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どこかの夏の思い出

/どこかの夏の思い出

遅ればせながら、10000HIT記念作品となります。
この小説には官能描写が含まれておりますので、苦手な方は控えてください。 ピカピカ




「ねぇ、お父さん」
「ん~? どうしたんだ?」
 海から流れてくる波の音を聞きながら砂浜に座り、話をしている親子の姿があった。
 辺りにはあまり人の姿はなく、見る限りその親子しかいないようだった。
「お父さんはいつ、どうやってお母さんと出会ったの?」
「本当にどうしたんだ、いきなりそんなこと聞いて」
「えへへ~…何となく~。ねぇ、教えてよ~」
 子の方が親に擦り寄り、甘えた声でそう言ってくるものだから親の方は仕方なさそうに思い出すのを始めたようだ。
 普通の子供であれば(?)赤ちゃんはどうやったら出来るの?とか聞いてくるようだが、どうやらこの子供は今、親に聞き出そうとしていることの方が興味あるらしい。
「う~ん…。確かお母さんと初めて会ったのもここの海だったと思うなぁ」
「そうなんだ。お母さん、その時から綺麗だった?」
「綺麗、と言うよりはまだ可愛いみたいな感じだったかな。それに最初の方はお母さんも警戒していたみたいだから。お父さんみたいなのを初めて見たって興味もあったみたいだけど」
 親の方はそう言ってから口の端を歪めて笑った。弱冠苦笑いみたいな笑い方ではあったが。
 対する子の方はそんな親の顔を見て首を傾げていたが、すぐに先程のワクワクしたような顔つきに戻って話の続きをせがんだ。
「それで、お父さんとお母さんはどうやって仲良くなったの?」
「実を言うと、お父さんは海は好きだけど泳ぐのが大の苦手でな。学校のプールのテストで良い点を取りたくて、こっそりこの海で泳ぐ練習をしていたんだ」
「そうなの!? 今は凄く早くて上手に泳げてるのに……」
 子がとても驚いた様子でそう言うと、親は声高らかに笑った。
 そして子の頭を優しく撫でてやってから再び話し出す。
「そう。それでな、今のお父さんがあるのはお母さんのおかげなんだぞ?」
「それってどういうこと? お父さん」
「海でこっそり練習してたお父さんはな、溺れてしまったんだ。気づかない内に足のつかないところまで泳いでしまっていてね。気づいた時には遅くて、必死にもがくことしか出来なかった。周りに人の姿もなくて、このまま溺れて死んでしまうと思ったんだ」
 互いに真剣な表情で話をする親とそれを聞く子。
 子はいつの間にか親の服をぎゅっと握りしめて話に聴き入っていた。
「で、それを助けてくれたのがお前のお母さんだよ」
「お母さんが?」
「そう。溺れたお父さんをこの砂浜まで運んでくれたんだ。目を開けた時に最初に写ったのはお母さんの顔だったよ。そうだな、今のお前みたいな顔をして覗きこんでいたな」
 途端に顔を赤くした子は、慌てて顔を隠そうとするが、それを見た親は何か懐かしいものでも感じているかのような顔つきで子の頭を再度撫でた。
 そして親はその懐かしみを感じたまま話を子に聞かせ始めた……



