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めざめるパワー

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※includeプラグインは外してくれて構いません

以上、代理人こと狐眼の提供でお送りしました(



※人間とポケモンです。人によってはBLっぽく捉えられるかもしれません。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                  ハ_ハ  
                ∩ ゚∀゚)') < ワンクッション!
                 〉  / 
               (_/丿

 
 
 
 
 
 
 
 

「お前んちのアイツってさー」
「うん?」
 僕は夕食のシチューの材料を手に取りつつ、友人の何気ない一言に顔を向けた。
「エロいよな」
 刹那、スーパーの店内の一角、野菜コーナー東側陳列棚周辺に鈍い音が響き渡った。僕が手に持っていたニンジンが聖剣となり、悪の魔王である友人の即頭部に一撃を加えた音だ。
「うごごごご……。おのれ、例え我が滅びようとも第二第三のベルゼブブが貴様を性的な暗黒面に」
 魔王は地獄の底から響くような呻き声を上げつつ、黒い灰となって崩れ落ち――はしなかった。是非とも地獄三丁目にお帰り願いたかったので、僕はカートの中に鎮座していたジャガイモナックルを右手に装着、魔王の後頭部へ追撃を見舞う。
 ガッシ、ボカッ! 魔王は死んだ。
「ごふ。いやちょ、今本気だったろ。一瞬星が見えたぞ」
「本気だった。平和のために必要だと思った」
「ええー。何ですか、俺はただ自分の正直な感想を述べただけじゃないですか。あれー? この国には言論の自由が保障されていませんでしたっけ。おおっとこれは言論弾圧だー私は不当な権力行使には断固として戦うぞーいや何でも無いからもう勘弁してください」
 僕が野菜コーナーに並んでいた大根を握り締めたところで、やっと友人は口を閉じてくれた。
「大体」
 溜息を吐きつつ大根を元の場所に戻しながら、僕は続ける。―― 一本百四十八円。結構お買い得かもしれない。
「まず、こーいう公共の場でそーいう卑猥な単語とか話題とかは喋んな。ついでにエロいってどういうことだよオイ」
 件の『アイツ』とは、僕が飼っているポケモンのことである。長年一緒に過ごしてきたパートナーとでも言うべき存在に投げかけられた言葉を、僕は黙って聞き過ごすわけにはいかない。
 友人は僕が殴った後頭部周辺をさすりつつ、んんむ、と唸った。
「いやー……、色とか?」
「色」
「そう色。アレはヤバイね。心を奪われる。あと腰つきとか」
「腰つき」
「そう腰。腰から尻。アレはヤクいレベルだね。何かもう、見ているだけで身体の中心から熱い何かがほとばしると言うか、あの美しい曲線を頭の中に描くだけで俺の股間がとってもエクスカリバー」
 白鳥のポーズを決める友人。僕は何も考えずにショッピングカートの戦車を突撃させる。ガシャンという音が大きく鳴り響くとともに、友人の身体が一メートルほど吹っ飛んで仰向けに倒れた。
「よし、会計してくる」
 僕はカートを掴み直すと、早足にレジへと向かい始める。周辺に居た買い物中の奥様方から、あらやだ、最近の若い子は……的な視線を受けるが気にしないことにした。この店であの友人を吹っ飛ばしたことなんて、もう片手で数えるのでは足りない。
「おおーぉぉい! 待てようガルえもーん!」
 友人が無駄にクネクネした動きで後を追ってくる。どうやら突撃の威力が足りなかったらしい。ジャガイモをもう一袋積んでいれば中々の威力になったかな、と今更後悔してしまった。
 因みにガルえもんとは、お腹の四次元ポケットから不思議な道具を出すガルーラ『ガルえもん』を題材にしたアニメのタイトルである。友人はそのガルえもんにお世話になっている小学生の真似をしているようだが、二十歳にもなろうという大学生がスーパーの一角で同じ動きをすると、ただ単にひたすら気持ち悪い。
「あー……、もう。冗談だってのに。半分くらい」
 追いつかれた。クネクネしていた割に相当な移動速度を保っていたらしい。実におぞましい。
 丁度空いていたレジにカートを進めつつ、僕はまた溜息を吐いた。
「半分かよ……。正気の沙汰とは思えないな。先週貸した千円返せ」
「おう、半分くらいは本気と書いてマジと読む。ついでに狂気の沙汰だぜ。忘れるところだった。ほら」
 友人の尻ポケットから現れた皺まみれのお札を指二本で摘まみ、レジの小銭受けへと置いた。やり取りを見ていたバイトのお姉さんが、凄く嫌そうな顔でそのお札をレジの中に仕舞う。
「いやー、この前お前の家行ったじゃん? 家っつってもアパートだけど。あの人懐っこさにキュンと来たね。やられたね」
「……まあ、確かに生まれたときからずっと飼ってるから、人間慣れしてるけど」
 お釣りを受け取りつつ、僕は続ける。丁度レジに客が少なかったようで、全部袋詰めしてもらえたのはラッキーだ。
「でも雄だぞ、うちのブラッキーは。知ってると思うけど」
「知ってる。俺もまさか雄にトキメキを感じる日が来るとは思わなかった」
 まず人間という枠をすっ飛ばしてるところが問題だろう……とは言わないでおいた。この友人に常識とか正論とか、そういったものが一切通用しないのは長年の付き合いで良く分かっている。
「知った上で半分本気かよこの宇宙人」
「ハイ。つきましては是非とも一日レンタルを」
「絶対にイヤだね」
 割り込むようにして断った。愛着のあるパートナーに何かがあっては堪らない。
「えーえーえー。良いじゃんちょっとくらい。一晩中撫で繰り回すくらいだから」
「危険人物の元に預けるわけにはいきません。もし旅行とか行くことになってもお前には絶対預けない」
「えーえーえーえー。ケチだなあ全く。八割冗談だって言ったじゃん」
「さっき半分って言ったくせに。……十割まるっと本気だったってのが良く分かった。もう、こっちはさっさと帰るぞ」
 買い物袋を腕に提げて、ショッピングカートを元あった場所に戻しつつ、友人を睨む。俺も買う物があるから、とか言って着いて来たくせに、結局何も買っていないあたり、どうやらただの暇人だったらしい。
「ちぇー。良いよ良いよ分かったよ。俺はうちのフライゴンに優しく慰めてもらうから」
 友人はフライゴンを飼っている。つい最近ビブラーバから進化したばかりのようで、嬉しさのあまり毎日激しいスキンシップを取っているらしい。ちなみに雌だ。一度この友人のアパートにお邪魔したことがあるが、抱きつかれて身体を撫でまわされているフライゴンの呆れたような表情が妙に印象に残っている。
「そういや」
 ついでに、友人のアパートの部屋は僕の部屋より一回りほど小さい。今は進化したてだからまだ良いだろうが、これから本来の大きさへと成長していくであろうフライゴンにとってはどんどん手狭になるだろう。
 良い機会だということで、この友人が新たな住処を探しているのを思い出した。
「引越しはどうなったんだ?」
「あーうん。フライゴンサイズのポケモンもオーケーで、割安なところ探してる。もし良いところあったら連絡してくれ。心理学のノートを写させてやる」
 この友人、成績は優秀である。貸し借りで言えば明らかに借りている部分が大きいので、少なくともノーと言うわけにはいかない。
「はいはい。んじゃ、明日の午後かな。また」
「おうよ。待ってろよー俺のフライゴン」
 自転車に跨り、猛スピードで走り去る友人の背中を見送ってから僕も帰路へとついた。わざわざ僕の買い物に付き合った友人とは違い、僕のアパートはこのスーパーから徒歩十五分のところにある。木枯らしが吹き付ける寒さが厳しいこの季節には、自分のアパートの立地がとてもありがたく感じられる。
 来週提出の課題どうしようかなあ、等と考えながらの十五分なんてあっという間で、僕は二階建てのアパートに着いた。外装はやや古めだが、近年リフォームを施したようで、部屋の内装は小奇麗に整っている。大学への通学にも買い物にも便利な立地の上、値段も割安、かつ小柄ならポケモンも可ということで即決したのを思い出す。
 僕はアパートの裏手から階段を登り、奥から二番目の自分の部屋を目指した。
「ただいまー」
 ドアを開ければ、真っ先に目に入るのは玄関にお出迎えに来てくれたパートナーの姿だ。ちょこんとお座りをして、尻尾を振りながら僕が靴を脱ぐのを待っている。靴を脱いでいる間にじゃれ付かれると困るのを分かっているあたり、中々に賢い仔だと我ながら思う。
「ちゃんと留守番してたかな」
 靴を揃えてから、そのブラッキーの頭を撫でてやった。ブラッキーはイーブイ種の中でも特に短毛というイメージがあるらしいが、冬となればそれなりの毛量が出る。きちんと整えてやれば黒いビードロのような光沢を持ち、金色の輪の模様とともに神秘的な姿に磨きが掛かる。
 ……確かに、黒と金色のコントラストは綺麗だと思うけれど。
「それがどうエロさに繋がるんだろうなあ」
 友人の言葉を思い出しつつ、苦笑してしまう。ブラッキーが頭に疑問符を浮かべながらこちらを見上げてくるが、何でもないよともう一度頭を撫でてやった。
「さて、さっさと食事にしちゃおう。今日はシチューだよ」
 フライゴンも大変だよなと思いつつ、僕は買い物袋を持ったまま小さなキッチンへと向かった。
 
