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たった一つの行路 №284

/たった一つの行路 №284

 ―――P38年の春。
 この年は特に目立った事件の無い年である。
 あえてどんな事件があったかを示すならば、3年前にホウエン地方が水帝レグレイン率いる水郡の暴走によって壊滅させられた事件や、行方不明者がぼちぼちあった神隠し事件が挙げられるだろう。
 そんな何もないと思われるとある年。
 シンオウ地方のやりのはしらにとある少女達の姿があった。
 その少女達は怪しい紫色の装束たちと戦っていた。

“たった二人の女に、負けてたまるかぁッーーー!!!!”

 数人の男女は、何かの組織に属する暗躍集団だった。
 しかも実力も精鋭の組織の中でトップグループだった。
 ところがだ。

「コロトック、ここで『ロンドメロディ』」

 二本の手から繰り出される集束された見えない音の振動が暗躍集団のポケモンをなぎ払う。
 このコロトックは、音による攻撃で、すでに相手の数匹のポケモンを倒している。

“私のマルマインにそんな攻撃は通用しないわ!!”

 しかし、当然『防音』を特性に持つポケモンに音属性の攻撃は通用しない。
 マルマインが少女に向かっていく。
 少女はポッチャリとした体型でやや大人しそうに見える風貌である。
 白髪のショートカットで赤いカチューシャをしているために、頭の部分がかなり目立つ。
 服装はぴっちりとした黒のワンピースの上に茶色いセーターを着ている。
 そのぴっちりしたワンピースと言うのは彼女の特徴を醸し出している。
 というのも、全体的に……すなわち胸を中心にふんわりとした身体を持っているのである。
 結論は大きな胸の持ち主であった。
 彼女の名はマキナと言う。
 マキナは向かってくるマルマインに見向きもしなかった。

「『ドラゴンクロー』っ!!」

 一匹のフライゴンがマキナを守るようにマルマインを打ち落とす。

「決めるわよ、フライゴン―――」

 白髪の少女と背中合わせになった少女は、後ろにいる少女と比べるとスレンダーなモデル体型の少女だった。
 赤のセミロングより長めで右垂らしのサイドテール、赤のミニスカートの下にスパッツ、肩を完全に剥き出しにしたコルセットのような緑の服に首に青いストール。
 おしゃれな格好をしている上に、彼女の通常の表情が強気な表情をしているために、お嬢様というよりは高飛車な王女に見えなくも無い。
 だが、実際は凄く活発な少女なのだ。
 まぁ、スパッツを穿いている時点で、活発そうなのだが。
 そんな彼女の名前はアスカと言う。

「―――『フレイムストリーム』っ!!」

 砂地獄と火炎放射の合わせ技で、すべての敵を巻き込み、一気に撃破した。
 彼女らはそれぞれコロトックとフライゴンを戻す。

“私より可愛くて強いなんてー……”
“ぐ、ぐぉぉぉ……”

 暗躍集団のトレーナーも、技の余波を受けて気絶したのだった。

「ふう、つかれたー。マキナ、お疲れー」
「ふふふ。アスカ、これくらいならまだ疲れてないわよ」



 マキナ“16歳”とアスカ“16歳”。
 二人はホウエン地方のフエンタウン出身の幼馴染同士のトレーナーであった。
 小さい頃、2人は村の外を夢見ていた。
 しかし、アスカはあの炎使いのジムリーダーのアスナを母に持ち、その母親に外出を禁じられていた。
 特に大きな理由は無いが、おそらく、アスナが過保護だったのだと思われる。
 さらに11歳の頃に勝手にジムリーダーにされて、アスカはさらに町の外へ出ることができなかった。
 母親に押し付けられるがままの人生にアスカは、ついに我慢ができなくなった。
 そして、12歳の時、母のアスナの目を盗んで、幼馴染のマキナを連れて、村を飛び出した。
 村の外を出ると、様々な苦難や困難が待ち受けていた。
 しかし、2人にとってはどれも楽しいことでしかなかった。
 自由になれたことがこんなにも幸せなことだったと噛み締めたのである。
 そんな道中で、アスカは恋をした。
 相手はクシャッとした束感のある灰色の髪の男―――名前をエバンスと言った。
 初めての恋に戸惑いながらも、幼馴染のマキナの助けを借りて、必死にアタックを続けた。
 しかし、エバンスに深く拒絶されて、その恋は実ることはなかった。
 アスカには、振られた理由を知ることもなかった。
 後にアスカはビーチで三つ編みの少女と一緒にいたエバンスと再会した。
 八つ当たりするようにその女の子に勝負を挑んだが、勝つことはできなかった。
 その悔しさをバネにアスカは今まで旅をして来たのである。
 2人の実力は、四天王相手でも互角の勝負はできるくらいの力をつけていた。

