似合うかもね」
「えー?」
 ポムスは先ほど自分の仮装を思い切りすっぱ抜かれて、まだ不機嫌なようでした。ロメロは先ほどのことをまるで気にしていないように、むっつりと怒っているポムスの頭にかぼちゃを被せます。そのままだとこれはまぁ何とも面白い姿でしょうか、ロメロは黒い布切れのようなものをひょいとつかむと、器用にポムスに巻きつけて、ピンでとめていきます。一通り巻き終えると、今度はつぎはぎの布をつかんで、適当にひょいひょいとポムスに巻きつけていきます。適当適当と頭で考えていても、ロメロはどうしてもきっちりとそろえてしまうので、綺麗なまだら模様ができてしまいました。ちょっとだけ完成に難がありましたが、ロメロはまぁこれでいいやと自分を納得させました。それはまだ仮完成だからでしょう。
「はいできた。かぼちゃのお化けだよ」
「わ、なんかかっこいいなぁ」
 ポムスはきゃっきゃと喜びました。先ほどのむっつりとした感じはどこへやら、自分の仮装が仮で決定したかのように、飛び跳ねて喜びます。そのたびにかぼちゃがふわふわと動き回り、まるで笑っているようでした。
「動くとかぼちゃがちょっと動くから、笑ってるようにも見えるしね、ポムス、炎出せるし、カンテラも必要ないけど、かぼちゃ燃やしちゃダメだよ」
 ポムスはわかったと頷きます。ポムスにすっかりかぼちゃを取られてしまって、サニィとパロメはぽかんと顔を合わせました。そしてお互いに気がついたようにプイっとそっぽを向きあいました。パロメに至ってはあっかんべいまでつける始末です。ロメロはありゃりゃと思って、口を歪ませて苦い顔を作ることしかできません。
「ふんだ、かぼちゃなんてなくても、私とロメロは「あいしょうばぐつん」だもんっ」
「パロメちゃんのばぁか」サニィは笑いました。「それを言うなら「あいしょうばつぐん」でしょ」
 うるさいうるさい、なによまだやるきなの、ばーかばーか、なによこのばかっ。
「うるっさい!!」
 ロメロは後ろで騒いでいる二人に思い切り大きな声を出して、ホタチを壁に叩きつけました。木の柱が削れて、すごい音が響きます。カーンとかこーんとかよりももっと大きな、ごぎゃ、めりめり、異音と一緒に、抉れた木の破片が周りに落ちました。
「ひゃっ」
「ひっ」
「これ以上騒ぐなら、二人とも仮装の時間まで外に放り出すよっ」
 大きな声を出して一括されて、二人はすっかり畏縮していしまいました。ロメロに怒られて、二人ともしょんぼりとして衣装を集めてきちんとたたみ始めました。
「全くもう、やかましいってばないや」
 パッシュはそんな中間に立って、あわあわと交互を見渡すことしかできませんでした。彼女もサニィと同じように本来ならばサニィの方にくっついて色々とまくし立てているところですが、ロメロの強烈な一言によってすっかり毒気を抜かれてしまいました。おろおろしながら周りを見渡すと、すっかり着替え終わったポムスが、何やら複雑な表情をしてどこかに行こうとしていました。
「ポムス、出かけるの?」ロメロが少しだけ粗っぽい口調でそういうと、彼は無言で頷きました。パッシュは何やらきょろきょろしていましたが、居た堪れないものを感じて、妙な空気から抜け出したいと思い、ポムスについていきました。


 外に出ると、さんさんとした天気よりも陰鬱な空気が二人の間に垂れこめているようでした。森の中の小さな木の家の中は何やら険悪な空気が流れているような気がしてなりません。楽しいはずだった時間が、一瞬にして面白くもなんともない時間に早変わり、ポムスは誰に何を言うわけでもなく、とりあえず散歩でもしようと森の家から離れていきます。そのあとを、パッシュが申し訳ない程度について回りました。ぼろぼろの布切れのような黒い体がかさかさと揺れて、燃えたりついたりする蝋燭の炎を彷彿とさせます。パッシュのことを気が付いているのか気が付いていないのか、ポムスは無言で歩きます。その速度の速さは、まさしく早歩きという感じで、パッシュは遅れて迷子にならないように必死になってついていくことが精一杯でした。ポムスはずいぶんと離れてから、近くの岩陰に腰をおろして一息つきました。この場所は覚えがありますが、それは結構前にあった一つの問題を片づけたときに、隠れて様子を窺っていた場所でした。
「あ……あのー」
