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たった一つの行路 №296

/たった一つの行路 №296

 ☆前回のあらすじ
 カズミの情報から、サクノの父であるヒロトがカゴメタウンの北にあるジャイアントホールへ向かったと知ったサクノたち。
 4人はすぐにジャイアントホールへ向かうが、そこで待っていたのは世間的に死んだはずのトレーナーたちだった。
 その中で、サクノが対峙するのは、実は先祖に当たる大地の守護者のアンリ。
 サクノのルカリオの最強の技『ソウルストーム』が決まったと思いきや、アンリのフライゴンの最強の技『エクストリームアタック』がルカリオの攻撃を押し切り……!!??



「私は限界を超えるんだぁぁぁぁぁっ!!!!」
「……!! 何だと!?」

 水と泥を混ぜ込み、今までで最大の揺れを巻き起こした。

「はぁはぁ……はぁはぁ……くぅ……」

 片膝を突いて、荒く息を吐くカナタ。
 側にいるのは特性の『激流』を発動させて、今にも倒れそうなラグラージの姿があった。
 そして、さらに相対する方向には、どろどろでびしょ濡れに濡れたRのマークをつけた男とダウンしたミュウツーの姿があった。

「全ての力を持ってミュウツーを倒すか……まったく、子供の力は恐ろしいものだ」
「……はぁはぁ……」
「恐怖を恐れぬ子供がいるかぎり、世界征服は妨がれるか。ああ、そうか。私の敵は子供ではなく、勇気そのものというわけか……」

 カナタの勇敢な瞳を見ながら、サカキとミュウツーは消え去ったのだった。

「ぐっ……何とか勝てたけど……ポケモンたちがもう……」

 カナタはラグラージを戻しながら、呟く。

「引き返すべきか……? でも、お姉様たちと合流できてない……。……進むしかないか」

 なけなしの回復アイテムを使い果たし、さらに奥へとカナタは進む。
 そして、5分後。

「……景色が変わった……あれ?ここって……??」

 その景色は知っていた。
 いや、彼女にとってそこは知っていたというレベルではなかった。

「SHOP-GEARの裏庭?でも、こんなにあっさりとしてはいなかったと思ったけど」

 カナタの知るSHOP-GEARの裏庭は、もっと花が植えられていて、桜の木や梅ノ木などカラフルなはずだった。
 しかし、そこは何もないただの芝生のカーペットだった。

「一体どういうことだ……?」
「おっ、てめぇが俺の対戦相手ってことだな?」

 荒っぽい男の声が聞こえる。
 カナタが振り向くと、そこには黒いツンツン頭で、ダウンジャケットの中に包帯のようなものをぐるぐる腹に巻いている男が立っていた。
 ゴクリとカナタは喉を鳴らす。

「(まさか……若いけど……この人は……!!)」
「ん?どっかカズミの面影があんな? ……そっか、カナタだな?大きくなりやがって」

 そう言って、カナタの頭を撫でると、カナタはその温もりを思い出す。

「(やっぱり、そうだ……これが私の……)」
「それじゃ、いっちょやるかっ!持ってんだろ、ポケモン!」

 そういって、彼はダーテングを繰り出した。

「っ!?この感動的なタイミングでポケモンバトルかよ!?」

 思わずツッコミを入れてしまうカナタ。

「なんだー?オイ、カナタ。そのツッコミは誰に習ったんだ?まさか、あのヘタレキトキに影響されたんじゃねぇだろうな?よし、俺様が絞ってやるから覚悟しろ!」
「っ!!せっかく感動のあまりに泣こうとしていたって時に、すべて打ち壊しだ!クソオヤジなんてぶっ飛ばしてやるっ!!ブイゼルっ!!」

 即座にソニックブームを打って、牽制するブイゼル。

 ズドーンッ!!

