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たった一つの行路 №293

/たった一つの行路 №293

 その街は崩れていった。
 ただの自然現象で崩壊していったのではない。
 破壊光線や火炎放射など、強力な攻撃技で一匹のポケモンが街を進撃していたのだ。
 ただ一匹のポケモンのはずなのに、誰も止めることはできなかった。

「はぁはぁ……くっ……」

 一人の女性、アイリーン。
 彼女はこの街、ソウリュウシティのジムリーダーだ。
 だが、彼女のドラゴンポケモンは一匹、また一匹と力なく倒れていった。
 自分自身も傷だらけで、頭から流血していた。

「あいつは……なんなの……? 本当に……サザンドラなの?」

 アイリーンは最後のポケモンのオノノクスを繰り出しながら呟く。

「負けるもんですか!『龍の舞』から『げきりん』!!」

 演舞をし、力とスピードを上げて、怒りのパワーをサザンドラにぶつける。
 故郷のソウリュウシティを壊されたという力を怒りに変えていて、実際オノノクスの力は通常の倍の力を叩きだしていた。
 並のポケモンだったら、抵抗してもすべて押しつぶしてしまっていただろう。

 ドゴォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!

 オノノクスはサザンドラを押していた。

『そんな力なんで、無駄なことだよ』

 しかし、サザンドラがそんなことを言った時、オノノクスの進撃が徐々に止められていった。

「う、ウソ……オノノクス!もう一度……」
『ふっ』

 尻尾をブォンッと振り回すと、オノノクスの首に当たる。
 それだけなのに、『げきりん』中のオノノクスは圧倒的力で吹っ飛ばされる。
 壁にぶつけられて、大ダメージを受ける。

「オノノクス!」
『くらえ、『破壊光線』!』
「そんな……ダメッ!!」

 三つの口からそれぞれ相当のエネルギーを持つ光線が放たれる。
 一つはオノノクスに、一つはアイリーンに、一つは街中へ向けて撃たれる。

 ズドォォォォンッ!!!!

 その一撃で、さらに建物が5つほど崩壊した。
 ソウリュウシティ。
 観光用のパンフレットには、『歴史を重んじ 昔からのものを 今も大切にしている由緒正しき街』とある。
 だが今は、その歴史も破壊され、何も残らないただの廃墟になりつつあった。
 この場所を訪れた人から見れば、隕石が落ちたのか?とか、極大の地震が起きたのか?とその光景を呆然として考えるだろう。

「あぁ……オノノクス……うぅ……」

 ソウリュウシティのジムリーダーのアイリーン。
 彼女はただ力なく体を横たえていた。
 化け物のサザンドラの破壊光線を間一髪避けたが、その衝撃波で吹き飛ばされて体を打ちつけたのである。
 もはや動く力などなかった。

『ジムリーダーと言えど、この力の前にはチリに等しいな』
「くぅ……あぁぁぁぁ……」

 サザンドラの姿が消えて、ただ一人の人間になった。
 その人間は一つの黒い宝石を持っていた。
 その中にはサザンドラの姿が透けて見える。

「ば、ばけ……ぁぁぁ」
「あらら、恐怖で喋れないの?言っとくけど、俺は化け物でもなんでもないよ。そういう力を作り出しただけだよ」

 ビクビクと怯えるだけのアイリーン。

「まったく、いい女がそんなにぶるぶる恐怖で震える姿を見るのはどうもよくないね。恐怖している女にそそられるのはあのムラサメだけで充分だよ。どちらかと言うと俺は女は笑顔が似合うと思うしね」

 口をパクパクと、動かして、彼女はもう喋ることが出来なかった。

「まったく、仕方がないね。俺の名前はゼンタ。このバーストを作り出した科学者として、このイッシュ地方を……いや、すべての地方を滅ぼすものだよ」

 すると、再びゼンタはサザンドラと一体化した。
 その姿は人型のサザンドラと言った感じだった。
 禍々しい力がぷんぷん漂っていた。

『消えてくれ』

 恐怖したアイリーンは動けない。
 一筋の光線がアイリーンに向けて放たれたのだった。

 ブォォンッ!!

