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もう一つの自分-2

/もう一つの自分-2

作者GALD
前回


日は水平線よりも高く昇っている。長い間眠りについていたようだ。昨日一日だけで積み重なったことの数々が多くの負担を掛けて、俺は精神的にも疲れてきたようだ。
体を起こすと足がだるく言う事を聞かない。それでも無理やり動かすと、頭の命令に数秒遅れて立ち上がる。
手を天井めがけて伸ばし、背伸びをすると体の歯車が回り始める。今日も異常なく動いてくれるようだ。
「ようやく起きたのね、何処いってもお寝坊さんね。」
ほぼ日常に溶け込みつつあるこのやりとり。フィリアが調子を取り戻してくれている事にひとまず安心する。
悪いなと俺が笑いかけると慣れたとそっけなく返事を返すフィリア。そして無責任にも支度は任せたと背で語りながら一人で出て行く。
俺は持ち物の整理に入ると改めて必要なかったなと感じざる得ない物がいくらかある。勿体無いとは言え、今の足のコンディションを考えるとどこかに置き去りにしてしまいたい。
独りでぶつぶつ呟きながらリュックの中身を整頓し直し背負うと、これから先の不安の様に重さを掛けてくる。
部屋の鍵を閉めてフロントに出ると朝からラッキーやタブンネ達が懸命に働いている。フィリアも見習って俺の背中の重さを減らしてくれればと、この光景を羨んでも仕方がない。
現にフィリアは見慣れない建物に興味があるのか、フロントを歩き回っているだけで俺が来たことにすら反応を示さない。
鍵を返すと俺はポケモンセンターを後にして、次の町への旅路をたどり始める。ハーボッシュまでは道以外何も地図には記されていない。
同じように続く風景に飽きずにただひたすら続いている道を歩いて行くしかないようだ。
フィリアは身軽そうに俺の前を歩き、俺に力が余っているアピール。こちらの体のリミットに比べて、フィリアの足は相当タフのようだ。
「お前は元気なのか?昨日の戦闘は見てる感じだと激しいものだったはずだが。」
「一日あれば大丈夫よ。あんたが止めに入ったから、大したダメージをもらう前におわっちゃったし。それにそんな嫌な事を思い出させないで。」
朝から立て続きに俺は悪かったとフィリアに詫びを入れる。
フィリアも完全に立ち直っているわけでもないようだ。やつあたりを抑えるために、フィリアは先に部屋から立ち去る。
俺も支度を済ませて部屋に鍵をかけてたから、扉を引いてから、動かない扉に背を向けて去っていく。何気なく今日一日の始まりを感じて、出だしに日を浴びようとした時だった。ふともの足りなさが生まれた。習慣により忘れ去られていたことがよみがえる。リュックを探ってみると暴虐の彼方に消えかかっていた薬が手に当たる。
けれども、相方に相当する水が手元には存在しない。多少値が張るが仕方なく自販機で有名な水を一缶購入する。名前は忘れてしまったがどこかの山の水というのが売りらしい。実際の所、本当に出所がどうなのか真偽を確かめるすべがないのだが、俺は疑っているクチだ。
朝起きて何も飲んでいないので喉が渇く。蓋を開けて口の中を水で潤してから薬をほり込むと残りの水で流しこんだ。すると、これだけで缶が空っぽになる。これが100円を2枚を必要としているのが、どうも俺には腑に落ちない。こういう公共の建物に限ってサイダーとミックスオレと水の三点セットの自販機ばかりが置いてある。
やむえなく買ったとはいえ、やはり後悔と言うものが残留し、缶をゴミ箱に捨てる際も少しためらってしまう。缶と別れた後も後悔の文字が俺から離れない。
外に出て空気を吸い込んでみても心が綺麗に晴れることはない。不機嫌そうな面を下げていると、そんな俺よりも増して機嫌が悪そうなフィリアが待ちくたびれていた。
「薬ぐらい許してくれよ。」
「毎朝飲んでるやつでしょ、知ってるわよ。」
本人は分かっていたとまで強固な姿勢を崩すつもりはないようだ。やはり、昨日の事を未だに引きずっているのか、けれども昨晩は俺にはそうは見えなかった。
「それで、その薬にも何かあるんでしょ。どうせ教えてくれないんでしょうけど。」
