SOSIA.チラ裏的作品その三
※注意
この作品には官能表現が含まれます。微えrレベルとはいえ"普通"ではないです。変態です。むしろ変質者です。
あと版権ネタの使用があります。
そんなのヤダって人は"戻る"でバック願います。
◇簡易キャラ紹介◇
○シオン:エーフィ
容姿のせいでよく牝に間違われるけど、
○ルビー:ピジョット
空の
以前は価格重視で選んでいた自分が質重視で選んでいることに気づく。ヴァンジェスティ家に婿入りしてからというもの、どうも贅沢何って、一夜の宿探しだ。
理由はわからないが自主退学したローレルが自称"仲間"とあの家にいた以上、シオンの入る余地はない。
明日の朝会ったら全て聞き出して、いずれローレルはヴァンジェスティ家で引き取ってもらうつもりだ。フィオーナに限って断るなんてことはないだろうが、もしそうなっても今のシオンの収入ならローレル
さて、何はともあれ今日の寝床を確保しないと。
この国の常識として、港町に並ぶ旅館の宿泊客はならず者が多く、国自体が狭くて港を介した貿易以外では他国との交流もないため中心街にはビジネスホテルもない。歓楽街はラブホばかりで――
ようするに、
例えば、こんな風に。
「君みたいな綺麗なお嬢さんがこんな時間に
「生憎と僕、お嬢さんではないんですけど。それでもいいなら」
「ケッ、オカマ野郎かよ。うまく化けたもんだぜちくしょう……」
偽物かどうかなんて見破るのは簡単だ。もし僕が本当に
シオンが今歩いているのは、港市場から少し離れたアパート街だ。アスペルの家もこの辺りにあるが、夜中に先輩の家に押しかけようとここへ来たわけではない。実はこの付近に、数少ない安全かつ健全な旅館があるのだ。大々的に広報活動を行わないお陰で、ならず者の類も少ない。宿泊料はやや高めだが、ランナベールで泊まるならここだ。と、アスペルに聞いたことがある。
建物が計画性のけの字もなく建設されるせいで、ランナベールの路地は大概迷路みたいに入り組んでいる。そのせいか、喫茶店『ウェルトジェレンク』をはじめとした隠れた名店も多い。
この旅館もそんな隠れた名店の一つなのだとか。路地裏に隠されている上に、鉄条網の取り付けられた高い塀に囲まれ、屈強そうなポケモンがタイプバランスを考えられて三匹、門を固めていた。
「
ロビーに入り、受付のブーバーンの女性に尋ねた。
「申し訳ありません、先程来たばかりのお客様で埋まってしまいまして……相部屋でよろしければ、
「相部屋ぁ?」
「もちろん同性の方です。
夜中に突然入るんだからスムーズにいくとは思っていなかったけど、これは意外な展開だ。たとえ同性でも、初対面の相手と一つの部屋で一夜を共にするなんてちょっと勇気がいる。
が、他に行くあてもないので贅沢は言ってられない。もし変なのが相手だったとして、そうやすやすとやられるほど弱いわけでもないし。そもそもそういう"変なの"がいないことがここの売りじゃないか。
「構いません。宿泊料は?」
「後払いで、チェックアウト時に精算させていただきます。今からでしたら五千ディルで一泊朝食付きですね」
高安全性の分宿泊料はかさむらしい。
まあ、橄欖にお小遣いも貰ったし、自分の所持金を足せばどうにか払える。
シオンは自分の考えの浅さを悔やむこととなるのであった。
◇
「リック様。宿泊希望者が出ましたので、相部屋になりますがよろしいですか?」
「最初からいいって言ってたでしょう……」
"変なの"ではなかった。
ノックに答えて扉を開けたピジョットはいたって普通だった。
「わぉ……随分と綺麗なコねぇ」
いたって普通の
ブーバーンはシオンを見て、もちろん同性です、と言った。
なんで忘れてたんだろう。僕自身が"変なの"だってコト。
「あ、や、その……」
「何よぉ、アタシべつに変な趣味ないからさぁ。何もしないわよっ。あ、アタシルビー=リックっての。一日だけだけどヨロシク」
彼女はにっこり微笑んで片方の翼を差し出してきた。あまり手入れをしていないのか、羽毛がところどころ乱れている。しかし不思議と悪印象は受けない。
シオンは反射的に、その翼に前足を合わせて微笑んでしまった。
こんな風に友好的に自己紹介なんかされちゃ、実は僕
「えーと、その……僕、シオンっていいます。ぼ、僕とか言ってるけど、み、見た目通り、
口から出まかせだ。しかしこうなった以上、牝の仔の振りをして何とか一晩乗り切るしかない。
もぉ、なんでこんなことに……
◇
部屋は思った以上に狭かった。
「こんな遅くから宿をとりにくるなんて、シオンちゃんは家でも追い出されたの?」
「ま、まあそんなところですね……」
少し違うが似たようなものだ。でもフィオーナ、いいのかな。僕を入れてくれなかったから、こんなところで
「ふーん……そういえば歳いくつ?」
「十九です」
「だったらもう自立してるわよねぇ……恋人に振られちゃったとかそういうの?」
「振られてはないです。ただなんというかその、門限とか決められてて、守らなかったら問答無用で……」
一から話を作らなくても、事実に即して話を合わせていれば矛盾は生じないだろう。どうせこれから寝るまでの一、二時間だけだ。
「ひっどーい! それどんな
\(^o^)/オワタ
いきなり暗礁に乗り上げちゃった?