 しかし、光線が炸裂した時、その場所にアイリーンはいなかった。

『…………』

 サザンドラことゼンタは、くるりと振り返る。
 彼が見たのは、大型バイクに跨って、後ろの席にアイリーンを乗せたミッドブルーの髪の少女の姿だった。
 少女は足場が多少マシな場所へアイリーンを横にすると、バイクを押したまま、サザンドラに向かい合う。

『昨日、あんな死に目に遭いながら、また俺に会いに来るなんて、無謀にも程があるね。アキャナイン』

 誇り高き女教皇<アキャナインレディ>。
 そう呼ばれる少女は、一人しかいない。
 その呼び名は、彼女が気高くかつ可愛くも美しくポケモンリーグを圧倒的な力で優勝したことに由来されるもう一つの呼び名である。
 サクノはいつもよりも真剣な目で、キッとゼンタを見据えている。

『今度は、消されると知ってきたんだね』
「消されはしない……」

 ゼンタの言葉を否定つつサクノは呟く。
 彼女の姿は、あちこちに擦り傷があり、頭にハチマキのように包帯を巻いているような姿だった。
 一目見ただけで、彼女が相当のダメージを追っていることが見て取れる。

「もう、みんなを傷つけさせない!そして、この街のような被害を私は出させはしない!」
『この力の前に一体何ができるって言うの?俺の力の前にはその言葉を実行するのは不可能だよ。すべて潰してあげるよ』
「いいえ……」

 サクノは腰につけてあったモンスターボール6つをポロッとすべて落とした。
 エルフーン。
 テッカニン。
 ルカリオ。
 フローゼル。
 ウインディ。
 ライチュウ。
 中から出てきたポケモンたちは、すべて体力全開で、闘志をむき出しにして、サザンドラを見ていた。

「不可能ではない。可能性は心から否定することで、諦めることで不可能になってしまうもの。でも、私の心はいつも決まっているの。だから、私は挫けない、この想いを潰すことは誰にもできない!!」

 サクノは大型バイクに跨って、戦闘態勢に入る。

『できるものならやってみるんだね!』



 たった一つの行路 №293



 ―――2日前。
 ソウリュウシティの西にあるシリンダーブリッジ。
 橋の下には地下鉄が通っているほど丈夫な橋である。

 ブォンブォンッ!!

 バイクのマフラー音が鳴り響く。
 そして、いくつかのバイクが橋の上を奔走していた。
 この橋の近くに住む住民によれば、週末には近所の悪ガキが集まって、バイクを走らせているのだという。
 その連中はポケモンバトルも強く、バイクの腕も相当のものなのだという。
 だが……

「くっ……まさか……俺が負けるなんて……」

 暴走族の少年は、ゴールに止まると、バイクに乗ったままがっくりとうなだれた。
 そのゴールには既に一人の少女が辿り着いていた。
 大型バイクを華麗に乗りこなす少女はサクノだった。

「私の勝ちよ!」
「くっ……ポケモンバトルも競争も勝てないなんて……参ったぜ……」

 そうして、サクノと暴走族の少年はがっちりと握手を交わしたのだった。

「これからあんた達はソウリュウシティに行くんだろ?」
「ええ、そうよ」
「街に行く途中にデパートがある。そのデパートをみんなR9と呼んでいる。いろんなものが揃っているから立ち寄ってみるがいい」
「ほんと?ソウリュウシティ名物とかある?」
「……っ!! ……デパートだから、たいていのものが揃っているんじゃねえか?」