「…………え?」

 気づいた時にはブイゼルが吹っ飛んで、気絶していた。

「バトルは始まってるんだぜ?ちょっとは集中しやがれ。さもなくば―――」

 ダーテングが振りかざしたのは、水をも割ると言われた必殺技の『裂水』。
 ソニックブームを煤風のように消し去り、ブイゼルに一撃を叩き込んだのだ。

「―――殺しちまうぜ? 勘弁してくれよ、俺は娘を殺したくないんだぜ?」

 野獣の目をした男。
 彼の名はそう。
 『一閃の野獣:ラグナ』。
 紛れも無い、カナタの父親だった。



 たった一つの行路 №296



 ―――運命の祭壇。

「……決まったわね」

 フライゴンのエクストリームアタックがルカリオに炸裂した。
 砂煙があけると、ルカリオが気絶して倒れていた。

「(……でも、戦意はまったく削がれてないようね!!)」

 フライゴンに一粒の種がくっ付いて、その種が急速に成長し、フライゴンの体力を吸い尽くしていく。
 さらに猛烈な暴風がフライゴンを吹き飛ばすが、空へ飛んで暴風域を回避した。
 フライゴンに対峙するのは、エルフーンだ。

「『パワースイング』!!」

 翼と尻尾を硬化し、フルスイングで回転しながら、エルフーンへと攻撃を仕掛ける。
 その衝動で取り付いていた宿木の種を吹き飛ばしてしまう。

「『コットンガード』!!」

 フライゴンの強力なフルスイング攻撃をエルフーンがふわふわの綿で受け止めようとするが、結果として草原の地面を割った。
 結果、エルフーンはかなりのダメージを受ける。

「(なんて力なの!?)」
「『パワースイング』連続攻撃!」
「連続で『エナジーボール』!!」

 自然の力のエネルギーの弾を次々と撃っていくが、巧みな動きと『パワースイング』による攻撃でエルフーンの攻撃がまったく通用しない。

「ラック、一点集中で急所を狙って!」

 エルフーンの身につけているアイテムはクリティカルレンズ。
 急所に当てることができるアイテムだ。
 しかし、

「フライゴン、そこよっ!」
「……!(まさかフライゴンの急所が見つからない!?)」

 パワースイングがエナジーボールを弾いてしまう。

 ドゴッ!!

 そして、2回目のパワースイングを受けてエルフーンは吹っ飛ばされてしまう。

「(あの人のフライゴン……父のフライゴンよりも強いわ……。でも、)エルフーンっ!」

 サクノの声と共に綿胞子と宿木の種を大量に散布した。

「飛び上がって、『ソニックブー 「『アンコール』!!」 

 遠距離に攻撃を切り替えようとしたアンリだったが、エルフーンの挑発に乗り、再びパワースイングで接近してくる。

「それなら、連続攻撃で叩くわ」
「『コットンガード』で耐えて!」

 更なる綿でフライゴンの攻撃を耐えようとするエルフーン。
 その間に宿木と綿胞子がフライゴンのステータスを奪っていく。

 ズドォンッ!!

 そして、エルフーンは吹っ飛ばされた。

「決まりよ!」
「それはどうかしら!?」

 勝利を確信したアンリだったが、次にフライゴンを見たときは、ゆったりとその場に安らいでいた。

「……!フライゴン!?どうしたの!?」
「『コットンリーブ』よ!そして、『エナジーボール』!!」

 無防備なフライゴンに向けてエナジーボールを放つ。
 一撃急所に当たって吹っ飛ぶフライゴンだが、まだ、動けるようだ。

「(そのエルフーンは手強いわね!)」

 戦意を喪失しているフライゴンを戻し、巨体の体と破壊力を持ったノーマルタイプのポケモンにチェンジした。

「……っ!! チェンジ!Switch!」

 ズドォ―――ンッ!!

 その一撃は祭壇を削るほどだった。
 瓦礫が煙のように立ち昇る。

「間に合ったわね」

 圧倒的なパワーでねじ伏せようとしていたのは、アンリのケッキング。
 一方、その攻撃を受け止めたのは、サクノのヌケニンだ。

「『シャドークロー』!」
「離れながらSwitch!」

 ゴーストタイプのエネルギーを纏った爪がヌケニンに襲い掛かる。
 サクノの指示で、ヌケニンはテッカニンに変化し、加速して攻撃を回避する。
 アンリのケッキングのシャドークローだが、普通のシャドークローと違い、ゴーストタイプのエネルギーが刃のように飛んだ。
 ゴーストタイプ版のサイコカッターのようだった。

「そこよ!」

 ケッキングの特性の『なまけ』が発動している間に、背中に回りこみ、風を纏った切り裂く攻撃を繰り出す。
 的確なダメージを与えるが、まだケッキングが倒れる様子は見えない。

「それなら、Switch!『Phantom Slash』!!」

 再びケッキングの猛攻を耐え抜いたそのとき、蒼い炎を爪に宿してケッキングを切り裂く。
 炎はケッキングに纏わりつき、ケッキングの体力を蝕んでいく。

「一気に決めるわ!ジョー!!『Cyclone Slash』!!」
「……っ!」

 ガキンッ!!