 
 
 特にアクシデントも無くシチューを作り終え、深皿に取り分ける頃には時計の針が七時を差していた。普段の夕食が大抵六時半に始まることを考えると、今日は少しばかり遅いかもしれない。
「ごめんごめん、今日は少し多めにあげるから」
 尻尾を振りながら僕の左足に飛びついてくるブラッキーに笑いかける。二本足で立って、前足で僕の膝をカリカリ引っ掻いている姿は可愛らしい。余程お腹が空いているのだろうか、いつもよりその瞳が潤んでいるようにも見えた。
「よし。じゃあ食べよう」
 シチューが取り分けられた深皿を炬燵の上に、もう一つ、一回り小さい浅めの皿を畳の上に置いてやる。さすがに人間と同じ量を食べさせるわけにもいかない。
 ……意外に食い意地張ってるから、取り分けた分だけペロッと食べてしまいそうだけど。
 見てみれば、既にブラッキーは皿に顔を突っ込んで食べ始めている。
「あーあー。またしゃっくり止まらなくなっても知らないぞー?」
 まだこちらは一口も食べていないというのに、あっという間に三分の一くらいを食べ終えてしまったらしい。今更気づいたようにブラッキーが顔を上げて、口の周りの白ひげをぺろりと舐めた。以前、急いで食べ過ぎてしまったせいでしゃっくりが止まらず、涙目で治してどうにかしてと訴えてきたことはどうやらお忘れになってしまったらしい。
「全く。食べるの好きだなあ」
 僕は何となく、ブラッキーの皿からシチューを指で掬ってみる。人差し指の先が温かく白い膜に包まれて、とろっとした雫が重力に従って皿の中に舞い戻った。
 ブラッキーは、不思議そうに僕の指を見つめている。僕が指を動かすと、真紅の瞳がそれに釣られるようにして左右に動いた。
「……はい」
 僕がその指をブラッキーの口元に持ってくると、待ってましたとばかりに僕の指先にしゃぶりついてきた。シチューよりも更に熱い口の中に包まれた指が、彼の柔らかい口肉にぴっとり吸い付かれる。その狭い空間の中を、ぬめった舌がれろれろと這い回るものだから、これが中々くすぐったい。
 まるで母乳を吸うような形でじっくりしゃぶられた指は、彼の口から解放されたときにはすっかり綺麗になってしまっていた。
 僕を上目遣いに見上げるブラッキーの表情が、何だかイタズラっぽく見える。しゃぶられた指でその鼻先をつんと突いてやると、ブラッキーはその表情をくしゃっと崩してから、再びシチューの皿に取り掛かり始めた。
「やれやれ……」
 ブラッキーの揺れる尻尾を視界の隅に収めつつ、僕も自分のシチューを食べ始めた。少し冷めてしまったようだが、中々上手に出来たんじゃないかと思う。
 パンとサラダでも添えれば中々見栄えのする食卓になったと思うのだけれど、元来少食気味だし、親元を離れた一人暮らしだとどうにも面倒に感じてしまうのだ。
「お前がもーちょっと食事にうるさい仔だったら……どうだったろうなあ」
 既にシチューを食べ終えて、ぺろぺろとお皿を舐めているブラッキーの頭を撫でてやる。洗う必要が無いんじゃないかと思うくらいに綺麗に舐めてくれるのだが、その後にもっともっとー、としつこくせがんでくるのは困りものだ。
「ああもう……、こら。邪魔ー」
 いつものように脇の下から顔を突っ込んで、僕のシチューを狙ってくるブラッキーを押さえ込みつつ、何とかスプーンを動かしていく。脇を閉じながら身体を傾けて食べる、というのは実に食べづらいのだが、油断をすれば食い意地の張ったブラッキーにシチューを奪われてしまう。普段は大人しいくせに、食事のときだけ発揮されるこの積極性は一体何なのだろうか。
 遂に僕の胸元まで顔を突っ込ませたブラッキーの、長くて太い耳が僕の頬を叩いてくる。柔らかい毛皮が首から頬を這う形になって、結構くすぐったい。僕は左手でその頭を押さえ込みつつ、更に身体を傾けてシチューに取り掛かり始めた。
 
