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たった一つの行路 №291

/たった一つの行路 №291

 ☆前回のあらすじ
 リュウラセンの塔を観光気分で登っていたサクノ達。
 彼女らの目の前に現れたのは、シロヒメ(今は滅んだ水郡の幹部でエナメルと互角の戦いを繰り広げた5歳の幼女)だった。
 サクノの力を認めたシロヒメは、力を解放してメンバーをリュウラセンの塔からとある場所へと移動させた。
 その場所をシロヒメは“楽園<パラダイス>”と呼ぶのだった。



「また……聞こえる……」

 マキナが目をつぶってじっくりと耳をすませると、声が聞こえてきた。
 男性でもなく女性でも無い中性的な声に、惹かれていた。
 惹かれていた原因と言うのは、その声の性質のせいだけではない。

「夢の中で出てきた声と同じ……弱々しい声……。一体どうしたと言うの?」

 明らかに弱々しいその声を聞いて、助けなくちゃと思っていた。
 今、マキナは一人で行動をしている。
 目を覚ました時、一人だけ大木の幹に背中を預けて気を失っていた事に気が付いた。
 周りを探したけど、サクノもカナタもビリーも居なかった。
 仕方が無く、周りを散策していると、誰かに助けを求める声が聞こえたのだ。

「誰だかわからないけど、待ってて……」

 声の主を探すマキナ。
 ところが、彼女が今いる場所は森の中だった。
 いや、森の中と言うには程度が低いかもしれない。
 強いて言うなら、大自然の聖域の中と言えるかもしれない。
 30メートルを余裕で超す大樹が視界を遮り、草花が地面に咲き乱れ、正に神秘的な世界を創りだしているのだ。

「声は……上から……?」

 1時間近い時間を歩いて、ふとマキナは顔を上に向けた。
 彼女の耳に届いた声がまっすぐから斜め上から聞こえるようになってきたからだ。

「ペラップ、エネコロロ、一緒に探して」

 自分のポケモンにも捜索を手伝ってもらう事にする。
 ペラップは空を飛び、エネコロロは爪を立てて木を登り身体能力を生かして跳び移っていく。
 襲いかかってくるポケモンはおらず、2匹は悠々と助けを呼ぶ声の主を探していった。
 もちろん、その間マキナも何もしなかった訳ではない。
 更に耳を澄ませて、その方向へと走って行ったのである。

「(近くなってきた。おそらくここにいるのね)」

 一つの巨大な大樹の元へと辿りつく。
 そこに助けを呼ぶ誰かがいると彼女は確信をする。
 荒い木の幹に手を掛けて、ゆっくりと登って行く。
 彼女はあまり力が無い方だが、木登りは幼馴染のアスカと共に幼い頃からやっていたためにそれほど苦では無かった。

 バチバチッ!!

「……!」

 そんなマキナへと突如襲いかかる電撃。
 威力はそれほど強くは無かったが、当たれば間違いなく怯んでしまい、手を離して落ちてしまっていただろう。

「ペラップ!?」

 トレーナーの代わりに電撃を受けて、ペラップが撃墜されてしまう。
 攻撃の主を確認すると、相手は翼……と言うより、作り物の羽のようなマント(と言っても自分自身の体)を広げて、空中を転回していた。

「飛行と電気タイプのポケモンって所かしら。パチリスの飛行ポケモンみたいに見えるわね」

 イッシュ地方のポケモンを把握していないマキナ。
 そのポケモンは、彼女の勘の通り、電気と飛行タイプのエモンガと言うポケモンである。
 何であろうと、マキナはそのエモンガを撃退するために、ともに大樹を登っていたエネコロロに指示を出す。
 『歌う』攻撃で牽制するが、エモンガは音の領域を抜けて、攻撃を回避する。
 その間に、マキナとエネコロロは、しっかりとした足場の大樹の枝へと登ることが出来た。
 エモンガが電磁波を繰り出し、こちらの動きを封じようとしてくるが、とっさに『神秘の護り』を張り巡らせて攻撃を防御。
 代わりに『冷凍ビーム』で撃ち落とそうとするがなかなか攻撃は当たってくれない。

