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たった一つの行路 №294

/たった一つの行路 №294

 ☆前回のあらすじ
 シリンダーブリッジからソウリュウシティへと向かっていたサクノたちは、暴走族に勝負を挑まれる。
 ポケモンバトル、バイクのレースに共に勝利したサクノだったが、ゴールに待ち構えていたのはゼンタ(元ロケット団の科学者で魔道のマヤと共同で薬を開発した仲であり、ボルグに嫌悪を抱き、化石復活などの功績を残したが、最後はタマムシシティでマサトに負けた)だった。
 BURSTという力を使いこなし、サザンドラでサクノたちを蹴散らして、彼女らに大きな傷を残して去っていった。
 謎の女性に助けられたサクノは、ゼンタが次の標的をソウリュウシティに定めたと知り、立ち上がったのだった。



―――「ついに完成した。とある小説のネタを見て、まさか本当にバーストハートなるものが造れるなんて思わなかった」―――

 ポケモンを題材にした小説に、『ポケットモンスターBURST』というものがあった。
 それは、ゼクロムのバーストハートを持って、謎のキャラクターを探して冒険する少年の話だった。

―――「この小説のようにオリジナルではないが、開発したバーストハートでも凄まじい力が出せるはずだ。さて、どうやって試そうか……」―――
―――「それなら、いい相手がいるわよ」―――
―――「お前は……」―――

 グラサンに緑色のバンダナを被った女性がゼンタの前に現れた。

―――「今、イッシュ地方で旅をしている、もっとも有名なトレーナー、誇り高き女教皇<アキャナインレディ>のサクノ。彼女と戦ってみるがいいわ」―――
―――「アキャナインレディ……サクノ?知らないな」―――
―――「彼女は3つのポケモンリーグでダントツの優勝をしている。そして、彼女はロケット団を滅ぼすに至ったブラックリスト2位のヒロトの娘よ」―――
―――「なん……だと……?」―――

 その情報を聞いて、ゼンタはニヤリと口元を緩めた。

―――「そいつはいい相手だね。それで、そいつは今どこにいるんだ?」―――
―――「ソウリュウシティに向かっているわ。今から行けば、シリンダーブリッジで会えるわ」―――
―――「そうか」―――

 ゼンタは準備をして、研究室の外へと出て行った。
 その後姿を女性はただ見ていたのだった。
 彼女の表情から読み取れるものは何もなかった。



 たった一つの行路 №294



 死の街・ソウリュウシティ。
 そこで巨大な炎の球体と闘気の塊がサザンドラに炸裂した。
 並のポケモンだったら、一撃で倒せるであろう攻撃だった。
 しかし、人型のサザンドラはその2つの攻撃をものともせずに飛んで向かってきた。

『その程度か?効かないよ!』

 右腕を振りかざして、ウインディとルカリオに攻撃を仕掛けるが、2匹は神速を使ってその場から距離をとる。
 攻撃を空振りしたサザンドラは、ターゲットを変えて他のポケモンを狙おうとするが、サクノはすぐに3匹をボールに戻して、バイクで急加速して射程距離から逃れた。

「エンプ、『骨ブーメラン』!」

 ルカリオが波動の力を使って骨を形状化して投げつける。

『そんな攻撃が何になるって言うんだ?』

 左手でサクッと波動のエネルギーを消し去ってしまう。

 ズバッ!

『ぬっ!?』

 背後から鋭利な刃物で傷つけられた感触を感じて、振り向くと一匹のテッカニンがいた。
 反撃で両手を振りかざして殴りつけるが、テッカニンは加速してギリギリでかわす。
 
『小癪な!』

 テッカニンを正面に捉えると、両手を振りかざして、テッカニンが上昇したときを狙い、3つの竜の波動を放った。

「ジョー!」

 テッカニンは威力に押されて吹っ飛ばされる。
 これで倒しただろうと思ったサザンドラだったが、竜の波動から出てきたのは一匹のヌケニンだった。

『なんだと!?』

 今更説明する必要がないが、サクノのテッカニンの秘技のSwichである。
 ヌケニンにシフトする技である。
 当然ドラゴン系の技はヌケニンの不思議な守りの前に無意味である。