 だが、そんな二人は、このP38年の春に存在を消した。
 世界から消えたのではない。
 詳しい事件の詳細はここでは話さないが、1つだけ言えることは、彼女らの姿を見たものは、この10年間誰一人としていなかった。



 ―――P50年の夏。

「ん~今日も暑いわねぇ!!」

 バンザイっ!! と暑さから解放を求めるがごとく、赤い髪のサイドテールにおしゃれなクリーム色のキャミソールにフード付きパーカーを引っ掛けた少女が叫ぶ。

「下ももうちょっと涼しいカッコしたいけどねぇ……」
「ふふふ。流石に何も穿かないわけには行かないわよね」
「いや、そこは普通にパンツを穿くでしょ!?」

 白髪に全体的にふんわりした身体つきをし、白いワンピースの少女にツッコミを入れるサイドテールの少女。

「ん?アスカはスパッツの下にパンツを穿いているの?……だとしたら、パンツのラインが見えて恥ずかしくないの?」
「さ、流石に今はパンツ穿いていないわよっ!!!!」
「(ノーパンね)」

 言葉に出さず、クスクスと笑うのはマキナ“18歳”。
 大きな声で「パンツ穿いてない」と公衆の面前で発言して、赤面したのはアスカ“18歳”だった。



「しっかし、手掛かりが見つからないわねー」
「そうね。この時代に来て早2年。もうこの時代に住んじゃったほうがいいんじゃないかと思えてきちゃったね」

 夜のポケモンセンター。
 そこで2人は些細な言い争いをしてしまう。

「絶対にイヤよ!あたしは帰るの!元の時代に戻るの!そして、戻って……」
「エバンス君に会うって言いたいんでしょ?」

 マキナは目を瞑って、深刻そうに唸った。

「ゴメン、アスカ。私、黙っていたことがあるの」
「何よ?」
「エバンス君……実は、私たちが消息を絶った2ヶ月後に亡くなっているの」
「……え?」

 マキナはこの未来に来てから、ずっとアスカを応援しようと、エバンスのことを調べていた。
 だが、わかったのは残酷な現実だった。
 諦めさせようとするマキナと認めたくないアスカ。
 二人は大喧嘩し、アスカはポケモンセンターを飛び出してしまった。
 少し落ち着くまで一人っきりにさせておこう……と、マキナはその場にとどまった。



 だが、1週間経っても、アスカは戻ってこなかった。
 流石にマキナは心配になって。アスカを探しに町へ出た。
 そして、とある倉庫を探している時だった。

「!!」

 マキナを3人の女トレーナーが囲んだのである。
 3人の女トレーナーの特徴と言えば、メイド服を着たスレンダー系のお嬢様系、バニーガールの格好をした羞恥心丸出しの気弱系、レースクイーンの格好をしたギャル系だった。
 三者三様がポケモンを繰り出し、マキナに襲い掛かる。
 だが、マキナの実力はその3人の実力をあわせた力よりも上だった。

「(この子達がアスカを? でも、実力的にアスカがこの子達に負けるはずが……) ……っ!!」

 ドガッ!!