 テッカニンで特攻し、ケッキングに攻撃を叩き込もうとする。
 だが、アンリは巧みなボール捌きでケッキングを戻し、代わりのポケモンを繰り出す。

「……っ!ジョー、『Swit 「たたきつける!」

 風を纏った特攻を鼻で受け止めるのは、ドンファンだ。
 そのまま鼻を振り回してテッカニンを地面にたたきつけた。

「(凄い力……でも……)まだっ!ジョー、『Phantom Slash』!」

 ヌケニンにスイッチし、火傷状態にする蒼い炎の爪で切り裂く。
 ケッキングを火傷状態にした強力な技なのだが……

「あたしのドンファンの特殊能力『パーフェクトボディ』。毒や火傷の類は通用しないわ」

 蒼い炎は確かにドンファンに纏わり付いた。
 しかし、ドンファンの表面の体に炎がくっ付かない。

「『岩石封じ』から『岩飛ばし』」

 まず、ヌケニンの進路を防いだ。
 そこから、ドンファンは口から岩を連続で吐き出して攻撃を仕掛けてきた。

「くっ!ジョー!守る!」

 回避不能のため守るしかなかったヌケニン。
 しかし、ドンファンの猛攻の前に、ついに防御が解けて、ヌケニンは瓦礫に埋まってダウンした。

「残りはライチュウとエルフーンでしょ?さぁ、かかってきなさい!あたしがドーンと相手してあげるわ!ストーカーみたいにしつこいのは嫌だけどね」

 アンリは余裕綽々の上に戦いを楽しんでいた。
 一方、厳しい表情のサクノ。

「ちょっと無理ね」
「……ちょっと、降参するの?」

 「せっかくエンジンがかかってきたのに」と、呟くアンリ。

「いいえ。私もすべてのポケモンであなたに挑ませてもらうわ」

 両手に元気のカケラを持っているサクノ。
 それを、倒れて戦えないポケモンに使用した。

「アイテムね。いいわ。使えるだけ使えばいいわよ!」
「使うのはこれだけよ。元気のカケラはこの2つしか持っていないから」

 そうして、サクノがドンファンに対抗するために繰り出したポケモンは、鬣を持った誇り高そうなポケモンだ。

「相性を無視……ってことね」
「『Fire Ball』!!」
「『岩飛ばし』!!」

 ドンファンを包み込みそうなほどの大きな火球と数個のバレーボールくらいの大きさの瓦礫がぶつかる。
 これだけで、2匹の攻撃は相殺される。

「『Rising Flare』!!」

 ウインディの最初の攻撃は牽制に過ぎなかった。
 次に地面に線を引くように炎を吐き出すと、地面から上空へ立ち上る炎の壁が出現する。
 そうして、ウインディが火炎放射でその壁を押し出した。
 炎の壁がドンファンとアンリへと向かっていく。

「突き抜けて!」

 ドンファンはその炎の壁を、高速回転の転がるで強引に突破へ出た。
 ドンファンは頑丈で、それほどダメージを受けずにウインディの攻撃を突破したが、下から立ち上がる炎でわずかに浮き上がった。
 その浮き上がりをウインディは見逃さない。
 神速でドンファンの下へと潜り込んだ。