「だいじょうぶ…?」
「うっ…君は……?」
 目を覚ました小さき頃の自分の姿に映る懐かしい顔。その顔はあの子の顔にそっくりだった。
 少し水を飲んでしまったのか、軽くむせ返りながらもゆっくり起き上がると目の前にいた小さき頃の彼女が心配そうな顔つきでこちらを見ていた。
「あれ? 確か僕は溺れて……」
「そう…。あなたが溺れているのを見て、私が助けたの」
「君が助けてくれたんだ? ありがとう」
 お礼をすれば彼女は自然と照れ臭そうに笑った。それにつられて自分もつい顔が綻ぶ。
 初対面のはずなのに何の違和感も感じることがなく、ずっとそんな状態が続いていた。
 それから、しばらくして彼女と砂浜に座り、夕暮れ時の海を眺めていた。その時に聞いた波の音が酷く心地よく聞こえたのを今でも覚えている。
「綺麗、だね」
「私ここから見る夕日が好きで、お天気の良い日はいつもこの時間に見に来てるの」
「へ~。あ、そっか。だから今日僕を助けることが出来たんだ?」
 彼女はこくんと頷く。もし、少しでも自分が泳ぐ練習をするのが早かったり遅かったりしたら大変だったんだなぁと幼いながらも実感したのは言うまでもない。
 つまりは自分が彼女と出会ったのは何か運命的な何かがあったんじゃないだろうか。必然か、はたまた偶然か。どちらにしろ彼女と出会ったのは言うまでもなく幸運の類だったのだろう。
 そして夕日が沈むまで色々と話していた内に自分と彼女は仲良くなっていた。辺りが暗くなった頃には自分達以外は誰もいなくなっていた。
「夕日、沈んじゃったね…」
「そうだね。じゃあ私、今日は帰らなきゃ…。お兄ちゃんが心配するから」
「ね。また会える?」
 いつの間にか自分の口からはその言葉が出ていた。彼女は少し驚いた様子ではあったけど、すぐに笑顔を見せて頷いてくれた。
「僕、いつもここら辺で泳ぐ練習してるから、見つけたら声かけて!!」
「分かった。じゃあ……また明日会おうね」
 恥ずかしそうな顔をしながらもそう返してくれた彼女の背中をじっと見つめていた。また、会える。そう思うと何だか胸が踊るような感じがした。
 嬉しい気持ちを体全体で現しながら、砂浜を歩いて家に戻ろうとすると、急に服がぐいっと引っ張られた。
 振り返るとそこには水に濡れた彼女の姿があった。
「あれ、どうしたの?」
「……ようか…」
「えっ? 何……」
 顔を俯かせ、体が僅かに震えている彼女を見ていると、急に何かを振り切ったかのように顔をあげ、こう言った。
「わ、私が君に泳ぎを教えてあげようか…?」
「ふぇっ? き、君が僕に泳ぎを…?」
 瞳を見る限り彼女の言ったことに嘘偽りはなかった。真剣な顔つきでじっと視線をそらすことなく自分を見ている彼女。
 でも何故、彼女はそんなことをいきなり言ったのだろうか。
 ふと疑問に思ってそのことを聞くと、彼女は初めて顔を俯かせた。
 そして自分にぎりぎり聞こえるか聞こえないかの中間辺りで言った。
「実は私、ずっと君が泳ぐ練習を見てたの…。初めて見た時から君の泳ぎが気になってた」
「えっ。見てたって、あんな下手くそな泳ぎを見ててつまらなかったの…?」
「確かに泳ぎはまだまだだったけど…。でも、君の泳ぎは何か惹きつけられるような気がしたの…」
 今考えてみればずっと見られてたなんて恥ずかしい。せいぜい犬かきより少し上ぐらいの泳ぎを見ていて、そう感じることが出来るのはやはり彼女が…。
「と、とにかく! 私に泳ぎを教えさせてくれないかな…?」
「いいの? だって君は…」
「やっぱり、嫌…?」
 そんな泣きそうな顔で言われたら断ることは出来ない。当時、小さいながらもそんな彼女を可愛いと思った自分は間違ってはいないはずだ。
 それにもし、ここで泳ぎを教えてもらわなかったなら自分の人生はまた大きく変わったものになっていただろうな。
「嫌じゃない…よ。お願いしてもいいかな…?」
「ほ、本当!?」
「う、うん…」
 自分が頷くと、すぐに彼女は抱き着いてきた。水に濡れた彼女の体から温かい体温と水滴が服越しに生身へと伝わってきたのを覚えている。
 もしかしたら彼女を意識し始めたのはこの時からだったのかもしれない。
「あ、ごめんなさい…」
「いいよ、気にしてないから…」
 顔を赤くしてるからあまり説得力はないよな。ぱっと離れて互いに顔を合わせられない。
 辺りは既に真っ暗になってしまっていた。星が綺麗に一つ、また一つと空に輝き始めていて明かりがあると言ったら夜空に昇る月の光だけだった。
「すっかり遅くなっちゃったなぁ…」
「ごめんね。私のせいで引き止めちゃって」
「大丈夫だよ。お母さんも訳を説明すれば分かってくれるから。それよりも君の方こそ良いの?お兄ちゃんが心配しているんじゃあ……」
「おい、帰りが遅いと思って迎えに来てやったら何してるんだ」