 暴走族の少年は美少女にキラキラとした目で見られて、一歩下がった。
 若干顔が赤い少年は、女の子に免疫がないようだ。

「わかった!ありがとう!近くまで行ったら立ち寄ってみるね!」

 そういって笑顔を飛ばされて、暴走族の少年はおちた。
 というか、心を奪われた。

「とは言うけれど、まだ、みんなが来ていないかぁ……」
「それなら、俺の相手をしてくれないかな」

 シリンダーブリッジの出口に一人の男が立っていた。
 年齢は退職間近の初老ぐらいで、白衣を着ていた。
 一目見れば科学者だと思うだろう。

「誰なの?」
「世界最高の科学者。名前はゼンタという」
「相手って、バトルでいいの?」
「もちろん。だけど、このバトルには賭けるものが必要だ」

 そう言われて、サクノと暴走族の少年は顔を見合わせた後、科学者を見る。

「賭けるものは命だよ。……アキャナインレディ」
「……命……」

 不思議そうな顔でサクノはゼンタを見る。

「どうして、命を……?命は賭けるものじゃないのよ!」
「そうじゃねえだろ!」

 暴走族の総長のヒデアキがサクノの前に出た。

「あいつは単純にお前のことを消したいだけだろ!」
「近所の悪ガキが、その女を庇うんだ。さては、アキャナインに惚れたな?」
「黙れ!」

 顔を赤くした少年は食って掛かるようにポケモンを繰り出して、ゼンタに向かって行った。

「BURST」

 黒いダイヤの結晶のようなものをゼンタは持っていた。
 そのダイヤを割るように叩くと、ゼンタの姿がみるみるうちに変わっていった。

「なんだ!? ぐぉおっ!!」

 一撃だった。
 少年とそのポケモンは呆気なく吹っ飛ばされて、ダウンした。
 サクノの見た感じでは、ただ尻尾で弾かれたようにしか見えなかった。

「(その姿はポケモン?でもこれは一体……)」

 人型のサザンドラ。
 今までサクノが見たことのないケースだった。
 サクノ自体、サザンドラも見たことはなかったが、ポケモンだということはわかった。
 だが、何かが違うと彼女の中で違和感を訴えていた。

『まず、その邪魔者から消そうか』

 サザンドラは三つ首の一つから光線を繰り出そうとする。

「……! させない!『竜の波動』!!」

 咄嗟にボールを取り、すぐに攻撃を放った。
 その反応速度はまさに一流のトレーナー。
 ボールに手を掛けるのに1秒。
 出て攻撃を仕掛けるのに2秒ほどだった。
 攻撃を繰り出したのはチルタリス。
 モンスターボールに手を書ける前に技を指示したことにより、チルタリスはボールの中で力を蓄えていたのだ。
 ゆえに、サザンドラが攻撃をチャージしている4秒の間に攻撃を当てる事に成功した。

『やはり、お前から潰した方が良さそうだね』
「(……ファイの攻撃を受けて無傷!?)」

 接近するサザンドラ。

「ファイ、『流星群』!!」

 ドガガガガガッ!!!!

 接近させない様にドラゴンタイプ最大の技で牽制をする。
 『竜の波動』が牽制にならない今、最大の技を撃つしかなかった。

『ふぅ』
「効いてない!?」

 流星群を抜けて、サザンドラが顔を出した。

「(『God Bird』は間に合わない……なら―――)『Dragon Dive』!!」

 接近戦に切り替えて、サザンドラにぶつかっていくチルタリス。

「『Extra boost』!!」

 ぶつかる直前に、チルタリスは加速した。
 瞬時に力と速度を上げるこの技はチルタリスに負担がかかる技なので、止めの時にしかサクノは使用しなかった。

 ガガガッ!!

 しかし、チルタリスの瞬時に出せる最大の力にもかかわらず、サザンドラはその攻撃を押されながらも受け止めつつあった。

「(この攻撃を止めるの!?)」
『『竜の怒り』!!』

 ズドォォォ―――ドゴンッ!!

 鳴き声を上げてチルタリスは吹っ飛ばされる。
 その方向にはサクノがいて、モロにその攻撃を受けてしまった。

「うっ……」
『『三つ首破壊光線』。これでおしまいだ』

 技の名前の通り、3つの口に破壊光線を溜め始めた。

「(チルタリスは……まだ動ける……でも、次のポケモンを…………!)」

 チルタリスと共に吹っ飛ばされて、次に戦うポケモンを思索しているが、隣にいた少年を見て、気を逸らしてしまう。

『吹き飛べ!』
「くっ!(ここでかわしたら、彼にも当たる!!)チルタリス、『Veil』!!」

 チルタリスの為に作った『光る粘土』を改良したアイテムで強化した防御壁。
 いわゆるこれがサクノのポケモンの中で最も高い防御力を誇る技だった。
 その壁に3つの破壊光線が一点に襲い掛かる。