「『Rising Break』!!」

 炎を纏った最大の一撃。
 下からの攻撃に転がる状態で丸まっていたドンファンは、体勢が解けて地面へドスンとたたきつけられる。

「決めて!『Flare Drive』!!」

 固い皮膚に覆われていない腹へと一撃を叩き込んだ。
 お腹に炎がめり込むが、ドンファンが抵抗して鼻でウインディを叩く。

「やるわね!ドンファンの『パーフェクトボディ』はお腹までは効果がないのよ」

 そういいつつ、岩を飛ばす。
 ウインディはその岩をかわしつつ、炎を溜めていく。

「そのスピードを封じさせてもらうわ!『岩石封じ』!!」
「くっ!」
「『岩飛ばし』!!」

 ヌケニンの時と同じように前後左右を岩で閉じ込められるウインディ。
 そこへ、複数の岩が飛んできた。

「最大パワーよ!『Flare Blitz』!!」

 炎の力で左右前後にウインディを作り出す。
 その動作で岩石封じを吹き飛ばし、ドンファンの岩飛ばしを防いでみせた。

「ドンファン、『ヘビーインパクト』!!」

 ギガインパクトとのしかかりを併せ持つ攻撃で突撃してきた。
 それに対抗して、ウインディは複数の炎のウインディと一緒に突撃した。
 一瞬で炎は弾け、ウインディとドンファンのぶつかりあいになるが、最終的にはドンファンを打っ飛ばした。
 森を突き抜けるようにドンファンは木々を薙ぎ倒してダウンした。

「次はこの子よ!」

 アンリの攻撃は全然止まらない。
 次に繰り出してきたのはラグラージ。
 マッドショットがウインディを襲う。
 神速でかわし、インファイトを叩き込んで吹っ飛ばすが、踏ん張ってハイドロポンプを打ち出す。
 かわしてFire Ballを撃つが、ラグラージを目前にして軌道が逸れた。

「……今のは……!?」
「あたしのラグラージの必殺技『ルートプロテクター』。相手の攻撃の軌道をずらすことができるのよ」
「……!」

 防御を駆使し、水攻撃連発でウインディに襲い掛かる。
 相手の戦法に防戦一方になりかけたサクノは、ウインディを戻し、再びエルフーンを繰り出した。

「『エナジーボール』!」
「同じことよ、『ルートプロテクター』!」

 ラグラージの弱点が草とはいえ、攻撃が当たらなければ意味がない。

「今よ、ケッキング!」
「……っ!!」

 ここでアンリがポケモンを追加してきた。
 腕を大きく振りかぶって、エルフーンに『アームハンマー』を叩き込んだ。

「ラック!!」

 たたきつけられるエルフーンだったが、コットンガードが間に合って凌ぎきった。
 しかし、体力が限界であることには変わりがない。

「ラグラージ、『冷凍ビーム』!」
「『綿胞子』で防御よ!!」

 相手の攻撃の弱所を見抜き、冷凍ビームを最小限の攻撃で防ぐ。
 だが、その間にケッキングが間合いを詰めた。

「『アームハンマー』!」

 相手が2匹繰り出してきたことを見て、サクノもここで2匹目を投入する。
 長い尻尾を硬化して、ケッキングの腕に叩き込み、エルフーンに振りかざした攻撃をわずかに逸らした。

「そのまま『電撃』!!」

 威力はでかいがスピードがほとんどない電撃をケッキングに向けて放つ。
 それをケッキングは両手で受け止めようとするが、威力に押された。

「ラグラージ&ケッキングvsエルフーン&ライチュウね」
「ダブルバトル……受けて立つわ」

 互いの技の応酬が始まり、その戦いはほぼ互角。
 5分くらいは互いの拙攻が続いた。

「ケッキング!」

 先に展開が動いたのはアンリのケッキングだった。
 ライチュウへ猛攻を続けていたケッキングが『なまける』で体力を回復すると同時に、一つある技を放った。

「(……『あくび』!?)」

 攻撃しかしなかったケッキングが絡め技も組み合わせてきた。

「もうこれしかないわね。『Hexagram』!!」

 ここでサクノも勝負に出る。
 エルフーンの限界の体力を切り出して、分身を5体作り出そうとする。
 しかし、限界はとうに来ているため、分身は3体しか出なかった。

「エルフーン、総攻撃!!」

 3匹のエルフーンが飛び上がって、ラグラージに宿木の種を連発で放つ。
 だが、その宿木の種はラグラージのルートプロテクターの前に軌道をそらされて、地面に刺さる。

「まだまだっ!」
「(一体何を狙って…………っ!?地面に宿木の種……まさか!?)」

 次々と宿木の種を逸らすラグラージだが、宿木の種がラグラージの周りを覆うように刺さっていることに気がついた。

「(これじゃ、動けない!?)」
「今よ、『暴風』!!」

 3匹分の烈風がラグラージを襲うが、ルートプロテクターの力で風は軌道を変えてしまう。

「でも、これならどう!?」

 ドゴッ!!