「なぁに?」ポムスは気づいていたと言わんばかりにパッシュの方へ顔を向けました。どうやら彼女がついてきていること自体はわかっていたようで、岩陰に身を休めていながらも、その視線はパッシュをじっと見つめていました。「ええと、その、いい天気ですよね」
「そうだね、いい天気だ」
 沈黙が訪れて、パッシュは気まずい雰囲気を作ってしまったかのように顔を真っ赤にして涙ぐみました。彼女はポムスが苦手でした。何を考えているのか今一理解できない。いつものほほんとしていたりぼんやりしていたり、時たま不思議な行動をとる時もありますが、けしてボケているわけでもない。かといって、何かはっきりとした意識を一つ持っているわけでもない、何ともとらえることのできない雲のような心が、かえって彼女の心を惑わせました。お屋敷が消えてしまってからロメロ達の家に住まわせてもらっていましたが、パッシュは今まで自分が見てみてきた中で、こんなにも自分のことへの意識が薄い人は初めてみるものだと両方の眼をぱちくりとさせました。何を話していいのかわからず、ただボケっとしている彼を見ているのはまるで意味がないんじゃないかと思うこともありました。ロメロの友達ということで、何か興味のようなものを少しでも持っていたのですが、パッシュは彼の心が何色かわからずに、ただ見ていることしかできない自分と、そんな彼と今一緒にいることに何か窮屈なものを感じ始めました。そわそわすると、ポムスは不思議そうな顔をしました。
「おしっこ?」
「ち、ちがいます」
 パッシュは恥ずかしそうに首を横に振りました。それは良かったと言わんばかりに、ポムスは笑いました。
「おねしょしたら怒られちゃうからね、ロメロに」
「え?」
「ロメロってばさ、自分がおねしょしたことをずーっと恥ずかしい思い出として覚えてるんだ、お水を飲みすぎちゃったんだよ」
「は、はぁ……」
 何を言ってるんだろうこの人は、とパッシュが思っていると、ポムスはさっき自分達が歩いた道を見て、寂しそうな顔をしました。
「僕たち三人、いつも一緒にいたんだ。いろんなことがあって、いろんな思い出があって、これからもずっと一緒だと思ってた。だけどね、君とサニィが来てからちょっとだけ変わった。ううん凄く、いっぱい、きっといろいろ変わったんだと思う」
 え、とパッシュは声を出しました。変わった。ということは今までの変化のない世界が一つ一変したという言葉にほかなりませんでした。それはパッシュもよくわかる言葉です。自分は今までどれだけ呪いの研究のためにいろんなものを変えてきたのだろうかと思うと、その言葉には大いに共感できるような気もしました。しかし、パッシュとサニィがやってきてから変わったというのはどういうことなのだろうと、首を捻りました。まだわからないという様な顔をしている彼女を見て、ポムスは意地悪く笑います。
「わからないんだね、言った方がいいかな?」
「あ、はい、お願いします」
「……そういう風に何でもお願いしちゃうのは、ある意味すごい心を持ってるよね、パッシュはさ」
 どういう意味だろうと思う前に、ポムスは淡々と口から言葉を吐き出しました。
「僕が言いたいのはね、君たちが僕たちの家に現れたことによって、僕たちのリズムが壊れたってことさ。三人一緒にいた僕たちの間に割って入ったポケモン達、君と、サニィだ」
 そう言われて、サニィは体を震わせました。まるでお邪魔蟲の様に言われるその言葉に、サニィは瞳が少しだけ潤みました。そんな彼女の顔を見て、ポムスはさらに追い打ちをかけるように言葉を口早に捲し立てました。
「君たちは他所の者だ。なにも知らないままただの興味や好奇心で僕たちの輪の中に入ってきた。それだけで僕たちのリズムは狂いが生じて、僕たちが積み上げてきたものを、君たちは積み木を壊すみたいにばらばらにした。もっともらしい言葉を並びたてていって見ても分からないけど、こういう言い方ならわかるんじゃないかな、サニィ、パッシュ、君たちはただの闖入者だよって」
「そ、そんな、わ、私、そんな……」
 ポムスの言葉が一つ一つパッシュに突き刺さります。言葉の一つ一つがぐさりと刺さり、彼女の瞳からはとうとう大粒の涙がボロボロこぼれおちました。自分達の招いたこととはいえ、ただの興味や好奇心、ただロメロと一緒に居たいだけという思いでポムス達の輪を壊してしまったという自責の念が、大きく襲い掛かりました。もう何を言ったらいいのか、何に縋ったらいいのかわからずに、パッシュは泣き出しそうでした。