ふんと背を向けてフィリアが歩き出した。疑われるとはまた面倒な境遇に置かれたもので、この姿勢をどうやって崩させるかが問題になる。簡単に自分の言ったことを曲げるほど器用な性格でないのだから、こうやって変に誤解したフィリアの相手をするのは俺の壁になって塞がる。
「何もない、今回は信じてくれ。」
駄目もとで言ってみるも、駄目なものは駄目でフィリアは聞き流している。何一つ聞き入れて盛らずに歩きながら機嫌取りに俺は必死だった。
半分以上諦めかけていた俺はとうとうネタを切らしてしまった。意欲があっても打ち出すものがなければ口は動かない。
港に近づいているのか人の姿もぽつぽつと見受けられる。すれ違ったり抜かしていくと、耳に自然と会話が入ってくる。俺はそれを聞きわけて話の種を探していた。しかし、聞き取れるものはただの雑談や個人的な物が大半で打開策になってくれるものはない。
そんな中に埋もれて状況打破の切り口とはなりえないが、俺自身気をひかれる話題があった。具体的にどれほど離れているのかは知らないが、町全部が姿を消してしまったらしいのだ。特別な施設があるわけでもなく、狙われてる理由を持ち合わせていない。紛争地域でもなく平和な環境らしいのだが、一定範囲の土地全てが消えてしまったようだ。たまたまくじ引きで決まったとでもしか理由付けが出来ないらしいが、町ごとすっぽり消えてしまうということが気になる。手品にしては規模が大きすぎるし、俺の中では消滅してしまったとまでは言い切れるが、消滅した原理が分からず首を曲げた。
一体だれがどうやって、とりあえず人間の技とは思えない。大型の機械か飛行タイプのポケモンの力で持ち上げることが仮に可能だとしても、簡単に発見されるだろう。それに、仮の話であって土地を持ち上げること自体、可能の隣り合わせにさえなれない。だとすればどんな過程を通してのこの結果を引きずり出したのか、手がかりも何もなく手ぶらで難題を解決するのは無理のようだ。
けれどもそんな遠方の事があまり実感が得られずに、目の前の問題の方存在が大きく感じられてしまい、結局記憶の棚のどこかにこの話しをしまい込んでしまった。
多少気を紛らわせるには良かった内容だったが、離れていざ現実と向かい合うと、やはりどうしようもないというのが導き出された答えだ。お手上げの状態で俺は黙りこんでいた。
「少し塩っぽい匂いがする。」
フィリアに言われて嗅いでみると、微かに空気の違いが感じ取れる。
海から吹きこんでくる風は塩を運んでくるかのように俺達の鼻に訪れる。
流石はポケモンと言った所か、人間よりも変化に敏感に反応するようだ。
「海が近いみたいだな。思ったより早くつきそうだ。」
「あんたがもっと速く歩いてればついてるわ。」
また俺のせいにするフィリアだったが、今日はフィリアのペースで歩いているのだから、俺としては最善を尽くしたつもりだった。
それを言おうとして、一歩踏みとどまる。フィリアのペースについて行けていたのは俺の努力が要因ではなくて、向こうが最初からペースを落としていたからで、それをついて行けていると俺が錯覚していたのだ。先頭を歩いている割には俺に気を使ってくれているようだ。
「悪かったな、お前が気遣いするなんて思わなかった。」
「心外ね。まぁ、なんでも鈍くて鈍いあんたには仕方のないことでしょうけど。」
話題探しをしていたことに結局は何の意味もなく自然と会話が作りあがった。材料を探しまわったけれども新しい物は何一つ使持ち出すことなく、色々と話を組み立てていく。そうして、せっせと並べていく内に道の片側は青へと変わり、波音が海の存在を教えてくれた。青い海を綺麗と取るか、底が見えないから汚いととるか、俺達はどっちつかずで海にはそれほど興味を示さなかった。
隣り合わせている陸と海という対照的な存在に挟まれながらも、風景としてはすぐに見飽きてしまうものだ。フィリアに関しては綺麗だとは一言も言わないし、はしゃくほどの歳でもないので眺めている程度だった。それから更に進んでいくことで船などが沿岸に多く見え始めると、ようやく港が姿を視界にあらわした。
海が見れた感動よりも、遠くに見える港に対しての達成感の方が大きく思えたのだった。