 
 
 結局シチューを食べ終えて、皿洗いを終えた頃には時計の針は八時を差していた。
 普段なら適当にテレビでも見ているところだが、課題を積んでいたり試験が近かったりする最近は勉強の時間だ。炬燵に入りながら心理学のプリントを眺めてはいるのだが、中身が全く頭に入らない。期末の試験が近いというのにこの有様は由々しき事態であるが、どうにも学んでいる内容に興味が沸かないのだ。
「これはホントにアイツからノート借りる必要ありそうだなー……」
 もしかしたら、僕が授業中に全くノートを取っていないことを分かった上での申し出だったのかもしれない。
 僕は溜息を吐きながら、左肩に当てていた電動マッサージ器を右肩に当て直した。元々肩凝り持ちなのに、毎晩ブラッキーのおかげで無理な体勢での食事を強いられているものだから、僕の生活の必需品になっていたりする。
「あ゙ー……」
 二十歳前には似合わない、実に年寄り染みた声を出しながら、僕は炬燵のテーブルの上に突っ伏した。眼前には全く理解できない心理学の専門用語が並ぶ。
 閑静な住宅街の一角。テレビも点けていない。部屋の中に聞こえるのはマッサージ器の無機質な振動音のみだ。肩に伝わるマッサージ器からの振動が実に心地良く、これが更に眠気を催して夢の中へいざ行かん
「ん」
 と思ったところで、耳慣れた機械音が聞こえてきた。僕は顔を起こし、テーブルの上に開いていたノートパソコンの画面に視線を動かす。やはり誰かがメッセンジャーを使ってメッセージを送信してきたらしく、画面下部のタブが点滅を繰り返していた。
 送信者の名前を確認すると、あの友人だった。

ビリー・マキシマム(つゆだく) の発言:
  おい、今世紀最大の発見をしたぞ。


「うわ」
 思わず声に出してしまった。どうせろくでもないことなんだろうなと思いつつ、僕はキーを叩いて返事をした。この友人こそが今世紀最大の神の失敗作な気もする。

S.T. の発言:
  何?


 返信が簡素なのは、片手でマッサージ器を握ったままだからだ。他意は無い。恐らく。
 ちなみに僕は自身のイニシャルをハンドルネームとして使っている。友人は最近、どこかの動画サイトで見つけた筋肉質なモデルに入れ込んでいるようだ。彼のハンドルはそのモデルの名前である。

ビリー・マキシマム(つゆだく) の発言:
  ポケモンに、上着か下着だけを着せると
ビリー・マキシマム(つゆだく) の発言:
  とてつもなくエロい!


 本気で滅ぼしてやった方が世界の平和のためになるんじゃないかな、と割と真剣に思ったところで、友人から追撃のメッセージが来た。どうやらファイルを送信しようとしているらしい。僕は溜息を吐きつつ、『受信』と書かれたボタンをクリックした。すぐにファイルの受信は完了する。中身にある程度の予想を立てつつ、送られてきた画像ファイルのアイコンをクリックしてみた。
 ピチピチの黒いタンクトップを着せられた、哀れなフライゴンの写真が画面に現れた。
「……正真正銘の馬鹿だな」
 呟かずには居られない。写真の中のフライゴンも呆れているようで、赤いカバーの奥に隠された瞳からの視線は随分と生暖かく感じられる。むしろどうやって着せたんだろうと思う。そっちの方が発見としては価値が高そうだ。

ビリー・マキシマム(つゆだく) の発言:
  見ろ、この黒いタンクトップで強調された胸元と脇腹の歪みねえ曲線!
  おっぱいなぞ要らんのです……! 偉い人にはそれが分からんのです、仕方ないね!
ビリー・マキシマム(つゆだく) の発言:
  そして! 腕を上げたときに僅かに見えるこの脇の下!
ビリー・マキシマム(つゆだく) の発言:
  マーベラス(素晴らしい)……。万雷の拍手でお迎え下さい……。


