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たった一つの行路 №290

/たった一つの行路 №290

 ―――いくらか昔のこと。
 ここはきれいで美しい場所だった。
 空気が澄んでいて、まるでこの世のものとは思えない風景が広がっていた。
 幻想的な空や独創的な植物達。
 ポケモンもその世界の中で穏やかに生活をしていた。

 ズドーンッ!!

 そんな世界に1つの神々しい建物がある。
 世間的に神殿と呼ばれそうな場所で、凄まじい激突音が鳴り響いていた。

「……くっ、やはり強い……」

 5歳くらいの女の子が頭から血を流して倒れていた。
 ただ、その子はまだ意識があるようで、まだ立ち上がろうと手をついて、顔を上げた。

『まだやろうというの?いい加減諦めなさい』

 相手となるのは、煌びやかな法衣を纏った女性だった。
 20代でなんというか法衣の上からでも巨乳だとわかるほどだった。

「ヒメちゃん。私に任せて」
「あ、アンリ……」

 アンリ。
 緑色で長めのマフラーを首に3回くらい巻いてもなお、地面スレスレにマフラーをなびかせているのが特徴だった。
 黒のミニスカートにクリーム色で長袖のカーディガンをきっちりと着用している。
 元気で勝気でそして、不思議と人を惹きつける魅力が彼女にはあった。

「オイ、ヒメ!俺もいるんだけど!?」

 と、メガネをかけた白髪で帽子を被った180センチほどの男が野太い声で訴える。
 アンリの可愛らしさと比べると、コールはまるで野獣と言ってもいいオーラを纏っていた。
 彼の名前はコールと言った。
 男女のコンビ……アンリとコール。
 そして、ヒメと呼ばれる女の子。
 彼らは女が召喚した4匹のポケモンと戦っていた。
 一匹は緑色をした理知的な草ポケモン。
 一匹は茶色をした逞しき岩ポケモン。
 一匹は鈍色をした凛々しき鋼ポケモン。
 そして、もう一匹は水色をした幼き水ポケモン。
 そのポケモンたちとアンリ&コールは互角に戦っていた。
 アンリのドダイトスが場を掻き乱すのと同時に攻撃を受け止め、ヤルキモノが多角的な攻撃で翻弄する。
 コールのルナトーンが相手の攻撃を読み、エンペルトが相手の攻撃を上回る攻撃を繰り出す。

『リーフブレード、アイアンヘッド、ストーンエッジ、ハイドロポンプ!!』

 相手の女のポケモンの総攻撃が繰り広げられる。

「ドダイトス、『大地のさざめき』!!」
「……!」

 ドダイトスが地面を叩くとあちらこちらに大地のエネルギーが間欠泉のように噴出していく。
 同時にドダイトスは4匹の攻撃に向かって突進していく。
 なんと伝説級の4匹の力を受け止める。

『……ッ!?』
「そこよっ!!」

 ドガッ バキッ!!

 理知的な草ポケモンと幼き水ポケモンをヤルキモノが鋭い爪で意識を奪った。
 シャドークローと似ている技だったが、それとはまた違う特殊な技だった。

『くっ……立て直さなければ……』
「させっかよ」

 ドゴッ!!

 エンペルトの『ハイドロポンプ』だった。
 逞しき岩ポケモンは吹っ飛ばされて気絶した。
 凛々しき鋼ポケモンにも攻撃を仕掛けるのだが、攻撃は光弾となって返ってきた。

「づおっ!?『メタルバースト』かよ!?」

 コールとエンペルトが防御体勢を取り、その場にはりつけになる。

「……『ランドクラッシュ』!!」

 ほんの一瞬のことだった。
 メタルバーストでエンペルトの相手をしている間に、ドダイトスが後ろを取った。
 そして、一気に地面エネルギーを纏った強力な力をたたきつけた。