「ファイ……耐えて……!」
『無駄だねっ!!』

 そして……



「(レースするのはいいんだけど、私たちは歩かなくちゃいけないのよね)」

 マキナは走りながら、そう毒づいた。

「やっぱりお姉様は強いわ……まだまだお姉様の領域に達するには修行が必要だな……」
「それそこサクノはんや!バトルも強い、バイクの乗りこなしもカッコイイ!俺が追いかける価値のある女の子やで!」

 と、カナタとビリーも併走している。

「それにしても、他の暴走族の子ったら、私たちも乗せてくれればよかったのに、気が効かないのね」
「ほんとだよな!だけど、私はお姉様の後ろにしか乗るつもりないけどな!」
「俺もサクノはんの後ろにしか乗るつもりはないで!」
「ビリー!サクノはんの後方の席は私の物だ!」
「カナタ、ここは譲れへんわ!サクノはんの背中は俺のものだ!」

 走りながら二人は顔を突き合わせて睨みあう。
 だが、徐々にその顔は離れて行った。
 その理由は、カナタが徐々に顔を赤くして、そっぽを向いたからである。

「ん?どうしたんや、カナタ?」
「なんでもない!」
「ん、ん?どうしたんやー、カナタ?」
「なんでもないって言ってんだろ!」

 カナタはビリーに好感を持っている。
 ビリーはそのことを知っていてワザとからかっていた。

「(まったく、この二人は……)」

 マキナはそんな二人を微笑ましく見ていたのだった。
 しかし、その微笑ましい空間は、シリンダーブリッジに到着すると同時に崩れ去る。

「なんだこれ!?どうしたんだ!?」
「みんな、一体誰にやられたんや?」

 暴走族たちがバイクも粉々に蹴散らされていた。
 そして、その中心にいるのは、一匹の人型のサザンドラだった。

『まだ居たんだね。さっさと片付けようっと』
「ポケモンが喋った!?」
「というよりも、本当にポケモンなの……?本物のサザンドラとは、何かが違うわね……」

 ズドォッ!!

 3人に向かって、突撃してきた。
 地下で走っている電車が透けて見える線路を突き抜ける威力だった。

「(まさか……このサザンドラ……シロヒメが言っていたポケモンと融合して力を行使するというヤツか!?)」

 ビリーは楽園での会話を思い出していた。
 同時にクイタランを繰り出して、火炎放射で反撃に出る。
 同じくマキナもニョロトノでハイドロポンプを撃つ。
 サザンドラはひょいとかわしていく。

『ふんっ』

 サザンドラには通常手がない。
 しかし、そのサザンドラは人間と融合することによって、手が存在した。
 その二つの手から、バチバチと迸った黒いボールを投げつけた。

「え?」
「なっ!?」

 その攻撃を2人は追いきれなかった。
 気がつけば、クイタランとニョロトノに当たっていて、2匹は倒れてしまった。

「(攻撃速度がとてつもないわ)」
「(俺の天使の目でも反応すらできなかった!?なんて潜在能力なんだ!?)」
「お姉様っ!!」

 カナタが叫ぶのを見ると、そこには暴走族が倒れている中にサクノの姿があった。
 隣にいるチルタリスは重傷で、彼女のモンスターボールの開閉スイッチはすべて壊されていた。
 攻撃のショックで壊れたのだろう。

「っ!!よくもサクノはんを!メタグロス!」
「……コロトック!」

 高速移動で相手を撹乱するようにメタグロスは接近する。
 『コメットパンチ』だ。
 一方、コロトックも遠距離から殺傷力のある音波を飛ばして攻撃に出る。

 ドゴッ! ガガガガガッ!

「くっ!!うおっ!!」

 サザンドラがメタグロスの頭上を押さえ込み、地面に叩き付ける。
 その衝撃で地面に亀裂が走り、ビリーは横っ飛びでかわした。
 さらに炎攻撃でメタグロスを焼き尽くして、ノックアウトにした。

「行けえぇっ!!」

 そのとき、一匹のニョロボンがサザンドラの懐に入った。
 マキナもビリーも彼女がポケモンを出した時がわからないほど、その動作は速かった。

『(いつの間に!?)』

 その挙動はサザンドラも分からなかったほどである。
 大きく拳を振りかぶって、サザンドラのボディに一撃をお見舞いした。

 ドゴォッ!!