 僕はただ一言、『アホか』とだけ返してウインドウを閉じた。コイツはこの情熱をもっと別のベクトルに向けていたら、きっと世界さえ獲れていたんじゃないかと思う。
 貴様この俺様の素晴らしい発見を理解出来ないとは云々と長い抗議のメッセージが送られてきた気がするが、残念なことに僕は天才でもないただの一般人なので黙殺させていただいた。
――すまないフライゴン、僕には君を助けられそうにない。やはり魔王は強敵のようだ。
 ディスプレイを閉じつつ、先ほどまで眺めていた心理学のプリントに視線を落とす。気分を切り替えようとするのだけれど、何だか思いっきりやる気を削がれてしまったようだ。全く頭の中に入らない。
 もしこれで追試の憂き目に遭ったら、あの馬鹿魔王に何か奢らせるしかあるまい。
「……やってらんねー」
 再び炬燵のテーブルに突っ伏して、もう寝るかな、と思ったところで、
――くぁ。
 小さな呻き声のようなものが耳に聞こえた。
 顔を左に傾けてみれば、炬燵の中からブラッキーが這い出してきたところだった。眠りこけていたのか、大きなあくびを漏らしながら猫のように伸びをしている。
「…………」
 その姿勢を見ていて思い出されるのは、買い物中の友人の言葉だった。前足を畳に突いて身体を伸ばし、腰を背後に突き出すようなブラッキーの体勢。毛皮の黒さも相俟ってか、引き締まって見えるその身体のラインは確かに綺麗な曲線を描いている。
 確かに、まあ、扇情的かもしれないけど。そう感じてしまうのは、きっと頭に眠気が浸み込んできているからに違いない。
「何考えてんだ、俺……」
 呟きながら、横向きの世界の中でブラッキーの後姿を見つめていた。
 ブラッキーはどうやら喉が渇いていたらしい。部屋の隅に置いてある、水を張った容器に顔を突っ込んでいる。こちらにお尻を向けながら、何が嬉しいのか、尻尾をぱたぱたと左右に振っているのが見えた。
「……ん」
 ちゃぷちゃぷと何度か音を立ててから振り返った彼の瞳と、僕の視線が綺麗にかち合った。
 そんなに疲れた表情をしていたつもりは無いのだけれど、ブラッキーは不思議そうに首を傾げてくる。お疲れ? とでも言いたげな顔をしながらこちらに寄ってきて、食事のときのように、僕の脇の下から胸元へと潜り込んできた。丁度抱っこするときの体勢だ。
「何だよ、もう」
 僕はゆっくりと身体を起こし、背中を預けてきたブラッキーの胸元をくすぐるように撫でてやった。温かなブラッキーの体温が、シャツ越しにじんわりと伝わってくる。普段より何だか温かく感じるのも、やっぱり彼が寝起きで毛皮がたっぷり体温を吸っているからなのだろう。
 ブラッキーは僕の首元で、くぁふ、と再び大きなあくびを漏らした。すっかりリラックスしているようで、まるで彼のソファーになった気分だ。
「こら、俺はもう寝たいんだぞー」
 鼻を寄せて軽く匂いを嗅いでみれば、獣の臭気とは違う、生き物らしい匂いがした。炬燵という密閉空間の中で眠りこけていたせいもあるのだろう。
 僕の顔の存在を後頭部に感じ取ったのか、ブラッキーが首を上に傾けてきた。逆さまになった彼の顔が間近に迫り、楽しそうにぺろりと僕の鼻を舐めてくる。
「うあ、もう。くすぐったい」
 顔を引いて逃げようとするのだけれど、ブラッキーは首を伸ばして、更に僕の顔を舐め回してくるのだ。意外にその身体は柔らかいようで、中々無理をしてそうな体勢なのに、的確にぬめった舌を這わせてくる。時折見えるその表情は悪戯っ仔そのもので、口から覗かせる牙なんかが実に憎たらしい。顔を引いている内に身体の重心がどんどん後ろに移動して、本当に押し倒されてしまいそうだった。
――っ!?
 それはさすがに、と僕がブラッキーを押さえ込もうとした時だった。両手で彼の身体を掴んだ瞬間、ブラッキーが跳ねるように大きく身体を震わせた。腕の中で毛皮が軽く逆立ったのを感じて、僕も驚いてしまう。
「っと……、どうしたの?」
 何が起こったのか分からず、僕は片手を突きながら身体を起こした。
 見てみれば、ブラッキーは驚いた様子で瞳を大きく開いている。その視線の先を追ってみると、炬燵の毛布の上に、見慣れた物が転がっていた。
「ああ、なるほど」
 無機質な駆動音を響かせるそれは、僕が先ほどまで手に握っていた電動マッサージ器だった。ブラッキーの身体を両手で掴もうとしたとき、無意識に手放してしまったのだろう。スイッチが入ったままのそれが、ブラッキーの胸元かお腹か、その辺に転がってしまったというところか。
 ブラッキーは驚かされたのが気に食わないようで、毛布の上のマッサージ器を後足でげしげしと蹴っている。不満そうに、小さな唸り声まで上げている。
「…………」
 僕は何も言わず、そのマッサージ器を拾い上げた。特に何かを思ったわけでは無いのだけれど。
 ブラッキーはそんな僕の顔を見上げてくる。また不思議そうに首を傾げて、先ほどまでの悪戯っぽい笑みが嘘のように、純粋な眼差しを向けてきた。
 本当に何故かは分からない。夕方、友人とあんな会話をしてしまったからかもしれない。心理学の専門用語の爆撃を受けて、正常な思考能力が出来ていなかったからかもしれない。
 だが、そんなブラッキーの顔を見ていた僕の心の中に、ほんの小さな悪戯心が芽生えてしまったのは確かだった。
 
 
 
 とりあえず未だに振動音を鳴らし続けるマッサージ器のスイッチを切って、ブラッキーの身体を抱っこし直した。標準より体格はやや小さめの仔だが、それでも体重は二十キロを超える。前足の付け根を持って身体を抱えると、猫のように自重で身体がびろーんと伸びたりする。あの身体の柔らかさはこういうところから来てるんだろうな、と少し思った。
 あぐらをかいて、僕の股座に乗っけるようにしてブラッキーを抱いてみる。寒くて堪らない夜は、この毛皮を通して伝わる体温にお世話になったこともあったっけ。
 甘えるようにして僕の首元に頬を寄せてくるブラッキーの頭を撫でてやりながら、僕はもう片方の手を彼の胸元に滑らせた。下から上に、軽く指を立てるようにして撫でてやると、柔らかい毛皮が乱れ、毛羽立つように逆立っていく。それがどうやらくすぐったいらしく、小さく鳴きながらブラッキーが下半身をもぞもぞと動かし始めた。
「あ、こら」
 同時に、仕返しのつもりなのか、ブラッキーが僕の耳たぶを食んで舌を這わせてきた。それ自体も相当くすぐったいのだが、更に微かな鼻息が耳の中に入り込むために効果が抜群。むしろ急所に当たって四倍ダメージ。いつもならここで僕が逃げるのだが、今日はそうはいかない。耳元の熱とくすぐったさを堪えつつ、ブラッキーの胸元を撫でていた手を下の方へと動かしてみる。
――っ!?
 両脚の付け根、黒い毛皮の中心の膨らみに僕の手が触れた瞬間、まるで電気が走ったようにブラッキーの身体が硬直した。一拍置いて僕の耳から口を離し、足元と僕の顔を交互に見つめてくる。
 その瞳の中に、僅かな焦りと困惑を感じ取って、僕の心の中に生まれた不思議な感情は沁み出すようにして広がり始めた。
「どうした、ブラッキー。たまにお風呂に入るときなんか、いつも洗ってやってるだろ?」
 ブラッキーの股間を覆うように右手を置きながら、僕は彼の顔を覗き込む。手の平に感じる柔らかい毛筒の感触も、指先に感じる毛玉のような膨らみも、全てブラッキーが雄である印だ。
 左手をブラッキーの前足の下から差し込んで、改めてしっかりと彼の身体を抱え直す。こんなことは今までしたことが無かったから、もしかしたら恥ずかしがっているのかもしれない。ウサギのように長い耳はいつもより角度が浅く、顔もやや俯き気味だ。
 そのまま右手の中指を押し下げると、柔らかい感触とともに、毛玉の中身が逃げるように移動するのが感じられた。腕の中のブラッキーの身体が再び小さな反応を示す。喉の奥から搾り出しているような鳴き声は、まるで仔猫のそれのようだ。普段触られるようなことなど無い箇所だから、多少不安にもなるのだろう。
 押し下げたままの中指を軽く曲げて、今度は根元から筒の先端まで、その雄の輪郭をなぞるように手を動かしてみる。ブラッキーの下腹部が小さく震える。それが単なる呼吸によるものでないことは明らかだ。
「……痛かったら、ちゃんと言えよ?」
 長い間一緒に暮らしてきた仲だ。互いの言葉は通じずとも、意思の疎通くらいは容易く図ることが出来るつもりだ。
 ブラッキーの胸元を撫でてあげながら、僕は彼の黒い筒を右手の人差し指と中指で挟むようにして摘まんでみた。そっと指を閉じるようにしてみると、その毛皮の筒の中身の存在感が、確かな弾力となって指に返ってくる。
 そのままゆっくりと手を動かしていくと、毛皮の筒が押し下げられるようにして、鮮やかなピンク色の中身が顔を出した。
 ブラッキーが軽く身体を捩らせる。抵抗のつもりなのか、後ろ足を閉じようとしているが、身体の構造上その場所を隠すには至らない。本気で嫌がっている場合、抵抗はこんなものでは済まないはずだから、恐らく単に恥ずかしいだけなのだろう。
 そのまま摘まんだ筒を前後に動かし、何度も何度もその先端を露出させてやる。次第に指の間に感じる弾力が強くなり、ピンク色の肉茎も目に見えて膨張し始めてきた。
 ブラッキーが僕の腕の中で小さく鳴き声を上げる。大好きな味のポフィンをおねだりするときの声に似ているなあと思うと、何だか僕の頬にも熱が差しているように感じてしまった。
「よいしょ、っと」
 一度手を離し、今度は親指と人差し指で雄を包むその毛皮に触れた。そのまま根元まで押し下げるように剥いてやると、完全に勃起したブラッキーの立派な雄が露になってしまう。鮮やかな肉色は部屋の明かりに鈍く輝いて、彼の黒い毛皮とのコントラストも相俟って、とても扇情的な色に見えた。
 ブラッキーの呼吸に合わせて、その抜き身がゆっくりと揺れている。彼を抱く左手に伝わる鼓動が、少しだけ早くなっている気がする。
「興奮しちゃった、か?」
 彼の耳元で囁くようにしながら、今度は直接右手の指先で根元から先端までなぞってやった。左手に感じる彼の毛皮の体温よりも、その雄から感じられる熱はずっとずっと大きい。途端に力が篭もったようにブラッキーの下腹部がきゅっと萎み、雄は跳ねるような反応とともに黒い毛皮にへばりつく勢いでそそり立った。何かに濡れているわけでもなく、その表面はさらさらに乾いているから、触れるか触れないかの刺激でも十分に感じてしまうのだろう。細く漏れるブラッキーの呼吸が、僅かに震え始めているのは気のせいではないはずだ。
 雄相手に、と言うかそもそもポケモン相手にこんな感情を持つのは色々と間違っている気がしないでも無い。のだが、何て言うか、普通に胸の鼓動の高まりを抑えられそうにない。 
「とてつもなくエロい……、ね」
 僕は友人のメッセンジャーでの発言を思い出しつつ、彼の言葉をそっくりそのままなぞっていた。これでも情欲を沸き立たせるには十分だと思うのに、そんなことを言われたら試したくて仕方がなくなってしまう。
 確か、押入れの中にあったはずだよな。
 僕の首元に頬を擦り付けて、いつもより甘えん坊になっているブラッキーの頭を撫でながら、僕は小さく喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
 