 マキナに向かって、一匹のオオスバメが打撃を放った。

「くぅっ……」

 咄嗟に新たにニョロトノを出して防御をしたために、何とか直撃を避けられたが、それでもダメージは多少なりともあった。

「……マキナか。アスカと同じく、10年前と変わってないな」
「……!!」

 マキナはその人物の顔を見て驚く。

「……まさか……」

 信じられなかった。
 その人物が3人の女の子を従えて、自分を襲わせていることが信じられなかった。

「10年経っているから、間違いかもしれないけど……あなたは、ケ―――」

 ドッ

 三人の少女が一斉にマキナを押し倒した。

「そう。そして、意識を奪い、すべてを奪うんだ」

 その人物は野獣に満ちた目をしていた。
 マキナが10年前に会った面影はもう無かった。

「(この子達……何なの……?まるで熱にうなされたように、目が……虚ろに……?)」

 メイドの女の子が白い布を口に押し付ける。
 何かの薬品を嗅がされたらしく、マキナはそのまま気を失っていった。



 そして、その先に待っていたのは……

「……っ!!」

 目を釘付けにする異様な光景だった。
 言葉にできないような、痴態の数々。
 言ってしまえば、そこは18歳未満は立ち入り禁止の過激な世界だった。

「ねぇ、マキナぁ……」

 その中に変わり果てたアスカの姿もあった。
 どう変わり果てたかと言えば、一言でいえば、女の色香が漂う怪しさを身につけたと言ってよいだろう。

「マキナも……こっちにおいでよ……楽しいよぉ」
「ダメよ、アスカ……しっかりして、アスカぁっ!!」

 虚ろいの果てを経験したアスカがマキナを誘い込んでいった……。



「後は、男女5人くらいでいい……かしら」

 黄色い髪のショートカットに女王様のようなボンデージをつけた30代目前の女性は足に力をこめながら、そう呟く。

「ま、任せてください。……それよりもっと強く……」

 マキナを捕まえる時に、野獣のような目でギラギラしていた人物は、彼女に足で背中を踏みにじられて、さらに刺激を強請っていた。
 そんな彼女は足に力を篭める。

「並の男なんて、こんなもん。踏まれることで悦を覚えるヤツばっか」

 そして、彼女はポツリと誰もいないはずの空間に向かってポツリと呟く。

「あと少しで、私たちのこの空虚な気持ちも抜けられるんですよね……お姉様」



 たった一つの行路 №284



 季節は秋である。
 秋と言えば紅葉である。
 紅葉と言えば紅葉である。
 “こうよう”と“もみじ”は同じ漢字である。
 とりあえず、ここはホドモエシティ。
 イッシュ地方の玄関と呼ばれ、多くの品物が流通すると言われる港町である。
 そして、港町であるがゆえに南の方には多くの倉庫が存在していた。
 そのポケモンセンターのロビーに一人の少女とモフモフなポケモンの姿があった。

「ふふっ♪ やっぱり、あなたは可愛いわね」

 フ~ン♪ とミッドブルーのポニーテールの少女サクノの隣にいるのは、エルフーンだった。
 毛並みを優しく撫でられて、エルフーンはとても気持ち良さそうに鳴き声を上げていた。

「あのシファーと言う男との戦いで、私はまだまだだという事に気づかされた。世の中には強い人がいるのね」

 1ヶ月ほど前に、サクノはエルフーンをゲットし、そして、古の城で闇の帝王と自負する男と戦っていた。
 ポケモンリーグを圧倒的な実力で制覇していたが、まったくその実力を鼻にかけず、日々を謳歌してきたサクノ。
 それでも、自分の実力が及ばない相手がいるということに、さらにやる気を出し始めていた。

「それにただ強いだけじゃだめね。強い信念を持って戦わないと、この先強くなんてなれない。あのレイラやシファーはその成すべきこと……信念を持って戦っていた。私もそれを見つけなくちゃ」