「――なーんて言ったら、悪い人に見たいに聞こえるよね?」
「――ふえ?」
 ポムスは急ににこりと笑うと、まるで別人のようにパッシュを見つめました。その瞳には曇りのない透き通った黒が映されて、パッシュの姿が綺麗に映ります。青空の下で太陽が顔を覗かせて、ちょっとだけ雲が避けました。まるでポムスの心に、呼応しているようではありませんか、きょとんとしていると、ポムスはぷっと吹き出しました。
「あはははっ、怖かった?ねえねえ怖かった?あははっ」
「……え?」
「大丈夫大丈夫。さっき言ったことは全部ウソだからね」
「……うそ?」
「うんそうだよ、ウソ」
 ぽかんとしているパッシュは、さっきの言葉が嘘だとわかって、恥ずかしくなって顔を伏せて慌てます。ポムスはそんなパッシュを見て笑っていましたが。ひとしきり笑うと、本当のことを話し始めました。
「ほんとのことを言うとね、二人が寝てる時に僕たち三人で話してたんだ。賑やかになってよかったねって」
「――賑やか?」
「そうそう」ポムスは得意げに話します。「あのお家って三人いてもまだ広く感じちゃうんだよ、僕たち三人一緒にいても、すごく広く感じることがある――それってね、僕達結構一人になることも多いってことなんだ。一人になるってさ。すごく周りが広くなってあんまり広い場所に居たいって感じないんだよね。ロメロはいっつも一人で本を読んだりしてるし、そういう時ならいいかもしれない。けどさ、ああいう状態でパロメや僕、ロメロは一人でいるときに、もの寂しいって感じる時がある。何度も何度も思ってるし、もしかしたら今でもそう思うかもしれない。慣れちゃっても寂しいっていう気持ちは消えてくれないし、絶対になくならないものだと思うんだ。だからね、二人が来てくれて、ロメロとパロメ、ちょっと楽しそうだったからね」
「そう、ですか?」
 さっきのロメロの怒り方を見て、とても楽しそうとは思えず、怒っているロメロのことを思うと、パッシュはまた胸が痛くなりました。
「大丈夫大丈夫、一時間もたてば元に戻るよ。僕、ロメロが怒ったところなんて見なことないもん。それに、見ようと思っても、見れないからねっ」
「え?ロメロさん、怒ってないんですか?」
「うん、全然怒ってないよ。ちょっとうるさくて静かにさせたかっただけだと思う。ロメロが本気で怒ったら、どうなるかわからないし、僕は、本気でロメロを怒らせようとも思わないし、思えない」
 どういうことなんだろうと思っていると、ポムスはそよ風を浴びて気持ちよさそうな顔をして、ふぅ、と一息つきました。
「僕たち三人、お父さんとお母さんが小さいころに亡くなっちゃったの。ノエルさんの話だと、火事に巻き込まれて死んじゃったって」
「え?」
「それで、身寄りがない僕たちのことを面倒を見てくれるってことで、この村にやって来たの。右も左も、ぜーんぜんわかんないまま、ここで暮らすことになっちゃった」
「……」
 パッシュは黙ってポムスの言葉に耳を傾けます。お父さんやお母さんがいなくなることの悲しさを、パッシュはよく理解できませんでした。パッシュもサニィも、物ごころをついたときから一人でいたので、その気持ちがわからないのも無理はありません。ですが、ポムスも人がいなくなるという感情を今一理解できないように、不思議そうに首を捻ります。
「僕たちもね、お父さんとお母さんの顔とか覚えてないの、気がついたらここにいた。気がついたら三人一緒に住んでいた。だから、寂しくなんてないけど、一人でいると、寂しいんだよね」
「一人で……」
 パッシュはサニィと一緒にいたあの屋敷のことを考えました。サニィがいないとき、パッシュはどうしていたのでしょうか、寂しくて気を紛らわせるために何か違うことをしていたのでしょうか、それをして、果たして寂しさは紛れたのでしょうか。考えれば考えるほど、一人ということについて考えてしまいます。
「僕たち三人の広いあのお家、だけど、二人増えて、ちょっと寂しくなくなった。僕はすごく嬉しいし、けんかしてても、パロメもロメロも嬉しいって思ってるよ。だって、一人でいるよりは、ずっとずっと楽しいから」