 
 
「よし、あった」
 押入れの奥に見つけたそれを手に掴みながら、ブラッキーの方を振り返る。彼は先ほど僕が寝かせたままの横向きの姿勢で、いつもより大きな呼吸を繰り返していた。身体を落ち着けようとしているのかもしれないが、両脚の間から生えた雄の象徴が鞘の中に戻る気配は全く無い。
 押入れを閉めて近寄ると、軽く顔を上げて僕の顔を見上げてくる。小さく舌を出しているあたり、本当に好物のおねだりをしているように見えるのだが、この状況の場合一体何をねだっているんだと思ってしまう。
 そんなにエッチな仔に育てたつもりはないんだけどなあ。この状況自体が僕のせいなのだろうけど。
「ちょっと失礼して……っと」
 横向きに寝ているブラッキーの身体を軽く持ち上げるようにして、そのまま仰向けにしてやった。ブラッキーは特に抵抗もせずに僕に身を任せてくれている。姿勢を変えたときに大きくぷるんと揺れた肉色の雄は、大きさをそのままに天井に向かってそそり立っていた。
 ブラッキーは、僕の右手に握られたそれを不思議そうに見つめている。
 赤い瞳に映ったそれは、僕が高校の水泳部時代に使っていた水着だった。大学に入ってからは殆ど泳ぐ機会なんて無かったのだが、まさかこんな出番が来るなんて思いもしなかった。捨てずに取っておいて良かったと思う。
 ブラッキーの後ろ足を軽く持ち上げると、仰向けの姿勢のために尻尾の付け根の方まで良く見えた。丁度、赤ん坊のオムツを変えるときのような体勢だろう。
 お尻の中心、桜色の肉が窄まっている箇所の位置を覚えて、水着にアタリをつけてからハサミで小さな切り込みを入れた。
「ちょっとそのままでなー」
 仰向けで足を上げさせたまま、ブラッキーの黒い脚を水着に通していく。伸縮性があるので、突っかかることもなく股間まで通してやることが出来た。お尻を手で持ち上げるようにして、先ほどハサミで空けた穴に尻尾を通せば、身じろぎで簡単に脱げてしまうことも無いだろう。
 仕上げにそそり立っていた肉棒を、上向きに押さえつけるようにして水着の中に仕舞い込んでやれば、水着ブラッキーの完成だ。
「……これは」
 本当に自分は馬鹿だと思うのだが、それでもヤバいな、と思ってしまった。
 水着に押さえ付けられている部分が気になるのか、下半身と僕に交互に視線を向けるブラッキー。その水着には、丸い膨らみと、そこから伸びる雄の形がくっきりと浮かび上がっている。
 僕はもう一度手を伸ばし、今度は水着の上からブラッキーのそれを撫で上げてみた。
 ブラッキーは小さく鳴きながら、後ろ足を震わせて反応を返してくれる。
「気持ち良い?」
 先ほどよりも反応が大きい気がするのは、敏感な箇所に水着の生地が直に触れているからかもしれない。僕の指からの微かな刺激によって、身体の中で一番敏感な部分と水着の間に微かな摩擦が生まれるのだろう。雄槍の先端まで水着に覆われているのは好都合だった。大きさが足りるかどうかやや不安だったが、水着の伸縮性に助けられたと思う。
 僕は再び、水着を着たブラッキーの身体を抱き寄せた。先ほどのように彼を後ろ向きにして、左腕で抱っこするような体勢になる。
 その体勢のまま右手を伸ばし、僕は電動マッサージ器を手に取った。
 スイッチを入れると、ヴィィィィィンという無機質な駆動音が鳴り響く。ブラッキーは驚いたように僕の右手に顔を向けた。その表情が何だか渋く見える辺り、先ほどはこのマッサージ器に随分驚かされたのだろう。
 何をするの、と言いたげな瞳を見つめながら、僕はまた左手で彼の胸元をわしゃわしゃとくすぐってやった。少し時間を掛けて弄くってやると、やや緊張気味だったブラッキーの表情が緩んでいくのが分かる。ぴんと立っていた長い耳が、ゆっくりと角度を浅くしていくのがその証拠だ。こんなことを考えている僕に信頼を寄せてくれているブラッキーが、より一層愛おしく感じられる。
 僕はゆっくりと、右手に持ったマッサージ器をブラッキーに近づけていく。
「暴れるなよー……?」
 そう言いながら、先端の丸い駆動部分を水着の膨らみにそっと押し当ててやった。
――きゅっ!?
 刹那、ブラッキーが大きく身体を跳ねさせる。赤い瞳を見開いて、突如襲い掛かってきた強烈な刺激に鳴き声を上げてしまったらしい。無意識の反応だろうか、その身体を捩るようにして僕の腕から逃げ出そうとする。
 僕はそんなブラッキーの身体を、更に強く抱き締めるようにして押さえ込んだ。片手で抱いているから、上半身は押さえ込めるが、下半身はそうはいかない。跳ねるように左右に逃げようとする彼の股間を的確に追うようにして、僕は右手を動かしていく。
 きぃ、きぅきぅ、と切なそうに鳴きながら、ブラッキーが口をぱくぱくとさせている。胸元に折り畳まれていた前足が宙を掻いているのは、まるで何かに縋り付こうとしているようにも見えた。
 僕は右手で彼の雄を攻めながら、ブラッキーのそんな一挙一動をじっと観察する。何だか身体が熱くなっているような気がするのは、ブラッキーの体温が移ってきたからだけではないだろう。
「どうだ? ブラッキー」
 一度、マッサージ器をブラッキーの股間から離してスイッチを切った。時間にしてたった数十秒のことだったが、既に水着の膨らみの先端に小さな黒い染みが浮かび上がってきているのだ。その染みが情欲の証であることに間違いは無いだろう。
 ブラッキーはぽかんと口を開けて、小さく舌を出しながら荒い呼吸を繰り返している。余程身体が強張っていたらしい。マッサージ器を離した途端に全身脱力してしまったようで、すっかり僕に身を預ける体勢となっている。呼吸に合わせて胸元とお腹が上下に動き、その刺激の強さを物語っていた。
 僕はもう一度、右手に持ったマッサージ器のスイッチを入れなおした。再び細かい振動音が響き渡る。
 だが、今度はブラッキーは怯えるような様子を見せなかった。それどころか、その赤い瞳に先端の駆動部を捉え、何かを期待するような表情をしている。そのまま顔の前まで右手を持ってくると、今度は甘えるような声まで出してきた。尻尾まで小さく振っている。
「気に入った?」
 耳元で囁くように聞いてやると、僕の頬に顔を擦り付けてきた。――傍から見れば頷いているように見えなくもない。もう暴れて抵抗するようなことは無いだろうということで、僕は左腕に込めていた力を緩めつつ、再度右手を下ろしていった。
 今度は、水着に浮かび上がったその黒い染みを狙って。小刻みに震える丸い先端をブラッキーの急所へと押し当てる。水着の膨らみが微かに沈み込み、密着した部分から振動をダイレクトに伝えていく。