『……くっはっ!?』

 ポケモンと共に女は吹き飛んだ。
 ポケモンたちは全員ダウン。
 女も意識が朦朧としていた。

『……くっ……負けるのか!?……このままでは―――』

 その後の女性の声は聞こえなかった。

「止め……!」

 ヒメのシャワーズの懇親の『アクアテール』がその女性の脳天を叩いた。
 そして、そのまま彼女は意識を失った。



 その後、その女はとある建物の奥深くに幽閉されたという。

「これでこの地が平和になるのね」

 マフラーの少女のアンリがしみじみと呟く。

「これもアンリのお陰よ」

 5歳くらいの容姿の女の子がにっこりという。

「だから、俺を忘れるな!」

 やはりコールは忘れられる。

「そして、何であんたはついてくるのよっ!」
「帰り道がこっちだからだろ!」
「いい加減にしてよ!そうじゃないと、ストーカーがしつこいってジュンサーさんに突き出してやるんだから!」
「突き出される前に、バトルしてお前に勝つッ!」
「結局あんたはそれしかないのかっ!!??」
「決まってんだろ!俺はお前に勝つまでバトルを諦めないって決めてんだよっ!プライドがあんだよ!」
「そんなプライドなんて空にでも捨ててしまえっ!!」

 ……と、まぁ、アンリがコールを殴り飛ばし、ケンカはいつものごとく終結する。
 もしこの二人に、同行者がいたとすれば、恋人とか夫婦かと思うだろう。
 しかしながら、二人の関係は、腐れ縁の美少女と野獣……もしくは永遠の被害者とストーカーだった。

「この恩は……忘れないわ……」

 そうして、アンリとコールはケンカをしながら去っていった。

「……そう。絶対にね」

 2人の後姿に向かって、女の子は感情を含まぬ声で呟いたのだった。



 たった一つの行路 №290



「んー、あの夢は……なんだったんだろう?」

 カッポーン と広い場所で呟くこの声は、この物語の主人公である天然人気正義少女サクノのものである。

「あら、サクノも夢を見たの?」

 カッポーン と何やら湯煙の中で問うこの声は、この物語のお姉さん的役割のである豊潤変態音符少女マキナのものである。

「え?二人してどんな夢を見たんだよ?」

 カッポーン と二人の話題に突っ込むこの声は、この物語の初心者トレーナーである乱雑長身大胆少女カナタのものである。
 一応この仕切りの中にいるのは、この3人。
 そして、彼女らが訪れているのは雪の降り積もる地『セッカシティ』。
 暦が冬に換わり行く頃、ちょうどこの地に雪が降り積もった。
 今、彼女らがいる場所というのは、暖かい泉が湧き出る場所……すなわち温泉だった。

「私の見た夢は……この世とは思えない世界にいて、神殿のような場所でアンリとコールと言うトレーナーが見たこともないポケモンを相手に戦う夢だったのよ」
「お姉様が見たことも無いポケモンというと……やっぱりイッシュ地方のポケモン?」
「わからない。とりあえず、そこで繰り広げられていた戦いは壮大だったわ。その戦いが終わった時、神殿は跡形もなく崩れちゃったんだから」
「サクノの夢はバトルの夢ね。私の見た夢は、見たことも無いポケモンが苦しみながらも歌っている夢だったわ」
「見たことも無いポケモン?」
「人型の女の子みたいで、薄いグリーンの長い髪をなびかせたポケモンだった」
「さっぱりわからないな」

 と、一通り夢の話を終えて、3人はゆったりとしていた。

「サクノちゃん、スレンダーねぇ」

 ところがそんな静寂はマキナによって崩される。

「オッパイも大きくなく小さくなく……全体のスタイルにマッチしている感じ……このまま成長していけば……モデルになれるんじゃないかしら?」
「モデルなんていいすぎですよ」
「カナタもいい具合に成長しているわよ。上も下も」
「って、マキナさんっ!人の裸をジロジロ見るなっ!!」
「じゃ、代わりに私の見せてあげるわよ」

 バシャッとお湯から出ると、腕を後ろに持っていって見せ付けた。

「マキナさん大きいー」

 サクノは目を見張り、感嘆の声を上げる。

「(確かに大きいけど、私の母の方が大きいし、私の方が大きくなるし)」

 と、カナタは内心負け惜しみをしていた。



「って、声が筒抜けやないか……」

 サクノたちが入っているフロアを板一枚に挟んだ所に少年の姿があった。
 彼の名前はビリー。
 ちょっと胡散臭いコガネ弁を使う少年である。

「人が真剣に考え事しているというのにまったくのんきなやっちゃなぁ」

 ビリーが考えていたこと。
 それはつい先日出くわした3匹の伝説のポケモンとその暴走。
 本来ならあるはずが無いことだったが、その事実を見てしまった以上、現実と見て取るしかない。