 きっと大人になれば、一人でいることの方が多くなるのかも知れませんが、今は一人でいるよりも、二人でいる方が、二人でいるよりも、三人でいる方が、楽しいに決まっています。ポムスはどうやらそう思ってそう言ったようで、もし大人になったとしても、また一人でいる時間よりも、恐らく二人や三人で一緒にいる時間を作りたいと思っているのでしょう。ポムスの尻尾があっちこっちに揺れて、大きく欠伸をします。
「『おとな』になったらきっと、一人でも大丈夫になるんだよ。だけど、僕達はまだまだ『こども』だもの、どれだけ頑張って背伸びをしても、『こども』だから、僕はまだ『こども』のままでいいから、誰かと一緒にいたいって思う」
「ポムスさんって、寂しがり屋なんてですね」
「そうだねぇ……誰かと一緒にいたいんだ。怖かったり、嫌だったりよりも、寂しいっていうのが一番嫌、一人は怖いし、一人は飽きるもん」
「……そうですね」
「さて、そろそろ戻ろうよ、多分もう三人とも静かになってると思うから」
「はい」
 パッシュは元気よく返事をしました。彼について行かなければ、もしかしたらポムスは一人ぼっちでここにいたのかも知れません。自分が何をするべきかわからずついていったことにより、ポムスを通じて、あの家に住んでいる三人のことがよくわかったような気がして、パッシュは少しだけぎこちなさが取れたような気がしました。ポムスが一人ぼっちが嫌いだということを、ほかの二人は知っているのでしょうか、それを知っていて、一人になることが多いのでしたら。それは彼のことを心に留めていないということなのでしょうか?考えれば考えるほど、パッシュはポムスに対しての興味が大きく膨れ上がりました。


 夜に近づき、だんだんとかぼちゃの装飾に明かりがつき始めました。おどろおどろしくも面白可笑しいお祭りの音が響き渡り、広場に自然とポケモン達が集まりだします。収穫祭とはいっても、家を練り歩きながら広場に集まるころには、ポケモン達はもう大賑わい。楽しく可笑しなお祭りが始まるのです。
「さてと、そろそろ出掛けよう、皆、準備できた?」
 ロメロは背中に付けた悪魔の羽根を微妙な位置で調整しながら、ポムス達に声をかけました。みんながみんな可愛らしい衣装を身にまとい、準備は万端といった風情でした。
「だけどロメロ怖いの嫌いなのに、なんでこういうのは大丈夫なんだろうね」
「お祭りなのに怖がってどうするのさ、僕はほらあれだよ、目に見えないものが見えるとか、寒々しい場所とか……ええとその、とにかく、そういう変な雰囲気が嫌いなの」
 ポムスの意地悪な言葉に、ロメロはぷりぷりとほっぺを膨らませます。そんな姿を見て、みんながみんな笑い崩れます。ひとしきりの緊張感がちょうどよくほぐれて、最後の仮装であるかぼちゃをロメロが被ろうとしたときに、パッシュが声を上げます。
「あ、あの」
「?……かぼちゃ、被りたい?」
 パッシュの言いたいことが分かっているかのように、ロメロは笑ってかぼちゃを差し出しました。パッシュは何度も頷くと、嬉しそうにかぼちゃを受け取りました。それを見たパロメとサニィが不満そうな顔をしていましたが、ロメロが被るわけではないので、それ以上の何かを申し立てることはありませんでした。
「ポムスとパッシュちゃんが被るんだね。うん、似あうと思うよ」
 ロメロは特に自分が被りたいと思っていたわけでもなかったので、かぼちゃをパッシュに被せて、にっこりとほほ笑みました。パッシュは少しだけはにかんだように笑うと、ポムスの方へと向き直ります。
「ど、どうですか?」
「うん、かわいいし似合ってるよ、パッシュちゃんとかぼちゃが一番マッチングしてるみたいだね、パロメが被るとたぶん変だと思うし」
「何その古臭い『じんしゅきゃべつ』みたいな発言!!」
「それを言うなら、『じんしゅさべつ』ね。パロメ、ろれつ回ってないんじゃないかな」
 ロメロは苦笑しながら、かぼちゃの代わりに、小さなシルクハットをパロメの頭に、魔法使いが持っているようなステッキをサニィに渡しました。
「かぼちゃよりも雰囲気は出てないかもしれないけど、無いよりはいいかなと思って、二人とも吸血鬼と魔法使いの仮装してるから、似合うと思うよ」