「や……ぼ、僕のことを思ってっていうか、普段は過保護なくらいで……い、一回許したらそのうち守らなくなっちゃうとか……」
「何なのよその恋人……ホントに恋人? お父さんってゆーか、お母さんみたいな牡ね。でもそうだとしてもあり得ないよ? 何かあったらどうするつもりなのよっ。そんな牡、別れちゃいなよ」
ルビーは自分のことのように憤慨して、鳥ポケ特有の甲高い声で怒りをあらわにした。
お母さんみたいな牡って……雌雄逆転ってだけで話にほつれががががが。
「や……僕、こう見えても結構強いですから……街のごろつきなんかには負けませんよ」
「言ったって最近は徒党を組んで
「いえそんなかわいいだなんて」
キールさんみたいにむきになって否定したほうがボーイッシュな牝の仔の役柄としてはよかっただろうか。でも初対面だし、こういうときはテキトーに謙遜でもして話を合わせておくのもいいや。
「かわいいよぉ。牝のアタシでもドキドキするくらい……」
ルビーはなぜかうっとりした面差しで、取りようによってはかなり危ない内容をさらりと言った。こちとらボーイッシュ美少女設定なのになんでだよ。
「もぉ……変な趣味はないって言ったでしょ? そうだ、お酒でも頼んで一緒に飲まない? アタシの奢りでさ」
お酒か……
自慢ではないが、実はかなり強い方だ。度数の高い酒をストレートで水みたいに飲むポケモンがたまにいるが、そういうやつと飲み比べしても負けた記憶がない。
勝ったときの記憶も飛んでいたりするのだけど。
友人に聞いた話だが、シオンは泥酔するとかなり危ないらしい。何が危ないかって、過去の話になるが、十六歳のときのセーラリュート学園祭の夜、打ち上げと称して酒を持ち込み寮の裏手で騒いでいた阿呆がいて、当時風紀委員長だったオドシシのクルディアに見つかった。
『リュート全構内清掃一週間』以上の罰則は免れない。そう思った時、阿呆の中に含まれていたシオンがクルディアに甘えたり誘惑したりして、なんやかんやでクルディアはシオン
その後、いつまで経っても酒盛りしていた者たちに罰が課されることはなかった。それはクルディアが口止め料として手に入れたものがあるからで。二十歳で卒業試験を控えた模範生が、下級生の
「や……僕お酒は……」
「飲めないの?」
「飲めるコトは飲めるんですけど」
相手は異性だ。無精なせいでワンランク下に見えるが、容姿は十人並みちょい上くらい。しかも、年齢を聞いたわけではないがシオンの五つくらい上だ。年上の
「あまり好きじゃないんだ?」
いやべつに年上が好きってわけじゃ。や、違う違う。お酒の話か。
実はそうなんです――答えようと口を開く前に、ルビーは追撃してきた。
「それともやっぱりアタシと飲むのは嫌?」
出た絶対に断れない台詞。
脳内で
――まあ、お酒は大好きだし。
いや待てもし間違いが起こったらどうする?
――強いのは本当だ。ちょっとやそっとじゃ酔わない。
いくら今の僕にその気がなくても、前例があるのだ。てか前科だ。
――今の僕は美少女設定だし。同性だと思えば同性だ。少なくとも向こうはそのつもりだ。間違いなんて起こるはずがない。
勢いで飲みすぎたら?
――や、相手の奢りだし初対面だしそこまで厚かましくなんて。てかこれで断るのって逆に失礼じゃない?
たしかに相手に合わせてちびちび
――そうそう、よほど飲み過ぎない限り大丈夫な体質だし……
っていつのまにか脳内の意見が一致しちゃってるよ。
「そ、そんなことありませんよ。せっかくのお誘いですしね、それじゃあ……」
「良かった。アタシこんなだけどかなりディル持ってるから。好きなだけ飲んでいいよ。アタシについてこれなかったら無理に合わせなくていいからね」
好きなだけ……や、ダメダメ。ある程度まできたら抑える。学生時代の失敗を繰り返すものか。
◇
「あなたみたいなかわいい仔なら
深めの皿に注いだ酒を口に含んで上を向く鳥ポケ独特の飲み方で、ルビーは次々と瓶を空けてゆく。鳥は蠕動運動で水を飲み込めないので、嘴に含んで重力で胃の中へ流し込むのだ。
「お仕事は何をされているのですか?」
こちらも用意された
「電報を送りとどけたり、船から下ろした積荷を宅配したり、ポケモンを乗せて運んだり……空の
「それならいろいろな
「基本一回きりでサヨナラだからね。仕事の取引相手としてしか見てもらえないのよ……ねえシオンちゃん、いい牡の仔いたら紹介してくんない?」
ルビーは片方の翼でシオンの体を包み込んで顔を寄せてきた。酒のせいか、声や顔がすこし色っぽい。
いい牡の仔、ね。無理だってば。今の僕は
や。僕自身が彼女と長い付き合いになっては困る。今晩だけなら騙しとおせるだろうけど、未来永劫というわけにはいかない。彼女とは今晩っきりで別れなければ。べつに変な意味はないけど。
「ごめんなさい。僕ももうかの――いえ、彼氏がいる身ですし、
