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たった一つの行路 №287

/たった一つの行路 №287

 ☆前回のあらすじ
 ケビンとチェリーの急襲からサクノとクレナイは逃れてビリーと合流する。
 そこへ現れたのは、ケビンとお嬢様と呼ばれるカヅキ(男嫌いでキトキやハレをことあるごとに叩きのめしていた女性)だった。
 その時チェリーがカナタと共に反乱を起こす。
 ケビンをその場に任せてカヅキが去るとビリーがケビンと戦うことになる。
 ケビンを打ち負かしたビリーは、痛めた背中を引き摺りながら、サクノたちを追う。



 ―――P40年の冬。
 ノースト地方の米所、ライズシティでは雪が降り積もっていた。
 野菜や米が取れることで有名なこの場所も、今の季節は何も育てることができない。
 大抵のものはこの冬は春の為に体を休めているものが多い。
 ちなみに、この場所は主人公のヒロトが初めてジムリーダーを倒した場所である。
 ところが雪が降り積もっているはずの豪雪地帯なのだが、とある一角は完全に雪が解けていた。
 地面が焼けている様子から、炎ポケモンが強引に雪を溶かしたのだと思われる。

「ゴメンなさい……お姉様……」

 黄色い短髪の少女、カヅキ(当時19歳)はポケモンが全滅して倒れていた。
 この当時の彼女は、アビリティーダウナーという特殊な力を習得していなかった。
 しかし、習得していたからと言って、カヅキが今姉と互角に戦っている女に勝てるわけではないのだが。

「……あなたはそこで休んでなさい」

 カヅキの姉のミホシ(当時21歳)はヨルノズクとシャワーズで相手を牽制していた。

「……何度も何度も邪魔してくれて腹が立つ。……いい加減、この因縁にピリオドを打つわ」
「できるものなら、やって見なさいよ!天照<てんしょう>の名に賭けて、私が止めるんだから!」

 『天照<てんしょう>』。
 『天をも焼き照らす』という意味を持つ彼女はバクフーンとゴウカザルでミホシと互角以上に戦っていた。

「……あなたはいつもそう。……どうしていつも私の邪魔をするの?……そんなあなたは嫌い」
「私だってあんたなんて嫌いよ!」

 ヨルノズクのエアスラッシュはゴウカザルの炎のパンチで相殺。
 シャワーズのハイドロポンプは、バクフーンの必殺『アフターバーナー』で一気に蒸発させる。

「でも、暴走しているあんたを止められるのは私しかいないの!あんたを野放しにしたら、大変なことになるから!」
「……暴走……?……必然よ。弟もそして愛すべきオトもいなくなった。……妹<カヅキ>だけじゃ足りないのよ……」
「足りないって……あんたはどれだけエロスに飢えているのよッ!!ゴウカザル、『流星パンチ』!!」

 流れるような連続パンチをシャワーズに向けて放つが、液状化して攻撃を回避した。
 ヨルノズクがサイコキネシスを放つが、バクフーンが火炎放射の援護で攻撃を相殺した。

「……カズミは旦那様がいれば充分なのかしら。……おめでたいことね。……でも、私は違う。……全然足りない」
「だから、次々と町の人々を誘拐したっていうの?」
「……でも、オトの代わりは見つからなかった。……だから、数撃って素材を引き抜くしかないのよ」

 そして、不敵にミホシは笑う。

「……あなたも同じなんじゃないの?……何せオトを弟分なんて言っていたんだから。……ねぇ、カズミ」

 一時、ミホシの一言に言葉を詰まらせるカズミ(当時26歳)。

「……穴がぽっかり空いて、寂しい思いをしているんじゃないの?……そこの所を考えれば、私の気持ちに共感してくれると思ったんだけど」
「ええ、そうね。確かに……そうよ」



 カズミは少し前のことを思い出した。
 あれはオトが失踪してから1ヵ月後のこと。
 カズミは同時期に失踪したユウナの机を整理していた。
 すると、とあるデーターを見つけた。