『(火炎放射で燃やす……!!)』
「『16連Shot』!!」

 テッカニン&ヌケニンに気を取られている間にやはり背後から、鋭い水の矢を放った。
 同じところに16本も放ったことにより、流石のサザンドラも顔を歪める。
 連射攻撃を放ったのは、フローゼルだ。

『くっ!『ナイトスパークボー 「『聖なる剣』!!」

 手に黒い帯電したボールを出す前に、攻撃を仕掛ける手をルカリオがかち挙げた。
 そこから、3連続でルカリオの剣戟が炸裂した。

「『Cyclone Slash』!」

 間髪いれず、風を纏ったテッカニンの斬撃。
 そして……

「アンジュ、『Flare Blitz』!!」

 ウインディ自身も炎を纏い、さらにはウインディの分身が前後左右に並ぶ。
 炎でできたウインディの分身体の威力は、鉄の壁をも簡単に貫通する力がある。
 それも4つとオリジナルがいるために、その威力は計り知れない。

『ぐぉぉぉぉッ!!!!』

 4つの炎とウインディが重なって、サザンドラを打っ飛ばした。
 自らが壊した街の瓦礫に入っていった。

「アンジュ……まだ大丈夫そうね」

 最大級の火炎を出し切って、疲弊しているものの、まだ戦える力は残っている。
 その様にサクノは判断し、一度ウインディをボールに戻した。
 同時に黒い波動が瓦礫を全方向に弾くように吹っ飛ばした。
 ダメージは受けているものの、サザンドラはまだ倒れる気配はない。

『やってくれたね!!』
「(アンジュの最大の攻撃でもあれしかダメージを与えられないのね)」

 サクノに焦りはなかった。
 むしろ、このくらいは予想の範囲内というような表情をしていた。

『『三つ首破壊光線』!!』

 ルカリオ、フローゼル、サクノに向かって、それぞれオレンジ色の光線が放たれる。
 前回はその3つが重なった攻撃の前に、チルタリスの最大の防御技である『Veil』が破られた。
 ルカリオとフローゼルは攻撃を相殺しようとはしない。
 先制攻撃を習得するほどのスピードを持った2匹は、回避を選択する。

「ラック!『Drain Seed』!!」

 一方のサクノはバイクに跨ったまま、サングラスのようなアイテムを掛けたエルフーンを繰り出す。
 繰り出した技は、何てことのないただの『宿木の種』のようだった。

『そんなもので防げると思うなっ!!』

 猛るサザンドラ。
 破壊光線が宿木の種を包み込み、燃やし尽くそうとしていたのだが、破壊光線が打ち消されていく。

『なにっ!?(……これは、あの宿木の種にエネルギーを吸収されているのか!?)』

 最終的に宿木の種は燃やし尽くされるが、一筋の破壊光線を完全に防御した。

『(BURSTしたサザンドラの破壊光線さえも防ぐなんて……あのエルフーンは早めに屠った方が……)』

 ザシュッ!!

 横から蒼い炎を纏った爪でSwitchしたヌケニンが攻撃してきた。
 炎はサザンドラに纏わりついて、体力を奪おうとする。

『燃えろっ!!』
「ジョー!」

 火炎放射で燃やしにかかるが、咄嗟に『守る』で防御。

「ジャック!」

 フローゼルが足元を踏みしめて、右手を振りかざし、左手で狙いをつける。
 ヌケニンに気をとられたサザンドラは、氷の弾丸の連続攻撃を正面から受けて技の勢いに圧される。
 悪・ドラゴンタイプのサザンドラに氷タイプの技は有効だが、先ほどのウインディの特攻ほどの効果は得られない。
 相手はすぐにフローゼルを睨みつけて、『ナイトシャドーボール』を投げようとする。
 だが、すぐ隣にルカリオが接近していたことに気付かなかった。
 『バレッドパンチ』で狙いを外されたサザンドラ。
 尻尾でルカリオを払おうとするが、左手で抜いた骨の剣で防御する。

 ミシッ

 ルカリオの剣にヒビが入った。
 それでも何とか攻撃を受け止め、力を溜め始めるルカリオ。

『(一匹目!)』

 殴りつけてルカリオ気絶させようと放った拳だが、風の弾丸がサザンドラの拳を逸らす。
 さらにエルフーンの猛烈な風……『暴風』がサザンドラをルカリオから引き剥がした。