『――――――』
「(声が弱くなっていく!?)」

 エモンガにかまっている暇は無い。
 その場をエネコロロへと任せて、さらに数十メートル上にいると思われる声の主を探しに登って行く。
 エモンガが黙っているはずも無かったが、エネコロロがマキナの信頼を裏切る訳も無い。
 2匹はその場で一進一退の攻防を続けるのだった。



「この子は……夢の中で見た……?」

 大樹のてっぺんに辿りついたマキナ。
 そこにいたのは、人型の女の子のようで、薄いグリーンの長い髪を地面に広げたポケモンだった。

「苦しんでいる……呪いみたいなものかしら……?今、何とかしてあげるから」

 マキナはアブソルとコロトックを繰り出した。
 マキナが2匹にアイコンタクトを送ると、2匹は互いを見て頷く。
 そして、コロトックが美しい旋律を奏で始める。
 それは、優しくて懐かしい響き。
 誰もが何かを思い出させるような癒しの奏。
 その旋律に合わせて、アブソルが美声を披露する。
 アブソルは『滅びの歌』と言う技を使うが、そんな技とは全くの別物だった。
 基本的にマキナのアブソルは、相手を滅する歌よりも、相手を宥める優しい歌の方が得意で、彼自身も好きだった。
 マキナがそのポケモンを優しく抱きしめる。
 母親のような包容力に、そのポケモンの苦しみは、だんだんと解放されていった。

『……早く、しないと……』
「(これは……テレパシー?)」

 驚くマキナ。

『このままだと……この世界……楽園<パラダイス>が……“彼女”の手によって……滅ぼされてしまう……!!』



 たった一つの行路 №291



 『神官ネグリジュ』。
 彼女は元々、3人いる神の信託に関わる神官の一人だった。
 楽園<パラダイス>のシステムは、“神”となる長がいて、その補佐となる“神官”が三人いる。
 ほとんどが神官が取り決めごとをし、神がその承認をするというシステムだった。
 そんなあるとき、事件が起きた。
 その時代の神が亡くなった時、一人の神官すなわちネグリジュが一人の神官を殺したのだ。
 ネグリジュの野望に気付いたもう一人の神官のトランクも、不意打ちを受けて、大ケガを負ってしまった。
 楽園は混乱に陥った。
 実質、この世界はネグリジュのものになろうとしていたのだから。
 でも、この楽園を救った者がいた。
 アンリとコール。
 地上のポケモントレーナーだった。
 普通、地上の人間がこの楽園を訪れることはできない。
 恐らく、地上に助けを求めた天使が連れてきたのではないかと思う。
 楽園は平和に戻った。
 神の座に残った神官のトランクが就き、神官3人も無事に選ばれた。
 ネグリジュは楽園の奥深くの牢獄に幽閉された……



「それじゃ、そのネグリジュが何かの拍子で解放されて、今の楽園を混乱に陥れているのね」
「そう。ネグリジュは、今の今まで神を勤めていたトランクを消して、神の神殿に居座っている」

 シロヒメから事情を聞いたサクノとカナタは、険しい表情をした。

「私だけでは、あのネグリジュを倒すことはできない。是非、協力して欲しい」
「当たり前だろ!そんな身勝手なヤツに神の座を渡してたまるか!!」
「そうね、目的は何のためかわからないけど……見過ごすわけには行かないわね」

 サクノとカナタは顔を見合わせて、頷く。

「シロヒメ、私たちをその神の神殿に案内して!」



「酷い有様や」

 エセコガネ弁の男……ビリーは町の惨状を見て呟く。

“神のトランクとあのネグリジュが戦って、町は次々と傷ついていったんだ”
“僕たちは何もできなかったよ……”
“誰もがその戦いを止められず、助けることもできなかった”
“そして、神のトランクは敗れたんだ”

 町の人々の気持ちは沈んできた。
 この後、未来は一体どうなってしまうのだろうかと。

「一体、誰がネグリジュの封印を解いたんや……?」

 まったく、想像がつかないビリー。
 
“噂では、手引きしたポケモンがいるって話だぞ”
“わしは自力で出てきたって聞いている”

 いくつかの憶測が飛び交う中、ビリーは立ち上がる。

「どっちにしても、そのネグリジュを止めな!」
“おお、たのむぞ、ビリー!”