「何よそれ……いつ捨てられるかわかんないんだからさぁ、予備ぐらい用意しときなよ? そうだその前に、あなたの方が捨てるべきだってさっきも言ったでしょぉ? もっとマシな牡くらい本気で探せばすぐ見つかるって。てゆーかぁ、シオンちゃんって意外と強いのねぇ。アタシについてこれるなんて凄いよ?」
「え、あ、そ、そうですね。これでも結構……」
これが噂のマシンガントークってやつか。声が甲高い上に回転も速いときたら聞き取るだけでも苦労するのに、うまく相槌を打つともなれば骨が軽く二、三本折れる。
「よーし今夜はアタシと勝負してみる? アタシが勝ったら牡の仔紹介してよねぇ」
「えーと……僕はもうそろそろダメかも……」
できるものかそんなコト。普通の相手なら軽く倒せるけど、ルビーはまだまだ余裕がありそうだし、彼女に勝とうと思ったらそれこそ何かを犠牲にしてしまう。
かと言ってわざと負けたら紹介した誰かを通して先々まで彼女と付き合うことになり、僕が牡だということを隠しとおせなくなる。
「何よぉ。アタシの驕りなんだからちょっとぐらい言うこと聞きなさいよぉ」
「いえ、そ、それなら僕自分で払いますから……」
「だいぶ飲んでるけど、お金あるの?」
部屋に置いた鞄の中の財布を確認すると、千ディル金貨が五枚、百ディル銅貨が一枚しかない。宿泊料金が五千だから、払えるのは百ディルのみ。
「あの……百ディルでどれくらい飲めます?」
「はい? 今
\(^o^)/オワタ
いやいや。なんとしてもやめさせなくてはっ。
「に、二千ですか……そろそろやめにしません? ぼ、僕と飲み比べなんかしたらルビーさんもさすがにやばいんじゃ……」
「大丈夫だって。アタシ、お金持ちだって言ったでしょ?」
ルビーは部屋の隅に置いてあった大きな鞄から一万ディル白金貨を出してみせた。それも十枚。一般的なランナベールの住民一人の五月ぶんの生活費にあたる。
ちなみにヴァンジェスティ家だと
「あら? 見ても驚かないんだ?」
「今は手持ちが少ないですけど、見慣れちゃったので……てゆうか危ないですよそんなに持ち歩いてちゃ……」
「そうねえ。だからちょっとでも使っちゃおうかと思って」
「そんな無茶な……貯蓄とかしないんですか」
「だってアタシみたいなのがお金持ってたって、オトコもいないし使い道がなくてさ」
「だからって僕なんかと飲むために使っちゃったら勿体ないですよ、うん。僕まだまだ余裕ですし、万超えちゃいますよ万。ほら、それだけお金があれば牡の仔だって寄ってくるかもしれませんし」
その後も経済的理由からのアプローチでやめさせようとしたが、本当に稼ぎがいいのか、二万三万なんてまたすぐに溜まるとかなんとか、ルビーは結局聞いてくれなかった。
「それにシオンちゃん、少し牡の仔っぽい、っていうのかな。牡の仔と飲んでるみたいで楽しいのよ」
「や。それは口調だけというか見た目だけというか、あ、違う、見た目はそのままですけど、なんていうか僕……」
そうだ。いい言い訳を考えた。
「……その、酔っちゃうと相手が牝のひとでも何しちゃうかわからないんです」
いい言い訳というか、事実だ。最初から正直に言えばよかったんだ。
「あ、ちょっとそっちの気あるんだ」
「べつにそういうのではなくてですね」
「アタシこれでも力だってあるのよ。何かされたって止めるくらいわけないから大丈夫。とにかく、勝負してくれなきゃ驕らないからね」
小賢しいトリめ。私の前に
もうこうなったら、シオンが酔ってしまう前にルビーがつぶれてくれることを祈るしかない。
だいたい危険状態のシオンだって、聞くところによるといわゆる誘い受けというやつらしい。自分から襲ったりはしない。ルビーにその気がなければ、少なくともシオンを
「わかりましたよ……財布覚悟してくださいねホントにもう……」
「あなたもちゃんと紹介する牡の仔考えておいてよね♪」
かくして、危険な賭けが始まった。
◇
「ねえルビーさぁん。もーそろそろぉ、負けを認めたらどーですかぁ?」
「あなた……体小さいくせにやるじゃない……」
このシオンという仔、お酒が入るにつれ、ペースダウンするどころか途中からいきなりペースが跳ね上がった。とろんとした目つきになってルビーに甘えてもたれかかってきたり、酔っているのは間違いないが、ルビーのように頭がふらふらしたりはしていないようだ。
「
これでもルビーは、ボスゴドラの大男相手に勝ったこともあるくらい強いのだ。こんな小さな仔に負けるなんて。
負けるわけにはいかず、まだ飲んでいるものの、いかんせんスピードが違いすぎる。加速したあとはルビーの二倍、三倍の速度で瓶を空けはじめ、いまや逆転不能なまでに差が開いてしまっている。
「無理ですってばぁ。もうきつそうですよルビーさん……」
「ちょっとくらい休憩したらどう? 吐いたりしてもしらな――うえっ」
急激に吐き気に襲われ、ルビーはトイレにかけ込んだ。