「エンプ、『Soul Blade』!!」

 フローゼルとエルフーンの援護を受けて、さらにその暴風に乗って、ルカリオが刀身から、闘気のエネルギーを繰り出して、サザンドラに一撃を与える。

『ぐっ……』

 格闘タイプの一撃を受けて悶絶するサザンドラ。
 そして、彼は悟る。

『……厄介なのは、ポケモンではないね……、それをまとめる……司令塔だねっ!!』
「(来るわね……!)」

 6匹のポケモンを操り、多彩に攻撃を仕掛ければ、自分を狙ってくることをサクノは読んでいた。
 ルカリオの最大技と共にエルフーンとテッカニンを戻し、バイクのハンドルのグリップをギュッと握り締める。

『くたばれ!!』

 3つの口、両手からそれぞれ『悪の波動』を放つ。
 発射台計5つからの悪の波動の連続攻撃がサクノに襲い掛かる。
 しかし、サクノに攻撃は当たらない。
 バイクに跨り、加速と減速を繰り返し、巧みなハンドル捌きで相手に動きを読ませない。
 5つの発射台から攻撃すればどこかしら当たると思うのだが、当たることはなかった。

『(当たればこんなヤツ……!!)』

 悪の波動の威力も並ではない。
 地面に直径5メートルほどのクレーター状の穴を開けるほどである。

『ぬっ!? ぐほっ!!』

 サザンドラの真上から、巨大な『気合玉』が落下してきた。
 サクノへの攻撃に気をとられていたサザンドラは頭から攻撃を受け、首を下に向けた瞬間に悪の波動を自分の足元に爆発させた。
 流石に自分の攻撃を受けて、ダメージを受けていた。

「アンジュ!」

 悪の波動の嵐が止まった瞬間に、ウインディを繰り出して、突進させていった。

『簡単に……攻撃できると思うな!』

 再び悪の波動を撃って、ウインディではなくサクノを狙う。
 ウインディは前面に炎を展開して悪の波動の威力を軽減しながらサクノを守るように進む。
 だが、一撃受けるたびにウインディの進むスピードが失われていく。

『今度こそ、一匹目!』

 止めとして悪の波動を5つ同時にウインディに向けて撃とうとする。

「今よ、レディ!」

 ウインディの後ろから一匹のポケモンが飛び掛ってきた。

『(ライチュウ!?ウインディの背中に乗っていたのか!?)』

 ライチュウは尻尾の先端を洗練させて、一気に切り裂く。

「『Sander Slice』!!」

 懐に入り込んだ一撃は、サザンドラの猛攻をストップさせた。

『ぐぅっ!このっ!』

 咄嗟に拳を出して、ライチュウを殴り飛ばす。
 その力に圧倒されて、ライチュウは吹っ飛ばされる。
 しかし、サザンドラが予想したほど、ライチュウのダメージはなかった。

『(咄嗟に後ろを飛んだ上に、俺に電撃を撃って威力を殺したのか……!)』

 ちなみに、ヌケニンの『Phantom Slash』の火傷の追加効果の影響も少なからずともあった。

「アンジュ」
『……!! まだ、ウインディが!?』

 同じくウインディもライチュウ同様に懐に入り込んだ。
 ここまで来ると悪の波動は自分も巻き込まれるから使えない。
 それならと、ライチュウと同じように拳で殴り飛ばすしかないと考え手を挙げようとするが……

『(手が……痺れて!?)』

 ライチュウを攻撃した際に、直接触れたことにより、『静電気』が発動したのだ。

「『Rising Break』!!」

 倒れる寸前だったウインディでも、炎を纏ったアッパーカットの最大の一撃を叩き込むことができた。
 腹部に打ち込まれたサザンドラはそのまま空へと打ち上げられた。

『うぐっ!!』

 だが、翼を広げて強引に空へと留まった。

『ならば、徐々に全員を倒してやる!『デビルレイン』!!』

 空を仰いで力を空へと解き放つ。
 すると、空が闇色に染まり、黒い水滴がひたひたと地面を濡らしていく。
 その様子は、ソウリュウシティを死の街という表現に限りなく近づけさせるものだった。