 誰もがそのビリーを応援するのだった。



 ―――楽園の神殿。
 サクノ、カナタ、シロヒメの3人は玄関から入って、十数のフロアを抜けていった。
 そこには、いくつかの関門が設けられていた。

「あっ!?」
「……この仕掛けは……!」

 ネグリジュのいるフロアまでもう少しというときに、難解な仕掛けに嵌まった。

「お姉様!シロヒメ!」

 カナタだけはその仕掛けに引っかからなかったが、サクノとシロヒメはその仕掛けに捕われてしまった。

「……こうなったら、カナタだけでも行ってほしい」
「すぐに追いつくから!」

 その言葉を聞いて、先を進むカナタ。
 一つ、また一つ奥のフロアへと進んでいく。

「ここか!?」

 ドアを勢いよく開くと、カナタの目に飛び込んできたのは、煌びやかな法衣を纏った巨乳の女性だった。
 その女は、緑色の長い髪のポケモンが描かれている巨大なステンドグラスへと祈りを捧げていた。

「下界の女か」

 侵入者に背を向けたまま女は言う。

「ネグリジュだろ!?楽園を荒らして、滅ぼそうとしているのはわかっているんだ!私がお前を倒してやる!」
「…………」

 祈りを解き、ゆったりとした動きでカナタを見ると、一つのモンスターボールを投げつけた。
 中から出てきたのは、茶色の逞しい岩ポケモン―――名をテラキオンといった。

「『ランドクラッシュ』」
「ぐわっ!!」

 巨体の割に俊敏な動きで突撃してくる。
 カナタは回避するが、テラキオンが地面を踏みつけると、地面が割れて、コンクリートの破片がカナタを傷つけていった。

「つぅ!チョンチー!『水鉄砲』!!」

 傷つきながらも、反撃を開始する。
 攻撃はテラキオンに命中し、押し飛ばそうとしていたが。

「その程度か?『岩飛ばし』」

 水鉄砲をものともしなかった。
 攻撃を受けたまま、口から岩を飛ばして、水鉄砲を押し返した。
 チョンチーは避ける間もなく、岩攻撃を受けてしまい、一撃でダウンした。

「(……な……強い!?)」

 一瞬のことに呆然としてしまったが、テラキオンが岩を跳ばして来るのを見てハッとして、かわしながら次のポケモンを繰り出す。

「ブイゼル、『アクアジェット』!!」

 ドゴッ!!

 水を纏って、突進する攻撃。
 だが、逆にブイゼルの方が弾き飛ばされた。
 ネグリジュはその様子を見て意に介さなかった。
 まるで当然かのような目で見て、テラキオンに潰すよう指示を出す。

「(こいつ……防御力が半端じゃない!?)」

 ブイゼルは体勢を立て直せず、『岩雪崩』を受けて倒れた。

「こうなったら、ヒポポタス!ニョロゾ!」

 カナタは2匹のポケモンを同時に繰り出す。
 地面ポケモンのヒポポタスが突進攻撃を繰り出すが、テラキオンは難なく跳ね除ける。
 そして、追撃で輝く剣を突き刺してきた。

「『聖なる剣』!!」

 あっという間にヒポポタスはダウンしてしまう。

「そこだ!」

 ボンッ!!