 サザンドラは大きく後退した。
 ニョロボンはさらに追撃に出る。

「これで決めろ!!懇親の右ストレート!!」

 拳を大きく振りかざして、目にも止まらぬ速さで拳を振りぬいた。
 先ほどと同じ大きな音を立ててサザンドラにダメージを与える。

『確かに痛いね』
「なっ……!? 効いてない!?」
『『ナイトスパークボール』』

 掌から出された帯電した黒いボールを受けて、ニョロボンは呆気なく倒れた。

「コロトック!連続で『メロディストラッシュ』よ!」
『無駄なことだね』

 帯電した黒いボール一気に3つほどコロトックへと投げつけた。
 それを見たマキナは、一つは全力のストラッシュで粉砕を試み、一つは回避を試みた。
 しかし、相殺もできなければかわすこともできなかった。
 あっという間にコロトックに命中し、ダウンに至らしめた。

「きゃあっ!!」

 その攻撃の余波はマキナにも及んで、吹っ飛ばされる。
 地面をズザザッ!と滑るように転がされる。

「(カナタのニョロボンのパンチもマキナのコロトックの鋭利な斬撃もものともしないのか!?)デンチュラ!」

 ビリーは近距離戦闘を諦めて、遠距離からの攻撃にスイッチする。

「ビリー、援護するわよ!『爆音玉』」

 マキナのバクオングの声を固めたボールを投げつける。

『そんな攻撃、当たらな……』

 ド――――――ンッ!!

『うぉっ!?』

 サザンドラにぶつけると思っていた音の攻撃は、手前で炸裂していた。
 その音の大きさと振動の衝撃で、サザンドラは怯んだ。
 そして、その隙をビリーは逃さなかった。

「ローガン流『シグナルレーザー』!!」

 スピードのある虫系のシグナルビームの強化技がサザンドラを打ち抜いた。
 技の勢いに押されるサザンドラ。
 ダメージもそこそこあるが、怯まずに足を踏ん張って反撃に出ようとした。

「カナタ!」
「わかってるっての!!」
『後ろっ!?』

 反応したが、サザンドラが遅れた。
 カナタのラグラージが『アームハンマー』で地面へとサザンドラの頭を叩いた。
 威力で地面がミシッと音を立てる。

「(決まったか!?)」

 ドゴッ!!

「バクオング!?」

 ラグラージの懇親の一撃を受けながらも、サザンドラは指から黒く鋭い悪の波動を放っていた。
 5度ほど連続でバクオングは撃ちぬかれて、倒れた。
 それを見たビリーは、デンチュラに『高速移動』を指示して10万ボルトで牽制しながら、シグナルレーザーを放った。

『『三つ首破壊光線』!!』

 3つの口から同時に放つ破壊光線。
 その3つの光線が1つに合わさる場所がとてつもない威力を持っていた。
 その力の前にシグナルレーザーは足止め程度にしかならなかった。
 破壊光線の余波に吹っ飛ばされたビリーとデンチュラ。
 サザンドラは飛んで、デンチュラを下へとたたきつけた。
 橋にめり込んでデンチュラはダウンした。

『いい加減諦めて、消えなよ。俺はのんびりとイッシュ地方を周って街を破壊しつくすんだからな』
「(やっぱりこいつがシロヒメの言っていた……だとしたら、全力で止める!!)」
「何故そんなことを……?」

 マキナが吹っ飛ばされた際に傷つけた腕を庇いながら尋ねる。

『なんてことはないよ。ただ俺はこの力を試したいだけ。科学者の当然の本能だよ」
「させるかよっ!」

 猛るカナタはラグラージと共にサザンドラへと向かっていく。

「カナタに同じね。みんなが築き上げた街を壊すことなんてさせないわ!」
“そうね。街は歴史が重なって生み出したもの。一人に壊す価値はない。神のネグリジュも許さないわ!”