 ロメロからもらった思いがけないプレゼントに、サニィとパロメは大喜び、お祭りが始まってもいないのに、きゃっきゃとおおはしゃぎです。二人は互い互いにもらったものを見せ合ったりして、けんかをしていた時とは大違いに大いに喜んでいました。なかなかどうして、二人ともおきゃんな性格をしているようで、昔のことはすっかり忘れたという風情で上機嫌。都合の悪いことはすぐに忘却の彼方というところに、ロメロは苦笑せざるを得ませんでした。
「さて、満足してくれたみたいだし、そろそろ出掛けよう、お互いにわかれて、回りながら広場を目指すってことで」
 それには賛成しました。おそらくほかの子供たちも回りながらお菓子をもらっているので、ポムス達は多少大所帯、ごたごたと忙しない状態で押しかければ、お菓子がないこともあり得るのです、みんなで決めたところ、ポムスとパッシュがかぼちゃ組、ロメロとパロメとサニィが魔法使い悪魔っ子組とグループを分けました。命名はポムス、非常にカッコ悪い名前ですが、わかりやすくてちょうどよかったので誰も文句は言いませんでした。
「じゃあ、広場でまた会おうね」
「うん、それじゃあ、行こう、パッシュ」
「は、はいっ」
 二人は月がよく見える綺麗な夜空に照らされて、仮装の端をひらひらとはためかせながら、大人たちが待つ家々を回ります。ロメロ達がちょうど見えなくなる時に、マギさんが住んでいるお家につきました。
「まーぎーさん」
 間延びしたような声で規則的なノックをすると、足音が聞こえてきます、一つではなく、複数のようで、木製の床がぎしぎし、ぎしぎしと軋む音がドア越しに小さく小刻みに二人の耳に入り込んできました。それを聞いたときに、ノエルさんがいるんだなとポムスは笑いました。
 やがてドアが開いて、何やら大きな包みを持ったマギさんが笑顔でポムス達を迎えました。やっぱり、とポムスは思いました。案の定ノエルさんも一緒にいます。なぜかほっぺたに生クリームが付いていて、ぜいぜいと少し息も荒く、何か慌てているようでした。
「おっと、来たかがきんちょ共、お兄さん待ちくたびれて寝ちゃうところだったぞ」
「へへ、『とりっくおあとりーと』……マギさん、こんばんは」
「おう、こんばんは。って、ダメだろ、お化けが脅かす側の人に挨拶しちゃ、ちゃんとお祭りのムード作ってだな――」
「はいはい、マギ、貴方のながーい説教を聞いたら、お化けは皆退散しちゃうでしょ?ほらほら、用件だけ済ませたら私たちも参列に加わる。ポムスくんたちが欲しいのは説教じゃなくてお菓子!!」
 長い説教を開始しようとしたマギさんを後ろから小突いて、ノエルさんは息を整えながら要件をすませろとせっつきます。マギさんは何やら不満そうな顔をしていましたが、やがて大きな包みを開けると、中に入っている色とりどりのキャンディーやチョコレートをポムス達が体にかけているお菓子箱の中に入れました。
「いやぁ、実を言うと張り切りすぎてノエルと一緒に作りすぎちゃってさ、そのお菓子箱にいっぱい詰め込みまくっても、たぶんまだ余るくらいあるんだ、おかげで村長に依頼されてたもん作る時間が凄く無――」
「マギ!!」
 ノエルさんはとうとうマギさんを後ろからはたきたおしました。すぱんと小気味のよい音が響いて、夜の空に吸い込まれます。お化けも裸足で逃げ出す物理的暴力に、ポムスは目を丸く、パッシュは驚いて声を上げます。
「せっかく頑張って作ったものをなんでいきなりポムスくんたちにばらそうとするの!?馬鹿、サイテー、信じられないっ!!非常識っ!!」
 大きな声でまくし立てて、ぜいぜいと肩で息をします。その形相はいつもの静謐で敬虔なノエルさんのイメージとかけ離れて、この人がお化けじゃないのかとポムスは目をまん丸くさせました。
「いていていていて、やめろってノエル、ちょっと、ほんとにやめろって、悪かったってば」
 お鍋の蓋を使って呵責の無い打撃を加え続けるノエルさん、それをやんわりと受け止めて弁解するマギさん、この二人は本当に仲良しだと、ポムスは心から笑います。ノエルさんとマギさんの珍妙なやり取りを見ていたパッシュは、なぜだか震えています。まるで何か違う世界の生き物を見ているかのような奇妙なものを見るような目つきでした。
「――あら?ええとそっちのこは、確かパッシュちゃん、だったかしら」
「ああ、あの時の呪詛返しを手伝った子か」マギさんも少し前の出来事を思い出したのか、にこやかに笑いました。「trickortreat。子どもの心をもてなすのは、いつだって大人の心の大きさで変わるさ。子供の心を満足にもてなせない大人は、子供のころに自分に素直になれなかった奴だ。子どもっていうのは、いつでも大人を見て、大人になっていく。おっと、もうちょっとお菓子いるかい?作りすぎて困ってるんだ、体重が増える」