無理だ。到底勝負にならない。次元が違いすぎる。
吐いたら少し楽になったが、これ以上飲む気はさすがに起こらなかった。
時間が遅いせいか、眠気も襲ってきた。鳥ポケモンは基本的に早寝早起きなのに、夜更かしなんてするものじゃないな。
「はい僕の勝ちー♪ あーあ、牡の仔紹介しようと思ったんですけどぉ、僕の同僚とかぁ、部下とか……あ、良かったら僕なんかどーですぅ?」
シオンはルビーの胸に体を摺り寄せてきて、上目遣いで覗き込んできた。ものすごく危険な誘いだ。相手が
「アタシには牝同士でそんなことする趣味なんかないってば……」
「何言ってんですかぁ、僕こー見えても牝の仔じゃないんですよぉ、いっつも間違われるんですけど……証拠見たいですかぁ? えぇ、見たくない? 僕も恥ずかしいからやだなー……うふふふ」
てかコレ、相当きてるんじゃないのか。自分が牡の仔なのか牝の仔なのかもわからなくなってるなんて。まさかね。酒に強いアタシが吐くまで飲んだそれ以上に飲んでいるのだから仕方ないか。いつも間違われるって……たとえばホテルのフロントとか。アタシとか。いやいや。そんなはずは。
「アタシもう眠いから先に寝させてもらうね……」
「えぇ、
今度は目を潤ませて泣きはじめた。ホント
証拠を見せるとか、何とか。見ちゃダメでしょそれは。本当に牡の仔だったら大問題だし、牝同士でも初対面でさすがにそれはいけない。
「興味っていうか気になるけど……」
「キスぐらいならタダでいいですよぉ、ていうかもうなーんでも言うこと聞いちゃいますよ、僕ルビーさんのコト結構気に入っちゃったんでっ」
「そういう気になるじゃなくて……アタシ気にいってくれたんだ、そう、ありがと」
牡の仔だったら……これって告白?
こんなところで偶然と勘違いが重なって相部屋だなんて、もしや運命の出会いなのではなかろうか。
いやでもそれはないよね。今の今まで牝だって言ってたのに。
「ルビーさんはぁ、僕みたいな牡の仔は嫌いですかぁ?」
「いやだからシオンちゃん牝の仔なんでしょ? もし牡の仔だったら嫌いじゃないけどさ……嘘よね?」
「嘘じゃありませんってぇ。そーんなに証拠見たいんですかぁ? やだなぁ、そんなコト考えちゃってルビーさんったら。でも僕はルビーさんみたいな年上の
ふるふると尻尾を振ったりして、首をかしげて、にこにこ笑顔で……やばいやばすぎる。ちょっと悪戯したくなってくる。ていうか証拠証拠って自分から言ってくるなんて、本当に牡の仔なのか。
正直、その証拠とやらは見たくてたまらない。あわよくばこのまま……いやルビーが望めばそうなるだろうが、いけない。恋人がいると言っていた。お母さんみたいな。あれが彼氏でなく彼女だったというなら、まだ納得できなくもない。とにかく、不運にも迷い込んだ旅館で、酒に酔った勢いで浮気なんてこの仔は望んでいないはずだ。でも一回くらいいいんじゃないかな。こんなに可憐な仔とはたぶん一生のうちに二度は出会えない。
「誘ってもダメなんだから……抱きたいけど……あーでもちゃんとお酒抜けてからお話しよ、ね? かわいいけど……」
「本音が口に出ちゃってますよぉ? いいんですよ我慢しなくても……出会いがなくて悩んでるんでしょぉ?」
ルビーもかなり酔っているせいか、つい勢いに身を任せたくなってしまう。が、そこは理性で何とか堪えた。
「ダメダメ! アタシ先に寝るからねっ!」
大きい方の布団に飛び込んで毛布を顔まで被った。止まり木があれば眠れるのだけれど、今あの仔が見えるところにいると危なすぎる。なんというか、顔立ちや体も艶麗なのだが、声が扇情的なのだ。シオンの声を聞いていると、辛うじて残った理性が吹き飛びかねない。無視するのも悪いような気がするけど、布団に潜って寝てしまおう。
シオンはまだ何か言っていたような気がするが、酒が入っているせいかすぐに睡魔に襲われて眠りに落ちることができた。
◇
で、体の上に何か乗ってる。まだあれから一時間も経っていない。
「おはよー。まだ夜中ですけどぉ」
エーフィはピジョットに比べて体が小さいので、シオンはルビーの胸の上にちょこんと座っている感じだ。しかも後足はできるだけ横に開いて、前足はルビーの首の辺りに立てて伸ばしているというとんでもない姿勢だった。
「な、ななな何やってんのシオンちゃんっ?」
「ふかふかの羽毛だなぁと思って……ふあぁ、気持ちいいです……」
ていうか、そんな場所をアタシの胸の羽毛に
固くはなっていないので、そういう意味での気持ちいい、ではないようだが。この姿勢は偶然の産物なのか。
「本当に
「最初から言ってるじゃないですかぁ」
「最初は
そんなことはどうでもいい。問題はこの体位だ。違う、体勢だ。体の大きさが違うせいで顔を近づけてもまだ胸だからいいが、もし同じ体の大きさだったらそれこそ危ないところに当たってしまうところだった。いや、だからって危なくないかというと、かなり危ない。ルビーの理性とか理性とか理性とか。他の言葉が見つからないくらいに可愛すぎる。このまま一緒に寝てもいいんじゃないかとか、本気で思ってしまう。
