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とりかえプリイズ

/とりかえプリイズ

まえがき
!R-18
!エーフィ♀×キノガッサ♂
!エーフィ♀×ニンフィア♂
!受精、孕ませ
!女性優位
!軽めのメタ

要素を含みます!苦手な方はお気を付け下さいませ。

はじめましてのお方ははじめまして、二回目の方は続けてお読みいただきありがとうございます。普段はpixivなどでお話を投稿させていただいております特ルリと申します。
小説wiki様への投稿はまだ慣れておらず緊張しておりますがお読みいただければ幸いです、皆様の糧と少しでもなれればよいのですが……
今回もお読みいただいた全ての方、wikiを盛り立ててくださっている全ての方に感謝を!ありがとうございます。


「とりかえプリイズ」

プロローグ

―根拠もなく「このひとは僕の運命のひとだ」と思った。
―黎明の無明に。
「……あら」
―従者のポリゴンと共に霧より現われ出で。
―そして、会釈して消えゆく。
―その二股の尾に。
―その露を弾く羅紗の毛並みに。
―その金の瞳に。
―その額の宝玉に。
―宙に浮くあざやかな番傘に。
―たしかに僕は、この霧を払う光を見たんだ。


―根拠もなく「このひとは僕の運命のひとだ」と願った。
―黎明の無明に。
「お尋ね者のグラエナさん……おいたはそこまでになさってくださいまし」
―従者のポリゴンと共に闇より現われ出で。
―宙に浮く無数の扇子を弓のように飛ばす。
―そして無事を確認するようにその金の瞳で僕を見つめると。
―手柄も何もいらないとでも言うかのように、そのまま闇へと消えゆく。
―最後に消えた、その尾に。
―安堵を称えるその表情に。
―散らばったあざやかな扇子に。
―たしかに僕は、この闇を払う光を見たんです。

1.
「『姫様』の事?さあねえ、わたしも詳しくは知らないけれども」
「変わったエーフィだよなあ、大昔はどこぞの偉いお方だったとかそうじゃないとかいろんな噂はあるにはあるが……ふらっとこの辺に現れて金やらモノやらをばら撒いてはただ微笑んでいるだけ……何のためにそんな事をしているか知らんが故郷で何かやらかして罪滅ぼしなのかねえ」
感情を表すような、なんとも言えない頭の瞬く頻度でわかくさグミのドリンクを混ぜるズガドーンは、どうぞ……と静かにグラスをキノガッサの前に置く。
こんな甘そうなものをどう飲み干せばよいのやら……と目をしばしばさせる彼と偶然相席になったのは、牙を見せて笑うのが特徴的なグラエナ。
「……あっ、もしかしてなんかもらって一目惚れしちゃったクチかー?残念だったな、旦那いるんだあいつは」
―えっ?
「……ああ、また可哀そうな被害者が一人……」
気の毒とでも云うかのように瞬きを弱めるカフェのマスターは、お尋ね者から探検隊になったグラエナが黙っていても説明するであろうとサンドイッチを手でスライスしにかかる。
「『王子様』って呼ばれているニンフィアがいてな、そいつと一緒によくここに来るんだ……で、二匹で出会ったやつの望みをかなえたり金を恵んだりする……あいつらを見ていると、友人の2匹を思い出すぜ」
……そいつらがまた傑作でな!谷底に住んでいたって言うんだよエーフィの方は!聴いたこともないような古い時代のことも知っていて……
―そうかあ。
―そうですよね。
彼らの言葉に茸のポケモンが感じていたのは衝撃でも落胆でもなく、納得。
―あのようにきれいなポケモンには、きっときれいなお方が寄り添っていて。
―愛も恋も知らぬ、ただ俗世にいるだけの僕が入り込む余地などどこにもない。
そんな、唐突なる理解。
水面の太陽には手を伸ばせぬように。
月はいくら空で大きく見えようとも遥か離れているように。
きっと彼女もそういうものとしてある、という。
「……おっ、噂をすれば『姫様』の御成りだ……酒代いただきにいこうかなー、ついてこいよ!これもなんかの縁だ」
―ふと顔をあげる。
―入口など使わず、虚空よりそこだけが現実とでも言わぬばかりに超能力により現われるのは。
―僕が霧の中で見たひとと、そこでは見かけなかった青いニンフィア。
「……皆さんお仕事お疲れ様です……!……はい、貴方は初めてお会いするお方ですね……なになに、火山に旅行に行きたい?ではこのテレポートのけっしょうをどうぞ」
彼は皆を労うように、ぞろぞろと寄ってくるポケモンの要望を一匹一匹聴いてはそのリボンで以て様々なものを渡してゆく。
ポケ、何かの小瓶、タマゴ型のランプ、巻物、にじいろグミ、どう見てもただの空き缶、青く光って本物そっくりにしゃべるミニチュアのニンフィア。
あるいはリボンによる微笑みとともの軽い抱擁。
―返礼として描けられる言葉があろうが、なかろうが。
―さらに強欲になろうが、自分にお返しに出来ることはないのかと気に病まれようが。
ただ彼は笑って、ただニンフィアは大丈夫ですよと言って。
その施しを続ける、その道を進む。
後ろで見守りながら……傘のうちで微笑むエーフィとお供のポリゴンを伴って。
―どこから取り出しているのでしょう?
―そんな事を想ってしまった。
―嫉妬や欲望や諦めより、なにより先にそれが出るほど彼には現実感がなかったから。
「……貴方も、初めてお会いするお方ですね?……わたしへお望みをどうぞ……!」
いつしか彼の番が回ってきた時、はっと気づいた現実の中。
頭の中が空白になっていた彼は……目の前の青年のやわらかな笑みにとっさの言葉など出ぬまま。
―ええっと。
いっそ間抜けなそんな事を言いかけて……思わぬ方向からの助けクレベースを出される。
「この方はわたくしが……わたくしだけの王子様、お任せくださいまし、ふふっ」
―手を握られている。
―後ろで見守るだけあった姫君から。
―そのしなやかな尻尾でいつの間にか。
「そういうことなら……任せようかな、安心してくださいキノガッサさん……わたしの姫様も、きっとあなたの望みをかなえてくださるでしょう」
「……えっ……えっ……?!」