 あっけらかんとそんなことを言ってさりげなくポムスの方にもお菓子をつめようとするマギさんをポムスはやんわりとかわしました。同じ人からお菓子をもらうと、お菓子箱がいっぱいになると思って、するりとかわされてマギさんは困ったような顔をしました。しかしパッシュの方にはちゃっかりと増量していたので、あとで食べるときに量が少し減ってちょっとだけ得をするのかも知れません、そんなやり取りを見ていたパッシュは、ずれたかぼちゃを治しつつ、丁寧にお辞儀を返しました。
「あ、あの、その節は、ど、どうもありが、ありがとうございますっ」
「ん?お礼なんていいよ、それより、早く行かなくていいのか?俺とノエルのお菓子全部もらってくれるなら喜んで渡すけど」
 マギさんはそんなこと言ってにんまりと破顔しました。そうしているうちに、何やら大きなものを抱えたノエルさんがひょこりと家から飛び出しました。相変わらず息は荒いですが、身だしなみはすぐに整えたようで、どこかに出かける風情がにじみ出ていました。
「マギ、そろそろ行かないと、遅れたらあとで怒られちゃうわよ」
「おっと、そうだったな、ポムス、パッシュ、俺たちちょっと広場に用事があるんだ、一緒に行くか?お菓子もらいながら」
 その答えに、いいえと返すことはありませんでした。ポムスは喜んで首を縦に振りました。パッシュもそれに続きます。二人はお互いにお菓子箱の中身を確認しながら、ノエルさんたちと一緒に家々を回りました。時折遠くから聞こえるトリックオアトリートの声が、村中に響き渡ります。隣近所を回るだけではなく、普段知らない人と話すのもの愉しく、お菓子ももらえて、すっかりポムスとパッシュは上機嫌。何やらこういうお祭りごとに最初のぎこちなさをパッシュは感じていましたが、それも今はほとんど払拭されたようで、目いっぱいハロウィンの仮装行列のイベントを楽しんでいました。
 しばらく練り歩くと、ちょうど目的地にたどり着きました。大きなカボチャの飾り物が、広場の中央に大きく掲げられています。いろいろなものきらびやかに光り、この村で育てた野菜や果物が、さまざまな形や色や匂いに姿を変えて、周りのポケモンたちに笑顔を与えています。特にハロウィンはかぼちゃを使った料理やお菓子が多めに作られており、子供も大人も、かぼちゃ料理を楽しみながら、焚火の炎を見上げ、一年の中腹、折り返しの安寧を祈りました。ポムス達に遅れて到着したロメロ達の後ろに、恥ずかしそうにもう一人くっついていました。以前一緒になって彼女の問題を解決したことがあるのでポムスにはすぐにわかりました。
「おーい!!みんな!!それにミィルちゃん!!」
「ポムス、パッシュも」
 子供たちは広場の前のお化けカボチャの前でとまって、お互いに息を整えます。いつの間にか後ろについていたノエルさんとマギさんは、どこか違う方向へと消えていきました。子どもたちはみんな笑顔で自分達が集めたお菓子を見せ合いました。
「かぼちゃのケーキを貰ったんだ、小さめだから結構軽いよ。レンさんが作ってくれたって、ミィルちゃんは途中で一緒になったの。自分でもお菓子作ってレンさんにあげてたみたいで、なんかおかしいよね、子供が中心で動くお祭りなのに、大人にお菓子あげるって」
 そういうのは人それぞれじゃないかな、とポムスは笑います。それに対して、ロメロもまぁそうだよねと、自分の考えをあっさりと切り捨てました。サニィとパロメは、お菓子箱の中身が重いことに幸福感を感じて終始笑顔で全くそういう意見を聞いてませんでした。
「そう言えば、今年のハロウィンはノエルさんたちが何か作るって長老様に聞いたんだけど……」
「へぇ」ポムスはさっきの大きな荷物を思い浮かべました。きっとノエルさんとマギさんが言っていたものは、恐らく先ほどの大きな荷物と関係しているのでしょう。「何があるのか楽しみだね。ノエルさんたちの者も気になるけど、もっとほかの者も見てみようよ、せっかくのお祭りだし、楽しまないと」