“カズミの生い立ちについて”

 自分がどんな境遇の人間であるか、大体は覚えていた。
 小さい頃に母親を事故で亡くし、キャメットでエビルバッドと言う組織にスリとして働かされた上に捨てられそうになった。
 そこを助けてくれたのが、今では旦那様となっているラグナだった。
 彼に助けられて、カズミはオートンシティでSHOP-GEARで生活し、ラグナの父親のコズマから貰った卵から孵ったヒノアラシをパートナーとして旅に出た。
 数々の冒険をこなし、SHOP-GEARの手伝いをするようになり、様々な事件を乗り越えて、今はユウナの代わりにSHOP-GEARのリーダーになっていた。
 ユウナが失踪するまでのことだし、自分の知らない情報なんてないだろうと軽い気持ちで覗いたデーターに、カズミは一瞬息を止めた。

 母親 ミユキ カントー地方のトージョーの滝周辺出身
 父親 ヒロト ノースト地方のマングウタウン出身

「え……?」

 カズミは目を疑った。
 ミユキは母親の名前だと言うことは知っている。
 そして、ヒロトという名前も、知っている。
 方向音痴でポケモンマスターで雑草みたいな頭をして、そして、何よりオトの父親だと言うことだ。
 ただ、自分の父親がヒロトだと言うことが、信じられなかった。

「どういう……こと?」

 ユウナのデーターには続きが書いてあった。

 カズミがトージョーの滝の生まれであると言うデーターをもとに、ミユキと関係を持った男を捜した。
 しかし、周りの人の話によると、ミユキと言う女性は、人とはあまり接せず、しかも男の人との接触を避けていたのだという。
 だけど、とてもやさしい人だと言うのは、聞いていた。
 話を聞いているうちに、私はとんでもない仮説を立てていた。
 カズミが生まれる約1年くらい前、ヒロトはロケット団の幹部のバロンに葬られたという話を聞いた。
 私は当時からロケット団に所属していたけど、ヒロトのことはまったく知らなかった。
 ただ、その当時のバロンがヒロトを倒して物凄くご機嫌でトレーニングルームを破壊していたことは覚えている。
 ハタ迷惑だったのも覚えている。
 私が彼のことを知ったのはそれより数年後でナナシマの5の島で私の活動を邪魔しに来たときのこと。
 負けた私は彼を調べて大体のことを理解した。
 じゃあ、彼は失踪している約1年もの間、どこで何をしていたのだろうか。
 私の導き出した答えのひとつは、「ミユキがヒロトを介抱していた」。
 カズミの年齢を逆算すると、かなり正確なのに驚いた。

 データーはヒロトとカズミの血縁が確実に繋がっていることを証明していった。

「私が……ヒロト……の子供……」

 ただ、驚きのまま、カズミはデーターを閲覧し、そして、最後の方にこう綴られていた。

 この事を本人達に言うべきなのだろうか。
 隠し事は無いのがいいに決まっている。
 案外、ミツバのようにあっけらかんとその事実を受け入れるかもしれない。
 しかし、ヒロトもカズミもミツバとは違う。
 ヒロトは責任から負い目を作ってしまうかもしれないし、カズミだってショックを受けるかもしれない。
 ……結局のところ……今の私には答えを出すことができない。
 この秘密は、私の胸の中とデーターにのみしまっておくことにしよう。



「弟が消えて、ざわついたこともあった。だけど、私はあんたみたいに他人に迷惑をかけるつもりはないわ!」

 バクフーンが炎を最大限にまで蓄える。

「吹っ飛びなさい!『大炎上』!!!!」

 オーバーヒートやブラストバーンをも凌ぐ、炎を解放する最大級の技。
 地面の雪どころか、バクフーンの頭上の雪雲まで吹き飛んだのだ。

「……やってくれる……」

 シャワーズとヨルノズクはダウンしていた。
 あそこまでのパワーに対抗できるポケモンはミホシの中でもいなかった。
 そして、ミホシはパートナーのユキメノコを繰り出す。

「……最近できるようになった技を見せてあげる」
「何を……?」

 ユキメノコが消える。
 すると、ユキメノコのビンタがバクフーンに命中した。

「……! でも、そのくらいじゃ倒れないわよ!バクフーン、火炎放射!」

 ドゴォッ!!