「(この天候は……)」

 付着する雨に嫌な予感を感じさせるサクノ。

『一度この天候になってしまえば、後は1時間は無駄だよ。天候を変える技も無効にするしね!徐々に倒れていくがいい!!』
「(能力と体力の低下系の天候みたいね。それなら……)ジャック、『Aqa Doom』!」

 待機していたフローゼルが、水の波動を地面へと撃ちつける。
 その水の波動は弾けず、そのまま広がって、サクノやポケモンたち、サザンドラを半径10メートルの水の膜に閉じ込めた。

『この水の膜で、デビルレインを遮断しているのか!?それなら壊してやる!』

 上空へ向かって水のドームに殴りかかろうとする。
 しかし、そこには既にフローゼルの姿があった。
 水の膜に逆さで張り付いていた。
 サザンドラはかまわず殴りかかろうとするが、フローゼルは翼を狙って、水の弾丸を連発する。

『ぐっ!だが、この程度で……』
「ジョー、『Cyclone Slash』!!」

 ズバッ ズバッ!!

 翼に二連撃でダメージを与えるテッカニン。
 直接攻撃を受けて、よろめくサザンドラ。

『ぐっ!!このテッカニンがっ!』

 殴りかかるが、影分身や『まもる』でかわされてしまう。
 スピードで翻弄されるサザンドラ。

「そこよ!『Magnum Shot』!!」

 左手で狙いを定め、右手で打つ動作は変わらない。
 だが、左手に最大パワーの水のエネルギーを集め、右手で風のエネルギーと氷のエネルギーを合成させる。
 そして、一気に右手を振りぬいた。
 弾丸は氷。
 しかし、今までの弾と違うのは、巨大な氷の弾丸が風の力でジャイロ回転をし、目にも止まらぬ速さでサザンドラの翼を打ち抜いたことだった。

『ぐあっ!?俺の……翼が!?』

 左の翼を打ち抜かれて、徐々に降下していくサザンドラ。

「これでもう飛べないわね」
『よくも……よくもやってくれたな!』

 怒りを解放し、空気がひしひしとサクノたちに伝わる。
 しかし、それでもサクノは冷静にポケモンたちと人型サザンドラに立ち向かおうとする。

『全力で潰す!全力でだっ!!その後で次の街も、次の街も、次の街も、次の街も!! 破壊してやるっ!!』
「新しいルールを築くには、時に破壊も必要。だけど、私欲のための破壊は秩序の混沌と反乱しか生まれないのよ!」

 ウインディとルカリオをボールに戻し、テッカニンとエルフーンを前衛におした。
 綿胞子で相手の視界を奪い、テッカニンでちまちまとダメージを与えていく戦法だ。

『その戦法は、もう見切ったっ!』

 ナイトスパークボールを地面に投げて、その爆発の勢いで綿胞子を吹き飛ばす。
 Cyclone Slashで攻撃にかかっていたテッカニンは、動きを捉えられて、地面へとたたきつけられる。

「ラック、『Hexagram』!」

 エルフーンが六匹出現する。
 身代わりの応用で、体力をそれぞれ6分割して分身を作り出す技である。

『何匹になろうが、同じだ!』

 両手からナイトスパークボール、口から竜の波動を打ち出す。
 計5発の同時攻撃がそれぞれエルフーンに向かって放たれた。

「『宿木の種』!』」

 相手の体力を徐々に吸い取る技だ。

『(何?)』

 カウンター気味に放った宿木の種は、6つともサザンドラに命中した。
 そして、それぞれの種がサザンドラの体力をごっそりと吸い取っていく。
 しかし、カウンターということは、5発の攻撃をそれぞれエルフーンがまともに受けることを意味する。
 エルフーン本体に攻撃が当たる確率は約85%。
 ナイトスパークボールの攻撃がエルフーン本体に命中し、吹っ飛ばされてダウンした。
 ところが、その結果に違和感を感じたのはサザンドラの方だった。

『(今の攻撃を『Drain Seed』で何故防御をしなかった?できなかった……のか? いや、長期戦を受けて立つためにも『宿木の種』を……ということか)』

 実質、ライチュウの静電気で腕が若干痺れ、ヌケニンのPhantom Slashで火傷している。
 宿木の種をも追加すれば、時間はかかれど、サザンドラは倒れるだろう。