町に入ると、人々が多く香料が盛んなのがうかがえる。港町というだけあって、物流の場と呼べる場所にふさわしい活気。けれども、こうも人が多くては誰が何処にいるのか待ち合わせをしても見逃してしまいそうだ。
おまけに、目的の手がかりもなくただ路地を彷徨うことしかあてがない。行けば分かるなんて、そんな簡単に見つかるわけがない、どうやって探し出せと言うのだろうか。
フィリアも俺と同じように選択肢が残されていない事から、ぶらぶらと訪露している。
港町として栄えているだけあって、辺りは魚類関係を扱っている店が多く開かれている。生臭さは新鮮な物が並ぶ路上では避けられないことだが、俺は特段気ににはならない。フィリアは少し顔をしかめているようだが、文句は我慢しているようだ。
「なぁ、こんな調子で見つかるのか?」
「あんたがなんとかするんでしょうが、私に頼らない。」
遠まわしに俺をはけ口に使っているようだ。やはりこの空気の立ち込める世界ではフィリアの鼻がたえかねるようだ。難の発見もなく彷徨って一日を終えるように思えたのだが、成果が見えだした。フィリアが何かを追跡し始めた。人が多く駆け抜けるには困難な路地を、ぶつからずとまらず、見事にすり抜けていく。
俺も流れに沿って連なろうとするが、俺の反射神経や体格などのもろもろを考慮すれば真似が出来ないのは明らか。
眼で追ってなんとか同じ道を辿るしかないのに、フィリアに角を曲がられてしまう。そこで一旦視界から存在が途絶えるが、続いて曲がったと所で再びフィリアの存在を認識する。何やら見慣れない相手と対峙しているようだ。町に来て早々厄介事に首を突っ込まないでほしいんだがな。
「やぁ、久しぶりだね、フィリア。奥にいる彼、ソルマなのか?」
見慣れない相手は人ではなくポケモン。格好までも見たことのないような見覚えのない外見だ。腰にはベルトが巻かれており、両サイドには革製の三角形物に何かをしまい込んでぶら下げている。腰に手を当て相手が立っていることから、いつ中から物を抜きだすのかと俺は目がそっちに行ってしまう。
そして方には何か怪しげな袋を掛けていることからも、まるで旅人のような風格が出ており、怪しいこと極まりない。中に何が入っているのか、こちらも気にはなるが、他人の物を急に見せろと要求するのもおかしな話だし、奪うのもいい選択のわけがない。気になるものばかりをぶら下げられては、警戒心が尽きることはない。
奇妙な事はそれだけには尽きない、名前を知っている事からこちらに対して何か接点をもっているのだろうか。
ここに来るまでに奇妙な奴とはすでに一度出くわしている、油断は出来ない。俺は気持を尖らせた。
「そんな睨むんじゃない、まぁ無理もないか。自己紹介は歩きながらで構わないね?」
俺は未だに気を許したわけではない。けれども、勝手に相手が町を去ろうと淡々と出口まで歩いて行くのに嫌でも足がついて行く。
というのも、フィリアが無警戒で釣られるようについていくからである。パートナーを放置になんて簡単にできはしない。だから、正確に言うにはフィリアに嫌々連れていかされているからというのが現実である。
脅されている可能性も捨ててはいないが、フィリアが無警戒というのが俺には引っかかっていた。折角訪れた街も、適当に放浪して偶然出会っただけでおさらばなんて寂しい話である。観光に来たわけではないといってももう少し楽しめたように思える。
気にしていた所で潮風に吹かれながら一人と二匹、後ろに名残惜しくもハーボッシュの面影が残留している。振り返ると、手を振っているというよりも呼び戻そうと叫んでいるような、そんな思いを前を向いて俺は振り払った。
「さてと、何から話せばいいのかな?」
「あんたは一体何者だ?俺達の事をしているようだが、会った覚えがない。」
「そのことに関しては謝ろう、すまない。本来私は君を守ることを頼まれている立場でね。言い訳をすると、色々あったわけなんだ。」
守るとは一体何なのか、俺がそこらに歩いている人間と違うことを知っているようだ。やはり、油断ならない相手だ。
「誰に頼まれた?」
「それは君の母親に聞いた方が良いだろう、今の私がいった所で信用しないだろうしね。」