 ニョロゾが繰り出したその攻撃は泥を圧縮して相手にぶつけて爆発させる技……その名も『泥爆弾』だった。
 ダメージ自体はそれほど高いとはいえなかった。
 ギロッとテラキオンはニョロゾを見据える。

「もう一度だ!」
「無駄だ!『ランドクラッシュ』!」

 すぐさま泥爆弾を作り出して、2連続でテラキオンにぶつける。
 しかし、テラキオンの勢いは止まらない。
 ジャンプして地面をたたきつける勢いある攻撃が炸裂する。
 だが、それはニョロゾとカナタに当たらなかった。

「狙いを外したか。泥爆弾のせいで精度が落ちたか?」
「『催眠術』!!」

 テラキオンの攻撃を回避したニョロゾは接近して、技で眠らせた。

「『ハイドロポンプ』!!」

 そして、無抵抗のテラキオンを最大パワーの水攻撃で吹っ飛ばした。

「今のうちだ、『腹太鼓』!! 畳み掛けろっ!!」

 お腹を叩いて自分自身の力を高めて、一気にニョロゾはテラキオンへと攻撃のラッシュをかけた。
 パンチ、キック、時々水攻撃で吹っ飛ばす。
 連続攻撃は間違いなくテラキオンの体力を削っていた。

「少しはやるようだな。テラキオン、いつまでも寝てるな」

 ネグリジュのその一言で、テラキオンは目を覚ました。
 即座にニョロゾへと数十個の岩を飛ばしていく。

「叩き落せ!」

 バキッ! バキッ!!

 正面に来る岩だけを、パンチとキックだけで防いでいく。
 パワーが最大になったニョロゾはテラキオンと互角のパワーを繰り出していた。

「テラキオン、『聖なる剣』!押しつぶせ」
「『冷凍パンチ』!!」

 ドゴォッ!!

 テラキオンの繰り出す剣が、ニョロゾの腹を抉った。
 そのまま、ニョロゾは吹っ飛ばされて倒されてしまった。

「……!!」
「泥爆弾のせいで視覚をやられようが、この技がある限り、関係ない」
「ヌマクロー!」

 カナタはパートナーを繰り出して、テラキオンに勝負をかける。
 だが、水鉄砲もマッドショットもテラキオンに決定的なダメージを与えることはできない。

「なぎ払え!」

 聖なる剣の一振るいでヌマクローはあっという間に体力を削られてしまう。

「まだだ、ヌマクローっ!!」

 接近して、パンチを繰り出す。
 だが、やはりテラキオンに効いている気配はない。

「そのままのしかかって押しつぶせ」

 力の差は歴然だった。
 余裕のテラキオンと最大パワーで押し返そうとするが徐々に力負けしていくヌマクロー。

「負けるなっ!」

 カナタの負けたくない気持ちがヌマクローに通じたのか、身体が光り始めた。
 みるみるうちに体が大きくなり、進化という形でそのカナタの願いを後押しした。

「……進化、ラグラージか」
「投げ飛ばせ!!」

 のしかかる攻撃をしてきているテラキオンを押し飛ばした。
 体勢を崩したテラキオンを殴り飛ばすラグラージ。

「少しはマシになってきたか。『ストーンエッジ』!!」
「『マッドショット』だ!!」

 岩の破片は目測を誤りラグラージから逸れていく。
 当たりそうになる攻撃を泥で防いでいった。

「『アームハンマー』!!」

 相手の命中精度が落ちている隙に接近し、連続で打撃攻撃を繰り出す。
 カナタのラグラージの力は、テラキオンの防御力をも突き通す力を持っていた。
 しかし、4発目のアームハンマーをも耐え切ったとき、聖なる剣を放って、ラグラージを吹っ飛ばした。

「ラグラージ!?」

 ヌマクローからのダメージの蓄積もあり、既に限界を迎えていた。

「良くぞ戦った。だが、これで終わりだ」

 聖なる剣を振りかざし、ラグラージに止めを刺さんとする。

「一撃にかけろ!『ウォーターパンチ』!!」

 ラグラージから青いオーラが出現した。
 それは特性の『激流』の発動を意味していた。
 そして、聖なる剣とのクロスカウンターでテラキオンに水を纏った拳が命中した。
 倒れたのは……