 ポムスの言葉に、子供たちは頷きます。料理を食べてみたり、新しい飲み物を試飲してみたり、変な出し物を楽しんだり、お祭りの夜が昏々と更けていくころに、広場に人だかりができていることを確認しました。ロメロ達はきっとノエルさんたちの何かだと思い、その人だかりに走って行きました。
 ポムスはその輪から外れて、草原の方へ行きました。広場の明かりから少しだけ離れて、星空を見上げます。パッシュも、ポムスの隣にいて、同じように星空を見上げました。
「ロメロ達と一緒にいなくていいの?パロメとサニィにとられちゃうよ、ロメロの隣」
「……」
 好き、という感情はまだまだ揺れ動きました。興味と好き、どちらも必要なもので、どちらも大切なものです。パッシュは今、興味の方向が好きよりも少しうえなだけでした。
「もしかして、僕のことが気になったの?」
「はい……」
「……ふーん、もしかして、僕がロメロ達と離れてるから、もしかして楽しんでないって思ってる?」
「いえ、そういうわけでは……」
 大丈夫だよ、とポムスは笑いました。かぼちゃを外して、ちょっとだけ息をつきます。秋の風は寒さを増して、冬に近づく足音となります。いくつもの光点が散りばめられた星空は、星の海と呼ぶのが相応しいのかも知れません。ポムスは星を見上げて、綺麗と呟きます。言葉は風であり水でもあります。水のように風のように流れる言葉は、感動する時、感嘆したとき、飾ることなく滑ります。
「綺麗な星空、おいしい空気、素敵な友達。でもさ、それっていつまで続くと思う?どこまで続いて、いつ終わりが来ると思う?パッシュは、今が楽しいけど、この先はどうなるんだろうって、考えたことある?」
「え?」
 パッシュのかぼちゃを外す動きが、少し止まりました。考えたこともありません。呪いを研究して自分の力をあげて、いつかは進化したいという目標が漠然とあるだけで、進化したらその先はどうなるんだろう、そこからどうなっていくのだろう。先のことは全く分からないままでした。生き物として生まれたから、誰かと一緒になって、幸せな家庭を築き上げていくのか、それとも、ずっと一人のまま生きていくのか、いづれはわかることということで、パッシュは先のことをあまり考えないようにしていたのは事実でしたが、ポムスは何やら考え込むような顔をしています。
「僕はさ、ロメロ達とずっと一緒にいたいと思う。けどそれってどうやっても無理なんだと思うよ。一緒にいることができるのは、一緒にいる間だけ、年が過ぎて、春になって、また夏になって、また秋になる、また冬になったら、また春になる。月日を重ねて僕たちは成長していくんだ。そうしたら、こういう時間も、いつかは思い出に変わっていく。そして大人になって、忙しさの中に呑まれていってしまうんじゃないかなあって」
「ポムスさん」
 ポムスは星空を見上げて、瞳を細めました。心のどこかではわかっていることなのに、やはりそういう時間が過ぎていくことは認めたくないのか、少しだけ透き通った黒が、ほんの少しだけ滲みました。
「僕はみんな大好きだ、この村も、ロメロも、パロメも、ミィルも、レンさんも、マギさんも、ノエルさんも、サニィも、パッシュも、長老様も、みんなみんな大好きだ。だけどいつ終わりが来て、いつ一人になるんだろうって思う。一人になったら、どうやって一人の時間を過ごせばいいんだろうって思う。パロメもロメロも、口には出さないけど、きっと考えてはいるんだよ。『こども』から『おとな』に変わった時のことをきっと……」
 ポムスは淡々と、自分の思いを吐き出します。パッシュもそれを、ただ淡々と聞いています。彼女の興味は、ますますポムスの言葉に茎漬に――いいえ、ポムスそのものに惹かれ始めます。
「僕は口に出すと恥ずかしくて、さみしくなっちゃうから、いっつも何も言わないことにしてるんだ。ロメロもパロメも、わかってるから言わない、何にも言わないから、わかってる。僕もだから口には出さないけど、自分から一人になってるんだ……もし一人になっても大丈夫なように」
 パッシュはポムスの言葉を聞いて、妙な引っ掛かりを感じました。それが何なのかはわからないけれど、確かにそれは引っ掛かりであり、ポムスの言葉は正しいけれども、何か間違っているようにも聞こえました。一人になってしまうのは、確かにいつか訪れることですが、それはその時が来た時に覚悟をすることで、今から一人になると思うことは、間違っていると思いました。
「ポムスさん、それは違うと思います」
