「さあさあお立会い。今日ご覧にするは快楽に依存する者達のその夢と幻、そして哀れな現実。
貴方は嘘で塗り固められた夢の国に貴方は最後まで騙されないでいられるでしょうか?
さあさあ……それではまず、お一人様ご案内……」
僕が見る夢は気持ちのいいものでは無い。快楽を求めてポケモン達を殺している。その姿を僕は鮮明に覚えている。真っ赤に彩る血飛沫が、僕の顔にかかるんだ。それを夢の中の僕は喜んでいる。歓喜の声を、上げている。
そんな夢を見ても僕は何も感じず普段通りの生活を送れるのだからきっと頭の何処かのネジが外れているんだろうな。今もさっきまで残酷な夢を見ていたのに、ベッドの中でまだ寝ていたいなんて思っている。それにどうせ後になりゃ忘れるだろう。
ベッドの上で寝返りを打ち、棚の上のデジタル時計を見る。 6月18日6時58分。 しばらくして部屋にジリリリリリっと騒音が鳴り響いた。
「今日も平凡で何より……」
インスタントコーヒーを啜りながら僕は呟いた。
アルバイトで稼いだ小金で買ったCDプレイヤーのラジオから今日は全国的に快晴でしょうと告げる。安物のはずなのにそのラジオからはノイズ音が全く聞こえなかった。テレビも買いたかったがラジオで十分なので金が有ったとしても買わない。
僕は歳は17で、一人暮らしをしている。そしてこの歳で珍しく、僕はある時からポケモンと交流関係を持っていない。ある時とはいつなのか、今となっては忘れてしまったが、とにかく僕は憧れていたのだ。平凡な生活に。なぜ平凡な生活に憧れたかも頭にぽっかりと穴が空いたように忘れてしまったが。
今日はアルバイトも学校も休み。だからと言って何もする事は無い。だけど僕は何故か、何もすることが無いという事に幸福を感じている。この幸福感に酔いしれるようにそっと目を閉じてまた開いた。
適当に読書でもしてみる。いつ買ったか忘れたまだ新しい本。その本はポケモンが人間から受ける虐待について書かれていた。虐待の度を超えて、無残にも切り刻まれたポケモンまで紹介されていた。切り刻まれた肉塊の写真までついていた。普通なら吐いてしまうような写真を、僕は無関心にじっくりじっくり眺めて、ページをゆっくりとゆっくりと捲っていった。
――なんでこんな本を買っただろう。ていうかいつ買ったんだ?
「ま、いいか……」
コーヒーをまた一口飲んで、今度は砂糖がたっぷり入ったマーガリンをパンに塗って焼いた、砂糖がたっぷり焼き付いたシュガートーストを口に運ぶ。パンを噛むと、大量にまぶした砂糖がサクッと音を立てた。口いっぱいに広がる甘い味。そして血の味……? 歯茎が切れて出血でもしたのかちょびっと血の味が混じった。意外と良くある事なんじゃないかと思う。その味に一瞬不快感を感じたが、少し血の味も味わってみる。血の独特な鉄のような味。意外と美味しいかもしれない。
「僕は吸血鬼か」
自分で突っ込んだ。が、どうしてか笑えない。意味もなく溜息をつく。
「どこかに出かけようかな?」
そうしようかと早速準備する。準備といっても財布と腕時計、そしてポケモンよけにゴールドスプレーを持ち歩くだけである。玄関を抜けてバス停へと向かう。行く宛は無い。適当にブラブラするつもりだ。
そして僕は気付いたら墓地にいた。
状況整理。何故僕が墓地にいるのか? どうやってここまで来たかは覚えている。しかしなんでここへ来たか……まったくもって不明だ。
そもそもだ。ここはポケモンの墓地。僕はポケモンは連れていない、記憶にも居ない。なぜ来たかも分からない。
周りには、僕以外誰もいなかった。
『主はどう思う』
突然声をかけられた。振り向くとキュウコンが居た。ポケモンがしゃべっているが、僕は気にしなかった。
『わしらのような生き物を、自らの欲求のために虐め、快感として貪るやつを――主はどう思う?』
―― 一体何が言いたいんだ。僕がポケモンを虐めるのは夢の中の話だし、それにそれは悪い事だと認識している。
『お主が言う夢の中で、昨日死んだポケモンの種族は一体何じゃ? 言うてみい』
それは……それは……思いだせ、ない?
「忘れた」
『忘れたというのか? 無残にも殺されていったポケモン達を?! お前も地獄の業火に焼かれ、わしと同じ苦しみを受けるが良い!』
僕の周りに鬼火が浮かぶ。逃げたくても金縛りを受けているのか逃げれない。数十個にも及ぶ鬼火がゆっくりと近づいてくる。おまけにキュウコンが大文字を放ってきた。もうどうにも出来ない。あ、思い出した。僕が夢の中で殺したポケモンは、キュウコン
彼は 地獄からの炎を受け 無数の火の玉に炙られて 意識は消えていく。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い亶い熱い熱い熱い熱い熱いあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついあついアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツィ……
「さて、ここで一旦幕を閉じましょうか。
これが現実から夢の国へ逃げ出した者が見た夢です。この者は望んでもいないのに血を見なければ快感を得られない。だから夢の中へ逃げ込み、平凡な暮らしを約束する夢の国を現実の国へ、過ちを犯した現実を夢の国と塗り替えたのです。
今貴方が見た事は、現実では無く、ある異常者の夢だったのです。騙されずにいられましたか?
今、とても幸せだと感じている貴方。それは現実では無く夢の中の話かもしれませんよ。
では、お次は彼の現実へとご案内……」
作者:なと
ここまでが前編です。まだ続きます