いつの間に来ていたのか、何の気配も見せずに彼女の後ろに、恐らく彼女が言うお兄ちゃんが来ていた。

 声を聞いて振り返り、そのお兄ちゃんに抱き着く彼女。対するお兄ちゃんは彼女の頭に手を置き、優しく撫でていた。
「ごめんなさい、お兄ちゃん。新しい友達が出来たから遅くなっちゃったの」
「そうかそうか。この男の子が新しい友達なんだな?」
 そう言って彼女のお兄ちゃんは自分を見て、笑いかけてくれた。慌ててそれにお辞儀をして返すと、彼の手が俺の頭にまで乗せられて、ポンポンと軽く叩かれた。
「あんまし固くなんなって。家の妹に友達が出来たんだ。こんな俺から言うのもなんだが、妹をよろしく頼むな」
 実際そう言われても、初対面なんだから緊張する。ただでさえ彼は今も昔も変わらず結構な強面なんだから。
 緊張しながらも相手に分かる程度に頷いた。すると、ニッと歯を剥き出して笑う彼。
 今はあまり感じられないかもしれないが、彼の優しさはこういう所で出ていたんだな。そして妹思いは昔から変わらない、と。
「さて、挨拶はもう済んだから帰るぞ。お前は一人で帰れるか?」
「うん。大丈夫だよ」
「そっか。じゃあ気をつけて帰れよ」
 彼にそう言われ、再びお辞儀をしてから走って家へと向かった。
「約束だよ!!」
 背中に声をかけられ、走りながら後ろを振り返ると彼女が大きく手を振っていた。
 負けじと手を大きく振り返せば、またあちらも負けじとさらに大きく振っている。子供ながらの小さな争い、と言ったところか。
 彼女と別れる寂しさよりも、子供だった自分には新しく友達が出来て、泳ぎを教えてもらえると言うことで胸が一杯だったんだろうな。