「よし、よくやった、ラグラージ!」

 体力の限界であったラグラージだが、カナタに微笑みかける。
 その姿を見つつネグリジュはテラキオンを戻す。

「さぁ、ネグリジュ、観念しろ!」
「それで勝ったつもりか?」

 そういって、ネグリジュは新たに3つのボールを繰り出した。

「……なっ……!?」

 中から出てきたポケモンを見て、カナタは声を失う。
 緑色をした理知的な草ポケモン……ビリジオン。
 鈍色をした凛々しき鋼ポケモン……コバルオン。
 そして、水色をした幼き水ポケモン……ケルディオ。
 カナタはそのポケモンたちを見て一つのことを悟った。

「(この3匹を見るとテラキオンと同等のポケモンで、さっきのテラキオンは切り札なんかではなく、一角に過ぎないということがわかる……私じゃ……勝てないっ……)」
「少々ショックが大きかったようだな。かわいそうだが、ここで散れ、下界の者よ」

 3匹が一斉に襲い掛かる。
 カナタとラグラージは構えるが、この戦いが絶望的であることを理解していた。

 ドガ! ドガッ! バキッ!!

「……!?」
「これは……!? まさか―――」

 ビリジオンの『リーフブレード』を柔らかい身体を持つエルフーンが受け止めて跳ね飛ばす。
 コバルオンの『アイアンヘッド』を炎を纏った気高きウインディが弾き飛ばす。
 ケルディオの『ハイドロポンプ』を一筋の閃光でライチュウがシャットアウトする。

「―――お姉様!?」

 カナタが振り向いた先には憧れの少女の姿があった。

「カナタ、お待たせ!後は私が戦うわ!」

 そう言ってネグリジュに向き合う。

「…………」
「あなたがこの楽園を滅ぼそうとしているのね」
「……さぁ、どうだろうね。少なくとも私は“違う”と答えるが、あんたは私を信じないだろう」
「シロヒメさんから聞いたわ。神のトランクと言う人を殺したんですって?」

 その言葉を聞いて、ピクリとネグリジュは眉を動かす。

「人が人を殺めるのにどんな理由をつけてもいいはずがない!それだけで悪になるのよ!少なくとも私はそう思い貫く。そして、その思いをあなたにぶつけて、止めるわ!」
「問答は……無駄のようだ」

 互いが理解し合えないことを悟ると、二人の戦いは幕を開けた。

「『ハイドロポンプ』」

 まずはケルディオの高速の放水攻撃だ。
 遠距離技で先手を狙ってきた。
 その攻撃を受け止めようとエルフーンが前に出て、その後ろにライチュウがつく。
 攻撃を凌ぎきったら、カウンターで電撃を浴びせる作戦だ。

「っ!!」

 しかし、水量が洒落にならなかった。
 エルフーンの身体以上の放水に、ライチュウはエルフーンごと押し流されてしまう。
 2匹ともダメージはそれほどでもないが、体勢を崩される。
 すると、その隙を狙って残りの2匹が攻撃を仕掛ける。

「アンジュ、『Flare Drive』!!」

 ただし、サクノにはウインディが残っている。
 相手の相性のいい炎を纏って、突撃する。
 その様子を見て2匹は、左右に散って攻撃をかわす。

「そんなの当たらなければいいだけだ」
「(……速い……)」

 スピードには自信のあるサクノのウインディだが、基本的なスピードは相手の2匹の方が上のようだ。
 だがそれでも、今の攻撃の最中でエルフーンとライチュウが体勢を立て直した。
 コバルオンの空気をも切り裂く突進をエルフーンがコットンガードで緩和する。
 宿木の種を仕掛けようとするが、エルフーンは動けなく、そのままコバルオンの『聖なる剣』がエルフーンをなぎ払った。
 一方、ビリジオンの直接の斬撃をライチュウがかみなりパンチでガードする。
 立て続けにビリジオンが連続で斬撃を放つのを見て、同じくガードをするが、次は初撃とは違い、威力が上がっていたため、ライチュウはガードしながら吹っ飛ばされる。

「『Fire Ball』!!」

 ウインディがビリジオンの方へ火炎弾を飛ばす。
 ライチュウへの攻撃の隙を狙ってのいい攻撃だった。
 だが、ビリジオンの元へケルディオが回り込んだ。
 ウインディと同じ火炎弾の大きさの水泡を撃って、簡単に相殺してしまった。