「ねー今このまま一緒に寝ちゃおうとか思ったでしょー」
「お、思ってないわよ……べつに……それよりなんでそんな体勢でアタシの上に乗ってるのよ!」
「え? それはですねぇ……」
シオンは顔を紅潮させて目をそらした。やはりルビーの寝込みを襲うつもりだったのか。
「――我慢できなくなっちゃいましたっ」
アタシみたいな魅力のない牝でも牡の仔をそういう気持ちにさせちゃうことってあるんだ。
「そ、それは――」
いいのかな。アタシみたいなので。
シオンは前足も曲げて、ルビーの胸に頬を寄せてきた。
「あの……言うのすごく恥ずかしいんですけどぉ……お酒飲みすぎちゃってぇ……もうさっきからしたくてしたくて……ひゃぁ恥ずかしいっ」
が、どうも様子がおかしい。ムラムラして襲ってしまったのならこの体勢は変だし、今になってその気を起こしたらしい彼の秘部はさっきまでルビーの体に反応していなかった。
さらには下半身を妙にくねらせたり尻尾を立てたりして、もう限界といった様相を見せている。
「何が……したいの?」
嘘よね。だっておかしいじゃない。お酒飲みすぎたからって、そりゃお酒はほとんど水分だけどさ。
「きゃ……牡の仔にそんなこと訊くなんてえっちなんだからぁ」
行くところが違う。百八十度どころか、三百六十度……だと合ってることになってしまうか。とにかく、素晴らしく間違っている。ここは布団の中だ。てかアタシの胸の上だ。足開いて密着してるし。
「えっちとかそういう問題じゃなくてっ、て、ててゆーかほほほほんとに何のつもりっ?」
シオンは耳羽のところに顔を近づけてきた。甘い吐息がルビーの顔にかかる。
「はぁ……もうダメですぅ……もうしちゃっていいですかぁ?」
「ちょっと……冗談は止してよ? あ、あなたまさかこのままここでオシッコするつもりじゃ……」
「牝のひとがそんなコト言っちゃだーめ。もっとソフトな表現で言ってほしかったなぁ」
いやいやいやソフトとかハードとかそういう問題じゃなくて、何これ? この仔どうしちゃってるの? 酔って思考回路がおかしくなっちゃったのかな?
「待ってっ! 何考えてるのよ!」
「何って……ルビーさんに抱かれながらしたら気持ちよさそうだなぁって……ふぁあっ……ねぇ、翼で抱いて……」
シオンはいかにもそれが普通だと言わんばかりに答えて、恋人同士がベッドの中でそうするように、囁いた。もしかしておかしいのはルビーの方なんだろうか。そういえばそういうお店以外で
もう何がなんだかわからなくなって、その愛くるしさに負けて、シオンの体に両の翼を回して抱いてやった。
「ふにゃ……」
瞬間、ルビーの胸に温水が浴びせられる。一度奈落に落ちたまともな思考はその一瞬で引きずり上げられた。
ホントにやっちゃってる。やめてよ。嘘。どうしてこんなこと……わわっ、顔が間近に。
「気持ちいいです……ルビーさん……」
悦に入ったシオンの表情は、引き摺り上げられたルビーの思考をまた断崖から叩き落とした。全身に苦手とする電気タイプの技を食らった時のような刺激が走った。
こんなよく分からない状況で、すごく屈辱的なことをされているというのに、もう何もされても怒れない自分がいた。この仔が何をしても許してしまえる。今すぐ死ねといわれたら喜んで雷雲の中に突っ込んでもいい。
相当我慢していたせいか、勢いも量も半端じゃなかった。羽毛は手入れを怠っていたせいで多少は備えているはずの撥水性もほとんどなくなっていて、胸から首、腹、そして背中に方にまで温かいものが浸透してくるのがわかった。不思議と気持ち悪いなんて一切感じなかった。急激な水分の大量摂取で成分のほとんどは水だ、なんて、自分をどうにか慰めるような言葉も考えたが、もう必要なかった。彼の体の中から出てきたものなら、甘んじて浴びることも厭わない。むしろ愛しい。さらにこれであなたが喜んでくれるのならこれ以上嬉しいことはない。
「ふぁ……気持ちよかったです……」
いけない。本気で好きになっちゃったみたい。しかも(Mに)めざめるパワー*2。もっとアタシを虐めて。何でもしてあげるから。
「あぁ、なんかすっごく眠いよ……自分の布団に戻って寝ますね僕……」
シオンは部屋のもう片方の端に歩いてゆき、布団にダイブしたかと思いきやそのまま寝息を立てはじめた。
アタシはそれ以上を望んでいるのに、ここで放置プレイだなんて。この仔、本物だ。
◇
妙にすっきりした気分で目が覚めた。
が、いつものベッドではないことに気づいて記憶を遡る。
誘拐事件に巻き込まれて、九時の門限を過ぎて、ローレルに会って、宿を探して、アスペル先輩に聞いた旅館に行って、検閲により削除されて、今に至る。
時計を見ると、朝の五時半だった。
五時半……!?