2.
空には雲もなく、月はまだあがるには早く。
それゆえ闇は訪れ、そこは暗い森の中。
「……あの時のキノガッサさんですね、その節はご無事で何よりです」
「……ありがとうございます」
お礼なぞ、と微笑む森の中の灯はそのようなことはさしたる重要性はないと言わんばかりに言葉を次いだ。
彼の植物の種のような物がついた尾を、キノガッサの帽子を、その体躯を見つめながら。
「……では、願いをどうぞ……叶えられる範囲であればどのようなことでも実現して差し上げますわ」
―その柔和な微笑みを前にすれば、困惑。
―困惑と焦燥。
「……どのような、ことでも」
―ついで許される筈もない、そのはずはない欲望。
―わざわざ僕をここに彼女が呼び出した真意は。
―いや、そんなわけないでしょう。
―でも……それを望むくらいはわけないのでしょうか。
―待って、相手は夫がいるポケモンだよ……
―そんな、そんな事を言えばまるで自分が……
「……わたくしの絵姿?……その様なものでよろしければ……」
ぞわり、と。
キノガッサの背面に、後頭部に触れる柔らかい毛並みがあった。
そこにあるのは彼の脳、かくしてあるは願いの根源。
「……ずーっと御姿を眺めて居たいって、そう……思ってしまいました姫様」
それを尻尾の念動力で読み取り、そうしてすぐに彼女は口元に尾を寄せる。
まるで願いを味わうように、望みを確かめるように。
「その様なものでよろしければ、喜んで!これであなた様が幸せになってくださるのであれば」
異様たる威容に、威容たる異様を。
その尾を揺らす、闇に輝く光を前にして。
お礼の言葉しか発することのできないはりつけられた心へ向けて……妖姫は改めて笑う。
「……ではまた後日、わたくしがこの街にいる間はお会いいたしましょう……うふふ」
―僕の手に、今の一瞬で描いたとはとても思えぬ……月を見つめるエーフィのやさしい姿絵を残して。