「ほぇ~…。それがお父さんとお母さんの出会いなの?」
「あぁ、どうだった?」
「そんなに小さい時から出会ってたんだね~。羨ましいなぁ…。ね、私もお父さんとお母さんみたいな素敵な出会い方が出来るかな!?」
 子は目を輝かせて親を見る。親は先程と同じように苦笑いをしながらも子を見て言った。
「そうだな。お前はお母さんに似て可愛いから、もしかしたらお父さんなんかよりもずっと良い人に会えるかもしれないよ」
「え~? お父さんよりも良い人なんてそんなにいないよ~」
「ははは。ありがとう。でも何でそんなことが言えるんだい?」
 子の両脇に手を入れ、自分の膝の上に乗せてから親はそう聞いた。
 顔だけをこちらに向けて、何だかうきうきしたような口調で子は言った。
「だって、お父さんはあんなにもお母さんに優しくて、ずっとラブラブで、泳ぎが上手で、顔も結構ハンサムだもん。そんなに良いものづくしな男の人なんてそんなにいないよ~」
「そうかそうか。お前にはお父さんはそんな風に見えてるんだな~」
 頭を優しく撫でてやれば子は目を細め、嬉しそうにえへへと笑った。
 親はそんな我が子を見て、やはり懐かしさを感じているのであった。
(もし、あの時この海で練習をしていなかったら……俺はあいつと出会わなかったんだよな……)
 考えたくもない話だ。だが、何故かふとそんなことを思ってしまった親は空を仰いだ。
 それから少しの時間が経ち、親と子に近づくもう一つの影が現れた。
「あ~。二人ともやっぱりここにいたんだ」
「あっ、お母さん!!」
 子が父親の膝の上から降り、やってきた母親の方へと走っていった。
 父親の方もよっこらせと言わんばかりに重そうな腰を上げて二人に近づいた。
「二人で何を話してたの?」
「ちょっとした昔話だよ。俺とお前の出会い話をな」
「ふ~ん、懐かしいね。あなたと私が出会ったのもここの海だったものね」
「ねぇ、お母さん! お父さんは昔からカッコよかったの?」
「ん~…昔は何か頼りなかったかな?」
 母と子が話をしている横で、父親は次第に落ちていく夕日を眺めていた。
 あの日もこんな感じだったんだよなぁとしみじみと思い出す父親の背中はどこか物寂しげな雰囲気だった。
 それを見た母親は父親に向かって言った。
「どうしたの? ぼーっとしちゃって。あなたらしくないね…」
「ん。いや、お前が俺のパートナーになった時もこんな夕日だったなぁってさ」
「うん、そうだね…。私、今も昔もここから見る夕日が好きだなぁ。それで、ここで夕日を一緒に見ていた時にあなたにパートナーになってくれないかなって誘われた時は嬉しくてしょうがなかった…」
 母親がそう言って頬を赤く染めたのと同時に、父親の方も顔が赤くなっていた。
 それは恐らく夕日のせいではないだろう。そんな両親を交互に見遣ってから子は少し笑いを堪えているようだった。
 それから少しの沈黙があったのだが、何となく気まずくなったのか、先に話をしだしたのは父親の方だった。
「さ、もう帰るとしよう。日も沈んできたしな」
「あ~、お父さん恥ずかしいの隠そうとしてる~。顔が真っ赤だ~」
「こらこら、親をからかうんじゃない。ほら、手つないで」
 依然として顔を赤くしている父親を見て子は妙に憎たらしい笑顔を浮かべながら手を握った。
 そして子のもう片方の手を母親がしっかりと握り、三人の親子は歩きはじめた。
 三人は他愛もない話をしながら歩き、家に着く頃には既に日は完全に落ち、月と星が夜空に輝き始めていた。
 子が家の中へと入っていくのを見てから、父親と母親は家の前で空を見上げた。
「相変わらずこの島から見る星空は綺麗だな…。本当、今も昔もこの島だけは何も変わらない……」
「変わったのはここに住んでる私達だけかもね。クスッ…あなたったらこの島の星空が見れなくなるのが嫌だって理由だけで都会の水泳チームに入るのを断ったもんね?」
「別に都会へ行かなくたって水泳は続けられるし、何より都会の空気は俺には合わないと思ったからだよ。それに、断った本当の理由はもっと違うところにあったしな」
 そう言ってから隣にいる自分の妻が凄く聞きたそうな顔をして見るものだから、父親はしまったなと少し後悔したような表情をした後、話を続けた。
「その、何て言うか…。お前達二人を残してここを離れるのが嫌だったし…。俺の故郷はここだけだからさ。この島にはお前と出会った海があって、お前やあいつらと一緒に過ごした時間や場所がたくさんあって、時に笑ったり、泣いたり、怒って喧嘩したりした思い出がぎっしり詰まってるから。都会に行ったら何だかその思い出を忘れてしまいそうで怖かったんだろうな……」
「…ふ~ん。やっぱり昔から心配性なのは変わらないね」
「悪いかよ」
「うぅん、全然。そんな心配性なところも含めて私はあなたを好きになったんだもの。それと……」
 母親は父親の腕に抱き着きながら上目使いで父親のことを見上げる。
「あなたがもし忘れたとしても、私が全部覚えていてあげる。それで、思い出すまで何度でも話してあげる」
「……ありがとな」
「えへへ。あなたが私にしたこととかも全部覚えてるもの。どんな感じで私を抱いたとか、あの時はこんなプレイもしたとか沢山覚えてるよ」
「すまないが、それは全力で忘れてくれ。今すぐに」
 母親は笑顔で冗談だよと言い、家の中に父親と入っていった。笑顔の母親とは逆に父親の顔には苦笑いが含まれていた。
(こいつの場合は冗談に聞こえないから困る…)
 と、頭の中で一人呟く父親であった。



「えっ…。私をパートナーに?」
「う、うん。嫌…かな」
 時は遡り、再び自分の過去の記憶。
 彼女をパートナーにしようと決意した日だ。確かトレーナーとしてポケモンを持っていいのは十歳からだったはず。
 既にその歳を過ぎて三年が過ぎようとしているころだった。
 もっと早くに言いたかったのだけれど、踏ん切りがどうしてもつかずに彼女と初めて出会ってから一年程経ったある日。ようやく彼女に打ち明けることができたのだった。
 少し顔を俯かせ、夕日の色に染まった海を見ていた彼女は手を口に当ててから小さい声で聞いてきた。
「えっと、私なんかでいいの…?」
「もちろん」
「本当の本当に? 後で後悔するかもしれないよ!?」
「しないよ」
 彼女の必死の形相に少したじろぎながらも、言葉を返していく自分。
 やはり野生からいきなり人と一緒に生きていくというのは難しいのだろうか。でもたとえどんなに難しくても、自分は彼女と一緒にいたい。その時そう思ったからこそ今の自分がここにいる。
 彼女が自分と同じ人ではなく。