「やばっ……」
慌てて跳ね起きた。シオンの記憶が正しければ、ここはランナベール南端の港市場からやや北西の位置で、北部にある北凰騎士団駐屯所に、六時の朝礼までに行かねばならない。孔雀さんもいないこの状況では到底無理だろうけど。一分でも早く着いて罰則を軽くしてもらうしか……体が少しだるくて頭が重い気がしたけれど、寝起きだから仕方ない。全速力で荷物をまとめ、洗面所に向かう。
「シオン
誰。
「あ、体洗っといたほうがいいわよー。シオンくんったら昨日お酒に酔っちゃってアタシとあんなコトやこんなコトしたんだから」
朝起きて早々、まだ一分ほどしか経っていないのに二度も心臓が裏返りそうになった。
「えええええっ!? ちょ、それってもしかして、そんな……」
「嘘よん」
「…………は?」
ああ、思い出した。彼女の名前はルビー=リックだ。それで……あれ?
ない。
途中から。
記憶が。
「あ、ああああのう、昨日の晩はホントに何もなかったですよね……?」
やばい。僕の貞操を明け渡したりしていたら。
フィオーナはきっとシオンを向こう一ヶ月くらい屋敷に軟禁して、その間にルビーを永遠にこの世から消してしまう。
「大丈夫。あなたが考えてるようなことはなかったわよ。別々に寝てたでしょ?」
「言われてみれば……」
起きたときは
そうとわかれば、ぐずぐずしている暇はない。
「それなら良かったです……あ、僕急いでるんでちょっと洗面所空けてくれません?」
「いいけど……まだ五時半なのに、そんなに急いでどこへ?」
「仕事ですよ! 僕私兵隊の兵士なんで、六時までに北凰騎士団の演習場まで……」
「そうなの。随分早いのねぇ。でもあなたの足じゃ間に合わないよね、ここからだと」
「むー……」
冷静に分析されても困る。たしかに間に合わないとは思うけど。
「アタシが運んであげよっか? アタシなら五分かからないわよ」
そうだ、孔雀さんはいないけど、目の前に鳥がいるじゃないか。しかも職業は万屋ときた。僕を北凰騎士団駐屯地に運ぶことだって仕事としてやってくれるだろう。
あれ?
どうして僕、そんなこと知ってるの?
昨日は確か……や、そもそも牝のひとと同じ部屋に泊まったこと自体おかしい。旅館には
思い出した。カウンターのブーバーンに性別を間違われて、牝のひとと同室にされたんだ。性別を偽って彼女と接することにして、お酒を飲もうと誘われて……記憶が飛んだ。普通ならここでオワタだけど、シオンの想像していたようなことはなかったとルビーは言う。
「あ、シオン
性別を偽っていたはずなのに。そしてなぜか、どう見ても僕に好意的だ。
お金は払う、と言いたいところだったが、チェックアウト後は手持ちが百ディルしか残らない。今日の昼ご飯代が消える。昔から腹が減っては戦はできぬと言うし、このままいくと時間の関係で朝は食べられそうにないし、その上昼も抜いたら死ぬ。まあ、その時はラウジに借りるのもありだけど、その前に百ディルは彼女の仕事に見合う対価として十分なのか?
「ちなみにお金払うとなるとどれくらい……?」
「あなた、見たところ二十五キロないよね。ここから北凰騎士団演習場まで、特急コースで……四百五十ディルね。払えないでしょ? さあさあアタシに甘えちゃいなよ」
おかしい。一緒にお酒を飲んだだけで四百五十もの稼ぎを捨てるなんて。酒代も出してくれてるのに、初対面の相手にこれ以上要求できない。
さりとて、ぐずぐず迷っている暇もない。
「お願いします……」
ルビーはにっこりと笑って頷いた。
「そうと決まれば、まだ時間あるしシャワー浴びといた方がいいよ。自分の匂いってわからないものなんだっけ? アタシは鳥だからほとんど匂いは感じないんだけどね。覚えてないかもしれないけどあなた、昨日の夜アタシにとんでもないことしたんだから。聞いたらきっと驚くよ? 聞きたい? あ、聞かなくてもアタシの寝てた布団見たらわかるかな」
シャワーとか匂いとか……たしかに自分ではわかんないけど。フィオーナのせいだ。フィオーナが僕に変なコトばかりやらせるからだ。
「や、あの……ご、ごめんなさい……見なくても……わかります……記憶は……ないですけど……自分の……ことなんで……」
喋り方が橄欖の劣化コピーになってしまった。内心を察知してくれたのか、ルビーは何も言わずにシオンをバスルームへと促した。
レバーを前足で押し、シャワーを浴びていると疑問が浮かび上がってきた。シオンの性別がルビーに知れてしまったのは多分、酒に酔ったシオンが自分でばらしてしまったのだろう。問題はその先だ。水分を短期間に大量に摂取したら、誰でも生理現象が起こる。それは仕方ないとしても、近くにたまたま好みのタイp(ryの
ん?