3.
―善意でやってくれたはずだ。
布同士が擦れる身動ぎの音。
―善意でやってくれた事に、僕は何を考えて何をしているんだ。
―その絵姿は「汚れない」位置にあり、布は汚してしまっても洗濯できる。
問題はそこではない……と言わんばかりにキノガッサは動きをやめる。
―ひとりを好きになることが許されるのは、ひとりだけなんです。
―どれだけ焦がれようとも望もうとも決してそれは変えてはならないんです。
布にうつぶせに転がり、秘部の熱が治まって欲しいと願ってそのまま身動ぎ一つしないでいると。
―だからその方に「そういうこと」を考えること自体が罪なんです。
―もちろん相手にとってもですし、なにより自分が苦しむだけじゃないですか。
―きっとこうしている間も、惨めに自分で慰めている間にも王子と王女は睦あっているのかもしれませんし。
―僕はただの……大勢の中のその他一人なのですから。
その手触りを、その声をキノガッサは想像する。
『キノコのほうし』で眠らせてしまえば触れるくらいは……触れるくらいは許してくれないでしょうか想像の中でなら……
空想は空しいものであり、絵は動かぬものでありそしてそれよいのであろうから。
月が変化せず今を照らすのと同じく。




4.
「そういえば……あなたにお客さんよ」
「……僕に、ですか?」
何が変わろうともまた同じように探検隊の数日は過ぎ。
しかしてその目の下には隈ができている悩めるものはズガドーンにそう呼び止められる。
グラスに注がれているのは、ごうごうと燃える炎。
「……酒場だと目立つから裏の森に来てほしいそうだけれど……何か依頼かしらね、たしかに伝えたからね」
「……ありがとうございます……?!」
けげんそうに頭を回転するズガドーンは、帰りはいいパイルジュースでも飲んでいって、安くしとくから……とその紺色の頭を手で持って言葉を返してくるが。
最早キノガッサはそれを聞いていても返答の余裕などなかった。




5.
「……『姫様』……でしたか、やはり」
「ええ、贈り物はお気に召したでしょうか……」
変わらず彼女はそのままで。
変わらず彼女はそのまま。
どこか不思議な笑みをキノガッサの前で、黎明の無明の中で見せるエーフィの姫君。
―このまま進むと何か取り返しのつかないことが起こりそうだ。
その直感に焦がれるものはおじけつき、思わず一歩後退る。
「お気に召さなかったのかもしれませんね」
かさり、と渇いた下草の音はどちらの歩みゆえのものであったのだろう。
「……でも」
―その次に起こったことに比べれば、それは些末事であるのだが。
「ご安心くださいまし……今度はきっと望みは叶いますわ」
いつの間にか。
腰が抜けて立てないキノガッサの後頭部にはしなやかな尻尾が当てられていた。




6.
―あら。
―ふふっ……やっぱり、そうなのですわね。





……こんなことはあってはならないんです。
……あなたにはニンフィアさんがいて、僕はただたまたますれ違っただけのポケモンで。
……っ、だから……
……ふ、ふあ……や、やめてくださいっ……!ぼ、僕そういう経験もないのにっ……そういうのは好きなポケモンさん同士でやるべきことで……!
……やっ、やめっ……
……っつ!!



7.
―……ん、ふ……
―落ち着きましたか、キノガッサさん。
秘部に注がれた白濁を、あまりにも早く果てたその欲望を……そしておそらく想定もしない方法で願いが叶ったであろう彼をわたくしは見つめる。
―どれだけ、この方は強く願ったのでしょう。
―どれだけ、この方は苦しまれたのでしょう。
―だからこそ……わたくしは彼のものでありましょう。
―いや、元から彼のもの……なのでしょうか?
そうして涙に濡れたキノガッサを助け起こすと……その尾で苦しみを清めて差し上げました。
―もっと求めても、よいのですわよ?
耳元でひそやかに囁く。
それをされた表情から読み取れる、このポケモンの気持ちは理解できない。
わたくしと彼はほとんど初対面で、そして特殊な事情故につがいになると示すにはこうするしかなかったのですもの……
―わたくし発情期ですの……孕ませたいと、家庭を築きたいと思いませぬこと?
―その尻尾で抱き寄せ、あなた様の妻にしていただいてもよろしいのですわよ?
……その日。
エーフィの卵子は、繰り返し無数に注がれたキノガッサの精子によって覆われ、結び付くゆるやかにタマゴの形を形成すべく分裂していった。