 「強いトレーナーがいいトレーナーとは限らないしね」と付け加えてサクノは思う。

「ラック。新たに仲間になったあなたは、まだまだ強さの伸びしろがある。一緒にがんばっていこう」

 元気よくエルフーンは頷いた。
 それを見てサクノは、笑顔を向けた後、手元の作業に戻った。
 今サクノの手元にあるのは、1つのメガネだった。

「(『ピントレンズ』と『広角レンズ』……この効果をあわせられるようなアイテムを作ることができればいいんだけど……レンズはデリケートだから難しいわね)」

 彼女の特技の一つ、ポケモンのオリジナルアイテムクリエイトである。
 彼女のオリジナルアイテムは、今までのバトルで彼女のポケモンの力を最大限に発揮させていた。
 例えば、Lightingという異名を持つサクノのライチュウのレディの持つ『プレートの小手』。
 いかづちのプレートを右腕に装備できるよう改良し、防御アップと電撃攻撃の力を増大させる。
 さらに、ライチュウの必殺技である『Ralegun』は、小手を外して、電撃を集中させたかみなりパンチでこの小手を打ち抜くことで発生させる電撃大砲である。
 例えば、Soul Bladeという異名を持つサクノのルカリオのエンプの持つ『骨の刀』。
 貴重な骨と言う売るだけしか価値のなさそうなアイテムを削って、木刀のような形にしたのである。
 ルカリオの波動の力を自在に纏わせて振るうことにより、存分に力を発揮するのである。
 例えば、Archerと言う異名を持つサクノのフローゼルのジャックの持つ『羽根の首飾り』。
 パワフルハーブを消耗しないように改良し、身につけることでタメが必要な技もすぐに出すことができるようになった。
 これにより、水系や氷系の技だけでなく、風系のかまいたちも自在に放つことができるようになったのである。
 このようにサクノのポケモンはすべてオリジナルのアイテムを持っていた。

「(とはいえ……このレンズはエルフーンに向いているかなぁ……?)」

 疑問に思いつつもサクノが作業に集中している時だった。

「キミ、ちょっといいかな」

 後ろから背の高い赤髪短髪の男性が声をかけてきた。
 身長は190以上はあり、大体30代前半。
 優しい笑顔をして話しかけてきたが、サクノはその優しい笑顔に違和感を感じた。
 違和感と言っても、悪い意味ではなく。

「なんでしょうか?」
「キミはあのサクノだろう?おれとバトルしないか?」

 表情を崩さず、彼は笑顔でサクノをバトルに誘ったのだった。



「『失踪注意』かぁ……、つーか、そんなもん、どう注意すればいいんだよ?」

 ホドモエシティの南部にある隠れクレープ屋で2つクレープを買って、カナタはポケモンセンターの帰りに、一つの看板を見つけた。
 そこには、行方不明になったホドモエシティの女の子4人と男の子1人の顔写真が貼られていた。
 そのリストの下にデカデカと『失踪注意』と書かれていたのである。

「なんか、事件の匂いがしおるで」

 むしゃむしゃと蒸しパンを食べながら、紫のふわふわヘアのビリーが真面目な顔で頷く。

「事件なのか?単に街を飛び出して旅に出たっていう、ありがちな展開じゃないのか?」
「そう言ってしまえば、そこまでやな。そういえば、カナタ、クレープを二つも食うんか?」

 右手にイチゴのクリームがたっぷりのクレープ、左手にバナナとホイップクリームがたっぷりのクレープ。
 カナタは2種類のクレープを持っていたのである。

「そんなわけ無いだろ!2つも食べたら、太るだろ!片方はお姉様の分だ!」
「そうなんか?てゆーか、カナタでも太るとか気にするんやなぁ」
「当たり前だろ!!」
「でも、朝とか昼は結構食ってるやろ?」
「朝食と昼食は別だ!私は甘いものをバクバク食べるのがダメだって言ってるんだ!」
「そーか、そーか、じゃあ、朝昼ちゃんと食べて成長しんしゃい」
「上から目線がムカつくんだよ!」

 と、先に進もうとするビリーの背中を蹴り付けたのだった。

「にしても、なんでこんな倉庫街にクレープ屋があるんだ?こんなにおいしいなら、もっと街の中でやれば売れるのに」
「いやいや、こういうところにあるから、おいしいと感じるや」
「そんなもんかよ」

 と、二人は喋っていたが、ふと足を止めた。
 進行方向に二人の女が立ちふさがっていたからである。
 二人とも10代後半の少女だった。

「明らかに私たちを見てるよな?」

 カナタが不審そうに呟く。

「ぐふ、ぐふふ」
「げっ、何不気味に笑ってんだよ?」

 ビリーがどこかの何かみたいに不気味な笑い声をあげるのを見て、カナタは顔を引きつらせる。
 気がおかしくなったかと思っていた。

「なあ、お姉ちゃんたち。俺がカッコイイから、二人でお誘いに来たんだろ?」

 二人の年上の少女へと歩いていき、自信満々に口説きにかかる。

 ゴキッ!!