 ポケモンだったとしても…

 そう、自分が愛した人はポケモンだった。自分は長い年月をかけ、人とポケモンという種族間を越え、彼女と結ばれた。
「それで、答えを聞きたいんだけど…」
「……こ、こんな私でよければ、君のパートナーにしてください…」
「うん、分かった。じゃあこれから僕と君はパートナーだね」
 恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、彼女は自分の傍に近づいてきた。試しに頭を撫でてみると、まだ少し乾ききっていない海水の染みた彼女の毛並みに触れることが出来た。案外サラサラしてたのをいまだに覚えている。
 そして、頭を撫でられた彼女は少し体を震わせたけど、すぐに落ち着き、撫でられることに嬉しさを感じていたようだった。
「そういえば私達、出会ってから一年も経ってるのに、まだお互いの名前を聞いてなかったね」
「そうだね。じゃあこれからはずっと傍にいるんだし、今言って、名前同士で呼びあおうよ。まず、君の名前は?」
「私はね、お兄ちゃんにつけてもらった名前なんだけど、「リム」って言うの」
 初めて聞いた彼女の名前。今はその名を毎日呼び合っている。
 夫婦なのだから当然なのかもしれないが、円満でいたいのであれば、こういう名前で呼び合うスキンシップも大事だとあいつらから聞いたことがある。
 本当なのか定かではないけども。
「リム…か。これからよろしく、リム」
「うん、こちらこそ。じゃあ次は君の名前だね」
「分かってるよ。僕の名前は……」