 ブラッキーは下半身を痙攣させながら、呼吸に合わせた鳴き声を上げている。膨らみの竿に沿ってマッサージ器を動かしてやると、かふ、かふっと声にならない悲鳴を上げながら、僕の腕の中で身体を跳ねさせるように悶えた。
 時折マッサージ器の角度を変えてやると、刺激の種類が変わるのだろうか、身体が返す反応も変わってくる。円を描くようにして押し付けると、堪らないといったような声を上げながら、上体だけで僕の胸元にしがみ付いてきた。その鳴き声――というか喘ぎ声は、少しずつそのトーンを高くしていく。腕の中でひん、ひぅ、ん、ひゅ、ひっ、とかそんな風に耳元で鳴かれると、勘違いの仕方が一線を越えてしまいそうだった。
――ひっ、!?
 後ろ足が突っ張ったように伸び切って、一際大きくブラッキーの身体が跳ねる。同時に僕の胸元に置かれていた彼の前足にも力が篭もり、着ていたシャツを貫いて爪の感覚が伝わってきた。
 どうやら刺激に耐え切れずに達してしまったらしい。
 右手をブラッキーの股間から離しつつ視線を下ろせば、そこを覆っていた水着に大きな黒い染みが出来上がっていた。しかも、水着の膨らみの脈動に合わせてその染みは少しずつ大きくなっていく。
「イっちゃったんだな、ブラッキー」
 スイッチを切ってマッサージ器を置き、ブラッキーの頭を撫でてやる。随分大きな波だったらしい。未だに余韻が尾を引いているようで、ブラッキーはとろんとした表情で深い呼吸を繰り返している。胸元に掛かるその息は、まるでブースターのそれのように熱かった。
 僕は水着に浮かんだその大きな染みに触れてみた。水着の細やかな生地越しだというのに、そこは僕の指先との間にねっとりとした糸を引かせる。沸き立つような匂いはまさしくブラッキーの雄そのものなのだろう。
「……うわ、あ」
 更にお腹側から水着を捲ってみて、僕は思わずそんな声を出してしまった。
 狭い水着の中で、ブラッキーの白い精液が黒い毛皮をべったりと染め上げている。持ち上げた水着と毛皮の間に幾重もの白い糸が引いて、その粘度の濃さを物語っていた。
 その水着を軽く裏返すようにして、湯気立つようなブラッキーの雄槍を部屋の空気に触れさせてやった。根元の方をそっと握れば、先端の小さな孔から溢れるようにして白い欲望が雫を作る。
「すごい、熱い……」
 ブラッキーの抜き身を握ったまま、僕はその手を切っ先へと動かしていく。彼の尿道に残った出渋りがとろりと染み出し、先ほど食べたシチューのように、重力に従って毛皮に白い跡を残す。直接僕の手で扱かれて、ブラッキーはまた掠れるような鳴き声を上げた。
――ブラッキーは、その体力に定評のあるポケモンなのだという。
 僕は彼の雄の根元に手を沿え、そっと指を伸ばしてみた。その指先に感じるのは、雄独特の柔らかい毛皮の膨らみ。手の平の下に感じる、滑らかな肉々しい質感との極端な違い。そのまま指先で包むように押してみると、その毛玉はまだ程よい弾力を保っている。
 ブラッキーは上体を捻ったままだから、丁度僕と向き合うような体勢に近い。僕は彼のそこに手を添えたまま、軽く顎を引くようにして顔を向かい合わせてみた。
「ブラッキー……。まだいける?」
 僕の言っていることを理解したのかどうかは分からない。けれど、ブラッキーは暫く僕の目を見つめてから、首を伸ばすようにしてその鼻先を僕の唇にこつんと当ててきた。
「……」
 彼の口元の細やかな体毛が、僕の口元をそっと撫ぜる。良く見ればその赤い瞳の潤いはいつもの三割増しだ。そんな雨に濡れた仔猫のような目で見つめられた挙句、押し付けられるような口付けまでされると、何と言うか、何かが決壊し兼ねない。相手がポケモンということで、僕の下着の中で興奮の証が露になっているのを悟られないのは幸いといったところだろう。
 僕はもう一度ブラッキーの身体を抱え直してから、改めてその肉茎に手を添えた。
 水着の中で大暴れしたからか、その先端はぬらぬらと濡れて鈍く輝いている。親指と人差し指で包むようにしてやると、ぬるりとした感触が伝わってきた。
 手の中で、ブラッキーが呼吸に合わせて脈打っている。自分にここまで身を任せてくれているという事実が、何だかとても嬉しい。
 擦り合わせるように指を動かすと、またブラッキーが心地良さそうな鳴き声を上げ始めた。僕の肩に頬擦りしながら、首筋にかぷっと噛み付いてくる。硬質な牙の感触は感じるが、その辺はブラッキーも心得ているようで、甘噛み程度の柔らかい刺激しか伝わってこない。
 今度はブラッキーの竿をしっかりと手の平で包み、僕が――というか世の健康的な男が――やるように上下に扱き始めた。四足という身体の構造上、いくら身体が柔らかくとも自身でこのようなことは出来ない。再び襲い来る生まれて初めての感覚に、ブラッキーが腕の中で身悶え始める。
 暫くすると、その切っ先に透明な雫がぷくっと丸い形を作った。
 指で掬い取ってみれば、それは雄のミルクとは別種の粘り気を帯びていて。そのまま竿全体に塗り広げていけば、ブラッキーのそれ全体がぬるぬると心地良い湿り気を帯びることになる。粘膜同士の摩擦軽減だとか、尿道の洗浄だとか、そんな粘液の役割自体はどうでも良くて、今はただ、僕の腕の中で喘ぎ、悶えているその姿がとても愛おしかった。
「もう、そろそろかな?」
 そう言いながら、ただ上下に動かすだけではなく、マッサージをするように軽く揉み込むような動きも加えてやる。敏感な箇所だということは分かっているから、その雄の心地良い弾力を感じられる程度にしか力は加えない。鈴口から零れ出した先走りは抜き身全体に纏わり付き、僕が手を動かす度に、ぬち、ぬちっと湿った音を部屋に響かせる。
 すっかり身体から力が抜けてしまっているのか、僕にしな垂れかかったブラッキーの身体が何度もずり落ちそうになる。僕はその度に彼の身体を抱え直して、曝け出されたその部分を攻め続けた。
 そして、僕が一際大きく、彼の根元から先端まで扱き上げたときだった。
「……お、ぉ?」
 まず、ぐちょぐちょに濡れた右手の中で、ブラッキーの雄がぴくぴくっと震え出すのを感じた。見てみれば、雄のみと言わず彼の下腹部全体が痙攣するように脈動を始めている。
 二回目の波の到来を感じて、僕はもう一度ゆっくり根元から彼を扱く。その欲望の奔流を促すように優しく搾ってやり、濃く練られたブラッキーの子種が噴き出されるであろう瞬間を待ち構えるのみだった。