 一匹のエルフーンが暴風の力を利用してラグラージに捨て身タックルをかました。

「(……!?控えていたもう一匹のエルフーン!?)」

 反動でエルフーンは消えてしまうが、ラグラージはそれで体勢を崩す。
 そして、地雷のスイッチを押してしまう。
 一斉に宿木の種がラグラージを取り囲んだ。
 体力を一気に奪いにかかる。

「『ルートプロテクター』が打撃攻撃には適用されないのは、アンジュの攻撃で分析済みよ!」
「なかなか観察しているわね。でも、まだよ!」

 ラグラージが抵抗して、冷凍ビームで宿木の種を凍らせようとする。
 だが、エルフーンが接近してラグラージを捉えた。

「『種爆弾』!!」

 零距離からの一撃が炸裂し、ラグラージは体力を吸い取られながら、ダウンした。

「零距離ならルートプロテクターも効果が無い。やるわね。それより……」

 アンリはライチュウの動きを注視した。

「(いつまで経っても眠らない!?なんで!?)」
「捨て身タックルをしたラックを見てなかったのね?」
「……そうか、エルフーンがライチュウに何かしたのね!?考えられるのは……眠らないようにする技『悩みの種』かしら」
「正解よ。そして、ラック!」

 さらに、エルフーンはライチュウに向けて一つの種を放った。
 それを受け取ると、ライチュウのスピードがさらに上がった。

「特性『加速』!!」

 エルフーンが繰り出した種は『速足の種』と呼ばれるものだった。

「本当にそのエルフーンはいやらしいわね!」

 ライチュウを無視し、エルフーンへ向かうケッキング。
 しかし、地面から宿木の種が伸びていく。
 ラグラージに放った残りがまだ地面にあったようだ。

「ケッキング、『空元気の型』」

 構えを取って、腕を振り回すだけで、宿木の種が一気に切り裂かれた。
 さらにエルフーンとの間合いを詰め、パンチを撃とうとした。

「(速い!?)」

 パンチをかわそうとしたエルフーンだが、パンチはフェイントで本命の足で踏みつけられてダウンした。

「(『空元気の型』……状態異常のときに使える技と考えて間違いない。そういえば、ジョーの技の効果で火傷していたんだっけ)」

 加速ライチュウと型を使ったケッキングが激突する。

「『Sander Slice』!!」
「『空元気の型:なぎ払い』」

 鋭利な電気の尻尾を腕で払いのけるケッキング。
 腕にダメージを負うが、そのままライチュウの顔にパンチを決める。
 仰け反ったために、ダメージは軽減されたが、勢いよく吹っ飛ばされる。
 ケッキングは容赦せずに、飛び上がってのしかかりをしてくる。

「レディ!!『Lighting』!!」

 電光となり、攻撃をかわし、さらに連続で体当たりを仕掛ける。
 体当たりというとそれほど威力がないと思われるが、電光のスピードで仕掛けている。
 ただの体当たりとはわけが違う。

「そこよ!『電撃』!!」

 後ろを取って高い電圧を放つが、ケッキングが回り込んで回避する。

「レディ!後ろ!」

 ラリアットと蹴りが同時に襲い掛かる。
 ライチュウは尻尾と右手の小手で防ごうとするが、勢いまでは殺せない。
 吹っ飛ばされて、祭壇にたたきつけられた。

「レディ!」

 サクノの掛け声にライチュウは頷き、右腕の小手を外して投げた。

「何かをする気ね。受けて立つわ!」

 ケッキングは相変わらず空元気の構えで、ライチュウの攻撃を受け止めるつもりだ。

「レディ、Smash!!」

 全雷エネルギーを拳に集めて小手へと叩き込む。
 凝縮されたエネルギーが小手から発射される。
 そのスピードは、音速を超えるものだった。

 ドゴォッ!!

 電撃を当てた岩を削り、ケッキングに命中した。
 結果……

 バリバリバリッ!!!!