 バクフーンは火炎放射を放った。

「なっ!?」

 だが、当たったのはゴウカザルだった。

「どういうこと!?」

 見た感じ、異常は見当たらない。
 ゴウカザルは立ち上がって、バクフーンに向っていく。

「ちょっ、ゴウカザル!待って!」

 2匹を戻そうとボールを持つカズミだったが、

 バキッ!!

「……うぇ!?」

 ユキメノコにビンタを浴びせられて、カズミは昏倒する。

「な……ぁ……れ……?」

 ふらふらのカズミ。
 そのカズミの様子に気付いたバクフーンとゴウカザルだったが、

「……止め」

 ユンゲラーのサイコキネシスがゴウカザルに、エレキブルのメガトンキックがバクフーンに当たり、気絶した。

「く……ぅ……ふ……?」
「……カズミ……もう私の邪魔はさせない。……さようなら。……ユキメノコ」

 バキッ

 何の変哲も無いビンタにカズミはそのまま打ちのめされたのだった。



「……?……クッションッ!!」

 次にカズミが目を覚ますと、自身が雪に埋もれていたことに気が付く。

「……うぅぅぅ……なんで私はこんなところに……? 思い出せない……夢でも見ていたのかしら……?」

 倒れていたバクフーンとゴウカザルを不思議そうに回収しながら、カズミはオートンシティに戻っていった。
 その次の日、カズミは風邪で一週間ほど寝込んだのだという。
 そして、ミホシたちに会った事は、綺麗さっぱり忘れていたのだという。



 たった一つの行路 №287



 ゴォォッ!!

 炎の竜巻が一匹のポケモンを包み込む。
 炎が解かれた時、その中から火傷状態のフシギバナが出てきた。
 『いあいぎり』でバシャーモに一糸報いようとするが、攻撃を何事もなかったように向ってきて、ブレイズキックで叩きのめされた。

「あぁ……それなら……っ!」

 走ってカヅキに接近しようとしたチェリーだが、バシャーモが立ちふさがった。

「他人のポケモンを盗んで戦うことはもうさせない!寝てなさい!」

 ゴッ!!

「……がっ!!」

 バシャーモに腹を小突かれて、チェリーは放物線を描いて地面に倒れて気絶してしまった。
 
「さて、この子はすぐに調教が必要よね。クレナイとサクノはあの子達に任せて私は……」

 ドゴォッ!!

 1つの火炎弾がバシャーモを吹っ飛ばした。
 威力は相当のものだが、倒れるまでではなかった。

「……今のは……?」
「次は私が相手よ!」

 火炎弾を放ったのは、威光を持った忠犬のウインディ。
 そして、トレーナーは誇り高き女教皇という二つ名を持った美少女だった。

「サクノ……! もうマキナを倒したと言うの?」

 カヅキがサクノの後ろを見ると、そこにはマキナのポケモンのバクオングとコロトックの姿があった。

「お嬢様、ゴメンなさい。負けてしまいました……」

 マキナのメロディ攻撃をもろともせずに、サクノはウインディのパワーとテクニックでねじ伏せたのである。
 もっとも、バクオングはルカリオ、コロトックはウインディでと、相性を合わせて戦ったのもあるが。