 のだが。

――っ!?
 突如、僕自身の身体に熱い感覚が迸る。心臓の鼓動が耳に響き、全身から汗が噴き出すような感覚に襲われて、視界に幾重もの火花が散った。
「な、ぁ……、あっ……」
 突然全身に湧き上がった熱は、まるで凝縮されるようにして僕の身体の一点に集まる。――ブラッキーを散々弄くっている間に、下着の中で興奮してしまっていた自身の欲情の証。
 どういうことだ、と僕は頭の中を塗り潰されるような感覚の中で思った。これではまるで、僕が――
「う、ぐっ……!?」
 僕がその感覚に耐え切れずにくぐもった声を上げた刹那、ブラッキーも小さく吼えるような声を絞り出す。僕が右手に包み込んでいたブラッキーの雄と、僕自身の雄が弾けたのもほぼ同時。大きな脈動に打ち出されるようにして噴き出たブラッキーの雄汁は、まるで狙ったかのように僕の顔にまで到達した。続くようにして数度放たれた白い線も、綺麗な弧を描きながらブラッキー自身の毛皮をねっとり汚していく。
「はあっ……、はあっ……あ、あぁ……」
 僕は僕で下着の中にたっぷり熱いものを放ってしまって、脳髄まで蕩けるような快感に全身を貫かれてしまっていた。
 
 
 