 マキナが切り札のメロエッタを繰り出す。

「お前を止めるッ!ピクシー!」

 ビリーはピクシーを繰り出すと、力を解放した。
 ピクシーの背中から優しい色の翼が広がった。

「『エンゼルハート』!!『トライアタック』っ!!!!」
「『いにしえのうた』!」
「『ハイドロカノン』!!」

 ピクシーのトライアタックが30連発。
 メロエッタの独特な声法から繰り出される音の攻撃。
 ラグラージの水系の究極の攻撃。
 どれも今までで最大の技であることは間違いなかった。

『『悪の波動』!』
「ラグラージ!?」

 しかし、それらの攻撃を受けても、サザンドラは倒れなかった。
 ダメージこそ受けているものの、ものともしていないようだった。

「ピクシー!『ムーンインパクト』!!」
「メロエッタ、『インファイト』!!」

 ビリーとマキナのポケモンが特攻で突っ込んだ。
 二人とも玉砕を覚悟して突っ込むしか方法がもう無いと考えたのだろう。
 最高の一撃で挑んだ。

 ドゴッ!!

『むっ!!ぐほっ!!』
「メロエッタ、もう一回!!」

 メロエッタは現在、打撃とスピードを特化したステップフォルム。
 テレポートをしたみたいにさっくりとサザンドラの後ろに回りこみ、全力の打撃を叩き込んだ。

『ぐぅっ!!』
「そこだっ!『フェアリーテール』!!」
『ぐあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!』』

 妖精の尻尾の一撃は、天へと光を立ち上らせる。
 そのサザンドラも打ち上げられて、地面にドサリと叩きつけられた。

「はぁ……はぁ……やったか……?」
「メロエッタ、大丈夫……?」
“何とか……ね”
「勝った……のか?」

 カナタは倒れたラグラージを戻したところで息をついて地面に座り込んだ。
 それをみて、2人も緊張が抜けたように息を吐いた。

「一体、このサザンドラは何をしたんだ?」
「科学とか言っていたけど……」
「どちらにしても、ろくなことではないわね」
『ロクなことでは……ないよ……。これは偉大なる開発……だ!』
「な!?」
「っ!?」
「そんな!?」

 むくりと起き上がったサザンドラ。
 彼が受けたダメージは大きい。
 だが、それでも彼は戦う体力が残っていた。

『まさか、BURST状態でこれだけのダメージを受けるとは思わなかった……。お前達は危険分子の一員だな』

 そういって、サザンドラは飛び上がる。
 さらに全身にエネルギーを溜め始める。

「一体何をする気だ!?」
『お前達を消してあげるよ。この橋ごとね』
「させない!メロエッタ、『滅びの歌』」
“それしかないわね!”

 メロエッタは滅びの歌を歌い始める。
 それはサザンドラに届いたはずだった。

 ドゴォッ!!

“あうっ!!”

 しかし、メロエッタやマキナをはじめとした全員が吹き飛ばされた。

『音に関する攻撃なんて、『ハイパーボイス』で充分押しつぶすことがきるからね』
「そんな……『滅びの歌』が効かないなんて……!」
「ピクシー!飛べっ!!『ムーンインパクト』で叩き落すんだ!」
『そんな暇はないよ。これでおしまいだ』

 サザンドラのエネルギーが最大にまで達した。

『『ダークスペイザー』!!』

 一瞬だった。
 橋はぱっくりと切られてシリンダーブリッジが2つになってしまった。
 ビリーのピクシーはその光線に巻き込まれた。
 
『オラッ!!』
「うわっ―――!!」
「くっ!!みんな!?きゃぁっ!!」
「ちくしょう!ピクシー!!ぐはっ!!」

 シリンダーブリッジの一部が崩れ行く。
 その影響で次々と暴走族たちのバイクなどが海へと落ちていく。

「ダメェっ!!」

 マキナの叫びが無情にも響く。
 そして……。



『はぁはぁ……ダメージを受けすぎたか……』

 サザンドラ=ゼンタは空からシリンダーブリッジの様子を見ていた。
 橋は切断されて、橋を渡ろうとしていた電車が落ちる手前のところで止まっていた。
 暴走族の大半は海へと落ち、ビリーたちは落ちなかったが、それぞれに怪我を負って気絶していた。