どうして、ルビーはシオンに好意的なんだろうか。
普通そんなひどいことをされたら好意とは真逆の感情を抱くはずだ。フィオーナが相手の時は、あくまでフィオーナが"する側"でシオンが"される側"だからこの限りではない。屈辱的なダメージを受けるのはシオンの方で、フィオーナはシオンをいたぶるのを楽しんでいる。でも、今回の場合それはありえない。フィオーナみたいに、貴方の全てを愛します、なんて関係になれるほどの長い時間も過ごしていない。初対面の相手にそんなことをされたら、もしシオンが逆の立場だったら三万回殺してバラバラにして埋めて微生物に分解させて植物の栄養にして生えてきた草を焼いて炭にして粉々に砕いて海に捨てる。
まてよ。あの好意が上っ面だけで、腹の底は煮え繰り返っているとしたら。優しく乗せて行ってくれるふりをして、空中でくるりなんてことされたら……冗談じゃなく死ぬ。サイケ光線を撃って勢いを殺せば助かるかもしれないが、全身複雑骨折なんてことになると兵士生命が終わる。
「シオンくーん。そろそろ出ないと間に合わないよ?」
「はーい……」
バスルームから出ると、ルビーがタオルを翼にかけて待ってくれていた。
「バイキングのサンドイッチとコーヒーもらっておいてあげたわよ。まだ十五分あるから、すぐに食べれば間に合うよ」
「……ありがとうございます」
ルビーの表情からは何か裏があるようには思えない。橄欖みたいに感情を読み取る能力があればこんなに悩むこともないのに。
全速力で体を拭いて
今からチェックアウトしてルビーに運んでもらえばぎりぎりセーフだが、果たして乗せてもらっていいものかどうか。
「忘れ物はない?」
「はい」
どうしてこんなに至れり尽くせりなんだろう。油断させるため?
「あ、あの……」
「なあに? おしっこ?」
「や、違っ――」
昨日のことをどう思っているのか訊こうと思ったのに、変なことを言うから訊きづらくなったじゃない。
「牡の仔に普通そういうコト訊きます?」
「昨日も同じこと言ってたよねぇ。朝起きてからトイレに行かないものだから……ドSなあなたのこと、てっきりアタシの上に乗ってから漏れそうだとか騒ぎ出して、そのまんましちゃうってのを期待してたんだけど」
「そ、そんなわけないじゃないですか! 時間がないだけですってばっ。てゆうかあなた何考えて……」
「あら残念……でもそうやって期待だけさせて裏切るところがまたキュンとくるのよねぇ」
彼女の中で一体全体何があったんだ。はっきりとは覚えていないけど、昨日の晩はごく普通の牝性だった。
シオンに対してかなり間違った認識と歪んだ感情を抱いているようだ。訂正してやりたいところだが、生憎と今は時間がない。
「今はそういうコトにしといてください……」
とりあえずこの日はルビーに運んでもらって、なんとか朝礼に間に合った。孔雀さんに抱きかかえられて飛ぶのとは違った。ルビーはまだ薄暗い空を、風を切るように飛んだ。
途中で落とされるのではないかと、念のため両前足で首を、両後足で背中の細い所を挟みこむようにしてしがみついていた。絶対にルビーの期待していた通りにならないように我慢したが、少しち(ry
別れ際、また会いに来るなどと言っていたので、これから誤解を解いて、僕のことはきれいさっぱり忘れてもらわなければならない。
――また厄介な問題を抱え込んでしまったな。
◇
後日、喫茶店ウェルトジェレンクにて。
トモヨさんとペロミアにかいつまんで事情を話し、これ以上誤解が広まらないようにしてルビーと再会した。
「こんなオシャレな喫茶店にデートのお誘い? なわけないよねぇ……あの時はお酒入ってたし。きっぱりと別れを告げるために呼んだんでしょ?」
「はい。ただでとは言いません。酒代と慰謝料を支払いますから、僕のコトは忘れてくれませんか?」
「うーん……」
ルビーは首を傾げて考え込む仕草を見せたが、ものの三秒で答えを出してしまった。
「ダメ。アタシ、お金はあるから貰っても嬉しくないもの」
「じゃあ……」
お金で釣れるとは最初から思っていなかった。いくつか手段は用意してある。
「牡の仔紹介します。ルビーさんに合う
「もうシオンくんしか見えない……アタシ、あなたに目覚めさせられたのよ。それともシオンくんみたいなサドっ仔っているの?」
サディスト……性癖なんて話のネタにしたことがなくてわからないが、予想してみよう。
とにかく攻めまくる斬り込み隊長のアスペル。きっとSに違いない……いや、でもそっちの方では案外Mだったりして。
鬼神の如き攻撃力の総長ボスコーン。攻めている所しか想像できない。いやいやいや。確か四十近かったし、そもそも妻仔持ちだ。浮気を
隠密部隊を率いる軍師のキールさん……お。そういえばあのひとにはよく虐められる。が、ボスコーンとのやり取りを見ていると本当はMなのではないかと思える時がある。それにキールさんは
ラウジはどうなのだろう。恋愛経験に乏しそうなので、案外相手に合わせて流されてくれるかもしれない。先に牝性ってのはこういうものだと教えておけば、ルビーの壊れ度に気づかず信じてしまうだろう。だが、ルビー基準で牝性を理解して、もしルビーとの関係が破綻した場合、その後のことは知らない。ていうか誰が教えるの? 僕が? それはちょっとやだな。
「すみません、そこまではわからないです……それから僕、サディストじゃないですよ」
「うっそだぁ……あれだけアタシを虐めてたのに?」
「ルビーさんの解釈の仕方に問題があるんですってば」
「虐めるつもりはなかったってこと?」
「はい……僕をサドっ仔だって思い込んだ決め手は何だったんですか?」
「聖水とか放置プレイとか半永久焦らしとかいろいろあるけど?」
「ちょ、声が大きいですって……」
鳥ポケの高い声は多くのポケモンの可聴域の一番聞こえやすいところに近いから、遠くまでよく聞こえてしまうのだ。
「……と、とにかく勘違いですからっ。そんなにサドっ仔が欲しかったらいいカクレオンがいますよ? 口癖のように『小賢しいトリめ、私の前にひざまずけ』って貶してもらえますよ」
「そっかぁ。アタシの恋の花は寂しく咲いて永遠に片想いのまま儚く散ってゆくのね」
「や、それは……」
「コーヒーのお代わりいかがですか?」
「わっ」
いつの間にか、ペロミアがシオン達の席の側まで移動していた。さっきの話聞かれた? 聞いてないよね?