「……力と技もレベルが高いわね。一筋縄ではいかなそうね」

 相手の力を冷静に分析して、サクノは指示を出す。

「ビリジオン、『リーフスラッガー』」

 先ほどの2連撃攻撃だ。
 ライチュウを狙い、今度こそ倒すために切り込んでくる。
 通常のスピードならビリジオンの餌食になっていただろう。
 しかし、ライチュウは電光と化し、ビリジオンの攻撃を抜けて、後ろからタックルを仕掛ける。
 そのままのスピードを何とか保ったまま移動をして、ウインディの背中に乗る。

「ラック、『宿木の種』と『綿胞子』!」

 特性『いたずらごころ』の力で、相手に嫌がらせを仕掛けようとするが、ギリギリでケルディオたちは攻撃を回避する。

「攻撃を続けて!」

 エルフーンとアイコンタクトで頷きあい、宿木の種と綿胞子の攻撃を続ける。

「無駄なことを。コバルオン、『アイアンブレイク』!」

 空気を切り裂く突進がエルフーンを襲う。

「『インファイト』!!」

 避けられないエルフーンへウインディがカバーに入った。
 前足の一撃でコバルオンの一撃を受け止めた。
 連続でもう片方の足でコバルオンへと一撃を仕掛けようとするが、硬直してしまった。
 ビリジオンの『ストーンエッジ』がウインディを襲うが、ウインディの背に乗っているライチュウが10万ボルトで岩の破片を砕ききる。

「(……コバルオンの『アイアンブレイク』……攻撃を仕掛けた相手を少しの間硬直させてしまう技ね……)」

 このままエルフーンは補助技を連発し、ウインディとライチュウは相手の攻撃をかわし続けた。

「(まさか……お姉様でも……この状況は打破できないということなのか!?)」

 カナタの掌に汗が滲む。
 傍から見れば、ネグリジュの3匹の伝説のポケモンの前に、サクノとポケモンたちは翻弄されて、防戦一方に見えた。

「(こいつ……何か狙っているのか……。だとすれば、このエルフーンが怪しい)」

 ネグリジュは優勢とは思っていなかった。
 ケルディオに氷技でエルフーンを倒すように指示を出すが、寸前でうまく攻撃を回避される。
 当たったとしても、身体の一部の綿がかするだけだった。
 そんな防戦一方の戦いが10分ほど続いた。
 この部屋の地面が綿だらけになった。
 そのとき、サクノの目付きが変わった。

「(来るか?)」

 コバルオンの足元からツルが伸びて来て、コバルオンの体力を奪い始めたのである。

「これは、『宿木の種』!? (まさか、地雷式か!?)」

 床に敷き詰められている綿の下に、宿木の種が植えつけられていた。
 すなわち、その場所を踏めば、宿木が発動し、相手の体力を奪うのである。
 これで、ケルディオは迂闊に動けなくなった。

「ラック、『暴風』!」

 そして、その綿ごと吹き飛ばす風で、コバルオンのフォローに入ろうとしていたケルディオとビリジオンの視界を封じる。

「レディ、アンジュ!!」
「コバルオン!」

 宿木で釘付けになっていたコバルオンだったが、ライチュウが10万ボルトで追撃に出た。
 確実にダメージを与える。
 一方のウインディは、前足に炎を纏って床に散乱している綿胞子を燃やしながらダッシュしていた。
 視線の先にいるのはビリジオンだ。

「アンジュ、『Rising Break』!!」

 インファイトに炎を纏わせた破壊的アッパーだ。
 普段なら避けられそうなビリジオンだったが、暴風で飛んで来た綿胞子が纏わりついて、動きを鈍らせていた。
 反撃する間もなく、ビリジオンは天井へ叩きつけられてダウンした。
 そのウインディの力は、天井に穴をも空けたのだった。