『少し休憩が必要だけど……問題ない。2日後に攻め落とすか。ソウリュウシティを……』

 自らの勝利を確認し、サザンドラはヨロヨロと飛んで去っていった。



 ―――数分後。
 海から一匹のラグラージが顔を出していた。
 そのラグラージの背中には落ちた数人の暴走族たちが山積みに乗せられていた。
 その様子を橋の端から眺めるのは一人の女性だった。

「…………」

 彼女はただ黙ってラグラージを戻し、どこかに電話を掛けた。

「ケガ人がいるの。場所はシリンダーブリッジ。急いでね」

 その様子は淡々としていて焦っているようには見えなかった。
 ただ、冷静な目でこの光景を目に焼きつけていたのだった。



「つぅ!?……こ、ここは……?」

 青い髪の美少女であるサクノは、ふと目を覚ましてベッドを飛び上がった。
 そこにあるのはいくつかのベッドだった。

「ここは……病院?どうして、私はこんなところにいるの?」

 サクノにはここまでの記憶がなかった。
 ゆえに、どうしてこの状況になっているのか、周りを見て判断するしかなかった。

「ビリー……マキナ……カナタ……!!」

 周りのベッドで寝ているのは、みんな重傷で気絶して寝ている仲間の姿だった。
 それは自分も同じだが、皆と比べると軽傷で、頭に包帯を巻いているだけだった。

「まさか……みんなあのポケモンに……!?」
「その通りよ」

 病室の入り口から聞こえてくる声。
 そこを見ると、緑色のバンダナを被り、サングラスを掛けた理知的な女性が立っていた。

「あなたは?」
「一応、あなたたちを助けた者よ」
「そうでしたか……。ありがとうございます。(それにしても、綺麗な人ね)」

 刹那、その女性の姿を見て、私もこんな女性になれるかなと思ったが、その思考を一旦置いとくことにした。

「一体、どうしてこんなことになったんですか?」
「元ロケット団の科学者ゼンタ。彼が作ったBURSTハートは、ポケモンと一体化することにより、凄まじい力を発揮するもの」
「BURSTハート?」
「ええ。ポケモンを結晶の中に閉じ込めてしまうものよ。彼はどうやってか、その方法を実現した」
「一体その力をどうするつもりなの?」
「まぁ、力を持った科学者の考えることなんて一つしかないわ」

 あくまで冷静に……いや、冷酷に彼女は言葉を継ぐ。

「その力の実験。私の予想では、ソウリュウシティを襲っているんじゃないかしらね。あそこにはイッシュ地方最強のジムリーダーアイリーンもいるし、ドラゴンの里として有名だからね」
「…………」
「あのサザンドラとゼンタの合わさった力は本物。恐らく、ソウリュウシティでも1日もしないうちに死の街になっちゃうんじゃないかしらね」

 言葉もなく、サクノは立ちあがった。
 そして、女性の横を通り過ぎて病室を出ようとしていた。

「どこへ行くの?」
「決まっているわ。そのゼンタって人を止めに行く!」
「無理ね。あなたがどれほどの強さを持っているかは知らないけど、私が見たかぎりじゃ、イッシュの四天王が正々堂々と立ち向かっても話にならないレベルよ」
「…………」
「それでも行くって言うのなら、それはただの無謀。犬死ね」

 女性はやはり冷酷だった。
 しかし、それにもかかわらず、病室のドアがガラッと開かれる。
 迷わずサクノは外へと一歩踏み出していた。

「……これだけの忠告も聞き入れないというのね」
「あなたが何を言おうと、私の心は一つよ。私が納得行かないと思うことはすべて止めてみせる、変えてみせる、壊してみせる。無理だって決めたら、そこで終わりなのよ」

 そうして、サクノはビリーたちが眠る病室を去っていった。
 そして、女性はポツリと呟く。

「誇り高き女教皇<アキャナインレディ>サクノ。その異名どおり。まったく……本当に血は争えないわね」

 冷酷そうな表情から温かく彼女は微笑んだ。
 そうして、その場から彼女は去っていったのだった。



 後編へ続く。


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Last-modified: 2016-01-24 (日) 21:49:29
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