『賢いが、これで意味はないよ!』

 自分に向けて軽く炎の弾を放った。
 それが自分に命中し、みるみるうちに宿木の種を焦がしていった。

『持久戦の作戦はここで終わ 「『切り裂く』!!」

 ザシュッ

『ぐっ!?』

 横から倒したと思っていたテッカニンが自分の脇腹を切り裂いていた。
 しかし、それだけにもかかわらず、サザンドラは今までにないダメージを負っていた。

『よくもやってくれたなっ!』

 後ろに退きながら悪の波動で迎撃しようとするサザンドラ。

「ジョー、『影分身』!『高速移動』!」

 スピードと技で撹乱し、攻撃をかわし、さらに特性でスピードを倍増させ―――

「『バトンタッチ』!!」

 テッカニンからスピードを引き継いだそのポケモンは、一筋の電光と化し、サザンドラの脇腹に衝撃を与えた。

『がはっ!!』

 悶絶し、手で振り払おうとするが、雷の速度に匹敵するそのスピードに触れることはできなかった。

「アンジュ、『Fire Ball』!エンプ、『波動弾』!」

 さらに再び繰り出した2匹の攻撃が炸裂し、爆炎が上がった。
 しばらくして、その煙が晴れるまでサクノたちは待っていた。
 下手に攻めて返り討ちにあわないようにするためである。

『くっ……的確に俺の急所を狙ってくるね……』

 ダメージは大きいようで、サザンドラは息が上がっていた。

「ふぅ……そのためのラックの宿木の種よ」

 エルフーンに持たせていたアイテムはクリティカルレンズ。
 相手の急所や技の弱点を見極めることができる。

『つまり、エルフーンが防御に出なかったのは、できなかったのではなく、しなかっただけか……一杯食わされたよ』
「そういうこと。ねぇ、そろそろこんな破壊なんてやめにしない?」
『その問答は無用だということは、言わないとわからないかな?』
「……悟りたく、なかったわね」

 そういいつつ、額から汗が流れ落ちる。

「(参ったわね)」

 正直、サクノの方が追い詰められていた。
 相手の弱点が分かっていて、優勢に進める術を持っているとはいえ、相手の力は絶大で一撃を受けただけでもエルフーンのようにノックアウトしてしまう。
 テッカニンとライチュウがダウンせずにいるのは、『こらえる』等の技や、事前にどんな行動に出るかを読み、対策したに過ぎない。
 さらに、サクノのポケモンたちのそれぞれの最強の技がサザンドラに少しのダメージしか与えられない。
 急所に当たれば別だが―――

「(そう簡単に行けるとは思えない)」

 ルカリオとウインディを再びボールから出す。
 テッカニンは殴り飛ばされた時の一撃でもはや力は残されていない。
 すなわち、戦えるポケモン4匹をすべてこの場に出している状況になった。

『『悪の波動・改』』
「エンプ、『聖なる剣』!!』」

 恐らくサザンドラの中で最速の攻撃だった。
 5発連続の鋭い悪の波動を指から放った。
 それに反応できるのは、波動の力を持ったルカリオだった。
 折れた剣から波動の力を放出し、サザンドラの猛攻を捌く。
 5発とも剣に当てて捌いたのだが、一つだけ上手く弾けず、自分の足に当たって膝をついてしまった。

『くたばれ!『三つ首破壊光線』』
「ジャック、援護して!『Magnum Shot』!!」

 ルカリオに集中して放たれた破壊光線とフローゼルの最強の弾丸。
 その攻撃の攻防はあっさりと決着がついた。

「『Soul Blade』!!」

 そのことを分かっていたサクノは、Magnum Shotで少しだけ威力の下がった破壊光線を逸らそうとルカリオ最大の技を指示する。
 魂を剣に込めた一撃を、集束された破壊光線にぶつける。

 ズドゴォッ!!