「…ノン。アノンってば!!」
「ふぁ?おぉぉおぉっ!?」
 どうやらうたた寝をしていたのだろうか、アノンと呼ばれた父親ははっと目を開ける。そして真っ先に視界に入ってきたのは母親、つまりはアノンの妻であるリムの顔だった。
 そのことに驚き、思わずソファーから転げ落ちそうになったアノンはすんでのところで難を逃れた。
「ちょっと大丈夫?うたた寝なんかしてたら風邪引くよ?」
「あ、あぁ。悪い。何か懐かしい夢を見ててな。お前…いや、リムをパートナーにしたあの日の夢だったよ」
「へ~…随分懐かしい夢を見てたんだね」
 そう言い終わってからアノンの隣に座り、ソファーの前にあるテーブルの上に煎れたお茶をずずっと飲むリム。アノンもあぁと一言だけ返してからもう一つのお茶を口に含んだ。
「あの日からもう十年近く経つんだなぁ……」
「早かったね、ここまで来るのに」
「おいおい。俺達はまだ若い方だぜ?歳とったおばさんみたいなこと言うなよ」
「誰がおばさんよ、誰が」
 お前だよとアノンが一言。
 その一言に膨れっ面をするリム。
「まぁ、何だ。俺はまだまだ現役で水泳をやってる。リムだって俺のサポーターとして活動してる訳だしさ」
「その分、あの子には少し寂しい思いをさせてるけどね……」
「だから休みの日にはたくさん構ってやってるんじゃないか。今日だってそうだしな」
 そうだけどと呟いてから顔を俯かせるリムを見て、さっきの過去の顔と重なるのをアノンは感じた。
 それから少し程経った時、リムは顔をあげてアノンの膝の上に手を置いてから彼を見上げた。
「ねぇ。あの子に近所の友達じゃなくて、弟とか妹を作ってあげればいいんじゃないかな?」
「いきなり何を言い出すかと思ったら…お前なぁ。これから作っても一年はかかるじゃないか。あぁ…でも、依然俺に弟か妹が欲しいって言ってたような…」
「でしょでしょ? ここは我が子のために一肌脱ぐとしましょうよ、アノン」
 そう言ったリムの目がキラキラと輝いているように見えたアノンは、やれやれといった表情で言葉を返す。
「リム、まさかお前溜まってんのか?」
「ふぇぇっ!?そ、そんなことないよぉ!!」
「そうだよなぁ…。二ヶ月もご無沙汰じゃあ流石に俺でも溜まるわ」
「だ、だから違うってば!!」
 断じて違うと主張はしているものの、顔が真っ赤であれば説得力が全くと言っていいほどない。
 アノンは口の端を歪めて笑ったような顔を見せてから、リムの手を取り、自分の元へと引き寄せてから彼女の頭を胸の辺りに埋めるようにして抱き寄せた。
「あっ…」
「こうしてると昔のこと思いだすな…」
「アノン…」
 リムはアノンの服をぎゅっと掴んで、彼を見つめた。そしてアノンもまた、彼女をしっかりと見つめ返し、口づけを交わす。
 唇が触れ合うだけの本当に軽いキスだったが、二人にとってはそれだけで十分のようだ。
「あの子は…リンはもう寝かしたのか?」
「そこはばっちりだよ。リンはアノンと同じで一度寝たら中々起きない子だから」
「なら…ここでやっても大丈夫だな?」
 アノンはそう言ってからゆっくりとリムをソファーの上に仰向けに寝かせた。まだ少しスイッチが入ってないのか、リムは体をもじもじさせてアノンを見る。
 そのリムの様子を見て、アノンはもう一度キスをした。先程のような触れるだけのキスではなく、互いに舌を絡ませる淫らなものだった。
「んむぅ…ふぁ……」
「ちゅ…くちゅ…」
 次第に息を荒げては強く抱きしめ合う。今は誰もこの二人の中に入ってこられるものなどいないだろう。またはこの二人が気づかないだけなのかもしれない。
 それほどまでにこの夫婦は互いを強く欲している。
「ぷぁっ…」
「このキスも久しぶりだな…?」
「やぁぁ…もっと…キスしていた…い」
「可愛いこと言うなぁ、リムは。それじゃあこっちにも久しぶりにキスしてみるか?」
 ニヤけた顔をしながら、ズボンを脱ぎ、自分の愚息を取り出したアノンはリムの目の前に突き出す。そのことに一瞬目を丸くさせたリムだったが、愚息の匂いを嗅いで我慢が出来なくなったのか、すぐに先端を口に含んだ。
「あむっ…」
「うぁぁっ…凄…っ」
「ちゅう…ぷっ…」
 久しぶりとは言え、今まで子と同じように育んできた行為の仕方はしっかり体に染み付いているようで、リムはしっかりとアノンの弱点を攻め、快楽を与えていた。
 先端を掌で弄ったり、裏筋を執拗に舐めたり、時には吸い出したりを繰り返しながらリムは愚息を確実に限界へと導こうとしていた。だが、その行為をしながらもリムが自らの秘所を片手で弄っているのをアノンは見逃していなかった。
「水臭いじゃないか、リム。一人でやるなんて」
「んむぅっ…!? ふにゃっ!!」
 リムがくわえ込む様子を見て、我慢が出来なかったのか、アノンもリムの秘所を弄り始めた。リムの秘所は程よく濡れていたのか、アノンはすぐに指を宛がい、中に押し込んだ。
「あぅっ…んぐ…」
「相変わらずよく締めつけるな、リムのここは……」
「はむぅっ…!!」
 互いに快楽を与えあい、息が荒くなっている二人は前戯の動きを早めだした。
 先にやられていたせいか、最初に根を上げたのはアノンのほうだった。
「ぐっ…リム。そろそろイクぞ…っ!」
「いいよぉ…わたひのくちのなふぁにだひてぇ…わたしも……もうすぐだから……ぁっ」
 そう言葉を交わしてから数秒、アノンは体を大きく震わせ、リムの口の中に精を放ち、リムは目を閉じて口の中に放たれるものと、アノンの指から与えられた快楽で絶頂を迎えたようだ。アノンの精は随分と溜め込んでいたのか、口の中に収まりきらずにリムは絶頂の余韻に浸る間もなく、むせ返ってしまった。
「くふっ…けほっけほっ…!!」
「わ、悪いっ!! 大丈夫かリム?」
「んっ…ごくっ…。もう、出しすぎだよぉ…。全部飲もうと思ってたのに」
「じゃあ……この中に残ったの吸い出してくれるか?」