「え?」
「一人になることは確かにいつか訪れることです、変えられないし、きっと起こってしまうことかもしれません、私達との出会いも、三人で一緒に過ごした日々も、全部全部思い出に変わってしまうかもしれません、サニィもパロメちゃんも、ロメロ君もポムスさんも、私にとっては大切な人たちです、私たちの問題を解決するきっかけになったのもロメロさんやパロメちゃん達のおかげです。好きになれたのもみんなのおかげです、けど、いつか来る一人になる時のために、今から一人になるのは間違ってると思います!!」
「……そうなのかな?」
「そうにきまってますよ」パッシュは確信をもって答えました。一人になることよりも、もっともっと大事なことは、誰かと一緒にいる事だから、そう心に言い聞かせました。「一人になることよりももっと大切なことって、今の時間を友達と一緒に、もっともっと楽しむことじゃあないかなって思います。一人になるのは、一つの覚悟なんですよ、きっと。まだ絶対、とか、必ず、っていう理由はないですけど、覚悟はその時に決めるものであって、今から決めておくことじゃないと思うんです。『いつかなってしまう一人の時間』よりも、今の時間をいっぱい大切にして、一人になって、遠くに離れて行ってしまった時も、『なってしまった一人の時間を吹き飛ばすくらいの思い出』を作ることが大事なんだと思います。だから、こんなことしてたら……ダメ、ですよ」
「――パッシュ」
 ポムスはまるでそんな考えをしませんでした。いつか起こる時間、終わりが近づく時間、一人になって、過ごす時間、それは寂しく、きっと泣いてしまう時が来るかもしれません、しかしそれ以上に大切なことは、そんな時間を吹き飛ばすほどの愉しい時間である今を、どれだけ心に焼き付けるか。大切なイベントを前にして、一人孤独に星空を見上げている自分が、ポムスにはばかばかしくなりました。
「――そうだね、一人になる時は、その時の覚悟を決めればいいんだね。僕、間違ってたのかも。一人よりももっと大切なのは、一人の時間を埋めてくれるほど大切な絆を作ること、だもんね」
「そうですよ、その通りです」
「ありがとう、パッシュ、君とお話できて、僕、一人でも大丈夫な気がしてきたよ」
「――はい、私も、ちょっとだけポムスさんのことがわかってよかったです」
 お互いがお互いに笑い合っていると、後ろから聞きなれた声が聞こえてきます。
「おーい!!ポムス、パッシュちゃん、何やってるのそんなところで!?」
 ロメロが口の端にクリームをつけて走ってきました。何事だと思っていると、にこりと微笑みます。
「せっかくのハロウィンなのに、こんなところにいたらだめじゃないか。ノエルさんたちすっごく美味しいケーキ作ってくれてたんだよ、ほら、二人とも、食べに行こうよっ」
 ロメロに引かれるように、二人はちょっとだけくっついて走り出しました。夜の空に照らされて、二つのくりぬいたお化けカボチャだけが、その場に寄り添って残されました。走りながらポムスは思います。自分の考えを一辺倒することよりも、他人の思いを組み入れて、考えることも大事なんだと、走りながらパッシュに笑顔を向けると、パッシュも笑いました。
「ありがとう、パッシュ、君の言葉が、最高のトリートだよ」
「はい、ポムスさんと一緒にいれたことが、私の最高のトリートでした」
 二人が二人で笑いあい、自分達の心を満たす互いの存在に、最大級のもてなしを返します。子供同士のトリートは、子供たちの笑顔。子ども同士にトリックは必要ありません、それ以上の笑顔が、これからも芽生え続けることでしょう。
 ノエルさんたちのケーキを食べながら、ハロウィンの夜は更けていきます。ポムスに対しての見方が変わったパッシュと、パッシュの言葉で一つの考えを思い立ったポムス。この二人はまた一つ、この後に何か変わるきっかけが芽生えますが、またそれは別のお話で。
Trick or treat!!
 ありがとうございました。





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Last-modified: 2011-11-01 (火) 00:00:00
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