8.
「『……ではまた後日、わたくしがこの街にいる間はお会いいたしましょう』と……わたくしはそう言ったのですわっ……一目惚れだったのかもしれませんわね」
「……二、ニンフィアさんは……どうしたんですかいな姫様?」
フォッコにつままれたようにその異様な光景を見つめる酒場内で、まだ困惑しながらも絡められる尻尾を振りほどいたりはしないキノガッサと。
想われることは心底しあわせだ、とでも言わぬばかりのエーフィが揃って宴の席についていた。
「……あら?わたくしだけの王子様はハーデさんですわよ?ねえ?」
「……そ、そうですねセポさん……?」
「おいおい……ほ、ほんとに大丈夫なのか?……まあ、セポさ……姫様がこの街に住んでくれるのと……ハーデに相手が見つかったことはめでてえ!今日は祝いじゃあ!!……お代はぜーんぶこの夫婦にツケで!」
「まって!!」
調子のいいことを言う仲間に思わずパイルジュースをこぼし、いつもの調子に戻るキノガッサは、きっとこの状況も徐々に受容してゆき。
それが当たり前であるかのように、永く、永くエーフィと共に伴侶として暮らすのであろう。


エピローグ

ズガドーンの酒場がある街から遥か遠く。
霧巻く林の中を歩む、三匹のポケモンがいた。
「……今回の事で思い出したのだが……酒場がある街にいた、あのキノガッサさんは幸せでいるのだろうか、わたしはそれが心配だ」
雨宿りに適した木のうろを見つけると、そこまで一行を先導するのは……リボンで露を払う青いニンフィア。
変わらぬ善意の瞳で、ただ柔和に二人を見つめる。
「きっと喜んでくださいますわ……焦がれる夢が、叶ったのですから」
にっこりと笑ってうろに先に入ってゆくのは……
その二股の尾を。
その露を弾く羅紗の毛並みを。
その金の瞳を。
その額の宝玉を。
宙に浮くあざやかな番傘を。
そのままの存在として居る、エーフィ。
「……いつからだったろうね、これに気が付いたのは」
「本当に素晴らしいですわよね……ひとつしかない存在だって、二つにしてしまえるのですから」
『自己』という存在すら曖昧にしかねないそれを使用することに……彼女らは何の躊躇もない。
「今回は『わたしを増やさないと』いけない、一か所に二匹のポケモンがいるわけにはいかないから安住の地はゆえにまだ見つからないけれど……きっといつかは見つかるさ」
「わたくしは、オリジナルのわたくしは王子様とならどこへでも……ですのよ、ふふっ……それでははじめましょうか……ポリゴンさん、お願いします」
「カシコマリマシタ……ソレデハ」
なぜ彼らがポリゴンを従者として選んだのか。
何故彼らは、『自分が複数いる』かのようにふるまっているのか。
……その答えは。
灰色をした、小さなケーブル。
『つうしんケーブル』。
「わたくしと王子様を電子データとして空間ごと交換する……その際に、このケーブルが支えている空間を抜きますと」
「抜いた方のポケモンが増える……わたし達はポケモン、電子として変換されうる存在だからね」
最早説明の必要もない彼女らだが、確かめ合うように互いにそう言って。
そして笑って、光の球へと自身を変換する。
黎明の無明、それを不思議な光で照らしながら。



数日の後。
未だに現実感のない様子で、青いニンフィアとリボンを結びあって歩むポケモンが目撃されたとの噂もあるが。
けれどもこれはまた……キノガッサ達には関係ない話であった。

                                     了

あとがき
拙作をお読みいただきありがとうございました。あとがきから読まれるタイプの方はネタバレを多分に含むためUターンを推奨いたします。
もしも、無条件で自分を愛してくれる想い人がいたとしたら?
もしも、誰かが幸せになる代わりに誰かが苦しむことが無かったら?
そもそもどうして、ポケダン世界につうしんケーブルがあるのか?
このお話はそんな問いに対する自己流のひとつの答えであり、そしてそのような問いに真正面から異様な挑戦状を『たたきつける』ものであるのかもしれません。
誰もが望めるならおとぎ話の王子様とお姫様であることができればいいですのにね。
御読みいただいた全ての方、wikiに関わってくださっている全ての方に感謝を!ありがとうございます。
よろしければコメントでご指導ご鞭撻、あるいは応援を頂けましたら幸いです。
                                  特ルリ

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Last-modified: 2020-10-23 (金) 02:55:49
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