「実力はさすがといったところか。それなら、私のアビリティダウナーの力を味わいなさい!」



 もう一方の戦いはようやく決着がつきそうだった。

「残りはそのブーバーンだけだな」
「あんたこそ、残りはそのカメックスだけね!」

 クレナイとアスカのパートナーのポケモンが残った。
 炎と水の打ち合いが繰り広げられたが、決着にはさほど時間はかからなかった。

「カメックス、『ハイドロカノン』!!」

 究極の水系の技を打ち出し、勝負を一気に決めようとする。
 だが、アスカはそれを読みきって、攻撃をかわした。

「至近距離の破壊光線をくらえっ!!」
「ハイドロカノンは囮だよ!」
「……えっ!?」

 カメックスはハイドロカノンの後、ブーバーンに背を向けた。
 究極の技の後は反動を受けて動けないのだが、辛うじてカメックスは背中を向けることだけができた。
 そして、全力を振り絞って、ハイドロポンプを打ち出す。

「『ハイドロロケット』!!」

 ドゴォッ!!

「っ!!」

 ハイドロポンプを地面へと放ち、その勢いでタックルを仕掛ける強力な一撃であった。
 破壊光線を撃つことに神経を集中させていたブーバーンはこの攻撃に対応できずに、ノックアウトした。

「そんな……あたしが負けるなんて……」

 ガクリと崩れ落ちるアスカ。

「アスカ……一緒にお仕置きを受けましょう」
「マキナ……ええ、そうね……」

 と抱きしめあって慰めあう二人。
 何故かそこだけ雰囲気が違うような気がしてならないが、放って置くことにしよう。

「…………」

 クレナイはあたりを見渡す。
 そこには抱き合ったアスカとマキナ、気絶したカナタとチェリーの姿がある。
 いつの間にかサクノとカヅキの姿が見当たらない。

「(外か?)」

 耳を済ませると、かすかに技のぶつかる衝撃音が聞こえてくる。

「(サクノのヤツ、カヅキのアビリティダウナーの力がこっちに及ばないようにカヅキを誘導したのか……。戦い慣れてるな)」

 加勢に向かおうとするクレナイ。

「……っ!!」

 しかし、突如、背筋が凍るような感覚に囚われる。
 ここから下手に動いてはいけないと五感が発していた。

「やっぱり、キミが最大の黒幕なのか?」
「……黒幕とは人聞きの悪い」

 黒いシックのドレスに黄色い髪のロングヘア。
 子供っぽい大きなオレンジ色のリボンをつけた女性だった。

「……私は私の思うようにやっているの。……それを邪魔するのならあなたは敵。……でも、私はキミが好みよ。……どう?大人しく私のペットにならない?……クレナイ」
「……完全なる願い下げを要求するし。このクレイジーど淫乱娼婦め!!」

 笑顔で汚い言葉を発し、2匹に元気のカケラを与えるクレナイ。
 ドータクンを繰り出した。
 一方の妖しげな女性……ミホシもユキメノコで迎撃に出たのだった。



 ―――倉庫の外。
 サクノはクレナイにもアビリティダウナーの力が及ばないように、カヅキを外へと誘い出して戦っていた。

「グレイシア、『凍える風』!」
「アンジュ、『熱風』!!」

 カヅキのグレイシアが放つのは動きを鈍らせる涼しい風。
 だが、効果はそれだけではない。
 カヅキの特殊な力であるアビリティダウナーにより、その風を浴びた者は能力を著しく低下してしまう。
 ゆえに、そう簡単に攻撃を受けるわけには行かない。
 ウインディの全力に近い炎の力は、グレイシアを包み込んでダウンさせた。

「どうやら、さっき与えたアビリティダウナーの力は弱まっているようね」

 先ほどの戦いでグレイシアはウインディの最大の技を受けて火傷を負っている。
 この攻撃でダウンするのも必然だった。

「エテボース」

 カヅキは尻尾が二つに割れている猿のようなポケモンを繰り出す。
 高速移動でスピードを上げて、サクノたちを撹乱にかかる。
 それを見て、サクノは一旦ウインディをボールに戻した。

「ボールに戻したのなら、直接叩くわ!」

 ドガッ!!