 バカと一言罵ってから溜め息をついたものの、リムは嬉しそうな表情で再び愚息を口にくわえ、ごくっと喉を鳴らしながら、吸い出していた。
 そのおかげなのか、アノンの愚息は再び元気を取り戻し、天高くそそりたった。
「ふふふ、元気だねぇ…アノンのここは」
「うるさいな…。お前がこうしたんだろ」
「それにしたって随分溜まってたんじゃない?これだけ出せるなら今日だけで孕むかもしれないね」
 笑顔でそんなことを平然と言うリムに対して苦笑いを止められないアノンは、適当に笑って、そうだねと一言返した。
 それを見破ってるのかいないのかは本人にしか分からないが、リムは艶めかしく笑っていた。
「それじゃあそろそろ…」
「おっ?」
 顔ばかりに気を取られていたせいか、アノンはリムの動きに今の今まで全く気づいていなかったようで、はっとした時には既に遅く、リムはアノンをソファーに深く腰掛けさせており、彼の目の前に座りこんで両肩にそれぞれ手を置き、愚息の先端を秘所の入口へと宛がっていた。
「くぅっ……」
「…っぁ」
 軽い呻き声をあげたのもつかの間、リムは腰を下ろし、アノンの愚息を膣内に呑みこんだ。
 今まで部屋の空気に触れていた愚息は途端に熱い肉に包まれ、震えていた。
「んぅあぁっ…!!」
 入れた本人も随分と久しぶりだったせいか、高い嬌声を上げていた。そして、声を上げたかと思えば、自ら急に激しく腰を振り出した。
「あんっ……ひぁ…くふぅっ…」
「リム、やっぱり溜まってたんじゃないか?こんなに激しく動いて…」
「…言った…でしょ? 私は…アノンとだったら……毎日したい…って…」
 そんなことも言ってたなとアノンは言葉を返してから、リムの胸に触れ、その膨らみの先端を口に含み吸い出した。
「にゃっ…! む、胸っ…強く吸っちゃやぁっ……」
「ちゅうっ…じゅる……」
「あ、アノン……赤ちゃんみたいだよぉっ……ひゃんっ…!!」
 快楽をひたすら供給しながらも一心に腰を振り続けるリム。
 その度に幾度もアノンの愚息は強く締め付けられ、射精を促されるのだった。アノンは胸の突起から口を離し、今度は指で突起を強く摘んだ。
「やぁん…!! そ、それ反則ぅ…っ!!」
「ほらほら、腰の動きが遅くなってるぞ~?」
「だ、だって…動かしたら胸が……」
「じゃあ俺から動いてやるとしますか…」
 そう言ってアノンは片手をリムのお尻に添えて固定し、もう片方の手で突起を強く摘み、腰を振りはじめた。
 リムが上下に揺らされる度に突起が摘んでいる指と指の間で強く擦れ、刺激を与える。それに加えてアノンがもう一つの刺激を与えようとしていた。
「昔からリムはここを弄られるの好きだよなぁ?」
「そこは…っ!? だ、だめぇっ!!」
 彼女の制止も空しく、アノンはリムのもう一つの穴へと指を入れ、すぐに前後に指を動かした。
 リムはいまだにそれを止めさせようとしているのか、必死にアノンの手に自分の手を重ねて強く掴んでいた。
 しかし、その行動は逆効果だったようで、腰を振られる度に強く掴んだアノンの手の指が奥へと入っていってしまっていた。
「嫌々言ってるわりには自分でやってるじゃないか。よしよし、後二本ぐらい入りそうだな」
「違っ……ふにゃんっ…!! ら、らめぇっ…そんな一気に指っ…増やしちゃ…あっ……!!」
 リムはしばらく首を左右に振って我慢していたが、いつしか狂ったようにだらしなく口を開き、舌を出して快楽に溺れ始めていた。
 そのことに気づいたアノンは、リムの舌と自分の舌を絡め、深くキスをした。
「ふみゅっ…んむぅっ……」
 目を細め、嬉しそうにアノンの口を堪能するリム。唾液の交換が間に合わずに、口の下へと垂れていくのが何ともいやらしい。
「すっかり淫乱モードに入っちゃったみたいだな…? あぁ、でももう俺我慢出来そうにない……っ」
 口を離し、そう言ってから再びリムの空いた方の胸の突起を口に含み、先程よりも強く吸い、さらに舌で愛撫するところまで加えていた。
「んっ…んんっ!! ふぁ……にゃ…」
 リムは絶えず訪れる快楽の波に呑まれ、アノンの首の辺りに抱き着いて、ひたすら膣内の子宮口を突かれ続けていた。
 コツンッと小突かれる度に、子宮口の入口が少しずつこじ開けられていき、次第にはアノンの愚息の先端の半分程が入るぐらいにまで広がってしまっていた。
「はぁっはぁっ…!! そろそろ出すぞっ……リム…っ!!」
「ひゃうっ……んぅっ…いにゃ…っ!!」
「ぐぅぅっ!!」
 アノンが呻き声を上げてからすぐに、リムの膣内に精子が放たれた。さっき出した量とは比べものにならないくらいの量を出した上に、その大半はリムの子宮内に収まりきらず、結合部分からコポコポと垂れて、アノンのズボンを濡らした。
「はぁっ…はぁっ…」
「中に…沢山…っ。出たね……」
「久しぶりだからな。凄く良かったよ、リム……」
「うん、私もだよ。アノン」
 ある程度落ち着きを取り戻してからそう言葉を交わした二人は、また軽くキスをした。そんな二人がいた部屋には少し異臭が立ち込めていたが、それを気にする様子はないようで、キスをしてからは、しばらくの間、二人は抱きしめ合っていた。
「ねっ、アノン?」
「ん~、何」
「今日はこれで終わりなわけじゃないよね?」
「少し疲れたんだが」
「だぁ~め!! 今日は愛する娘のために一肌脱がなきゃ!!」
 アノンはこんな時にまた昔のことを思い出した。そういえば彼女は絶倫だったなぁ、と。
 若い頃は(と言ってもまだ若い部類だが)もっと大変だったような気がするが、何とかまだ持つだろう。そう考えたアノンはリムに対して言った。
「どっちかっつーとリンのためじゃなくお前のためになってないか…?」
「気のせい気のせい!! ほら、次行くよ~?」
「ったく。もう好きにしてくれ…」
 半ば投げやりではあるが、アノンの愚息は正直で、いまだ萎える様子はなかったのであった。
 次の日、自分達の娘に色々な質問攻めをされたのはもはや言うまでもないことである。