「(間違いなく何かが起こる前触れ……もしくはもう起こっている?……でも周りを見ると何も影響はない。……ということはまさか……)」

 ゴクリとビリーは息を飲み込んだ。

「(原因は“あそこ”しか考えられない)」
「わー、物凄く柔らかいー」
「はぅっ!サクノ……ちょっと……」
「え?あ、ゴメンなさい!?くすぐったかったですか!?」
「ハァハァ……そうね。……その分お返ししてあげないとねー」

 一連の会話が聞こえてきて、ビリーの思考はどっかへ吹っ飛んでしまった。

「お姉様に何をするー!?」
「あら、カナタが代わりになるの?」
「へ?ちょっと待てぇ!?」
「(何が起きているか……すっごく気になる……)」

 かといって、隣に行ったり、穴を探してみるのは憚られる。
 ビリーはヘタレなのではなく、れっきとした紳士だった。

「……ん?」

 その紳士は見た。

「…………」

 じーっと仕切りを隔てている板を両脇で挟む様にして登っている覗きの男の姿を。
 その男はしっかりと自分の腰をタオルで巻いた上で、その体勢をとり、女風呂を覗いていた。

「(覗きか! くそっ!サクノの貞操が!!)」

 すぐさまにビリーはサクノの危機だけを察知した。
 他のカナタやマキナはどうでもいいらしい。
 ちなみに今女風呂にいるのは、サクノたち3人のみで、男風呂のほうも覗きの男とビリーの2人だけだった。
 頭を茶髪に染めた20代後半の男に向かうように、ビリーは同じ場所によじ登った。

「オイ、あんた、何やってんや!?」
「何って……取材だけど?」
「取材ってなんや!?」
「最近、同年代の女性の身体はよく見るんだが、若い女の子……それも発展途上の若いの女の子の身体は見てないなーとさ。定期的に見ておかないと想像が膨らまないんだよな」
「想像って……サクノはんの身体を見て妄想して一体頭の中で何をさせているんや!?」
「黙れ。別に自分の頭の中なんだから、勝手だろ」
「女風呂を覗くなんて最低や!恥と思いんしゃいっ!!」

 と、睨みあう2人のビリーと男。
 そのうち、殴り合いが始まるのではないかと思う雰囲気であった。

 ドゴッ!!

 突如よじ登っていた板が揺れた。
 二人は動揺したが、板から離れることもできず、そのまま板から落ちてしまった。

「一体何が……?」

 それぞれ二人は腰と尻を擦っていた。

「『何が?』じゃねぇだろっ!!」

 女風呂と男風呂を隔てていた板に大きな穴が開けられる。
 そこから男風呂に入ってきたのは、タオルを身体に巻いたカナタだった。
 男は顔をしかめてその場から逃げようとするが、ビリーが男の肩を掴んで逃がさない。

「お前……確か、シンイチだったよな!?なに堂々と女風呂を覗いているんだよ!!」

 シンイチ。
 カナタはヒウンシティで一度だけ彼と会ったことがあった。

「もちろん……小説の取材のためだ!」
「そんなの知ったことかっ!!そして、ビリー!お前まで一緒に覗いて何をやっているんだよ!?」
「は?」

 目を点にして、ビリーはカナタを見ていた。

「俺はこの男が覗きをしているのを見つけて止めようとしていたんや!」
「それじゃ、なんでその板の上に登る必要があったんだ?」
「……あー」

 今まで気付かなかったような声を上げるビリー。
 焦ってしまい、カナタがあけた穴……すなわち、カナタの背中の向こうの世界を覗いてしまう。
 サクノは顔の口までお湯に浸かって、ブクブクとしていた。
 しかし、マキナのほうはまったく隠そうとせずに、ビリーたちの方をじっと見ていた。

「……づっ!!」

 そして、目の前には拳を握り締めるカナタ。
 恐怖におののくビリー。

「……ふ、不可抗力や……」
「問答無用!!」

 …………。
 カナタの容赦ない鉄槌が二人に振り下ろされたのだった。



 ―――次の日。
 セッカシティの北の方にそびえたつ塔。
 イッシュ地方の観光ブックを見ると、『いつ誰が建造したかも不明のイッシュ地方最古の塔』とある。

「……リュウラセンの塔ねぇ……」

 マキナがしみじみと呟く。
 ロボットのようなポケモンのゴビットや鼻水を垂らした小さいクマポケモンのクマシュン、人型の格闘ポケモンのコジョフーがたまに飛び出してくるが、マキナはペラップやニョロトノで軽くいなしていった。