「ぐふぉ――――――――――――――――――っ!!」
「アホかッ!んなワケないだろ!」

 カナタは助走をつけて、思いっきりジャンプしてドロップキック。
 その攻撃は見事にビリーの背中を捉えた。
 そのまま倉庫の壁にぶつかるまでビリーは転がっていったのだった。

「ははは、ごめんなさい。あのバカがまた変な行動に出たみたいで……」
「いいえ。彼の言っていることは間違いじゃないわ」
「え?」

 ふんわりとした柔らかい異称と身体を持つ少女がにっこりとカナタに囁きかける。
 ちなみにその子はナースの格好がとても似合っていた。
 しかし、カナタが改めてよく見ると、どこか不気味な色気を纏っている感じがした。

「ただ、合っているのは、お誘いってだけだけどねっ!!」

 もう一人の女の子……チャイナドレスを着たモデルのようなスレンダーな少女は、舌をぺろりと舐めて、カナタを見ていた。

「「それもあんた(あなた)をね!!」」
「!!」

 クレープを食べている場合ではなかった。
 嫌な予感がして、クレープを捨ててすぐにヌマクローとニョロゾを繰り出すカナタ。

「『マッドショット』、『水の波動』!!」

 カナタの作戦はすぐに技を繰り出して、相手が怯んだ隙にその場から逃げることだった。
 しかし―――

「ぐはっ!!」

 ヌマクロー、ニョロゾ、そしてカナタが同時に切り飛ばされる。
 カナタが油断したわけではない。
 単に相手とのレベルの差がありすぎるだけだった。

「『メロディブレード』。音楽を纏ったこの腕で相手を切りつける技よ」

 ナース服の女の子の隣にいるのはコロトック。
 実際に攻撃を仕掛けてきたほうだった。

「ちなみに、あんたの攻撃を防いだのは、あたしの『砂の壁』ね」
「防御ありがとう、アスカ」

 フライゴンと一緒にいるのは、チャイナ服の女の子がアスカ。
 水と地面の攻撃を完全に無効化したのだ。

「(完璧な不意打ちだったのに、防がれた上に反撃された……。こいつら、ヤバイ……強すぎる……)」
「さぁ……あんたも一緒に来なさい」
「楽しいわよ……」

 カナタにとって、その2人はとても恐ろしく見えた。
 何か危険な香りを漂わせてジワジワと歩いてくる。
 カナタは感じた。
 知ってしまったら、何かが終わってしまうと。

 ドゴッ!!

 コロトックが重い一撃を受けて吹っ飛ぶ。

「メタグロス、もう一発だっ!!」
「フライゴン、『砂の壁』っ!!」

 懇親の鋼の拳は、砂の壁をもぶち破り、フライゴンを打っ飛ばした。
 倉庫の壁に打ち付けられたが、フライゴンはヨロヨロと起き上がる。
 コロトックも同じだった。

「び、ビリー……」
「まったく、お前達はこのおとこおんなを百合世界にでも引き込むつもりか?別に俺はいいんだけど、サクノはんが何て言うかわからないからな。そうはさせないぞーぉっつつ……」

 いたって真面目な声でビリーがこの場に立つが、顔を歪まして背中を弓なりにそらせていた。
 どうやら、カナタに受けたツッコミのダメージが大きいらしい。

「別に問題ないわよ。ね、マキナ」
「そうね。サクノはもう“あの方”が連れて行っているはずだから」
「なにっ!?まさか、サクノはんにもあんたらの魔の手がッ!?」
「魔の手?いいえ……これは救いの手……」
「あたしたちを天国へ導いてくれる救いの道よっ!」