 その次の日の夕方。
 海と落ちていく夕日を一人眺めながら、寂しそうに立ちつくしているアノンの姿があった。
「……本当に変わらないな。この島は」
 もしかしたら俺自身も、変わっていないのかもしれないなどと思いながらも、アノンはそう独り言を呟いた。
 風が運んできた潮の匂いを鼻一杯に吸い込んで、次に大きく息を吐いてから、アノンはほとんど見えなくなった夕日を見て思った。

 今日や明日、いや、多分ずっと俺はこの島で新しい夏の日の思い出をリムやリン達と刻んで生きていくんだな…と。

 そう思ってから数秒もしないうちに、遠くからリムやリンがアノンを迎えに来たのか、砂浜を走ってきた。
 アノンは二人に向かって歩を進め、次第に近づいていき、やがてはその距離が0になった。
 そして少しの間があってから、昨日と同じように三人は手を握って一緒に帰っていくのだった。

 何年時を経ても変わらない星空を見上げながら……


あとがき的な何か

どうもおひさしぶりです。幽霊作者の一人に仲間入りを果たしているかもしれない私です。
今回は10000HIT記念作品と言うことで小説を書かせていただきました。
内容は長編小説のafter story的な感じです。以前から書きたいなとは思っていたのですが、あまり余裕もなく、かなり遅れてしまいました。

この小説を読んでもう一度長編を読んでみたくなるような感じになっていればいいなと思っている次第です。


最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 夏の思い出は前に読んだことがあるので、すごく楽しめました。本編の方をもう一回読んできますね(笑)
    ―― 2011-01-11 (火) 22:13:34
  • 淫乱モードワロスw
    ――ユウリ君 ? 2011-09-18 (日) 16:55:54
  • 懐かしいこの作品
    ―― ? 2013-11-19 (火) 22:58:42
お名前:

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