 エテボースのアイアンテールが決まる。
 しかし、尻尾は丈夫な骨によって止められた。

「このポケモンはルカリオ……」
「『聖なる剣』!!」

 剣を振るルカリオだが、一旦身を退いてかわすエテボース。
 そして、エテボースの代わりに炎を纏ったバシャーモが突っ込んできた。

「『フレアドライブ』!!」

 炎系最大の突進技でルカリオを撃墜にかかる。

「もう一発、『聖なる剣』!!」

 ドガッ―――!!!!

 本来なら、最大の技のSoul Bladeで迎撃したかったサクノだったが、溜めの時間をまったく与えてくれなかった。
 しかし、それでも……

 ズドォンッ!!!!

 バシャーモをふっ飛ばし、壁に叩きつけてダウンさせた。
 ところがこれはカヅキの作戦通りだった。
 エテボースがサクノとルカリオの背後を取っていた。

「しまっ……!」
「『アビリティダウナー・凍える風』!!」

 ゴォォッ!!

 サクノとルカリオはまんまとエテボースの凍える風を浴びてしまう。

「くっ、エンプ、『Soul Blade』!!」

 波動を宿した闘気の剣を振りかざして、エテボースに一閃。
 バシャーモを吹っ飛ばした以上の波動を纏った攻撃だった。

 ガッ!

「っ!!」

 だが、ルカリオの最大の一撃は尻尾で軽く止められてしまった。

「『気合パンチ』!!」

 回避しようにも、ルカリオから見るとエテボースの動きが見えなかった。
 それほどにまで能力が落ちていたのである。
 お腹に一撃を受けて、そのままルカリオはダウンしてしまった。

「……それならっ!」

 新たにポケモンを繰り出して、イカズチのごとくスピードでエテボースに激突する。

「『Lighting』!!」

 自称闇の帝王のシファーのバシャーモさえも見切れなかった自信を持った一撃だった。
 いや、シファーだけではなく、決して一度も破られたことのない一撃のはずだった。

 ズザッ!!

 ライチュウはエテボースのわずか右へと突撃が返り討ちにされ、地面を滑っていった。
 もちろんその際に反動で大きなダメージを受けてしまった。

「止め!たたきつける!」
「まずい、レディ!!『10万ボルト』!!」

 ライチュウよりエテボースの方が早かった。
 尻尾で叩きつけられて、ライチュウはダウンする。
 アビリティダウナーの力で能力が落ちているせいもあるが、前の戦いでグレイシアからダメージを負っていたからでもあった。

「(このアビリティダウナーの力……例えモンスターボールの中に入っていても影響が出るのね。でも、トレーナーには影響しない)」

 冷静にサクノはルカリオとライチュウを戻す。
 フローゼルも倒されているため、残りはあと3匹。

「後私はこのエテボース1匹だけど、能力が落ちているあんたなんて、1匹だけで充分よ」
「それなら……」

 この状況を抜け出すために繰り出したポケモンは蝉のようなポケモンのテッカニンだった。

「素早さで撹乱しようと言う作戦?無駄よ!アビリティダウナーで素早さが落ちているのだから!」

 エテボースが尻尾を振りかざして、テッカニンをたたきつけようとする。

 ふわっ!

 だが、攻撃はすり抜けてしまう。

「影分身!?いつの間に!?」
「『シザークロス』!」

 ザシュザシュッ!