 だが、破壊光線が炸裂した。
 ルカリオは力なく、地面へと仰向けに倒れた。

『……何っ!?』

 すぐにサクノを狙おうとしたサザンドラだったが、その場にいたサクノやポケモンたちがまったくいなかった。

「アンジュ、『Flare Blitz』!!」

 炎を纏いし4匹のウインディ。
 それらが重なり合い、サザンドラに激突する。

『だが、そう来ることは読めていたっ!!』

 ズドゴ――――――――――――――――――ンッ!!

 大きな激突音が響き渡り、サザンドラが崩れかかった建物に激突する。
 建物は崩壊はしなかったが、一部瓦礫が崩れてきて、サザンドラとウインディにダメージを与える。

「(受け止められた!?)」
『急所の方向から狙ってくることが分かれば、何とか受け止められるもんなんだよね』

 抑えられたウインディはその場で打撃攻撃を仕掛けようとするが、三つ首に噛み付かれながら押しつぶされる。
 そのまま地面に向かって思いっきり殴り飛ばされ、地面にめり込んでダウンした。

「レディ、『電撃』!ジャック、『Ice Shot』!」
『むっ!?』

 フローゼルは先ほど展開した水のドームを縦横無尽に移動しながら、攻撃していた。
 エルフーンが示した急所に向けて正確に氷の弾丸を撃っていく。
 だが、そう簡単にサザンドラが当てさせてくれなかった。
 当たる前に拳で壊してしまうのである。
 一方、ライチュウの電撃攻撃は、サザンドラにまったく当たらなかった。

『残りはその2匹だろ。一匹はパワー不足、もう一匹は命中精度が悪いようだね』

 フローゼルとライチュウの攻撃とサザンドラの攻撃。
 どちらも当たらず、こう着状態が進んで行った。
 状況は何も変わらない。
 しかし、そう思わなかったのはサクノだけだった。

「レディ、『電撃』!!」

 20発目の電撃がサザンドラにかわされる。
 そして、瓦礫に炸裂した。

「『ナイトスパークボール』!!」
「『渦潮』!」

 ドゴ―――ンッ!!

 そして、展開が動いた。
 フローゼルに帯電した黒いボールが当たり、地面に落ちた。

『こんな渦潮……足止めにしかならないな。さぁ、残り1匹だ』

 同時にライチュウは手を合わせて拝んでいた。
 終わるとライチュウは右手につけていた小手を外した。

「行くわよ」
『最強の技か?ならば、こちらの最強の技で終わらせてやろう』

 大きく息を吸い込み全身にエネルギーを蓄え始める。

『『ダークスペイザー』。これで終わらせてやる』

 ライチュウが小手を空へと投げる。
 右手をひき、すべての電撃をその右手に集中させる。

「レディ、Smash!!」

 サクノのライチュウの最強の技『Railgun』。
 だが……

『なにっ?』

 ライチュウの懇親の一撃はサザンドラを逸れていった。

『(どういうことだ?しかし、) 外したな!お前の負けだ!』

 ガッ!! ガッ!! ガッ!!

『?』

 ガッ!! ガッ!! ガッ!! ガッ!! ガッ!! ガッ!!

『何だと?』

 ライチュウの放った懇親のRailgun。
 その一撃が進路を変え、瓦礫を抉りながら、進んでいた。

『しかも、威力が上がっているだと!?一体何故……?』

 電撃の進行方向にあるのは、電気を帯びて帯電している鉄の瓦礫。
 それに引き寄せられるように電撃は進んでいるのだ。

『まさか、今までライチュウが攻撃を外していたのはこのための布石!?』

 サザンドラが悟ったそのとき、20個目の瓦礫に電撃が飲み込まれた。
 そのときのRailgunの威力は、膨大な電気の塊を発現させていた。

『小癪なッ!!』

 本来はライチュウとサクノに向けて相手の最強の技をかき消すと共に決めるはずだった技の『ダークスペイザー』。
 しかし、Railgunは進路を変えて、自分の急所である脇腹の正面、すなわちサクノから90度左から襲い掛かってきたのだ。

 ズドォッ――――――――――――――――――――――――――――――ンッ!!!!!!!!

 最大の技同士がぶつかり合った。
 その衝撃は、膨大なエネルギーを撒き散らし、直径50メートルほどのクレーターを作り出した。

 ズザァァッ!!