「建物の造り方といい、瓦礫の崩れ方といい、歴史の重みを感じるわ……」

 ここまで幾つもの障害物やギミックが進行の妨げになっていたが、恐れずに彼女らは進み、二人は5階まで登っていた。
 もう一人はというと……

「うぅ……ついてねぇ……」

 とぼとぼとマキナの少し後ろを歩くビリー。
 酷く落ち込んでいるようだった。

「ビリー、そんなに落ち込むことないじゃない」
「落ち込みもするやろ……サクノはんを守るためにやったことやのに、やりすぎて逆にサクノはんに嫌われてしまったやないか……元も子もあらへんわ……」

 そんなビリーを見て、眉間にしわを寄せるマキナ。

「サクノはそのくらいのことで、君の事は嫌いにならないわよ?」
「……そう……なんか?」

 パッと顔を上げてマキナを見る。
 少し希望を持ったみたいだが……

「元々、特別に好きってわけでもないみたいだけどね」
「うっ」

 軽く衝撃を覚えるビリーだったが、すぐに元気を取り戻した。

「それなら、これから骨抜きにすればいいだけの話や!待ってるんやで!サクノはん!」

 と、先にカナタと一緒にズイズイと進んでしまったサクノを追いかけようとするビリー。

「待った」

 マキナが引き止める。
 何かと思って振り返ると、マキナが何故か頬を赤らめていた。

「ハァハァ……あのね、ビリー」
「……なんやねん……いきなり何興奮しているんや……」

 マキナの姿にタジタジと後ろに下がるしかないビリー。

「お風呂に覗かれた時にこっちも見たんだけど……」

 どうやら、マキナが興奮しているのは、ビリーの裸を思い出したかららしい。
 同時にそのことを思ったビリーはマキナから何を言われるか、なんとなく察した。

「ビリーの背中にある羽って……なに?」



 ―――リュウラセンの塔最上階一歩手前。

「ふぅ……ここらへんのポケモンを楽に倒せるようになってきた……」

 カナタがヌマクローを戻しながら息をつく。

「ええ。よくなってきているわ」

 彼女の戦いっぷりを見てサクノもうんうんと頷く。

「この調子でポケモンバトルもビリーをぶちのめせたらいいのに!」
「ビリー……ね」

 若干赤くなりながら、サクノが苦笑いで思い出したように呟く。

「絶対に許さないし!」
「でも、ビリーはワザとじゃないって言っているんだから、許してあげたらいいんじゃない?」
「お姉様は許せるって言うんですか!?」
「うーん……どちらかといえば許せないよ?でも、ずっと怒りっぱなしと言うのは良くないと思うよ?雰囲気も悪くなるし……ね?」
「むー……」

 サクノに諭されて、カナタは不満そうに唸る。

「お姉様はよくても、やっぱり私は許せないな!」

 と、カナタは最上階へと足を運ぶ。
 柱が何本か立っていたようだが、すべてが崩れて地面に横倒しになっていた。

「……この場所で何があったんだ?」

 誰もいない場所に向かって、カナタは一人呟いた。

「かつて、この場所には伝説のポケモンが所在していた」
「誰だ!?」

 最上階に着いたときから、カナタはこの場に気配を感じていなかった。
 しかし、女の子の声が聞こえて来たのは確かだった。

「カナタ、どうしたの? …………!?」

 サクノも最上階のフロアへと足を踏み入れた。
 そのとき、ゾッと威圧感を感じた。

「そのポケモンの名はレシラム。世界を滅ぼすほどの火力を持った英雄に従われるべきポケモン。少し前まで、このイッシュ地方では2匹の世界を滅ぼすほどの力を持ったポケモンの激突があったらしい」
「…………」
「でも、そんなことは今はどうでもいい」

 ハッとサクノは右を見る。
 その場所に声の主を発見する。
 5歳の女の子のようだった。
 隣にはオムスターが攻撃を構えていた。

「……うわっ!」

 ドッと突き飛ばされて、カナタは声を上げる。
 カナタとサクノがいた場所に岩が飛んでいった。

「『ストーンエッジ』!」

 大きな岩の破片を飛ばし、オムスターの激しい攻撃が跳んでくる。

 ドガガガガッ!!