「耐えたわね……」
「いいえ……!」

 確かにケッキングはライチュウの攻撃を耐えた。
 だが、ケッキングは崩れ落ちる。

「火傷の効果でジワジワと体力を奪われていたのね」
「(岩とケッキングに電撃を当ててRailgunの威力を増大させて一撃で倒すつもりだったけど、あのケッキングは予想以上に体力があったようね)」

 内心ほっとしたサクノだったが、次にアンリが繰り出したポケモンを見て、再び息を呑む。

「こっちは再びフライゴンよ。あんたはライチュウのままでいいのかしら?」

 ライチュウを見る限り体力がもう限界に近い。
 サクノが残っているポケモンはあと3匹。
 アンリが2匹。

「レディ、先攻で一気に決めるわよ!」

 光の速さでフライゴンに激突するライチュウ。
 しかし、『パワースイング』を振りかざし、ライチュウは弾き飛ばされる。

「『ソニックブーム』!!」

 地面に着地したライチュウに追撃が来る。
 チクチクと当たる攻撃はサクノにも襲い掛かる。

「やっぱりチェンジ……!ジャック!18連Shot!!」

 かまいたちとソニックブームの応酬だ。
 しかし、連射数でフライゴンのソニックブームが上回る。

「それなら、36連Shot!!」

 一呼吸を置いて、フローゼルは次の瞬間に連続で36発を放つ。
 それで相手の勢いを止めることができたようだ。

「フライゴン、『ソーラーショット』!」
「ジャック、『Poison Shot』!」

 フライゴンがソーラービームのランクを落とした攻撃を繰り出したのに対し、フローゼルは水、風、氷のほかの新たな毒の弾を打ち出した。
 その二つの攻撃は威力の差はあったが、相性のおかげで相殺に終わった。

「『ビルドアップ』!」
「それなら、こっちは『爪研ぎ』から『ストーンエッジ』!!」

 命中精度を上げた岩攻撃がフローゼルを襲う。
 フローゼルは必死に回避する。

「あんたやるわね!あたしと互角の戦いを繰り広げるなんて、あのストーカー以来だわ」
「ストーカー?」

 しみじみと口にしたアンリの言葉に聞き返すサクノ。

「あ。なんでもないわ、こっちの話。……まぁ、旅立ってから死ぬまでいろいろあったわ。しつこく戦いを申し込むストーカーに出会い、海底で伝説のポケモンと戦い、月島で光と闇のなんたらと戦って友達が出来て、楽園と呼ばれる場所で神官を討伐し、夢に引きずり込まれた世界で少女の夢を叶えたり、あのストーカーの男の国の為に力を貸したこともあったわ。その後でクールってヤツに初対面でいきなり…………」
「……??」

 突如話を辞めたかと思うと、アンリは顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
 その姿を見て、サクノは首を傾げる。

「わーわー!!そんなことはどうでもよくて、こんなあたしでも結婚して子供を産んで生きてきたのよ。そんなあたしにはもうこんな心踊るバトルができないと思っていたわ」

 アンリは嬉しそうに言った。

「私もここまで激しいバトルは久しぶりよ。でも、このバトルをいつまでも続けるわけには行かない。奥へと進まなければいけないの」
「それなら、あたしを超えていきなさいっ!!」
「そのつもりよ!ジャック、72連Shot!!」

 ストーンエッジを回避続けていたフローゼルだが、サクノの命令で立ち止まり、深呼吸をし、一気に弾を連射した。
 目にも止まらぬ水の弾がストーンエッジを粉砕し、フライゴンを捉えようとする。

「『ソニックブーム』!!」

 そして、2匹の攻撃は完全な相殺に終わる。

「(この連射数じゃ真正面から攻撃しても駄目ね。それなら……)『Aqa Doom』!!」

 水のシャボンを作り出して、それをドーム状に大きくしていった。
 サクノやアンリはもちろん、フローゼルとフライゴンもその中に覆われた。

「ジャック、頼むわよ」

 フローゼルは自らの足を水のドームに張り付けて、高速で動いた。

「そこよっ!!」

 縦横無尽に動き回り、水のドームのすべての方角から水の弾がフライゴンへ向けて発射された。
 それはまるで、天井から鉄の針が下りてくるかのような逃げ場の無い攻撃だった。

「フライゴン、『パワースイング』!!」

 しかし、その攻撃を羽と尻尾を硬化させたフルスイング攻撃で呆気なく防いでしまった。

「これくらいのパワーなら防げるわ」
「それくらいは、予想済みよっ!『Magnum Shot』!!」

 サクノの本命はこの攻撃だった。
 高速で動いてフローゼルがどこから攻撃を撃つのか相手に読ませない。
 そして、力を溜めて最大のショットで相手を倒すことを考えていたのだ。