母さんが知っているという発言からさらに俺の頭が絡まり始めた。急展開に全く追いつけない俺は、何を聞いたらいいのかさえ見失う。
「あとは…そうだな。フィリアの育て親みたいなものだ。」
最後の一言に俺は一番衝撃を受けた。確かに出会ったときからサンダースでおかしいとは思っていたのだが、母親から渡してもらったことからそんな違和感すぐに抜け去ってしまったのだ。
母親の手持ちではないことは知っていたが、そこまで興味がなかったが今こうして聞かされると、俺は驚きを隠すことはできない。
「勘違いしないで。私の育て親なだけよ。」
「変わらないな、全く。実は生みの親は私じゃないんだ。もともとは…」
得体の知れないものが言葉を発する途中で、フィリアの声が響いた。紛れもなく黙ってと俺の耳には響き渡った。さっきまでの警戒心が抜けていたフィリアが急に切り替わり、表情は鋭く尖り口を滑らせかけた者を串刺しにして黙らせた。普段の不機嫌な時のフィリアではなく、真に怒りで周りを威圧する姿がそこにはあった。
長い付き合いになるが、ここまで怒ることはそうはない。フィリア自身が短期というわけがあって、細かいことでも怒りはするが大したことはなくすぐに忘れ去ってしまう。けれども、今のフィリアは根に持ったような感じだ。
「悪かった、久しぶりなんで口が動いてしまってね。とりあえず、肝心な事を答えていなかった。私はギリウス、見ての通りルカリオという種族だ。」
赤い目と俺の視線が交差するとにっこりと笑うギリウス。ポケモンという存在に関してはまだまだ薄い知識しか持ち合わせていないため、一目みただけでもルカリオとは判断できない。
今一度見てみれば、ピンと立っている耳の付け根の下には左右両方に黒い膨れ上がったものが垂れさがっているし、目も赤色で両手の甲には棘が生えており、特徴的な外見をしている、今後見ればルカリオと判断できるだろう。
俺はさらに深い入りしようと質問を投げ続けたが、ギリウスは大事な所は全て隠してしまう。フィリアも適度に会話に口を挟むものの、ギリウスとの関係や過去に関しては口を動かしてはくれない。俺はこの日まともなことを知れずに焦りを覚えた。


どこか見覚えのある建物で私たちは夜を迎えていた。ノーリットまで戻ってくると、ソルマがすぐにここにきて部屋を迅速に取ってくれた。ここまでは早くていい動きを見せてくれていたが、部屋に入ったとたん疲れが爆発したのか急に寝はじめて今は機能停止している。
確かに、私がギリウスと再会を果たしてからソルマが変だとは分かっていた。でも、何を考えているか私には知る術がないので確認は取れない。だから疲れが原因だと妥当な判断を下したつもりだ。
今はただ寝静まった部屋の静けさに落ちつけずにぼーっとしている。焦点をどこにも投げかけず、ただ空の方に向いていると、何者かが私の背中を軽くたたく。振りかえると、ギリウスが自分の口元に手を持ってきて指を一本付きたててみせる。
その後親指だけを立てて扉の外を指す、ギリウスは外に出ようと暗示じているようだ。
ゆっくりとソルマを起こさないようにギリウスは部屋を出て行くが、続いて行く私の足が止まる。ソルマの存在が頭によぎって私の体の動きを踏みとどまらせる。無断で手元を離れてしまっていいのか、その場に少しとどまってから私は思いを振りきって外に出た。
夜の野外は昼間に比べると気温は低く、人気もなくて不気味であるが、室内の静けさよりもまだこの不気味さを含んだ静寂の方が私は落ちつけることができた。
「こうやって向かい合うのは久しぶりだ。元気だったかな?」
「余計の心配はいらないわ。それより、色々聞きたい事があるの。ただの馬鹿じゃないとは聞いていたけど、まさかあそこまで…その、人間離れしてるとは、聞いてないわ。」
「人間離れしているか、間違ってはいないがもう少し言葉は選んだ方がいいじゃないか。」
そんなことは私も分かっていたが、どう言えばいいのか分からないのだ。あんなわけのわからない能力を見せつけられても、適切な言葉を見つけれずにこちら側が困る。
世の中にはそっくりそのまま、その者に変形する技があると言うのも、私が聞いた事はあるが実際見たことはないし、それにソルマが人かそうでないかと言えばもちろん前者だと、自信はないが私は言い切れる。もちろん、自信がないのはあのような能力が備わっているからである。