 エテボースの背後を取って、背中を切りつける。
 しかし、テッカニンもアビリティダウナーの影響下にある。
 不意打ちだったのだが、一撃で倒せるだけの力も奪われていた。

「加速!」
「アイアンテール!!」

 エテボースのアイアンテールは空を切る。

「アビリティダウナーの影響下でこれだけ動けるとはね……」
「確かに今のジョーはアビリティダウナーの力でスピードを最大限に引き出せてない。それでも、あなたのエテボースにひけはとらないわ」
「でも、これならどうよ?『スピードスター』!!」

 尻尾から繰り出される必中技の無数の星。
 テッカニンに攻撃が命中していく。

「確かにスピードは凄いけど、テッカニンは耐久力がない。これで充分だわ!」
「ジョー!」

 サクノの掛け声で『守る』を発動する。
 エテボースのスピードスターを弾いていく。
 しかし、

「いつまで持つかしら?」
「……っ!」

 容赦なく星が降り注ぐ。
 どうやら、エテボースはテッカニンの守る攻撃が切れるまで攻撃を続けるつもりのようだ。
 そして、『守る』ができなくなったとき、それはテッカニンが倒れることを意味する。

 ミシッ

 テッカニンの防御にヒビが入り始める。

「止めだ!!」
「ジョー!『Switch』!!」

 守るが破られる。
 スピードスターが次々とテッカニンに命中していった。
 攻撃の命中する爆発で辺りが見えなくなっていく。

「さぁ、これで2匹ね」
「それはどうかしら!?『Switch』から『乱れひっかき』!!」

 ザシュザシュザシュッ!!

 エテボースに次々と引っかき傷を与えていく。

「なっ!?」
「『シザークロス』!!」

 ザシュッ!!

 ダメージはそれほどでもないが、勢いでエテボースは吹っ飛ばされる。
 エテボースは体勢を崩す。

「『Cyclone Slash』!!」

 竜巻を纏ったような爪で怒涛の連続攻撃を放った。
 エテボースは吹っ飛ばされて壁に激突する。

「畳み掛けるわ!『剣の舞』!!」
「確かに『守る』は破れたはず……それに攻撃も確かに命中した!なのにどうして!?……もう一度『スピードスター』!!」

 もう一度絶対命中の無数の星を繰り出すエテボース。

「ジョー!『Switch』!!」

 サクノが先ほどから指示している『Switch』。
 その意味をここでカヅキはようやく理解する。

「何!?ヌケニン!?」

 サクノが指示を出すと瞬時にテッカニンはヌケニンへとチェンジしたのだ。

「私のジョーはちょっと特殊でテッカニンでもヌケニンでもあるの。公式大会では反則になっちゃうかもしれないから使わなかったけどね」

 ヌケニンはゴーストタイプであるがためにスピードスターは効果が無い。

「ジョー、『Phantom Slash』!!」

 腕に蒼い炎を宿した一撃だった。
 エテボースは切り裂かれて炎に包まれる。

「火傷!?くっ、『アイアンテール』!」

 ドガッ!!

 エテボースの攻撃はヌケニンに命中する。
 しかし、カヅキは失念していた。

「しまった!……特性の『ふしぎなまもり』か!!」
「『Switch』!!」

 そして、再びヌケニンからテッカニンに入れ替わる。
 一気に爪をつきたてる。

「『いのちがけ』!!」

 テッカニンがエテボースを突き抜けて、一気にダウンさせた。
 しかし、この技を使ったテッカニンも力尽きて倒れたのだった。

「くっ……まさか……負けるなんて……」

 サクノはテッカニンを戻す。

「チェリーとカナタは返してもらうわ!」
「残念だけど、私に勝って終わりだと思ったの?サクノ」
「まだ上がいると言うの?」
「ええ、そうよ。バトルの実力は私より上。そして、この『トキワの力』の力とその『応用力』の力もね」

 サクノはクレナイのいた場所へと走って行く。
 カヅキと戦っていた場所と大分離れてしまったために合流するのはかなりかかりそうだった。

「サクノ……この子がお姉様が認めたあいつの妹なのね」

 カヅキは呆然とサクノの後姿を見送ったのだった。



 第四幕 Episode D&J
 停滞のパラダイス④ P50 秋 終わり


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Last-modified: 2016-01-17 (日) 21:15:47
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