「ケルディオ、ウインディを狙え」

 ハイドロポンプがウインディを打ち抜く。
 流石にこの一撃に堪えて、ウインディは気絶してしまう。

「コバルオン、『聖なる剣』!」
「レディ、『Lighting』!」

 コバルオンの一撃は空を切った。
 逆にライチュウがケルディオに接近し、打っ飛ばした。
 足を踏ん張って耐え切るケルディオ。

「『Sander Slice』!!」
「『アクアテール』!!」

 尻尾を電気で洗練された刃のように、ケルディオを切りつけた。
 ライチュウの尻尾は長い。
 ケルディオの攻撃が届く前に、ライチュウの一撃が決まり、一気に倒した。

「『アイアンブレイク』!!」

 防御すると動けなくなる一撃がエルフーンを襲う。

「ラック、『エナジーボール』!!」

 草系の技は効果が薄い。
 普通にぶつけるだけでは恐らく何の効果も持たなかっただろう。
 だが、サクノのエルフーンが身につけているのは、クリティカルレンズ。
 相手の弱点を見切るアイテムである。
 エナジーボールは突進してくるコバルオンの着地地点の足を絶妙に狙って、転ばせた。
 コバルオンの進撃はここで止まる。

「ラック、『コットンリーブ』!!」

 綿を作り出して投げるエルフーン。
 その攻撃をコバルオンは受けるが、何も起こらなかった。

「……こんなもの……コバルオン!!」

 しかし、宿木の種を吸い取られつつ、コバルオンは動かなかった。

「この技は、相手に安らぎを与えてしばらく闘争心を削ぐ技。これであなたのコバルオンは戦えない。もし、効果が解けたとしても、その頃には体力がなくなった後よ」

 そういって、サクノは3匹のポケモンを戻した。
 完勝だった。

「お姉様!」
「さぁ、覚悟しなさい、ネグリジュ!」

 迫るサクノを何も言わずじっと見つめるネグリジュ。

「…………」
「…………」

 そして、二人は視線を交し合うと、サクノは足を止めてしまった。

「どうしたんですか、お姉様!?早く止めを……!」
「(この人の目を見ると……どうしてか、責められない様な気がしてくる……何故だろう……?)」
「弾け跳びなさい」
「「!?」」

 不意打ちだった。
 サクノとネグリジュに向かって放たれた水の刃。
 その水の刃は、地面にぶつかると無数の棍になって、2人を襲った。

「うっ!」
「きゃあ!!」
「お、お姉様!?」

 その突然の攻撃を目撃したカナタは、攻撃の矛先を見る。

「どういうことだよ!?シロヒメ!」
「『どういうことか』ね……。『そういうこと』ですよ」

 シロヒメの傍らにはルンバッパの姿があった。
 先ほどの変形水攻撃はこのポケモンの技のようだった。

「『エナジーボール』」

 カナタに向かって放たれる草エネルギーの球体。
 戦えるポケモンはもういない。
 避けるカナタだが、攻撃はついに当たってしまう。

「くっ……お姉様……」

 既に最初の攻撃でサクノとネグリジュは気絶している。
 反撃の糸口はなかった。

「『コメットパンチ』!!」

 ドゴォ!

 横から殴られて、ルンバッパは転がっていく。

「シロヒメ……お前……一体何をやっているんだよ」
「……ビリー……」

 二人は顔を見合わせた。

「オイ!ビリー、お前、そいつと知り合いなのか!?」
「知り合いも何も幼馴染だ」
「なっ!?」
「邪魔をしないでくださよ。もうすぐ楽園を救うんです」
「この楽園を救う?一体何からだよ?」
「愚かな妄信者からです。邪魔をするなら、ビリーでも容赦はしません」
「そうか……お前はもう俺の知るシロヒメではないんだな」
「元々あなたの見ていたシロヒメは、どこにもいなかったのですよ」
「メタグロス!」
「ルンバッパ!」

 そして、2匹は激突したのだった。



 第四幕 Episode D&J
 天の楽園<パラダイス>② P50 立冬 終わり


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Last-modified: 2016-01-21 (木) 22:22:00
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