「右!」

 だが、アンリとフライゴンのコンビネーションも負けてはいなかった。
 その合図だけでフライゴンは反応した。
 次の瞬間に地面から砂を巻き起こし、フローゼルのもっとも威力の高い攻撃を防いだのだ。

「(……っ!! 『砂の壁』の計算を入れるのを忘れていた……!!)」
「『ソーラービーム』!!」

 草の最大威力の技がフローゼルの足を掠める。
 ガクリと膝をつくフローゼル。

「これで、素早い動きはできないわ」
「そうね。こうなった以上、スピードを使っても意味がないわ。フローゼル、最大射数で行くわよ」

 大きく息を吸い込んで、弓の構えをするフローゼル。
 何が何でもこの一撃で決めるつもりだった。

「MAX108連Shot!!」

 一呼吸で連続108発の水鉄砲を放つフローゼル。
 それをフライゴンは受け止めようとするが、やや押されている。

「普通の水鉄砲よりは威力が高い……いいえ、普通ならこの一撃でも並のポケモンを沈められる。それなら、この攻撃で行くしかないわね」

 アンリが分析から決断し、フライゴンに指示を出すと銀色に輝き始める。

「フライゴン、『エクストリームアタック』!!」

 エックス状に切り裂きながら、フローゼルに向かって突撃する。

「でも、攻撃の弱点は見切っているわ!」

 サクノは自信満々にそういった。

「あなたのフライゴンのその攻撃は、最大の一撃にしか使わない。恐らく、相手の攻撃を利用して自分の攻撃を高めているのよね。それを証拠にエンプの『Soul Storm』は存分にエネルギーを転換して攻撃を切り裂いていたのに対し、ジャックの攻撃は満足にエネルギー転換ができていない。一発と連発の違いの差が出たわね!」
「よく気付いたわね。でも、あたしはそれを理解した上でこの技に決めたの。行くわよ、ここから、『パワースイング』!!」
「ジャック!!」

 108発撃ち終えたところで、フローゼルは息を吐く。
 フライゴンの攻撃が当たるまで2秒。
 その間にエネルギーを再びエネルギーを右手に溜め込み放った。

 ズドゴォッ!!!!

 フライゴンには大きな氷の弾、フローゼルには強化された尻尾。
 互いにクロスカウンターという形で命中し、磁石のSとSが反発するように吹っ飛ばされた。
 両者共にダウンだった。

「まさかフライゴンがダウン……これが最後のポケモンね」

 最後にアンリが繰り出したのポケモンは、サクノが予想したとおりのポケモンだった。

「夢で見たとおり、やっぱりドダイトスね」
「夢で見た?」
「ええ、ちょっと、あなたの夢を見たことがあったのよ」
「ふーん。それなら、奇遇ね。あたしもあんたかどうかは分からないけど、夢を見たことがあるわよ。あたしの希望を受け継ぐものが現れるという夢」
「あなたの希望……?」
「そう。豊かな世界が果てし無く続きますように。って」
「豊かな世界……」
「それがあたしの希望。あんたにはそんな夢や希望があるの?」
「……私の希望……」

 刹那、考えて答える代わりにサクノはウインディを繰り出した。
 その表情は自信に満ちていた。

「どうやら、あるようね。その答えを見せてちょうだい!」

 ドタイトスに指示を出したのは究極技『ハードプラント』。
 ウインディの足元から、巨大な根っこが飛び出して襲い掛かる。

「アンジュ、『Flare Blitz』!!」

 その究極技を、ウインディ最強の技で突破。
 防御かつウッドハンマー体勢で構えていたドダイトスに叩き込んだ。
 2匹の激突で衝撃が走ったが、吹っ飛んだのはウインディ。
 ダメージが大きかったのは、やはりドダイトスの方だった。

「『ランドクラッシュ』!!」

 体勢を立て直していたウインディに対し、ドダイトスはそのまま地響きを起こして、ウインディの足元から打撃系の突き刺すような衝撃が巻き起こる。
 上空へ打ち上げられるウインディだが、炎をラインを引くように吐いて、炎の壁を巻き起こす。
 『Rising Flare』でドダイトスを持ち上げた。

「アンジュ、『Flare Blitz』!!」
「ドダイトス、『ウッドハンマー』!!」

 2匹の最大打撃技が激突したのだった。



 第四幕 Episode D&J
 Ι<イオタ>② P51 立春 終わり


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Last-modified: 2016-02-09 (火) 02:37:25
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