「そうね。もらおうかしら」
「それじゃあ僕も……あれ、でもここってお代わり自由だっけ?」
「その日のマスターの気分次第ですけど。今日は気分が良いのか、カウンターで眠りこけていらっしゃるので。それではマスターが起きないうちにお持ちしますね」
なるほど。
でもここの従業員なのに、いいのだろうか。
普段はサービスが悪いわけでもないが、そんなに良いわけでもないのに。
「お持ちしました」
「ありがと」
「ルビーさん、でしたっけ。恋の悩みですか? 私でよければ相談に乗りますよ」
「え? ペロミアが?」
「優しい店員さんじゃない……それじゃアタシの話、聞いてくれる?」
ペロミアは客に話しかけられると快く応対するが、普段は自分から相談に乗るだなんて言い出すことなんてなかったのに。ルビーに何か思うところでもあるのだろうか。
「シオンさん。ここからは牝同士の会話と言うことで……席を外してもらえませんか?」
僕のコーヒー……冷めちゃうじゃない。
◇
シオンには劣るけれど、それでも可愛い仔だ。童顔なのに声はハスキーで、ルビーよりも低い。
「それでアタシ、あの仔が好きになっちゃったわけよ……でも向こうは勘違いだって言うしさ」
「シオンさんみたいな
「みたいなっていうかあの仔がいいんだけど……」
「でも婚約もしていらっしゃいますし、望み薄ですよ……探せばまた新しい出会いもあるかもしれませんよ?」
単に同情して共感してくれるのではなく、はっきりと事実や解決法を言うタイプみたいだ。あまり牝の仔っぽくない。
「探すって言ってもアタシ、仕事柄国中飛び回ってて一箇所に留まれないのよ……」
「えと、もし良ければ……わ、私が紹介しましょうか? その……同じリーフィアの仔なんですけど」
ちょっと様子が変だ。紹介するというだけで何故か言いにくそうだし、それに伝説や古代のポケモンも含めれば、五百近い種族がいる中で同種族と知り合う機会なんてそんなにない。もしかすると弟だったりするのだろうか。だが、年齢を鑑みれば、ペロミアはせいぜい十七、八歳くらいで、その弟となるともっと下だ。普通に考えて、二十五歳のルビーが
「もしかしてお兄さん?」
「いえ……友人です」
「年は?」
「私と同じ十八歳ですよ」
「ふーん……可愛い仔?」
「ええ、たぶん……一般的に見て、そうですね。シオンさんほどではないですけど」
「そうなんだ、じゃあ一回会ってみようかな? アタシは結構自由な仕事だからいつでもいいわよ」
この国では十八歳といえばもう大人だ。七つ年下だが、あのシオンと一つしか変わらないと考えれば問題はない。シオンみたいな牡の仔をまた探していたら、見つける前に気づいたら年寄りだ。シオンほどではないと言うが、わざわざ自分から紹介するくらいだ。きっとそれなりに期待もできる。
「それでは三日後の正午に縛鎖公園でお会い――こほん、待ち合わせということで、連絡を入れておきますね」
◇
「シオンさん、話は終わりましたよ」
コーヒーはまだ冷めてなさそう。
それくらい話は早かった。やはり
「シオンくん。あなたのことはあきらめる。でも忘れないからねっ」
「はあ、そうですか……でも僕としては忘れてもらったほうが……」
「新しい出会いがあればすぐに忘れてしまいますよ」
「そうかもね。その仔がどんな仔かにもよるけど。それじゃあね、シオンくん!」
ルビーは五百ディル銀貨を一枚置いて、飛ぶように店を出て行った。や、飛ぶ
「これで良かったのかな……? でもありがと、ペロミア」
「ふふ。これからですよ」
ペロミアは五百ディル銀貨を咥えてレジの方へ歩いて行った。
何がこれからなのか、意味深な台詞の意味を訊くことはできなかった。
-Fi...n ?-----
仮面小説大会エロ部門2位だった裏喫茶「イーブイカフェ」の影響を受けて、おもらしネタをメインにしてみました。反省はしていません(殴
ペロミアの恋の行方はまた別の話で……ね。
タイトルはご想像の通り、銀tま風。
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