何かを鍛えたからと言って身につくような技ではないし、それにもっと納得がいかないのが私よりも何段階も上に存在する強さを有している事だ。多少なりとも私は戦闘などを通じて、たくさんの感覚を養いそして技を磨いてきているのに対して、ろくな事もしていない体に後れを取っているのがいまだに信じたくない。
「話をそらさないで、ちゃんと答えて。何であいつがあんなに強いのよ?何よあれは。」
「それは後で話すつもりだからお楽しみってことじゃ駄目かな?」
「ふざけないで。私は真面目なの、あんたの茶番に付き合うつもりはないわ。」
「全く、久しぶりの再会と言うのにつれないな。ソルマには間違いなく二つの波導が存在している。今はかなり弱いが、本人のものと違うものがね、それだけの話だよ。」
「はぁ?何言ってるのか訳分からないわ。ちゃんと説明しなさい。」
私がギリウスをとがめると、誤魔化すようにしてギリウスは私の頭に手を置いて優しく撫でる。久しい感触だった。いつもはソルマの手が添えられるので、忘れかけていたがギリウスの手の感覚にあった思い入れが息を吹き返した。
でも、過去に浸らされて話の存在を隠されては私の本来の目的らそれることになってしまう。それを避けるために、私は毛を立てて撫でるギリウスに抵抗感を与えてやる。
意味の分からない言葉で、適当に誤魔化されては納得がいくわけがない。仮に分かったとしても、波導とは私の様な種族では感じられない世界の単語、特殊な種族でしか確認の取れないことで証明できると言われても、はいそうですねと頭を縦に振ることはできない。
「そんなに焦ってどうするつもりだい?確かに驚くことなのは分かるし、恐怖するもの無理はないが…」
「私の感情を勝手にみないで。」
私は怒鳴った、それ以上先に続くギリウスの言葉を耳にいれたくなくて話を切断した。ルカリオと総称される輩は、能力の優れるものや感覚を磨いたものは、波導と言う形で他人の心を読み取ることができるらしい。
集中力も必要とするため、戦闘中ではそればかりに気を取られていられはしないらしいが、平和は会話中ではこっそり人の心を覗いたりするのに、ギリウス本人が言うには便利で使っているらしいのだ。
「私が恐れてるわけないでしょ、あんな馬鹿相手に…」
自分で口にして自分で矛盾している事に気付かされる。不安という言葉が当てはまらないこの落ちつけない感覚、これが恐怖と呼ばれる類のものなのだろう。だから、私は人間離れしているなどという言い回しを使っていたのだろう。ここまでたどり着く道中でも、ほとんど私はソルマの口をきかなかったが、それは私が隠し事にイライラしていたのではなくて、言葉が繋がるたびに恐怖が私の中にしみ込んできて、焦って続く言葉を振り払っていたのだ。
間違えなく私は恐れている、ソルマを。外面でどれだけ強く装っていても内面はもろいのだ。
「勝手に読み取ったことは謝ろう。けれども、お前がそんな調子じゃ、うまくいかないぞ。これでも心配はしているつもりだ。」
「そこまで言うなら、どうしたらいいかぐらい教えなさいよ。」
「そうだね、とりあえずもう少し落ち着いて、素直になるべきだね。昔から、素直じゃないからね、私がまだ心をよめるからいいものの。」
そんなことは自分でも自覚していると投げ返してやりたくなったが、分かっていても出来ていないのが現実であるので、私は黙ってしまう。仮にここで言い返したところで、それは結局自分を正面かた受け止めていないことにつながるので言い返さず、ここは踏みとどまる。
「それが出来るなら、素直に自分の思う事を言うべきだろうね。」
「なめてるの?子供じゃないんだから。」
こうやってすぐにやられたら反射的にやり返す所が子供だと言うのに、私はこうも簡単に口走ってしまうのだ。
反抗的な感情は簡単に出せても、やはり強気なせいなのか弱い自分を隠してしまう。隠してしまうと言うよりも、怯える私から私が逃げているの方が適切かもしれない、素直に正面から私を受け止めていないのだから。