 そんな岩の破片を刀を持ったサクノのポケモンが粉砕する。
 波動ポケモンのルカリオだ。
 次々と負けじと撃ち出すオムスターと岩を切り裂いていくルカリオ。

「『ハイドロポンプ』!」
「エンプ!!」

 岩から水の攻撃に切り替わった時、ルカリオはその場から消えた。
 『神速』でオムスターの背後に回りこんだのだ。
 だが、オムスターの背中からトゲの連続攻撃が繰り出される。

「(『トゲキャノン』!?)」

 さらにハイドロポンプがルカリオを襲う。
 トゲキャノンで怯んだルカリオは連続攻撃を受けてしまい、オムスターとの距離を離されてしまう。

「『トゲボール』」

 殻にこもり、回転攻撃で接近してくるオムスター。

「エンプ、立って!」

 仰向けの無防備な状態から立て直し、剣を握るルカリオ。

 ズバッ!!

 剣を振りぬいた。
 輝く『聖なる剣』はオムスターにダメージを与えて、吹っ飛ばした。

「『波動弾』!」

 続けて追撃の闘気のエネルギー弾をオムスターにぶつけた。
 瓦礫に着地して、砂埃をあげて少しの間見えなくなる。
 その数秒の間、ルカリオは右手と左手に力を溜めていた。
 オムスターが飛び出す。
 程なくルカリオも向かっていく。

 ドゴッ!!

 互いの最強の技が激突し、片方が倒れた。
 残っていたのは剣を持っていたルカリオだった。

「まさか、この場に賞金首がいるなんてね」
「え?賞金首?この5歳の女の子が?」

 オムスターを戻し、サクノの言葉に動じず、少女はじっとサクノを見ていた。

「かつてホウエン地方で暗躍した水郡の幹部『破殻<はかく>のシロヒメ』。現在84万ポケドルの賞金首なのよ。20年も前は12万ポケドルみたいだったけど」
「……え?昔?お姉様……それって一体……?」

 カナタが困惑するのも無理はない。
 2人の目の前にいるのは、まごうことなき5歳児の女の子だからだ。

「この強さと心……待っていました」
「え?」

 シロヒメははっきりとサクノを見てそういった。
 そして、彼女は目を瞑り、手を振り上げた。

「一体何を……?」

 シロヒメの腕が輝き始めると、彼女の頭に黄色いドーナッツのようなワッカが浮かび上がった。
 さらに彼女の背中から白い羽が生えてきていた。

「……こいつは……天使……?」

 カナタがつぶやき、サクノが身構える。

「なっ!?シロヒメっ!?」

 ちょうどそのときだった。
 ビリーとマキナが頂上に到着したのだ。

「……! ビリー……!?」

 少々驚いた様子のシロヒメだったが、すぐに表情を戻した。

「これは?」
「え?」
「なんだ!?」

 他の3人が動揺を見せる中、

「……シロヒメのヤツ……アノ呪法を……!?」

 ビリーだけが理解していたようだった。

 …………。
 リュウセイランの最上階。
 この場所から5人の人の姿が消えたのだった。



「お姉様……お姉様!!」
「うう……カナタ?」

 揺さぶられて目を覚ますサクノ。

「私たち、リュウラセンの塔にいたはずなのに、違う場所に来ているんだ」
「……ここは……!」

 サクノの眼前に広がる世界。
 それは幻想的な空、独創的な植物……今まで見たこともないような世界が広がっていた。

「一昨日、夢で見た世界……」
「え?夢で?」
「そうよ。一体ここは……?」
「天界」

 一言、ポツリとした声を聞いてカナタと振り返る。
 そこにいたのは、先ほど翼を生やして、ワッカを頭に発現させた5歳の女の子の姿があった。
 しかし、今は元の様子に戻っているようで、ただの5歳の女の子だった。

「……シロヒメ……」
「天界って……どういうこと?」
「天界は私たちが住む世界の呼び名。そして、地上に住む者たちはここをこういうの。“楽園<パラダイス>”と」
「楽園……ここが……?」

 いきなりこのような場所に連れてこられては、落ち着きなく周りを見るしかない。

「そう。天使の住む夢のような世界。普通ではこの場所に来ることはできないの」
「それで……」

 いつもなら天然であっちに興味を持ち、そっちのけになっているはずのサクノだが、今回は違った。

「私たちをこの場に呼んで一体何をするというの?」
「実は……」

 シロヒメは少し躊躇した後、説明することにした。

「今、この楽園は再び滅ぼされようとしているの。『楽園の反逆者ネグリジュ』によって……」



 第四幕 Episode D&J
 天の楽園<パラダイス>① P50 立冬 終わり


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Last-modified: 2016-01-19 (火) 21:43:39
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