『ぐはっ……やってくれるっ!!』

 そして、サザンドラは膝をつく。

『もう限界だが、この爆発でアキャナインは自分が戦えるとは思わないだろう。そこを狙って不意打ちをすれば……!!』
「『Lighting』!!」

 ドゴォッ!!

『がっはっ!?なん……だって!?』

 急所に的確にライチュウが狙い済ましたかのように、一撃をお見舞いした。

「レディ、『アイアンテール』!!」

 本来ならSander Sliceで行きたいところだったが、ライチュウももう体力が残り少ない。
 電気を作り出すほどの力も残されていない。
 ライチュウの最後の懇親の力を込めた打撃攻撃で急所を狙う。

『うぉぉぉっ!!』

 ドガッ!!

『ははっ……ハハハハハッ!』

 伸ばした拳がライチュウに命中した。
 アイアンテールは、わずか右に逸れて外してしまった。

『俺の勝ちだっ!!』

 勝ち誇った表情で人型のサザンドラは咆哮した。
 もう、サクノに残されたポケモンはいない。
 さぞ絶望の表情をしているだろうサクノを見る。

「……っ……」

 彼女の表情は険しそうだ。
 先ほどの最大の技の激突で、吹き飛び、どこかを打ち付けたのだろう。
 息も上がっていて、彼女自身も体力が限界のようだった。

『お前の負けだ、アキャナイン!』

 ザクッ!!

『は?』

 サザンドラは震えた。
 恐る恐る自分の脇腹を見ると、一匹のポケモンの姿があり、自分の急所を確実に捉えていた。

『(テッカニン……だと!?何故動ける!?先ほど地面にたたきつけてやって体力とスピードを奪ったはずなのに何故!?……はっ!?さっきのライチュウの技はまさか、『願い事』!?)』
「『Drain Slash』……そして、決めて!『いのちがけ』!!」

 元々、体力が少ないテッカニン。
 今の一撃で体力が全快になった。
 そして、全体力を使って、テッカニンは特攻した。

『ぐわぁっ――――――――――――!!!!』 

 人型のサザンドラは吹っ飛ばされる。
 ばさりと仰向けに倒れると、人型のサザンドラは一人の人間に戻った。

「私の……勝ちよ……これに懲りて……破壊を……やめる……ことね……」

 バタリ

 ゼンタに向かって言葉を残し、サクノもその場で倒れこみ、気を失ったのだった。



 ―――1ヵ月後。
 死の街だったソウリュウシティが、ジムリーダーのアイリーンの指導のもと、ようやく復興作業に取り掛かっていた。
 街の人々が避難から戻ってきたり、ケガを治したりして、ようやく人が集まってきたのだ。
 ソウリュウシティが復興するにはまだまだかかるだろう。
 そして、イッシュ地方崩壊の危機を救った英雄サクノたち一行はというと……

「よし、ハイスコアっ!!メダルを300枚獲得だ!」

 男勝りの少女、カナタはピコピコハンマーを持って、両手を挙げた。
 ディグダ叩きで過去の記録を塗り替えたようだ。

「ブラックジャック(21)!俺の総取りやで!」

 エセコガネ弁の男、ビリーはカードをテーブルに投げて、ニヤリと笑う。
 ブラックジャックで他の挑戦者からメダルを横取りしたようだ。

「あら、7が三つ揃ったわ」

 ふんわり系の女の子、マキナはぽかんとした表情でディスプレイを見ていた。
 スロットでスリーセブンを叩き出し、排出口から大量のメダルを落としていた。

「…………」

 ミッドブルーの髪の美少女、サクノはがっくりとした表情で肩を落として落ち込んでいた。
 透明の壁越しに在るのが、エルフーンのミニドールだった。
 彼らはシリンダーブリッジの先にあるR9に来ていたのだ。
 デパートがある横には最近出来たゲームコーナーがあった。
 そして、一通り遊び終えた4人は、デパートを後にした。