同時に私は恐怖からも目を背けていた。怯える私の後ろから追いかけてくる恐怖から目を逸らして、自分はあたかも何も見ていない、恐れてはいないと勝手に錯覚していた。
私が都合のいいように物事を受け止めて、事実を私の中で歪めて認識してたから、ソルマの能力に対していらだちなどを覚えていたのだろう。私の感じていた焦りはいらだちではなくて、本当は身近に恐怖が身を潜めていることに対してなのだろう。
「それじゃ、私は戻るよ。寝ないと体に悪いしね。」
「最後に答えなさい。私が真面目に…その、怖いって…もしもよ?言ったらあの馬鹿はなんて言うと思う?」
言っていてやはり自分でも躊躇いがあるのか、慣れない話題をするとどうもストレートに投げれず、詰まりそうになる。
「さっき怒られた私に人の心を読めというのかい?冗談は置いておいて、それはお前次第だろう。まぁ、悩んでいるようでは上手くいかないだろうけどね。」
手を振りながらギリウスの後ろ姿が建物の入口に飲み込まれる。ギリウスの述べた事は紛れもなく正論である。私がちゃんと弱さと向き合って、それでも口を動かすことが出来る時が訪れた時に分かることなのだろう。それに、悩んでいる私も本来の私らしくないのかもしれない。自分の思うように進んできた私の足を、止めてしまう事は私らしさに反する行いなんだろう。
少しは気持ちの切り替えにもなり、プラスな気持ちで落ち着きはしたが、今後に対しての不安の味を忘れることもできずに、変な味を覚えながらも私は部屋に戻った。


ノーリットで夜を過ごしてから、俺達が久々にネイトに訪れるまで、二匹事だけが隠し事を共有していて輪から外されている疎外感が俺から居座り続けた。
ただいまと叫んで俺は玄関に靴を脱ぎ捨て、ようやく重たい荷物を下ろすと、その場に座り込んだ。途中で休憩を入れたと言えども、一番落ち着けるのは自分の家で、疲労が襲い掛かってきた。
「あら、お帰りなさい。ギリウス、久しぶりね。」
母さんまで知っている様子に、一層俺は自分だけが置き去りにされている気がして、妙にいらいらした。独りだけ乗り遅れた世界で必死に手を伸ばしているのに、誰も取り合ってくれない気がして、いっそのこと違う世界に逃げ込むようにこの家から立ち去りたくなった。
「ひさしぶりだね、シャスラ。急で悪いんだが、話に付き合ったもらえないかな?ソルマも来てくれ。これからは大事な内容だ、君の知りたがっている事もある。」
自分の家でもないのにギリウスはすたすたと俺よりも先に中へ入っていく。帰路に入ってからと言うもの、基本的にギリウスが先頭を歩いて行っていた。本来の自分の立場も奪い去られてしまい、俺はもうこの空間に存在意義を持っていない。だから、少しでも意味をなそうと反抗して見たくもなったが、子供じゃないと言い聞かせてフィリアに続いてリビングに入った。
母親とギリウスは椅子に座っているので、俺は思いを抑えれずちょっとした反抗にフィリアと同じように床に座り込んだ。
「揃ったね、さっそくだけど本題に入らせてもらう。ソルマ、単刀直入に言うと君は人間であってそうではない。君は混血、ポケモンの血と人間との血が調和している特殊な物を持っている。まずは、君の中にいる得体の知れない物を引き離した方が分かりやすいかもしれないね。」
ギリウスの言っている事に衝撃を覚えるよりも、言葉の難しさが俺を混乱させていた。自分が並の人間じゃないことは自覚があったので驚きは少ないが、自分の正体がギリウスの言葉だけでは俺の頭では定義付け出来ない。
唖然としている俺の方にギリウスは立ち上がって歩み寄ってくる。両腕には僅かに青白い炎のようなものが漂っており、ぼーっとしていた俺は反応が数秒遅れた。
次の瞬間、奇妙な気を纏った両手でギリウスは俺の体につきを入れたのだ。どさっと何かが倒れる音がその場に流れた。


ギリウス「腰のは秘密だよ。」
フィリア「どうせ、見た目だけで大したものじゃないでしょ。」


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Last-modified: 2011-11-17 (木) 00:00:00
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