「ふぅ……、う……」
 自分の下腹部が下着の中でべっとり湿っているのを感じて、僕はまるで粗相をしてしまったかのような羞恥心に襲われていた。突然襲い掛かってきた快感の奔流が尾を引いて、未だに呼吸を落ち着けることが出来ていない。――視線を下ろしてみれば、それはブラッキーも同じらしい。僕が握った雄槍の切っ先から、打ち出し損ねた子種をトロトロと溢れさせている。顔から胸元、お腹にまで満遍なく自分の精を浴びてしまったようで、まるで練乳をぶちまけられたような有様だ。
 が、
「…………」
 その、ブラッキーの表情。二度目の絶頂直後で淫靡さを纏いながらも、悪タイプという単語をそのまま形に表したような、悪戯っぽい笑み。
「お前、まさか……」
 小さく口を開けて、舌先と牙を覗かせるようにしてブラッキーが僕を見上げている。もし人間の言葉を喋れるのなら、きっと『ざまーみろー』とか『してやったりー』とか言ってるんじゃないかと思う。
――やられた。
 僕は何が起こったのかを理解して、深く深く溜息を吐いた。
 調子に乗らず、最初の電気マッサージ器の一回で止めておけば良かったものを。どうやらブラッキーに乗せられて、彼の作戦にまんまとハマってしまったらしい。
 それは『シンクロ』という、ブラッキーという種族自体に備わった特性だ。他者によって引き起こされた自分の状態を、その相手にそっくりそのままお返しする――自分の状態を、相手にシンクロさせるという能力。
 あの時、完全に油断していた僕は、昇り詰めるギリギリ寸前の状態をまんまと『シンクロ』で移されてしまったというわけだ。そうして一堪りもなくブラッキーと仲良く絶頂させられた挙句、そのままパンツを汚すはめになってしまった。
「やりやがったな、お前ー……」
 恨めしそうに僕が言うと、ブラッキーは我関せずといった表情で顔を背けてしまった。尻尾が左右にぱたぱた揺れている辺り、随分と気分が宜しいらしい。そりゃあ、見事なしっぺ返しだったけれども。
 射精を終えたブラッキーの雄から手を離し、両手でブラッキーの顔を包み込んでやった。そのまま左右から力を加えつつ、柔らかいほっぺをぐにぐにぐにぐにしてやる。
「こーのーやーろーうーぅぅぅぅぅ」
 みぎー、とかいうブラッキーの鳴き声はどこか楽しそうで。いやいやと首を振って逃げようとしているようだが、絶対に離してやらない。前足を僕の手に添えながら、後ろ足で何も無い宙を蹴っている姿が可愛らしくて、僕は思わず吹き出してしまった。
「ああもう。どうせ洗濯するから良いけどさー」
 見れば、着ていたシャツにも点々と白い精液が付着している。穿いているズボンにもパンツを貫通して浮かんできた染みが見えるから、これも洗わなければいけないだろう。
 そして何より僕達自身だ。僕は顔にちょっと掛かった程度だが、ブラッキーは顔から股間までべっとり自身の精液で汚れてしまっている。何だかその、黒い毛皮と金色の模様、それに点々と付着した白いアレのコントラストが綺麗に思えてしまって、思わず写真に撮っておいても良いかな、とかほんのちょっとだけ思ってしまった。が、そんなことをしている間に乾いてガビガビになったら後始末が面倒だし、記憶に焼き付けておくだけにしようと思う。
――友人が言っていた、色がエロいっていうのはこういうことなんだろうか。
 微妙に納得してしまった辺り、僕も随分毒されてしまったようだ。その毒が友人の毒なのか、或いはブラッキーの毒なのかは知らないけれど。
「ほら、一緒にお風呂入るぞー」
 ブラッキーが、ええー、とでも言いそうな表情で答えた。昔からお風呂に入るのはあまり好きではない仔だった。ずっと家の中で飼っていたし、自分で毛繕いも良くする仔だから、普段は特に問題無いのだが。さすがにこれは洗わないとまずいだろう。
「あ、こら。こらっ。やめー!」
 で、抗議のつもりなのか、或いは単なる嫌がらせのつもりなのか。僕に抱っこされたまま、ブラッキーが自分の身体を僕のシャツに擦り付けて来た。彼の身体を汚していた精液がべっとりこびりついて、余計に酷い有様になってしまう。
 僕がぺしんと彼の耳を叩く。ブラッキーが楽しそうに僕の首筋に噛み付く。そこに感じる牙の圧力は先ほどと同じで、そのくすぐったさに僕も思わず頬が緩む。それは親愛の証に違い無い。
 ブラッキーの身体を抱え上げて、穿かせっ放しだった水着を脱がせながらお風呂場へ向かった。毛皮の質が悪くなるといけないから、念入りに洗ってやらないといけないだろうし、今夜は少し長めの入浴になりそうだ。
 
 
――お風呂から上がったら、さっき送られてきたフライゴンの写真でも眺めてみようかな。
 
 
 
 
 
【(変な趣味に)めざめるパワー・おしまい】



以下、あとがきとか言い訳とか。
 
 
まず、最後までお読みいただきありがとうございました。

ブラッキーが好きなので、Wikiの作品にもっと増えると良いなーという布教の意味で書いたものだったりします。
いや既に十分多いだろっていうのは重々承知していますし、正直肩身も狭いのですが、やっぱり読みたいものは読みたいですし。
またブイズ(笑)とか言われるかもしれませんけど。別に良いじゃない、ポケモンに罪は無いんだから。

こういう大会に出された作品というのは、自然と沢山の方の目に留まるものでしょうし、良い機会だから……と軽い気持ちで書きました。
本当はぶん投げたままこっそり身を隠して、たまに来た感想を読んで小躍り出来たら、と思っていたんです。

……何で優勝してるんでしょうか。

ただの仮面小説大会で、変態選手権ではありませんよね、コレ。
BL気味+電マ+水着という実にぶっ飛んだ要素を組み込んだことを、今更ながら激しく後悔しています。何て羞恥プレイだ。
一人でも多くの方がブラッキー好きになってくれたなら、まあ良いんですけど……。
 
 
中身に関して。
あまり時間を掛けずに書いたものなので、文章自体はやや荒めだなと感じています。リーダビリティが足りない。
変態行為中の描写も、もう少しあっさり目に、洗練された(というのもおかしいですが)ものに出来たら良かったなあ。
ポケモンが喋らない設定にしたのも、余計に地の分で埋め合わせなければならないことになって少々厳しかったです。
身近な生き物っぽさを感じてもらえれば嬉しいですね。イメージは実家のわんこでございます。
 
 
この仮面小説大会、私自身も一読者として大変楽しませて頂きました。
他の参加者の方々と、お忙しいながらも代理人として大会進行をして下さった狐眼さんに感謝致します。

最後に私自身が仮面を外すことで、あとがきの締めくくりにしたいと思います。
皆様、この度はありがとうございました。
 
 
2 Apr. 2009

作者:ハコ



以下、投票所から感想を下さった方へ。

>ブラッキーやばい……
投票ありがとうございます。どうぞ、思う存分魂を売り渡して下さい。

>なんとなく作者様が分かりそうなほのぼのさでした。
>と言うより御馳走様でした
……orz
美味しく頂いてもらえたのなら幸いです。投票ありがとうございます。

>美味しく頂きました^p
ありがとうございます。きっとブラッキーも悦んで……喜んでいます。

>始めの多数のネタ嵐に笑い、終わりに表現の細かさに感嘆しますた。
>友人フライゴンサイドが見たくなりまs
冒頭で読者を引き込むのにネタを使うのは結構ありがちですよね。上手く働いていたのなら万歳。
変態行為を細かく表現するってのもどうなのって気はしますが……需要があったのなら良かった、の、かな。
フライゴンサイドの発想はありませんでした。気が向いたら書いて投下するかもしれませんね。

>ぶらっきーかわいかったです
ありがとうございます。元々可愛いですよね!
 
 
それと、避難所の避難所で絵を描いて下さった方、ありがとうございます。
速攻で拉致させて頂きました。本当に嬉しいです。



何かありましたら、こちらでどうぞ。

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Last-modified: 2013-01-22 (火) 00:00:00
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