「ふふんふんふふんふーんっ♪」

 上機嫌な様子でマキナが鼻歌を歌う。
 某アクションゲームの鼻歌はとっても楽しそうだ。

「好調やったでー」

 ビリーが紙袋を抱きしめるように景品を持ち歩く。
 中に入っているのは、お菓子のようである。

「それにしても……お姉様……」

 カナタは一人落ち込んでとぼとぼ歩くサクノに声を掛けていた。

「エルフーンドール……エルフーンドールが……」

 クレーンゲームで失敗したのがよほど堪えたのだろう。

「メダル千枚使って、まったく取れないなんて、サクノちゃん、よっぽどセンスがないのね」
「マキナはん、それは間違ってもサクノはんには言ってはいかへんでぇ?」

 ちなみに、クレーンゲーム一回の金額はメダル20枚。
 メダルの金額は100枚千円。
 すなわち、サクノは1万円の金額をつぎ込んだといえる。
 1万円使って、もう一回お金をつぎ込もうとしたサクノを必死にカナタが止めたのだ。

「他のスロットでも一つも揃わなかったみたい」
「……言われて見ればそうやな。……もしかして、サクノはん、ゲームの運はないんか?」
「というか、いい加減お姉様の弱点をチクチク言うのやめろ!」
「それにしても、ソウリュウシティはまだ復興作業をしているらしいで?」
「そうでしょう。被害のない箇所なんてないと言われているらしいですし」 
「街を粉々に破壊する伝説のポケモンに匹敵する恐ろしい力……あの力を扱うゼンタが捕まってよかった……」
「そのゼンタを打ち倒したサクノはんはやっぱりすごいでぇ?惚れ惚れしてまうわ」
「……え?うん……」

 話題を変えてみるがそれでもサクノのテンションは低い。

「さ、さて、次はどこへ行くのかしら……?」

 Prrrr

 そのとき、一つのポケギアが鳴る。

「え?お母さん?」

 カナタは左手につけているポケギアを弄って通話を始める。

「なに?どうしたの?」

 カナタの母親はカズミである。
 SHOP-GEARの社長をやっていて、表向きは機械の修理屋、裏では賞金稼ぎをしている。

「え?お姉様に?」

 ポケギアを差し出すとサクノは不思議そうな表情で通話を受けた。

「父が……イッシュ地方にいる……?」



 ……5年後のゼンタ……



『見ていろよ、アキャナインレディサクノ……』

 刑務所から脱獄したのは、BURSTしたサザンドラ……ゼンタだった。
 何をどうしたかは割愛するが、ゼンタは再びサザンドラの力を取り戻したのだ。

「元気そうね」
『……お前は……っ!』

 緑のバンダナの女性を見て怒りをたぎらせるゼンタ。

『元はといえば、お前のせいだ。お前がサクノと戦えばいいとか言わなければ今頃俺は……』
「人のせいにしてほしくないわね。当時、あの子があそこまで強いとは思わなかったけど」
『元ロケット団のルーキーズユウナっ!!先にお前を消してやるっ!』
「ユウナ……、その名前はもう捨てたわ」

 人型のサザンドラが飛んで彼女の首を狙う。
 しかし、

 ズドゴンッ!!

『がはっ!?』

 巨大な氷の塊がサザンドラを打っ飛ばした。

『一体何が……っ!?』

 視線の先にいたのは、白衣を着た少年とグレイシアだった。

「グレイシア、『冷凍ビーム』」

 ドゴッ!!

『バカ……なっ……!』

 その一撃でゼンタサザンドラは地面に落ちたのだ。

「彼の名前はエデン・デ・トキワグローブ。そして、私の名前はアソウ。この世界をすべての悲しみから救う者よ」
「グレイシア、やるんだ」

 BURSTが解除されたゼンタをあっという間に凍り付けにしてしまった。
 そして、バーストハートに閉じ込められたサザンドラを拾い上げて、太陽にすかしてみる。

「これがそのバーストハートだね」
「ええ。恐らく、この力が誰にでもシンクロを使える用になるヒントがある。人間とポケモンの一心同体化。それをすることにより、力は一気に高まるわ」
「どのくらいかかると思う?」
「何年かかってもやるわ。これが私の残された道なのだから」

 アソウとエデン。
 そうして、二人は息の根を止めたゼンタを放っておいて、そのままどこかへ去っていったのだった。
 ―――彼らの計画が実行されるまで、後16年。



 第四幕 Episode D&J
 BURST(後編) P50 冬 終わり


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Last-modified: 2016-01-24 (日) 21:49:39
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