 アスカとマキナは傷ついたポケモンたちを戻して、新たなポケモンを繰り出す。
 マキナはバクオング、アスカはバクーダだ。
 それを見て、ワルビアルを追加するビリー。
 2匹同士のポケモンがぶつかり合い、互角の勝負を繰り広げる。
 結局のところ、両者の2体は、ダウンした。

「互角……」
「やるじゃない」
「(……まずい、普通に互角じゃ、ポケモンの数が多い相手のほうが有利だ)」

 単純に相手が2人いるためにポケモンの数が12匹で、ビリーが6匹なのである。
 すなわち、互角の状況を続ければ、先にポケモンの数が尽きるのはビリーなのだ。

「カナタ、お前は先に逃げろ」
「え……?」

 カナタだけ聞こえる声でビリーは言う。

「狙いはどうやらお前とサクノはんや。なら、お前が逃げている間に俺が時間を稼ぐ」
「でも……」
「でもじゃない!足手まといなんだよ」
「っ!」

 カナタ自身もそれはわかっていた。
 唇を噛み締めて、カナタはその場を立ち去るしかなかった。

「逃がしたのね」
「それなら、あんたを片付けて、さっさと彼女を追うことにするわ!」
「なんでカナタやサクノはんを狙う!?」
「あたし達のご主人様がご所望しているからよ」
「それに……ご褒美も……欲しいし……ね」

 マキナがゆったりとした顔で言い終わると、凄く緩んだ顔になる。
 それを聞いたアスカも同じだった。

「ここは全力で通さないっ!!」

 ピクシー、クイタラン、デンチュラを同時に繰り出し、壁のように2人の行く手を阻む。

「ブーバーン!」
「ニョロトノ!」

 激突した結果は……

「まさか……」
「それなら次のポケモンね」

 ビリーの3匹のポケモンが迎撃を成功した。
 新たにアスカとマキナはネンドールとエネコロロを繰り出した。
 この調子なら、何とか勝つことができる。
 ビリーはそう思っていた。
 突如吹く、冷風を浴びるまでは。

「(……なんだ、この冷気……?)」
「エネコロロ、『メロディプレリュード』!!」
「ピクシー、防御だ!」

 ドゴッ!!

「なっ?」

 防御はあっさりとやぶれた。
 それどころか、ピクシーが呆気なく倒れてしまった。

「ネンドール、『ツイン破壊光線』!!」
「回避を……ぐわっ!!」

 二筋の破壊光線が交錯し、あっという間に3匹がダウンしてしまった。

「(何だ……?いきなり、格段にあの2人が強くなった?)」
「残念だけど、あんたの時間稼ぎは、無駄だったわよ」

 黄色い短髪の女性がグレイシアと共に現れる。
 しかもその女の子の後ろには、ぐったりしているカナタの姿があった。

「なっ!?カナタ!?」
「「お嬢様……!」」

 アスカとマキナはその女の子に跪いた。

「まだ、仲間がいたって言うのか……」
「仲間と言うより、配下ね。この子達は私たちの従順な手駒。何でも言う事を聞いてくれるの。そして尽くしてくれた代わりにいろいろなご褒美を上げるのよ」

 ビリーは最後のモンスターボールからランクルスを繰り出す。

「無駄よ!」

 ドゴッ!!

「がっ!!」

 エネコロロにランクルスが抑えられ、そして、その短髪の女性がビリーの背中を蹴っ飛ばし、背中を踏みつけた。

「~~~~~~~~~~~っ!!!!」

 ギリギリと踏みつけられて、ビリーは悶絶……そして、気絶した。
 なんていうか、カナタに蹴られて既に背中を痛めている状態だったのだ。
 無理もない。

「あとは、サクノだけね。あんた達、この子を運びなさい」

 ハイと、2人は返事をして、カナタを運んでいったのだった。



 第四幕 Episode D&J
 停滞のパラダイス① P50 秋


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Last-modified: 2016-01-17 (日) 21:10:19
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